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特許7460090船舶の主機モニタリング方法、主機モニタリングシステム、主機状態予測システム、及び運航状況予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】船舶の主機モニタリング方法、主機モニタリングシステム、主機状態予測システム、及び運航状況予測システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/20 20200101AFI20240326BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240326BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20240326BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20240326BHJP
   B63H 3/00 20060101ALI20240326BHJP
   B63B 79/30 20200101ALI20240326BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20240326BHJP
【FI】
B63B79/20
F02D45/00 372
B63B49/00 Z
B63H21/21
B63H3/00 Z
B63B79/30
B63B79/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021520883
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020425
(87)【国際公開番号】W WO2020235688
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019095768
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】北川 泰士
(72)【発明者】
【氏名】ボンダレンコ オレクシー
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲吾
(72)【発明者】
【氏名】出口 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019783(JP,A)
【文献】特開2015-085924(JP,A)
【文献】特開2012-250619(JP,A)
【文献】特開2013-237392(JP,A)
【文献】特開平08-067298(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 79/20
F02D 45/00
B63B 49/00
B63H 21/21
B63H 3/00
B63B 79/30
B63B 79/10
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルの組み合わせによる主機バーチャルモデルに、モデル内変数としての主機状態パラメータである主機の運転に関わる設定値と主要な計測値を適用し、前記主機バーチャルモデルで計算を行って前記主機の主機状態をモニタリングするとともに、前記主機バーチャルモデルによる計算結果としての前記主機状態を統計的に処理して前記主機状態の時間的な平均値と、変動振幅と、平均周期の少なくとも1つを求め、統計的に処理した前記主機状態と閾値を含む所定の条件とに基づいて前記モデル内変数としてのモデルパラメータを変更して前記主機バーチャルモデルを更新する判断を行うことを特徴とする船舶の主機モニタリング方法。
【請求項2】
実際の前記主機の前記運転に関わる設定値として前記主機の指令回転数を用い、前記主要な計測値として前記主機の回転数と燃料供給量を用いることを特徴とする請求項1に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項3】
前記主機バーチャルモデルで計算を行う前記主機状態は、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項4】
前記主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデル及び前記プロペラにより推進される前記船舶の船体モデルを用いて、実海域における前記主機状態又は前記船舶の運航状況を予測することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項5】
前記モニタリングするための前記主機状態を前記船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに表示することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項6】
前記モニタリングするための前記主機状態の表示は、前記モデルパラメータを変更しない前記主機バーチャルモデルによる前記主機状態の第1のモニタリング表示と、前記モデルパラメータを変更して更新した前記主機バーチャルモデルによる前記主機状態の第2のモニタリング表示と、前記主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを表示することを特徴とする請求項に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項7】
選択することにより複数の前記主機状態パラメータの少なくとも1つを表示可能であることを特徴とする請求項又は請求項に記載の船舶の主機モニタリング方法。
【請求項8】
船舶の主機と、前記主機の運転に関わる設定値を設定する運転設定手段と、前記主機の主要な計測値を取得する計測手段と、前記主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルを組み合わせた主機バーチャルモデルと、モデル内変数としての主機状態パラメータである前記設定値と前記主要な計測値とを前記主機バーチャルモデルに適用し主機状態の計算を行う計算手段と、前記主機バーチャルモデルによる前記計算手段の計算結果に基づいて前記主機状態をモニタリングするモニタリング手段と、前記計算結果としての前記主機状態を統計的に処理して前記主機状態の時間的な平均値と、変動振幅と、平均周期の少なくとも1つを求め、統計的に処理した前記主機状態と閾値を含む所定の条件とに基づいて前記モデル内変数としてのモデルパラメータを変更し前記主機バーチャルモデルを更新する判断を行うモデル内変数更新手段とを備えたことを特徴とする船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項9】
前記運転設定手段で設定する前記運転に関わる設定値は前記主機の指令回転数であり、前記計測手段で計測する前記主要な計測値は前記主機の回転数と燃料供給量であることを特徴とする請求項に記載の船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項10】
前記計算手段は、前記主機バーチャルモデルを用いて前記主機状態として、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つの計算を行うことを特徴とする請求項又は請求項に記載の船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項11】
前記モニタリング手段として前記主機状態を表示する表示手段を、前記船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに備えたことを特徴とする請求項から請求項10のいずれか1項に記載の船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項12】
