(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】スローアウェイチップを用いた切削方法及び切削装置
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20240326BHJP
B23B 3/10 20060101ALI20240326BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B23B1/00 Z
B23B3/10
B23B27/00 B
(21)【出願番号】P 2020081622
(22)【出願日】2020-05-02
【審査請求日】2023-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515000834
【氏名又は名称】株式会社雀宮産業
(74)【代理人】
【識別番号】100144358
【氏名又は名称】藤掛 宗則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英行
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007050(JP,A)
【文献】特開昭60-155339(JP,A)
【文献】特開2017-196693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-B23D 81/00;
B23Q 1/00-41/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形状又は円弧形状に形成された刃部を有するスローアウェイチップを用いて、外周側面に酸化層を有する円柱形状の被切削物の
黒皮除去と粗加工とを同時に行う切削方法であって、
前記被切削物を水平方向に回転する回転台に載置して当該被切削物の外周側面及び上面を切削可能にする工程、
前記被切削物の外周側面を切削対象面とし、当該外周側面の前記酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する工程、
前記回転台を介して前記被切削物を回転させる工程、
前記回転する前記被切削物に対して、
前記被切削物の上面における前記切削領域内で、且つ、当該上面
の端部より内方の領域に当該刃部の突端を侵入させ
てから、
当該上面の端部より内方の領域に当該突端を侵入させた当該刃部を当該被切削物の外周側面に平行する方向に移動させて
、当該被切削物の黒皮が当該被切削物の外周側面の内側から外側に向かうように切削する工程、を有することを特徴とする、
切削方法。
【請求項2】
円形状又は円弧形状に形成された刃部を有するスローアウェイチップを用いて、外周側面に酸化層を有する円柱形状の被切削物の
黒皮除去と粗加工とを同時に行う切削装置であって、
前記被切削物を水平方向に回転する回転台に載置して当該被切削物の外周側面及び上面を切削可能にする回転機構と、
前記被切削物の外周側面を切削対象面とし、当該外周側面の前記酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する設定手段と、
前記回転する前記被切削物に対して、
前記被切削物の上面における前記切削領域内で、且つ、当該上面
の端部より内方の領域に当該刃部の突端を侵入させ
てから、
当該上面の端部より内方の領域に当該突端を侵入させた当該刃部を当該被切削物の外周側面に平行する方向に移動させて
、当該被切削物の黒皮が当該被切削物の外周側面の内側から外側に向かうように切削する
侵入手段と、を有することを特徴とする、
