(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電子写真用トナーによる金属パターンの作製方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20240326BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240326BHJP
G03G 9/093 20060101ALI20240326BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240326BHJP
G03G 9/13 20060101ALI20240326BHJP
G03G 15/22 20060101ALI20240326BHJP
G03G 15/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H05K3/18 B
G03G9/08 391
G03G9/093
G03G9/087 325
G03G9/13
G03G15/22 103A
G03G15/10
H05K3/18 A
(21)【出願番号】P 2019209237
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】522278718
【氏名又は名称】株式会社電気印刷研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】523015529
【氏名又は名称】岩通ケミカルクロス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三谷 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小沼 崇明
(72)【発明者】
【氏名】本庄 和彦
(72)【発明者】
【氏名】百武 勇人
(72)【発明者】
【氏名】関谷 久男
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029735(JP,A)
【文献】特開2017-188555(JP,A)
【文献】特開2003-166068(JP,A)
【文献】特開2005-050992(JP,A)
【文献】特表平06-508181(JP,A)
【文献】特開2016-014160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/18
G03G 9/08
G03G 9/093
G03G 9/087
G03G 9/13
G03G 15/22
G03G 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性基材の表面に形成された静電気パターン部にトナーと称する帯電した絶縁性樹脂粒子を付着させる現像工程と、
前記
現像工程で現像されたパターンに対し
熱又は光照射又は電磁波により前記トナーを溶融あるいは架橋させる手段を用い、前記基材上に前記トナーを定着させる定着工程と、
前記基材上に定着された前記トナーにめっき用触媒金属或いは触媒金属イオンを吸着させる前処理工程と、
前記前処理工程を終了した前記基材を無電解めっき液に浸漬して金属層を作
製する金属層作製工程を具備する金属パターン作製方法であって、
前記トナーは構成する樹脂の一部に金属錯体を形成する配位子をもった樹脂を含むことを特徴とする金属パターン作製方法。
【請求項2】
静電気パターンまたは導電性物質で形成されたパターンを持った原版のパターン部に、
トナーと称する帯電した絶縁性樹脂粒子を付着させる現像工程と、
前記現像
工程で付着したトナーを電気絶縁性基材上に転写する転写工程と、
前記転写されたトナーに対し
熱又は光照射又は電磁波により前記トナーを溶融あるいは架橋させる手段を用い、前記基材上に前記トナーを定着させる定着工程と、
前記基材に定着された前記トナーにめっき用触媒金属或いは触媒金属イオンを吸着させる前処理工程と、
前記前処理工程を終了した前記基材を無電解めっき液に浸漬して金属層を作製する金属層作製工程を具備する金属パターンの作製方法であって、
前記トナーは構成する樹脂の一部に金属錯体を形成する配位子をもった樹脂を含むことを特徴とする金属パターン作製方法。
【請求項7】