前記表示手段への前記主機状態の表示のための、前記モデルパラメータを変更しない前記主機バーチャルモデルによる前記主機状態の第1のモニタリング表示と、前記モデルパラメータを変更して更新した前記主機バーチャルモデルによる前記主機状態の第2のモニタリング表示と、前記主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを処理する表示処理手段を備えたことを特徴とする請求項11に記載の船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項13】
前記表示手段に前記主機の前記運転に関わる設定値と、前記主要な計測値の表示を選択する表示選択手段を備えたことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の船舶の主機モニタリングシステム。
【請求項14】
請求項から請求項13のいずれか1項に記載の船舶の主機モニタリングシステムに、前記主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデルと、前記プロペラにより推進される前記船舶の船体モデルと、実海域における前記船舶の運航条件入力手段とをさらに備え、実海域における前記主機状態を予測することを特徴とする船舶の主機状態予測システム。
【請求項15】
請求項から請求項13のいずれか1項に記載の船舶の主機モニタリングシステムに、前記主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデルと、前記プロペラにより推進される前記船舶の船体モデルと、実海域における前記船舶の運航条件入力手段と、前記船舶の運航状況計算手段とをさらに備え、実海域における前記船舶の運航状況を予測することを特徴とする船舶の運航状況予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主機バーチャルモデルを用いた船舶の主機モニタリング方法、主機モニタリングシステム、主機状態予測システム、及び運航状況予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の機能要件として国際海事機関(IMO)によりEEDI(エネルギー効率設計指標)規制が導入されたことに伴い、この規制をクリアするために船舶に搭載される主機の小型化が将来進んでいくことが予想されている。一方で、安全性を保ちながら荒天下を航行するための最低限保有すべき主機出力に関する最低推進出力に関するガイドラインもIMOにて議論されている所であり、主機の小型化と安全運航に関連した懸念は今後の議論の対象になると思われる。
斯様な将来予測の中で、主機の稼動状況をモニタリングして適切なタイミングで保守等を行うことの重要性は更に増すと考えられる。また、遭遇する気象海象下に於ける主機の運転状況や推進出力による船速を予測することは、船舶の安全運航や省エネのための効率的な運航に繋がるため重要である。
ここで、主機保守管理のためには主機状態をモニタリングできることが重要で、そのためにはなるべく多くの項目を計測できた方が良い。一方で、一般商船でモニタリングする主機状態の項目はコストの観点から必要最小限であることが多いため保守管理も限定的であると言え、将来的に小型化が進むことが予想される主機を想定すると保守管理技術は高められるべきである。
【0003】
ここで、特許文献1には、舶用主機関プラントに演算装置、データ入力装置、記憶装置、表示装置を設け、入力装置に主機関の計器からのデータを直接入力可能とすると共に主機関側で採取した採取データ及び外部から取得したデータを入力可能とし、記憶装置には診断用データベース、性能データ、入力装置から入力されたデータを用いて主機関の性能情報及び燃焼情報を演算するための演算式、保全管理用データベースを記憶させ、演算装置により主機関の性能情報、燃焼情報、故障原因の探査に必要な項目の情報、保全管理に必要な主要部品の整備の必要性の情報を演算し、表示装置に情報を外部からの操作により選択して表示可能とすると共に異常推定原因及び故障回避手段を、また推定原因及び推定整備必要箇所を優先度の高い順に表示する機関プラント運転管理支援システムが開示されている。
また、特許文献2には、排気弁と燃料調節手段を備えたエンジンをエンジンモデルによりエンジン状態を推定するエンジン状態観測器を用いて制御するエンジン制御方法であって、少なくともエンジンの回転数を検出してエンジン状態観測器に入力し、エンジン状態観測器でエンジン状態として少なくとも空気過剰率を推定し、推定した空気過剰率に基づいて制御対象として少なくとも排気弁を制御することが開示されている。
また、特許文献3には、コンピュータ利用モデルを用いてエンジンを診断する方法において、検知したエンジンの第1セットのパラメート及び第2セットのパラメータを用いて第1作動特性のモデル化値及び第2作動特性のモデル化値を決定し、これらのモデル化値を実際値と比較してエンジンを診断することが開示されている。
また、特許文献4には、主機と、主機により駆動される可変ピッチプロペラと、主機の回転数を検出する回転数検出手段と、主機の出力を算出する主機出力算出手段と、可変ピッチプロペラのピッチ角を検出するピッチ角検出手段と、船舶の船速を検出する船速検出手段と、主機の回転数特性と主機の出力特性と可変ピッチプロペラのピッチ角特性と船舶の船速との関係を特性図として表示する表示手段とを備え、回転数検出手段で検出された主機の回転数と、主機出力算出手段で算出された主機の出力と、ピッチ角検出手段で検出された可変ピッチプロペラのピッチ角と、船速検出手段で検出された船速との関係を現時点の運転状態として特性図表示手段に表示する船舶の運転状態表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-248816号公報
【文献】特開2019-19783号公報
【文献】特表平6-504348号公報
【文献】特開2014-198515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~特許文献4は、いずれも、主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルの組み合わせによる主機バーチャルモデルを使用して主機状態をモニタリングするものではない、又は、主機バーチャルモデルを更新するものではない。
そこで本発明は、実計測機器をさほど必要とすることなく実計測と遜色ない精度で主機状態をモニタリングできる船舶の主機モニタリング方法、主機モニタリングシステム、主機状態予測システム、及び運航状況予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した船舶の主機モニタリング方法においては、船舶の主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルの組み合わせによる主機バーチャルモデルに、モデル内変数としての主機状態パラメータである主機の運転に関わる設定値と主要な計測値を適用し、主機バーチャルモデルで計算を行って主機の主機状態をモニタリングするとともに、主機バーチャルモデルによる計算結果としての主機状態を統計的に処理して主機状態の時間的な平均値と、変動振幅と、平均周期の少なくとも1つを求め、統計的に処理した主機状態と閾値を含む所定の条件とに基づいてモデル内変数としてのモデルパラメータを変更して主機バーチャルモデルを更新する判断を行うことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデルを用いて主機状態の計算を行うことで、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。また、モデル内変数としてのモデルパラメータの変更を逐次行い、主機バーチャルモデルを更新して推定精度を常に高い状態に保つことで、実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。また、主機が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、実際の主機の運転に関わる設定値として主機の指令回転数を用い、主要な計測値として主機の回転数と燃料供給量を用いることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、主機バーチャルモデルの推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、主機バーチャルモデルで計算を行う主機状態は、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、主機のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる
