(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】吸湿材
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B01D53/28
(21)【出願番号】P 2019538929
(86)(22)【出願日】2018-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2018001652
(87)【国際公開番号】W WO2019043977
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2017168509
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】崎川 伸基
(72)【発明者】
【氏名】宮田 隆志
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】松井 裕典
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-30814(JP,A)
【文献】国際公開第2012/050084(WO,A1)
【文献】特開2000-5553(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073614(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0157989(US,A1)
【文献】国際公開第2016/068129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/14-53/18
B91D53/26-53/28
B01J20/00-20/34
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、
前記吸湿材は、潮解性無機塩の潮解液の漏出を防ぐ吸湿材であり、
前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、
前記吸湿性高分子材料に、
前記潮解性無機塩を構成する1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合しており、
前記リガンドは、包接化合物を形成するホスト分子、又は、キレート剤であり、
前記ホスト分子は、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーン、ポルフィリン、フタロシアニン、サレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であり、
前記キレート剤は、ポリアルキレングリコール、ビピリジン、フェナントロリン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であり、
前記1価の金属イオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、またはCs
+であり、
前記2価の金属イオンは、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、またはBa
2+であり、
前記3価の金属イオンは、Al
3+、Y
3+、In
3+、Sc
3+、またはランタノイドイオン群であり、前記リガンドは前記金属イオンを捕捉
することを特徴とする、吸湿材。
【請求項2】
前記吸湿性高分子材料は、下記(a)~(e)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿材。
(a) 親水性高分子
(b) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との混合物
(c) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との共重合体
(d) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との相互浸入高分子網目構造体
(e) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子とのセミ相互浸入高分子網目構造体
【請求項3】
前記吸湿性高分子材料に含まれる高分子の総構成単位に対する、前記吸湿性高分子材料に含まれる前記リガンドの割合は、10モル%~80モル%であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿材。
【請求項4】
前記潮解性無機塩を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の吸湿材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸湿性材料として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等の潮解性無機塩が使用されている。潮解性無機塩は吸湿性に優れるが、吸湿後液状化しやすく、液状物が漏出して周囲を汚損する等の問題があった。かかる問題を解決する吸湿材として、潮解性無機塩とゲル化剤としての非イオン性セルロース誘導体とを含む乾燥材(特許文献1参照)、潮解性無機塩類と親水性ポリマーとセルロースパウダーよりなる除湿組成物(特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報「特開2010-194497号公報」
【文献】日本国公開特許公報「特開2000-5553号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、潮解性無機塩を含む場合に潮解液の漏出をある程度防ぐことはできるが、吸湿性の点で未だ十分ではない。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、潮解性無機塩を含む場合に潮解液の漏出を防ぐとともに、吸湿性により優れた吸湿材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る吸湿材は、前記課題を解決するために、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿材は、潮解性無機塩の潮解液の漏出を防ぐ吸湿材であり、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、前記潮解性無機塩を構成する1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合しており、前記リガンドは、包接化合物を形成するホスト分子、又は、キレート剤であり、前記ホスト分子は、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーン、ポルフィリン、フタロシアニン、サレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であり、前記キレート剤は、ポリアルキレングリコール、ビピリジン、フェナントロリン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であり、前記1価の金属イオンは、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+であり、前記2価の金属イオンは、Mg2+、Ca2+、Sr2+、またはBa2+であり、前記3価の金属イオンは、Al3+、Y3+、In3+、Sc3+、またはランタノイドイオン群であり、前記リガンドは前記金属イオンを捕捉することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態に係る吸湿材は、以上のように、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している構成を備えているので、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、当該塩に由来する潮解液の漏出を防ぐとともに、吸湿性により優れた吸湿材を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例において、吸湿材の吸湿挙動を評価した結果を示す図である。
【
図2】本発明の実施例において、吸湿材の吸湿挙動を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。また、「アクリル」または「メタアクリル」のいずれをも意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。
【0010】
〔実施の形態1:吸湿材〕
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している吸湿材は、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、当該塩に由来する潮解液の漏出を防ぐとともに、吸湿性により優れた吸湿材を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一実施形態に係る吸湿材は、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している構成を備えている。