切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に黒皮が付いた状態の被切削物をスローアウェイチップを用いて切削する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を円盤状または円柱状に加工するための切削手段として、一般的には旋盤が用いられる。旋盤による切削加工では、高速回転する被切削物(ワークと称する場合もある)に対して超硬合金製の先端を持ったバイトを直接、又は、切削油を介して当てて切削する方法が一般的である。代表的な切削例としては、旋盤によりワークの表面から硬質な酸化膜である黒皮を除去する切削加工がある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された加工方法は、DRCT切削法、SRCT切削法、CDRCT切削法等の切削加工を実施する際において用いるものである。具体的には、市販焼結品の丸コマチップ(スローアウェイチップの一種)をそのまま取り付けて回転軸に挿入固定して使用する従来の方式に比較して、丸コマチップの取付け誤差があっても、また、丸コマチップの内・外径の真円度が高くなくとも、作物の切削加工において、容易に3ミクロン以下より好ましくは2ミクロン以下の切れ刃回転精度にできる、としている。
【0004】
また、特許文献2に記載の加工方法は、測定工程として工作機械の機上でレーザ式測定装置によりワーク黒皮面の凹凸(表面粗さ)を測定して最も高い山頂部分と最も低い谷底部分との間の高さを求める。この測定結果に応じて黒皮除去量を設定することで1回の切り込み回数で黒皮残りが生じるのを防止し、黒皮を確実に除去することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-279665号公報
【文献】特開2010-58238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、黒皮除去の対象となるワークとして航空機部品がある。航空機部品の材料は、一般的に機械的性質向上のための熱処理等を行なった塊状(多くの場合は直方体)の難削材が使用される。難削材とは、例えばチタン合金(Ti-6Al-4V)、あるいは超耐熱合金などであり素材そのものが削りにくく、機械加工しにくい材料である。
このような難削材の加工においては、一般的に、生産性向上を図るため黒皮除去、粗加工(例えば、仕上げ加工に必要な最低限度の加工取り代(削り代)のみ残す切削、余肉取りとも称す)、仕上げ加工など各工程に分かれる。各工程を順序に沿って、これら工程それぞれに適した刃具を用いて切削加工等が行われる。また、材料強度の問題から熱処理やある種のピーニング処理を施したワークの場合には、材料の状態に応じて段階的に切削条件を変化させていく必要がある。
【0007】
いわゆる黒皮を除去する工程では、一般的には黒皮のみを残さず切削するように注意して加工が行われる。具体的には、鋭利な超鋼先端を持つチップ(スローアウェイチップ等)や丸コマチップを保持した工具等を用いて切削する方法が採用されている。その際には、黒皮の切削漏れ、いわゆる黒皮残りが発生しないように注意深く各種条件出しを行いながら進められる。なお、丸コマチップは、すくい面と逃げ面の作る稜が環状に連続している切れ刃を有するチップである。
【0008】
黒皮は、例えば
図7に示すように、被切削物を回転させた状態で丸コマチップを矢印(1)方向から当該被切削物の表面(切削対象面)に当てて、矢印(2)に移動させることで黒皮を除去する。このとき、丸コマチップと被切削物は
図7に示すような接触域で接触して黒皮を除去していることになる。また、黒皮を除去した後に別工程にて黒皮除去後の被切削物を所定のサイズまで切削する粗加工が行われる。
【0009】
また、部分的に加工残り(黒皮残り)が生じるとワーク全体に歪みが生じるため、加工残りは避けなければならない。しかしながら、先述した加工方法など表面層の厚みを正確に測定しながら表面層を除去する方法では加工時間が相対的に長くなってしまう。また、加工工程の効率向上を図ることができない、という課題が残る。
また、従来の切削方法では、黒皮除去と粗加工を同時に行い単位時間当たりの切削量を増加させれば、チップ自身の割れやチッピング等の損傷やワークの損傷が発生することが多々おきてしまうことになる。そのため、ワークを損傷せず、またチップ自身の割れやチッピング等の損傷を限りなく抑え込み、工程の効率化や加工時間を含めた加工コストを低減させることができる切削方法(加工方法)が求められている。
【0010】
