(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】診断装置、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240326BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N27/416 302M
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2020070820
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「レドックス環境応答能を持つ歯周病細菌由来の膜小胞」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0078993(US,A1)
【文献】特開昭60-114763(JP,A)
【文献】特開2008-286763(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188755(WO,A1)
【文献】特開2019-105564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の細菌感染を診断するための診断装置であって、
前記被験者の体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種の対象物から分離され、細菌が産生する膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサの前記電極の電位を掃引した際のオンセット電位、及び、ピーク電位からなる群より選択される少なくとも一方の固有電位を測定する測定部と、
前記細菌の種類と前記固有電位とを関連付ける基準データが格納された記憶部と、
前記基準データと前記測定の結果とを比較して、前記膜小胞を産生した前記細菌を同定するための情報を提供する解析部と、を有する、診断装置。
【請求項2】
前記電極の電位を掃引する方法が、得られる電流応答がピーク形状となる方法である、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記記憶部に、更に、
前記固有電位と、
ピーク電流の大きさに対する前記検体中の前記膜小胞の含有量の相関関係と、
を関連付ける第2の基準データが格納されている、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記検体が、更に過酸化水素を含有し、
前記測定部は、前記バイオセンサにリニアスイープボルタンメトリー法、又は、サイクリックボルタンメトリー法を適用する、請求項1に記載の診断装置。
【請求項5】
前記電極の電位を掃引する方法が、リニアスイープボルタンメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法、矩形波ボルタンメトリー法、及び、微分パルスボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種の方法である、請求項1に記載の診断装置。
【請求項6】
前記対象物が、血液、体腔液、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項7】
前記対象物が血液である、請求項1~6のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項8】
前記バイオセンサが、基材と、前記基材上に配置された前記電極とを有する請求項1~7のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項9】
前記細菌が、敗血症、及び、カテーテル関連血流感染症からなる群より選択される少なくとも一方の疾病の原因細菌である、請求項1~8のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項10】
前記細菌が、カテーテル関連血流感染症の原因細菌である、請求項1~9のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項11】
被験者の細菌感染を診断するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記被験者の体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種の対象物から分離され、細菌が産生する膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサの前記電極の電位を掃引した際の、オンセット電位、及び、ピーク電位からなる群より選択される少なくとも一方の固有電位を測定する段階と、
前記細菌の種類と前記固有電位とを関連付ける基準データと前記測定の結果とを比較して、前記膜小胞を産生した前記細菌を同定するための情報を提供する段階と、を実行させるプログラム。
【請求項12】
前記電極の電位を掃引する方法が、得られる電流応答がピーク形状となる方法である、請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
前記電極の電位を掃引した際のピーク電流の大きさを測定する段階と、