【0012】
本発明の一実施形態に係る吸湿材は、吸湿性高分子材料を含有し、当該吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している。前記リガンドは、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するため、1価、2価、または3価の金属イオンを捕捉することができる。それゆえ、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。潮解性無機塩とゲル化剤としてのポリマーを含む従来の吸湿材は、潮解性無機塩とゲル化剤としてのポリマーを混合したものであった。かかる従来の吸湿材と比べて、本発明の一実施形態に係る吸湿材は、より高い吸湿性を有する。その理由としては、前記吸湿性高分子材料に、前記リガンドを均一に分散できることにより、前記金属イオンの塩をより均一に分散することができ、そのため、より効率的な吸湿が可能となるためであると考えられる。
【0013】
本発明において、「リガンドが結合している」との記載における「結合」とは、これに限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましく、共有結合を介して結合されていることがより好ましい。これにより、リガンドが、吸湿性高分子材料内に安定して固定される。より具体的には、リガンドに、反応性官能基を導入し、かかる反応性官能基を、吸湿性高分子材料と反応させることにより、リガンドを好適に吸湿性高分子材料に結合させることができる。なお、吸湿性高分子材料に結合しているとは、吸湿性高分子材料に含まれるいずれかの高分子に結合していればよい。
【0014】
(I)1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンド
前記1価の金属イオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+等を挙げることができる。前記2価の金属イオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等を挙げることができる。前記3価の金属イオンとしては、例えば、Al3+、Y3+、In3+、Sc3+、ランタノイドイオン群等を挙げることができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記リガンドは、包接化合物を形成するホスト分子、キレート剤、又は、前記金属イオンとイオン結合する官能基を有する分子であることが好ましい。当該ホスト分子は金属イオンを包接することにより、当該キレート剤は金属イオンを配位させることにより、および当該金属イオンとイオン結合する官能基を有する分子は金属イオンとイオン結合することにより、前記金属イオンを捕捉することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーン、ポルフィリン、フタロシアニン、サレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることが好ましい。これらのホスト分子は、環構造を有し、環構造の内孔の大きさ、体積、および形状に応じて特定の前記金属イオンを認識し包接することができる。前記金属イオンを吸湿性高分子材料の中で包接することにより、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。
【0017】
前記クラウン化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、クラウンエーテル、ベンゾクラウンエーテル、ジベンゾクラウンエーテル、アザクラウンエーテル等を挙げることができる。
【0018】
前記クラウンエーテルとしても、特に限定されるものではないが、例えば、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6等を挙げることができる。15-クラウン-5が前記吸湿性高分子材料に結合している吸湿剤を得るためには、例えば、吸湿性高分子材料と反応する反応性官能基を有する15-クラウン-5を用いることができる。吸湿性高分子材料と反応する反応性官能基を有する15-クラウン-5としては、例えば、2-ヒドロキシメチル-15-クラウン-5、2-アミノメチル-15-クラウン-5、1-アザ-15-クラウン-5等を挙げることができる。また、18-クラウン-6が前記吸湿性高分子材料に結合している吸湿剤を得るためには、例えば、吸湿性高分子材料と反応する反応性官能基を有する18-クラウン-6を用いることができる。吸湿性高分子材料と反応する反応性官能基を有する18-クラウン-6としては、例えば、2-ヒドロキシメチル-18-クラウン-6、2-アミノメチル-18-クラウン-6、(+)-(18-クラウン-6)-2,11,12-テトラカルボン酸、1-アザ-18-クラウン-6等を挙げることができる。
【0019】
前記ベンゾクラウンエーテルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-21-クラウン-7、ベンゾ-24-クラウン-8等を挙げることができる。
【0020】
前記ジベンゾクラウンエーテルとしては、例えば、ジベンゾ-18-クラウン-6等を挙げることができる。
【0021】
前記アザクラウンエーテルとしては、例えば、アザ-12-クラウン-4、アザ-15-クラウン-5、アザ-18-クラウン-6等を挙げることができる。アザ-15-クラウン-5としては、例えば、前記吸湿性高分子材料に結合させることができる、1-アザ-15-クラウン-5等を挙げることができる。アザ-18-クラウン-6としては、例えば、前記吸湿性高分子材料に結合させることができる、1-アザ-18-クラウン-6等を挙げることができる。
【0022】
前記クラウン化合物としては、捕捉する金属イオンの大きさによって適宜選択して用いることが好ましい。具体的には、例えば、LiイオンおよびCaイオンを包接する場合、前記クラウンエーテルは、15-クラウン-5またはアザ-15-クラウン-5であることが好ましい。また、KイオンおよびNaイオンを包接する場合、前記クラウンエーテルは、18-クラウン-6またはアザ-18-クラウン-6であることが好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記キレート剤は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの共重合体等のポリアルキレングリコール、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ならびにそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記官能基を有する分子は、カルボン酸、リン酸、スルホン酸、およびアミン類からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることが好ましい。かかる分子としては、例えば、ポリ(メタ)クリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルアミン等を挙げることができる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る吸湿材は、1価、2価、または3価の金属イオンの塩をさらに含むことが好ましい。前記塩としては、特に限定されないが、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム等を挙げることができる。中でも、前記塩は、潮解性の塩であることがより好ましい。これらの塩は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。吸湿材が前記金属イオンの塩をさらに含むことにより、当該吸湿材の吸湿量および吸湿速度を向上することができる。
【0026】
(II)吸湿性高分子材料
本発明の一実施形態において、吸湿性高分子材料とは、親水性高分子を含有していればよい。前記吸湿性高分子材料としては、例えば、親水性高分子、親水性高分子を含有する混合物、親水性高分子を含有する共重合体、親水性高分子を含有する相互浸入高分子網目構造体、親水性高分子を含有するセミ相互浸入高分子網目構造体等を挙げることができる。吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有していることにより、空気中の水分を吸湿することができる。本発明の一実施形態に係る吸湿材は、前記吸湿性高分子材料を含有している。即ち、本発明の一実施形態に係る吸湿材は、前記吸湿性高分子材料からなるものであってもよいし、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記吸湿性高分子材料は、下記(a)~(e)のいずれかであることがより好ましい。
(a) 親水性高分子
(b) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との混合物
(c) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との共重合体
(d) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との相互浸入高分子網目構造体
