(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】触媒、液状組成物、電極、電気化学反応用触媒電極、燃料電池及び空気電池
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20240326BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240326BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240326BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240326BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240326BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240326BHJP
【FI】
B01J31/22 M
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M4/90 Y
H01M8/10 101
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2020502828
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047829
(87)【国際公開番号】W WO2019167407
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018037521
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
(72)【発明者】
【氏名】末永 智一
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 明哉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博弥
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】野崎 浩平
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】原 賢一
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-186169(JP,A)
【文献】特開2016-85925(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023964(WO,A1)
【文献】XU,Zhanwei,et al.,Electrochemical performance of carbon nanotube-supported cobalt phthalocyanine and its nitrogen-rich derivatives for oxygen reduction,Journal of Molecular Catalysis A:Chemical,2011年,vol.335,pp.89-96,ISSN 1381-1169
【文献】TANAKA.A.A.,et al.,Oxygen reduction on adsorbed iron tetrapyridinoporphyrazine,Materials chemistry and physics,1989年,vol.22,pp.431-456,ISSN 0254-0584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
H01M4/90,8/10,8/12
CAPlus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JdreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される金属錯体と、炭素材料とを含む、酸素還元触媒であって、
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ
であり、
前記炭素材料がカルボキシル基を含有し、前記カルボキシル基の含有量が、前記炭素材料100質量%に対して、20質量%以下である、酸素還元触媒。
【化1】
式(1)中、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D
1~D
4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは鉄原子である。
【請求項2】
前記金属錯体の割合が、前記金属錯体と前記炭素材料との合計100質量%に対して、75質量%以下である、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
前記金属錯体が下式(2)で表される化合物である、請求項1
又は2に記載の酸素還元触媒。
【化2】
式(2)中、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは鉄原子である。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の酸素還元触媒と液状媒体とを含む、液状組成物。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の酸素還元触媒を含む、電極。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の酸素還元触媒を含む、電気化学反応用触媒電極。
【請求項7】
請求項
5に記載の電極を有する、燃料電池。
【請求項8】
請求項
5に記載の電極を有する、空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、液状組成物、電極、電気化学反応用触媒電極、燃料電池及び空気電池に関する。
本願は、2018年3月2日に、日本に出願された特願2018-037521号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
酸素の還元反応を利用して、電気エネルギーを生み出す燃料電池が知られている。燃料電池においては、電極の表面に還元反応を促進する触媒の層を設けることが一般的である。この触媒として白金担持炭素材料が知られている。白金担持炭素材料は、酸素の還元反応を促進する機能(酸素還元触媒能)に優れる。
【0003】
しかし、白金は高価であり、資源量が限られていることから、安価で資源量が豊富な代替触媒の開発が試みられている(特許文献1~4)。
特許文献1は、酸素還元触媒及び助触媒を含む空気極用触媒であって、該助触媒が配位結合できるヘテロ原子を2質量%以上含む炭素材料である、空気極用触媒を開示している。
特許文献2は、酸化グラフェン分散液と鉄フタロシアニン分散液とを混合して鉄フタロシアニン/酸化グラフェン複合体を得る工程と、鉄フタロシアニン/酸化グラフェン複合体を還元する工程とを含む、鉄フタロシアニン/グラフェンナノ複合体酸素還元触媒の製造方法を開示している。
特許文献3は、触媒成分と触媒担持材料からなる電極触媒であって、触媒成分がインドール、イソインドール、ナフトピロール、ピロロピリジン、ベンズイミダゾール、プリン、カルバゾール、フェノキサジン及びフェノチアジンからなる群から選ばれる少なくとも1種の繰り返し単位構造を有する導電性重合体と金属イオンからなる導電性重合体金属錯体を含み、触媒担持材料が細孔構造を有する導電体を含む、電極触媒を開示している。