前記固有電位とピーク電流の大きさに対する検体中の膜小胞の含有量の相関関係とを関連付ける第2の基準データから、前記測定された固有電位に対応する前記相関関係を取得する段階と、
前記測定されたピーク電流の大きさを前記相関関係に適用し、検体中の前記膜小胞の含有量を計算して提供する段階と、を実行させる請求項12に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
菌血症は、血流中に細菌が存在する状態であり、ひ尿生殖器又は静脈内にカテーテルを留置したり、創傷を処置したりしたときに発生することがある細菌感染症である。なかでも敗血症は、急性循環不全により細胞障害及び代謝異常が重度となり、死亡率を増加させる可能性のある状態である「敗血症性ショック」を引き起こすことがある。
【0003】
従来、市中発症の敗血症の患者には、大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び、肺炎レンサ球菌を原因細菌と想定してβ-ラクタム系抗菌薬による抗菌化学療法が行われることが多かった。一方、院内発症の患者には、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の多剤耐性グラム陽性球菌を原因細菌として想定して、β-ラクタム系抗菌薬と抗MRSA薬の併用治療が行われることがあった。
【0004】
いずれの場合でも、早期の抗菌薬投与が死亡リスクを減少させると考えられており、血液検体等の培養による原発巣、及び、原因細菌の特定を待たずに抗菌化学療法が開始されることが多かった。
【0005】
一方、原発巣によって異なる原因細菌が想定されるなかで、それらが早期に判明すれば、その感染臓器に移行性がよく、その原因細菌に対して効果のより高いと証明されている、より安価な抗菌薬を選択することができる。
そのため、敗血症の治療では、早期の抗菌化学療法を開始しつつ、並行して血液培養し、及び、推定される感染部位からその他の培養検体を採取して培養し、必要に応じて画像診断等を併用しながら原発巣、及び、原因細菌を同定し、de-escalation(経験的治療で開始された広域抗菌薬を、原因細菌の抗菌薬感受性が判明したのち可及的速やかに狭域・単剤の抗菌薬へと変更すること。医療費の増大や耐性菌の発生に対して有効と考えられている。)を含む治療の最適化が図られてきた。
【0006】
しかし、血液培養は結果が得られるまでに長期間(具体的には、数日間)を要し、より短時間のうちにde-escalationを実施するためには、より迅速に原因細菌を特定できる技術が求められてきた。
【0007】
更に近年、血流感染において、従来の血液培養では正確な診断を行い得ない場合があることもわかってきている。
このようなケースとして、中心静脈カテーテル関連血流感染(central venous catheter-associated bloodstream infection:CVCA-BSI)が知られている。CVCA-BSIは、CVカテーテルの内側、及び/又は、外側に付着した細菌がバイオフィルムを形成するために引き起こされると考えられている。
【0008】
CVカテーテルの留置、及び、38℃以上の発熱等があった者について、血液、及び、カテーテル培養の両方ともが陰性であったにもかかわらず、カテーテルの外側の走査型電子顕微鏡観察でバイオフィルムの付着が確認された症例が非特許文献1に記載されている。
【0009】
上記のように、バイオフィルムを形成した細菌が原因で血流感染を発症すると、従来の血液培養等では検知、及び、原因細菌の特定が難しい場合がある。
このようなバイオフィルムを形成した状態の細菌に由来する菌血症であっても、より高感度に検知し、原因細菌を同定できる新たな技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】石原由華,太田美智男,“中心静脈カテーテル関連血流感染におけるカテーテルに形成されたバイオフィルムに関する検討”,日本環境感染学会誌,2009年2月16日,第23巻,第4号,p.258-266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の事情に鑑み、本発明は、バイオフィルムを形成した状態の細菌に由来する菌血症であっても、その原因細菌を同定するための情報を提供できる装置を提供することを課題とする。また、本発明は、プログラムを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0013】
[1] 被験者の体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種の対象物から分離され、細菌が産生する膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサの上記電極の電位を掃引した際のオンセット電位、及び、ピーク電位からなる群より選択される少なくとも一方の固有電位を測定する測定部と、上記細菌の種類と上記固有電位とを関連付ける基準データが格納された記憶部と、上記基準データと上記測定の結果とを比較して、上記膜小胞を産生した上記細菌を同定するための情報を提供する解析部と、を有する、診断装置。
[2] 上記電極の電位を掃引する方法が、得られる電流応答がピーク形状となる方法である、[1]に記載の診断装置。
[3] 上記記憶部に、更に、上記固有電位と、ピーク電流の大きさに対する上記検体中の上記膜小胞の含有量の相関関係と、を関連付ける第2の基準データが格納されている、[2]に記載の診断装置。