(e) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子とのセミ相互浸入高分子網目構造体
(親水性高分子)
前記親水性高分子としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の親水性基を側鎖または主鎖に有する高分子を挙げることができる。前記親水性高分子のより具体的な一例としては、例えば、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類;キトサン;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ-N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ-アルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリロニトリルおよび前記ポリマーの共重合体等を挙げることができる。また、親水性高分子は、これらの架橋体であることがより好ましい。
【0028】
親水性高分子が架橋体である場合、かかる架橋体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等のモノマーを、架橋剤の存在下で重合して得られる高分子を挙げることができる。
【0029】
前記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;カルシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子)
刺激応答性高分子とは、外部刺激に応答して、その性質を可逆的に変化させる高分子をいう。
【0031】
前記外部刺激としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱、光、電場、pH等を挙げることができる。
【0032】
また、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化するとは、外部刺激に応答して、その外部刺激に晒された高分子が、親水性と疎水性との間で可逆的に変化することをいう。
【0033】
中でも、熱に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子、すなわち、温度応答性高分子は、簡易な加熱装置を用いて温度を変化させることにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出を可逆的に行える。このことから、温度応答性高分子は、調湿機に特に好適に用いることができる。
【0034】
かかる温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度(LCST(Lower Critical Solution Temperature)、以下、本明細書において「LCST」と称することがある。)を持つ高分子であれば特に限定されるものではない。LCSTを持つ高分子は低温では親水性であるが、LCST以上になると疎水性となる。なお、ここで、LCSTとは、高分子を水に溶解したときに、低温では親水性で水に溶解するが、ある温度以上になると疎水性となって不溶化する場合の、その境となる温度をいう。
【0035】
前記温度応答性高分子としては、より具体的には、例えば、ポリ(N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-メチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-エチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルブチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-イソブチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド)等のポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド);ポリ(N-ビニルイソプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルブチルアミド)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)、ポリ(N-ビニル-t-ブチルアミド)等のポリ(N-ビニルアルキルアミド);ポリ(N-ビニルピロリドン);ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-ノルマルプロピル-2-オキサゾリン)等のポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン);ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル等のポリビニルアルキルエーテル;ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体;ポリ(オキシエチレンビニルエーテル);メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体等、および前記のポリマーの共重合体を挙げることができる。セルロース誘導体を前記温度応答性高分子として用いる場合には、重合を行う必要がないため吸湿材の製造が容易である。また、セルロース誘導体は、安全で且つ生分解性を有するため、環境負荷が小さいという利点がある。セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合には、ヒドロキシプロピルセルロースの好ましい平均分子量は2,000~2000,000、同様に好ましい置換度は1~3である。温度応答性高分子は、これらの高分子の架橋体であることがより好ましい。
【0036】
なお、本発明の一実施形態において、刺激応答性高分子と親水性高分子とが相互浸入高分子網目構造を形成する場合、刺激応答性高分子および親水性高分子はいずれも架橋体である。また、本発明の一実施形態において、刺激応答性高分子と親水性高分子とがセミ相互浸入高分子網目構造を形成する場合、刺激応答性高分子および親水性高分子の何れか一方が架橋体である。
【0037】
温度応答性高分子が架橋体である場合、かかる架橋体としては、例えば、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ノルマルブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルイソプロピルアミド、N-ビニルノルマルプロピルアミド、N-ビニルノルマルブチルアミド、N-ビニルイソブチルアミド、N-ビニル-t-ブチルアミド等のN-ビニルアルキルアミド;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド;2-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロピル-2-オキサゾリン、2-ノルマルプロピル-2-オキサゾリン等の2-アルキル-2-オキサゾリン等のモノマーまたはこれらのモノマーの2種類以上を、架橋剤の存在下で重合して得られる高分子を挙げることができる。
【0038】
前記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;カルシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
或いは、温度応答性高分子が架橋体である場合、かかる架橋体は、架橋されていない温度応答性高分子、例えば前記で例示した温度応答性高分子を、前記架橋剤と反応させて網目構造を形成させることによって得られた架橋体であってもよい。
【0040】
光に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、アゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体等の、光により親水性または極性が変化する光応答性高分子、それらと温度応答性高分子およびpH応答性高分子の少なくともいずれかとの共重合体、前記光応答性高分子の架橋体、または、前記共重合体の架橋体を挙げることができる。
【0041】
また、電場に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の解離基を有する高分子、カルボキシル基含有高分子とアミノ基含有高分子との複合体のような静電相互作用や水素結合などによって複合体を形成した高分子、または、これらの架橋体を挙げることができる。
【0042】
また、pHに応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の解離基を有する高分子、カルボキシル基含有高分子とアミノ基含有高分子との複合体のような静電相互作用や水素結合などによって複合体を形成した高分子、または、これらの架橋体を挙げることができる。
【0043】
前記刺激応答性高分子の分子量も特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により決定された数平均分子量が3000以上であることが好ましい。
【0044】
((a):親水性高分子)
