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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】c-KIT陽性腫瘍特異的抗体断片
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20240326BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20240326BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K31/409
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K49/00
A61K41/00
A61P35/00
C07K16/28
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023543774
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2022029636
(87)【国際公開番号】W WO2023026791
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2021139380
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399032282
【氏名又は名称】株式会社 免疫生物研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 辰也
(72)【発明者】
【氏名】清水 衞
(72)【発明者】
【氏名】高山 哲治
(72)【発明者】
【氏名】六車 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 将太
(72)【発明者】
【氏名】樫原 孝典
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179749(WO,A1)
【文献】FUJIMOTO S. et al.,A Novel Theranostic Combination of Near-infrared Fluorescence Imaging and Laser Irradiation Targetin,Theranostics,2018年,Vol. 8, Issue 9,2313-2328
【文献】MAO C. et al.,P-glycoprotein Targeted Photodynamic Therapy of Chemoresistant Tumors using Recombinant Fab Fragment,Biomaterials Science,2018年,Vol.6, No.11,3063-3074
【文献】WEI D. et al.,Selective Photokilling of Colorectal Tumors by Near-Infrared Photoimmunotherapy with a GPA33-Targete,molecular pharmaceutics,2020年,17,2508-2517
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-33/44
A61K 39/395
A61K 49/00-49/22
A61K 41/00-41/17
A61P 1/00-43/00
C07K 16/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2又は配列番号19に記載のアミノ酸配列からなる抗体重鎖における相補性決定領域(CDR)、および配列番号4又は配列番号21に記載のアミノ酸配列からなる抗体軽鎖におけるCDRを有する抗体の抗原結合性断片と、それに結合するIR700とを有する複合体であって、
前記抗原結合性断片が、FabまたはF(ab’) である、複合体
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する抗体重鎖におけるCDRが、以下の(a)または(b)である、請求項1に記載の複合体。
(a)重鎖CDR(CDRH)1が、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRH2が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRH3が、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなる
(b)CDRH1が、配列番号13に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRH2が、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRH3が、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなる。
【請求項3】
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖におけるCDRが、以下の(a’)または(b’)である、請求項に記載の複合体。
(a’)軽鎖CDR(CDRL)1が、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRL2が、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRL3が、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる
(b’)CDRL1が、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRL2が、アミノ酸配列GISからなり、かつ、
CDRL3が、配列番号17に記載のアミノ酸配列からなる。
【請求項4】
抗体の抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)が1~10である、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記抗体断片が更に別の標識物質と結合することにより標識化されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記抗原結合性断片が、ヒト化抗体の断片である、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
複数の請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合体を有する組成物であって、当該組成物中の該複合体の抗体の抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)の平均値が1~10である、組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含有する、がん検出用組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のがん検出用組成物であって、当該組成物の投与から6時間以内にがんを検出するために用いられる、組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含有する、診断用組成物。
【請求項11】
がんの診断用である、請求項10に記載の診断用組成物。
【請求項12】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含有する、治療用組成物。
【請求項13】
がん治療用である、請求項12に記載の治療用組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の治療用組成物であって、当該組成物の投与後に、当該組成物の集積部位に近赤外光が照射される組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の治療用組成物であって、当該組成物の投与から1時間後以降12時間後以内に近赤外光が照射される、組成物。
【請求項16】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含有する、診断および治療の両方に用いられるための組成物。
【請求項17】
がんの診断および治療用である、請求項16に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、c-KIT陽性腫瘍である消化管間質腫瘍の診断および治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)は消化管の粘膜下の間葉系細胞から由来する腫瘍で、通常は正常な粘膜に覆われているため、一般的な内視鏡では他のタイプの粘膜下腫瘍と区別することが困難である。
【0003】
最近、EUS-FNA(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration)超音波内視鏡穿刺吸引細胞診が開発されGISTの診断が可能になった。しかし、これは非常に高度な技術を要し、特に2cm以下の場合EUS-FNSでも実施が困難で、組織学的診断が出来ないまま、経時的にフォローアップしている状態である。また、2cm以下のGISTでも肝臓への転移や早い腫瘍増殖が見られる等が報告され、もっとシンプルで効果的な診断技術と治療法が待望されている。
【0004】
PET(Positron emission tomography)ポジトロン放射断層撮影がGIST等でも診断に利用されているが、リンパ腫や平滑筋肉腫等を含む他の悪性腫瘍や、炎症性の病巣との区別が困難であるうえに、患者が高用量の放射線を被爆するという問題もある。
【0005】
また、PDT(Photodynamic therapy)光力学療法では、光線の特異的な波長によって活性化される光感受性物質を利用して、様々なタイプのがんで治療が試みられたが、腫瘍細胞を死滅させる一方で、非がん細胞をも傷めるために重大な副作用が見られる。
【0006】
一方、GISTの標的分子c-KITを利用し、抗c-KIT抗体にAlexa Fluor 488(AF488)を結合してGISTのモデルマウスを用いて、腹腔鏡検査の開発が行われた。しかし、その目論見は、正常組織の自家蛍光が強すぎ、擬陽性の比率が高すぎるため実用化されなかった。
【0007】
そこで考えられたのが、NIR(Near-infrared)近赤外線である。NIRは、生体において自家蛍光が非常に低く、可視光線よりもっと深く組織へ透過できるため、GISTの内視鏡分子イメージングとして最も的確な戦略である。近年、腫瘍特異的な分子に対する抗体に光感受性物質を結合して、診断や治療が出来る、PIT(Photoimmunotherapy)光免疫療法が発見された。これは、PDTの新しいタイプの利用法として高い選択性が報告されている。この方法は、特異抗体と色素の結合物とのみに反応する細胞(腫瘍細胞)だけに障害をもたらすため、副作用が最小化されるというがん治療法である。この療法は、がん細胞の標的分子に対する特異的な抗体が鍵である。
【0008】
GISTの腫瘍細胞は表面にc-KITを発現していて、患者の90%以上が陽性であることが知られている。そこで、本発明者らは、c-KITを標的分子として、この分子に対する抗体にIR700色素を結合させ、近赤外線照射によるGISTの診断および治療を試みた(非特許文献1)。しかし、この方法では、蛍光が最大値に達する、すなわち抗体が集積するまでに24時間が必要であり、S/N比が最大値に達するまでには120時間必要なことなど、投与から検出までに時間を要することが問題であった。また、90Y標識したc-KIT抗体を用いた研究が報告されており、この場合も治療効果を奏するまでに数日要している(非特許文献2)。更に、それ以前に抗c-KIT抗体のFab断片を用いて64Cu標識させることが試みられているが、ヌードマウスを用いた実験では取り込みまでに6~12時間を要している(非特許文献3、Table3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Shota Fujimotoら、Theranostics(2018)8(9):2313-2328.
【文献】Chisato Yoshidaら、PLOS ONE(2013)8(3)e59248.
【文献】Chisato Yoshidaら、Nuclear Medicine and Biology(2011)38:331-337.
