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特許7460179バイオレチノールを生産する微生物及びそれを用いたバイオレチノールの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バイオレチノールを生産する微生物及びそれを用いたバイオレチノールの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20240326BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240326BHJP
   C12P 23/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N15/31 ZNA
C12N15/53
C12N15/54
C12P23/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021531515
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 KR2019016783
(87)【国際公開番号】W WO2020111890
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152617
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521237125
【氏名又は名称】バイオスプラッシュ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOSPLASH CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ・ビュン ジョ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・イン スン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ジ ヨン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0130628(US,A1)
【文献】The Partitioning and Copy Number Control Systems of the Selfish Yeast Plasmid: An Optimized Molecular Design for Stable Persistence in Host Cells,Microbiology Spectrum,2014年,Vol. 2, Issue 5,pp. 1-22
【文献】Choi et al.,Appl. Microbiol. BioTechnol.,1994年12月,Vol. 42, Issue 4,pp. 587-594
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
C12N15/00-15/90
C12P1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)、デサチュラーゼ(desaturase, crtI)、β-カロテン15,15'モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)及びレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)タンパク質活性が強化された、レチノールを生産する微生物(ただし、前記β-カロテン15,15'モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)はマルチコピープラスミドを用いて導入されたものである)であって、
前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)の遺伝子は、配列番号1の塩基配列を含み、前記フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)の遺伝子は、配列番号2の塩基配列を含み、前記デサチュラーゼ(desaturase, crtI)の遺伝子は、配列番号3の塩基配列を含み、前記β-カロテン15,15'モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)の遺伝子は、配列番号4又は配列番号5の塩基配列を含み、前記レチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)の遺伝子は、配列番号6の塩基配列を含む、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である微生物であって、前記遺伝子はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)にコドンが最適化されたヌクレオチド配列を有する、微生物
【請求項2】
前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)及びデサチュラーゼ(desaturase, crtI)は、キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous)に由来するものである、請求項1に記載のレチノールを生産する微生物。
【請求項3】
前記β-カロテン15,15'モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)及びレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)は、ハロバクテリウム属NRC-1(Halobacterium sp. NRC-1)、海洋細菌66A03(marine bacterium 66A03)又はエシェリキア属微生物に由来するものである、請求項1に記載のレチノールを生産する微生物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の微生物を培養培地で培養するステップを含むレチノール生産方法。
【請求項5】
前記培養培地は、酵母抽出物(Yeast extract)、ペプトン(Peptone)、大豆(Soy bean)及びグルコース(Glucose)からなる群から選択される少なくとも1つの栄養成分を含む、請求項に記載のレチノール生産方法。
【請求項6】
前記レチノール生産方法は、前記培養された微生物又は培地からレチノールを回収するステップをさらに含む、請求項に記載のレチノール生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-カロテン及びレチノール生合成遺伝子が導入されたバイオレチノールを生産する微生物、並びにそれを培養するステップを含むバイオレチノール生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レチノールは、シワ改善及び抗酸化効果を有する高付加価値原料であり、具体的には、レチノール及びその誘導体は、皮膚のシワ改善を促す成分として食品医薬品安全処から機能性化粧品原料として告示された4種類の成分のうち3種類を占めるほどにシワ改善に卓越した効能を有する原料である。よって、このような機能を有するレチノールは、シワ改善効果を有する化粧料組成物として用いることができる。
