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特許7460176αシヌクレイン凝集体結合剤及びイメージング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】αシヌクレイン凝集体結合剤及びイメージング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/04 20060101AFI20240326BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240326BHJP
   C07D 405/06 20060101ALN20240326BHJP
   C07D 417/06 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A61K51/04 200
A61K49/00
G01N33/15 Z
C07D405/06 CSP
C07D417/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021501753
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002607
(87)【国際公開番号】W WO2020174963
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019034997
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト事業」「脳老化病態カスケードのトランスレータブルなイメージングとメカニズム制御の研究開発」、令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト事業」「神経変性疾患のタンパク凝集・伝播病態と回路障害の分子イメージング研究」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】樋口 真人
(72)【発明者】
【氏名】小野 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】須原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097474(WO,A1)
【文献】KOGA, S. et al.,Fluorescence and Autoradiographic Evaluation of Tau PET Ligand PBB3 to α-Synuclein Pathology,Movement Disorders,2017年,Vol.32, No.6,pp.884-892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物:
【化1】
(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アシル、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択され;
は、水素又はハロゲンであり;
環Aは、ピリジン環であり;
環Bは、下記式(i)又は式(ii)であり:
【化2】
及びRは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ハロヒドロキシアルコキシ、及びアミノアルキルからなる群から選択される。)
を含有する、αシヌクレイン凝集体結合剤。
【請求項2】
環Bが、式(i)である、請求項1記載の結合剤。
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物が下記の群から選択される、請求項1記載の結合剤。
【化3】
【化4】
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物が1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である、請求項1~のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体の光学イメージング用組成物。
【請求項6】
請求項記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体の放射イメージング用組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の診断薬、又は前記疾患の治療又は予防のためのコンパニオン診断薬。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項記載の結合剤と、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、1-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一種と、を含む、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患とタウタンパク質凝集体が関連する疾患とを分類するための診断キット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項記載の結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から第1の波長の光を照射した後に、前記脳から発せられる、第1の波長とは異なる第2の波長の光を検出する工程を含む、脳内αシヌクレイン凝集体の光学イメージング方法。
【請求項10】
請求項記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含む、脳内αシヌクレイン凝集体の放射イメージング方法。
【請求項11】
脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
前記被験体への候補物質の投与前後における、請求項又は請求項10記載のイメージング方法によって検出される光又は放射線の量及び/又は分布の差異に基づいて、前記候補物質を選抜する工程を有する方法。
【請求項12】
請求項記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含み、前記検出した放射線の量及び/又は分布に基づいて、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法。
【請求項13】
請求項記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する第1の工程と、
2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一方を、第1の工程と異なる時期に投与された前記被験体の脳から発せられる放射線を検出する第2の工程と、を含み、
前記第1の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、前記第2の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、に基づいて、αシヌクレイン凝集体とタウタンパク質凝集体との分類及び蓄積を判定する方法。
【請求項14】
下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物:
【化5】
(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アシル、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択され;
は、水素又はハロゲンであり;
環Aは、ピリジン環であり;
環Bは、下記式(i)又は式(ii)であり:
【化6】
及びRは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ハロヒドロキシアルコキシ、及びアミノアルキルからなる群から選択される。)
を含有する、αシヌクレイン凝集阻害剤。
【請求項15】
環Bが、式(i)である、請求項14記載のαシヌクレイン凝集阻害剤。
【請求項16】
前記式(I)で表される化合物が下記の群から選択される、請求項14記載のαシヌクレイン凝集阻害剤。
【化7】
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αシヌクレイン凝集体結合剤、αシヌクレイン凝集体の光学イメージング用組成物、αシヌクレイン凝集体の放射イメージング用組成物、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の診断薬、又は前記疾患の治療又は予防のためのコンパニオン診断薬、脳内に蓄積する物質が関連する疾患の診断キット、光学イメージング方法、放射イメージング方法、脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法、αシヌクレイン凝集阻害剤、及び、新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
αシヌクレイン凝集体は、パーキンソン病、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)の中核病理を形成し、神経変性と密接な因果関係を有すると考えられている。こうした疾患の確定診断は、剖検脳の病理解析でαシヌクレイン凝集体の存在を指標として行われるため、生前に診断を確定することはできない。しかしながら、生体脳でαシヌクレイン凝集体を可視化できれば、早期からこれら疾患の診断に関する確定的な情報(確定診断)に近い情報を得ることが可能になる。また、疾患モデル動物の生体脳でαシヌクレイン凝集体を可視化できれば、経時的なイメージング等により、αシヌクレイン凝集体を標的とする治療又は予防薬の候補物質の薬効評価にも役立ちうる。
【0003】
従来生体脳でαシヌクレインに結合することが示されているPET(ポジトロン断層撮影法)プローブとして、[11C]BF-227がある。しかしながら[11C]BF-227は、αシヌクレイン凝集体への結合親和性が十分ではなく、これらの疾患のうち、MSA患者の一部でαシヌクレイン病変が検出できるにとどまっている。また、[11C]BF-227は、非特異的な脳内集積という問題や、アミロイドβ凝集体へ結合するためαシヌクレイン凝集体への結合選択性が低いという問題がある。
【0004】
ところで、発明者らは、脳内に蓄積したタウタンパク質をイメージング(画像化)するための新規化合物を開発した(特許文献1参照)。特許文献1に記載の化合物は、脳内に蓄積したタウタンパク質をイメージングできるため、特許文献1の技術は、タウタンパク質の蓄積により生じる疾患、例えばアルツハイマー病(AD)の治療や予防等に役立つ。しかし、特許文献1にはαシヌクレイン凝集体への結合について記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/097474号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1記載の化合物のうち、(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール(PBB3)が、αシヌクレイン凝集体にもある程度の親和性で結合しうることを見出した。
【0007】
しかしながら、PBB3は、タウ凝集体への結合選択性と比べて、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が低いため、αシヌクレイン凝集体プローブとしては適合性が低い。そのため、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いαシヌクレイン凝集体結合剤が望まれる。
【0008】
また、αシヌクレイン凝集体を検出して診断等するだけでなく、αシヌクレインの凝集自体を阻害(抑制)することができれば、αシヌクレイン凝集体に由来する疾患を予防又は治療することができる。このため、αシヌクレインの凝集を阻害できるαシヌクレイン凝集阻害剤が望まれる。
【0009】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いαシヌクレイン凝集体結合剤、このαシヌクレイン凝集体結合剤を用いたイメージング方法、αシヌクレイン凝集体結合剤に用いることができる新規化合物、及びαシヌクレイン凝集阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特許文献1に記載された化合物のうち、ブテニニル構造とベンゾチアゾール構造又はベンゾフラン構造とを有する下記式(I)で表される化合物がαシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いことを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
[1] 下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物:
【化1】
(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アシル、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択され;
は、水素又はハロゲンであり;
環Aは、ベンゼン環又はピリジン環であり;
環Bは、下記式(i)又は式(ii)であり:
【化2】