前記基材がタッチパネルに使用される絶縁フィルムである請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の金属パターン作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真用トナーによって電子回路等の金属パターンを作製する方法に関するものであり、パターン形成は電子写真に代表される静電プリンター技術に関連し、導電金属層形成はめっき技術に関連する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板に代表される電子回路等の金属パターンを作製する方法は、古くからは以下のフォトレジストを利用したサブトラクティブ法が利用されて来た。先ず基板上に全面形成された金属層上にレジスト層を形成し、パターンを形成したマスク越しに紫外光を照射して、該レジスト層のパターン相当部分のみを硬化させた後レジスト層の未硬化部分を除去する。次にパターン以外の金属層を溶解除去し、引き続いてレジスト層を除去することによって電子回路等の金属パターンを作製するという方法である。しかしその工程数は多く、マスクの保存・管理も大変で有り、その工程を少しでも少なくすることとパターンデータのデジタル化が求められる様になった。
【0003】
その対策として種々の手法が提案され、中には実用化されているものがあるが、従来法に代わるほどの手法は出てきていない。この分野での究極はフルアディティブ法であると言われている。そしてそれが実現すれば従来法に比べコストは半減するとも言われている。
アディティブ法とは、サブトラクティブ法に対し、最初から必要な部分にだけ金属を付加する方法のことである。
【0004】
アディティブ法を実現するには二つの方法が考えられる。その第一の方法は言葉通り基材表面の必要な部分だけに直接金属を付与する方法である。しかしプリント基板に求められる仕様をクリアするのは簡単では無い。精細さと電気抵抗の低さの両方が求められるからである。金属板を切り抜いて切り貼りすることも金属粉で金属パターンを作ることも不可能に近い。また金属を粉にしてしまうと金属粉間の接触抵抗が発生し、本来求められる高い導電性が得られなくなる。金属本来の導電性を得るためには金属を溶融し粉を一体化するしか無い。それには通常500℃から1000℃といった加熱が必要であり、基材がセラミックのようなもので無い限り実現は不可能である。
【0005】
しかしその壁を破ったのが特許文献1に見られるナノ金属の登場である。金属粒子をナノオーダーまで小さくすると300℃前後で溶融するようになり、この程度まで温度が低くなればフレキシブル基板として使われているポリイミドフィルム上に形成できることになる。これで一挙にアディティブ法が確立するかに見えたが、残念ながらこのナノ金属を使った実用的なパターン形成法は確立されていない。唯一インクジェット法が簡易的で有効のように見えたが、インクジェット法で厚い金属層を作製することは困難である。プリント基板を例に挙げると、必要性能の一つとして回路の導電性だけでは無く、ある程度大きな電流を流せる事が求められる。そして回路の配線密度を上げるためには線幅は細く、電流を多く流すためには金属層を厚くすることが必要となる。回路条件によるが、薄くても数μm以上が求められる。その点でナノインクを使ったインクジェット法で作られる金属層は薄く、大きな電流を流せない。重ね書きすればある程度厚くは出来るが、スピードや精度の点で実用に供することは無理となる。こうして第一の方法による次の展開の可能性が見えていない。
【0006】
アディティブ法を実現する第二の方法はすでにプリント基板に求められる金属本来の導電性が得られ、目的に応じて金属層の厚みも調整できる、そして産業用手法として歴史も長く技術が確立しているめっき法による方法である。求めるパターン部分だけにめっきができればフルアディティブ法となる。しかし従来のフォトレジストを利用したサブトラクティブ法に匹敵する解像力を持つパターン形成法で無ければ従来法に取って代わることは出来ない。そして特許文献2にその可能性を秘めた技術が示された。その内容は、電子写真法で電子回路の静電気パターンをつくり、粉体樹脂表面にパラジウム等の触媒金属を付着させたトナーで現像・転写した後、めっき手段で金属パターンを作製する手法である。この手法による提案は以前から有ったが、電子写真法は感光体上の静電潜像を静電気を帯びたトナーで現像し、次に静電気電界で被転写材に転写する方式であるため、粉体トナー表面に導電性の金属があると静電潜像を壊す恐れや転写不良を起こす恐れがあり、実用的な手法とはなり得なかった。
特許文献2では触媒金属微粒子を金属酸化物微粒子の表面に吸着させ、さらにその微粒子を樹脂トナーの表面にマトリクス状に構成させることで前記問題を解決できるとする提案がなされている。
【0007】