【発明の概要】
【0010】
そこで、本発明は、in vivoで早期に腫瘍内に取り込まれるc-KITを標的分子とする標識剤および治療薬を提供することを課題とする。
【0011】
本発明者らは、c-KIT特異的に結合する分子種および当該分子種と結合させる標識剤および治療剤について検討した結果、抗c-KIT抗体のFab断片またはF(ab’)断片とIR700とを組み合わせることにより、投与から数時間という短時間で腫瘍に集積させ、検出できることを見出した。
【0012】
また、抗c-KIT抗体のFab断片またはF(ab’)断片とIR700と複合体を腫瘍に集積させた後に、PIT処理を施すことにより、検出と同じ複合体を用いて治療も行うことができることも見出した。
【0013】
よって、本発明は、抗c-KIT抗体の抗原結合性断片とIR700との複合体に関し、また当該複合体を有効成分として含有する検出薬および治療薬に関する。
(1) 配列番号2又は配列番号19に記載のアミノ酸配列を有する抗体重鎖における相補性決定領域(CDR)、および配列番号4又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖におけるCDRを有する抗体の抗原結合性断片と、IR700とを有する複合体。
(2) 抗体の抗原結合性断片が、FabまたはF(ab’)である、(1)に記載の複合体。
(3) 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する抗体重鎖におけるCDRが、以下の(a)または(b)である、(1)または(2)に記載の複合体。
(a)重鎖CDR(CDRH)1が、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRH2が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRH3が、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなる
(b)CDRH1が、配列番号13に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRH2が、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRH3が、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなる。
(4) 配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖におけるCDRが、以下の(a’)または(b’)である、(3)に記載の複合体。
(a’)軽鎖CDR(CDRL)1が、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRL2が、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、
CDRL3が、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる
(b’)CDRL1が、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなり、
CDRL2が、アミノ酸配列GISからなり、かつ、
CDRL3が、配列番号17に記載のアミノ酸配列からなる。
(5) 抗体の抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)が1~10である、(1)~(4)のいずれかに記載の複合体。
(6) 前記抗体断片が更に別の標識物質と結合することにより標識化されている、(1)~(5)のいずれかに記載の複合体。
(7) 複数の(1)~(6)のいずれかに記載の複合体を有する組成物であって、当該組成物中の該複合体の抗体の抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)の平均値が1~10である、組成物。
(8) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、がん検出用組成物。
(9) (8)に記載のがん検出用組成物であって、当該組成物の投与から6時間以内にがんを検出するために用いられる、組成物。
(10) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、がん治療用組成物。
(11) がんの診断用である、(10)に記載の診断用組成物。
(12) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、治療用組成物。
(13) がん治療用である、(12)に記載の治療用組成物。
(14) (12)又は(13)に記載の治療用組成物であって、当該組成物の投与後に、当該組成物の集積部位に近赤外光が照射される組成物。
(15) (14)に記載の治療用組成物であって、当該組成物の投与から1時間後以降12時間後以内に近赤外光が照射される、組成物。
(16) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を有効成分として含有する、診断および治療の両方に用いられるための組成物。
(17) がんの診断および治療用である、(16)に記載の組成物。
(18) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を投与することを含む、がんを検出する方法。
(19) (1)~(6)のいずれかに記載の複合体を投与することを含む、がんを治療する方法。
(20) がんの治療において使用するための、(1)~(6)のいずれかに記載の複合体。
(21) がんを治療する医薬の製造における、(1)~(6)のいずれかに記載の複合体の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合体は、投与後数時間という短時間で腫瘍に集積することから、腫瘍検出までの時間を短縮化することができる。更に、本発明の複合体は、集積した腫瘍に対してPIT処理を行うことにより、腫瘍を殺傷する効果を有することからがん治療に用いることができる。特に、同じ複合体を検出と治療に用いることもできることから、1種類の薬剤投与で検出から治療までを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2の各抗体における共焦点顕微鏡による細胞イメージングの結果を表す写真である。左上はIR700と結合したIgG(IR700-IgG,ネガティブコントロール)、右上はIR700と結合した完全長の12A8抗体(IR700-12A8 Whole IgG)、左下はIR700と結合した12A8抗体のFab断片(IR700-12A8 Fab)、右下はIR700と結合した12A8抗体のF(ab’)断片(IR700-12A8 F(ab’))の結果を示す。
図2図1で測定された蛍光強度をグラフにしたものである。縦軸は平均蛍光強度(cps/cell)を示す。IgG1(NC)はネガティブコントロールIgG、Whole bodyは完全長の12A8抗体、F(ab’)は12A8抗体のF(ab’)断片、Fabは12A8抗体のFab断片の結果を表す。
図3】担がんヌードマウスモデルにおける各抗体の蛍光イメージングの結果を示す。Whole IgGは完全長の12A8抗体、F(ab’)は12A8抗体のF(ab’)断片、Fabは12A8抗体のFab断片の結果を表す。各写真の下は、標識化抗体又は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図4図3で測定された蛍光強度の経時変化をグラフにしたものである。縦軸は蛍光強度(counts/s/cm/str)、横軸は標識化抗体又は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図5】担がんヌードマウスモデルにおける各抗体のS/N比を示すグラフである。縦軸はシグナルノイズ比(signal to noise ratio)、横軸は標識化抗体又は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図6】In vivoにおけるPIT(Photoimmunotherapy)治療試験の概略図である。
図7】担がんヌードマウスを用いたPIT治療の前後を比較した写真である。左は、PIT処理を受けていない陰性対照のマウスの写真であり、12A8抗体のFab断片投与マウス(Fab Vehicle)(上)、12A8抗体のF(ab’)断片投与マウス(F(ab’) Vehicle)(下)の写真である。右はPIT処理群のマウスの写真であり、12A8抗体のFab断片投与+PIT処理(Fab PIT後)(上)、12A8抗体のF(ab’)断片投与+PIT処理(F(ab’) PIT後)(下)のマウスの写真である。
図8】担がんヌードマウスを用いたPIT治療前後の蛍光標識抗c-KIT抗体による蛍光強度を比較した写真である。左は、PIT処理を受けていない陰性対照のマウスの写真であり、12A8抗体のFab断片投与マウス(Fab Control(Vehicle))(上)、12A8抗体のF(ab’)断片投与マウス(F(ab’) Control(Vehicle))(下)の写真である。右はPIT処理群のマウスの写真であり、12A8抗体のFab断片投与+PIT処理(Fab PIT後)(上)、12A8抗体のF(ab’)断片投与+PIT処理(F(ab’) PIT後)(下)のマウスの写真である。
図9】担がんヌードマウスを用いたPIT治療試験における腫瘍サイズの経時変化を示すグラフである。縦軸は腫瘍サイズ(mm)を示し、横軸は腫瘍移植後の経過日数を示す。PIT処理は腫瘍移植から28日後に行った。