特許文献4は、下式(5)で示されるコバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体を触媒成分として含有する酸素還元用電極を開示している。
【0004】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に記載の技術では、白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能を具備する触媒を得ることが実現できていない。
特許文献1,2に記載の技術にあっては、導電性を担保するために、導電性に優れる鉄フタロシアニンを使用している。しかし、鉄フタロシアニンは種々の溶媒に対する溶解度が低く、触媒における鉄フタロシアニンの含有量の上限値に限界がある。そのため、酸素還元触媒能の向上が鉄フタロシアニンの低い溶解度により制限されている可能性がある。
特許文献3に記載の電極触媒にあっては、製造プロセスで導電性重合体の重合を必要とするため、容易に得られる電極触媒であるとは言い難い。
特許文献4に記載の酸素還元用電極にあっては、コバルトテトラピラジノポルフィラジン誘導体を構成するピラジンにトリフルオロメチル基が結合しているため、酸素還元触媒能が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-85925号公報
【文献】特開2014-91061号公報
【文献】特開2008-311048号公報
【文献】再公表WO2007/023964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能を具備する触媒の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、特定の化学構造を有し、かつ、導電性が相対的に低い金属錯体を触媒に適用すると、意外にも前記課題の解決に有効であることを知見した。具体的には、特定の化学構造を有する金属錯体を含む触媒が白金担持炭素材料より酸素還元触媒能に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下式(1)で表される金属錯体と、炭素材料とを含む、触媒。
【化2】
式(1)中、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D
1~D
4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
[2] 前記金属錯体の割合が、前記金属錯体と前記炭素材料との合計100質量%に対して、75質量%以下である、[1]の触媒。
[3] 前記炭素材料がカルボキシル基を含有し、前記カルボキシル基の含有量が、前記炭素材料100質量%に対して、20質量%以下である、[1]又は[2]の触媒。
[4] 前記金属錯体が下式(2)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかの触媒。
【化3】
式(2)中、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
[5] [1]~[4]のいずれかの触媒と液状媒体とを含む、液状組成物。
[6] [1]~[4]のいずれかの触媒を含む、電極。
[7] [1]~[4]のいずれかの触媒を含む、電気化学反応用触媒電極。
[8] [6]の電極を有する、燃料電池。
[9] [6]の電極を有する、空気電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能を具備する触媒が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1におけるMALDI-TOF質量分析の測定結果を示すスペクトル図である。
【
図2】実施例1におけるUV-visの測定結果を示すスペクトル図である。
【
図4】実施例2におけるUV-visの測定結果を示すスペクトル図である。
【
図5】実施例2における赤外分光分析の結果を示すスペクトル図である。
【
図6】実施例2におけるレーザーラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例2のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
【
図13】実施例2のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
【
図15】実施例2のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
【
図17】実施例2のメタノール分散液のSTEMによる観察像である。
【
図18】MWCNTのSTEMによる観察像である。
【
図19】実施例3のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
【
図23】実施例3のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
【
図25】実施例4のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
【
図29】実施例4のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
【
図31】実施例2の触媒におけるEDXスペクトル分析の測定結果を示すスペクトル図である。
【
図32】
図31に示す測定結果に基づく元素マッピング像である。
【
図33】MWCNTに対するEDXスペクトル分析の測定結果を示すスペクトル図である。
【
図34】
図33に示す測定結果に基づく元素マッピング像である。
【
図35】TG-DTAの測定結果を示すグラフである。
【
図37】TG-DTAの測定結果を示すグラフである。
【
図39】実施例2の電極、比較例1の電極、Pt/C電極、CNT電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。
【
図41】実施例2の電極について、K-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
【
図42】実施例2の電極について、RRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
【
図43】CNT電極におけるK-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
【
図44】CNT電極におけるRRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
【
図45】K-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を、実施例2の電極とCNT電極とで比較して示すグラフである。
【
図46】RRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を、実施例2の電極とCNT電極とで比較して示すグラフである。
【
図47】実施例2の電極についてメタノールクロスオーバーを評価した結果を示すグラフである。
【
図48】CNT電極についてメタノールクロスオーバーを評価した結果を示すグラフである。
【
図49】実施例2の電極について耐久性を評価した結果を示すグラフである。
【
