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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】光照射装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019209360
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021078817
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507189460
【氏名又は名称】学校法人金沢医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸郎
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/124036(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/212475(WO,A1)
【文献】特開2007-209710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する画像表示面に対向するユーザに向けて前記画像表示面の周囲に設けた照射面から点滅光を照射する照射部と、
前記照射面上の任意の範囲における前記点滅光の点灯/非点灯を制御する照射制御部と、
前記画像表示面上にXY座標系を定義したときに、前記ユーザの注視点のXY座標を検出する注視点検出部とを備えており、
前記注視点を中心としたXY平面上の一定範囲が非照射領域として区画され、
前記照射制御部は前記注視点のXY座標に基づいて前記非照射領域の位置を決定し、前記非照射領域の少なくとも一部が前記照射面と重なった場合、当該重なった範囲を非点灯にすることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
前記照射制御部は前記注視点のXY座標が前記画像表示面上から逸脱している間は、当該XY座標に基づいて前記照射面全体を非点灯にできることを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記注視点のXY座標が前記画像表示面上から逸脱している時間を逸脱時間として累積記録することを特徴とする請求項2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記照射面が、前記画像表示面と同一平面内に位置する第1照射面と、前記第1照射面の端部から前記ユーザ側にのびる第2照射面から成ることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項5】
前記点滅光の周波数が1~100Hzの範囲内であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光照射装置であり、特にアルツハイマー病等の認知症の治療に適した光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病等の認知症の治療方法として、体の神経系内の所定の部位に対して光の刺激パルスを与える方法が知られているが(特許文献1)、装置の一部を体内に埋め込む必要があり、実施するのは容易ではない。
本願発明者は低周波の光を連続点滅させて網膜に光刺激を与えることで認知症等を改善する光照射装置を開発した。光源は室内に設置したり、或いは眼鏡型等にしてユーザ(患者)の頭部に装着したりする(特許文献2及び3)。この光照射装置は設置・装着が容易なため、ユーザの自宅や介護施設等でも実施できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2008-520280号公報
【文献】特開2017-192812号公報
【文献】特許第6260953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
点滅光を網膜に照射する方法の場合、充分な治療効果を得るには点滅光をユーザの網膜に一定時間確実に照射する必要がある。上記特許文献2及び3のように光源を室内に設置する場合は点滅光が網膜に届きにくいという問題があり、眼鏡型等にして頭部に装着する場合には点滅光がユーザの中心視野近傍に照射され易くなるため眩暈が生じたり、ユーザが目を逸らしたりするおそれがある。
【0005】
本発明は上記のような問題を考慮して、点滅光をユーザの網膜に一定時間確実且つ安全に照射できる光照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光照射装置は、画像を表示する画像表示面に対向するユーザに向けて前記画像表示面の周囲に設けた照射面から点滅光を照射する照射部と、前記照射面上の任意の範囲における前記点滅光の点灯/非点灯を制御する照射制御部と、前記画像表示面上にXY座標系を定義したときに、前記ユーザの注視点のXY座標を検出する注視点検出部とを備えており、前記注視点を中心としたXY平面上の一定範囲が非照射領域として区画され、前記照射制御部は前記注視点のXY座標に基づいて前記非照射領域の位置を決定し、前記非照射領域の少なくとも一部が前記照射面と重なった場合、当該重なった範囲を非点灯にすることを特徴とする。


【0007】
また、前記照射制御部は前記注視点のXY座標が前記画像表示面上から逸脱している間は、当該XY座標に基づいて前記照射面全体を非点灯にできることを特徴とする。
また、前記注視点のXY座標が前記画像表示面上から逸脱している時間を逸脱時間として累積記録することを特徴とする。
