(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B60H1/00 102J
B60H1/00 102G
(21)【出願番号】P 2021160360
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】三原 直人
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-180985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口を有する空調ダクトに、複数の吹出口が上下方向に離れて設けられ、吸込口から吸い込まれて空調された空気を吹出口から吹き出す車両用空調装置であって、各吹出口を吸込口に連通する循環通路と、循環通路を開閉して、吹出口が吸込口になるように切り替える切替部とが設けられ、循環通路が閉じているとき、空調ダクトの空気が吹出口から吹き出され、循環通路が開いているとき、車内の空気が吹出口から吸い込まれ、循環通路を通じて吸込口に導入され、
上側の吹出口あるいは下側の吹出口のいずれか一方の吹出口が吸込口となり、一方の吹出口から吸い込まれて空調された空気を他方の吹出口から吹き出す循環モードを実行する制御装置が設けられ、制御装置は、
各種の情報に基づいて暖房運転または冷房運転を行うと判断すると、運転初期に循環モードを実行し、車内の温度が設定温度に近づいてくると、循環モードを終了し、通常の運転モードを実行することを特徴とする車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内の空気を循環させて、空調運転を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の空調装置では、吸込口から外気あるいは内気を導入して、空調された空気を吹出口から車室内に吹き出す。ここで、空調装置の空調負荷を軽減して、効率よく車内の空調を行えるように、車内に吹き出した空気を循環させることが行われている。例えば、特許文献1では、助手席側の吹出口を吸込口にして、車内の空気を吸い込み、運転席側の吹出口から空調された空気が吹き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように循環させると、車内の左右方向に空気の流れが生じるが、上下方向には対流が起こらないので、上下方向で温度差が生じ、乗員の体感が悪くなる。そこで、本発明は、上記に鑑み、上下方向に対流が生じるように車内の空気を循環させ、効率よく空調運転を行える車両用空調装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両用空調装置は、吸込口を有する空調ダクトに、複数の吹出口が上下方向に離れて設けられ、吸込口から吸い込まれて空調された空気を吹出口から吹き出すものであって、各吹出口を吸込口に連通する循環通路と、循環通路を開閉して、吹出口が吸込口になるように切り替える切替部とが設けられ、循環通路が閉じているとき、空調ダクトの空気が吹出口から吹き出され、循環通路が開いているとき、車内の空気が吹出口から吸い込まれ、循環通路を通じて吸込口に導入される。そして、上側の吹出口あるいは下側の吹出口のいずれか一方の吹出口が吸込口となり、一方の吹出口から吸い込まれて空調された空気を他方の吹出口から吹き出す循環モードを実行する制御装置が設けられ、制御装置は、選択された空調運転に応じて、いずれか一方の吹出口を吸込口に切り替えて循環モードを行う。
【0006】
空調運転が暖房の場合、上側の吹出口から車内上部の空気が吸い込まれ、温められた空気が下側の吹出口から吹き出す。車内下部に吹き出された空気は上昇して、再び吸い込まれ、上下方向の対流が生じ、上下の温度差がすばやく解消され、早く設定温度に達する。冷房の場合、下側の吹出口から車内下部の空気が吸い込まれ、冷やされた空気が上側の吹出口から吹き出す。冷えた空気は車内下部に向かって流れ、車内上部の温度がすばやく下がり、早く設定温度に達する。このように、循環モードは急速暖房や急速冷房を行うのに適している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、上下方向に対流を起こしながら車内の空気を循環させることにより、上下の温度差をすばやく解消することができ、乗員の体感が悪くなることを防げるとともに、早く設定温度に達するので、効率のよい空調運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の車両用空調装置の概略構成を示す図