【0003】
しかし、レチノールのこのような有用性にもかかわらず、レチノールの大量生産は容易でないのが現状である。レチノールの従来の代表的な生産方法は、天然資源から前駆物質を抽出し、その後ペンタジエン(pentadiene)→レチナール(retinal)→レチノールと続く化学反応により最終産物であるレチノール及びその誘導体を生産するものである。しかし、このような化学的工程による方法は、生産価格が1kg当たり3,500~4,000米ドルであり、レチノール含有製品の生産コストを引き上げるという問題がある。よって、より安定した生産と高い収率を達成するために、バイオ工程による高効率レチノール生産技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor,New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、レチノールの生産量を増加させるために鋭意努力した結果、レチノールをさらに安定的かつ高効率で生産する微生物を開発し、前記微生物を様々な条件で培養してレチノールの生産量の増加を確認し、本発明を完成するに至った。本発明の酵母発酵工程でレチノールを生産すると、環境にやさしく安全な酵母菌株を用いるので、安全性が高いだけでなく、マルチコピー(multi-copy)プラスミドを用いたBCMO発現により高効率生産が可能であるので、従来の生産技術に比べて価格競争力を向上させることができるものと期待される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)、デサチュラーゼ(desaturase, crtI)、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)及びレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)のタンパク質活性が強化された、レチノールを生産する微生物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記微生物を培養培地で培養するステップを含むレチノール生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微生物は、レチノール生産能を向上させるので、レチノールを生産するのに効率的に用いることができ、前記微生物を培養するステップを含むレチノール生産方法によりレチノール生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】レチノールの生合成代謝経路の設計を示す図である。
図2】SDS-PAGEによりcrtE(A)、crtI(B)及びcrtYB(C)遺伝子挿入を確認した図である。
図3】PCR結果によりBCMO-SR又はBCMO-blh遺伝子挿入を確認した図である。
図4】BCMO-SR又はBCMO-blh遺伝子挿入を示すコロニー形成(A)及びマスターコロニー形成(B)を確認した図である。
図5】SDS-PAGEによりBCMO-SR(A)又はBCMO-blh(B)遺伝子挿入を確認した図である。
図6】PCR結果によりyybO遺伝子挿入を確認した図である。
図7】本発明の形質転換菌株のレチナール(A)及びレチノール(B)生産量を測定したHPLC/UVクロマトグラフィー分析グラフである。
図8】野生型菌株(A)及び本発明の形質転換菌株(B)のレチノール生産量を測定したESI-Massスペクトルグラフである。
図9】シングルコピープラスミド及びマルチコピープラスミドを用いてBCMO遺伝子を導入したそれぞれの場合のレチノール生産量を測定したHPLCグラフである。
図10】シングルコピープラスミド又はマルチコピープラスミドを用いた場合のレチノール生産量の定量的比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記目的を達成するための本出願の一態様は、ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)、デサチュラーゼ(desaturase, crtI)、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)及びレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)のタンパク質活性が強化された、レチノールを生産する微生物を提供する。
【0011】
また、本発明は、ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)、デサチュラーゼ(desaturase, crtI)、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15' monooxygenase, BCMO)及びレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)のタンパク質活性が強化された微生物のレチノール生産用途を提供する。
【0012】
本発明における「レチノール(retinol)」とは、ビタミンAの一種であり、皮膚の表皮細胞が本来の機能を維持する上で重要な役割を果たすものである。具体的には、ビタミンA1の化学名であり、動物の腸粘膜細胞に存在し、緑黄色植物に多量に含まれることが知られている。活性形態であるレチノイン酸(retinoic acid)に変換されることもあり、皮膚細胞に存在する細胞核中のDNAがRNAを発現するようにして細胞分化を促進し、動物の細胞間に繊維状の固体で存在する硬タンパク質であるコラーゲンと、弾性繊維で構成されるエラスチンなどの生合成を促進し、シワを減少させて皮膚の弾力を増加させる効能がある。このように、レチノールは、化粧品原料として用いられてきた。しかし、主に天然植物資源から前駆物質を抽出し、その後化学反応により最終産物であるレチノール及びその誘導体を生産するが、このような化学的生産方法は、他の不純物が混ざっている確率が高いので純度が低く、その生産量が少ないので生産コストが高くなるという欠点があった。よって、本発明の高効率発酵生産技術により製造したレチノールは、皮膚老化防止、皮膚弾力増進、シワ改善などの効果を有する化粧料組成物として用いられる。
【0013】
本発明における「ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)」とは、下記反応式の可逆反応を触媒する酵素を意味する。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明における「フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)」とは、カロテノイド生合成に関与する酵素の一つであり、下記反応式の可逆反応を触媒する酵素を意味し、具体的にはフィトエン(Phytoene)を合成する酵素を意味するが、これに限定されるものではない。
【0016】
【化2】
【0017】
本発明における「デサチュラーゼ(desaturase, crtI)」とは、下記反応式の可逆反応を触媒する酵素を意味し、具体的にはリコペン(Lycopene)を合成する酵素を意味するが、これに限定されるものではない。また、フィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)と混用されてもよい。
