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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート柱
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/34 20060101AFI20240326BHJP
   E04B 1/20 20060101ALI20240326BHJP
   E04C 5/18 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E04C3/34
E04B1/20 E
E04C5/18 105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021117176
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2022033700
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2020137246
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502107621
【氏名又は名称】株式会社向山工場
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
(72)【発明者】
【氏名】松谷 輝雄
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-068951(JP,A)
【文献】特開平11-210160(JP,A)
【文献】特開昭62-041853(JP,A)
【文献】特開平06-307016(JP,A)
【文献】特開2006-249860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00-3/46
E04C 5/00-5/20
E04B 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が角形の鉄筋コンクリート柱であって、
前記鉄筋コンクリート柱の外周に沿って配置され、複数の柱主筋を囲む四角形の外周筋と、
前記外周筋の内側に配置され、円形に形成される第一の中子筋と、
該第一の中子筋と同一の形状に形成される第二の中子筋と、を備え、
前記第一の中子筋の円形の直径と前記外周筋の一辺の長さとが同一であり、前記第一の中子筋は前記外周筋の上に配置され、前記第一の中子筋と前記外周筋とが四点で接しており、
前記第二の中子筋は前記外周筋の下に配置され、前記第二の中子筋と前記外周筋とが四点で接していることを特徴とする鉄筋コンクリート柱。
【請求項2】
断面が角形の鉄筋コンクリート柱であって、
前記鉄筋コンクリート柱の外周に沿って配置され、複数の柱主筋を囲む四角形の外周筋と、
前記外周筋の内側に配置され、円形に形成される第一の中子筋と、
該第一の中子筋と同一の形状に形成される第二の中子筋と、を備え、
前記第一の中子筋の円形の直径と前記外周筋の一辺の長さとが同一であり、前記第一の中子筋と前記外周筋とが四点で接しており、
前記外周筋及び前記第一の中子筋は、組にされた状態で、前記鉄筋コンクリート柱の軸線上に複数設けられており、各組において前記外周筋と前記第一の中子筋とは一体となって配置されており、
前記第二の中子筋が、隣り合う前記組の間において、前記外周筋から所定の間隔をあけて配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート柱。
【請求項3】
前記外周筋と前記第一の中子筋とは、接する四点で溶接又は結束されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート柱。
【請求項4】
前記外周筋前記第一の中子筋及び前記第二の中子筋は、降伏点が590~1275N/mmである高強度鉄筋から形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート柱に係り、特に、せん断補強筋を有する鉄筋コンクリート柱に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート柱に使用する角形柱部材においては、耐力確保とともに、靭性効果を発揮することが求められる。柱部材にかかるせん断応力が大きくなると、柱部材の外周に沿って配置されたせん断補強筋(外周筋)だけでは耐力が不足するため、従来、外周筋の内部に中子筋を配置してその耐力不足が補われてきた(例えば、特許文献1参照)。この中子筋は、耐力だけではなく靭性の寄与にも有効であることが知られている。すなわち、角形柱部材における中子筋には、耐力及び靭性確保の二種類の効果が期待されている。