【0009】
求項記載の本発明は、主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデル及びプロペラにより推進される船舶の船体モデルを用いて、実海域における主機状態又は船舶の運航状況を予測することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、実海域での実際の主機状態や船舶の運航状況を予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【0010】
請求項記載の本発明は、モニタリングするための主機状態を船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに表示することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、主機状態が表示された各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断や、将来の船速又は主機状態の予測等、目的に応じて利用することができる。
なお、モニタリングするための主機状態とは、主機バーチャルモデルで計算を行った結果としての主機状態以外にも、結果としての主機状態に基づいた2次的な計算結果や主機状態を計算するに当たっての関連情報、また結果としての主機状態に基づいた人の判断情報等を含むものとする。
【0011】
請求項記載の本発明は、モニタリングするための主機状態の表示は、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデルによる主機状態の第1のモニタリング表示と、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデルによる主機状態の第2のモニタリング表示と、主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを表示することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示することで、船舶の安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機状態、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機状態とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
【0012】
請求項記載の本発明は、選択することにより複数の主機状態パラメータの少なくとも1つを表示可能であることを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、主機状態と併せて主機状態パラメータを表示することで、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデルによる計算に用いられた主機の運転に関わる設定値と主要な計測値も参考にし易くなる。
【0013】
請求項記載に対応した船舶の主機モニタリングシステムにおいては、船舶の主機と、主機の運転に関わる設定値を設定する運転設定手段と、主機の主要な計測値を取得する計測手段と、主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルを組み合わせた主機バーチャルモデルと、モデル内変数としての主機状態パラメータである設定値と主要な計測値とを主機バーチャルモデルに適用し主機状態の計算を行う計算手段と、主機バーチャルモデルによる計算手段の計算結果に基づいて主機状態をモニタリングするモニタリング手段と、計算結果としての主機状態を統計的に処理して主機状態の時間的な平均値と、変動振幅と、平均周期の少なくとも1つを求め、統計的に処理した主機状態と閾値を含む所定の条件とに基づいてモデル内変数としてのモデルパラメータを変更し主機バーチャルモデルを更新する判断を行うモデル内変数更新手段とを備えたことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデルを用いて主機状態の計算を行うことで、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。また、モデルパラメータの変更を逐次行い主機バーチャルモデルの推定精度を常に高い状態に保つことで、実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。また、主機が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
【0014】
請求項記載の本発明は、運転設定手段で設定する運転に関わる設定値は主機の指令回転数であり、計測手段で計測する主要な計測値は主機の回転数と燃料供給量であることを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、主機バーチャルモデルの推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、計算手段は、主機バーチャルモデルを用いて主機状態として、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つの計算を行うことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、主機のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる
【0016】
求項11記載の本発明は、モニタリング手段として主機状態を表示する表示手段を、船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、表示手段が設けられた各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断等、目的に応じて利用することができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、表示手段への主機状態の表示のための、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデルによる主機状態の第1のモニタリング表示と、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデルによる主機状態の第2のモニタリング表示と、主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを処理する表示処理手段を備えたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示することで、船舶の安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機状態、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機状態とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、表示手段に主機の運転に関わる設定値と、主要な計測値の表示を選択する表示選択手段を備えたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、主機状態と併せて主機の運転に関わる設定値や主要な計測値を表示することを選択した場合には、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデルによる計算に用いられた値も参考にし易くなる。