前記吸湿性高分子材料としては、前述した親水性高分子を単一で、または前述した親水性高分子の2種類以上を混合して用いることができる。かかる場合、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドは、親水性高分子に結合している。
【0045】
前記親水性高分子は、自体親水性であり、空気中の水分を吸湿することができることに加え、前記リガンドが結合していることにより、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。さらに、前記リガンドを含まない親水性高分子を用いて前記金属イオンの塩を単に混合する場合と比較しても、リガンドを均一に分散させることにより前記金属イオンの塩を均一に分散させることができるので、吸湿性を高めることができる。
【0046】
前記親水性高分子に前記リガンドが結合していることによる前記効果は、親水性高分子を含むいずれの吸湿性高分子材料においても得られる効果である。従って、以下に説明する(b)~(e)の場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0047】
((b):外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との混合物)
前記吸湿性高分子材料としては、前述した外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子又は2種類以上の刺激応答性高分子の混合物と、前述した(a)との混合物を用いることができる。かかる場合、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドは、前記刺激応答性高分子および前記親水性高分子の少なくともいずれかに結合している。
【0048】
前記混合物を用いることにより、前記吸湿性高分子材料は、前記刺激応答性高分子の、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する性質により、例えば簡易な加熱装置を用いて温度を変化させることにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出を可逆的に行うことができる。また、前記吸湿性高分子材料に前記リガンドが結合していることにより、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。さらに、前記リガンドを含まない吸湿性高分子材料を用いて前記金属イオンの塩を単に混合する場合と比較しても、リガンドを均一に分散させることにより前記金属イオンの塩を均一に分散させることができるので、吸湿性を高めることができる。
【0049】
加えて、前記リガンドを含まない吸湿性高分子材料を用いて前記金属イオンの塩を単に混合する場合は、刺激応答性高分子を含む吸湿性高分子材料が吸収した水分を放出するときに、放出される水分とともに、前記金属イオンの塩が漏出してしまうという問題があった。前記金属イオンの塩が漏出してしまうことにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出を繰り返す間に、吸湿材の吸湿性が低下してしまう。これに対し、前記吸湿性高分子材料に前記リガンドが結合していることにより、前記リガンドが前記金属イオンを保持するので、放出される水とともに、前記金属イオンの塩が漏出することを防ぐことができる。なお、吸湿性高分子材料内では、金属イオンが電離していながらも、ドナー電位障壁が保たれているため、金属イオンの塩の漏出を効果的に抑制することができる。
【0050】
前記吸湿性高分子材料が刺激応答性高分子を含んでいることによる前記効果は、刺激応答性高分子を含むいずれの吸湿性高分子材料においても得られる効果である。従って、以下に説明する(c)~(e)の場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0051】
前記吸湿性高分子材料に含まれる、前記刺激応答性高分子と前記親水性高分子との割合は特に限定されるものではないが、架橋剤の重量を除いた重量の割合で、前記刺激応答性高分子に対して、前記親水性高分子は、より好ましくは5重量%以上含まれ、さらに好ましくは20重量%以上含まれ、また、より好ましくは1000重量%以下含まれ、さらに好ましくは700重量%以下含まれる。
【0052】
((c):外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との共重合体)
前記吸湿性高分子材料としては、前述した外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子又は2種類以上の刺激応答性高分子の混合物と、前述した(a)との共重合体を用いることができる。かかる場合、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドは、前記刺激応答性高分子および前記親水性高分子の少なくともいずれかに結合している。なお、ここで、共重合体とは、刺激応答性高分子を構成する構成単位と、親水性高分子を構成する構成単位とを含む重合体であれば特に限定されるものではない。
【0053】
前記吸湿性高分子材料に含まれる、総構成単位に対する、前記刺激応答性高分子を構成する構成単位と前記親水性高分子を構成する構成単位との割合は特に限定されるものではないが、前記刺激応答性高分子を構成する構成単位に対して、前記親水性高分子を構成する構成単位は、より好ましくは30モル%以上含まれ、さらに好ましくは40モル%以上含まれ、また、より好ましくは80モル%以下含まれ、さらに好ましくは50モル%以下含まれる。
【0054】
((d):外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との相互浸入高分子網目構造体)
前記吸湿性高分子材料としては、前述した刺激応答性高分子又は2種類以上の刺激応答性高分子の混合物と、前述した(a)との相互浸入高分子網目構造体を用いることができる。ここで、相互浸入高分子網目構造とは、異なる種類の高分子が、いずれも架橋高分子であり、それぞれの高分子の架橋網目が化学的に結合することなく独立に存在する状態で相互に絡み合った構造をいう。即ち、前記相互浸入高分子網目構造体とは、前記親水性高分子と、前記刺激応答性高分子とが、いずれも架橋高分子であり、前記親水性高分子の架橋網目と、前記刺激応答性高分子の架橋網目とが、化学的に結合することなく独立に存在する状態で相互に絡み合った構造体をいう。前記親水性高分子または前記刺激応答性高分子が混合物である場合は、混合物中の少なくとも1つの親水性高分子と刺激応答性高分子とが、相互浸入高分子網目構造体を形成していればよい。前記相互浸入高分子網目構造体を用いることにより、前記親水性高分子と前記刺激応答性高分子との混合物又は共重合体を用いる場合よりも、外部刺激に応答して水との親和性がより明確に可逆的に変化する。それゆえ、外部刺激を与えることにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出をより効率的に行えることから、調湿機に特に好適に用いることができる。
【0055】
前記吸湿性高分子材料に含まれる、前記刺激応答性高分子と前記親水性高分子との割合は特に限定されるものではないが、架橋剤の重量を除いた重量の割合で、前記刺激応答性高分子に対して、前記親水性高分子は、より好ましくは5重量%以上含まれ、さらに好ましくは20重量%以上含まれ、また、より好ましくは1000重量%以下含まれ、さらに好ましくは700重量%以下含まれる。
【0056】
((e):外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子とのセミ相互浸入高分子網目構造体)
前記吸湿性高分子材料としては、前述した刺激応答性高分子又は2種類以上の刺激応答性高分子の混合物と、前述した(a)とのセミ相互浸入高分子網目構造体を用いることができる。ここで、セミ相互浸入高分子網目構造とは、異なる種類の高分子の一方が架橋高分子であり、他方が直鎖状高分子又は非架橋高分子であり、それぞれの高分子が化学的に結合することなく、独立に存在する状態で相互に絡み合った構造をいう。即ち、前述した刺激応答性高分子又は2種類以上の刺激応答性高分子の混合物と、前記親水性高分子とのセミ相互浸入高分子網目構造体とは、前記親水性高分子および刺激応答性高分子の何れかが架橋高分子であり、他方が非架橋高分子であり、前記刺激応答性高分子と、親水性高分子とが、化学的に結合することなく、独立に存在する状態で相互に絡み合った構造体をいう。前記親水性高分子または前記刺激応答性高分子が混合物である場合は、混合物中の少なくとも1つの親水性高分子と刺激応答性高分子とが、セミ相互浸入高分子網目構造体を形成していればよい。前記セミ相互浸入高分子網目構造体を用いることにより、前記親水性高分子と前記刺激応答性高分子との混合物又は共重合体を用いる場合よりも、外部刺激に応答して水との親和性がより明確に可逆的に変化する。それゆえ、外部刺激を与えることにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出をより効率的に行えることから、調湿機に特に好適に用いることができる。
【0057】