図10-1】ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の重鎖のDNA配列及びアミノ酸配列を示す図である。
図10-2】ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の重鎖のDNA配列及びアミノ酸配列を示す図である。
図11】ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の軽鎖のDNA配列及びアミノ酸配列を示す図である。
図12】ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のFab H鎖のDNA配列及びアミノ酸配列を示す図である。
図13】ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体発現ベクターの構造を示す図である。
図14】CHO-K1細胞におけるヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体の発現解析結果を示すウェスタンブロット写真である。一次抗体として、Mock(レーン1)、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体(レーン2)を用いた。二次抗体として、AではHRP標識抗ヒトIgG(Fc)抗体を用い、BではHRP標識抗ヒトKappa抗体を用いた。
図15】CHO-K1細胞におけるヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体の発現解析結果を示すウェスタンブロット写真である。一次抗体として、Mock(レーン1)、ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体(レーン2)およびヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体(レーン3)を用いた。二次抗体として、AではHRP標識抗ヒトFd抗体を用い、BではHRP標識抗ヒトKappa抗体を用いた。
図16】EIAによって、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体、ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体の反応性を確認した図である。
図17】フローサイトメトリーによって、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)の反応性を確認した図である。
図18】担がんヌードマウスモデルにおける各抗体の蛍光イメージングの結果を示す写真である。12A8(whole IgG)はIR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体、ヒト化whole IgGは抗c-KIT(12A8)IgG1抗体、ヒト化Fabは抗c-KIT(12A8)Fab抗体を示す。各写真の下は、標識化抗体又は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図19】IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体による、マウスにおける異種移植腫瘍の蛍光強度の経時的変化を示す図である。縦軸は蛍光強度を示し、横軸は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図20】IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を用いたときの、マウス腫瘍領域におけるS/N比の経時的変化を示す図である。縦軸はS/N比を示し、横軸は標識化抗原結合性断片投与からの経過時間(h)を表す。
図21】担がんマウスを用いた光免疫治療スケジュールの概略図である。
図22】IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を用いたときの、腫瘍の蛍光イメージングを示す写真である。
図23】IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を用いたときの、光免疫治療の効果を示す蛍光イメージングを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(抗原結合性断片)
本明細書の抗原結合性断片は、配列番号2又は配列番号19に記載のアミノ酸配列を有する抗体重鎖における相補性決定領域(CDR)、および配列番号4又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する抗体軽鎖におけるCDRを有する抗体の断片である。配列番号2及び4はマウス由来の抗原結合断片におけるアミノ酸配列を示し、配列番号19及び配列番号21はヒト化した抗原結合断片におけるアミノ酸配列を示す。
なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号1に記載の塩基配列によってコードされるものであってよく、配列番号4に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号3に記載の塩基配列によってコードされるものであってよく、配列番号19に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号18に記載の塩基配列によってコードされるものであってよく、配列番号21に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号20に記載の塩基配列によってコードされるものであってよい。また、当該抗原結合性断片は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するFab H鎖における相補性決定領域を有するものであってよく、配列番号6に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号5に記載の塩基配列によってコードされるものであってよい。また、当該抗原結合性断片は、配列番号23に記載のアミノ酸配列を有するFab H鎖における相補性決定領域を有するものであってよく、配列番号23に記載のアミノ酸配列は、例えば配列番号22に記載の塩基配列によってコードされるものであってよい。ここで、CDRの決定方法として、Kabatら、Chothiaら、Martinら、Geldandら、IMGT(登録商標)(http://www.imgt.org/IMGTindex/CDR.php)、Honnergerら(AHo’s)などの方法が報告されている(Lars Niebaら、Protein Engineering, 10(4):435-444(1997))が、当該CDRを有する抗体断片がc-KITと特異的に結合する限り、CDRはいずれの定義によって決定されたものであってもよい。
【0017】
例えば、本明細書における抗原結合性断片が有する重鎖CDRとしては、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、および配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、あるいは、配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、および、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を挙げることができる。また、本明細書における抗原結合性断片が有する軽鎖CDRとしては、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2、および配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるDRL3、あるいは、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、アミノ酸配列GIS(すなわち、Gly、Ile、Ser)からなるCDRL2、および配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を挙げることができる。例えば、本明細書における抗原結合性断片は、(i)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2、および配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるDRL3を有するか、あるいは(ii)配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、アミノ酸配列GISからなるCDRL2、および配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有していてもよい。
【0018】
本明細書において、「抗原結合性断片」とは、抗体の断片であって、当該抗体の抗原への結合性を保持する断片を意味する。例えば、抗原結合性断片としては、F(ab’)、Fab’、Fab、Fab、一本鎖Fv(以下、「scFv」という)、(タンデム)バイスペシフィック一本鎖Fv(sc(Fv))、一本鎖トリプルボディ、ナノボディ、ダイバレントVHH、ペンタバレントVHH、ミニボディ、(二本鎖)ダイアボディ、タンデムダイアボディ、バイスペシフィックトリボディ、バイスペシフィックバイボディ、デュアルアフィニティリターゲティング分子(DART)、トリアボディ(又はトリボディ)、テトラボディ(又は[sc(Fv))、若しくは(scFv-SA))ジスルフィド結合Fv(以下、「dsFv」という)、コンパクトIgG、重鎖抗体、又はそれらの重合体)を挙げることができる。