【0019】
請求項14記載に対応した船舶の主機状態予測システムにおいては、船舶の主機モニタリングシステムに、主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデルと、プロペラにより推進される船舶の船体モデルと、実海域における船舶の運航条件入力手段とをさらに備え、実海域における主機状態を予測することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、実海域での主機状態を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【0020】
請求項15記載に対応した船舶の運航状況予測システムにおいては、船舶の主機モニタリングシステムに、主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデルと、プロペラにより推進される船舶の船体モデルと、実海域における船舶の運航条件入力手段と、船舶の運航状況計算手段とをさらに備え、実海域における船舶の運航状況を予測することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、実海域での運航状況を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の船舶の主機モニタリング方法によれば、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデルを用いて主機状態の計算を行うことで、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。また、モデル内変数としてのモデルパラメータの変更を逐次行い、主機バーチャルモデルを更新して推定精度を常に高い状態に保つことで、実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。また、主機が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
【0022】
また、実際の主機の運転に関わる設定値として主機の指令回転数を用い、主要な計測値として主機の回転数と燃料供給量を用いる場合には、主機バーチャルモデルの推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。
【0023】
また、主機バーチャルモデルで計算を行う主機状態は、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つを含む場合には、主機のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる
【0024】
た、主機により駆動されるプロペラをモデル化したプロペラモデル及びプロペラにより推進される船舶の船体モデルを用いて、実海域における主機状態又は船舶の運航状況を予測する場合には、実海域での実際の主機状態や船舶の運航状況を予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【0025】
また、モニタリングするための主機状態を船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに表示する場合には、主機状態が表示された各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断や、将来の船速又は主機状態の予測等、目的に応じて利用することができる。
【0026】
また、モニタリングするための主機状態の表示は、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデルによる主機状態の第1のモニタリング表示と、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデルによる主機状態の第2のモニタリング表示と、主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを表示する場合には、目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示することで、船舶の安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機状態、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機状態とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
【0027】
また、選択することにより複数の主機状態パラメータの少なくとも1つを表示可能である場合には、主機状態と併せて主機状態パラメータを表示することで、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデルによる計算に用いられた主機の運転に関わる設定値と主要な計測値も参考にし易くなる。
【0028】
また、本発明の船舶の主機モニタリングシステムによれば、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデルを用いて主機状態の計算を行うことで、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。また、モデルパラメータの変更を逐次行い主機バーチャルモデルの推定精度を常に高い状態に保つことで、実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。また、主機が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
【0029】
また、運転設定手段で設定する運転に関わる設定値は主機の指令回転数であり、計測手段で計測する主要な計測値は主機の回転数と燃料供給量である場合には、主機バーチャルモデルの推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。
【0030】
また、計算手段は、主機バーチャルモデルを用いて主機状態として、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つの計算を行う場合には、主機のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる
【0031】
た、モニタリング手段として主機状態を表示する表示手段を、船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに備えた場合には、表示手段が設けられた各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断等、目的に応じて利用することができる。
【0032】
また、表示手段への主機状態の表示のための、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデルによる主機状態の第1のモニタリング表示と、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデルによる主機状態の第2のモニタリング表示と、主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを処理する表示処理手段を備えた場合には、目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示することで、船舶の安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機状態、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機状態とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