及びRは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ハロヒドロキシアルコキシ、及びアミノアルキルからなる群から選択される。)
を含有する、αシヌクレイン凝集体結合剤。
【0012】
[2] 環Aが、ピリジン環である、[1]記載の結合剤。
【0013】
[3] 環Bが、式(i)である、[1]又は[2]記載の結合剤。
【0014】
[4] 前記式(I)で表される化合物が下記の群から選択される、[1]記載の結合剤:
【化3】
【化4】
【0015】
[5] 前記式(I)で表される化合物が1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である、[1]~[4]のいずれか記載の結合剤。
【0016】
[6] [1]~[4]のいずれか記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体の光学イメージング用組成物。
【0017】
[7] [5]記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体の放射イメージング用組成物。
【0018】
[8] [1]~[5]のいずれか記載の結合剤を含む、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の診断薬、又は前記疾患の治療又は予防のためのコンパニオン診断薬。
【0019】
[9] [1]~[5]のいずれか記載の結合剤と、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、1-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一種と、を含む、脳内に蓄積する物質が関連する疾患の診断キット。
【0020】
[10] [1]~[4]のいずれか記載の結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から第1の波長の光を照射した後に、前記脳から発せられる、第1の波長とは異なる第2の波長の光を検出する工程を含む、脳内αシヌクレイン凝集体の光学イメージング方法。
【0021】
[11] [5]記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含む、脳内αシヌクレイン凝集体の放射イメージング方法。
【0022】
[12] 脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
前記被験体への候補物質の投与前後における、[10]又は[11]記載のイメージング方法によって検出される光又は放射線の量及び/又は分布の差異に基づいて、前記候補物質を選抜する工程を有する方法。
【0023】
[13] [5]記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含み、前記検出した放射線の量及び/又は分布に基づいて、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法。
【0024】
[14] [5]記載の結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する第1の工程と、
2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一方を、第1の工程と異なる時期に投与された前記被験体の脳から発せられる放射線を検出する第2の工程と、を含み、
前記第1の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、前記第2の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、に基づいて、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法。
【0025】
[15] 下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物:
【化5】
(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アシル、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択され;
は、水素又はハロゲンであり;
環Aは、ベンゼン環又はピリジン環であり;
環Bは、下記式(i)又は式(ii)であり:
【化6】
及びRは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ハロヒドロキシアルコキシ、及びアミノアルキルからなる群から選択される。)
を含有する、αシヌクレイン凝集阻害剤。
【0026】
[16] 環Aが、ピリジン環である、[15]記載のαシヌクレイン凝集阻害剤。
【0027】
[17] 環Bが、式(i)である、[15]又は[16]記載のαシヌクレイン凝集阻害剤。
【0028】
[18] 前記式(I)で表される化合物が下記の群から選択される、[15]記載のαシヌクレイン凝集阻害剤:
【化7】
【化8】
【0029】
[19] 下記式で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物。
【化9】
【0030】
[20] 下記式で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物。
【化10】
(式中、*印の原子の少なくとも一方はその原子の放射性同位体である。)
【0031】
[21] 下記式で表される、[19]で表される化合物を合成するための中間体。
【化11】
【0032】
[22] 下記式で表される、[20]で表される化合物を合成するための中間体。
【化12】
【化13】
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いαシヌクレイン凝集体結合剤を提供することができる。
そして、このαシヌクレイン凝集体結合剤を用いた、イメージング方法を提供することができる。
また、αシヌクレイン凝集体結合剤やその他の用途に用いることができる新規化合物を提供することができる。
また、αシヌクレインの凝集を阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A】DLB患者脳及びAD患者脳の蛍光顕微鏡測定結果を示す図である。
図1B】DLB患者脳及びAD患者脳の蛍光顕微鏡測定結果を示す図である。
図2】病変領域および病変非形成領域の蛍光輝度の定量結果を示す図である。
図3】αシヌクレイン線維接種マウスの蛍光顕微鏡測定結果を示す図である。
図4】αシヌクレイン線維溶液注入6週間以降のモデルマウスの二光子レーザースキャニング蛍光顕微鏡検査結果を示す図である。
図5】PETイメージング結果を示す図である。
図6】PETイメージング結果を示す図である。
図7】αシヌクレイン線維接種マウスの蛍光顕微鏡検査結果を示す図である。
図8】PETイメージング結果を示す図である。
図9】PETイメージング結果を示す図である。
図10】PETイメージング結果を示す図である。
図11】PETイメージング結果を示す図である。
図12】PETイメージング結果を示す図である。
図13】αシヌクレイン凝集阻害効果を示す図である。
図14】αシヌクレイン凝集阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<定義>
用語「アルキル」とは、脂肪族飽和炭化水素の水素原子1個が失われて生じる1価の基を意味する。アルキルは、例えば、1~15個の炭素原子、典型的には、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は2~6個の炭素原子を有する。アルキルは、直鎖、分枝状、又は環状であってもよい。アルキルの例を挙げると、限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2-メチル-1-プロピル、2-メチル-2-プロピル、2-メチル-1-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-3-ブチル、2,2-ジメチル-1-プロピル、2-メチル-1-ペンチル、3-メチル-1-ペンチル、4-メチル-1-ペンチル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、2,2-ジメチル-1-ブチル、3,3-ジメチル-1-ブチル、2-エチル-1-ブチル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、及びヘキシルなどがある。アルキルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0036】
本明細書において、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、2~8個、2~6個、2~4個、3~8個、3~6個、4~8個、4~6個等の炭素原子を、それぞれ、C1-15、C1-10、C1-8、C1-6、C1-5、C1-4、C1-3、C1-2、C2-8、C2-6、C2-4、C3-8、C3-6、C4-8、及びC4-6等とも示す。
【0037】
用語「シクロアルキル」とは、炭素環を形成する脂肪族飽和炭化水素の水素原子1個が失われて生じる1価の基を意味する。シクロアルキルは、例えば、3~10個の炭素原子、典型的には、3~8個、3~6個、3~5個、3~4個、4~5個、4~6個、又は4~8個の炭素原子を有する。シクロアルキルの例を挙げると、限定されないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、及びシクロオクタンなどがある。シクロアルキルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0038】
用語「アルケニル」とは、少なくとも1つの二重結合を持つ脂肪族不飽和炭化水素基を意味する。アルケニルは、例えば、2~15個の炭素原子、典型的には、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個、3~6個、3~8個、4~6個、4~7個、又は4~8個の炭素原子を有する。アルケニルは、直鎖若しくは分枝状であってもよい。アルケニルの例を挙げると、限定されないが、具体的には、ビニル(-CH=CH)、アリル(-CHCH=CH)、-CH=CH(CH)、-CH=C(CH、-C(CH)=CH、-C(CH)=CH(CH)、-C(CHCH)=CH、1,3-ブタジエニル(-CH=CH-CH=CH)、及びヘプタ-1,6-ジエン-4-イル(-CH-(CHCH=CH)などがある。アルケニルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0039】
用語「アルキニル」とは、少なくとも1つの三重結合を持つ脂肪族不飽和炭化水素基を意味する。アルキニルは、例えば、2~15個の炭素原子、典型的には、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個、3~6個、4~6個、4~7個、又は4~8個の炭素原子を有する。アルキニルは、直鎖若しくは分枝状であってもよい。アルキニルの例を挙げると、限定されないが、エチニル(-C≡CH)、-C≡CH(CH)、-C≡C(CHCH)、-CHC≡CH、-CHC≡C(CH)、及び-CHC≡C(CHCH)などがある。アルキニルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0040】
用語「アシル」とは、-CO-Rで表される基を意味する。ここで、Rは、例えば、アルキル、アルケニル、又はアルキニルなどである。アシルの例を挙げると、限定されないが、アセチル(-COCH)、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、ペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、オクチルカルボニル、2-エチルヘキシルカルボニル、ドデシルカルボニル、フェニルカルボニル、ベンジルカルボニル、ナフチルカルボニル、及びピリジルカルボニルなどがある。アシルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0041】
用語「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は、-OHを意味する。
【0042】
用語「ヒドロキシアルキル」は、ヒドロキシ基(-OH)で置換されたアルキル基を意味する。ヒドロキシアルキルの例を挙げると、限定されないが、ヒドロキシメチル(-CHOH)、2-ヒドロキシエチル(-CHCHOH)、1-ヒドロキシエチル(-CH(OH)CH)、3-ヒドロキシプロピル(-CHCHCHOH)、2-ヒドロキシプロピル(-CHCH(OH)CH)、及び1-ヒドロキシプロピル(-CH(OH)CHCH)などがある。ヒドロキシアルキルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0043】
用語「ハロゲン」又は「ハロ」は、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、及びヨード(-I)を意味する。
【0044】