また、前記照射面が、前記画像表示面と同一平面内に位置する第1照射面と、前記第1照射面の端部から前記ユーザ側にのびる第2照射面から成ることを特徴とする。
また、前記点滅光の周波数が1~100Hzの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明ではユーザの注視点を中心としたXY平面上の一定範囲を非照射領域として区画する。そして、画像表示面の周囲に設けた照射面から点滅光を点灯させながら、ユーザの注視点が画像表示面上を移動している間は照射面のうち非照射領域と重なった範囲を非点灯にする。点滅光がユーザの中心視野近傍に照射され難くなるため安全性及び忍容性を高めることができる。
注視点のXY座標が画像表示面上から逸脱したときは照射面全体を非点灯にすれば、ユーザが照射面を直視した場合に点滅光がユーザの中心視野近傍に照射されないため安全性及び忍容性を高めることができる。
画像表示面と同一平面内に位置する第1照射面と、第1照射面の端部からユーザ側にのびる第2照射面で照射面を構成することにすれば第2照射面からユーザの眼に対して斜め方向からも点滅光が入ることになるので治療効果をより高めることができる。
点滅光の周波数を1~100Hzの範囲内にすれば充分な治療効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】光照射装置の構成を示すブロック図
図2】光照射装置の正面図(a)及び側面図(b)
図3】画像表示面、注視点及び非照射領域を説明するための正面図(a)及び非照射領域の変形例を示す正面図(b)
図4】画像表示面と非照射領域が重なった状態を表す正面図
図5】注視点及び非照射領域が移動した状態を表す正面図(a)~(e)
図6】光照射装置の変形例を示す正面図
図7】光照射装置の変形例を示す正面図
図8】光照射装置の制御の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光照射装置の実施の形態について説明する。
図1~3に示すように光照射装置1は照射部10、照射制御部20、注視点検出部30、記憶部40等を備える。
ユーザUは画像表示面2に対してZ軸方向に離れた位置に居り、画像表示面2に対向した状態で画像表示面2に表示される画像(動画像又は静止画像)を観る。画像表示面2として周知の液晶ディスプレイ等を用いることができる。
照射部10は画像を観ているユーザUに向けて画像表示面2の周囲に設けた照射面21から点滅光を照射する。点滅光によってユーザUの網膜に光刺激が与えられる。
【0011】
点滅光を照射するための光源22は網膜の細胞が感知できる照度であればよく、必ずしもユーザUが認識できる照度を必要としない。点滅光の周波数としては1~100Hzの範囲内が好ましく、2~10Hzがより好ましい。1Hz以下の周波数による点滅ではシナプスの伝達が抑制されて抑制性が強く働き、10Hzを上回る周波数による点滅ではシナプスの伝達が高められて興奮性が高まることが知られている。したがって、抑制性や興奮性の影響が生じない中立的な周波数による点滅が好ましい。
光源22としてはLEDが好ましいが、有機EL、蛍光灯、白熱電球等を用いることもできる。LEDのような点光源22を使用する場合、多数の光源22を縦横に並べることで照射面21を構成する。
照射面21は画像表示面2の周囲全体(上下左右)に配置するのが最も好ましいが、周囲の一部のみ例えば上と左右に配置してもよい。図2(b)に示すように照射面21の表面を透光性を有するボード23で覆い、ボード23の背面側に光源22を配置している。これにより光源22からの点滅光がボード23を通過する際に適度に分散して面光源として機能するのでユーザUの網膜まで点滅光が届きやすくなる効果を得られ、また、LED等の点光源22からの強い点滅光が直接網膜に入ることを防止できる。照射面21は曲面であってもよい。
【0012】
照射制御部20は照射面21上の任意の範囲における点滅光の点灯/非点灯を制御するために設けられる。照射制御部20は多数の光源22それぞれの点灯/非点灯を制御しており、任意の範囲に存在する光源22をまとめて点灯/非点灯にすることができる。
注視点検出部30は画像表示面2上にXY座標系(図2)を定義したときに、ユーザUの注視点AのXY座標を検出するために設けられる。注視点Aの検出方法としては例えばユーザUの角膜反射を利用して瞳孔の位置を算出する方法等、周知の方法を使用すればよい。注視点検出部30はユーザUの注視点AのXY座標を検出し、照射制御部20に出力する。
【0013】
照射制御部20は注視点AのXY座標に基づいて非照射領域Bの位置を決定し、非照射領域Bの少なくとも一部が照射面21と重なった場合、当該重なった範囲B1(図5)を非点灯にし、かつ重ならない範囲を点灯にするために設けられる。
非照射領域Bとは注視点Aを中心としたXY平面上の一定範囲を指す。図3に示すように本実施の形態では非照射領域Bの形を画像表示面2の形(横長の長方形)と一致させている。つまり、図4に示すように、ユーザUが画像表示面2の中心を観ているときには非照射領域Bが画像表示面2と完全に重なった状態となる。非照射領域Bは必ずしも画像表示面2の形と一致させる必要はなく、例えば図3(b)に示すように注視点Aを中心とした正円形や楕円形であってもよい。非照射領域Bの形状に関する情報は予め記憶部40に記憶させておくものとする。光照射装置1を使用する際にユーザU等が非照射領域Bを長方形、正円形、楕円形等の中から選択できる仕組みにしてもよい。
【0014】