本発明は、切削対象面に酸化層を有する被切削物の切削加工において、加工工程を効率化しつつ、スローアウェイチップ自身の割れやチッピング等の損傷、ワーク損傷の発生を低減することができる切削方法を提供することを、主たる課題とする。また、これに適した切削装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の切削方法は、円形状又は円弧形状に形成された刃部を有するスローアウェイチップを用いて、外周側面に酸化層を有する円柱形状の被切削物の黒皮除去と粗加工とを同時に行う切削方法であって、前記被切削物を水平方向に回転する回転台に載置して当該被切削物の外周側面及び上面を切削可能にする工程、前記被切削物の外周側面を切削対象面とし、当該外周側面の前記酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する工程、前記回転台を介して前記被切削物を回転させる工程、前記回転する前記被切削物に対して、前記被切削物の上面における前記切削領域内で、且つ、当該上面の端部より内方の領域に当該刃部の突端を侵入させてから、当該上面の端部より内方の領域に当該突端を侵入させた当該刃部を当該被切削物の外周側面に平行する方向に移動させて、当該被切削物の黒皮が当該被切削物の外周側面の内側から外側に向かうように切削する工程、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の切削装置は、円形状又は円弧形状に形成された刃部を有するスローアウェイチップを用いて、外周側面に酸化層を有する円柱形状の被切削物の黒皮除去と粗加工とを同時に行う切削装置であって、前記被切削物を水平方向に回転する回転台に載置して当該被切削物の外周側面及び上面を切削可能にする回転機構と、前記被切削物の外周側面を切削対象面とし、当該外周側面の前記酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する設定手段と、前記回転する前記被切削物に対して、前記被切削物の上面における前記切削領域内で、且つ、当該上面の端部より内方の領域に当該刃部の突端を侵入させてから、当該上面の端部より内方の領域に当該突端を侵入させた当該刃部を当該被切削物の外周側面に平行する方向に移動させて、当該被切削物の黒皮が当該被切削物の外周側面の内側から外側に向かうように切削する侵入手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の切削方法は、外周側面に酸化層を有する円柱形状の被切削物の切削方法であって、前記被切削物を水平方向に回転する回転台に載置して当該被切削物の外周側面及び上面を切削可能にする工程、前記被切削物の外周側面を切削対象面とし、当該外周側面の前記酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する工程、前記回転台を介して前記被切削物を回転させる工程、前記回転する前記被切削物に対して、円形状又は円弧形状に形成された刃部を有するスローアウェイチップの当該刃部の突端を前記設定に基づき当該被切削物の上面の端部より内方の領域から侵入させ、当該刃部を当該被切削物の外周側面に平行する方向に移動させて当該被切削物の外周側面を切削する工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切削対象面に酸化層を有する被切削物の切削加工において、加工工程を効率化しつつ、スローアウェイチップ自身の割れやチッピング等の損傷、ワーク損傷の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る切削装置の構成の一例を説明するための概略図。
【
図2】(a)~(d)は、スローアウェイチップの構成の一例を説明するための図。
【
図3】被切削物における切削領域を説明するための図。
【
図4】(a)、(b)、(c)は、スローアウェイチップを介した被切削物の切削の様子を説明するための図。
【
図5】切削装置が制御部を介して実行する制御手順の一例を説明するためのフローチャート。
【
図6】(a)~(d)は、切削対象面の表面より内方の領域から切削を開始する切削方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例えば、チタン合金からなるワークの場合、一般的には表面が熱処理加工などで酸化されているものが多く、ワークは金属結晶層(ワーク本体と称する場合もある)と黒皮を含む表面酸化層とが一体化した状態になっている。
【0017】