【0018】
【化3】
【0019】
本発明における「β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15’ monooxygenase, BCMO)」とは、下記反応式の反応を触媒する酵素を意味し、具体的には酸素分子を用いてβ-カロテンを分解し、レチナール2分子を生成する酵素を意味する。また、β-クリプトキサンチン、アポカロテナール、4'-アポ-β-カロテナール、α-カロテン及びγ-カロテンを分解することができる。さらに、β-カロテン15,15’ジオキシゲナーゼ(β-carotene 15,15’ dioxygenase)と混用されてもよい。
【0020】
【化4】
【0021】
本発明における「レチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase, ybbO)」とは、下記反応式の可逆反応を触媒する酵素を意味し、前記酵素の基質はall-trans-又は-cis-レチノールであってもよく、2つの基質(レチノール及びNAD+)を用いて3つの産物(レチナール,NADH,H+)を生成することができる。また、ミクロソームレチノールデヒドロゲナーゼ(microsomal retinol dehydrogenase)、all-transレチノールデヒドロゲナーゼ、レチナールレダクターゼ(retinal reductase)及びレチネンレダクターゼ(retinene reductase)と混用されてもよい。
【0022】
【化5】
【0023】
前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、デサチュラーゼ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及びレチノールデヒドロゲナーゼの遺伝的情報は、公知のデータベースから得られ、例えば米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information; NCBI)のGenBankなどから得られるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ及びデサチュラーゼは、キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous)に由来するものであってもよく、前記β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及びレチノールデヒドロゲナーゼは、ハロバクテリウム属NRC-1(Halobacterium sp. NRC-1)、海洋細菌66A03(marine bacterium 66A03)又はエシェリキア属微生物に由来するものであってもよいが、微生物の種又は微生物によって活性を示すタンパク質のアミノ酸配列に違いがあることがあるので、その由来や配列が限定されるものではない。特に、前記レチノールデヒドロゲナーゼは、エシェリキア属微生物、具体的にはE.coliに由来するものであるが、これに限定されるものではない。
【0025】
具体的には、前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼは、配列番号7のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、前記フィトエンシンターゼは、配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、前記デサチュラーゼは、配列番号9のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、前記β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼは、BCMO-SRにおいては配列番号10のアミノ酸配列を、BCMO-blhにおいては配列番号11のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、レチノールデヒドロゲナーゼは、配列番号12のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよいが、これらに限定されるものではない。本発明における「アミノ酸配列を含むタンパク質」は、「アミノ酸配列からなるタンパク質」と混用されてもよい。
【0026】
また、本発明における前記酵素には、各酵素と同一又は相当する生物学的活性を有するものであれば、前述した配列番号だけでなく、前記アミノ酸配列と80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を示すタンパク質が含まれる。
【0027】
さらに、前記配列と相同性を有する配列であって、実質的に前述した配列番号の酵素タンパク質と同一又は相当する生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するものも本発明に含まれることは言うまでもない。
【0028】
本願における「相同性」とは、与えられたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列に一致する程度を意味し、百分率で表される。本明細書において、与えられたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列は「相同性率」で表される。例えば、スコア(score)、同一性(identity)、類似度(similarity)などのパラメーター(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的にはBLAST 2.0を用いるか、定義されたストリンジェントな条件(stringent condition)下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に公知の方法(例えば、非特許文献1、2)で決定されてもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。例えば、このような条件は文献(例えば、非特許文献1)に具体的に記載されている。
【0029】
本発明のゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、デサチュラーゼ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及びレチノールデヒドロゲナーゼには、前述した各酵素と同一又は相当する生物学的活性を有するものであれば、前述した配列番号のアミノ酸配列又は前記配列と80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を示すタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれ、具体的にはゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)をコードする遺伝子には、配列番号1の塩基配列が含まれ、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)をコードする遺伝子には、配列番号2の塩基配列が含まれ、デサチュラーゼ(desaturase, crtI)をコードする遺伝子には、配列番号3の塩基配列が含まれ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ(BCMO)をコードする遺伝子には、BCMO-SR遺伝子においては、配列番号4の塩基配列が、BCMO-blh遺伝子においては、配列番号5の塩基配列が含まれ、レチノールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、配列番号6の塩基配列が含まれる。