前記吸湿性高分子材料に含まれる、前記刺激応答性高分子と前記親水性高分子との割合は特に限定されるものではないが、架橋剤の重量を除いた重量の割合で、前記刺激応答性高分子に対して、前記親水性高分子は、より好ましくは5重量%以上含まれ、さらに好ましくは20重量%以上含まれ、また、より好ましくは1000重量%以下含まれ、さらに好ましくは700重量%以下含まれる。
【0058】
(III)吸湿材
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記吸湿性高分子材料に含まれる高分子の総構成単位に対する、前記吸湿性高分子材料に含まれる前記リガンドの割合は、10モル%~80モル%であることが好ましく、30モル%~80モル%であることがより好ましく、40モル%~70モル%であることがさらに好ましい。前記リガンドの割合が40モル%以上であれば、吸湿材に含まれる金属イオンの割合も高くなるため、吸湿性が向上するため好ましい。前記リガンドの割合が70モル%以下であれば、前記刺激応答性高分子を用いる場合に、吸収した水分の放出に影響を与えないため好ましい。なお、ここで、前記吸湿性高分子材料に含まれるとは、前記吸湿性高分子材料内に存在することを意味し、前記吸湿性高分子材料に結合しているかどうかを問わない。
【0059】
本発明の一実施形態に係る吸湿材では、前記リガンドの少なくとも一部が前記吸湿性高分子材料に結合している。前記吸湿性高分子材料に含まれる高分子の総構成単位に対する、前記吸湿性高分子材料に結合している前記リガンドの割合は、10モル%~80モル%であることがより好ましく、40モル%~70モル%であることがさらに好ましい。前記リガンドの割合が40モル%以上であれば、吸湿材に含まれる金属イオンの割合も高くなるため、吸湿性が向上するため好ましい。前記リガンドの割合が70モル%以下であれば、前記刺激応答性高分子を用いる場合に、吸収した水分の放出に影響を与えないため好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態に係る吸湿材の形状は特に限定されるものではなく、板状、シート状、フィルム状でもよいし、粒子状でもよい。粒子状の吸湿材の形状も特に限定されるものではないが、例えば、略球状、板状等の形状であり得る。また、本発明に係る吸湿材の大きさも特に限定されるものではなく、調湿機に用いる場合、調湿機の構成に応じて適宜選択すればよい。
【0061】
前記吸湿性高分子材料は、例えば、減圧(真空)乾燥、熱乾燥、自然乾燥、およびそれらの組み合わせ等により乾燥させた乾燥体であることが好ましく、減圧乾燥または熱乾燥により乾燥させた乾燥体であることがより好ましい。減圧乾燥または熱乾燥によって、吸湿性高分子材料は、重合に用いられる溶媒が昇華して外部に出る際に微細な孔を生じ、密な網目構造を有する吸湿性高分子材料の乾燥体を形成することができる。密な網目構造を有する吸湿性高分子材料は、空気と接触する面積が大きいため、空気中の水分を吸湿する量の割合が高くなる。また、密な網目構造を有する吸湿性高分子材料は、分子鎖同士の近接した絡み合いにより、金属イオンの塩の漏出を抑えることができる。さらに、密な網目構造を有する吸湿性高分子材料は、空気中の水分の吸湿の際であっても加熱等の刺激による放水の際であっても、リガンドと結合していない吸湿性高分子材料の官能基の存在により、吸湿性高分子材料内の電気的中和が保たれるため、金属イオンの塩が放水と共に放出された後は平衡状態を維持することができる。
【0062】
前記減圧乾燥により乾燥させる場合の減圧度は、10Pa~100Paであることが好ましく、20Pa~50Paであることがより好ましい。
【0063】
前記減圧乾燥は、吸湿性高分子材料を凍結させてから行う、凍結乾燥であることがさらに好ましい。前記吸湿性高分子材料を凍結後に減圧乾燥することによって、吸湿性高分子材料は、重合に用いられる溶媒が昇華して外部に出る際に微細な孔を生じ、さらに密な網目構造を有する吸湿性高分子材料の乾燥体を形成することができる。凍結温度は、-60℃~-20℃であることが好ましく、-60℃~-30℃であることがより好ましい。また、乾燥時間は試料の量にもよるが、20時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましい。乾燥時間の上限は、50時間程度であることが好ましい。
【0064】
なお、本発明の一実施形態において、吸湿性高分子材料の乾燥体は、吸湿性高分子材料から水分が完全に除去されている必要はなく、空気中の水分を吸収することができれば、水分を含んでいてもよい。したがって、前記吸湿性高分子材料の乾燥体の含水率は、当該乾燥体が空気中の水分を吸収することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、10重量%~30重量%であることが好ましく、20重量%~25重量%であることがより好ましい。なお、ここで含水率とは、吸湿性高分子材料の乾燥重量に対する水分の割合をいう。
【0065】
前記乾燥体に関する説明は、吸湿性高分子材料に関するが、吸湿材についても同様である。
【0066】
〔実施の形態2:吸湿材の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る吸湿材の製造方法は、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している吸湿材を製造する方法である。
【0067】
本発明の一実施形態における吸湿材の製造方法は、親水性高分子を含有する吸湿性高分子材料であって、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している吸湿性高分子材料を製造する吸湿性高分子材料製造工程と、前記吸湿性高分子材料製造工程で得られた吸湿性高分子材料を乾燥する乾燥工程とを少なくとも含んでいればよい。さらに、前記乾燥工程で乾燥した吸湿性高分子材料を粉砕する粉砕工程を含んでいてもよい。
【0068】
以下、本発明の一実施形態に係る吸湿材の製造方法を構成する各工程に関して説明する。但し、上述した吸湿材において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を省略する。
【0069】
(吸湿性高分子材料製造工程)
吸湿性高分子材料製造工程は、前記吸湿性高分子材料を製造することができる工程であれば特に限定されるものではないが、前記吸湿性高分子材料は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0070】
〔1〕前記親水性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記親水性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記リガンドを結合させたモノマーを重合する工程(ii)とを含む方法。
【0071】
〔2〕前記親水性高分子を構成するモノマーを重合して前記親水性高分子を合成するか、又は、市販の前記親水性高分子を準備する工程(i)と、前記親水性高分子と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記親水性高分子に結合させる工程(ii)とを含む方法。
【0072】
〔3〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記刺激応答性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記リガンドを結合させた前記モノマーを重合することにより、前記リガンドが結合している前記刺激応答性高分子を合成する工程(ii)と、前記工程(ii)で得られた刺激応答性高分子を、〔1〕又は〔2〕の方法によって得られた親水性高分子と混合する工程(iii)とを含む方法。
【0073】
〔4〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合して前記刺激応答性高分子を合成するか、市販の刺激応答性高分子を準備する工程(i)と、前記刺激応答性高分子と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記刺激応答性高分子に結合させることにより、前記リガンドが結合している前記刺激応答性高分子を得る工程(ii)と、前記工程(ii)で得られた刺激応答性高分子を、〔1〕又は〔2〕の方法によって得られた親水性高分子と混合する工程(iii)とを含む方法。
【0074】
〔5〕前記親水性高分子を構成するモノマーと前記刺激応答性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、親水性高分子を構成するモノマーおよび/または刺激応答性高分子を構成するモノマーにそれぞれ結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記親水性高分子を構成するモノマーと前記刺激応答性高分子を構成するモノマーとを共重合する工程(ii)とを含む方法。
【0075】
〔6〕前記親水性高分子を構成するモノマーと前記刺激応答性高分子を構成するモノマーとを共重合して共重合体を得る工程(i)と、前記工程(i)で得られた共重合体と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記共重合体に結合させる工程(ii)とを含む方法。
【0076】