[4] 上記検体が、更に過酸化水素を含有し、上記測定部は、上記バイオセンサにリニアスイープボルタンメトリー法、又は、サイクリックボルタンメトリー法を適用する、[1]に記載の診断装置。
[5] 上記電極の電位を掃引する方法が、リニアスイープボルタンメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法、矩形波ボルタンメトリー法、及び、微分パルスボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種の方法である、[1]に記載の診断装置。
[6] 上記対象物が、血液、体腔液、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の診断装置。
[7] 上記対象物が血液である、[1]~[6]のいずれかに記載の診断装置。
[8] 上記バイオセンサが、基材と、上記基材上に配置された上記電極とを有する[1]~[7]のいずれかに記載の診断装置。
[9] 上記細菌が、敗血症、及び、カテーテル関連血流感染症からなる群より選択される少なくとも一方の疾病の原因細菌である、[1]~[8]のいずれかに記載の診断装置。
[10] 上記細菌が、カテーテル関連血流感染症の原因細菌である、[1]~[9]のいずれかに記載の診断装置。
[11] コンピュータに、被験者の体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種の対象物から分離され、細菌が産生する膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサの上記電極の電位を掃引した際の、オンセット電位、及び、ピーク電位からなる群より選択される少なくとも一方の固有電位を測定する段階と、上記細菌の種類と上記固有電位とを関連付ける基準データと上記測定の結果とを比較して、上記膜小胞を産生した上記細菌を同定するための情報を提供する段階と、を実行させるプログラム。
[12] 上記電極の電位を掃引する方法が、得られる電流応答がピーク形状となる方法である、[10]に記載のプログラム。
[13] 上記固有電位と、ピーク電流の大きさに対する検体中の膜小胞の含有量の相関関係と、を関連付ける第2の基準データを参照して、上記検体のピーク電流の測定結果から、上記検体中の膜小胞の含有量を判断するための情報を提供する段階と、を実行させる[12]に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バイオフィルムを形成した状態の細菌に由来する菌血症であっても、その原因細菌を同定するための情報を提供できる装置が提供できる。また、本発明によれば、プログラムも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Capnocytophaga属菌を培養した後に、得られた培養液を遠心分離して細菌を除去し、その後、上澄液をさらに超遠心して得た膜小胞のペレットを電解液に再度懸濁して微分パルスボルタンメトリー法で測定した結果である。
【
図2】本発明の一実施形態である診断装置のハードウェア構成図である。
【
図7】プログラムに従って動作する制御部の動作フローである。
【
図8】プログラムに従って動作する制御部の他の動作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
(用語の定義)
本明細書において、「被験者」とは、小児及び成人の菌血症患者(児)、並びに、その疑いのある患者(児)、又は、健常者(児)を意味し、一例として、病棟及び/又は外来で医師の診断を受けようとする人が挙げられる。
【0018】
また、本明細書において、「体液」とは、生体内の組織間、体腔内、及び、循環系を満たす液体を意味し、典型的には、血液、リンパ液、組織液、及び、体腔液(胸水、腹水、髄液、及び、関節液等)等が挙げられ、なかでも、無菌であることが通常であるものが好ましく、血液、又は、体腔液がより好ましい。
また、本明細書において、「分泌物」とは、咽頭分泌物、鼻腔分泌物、及び、喀痰等を意味する。
【0019】
また、本明細書において、「膜小胞(membrane vesicle;MV)」とは、細菌の外膜が出芽のような形式で外側に隆起して、袋状の塊となって細胞外に放出される自然の細胞機能に由来するものを意味し、「リポソーム」とは異なる。なお、本明細書において、グラム陰性細菌の外膜から放出されるMVを特に外膜小胞(outer membrane vesicle;OMV)という場合がある。MVの放出は、様々な細菌において確認されており、一般に、原核生物全体に共通する現象と考えられている。
【0020】
MVの大きさは、特に制限されないが、一般に20~400nmである場合が多い。形状は球状が多いものの、扁平、又は、棒状のものも知られている。
バイオフィルムを構成する細胞外マトリクス成分(EPS:Extracellular polymeric substances)に含まれるタンパク質はMV由来のものが多く存在することが知られており、バイオフィルムを構成する細菌は活発にMVを産生していると考えられている。
【0021】
なお、本明細書において、「バイオフィルム」とは、固相表面に付着した細菌、及び、細菌によって生産されるEPSによって構成される典型的には3次元構造を有する複合体を意味する。
【0022】