図50】実施例3の電極、Pt/C電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。
【
図51】実施例5の電極、Pt/C電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において下記用語の意味は以下の通りである。
「ヘテロ原子」とは、炭素原子及び水素原子以外の原子を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
<触媒>
本実施形態の触媒(以下、「本触媒」と記す。)は、下式(1)で表される金属錯体と、炭素材料とを含む。
【0014】
【0015】
式(1)中、X1~X8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D1~D4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0016】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへ配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合してもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在してもよい。
【0017】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体が静電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8のアルキルオキシ基が結合してもよく、アニオン性対イオンが存在してもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。
炭素数1~8のアルキルオキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。
【0018】
前記Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、ローレンシウム原子が例示される。
これらの中でも、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子、銅原子、亜鉛原子が好ましく、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子がより好ましく、鉄原子が特に好ましい。
【0019】
式(1)で表される金属錯体においては、下式(1’)に示すような異性体が存在し得る。
【0020】
【0021】
式(1’)中、X1~X8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D1’、D2~D4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0022】
本発明における金属錯体は、式(1’)に示すような異性体でもよい。よって、式(1)においては、D1を有する環状構造で窒素原子の位置とD1の位置とは交換可能であるとも言える。
本発明においては、金属錯体の異性体は式(1’)に示すものに限定されない。例えば、上記式(1)又は上記式(1’)中、D2~D4のそれぞれが含まれるそれぞれの環状構造から選ばれる少なくとも一つにおいて、窒素原子の位置がD2~D4のいずれかの位置と同一の環状構造内で交換されていてもよい。
以下、式(1)の金属錯体の好ましい態様についてさらに詳細に説明するが、いずれの好ましい態様においても、式(1’)に示すような異性体が存在し得る。これらの異性体は、本発明の金属錯体の好ましい態様に含まれるものである。
【0023】
金属錯体においては、D1~D4が炭素原子であり、前記炭素原子に水素原子が結合していることが好ましい。
即ち、本触媒において、金属錯体は下式(2)で表される化合物が好ましい。本触媒において、金属錯体が下式(2)で表される化合物である場合、本触媒を含む電極が導電性にさらに優れる。
【0024】
【0025】
式(2)中、X1~X8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
【0026】
金属錯体においては、D1~D4が炭素原子であり、前記炭素原子に水素原子が結合し、X1~X8が水素原子であることが、より好ましい。
即ち、本触媒において、金属錯体は下式(3)で表される化合物が好ましい。本触媒において、金属錯体が下式(3)で表される化合物である場合、本触媒の酸素還元触媒能がさらに優れる。
【0027】
【0028】
式(3)中、Mは金属原子である。
【0029】
さらに、金属錯体が式(3)で表される化合物である場合において、Mは鉄原子であることがさらに好ましい。即ち、本触媒において、金属錯体は下式(4)で表される鉄テトラピリドポリフィラジン(以下、「FeTPP」と記す。)がさらに好ましい。金属錯体がFeTPPである場合、本触媒の酸素還元触媒能が特に優れる。
【0030】
【0031】
金属錯体の窒素原子の含有量は、金属錯体100質量%に対し、14質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、18質量%以上がさらに好ましく、19質量%以上が特に好ましい。金属錯体の窒素原子の含有量が14質量%以上であると、本触媒が酸化還元触媒能にさらに優れる。
金属錯体の窒素原子の含有量は、金属錯体100質量%に対し、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、28質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。金属錯体の窒素原子の含有量が40質量%以下であると、本触媒が導電性に優れる。
金属錯体の窒素原子の含有量は、金属錯体100質量%に対し、14~40質量%が好ましいとも言え、16~30質量%がより好ましいとも言え、18~28質量%がさらに好ましいとも言え、19~25質量%が特に好ましいとも言える。
【0032】
金属錯体の製造方法は特に限定されない。例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0033】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンがより好ましく、カーボンナノチューブがさらに好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。これらの中でも、本触媒の導電性が優れる点から、DWCNT、MWCNTが好ましく、MWCNTがさらに好ましい。
【0035】
炭素材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、スルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有してもよい。これらの中でも炭素材料は、カルボキシル基を有することが好ましい。炭素材料がカルボキシル基を有すると、炭素材料の表面に金属錯体が吸着しやすくなり、本触媒が耐久性に優れるとともに、酸素還元触媒能にさらに優れる。
【0036】
炭素材料は、ヘテロ原子を有してもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、珪化されていてもよい。
【0037】
炭素材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、炭素材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、本触媒の製造コストが低下しやすくなる。
