(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】害虫防除用スプレー
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20240326BHJP
A01N 53/10 20060101ALI20240326BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240326BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A01N25/10
A01N53/10 210
A01P7/04
A01M1/20 C
(21)【出願番号】P 2020016788
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安芸 誠悦
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅代
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126960(JP,A)
【文献】特開2019-089738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内害虫の徘徊地域に噴霧塗付して使用される天然ピレトリンおよびセルロースナノファイバーを含む害虫防除用組成物であって、該セルロールナノファイバーの含有量が当該害虫防除用組成物全体量に対し0.04~0.2重量%であることを特徴とする
徘徊性害虫防除用スプレー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除用スプレーに関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の天然志向の高まりから、天然成分である除虫菊からの抽出物である天然ピレトリンを殺虫成分とするエアゾールが開発されている(特許文献1および2)。ゴキブリなどの徘徊性害虫を防除する場合、これらエアゾールを害虫に直接噴霧して防除する方法が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-257050号
【文献】特開2006-193466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、対象となる害虫を視認し、エアゾールやスプレーを直接噴射して防除しようとすると、害虫がソファーや家具などの調度品と床面との隙間に逃げ込んでしまい防除できなくなる状況に陥ることがあった。
【0005】
そこで本発明者らは、このような状況を防ぐべく検討した結果、屋内害虫の徘徊地域に特定の害虫防除用組成物を噴霧塗布しておくことにより、害虫が当該害虫防除用組成物に接触することで、安定した防除効果を達成できることを見出し本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、屋内害虫の徘徊地域に噴霧塗付して使用される天然ピレトリンおよびセルロースナノファイバーを含む害虫防除用組成物であって、該セルロールナノファイバーの含有量が当該害虫防除用組成物全体量に対し0.04~0.2重量%であることを特徴とする害虫防除用スプレーを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、屋内に棲息する徘徊性害虫を効率よく防除することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の害虫防除用スプレーに用いられる天然ピレトリンは、天然に存在する除虫菊からの抽出物である。該天然ピレトリンは、通常、ピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンIおよびジャスモリンIIの有効成分6種類を含有する。これら6種類の成分を合わせて総ピレトリンといい、本発明に使用される天然ピレトリンは総ピレトリン量が10~90%である。
【0009】
前記天然ピレトリンとしては、天然ピレトリンを含有する製剤、例えば、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)など少なくとも界面活性剤を1種類以上含有する製剤を使用することができる。前記天然ピレトリンを含有する製剤としては、例えば住化エンバイロンメンタルサイエンス(株)製のピレトリン40FL「SES」などが挙げられる。
【0010】
前記界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類のポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類及び糖アルコール誘導体などが挙げられる。
【0011】
前記害虫防除用組成物に含有する前記天然ピレトリンの含有量は、当該害虫防除用組成物の全体量に対し0.01~3重量%の範囲である。
【0012】
前記セルロースナノファイバーとしては、例えば「レオクリスタ(第一工業製薬登録商標)」(第一工業製薬製)、エレックス(大王製紙製)などセルロースナノファイバーを含有する製剤が挙げられる。
【0013】