【0030】
また、前記酵素をコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により前記タンパク質を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、コード領域から発現するタンパク質のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。よって、前記ポリヌクレオチドは、各酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。
【0031】
さらに、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより前記ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、デサチュラーゼ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及びレチノールデヒドロゲナーゼの酵素タンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。
【0032】
前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献1)に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0033】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本発明には、実質的に類似したポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片が含まれてもよい。
【0034】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0035】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献3参照)。
【0036】
本発明における「活性の強化」とは、酵素タンパク質の活性が導入されるか、微生物が有する内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することを意味する。前記活性の「導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定タンパク質の活性が自然に又は人為的に現れるようにすることを意味する。具体的には、酵素タンパク質の活性が強化された微生物とは、天然の野生型微生物又は非改変微生物より酵素タンパク質の活性が向上した微生物を意味する。例えば、前記活性の強化には、外来のゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、デサチュラーゼ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及び/もしくはレチノールデヒドロゲナーゼを導入して強化すること、又は内在性ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、デサチュラーゼ、β-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及び/もしくはレチノールデヒドロゲナーゼの活性を強化することが全て含まれる。具体的には、本発明における活性強化の方法は、1)前記酵素をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、2)前記ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変、3)前記酵素の活性を強化する染色体上のポリヌクレオチド配列の改変、4)それらの組み合わせにより強化する改変などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入することにより行われる。また、コピー数の増加の一態様として、酵素の活性を示す外来ポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行われてもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記酵素と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現することにより酵素が生成されるので、その活性が増加する。
【0038】
次に、2)ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行われるか、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行われる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0039】
具体的には、ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターが連結されてもよいが、前記強力なプロモーターの例としては、CJ7プロモーター、lysCP1プロモーター、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceA又はaceBプロモーターなどが挙げられる。より具体的には、hxpr2プロモーター又はUAS1Bプロモーターに作動可能に連結することにより、前記酵素をコードするポリヌクレオチドの発現率を向上させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行われるか、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行われる。
【0041】
最後に、4)前記1)~3)の組み合わせにより強化する改変は、前記酵素をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、その発現を増加させる発現調節配列の改変、染色体上の前記ポリヌクレオチド配列の改変、及び前記酵素の活性を示す外来ポリヌクレオチド又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの改変の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行われる。
【0042】
前記ポリヌクレオチドは、機能するポリヌクレオチドの集合体であればよく、遺伝子ともいう。本発明において、ポリヌクレオチドと遺伝子は混用されてもよく、ポリヌクレオチド配列とヌクレオチド配列は混用されてもよい。
【0043】
本発明における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれうる。
【0044】