一般に金属を熱処理した表面層は、表面が主に酸素が反応して生成した金属の酸化層であることが推測される。当然ながら酸素の存在割合は表層から内部の金属層に行くまでに徐々に減少し、最終的には微量の酸素が存在することが推定されている。すなわち、表面層を持った金属のワークにおいては、表面は硬脆性を持った酸化層で、中心にいくほど、いわゆる柔らかい金属結晶層に移行すると考えられる。
【0018】
従来の切削方法では、例えば
図7に示すような方法において黒皮と粗加工を同時に行えば丸コマチップの刃部はいずれの部位においても必ず黒皮を切削することになり、黒皮を切削することでダメージを受けた刃部がその後に粗加工の領域を切削することになる。そのため、丸コマチップの耐久性(切れ味の維持)が著しく低下してしまうことになる。
【0019】
本願発明者の研究により、このような状態にある表面を切削する場合は分離して切削するのではなく、硬脆性層と金属結晶層およびその連続層を含む全層を同時に切削することが、ワークやチップ両方にチッピングを起こさず、加工の効率を高められることが判明した。
【0020】
具体的には、旋盤で表面層を持つ円柱状や円盤状の熱処理材を対象に表面層のみを丸コマチップや先端超鋼チップで切削した場合は、ワークやチップ両方にチッピングを起こした。しかし、丸コマチップの所定範囲を含めた切刃で、硬脆性層と金属結晶層およびその連続層を含む全層を同時に切削することでチッピングを起こさず全体的に効率よく切削できた。これは、硬脆性層と金属結晶層およびその連続層を含む全層を同時に切削することで、外側の硬脆性層のチッピングが内部の金属層に伝搬しなかったためであると考えられる。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態例を説明する。
【0021】
[実施形態例]
図1は、本実施形態に係る切削装置の構成の一例を説明するための概略図である。
切削装置100は、いわゆる立型旋盤としての機能も備えており、切削対象面に酸化層を有する被切削物Dを切削する装置である。
ここで、被切削物Dは、例えば熱処理等を行なった塊状(多くの場合は直方体)のチタン合金(Ti-6Al-4V)材などの難削材である。難削材とは、例えばチタン合金(Ti-6Al-4V)、あるいは超耐熱合金など素材そのものが削りにくく、機械加工しにくい材料である。
【0022】
また、本実施形態の説明においては、被切削物Dが円柱形状であるものとし説明を進める。また、被切削物Dにおける切削対象面は、
図1に示すように、円柱の外周側面である場合を例に挙げて説明する。
【0023】
なお、被切削物Dは、前記した円柱形状に限るものではない。例えば、上底面、下底面のサイズよりも相対的に側面の略中間位置での水平方向断面のサイズが大きいような、いわゆる胴張り状のものであっても良い。
また、切削対象面は外周側面に限るものではなく、例えば本実施形態では被切削物Dの上底面を切削対象面としても良い。加工工程において切削を行う切削対象面に応じて当該被切削物の向きや位置を規定し、後述する回転台101に被切削物が載置され、当該回転台に支持することになる。
【0024】
切削装置100は、被切削物Dを水平方向に回転可能に構成された回転台101を有する。回転台101は、制御部105と協働して、被切削物Dを載置して当該被切削物Dの側面又は上面の切削対象面を切削可能にする回転機構として機能する。
【0025】
切削装置100は、当該切削装置100の動作を統括的に制御する制御部105を有する。制御部105は、また、切削対象面の酸化層を含む所定の深さを当該切削対象面における切削領域として設定する設定手段として機能する。
【0026】
切削装置100は、刃部を有するスローアウェイチップC(例えば、後述する
図2(a)に示す丸コマチップ等)、スローアウェイチップCを保持するアーム102を有する。なお、このアーム102は、制御部105を介して、スローアウェイチップCを切削対象面に平行する方向から当該切削対象面に向けて侵入させる侵入手段として機能する。
アーム102は、
図1に示すように、制御部105の制御により上昇又は下降、水平方向に移動可能に構成される。
【0027】