【0033】
また、表示手段に主機の運転に関わる設定値と、主要な計測値の表示を選択する表示選択手段を備えた場合には、主機状態と併せて主機の運転に関わる設定値や主要な計測値を表示することを選択した場合には、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデルによる計算に用いられた値も参考にし易くなる。
【0034】
また、本発明の船舶の主機状態予測システムによれば、実海域での主機状態を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【0035】
また、本発明の船舶の運航状況予測システムによれば、実海域での運航状況を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態による船舶の主機モニタリングシステムのブロック図
図2】同主機バーチャルモデルの概念図
図3】同主機バーチャルモデルの物理モデルの変数関係図
図4】同統計処理手段を用いた統計解析結果の表示例を示す図
図5】同船舶の主機状態予測システムの概念図
図6】同船舶の運航状況予測システムの概念図
図7】同船舶の主機モニタリングシステムと運航状況予測システムの利用イメージ図
図8】同船舶の主機モニタリングシステムのフローチャート
図9】同船舶の運行状況予測システムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の実施形態による船舶の主機モニタリング方法、主機モニタリングシステム、主機状態予測システム、及び運航状況予測システムについて説明する。
【0038】
図1は本実施形態による船舶の主機モニタリングシステムのブロック図である。
船舶の主機モニタリングシステムは、船舶の主機10と、主機10の運転に関わる設定値を設定する運転設定手段20と、主機10の主要な計測値を取得する計測手段30と、主機10の構成要素ごとの応答を表す物理モデルを組み合わせた主機バーチャルモデル40と、設定値と計測値とを主機状態パラメータとして主機バーチャルモデル40のモデル内変数に適用し主機状態の計算を行う計算手段50と、計算手段50の計算結果に基づいて主機状態をモニタリングするモニタリング手段60と、主機状態パラメータ及び計算結果としての主機状態の少なくとも1つを用いてモデル内変数としてのモデルパラメータを変更し主機バーチャルモデル40を更新するモデル内変数更新手段70と、主機状態の時間的な平均値、変動振幅、及び平均周期の少なくとも1つを求めてモニタリングを行う統計処理手段80と、計算手段50の計算結果を時系列で保存する記憶手段90と、表示処理手段100と、表示選択手段110を備える。
なお、物理モデルには、主機10の構成要素の状態を数学的に表現した物理数学モデル、機械学習(ML)モデル、非線形回帰(NLR)モデル、伝達関数(TF)モデル等がある。ここで、物理数学モデルは、モデル作成のデータがあれば主機10を忠実に再現できる。また、機械学習(ML)モデルは、構成が若干複雑であるが、計測手段30の計測精度が十分でありモデル作成のデータがあれば主機10に忠実である。 非線形回帰(NLR)モデルは、構成は簡単であるが、計測手段30による多くの計測値があっても精度がやや劣る。伝達関数(TF)モデルは、構成は簡単であるが、主機10の構成要素(例えば冷却器等)によっては、これで十分な場合もある。これらモデルは一長一短があるものの、入手できるデータ項目や量に応じて使い分けることが望ましい。
物理モデルとしては、これら複数種のモデルの1種類を用いることも、複数を組み合わせて用いることも可能である。
ここでは、代表例として舶用ディーゼル主機の物理数学モデルのみで物理モデルを構成する例を述べる。
まず、主機回転数の調速のためのガバナーのモデルが挙げられる。ガバナーは主機トルク発生のための燃料投入量を定められた制御設定に応じて決定するものであり、機械式ガバナーを対象とする場合は制御上の設定が反映された時定数や比例ゲイン係数を含んだ一次の微分方程式で表されるモデルであることが多く、電子ガバナーの場合はPID制御則に則ったモデルとなる。主機トルク発生モデルは燃料燃焼による主機トルク発生をモデル化したものであり、ガバナーモデルから出力される燃料投入量や主機回転数及び過給機回転数が変数となり、発生したパワートルクと軸系の摩擦を差し引いたモデルとなることが一般的である。過給機回転数が計測されない場合は過給機回転数モデルにより値を計算する。このモデルはタービントルクとコンプレッサートルクを外力項とした軸運動微分方程式によって求めることが多く、タービントルクやコンプレッサートルクの計算に燃焼室の掃気及び排気を考慮した特性方程式の計算を行う。これらの計算には燃焼問題をシリンダごとに個別に扱う計算法や、全てのシリンダの燃焼問題を1回転サイクルの平均値に代表させて取り扱う計算法もある。主機回転数の応答モデルは主機トルクとプロペラトルク等の外力負荷トルクを外力項とした推進軸系の軸運動微分方程式によって求める。
舶用ディーゼル主機の物理モデルを物理数学モデルで構成する場合は以上の構成が一般的である。
【0039】
主機10は、例えば、舶用ディーゼル主機である。主機10の保守管理を適切に行うためには主機状態のモニタリングが必要であるが、実計測機器を多く設置しようとする場合には、その実計測環境整備に係るコストの問題があり、また、主機燃焼室内の空気過剰率やシリンダ内圧力など、実計測機器を用いて計測すること自体が高難度な項目も存在する。
これに対して本実施形態による船舶の主機モニタリングシステムは、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデル40を用いて主機状態の計算を行うことで、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。
【0040】
ここで、図2は主機バーチャルモデルの概念図、図3は主機バーチャルモデルの物理モデルの変数関係図である。
主機バーチャルモデル40とは、上記したガバナー応答を表すガバナーモデルや過給機回転数モデル、また燃料燃焼によるパワー発生を計算する燃焼室モデルなど、主機構成要素の特性を表す物理モデルの組合せにより構成されており、例えば、主機10の指令回転数、燃料投入量及び消費量、過給機回転数、燃焼室からの排気圧及び温度、等の主機稼動状態を表す変数を用いる計算がなされる。なお、図3の左側には、プロペラシャフト11を介してプロペラ12が接続された主機10を示している。
【0041】
モデル内変数としてのモデルパラメータ(係数・定数)を同定するためには、主機10と同型の主機の陸上運転結果などの船舶就航前に収取可能なデータを用いるか、就航当初のデータを用いる。加えて、計測手段10を含む実計測機器による就航後の計測値を用いてモデルパラメータの変更を逐次行うものとする。この実計測機器による就航後の計測値を用いたモデルパラメータの逐次の変更はデジタルツイン技術としても知られている。
実計測機器による就航後の計測値を用いてモデルパラメータの変更を逐次行い、主機バーチャルモデル40の推定精度を常に高い状態に保つことで、計算による推定であっても実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。なお、実計測機器には、船舶の運航に関わる位置検出のためのGPS(Global Positioning System)や船速を計測するドップラー流速計等も含めることができる。