【0019】
本発明の複合体の一部を構成する抗原結合性断片は、c-KITと特異的に結合する。本明細書において、抗原結合性断片が「特異的に」認識する(結合する)とは、その抗原結合性断片が他のタンパク質やペプチドに対する親和性よりも、c-KITに対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性で結合する」とは、所望の測定装置または方法によって、目的とする特定のタンパク質やペプチドを他のタンパク質やペプチドから区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味する。例えば、実質的に高い親和性は、ELISA又はEIAにより検出された強度(例えば、蛍光強度)として、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、100倍以上であることを意味していてもよい。
【0020】
本明細書において、抗原結合性断片とc-KITとの結合における結合速度定数(Ka1)としては、例えば、1×10Ms-1以上、1×10Ms-1以上、5×10Ms-1以上を挙げることができる。また、抗原結合性断片とc-KITとの結合における解離速度定数(Kd1)としては、例えば、1×10-3以下、1×10-4以下が挙げられる。抗原結合性断片とc-KITとの結合における結合定数(KD)としては、例えば、1×10-8(M)以下、5×10-8(M)以下、1×10-9(M)以下、5×10-9(M)以下であり得る。本明細書における抗原結合性断片の結合速度定数(Ka1)、解離速度定数(Kd1)、及び結合定数(KD)はBIACORE(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社,BIACORE-X100)を用いて、製造者提供のマニュアルに従い、SAチップにビオチン化c-KITを固定後、被検抗体を流し、結合速度定数Ka1、解離速度定数Kd1を測定し、bivalentフィッティングを用いて結合定数KD値を決定することができる。
【0021】
抗原結合性断片は、非ヒト動物の抗原結合性断片、非ヒト動物のアミノ酸配列とヒト由来のアミノ酸配列を有する抗原結合性断片を包含する。例えば、抗原結合性断片は、ヒト化抗原結合性断片であってもよい。ヒト化抗原結合性断片とは、ヒト抗体のH鎖とL鎖をコードする遺伝子をベースとして、その6つのCDRの一次構造部分を、非ヒト動物由来の抗c-KIT抗体のH鎖(3カ所)とL鎖(3か所)のCDRの一次構造と遺伝子工学的に置換した抗体の断片のことである。例えば、本発明の抗体を治療、予防、又は体内に投与することにより用いる診断に使用する場合には、本発明の抗体として好ましくは、ヒト化抗体の断片である。
【0022】
本発明の複合体は、更に1種類以上の他の異なる抗体の抗原結合性断片を有していてもよく、それにより、モノスペシフィック、バイスペシフィック(二重特異性)、トリスペシフィック(三重特異性)、又はマルチスペシフィック(多重特異性)であってもよい。
【0023】
本明細書において、アミノ酸は一文字表記で表される。具体的には、Aはアラニン、Lはロイシン、Rはアルギニン、Kはリシン、Nはアスパラギン、Mはメチオニン、Dはアスパラギン酸、Fはフェニルアラニン、Cはシステイン、Pはプロリン、Qはグルタミン、Sはセリン、Eはグルタミン酸、Tはトレオニン、Gはグリシン、Wはトリプトファン、Hはヒスチジン、Yはチロシン、Iはイソロイシン、Vはバリンを表す。
【0024】
IR700は、フタロシアニンとも呼ばれ、以下の構造を有する化合物を意味する。
【0025】
【化1】
【0026】
本明細書において複合体に含まれるIR700は上記構造を有する限り、その誘導体であってもよい。例えば、IR700がアミノ基またはカルボキシル基と反応する置換基を有し、該置換基と抗原結合性断片のアミノ基またはカルボキシル基との反応により、抗原結合性断片とIR700とを結合させることができる。例えば、本明細書におけるIR700として、以下の構造を有するIRDye(登録商標)700DX(LI-COR社)を用いることができる。この場合、製造者提供のプロトコルに従い、抗原結合性断片とIR700とを結合させることができる。
【0027】
【化2】
【0028】
抗原結合性断片とIR700との結合比は、例えば、抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)が1~10、1~5、1~3であってもよい。また、複数の本発明の複合体を有する組成物である場合、当該組成物中の該複合体の抗体の抗原結合性断片1分子当たりに結合するIR700分子の数(F/P比)の平均値は1~10、1~5、1~3、または1.5~3.0であってもよい。
【0029】
本発明の複合体はIR700を有することから、その蛍光を測定することにより検出および診断に用いることができる。よって、別の態様において、本発明は、上記複合体を有効成分として含有する、がん検出/診断用組成物に関する。また、本発明は、c-KITを発現する全てのがん細胞を検出/診断する方法であって、がんを有する対象に本発明の複合体を投与すること、および該対象における該複合体の集積箇所を検出することを含む方法に関する。
本明細書において、「がん」は、宿主生物にとって病原体となるような悪性形質転換を受けた細胞を意味する。本明細書中において、がんは、原発性がんのみならず、転移がん、およびがん細胞に由来するインビトロ培養物および細胞株も含む。がんは、例えば、血液細胞などの腫瘍である造血器腫瘍であってもよく、例えば、慢性骨髄性白血病または急性骨髄性白血病などの白血病;多発性骨髄腫などの骨髄腫;リンパ腫などが挙げられる。
がんとしては、これらに限定されるものではないが、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、副腎皮質癌、AIDS関連癌、エイズ関連リンパ腫、小児小脳星細胞腫、小児大脳星細胞腫、基底細胞癌、皮膚癌(非黒色腫)、胆道癌、肝外胆管がん、肝内胆管癌、膀胱癌、骨や関節の癌、骨肉腫と悪性線維組織球腫、脳癌、脳腫瘍、脳幹神経膠腫、小脳星細胞腫、神経膠腫、大脳星細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視経路および視床下部神経膠腫、頭頸部癌、転移性扁平上皮頸部癌、気管支腺腫/カルチノイド、カルチノイド腫瘍、神経系リンパ腫、中枢神経系の癌、中枢神経系リンパ腫、神経芽細胞腫、小児癌、Seziary症候群、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼の癌、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、唾液腺癌、口腔癌、口腔空洞癌、口腔咽頭癌、口腔癌、舌の癌、食道がん、胃癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、小腸癌、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、肛門直腸癌、肛門癌、胚細胞腫瘍、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、喉頭癌、咽頭癌、下咽頭癌、鼻咽頭癌、副鼻腔および鼻腔癌、咽喉癌、膵島細胞腫瘍(内分泌膵臓)、膵臓癌、副甲状腺癌、肝臓癌、胆嚢癌、虫垂癌、腎臓癌、尿道癌、腎盂と尿管の移行上皮癌および他の泌尿器の癌、扁平上皮癌、陰茎癌、精巣癌、胸腺腫、胸腺腫および胸腺癌、甲状腺癌、前立腺癌、卵巣癌、卵巣上皮癌、卵巣低悪性度腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、乳癌、子宮癌、子宮肉腫、子宮頸癌、子宮内膜がん、子宮体がん、膣がん、外陰癌、およびウィルムス腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、慢性骨髄増殖性疾患、ヘアリー細胞白血病、原発性中枢神経系リンパ腫、慢性骨髄増殖性疾患、皮膚T細胞リンパ腫、リンパ系新生物、Waldenstramのマクログロブリン血症、髄芽腫、皮膚癌(非メラノーマ)、皮膚癌(黒色腫)、褐色細胞腫、メルケル細胞皮膚癌、中皮腫、悪性中皮腫、多発性内分泌腫瘍症候群、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、松果体芽腫および下垂体腫瘍、形質細胞腫、胸膜肺芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、ユーイング腫瘍のファミリー、軟組織肉腫、軟組織肉腫、菌状息肉腫、カポジ肉腫が含まれる。さらに、本発明はc-KITを発現する、前がん病変を含めた良性腫瘍の検出(診断)と治療にも有効である。
【0030】
本発明の複合体は、がん細胞と接触後、あるいは、がんを有する生体内に投与後、すみやかにがん細胞に蓄積される。よって、本発明のがん検出用組成物は、当該組成物の投与から24時間以内、12時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内にがんを検出するために用いることができる。短時間で検出するという観点からは、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内にがんを検出するために用いることが好ましい。
【0031】
また、本発明の複合体はIR700分子を有することから、PhotoImmunoTherapy(PIT)によりがん細胞を殺傷することができる(Mitsunaga M,et al.,Nat Med.(2011)17(12):1685-91.)。よって、本発明のがん治療用組成物を対象に投与し、がんに当該組成物を集積させる時間の経過後に、がん局所、すなわち、当該組成物の集積局所に近赤外光を照射することにより、がん治療効果を発揮させることができる。よって、本発明は上記複合体を有効成分として含有する、がん治療用組成物に関する。本明細書では、主にがんの治療用に用いられる組成物や複合体が、近赤外光と組み合わせて使用されるためのものである。また、本発明は、がんを有する対象に本発明の複合体を投与すること、および該対象における該複合体の集積箇所に近赤外光を照射することを含む、がんの治療方法に関する。