照射制御部20は注視点検出部30が出力する注視点AのXY座標を受信し、注視点Aの移動と一体に移動させる非照射領域Bの位置を決定する。図5(a)に示すように注視点Aが画像表示面2の中心にあり非照射領域Bが画像表示面2と一致した状態では照射面21の全体から点滅光が照射される。ユーザUは画像表示面2の中心を観ているので点滅光がユーザUの中心視野近傍部に照射されることがない。図5(b)に示すように注視点Aが画像表示面2上の中心以外のある一点に移動すると非照射領域Bも連動して移動する。照射制御部20は非照射領域Bのうち照射面21と重なった範囲B1(図中の斜線の範囲)を算出し、この重なった範囲B1の点滅光を非点灯にし、かつ重ならない範囲を点灯にする。注視点Aが画像表示面2の中心からずれると、重なった範囲B1から照射された点滅光がユーザUの中心視野近傍に至るおそれがあるが、本発明では重なった範囲B1の点滅光を照射制御部20が非点灯にするため点滅光が中心視野近傍に至るおそれがない。同様に図5(c)に示すように注視点Aが画像表示面2の隅に移動した場合、照射制御部20はこの重なった範囲B1の点滅光を非点灯にし、かつ重ならない範囲を点灯にする。
【0015】
照射制御部20は注視点AのXY座標が画像表示面2上から逸脱している間は、当該XY座標に基づいて照射面21全体を非点灯にすることができる。例えば図5(d)に示すように注視点AのXY座標が画像表示面2上から逸脱してすぐのタイミングで照射制御部20が照射面21全体を非点灯にすることにしてもよい。或いは注視点AのXY座標が画像表示面2上から逸脱した場合でもすぐには照射面21全体を非点灯にはせずに、図5(e)に示すように注視点AのXY座標が画像表示面2から大きく逸脱したタイミング(例えば注視点AのXY座標が照射面21の端付近まで移動したタイミング)で照射制御部20が照射面21全体を非点灯にすることにしてもよい。画像表示面2上から逸脱した注視点AのXY座標がどの位置まで移動したタイミングで照射面21全体を非点灯にするかは予め記憶部40に記憶させておけばよい。
照射制御部20は逸脱している時間、すなわち注視点AのXY座標が画像表示面2上から逸脱して再び画像表示面2上に戻ってくるまでの時間を「逸脱時間」として記憶部40に記憶させる。つまり、逸脱時間は注視点AのXY座標が画像表示面2上に無い時間を累積したものになる。上述の通り充分な治療効果を得るには点滅光をユーザUの網膜に一定時間確実に照射する必要がある。例えば点滅光を2時間ユーザUの網膜に照射する必要がある場合には、照射制御部20は点滅光の照射開始~現在までの時間から逸脱時間を引いた時間が2時間に達するまで点滅光の点灯/非点灯を制御する。これにより充分な治療効果を得ることができる。
【0016】
なお、図6に示すように照射面21のうち図中の太線Lで囲んだ範囲内21aは非照射領域Bと重なっていない場合/重なった場合に応じて点滅光の点灯/非点灯を制御する必要があるためLED等の光源22を縦横に密に配置することが好ましい。一方、太線Lで囲んだ範囲外21bは注視点AのXY座標が画像表示面2上にある場合は一斉に点滅光を点灯させ、注視点AのXY座標が画像表示面2から逸脱した場合は一斉に点滅光を非点灯にすればよい。したがって、太線Lで囲んだ範囲外21bでは治療に必要な照度を確保できてさえいれば光源22を密に配置する必要はない。
また、図7に示すように画像表示面2と同一平面内(X-Y平面内)に位置している照射面21を第1照射面24として、第1照射面21の端部からユーザU側にのびる第2照射面25を設けてもよい。
【0017】
次に光照射装置1の制御の一例について図8を用いて説明する。
まず画像表示面2に画像を表示すると共に照射面21全体を点灯させておく(S100)。
注視点検出部30はユーザUの視線を検出し(S101)、周知の手法により注視点AのXY座標を検出し(S102)、照射制御部20に出力する。
照射制御部20は注視点AのXY座標が画像表示面2上にあるか否かを判定する(S103)。そして注視点AのXY座標が画像表示面2上にある場合には(S103においてYes)、注視点AのXY座標に基づいて非照射領域Bの位置を決定し(S104)、照射面21のうち非照射領域Bと重なった範囲B1を非点灯にし、かつ重ならない範囲を点灯にする(S105)。
【0018】
次に照射制御部20は照射開始~現在までの時間から逸脱時間を引いた時間が所定の治療時間(例えば2時間)に達したかどうかを判定する(S106)。そして、所定の治療時間に達していない場合(S106においてNo)、ユーザUの視線検出を継続する(S101)。
また、照射制御部20はステップS103において注視点AのXY座標が画像表示面2上にないと判定した場合(S103においてNo)、逸脱時間の累積記録を開始し(S107)、注視点AのXY座標に基づいて必要がある場合には照射面21全体の点滅光を非点灯にする(S108)。逸脱時間の累積記録は注視点AのXY座標が画像表示面2上に戻るまで(ステップS103においてYes)継続する。
ステップS106において照射制御部20は照射開始~現在までの時間から逸脱時間を引いた時間が所定の治療時間に達した場合(S106においてYes)、光照射装置1の駆動を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、点滅光をユーザの網膜に一定時間確実且つ安全に照射できる光照射装置であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0020】
A 注視点
B 非照射領域
B1 重なった範囲
L 太線
U ユーザ
1 光照射装置
2 画像表示面
10 照射部
20 照射制御部
21 照射面
21a 太線で囲んだ範囲内
21b 太線で囲んだ範囲外
22 光源
23 ボード
24 第1照射面
25 第2照射面
30 注視点検出部
40 記憶部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8