また、本明細書において、「細菌」とは、特に制限されないが、肺炎等の呼吸器感染症に関連する肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、レジオネラ菌、肺炎クラミジア、及び、マイコプラズマ等;心内膜炎等の血管内感染症に関連する、黄色ブドウ球菌、ビリダンス連鎖球菌、及び、腸球菌等;腹膜炎等の腹腔内感染症に関連する、大腸菌、及び、バクテロイデス・フラジーリス等;壊死性筋膜炎等の皮膚・軟部組織感染症に関連する、A群溶連菌、及び、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含む黄色ブドウ球菌等;腎盂腎炎等の尿路感染症に関連する大腸菌、クレブシエラ属菌、プロテウス属菌、エンテロバクター属菌、及び、腸球菌等;髄膜炎等の中枢神経感染症に関連する、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌、及び、リステリア属菌等;カテーテル関連血流感染症に関連する、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)を含むブドウ球菌、緑膿菌、エンテロバクター属菌、セラチア属菌、及び、カンジダ属菌等が挙げられる。
【0023】
また、本明細書において、「分離」とは、対象物から膜小胞を取り出す操作を意味し、例えば、遠心分離、及び、フィルタリング等が挙げられる。
また、本明細書において、「検体」とは、対象物から分離した膜小胞を含有する液体又は固体の試料を意味し、例えば、血漿と、膜小胞と、更にその他の成分とを含有する試料が挙げられる。なお、検体は細菌を含有しないことが好ましい。
【0024】
また、本明細書において、「オンセット電位」とは、電位(又はベースポテンシャル)を掃引した際に、電流が流れ始める電位を意味する。上記「電位」は、線形ボルタンメトリー法(LSV法)であれば、ベースポテンシャルを意味する。
ここで、「電流が流れ始める」とは、電位(又は、ベースポテンシャル)-電流の関数において、曲線が立ち上がり、電流が検出されはじめる位置の電位(又は、ベースポテンシャル)を意味する。
【0025】
また、本明細書において「敗血症」の定義は、「JAID/JCC感染症治療ガイドライン2017-敗血症およびカテーテル関連血流感染症-」(日本化学療法学会雑誌 Vol.66、2018年1号(1月)p.82~117)の記載に準拠する。具体的には、「感染に対する生体反応の調節不全で,生命を脅かす臓器障害が生じた状態」、又は、その疑いのある状態を意味する。
【0026】
また、本明細書において、「カテーテル関連血流感染症」の定義は「JAID/JCC感染症治療ガイドライン2017-敗血症およびカテーテル関連血流感染症-」(日本化学療法学会雑誌 Vol.66、2018年1号(1月)p.82~117)の記載に準拠する。具体的には、少なくとも1つの経皮的に採取された血液培養とカテーテル先端培養が陽性であるか、又は、経皮的血液採取とカテーテルから採取された血液培養が陽性である状態を意味する。
また、血液培養(経皮的採取、及び、カテーテルから採取)、並びに、カテーテル先端培養の結果が陰性である場合であっても、カテーテルの留置が原因で菌血症を発症していることが疑われる場合は、本明細書においては「カテーテル関連血流感染症」に含まれるものとする。
【0027】
[診断装置]
本発明に係る診断装置は、被験者の体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種の対象物(以下、単に「対象物」ともいう。)から分離され、細菌が産生する膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサの上記電極の電位を掃引した際のオンセット電位、及び、ピーク電位からなる群より選択される少なくとも一方の固有電位を測定する測定部と、上記細菌の種類と上記固有電位とを関連付ける基準データが格納された記憶部と、上記基準データと上記測定の結果とを比較して、上記膜小胞を産生した上記細菌を同定するための情報を提供する解析部と、を有する。
【0028】
上記診断装置により本発明の効果が得られる推測機序について、説明する。
図1には、Capnocytophaga属菌を培養した後に、得られた培養液を遠心分離して細菌を除去し、その後、上澄液をさらに超遠心して得たMVのペレットを電解液に再度懸濁してDPV法で測定した結果を示した。
【0029】
図1中、「CO OMVs」とあるのはCapnocytophaga属菌のMVによる電位(VS SHE:標準水素電極)-電流曲線を表し、「PG OMVs」とあるのは、Porphyromonas gingivalis菌の電位-電流曲線を表す。
なお、
図1の縦軸の「Idelta/μA」とは、パルスの前とパルスの後での差分電流を表す。
【0030】
図1によれば、「CO OMVs」は、-0.1Vにオンセット電位、0.1Vにピーク電位を有し、「PG OMVs」は、-0.4Vにオンセット電位、-0.1Vにピーク電位を有することがわかる。
このように、MVの固有電位がMVの種類、すなわち、それを産生した細菌の種類に特異的であり、また、データは示していないが、MVのピーク電流の大きさが検体中におけるMVの含有量と相関することを本発明者は初めて知見し、本発明を完成させた。
言い換えれば、本診断装置は、MVが電極の電位を掃引することで検出可能であり、かつ、MVの固有電位が、そのMVを産生した細菌の種類に特異的であるという本発明者が得た新たな知見を基本的な測定原理としている。