本発明に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BAC、pSKH、pRS-413、pRS-414、pRS-415ベクター、pBCAベクター、pYLIベクターなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明に使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。また、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内に標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよく、それに関する遺伝子を除去してもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0046】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれていてもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。前記形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野の切断及び連結酵素などを用いて作製することができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明の微生物は、さらにKu70又はKu80のタンパク質活性が不活性化されるか、又はURA3遺伝子の活性が不活性化されたものであってもよい。
【0049】
本発明における「Ku70」又は「Ku80」は、Kuタンパク質であり、Ku70及びKu80は、Kuヘテロ二量体(heterodimer)を形成し、切断されたDNA二本鎖の末端に結合し、非相同末端結合(non-homologous end joining, NHEJ)経路を介してDNA修復に関与する。本発明の一実施例においては、レチノール生合成遺伝子の相同組換えの効率を高めるために、ランダム挿入(random insertion)を抑制する機能を有するKu70/Ku80遺伝子の1つが欠損した微生物を用いた。
【0050】
本発明における「URA3遺伝子」とは、酵母のピリミジン合成経路においてオロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼ(Orotidine 5'-phosphate decarboxylase, ODCase)をコードする遺伝子である。また、URA3+酵母は、ウラシルやウリジンを添加していない培地で増殖するが、ピリミジン類似体である5-フルオロオロト酸(5-fluoroorotic acid, 5-FOA)を含む培地では増殖しないという特徴があるので、URA3遺伝子は、前記特徴を用いてポジティブ又はネガティブマーカーとして用いることができる。
【0051】
本発明の一実施例によれば、レチノール生合成遺伝子が導入されたか否かを確認するために、URA3遺伝子が欠損した酵母を作製し、レチノール生合成遺伝子導入の際にURA3遺伝子を同時に導入する方法により、ウラシルやウリジンを添加していない培地からレチノール生合成遺伝子が導入された菌株を選択した(実施例1-1)。
【0052】
本発明における「不活性化」とは、本来微生物が有する酵素タンパク質の内在性活性又は改変前の活性に比べてその活性が低下することや、タンパク質が全く発現しないことや、発現してもその活性がないことを意味する。前記不活性化は、酵素をコードするポリヌクレオチドの変異などにより酵素自体の活性が、本来微生物が有する酵素の活性より低下したり、除去された場合や、酵素をコードする遺伝子の発現阻害又は翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的な酵素活性の程度が天然の微生物より低下したり、除去された場合や、酵素をコードする遺伝子の一部又は全部が欠失した場合や、それらの組み合わせを含む概念であるが、これらに限定されるものではない。すなわち、酵素タンパク質の活性が不活性化された微生物とは、天然の野生型微生物又は非改変微生物より酵素タンパク質の活性が低下したり、除去された微生物を意味する。
【0053】
前記酵素活性の不活性化は、当該分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、1)前記酵素をコードする染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、2)前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現が減少するように発現調節配列を改変する方法、3)前記タンパク質の活性が欠失又は低下するようにタンパク質をコードする染色体上の遺伝子配列を改変する方法、4)前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、5)前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、6)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3'末端に逆転写するようにプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering, RTE)などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0054】
前記酵素をコードする染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法は、微生物中の染色体挿入用ベクターを用いて、染色体内の内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部のヌクレオチド配列が欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行うことができる。このようなポリヌクレオチドの全部又は一部を欠失させる方法の一例として、相同組換えによりポリヌクレオチドを欠失させる方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記発現調節配列を改変する方法は、前記発現調節配列の活性がさらに低下するように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より活性が低い核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
前記染色体上の遺伝子配列を改変する方法は、前記酵素の活性がさらに低下するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに低下するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類により異なり、具体的には1~300個、より具体的には1~100個、さらに具体的には1~50個であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0058】