【0038】
炭素材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、本触媒が耐久性及び酸素還元触媒能にさらに優れる。
以上より、炭素材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、炭素材料100質量%に対して、1~20質量%が好ましいとも言え、5~15質量%がより好ましいとも言え、8~15質量%がさらに好ましいとも言え、8~10質量%が特に好ましいとも言える。
カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定できる。
【0039】
本触媒において、導電性が優れ、かつ、酸素還元触媒能がさらに優れる点から、炭素材料はカルボキシル基を有するDWCNT、カルボキシル基を有するMWCNTが好ましく、カルボキシル基を有するMWCNTがより好ましい。
【0040】
炭素材料の比表面積は0.8m2/g以上が好ましく、1.0m2/g以上がより好ましく、1.1m2/g以上がさらに好ましく、1.5m2/g以上が特に好ましく、2.0m2/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m2/g以上であると、触媒の凝集を防ぎやすくなり、触媒の酸素還元触媒能がさらに優れる。比表面積の上限値は特に限定されない。比表面積の上限値は、例えば、2000m2/gとすることができる。炭素材料の比表面積は、例えば、0.8~2000m2/gでもよく、1.0~2000m2/gでもよく、1.1~2000m2/gでもよく、1.5~2000m2/gでもよく、2.0~2000m2/gでもよい。
前記比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定できる。
【0041】
炭素材料の平均粒径は、特に制限されない。炭素材料の平均粒径は、例えば、5nm~1000μmが好ましい。炭素材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):炭素材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
平均粒子径は、粒度分布測定装置、電子顕微鏡等により測定できる。
【0042】
本触媒において、金属錯体の割合は、金属錯体と炭素材料との合計100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。金属錯体の割合が前記上限値以下であると、本触媒が導電性に優れる。
金属錯体の割合は、金属錯体と炭素材料との合計100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。金属錯体の割合が前記下限値以上であると、本触媒が酸素還元触媒能にさらに優れる。
金属錯体の割合は、金属錯体と炭素材料との合計100質量%に対して、0.1~75質量%が好ましいとも言え、0.5~50質量%がより好ましいとも言え、1~30質量%がさらに好ましいとも言える。
【0043】
(用途)
本触媒は種々の工業製品の材料として適用可能である。
本触媒は、酸素還元触媒能を具備する。そのため、酸素の還元反応を利用する産業上の用途に好適に利用できる。
例えば、粉末状の本触媒は、そのまま種々の工業製品、部品の原料として使用できる。
加えて、本触媒と白金担持炭素材料(例えば、後述のPt/C等)とを混合して使用してもよい。本触媒を白金担持炭素材料と併用することで、酸素還元触媒能の向上、製造コストの低下等の効果が得られることが期待できる。
【0044】
(作用効果)
以上説明した本触媒にあっては、上述した金属錯体と炭素材料を含むため、酸素還元触媒能がよくなり、白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能が達成される。
【0045】
特許文献1、2に記載の技術について言及したように、従来技術においては、触媒の導電性を担保する点から、導電性に優れるフタロシアニン環を有する化合物が燃料電池用の触媒として選択されることが当業者の技術常識であった。これに対し本触媒が含む金属錯体は、導電性がフタロシアニン環を有する化合物より相対的に低くなる傾向にある。
したがって、導電性が相対的に低いにもかかわらず、前記式(1)で表される金属錯体を選択することにより、本触媒の酸素還元触媒能が白金担持炭素材料より優れるようになるという作用効果は、全く意外であるといえる。
【0046】
本触媒にあっては、種々の溶媒に対する金属錯体の溶解度がより高いため、本触媒における金属錯体の含有量の上限値が高くなり、触媒の酸素還元触媒能がさらに優れる。
本触媒にあっては、金属錯体の窒素原子の含有量がより多いため、フタロシアニン環を有する化合物を選択する場合より、窒素原子の含有量をより高くしやすくなり、触媒の酸素還元触媒能がさらに優れる。
【0047】
<液状組成物>
本実施形態の液状組成物(以下、「本液状組成物」と記す。)は、本触媒と液状媒体とを含む。本液状組成物は、本触媒及び液状媒体以外の任意成分をさらに含んでもよい。
液状媒体は、本触媒を溶解しやすい(即ち、本触媒の溶解度が高い)化合物でもよく、本触媒を溶解しにくい(即ち、本触媒の溶解度が低い)化合物でもよい。液状媒体が本触媒を溶解しやすい化合物である場合、本液状組成物は溶液の形態である。液状媒体が本触媒を溶解しにくい化合物である場合、本液状組成物は分散液の形態である。
液状媒体は、水等の無機質媒体であってもよく、有機媒体であってもよい。
有機媒体の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトン等の非プロトン性極性溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,4―ジオキサン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒が例示される。ただし、液状媒体はこれらの例示に限定されない。液状媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本液状組成物は、任意成分として、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を含んでもよい。パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。
【0049】
本液状組成物は、本触媒と液状媒体と必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練することにより、製造できる。
混合又は混練に際しては、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。
パーフルオロカーボン材料を含む液状組成物を調製する際には、本触媒とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0050】
本液状組成物は、種々の基材の表面に適用できる。例えば、本液状組成物を基材の表面に塗布し、液状媒体を除去することにより、本触媒を含む層(以下、「本触媒層」と記す。)を種々の基材の表面に設けることができる。
【0051】
基材としては、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。