【0031】
電極の電位を掃引する方法としては、ピーク電位、及び、ピーク電流の測定結果が得られ、膜小胞の含有量の定量ができる点で、得られる電流応答がピーク形状となる方法が好ましい。得られる電流応答がピーク形状となる方法としては、例えば、微分パルスボルタンメトリー(DPV)法、サイクリックボルタンメトリー(CV)法、及び、矩形波ボルタンメトリー(Square Wave Voltammetry、SWV)等が挙げられ、より優れた本発明の効果を有する診断装置が得られる点で、DPV法が好ましい。
【0032】
検体は対象物から分離された膜小胞を含む。対象物から膜小胞を分離する方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いればよい。例えば、検体が血液であれば、全血を遠心分離して血漿を得て、更に超遠心して固形分としてMVを得て、この固形分を電解液に分散させればよい。
また、遠心分離した血漿を所定の孔径(例えば、0.02~0.1μmであることが多い)を有する滅菌メンブレンフィルタでろ過して用いてもよい。
【0033】
遠心分離の方法としては特に制限されないが、公知の遠心分離機を使うこともできるし、Powell, D. Spinning toy reinvented as low-tech centrifuge. Nature (2017) doi:10.1038/nature.2017.21273に記載されたような手回しの方法によることもできる。
【0034】
検体は、上記以外に過酸化水素を含有していてもよい。本発明者は、MVの表面の酵素が過酸化水素の還元反応を触媒することを知見している。電極からMVに電子が与えられる条件下では、反応が継続的に進行するため、これにより得られた電荷を積算することによって、より高感度にMVを検出できる。
この傾向はCV法、又は、LSV法を用いた場合により顕著であり、LSV法を用いた場合に更に顕著である。すなわち、CV法、又は、LSV法を適用する場合、検体は過酸化水素を含有することが好ましく、LSV法を適用する場合、検体は過酸化水素を含有することが特に好ましい。
このとき、検体中における過酸化水素の含有量としては特に制限されず、3,3′-diaminobenzidine(DAB)染色等で用いられる過酸化水素の量等を参照し、適宜定めればよい。
【0035】
既に説明した通り、本診断装置によれば、対象物に含まれる細菌由来のMVの電気化学的な性質を応用して高感度にその存在を検知できる。そのため、対象物に細菌自体が含まれていない場合であってもMVさえ含まれていれば検出することができる。
被験者になんらかの細菌感染が生じていて、特に、細菌がバイオフィルムを形成していて、血液等に細菌自体が放出されにくい場合であっても、細菌感染の発生の可能性、及び、その原因細菌を判断するための情報を本診断装置は提供できる。
【0036】
すでに説明したとおり、バイオフィルムの形成過程、及び/又は、バイオフィルムが形成された状態では、MVが多く放出(例えば血液等に)されることが示唆されており、本診断装置によれば、被験者に細菌感染症が生じた可能性があること、及び、その原因細菌の種類を判断するための情報がより簡便に提供できる。
【0037】
本診断装置により提供される細菌の種類の情報をもとに、医師が原発巣、及び、原因細菌を推定判断して、例えば、菌血症の治療のより初期の段階からde-escalationを実施できる。
【0038】
次に、本発明に係る診断装置について図面を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態である診断装置200のハードウェア構成図である。診断装置200は、プロセッサ201と、記憶デバイス202と、測定デバイス203と、入力デバイス204と、出力デバイス205と、を有する。上記各デバイスは、バス206を介して接続され、相互にデータを交換できるよう構成されている。
【0039】
プロセッサ201は、診断装置200を制御する。記憶デバイス202は、プロセッサ201の作業エリアとなる。また、記憶デバイス202は、各種プログラムやデータを記憶する非一時的な、又は、一時的な記録媒体である。
【0040】
プロセッサは、例えば、CPU(中央演算装置)、及び/又は、GPU(グラフィックスプロセッシングユニット)等を利用できる。
記憶デバイス202は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等を利用できる。
【0041】
測定デバイス203は、対象物から分離された膜小胞を含有する検体に対して接触するよう配置された少なくとも2つの電極を有するバイオセンサ207を着脱できるよう構成されている。測定デバイス203は、バイオセンサ207が有する電極を接続させるための接続端子;測定時の検体の温度を制御するための温調ブロック;電極の電位等を調整可能なポテンシオ/ガルバノスタット;等を含むユニットである。
【0042】
入力デバイス204は、入力用のデバイスである。入力として、測定の開始、停止、測定条件、及び、検体の識別用の記号等が挙げられる。
入力デバイス204としては、例えば、キーボード、ボタン、マウス、タッチパネル、テンキー、及び、スキャナ等がある。
出力デバイス205は、出力用のデバイスである。出力として、測定データ、測定の進捗状況、操作手順、及び、診断装置の状態等が挙げられる。