前記レチノールを生産する微生物は、ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase, crtE)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase, crtYB)及びデサチュラーゼ(desaturase, crtI)のタンパク質活性が強化された微生物であり、β-カロテンを生産することができ、さらにβ-カロテン15,15’モノオキシゲナーゼ及びレチノールデヒドロゲナーゼタンパク質活性を強化することにより、レチノール生産能がさらに増加した微生物であってもよい。
【0059】
本発明の微生物は、レチノール生産能を有する微生物であればいかなるものでもよいが、具体的にはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0060】
本発明の他の態様は、本発明の微生物を培養培地で培養するステップを含むレチノール生産方法を提供する。
【0061】
前記「微生物」及び「レチノール」については前述した通りである。
【0062】
本発明における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行われてもよい。このような培養過程は、当業者であれば選択される微生物に応じて容易に調整して用いることができる。前記微生物を培養するステップは、特にこれらに限定されるものではないが、公知の回分培養法、連続培養法、流加培養法などにより行われる。本発明の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、具体的には好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本発明の微生物を培養することができる。
【0063】
培養するステップにおけるpHは、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニア)又は酸性化合物(例えば、リン酸又は硫酸)により調節することができ、具体的には5.5~7.5、5.5~7.0、6.0~7.5、6.0~7.0、6.5~7.5、又は6.5~7.0であり、より具体的には6.9であるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養するステップにおける曝気量は、0.2~1.5vvm、0.2~1.3vvm、0.2~1.1vvm、0.5~1.5vvm、0.5~1.3vvm、0.5~1.1vvm、0.8~1.5vvm、0.8~1.3vvm、0.8~1.1vvmであり、より具体的には0.9vvmであるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
また、培養温度は、20~45℃、又は25~40℃に維持してもよく、具体的には27~31℃、28~31℃、29~31℃、又は30~31℃に維持し、より具体的には30.2℃に維持するが、これらに限定されるものではない。
【0066】
さらに、培養するステップにおける培養器の運転rpmは、50~300rpm、50~250rpm、100~300rpm、100~250rpm、150~300rpm、150~250rpm、200~300rpm、又は200~250rpmであってもよく、より具体的には249.9rpmであるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
本発明における「培地」とは、本発明の微生物を培養する培養培地、及び/又は培養して得られた産物を意味する。前記培地は、微生物を含む形態、及び前記微生物を含む培養液から遠心分離、濾過などにより微生物を除去した形態をどちらも含む概念である。
【0068】
本発明のレチノールを生産する微生物を培養するのに用いられる培養培地は、炭素供給源として糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、デンプン及びセルロース)、油脂(例えば、大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセリン及びエタノール)、有機酸(例えば、酢酸)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素)、無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、それらに相当するナトリウム含有塩などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、培地は、その他金属塩(例えば、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄)、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長促進物質を含んでもよい。
【0069】
本発明のレチノールを生産する微生物の培養に用いる培養培地は、酵母抽出物(Yeast extract)、ペプトン(Peptone)、大豆(Soy bean)及びグルコース(Glucose)からなる群から選択される少なくとも1つの栄養成分を含むものであってもよい。
【0070】
前記酵母抽出物は、本発明のレチノールを生産する微生物の培養培地に適量含まれ、具体的には培養培地全体の100重量部に対して1~4重量部、1.5~4重量部、2~4重量部、2.5~4重量部、1~3.5重量部、1.5~3.5重量部、2~3.5重量部、又は2.5~3.5重量部含まれ、より具体的には3重量部含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
また、前記ペプトンは、本発明のレチノールを生産する微生物の培養培地に適量含まれ、具体的には培養培地全体の100重量部に対して0.5~4重量部、1~4重量部、1.5~4重量部、2~4重量部、2.5~4重量部、0.5~4重量部、1~3.5重量部、1.5~3.5重量部、2~3.5重量部、又は2.5~3.5重量部含まれ、より具体的には3重量部含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
さらに、前記大豆は、本発明のレチノールを生産する微生物の培養培地に適量含まれ、具体的には培養培地全体の100重量部に対して0.5~4重量部、1~4重量部、1.5~4重量部、2~4重量部、2.5~4重量部、0.5~4重量部、1~3.5重量部、1.5~3.5重量部、2~3.5重量部、又は2.5~3.5重量部含まれ、より具体的には3重量部含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
さらに、前記グルコースは、本発明のレチノールを生産する微生物の培養培地に適量含まれ、具体的には培養培地全体の100重量部に対して1~3重量部、1~2.5重量部、1.5~3重量部、又は1.5~2.5重量部含まれ、より具体的には2重量部含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
前記培養により生産されたレチノールは、培地中に分泌されるか、細胞内に残留する。
【0075】
また、本発明のレチノール生産方法は、前記微生物のマルチコピー(multi-copy)プラスミドを用いるものであってもよい。具体的には、一実施例においては、シングルコピーを用いて形質転換した菌株に比べて、マルチコピーを用いて形質転換した菌株を培養すると、レチノール生産量が約3倍に増加することが確認された(実施例3-2)。
【0076】