【
図4】フェイス吹出口から温風吹出時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図5】フェイス吹出口から冷風吹出時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図6】フェイス吹出口から中温風吹出時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図7】フェイス吹出口およびフット吹出口から中温風吹出時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図8】循環モードで暖房運転時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図9】循環モードで暖房運転時の他の形態の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図10】循環モードで冷房運転時の空調装置内の空気の流れを示す図
【
図11】循環モードで冷房運転時の他の形態の空調装置内の空気の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る車両の車両用空調装置を
図1、2に示す。空調装置は、外気導入口1および内気導入口2を有する吸込口3と複数の吹出口4~6を有する空調ダクト7を備え、空調ダクト7は車室の前側に配置される。空調ダクト7に、吸込口3から空気を吸い込むファン8、エバポレータ9およびヒータコア10が設けられ、ヒータコア10はエバポレータ9の下流側に配置され、ヒータコア10とエバポレータ9との間に、エバポレータ9からヒータコア10に流れる冷風の風量を調節するためのエアミックスドア11が開閉可能に設けられる。そして、コンプレッサ、コンデンサ、膨張バルブ、エバポレータ9により冷凍サイクルが形成され、エンジンの冷却水を利用してヒータコア10は通過する空気を温める。
【0010】
各吹出口4~6は、車内において上側から下側にかけてデフロスタ吹出口4、フェイス吹出口5、フット吹出口6の順に配置され、それぞれの吹出口4~6は上下方向に離れて位置している。各吹出口4~6の分岐部分に、空気の吹出方向を切り替える吹出切替ドア12が回動可能に設けられている。運転モードに応じてロータリ式の吹出切替ドア12がモータによって駆動され、選択された吹出口4~6を開放し、他の吹出口4~6を遮蔽する。
【0011】
空調ダクト7に、上側に位置するフェイス吹出口5を吸込口3に連通する上部循環通路20および下側に位置するフット吹出口6を吸込口5に連通する下部循環通路21と、各循環通路20,21を開閉して、吹出口5,6が循環用の吸込口になるように切り替える切替部とが設けられる。フェイス吹出口5の空調ダクト7との接続通路壁に上部循環口22が形成され、上部循環口22と吸込口3とを接続するように上部循環通路20が設けられ、フット吹出口6の接続通路壁に下部循環口23が形成され、下部循環口23と吸込口3とを接続するように下部循環通路21が設けられる。
【0012】
切替部は、各循環通路20,21を開閉する通路切替ドア24および吸込口3を切り替える吸込切替ドア25を有し、切替部は各切替ドア24、25と上下の循環通路20,21によって構成される。フェイス吹出口5の空調ダクト7との接続通路内に、通路切替ドア24が設けられ、上部循環通路20が開閉される。
図3に示すように、ロータリ式の通路切替ドア24は、両端が塞がれた円筒状に形成され、接続通路壁に回動可能に支持され、モータによって回転駆動される。通路切替ドア24の軸方向の一側面に連通口30が形成され、連通口30は上部循環口22と連通する。通路切替ドア24の円周面の一部が開口され、この開口が通気口31とされ、通気口31以外の円周面が遮蔽面32とされる。フット吹出口6にも同様の通路切替ドア24が設けられ、下部循環通路21が開閉される。
【0013】
上下の通路切替ドア24,25において、連通口30が循環口22,23に対向するように通路切替ドア24が回動すると、遮蔽面32が吹出口5,6の空調ダクト側開口を遮蔽し、循環通路20,21が開かれる。通気口31が循環口22,23を通じて循環通路20,21に連通され、吹出口5,6と吸込口3とが連通する。通路切替ドア24の連通口30が循環口22,23と対向しない位置に回動すると、遮蔽面32が循環通路20,21を塞ぎ、吹出口5,6が通気口31を通じて空調ダクト7と連通する。