出力デバイス205としては、例えば、ディスプレイ、及び、プリンタ等がある。
【0043】
図3は、診断装置200の斜視図である。診断装置200は、本体301に配置された、ボタン302と、ディスプレイ303と、バイオセンサ207を装填するための挿入口304とを有している。
ボタン302は入力デバイス204であり、ディスプレイ303は出力デバイス205である。
【0044】
また、本体301内には、図示しない回路基板が配置されている。回路基板上には、プロセッサ201、記憶デバイス202、及び、測定デバイス203が配置されている。
測定デバイス203は、挿入口304から挿入されるバイオセンサ207と電気的に接続され得る。
【0045】
ユーザは、バイオセンサ207を挿入口304を経由して挿入し、ディスプレイ303に表示される指示に従ってボタン302を操作し、所望の測定を行うことができる。
【0046】
図4、及び、
図5は、バイオセンサ207の分解斜視図である。バイオセンサ207は、典型的にはディスポーザブルであり、測定ごとに新たなバイオセンサを用いることにより、より正確な測定を行うことができる。
【0047】
バイオセンサ207は、検体が導入され、測定が行われる領域(以下、この領域を「セル」ともいう。
図4中、「CELL」と表示した)と、セルに導入された検体と接触するように配置された一対の電極401(第1電極401aと第2電極401bから構成されている)とを有している。
【0048】
セルは、支持体402の上面と、支持体402上に配置されたキャピラリ基材403の凹欠部の側面と、カバー404の下面とにより画された領域であり、検体は導入口405から導入され、キャピラリ406を流通してセルに導入される。キャピラリ406を経て、検体はセルへと流入し、一対の電極401と接触される。
【0049】
第1電極401a、及び、第2電極401bは、バイオセンサ207が、
図3に示した挿入口304から挿入されると、本体301内に配置された回路基板上に配置された測定デバイス203が有する接続端子と電気的に接続され、LSV法、及び、DPV法による測定が可能になる。
【0050】
また、支持体402、キャピラリ基材403、及び、カバー404の厚みとしては特に制限されず、適宜選択可能であるが、取り扱いが容易である観点から、典型的には0.1μm~10mmが好ましい。
【0051】
なお、本発明に係る診断装置の実施形態としては、上記に制限されず、バイオセンサ207と診断装置200とが一体として構成されていてもよい。バイオセンサと診断装置とが一体である場合、測定装置の構造がより簡素であるため、測定装置の製造がより容易となる。
【0052】
ここで、診断装置200は入力デバイス204として、ボタン302を有しているが、本発明に係る診断装置の実施形態としては上記に制限されず、入力デバイス204はボタンでなくてもよい。例えば、ディスプレイ303がタッチパネル機能を有し、入力デバイス204を兼ねてもよい。この場合、ディスプレイ303の表示によるGUI(Graphical User Interface)を介して、オペレータによる測定の開始等の指示を受ける形態であってもよい。
また、測定は、バイオセンサ207が挿入口304に装填されると自動的に開始されるよう構成されていてもよい。
【0053】
診断装置200は、出力デバイス205として、ディスプレイ303を有しているため、測定条件の設定から診断結果の表示に係る一連の段階を一台で実施することができ、簡便な操作で細菌の種類(MVを産生した細菌の種類)を特定するための情報が提供できる。
【0054】
図4に戻り、次に電極について説明する。診断装置200が有する第1電極401aは作用電極であり、第2電極401bは対電極である。この2つの電極(電極対)は基材上に形成されている。
【0055】
上記構成を有するバイオセンサ207を診断装置200に接続すると、第1電極401a(作用電極)の電位を変化させ、得られる電流値を測定できる。
なお、バイオセンサ207は、作用電極(第1電極401a)と、対電極(第2電極401b)とを有しているが、この配置は逆でもよい。すなわち、対電極である第1電極401aと、作用電極である第2電極401bとを有していてもよい。
また、上記に加えて、更に別の電極(第3電極)を検体に接するように有していることが好ましい。この場合第3電極は参照電極であることが好ましい。バイオセンサが参照電極を有する場合、電極電位を測定することができるため、より優れた本発明の効果を有する診断装置が得られる。
【0056】
図4においては、カギ型に組み合わされた一対の電極を示したが、電極の形状は上記に特に制限されず、櫛形電極(interdigit電極)であってもよい。これらの電極は、公知の方法で製造することができ、例えば、フォトリソグラフ法、メッキ法、及び、印刷法等によって支持体上にパターン状に電極を配置することが可能である。電極間の距離等についても特に制限されず、電気化学セルとして公知の距離とすればよい。なかでも、より少ない検体(具体的には、0.001~5ml)でも好感度に測定が行える点で、検体に接する電極の面積として1cm
2以下であることが好ましい。
【0057】
電極の材料としては特に制限されず、公知の電極材料が使用できる。電極材料としては、例えば、炭素、金、白金、銀、モリブデン、コバルト、ニッケル、パラジウム、及び、ルテニウム等が挙げられ、酸化インジウムスズ等であってもよい。
【0058】