また別の解像力の高い手法として、パターンを形成したマスクを使い、真空紫外光や、電子線、X線等を照射する事によって基材の表面に化学的変化を生じさせ、その部分だけに触媒金属を付着させ、めっきする手法も以前から提案されている。これらはフォトレジストを利用したサブトラクティブ法に匹敵する解像力を持っているが産業機器として大々的に採用されてはいない。半導体へのパターン等特殊な業種に限定されているのが現実である。恐らくその理由は光源等が特殊であり、その光等を透過するマスク基材と遮蔽するマスク部分の材料などが従来のものより特殊性が強く高額となり、そしてマスクを使うという工程が従来と変わらないこともあり、ある程度大きな面積を高スピードで処理しようとする産業機器にはそぐわないからではないかと考えられる。
【0008】
電子写真法は複写機、プリンター、デジタル印刷機と、民生機器から産業機器までその技術は広がっており確立されている。そして感光体の解像力は100本/mm(2500dpi)つまり10μmラインを再現出来ると言われている。まだ製品化には至っていないが、高ガンマ感光体であれば5000dpiの再現も可能とされている。民生機器でも1200dpi仕様のものも一般的になりつつある。これだけの能力をもっているシステムでパターンが自在に作られればほとんどのプリント基板分野に対応できるシステムとなり得る。
では特許文献2は最終形になり得るかというと、残念ながらそれは無理であろうと言わざるを得ない。その理由はトナー作製と処理に複雑さと無理、無駄があるからである。つまりトナー作製とめっき前処理にかなりのコストがかかるとみられる。まず銅めっきする場合の触媒金属はパラジウムが使われるのが一般的である。パラジウムは貴金属に属し高価なものである。そしてそれをナノ金属化すればさらにコストはかかる。その金属を微細なトナー表面にしかも特殊な配置に付着させるという作製法もコストがかさむ。さらにはトナーが定着する際に金属は樹脂の内部に埋もれてしまうものが出てくる。これでは触媒機能として働かない。そのため特許文献2では定着後のトナー表面を処理して内部の金属を表面に出すための処理を提案している。
またトナーという現像剤を100%画像にだけ使うことは不可能であり、飛散したりこびりついたり、無駄になるトナーは必ず存在する。それはどんな印刷システムでも生じることではあるが、それが普通のインクやトナーであればたいしたことは無いが貴金属となればコスト的に少々問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-280592 号公報
【文献】特開2007-134422 号公報
【文献】特願2018-188998 号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように解像力の高い電子写真システムではあるが、トナーに金属を含ませることはシステム上も芳しくないことであり、それがナノ金属であったり、貴金属であることはコストの面を含めるとなおさら避けたいことである。
常識的に、トナーは通常と同じに樹脂のみで構成されていることがシステム上もコスト上も最も望ましいことになる。そうすると、樹脂でありながらどのようにしたらめっきにつながるシステムになるかが課題となる。さらには金属めっきと基材の接着性が強いことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、従来のフォトレジストを利用したサブトラクティブ法に匹敵又はそれ以上の解像力の実現可能な電子写真法と電気特性上も材料コスト的にも優秀な手法であるめっき法を使い、フルアディティブ法である実用的で高精細な金属パターン作製法を提供する。
そのためには、次のような手段を用いる。
(1)パターン作製は高速でしかも解像力が高く連続出力可能な電子写真法に代表される静電気によるパターン作製手段を用いる。
(2)静電気パターンを現像する手段は従来の電子写真用トナーと同じく樹脂のみで構成されたトナーを用いる。そのトナーは金属を取り込んで錯体となる配位子を持つ樹脂で構成され、めっき触媒金属を担持する機能を持つ。そして定着されたトナーは酸性の強い触媒液にもアルカリ性の強いめっき液にも耐性を持つ樹脂で構成される。
(3)基材上に直接現像又は転写されたトナーを熱又は光又は電磁波等の手段で定着する。トナーは硬化性を持ち、硬化定着することで基材への接着性は強くなり、さらに後工程で必要な耐酸性、耐アルカリ性を持つ。
(4)めっき前処理手段として、トナーが定着された基材を金属塩触媒液に浸漬し、触媒金属或いは触媒金属イオンを吸着させる手段を用いる。