基材は、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、リチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材でもよい。ただし、基材は、これらの例示に限定されない。
【0052】
(作用効果)
以上説明した本液状組成物にあっては、上述した本触媒を含むため、種々の基材に白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能を付与できる。
本液状組成物は、例えば、後述の電極を製造する際に基材の表面に塗布する塗工液として使用できる。液状組成物をそのまま塗工液として使用してもよく、本触媒の含有量又は固形分濃度を調整してから塗工液として使用してもよい。
【0053】
<電極>
本実施形態の電極(以下、「本電極」と記す。)は、本触媒を含む。本電極は、本触媒の層と接する基材を有してもよい。
【0054】
本電極は、本液状組成物を塗工液として用いて形成されてもよい。本液状組成物を用いて本電極を形成する場合、本液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、本触媒以外の成分(例えば、液状媒体、パーフルオロカーボン材料等)を除去する。本触媒以外の成分を除去する際は、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。
本電極は、導電性の基材の表面に本触媒層が設けられている形態でもよい。この場合、触媒の層の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、本電極が耐久性に優れる。厚みが前記上限値以下であると、本電極の性能が低下しにくくなる。
導電性の基材としては、「液状組成物」の項で説明した基材と同様のものが例示される。
なお、真空蒸着等によって、本触媒層を基材の表面に設けてもよい。
【0055】
基板としては、「電極の製造方法」の項で説明した基材と同様のものが例示される。
本電極は、本触媒層を基材の片面に有してもよく、基材の両面に有してもよい。
【0056】
本電極は、燃料電池の電極として利用できる。燃料電池の電極として利用する場合、一対の電極の間に電解質膜を配置してもよい。
本電極を燃料電池の電極として利用する場合、酸性条件下では下式(6)に示す酸素の還元反応が進行しやすくなり、アルカリ性条件下では下式(7)に示す還元反応が進行しやすくなる。
O2+4H++4e-→2H2O ・・・(6)
O2+2H2O+4e-→4OH- ・・・(7)
【0057】
基材として、例えば多孔質支持層を有する基板を用いることで、本電極を燃料電池用の電極として利用してもよい。燃料電池の電極として利用する場合、本電極はカソード又はアノードのいずれの電極に用いてもよい。
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層である。多孔質支持層としては、電子伝導性を具備し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば特に限定されない。多孔質支持層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素系多孔質材料、ステンレス箔、耐食材を被服したアルミニウム箔等が例示される。
【0058】
本電極は、燃料電池、空気電池等の蓄電デバイス(発電デバイス)用の電極に好適に適用できる。
【0059】
(作用効果)
以上説明した本電極にあっては、本触媒層を有するため、酸素還元触媒能がよくなる。
【0060】
<電気化学反応用触媒電極>
本実施形態の電気化学反応用触媒電極(以下、「本電気化学反応用触媒電極」と記す。
)は、本触媒を含む。
【0061】
本電気化学反応用触媒電極は、任意の還元反応又は任意の酸化反応等の電気化学反応の触媒としての機能を具備する電極である。
例えば、本電気化学反応用触媒電極は、下式(6)又は下式(7)に示す還元反応の触媒としての機能を具備できる。
O2+4H++4e-→2H2O ・・・(6)
O2+2H2O+4e-→4OH- ・・・(7)
【0062】
本電気化学反応用触媒電極は、本触媒の層と接する基材を有してもよい。
本電気化学反応用触媒電極は、上述の本電極と同様に、本液状組成物を塗工液として用いて形成されてもよい。
本電気化学反応用触媒電極は、上述の本電極と同様に、導電性の基材の表面に本触媒層が設けられている形態でもよい。基板としては、「電極の製造方法」の項で説明した基材と同様のものが例示される。
本電極は、本触媒層を基材の片面に有してもよく、基材の両面に有してもよい。
真空蒸着等によって、本電気化学反応用触媒電極を製造してもよい。
【0063】
(作用効果)
以上説明した本電気化学反応用触媒電極にあっては、本触媒層を有するため、酸素還元触媒能がよくなる。
【0064】
<燃料電池>
本実施形態の燃料電池(以下、「本燃料電池」と記す。)は、上述した本電極を有する。
本燃料電池は、第2の電極、電解質、セパレータをさらに有してもよい。
本燃料電池において、本電極はカソードでもアノードでもよい。ただし、本電極はカソードが好ましく、酸素極がより好ましい。なお、酸素極とは酸素を含む気体(空気等)が供給される電極を意味する。
【0065】
第2の電極は本電極と組み合せて用いられる電極である。本電極がカソードである場合、第2の電極はアノードであり、本電極がアノードである場合、第2の電極はカソードである。
第2の電極としては、アルミニウム、亜鉛等の金属単体、これらの金属酸化物が例示される。ただし、第2の電極はこれらの例示に限定されない。
【0066】
電解質としては、水性電解液が好ましい。水性電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液;硫酸水溶液等の酸性水溶液が例示される。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、電解質はこれらの例示に限定されず、無機固体電解質でもよい。
【0067】
セパレータは、本電極と第2の電極とを隔離し、電解質を保持して本電極と第2の電極との間のイオン伝導性を確保する部材である。
セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する重合体、ゲル化合物、イオン交換膜、環化重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、第四級ホスホニウム塩含有重合体等が例示される。ただし、セパレータはこれらの例示に限定されない。
【0068】
本燃料電池は一次電池でもよく、二次電池でもよい。
本燃料電池の形態としては、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)等が例示される。本燃料電池の形態はこれらの例示に限定されないが、PEFCが好ましい。
【0069】
(作用効果)
以上説明した本燃料電池にあっては、本電極を有するため、電極における酸素還元反応の酸素還元特性がよくなる。その結果、本燃料電池はエネルギー変換効率に優れる。
【0070】
<空気電池>
本実施形態の燃料電池(以下、「本空気電池」と記す。)は、上述した本電極を有する。本空気電池においては、本電極を酸素極として適用することが好ましい。
本空気電池は、燃料極、電解質、セパレータをさらに有してもよい。
燃料極は本電極と組み合せて用いられる電極である。燃料極としては、「第2の電極」の項で説明した具体例と同様のものが例示される。