制御部105は、回転機構を介して被切削物Dを回転させ、侵入手段を介して、スローアウェイチップCの刃部を設定(切削領域の設定値)に基づいて切削対象面に向けて当該スローアウェイチップCを侵入させることを制御する制御手段として機能する。なお、切削領域の設定プロセスについては後述する。
【0028】
図2は、スローアウェイチップCの構成の一例を説明するための図である。
図2(a)はスローアウェイチップCの正面図であり、(b)はその側面図である。また、
図2(c)は、スローアウェイチップCの刃部が半円形状に形成されている場合の例であり、(d)は、スローアウェイチップCの刃部が矩形に形成されている場合の例である。
なお、
図2(a)に示すスローアウェイチップCはいわゆる丸コマチップと一般に称される形状のものであるが、スローアウェイチップCの形状はこれに限るものではない。例えば、スローアウェイチップの形状が矩形(
図2(d))や菱形であっても、設定された切削領域の切削に対応できる刃部を有すれば使用することができる。
【0029】
ここで、設定された切削領域の切削に対応できる円弧形状に形成された刃部について説明する。
図3は、被切削物Dにおける切削領域を説明するための図である。
先述したように、一般に金属を熱処理した表面層は表面に主に酸素が反応して生成した金属の酸化層(
図3(b))であることが推測され、当然ながら酸素の存在割合は表層から内部の金属層に行くまでに徐々に減少し、最終的には微量の酸素が存在することが推定されている。すなわち、被切削物Dにおいても表面は硬脆性を持った酸化層で覆われ、中心にいくほどいわゆる柔らかい金属結晶層に移行すると考えられる。一般的にこの酸化層の表層をいわゆる黒皮と称している。つまりこの酸化層は黒皮を含む層である。
【0030】
制御部105が設定する切削領域は、酸化層と金属結晶層およびその連続層を含む領域である。つまりこの場合の切削領域は、
図3(a)に示すような領域となり、切削加工においては、黒皮除去と粗加工(例えば、仕上げ加工に必要な最低限度の加工取り代(削り代)のみ残す切削、余肉取りとも称す)とを同時に行うことになる。
なお、切削領域は、被切削物の性状(例えば、熱処理の程度)と粗加工後のサイズに応じて任意に設定することができる。
【0031】
図2の説明に戻り、
図2(a)に示すスローアウェイチップCは、すくい面と逃げ面の作る稜が環状に連続している切れ刃(刃部)を有するチップである。
図2(b)に示すように、スローアウェイチップCは中心部に設けられた空洞を介してビスなどを用いてアーム102に着脱可能になっている。
【0032】
また、スローアウェイチップCはその全周に亘って刃部を有するもののほかにも、切削領域に応じて
図2(c)に示すような領域にて刃部(太線部分)を有するものを使用することができる。
また、被切削物Dを切削するに当たり選択するスローアウェイチップCは、当該スローアウェイチップCのサイズ(直径)及び刃部を形成する範囲として少なくとも先述した切削領域を切削することが可能なサイズ及び刃部領域を有するものを選択する(後述する
図4参照)。
【0033】
図4は、スローアウェイチップCを介した被切削物Dの切削の様子を説明するための図である。
図4では、
図4(a)に示す状態から(b)、(c)へと切削が進んでいく様子を示している。
【0034】
例えば、
図4に示すスローアウェイチップCでは、侵入方向側に少なくとも半円形状の刃部が形成されているものとする(
図2(c)参照)。また、
図4に示すスローアウェイチップCは、切削領域を切削可能なサイズ(直径)及び刃部範囲を有しているものである。
【0035】
切削装置100は、
図4(a)に示すように、被切削物Dの切削対象面に平行する方向からスローアウェイチップCを切削領域の設定値に基づき当該切削対象面に向けて侵入させ、その後
図4(b)、(c)のように切削加工を進めて行く。このように切削領域の切削を行うことにより、スローアウェイチップCの刃部の領域のうち一部(一箇所)のみがいわゆる黒皮を切削することになり、他の領域はその他の切削領域のみを切削することになる。
つまり、本実施形態に係る切削方法は、切削領域の設定値に基づいてスローアウェイチップCの刃部の突端を切削対象面の端部に当接させ、切削対象面に向けて侵入させて被切削物Dを切削することになる。
【0036】