なお、参照電極としては、公知の参照電極を使用でき、例えば、銀/塩化銀電極等が使用可能である。また、対電極としては、公知の対電極を使用できる。
【0059】
再び
図4、及び、
図5に戻って、次に、支持体402、キャピラリ基材403、及び、カバー404について説明する。
上記各部材の組み合わせによってセルが形成されることはすでに説明したとおりであり、いずれの部材も絶縁性材料で構成されることが好ましい。
【0060】
絶縁性材料としては、有機材料、無機材料、及び、これらの複合体等が挙げられ、より具体的には、樹脂、及び、紙等;ガラス等;が挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及び、ポリエチレン(PE)等の熱可塑性樹脂;ポリイミド樹脂、及び、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;等が挙げられる。
絶縁性材料としては、例えば、ガラス、及び、紙等であってよい。
【0061】
セルの大きさは特に制限されないが、検体の量に応じて適宜選択可能であり、0.0001~5ml程度の容量であることが好ましい。
【0062】
図6は、診断装置200の機能ブロック図である。診断装置200は、制御部601と、操作部602と、出力部603と、測定部604、記憶部605と、解析部606と、を有する。
【0063】
制御部601は、プロセッサ201を含んで構成され、操作部602、出力部603、測定部604、記憶部605、及び、解析部606のそれぞれを制御して診断装置200の機能を実現する。
【0064】
測定部604は、測定デバイス203を含んで構成される。測定部604は、記憶デバイス202に記憶されたプログラムがプロセッサ201により実行され、これにより制御された測定デバイス203によって実現される機能である。
【0065】
ここで、測定部604が接続される電極部607は、バイオセンサ207の電極401を含んで構成される。電極部607は、測定部604によって制御される。
また、検体捕捉部608は、バイオセンサ207の導入口405、キャピラリ406、及び、セルを含んで構成され、バイオセンサ207に導入された検体をセル内に捕捉し、電極401と接触させて保持する機能を有する。
【0066】
測定部604によってバイオセンサの電極の電位が掃引され、検体の固有電位が測定される。
【0067】
記憶部605は、記憶デバイス202を含んで構成される。記憶デバイス202には、プロセッサ201が各部を制御するためのプログラム、計算を行うためのプログラム、及び、基準データ等が予め記憶されている。
【0068】
この基準データは、細菌の種類と固有電位とを関連付けるデータである。基準データは、以下の手順によって準備されることが好ましい。
【0069】
・基準データの作成手順
まず、既知の細菌が産生したMVを含有する試験検体を準備する。
次に、その試験検体について、本診断装置(又は、本診断装置と同様の測定条件を実現可能な他の装置でもよい。)を用いて電極の電位を掃引し、固有電位を測定する。
【0070】
得られた固有電位は、試験検体に含まれるMVを産生した細菌の種類の情報と組み合わせて1個のレコードを構成する。
なお、本明細書では、細菌の種類と、それに対応する固有電位の個々の組み合わせのことをレコードという。
【0071】
なお、レコードは、少なくともMVを産生した細菌の種類と対応する固有電位の情報とが含まれていてもよく、他の情報が含まれていてもよい。
【0072】
基準データは、異なる細菌についての上記レコードを複数有するデータのまとまりとして構成されることが好ましい。
なお、本明細書では、複数のレコードのまとまりとして構成されるデータをテーブルと称する。
すなわち、基準データは、複数のレコードからなるテーブルであることが好ましい。
【0073】
また、電極の電位を掃引する方法が、DPV法のように、得られる電流応答がピーク形状となる方法の場合、記憶部605には、固有電位と、ピーク電流の大きさに対する検体中の膜小胞の含有量の相関関係と、を関連付ける第2の基準データが記憶されていてもよい。
【0074】
・第2の基準データの作成手順
同一の細菌が産生したMVを含有し、その含有量だけが異なる複数の試験検体を準備する。
次に、それらの試験検体について、本診断装置(又は、本診断装置と同様の測定条件を実現可能な他の装置でもよい。)を用いて電極の電位を掃引し、ピーク電位とピーク電流(の大きさ)とを測定する。なお、この際あわせてオンセット電位を測定してもよい。
【0075】
ピーク電流の大きさとMVの含有量との間には相関関係があることを本発明者らは知見しており、複数の試験検体のピーク電流の大きさとMVの含有量のデータからこの相関関係を算出できる。
第2の基準データは上記の相関関係と固有電位とを関連づけるデータである。
【0076】
図6に戻り、記憶部605は、プロセッサ201により制御された記憶デバイス202によって、これらのデータ等を読み出し、及び、書き込むことができる機能である。
【0077】
解析部606は、記憶デバイス202に記憶されたプログラムがプロセッサ201により実行され実現される機能である。解析部606によって、測定部604によって得られた検体の固有電位が記憶デバイス202に記憶された基準データと比較され、MVを産生した細菌の種類を同定するための情報が提供される。
【0078】
操作部602は、入力デバイス204を含んで構成され、ユーザ操作を受け付ける機能を有する。