【0032】
近赤外光としては、650~900nmの波長の光を用いることができ、好ましくは、650~750nm、より好ましくは約700nmである。がんに当該組成物を集積させる時間は、当該組成物の投与から1時間後~24時間後、1時間後~12時間後、1時間後~6時間後、2時間後~6時間後、2時間後~4時間後、2時間後~3時間後、または3時間後~4時間後とすることができる。
【0033】
本発明の抗体断片を更に標識物質と結合させることもできる。例えば480~650nmなどの可視光領域の波長の蛍光物質や光感受性物質と結合させて複合体を作り、がんの診断や治療に応用することも可能である。当該標識としては、放射能標識、酵素、蛍光標識、生物発光標識、化学発光標識、金属等の検出可能な標識を用いることができる。このような標識としては、これに限定されるものではないが例として、32P、3H、125I、131I、14C、トリチウム等の放射能標識;β-ガラクトオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ等の酵素;FAD、FMN、ATP、ビオチン、ヘム等の補酵素又は補欠分子族;フルオレセイン誘導体(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインチオフルバミル等)、ローダミン誘導体(テトラメチルローダミン、トリメチルローダミン(RITC)、テキサスレッド、ローダミン110等)、Cy色素(Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7)、Cy-クロム、スペクトラムグリーン、スペクトラムオレンジ、プロピジウムイオダイド、アロフィコシアニン(APC)、R-フィコエリスリン(R-PE)等の蛍光標識;ルシフェラーゼ等の生物発光標識;あるいは、ルミノール、イソルミノール、N-(4-アミノブチル)-N-エチルイソルミノースエステル等のルミノール誘導体、N-メチルアクリジニウムエステル、N-メチルアクリジニウムアシルスルホンアミドエステル等のアクリジニウム誘導体、ルシゲニン、アダマンチルジオキセタン、インドキシル誘導体、ルテニウム錯体等の化学発光標識;金コロイド等の金属等の検出可能な標識を挙げることができる。
【0034】
以上のように、本発明の組成物は、がんの検出用(診断用)として使用することができると共に、そのまま治療用としても用いることができる。すなわち、本発明は、本発明の組成物を対象に投与すること、投与された該組成物中のIR700が発する蛍光により、対象におけるがんの位置や大きさを検出/診断すること、および当該検出/診断されたがんに対して近赤外光を照射することにより、当該がんを殺傷することを含む、がんの検出/診断及び治療方法を含む。また、本発明は、前記複合体を有効成分として含有する、がんの検出と治療の両方に用いられる組成物(検出および治療用組成物)であってもよい。
【0035】
その他、本発明は、前記がんの検出用組成物、がんの治療用組成物、または、がんの検出および治療用組成物を製造するための、本発明の複合体の使用に関する。また、本発明は、がんの検出、がんの治療、または、がんの検出および治療のための、本発明の複合体に関する。
【0036】
本発明の組成物は、目的のがんに到達させることができる限り、経口および非経口のいかなる製剤を採用してもよい。非経口投与には、静脈内投与以外にも、例えば内視鏡観察下に鉗子孔から消化管粘膜などに散布投与する方法も含まれる。本発明の組成物は、好ましくは医療用であり、よって、医療用に適した製剤が好ましい。非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、点鼻剤、坐剤等を挙げることができる。好ましくは、注射剤(静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、硝子体内注射剤、点滴注射剤などの液剤又は凍結乾燥製剤など)である。注射用の水性液としては、例えば、リン酸塩等の緩衝材;生理食塩水、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン等の等張化剤;例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、ポリソルベート20、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕、エチレンジアミン等の溶解補助剤、亜硫酸塩等の安定剤、フェノール等の保存剤、リドカイン等の無痛化剤等の添加物を添加することができる。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などを用いることができ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を添加することができる(必要に応じて、「医薬品添加物事典」薬事日報社、「Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition」APhA Publications社参照)。注射剤は、公知の方法に従って、例えば、複合体を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製することができる。凍結乾燥製剤の場合、用時、注射用水、生理食塩水などで溶解して注射液とすることもできる。また、本発明の組成物を注射剤として使用する場合、保存容器としては、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ペン型注射器用カートリッジ、及び、点滴用バッグ等を挙げることができる。なお、一般的にタンパク質の経口投与は消化器により分解されるため困難とされるが、消化器系のがんを対象とする場合など、経口投与の可能性もある。経口投与の製剤としては、例えば、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、顆粒剤等を挙げることができる。
【0037】
本発明の組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。このような投薬単位の剤形としては、注射剤(アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ)が例示され、投薬単位剤形当たり通常1~1000mg、5~250mg、10~100mgの本発明の複合体を含有していても良い。
【0038】
本発明の組成物の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、上述のとおり非経口的又は経口的に投与される。非経口的投与経路としては、眼内、皮下、腹腔内、血中(静脈内、若しくは動脈内)又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられ、好ましくは、血中への投与である。本発明の組成物の投与は、1回のみであってもよいし、複数回であってもよく、また、一時的であってもよいし、持続的又は断続的であってもよい。好ましくは、1~数回を短期間(数時間以内、数日以内、1~2週間以内など)に投与する。例えば、1回のPIT治療でがんが完全に治療できない場合には、がんのPIT治療を期間を開けて複数回行うこともできる。この場合には、治療毎に、近赤外照射前に1~数回前記組成物を投与する。また、本発明の複合体は、単独で投与されてもよいし、他の薬剤と共に併用により投与されてもよい。
【0039】
本発明の組成物の投与量は、所望の治療効果又は検出/診断効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。本発明の組成物の投与量は、例えば、がんの治療効果を指標として決定することができる。例えば、がん治療のために使用する場合には、本発明の組成物の有効成分の1回量として、0.01~20mg/kg体重、0.1~10mg/kg体重、0.1~5mg/kg体重を、1~数回程度、静脈注射により投与する。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量または投与回数(治療回数)を増加させてもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0041】
(実施例1)IR700で標識化されたマウス抗c-KIT抗体(whole bodyのIgG抗体=以下whole IgG)、ならびに、そのF(ab’)断片およびFab断片の調製
(1)抗原の調整
GISTの標的分子として、ヒトc-KIT(Accession No.NM―000222.3)を用いた。抗原は、c-KIT遺伝子の細胞外領域(1-504アミノ酸)とマウスIgG2aの定常領域(Fc部分)との融合タンパク質(c-KIT-Fc)をコードするcDNAを発現ベクター(pcDNA3.1)へ常法(例えば、「分子生物学基礎実験法」、南江堂)に従い組み込み、さらにその組み換えベクターをチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして作製した。c-KIT-Fc発現CHO細胞を無血清培地であるTIL培地(株式会社免疫生物研究所)中で培養後、その培養上清からProtein Aカラム(GEヘルスケア)にて精製することにより得た。
【0042】
(2)モノクローナル抗体の作製