電解質としては、「燃料電池」の項で説明した電解質と同様のものが例示される。
セパレータとしては、「燃料電池」の項で説明したセパレータと同様のものが例示される。
【0071】
(作用効果)
以上説明した本空気電池にあっては、本電極を有するため、電極における酸素還元反応の酸素還元特性がよくなる。その結果、本空気電池はエネルギー変換効率に優れる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本実施形態を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0073】
(略号)
DMSO:ジメチルスルホキシド。
FeTPP:鉄テトラピリドポリフィラジン。
DBU:ジアザビシクロウンデセン。
MWCNT:Multi-walled Carbon Nanotube(Sigma Aldrich社製、Carbon nanotube, Multi―walled、724769-25G)。
CB:Carbon Black(東海カーボン社製、Seast S)。
GO:Graphene Oxide(株式会社仁科マテリアル社製、酸化グラフェン)。
Pt/C:白金担持カーボン(Sigma Aldrich社製、728549―1G)。
KOH:水酸化カリウム水溶液。
UV-vis:Ultraviolet Visible Spectrophotometer。
MALDI-TOF:Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization-Time Of Flight Mass Spectrometry)。
ATR:Attenuated Total Reflection。
LSV:Linear Sweep Voltammetry。
TEM:Transmission Electron Microscope。
STEM:Scanning Transmission Electron Microscope。
EDX:Energy Dispersive X-ray。
K-L:Koutecky-Levich。
RRDE:Rotataing Ring Disk Electrides。
【0074】
(MALDI-TOF質量分析)
MALDI-TOF質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(Bruker Daltonics社製、REFLEXIII)を用いて生成物の水分散液及びα―シアノ―4―ヒドロキシけい皮酸の水溶液を質量比1:4で混合し、室温下で乾燥させてから測定を行った。
【0075】
(UV-vis)
UV-visは、紫外可視分光光度計(JASCO社製、V―670)を用いて各試料をメタノール又はDMSOに分散させた状態で測定を行った。
【0076】
(赤外分光分析)
赤外分光分析は、赤外分光光度計(JASCO社製、FT/IR―6700)を用いて、ATR法によって粉末状の試料に対して測定した。
【0077】
(レーザーラマン分光分析)
レーザーラマン分光分析は、顕微レーザーラマン分光装置(株式会社堀場製作所製、LabRAM HR―800)によってシリコン基板上の粉末状試料に対して532.10nmの励起光を照射して測定を行った。Dバンドのピーク強度をIDとし、Gバンドのピーク強度をIGとし、下式(8)によりピーク強度比Rを算出した。
R=(ID/IG) ・・・(8)
【0078】
(TEM)
透過型電子顕微鏡(Hitachi社製、H-7650)によって観察像を得た。
【0079】
(STEM)
走査型透過電子顕微鏡(Hitachi社製、S―5200)によって観察像を得た。
【0080】
(EDXスペクトル分析)
EDXスペクトル分析は、原子分解能分析電子顕微鏡(JEOL社製、JEM―ARM200F)を用いて行った。
【0081】
(TG-DTA測定)
TG-DTA測定は、熱分析装置(株式会社リガク製、Thermo plus EvoII)によって窒素雰囲気下、5℃/minの昇温速度の条件下で行った。
【0082】
(LSV曲線)
LSV曲線は、コンパクトスタット(Ivium社製、NH―COMPACT)によって酸素飽和0.1MのKOHを電解液として使用し、掃引速度5mV/sの条件下で、掃引範囲の下限を-0.8V、上限を0.2Vとして行った。回転ディスクの回転速度は2400rpmとし、対極としてPt線を使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
【0083】
(反応電子数の算出)
K-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した。LSV測定からリング電極とディスク電極の電流密度を算出し、RRDEに基づいて反応電子数を算出した。
【0084】
(実施例1)
ピリジン-2,3-ジカルボニトリルの258mgと塩化鉄(III)六水和物の135mgとDBUの20mgとを試験管で混合し、メタノールの10mLとDMSOの10mLとを含む混合溶媒に溶解させ溶解液を得た。溶解液を窒素置換し、180℃で3時間加熱し、FeTPPを含む反応生成物を得た。反応生成物をアセトンで3回遠心分離し、乾燥させた。遠心分離後の沈殿物を濃硫酸に溶解させ、水に滴下し、FeTPPを析出させた。析出したFeTPPを遠心分離で回収し、メタノールで洗浄し、乾燥させ実施例1の金属錯体を得た。
実施例1の金属錯体をDMSOに溶解させ、MALDI-TOF質量分析による測定とUV-visによる測定とを行った。
【0085】
図1は実施例1におけるMALDI-TOF質量分析の測定結果を示すスペクトル図である。FeTPPの質量平均分子量は572.07である。
図1のスペクトル図では、質量平均分子量が572.099の位置と586.943の位置にピークが観測された。この結果から、実施例1の金属錯体では、中心金属である鉄原子にメチル基が結合している可能性が示唆された。
【0086】
図2は実施例1におけるUV-visの測定結果を示すスペクトル図である。
図2中に示すように、実施例1の金属錯体においては、フタロシアニン類縁体に特有のQ bandが600nm付近に、Solet bandが300~400nm付近に観測された。これにより、FeTPPを合成できたことが確認できた。
【0087】
(実施例2)
実施例1と同様にして、金属錯体(即ち、FeTPP)を得た。得られたFeTPPをDMSOの0.5mLに溶解させ、得られた溶液とカルボキシル基を有するMWCNT(直径9.5nm,長さ1.5μm)の10mgとをホモジナイザーで10分撹拌した。撹拌液をDMSOで3回洗浄した後、さらにメタノールで3回洗浄し、実施例2の触媒を含むメタノール分散液(実施例2のメタノール分散液)を得た。
【0088】
(実施例3)
炭素材料としてCBの10mgを使用した以外は、実施例2と同様にして、実施例3の触媒を含むメタノール分散液(実施例3のメタノール分散液)を得た。
【0089】
(実施例4)
炭素材料としてGOの10mgを使用した以外は、実施例2と同様にして、実施例4の触媒を含むメタノール分散液(実施例4のメタノール分散液)を得た。
【0090】
(実施例5)
金属錯体として下式(9)に示す化合物を使用した以外は、実施例2と同様にして、実施例5の触媒を含むメタノール分散液(実施例5のメタノール分散液)を得た。
【0091】
【0092】
図3は実施例2の触媒を示す模式図である。実施例2の触媒においては、MWCNTが有するカルボキシル基が負に帯電しているため、FeTPPがMWCNTの表面に吸着している可能性が高い。
図4は実施例2におけるUV-visの測定結果を示すスペクトル図である。