また、出力部603は出力デバイス205を含んで構成され、各種の情報、及び、データを表示等する機能を有する。
【0079】
(診断装置の動作)
次に、診断装置200の動作について説明する。
診断装置200はプログラムに従って、以下のとおり動作する。
図7は、上記プログラムに沿って動作する制御部601の動作フローである。
【0080】
バイオセンサ207が本体301の挿入口304に挿入され、バイオセンサ207と本体301に収容された回路基板とが接続されると、ユーザの指示により(又は、バイオセンサの挿入が検知され)、測定が開始される。
【0081】
まず、制御部601は、測定部604を制御して、バイオセンサ207の電極の電位を掃引して、固有電位を測定する(ステップS701)。
次に、制御部601は、解析部606を制御して、上記固有電位と基準データとを比較する(ステップS702)。
【0082】
ここで、基準データと、測定された固有電位(以下、「測定結果」ということがある。)との比較方法の一例を説明する。
まず、測定結果は、テーブルに含まれる各レコードの固有電位と比較される。測定結果と各レコードの固有電位を比較し、測定結果がレコードのいずれかに帰属される場合(ステップS703:YES)、制御部601は、出力部603を制御して、上記細菌の種類の情報を出力デバイス205に表示する(ステップS704)。
【0083】
なお、測定結果の帰属についての基準は、予め定められ、記憶部に記憶されていることが好ましい。
帰属についての基準は、例えば、測定結果と各データの固有電位との差(絶対値)が予め定めた数値以下である場合、測定結果をそのレコードに帰属させる等であってもよい。
【0084】
一方、基準データのいずれのレコードにも測定結果が帰属されない場合(ステップS703:NO)、測定は終了する。
なお、このとき、制御部601は、出力部603を制御して、その旨を出力デバイス205に表示してもよい。
【0085】
図7のフローによれば、検体中に含まれるMVを産生した細菌を同定するための情報が提供される。バイオフィルムに由来する感染症等では、血中に菌自体が放出されにくい場合もあり、本装置に上記フローを適用すると、このような場合であっても、細菌感染、及び、その原因菌を推定させる有力な情報が提供できる。
【0086】
図8は、診断装置200の制御部601の他の動作フローである。
まず、バイオセンサ207が本体301の挿入口304に挿入され、バイオセンサ207と本体301に収容された回路基板とが接続されると、ユーザの指示により(又は、バイオセンサの挿入が検知され)、測定が開始される。
【0087】
まず、制御部601は、測定部604を制御して、電流応答がピーク形状となる方法によってバイオセンサ207の電極の電位を掃引し、少なくともピーク電位を含む固有電位と、ピーク電流の大きさとを測定する(ステップS801)。
次に、制御部601は、解析部606を制御して、固有電位を基準データと比較する(ステップS802)。
【0088】
測定結果と各レコードの固有電位を比較し、測定結果がレコードのいずれかに帰属される場合(ステップS803:YES)、制御部601は、次に、解析部606を制御して、測定で得られた固有電位と第2の基準データの各レコードの固有電位とを比較し、対応する相関関係を取得する(ステップS804)。
【0089】
次に、制御部601は、解析部606を制御して、ピーク電流の大きさの測定結果を上記相関関係に適用し、検体中のMVの含有量を計算する(ステップS805)。
次に、制御部601は、出力部603を制御して、上記細菌の種類、及び、MVの含有量の情報を出力デバイス205に表示する(ステップS806)。
【0090】
一方、基準データのいずれのレコードにも測定結果が帰属されない場合(ステップS803:NO)、測定は終了する。
なお、このとき、制御部601は、出力部603を制御して、その旨を出力デバイス205に表示してもよい。
【0091】
図8のフローによれば、検体中に含まれるMVを産生した細菌の種類を判断するための情報に加えて、検体中のMVの含有量を判断するための情報も提供できる。検体中のMVの含有量は、被験者の体内におけるMVを産生した細菌の活動状態、例えば、バイオフィルムを形成している、及び、増殖している等と関連すると考えられる。本装置に上記フローを適用すると、治療方針の策定等のためにより有用な情報が提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本診断装置は、被験者から体液、分泌物、及び、尿からなる群より選択される少なくとも1種を採取し、上記から膜小胞を含有する検体を得て、これを適用したバイオセンサを装填するだけで、細菌感染症の原因細菌の同定に必要な情報を迅速に提供できる。
【符号の説明】
【0093】
200 :診断装置
201 :プロセッサ
202 :記憶デバイス
203 :測定デバイス
204 :入力デバイス
205 :出力デバイス
206 :バス
207 :バイオセンサ
301 :本体
302 :ボタン
303 :ディスプレイ
304 :挿入口
401 :電極
401a :第1電極
401b :第2電極
402 :支持体
403 :キャピラリ基材
404 :カバー
405 :導入口
406 :キャピラリ
601 :制御部
602 :操作部
603 :出力部
604 :測定部
605 :記憶部
606 :解析部
607 :電極部
608 :検体捕捉部