BALB/cマウスに(1)で作製した抗原を4回免疫後、脾臓の単核球細胞と融合パートナー細胞のX63-Ag8-653をポリエチレングリコールにて融合し、J.Immunol.146:3721-3728に記載の方法によりハイブリドーマを選択した。選択は、固相化したc-KIT-Fcに反応する抗体を産生する細胞をクローニングすることにより行い、ハイブリドーマ12A8を分離した。クローン12A8は培養上清中にIgG1を産生し、その抗体は、c-KITを発現するSCLC(小細胞肺がん)の細胞株SYやGISTの細胞株GIST-T1に強い反応を示した。
【0043】
(3)マウス抗c-KIT抗体12A8の抗原決定基(エピトープ)
12A8抗体が認識する抗原決定領域をエピトープマッピングで決定した。ヒトc-KITの細胞外領域(1-504アミノ酸)及び当該領域のC末端から欠失させた各種欠失変異体とマウスIgG2aの定常領域との融合タンパク質をコードする遺伝子を作製し、発現ベクター(pcDNA3.1)に組み込んだ。作製した欠失変異体は、ヒトc-KIT1-106アミノ酸(c-KIT106-Fc)、1-205アミノ酸(c-KIT205-Fc)、1-305アミノ酸(c-KIT305-Fc)、1-406アミノ酸(c-KIT406-Fc)をコードしている。
【0044】
これらの遺伝子を保持する各発現ベクターをCOS1細胞(ATCC,CRL-1650)にトランスフェクションし、無血清のDulbecco’s MEM(株式会社免疫生物研究所)で2日間培養後、培養上清を回収した。回収した培養上清を10倍濃度まで限外ろ過にて濃縮し、PVDF膜(株式会社ミリポア、IPVH00010)にドットブロットした。ブロットしたPVDF膜をブロッキング処理後、マウス抗c-KIT(12A8)抗体と反応させ、さらに抗マウスIgκ 鎖HRP標識抗体(Southern Biotech,1050-05)を反応させた。検出はAmersham ECL(Cytiva,RPN2106)を用いて、化学発光検出を実施した。
【0045】
各種ドットした融合タンパク質には全てにマウスIgG2aFcが含まれるため、抗マウスIgG抗体(a-Mouse HRP)に対しすべて陽性を示したが、抗マウスIgκ鎖HRP(a-mouse kappa HRP)には全く反応しなかった。マウス抗c-KIT(12A8)抗体(a-c-KIT 12A8)は、抗原に用いたC末欠失のないc-KIT504-Fcにのみ反応し、他のC末欠失変異体融合タンパク質とは反応が見られないことから、c-KITの細胞外領域である407-504アミノ酸領域にエピトープが存在することが明らかとなった。
【0046】
(4)抗体の生産
12A8ハイブリドーマは高密度培養フラスコCELLINE CL-1000(Argos BMA-90005)を無血清TIL培地(株式会社免疫生物研究所)で、37℃のCOインキュベーターにて培養した。培養上清をProtein Aカラムで精製し、12A8(IgG1)抗体を得た。
【0047】
(5)抗体の分解
得られた12A8抗体を0.1M/L酢酸ソーダ緩衝液(Ph3.8)で調整し、ペプシンにて室温2時間消化処理してその後、ゲル濾過クロマトグラフィー(UltrogelAcA44 カラム)にて精製して、12A8 F(ab’)を得た。
【0048】
Fabは12A8抗体を0.1M/L酢酸ソーダ緩衝液(Ph5.5)で調整し、パパインにて室温3時間消化処理後、ゲル濾過クロマトグラフィー(UltrogelAcA44 カラム)にて精製し、さらにProtein Aカラムを通してFc断片を除去して得た。
【0049】
(6)IR-700の標識
抗体は、IRDye700DX Protein Labeling KIT(LI-COR Biosciences, Lincoln, NE)を使用し、メーカーの使用説明書に従ってIRDye700で標識化した。12A8抗体のwhole IgG、F(ab’)、およびFabの分子量を、それぞれ、150,000、110,000、および50,000と見なした。抗体とIRDye700は、モル比で1:5の割合で混合し、室温2時間インキュベーションして結合させた。抗体量は280nm、色素は689nmの吸光度で求め、F/Pを算出した。
【0050】
その結果、それぞれのIR700-12A8の結合物のF/Pは、Whole IgGが2.4、F(ab’)が2.6、Fabが1.9、陰性対照IgG1(c-KITに反応しない)が3.8であった。
【0051】
各結合物は、使用時モル濃度が同一(In vitro試験では0.05nM(表1)、In vivo試験では0.5nM(表2))となるように希釈用Buffer(PBS)で調整した。
【0052】
(実施例2)IR700で標識化されたマウス抗c-KIT抗体及びその断片のGISTへのin vitro結合とその蛍光強度
実施例1で作製したIR700で標識化されたマウス抗c-KIT抗体(whole bodyのIgG抗体=以下whole IgG)、ならびに、そのF(ab’)断片およびFab断片を用いてGIST-T1細胞株のLive cell imagingを行い、蛍光濃度に差があるかを確認した。
【0053】
【表1】
【0054】
得られた各IR700標識結合抗体は、少量ずつ分注して-20度℃で使用時まで保管した。
【0055】
RPMI RPMI1640培地(phenol red非含有)(43mL)に1M
HEPES 1.25mL及びFBS 5mLを添加したものを培地として使用した。
【0056】
GISTの培養細胞株GIST-T1(Dr.Tguchi T.,Kouchi University,Kouchi,Japan)は、上記RPMI1640培地を加えて、10cm dish(グライナー社、CELLSTTAR 664160-013)を用い、培養して殖やした。
【0057】
GIST-T1細胞8×10細胞/dishをglass bottomdish(グライナー社、CELLview 627965)5枚に播種し、24時間培養後、上清を除去して、ブロッキングバッファー(DaKo社、Protein Block seruma-free、X0909)1mL加え室温で15分間インキュベーションした。表1に記載の各IR700標識サンプルは、抗体希釈バッファー(0.1%BSA含有PBS)にて使用濃度に調整し、15分後ブロッキングバッファーを廃棄し、12A8結合物および対照結合物(IR700-IgG1)をそれぞれ500μL加えた。IR700-12A8標識サンプルのうち、whole IgGとF(ab’)は終濃度0.05nMとしたが、抗原結合部位が1価のFabは結合部位数を合わせるために、2倍の終濃度0.1nMとした。さらに、Hoechst 33342溶液(1mg/ml,DOJINCO H342)を5μLずつ添加して、氷上で1時間インキュベーションした。
【0058】
その後、IR700標識サンプル含有抗体希釈バッファーを除去して、抗体希釈バッファーで3回洗浄後、PBSを1mlずつ加え、共焦点顕微鏡(Keyence)にて以下の波長で蛍光観察を行った。
IR700 λex:620nm,λem:700nm
Hoechst 33342 λex:360nm,λem:460nm
【0059】
図1に示すようにIR700-12A8の各抗体は強い蛍光強度を示したが、陰性対象物IR700-IgG1では反応が見られなかった。また、図1で測定された蛍光強度をグラフにしたものを図2に示す。12A8フラグメントF(ab’)は、細胞イメージングにおいてwhole IgGと同様の蛍光強度を示し、12A8フラグメントFabは、細胞イメージングにおいてwhole IgGより優れた蛍光強度を示した。
【0060】
(実施例3)12A8 fragment を用いたMouse xenograft tumorの蛍光イメージング(In vivoによる試験)
無胸腺BALB/cヌードマウス(CLEA Japan Inc.,東京,日本)10匹に免疫抑制剤cyclophosphamide(0.2mg/g体重)を投与した。GIST-T1細胞をPBSにて1×10細胞/50μLに調整し、解凍したMatrigel(Corning Incorporated,USA)と氷上にて1:1の割合で懸濁した。免疫抑制剤投与の2日後、懸濁させたGIST-T1細胞を100μLずつ免疫抑制剤処理したヌードマウスの右大腿部皮下に移植した。腫瘍が8mmになった際に抗体を投与して観察を行った。
【0061】
移植28日目、抗体投与前に励起675nm、発光720nmでIVIS Spectrum(Perkin Elmer Inc. ,Waltham MA)にて自家蛍光を観察した。
【0062】
次に、IR700-12A8(whole IgG)、IR700-12A8(Fab)、およびIR700-12A8(F(ab’))の3種類の標識化抗体又は標識化抗体断片を、それぞれ60μg、40μg、および44μgずつ尾静脈より投与し、1時間、2時間、3時間、6時間、9時間、12時間、24時間、および48時間後に、励起675nm、発光720nmでIVISにて蛍光観察を行った。
【0063】
その結果は、図3、4に示した。12A8のフラグメント(Fab、F(ab’))抗体はin vivoモデルにおいてwhole IgGと比較して、投与後1時間、2時間、3時間と早期の腫瘍集積と代謝を示した。また、in vivoモデルにおける蛍光強度のピーク値はwhole IgGより高い傾向が得られた。
【0064】
また、In vivoモデルにおけるS/N比(signal to noise ratio)を図5に示す。12A8フラグメント(Fab、F(ab’))のS/N比はWhole IgGと同程度であった。この結果から、蛍光色素に結合したGIST特異的抗体(12A8)のフラグメントを利用することにより、抗体を生体に投与後、短時間(3時間以内)にGISTを診断することが可能であることが示された。
【0065】
【表2】
【0066】
(実施例4)In vivoにおけるPIT(Photoimmunotherapy)治療試験