【0003】
建物の超高層化が進むと、角形柱部材は高軸力対応が必要となる。高い軸力(柱断面の軸圧縮応力)が求められるに従い、せん断に対する耐力の確保だけでなく、変形性能の確保が求められ、より多くのせん断補強筋が必要となり、せん断補強筋比PWを高くしなければならない。
【0004】
図8に従来の角形柱部材の断面を示す。柱軸力が大きくなるに従い、図8に示す角形柱部材101のように、柱軸力に対する垂直方向(せん断応力方向、図8のA方向、B方向)の応力が増加する。そのため、図8の二点鎖線で示すように、柱辺断面を横に押し出す現象、すなわち柱の辺が膨らむ現象が発生する。
【0005】
この現象を抑制するため、従来、外周筋102の内部に、互いに直交する長方形の二つの直線形中子筋103a、103b(以下、まとめて直線形中子筋103と称する場合がある)を配置し、直線形中子筋103がせん断耐力を負担するよう構成されてきた。直線形中子筋103は、膨らみを抑制すると同時に、この膨らもうとする変形(歪み)に抵抗して、膨らみからの破壊を遅らせる効果を発揮する。この効果はいわゆる中子筋の靭性効果である。
【0006】
更に軸力が増すと、直線形中子筋103の伸びが増し、せん断耐力が限界に達すると部材破断を引き起こす。直線形中子筋103の伸びを抑制することで、高軸力の発生に伴う角形柱部材101の靭性の向上を更に図ることができると考えられ、これにより高層建物に用いられる角形柱部材101の耐震性の向上の更なる発展に繋がることが期待されてきた。
【0007】
そのため、必要とされる柱軸力(高軸力)とせん断応力が大きくなるにつれて、加力方向に抵抗するために、従来は、図8に示すように直線形中子筋103を多く挿入していた。しかしながら、直線形中子筋103を多く挿入することによりせん断耐力として抗することは可能であっても、靭性能においては限界があった。すなわち、中子筋の伸び(歪み)は加力とともに増大することから、その限界を配慮する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-249860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、例えば大地震時であっても柱部材のせん断耐力を保持したまま、靭性能を維持可能なせん断補強筋を有する鉄筋コンクリート柱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明の鉄筋コンクリート柱によれば、断面が角形の鉄筋コンクリート柱であって、前記鉄筋コンクリート柱の外周に沿って配置され、複数の柱主筋を囲む四角形の外周筋と、前記外周筋の内側に配置され、円形に形成される第一の中子筋と、該第一の中子筋と同一の形状に形成される第二の中子筋と、を備え、前記第一の中子筋の円形の直径と前記外周筋の一辺の長さとが同一であり、前記第一の中子筋は前記外周筋の上に配置され、前記第一の中子筋と前記外周筋とが四点で接しており、前記第二の中子筋は前記外周筋の下に配置され、前記第二の中子筋と前記外周筋とが四点で接していることにより解決される。
また、前記課題は、本発明の鉄筋コンクリート柱によれば、断面が角形の鉄筋コンクリート柱であって、前記鉄筋コンクリート柱の外周に沿って配置され、複数の柱主筋を囲む四角形の外周筋と、前記外周筋の内側に配置され、円形に形成される第一の中子筋と、該第一の中子筋と同一の形状に形成される第二の中子筋と、を備え、前記第一の中子筋の円形の直径と前記外周筋の一辺の長さとが同一であり、前記第一の中子筋と前記外周筋とが四点で接しており、前記外周筋及び前記第一の中子筋は、組にされた状態で、前記鉄筋コンクリート柱の軸線上に複数設けられており、各組において前記外周筋と前記第一の中子筋とは一体となって配置されており、前記第二の中子筋が、隣り合う前記組の間において、前記外周筋から所定の間隔をあけて配置されていることにより解決される。
【0011】