ここで先述したように従来の切削方法では、加工工程を効率化するために黒皮と粗加工を同時に行えば、丸コマチップの刃部はいずれの部位においても必ず黒皮を切削することになる。そのため、硬脆性な黒皮を切削することでダメージを受けた刃部がその後に粗加工の領域を切削することになる。
【0037】
これに対して本実施形態に係る切削方法では、スローアウェイチップCの刃部領域のうち一部(一箇所)のみがいわゆる黒皮を切削することになり、他の領域はその他の切削領域のみを切削することになる。
そのため、本実施形態に係る切削方法では加工工程を効率化しつつ、従来の切削方法と比べて相対的にスローアウェイチップ自身の割れやチッピング等の損傷を低減させることができる。また、被切削物の損傷の発生を低減することができる。
【0038】
また、丸コマチップの一般的な使用方法として、切削を繰り返していく中で刃部のダメージが大きくなったときに当該丸コマチップを回転させて、被切削物に当たる刃部の領域を変えるなどして使用することができる。しかしながら、従来の切削方法では刃部はいずれの部位においても必ず黒皮を切削してダメージを受けているため刃部領域の変更に必要な回転角度も大きくなり、そのため回転して使用できる回数も限られてしまう。
【0039】
これに対して本実施形態に係る切削方法では、スローアウェイチップCの刃部の領域のうち一部(一箇所)のみがいわゆる黒皮を切削しているために、従来の切削方法と比べて相対的に回転して使用できる回数が多くなる。
そのため、スローアウェイチップとして丸コマチップを用いる場合、本実施形態に係る切削方法では加工工程を効率化しつつ、スローアウェイチップの交換頻度を抑制することができるため加工工程におけるコストダウンを図ることができる。
以下、本発明に係る切削方法を実行した際の検証について説明する。
【0040】
[検証例1]
・焼きなましによる熱処理が施された円柱状チタン材料(Ti-6Al-4V:直径40[mm]、長さ200[mm]で、表面の酸化層厚みは1[mm]から1.3[mm]程度)をNC旋盤(オークマ製LS30-N)に3爪スクロールチャックでセット(支持)して外径旋削(外径の切削)を行った。
・切削チップは三菱マテリアル(株)製丸コマチップRCMT1606M0-ARH05を用いスローアウェイバイト(アーム)に取り付け、エマルションタイプの水溶性切削油剤(出光興産(株)製ダフニーアルファクールEX-1)を用いて切削した。
・切削速度は40[m/分]、バイトの送り0.1[mm/rev]、切込み深さ5[mm]で旋削した。
・上記条件にて10本を加工したが、丸コマチップにはチッピングは全く見られず、交換不要の若干の摩耗痕が見られた。
・なお、ワークについてミツトヨ製小型表面粗さ測定器サーフテストSJ-310で表面粗さを測定した結果、旋盤の軸方向5mm長さでRa=0.51[μm]、Rz=4.1[μm]であった。
【0041】
[検証例2]
・検証例1と同様のワークサンプル2本について、切込み深さを4、3、2、1[mm]の4種類の旋削テストを行なった。加工条件は切り込み深さ以外は同様である。
・切込み深さが4[mm]、3[mm]の場合、5[mm]深さに比べて若干の多い摩耗があった。
・2[mm]、1[mm]の切込み深さの場合には薄くなるほど丸コマチップにミクロチッピングが見られた。
【0042】
[検証例3]
・検証例1と同様のワークサンプルを同じ旋盤を用い、丸コマチップで外径旋削を行った。
・切削チップは三菱マテリアル(株)製丸コマチップRCMT1606M0-ARH05を用いスローアウェイバイトに取り付け、極圧活性剤添加型の不水溶性切削油剤(出光興産(株)製ダフニーマーグプラスAM20M)を用いて切削した。
・切削速度は50[m/分]、バイトの送り0.1[mm/rev]、切込み深さ5[mm]で旋削した。
・上記条件にて4本を加工したが、丸コマチップにはチッピングは全く見られず、交換不要の若干の摩耗痕が見られた。
・なお、ワークについてミツトヨ製小型表面粗さ測定器サーフテストSJ-310で表面粗さを測定した結果、旋盤の軸方向5[mm]長さでRa=0.3[μm]、S=2.6[μm]であった。
【0043】
[検証例4]
・立型旋盤V100R(オークマ(株)社製)の回転台ワークの回転台上に半径約400[mm]、厚み約150[mm]のチタン合金(Ti-6Al-4V)のワークを載置し、このワークの側面及び上面を切削した。チップは検証例1と同様に三菱マテリアル製丸コマチップを用いた。