〔7〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記刺激応答性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、前記刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目(a)を形成する工程(ii)と、
前記親水性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記親水性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(iii)と、架橋網目(a)の存在下で、前記工程(iii)で得られた、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、架橋網目(a)と、前記親水性高分子の架橋体の架橋網目(b)とからなる相互浸入高分子網目構造を形成する工程(iv)とを含む方法。
【0077】
〔8〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、前記刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目(a)を形成する工程(i)と、
架橋網目(a)の存在下で、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、架橋網目(a)と、前記親水性高分子の架橋体の架橋網目(b)とからなる相互浸入高分子網目構造を形成する工程(ii)と、前記工程(ii)で得られた、前記相互浸入高分子網目構造を形成した吸湿性高分子材料と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記吸湿性高分子材料に結合させる工程(iii)とを含む方法。
【0078】
〔9〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記刺激応答性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、前記刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目(a)を形成する工程(ii)と、
前記親水性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記親水性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(iii)と、架橋網目(a)の存在下で、前記工程(iii)で得られた、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合することにより、架橋網目(a)と、非架橋の前記親水性高分子とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する工程(iv)とを含む方法。
【0079】
〔10〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、前記刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目(a)を形成する工程(i)と、
架橋網目(a)の存在下で、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合することにより、架橋網目(a)と、非架橋の前記親水性高分子とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する工程(ii)と、前記工程(ii)で得られた、前記セミ相互浸入高分子網目構造を形成した吸湿性高分子材料と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記吸湿性高分子材料に結合させる工程(iii)とを含む方法。
【0080】
〔11〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させ、前記リガンドの少なくとも一部を前記刺激応答性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(i)と、前記工程(i)で得られた、前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合することにより、非架橋の前記刺激応答性高分子を製造する工程(ii)と、
前記親水性高分子を構成するモノマーと前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を、前記親水性高分子を構成するモノマーに結合させる工程(iii)と、非架橋の前記刺激応答性高分子の存在下で、前記工程(ii)で得られた、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、非架橋の前記刺激応答性高分子と、前記親水性高分子の架橋体の架橋網目(b)とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する工程(iv)とを含む方法。
【0081】
〔12〕前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合することにより、非架橋の前記刺激応答性高分子を製造する工程(i)と、
工程(i)で得られた非架橋の前記刺激応答性高分子の存在下で、前記親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、非架橋の前記刺激応答性高分子と、前記親水性高分子の架橋体の架橋網目(b)とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する工程(ii)と、前記工程(ii)で得られた、前記セミ相互浸入高分子網目構造を形成した吸湿性高分子材料と前記リガンドとを反応させて、前記リガンドの少なくとも一部を前記吸湿性高分子材料に結合させる工程(iii)とを含む方法。
【0082】
なお、前記〔3〕、〔4〕の方法では、前記リガンドが結合している親水性高分子と、前記リガンドが結合している刺激応答性高分子と、を混合しているが、親水性高分子と刺激応答性高分子とのいずれか一方として、前記リガンドが結合していないものを用いてもよい。
【0083】
また、前記〔7〕の方法では、前記リガンドが結合している親水性高分子と、前記リガンドが結合している刺激応答性高分子との相互浸入高分子網目構造を形成しているが、親水性高分子と刺激応答性高分子とのいずれか一方として、前記リガンドが結合していないものを用いてもよい。
【0084】
前記〔1〕~〔12〕の方法において、モノマーを重合するための重合方法としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、開環重合等を好適に用いることができる。また、重合に用いられる溶媒としても、モノマーに応じて適宜選択すればよいが、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。
【0085】
重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。あるいは、光、放射線等を開始剤として用いてもよい。
【0086】
また、重合温度は特に限定されるものではないが、通常5℃~80℃である。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常4時間~48時間である。
【0087】
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、前記刺激応答性高分子、前記親水性高分子またはこれらの架橋体が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、前記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。
【0088】
前記〔7〕~〔12〕の方法において、モノマーを重合および架橋することにより、前記刺激応答性高分子または前記親水性高分子の架橋体の架橋網目を形成する方法とは、モノマーを架橋剤の存在下で重合する方法であってもよいし、モノマーを重合して高分子とした後に架橋剤により架橋する方法であってもよい。
【0089】
前記〔7〕〔9〕および〔11〕の工程(iv)では、工程(ii)で形成された高分子またはその架橋体との間に、架橋が形成されないような重合条件または架橋条件を適宜選択すればよい。また、前記〔8〕〔10〕および〔12〕の工程(iii)では、工程(i)で形成された高分子またはその架橋体との間に、架橋が形成されないような重合条件または架橋条件を適宜選択すればよい。
【0090】
前記〔1〕~〔12〕の方法において、前記刺激応答性高分子を構成するモノマー、前記親水性高分子を構成するモノマー、および架橋剤については、前記(I)で説明したとおりである。
【0091】
また、前記〔7〕~〔12〕の方法において、前記刺激応答性高分子または前記親水性高分子が、最初から、例えばセルロース誘導体、多糖類等の高分子である場合は、「前記刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋する」は、「前記刺激応答性高分子を架橋する」に、「前記親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋する」は、「前記親水性高分子を架橋する」に、読み替えるものとする。