このような鉄筋コンクリート柱では、外周筋と四点で接する円形の中子筋を備えることにより、高軸力が作用した場合、円形の中子筋と併用した場合でもせん断応力に対する抵抗は、遠心方向の応力に作用するようになる。そのため、円形の中子筋の引張応力が、遠心方向に作用する応力の反力として、コンクリートの円筒部分(円形中子筋の内側の部分)を締め付けるように作用する。この作用により、高軸力の発生による柱の辺の膨らみが抑制されるようになる。中子筋を円形にすることにより、従来の直線形中子筋と比較してより少ない部材で辺の膨らみを抑制することができるため、せん断耐力を保持したまま靭性能を維持することが可能となる。
また、中子筋と同一の形状、すなわち同一の円形に形成された第二の中子筋を重ねて配置することで、高軸力がかかった場合におけるコンクリートの円形部分又は楕円形部分(中子筋の内側部分)を締め付ける拘束力が増大し、耐力と拘束力の性能を更に向上させることができる。
また、外周筋及び中子筋を組にすることにより、工場又は現場での柱部材の施工性が向上する。なお、外周筋とは無関係に中子筋を独立して配置してもよい。
【0014】
このとき、前記外周筋と前記第一の中子筋とは、接する四点で溶接又は結束されているとよい。外周筋と第一の中子筋とが溶接又は結束されていることにより、外周筋と第一の中子筋とが一体で移動させることができ、施工時において容易に設置することができる。また、外周筋と第一の中子筋とが溶接されることにより一体となったせん断補強筋は、せん断耐力の向上が図られる。
【0015】
このとき、前記外周筋前記第一の中子筋及び前記第二の中子筋は、降伏点が590~1275N/mmである高強度鉄筋から形成されるとよい。
外周筋、第一中子筋及び第二の中子筋が高強度鉄筋から形成されることにより、柱部材の断面を大きくすることなくせん断耐力を向上させることが可能となる。
【0016】
このとき、前記外周筋及び前記中子筋は閉鎖型鉄筋であり、前記外周筋と前記中子筋とが組にされた状態で複数設けられており、各組において前記外周筋と前記中子筋とを一体となって配置されるとよい。
外周筋及び中子筋を閉鎖型鉄筋とし、それらを組にすることにより、工場又は現場での柱部材の施工性が向上する。なお、外周筋とは無関係に中子筋を独立して配置してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉄筋コンクリート柱によれば、柱部材のせん断耐力を保持したまま、靭性能を維持可能なせん断補強筋を有する鉄筋コンクリート柱を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート柱の斜視図であり、コンクリートの一部を切り欠いた図である。
図2】鉄筋コンクリート柱の配筋を示す図1の矢視IIから見た立面図である。
図3図2のIII-III線に沿った鉄筋コンクリート柱の断面図である。
図4】鉄筋コンクリート柱で用いる外周筋及び円形中子筋を示す説明図である。
図5】鉄筋コンクリート柱に高軸力がかかった場合に作用する応力を示す説明図である。
図6A】円形中子筋によりコンクリートを締め付ける作用を示す説明図である。
図6B図6Aの部分Cを拡大して示す図である。
図7A】鉄筋コンクリート柱の配筋の変形例を示す立面図である。
図7B】鉄筋コンクリート柱の配筋の変形例を示す立面図である。
図8】従来の鉄筋コンクリート柱の断面図であり、高軸力時の状態を示す説明図である。
図9】本発明の第二実施形態に係る鉄筋コンクリート柱の配筋を示す断面図である。
図10】第二実施形態に係る鉄筋コンクリート柱の配筋を示す図9の矢視Xから見た立面図である。
図11図9の矢視XIから見た立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<<第一実施形態>>
以下、本発明の第一実施形態である鉄筋コンクリート柱1について図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0021】
本明細書における方向を示す用語に関し、図1に示す矢印に従って各方向を定義する。具体的には、以下の説明中、「前後方向」とは、鉄筋コンクリート柱1の厚み方向を意味し、図1中、X方向を意味する。また、「幅方向」とは、鉄筋コンクリート柱1の横方向を意味し、図1中、Y方向を意味する。また、「上下方向」、「鉛直方向」は、図1中、Z方向であり、鉄筋コンクリート柱1の高さ方向を意味する。なお、本明細書において、○mm~△mmという記載は、○mm以上△mm以下を意味する。
【0022】
鉄筋コンクリート柱1は、マンションやオフィスビル等の高層建築物で用いられる柱であり、コンクリート製の柱に仮想円柱的に鉄筋を配することにより強度と靭性を高めたものである。