・ワークの目的とする寸法をできるだけ効率よく出すために、側面から、すなわち切削対象面に平行する方向から、丸コマチップの刃部を近づけて侵入させて加工できるようにプログラムコントロールをした。
・本切削方法では丸コマチップがいきなり直接ワークの酸化層のみを切削する方法を防ぎ、切削域は、酸化層と金属結晶層及びその連続層を含む領域(切削領域)であることを確認した。
・切削油は出光興産(株)製エマルションタイプの水溶性切削油剤ダフニーアルファクールEX-1を用いた。
・これにより、可能な限りの切込み深さで、丸コマチップも交換不要の摩耗痕が見られた程度であった。実際のチップ交換の手間を抑えることのみならず、切削スピードも高いものであった。
【0044】
図5は、切削装置100が制御部105を介して実行する制御手順の一例を説明するためのフローチャートである。
制御部105は、切削装置100のオペレータによる開始指示の入力受付を契機に処理を開始する(S100)。
制御部105は、回転台101に被切削物Dが載置され支持されたか確認する(S101)。なお、この確認は例えば図示しないセンサの検知結果に基づいて判別したり、また、オペレータが被切削物Dの載置、被切削物Dの支持が完了したことを示す信号の入力を受け付けて判別する。
【0045】
制御部105は、切削領域の設定が完了したか否かを判別する(S102)。なお、切削領域の設定は、例えばオペレータの入力を受け付けて設定する。
切削領域の設定が完了したと判別した場合(S102:Yes)、制御部105は、回転台101の回転を開始する(S103)。なお、回転台101の単位時間当たりの回転数などは、例えば被切削物Dや切削対象面、切削領域などの情報に応じて任意に予め設定されているものとする。
【0046】
制御部105は、アーム102の動作を制御して被切削物Dの切削を開始する(S104)。
制御部105は、設定に基づく切削が完了したか否かを判別する(S105)。
設定に基づく切削が完了したと判別した場合(S105:Yes)、制御部105は、切削を終了する(S106)。なお、切削の終了後はアーム102をホームポジションに戻す移動を制御したり、次の切削に向けてアーム102を移動したりするように設定することもできる。
【0047】
制御部105は、回転台101の回転を停止する(S107)。
制御部105は、被切削物Dの支持を解除する(S108)。このようにして、一連の処理が終了する。
【0048】
このように、本実施形態に係る切削方法では、切削対象面に酸化層を有する被切削物の切削加工において、加工工程を効率化しつつ、スローアウェイチップ自身の割れやチッピング等の損傷、ワーク損傷の発生を低減することができる。
【0049】
[変形例]
図6は、切削対象面の表面より内方の領域から切削を開始する切削方法を説明するための図である。なお、
図6に示すスローアウェイチップCは、侵入方向側に少なくとも半円形状の刃部が形成されているものとする(
図2(c)参照)。
【0050】
図6に示す切削装置100による切削は、回転する被切削物Dに対して、切削対象面に平行する方向からスローアウェイチップCの当該刃部を切削領域の設定値に基づき切削対象面に向けて侵入させる(
図6(a))。さらに、切削対象面の表面より内方の領域から切削を開始する(
図6(b)、(c))。
【0051】
これにより、
図6(d)に示すように、いわゆる黒皮が内側から外側に向かうように切削されるため、従来の切削方法のような黒皮面に丸コマチップを押し当てて切削する場合と比べて切子(切りくず)の「はけ」が良くなる。その結果丸コマチップの耐久性(切れ味の維持)を高めることができる。
なお、
図6に示すスローアウェイチップCは、切削領域を切削可能なサイズ(直径)及び刃部範囲を有しているものを用いる。
【0052】
上記説明した実施形態は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が、これらの例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
100・・・切削装置、101・・・回転台、102・・・アーム、105・・・制御部、C・・・スローアウェイチップ、D・・・被切削物。