【0014】
吸込口3から空気を吸い込むファン8は、ブロワファンとされ、空調ダクト7に一体的に設けられたファンユニット35に保持される。ロータリ式の吸込切替ドア12は、ファン8の軸方向の上流側の延長上に設けられ、ファンユニット35に回動可能に支持される。吸込切替ドア12は、円柱の一部を扇形に切り欠いた形状とされ、この切り欠いた部分が切替口36とされ、ファン8と連通している。
【0015】
吸込切替ドア12の円周面に対向するファンユニット35の外周面に、4つの接続口37~40が切替口36に対向可能なように形成される。各接続口37~40には、外気導入口1の通路、内気導入口2の通路、上部循環通路20、下部循環通路21がそれぞれ接続される。吸込切替ドア12の回転に応じて切替口36が各接続口37~40のいずれか1つと対向して、この接続口に接続された通路がファン8に連通する。したがって、上下いずれか一方の循環通路が開いているとき、車内の空気が一方の吹出口から吸い込まれ、循環通路を通じて吸込口3に導入される。このとき、他方の循環通路は閉じられ、空調ダクト7の空気が他方の吹出口から吹き出される。
【0016】
各ドアを駆動するモータ、コンプレッサ、ファン8は制御装置によって駆動制御され、制御装置は、選択された運転モードに応じて、外気温、内気温、日射量などの環境情報や設定温度などの操作情報に基づいて、吸込口3および吹出口4~6を切り替えながら吸込口3から空気を吸い込み、空調された空気を吹出口4~6から吹き出す空調運転を行う。運転モードとして、自動運転モード、選択された吹出口4~6から吹き出すマニュアル運転モードなどがある。そして、制御装置は、上側のフェイス吹出口5あるいは下側のフット吹出口6のいずれか一方の吹出口が循環用の吸込口となり、一方の吹出口から吸い込まれて空調された空気を他方の吹出口から吹き出す循環モードを実行する。
【0017】
制御装置は、車両の運転スイッチがオンされたり、エアコンスイッチがオンされると、空調運転を開始する。例えば、外気導入でフェイス吹出口5が選択された場合、
図4に示すように、温風を吹き出すとき、吸込切替ドア25が回動して、外気導入口1とファン8が連通され、エアミックスドア11が全開され、吹出切替ドア12によりフェイス吹出口5が開放され、他の吹出口4,6は遮蔽される。外気導入口1から吸い込まれた空気は、エバポレータ9を通過し、ヒータコア10を通って温められる。温風がフェイス吹出口5から車内に吹き出す。
【0018】
図5に示すように、冷風を吹き出すとき、エアミックスドア11が全閉され、外気導入口1から吸い込まれた空気は、エバポレータ9を通過して冷やされ、冷風がフェイス吹出口5から車内に吹き出す。
図6に示すように、中温の空気を吹き出すとき、エアミックスドア11が半開され、外気導入口1から吸い込まれた空気は、エバポレータ9を通過して冷やされるとともに、一部がヒータコア10を通過して温められ、冷された空気と温められた空気が混合されてフェイス吹出口5から車内に吹き出す。また、
図7に示すように、乗員の頭部と足元に空調された空気を吹き出すとき、エアミックスドア11が半開され、吹出切替ドア12によりフェイス吹出口5およびフット吹出口6が開放され、他の吹出口4は遮蔽される。温風と冷風とが混合された空気がフェイス吹出口5およびフット吹出口6から吹き出す。
【0019】
空調運転を開始するとき、制御装置は、各種の情報に基づいて暖房運転を行うと判断すると、運転初期に循環モードを実行する。
図8に示すように、フット吹出口6が開放され、フェイス吹出口5において、上部循環通路20が開放され、空調ダクト側開口が遮蔽されて、フェイス吹出口5が上部循環通路20を通じて吸込口3に連通され、フェイス吹出口5が吸込口となる。ファン8は風量が多くなるように駆動され、車内上部の空気がフェイス吹出口5から吸い込まれて上部循環通路20を通って空調ダクト7に導入される。吸い込まれた空気はヒータコア10を通って温められ、温風がフット吹出口6から吹き出す。足元から吹き出した温かい空気が上昇して、再び吸い込まれることにより、車内の空気が循環し、下部から上部に向かう上下方向の対流が生じる。車内の温度が上がって、設定温度に近づいてくると、制御装置は、循環モードを終了し、通常の運転モードを実行する。吸込口3が選択された外気導入口1あるいは内気導入口2に切り替えられ、ファン8の風量が調整され、エアミックスドア11の開度が調整されて、設定温度を維持するように空調運転が行われる。