第一実施形態の鉄筋コンクリート柱1は、図1図3に示すように、断面が角形に形成されたコンクリート4の柱部材である。鉄筋コンクリート柱1には、その外周に沿って配され柱の軸方向(Z方向)に延びる複数の柱主筋11と、それらの周りを取り囲む複数の外周筋2及び円形中子筋3とが配されている。
【0023】
複数の柱主筋11のうち、柱主筋11aは、鉄筋コンクリート柱1の隅角部に配置された鉄筋であり、柱主筋11bは、隅角部近傍に配置された鉄筋である。柱主筋11cは、四辺の中央付近で円形中子筋3の内側に配置された鉄筋である。柱主筋11a~11cをまとめて柱主筋11と一括して称する場合がある。
【0024】
鉄筋コンクリート柱1には、外周筋2と円形中子筋3とがせん断補強筋として設けられている。外周筋2は、鉄筋コンクリート柱1の外周に沿って配置され、平面視で四角形に形成されたせん断補強筋である。また、円形中子筋3は、外周筋2に重ねて配置され、平面視で円形に形成されたせん断補強筋である。
【0025】
図2図4に示すように、外周筋2の一辺(フープ辺長)の長さLと、円形中子筋3(円形フープ)の直径の長さRとは同一の大きさで形成されている。外周筋2と円形中子筋3とは、四つの接点5で接している。より具体的には、円形中子筋3は外周筋2と、外周筋2の各辺の中央と、円形中子筋3の前後方向の端部及び幅方向の両端部とが接するよう配置される。
また、円形中子筋3は、図1に示すように外周筋2に対して外接しており、図2に示すように、横から見た場合、外周筋2の上に円形中子筋3が配置される。また、図4に示すように、外周筋2と円形中子筋3とは、接する四点(接点5)においてアーク溶接されている。外周筋2と円形中子筋3とは接点5において結束線を用いて結束されてもよい。なお、後述するが、二つの円形中子筋3の間に外周筋2を配置し、一組のせん断補強筋のセットとしてもよい。また、外周筋2とは無関係に円形中子筋3を独立して配置してもよい。すなわち、円形中子筋3を外周筋2の上に直接重ねて配置しなくてもよく、所定の間隔Pで上下に配置された外周筋2の間に、円形中子筋3を配置してもよい。
【0026】
外周筋2及び円形中子筋3は閉鎖型鉄筋であり、四つの接点5において溶接又は結束されることにより、1本の外周筋2(角形フープ)と1本の円形中子筋3(円形フープ)とを一体的に組として配置することができる。すなわち、各組は合計2本のせん断補強筋で構成され、図1及び図2に示すように、各組となった外周筋2及び円形中子筋3は鉄筋コンクリート柱1内において略同一の高さに配筋される。
【0027】
四角形の外周筋2は、図1図3に示すように鉄筋コンクリート柱1の外周に沿って配置される複数の柱主筋11を囲むように配置される。また、円形中子筋3は、複数の柱主筋11のうち、隅角部の柱主筋11a及び隅角部近傍の柱主筋11bを除いた、辺中央部に配置される柱主筋11cを囲むように配置される。
なお、柱主筋11のうち、円形中子筋3により囲まれる四辺の柱主筋11cの一部は、図1に示すように、隅角部及び隅角部近傍付近に配置される柱主筋11a、11bよりも、鉄筋コンクリート柱1の内側に寄せて配置されている。それにより円形中子筋3が配置されたとき、円形中子筋3が柱主筋11cと干渉しないようになっている。
また、外周筋2又は円形中子筋3に、例えば降伏点が590~1275N/mmである高強度鉄筋、例えば、MK785を使用してもよい。外周筋2及び円形中子筋3の両方に高強度鉄筋を使用してもよい。
【0028】
以下、鉄筋コンクリート柱1で用いる円形中子筋3の効果について説明する。
鉄筋コンクリート造の建物を設計する際、まず、各構造部材を強化するためにせん断耐力を確保することが考慮される。柱部材の場合、柱断面の外周を囲んだせん断補強筋にせん断耐力を負担させる。
【0029】
建物の規模が大きくなると、柱部材にかかるせん断応力も大きくなり、外周を囲んだせん断補強筋だけではせん断耐力が不足する。せん断耐力が不足する場合、従来は図8に示すように断面の中央部を中心に、一方に細長い直線形中子筋103aと他方に細長い直線形中子筋103bとを組み合わせたものを配置し、せん断耐力を付加させてきた。
建物の規模が高層建築物のように更に大きくなった場合、柱部材には高軸力が発生する。柱部材に圧縮軸力(鉛直方向)が加わると、鉛直方向(加力方向)に柱部材が縮むとともに、加えた力に垂直な方向に拡大する変形が発生する。この柱部材に発生する鉛直方向の歪みと垂直方向に発生する歪みとの比はポアソン比として表される。
【0030】