(5)前処理を行った基材を目的の無電解めっき液に浸漬し、基材上に目的の金属パターンを作製する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に使用するトナーは、全く金属を含まない樹脂だけの構成である為、従来の電子写真用トナーと同様に静電パターンを破壊することもなく正確な現像や転写が行われる。そして従来の絶縁物にめっきするような複雑な工程を必要とせずに従来の無電解めっき前処理法と同様の工程でトナー部分のみに触媒金属が吸着し、その部分だけが金属めっきされる。そしてパターン化された金属めっきは後処理する必要も無く基材への強い接着性を持つ。そのため、触媒金属・めっき金属共に無駄に廃棄されることが無い低コストのフルアディティブ法が実現し、元の高精細静電気パターンに忠実な金属パターンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】手実験における凹版による静電気パターン作製手段
【
図2】定着されたトナー上にニッケルめっきした写真
【
図4】電子写真法により連続基材にトナーパターンを作製する一例
【
図5】トナーパターンが作られた連続基材をめっき工程により金属パターンを作製する一例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は前述のように基本的には、静電気潜像を忠実に顕在化するという電子写真法で使われるトナーの機能を持ち、さらにめっき前処理用の触媒金属を担持する能力を持つ完全樹脂トナーで静電気パターンを現像・転写・定着し、その定着されたトナー部分に触媒金属を吸着させ、めっきして金属パターンを作る手法を提案している。つまり本発明はまず静電気でパターンを作り、目的の基材上にトナーパターンを形成しなければならない。その基材は従来のように銅箔が貼られたり、スパッタやめっきで全面銅膜が形成されたような基材ではなく、電気絶縁性が高い基材である。それは板状であってもフィルム状であっても良い。電子写真法では感光体上に静電気パターンを作り、それを帯電したトナーで現像する為感光体からトナーを目的の基材に転写するのが一般的であるが、基材に直接静電気パターンを描く手法もあり、その場合は基材をトナーで直接現像することになる。ただし、基材に直接静電気パターンを描く場合は、静電気の電荷保持は電子写真感光体よりも基材の表面状態に影響される度合いが大きく、特に水分の影響が大きいため考慮する必要がある。その解決法の一つとして基材表面に撥水性のコートをすることは有効である。いずれの方法であってもまずは基材上に目的のトナーパターンが定着されれば良い。その後一般的な無電解めっき法にて金属パターンを形成する事になる。
【0015】
[静電気パターン]
電子写真法は複写機として発明された技術であり、ページ毎に異なる画像を高速で出力出来る無版のバリアブル印刷法である。そのために光半導体である感光体は高解像力であると共に最高の特性をもっている。しかし開発の為の試作が目的である場合は別だが、産業機器としてプリント基板のような同一パターンを大量に生産する目的であればバリアブルである必要性はほとんど無い。印刷機のように有版でいっこうに問題は無く、むしろ無版より高速で精度・耐久性の高いシステムが出来る可能性がある。
有版でパターンの部分だけ帯電できる版を作ることは出来る。そうすれば電子写真用感光体という特殊なデバイスを使わなくてすむため有効な製造手段となる。またトナー現像出来るのであれば版は静電パターンに限定されるものでは無い。例えば絶縁基材上に金属等の導電性物質でパターン形成されている場合であっても、トナーの帯電極性とは反対の極性電位を導電性物質に与えれば絶縁性のトナーは付着するし、その逆電界をかけることで転写材に転写も出来る。絶縁性のトナーは一粒子の表面全体に帯電電荷が分布しており導電性物質と接触しても帯電を失うことは無いからである。本発明におけるトナーも絶縁性トナーであるため、導電性物質で形成されたパターンであっても問題ない。さらに、その導電性物質で形成されたパターンの表面に絶縁性の保護膜やトナー離型処理を施しても現像に障害となることはほとんど無く、耐久性や転写性に効果がある。
【0016】
金属パターンを形成したい基材に直接静電パターンを形成出来れば転写工程が省けると共に、転写による画像劣化を避けることが出来る。しかし過去静電パターンを直接作るためのデバイスが実用化された例があるものの解像力の低さの点で現在では作製されていない。また電子写真法で感光体上に作られた帯電パターンの静電電荷をそのまま特殊紙に転写してその紙を現像する静電転写法と言われる方式の複写機が実用化したこともあるがこれも現在では製造されていない。何れも高解像力の静電気パターンを直接絶縁基材上に形成することの難しさを物語っている。