また、本発明のレチノール生産方法は、前記培養された微生物又は培地からレチノールを回収するステップをさらに含むものであってもよい。本発明の前記培養ステップで生産されたレチノールを回収するステップは、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いてレチノールを生産する微生物及びその培養液から目的とするレチノールを回収することができる。例えば、凍結乾燥、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養された微生物又は培地から目的とするレチノールを回収することができる。前記レチノールを回収するステップは、分離工程及び/又は精製ステップをさらに含んでもよい。
【実施例
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
レチノール生産用菌株の選定及びコドン最適化による遺伝子合成
実施例1-1:レチノール生産用サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プラットフォーム菌株の作製
組換えタンパク質の生産に広く活用される酵母菌株であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)をレチノール生産用菌株として選定した。
【0079】
次に、レチノール生産用菌株を作製するためにサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株のゲノム中の高効率遺伝子操作が必要であり、そのためには、ゲノム中で特定遺伝子群を繰り返し挿入、除去できる高効率遺伝子操作システム、及び挿入された遺伝子がゲノム中で相同組換え(homologous recombination)を高効率で行うことのできるシステムを構築しなければならない。よって、前記システムが構築されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プラットフォーム菌株を作製した。
【0080】
具体的には、相同組換えの効率を高めるためには、ランダム挿入(random insertion)を抑制する機能を有するKu70/Ku80遺伝子の1つを除去しなければならず、外来遺伝子挿入を確認するための栄養要求性選択マーカー(auxotrophic selection marker)としてURA3を用いるためには、ゲノム中のURA3遺伝子を除去しなければならない。よって、URA3及びKu70が除去されたレチノール生産用サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プラットフォーム菌株を作製した。以下の実験においては前記菌株を用いた。
【0081】
実施例1-2:サッカロマイセス・セレビシエに合わせた高効率レチノール生産代謝経路の設計及び遺伝子合成
図1に示すように、GGPPの生産からレチノールの生産までの代謝経路(GGPP→Phytoene→Neurosporene→Lycopene→β-carotene→Retinal→Retinol)を設計した。
【0082】
具体的には、キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous)由来のβ-カロテン生合成遺伝子であるゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(GGPP synthase)、フィトエンシンターゼ(Phytoene synthase)及びデサチュラーゼ(desaturase)をコードする塩基配列(それぞれcrtE、crtI及びcrtYB)をサッカロマイセス・セレビシエに合わせてコドン最適化してから各遺伝子を合成し、ハロバクテリウム属NRC-1(Halobacterium sp. NRC-1)又は海洋細菌66A03(marine bacterium 66A03)由来のレチナール生合成遺伝子であるβ-カロテン15,15’-モノオキシゲナーゼ(β-Carotene 15,15'-Monooxygenase)をコードする塩基配列(それぞれBMCO-blh又はBMCO-SR)をサッカロマイセス・セレビシエに合わせてコドン最適化してから各遺伝子を合成し、レチノール生合成遺伝子であるレチノールデヒドロゲナーゼ(retinol dehydrogenase)をコードする塩基配列(ybbO)をサッカロマイセス・セレビシエに合わせてコドン最適化してから遺伝子を合成した。
【0083】
crtE、crtYB、crtI、BMCO-blh、BMCO-SR及びybbOをコードする塩基配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6で表される。
【0084】
(実施例2)
レチノール生産用菌株の作製
実施例2-1:レチノール生産用S.cerevisiae発現ベクターの作製
実施例1-2で合成したcrtE、crtI、crtYB、BMCO-blh、BMCO-SR及びybbO遺伝子の塩基配列をレチノール生産用サッカロマイセス・セレビシエプラットフォーム菌株で安定して発現させるために、GPDプロモーターとCYC1ターミネーター(terminator)を含み、ベクターシステムの繰り返し使用が可能なuraマーカーシステムを適用した発現ベクターを作製した。
【0085】
具体的には、まずGPDプロモーター、CYC1ターミネーター及びURA Blaster cassetteが導入された発現ベクターに実施例1-2で合成したcrtE、crtI、crtYB、BMCO-blh、BMCO-SR及びybbO遺伝子をコードする塩基配列をマルチクローニングサイト(Multi Cloning Site)にあるEcRI、XhoI制限酵素により挿入し、各遺伝子配列が挿入されたpBCA_crtE、pBCA_crtI、pBCA_crtYB、pRET_BMCO-blh、pRET_BMCO-SR及びpRET_ybbOベクターを作製した。
【0086】
実施例2-2:レチノール前駆体の生合成遺伝子の挿入
S.cerevisiaeゲノム中に挿入する部位としては、レチノールの前駆体供給を増加させるために、除去するとレチノールの前駆体であるメバロン酸(mevalonate)の生産を増加させることが知られている遺伝子YPL062w、及びファルネシルピロリン酸(farnesyl pyrophosphate: FPP)の消費に関与するファルネソール(farnesol)生産遺伝子LPP1、DPP1を選定した。
【0087】
具体的には、実施例2-1で作製したpBCA_crtEベクターを実施例1-1で作製したレチノール生産用サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プラットフォーム菌株に形質転換し、その後colony PCRにより菌株内の正確な位置にcrtE遺伝子が挿入されたか否かを確認した(図2のA)。crtE遺伝子が正確な位置に挿入されると、図3のAの1、5、8及び10レーンのように、4,000bpのバンドが観測される。挿入が確認された菌株は、ura pop outによりuraマーカーを除去し、その後のcrtI遺伝子挿入に用いた。
【0088】