図8に示すように、従来の鉄筋コンクリート柱である角形柱部材101では高軸力が加わると、矢印Dで示す方向に柱が膨らむ力となり、角形柱部材101の辺を外側に膨らませるような現象が発生する(図8の二点鎖線参照)。例えば、ポアソン比が0.2である場合、柱が膨らむ力として高軸力の0.2倍の力がかかる。そして、角形柱部材101の外側に配置された外周筋102が外側に膨らませる力に抵抗をする。中央部に直線形中子筋103を配置していると、直線形中子筋103が抵抗して角形柱部材101の辺を外側に膨らませる現象を抑制しようとする。
【0031】
従来は、このように直線形中子筋103を挿入することによりせん断耐力として抵抗していた。より強いせん断応力に抗するには、直線形中子筋103をより多く挿入することにより可能である。しかしながら、多く挿入するとせん断応力には抗することができるものの、靭性能においては限界があった。すなわち、直線形中子筋103の伸び(歪み)は加力とともに増大することから、その限界を配慮する必要があった。
【0032】
鉄筋コンクリート柱1で用いられるせん断補強筋は、図4に示すように角形柱の外周に合わせた外周筋2と、角形の外周筋2の辺の長さLと同じ大きさの直径Rで円形に形成された円形中子筋3とにより構成されている。
【0033】
円形中子筋3のようにせん断補強筋を円形にすることで、高軸力がかかると円形中子筋3内のコンクリート4が締め付けられるようになる。この際、高軸力に対する垂直方向の力(図5に示す膨らもうとする矢印E方向の力)は円形の遠心力に変形される。遠心方向に作用する応力は円形のため、円形中子筋3の軸方向引張応力に転換される(図4A図4Bに示す矢印G)。そして、遠心力と同じ力Fが反作用として円心の方向に作用する。
すなわち、円形中子筋3により、高軸力によるコンクリート4が膨らもうとする加力は、図4A及び図4Bに示す一点鎖線Hのように、円形中子筋3のその軸方向引張応力で抵抗するようになる。円形中子筋3がいわゆる「木樽のわっぱ」の作用と同じように作用する。
【0034】
図8に示す従来の直線形中子筋103a、103bの場合、それぞれの軸方向(長手方向)に歪が発生して始めて直線形中子筋103a、103bの靭性に対する効果が発揮される。
一方、鉄筋コンクリート柱1で用いる円形中子筋3の場合、加力方向に対する直交方向に対しても有効であることから、一本の円形中子筋3で、加力方向及びその直交方向の両方向に対してせん断補強筋として効果がある。すなわち、中子筋を円形とすることで、一つの円形中子筋3で、図3のX方向(前後方向)及びY方向(左右方向、幅方向)にせん断補強筋としての効果が発揮される。そのため、直線方向に歪が発生してから効果を発揮する従来の直線形中子筋103と比較して、円形中子筋3が外側に膨らむ量は僅少である。
【0035】
また、例えば、円形中子筋3に引張強度が925N/mmである高強度鉄筋を使用した場合、その引張強度一杯まで円形の保持が可能になる。円形中子筋3が引張破断しない限り、円形中子筋3により囲まれるコンクリート部分の遠心方向(図5の矢印E)への歪は大きくならない。すなわち、円形中子筋3によっても、従来の直線形中子筋103よりも更に効率的に、柱辺部が膨らむ現象が抑制される。
【0036】
また、軸力が大きくなるに従って、高軸力がかかることによる柱辺部の膨らみは加力の直交方向にも生じる。すなわち、ポアソン比で説明すれば、軸力が生じることにより全周にわたって膨らみが加力方向の垂直方向に生じる。そのため、円形中子筋3は、地震発生時に水平方向にかかる力に対して直交方向にかかる力に対しても抵抗することができる。
【0037】
また、上述したように配置する中子筋を円形状とすることにより、1本の円形中子筋3(円形フープ)でX、Yの両方向に膨らみを抑制する効果を発揮する。従来の直線形中子筋103の場合、直交方向の応力に対して抵抗するため、互いに直交方向に配置された直線形中子筋103a、103bを挿入する必要があった。そのため、中子筋として用いられる素材の長さ(鉄筋の長さ)を比較すると、トータルの長さは、直線形中子筋103a、103bより円形中子筋3の方が短くなり、鉄筋量を約4割の削減できる。そのため、中子筋を円形状に形成することで、コストを削減することができる。
言い換えれば、図1図3に示す鉄筋コンクリート柱1では、図8に示す従来の直線形中子筋103を用いた場合と比較して、柱の寸法を同一とした場合、より少ない鉄筋量で、同等のせん断補強筋による効果を得ることができる。