免疫抑制剤を投与したヌードマウスにGIST-T1を移植して28日後、腫瘍の大きさが近似した4匹を選択し、イソフラボンで鎮静化してIR700-12A8Fab、IR700-12A8F(ab’)をそれぞれ79μg、66μgずつ尾静脈投与し、約2時間後に腫瘍にレーザーを1時間照射(735J)した。実験スキームの概略図を図6に示す。腫瘍サイズを4週間観察し、移植後55日目に、Alexa Fruor 647を標識したマウス抗c-KIT抗体(BioLegend Inc., San Diego, USA)を尾静脈投与し、48時間後にIVISにて観察した。
【0067】
その結果、図7に示すように陰性対照であるFab(Vehicle)、F(ab’)(Vehicle)マウスは共に腫瘍の大きさが示指頭大であるが、735Jのレーザー照射を施したマウスではIR700-12A8のFab、F(ab’)共に、腫瘍が消失していた。
【0068】
IVISにて観察した結果、図8及び図9に示すように、対照マウスは激しい蛍光を発しているが、PITを施されたマウスには蛍光が確認されなかった。GISTの特異的抗体12A8のフラグメント(Fab、F(ab’))と色素IR700を結合させることにより、難病GISTを早期に診断できること、そして、抗体投与後早期に治療開始が可能であり、短期間で腫瘍を消失させることも可能であることが判明した(図7~9)。
【0069】
(実施例5)IR700-ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)の作製
ヒトの消化管間質腫瘍(GIST)の診断用組成物及び/又は治療用組成物として安全に利用するため、マウス由来の抗c-KIT モノクローナル抗体12A8クローンの遺伝子配列をヒト化抗体遺伝子に置換した。具体的な方法は以下の通りである。
【0070】
(1)ヒト化遺伝子の合成
マウス抗c-KIT(12A8)抗体の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子のデータベース(NBCT)上で、可変領域のホモロジー検索を行った。その結果、重鎖(Heavy chain:HC)はヒトのIGHV1-3と高い相同性があり、また軽鎖(Light chain:LC)はヒト配列のIGKV2-29と高い相同性があった。そこで、マウス抗c-KIT(12A8)抗体の遺伝子配列の相補性決定領域(Complementarity determining region:CDR)を保持したまま、それ以外のフレームワークを相同性が高かったヒト配列に置換して、ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の可変領域重鎖(VH)および軽鎖(VL)配列を構築した。この遺伝子配列情報から人工遺伝子合成を行い、VHおよびVLの遺伝子を作製した。
【0071】
(2)発現ベクターの構築
合成したヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の可変領域遺伝子(VHおよびVL)と天然のヒトIgG1遺伝子を用いて、オーバーラップPCR(polymerase chain reaction)によりヒト化抗体遺伝子の重鎖(HC)(図10、配列番号18)および軽鎖(LC)(図11、配列番号20)を作製した。
HCはヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のVHとヒトIgG定常領域(Fc)を融合し、LCはヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のVLとヒトKappa鎖定常領域(KC)を融合した。
また、Fabフラグメントの発現に用いるために、ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のHC遺伝子を鋳型とし、ヒンジ領域の直前に停止コドンを挿入した遺伝子(Fab HC)(図12、配列番号22)をPCRで増幅して作製した。
ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のHC遺伝子、LC遺伝子およびFab HC遺伝子をそれぞれ哺乳動物細胞発現ベクター(pCXN2-MCS、株式会社免疫生物研究所)(図13)に挿入し、3種類の抗体遺伝子発現ベクター、(i)ヒト化c-KIT(12A8)IgG1(humanaized c-KIT(12A8)IgG1)ベクター、(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκ(humanaized c-KIT(12A8)Igκ)ベクター、(iii)ヒト化c-KIT(12A8)Fab H(humanaized c-KIT(12A8)Fab H)ベクターを作製した。
【0072】
(3)CHO-K1細胞による発現
ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体の完全なIgG1(whole IgG)の抗体を発現させるために、(i)ヒト化c-KIT(12A8)IgG1ベクターと(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκベクターを混合し、リポフェクタミン2000(サーモフィッシャー社)をマニュアルに従って用いてCHO-K1細胞にトランスフィクションした。また、ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のFabフラグメントを発現させるために、(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκベクターと(iii)ヒト化c-KIT(12A8)Fab Hベクターを混合、リポフェクタミン2000にてCHO-K1細胞へトランスフィクションした。
培養は抗生物質G-418(メルク社)を添加した培地を用いた。得られた培養上清に対して酵素免疫定量法(EIA:enzyme immunoassay)やSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行い、陽性細胞を選択した。その後陽性コロニーを限界希釈法にて培養し、陽性クローンを選択した。その結果を図14および図15に示す。
【0073】
完全なIgG1(whole IgG)の抗体を発現させるために(i)ヒト化c-KIT(12A8)IgG1ベクターと(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκベクターを混合してトランスフェクションして得られたCHO-K1細胞の培養上清を、HRP(horseradish peroxidase)標識抗ヒトIgG(Fc)抗体(IBL社)とHRP標識抗ヒトKappa抗体(サザンバイオテック社)により確認した。
その結果、図14に示すように、非還元状態で両方の標識抗体に反応する同一バンドが確認できた。このバンドは、whole IgGのMw(重量平均分子量)とほぼ同じ大きさで重鎖(H)2分子と軽鎖(L)2分子に相当する。また、還元処理した場合、HRP標識抗IgG(Fc)抗体で反応しているバンドは、ヒト化c-KIT(12A8)IgG1の重鎖(HC)のMwに相当し、HRP標識抗Kappa抗体では、ヒト化c-KIT(12A8)Igκの軽鎖(LC)のMwに相当した。
【0074】
また、Fabフラグメントを発現させるために(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκベクターと(iii)ヒト化c-KIT(12A8)Fab Hベクターを混合してトランスフェクションして得られたCHO-K1細胞の培養上清を、HRP標識抗ヒトFd抗体(サザンバイオテック社)とHRP標識抗ヒトKappa抗体により確認した。
その結果、図15に示すように、H鎖を認識する抗FdおよびL鎖を認識する抗Kappa抗体ともに、非還元状態でFabフラグメントのMwに相当するバンドが確認できた。当然ながらwhole IgG相当の高分子量のバンドは両HRP標識抗体で確認されなかった。また、還元処理した場合には、HRP標識抗Fd抗体でヒト化c-KIT(12A8)Fab HのMwに相当するバンドが確認でき、HRP標識抗Kappa抗体ではヒト化c-KIT(12A8)Igκの軽鎖(LC)のMwに相当するバンドが確認できた(図15)。
尚、図15のレーン3は(i)ヒト化c-KIT(12A8)IgG1ベクターと(ii)ヒト化c-KIT(12A8)Igκベクターで作製したwhole IgGの抗体であり、HRP標識抗Fd抗体、HRP標識抗Kappa抗体では還元、非還元状態のいずれにもFabのMwに相当する分子は確認できなかった
以上より、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体およびヒト化抗c-KIT(12A8)抗体のFabフラグメント(以下、ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体とも称する)の作製が確認された。
【0075】
(4)EIAによる確認
抗c-KIT(12A8)抗体の抗原認識部位はヒトc-KITタンパク質の細胞外領域なので、EIA用抗原としてc-KIT細胞外領域とマウス抗体のFc領域の融合タンパク質(c-KIT-Fc)を用いた。陰性コントロールとしてヒトFLT4タンパク質の細胞外領域とマウス抗体Fcを融合した(FLT4-Fc)を利用した。