前記害虫防除用組成物は、例えば前記天然ピレトリンを含有する製剤と前記セルロースナノファイバーを含有する製剤を夫々必要に応じて水で希釈し、その所定量混合することにより製造される。
【0014】
前記害虫防除用組成物には、さらに他の成分を配合させてもよく、例えば、香料、色素、顔料、デヒドロ酢酸ナトリウム、イソチアゾリン系化合物などの防腐剤、IPBCなどの防カビ剤などを配合してもよい。
【0015】
本発明の害虫防除用スプレーとしては、例えば、前記害虫防除用組成物を液化石油ガス、ジメチルエーテル、窒素ガス、炭酸ガスなどの噴射剤とともにエアゾール缶に充填したエアゾール型スプレー、あるいは、前記害虫防除用組成物をトリガースプレーなどの公知の噴霧器に充填した非エアゾール型スプレーなどが挙げられる。
【0016】
本発明の害虫防除用スプレーが防除対象とする徘徊性害虫としては、ゴキブリ、アリ、シラミ、トコジラミ、ムカデ、ゲジゲジ、ヤスデ、シミ、クモ、ワラジムシ、ダンゴムシ、コクヌスモドキ、タバコシバンムシ、コクゾウムシ、ヒョウホンムシ、カメムシなどが挙げられる。
【0017】
本発明の害虫防除用スプレーが噴霧塗付される害虫の徘徊地域としては、例えば屋内の床面や壁面の他、椅子、机などの調度品などが挙げられる
【実施例】
【0018】
以下に実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【ゴキブリに対する防除試験】
【0019】
〔スプレーの作成〕
[実施例1]
天然ピレトリン(住友化学株式会社製、天然ピレトリン含量:50重量)8重量%、界面活性剤としてニューカルゲン1066M(竹本油脂(株)製)6重量%およびノニポール70(三洋化成工業株式会社製)2重量%ならびに溶剤としてIPソルベント2028(出光興産株式会社製)84重量%を混合・撹拌することで、天然ピレトリンを4重量%含有する乳剤を得た(以下、乳剤Aと称す)。該乳剤Aをイオン交換水で20倍希釈し、天然ピレトリンを0.2重量%含有する希釈製剤を作成した(以下、希釈製剤Aと称す)。
次にレオクリスタ(第一工業製薬登録商標)I-2SX(第一工業製薬株式会社製、セルロースナノファイバー含量:2重量%)をイオン交換水で5倍希釈し、セルロースナノファイバーを0.4重量%含有する希釈製剤を作成した(以下、希釈製剤Bと称す)。
前記希釈製剤A、前記希釈製剤Bおよび水を重量比で1:0.2:0.8の割合で混合し、天然ピレトリン0.1重量%とセルロースナノファイバー0.04重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー1と称す)。
【0020】
[実施例2]
前記希釈製剤A、前記希釈製剤Bおよびイオン交換水を重量比で1:0.5:0.5の割合で混合し、天然ピレトリン0.1重量%とセルロースナノファイバー0.1重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー2と称す)。
【0021】
[実施例3]
前記希釈製剤Aおよび前記希釈製剤Bを重量比で1:1の割合で混合し、天然ピレトリン0.1重量%とセルロースナノファイバー0.2重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー3と称す)。
【0022】
[比較例1]
住化エンバイロンメンタルサイエンス(株)製のピレトリン40FL「SES」(天然ピレトリン含量:4重量%)をイオン交換水で40倍希釈し、天然ピレトリンを0.1重量%含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、比較用スプレーを作成した(以下、比較スプレー1と称す)。
【0023】
[比較例2]
前記希釈製剤A、前記希釈製剤Bおよびイオン交換水を重量比で1:0.1:0.9の割合で混合し、天然ピレトリン0.1重量%とセルロースナノファイバー0.02重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、比較用スプレーを作成した(以下、比較スプレー2と称す)。
【0024】
〔ゴキブリに対する防除効果試験〕
プラスチック製容器(直径80mm、高さ50mm)の側面にチャバネゴキブリの脱走防止用にマーガリンを塗布し、該容器の底に直径80mmとなるように切り取ったAdvantec製No.6ろ紙を2枚敷いた。
スプレーノズルの噴射パターンをSPRAYにして噴射孔が該ろ紙の中心域方向となるように位置調整し、該ろ紙から15cm離して、害虫防除用組成物が該ろ紙に約1.5ml付着するように噴霧塗布した。
次に、該プラステック製容器内にチャバネゴキブリ雄5頭雌5頭を放し、直径2mmの穴を20個設けた蓋をして、6時間後の苦悶死虫率を求めた。その後当該容器内の底面をアルミで覆い、当該アルミの上に水を含ませた脱脂綿および昆虫用固形飼料(オリンタル酵母工業(株))をセットし、24時間後の苦悶死虫率を求めた。上記試験を2反復し、それぞれの平均苦悶死虫率を算出した。表1に結果を示す。
【0025】
【ヒラタコクヌスモドキに対する防除試験】
【0026】
〔スプレーの作成〕
[実施例4]
希釈製剤Aをさらにイオン交換水で10倍希釈し、天然ピレトリンを0.02重量%含有する希釈製剤を作成した(以下、希釈製剤A-2とする。)