モデルパラメータの変更は、主機特性を表す物理モデルのパラメータは経年劣化等の影響により値が徐々に変化することが予想されるため、1~2日程度でなく、ある程度長期間に渡って収集したデータを対象にパラメータ変更を行うことが想定される。変更のための手法はカルマンフィルタを用いたシステム同定や機械学習を適用した手法が想定される。なお、計測値の異常等が確認できる場合は、その計測項目のみ変更前のパラメータを用いて計算により補正を行う、全ての計測項目が異常な場合は変更を行わない、等の使用可能な計測値を考慮した対策を行う。
【0042】
図1に戻り、本実施形態においては、モニタリング手段60として主機状態を表示する表示手段61を有する。表示手段61に表示する数値はデジタル表示とすることもできる。
なお、本実施形態においてモニタリングとは、基本的には、計測値や計算結果(主機状態)のオンライン表示の目視確認やそのデータの自動保存を指すが、モニタリング手段60による主機状態のモニタリングには、計測値及び計算結果(主機状態)のオンライン表示や状態監視を含む。
【0043】
表示手段61は、船舶の機関室と、ブリッジと、船長室と、陸上の管理会社の少なくとも1つに設けられる。これにより、表示手段61が設けられた各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断等、目的に応じて利用することができる。
【0044】
下表1は、主機バーチャルモデル40を用いた計算における主機状態項目とその取扱いを示している。なお、表1に示される全項目が表示手段61におけるオンライン表示の対象となり得る。
【表1】
【0045】
表1において、「第1の入力推奨項目」(左欄)は、主機バーチャルモデル40の計算自体を行うために入力されるべき情報であり、運転設定手段20で設定する主機10の運転に関する設定値と、計測手段30で取得する主機10の主要な計測値が用いられる。
運転設定手段20で設定する主機10の運転に関する設定値は、主機10の指令回転数であることが好ましい。また、計測手段30で取得する主機10の主要な計測値は、主機10の回転数と燃料供給量であることが好ましい。これにより、主機バーチャルモデル40の推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。なお、本実施形態では、燃料供給量として燃料投入量ラック位置を用いている。
また、主機指令回転数は主機稼動のために設定する値であり、主機10の回転数(実回転数)と燃料供給量(燃料投入量ラック位置)は、一般に実計測機器を用いて従来からモニタリングされている項目である。
【0046】
表1において、「第2の入力推奨項目」(中欄)は、入力しなくとも主機バーチャルモデル40による計算自体は可能であるが、計算精度を高めるため、及びモデル内変数としてのモデルパラメータ(係数・定数)の変更による主機バーチャルモデル40の更新精度向上のためには、実計測機器(計測手段30)を用いてモニタリング(計測)する方が好ましい項目である。
本実施形態における第2の入力推奨項目は、燃料供給量としての燃料消費量、過給機回転数、及び推進軸トルクとしている。
【0047】
表1において、「モデル計算による状態推定項目」(右欄)は、主機バーチャルモデル40で主機状態の計算を行って推定する項目である。
計算手段50は、主機バーチャルモデル40を用いて、主機状態として、主機出力(馬力)、燃料消費量(計測しても計算する場合有り)、過給機回転数、シリンダ内圧力、掃気圧、掃気温度、排気圧、排気温度、吸入空気量、空気過剰率、及び主機トルクの少なくとも1つについて計算を行うことが好ましい。これにより、主機10のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる。
また、計算手段50は、主機バーチャルモデル40を用いて、主機状態として、燃焼室内温度、又は排気質量について計算を行うこともできる。また、図3の物理モデルの変数関係図に示す各圧力P、各温度T、各流量Vを使い掃気質量や排気質量を計算することもできる。
これらの計算は物理数学モデルにおける主機トルク発生モデルの計算過程で計算される一例である。
なお、これらの主機状態は、計測することが可能な場合は主機バーチャルモデル40を用いた計算を行わないこともあるが、計測値の精度に不安がある場合はこの限りではなく、計算(カルマンフィルタ含む)による推定を併用する。
【0048】
また、主機状態を把握する一助として、主機バーチャルモデル40から計算される主機トルク、排気温度と空気過剰率のその出力における標準値からの差異を表示手段61に表示することが好ましい。
なお、標準値は、その出力における設計許容値でも、新造時の平均値や陸上運転時の値でもよい。あるいは標準値は、その状態で主機バーチャルモデル40に働く外乱を仮に0(ゼロ)としたときの参照値でもよい。空気過剰率のみは、絶対値とともに時間変動分を計算し、絶対値による許容変動分を決めておき、その差をマージンとして表示手段61に表示する。
【0049】
また、表示手段61は、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデル40による主機状態の第1のモニタリング表示、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデル40による主機状態の第2のモニタリング表示、又は主機10の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを表示する。
目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機10の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示することで、船舶の安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機馬力、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機馬力とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
表示処理手段100は、表示手段61に表示するために、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を処理する。
ここで、主機の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示としては、例えば、余裕度(MCRに達するまでの割合表示)である。
【0050】
また、表示選択手段110は、表示手段61に、主機10の運転に関わる設定値と、主要な計測値を表示するか否かを選択できる。主機状態と併せて主機10の運転に関わる設定値や主要な計測値を表示することを選択した場合には、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデル40による計算に用いられた値も参考にし易くなる。
【0051】
図4は統計処理手段を用いた統計解析結果を表示手段に表示した例を示す図である。図4における統計解析対象は主機回転数[rpm]である。
例えば、10Hz程度の細かいサンプリング周波数でモニタリングを行う場合、主機状態の計算も同周期で可能であるため、統計処理手段80を用いて、計算結果から波浪中で変動する主機状態の時間的な平均値や変動振幅、平均周期などを統計解析手法により計算することが可能である。主機状態の定常成分(平均値)のみでなく、変動振幅や平均周期等の統計解析もモニタリング出来るように表示手段61に表示することで、主機10が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
なお、統計処理手段80による統計解析値は、記憶手段90へ時系列で保存される。
【0052】