しかし、技術はいつの時代も不可能を可能にしてきている。本発明者らは別途有版で、現在の電子写真法以上のクオリティーを持つ静電気パターンを直接絶縁基材上に作る手法を発明している。本発明と組み合わせればポリイミド基材やPET基材に高密度のプリント回路をプリントすることも、10μm以下の細線が求められるタッチパネルフィルムの所謂メタルメッシュ回路もプリント可能である。
【0017】
[トナーの構成]
使用するトナーは従来に無い構成で作られた機能性トナーである。従来考案されてきた「トナー樹脂に触媒金属を付加しためっき可能なトナー」では無く、「触媒金属或いは触媒金属イオンを吸着するめっき可能なトナー」である。つまりトナー自体には触媒金属は存在しないので、基材に定着されたそのままではトナーの部分だけをめっきする事は出来ない。本発明によるトナーは触媒溶液に浸漬する事によってトナーにだけ触媒金属が吸着し、次に無電解めっき液に浸漬することによってトナー上だけに金属めっきされるものである。トナーの構成は電子写真用トナー本来の機能に必要な樹脂で構成し、樹脂の一部に金属を取り込んで錯体となる配位子を持つ基を導入することで成立させた。さらに次工程の酸性の強い触媒液にもアルカリ性の強いめっき液にも耐えられるよう、また基材との密着性をあげるため定着時に硬化する特性も持たせた。化学反応の世界では触媒金属を錯体として扱う事は通常に行われている。金属を抱え込んだ錯体は強く、別の化学反応でもしない限り金属が離れることはない。そして金属を抱えた樹脂は硬化したトナーとして基材に定着されしっかり付着している為、めっきされた金属は基材にしっかりと付着する。
【0018】
トナーは乾式現像トナーでも液体現像トナーでも成立する。乾式現像トナーの最小粒径は5μm程度とされており、液体現像トナーの粒径は特殊な場合を除けばサブミクロン(0.2~0.8μm程度)である。画像上必要最小ライン幅を粒子の重なりで表現する場合、その粒子径はライン幅の1/10以下にする必要があると言われている。
乾式現像トナー粒径や潜像ドット径が5μm(5000dpi相当)とすると50μmライン(500dpi相当)が解像力限界(ライン端部の直線性の良さ保証)となる。ライン端部の直線性の良さはプリント回路での使用周波数が高周波になるほど重要となる。それ以上の解像力を望むならば液体現像トナーが適性となる。
液体現像トナーの粒径は特殊な場合を除けばサブミクロン(0.2~0.8μm程度)であるので、10倍以上の解像力を得ることが出来る。つまり5μm幅のラインやドットが文句ない解像力で得られるということである。ここではその解像力が得られる液体現像トナーを代表として一つの具体的な構成を示す。
【0019】
液体現像トナーの構成要素は、コア樹脂とコアを覆うシェル樹脂で構成された絶縁性樹脂粒子、分散剤、絶縁性溶媒及び必要に応じて金属石鹸等の電荷制御材により構成される。
本液体現像トナーは、コア樹脂またはシェル樹脂のどちらか一方に触媒金属(イオン)を選択的に吸着する電子供与性官能基を含有する。該官能基(つまり金属を取り込んで錯体となる配位子を持つ基)としては非共有電子対を持つ原子より構成される、アミノ基、フォスフォノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、等が適用できる。特にアミノ基が有効である。アミノ基には、ピリジン、アゾール、トリアゾール、イミダゾール、等の含窒素化合物も含まれる。
電子供与性官能基を0.1mM/g以上(好ましくは、0.2mM/g以上)含有する。無電解めっき工程は、触媒付与(強酸性)後無電解めっき(強アルカリ性)を行うため、トナーにより形成されたパターンは、高い耐酸性、耐アルカリ性が要求される。
そのため本液体現像トナーは、コア樹脂またはシェル樹脂のどちらか一方にイソシアネート基、ブロックイソシアネート基、グリシジル基、等の上記電子供与性官能基と反応する架橋性官能基を含有する。液体現像トナーが静電潜像を現像後定着する際、電子供与性官能基と架橋性官能基の架橋により、現像された樹脂層は3次元化し耐アルカリ性、耐酸性、及び耐薬品性が大幅に向上する。本液体現像トナーは、コア-シェルの2層に限定されるものではなく、多層粒子も含まれる。粒子の多層化の目的として、本液体現像トナーにより形成されたパターンの触媒選択吸着性及び耐薬品性の向上、熱特性改善、電気特性改善、等の目的があげられる。更に多層化によりトナー分散性向上、帯電特性向上、等の目的もあげられる。
【0020】
[現像・定着]