図4中「実施例1」で示す線は、実施例1のFeTPPをDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図4中「実施例2」で示す線は、実施例2のメタノール分散液のスペクトルを示す。
図4中「カルボキシル基を有するMWCNT」で示す線は、MWCNTをDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図4に示すように、実施例2のメタノール分散液のスペクトルにおいて、FeTPP由来のピーク(Q band)が観測された。これにより、実施例2のメタノール分散液において、FeTPPの化学構造が維持されていることが確認できた。
【0093】
図5は実施例2における赤外分光分析の結果を示すスペクトル図である。
図5中「実施例1」で示す線は、実施例1のFeTPPをDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図5中「実施例2」で示す線は、実施例2のメタノール分散液のスペクトルを示す。
図5中「カルボキシル基を有するMWCNT」で示す線は、カルボキシル基を有するMWCNTをDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図5に示すように、実施例2のメタノール分散液のスペクトルにおいて、FETPP及びカルボキシル基を有するMWCNTのそれぞれに特徴的なピークが観測された。これにより、実施例2のメタノール分散液において、FeTPP及びMWCNTのそれぞれの化学構造が維持されていることが確認できた。
【0094】
図6は実施例2におけるレーザーラマン分光分析の結果を示すグラフである。
図7、8は
図6の拡大図である。
図6~8中「実施例2」で示す線は、実施例2のメタノール分散液のスペクトルを示す。
図6~8中「実施例2の焼成物」で示す線は、実施例2のメタノール分散液の焼成物をDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図6~8中「カルボキシル基を有するMWCNT」で示す線は、MWCNTをDMSOに溶解した溶液のスペクトルを示す。
図6~8に基づき、式(8)を用いてピーク強度比Rを算出した。CNT/FeTPPのピーク強度比Rは、1.6であり、CNT/FeTPP焼成のピーク強度比Rは、1.5であり、CNTのピーク強度比Rは、1.5であった。
図7に示すように、実施例2のメタノール分散液のスペクトルにおいて、カーボンナノチューブに特徴的なピークが観測された。これにより、実施例2のメタノール分散液において、MWCNTの化学構造が維持されていることが確認できた。
図8に示す実施例2のメタノール分散液の焼成物のスペクトルの結果から、焼成による酸化に起因して、実施例2の触媒におけるFeTPPの化学構造が影響を受けている可能性が推測された。
【0095】
図9は、実施例2のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
図10は、
図9の拡大図である。
図11は、MWCNTのTEMによる観察像である。
図11は
図9の比較対象である。
図12は、
図11の拡大図である。
図13は、実施例2のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
図14は、
図13の拡大図である。
図9において、メタノール分散液中の実施例2の触媒の直径を算出したところ、直径は、14.3±1.8nmであった。これに対し、
図11において、MWCNTの直径を測定したところ、直径は、8.7±1.1nmであった。この結果から、FeTPPとMWCNTとを含む触媒が得られたことを確認できた。また、
図10に示すように、実施例2の触媒において、FeTPPを含む層(FeTPP層)がMWCNTの表面に設けられていることが示唆された。FeTPP層の厚さは約2.8nmであると推測できた。
また、
図13,14に示す結果から、実施例2の触媒におけるFeTPPの化学構造が焼成による影響を受けたことが確認できた。
【0096】
図15は実施例2のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
図16はMWCNTのTEMによる観察像である。
図15と
図16との比較により、実施例2の触媒において、MWCNTの表面にFeTPP層が設けられていることが示唆された。
これに対し、
図17は実施例2のメタノール分散液のSTEMによる観察像である。
図18はMWCNTのSTEMによる観察像である。
図17と
図18の比較では、実施例2の触媒において、FeTPP層を観察できなかった。
【0097】
図19は実施例3のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
図20は
図19の拡大図である。
図21はCBのTEMによる観察像である。
図22は
図21の拡大図である。
図23は実施例3のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
図24は
図23の拡大図である。
図19(
図20)と
図21(
図22)との比較により、実施例3の触媒において、CBの表面にFeTPP層が設けられていることが示唆された。
また、
図23、24に示す結果から、焼成により実施例3の触媒におけるFeTPPの化学構造が影響を受けたことが確認できた。
【0098】
図25は実施例4のメタノール分散液のTEMによる観察像である。
図26は
図25の拡大図である。
図27はGOのTEMによる観察像である。
図28は
図27の拡大図である。
図29は実施例4のメタノール分散液の焼成物のTEMによる観察像である。
図30は
図29の拡大図である。
図25(
図26)と
図27(
図28)との比較により、実施例4の触媒において、GOの表面にFeTPP層が設けられていることが示唆された。
また、
図29,30に示す結果から、焼成により実施例4の触媒におけるFeTPPの化学構造が影響を受けたことが確認できた。
【0099】
図31は実施例2の触媒におけるEDXスペクトル分析の測定結果を示すスペクトル図である。
図32は、
図31に示す測定結果に基づく元素マッピング像である。
図33はMWCNTに対するEDXスペクトル分析の測定結果を示すスペクトル図である。
図34は
図33に示す測定結果に基づく元素マッピング像である。
図31中「FeKa」で示すように、鉄原子由来のピークが観測された。これに対し、
図33に示すようにMWCNTにおいては、鉄原子由来のピークは観測されなかった。
図32と
図34との比較により、
図32において、MWCNTの表面にFeTPPを含む被覆層の形成が確認された。なお、
図32中「002」、「003」、「004」の各数字は、スペクトル測定を行った領域を示す。
図34中、「002」、「003」で示す各数字も同様である。
【0100】
図35は、TG-DTAの測定結果を示すグラフである。
図35では、質量の減少量が縦軸にプロットされている。
図36は
図35の拡大図である。
図37は、TG-DTAの測定結果を示すグラフである。
図37では、質量減少量の温度微分が縦軸にプロットされている。
図38は
図37の拡大図である。
図35~38中、「実施例1」で示す線は、実施例1のFeTPPにおけるTG-DTAの測定結果を示す。
図35~38中、「実施例2」で示す線は、実施例2のメタノール分散液におけるTG-DTAの測定結果を示す。
図35~38中、「MWCNT」で示す線は、MWCNTにおけるTG-DTAの測定結果を示す。