用語「アルコキシ」は、酸素原子を介して他の基に結合しているアルキル(すなわち、-O-アルキル)を意味する。アルコキシの例を挙げると、限定されないが、メトキシ(-O-メチル)、エトキシ(-O-エチル)、プロポキシ(-O-プロピル)、-O-イソプロピル、-O-2-メチル-1-プロピル、-O-2-メチル-2-プロピル、-O-2-メチル-1-ブチル、-O-3-メチル-1-ブチル、-O-2-メチル-3-ブチル、-O-2,2-ジメチル-1-プロピル、-O-2-メチル-1-ペンチル、3-O-メチル-1-ペンチル、-O-4-メチル-1-ペンチル、-O-2-メチル-2-ペンチル、-O-3-メチル-2-ペンチル、-O-4-メチル-2-ペンチル、-O-2,2-ジメチル-1-ブチル、-O-3,3-ジメチル-1-ブチル、-O-2-エチル-1-ブチル、-O-ブチル、-O-イソブチル、-O-t-ブチル、-O-ペンチル、-O-イソペンチル、-O-ネオペンチル、及び-O-ヘキシルがある。アルコキシは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0045】
用語「ハロアルキル」とは、少なくとも1つのハロゲンで置換されたアルキルを意味する。ハロアルキルには、フルオロアルキル、クロロアルキル、ブロモアルキル、及びヨードアルキルがある。ハロアルキルの例を挙げると、限定されないが、フルオロメチル、クロロメチル、ブロモメチル、ヨードメチル、フルオロエチル、クロロエチル、ブロモエチル、ヨードエチル、フルオロプロピル、クロロプロピル、ブロモプロピル、ヨードプロピル、フルオロブチル、クロロブチル、ブロモブチル、ヨードブチル、フルオロペンチル、クロロペンチル、ブロモペンチル、ヨードペンチル、フルオロヘキシル、クロロヘキシル、ブロモヘキシル、ヨードヘキシル、フルオロヘプチル、クロロヘプチル、ブロモヘプチル、ヨードヘプチル、フルオロオクチル、クロロオクチル、ブロモオクチル、及びヨードオクチルなどがある。ハロアルキルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0046】
用語「ハロアルコキシ」とは、少なくとも1つのハロゲンで置換されたアルコキシ(すなわち、-O-ハロアルキル)を意味する。ハロアルコキシには、フルオロアルコキシ、クロロアルコキシ、ブロモアルコキシ、及びヨードアルコキシがある。
【0047】
用語「ハロヒドロキシアルコキシ」とは、ヒドロキシ基で置換されたハロアルコキシを意味する。ハロヒドロキシアルコキシには、フルオロヒドロキシアルコキシ、クロロヒドロキシアルコキシ、ブロモヒドロキシアルコキシ、及びヨードヒドロキシアルコキシがある。ハロヒドロキシアルコキシの例を挙げると、-O-CH(F)(OH)、-O-CHCH(F)(OH)、-O-CH(OH)-CH(F)、-O-CH-CH(F)(OH)、-O-CH(OH)-CH-CH(F)、-O-CH-CH(OH)-CH(F)、-O-CH(CH-F)(CHOH)及び-O-CH-CH-CH(F)(OH)などがある。
【0048】
用語「ニトロ」とは、-NOを意味する。
【0049】
用語「アミノ」とは、-NHを意味する。
【0050】
用語「アミノアルキル」とは、アミノ基で置換されたアルキル基を意味する。アミノアルキルの例を挙げると、限定されないが、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノイソプロピル、アミノブチル、アミノペンチル、アミノヘキシル、及びアミノオクチルなどがある。
【0051】
用語「置換基」とは、ある化学構造式において、導入される1以上の原子又は原子団を意味する。置換基の例を挙げると、例えば、C1-8アルキル(メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、又はn-ヘキシル若しくはその異性体など)、C2-8アルケニル(ビニル、アリル、-CH=CH(CH)、-CH=C(CH、-C(CH)=CH、-C(CH)=CH(CH)、及び-C(CHCH)=CHなど)、C2-8アルキニル(エチニル、-C≡CH(CH)、-C≡C(CHCH)、-CHC≡CH、-CHC≡C(CH)、及び-CHC≡C(CHCH)など)、アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、ハロアルキル、シクロアルキル(シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロへキシルなど)、アミノ、ニトロ、アシル(アセチルなど)(-COCH)、カルボキシル(-COOH)、エステル(-COOR、ここでRはC1-6アルキルなどである)、アミド(-CONR、ここでR及びRは独立にH又はC1-6アルキルなどである)、チオール(-SH)、スルホン酸(-SOH)、ニトリル(-CN)、芳香族環(アリール、フェニル、ベンゾイル、又はナフタレニルなど)、複素環(ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピペリジニル、オキサニル、又はピリジニルなど)などがある。
【0052】
用語「医薬として許容し得る塩」とは、哺乳動物、特にヒトに対して有害でない塩を指す。医薬として許容し得る塩は、無機酸若しくは無機塩基、又は有機酸若しくは有機塩基を含む、無毒性の酸又は塩基を用いて形成することができる。医薬として許容し得る塩の例を挙げると、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛などから形成される金属塩、又はリジン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)及びプロカインなどから形成される有機塩などがある。また、医薬として許容し得る塩は、酸付加塩及び塩基付加塩を包含する。
【0053】
用語「医薬として許容し得る担体」とは、生理食塩水溶液、液体若しくは固体の充填剤、希釈剤、溶媒、又は封入材料などの医薬として許容し得る材料、組成物、又はビヒクルを意味する。医薬として許容し得る担体の例を挙げると、水、食塩水、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張性デキストロース注射液、無菌水注射液、デキストロース、及び乳酸リンゲル注射液などがある。
【0054】
用語「有効量」とは、目的の効果を得ることができる、化合物又は組成物の量をいう。例えば、一部の実施態様において、有効量は、αシヌクレイン凝集体等の脳内に蓄積する物質の光学イメージングや放射イメージングが可能な、化合物又は組成物の量をいう。
【0055】
用語「溶媒和物」とは、化合物に対する1つ又は複数の溶媒分子の会合により形成される含溶媒化合物を意味する。溶媒和物は、例えば、一溶媒和物、二溶媒和物、三溶媒和物、及び四溶媒和物を含む。また、溶媒和物は、水和物を含む。
【0056】
用語「水和物」とは、非共有結合性分子間力によって拘束された化学量論的又は非化学量論的量の水をさらに含む化合物又はその塩を意味する。水和物は、例えば、一水和物、二水和物、三水和物、及び四水和物などを含む。
【0057】
用語「治療」とは、疾患又は状態の進行、重症度及び/又は持続期間を低減すること又は寛解することを意味する。
【0058】
用語「予防」とは、所定の疾患又は状態を獲得する又は進行させる危険の低減、或いは、所定の疾患又は条件の1つ又は複数の症状の再発、開始、又は進行の低減又は抑制を意味する。
【0059】
<αシヌクレイン凝集体結合剤>
本発明のαシヌクレイン凝集体結合剤(以下、結合剤とも記載する)は、下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含有する。
特許文献1に記載された化合物のうち、ブタジエン結合ではなくブテニニル結合を有
し且つベンゾチアゾール構造又はベンゾフラン構造を有する化合物である、下記式(I)で表される化合物は、タウタンパク質やアミロイドβの凝集体よりもαシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いことが確認された。また、同様に、下記式(I)で表される化合物の医薬として許容し得る塩や、下記式(I)で表される化合物の溶媒和物も、タウタンパク質やアミロイドβの凝集体よりもαシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い。
また、下記式(I)で表される化合物は、蛍光を発する。また、下記式(I)で表される化合物のうち、1個又はそれ以上の原子を該原子の放射性同位体とすることができる。
したがって、本発明の結合剤は、脳内に蓄積したαシヌクレイン凝集体の光学イメージングや放射イメージングのための分子プローブとして用いることができる。
また、下記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、及びその溶媒和物は、上述のとおりαシヌクレイン凝集体への結合選択性が高いため、詳しくは後述するが、αシヌクレインの凝集を阻害することができる。
なお、αシヌクレインは、正常な脳でもニューロンのシナプス等に局在するタンパク質であり、αシヌクレインが凝集したものがαシヌクレイン凝集体である。
【0060】
【化14】
(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アシル、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択され;
は、水素又はハロゲンであり;
環Aは、ベンゼン環又はピリジン環であり;
環Bは、下記式(i)又は式(ii)であり:
【化15】
及びRは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ハロヒドロキシアルコキシ、及びアミノアルキルからなる群から選択される。)
【0061】
一実施態様において、環Bは、式(i)である。また他の実施態様において、環Bは、式(ii)である。
【0062】
環Bが、式(i)である場合、R及びRは、式(i)のベンゾチアゾール環の置換可能な位置に存在することができる。好ましくは、R及びRは、それぞれ、式(i)のベンゾチアゾール環の6位及び5位に存在する。環Bが、式(ii)である場合、R及びRは、式(ii)のベンゾフラン環の置換可能な位置に存在することができる。好ましくは、R及びRは、それぞれ、式(ii)のベンゾフラン環の5位及び6位に存在する。
【0063】
一実施態様において、環Aは、ピリジン環である。他の実施態様において、環Aは、ベンゼン環である。好ましくは、環Aは、式(I)の構造式の向きにおいて、下記構造式で表されるピリジン環である。
【化16】
【0064】
一実施態様において、R及びRは、いずれも水素である。
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はアルキル、特にC1-8アルキル、好ましくはメチルである。他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、アルキル、特にC1-6アルキル、好ましくはメチルである。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもアルキルであり、いずれもC1-6アルキルであることが好ましく、いずれもメチルであることがより好ましい。
【0065】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はアルケニル、特に、C2-8アルケニル、好ましくは、アリル(-CHCH=CH)又はヘプタ-1,6-ジエン-4-イル(-CH-(CHCH=CH)である。他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、アルケニル、特に、C2-8アルケニル、好ましくは、アリル(-CHCH=CH)又はヘプタ-1,6-ジエン-4-イル(-CH-(CHCH=CH)である。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもアルケニルであり、いずれもC2-8アルケニルであることが好ましく、いずれもアリル(-CHCH=CH)又はヘプタ-1,6-ジエン-4-イル(-CH-(CHCH=CH)であることがより好ましい。
【0066】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はアシル、特に、C1-8アシル、好ましくは、アセチル(-COCH)である。他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、アシル、特に、C1-8アシル、好ましくは、アセチル(-COCH)である。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもアシルであり、いずれもC1-8アシルであることが好ましく、いずれもアセチル(-COCH)であることがより好ましい。
【0067】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はヒドロキシアルキル、特に、ヒドロキシC1-8アルキル、好ましくは、ヒドロキシプロピル、より好ましくは3-ヒドロキシプロピル(-CHCHCHOH)である。他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、ヒドロキシアルキル、特に、ヒドロキシC1-8アルキル、好ましくは、ヒドロキシプロピル、より好ましくは3-ヒドロキシプロピル(-CHCHCHOH)である。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもヒドロキシアルキルであり、いずれもヒドロキシC1-8アルキルであることが好ましく、いずれもヒドロキシプロピルであることがより好ましく、いずれも3-ヒドロキシプロピル(-CHCHCHOH)であることがさらに好ましい。
【0068】