現像の手法は従来の電子写真法に従えば問題無い。それは前述したようにトナーの基本的特性が従来のトナーと全く同じになるように作ることが出来るからである。そして転写や定着の条件も従来の電子写真法に則れば問題無く高忠実な仕上がりとなる。ただ、定着に関しては本発明者らが確認したところでは、100μm以下の細線を再現するなど、高精細な画質を求める場合はオーブンヒーター法が良いように見受けられた。また、液体現像では従来通りスクイズローラや絞りローラ等で基材上の残液をなるべく少なくして温風も含めて風乾することにより高精細な現像が得られる。定着温度はトナー構成によるが、100℃から120℃程度で硬化定着する構成が可能であり、PET基材を使用することが可能である。
【0021】
[前処理]
特許文献2に記載されているようなトナー表面に触媒金属がある場合には、その金属が表面に出ている限り、既に触媒金属が存在しているので触媒金属を付着させるという処理の必要はなく、すぐに無電解めっき液に浸漬すれば良い。しかし本発明のトナーは定着終了時点ではまだ触媒金属を持っていないので、無電解めっきを行うための触媒金属を付与する前処理が必要である。本発明では塩化パラジウム水溶液や硫酸パラジウム水溶液に代表される金属塩の水溶液に浸漬する処理法をもちいる。触媒金属がトナーに吸着する理由は前述したようにトナーのシェル樹脂に金属を取り込んで金属錯体となる配位子を持つ基を導入しているからである。単なる絶縁性基材には触媒金属を捕捉する能力は無いため、トナーパターン部のみに触媒金属が存在することになる。この前処理法は特に金属に無電解めっきする場合の通常の工程であり、これと同じ前処理であることは本発明の大事な特徴の一つである。
しかし触媒金属がイオンとして吸着している場合は、状況によってホスフィン酸やホルマリン等で還元して金属化する工程を追加する必要がある場合もある。
従来プラスチックに無電解めっきする時にはスズ触媒とパラジウム触媒の2段階処理(センシタイジングーアクティベーション法)あるいは塩化第一スズと塩化パラジウムの混合液を使うパラジウムスズーコロイド粒子触媒処理(キャタリストーアクセラレーション法)を使用すると触媒金属をプラスチックに付着出来る。スズを使う理由はプラスチックに付着する性質がある為で、パラジウムにはその性質が無い為である。スズはめっきの際に邪魔になるので取り除く処理工程が必要となる。さらに、極端に言えばスズは何にでも付着するので、全面めっきするには良いが、パターンにだけ付くような選択的めっきには使えない。近年コロイドパラジウムやコロイド銀を触媒とする方法も行われているが、これらのコロイド化している材料も何にでも付着しやすいものであり、選択めっきは難しい。そのようなことがこれまでパターン化めっきを困難なものにしてきたと云える。
本発明でトナーの錯体樹脂に吸着する金属はパラジウムに限ることではない。銅めっきの場合の還元剤としてはホルムアルデヒドを使うのが一般的であるが、ホルムアルデヒドの酸化反応に対する触媒活性の大きい金属は順に、銅、金、銀、白金、ニッケル、コバルトであるとの報告がある。これらの金属塩を触媒液として使える大きな可能性がある。そして触媒をナノ金属化する必要が無いためコスト的にも非常に有効な手法である。
しかしナノ金属化した触媒金属を全く使用できないと言う訳では無い。ナノ金属化した触媒金属をコロイド化する樹脂にトナーの官能基だけに吸着する性質を持たせればシステムは成立する可能性がある。
【0022】
[無電解めっき]
無電解めっき液及びその液管理やめっき手法は従来通りに行えば良く、特別な必要性は無い。めっきの難易はそのまま本発明にも当てはまるが、無電解めっき法はすでに確立した技術でありその品質は保証される。
【0023】
[実施例]
[液体現像トナー作製及びめっき確認]
(液体現像トナー作製)
本発明を実現する為の具体的な液体現像トナー作製の一実施例を示す。
下記C1⇒S1⇒S2の手順で、本発明で使用する液体現像トナー(S2)を作製した。
(1) C1液の作製
酢酸ビニル:60部
ラウリルメタクリレート:15部
アイソパーE:170部
アゾビスイソブチロニトリル1部
以上を四つ口フラスコに投入し、撹拌機、還流冷却管、チッソ導入管、温度計、を装着し、チッソ導入しながら80℃で3時間加熱し、その後、100℃で10時間加熱し白濁したポリマー分散液を得た。
更に、アイソパーGで希釈し、固形分濃度30%の分散液C1を作製した。
(2) S1液の作製
C1:180部
メタクリル酸グリシジル:3部
メタクリル酸メチル:13部
アゾビスイソブチロニトリル:0.3部
アイソパーG:45部
以上を四つ口フラスコに投入し、撹拌機、還流冷却管、チッソ導入管、温度計、を装着し、チッソ導入しながら80℃で5時間加熱し、白濁したポリマー分散液S1を得た。