図5は船舶の主機状態予測システムの概念図である。なお、既に説明した構成要素については同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態による船舶の主機状態予測システムは、上述した船舶の主機モニタリングシステムに、主機10により駆動されるプロペラ12をモデル化したプロペラモデル100と、プロペラ12により推進される船舶の船体モデル110と、実海域における船舶の運航条件入力手段120とをさらに備え、実海域における主機状態を予測する。予測した主機状態は、表示手段61に表示される。
プロペラモデル100は、流体の密度・主機回転数・プロペラ直径・プロペラ推力減少特性による有次元化計算と、プロペラ翼形状により決定される無次元単独特性、船体の前進速度・主機回転数・船体とプロペラの干渉特性によって計算される無次元プロペラ流入速度特性、によってプロペラトルク及び推力を計算する物理数学モデルである。そしてこのプロペラモデルは、流入速度特性に波浪による影響を考慮することでプロペラトルク及び推力の変動も計算する。船体モデル110は、平水中抵抗特性、波浪中抵抗増加特性、風による風圧抵抗特性、等によって航走中の船体に作用する流体による抵抗を表す物理数学モデルである。
【0053】
運航条件入力手段120を用いて入力する実海域における船舶の運航条件としては、船舶運航情報と気象海象情報(風波の情報)がある。
船舶運航情報は、主機指令回転数や船首方位等である。
気象海象情報は、波に関する情報としては、有義波高、平均波周期、及び波の主方向等であり、風に関する情報としては、風速及び風向等である。
波に関する情報は、プロペラモデル100における波浪によるトルク及び推力の変動成分の計算、船体モデル110における波浪中抵抗増加特性の計算、に使われる。風に関する情報は船体モデルにおける風による風圧抵抗特性の計算に使われる。
このように、運航条件入力手段120を用いて入力する実海域における船舶の運航条件は、いずれも取得が容易な情報である。
主機バーチャルモデル40とプロペラモデル(プロペラ推力・トルクモデル)100及び船体モデル(風波中船体抵抗モデル)110を組み合わせることで、想定する運航条件下における実海域での実際の主機状態(主機回転数、燃料消費量等)を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
また、様々な主機状態パラメータが連成されて計算がなされるために主機回転数の予測精度が従来よりも向上する。
なお、船舶の主機状態予測システムは、機関室、ブリッジ、船長室、及び陸上の管理会社等において個別に使用でき、任意に組み合わせて使用することができる。この場合、主機バーチャルモデル40は通信手段によって共通化されており、利用場所の目的に応じた個別利用が可能である。
【0054】
図8は、本実施形態による船舶の主機モニタリングシステムのフローチャートである。
基本的に制御フローは、パソコン等のコンピュータ及びその周辺機器によって動作可能である。
電源を投入して制御システムをスタートさせると、まずステップS1で、運転に関わる設定値の取得を行う。この運転に関わる設定値は、例えば、運転設定手段20で設定された指令回転数である。
次に、ステップS2で、主要な計測値の取得を行う。主要な計測値は、例えば、計測手段30で計測された主機回転数や燃料供給量である。
次に、ステップS3で、取得した運転に関わる設定値と主要な計測値を主機状態パラメータとして主機バーチャルモデル40に適用する。この際、主機バーチャルモデル40には、モデル内変数として初期のモデルパラメータが設定されている。
次に、ステップS4で、主機バーチャルモデルに適用した主機状態パラメータである設定値と計測値を用いて、計算手段50で主機状態の計算を行う。
次に、ステップS5で、計算した主機状態を出力する。この計算した主機状態には、例えば、主機出力(馬力)、燃料消費量、過給機回転数、シリンダ内圧力、掃気圧、掃気温度、排気圧、排気温度、吸入空気量、空気過剰率、主機トルクがある。これらは、スタート時に適宜、選択して計算し出力させることができる。
次に、ステップS6で、これらの出力に対して統計的な処理を行う。統計的な処理は統計処理手段80によって行われるが、上記した出力の時間的な変化等を統計的に処理し、例えば、時間的な平均値、所定時間範囲での変動振幅、平均周期として処理を行う。
次に、ステップS7で、統計的な処理をされた結果としての例えば、時間的な平均値、変動振幅、平均周期を記憶する。この記憶は、記憶手段90に記憶させることにより実行できるが、この記憶手段90にはこのフローの繰り返しごとの統計的な処理をされた結果、統計処理前の主機状態の計算結果、またモデルパラメータ等を記憶させることも可能である。
次に、ステップ8でモデルパラメータの変更を判断する。モデルパラメータの変更に当たっては、ある程度長期間に渡って収集したデータを対象に閾値等の所定の条件に基づいてパラメータ変更を判断する。
所定の条件に基づいて、変更が不要な場合は、ステップS1に戻って以下、主機状態のモニタリングのフローを繰り返す。
次に、変更が必要な場合は、ステップS9で、モデルパラメータを変更し主機バーチャルモデル40を更新する。主機バーチャルモデル40のモデルパラメータが変更された場合は、変更されたモデルパラメータを用いて、ステップS1以下の主機状態のモニタリングのフローを、次の更新時まで繰り返す。
ステップS10では、モニタリング表示を行う。モニタリング表示は、例えば、表示処理手段100を介してモニタリング手段60の表示手段61に表示させることで行われる。このモニタリング表示は、ステップS5の後で、例えば、主機出力(馬力)、燃料消費量、過給機回転数、シリンダ内圧力、掃気圧、掃気温度、排気圧、排気温度、吸入空気量、空気過剰率、主機トルクを表示させることができる。また、ステップS6の後で、主機状態の出力を統計的に処理した結果として、例えば、時間的な平均値、所定時間範囲での変動振幅、平均周期を表示させることもできる。また、ステップS7の後で、記憶された初期のモデルパラメータによる第1のモニタリング表示、また、変更したモデルパラメータによる第2のモニタリング表示を行うこともできる。
また、表示に関しては、運転設定手段20による運転に関わる設定値や計測手段30により取得した主要な計測値等、あらゆる表示可能な対象の表示をさせることができる。
【0055】
図6は船舶の運航状況予測システムの概念図である。なお、既に説明した構成要素については同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態による船舶の運航状況予測システムは、上述した船舶の主機モニタリングシステムに、主機10により駆動されるプロペラ12をモデル化したプロペラモデル(プロペラ推力・トルクモデル)100と、プロペラ12により推進される船舶の船体モデル(風波中船体抵抗モデル)110と、実海域における船舶の運航条件入力手段120と、船舶の運航状況計算手段130とをさらに備え、実海域における運航状況を予測する。予測した運航状況は、表示手段61に表示される。
【0056】
船舶の運航状況計算手段130は、実海域における運航状況として船速や燃料消費量等を予測する。上述のように、主機バーチャルモデル40とプロペラモデル(プロペラ推力・トルクモデル)100及び船体モデル(風波中船体抵抗モデル)110を組み合わせることで、様々な主機状態パラメータが連成されて計算がなされるために主機回転数の予測精度が従来よりも向上する。主機回転数の予測精度向上はプロペラ推力の高精度予測に繋がるため、ひいては従来手法よりも船速の予測が高精度となる。これにより、想定する運航条件下における実海域での実際の船舶の運航状況を精度よく予測して、船舶の安全運航や省エネ運航等に資することができる。
なお、船舶の運航状況予測システムは、機関室、ブリッジ、船長室、及び陸上の管理会社において個別に使用できる。この場合、主機バーチャルモデル40は通信手段によって共通化されており、利用場所の目的に応じた個別利用が可能である。
【0057】
図7は船舶の主機モニタリングシステムと運航状況予測システムの利用イメージ図である。