また、従来のように配筋工が直線形中子筋103を1本1本配置する必要がなく、施工が容易となり柱の組立時間も短縮される。
【0038】
(変形例)
せん断補強筋としての組の基本は、図1図3に示すように、1本の外周筋2(角形フープ)と、1本の円形中子筋3(円形フープ)と組み合わせたものであるが、必要とされる応力が更に大きくなった場合、一組に含まれる外周筋2及び円形中子筋3の本数を増やしてもかまわない。
【0039】
例えば、図7Aに示す変形例のように、第一の円形中子筋3aと同一の形状に形成された第二の円形中子筋3b(第二の中子筋)を、外周筋2の下に配置してもよい。このように、1本の外周筋2と、二本の円形中子筋3a、3bとを組み合わせて三本を一体として構成することにより、耐力と拘束力の性能とを更に向上させることができる。なお、一組となったせん断補強筋のセットを配置する間隔(ピッチP)は、例えば約100mmで設定するのが一般的である。
また、図7Bに示す変形例のように、外周筋2と第一の円形中子筋3aとをせん断補強筋のセットとして所定の間隔(ピッチP)で配置し、それとは別に、第二の円形中子筋3bを、上下に配置されたせん断補強筋のセットとの間に配置してもよい。すなわち、第二の円形中子筋3bは上下に配置された二つの外周筋2の中間に配置される。ピッチPが100mmである場合、外周筋2と第二の円形中子筋3bとの間隔は約50mmとなる。このように、第二の円形中子筋3bを配置することで、鉄筋がより仮想円柱的な配置となり靭性を更に向上させることができる。
【0040】
円形中子筋3による効果としては、上述したように、高軸力がかかることにより「木樽のわっぱ」のように作用し、それにより、円形中子筋3により囲った部分の軸圧縮応力エリアのコンクリート歪が抑えられ、円形を保持される。このことは、円形断面積の膨らみを抑えるように逆作用して、締め付けるように作用する。したがって、従来の直線形中子筋と比較して、円形中子筋3の部分が膨らむ量は僅少となる。
【0041】
<<第二実施形態>>
次に、図9から図11を用いて、本発明の第二実施形態である鉄筋コンクリート柱201について説明する。
第一実施形態の鉄筋コンクリート柱1は、その断面が正方形であり、その断面形状に合わせて円形に形成した円形中子筋3を用いていた。しかしながら、実際に採用される鉄筋コンクリート柱は断面として長方形に形成されたものも多い。長方形柱の形状として、その長辺の長さD2が、短辺の長さD3の1.5倍まで長さである長方形断面を採用することまでが許されている。そのため、第二実施形態である鉄筋コンクリート柱201では、断面が長方形の柱に対応するよう楕円形に形成した楕円形中子筋203を採用している。
【0042】
第二実施形態の鉄筋コンクリート柱201は、図9に示すように、断面が長方形に形成されたコンクリート204の柱部材である。鉄筋コンクリート柱201には、その外周に沿って配された柱の軸方向(Z方向)に延びる複数の柱主筋211と、それらの周りを取り囲む複数の外周筋2及び楕円形中子筋203とが配されている。
【0043】
複数の柱主筋211の内、柱主筋211aは、鉄筋コンクリート柱201の隅角部に配置された鉄筋であり、柱主筋211bは、隅角部近傍に配置された鉄筋である。柱主筋211cは、四辺の中央付近で楕円形中子筋203の内側に配置された鉄筋である。以下、特に区別する必要がない場合は、柱主筋211a~211cをまとめて柱主筋211と一括して称する場合がある。
【0044】
鉄筋コンクリート柱201には、外周筋202と楕円形中子筋203とがせん断補強筋として設けられている。外周筋202は、鉄筋コンクリート柱201の外周に沿って配置され、平面視で長方形になるよう形成されたせん断補強筋である。また、楕円形中子筋203は、外周筋202に重ねて配置され、平面視で楕円形になるよう形成されたせん断補強筋である。
【0045】
図9に示すように、外周筋202の長辺の長さL2と、楕円形中子筋203の長径の長さR2とが同一の大きさで形成されている。また、外周筋202の短辺の長さL3と、楕円形中子筋203の短径の長さR3とが同一の大きさで形成されている。それにより、外周筋202と楕円形中子筋203とは、四つの接点205で接している。
より具体的には、楕円形中子筋203は、外周筋202と、外周筋202の長辺の中央及び短辺の中央が、楕円形中子筋203の前後方向の両端部及び幅方向の端部とが接するよう配置される。
【0046】
また、楕円形中子筋203は、図9に示すように外周筋202に対して外接しており、図10図11に示すように、横から見た場合、外周筋202の上に楕円形中子筋203が配置される。