一実施態様において、Rは、水素である。他の実施態様において、Rは、ハロゲン、すなわち、F、Cl、Br又はIである。好ましくは、Rは、Fである。好ましくは、Rは、18Fである。Rは、式(I)の構造式の向きにおいて、下記に示す位置に存在することが好ましい。
【化17】
【0069】
好ましくは、環AとRとの関係は、式(I)の構造式の向きにおいて、以下である。
【化18】
【0070】
一実施態様において、R及びRは、いずれも水素である。
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はヒドロキシである。他の実施態様において、Rは、ヒドロキシであり、Rは、水素である。また他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、ヒドロキシである。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもヒドロキシである。
【0071】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はアルコキシ、特にメトキシである。他の実施態様において、Rは、アルコキシ、特にメトキシであり、Rは水素である。また他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、アルコキシ、特にメトキシである。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもアルコキシであり、いずれもメトキシであることが好ましい。
【0072】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はハロアルコキシ、特にフルオロアルコキシ、クロロアルコキシ、ブロモアルコキシ、又はヨードアルコキシである。他の実施態様において、Rは、ハロアルコキシ、特に、フルオロアルコキシ、クロロアルコキシ、ブロモアルコキシ、又はヨードアルコキシであり、Rは水素である。また他の実施態様において、Rは、水素であり、Rはハロアルコキシ、特に、フルオロアルコキシ、クロロアルコキシ、ブロモアルコキシ、又はヨードアルコキシである。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもハロアルコキシであり、特にいずれもフルオロアルコキシ、クロロアルコキシ、ブロモアルコキシ、又はヨードアルコキシである。一実施態様において、フルオロアルコキシは、放射性同位体を含む。
【0073】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はハロヒドロキシアルコキシ、特にフルオロヒドロキシアルコキシ、好ましくは、フルオロヒドロキシC1-3アルコキシ、より好ましくは、-O-CH-CH(OH)-CH(F)若しくは-O-CH(CH-F)(CHOH)である。他の実施態様において、Rは、ハロヒドロキシアルコキシ、特にフルオロヒドロキシアルコキシ、好ましくは、フルオロヒドロキシC1-3アルコキシ、より好ましくは、-O-CH-CH(OH)-CH(F)、又は-O-CH(CH-F)(CHOH)であり、Rは水素である。また他の実施態様において、Rは、水素であり、Rはハロヒドロキシアルコキシ、特にフルオロヒドロキシアルコキシ、好ましくは、フルオロヒドロキシC1-3アルコキシ、より好ましくは、-O-CH-CH(OH)-CH(F)、又は-O-CH(CH-F)(CHOH)である。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもハロヒドロキシアルコキシであり、いずれもフルオロヒドロキシアルコキシであることが好ましく、いずれもフルオロヒドロキシC1-3アルコキシであることがより好ましく、いずれも-O-CH-CH(OH)-CH(F)、又は-O-CH(CH-F)(CHOH)であることがさらに好ましい。一実施態様において、フルオロヒドロキシアルコキシは、放射性同位体を含む。好ましくは、当該フルオロヒドロキシアルコキシは、-O-CH-CH(OH)-CH18F)、又は-O-CH(CH18F)(CHOH)である。
【0074】
一実施態様において、R及びRは、それぞれ独立に、水素又はアミノアルキル、特にアミノメチル若しくはアミノエチルである。他の実施態様において、Rは、アミノアルキル、特にアミノメチル又はアミノエチルであり、Rは、水素である。また他の実施態様において、Rは、水素であり、Rは、アミノアルキル、特にアミノメチル又はアミノエチルである。さらに他の実施態様において、R及びRは、いずれもアミノアルキルであり、いずれもアミノメチル又はアミノエチルであることが好ましい。
【0075】
一実施態様において、式(I)で表される化合物は、下記式(II)により表される化合物である。
【化19】
(式中、R、R、R、R、Rはそれぞれ式(I)におけるR、R、R、R、Rと同様である。)
【0076】
一実施態様において、式(I)で表される化合物は、下記式(III)により表される化合物である。
【化20】
(式中、R、R、R、R、Rはそれぞれ式(I)におけるR、R、R、R、Rと同様である。)
【0077】
一実施態様において、式(I)で表される化合物は、下記式(IV)により表される化合物である。
【化21】
(式中、R、R、R、R、Rはそれぞれ式(I)におけるR、R、R、R、Rと同様である。)
【0078】
一実施態様において、式(I)で表される化合物は、下記式(V)により表される化合物である。
【化22】
(式中、R、R、R、R、Rはそれぞれ式(I)におけるR、R、R、R、Rと同様である。)
【0079】
一実施態様において、式(I)~(V)の化合物中、1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である。放射性同位体は、15O、13N、11C、及び18Fなどからなる群から選択されるが、特に限定されない。好ましくは、放射性同位体は、11C又は19Fである。このうち、11Cの半減期が約20分であり、18Fの半減期が約110分であることを考慮すれば、18Fで標識した化合物の方が商業的利用価値が高いものと考えられる。したがって、最も好ましくは、放射性同位体は、18Fである。
【0080】
好ましくは、R~Rのいずれか1つ以上が、放射性同位体を含む基である。さらに好ましくは、R及び/又はRが、放射性同位体を含む基、例えば、11Cを含む基(11CHを含めた[11C]アルキルなど)である。より好ましくは、Rが、放射性同位体を含む基、例えば、-18Fである。より好ましくは、R及び/又はRが放射性同位体を含む基、例えば、11Cを含む基(-O11CHを含めた[11C]アルコキシなど)、又は18Fを含む基(-O-CH-CH(OH)-CH18F)及び-O-CH(CH18F)(CHOH)を含めた[18F]フルオロヒドロキシアルコキシなど)である。ここで、[11C]アルキルは、アルキルを構成する炭素原子のうちの1つ以上の炭素原子が、11Cであることを意味する。[11C]アルコキシは、アルコキシを構成する炭素原子のうちの1つ以上の炭素原子が、11Cであることを意味する。[18F]フルオロヒドロキシアルコキシは、ヒドロキシアルコキシに18Fが結合した基を意味する。
【0081】
式(I)で表される化合物の具体的な例としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【0082】
一実施態様において、上記具体的化合物中、1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である。好ましくは、ベンゼン環又はピリジン環に結合したアミノベンジル又はアミノピリジニルにおけるアミノ基の窒素原子に結合した炭素原子が、放射性同位体11Cである。好ましくは、上記具体的化合物中のFが、放射性同位体18Fである。好ましくは、ベンゾチアゾール環に結合したメトキシ基の炭素原子が、放射性同位体11Cである。さらに好ましくは、上記具体的化合物の構造式中に示す*印の原子(構造式中に*印が2つある場合は、そのうちのいずれか1つ又は2つ)が、その原子の放射性同位体、例えば、11C又は18Fである。本明細書中において、[11C]C05-04等の名称は、C05-04等の構造式中の*印の原子上が11Cであることを意味する。
【0083】
式(I)で表される化合物の合成方法は特に限定されないが、例えば、特許文献1に記載の合成方法を参照して製造することができる。
【0084】
なお、上記式(I)で表される化合物のうち、下記式で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物は、新規化合物である。下記式で表される化合物は、上記αシヌクレイン凝集体結合剤として有用であるが、上記αシヌクレイン凝集体結合剤以外の用途に用いることもできる。
【化27】
【化28】
(式中、*印の原子の少なくとも一方はその原子の放射性同位体である。)
【0085】
これら新規化合物は、例えば、それぞれ下記中間体から後述する実施例に示す合成方法により合成することができる。
【化29】
【化30】
【化31】
【0086】
αシヌクレイン凝集体結合剤は、医薬として許容し得る担体を含むことができる。該医薬として許容し得る担体の例を挙げると、水、食塩水、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張性デキストロース注射液、無菌水注射液、デキストロース、及び乳酸リンゲル注射液などがある。
【0087】
αシヌクレイン凝集体結合剤が含む式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物や、医薬として許容し得る担体の含有量は、特に制限はなく、これらは、使用される化合物の種類;投与される哺乳動物の年齢、体重、健康状態、性別及び食事内容;投与の回数、及び投与経路;治療期間;同時に使用される他の薬剤など、様々な要因により決定される。医薬として許容し得る担体の含有量は、αシヌクレイン凝集体結合剤の1~99重量%の量とすることができる。αシヌクレイン凝集体結合剤は、式(I)で表される化合物を、例えば、対象の体重(kg)あたりの式(I)で表される化合物量が、5ng/kg~5mg/kg、好ましくは、下限は5ng/kg以上、0.01mg/kg以上、0.05mg/kg以上や、0.1mg/kg以上、上限は5mg/kg以下、3mg/kg以下、1mg/kg以下や、20μg/kg以下の量で投与できるように調製される。
【0088】
<αシヌクレイン凝集体の光学イメージング用組成物>
本発明のαシヌクレイン凝集体の光学イメージング用組成物(以下、光学イメージング用組成物とも記載する)は、上記本発明の結合剤を含む。当該光学イメージングは、インビトロ、エキソビボ、及びインビボイメージングを含む。
【0089】
光学イメージングとしては、例えば、蛍光顕微鏡測定法、多光子イメージング法、二光子イメージング法、近赤外蛍光イメージング法が挙げられる。
【0090】
光学イメージング用組成物は、医薬として許容し得る担体を含むことができる。該医薬として許容し得る担体の例を挙げると、水、食塩水、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張性デキストロース注射液、無菌水注射液、デキストロース、及び乳酸リンゲル注射液などがある。
【0091】
光学イメージング用組成物が含む式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物や、医薬として許容し得る担体の含有量は、特に制限はなく、これらは、使用される化合物の種類;投与される哺乳動物の年齢、体重、健康状態、性別及び食事内容;投与の回数、及び投与経路;治療期間;同時に使用される他の薬剤など、様々な要因により決定される。医薬として許容し得る担体の含有量は、光学イメージング用組成物の1~99重量%の量とすることができる。光学イメージング用組成物は、式(I)で表される化合物を、例えば、対象の体重(kg)あたりの式(I)で表される化合物量(mg)が0.01mg/kg~5mg/kg、好ましくは0.05mg/kg~3mg/kg、さらに好ましくは、0.1mg/kg~1mg/kgの量で投与できるように調製される。
【0092】
<αシヌクレイン凝集体の放射イメージング用組成物>
本発明のαシヌクレイン凝集体の放射イメージング用組成物(以下、放射イメージング用組成物とも記載する)は、上記本発明の結合剤を含む。当該放射イメージングは、インビトロ、エキソビボ、及びインビボイメージングを含む。
【0093】
放射イメージングとしては、例えば、ポジトロン断層撮影法(Positron Emission Tomography,PET)、単一光子放射断層撮影法(Single photon emission computed tomography,SPECT)、オートラジオグラフィーが挙げられる。
【0094】
放射イメージング用組成物は、医薬として許容し得る担体を含むことができる。該医薬として許容し得る担体の例を挙げると、水、食塩水、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張性デキストロース注射液、無菌水注射液、デキストロース、及び乳酸リンゲル注射液などがある。
【0095】
放射イメージング用組成物が含む式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物や、医薬として許容し得る担体の含有量は、特に制限はなく、これらは、使用される化合物の種類;投与される哺乳動物の年齢、体重、健康状態、性別及び食事内容;投与の回数、及び投与経路;治療期間;同時に使用される他の薬剤など、様々な要因により決定される。医薬として許容し得る担体の含有量は、放射イメージング用組成物の1~99重量%の量とすることができる。放射イメージング用組成物は、式(I)で表される化合物を、例えば、対象の体重(kg)あたりの式(I)で表される化合物量が5ng/kg~5mg/kg、好ましくは5ng~20μg/kgの量で投与できるように調製される。