前記方法により、crtI遺伝子及びcrtYB遺伝子を順次挿入し、前記遺伝子が挿入されたことを確認した(図2のB及びC)。crtI遺伝子が正確な位置に挿入されると、図2のBの11及び12レーンのように、4,000bp付近のバンドが観測され、crtYB遺伝子が正確な位置に挿入されると、図2のCの1、2、5、9及び10レーンのように、6,000bp付近のバンドが観測される。このように、レチノールの前駆体であるβ-カロテンの生合成遺伝子であるcrtE、crtI及びcrtYB遺伝子が挿入された菌株を作製した。以下の実験では、前記菌株(S. cerevisiae CEN.PK2-1D Δleu2::PTEF1-ERG20 Δhis3::PCCW12-tHMG1 Δlpp1::PGPD-crtE Δdpp1::PGPD-crtI Δypl062w::PGPD-crtYB)を基本菌株としてレチノール生産用菌株を作製した。
【0089】
実施例2-3:レチノール生合成遺伝子の挿入
前記2-1で作製したpBCA-BCMOベクターを実施例2-2で作製したレチノール前駆体生合成遺伝子が挿入されたサッカロマイセス・セレビシエ菌株に形質転換し、その後PCR及びコロニー形成の観測により菌株内の正確な位置にBMCO-blh又はBMCO-SRの各遺伝子が挿入されたか否かを確認した(図3、4)。
【0090】
具体的には、pBCA-BCMOベクター及びpUC-3Myc URA3-PGPDベクターにEcoRI/XhoI制限酵素によりBCMOを溶解させ、1%アガロースゲルで電気泳動して前記溶解させたBCMOを精製し、前記精製したBCMOとpUC-3Myc URA3-PGPDベクターをEcoRI/XhoI制限酵素により接合させてpUC-3Myc URA3-PGPD-BCMOベクターを作製した。また、EcoRI/XhoI制限酵素によりBCMOを溶解させた。その後、BCMO遺伝子を表1に示す塩基配列からなる挿入カセット用プライマーによりYPRCτ3遺伝子部位に挿入した。
【0091】
【表1】
【0092】
こうして、図3に示すように、PCRの結果から、前記BCMO-SR又はBCMO-blh遺伝子が挿入されたPGPD-BCMO URA3挿入用ベクターが作製されたことが確認された。
【0093】
また、図4のA及びBに示すように、コロニー形成の観測及びマスターコロニー(master colony)の取得により、前述したように作製した挿入用カセットを用いてBMCO-blh又はBMCO-SR遺伝子がサッカロマイセス・セレビシエYPRCτ3遺伝子部位に正常に形質転換されたことが確認された。さらに、図4のC及びDに示すように、前記BCMO挿入マスターコロニーのPCRを行った結果、BCMO-SR遺伝子が導入されると、21レーンのように、5,124bp付近のバンドが観測され、同様にBCMO-blh遺伝子が導入されると、11及び14レーンのように、5,124bp付近のバンドが観測されることが確認された。このようにして、BCMO遺伝子が挿入された菌株を作製した。
【0094】
最終的に、レチノール生産用菌株を作製するために、前述したように作製した菌株にレチノールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子ybbOが挿入されたレチノール生産用菌株を作製した。
【0095】
具体的には、BCMO遺伝子導入方法と同様に、pUC57-3Myc URA3-PGPD-ybbO挿入用ベクターを作製した。その後、ybbO遺伝子は、表2に示す塩基配列からなる挿入カセット用プライマーを用いて、YPRCdelta15遺伝子部位に挿入した。
【0096】
【表2】
【0097】
こうして、図5に示すように、ybbO挿入マスターコロニーのPCRを行った結果、ybbO遺伝子が導入されると、11レーンのように、3,600bp付近のバンドが観測されることが確認された。このように、最終的にcrtE、crtYB、crtI、BMCO-blh、BMCO-SR及びybbO遺伝子が挿入されたレチノール生産用菌株を作製した。
【0098】
(実施例3)
レチノール生産用菌株のレチノール生産の確認
実施例3-1:レチノール生産用菌株のレチノール生産可否の確認
前記レチノール生産用菌株のレチノール生産を確認するために、HPLC/UVクロマトグラム及びESI質量スペクトルを得た。具体的には、クロマトグラフィー分析方法は、分析スケール(analytical scale;面積300mm×4mm)を用いて行うものとした。ODS C18ガードカラム(guard column;4mm×3mm)は、ランニングカラム(running column)として先行するものとした。クロマトグラフィー条件は、移動相A:アセトニトリル/H2O/氷酢酸=90/10/2;移動相B:アセトニトリル/メタノール=90/10;移動相C:100%THFとした。全ての移動相は、使用前に、0.45μmのポアサイズを有するナイロンメンブレンフィルターでフィルタリングした。ランニングタイム全体のうち26分間は、所定の流速(1mL/分)及び所定のカラム濃度(22℃)で、0~4.5分100%A;4.5~6.5分100%B;6.5~12分60%B,40%C;12~15分60%B,40%C;15~20分100%B;20~26分100%Aの濃度プログラムを用いた。
【0099】
その結果、図6に示すように、前記レチノール生産用菌株を培養することにより形成されたコロニーのレチナール生産ピーク及びレチノール生産ピークが観測された。具体的には、HPLC/UVクロマトグラム(325nm)の測定結果において、レチナール生産ピークは10.47分に観測され(図6のA)、レチノール生産ピークは10.97分に観測された。また、図7に示すように、CEN.PK野生型菌株とは異なり(図7のA)、本発明のレチノール生産用菌株は、303.2318m/zでレチノール生産ピークが観測された(図7のB)。
【0100】
これらから、実施例2で作製したレチノール生産用菌株がレチノールを生産することが分かる。
【0101】
実施例3-2:Multi copyプラスミドを用いたレチノール生産量増加効果の確認
マルチコピー(multi-copy)プラスミドを用いて形質転換菌株を培養した場合の前記レチノール生産用菌株のレチノール生産量増加効果を確認した。
【0102】
具体的には、図8に示すように、pUC57ベクターを用いてシングルコピーのBCMO-SR遺伝子を導入して培養すると、レチノール169.16μg/Lが生産された。それとは異なり、p426ベクターを用いてマルチコピーのBCMO-SR遺伝子を導入して培養すると、レチノール491.09μg/Lが生産された。すなわち、シングルコピーを用いて形質転換した菌株に比べて、マルチコピーを用いて形質転換し菌株を培養すると、レチノール生産量が約3倍に増加することが確認された。よって、マルチコピー(multi-copy)プラスミドを用いて形質転換した微生物を培養すると、レチノール生産量が大幅に増加することが確認された。
【0103】
本明細書においては、本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば十分に認識、類推できる内容はその詳細な記載を省略し、本明細書に記載されている具体的な例示以外に、本発明の技術的思想や必須構成を変更しない範囲で様々な変形をすることができる。よって、本発明は、本明細書において具体的に説明、例示したものとは異なる方式で実施することができ、それらは本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば理解できる事項である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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