前記希釈製剤A-2、前記希釈液製剤Bおよび水を重量比で1:0.2:0.8の割合で混合し、天然ピレトリン0.01重量%とセルロースナノファイバー0.04重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー4と称す)。
【0027】
[実施例5]
前記希釈製剤A-2、前記希釈液製剤Bおよび水を重量比で1:0.5:0.5の割合で混合し、天然ピレトリン0.01重量%とセルロースナノファイバー0.1重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー5と称す)。
【0028】
[実施例6]
前記希釈製剤A-2と前記希釈製剤Bを1:1の割合で混合し、天然ピレトリン0.01重量%とセルロースナノファイバー0.2重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、本発明の害虫防除用スプレーを作成した(以下、本発明スプレー6と称す)。
【0029】
[比較例3]
住化エンバイロンメンタルサイエンス(株)製のピレトリン40FL「SES」(天然ピレトリン含量:4重量%)をイオン交換水で400倍希釈し、天然ピレトリンを0.01重量%含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、比較用スプレーを作成した(以下、比較スプレー3と称す)。
【0030】
[比較例4]
前記希釈製剤A-2、前記希釈製剤Bおよび水を重量比で1:0.1:0.9の割合で混合し、天然ピレトリン0.01重量%とセルロースナノファイバー0.02重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、比較用スプレーを作成した(以下、比較スプレー4と称す)。
【0031】
〔ヒラタコクヌスモドキに対する防除効果確認〕
Advantec製No.6ろ紙を2枚敷いたペトリディッシュ(東洋濾紙(株) ADVANTEC 品番PD-47A φ50×高さ11mm)を用意し、スプレーノズルの噴射パターンをSPRAYにして、噴射孔がこのペトリディッシュの中心域方向となるように位置調整し、該ろ紙から15cm離して害虫防除用組成物が該ろ紙に約0.35ml付着するよう噴霧塗布した。
害虫防除用組成物が噴霧塗布されたろ紙上にヒラタコクヌストモドキ成虫10頭を放虫し、2時間後と6時間後の苦悶死虫数を数えた。上記試験を2反復し、それぞれの平均苦悶死虫率を算出した。表2に結果を示す。
【0032】
【0033】
[参考試験例]
【モモアカアブラムシに対する防除試験】
【0034】
〔スプレーの作成〕
[参考例1]
前記希釈製剤Aおよび前記希釈製剤Bを重量比で1:1の割合で混合し、天然ピレトリン0.1重量%とセルロースナノファイバー0.2重量%を含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、害虫防除用スプレーを作成した(以下、参考スプレー1と称す)。
【0035】
[参考例2]
前記乳剤Aをイオン交換水で40倍希釈し、天然ピレトリンを0.1重量%含有する害虫防除用組成物を作成した。
該害虫防除用組成物を市販のトリガースプレー容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式TS800-1)を取り付け、比較用スプレーを作成した(以下、参考スプレー2と称す)。
【0036】
〔モモアカアブラムシに対する防除効果確認〕
スプレーノズルの噴射パターンをSPRAYにして、噴射孔がAdvantec製No.6ろ紙を2枚敷いたペトリディッシュ(東洋濾紙(株) ADVANTEC 品番PD-47A φ50×高さ11mm)の中心域方向となるよう位置調整し、該ろ紙から15cmm離して、害虫防除用組成物が該ろ紙に約0.35ml付着するように噴霧塗布した。
かかる害虫防除用組成物が噴霧塗布されたろ紙上にモモアカアブラムシ成虫1頭を放虫し、ガラスカップ(φ3cm×高さ20mm)を被せた。
前記モモアカアブラムシが該ガラスカップの壁面を這い上がる都度、ガラスカップの壁面を叩いてモモアカアブラムシをろ紙上に落下させながら、行動停止に至るまでの時間を求めた。なお、モモアカアブラムシが10秒間動かず、さらにモモアカアブラムシを針で刺激しても反応がない状態を行動停止とした。
上記試験を5反復し、行動停止に要した平均の時間を算出した。表3に結果を示す。
【0037】
【0038】
[参考製剤例]
下記化合物A5重量部およびニューカルゲンFS-26(竹本油脂製)1重量部を混合し、粉砕機にて平均粒子径が0.5μm程度となるように調製した後、イオン交換水94重量部加えることで化合物Aを5重量%含有する水性分散剤Aを得た。次に、イオン交換水を76重量部、前記希釈製剤Bを20重量部、前記水性分散剤Aを1.5重量部および前記乳剤Aを2.5重量部を混合・攪拌することで、天然ピレトリン0.1重量%、セルロースナノファイバー0.08重量%、化合物A0.075重量%含有する害虫防除用組成物を作成した。
【0039】
化合物A
式(1)
化合物(A)は、式(1)のR
1がフッ素であり、R
2がフッ素であり、Xが水素(m=3)であり、Yが水素(n=1)、塩素(n=1)、CF
3(n=2)であり、
(2-塩素、3-CF
3
、5-CF
3
)であり、R
3が水素である化合物である。