【0096】
<αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の診断薬、又は前記疾患の治療又は予防のためのコンパニオン診断薬>
本発明のαシヌクレイン凝集体が関連する疾患の診断薬、又は前記疾患の治療又は予防のためのコンパニオン診断薬(以下、コンパニオン診断薬ともいう。)は、上記本発明の結合剤を含む。治療のためのコンパニオン診断薬とは、前記疾患であることが判明した場合に、治療が見込めるかどうかを判断するための診断薬である。また、予防のためのコンパニオン診断薬とは、前記疾患の前駆状態であることが判明した場合に、今後の発症を予測する、もしくは発症を抑制する予防が見込めるかどうかを判断するための診断薬である。
上記診断薬を用いて、対象から得られる脳内αシヌクレイン凝集体の量及び/又は分布量に関するデータを、予め取得した上記疾患とαシヌクレイン凝集体の量及び/又は分布量との相関性に照会することで、対象の上記疾患に関する診断(具体的には、上記疾患の罹患有無、重篤性、発作可能性等)が可能である。
また、上記コンパニオン診断薬を用いて、対象から得られる脳内αシヌクレイン凝集体の量及び/又は分布量に関するデータを、予め取得した上記疾患と脳内αシヌクレイン凝集体の量及び/又は分布量との相関性に照会することで、対象の上記疾患状態が把握されるので、これに基づき、上記疾患の予防/治療計画(投与する予防/治療薬の種類や組合せ、用量、用法など)を策定することができる。
本発明の一実施形態は、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防のための医薬であって、上記コンパニオン診断で得られる脳内αシヌクレイン凝集体の量及び/又は分布に関するデータに基づく投与計画で投与される医薬にも関する。
【0097】
<脳内に蓄積する物質が関連する疾患の診断キット>
本発明の脳内に蓄積する物質が関連する疾患の診断キット(以下、診断キットともいう)は、上記本発明の結合剤と、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、1-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一種と、を含む。
【0098】
脳内に蓄積する物質としては、αシヌクレイン凝集体、タウタンパク質やアミロイドβの凝集体が挙げられる。
【0099】
脳内に蓄積する物質が関連する疾患としては、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患であるパーキンソン病、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)や、タウタンパク質やアミロイドβの凝集体が関連する疾患であるアルツハイマー病(AD)や前頭側頭葉変性症が挙げられる。
【0100】
本発明の結合剤はタウタンパク質やアミロイドβの凝集体よりもαシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い一方、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、1-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールは、αシヌクレイン凝集体よりもタウタンパク質の凝集体への結合選択性が高いことが分かった。
【0101】
本発明の診断キットは、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い前者と、タウタンパク質の凝集体への結合選択性が高い後者の両方を含むため、前者の検出結果(検出される光や放射線の量及び/又は分布)と後者の検出結果とを比較することで、イメージングされた各領域に存在する物質がどの物質なのか、具体的にはαシヌクレイン凝集体と、タウタンパク質凝集体とを分類することができ、さらに各々の存在量を定量することもできる。このため、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患、及び/又は、タウタンパク質凝集体が関連する疾患を高精度に診断することができる。例えば、αシヌクレイン凝集体への結合性と、タウタンパク質凝集体への結合性との比を、本発明の結合剤と、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール等との各々について予め特定しておき、被験体での前者及び後者投与後の脳内各領域での光や放射線の量比を測定すれば、予め特定した比と測定した量比との関係から当該領域にαシヌクレイン凝集体、タウタンパク質凝集体のいずれが存在するのかを分類し、各量の定量が可能である。
【0102】
また、本発明の診断キットを、アミロイドβのイメージング剤と組み合わせた診断キットとすることもできる。本発明の診断キットとアミロイドβのイメージング剤と組み合わせた診断キットは、イメージングされた各領域に存在する物質がどの物質なのか、具体的にはαシヌクレイン凝集体と、タウタンパク質凝集体と、アミロイドβ凝集体とを分類することができ、さらに各々の存在量を定量することもできる。このため、αシヌクレイン凝集体が関連する疾患、タウタンパク質凝集体が関連する疾患、及び/又はアミロイドβが関連する疾患を高精度に診断することができる。
【0103】
本発明の一実施形態は、脳内蓄積物質が関連する疾患の治療又は予防のための医薬であって、上記診断キットで得られる脳内蓄積物質体の量及び/又は分布に関するデータに基づく投与計画で投与される医薬にも関する。
【0104】
<光学イメージング方法>
本発明の光学イメージング方法は、上記本発明の結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から第1の波長の光を照射した後に、該脳から発せられる、第1の波長とは異なる第2の波長の光を検出する工程を含む。
被験体に有効量の結合剤を投与すると、生体脳に移行した結合剤が、生体脳内に存在するαシヌクレイン凝集体に結合する。結合剤を励起させる第1の波長の光を、結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から照射し、脳内の結合剤から発せられる第2の波長の光(例えば蛍光)を検出することにより、αシヌクレイン凝集体の光学イメージング(画像化)をすることができる。
【0105】
被験体としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物は、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、イヌ、フェレット、又はミニブタなどを含む。
【0106】
投与方法は、特に制限されないが、例えば、経口投与や、静脈内投与又は腹腔内投与等の非経口投与がある。好ましくは、静脈内投与又は腹腔内投与である。最も好ましくは、静脈内投与である。投与量は、0.01mg/kg~5mg/kg、0.05mg/kg~3mg/kg、又は0.1mg/kg~1mg/kgであることが好ましく、最も好ましくは、0.1mg/kg~1mg/kgである。
【0107】
<放射イメージング方法>
本発明の放射イメージング方法は、1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含む上記結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含む。
被験体に有効量の結合剤を投与すると、生体脳に移行した結合剤が、生体脳内に存在するαシヌクレイン凝集体に結合する。脳内の結合剤から発せられる放射線を検出することにより、αシヌクレイン凝集体の放射イメージング(画像化)をすることができる。
【0108】
被験体としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物は、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、イヌ、フェレット、又はミニブタなどを含む。好ましくは、哺乳動物は、ヒトである。
【0109】
投与方法は、特に制限されないが、例えば、経口投与や、静脈内投与又は腹腔内投与等の非経口投与がある。好ましくは、静脈内投与又は腹腔内投与である。最も好ましくは、静脈内投与である。投与量は、5ng/kg~5mg/kgであることが好ましく、5ng~20μg/kgであることがより好ましい。投与放射能量は、個体あたり37MBq~7.4GBqであることが好ましく、370GBq~3,700GBqであることがより好ましい。
【0110】
<脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法>
本発明の脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法(以下、スクリーニング方法ともいう)は、被験体への候補物質の投与前後における、上記<光学イメージング方法>又は上記<放射イメージング方法>のイメージング方法によって検出される光又は放射線の量及び/又は分布の差異に基づいて、候補物質を選抜する工程を有する。
【0111】
脳内αシヌクレイン凝集体が関連する疾患は、上記<脳内に蓄積する物質が関連する疾患の診断キット>に記載されたものと同様である。
また、被験体や投与方法は、上記<光学イメージング方法>や<放射イメージング方法>に記載されたものと同様である。
【0112】
例えば、候補物質の投与後、結合剤の蛍光等の光や放射線の量(強度)が、候補物質を投与する前のものと比較して減少している場合、候補物質が、該疾患又は症状の治療用化合物として有用であり得る。
また、検出される被験体の光又は放射線の量及び/又は分布を、他の正常な哺乳動物のものと比較し、候補化合物の投与後に投与前よりも正常な哺乳動物のものに近づく場合、該候補化合物が、該疾患又は症状の治療用化合物として有用であり得る。
【0113】
<脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法>
本発明の脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法は、式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含む上記結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から第1の波長の光を照射した後に、該脳から発せられる、第1の波長とは異なる第2の波長の光を検出する工程を含み、該検出した光の量及び/又は分布に基づいて、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する。この方法は、光学イメージングにより、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法である。
【0114】
被験体や投与方法は、上記<光学イメージング方法>に記載されたものと同様である。
【0115】
検出される被験体の光の量及び/又は分布と、他の正常な哺乳動物のものとの差を求めることで、脳内のαシヌクレイン凝集体の蓄積を定量することや、脳内のαシヌクレイン凝集体の蓄積の有無を判定することができる。
【0116】
他の実施態様において、本発明の脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法は、1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含む上記結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する工程を含み、該検出した放射線の量及び/又は分布に基づいて、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する。この方法は、放射イメージングにより、脳内αシヌクレイン凝集体の蓄積を定量又は判定する方法である。
【0117】
被験体や投与方法は、上記<放射イメージング方法>に記載されたものと同様である。
【0118】
検出される被験体の光又は放射線の量及び/又は分布と、他の正常な哺乳動物のものとの差を求めることで、脳内のαシヌクレイン凝集体の蓄積を定量することや、脳内のαシヌクレイン凝集体の蓄積の有無を判定することができる。
【0119】
<脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法>
本発明の脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法は、式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含む上記結合剤を投与された被験体の生体脳に脳外から第1の波長の光を照射した後に、該脳から発せられる、第1の波長とは異なる第2の波長の光を検出する第1の工程と、2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール及び1-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一方を、第1の工程と異なる時期に投与された該被験体の生体脳に脳外から第3の波長の光を照射した後に、該脳から発せられる、第3の波長とは異なる第4の波長の光を検出する第2の工程と、を含み、第1の工程において検出した光の量及び/又は分布データと、第2の工程において検出した光の量及び/又は分布データと、に基づいて、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する。この方法は、光学イメージングにより、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法である。