(3)S2液の作製
S1:180部
メタクリル酸ジメチルアミノエチル:6部
メタクリル酸メチル:6部
アゾビスイソブチロニトリル:0.2部
アイソパーG:24部
以上を四つ口フラスコに投入し、撹拌機、還流冷却管、チッソ導入管、温度計、を装着し、チッソ導入しながら80℃で5時間加熱し、白濁したポリマー分散液S2を得た。
ポリマー分散液S2(固形分30wt%)をアイソパーGで固形分0.1%に希釈し、わずかな帯電制御材を添加して本発明で使用する試作液体現像トナーT1を作製した。作製されたトナーはプラス帯電を示す。
【0024】
(めっき確認実験の為の静電パターン作製)
上記作製した液体現像トナーT1が微細な線までめっき形成出来る性能を有する事を確認する為、本発明者が先に出願した特許文献3の手法を用いて静電気パターンを作製した。参考のためにその手法の簡易な説明を
図1に示す。
導電板上にエポキシタイプのフォトレジストをスピンコーターで約10μm厚に塗布、乾燥し、フォトマスクパターンを密着露光、現像して掘り込みパターンの凹版(10)を作製する。その上に裏面を導電処理した25μm厚のPET基材(20)を予備帯電として全面均一にプラス300Vに帯電した後、凹版(10)に密着した。次に凹版の電極(11)に対しPET電極(21)にプラス2500Vを2秒間パルス的に印加した後にPET基材(20)を剥離し、マイナスの静電パターンを形成した。
【0025】
(試作液体現像トナーの現像及び定着)
液体現像器の市販されたものは無いので、手現像をすることとした。静電パターンが形成されたPET基材(20)の表面に液体現像トナーT1を注ぎ、約30μm程度のギャップを維持しながらグランド電位に接続した金属板で液体現像トナーT1をスクイズした後風乾して、かぶりの無いトナーパターンを得た。
トナーは着色剤を入れておらず、定着前では粒子状態なので乱反射してわずかに白く確認できるが、約110℃のオーブンに3分間入れ定着させるとトナーは透明となり見え難くなるが、硬化してPET基材に密着した。
【0026】
(めっき前処理)
トナーを定着したPET基材(10)を触媒金属処理として40℃の約0.04%塩化パラジウム溶液に10分間浸漬した。その後水洗し20%の次亜リン酸ナトリウム液に3分間浸漬するとパラジウムが還元され、パターンが黒く浮き上がって見えてくる。それを再度水洗した。
【0027】
(無電解ニッケルめっき処理)
無電解ニッケルめっき液は奥野製薬株式会社の化学ニッケルSEP-LFをメーカー仕様に従って調合して約50℃に保ち、めっき前処理したPET基材(10)を3分間浸漬した結果トナーパターン上にニッケルめっきされたきれいな金属パターンが得られた。その状態写真を
図2に示す。
図3は20μm細線部分を拡大撮影したものである。
【0028】
上述のように、本発明の基本構想に従ったトナーとめっきの実験によってフルアディティブ法による高精細金属パターン作製法が実証された。
【0029】
[システム構成]
本発明は静電気を使ったパターンから金属パターンを作製する手段を提案しており、静電パターン及び現像等は電子写真法に代表されるように連続出力可能な手段を用いることによって産業機器の分野に貢献できることを示している。また、産業界では既にめっき前処理や無電解めっき処理を連続して処理出来るシステムが実稼働している。このことから基材がフィルムであればロールトゥロールで連続金属パターン作製のシステムを構築する事は容易である。
一例として
図4に電子写真装置を通して連続基材フィルムにトナーパターンを作製する構図を示し、
図5に連続基材上に作製されたトナーパターンを連続めっきする構図を示す。
さらに静電パターン作製に特許文献3の手法を用いれば、現在の電子写真感光体では及ばなかった3~5μmの細線金属パターンも夢では無く、メタルメッシュのタッチパネルを連続して生産することも可能になる。
本発明によるシステムは特殊なトナーを介して電子写真法と無電解めっき法という成熟した技術で構成されるため非常に安定しており、本発明により低コストのフルアディティブシステムを構築することが出来る。
【符号説明】
【0030】
10 凹版(電極付き)
11 凹版の電極
20 PET基材(電極付き)
21 PET基材の電極
22 PETフィルム
31 めっき用現像トナー
70 金属めっきパターン
100 電子写真装置
101 定着器
200 基材フィルムロール
201 トナーパターンが形成された基材フィルムロール
202 金属めっきパターンが形成された基材フィルムロール
203 触媒金属浴槽
204 水洗浴槽
205 無電解金属めっき浴槽
206 乾燥器