【0020】
このように、空調運転の初期において、循環モードにより急速暖房が行われることにより、車内の冷えた空気を効率よく温めることができるので、上下方向の温度差がすばやく解消され、早く設定温度に達する。これにより、設定温度に達するまでの時間を短縮でき、空調運転に要する燃料や電気などのエネルギ消費を低減することができる。しかも、温かい空気が乗員の頭部に向かって流れてくるので、すばやく体感温度を上げることができ、乗員に不快感を与えることなく、快適な車内環境を実現できる。
【0021】
暖房運転時の設定温度が低めに設定されたり、車内の温度が設定温度よりも少し低い場合、制御装置は、運転初期に中温の空気が吹き出すように循環モードを行う。
図9に示すように、フット吹出口6が開放され、フェイス吹出口5が上部循環通路20から吸込口3を通じてファン8に連通され、空調ダクト側開口が遮蔽される。ドアミックスドア11が半開され、車内上部から吸い込まれた空気は少しだけ温められ、フット吹出口6から中温の空気が吹き出す。この場合でも、車内に上下方向の対流が生じ、早く設定温度にすることができる。
【0022】
また、制御装置が冷房運転を行うと判断したときも、運転初期に循環モードが行われる。
図10に示すように、フェイス吹出口5が開放され、フット吹出口6において、下部循環通路21が開放され、空調ダクト側開口が遮蔽されて、フット吹出口6が下部循環通路21を通じて吸込口3に連通され、フット吹出口6が吸込口となる。ファン8は風量が多くなるように駆動され、車内下部の空気がフット吹出口6から吸い込まれて下部循環通路21を通って空調ダクト7に導入される。吸い込まれた空気はエバポレータ9を通って冷やされ、冷風がフェイス吹出口5から吹き出す。頭部に向かって吹き出した冷たい空気が下降して、再び吸い込まれて循環し、車内に上部から下部に向かう上下方向の対流が生じる。車内の温度が下がって、設定温度に近づいてくると、制御装置は、循環モードを終了し、通常の運転モードを実行する。吸込口3が選択された外気導入口1あるいは内気導入口2に切り替えられ、ファン8の風量が調整され、エアミックスドア11の開度が調整されて、設定温度を維持するように空調運転が行われる。
【0023】
この場合でも、車内上部の温度がすばやく下がり、早く設定温度にすることができ、効率のよい空調運転を実現できる。そして、車内下部の冷えた空気を吸い込んで冷風を発生させることにより、空調負荷を減らすことができるので、空調能力を下げて運転することができ、省エネルギとなる。
【0024】
冷房運転時の設定温度が高めに設定されたり、車内の温度が設定温度よりも少し高い場合、制御装置は、運転初期に中温の空気が吹き出すように循環モードを行う。
図11に示すように、フェイス吹出口5が開放され、フット吹出口6が下部循環通路21から吸込口3を通じてファン8に連通され、空調ダクト側開口が遮蔽される。ドアミックスドア11が半開され、車内下部から吸い込まれた空気は少しだけ冷やされ、フェイス吹出口5から中温の空気が吹き出す。この場合でも、車内に上下方向の対流が生じ、早く設定温度にすることができる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正および変更を加え得ることは勿論である。デフロスタ吹出口4や天井吹出口が循環用の吸込口になるように、それぞれの吹出口に通路切替ドア24を設けてもよい。通路切替ドア24として、バタフライドアを用いてもよく、吹出口の空調ダクト側開口および循環口にそれぞれバタフライドアを配置する。また、ファン8を空調ダクト7内に設け、吸込切替ドア25も空調ダクト7内のファン8の上流側に設けてもよい。
【0026】
運転者の状態に応じて循環モードを実行してもよい。制御装置は、運転者の状態を検知して、運転者が眠気を催していると判断したとき、頭部に向かって冷風を吹き出すように循環モードを実行する。また、空調運転中に設定温度や風量が変更される、吹出口が変更されるといった操作情報の変更があったとき、循環モードを実行してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 外気導入口
2 内気導入口
3 吸込口
4 デフロスタ吹出口
5 フェイス吹出口
6 フット吹出口
7 空調ダクト
8 ファン
9 エバポレータ
10 ヒータコア
11 エアミックスドア
20 上部循環通路
21 下部循環通路
24 通路切替ドア
25 吸込切替ドア