【0120】
被験体や投与方法は、上記<光学イメージング方法>に記載されたものと同様である。
【0121】
αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い結合剤が投与された被験体の脳から発せられる光を検出する第1の工程と、タウタンパク質凝集体への結合選択性が高い上記物質が投与された被験体の脳から発せられる光を検出する第2の工程との両方を含むため、第1の工程の検出結果(検出される光の量及び/又は分布)と第2の工程の検出結果とを比較することで、脳内に蓄積する物質がαシヌクレイン凝集体及び/又はタウタンパク質凝集体であるか否かの分類や蓄積を判定することができる。
【0122】
他の実施態様において、本発明の脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法は、1個又はそれ以上の原子が該原子の放射性同位体である式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含む上記結合剤を投与された被験体の生体脳から発せられる放射線を検出する第1の工程と、2-((1E,3E)-4-(6-((11)C-メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール及び1-(18)F-フルオロ-3-(2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オールから選択される少なくとも一方を、第1の工程と異なる時期に投与された該被験体の脳から発せられる放射線を検出する第2の工程と、を含み、第1の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、第2の工程において検出した放射線の量及び/又は分布データと、に基づいて、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する。この方法は、放射イメージングにより、脳内に蓄積する物質の分類及び蓄積を判定する方法である。
【0123】
被験体や投与方法は、上記<放射イメージング方法>に記載されたものと同様である。
【0124】
αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い結合剤が投与された被験体の脳から発せられる放射線を検出する第1の工程と、タウタンパク質凝集体への結合選択性が高い上記物質が投与された被験体の脳から発せられる放射線を検出する第2の工程との両方を含むため、第1の工程の検出結果(検出される放射線の量及び/又は分布)と第2の工程の検出結果とを比較することで、脳内に蓄積する物質がαシヌクレイン凝集体及び/又はタウタンパク質凝集体であるか否かの分類や蓄積を判定することができる。
【0125】
<αシヌクレイン凝集阻害剤>
本発明のαシヌクレイン凝集阻害剤(以下、凝集阻害剤とも記載する)は、上記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、又はその溶媒和物を含有する。本発明のαシヌクレイン凝集阻害剤が含有する式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩や、その溶媒和物は、上記<αシヌクレイン凝集体結合剤>における式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩やその溶媒和物と同様である。
【0126】
かかる本発明のαシヌクレイン凝集阻害剤は、後述する実施例に示すように、αシヌクレイン凝集体の形成を抑制することができる。このため、本発明のαシヌクレイン凝集阻害剤を哺乳動物に投与すると、生体脳に移行した凝集阻害剤が生体脳内に存在するαシヌクレインの凝集を阻害し、哺乳動物のαシヌクレイン凝集体に由来する疾患、例えば、パーキンソン病、レビー小体型認知症(DLB)や、多系統萎縮症(MSA)等のうちαシヌクレイン凝集体に由来する各疾患を、予防又は治療することができる。
【0127】
上記式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、及びその溶媒和物は、上述のとおり、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高い。
式(I)で表される化合物、その医薬として許容し得る塩、及びその溶媒和物は、αシヌクレイン凝集体への結合選択性が高く、αシヌクレインが凝集する際にαシヌクレイン凝集体に結合することにより、αシヌクレインの凝集の進行を抑制・阻害することができると推測される。
【0128】
凝集阻害剤の投与対象である哺乳動物としては、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、イヌ、フェレット、又はミニブタなどが挙げられる。
【0129】
凝集阻害剤の投与方法は、特に制限されないが、例えば、経口投与や、静脈内投与又は腹腔内投与等の非経口投与がある。αシヌクレイン凝集体が存在する局所(脳)への直接投与でもよい。好ましくは、静脈内投与又は腹腔内投与である。最も好ましくは、静脈内投与である。投与量は、0.01mg/kg~5mg/kg、0.05mg/kg~3mg/kg、又は0.1mg/kg~1mg/kgであることが好ましく、最も好ましくは、0.1mg/kg~1mg/kgである。
【実施例
【0130】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の化合物を用いた。
【化32】
【化33】
【0131】
(BF-227の準備)
BF-227(2-(2-[2-ジメチルアミノチアゾール-5-イル]エテニル)-6-(2-[フルオロ]エトキシ)ベンゾオキサゾール)は、ナード研究所製のカタログ番号NP039-0である。
【0132】
(PBB3の合成)
PBB3((2-((1E,3E)-4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール)は、特許文献1の合成実施例3に記載された方法により合成した。
【0133】
(C05-01の合成)
C05-01(((E)-2-(4-(2-フルオロ-6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1-エン-3-イニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール)は、特許文献1の合成実施例23に記載された方法により合成した。
【0134】
(C05-02の合成)
C05-02(((E)-5-(4-(6-(アミノメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ブタ-3-エン-1-イニル)-N-メチルピリジン-2-アミン)は、特許文献1の合成実施例11に記載された方法により合成した。
【0135】
(C05-03の合成)
C05-03(((E)-2-(4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1-エン-3-イニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール)は、特許文献1の合成実施例10に記載された方法により合成した。
【0136】
(C05-05の合成)
C05-05(((E)-1-フルオロ-3-(2-(4-(6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1-エン-3-イニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-イルオキシ)プロパン-2-オール)、特許文献1の合成実施例21に記載された方法により合成した。
【0137】
(C05-08の合成)
C05-08(((E)-2-(4-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)ブタ-1-エン-3-イニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール)は、特許文献1の合成実施例6に記載された方法により合成した。
【0138】
(C05-09の合成)
C05-09(((E)-2-(4-(4-(メチルアミノ)フェニル)ブタ-1-エン-3-イニル)ベンゾ[d]チアゾール-6-オール)は、特許文献1の合成実施例7に記載された方法により合成した。
【0139】
(C06-01の合成)
C06-01(2-((1E,3E)-4-(2-フルオロ-6-(メチルアミノ)ピリジン-3-イル)ブタ-1,3-ジエニル)ベンゾフラン-5-オールは、特許文献1の合成実施例24に記載された方法により合成した。
【0140】
(C05-04の合成)
以下のスキームにより、C05-04(TM2)を合成した。
【化34】
【化35】
【化36】
【0141】
(Step 1)
アセトニトリル(MeCN)中で、化合物1(5.01g、東京化成工業製)を、亜硝酸-tert-ブチル(t-BuONO)及びCuBrと反応させて、黄色油状物の化合物2(収量5.94g、収率87.5%)を得た。なお、得られた化合物2は保管中に固化した。
【0142】
(Step 2)
テトラヒドロフラン(THF)中で、化合物2(5.93g)を、n-ブチルリチウム(n-BuLi)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とこの順に反応させて、淡黄色固体の化合物5(収量3.78g、収率80.5%)を得た。
【0143】
(Step 3)
ピリジン中で、化合物5(3.78g)を、マロン酸及びピペリジンと反応させて、黄土色固体の化合物6(収量3.71g、収率80.6%)を得た。
【0144】
(Step 4)
ジクロロメタン(DCM)中で、化合物6(4.00g)を、Dess-Martinペルヨージナン(DMP)及び臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)と反応させて、黄色固体の化合物7(収量1.85g、収率40.3%)を得た。
【0145】
(Step 10)
アセトニトリル(MeCN)中で、化合物14(5.00g、Combi-Blocks製)を、N-ブロモスクシンイミド(MBS)と反応させて、淡桃色固体の化合物15(収量6.80g、79.8%)を得た。
【0146】
(Step 11)
テトラヒドロフラン(THF)中で、化合物15(6.80g)を、二炭酸ジ-tert-ブチル(DIBOC)及びヘキサメチルジシラザンナトリウム(NaHMDS)と反応させて、黄色油状物の化合物16(収量2.42g、収率23.3%)を得た。
【0147】
(Step 12)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で、化合物16(2.75g)を、ヨウ化メチル(MeI)及び水素化ナトリウム(NaH)と反応させて、無色油状物の化合物17(収量2.82g、収率97.8%)を得た。
【0148】
(Step 13)
トリエチルアミン(TEA)とテトラヒドロフラン(THF)の混合液中で、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPhCl)、ヨウ化銅(CuI)、トリフェニルホスフィン(PPh)の存在下で、化合物17(2.81g)を、トリメチルシリルアセチレンと反応させて、無色油状物の化合物18(収量2.50g、収率84.2%)を得た。なお、得られた化合物18は保管中に固化した。
【0149】
(Step 14)
テトラヒドロフラン(THF)中で、化合物18(2.49g)を、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)と反応させて、微褐色油状物の化合物19(収量1.85g、収率95.7%)を得た。
【0150】
(Step 17)
トリエチルアミン(TEA)とテトラヒドロフラン(THF)の混合液中で、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPhCl)、ヨウ化銅(CuI)、トリフェニルホスフィン(PPh)の存在下で、化合物7(213.0mg)と化合物19(261.8mg)を反応させて、淡黄色固体の化合物21(収量256.3mg、収率74.0%)を得た。
【0151】
(Step 18)
化合物21(245.3mg)を、トリフルオロ酢酸(TFA)と反応させて、黄色固体のC05-04(TM2)(収量174.2mg、収率92.0%)を得た。なお、トータル収率は15%であった。得られたC05-04のH NMR及びESI MSを以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ: 2.79 (3H, brs), 3.84 (3H, s), 6.40 (1H, m), 6.93 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.12 (1H, m), 7.21 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.58-7.68 (3H, m), 7.87 (1H, m)