船舶Aにおいては、主機バーチャルモデル40を用いた計算を行い主機10の主機状態をモニタリングしている。なお、主機10にはプロペラシャフト11を介してプロペラ12が接続されている。
また、運航状況予測システムは、機関室B、ブリッジC、及び陸上の管理会社Dにおいて、設置されているパソコン等の演算機140を用いて利用可能である。なお、陸上の管理会社Dとは、船舶の運航管理を行う会社、又は船舶の保守管理を行う会社等である。
主機バーチャルモデル40は、主機状態パラメータ又は計算結果としての主機状態によってモデルパラメータが逐次変更されるが、機関室BやブリッジC等での利用のため船内で共有されており、陸上の管理会社Dにおいても衛星通信等の通信手段で共有されている。そのため、予測のために用いる主機バーチャルモデル40(主機特性)は場所を問わず同一であり、常に最新の主機特性が考慮された上で想定運航条件での船速又は主機状態の予測が個別に可能となる。よって、例えば、陸上の管理会社Dでは今後の効率的な運用のための情報取得を行い、機関室Bでは遭遇海象における主機状態の予測による危険回避の検討を行うというように、目的に応じた予測機能の高度な利用が可能となる。
【0058】
図9は、本実施形態による船舶の運行状況予測システムのフローチャートである。
基本的に図8の制御フローと機能として同じ内容は、同一の番号を付与し、詳しい説明を割愛する。また、運行状況予測に焦点を当て、フローチャートとして主機バーチャルモデルの更新やモニタリング表示の詳細については、省略している。
ステップS11で、船舶の運航条件の取得を行う。この運航条件は、船舶の運航条件入力手段120で入力された気象海象情報等である。なお、図6における船舶の運航条件入力手段120には、運転設定手段20、計測手段30に相当する機能も搭載されているため、設定値としての船首方位、又は計測値としての船首方位や船舶で計測可能な気象海象情報等を併せて取得することも可能である。
ステップS12で、主機バーチャルモデル40、プロペラモデル(プロペラ推力・トルクモデル100)、船体モデル(風波中船体抵抗モデル110)へ、ステップS1で取得した運転に関わる設定値、ステップS11で取得した運航条件、ステップS2で取得した主要な計測値の適用を行う。ここでは、3つのモデルの連成による時系列計算を行うことが可能となる。
次に、ステップ13で船速、主機状態の解析を行う。このステップ13では、ステップS5で行った主機状態の計算の他に 船舶の運航に関連した項目して船速等の解析を行う。
次に、ステップS14で計算、解析を行った船速と主機状態を出力する。
そして、船速と主機状態の計算、解析結果をステップS6で統計的に処理し、ステップS7で記憶して、ステップ15で予測結果の表示を行う。
ステップ15で、表示手段61へ予測結果の表示を行うことにより、安全運航への判断や、将来の船速又は主機状態の予測等、目的に応じて利用することができる。
【0059】
以上説明したように、船舶Aの主機10の構成要素ごとの応答を表す物理モデルの組み合わせによる主機バーチャルモデル40に、モデル内変数としての主機状態パラメータである主機10の運転に関わる設定値と主要な計測値を適用し、主機バーチャルモデル40で計算を行って主機10の主機状態をモニタリングするとともに、主機状態パラメータ及び計算結果としての主機状態の少なくとも1つを用いてモデルパラメータを変更して主機バーチャルモデル40を更新することで、物理モデルベースで構成された主機バーチャルモデル40を用いた主機状態の計算が行われ、船舶運航状況に応じた主機状態が計算時の変数として求められるため、実計測機器をさほど必要とすることなく計算結果を基にして主機状態のモニタリングを行うことができる。また、モデル内変数の変更を逐次行い主機バーチャルモデル40の推定精度を常に高い状態に保つことで、実計測と遜色ない精度でのモニタリングが可能となる。
また、実際の主機10の運転に関わる設定値として主機10の指令回転数を用い、主要な計測値として主機10の回転数と燃料供給量を用いることで、主機バーチャルモデル40の推定精度を高めて、主機状態をより適切にモニタリングすることができる。
また、主機バーチャルモデル40で計算を行う主機状態は、主機出力(馬力)と、燃料消費量と、過給機回転数と、シリンダ内圧力と、掃気圧と、掃気温度と、排気圧と、排気温度と、吸入空気量と、空気過剰率と、主機トルクの少なくとも1つを含むことで、主機10のモニタリングに必要な主機状態をより適切に把握することができる。
また、主機状態の時間的な平均値と、変動振幅と、平均周期の少なくとも1つを求めてモニタリングを行うことで、主機10が安全に稼動されているか否かをより適切に確認しやすくなる。
また、主機10により駆動されるプロペラ12をモデル化したプロペラモデル及びプロペラ12により推進される船舶Aの船体モデルを用いて、実海域における主機状態又は船舶Aの運航状況を予測することで、船舶Aの安全運航や省エネ運航等に資することができる。
また、モニタリングするための主機状態を船舶Aの機関室Bと、ブリッジCと、船長室と、陸上の管理会社Dの少なくとも1つに表示することで、主機状態が表示された各所においてモニタリングを行い、安全運航への判断や、将来の船速又は主機状態の予測等、目的に応じて利用することができる。なお、モニタリングするための主機状態とは、主機バーチャルモデル40で計算を行った結果としての主機状態以外にも、結果としての主機状態に基づいた2次的な計算結果や主機状態を計算するに当たっての関連情報、また結果としての主機状態に基づいた人の判断情報等を含むものとする。
また、モニタリングするための主機状態の表示は、モデルパラメータを変更しない主機バーチャルモデル40による主機状態の第1のモニタリング表示と、モデルパラメータを変更して更新した主機バーチャルモデル40による主機状態の第2のモニタリング表示と、主機10の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示の少なくとも1つを表示することで、目的に応じて、第1のモニタリング表示、第2のモニタリング表示、又は主機10の連続最大出力(MCR)状態時の値の表示を表示し、船舶Aの安全運航や省エネ運航の計画立案等が行いやすくなる。例えば、第1のモニタリング表示を船舶の就航当初の主機状態、第2のモニタリング表示を就航後の年月を経た主機状態とすることができる。この場合、第1のモニタリング表示と第2のモニタリング表示を併せて表示することで、経年劣化による影響を把握しやすくなる。
また、選択することにより複数の主機状態パラメータの少なくとも1つを表示可能であることで、主機状態と併せて主機状態パラメータを表示し、モニタリングを行う際に、主機バーチャルモデル40による計算に用いられた主機10の運転に関わる設定値と主要な計測値も参考にし易くなる。
以上の説明は、本開示による典型的な実施の形態の説明のためのものであり、限定するためのものではない。本開示が、本明細書に明示的に記載された形態と異なる形態で実施されてもよく、請求の範囲と一致する範囲で、様々な修正、最適化及び変形が、当業者によって実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、デジタルツイン技術を活用した主機バーチャルモデルを用いて主機状態をモニタリングできるため、実計測機器の設置コストを低減しつつ主機保守管理を効率的に行うことができる。また、想定される気象海象下における主機運転状態と船速等の船舶運航状況を高度に予測することができるため、船舶の主機のモニタリング技術及び保守管理技術の向上と、船舶運航管理の補助に寄与する。
【符号の説明】
【0061】
10 主機
12 プロペラ
20 運転設定手段
30 計測手段
40 主機バーチャルモデル
50 計算手段
60 モニタリング手段
61 表示手段
70 モデル内変数更新手段
80 統計処理手段
100 表示処理手段
110 表示選択手段
120 運航条件入力手段
A 船舶
B 機関室
C ブリッジ
D 陸上の管理会社
図1
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図9