図35~38に示す結果から、実施例2のメタノール分散液にはFeTPPが5質量%程度含まれ、DMSOが3質量%程度残留していることが判った。
【0101】
(電極の作製)
実施例2の触媒の2mgと、Milli―Q水の1mgを超音波撹拌機で混練し、グラッシーカーボン電極に塗布し、さらに0.5質量%のNafion水溶液の5μLをグラッシーカーボン電極に塗布し、実施例2の電極を得た。
実施例2の触媒の代わりに、実施例3の触媒を使用した以外は、実施例2の電極と同様にして、実施例3の電極を得た。
実施例2の触媒の代わりに、実施例5の触媒を使用した以外は、実施例2の電極と同様にして、実施例5の電極を得た。
実施例2の触媒の代わりに、実施例2の触媒の焼成物の2mgを使用した以外は、実施例2の電極と同様にして、比較例1の電極を得た。
実施例2の触媒の代わりに、Pt/Cを使用した以外は、実施例2の電極と同様にして、Pt/C電極を得た。
実施例2の触媒の代わりに、MWCNTを使用した以外は、実施例2の電極と同様にして、CNT電極を得た。
【0102】
図39は実施例2の電極、比較例1の電極、Pt/C電極、CNT電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。
図39に示すように、実施例2の電極は、Pt/C電極と同等の飽和電流値を示すことが判った。
図40は、
図39の拡大図である。
図40に示すように、実施例2の電極では、酸素の還元反応が開始する電位がPt/C電極より高かった。平均反応電子数は、実施例2の電極では3.4電子であり、比較例1の電極では3.0電子であり、Pt/C電極では3.7電子であり、CNT電極では3.2電子であった。これらの結果から、Pt/C電極を超える酸素還元触媒能を実施例2の電極が具備することが判った。また、比較例1では、実施例2の触媒の焼成物は、実施例2の触媒が本来有していたFeTPPの化学構造が焼成による影響を受けて失われたことが考えられる。そのため、比較例1の電極では、Pt/C電極を超える酸素還元触媒能が発現しなかったと考えられる。
【0103】
図41は実施例2の電極について、K-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
図42は実施例2の電極について、RRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
これに対し、
図43はCNT電極におけるK-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
図44はCNT電極におけるRRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を示すグラフである。
図41~44に示すように、いずれの方法で反応電子数を計算しても、実施例2の電極では、反応電子数が増加することが確認できた。
【0104】
図45はK-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した結果を、実施例2の電極とCNT電極とで比較して示すグラフである。
図46はRRDEに基づいて反応電子数を算出した結果を、実施例2の電極とCNT電極とで比較して示すグラフである。
図45、46の結果からも、いずれの方法で反応電子数を計算しても、実施例2の電極では、反応電子数が増加することが確認できた。
【0105】
(メタノールクロスオーバー)
3.0Mのメタノールを0.1MのKOH電解質に加えて、回転速度を2400rpmとして、メタノールクロスオーバーを評価した。
図47は実施例2の電極についてメタノールクロスオーバーを評価した結果を示すグラフである。
図47中「実施例2の電極メタノール処理無」で示す曲線は、メタノールを電解液に加えずに測定したLSV曲線を示し、「実施例2の電極メタノール処理有」で示す曲線は、3.0Mのメタノールを電解液に加えて測定したLSV曲線を示す。
図48はCNT電極についてメタノールクロスオーバーを評価した結果を示すグラフである。
図48中「CNT電極メタノール処理無」で示す曲線は、メタノールを電解液に加えずに測定したLSV曲線を示し、「CNT電極メタノール処理有」で示す曲線は、3.0Mのメタノールを電解液に加えて測定したLSV曲線を示す。
【0106】
図47、48に示すように、実施例2の電極及びCNT電極のいずれにおいても、電解液にメタノールを添加すると、電流密度が減少することが観測された。しかし、
図47と
図48とを比較すると、実施例2の電極ではCNT電極よりも電流密度の減少量が少なく、実施例2の電極は、メタノールクロスオーバーの評価において、CNT電極より良好な結果であった。
一般にPt/C電極は、電極の表面でメタノールの酸化が起こりやすく、メタノールクロスオーバーの評価に劣る傾向にあることが知られている。これに対し実施例2の電極では、メタノールクロスオーバーによる電位低下がPt/C電極及びCNT電極より起きにくいことが判った。
【0107】
(耐久性)
コンパクトスタット(Ivium社製、MH―COMPACT)を用いて、電解液として1.0MのKOH電解質を、対極としてPtを、参照極としてAg/AgClを使用し、実施例2の電極に0.7V印加して7000秒間通電し、電流値の経時変化を測定した。通電開始直後の電流値を100%として、relative current(%)を縦軸にプロットした。
図49は、実施例2の電極について耐久性を評価した結果を示すグラフである。
図49に示すように、実施例2の電極は、通電開始から7000秒経過後もrelative currentが100%程度であり、耐久性に優れることが示唆された。
ACS Catalyst, 2013, 3,1263に記載の白金担持炭素材料を含む電極では、通電開始から7000秒経過後もrelative currentが73%まで低下し、g-FePCを含む電極では86%まで低下することが記載されている。このことからも、実施例2の電極は、白金担持炭素材料を含む電極等の従来品より優れた耐久性を具備することが示唆された。
【0108】
図50は実施例3の電極、Pt/C電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。実施例3の触媒においては炭素材料がCBである。この場合でも、
図50に示すように、実施例3の電極は、Pt/C電極よりも高い飽和電流値を示すことが判った。また、酸素の還元反応が開始する電位がPt/C電極より高かった。これらより、実施例3の電極は、Pt/C電極を超える酸素還元触媒能を具備することが判った。
【0109】
図51は実施例5の電極、Pt/C電極のそれぞれを作用極として取得したLSV曲線を比較して示す図である。実施例5の触媒においては、金属錯体の構造が上式(9)で示すものである。この場合、
図51に示すように、実施例5の電極は、Pt/C電極と同等の飽和電流値を示すことが判った。また、酸素の還元反応が開始する電位がPt/C電極より高かった。以上より、実施例5の電極は、Pt/C電極を超える酸素還元触媒能を具備することが判った。
図50と
図51とを比較すると、実施例3の電極は、実施例5の電極より飽和電流値が高いことが判る。また、実施例3の電極は、酸素の還元反応が開始する電位が実施例5の電極より高かった。以上より、実施例3の電極は、実施例5の電極より燃料電池又は空気電池の電極として高性能であると考えられる。
【0110】
以上説明した実施例の結果から、白金担持炭素材料を超える酸素還元触媒能を具備する触媒が得られたことが確認できた。