ESI MS : m/z found 340.09 (Calcd for C18H14FN3OS [M+H]+ 340.09)
【0152】
(C06-03の合成)
以下のスキームにより、C06-03(TM1)を合成した。
【化37】
【化38】
【0153】
(Step 5)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で、化合物8(24.95g、東京化成工業製)を、ブロモ酢酸エチル及びKCOと反応させて、白色固体の化合物9(収量26.07g、収率72.2%)を得た。
【0154】
(Step 6)
テトラヒドロフラン(THF)中で、化合物9(5.72g)を、N-メトキシ-N-メチルアミン塩酸塩及びリチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LHMDS)と反応させて、褐色油状物の化合物10(収量5.68g、収率93.0%)を得た。
【0155】
(Step 7)
ジエチルエーテル(EtO)中で、化合物10(5.68g)を、水素化リチウムアルミニウム(LAH)と反応させて、黄色固体の化合物11(収量3.80g、収率89.3%)を得た。
【0156】
(Step 8)
ピリジン中で、化合物11(3.69g)を、マロン酸及びピペリジンと反応させて、淡黄色固体の化合物12(収量4.41g、収率96.5%)を得た。
【0157】
(Step 9)
ジクロロメタン(DCM)中で、化合物12(4.40g)を、Dess-Martinペルヨージナン(DMP)及び臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)と反応させて、淡黄色固体の化合物13(収量4.49g、収率87.9%)を得た。
【0158】
(Step 15)
トリエチルアミン(TEA)とテトラヒドロフラン(THF)の混合液中で、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPhCl)、ヨウ化銅(CuI)、トリフェニルホスフィンの存在下で、化合物13(596.6mg)と化合物19(765.2mg)を反応させて、淡黄色固体の化合物20(収量375.5mg、収率37.7%)を得た。
【0159】
(Step 16)
化合物20(375.5mg)を、トリフルオロ酢酸(TFA)と反応させて、黄色固体のC06-03(TM1)(収量149.5mg、収率52.2%)を得た。なお、トータル収率は10%であった。得られたC06-03のH NMR及びESI MSを以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ: 2.78 (3H, brs), 3.78 (3H, s), 6.38 (1H, m), 6.51 (1H, d, J = 16.0 Hz), 6.91 (1H, m), 6.95 (1H, s), 6.98 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.14 (1H, m), 7.44-7.49 (2H, m), 7.59 (1H, m)
ESI MS : m/z found 323.12 (Calcd for C19H15FN2O2 [M+H]+ 323.12)
【0160】
([18F]C05-01の合成)
以下のスキームにより、[18F]C05-01を合成した。
【化39】
18F]フッ化物イオンを、K.222(Kryptofix 222)(7.5mg)と炭酸カリウム(2.77mg)を含む50%アセトニトリル溶液(0.4mL)で溶出し、反応容器に導入した後、窒素ガス気流下で加熱し、溶媒を乾固させた。その後、無水アセトニトリル(0.1mL)を加えて共沸留去し、充分に反応容器内を乾燥させた。以下の反応は遮光下で行った。特許文献1の合成実施例38(pre24)に記載された方法により合成したtert-butyl(E)-(5-(4-(6-(ethoxymethoxy)benzo[d]thiazol-2-yl)but-3-en-1-yn-1-yl)-6-nitropyridin-2-yl)(methyl)carbamate(pre C05-01)(1mg)を含むDMSO(300μL)溶液を反応容器に加えた。反応混合液を、110℃にて10分間加熱した。反応容器を冷却後、4N塩酸(0.5mL)を加え、110℃で10分間加水分解を行った。反応容器を冷却後、1N酢酸ナトリウム(2mL)を加えて攪拌し、HPLC溶媒(500μL)を加えた。混合液を、HPLC(HPLC:CAPCELL PAK C18 UG 80 10mm×250mm,アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム=6/4,4mL/分)にて精製した。[18F]C05-01に相当する画分を、エタノール(300μL)中、25%アスコルビン酸(100μL)及びTween80(100μL)を含むフラスコに回収し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を、生理食塩水(2.5mL,pH7.4)に溶解し、注射溶液として、[18F]C05-01を得た。
【0161】
([11C]C05-04の合成)
以下のスキームにより、[11C]C05-04を合成した。
【化40】
以下の合成は遮光下で行った。ヨード[11C]メタンを、室温で(E)-6-fluoro-5-(4-(6-methoxybenzo[d]thiazol-2-yl)but-3-en-1-yn-1-yl)pyridine-2-amine(pre C05-04-1)(1.5mg)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)(300μL)溶液に加えた。反応混合液を、120℃にて5分間加熱した。反応容器を冷却後、HPLC溶媒(500μL)を加えた。混合液を、HPLC(HPLC:Waters Atlantis prep T3 10mm×150mm,アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム=4/6,5mL/分)にて精製した。[11C]C05-04に相当する画分を、エタノール(300μL)中、25%アスコルビン酸(100μL)及びTween80(75μL)を含むフラスコに回収し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を、生理食塩水(3mL,pH7.4)に溶解し、注射溶液として、[11C]C05-04を得た。なお、pre C05-04-1は、上記C05-04(TM2)の合成と類似の方法により合成した。
【0162】
([18F]C05-04の合成)
以下のスキームにより、[18F]C05-04を合成した。
【化41】
【0163】
18F]フッ化物イオンを、K.222(Kryptofix 222)(7.5mg)と炭酸カリウム(2.77mg)を含む50%アセトニトリル溶液(0.4mL)で溶出し、反応容器に導入した後、窒素ガス気流下で加熱し、溶媒を乾固させた。その後、無水アセトニトリル(0.1mL)を加えて共沸留去し、充分に反応容器内を乾燥させた。以下の反応は遮光下で行った。tert-butyl(E)-(5-(4-(6-methoxybenzo[d]thiazol-2-yl)but-3-en-1-yn-1-yl)-6-nitropyridin-2-yl)(methyl)carbamate(pre C05-04-2)(1.5mg)を含むDMSO(300μL)溶液を反応容器に加えた。反応混合液を、110℃にて10分間加熱した。反応容器を冷却後、4N塩酸(0.3mL)を加え、110℃で10分間加水分解を行った。反応容器を冷却後、2N酢酸ナトリウム(0.6mL)を加えて攪拌し、HPLC溶媒(500μL)を加えた。混合液を、HPLC(HPLC: Waters Atlantis prep T3 10mm×150mm,アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム=4/6,5mL/分)にて精製した。[18F]C05-04に相当する画分を、エタノール(300μL)中、25%アスコルビン酸(100μL)及びTween80(75μL)を含むフラスコに回収し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を、生理食塩水(3mL,pH7.4)に溶解し、注射溶液として、[18F]C05-04を得た。なお、pre C05-04-2は、上記C05-04(TM2)の合成と類似の方法により合成した。
【0164】
([11C]C06-03の合成)
以下のスキームにより、[11C]C06-03を合成した。
【化42】
【0165】
以下の合成は遮光下で行った。ヨード[11C]メタンを、室温で(E)-6-fluoro-5-(4-(5-methoxybenzofuran-2-yl)but-3-en-1-yn-1-yl)pyridine-2-amine(pre C06-03-1)(1.5mg)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)(300μL)溶液に加えた。反応混合液を、120℃にて5分間加熱した。反応容器を冷却後、HPLC溶媒(500μL)を加えた。混合液を、HPLC(HPLC:Waters Atlantis prep T3 10mm×150mm,アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム=4/6,5mL/分)にて精製した。[11C]C06-03に相当する画分を、エタノール(300μL)中、25%アスコルビン酸(100μL)及びTween80(75μL)を含むフラスコに回収し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を、生理食塩水(3mL,pH7.4)に溶解し、注射溶液として、[11C]C06-03を得た。なお、pre C06-03-1は、上記C06-03(TM1)の合成と類似の方法により合成した。
【0166】
([18F]C06-03の合成)
以下のスキームにより、[18F]C06-03を合成した。
【化43】
【0167】
18F]フッ化物イオンを、K.222(Kryptofix 222)(7.5mg)と炭酸カリウム(2.77mg)を含む50%アセトニトリル溶液(0.4mL)で溶出し、反応容器に導入した後、窒素ガス気流下で加熱し、溶媒を乾固させた。その後、無水アセトニトリル(0.1mL)を加えて共沸留去し、充分に反応容器内を乾燥させた。以下の反応は遮光下で行った。tert-butyl(E)-(5-(4-(5-methoxybenzofuran-2-yl)but-3-en-1-yn-1-yl)-6-nitropyridin-2-yl)(methyl)carbamate(pre C06-03-2)(1.5mg)を含むDMSO(300μL)溶液を反応容器に加えた。反応混合液を、110℃にて10分間加熱した。反応容器を冷却後、4N塩酸(0.3mL)を加え、110℃で10分間加水分解を行った。反応容器を冷却後、2N酢酸ナトリウム(0.6mL)を加えて攪拌し、HPLC溶媒(500μL)を加えた。混合液を、HPLC(HPLC: Waters Atlantis prep T3 10mm×150mm,アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム=4/6,5mL/分)にて精製した。[18F]C06-03に相当する画分を、エタノール(300μL)中、25%アスコルビン酸(100μL)及びTween80(75μL)を含むフラスコに回収し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を、生理食塩水(3mL,pH7.4)に溶解し、注射溶液として、[18F]C06-03を得た。なお、C06-03-2は、上記C06-03(TM1)の合成と類似の方法により合成した。
【0168】
<ヒト脳の光学イメージング>
(解剖脳組織)
死後ヒト脳を、レビー小体型認知症(DLB)患者、及び、アルツハイマー病(AD)患者に対して行われた剖検から得た。
凍結DLB組織をクリオスタット(HM560,Carl Zeiss)内で20μm厚にスライスした。
また、AD脳組織を10%中性緩衝ホルマリンに固定し、パラフィンブロックに埋め込み、6μm厚にスライスした。
【0169】
(インビトロ蛍光顕微鏡測定)
DLB患者脳桃体組織の後固定新鮮凍結切片、及び、脱パラフィンしたAD患者脳中前頭回組織のホルマリン固定パラフィン包埋切片を使用した。30μMの上記各化合物と脳切片を50%エタノール溶液中にて30分間室温でインキュベートした。その後切片を50%エタノール溶液で5分間、超純水で3分間、2回洗浄した。封入剤(VECTASHIELD H-1000,Vector Laboratories)を用いて切片を封入後、蛍光顕微鏡(DM4000, Leica)を用いて切片上の病変蓄積領域の画像を取得した。蛍光画像を図1図1A及び図1B)に示す。解析ソフトウェア(Image J)を用いて病変領域および病変非形成領域(バックグラウンド)の蛍光輝度を定量した。結果を図2に示す。
【0170】