【0047】
第一実施形態の鉄筋コンクリート柱1と同様に、外周筋202と楕円形中子筋203とは、接する四点(接点205)においてアーク溶接されている。外周筋202と楕円形中子筋203とは接点205において結束線を用いて結束されてもよい。なお、上下に配置された二つの楕円形中子筋203の間に外周筋202を配置し、一組のせん断補強筋のセットとしてもよい。また、外周筋202とは無関係に楕円形中子筋203を独立して配置してもよい。すなわち、楕円形中子筋203を外周筋202の上に直接重ねて配置しなくてもよく、所定の間隔Pで上下に配置された外周筋202の間に、楕円形中子筋203を配置してもよい。
【0048】
外周筋202及び楕円形中子筋203は閉鎖型鉄筋であり、四つの接点205において溶接又は結束されることにより、1本の外周筋202(角形フープ)と1本の楕円形中子筋203(楕円形フープ)とを一体的に組として配置する。すなわち、各組は合計2本のせん断補強筋で構成され、図10及び図11に示すように、各組となった外周筋202及び楕円形中子筋203は鉄筋コンクリート柱201内において略同一の高さに配筋される。
【0049】
長方形の外周筋202は、図9に示すように鉄筋コンクリート柱201の外周に沿って配置される複数の柱主筋211を囲むように配置される。また、楕円形中子筋203は、複数の柱主筋211のうち、隅角部の柱主筋211a及び隅角部近傍の柱主筋211bを除いた、辺中央部に配置される柱主筋211cを囲むように配置される。
【0050】
なお、図9に示すように柱主筋211cは、隅角部及び隅角部近傍付近に配置される柱主筋211a、211bよりも、鉄筋コンクリート柱201の内側に寄せて配置されている。それにより楕円形中子筋203が配置されたとき、楕円形中子筋203が柱主筋211cと干渉しないようになっている。
また、第一実施形態の鉄筋コンクリート柱1と同様、外周筋202又は楕円形中子筋203に、例えば降伏点が590~1275N/mmである高強度鉄筋、例えば、MK785を使用してもよい。外周筋202及び楕円形中子筋203の両方に高強度鉄筋を使用してもよい。
【0051】
第二実施形態の鉄筋コンクリート柱201で用いる楕円形中子筋203の効果については、第一実施形態の円形中子筋3と同様であるので、その説明は省略するものとするが、簡単に述べると、長方形の断面形状を有する鉄筋コンクリート柱201に対して楕円形中子筋203を採用することにより、高軸力がかかると楕円形中子筋203内のコンクリート204が締め付けられるようになる。
すなわち、楕円形中子筋203により、高軸力によるコンクリート204が膨らもうとする加力は、楕円形中子筋203のその軸方向引張応力で抵抗するようになる。楕円形中子筋203がいわゆる「木樽のわっぱ」の作用と同じように作用する。
【0052】
中子筋を楕円形状とすることにより、円形中子筋と同様、1本の楕円形中子筋203(楕円形フープ)でX、Yの両方向に膨らみを抑制する効果を発揮する。従来の直線形中子筋103の場合、直交方向の応力に対して抵抗するため、互いに直交方向に配置された直線形中子筋103a、103bを挿入する必要があった。そのため、中子筋として用いられる素材の長さ(鉄筋の長さ)を比較すると、トータルの長さは、直線形中子筋103a、103bより楕円形中子筋203の方が短くなり、鉄筋量を約4割の削減できる。そのため、中子筋を楕円形状に形成することで、コストを削減することができる。
言い換えれば、図9図11に示す本実施形態の鉄筋コンクリート柱1では、図8に示す従来の直線形中子筋103を用いた場合と比較して、柱の寸法を同一とした場合、より少ない鉄筋量で、同等のせん断補強筋による効果を得ることができる。
また、従来のように配筋工が直線形中子筋103を1本1本配置する必要がなく、施工が容易となり柱の組立時間も短縮される。
【符号の説明】
【0053】
1、201 鉄筋コンクリート柱
101 角形柱部材
2、102 外周筋
3、3a 円形中子筋(中子筋)
203 楕円形中子筋(中子筋)
3b 第二の円形中子筋(中子筋)
103a、103b 直線形中子筋
4、204 コンクリート
5、205 接点
11、211 柱主筋
11a、211a 隅角部の柱主筋
11b、211b 隅角部近傍の柱主筋
11c、211c 辺中央部の柱主筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11