【0092】
また、前記〔7〕~〔12〕の方法においては、前記刺激応答性高分子またはその架橋体を製造した後に、得られた前記刺激応答性高分子またはその架橋体の存在下で、前記親水性高分子またはその架橋体を製造しているが、前記親水性高分子またはその架橋体を製造した後に、得られた前記親水性高分子またはその架橋体の存在下で、前記刺激応答性高分子またはその架橋体を製造してもよい。
【0093】
また、前記〔7〕~〔12〕の方法においては、相互浸入高分子網目構造またはセミ相互浸入高分子網目構造は、前記刺激応答性高分子またはその架橋体を製造した後に、得られた前記刺激応答性高分子またはその架橋体の存在下で、前記親水性高分子またはその架橋体を製造する2段階の工程で製造しているが、前記刺激応答性高分子またはその架橋体と、前記親水性高分子またはその架橋体を、前記刺激応答性高分子またはその架橋体と、前記親水性高分子またはその架橋体との間に架橋が形成されないような重合条件または架橋条件を選択すれば、1段階で同時に行うこともできる。例えば、前記親水性高分子またはその架橋体の製造に用いる重合方法と架橋剤と、前記親水性高分子またはその架橋体の製造に用いる重合方法と架橋剤とが、異なるような組合せを用いれば、前記吸湿性高分子材料を1段階の工程により製造することができる。
【0094】
(乾燥工程)
乾燥工程では、前記吸湿性高分子材料製造工程で得られた吸湿性高分子材料を乾燥して、吸湿性高分子材料の乾燥体を得る。
【0095】
吸湿性高分子材料を乾燥する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜用いることができる。吸湿性高分子材料を乾燥する方法としては、例えば、加熱による乾燥、減圧下での乾燥、凍結乾燥、溶媒置換法等を挙げることができる。
【0096】
(粉砕工程)
乾燥工程によって得られた、前記吸湿性高分子材料の乾燥体は、必要に応じて、粉砕工程において、粉砕する。
【0097】
粉砕の方法としても、特に限定されるものではないが、例えば、ローター等の機械式粉砕機、ボールミル、気流式粉砕機等を用いて前記吸湿性高分子材料の乾燥体を粉砕し、必要に応じてさらに分級して粒子状の吸湿材とすることができる。
【0098】
また、粒子状の吸湿材は、吸湿性高分子材料製造工程において、乳化重合を用いることにより、吸湿性高分子材料微粒子を合成することによっても製造することができる。
【0099】
〔実施の形態3:調湿機〕
本発明に係る吸湿材、特に前記親水性高分子および前記刺激応答性高分子を含む吸湿材は、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出を可逆的に行えることから、調湿機に特に好適に用いることができ、該吸湿材を用いた調湿機によれば、過冷却や大きな熱量を用いずに効率よく調湿を行うことができる。それゆえ、本発明の一実施形態に係る吸湿材を利用した調湿機も本発明に含まれる。以下、本発明の一実施形態に係る調湿機について説明する。本発明の一実施形態に係る調湿機は、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子と刺激応答性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している吸湿材と、前記刺激応答性高分子の水との親和性を低下させるための外部刺激を付与する刺激付与部とを備えている。ここで、前記吸湿材は、1価、2価、または3価の金属イオンの塩をさらに含んでいることが好ましい。前記吸湿材については、〔実施の形態1〕において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を省略する。
【0100】
本発明の一実施形態に係る調湿機は、吸気口と、排気口とを有する調湿機本体が備えられている。調湿機本体の内部には、本発明の吸湿材を担持した複数の調湿ユニットと、調湿ユニットが空気中の水分を吸収する領域である調湿エリアと、空気中の水分を吸収した調湿ユニットが吸収した水分を水として放出する領域である脱水エリアと、放出された水を貯水する排水タンクと、吸湿される空気を吸気口から取り込み、吸湿された空気を排気口から排出するための送風ファンとが備えられている。なお、本実施の形態では、調湿材としては、吸湿性高分子材料を含有する調湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子と外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子とを含有し、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが前記吸湿性高分子材料に結合している調湿材を用いている。
【0101】
複数の調湿ユニットは、調湿エリアと、脱水エリアとの間を移動可能となっている。前記脱水エリアには、前記刺激応答性高分子の水との親和性を低下させるための外部刺激を付与する刺激付与部が備えられている。前記刺激応答性高分子が例えば温度応答性高分子である場合、刺激付与部は、例えば加熱ヒーターである。
【0102】
調湿機に吸気された空気(湿り空気)は、調湿エリアを通過するときに、調湿ユニットの吸湿材と接触する。室温において親水性である吸湿材は、空気(湿り空気)中の水分を吸収し、これによって、調湿エリアを通過するときに湿り空気は吸湿され、吸湿された空気(乾燥空気)が排気口から排気される。
【0103】
空気(湿り空気)中の水分を吸収した調湿ユニットは、調湿エリアから脱水エリア内へと移動する。脱水エリア内で、脱水エリアへと移動した調湿ユニットは、刺激付与部により吸湿材に外部刺激が与えられることにより、吸湿材は疎水性となる。その結果、吸湿材が吸収した水分は、水として吸湿材から放出される。そして、放出された水は排水タンクに排出される。
【0104】
このとき、本発明の一実施形態に係る調湿機では、前記吸湿材の吸湿性高分子材料に前記リガンドが結合していることにより、前記リガンドが前記金属イオンを保持するので、放出される水とともに、前記金属イオンの塩が漏出することを防ぐことができる。それゆえ、前記調湿ユニットが調湿エリアと脱水エリアとの間を繰り返し移動することによって、吸湿材による、空気中の水分の吸収と、吸収した水分の放出とが、繰り返される場合にも、吸湿材の吸湿性の低下を抑制することができる。
【0105】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0106】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る吸湿材は、吸湿性高分子材料を含有する吸湿材であって、前記吸湿性高分子材料は、親水性高分子を含有し、前記吸湿性高分子材料に、1価、2価、または3価の金属イオンに親和性を有するリガンドが結合している構成を備えている。
【0107】
上記の構成によれば、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、当該塩に由来する潮解液の漏出を防ぐとともに、吸湿性により優れた吸湿材を実現することができるという効果を奏する。
【0108】
本発明の態様2に係る吸湿材は、上記態様1において、前記リガンドが、包接化合物を形成するホスト分子、キレート剤、又は、前記金属イオンとイオン結合する官能基を有する分子である構成を備えている。
【0109】
上記の構成によれば、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。
【0110】
本発明の態様3に係る吸湿材は、上記態様2において、前記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーン、ポルフィリン、フタロシアニン、サレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子である構成を備えている。
【0111】
上記の構成によれば、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。
【0112】
本発明の態様4に係る吸湿材は、上記態様2において、前記キレート剤は、ポリアルキレングリコール、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子である構成を備えている。
【0113】
上記の構成によれば、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。
【0114】
本発明の態様5に係る吸湿材は、上記態様2において、前記官能基を有する分子は、カルボン酸、リン酸、スルホン酸、およびアミン類からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子である構成を備えている。
【0115】
上記の構成によれば、前記吸湿性高分子材料に高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。
【0116】
本発明の態様6に係る吸湿材は、上記態様1~5のいずれかにおいて、前記吸湿性高分子材料は、下記(a)~(e)のいずれかである構成を備えている。
(a) 親水性高分子
(b) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との混合物