図1及び図2に示すように、上記式(I)で表される化合物であるC05-01、C05-02、C05-03、C05-04、C05-05、C05-08、C05-09及びC06-02は、PBB3以上の強度でDLBの患者脳で形成されるαシヌクレイン凝集体に結合していることが確認された。また、これら上記式(I)で表される化合物のαシヌクレイン凝集体への結合性は、ADの患者脳で形成されるタウやアミロイドβの凝集体への結合よりも強いことが確認された。なお、MSA患者脳についても、上記DLB患者脳と同様にしてインビトロ蛍光顕微鏡測定を行ったところ、同様の結果を得た。
【0171】
また、これら上記式(I)で表される化合物は、ブタジエン結合を有する化合物であるC06-01よりも、AD患者脳で形成される凝集体に比してαシヌクレイン凝集体への選択性が高いことが確認された。なお、シヌクレイン病変のPETプローブとして報告されているBF-227は、主としてADのアミロイドβ凝集体に結合し、αシヌクレイン凝集体への結合は、上記式(I)で表される化合物に比して弱いことが確認された。
【0172】
<マウス脳の光学イメージング>
(αシヌクレイン線維接種マウスモデル作成)
まず、マウスαシヌクレインをリコンビナントタンパク質として大腸菌で発現させて抽出し、試験管内でインキュベートして、不溶性のαシヌクレイン凝集体を形成した。
そして、このαシヌクレイン凝集体をマウスの線条体に接種したところ、神経回路を経路としてαシヌクレインの凝集体が周囲の領域に伝播し、数か月後には大脳新皮質でαシヌクレイン病変が観察された。
なお、このαシヌクレイン凝集体のマウスの線条体への接種は、以下の方法で行った。まず、1.5%(v/v)イソフルランで麻酔した9週齢のC57BL/6オスマウスの頭部の毛を取り除き、頭皮をイソジンで消毒後、キシロカインを塗り、頭皮に切れ込みを入れて頭蓋を露出させた。そして、Bregma 0.05mm,Lateral 2mmの位置の頭蓋にドリルで穴を開け、ガラスピペットを用いて2mmの深さ位置にαシヌクレイン線維溶液(マウスαシヌクレイン線維4mg/ml in saline)3μlを注入した後、頭皮を戻して縫合した。
【0173】
(インビトロ蛍光顕微鏡測定)
このαシヌクレイン線維接種マウスの脳を摘出し、切片を作製して蛍光染色で解析した。具体的には、αシヌクレイン線維接種マウス脳切片と30μMの化合物を20%エタノール溶液中にて30分間室温でインキュベートした。その後切片を20%エタノール溶液で5分間、超純水で3分間、2回洗浄した。封入剤(VECTASHIELD H-1000)を用いて切片を封入後、蛍光顕微鏡(DM4000)を用いて切片上のαシヌクレイン凝集体蓄積領域の画像を取得した。同一切片をリン酸緩衝液を用いて洗浄後、抗原性賦活化のためにオートクレーブで処理した。抗リン酸化αシヌクレインモノクローナル抗体(pS129,abcam,ab59264)(1:1000)による免疫組織化学染色を行い、封入剤(VECTASHIELD H-1000)を用いて切片を封入後、蛍光顕微鏡(DM4000)を用いて上記と同一領域の画像を取得した。結果を図3に示す。図3において、右側が抗リン酸化αシヌクレイン抗体染色、左側がC05-05蛍光染色である。
図3の結果から、リン酸化αシヌクレインからなる病変に、上記式(I)で表される化合物であるC05-05が結合することが分かる。
【0174】
(インビボ二光子レーザースキャニング蛍光顕微鏡検査)
αシヌクレイン線維溶液注入6週間以降のモデルマウスを1.5%(v/v)イソフルランで麻酔し、Seylaz-Tomita法(Tomita et al. J Cereb Blood Flow Metab 25,858-67, 2005)に従い頭蓋窓を設置した。頭蓋窓設置から2週間以降のマウスを1.5%(v/v)イソフルランで麻酔し、C05-05又はPBB3を0.05%含むDMSO/生理食塩水=1:1溶液50μlを尾静脈投与した。C05-05投与90分後、あるいはPBB3投与30分後にマウスを二光子レーザー蛍光顕微鏡下に固定し、スルホローダミン101を5mM含む生理食塩水溶液100μlを腹腔内投与した後、励起波長900nmにて生体二光子蛍光イメージングを行った。C05-05およびPBB3に対する検出波長を500~550nm、スルホローダミン101に対する検出波長を573~648nmとした。結果を図4に示す。
図4の結果から、式(I)で表される化合物であるC05-05を静注すると、該化合物が生体の脳内ひいてはニューロン内に移行して、個々のαシヌクレイン病変に結合する様子が生体二光子レーザー蛍光顕微鏡で観察された。したがって、病変の密度や総数が少なく、PETで検出困難な場合でも、生体蛍光イメージングにより病変を検出可能であると言える。一方、PBB3を静注して観察を行っても病変は検出されず、式(I)で表される化合物であるC05-05の方がPBB3よりも病変検出のコントラストが高いことが確認された。
【0175】
<インビボPET(ポジトロン断層撮影法)イメージング>
PETスキャンは、0.851mm厚で(中心間)95枚のスライス、19.0cm体軸方向視野(FOV)、および7.6cm断面内FOVを提供する、micro PET Focus 220動物スキャナー(Siemens Medical Solutions)を用いて行った。スキャン前に、C57BL/6マウスを、1.5%(v/v)イソフルランで麻酔した。エミッションスキャンは、[18F]C05-01(C05-01をポジトロン放出核種で標識した化合物)(24.3±0.7 MBq)の静脈内注射直後に、90分間、3Dリストモード、エネルギーウィンドウ350-750 keVで行った。放射性化合物の注射およびスキャンは、該化合物の光ラセミ化を避けるように薄暗下で行った。全てのリストモードデータを、3Dサイノグラムにソートし、その後、Fourier-rebiningにより2Dサイノグラムに変換した(フレーム:10×1,6×5,5×10分)。放射性化合物の注射後、30~60分、および60~90分間での加算イメージを、最大事後確率推定法による再構成(maximum a posteriori reconstruction)により得た。また、ダイナミックイメージを、0.5-mmハニングフィルターを用いて、フィルター補正逆投影法により再構成した。関心体積(Volume of interest(VOI))をMRIテンプレートを参照して、線条体および中脳に、PMODイメージ分析ソフトウェア(PMOD Technologies)を用いて設定した。結果を図5及び図6に示す。
【0176】
上記式(I)で表される化合物であるC05-01をポジトロン放出核種で標識し、正常マウスに静注してPETスキャンを実施した結果、図5及び図6に示すように、適切な脳移行性や脳からのクリアランス速度を有し、PETで生体脳中のαシヌクレイン凝集体をイメージング(画像化)するプローブとして良好な特性を示すことが確認された。なお、図5は[18F]C05-01静注後1-30分における、正常マウス脳の冠状断2断面および正中矢状断1断面の画像で、標準脳MRI画像に重ね合わせて表示している。また、図6は線条体および中脳における、[18F]C05-01静注後の時間-放射能曲線である。
【0177】
<マウス脳の光学イメージング>
(エキソビボイメージング)
上記「(αシヌクレイン線維接種マウスモデル作成)」と同様にしたαシヌクレイン線維溶液注入6週間以降のモデルマウスを、1.5%(v/v)イソフルランで麻酔し、C05-05(1.66mg/kg)、又は、BF-227(1.66mg/kg)を腹腔内投与した。
C05-05投与90分後、およびBF-227投与120分後に、脳を採取して凍結し、クリオスタット(HM560)内で20μm厚の凍結切片を作成した。封入剤(VECTASHIELD H-1000)を用いて切片を封入後、蛍光顕微鏡(DM4000)を用いて切片上のαシヌクレイン凝集体蓄積領域の画像を取得した。
また、同一切片を、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液に一晩浸漬し固定した。固定後の脳を流水で洗浄後、抗原性賦活化のためにオートクレーブで処理した。抗リン酸化αシヌクレインモノクローナル抗体(pS129, abcam, ab59264)(1:1000)による免疫組織化学染色を行い、封入剤(VECTASHIELD H-1000)を用いて切片を封入後、蛍光顕微鏡(DM4000)を用いて上記と同一領域の画像を取得した。結果を図7に示す。図7(a)はC05-05を投与した場合の画像であり、図7(b)はBF-227を投与した場合の画像である。
図7の結果から、αシヌクレイン線維接種マウスにC05-05を静注すると、該化合物が脳内ひいてはニューロン内に移行して、個々のαシヌクレイン病変に結合する様子がエキソビボイメージングにより観察された。一方、BF-227を静注して観察を行っても病変は検出されず、式(I)で表される化合物であるC05-05の方がBF-227よりも病変検出のコントラストが高いことが確認された。
【0178】
<インビボPET(ポジトロン断層撮影法)イメージング>
PETスキャンは、0.851mm厚で(中心間)95枚のスライス、19.0cm体軸方向視野(FOV)、および7.6cm断面内FOVを提供する、micro PET Focus 220動物スキャナー(Siemens Medical Solutions)を用いて行った。スキャン前に、αシヌクレイン線維接種マウスおよび生理食塩水注入マウス(対照)を、1.5%(v/v)イソフルランで麻酔した。エミッションスキャンは、[18F]C05-05(C05-05をポジトロン放出核種で標識した化合物)(30.8±0.4MBq)の静脈内注射直後に120分間、3Dリストモード、エネルギーウィンドウ350-750keVで行った。放射性化合物の注射およびスキャンは、該化合物の光ラセミ化を避けるように薄暗下で行った。全てのリストモードデータを、3Dサイノグラムにソートし、その後、Fourier-rebiningにより2Dサイノグラムに変換した(フレーム:4×1,8×2,14×5,3×10分)。放射性化合物の注射後、0~30分、30~60分、60~90分、および90~120分間での加算イメージを、最大事後確率推定法による再構成(maximum a posteriori reconstruction)により得た。また、ダイナミックイメージを、0.5-mmハニングフィルターを用いて、フィルター補正逆投影法により再構成した。関心体積(Volume of interest(VOI))を、MRIテンプレートを参照して、線条体および小脳に、PMODイメージ分析ソフトウェア(PMOD Technologies)を用いて設定した。
結果を図8~12に示す。図8(a)は[18F]C05-05静注後60~90分における、αシヌクレイン線維溶液注入モデルマウスの場合の結果であり、図8(b)は生理食塩水注入マウスの場合の結果であり、それぞれ上段が線条体を含む脳の冠状断面、下段が小脳を含む脳の冠状断面の画像で、標準脳MRI画像に重ね合わせて表示している。また、図9は線条体における[18F]C05-05静注後の時間-放射能曲線であり、図10は小脳における[18F]C05-05静注後の時間-放射能曲線である。図11は[18F]C05-05静注後の小脳を対照とした線条体のstandardized uptake value ratio(SUVR)の時間推移を示す図である。図12は90~120分におけるSUVRの平均のαシヌクレイン線維溶液注入モデルマウスと生理食塩水注入マウスでの比較である(n=4,**p<0.005 by Student’s t-test,mean±SEMs)。
【0179】
上記式(I)で表される化合物であるC05-05をポジトロン放出核種で標識し、αシヌクレイン線維溶液注入モデルマウスおよび生理食塩水注入マウス(対照)に静注してPETスキャンを実施したところ、適切な脳移行性や脳からのクリアランス速度を示した。また、αシヌクレイン線維溶液注入モデルマウスでは、αシヌクレイン病変を豊富に含む線条体への[18F]C05-05の明らかな集積が見られ、[18F]C05-05はPETでαシヌクレイン凝集体を画像化することが確認された。
【0180】
<式(I)で表される化合物によるαシヌクレイン凝集阻害効果>
A53T変異型ヒトαシヌクレインをリコンビナントタンパク質として大腸菌で発現させて抽出し、試験管内でインキュベートして、αシヌクレイン凝集体シードを作成した。αシヌクレイン凝集体シード0.02μgに、C05-05(DMSO溶解液)を終濃度20μM、又は、200μMで添加し、攪拌した。DMSOのみを添加したものを対照実験とした。これらを1mg/ml濃度のA53T変異型ヒトαシヌクレインモノマー液50μLと懸濁後、37℃で1日振とうした。10μLの懸濁液を90μLの1%サルコシルと混合し、100Krpmで20分間超遠心し、得られた沈殿を電気泳動後、ゲルのCBB染色を行った。イメージャーを用いてゲルの画像を取得し、解析ソフトウェア(Image J)を用いてバンドの定量を行った。結果を図13及び14に示す。図13は各条件でのサルコシル不溶性画分に含まれる不溶性αシヌクレイン凝集体(矢印)の観察結果であり、図14は対照実験(DMSO)を100%とした場合の図である。
【0181】
図14に示すように、終濃度20μMのC05-05をαシヌクレイン凝集体シードに添加した場合は、対照実験と比較して不溶性αシヌクレイン凝集体の形成が約20%減少し、終濃度200μMのC05-05を添加した場合は、対照実験と比較して約60%の不溶性αシヌクレイン凝集体の形成が減少したことから、C05-05はαシヌクレイン凝集阻害効果を有することが示された。(ANOVA F(2,3)=51.57,p=0.0048,p<0.05 and **p<0.005 by Bonferroni’s post hoc test,mean±SEMs)。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14