それぞれを96ウェルプレートに固相後、BSA溶液でブロッキングして洗浄し、十分乾燥させてから使用時まで冷蔵保存した。ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体産生クローン培養上清を2倍から64倍まで倍々希釈し、抗原固相プレートおよび陰性コントロールプレートに添加して一次反応を行った。同様にヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体も同様に行った。一次反応は室温で一時間行い、その後リン酸緩衝液(PBS)で各ウェルを洗浄した。二次抗体としてHRP標識抗ヒトKappa鎖抗体を加え、室温で30分反応した。その後PBSで各ウェルを洗浄し、基質OPD(シグマ・アルドリッチ社)を添加して呈色後、1Nの硫酸を加え反応を停止して490nmの吸光度を測定した。
その結果、図16に示すように、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体、ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体とも抗原c-KIT-FCに反応し、陰性コントロールFLT4-Fcには反応しなかった。また、MOCK(空ベクター)をCHO-K1に発現して用いた陰性コントロールでも反応は認めなかった。
以上のことから、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体およびヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体は抗原特異性を有していることが確認できた。それぞれの培養上清は、in-vitro、in-vivoの試験に使用するため、ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体はプロティンAカラムで、ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体はKan Cap G(KANEKA社)でそれぞれ精製した。
【0076】
(実施例6)IR700-ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)のフローサイトメトリーによる反応性検討(in vitro)
IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)とGIST-T1細胞株を用いてフローサイトメトリーを行い、ヒト化抗体の反応性を確認した。
【0077】
(1)GIST細胞の調整
GIST-T1細胞をトリプシンにて回収し(on ice)、細胞を1×10ずつ1.5mLチューブに分注した。PBS-BSA-Azide 1mLで3回洗浄した。4℃に冷やした4%パラホルムアルデヒド1mLを添加し、on iceで穏やかにピペッティングにて混和した。室温に戻し15分間静置した(以降は室温にて作業した)。PBS-BSA-Azide 1mLで3回洗浄した。
【0078】
(2)抗体の反応
IR700で各種抗体を標識し、得られた以下の抗体を用いた。なお、図18中、IR700標識マウス抗c-KIT(12A8)抗体を12A8(whole IgG)とも称し、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体をヒト化(whole IgG)とも称し、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体をヒト化(Fab)とも称する。
【0079】
【表3】
【0080】
PBS-BSA-Azideで調整した抗体溶液100μLをGIST-T1細胞のペレットに添加し、混和した。それぞれIR700標識マウス抗c-KIT(12A8)抗体10μg、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体10μg、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体10μgを含むように調整した。アルミホイルで暗所にし、室温(20~25℃)で60分間反応させた(以降はなるべく暗所にて作業した)。PBS-BSA-Azideを1mL添加することによる洗浄を3回行った。PBS-BSA-Azideを500μL添加して混和し、フィルター(ナイロンメッシュ;アズワン,42μm)を通した。FACS(CytoFLEX(Beckman coulter))により、638nmで励起させ、712/25BPで測定した。その結果を、図17に示す。なお、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体は、10μg添加したが、添加するIR700量を他の抗体と揃えるためには、6.67μgを添加する必要があった。6.67μgを添加した場合、添加したIR700量が約2/3倍になるため、MFIも約2/3倍になると考えられる。
IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体のMFIは、IR700標識マウス抗c-KIT(12A8)抗体を用いたときと同様の値であった。IR700標識マウス抗c-KIT(12A8)抗体のF/P比が4.4と高いことを考えると、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体のc-KITとの反応性が良いことが示された。IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体に関しても、当モル(6.67μg)を投与すれば、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体と同程度のMFIになると考えられるので、反応性が良いことが示唆される。以上の結果をふまえ、小動物を用いたin vivoでの実験を行った。
【0081】
(実施例7)IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)を用いたマウスにおける異種移植腫瘍の蛍光イメージング
【0082】
(1)材料
使用したIR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)抗体(whole IgGおよびFab)は、実施例6で使用した抗体と同じである。
【0083】
(2)方法
ヌードマウス9匹(日本クレア,BALB/cAJc1-nu/nu,5週齢,メス)にcyclophosphamide(0.2mg/g体重)を投与して免疫抑制処理を行った。2日後、マウス9匹のそれぞれに1×10cellsずつ、100μL(Cell:Matrigel=50:50)の体積となるよう調製したGIST-T1を移植した。具体的には、Matrigelをon iceにて解凍し、細胞を剥がして細胞数をカウントし、GIST-T1細胞:1×10cells/50μLとなるようPBSに懸濁した。On iceにて、細胞液:Matrigel=1:1の割合で、細胞をMatrigelに懸濁して右大腿部に皮下移植した。
腫瘍が8mmになったときに、尾静脈から各種抗体を投与し、その後IVIS(λex:675、λem:720)で投与直後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、9時間後、12時間後、24時間後に蛍光観察を行った(各種抗体:n=3)。
【0084】
その結果、図18~19に示すように、In vivoでマウスモデルにIR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を投与した後の蛍光イメージングでは、腫瘍領域(ROI)における蛍光強度は3~4時間後にピークに達し、以後漸減した。一方、腫瘍細胞を投与していない反対側(左大腿部)における対照ROIの蛍光強度は1~6時間後にピークとなり、以後漸減した。また、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)IgG1抗体を投与した後の蛍光イメージングでは、投与後1~4時間では蛍光はほとんど確認できず、確認できたとしても蛍光強度は弱いものであった。
また、図20に示すように、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を投与した後の腫瘍領域(ROI)におけるS/N比は、3~4時間後にピークに達し、以後漸減した。
以上の結果より、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体は、短時間で腫瘍に集積させることができるので、GISTの短時間での診断に適していることが示された。続いて小動物を用いた治療実験を行った。
【0085】
(実施例8)IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を用いたマウスにおける異種移植腫瘍の光免疫治療(in vivo)
【0086】
(1)材料と方法
実施例7で用いたマウスと同様に免疫抑制処理およびGIST-T1移植を行ったマウスのうち、腫瘍サイズが近似したマウス4匹を選択しイソフルランで鎮静した。IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を80μg投与し(n=2)、それぞれ約3時間後に腫瘍に対してレーザーを1時間(735J)照射した。その後腫瘍を治療しないコントロール群(生食投与群)とともに腫瘍サイズを3週間観察した。治療スケジュールを図21に示す。Alexa Fluor 647標識抗c-KIT抗体を尾静脈投与し、48時間後にIVISを用いて観察した(n=2)。
その結果、図22に示すように、IR700標識ヒト化抗c-KIT(12A8)Fab抗体を投与してから1~3時間の時間経過に伴い、蛍光強度が増加した。そして、図23に示すように、当該抗体を投与してから3時間後に685nmのレーザーを照射した結果、腫瘍が消失することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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