(c) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との共重合体
(d) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子との相互浸入高分子網目構造体
(e) 外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と親水性高分子とのセミ相互浸入高分子網目構造体
上記の構成(a)によれば、前記親水性高分子は、自体親水性であり、空気中の水分を吸湿することができることに加え、前記リガンドが結合していることにより、高い吸湿性を有する、前記金属イオンの塩を捕捉することができ、前記吸湿性高分子材料の吸湿性を高めることができる。さらに、前記リガンドを含まない親水性高分子を用いて前記金属イオンの塩を単に混合する場合と比較しても、リガンドを均一に分散させることにより前記金属イオンの塩を均一に分散させることができるので、吸湿性を高めることができる。
【0117】
上記の構成(b)~(e)によれば、加えて、前記リガンドを含まない刺激応答性高分子を用いて前記金属イオンの塩を単に混合する場合は、刺激応答性高分子が吸収した水分を放出するときに、放出される水分とともに、前記金属イオンの塩が漏出してしまうという問題があった。前記金属イオンの塩が漏出してしまうことにより、空気中の水分の吸収と吸収した水分の放出を繰り返す間に、吸湿材の吸湿性が低下してしまう。これに対し、前記刺激応答性高分子に前記リガンドが結合していることにより、前記リガンドが前記金属イオンを保持するので、放出される水とともに、前記金属イオンの塩が漏出することを防ぐことができる。
【0118】
本発明の態様7に係る吸湿材は、上記態様1~6のいずれかにおいて、前記吸湿性高分子材料に含まれる高分子の総構成単位に対する、前記吸湿性高分子材料に結合する前記リガンドの割合は、10モル%~80モル%である構成を備えている。
【0119】
上記の構成によれば、吸湿材の吸湿性が向上するため好ましく、また前記刺激応答性高分子を用いる場合に、吸収した水分の放出に影響を与えないため好ましい。
【0120】
本発明の態様8に係る吸湿材は、上記態様1~7のいずれかにおいて、1価、2価、または3価の金属イオンの塩をさらに含む構成を備えている。
【0121】
上記の構成によれば、吸湿材の吸湿性が向上するため好ましい。
【0122】
〔実施例1~3、比較例1〕
<実施例1:Alg-PEG(CaCl2/LiCl)/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体の合成>
アルギン酸(Alg)ナトリウム100mgと、Algに対して10wt%のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)とを超純水100mlに溶解した。得られた水溶液を70℃で11時間加熱した。加熱後の水溶液を、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)水溶液(HPC(和光純薬工業株式会社、ヒドロキシプロピルセルロース150~400cP))を超純水100mlに溶解してなる水溶液)と混合した。得られた混合液に、それぞれの濃度が0.5MのCaCl2/LiCl水溶液200mlを加えて24時間静置することにより、ポリエチレングリコール(PEG)が結合したアルギン酸と、HPCとのセミ相互浸入高分子網目構造体に、CaCl2/LiClが捕捉された、高分子ゲル(Alg-PEG(CaCl2/LiCl)/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体)を得た。得られた高分子ゲルを-30℃で凍結し、20Paの減圧条件下で36時間乾燥させて、Alg-PEG/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体に、CaCl2/LiClが捕捉された、高分子ゲルの乾燥体(吸湿材1)を得た。吸湿材1に含まれる高分子の総構成単位に対する、リガンドの割合は、約5モル%であった。
【0123】
<実施例2>
アルギン酸(Alg)ナトリウムに添加するPEGDEの量を、Algに対して20wt%とした以外は実施例1と同様にして、Alg-PEG/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体に、CaCl2/LiClが捕捉された、高分子ゲルの乾燥体(吸湿材2)を得た。吸湿材2に含まれる高分子の総構成単位に対する、リガンドの割合は、約10モル%であった。
【0124】
<実施例3>
アルギン酸(Alg)ナトリウムに添加するPEGDEの量を、Algに対して30wt%とした以外は実施例1と同様にして、Alg-PEG/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体に、CaCl2/LiClが捕捉された、高分子ゲルの乾燥体(吸湿材3)を得た。吸湿材3に含まれる高分子の総構成単位に対する、リガンドの割合は、約15モル%であった。
【0125】
<比較例1:Alg/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体の合成>
アルギン酸(Alg)ナトリウムに添加するPEGDEの量を0とした以外は実施例1と同様にして、Alg/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体の乾燥体とCaCl2/LiClとの混合物(比較吸湿材1)を得た。
【0126】
<Alg/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体およびAlg-PEG(CaCl2/LiCl)/HPC セミ相互浸入高分子網目構造体の吸湿挙動>
吸湿材1~3および比較吸湿材1を、温度25℃、湿度80%RHの恒温恒湿条件下で静置し、重量変化を経時的に測定することにより、これらの吸湿挙動について検討した。
【0127】
図1に時間-吸湿率を示す。
図1中、縦軸は含水率(
図1中、「Amount of moisture absorption」と記載。含水率は、言い換えれば、気中で吸湿した水分の量である。単位:g/g-乾燥体(
図1中、「g/g-dried polymer」と記載。))を示し、横軸は時間(単位:時間)を示す。
図1に示されるように、Algに結合されたPEGの割合が高くなるほど、吸湿率が向上した。PEGの量が多いと配位するCaイオンおよびLiイオンの量も多くなるためである。
【0128】
〔実施例4、比較例2〕
<実施例4:Alg-CE(CaCl2/LiCl)の合成>
アルギン酸(Alg)ナトリウム1gを超純水100mlに溶解した。得られたAlg水溶液に、Alg中の50モル%のカルボキシル基を反応させるため、エチレンジクロリド(EDC)735mgとNヒドロキシスクシンイミド(NHS)437mgとを加えて30分撹拌し、EDC/NHS活性化Alg水溶液を調製した。次に、2-アミノメチル-15-クラウン-5(CE)690mgを超純水10mlに溶解したCE水溶液をEDC/NHS活性化Alg水溶液に滴下して8時間撹拌し、Alg-CEを含む水溶液を得た。当該Alg-CEを含む水溶液は、セルロース透析膜を用いて超純水に透析し、受動的な拡散により、溶液中の分画分子量未満の低分子を除去することで精製した。その後、精製したAlg-CEを超純水に溶解し、Alg-CE水溶液を調製した。当該Alg-CE水溶液にそれぞれの濃度が0.5MのCaCl2/LiCl水溶液200mlを加えて20時間静置し、CEが結合したアルギン酸に、CaCl2/LiClが捕捉された高分子ゲル(Alg-CE(CaCl2/LiCl))を得た。得られた高分子ゲルを-30℃で凍結し、20Paの減圧条件下で36時間乾燥させて乾燥体(吸湿材4)を得た。吸湿材4に含まれる高分子の総構成単位に対する、リガンドの割合は、約50モル%であった。
【0129】
<比較例2>
アルギン酸(Alg)ナトリウム1gを超純水100mlに溶解した。得られたAlg水溶液に、それぞれの濃度が0.5MのCaCl2/LiCl水溶液200mlを加えて30時間静置し、AlgとCaCl2/LiClとの混合物である高分子ゲルを得た。得られた高分子ゲルを-30℃で凍結し、20Paの減圧条件下で36時間乾燥させて、AlgとCaCl2/LiClとの混合物である高分子ゲルの乾燥体(比較吸湿材2)を得た。
【0130】
<AlgおよびAlg-CE(CaCl2/LiCl)の吸湿挙動>
吸湿材4および比較吸湿材2を、温度25℃、湿度80%RHの恒温恒湿条件下で静置し、重量変化を経時的に測定することにより、これらの吸湿挙動について検討した。
【0131】
図2に時間-吸湿率を示す。
図2中、縦軸は含水率(
図2中、「Amount of moisture absorption」と記載。含水率は、言い換えれば、気中で吸湿した水分の量である。単位:g/g-乾燥体(
図2中、「g/g-dried polymer」と記載。))を示し、横軸は時間(単位:時間)を示す。
図2に示されるように、AlgにCEが結合している吸湿材4は、AlgにCEが結合していない比較吸湿材2よりも吸湿率が向上した。CEはCaイオンおよびLiイオンを包接するためである。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係る吸湿材は、吸湿・脱水材として非常に有用であり、調湿機に好適に用いることができる。