(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】抗炭酸脱水酵素IX抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/40 20060101AFI20240326BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240326BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240326BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240326BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240326BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240326BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240326BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 P
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021566230
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(86)【国際出願番号】 US2019030807
(87)【国際公開番号】W WO2020226612
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】521485999
【氏名又は名称】ナビ バイオ-セラピューティクス,インコーポレイティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サイ,ボー-ユ
(72)【発明者】
【氏名】スー,ウェイ-ティン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ユ,スアン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-535601(JP,A)
【文献】PLOS One,2010年,vol.5,e9625
【文献】Eur. J. Pharmacol.,2011年,vol.657,p.173-178
【文献】British J. Cancer,2009年,vol.101,p.645-657
【文献】Biotechnol. Lett.,2013年,vol.36,p.21-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分であって、前記単離された抗体又はその抗原結合部分はCAIXに結合するように、
配列番号1の軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)、配列番号2の軽鎖CDR2(L-CDR2)、配列番号3の軽鎖CDR3(L-CDR3)、配列番号9の重鎖CDR1(H-CDR1)、配列番号10の重鎖CDR2(H-CDR2)及び配列番号11の重鎖CDR3(H-CDR3);
配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2、配列番号3のL-CDR3、配列番号12のH-CDR1、配列番号13のH-CDR2及び配列番号14のH-CDR3;
配列番号1のL-CDR1、配列番号2のL-CDR2、配列番号3のL-CDR3、配列番号15のH-CDR1、配列番号16のH-CDR2及び配列番号17のH-CDR3;又は
配列番号6のL-CDR1、配列番号7のL-CDR2、配列番号8のL-CDR3、配列番号18のH-CDR1、配列番号19のH-CDR2及び配列番号20のH-CDR3、
を含む、前記単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である、請求項1記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
【請求項3】
ヒト抗体配列の定常領域並びに1つ以上の重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域を含む、請求項1記載の単離された抗CAIX抗体。
【請求項4】
前記フレームワーク領域に最高10個のアミノ酸置換を含む、請求項3記載の単離された抗CAIX抗体。
【請求項5】
前記フレームワーク領域が、配列番号34~37から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR1、配列番号38~40から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR2、配列番号41~43から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR3、及び配列番号44~45から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR4、並びに配列番号46~52から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR1、配列番号53~56から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR2、配列番号57~62から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR3、及び配列番号63~65から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR4を含む、請求項3記載の単離された抗CAIX抗体。
【請求項6】
配列番号21~23から成る群より選択される配列を有するアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、請求項1記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
【請求項7】
配列番号24~28から成る群より選択される配列を有するアミノ酸配列を含む重鎖を含む、請求項1記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
【請求項8】
配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号26に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む、請求項1記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
【請求項9】
前記抗原結合部分が、Fab、F(ab')
2、Fd、Fv、dAb又はscFvである、
請求項1~8のいずれか1項記載の単離された抗CAIX抗体。
【請求項10】
CAIXと結合する一本鎖可変断片(scFv)であって、
a)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域;
a)配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域;
a)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号26に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域;
a)配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域;又は
a)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号28に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域、
を含む、前記一本鎖可変断片(scFv)。
【請求項11】
前記リンカーがペプチドリンカーである、
請求項10記載のscFv。
【請求項12】
前記リンカーが4~20アミノ酸を含む、
請求項10記載のscFv。
【請求項13】
前記リンカーが、配列番号29、30又は31のアミノ酸配列を有するペプチドを含む、
請求項10記載のscFv。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項記載の抗体若しくはその抗原結合部分又は
請求項10~13のいずれか1項記載のscFvと薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項15】
1つ以上の更なる抗癌薬をさらに含む、
請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか1項記載の抗体若しくはその抗原結合部分又は
請求項10~13のいずれか1項記載のscFvを含む、対象において癌を予防及び/又は処置するための医薬組成物。
【請求項17】
前記癌が、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍である、
請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記癌が、扁平上皮癌(例えば、上皮扁平上皮癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含めた肺癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃腸癌を含めた胃部若しくは胃癌、膵臓癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、肝細胞腫、乳癌、大腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜若しくは子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓若しくは腎部癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、黒色腫、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、脳癌、
又は頭頸部癌である、
請求項16記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記癌が肺癌又は肺腺癌である、
請求項16記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか1項記載の抗体若しくはその抗原結合部分又は
請求項10~13のいずれか1項記載のscFvと同時に、逐次又は別々に対象に投与するためのものである1つ以上の更なる抗癌薬をさらに含む、
請求項16記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項1~9のいずれか1項記載の抗体若しくはその抗原結合部分又は
請求項10~13のいずれか1項記載のscFvを発現する細胞。
【請求項22】
請求項21記載の細胞と薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項21記載の細胞又は
請求項22記載の医薬組成物を含む、対象において癌を予防及び/又は処置するための医薬組成物。
【請求項24】
請求項21記載の細胞又は
請求項22記載の医薬組成物を含む、癌を予防及び/又は処置するための医薬組成物であって、1つ以上の更なる抗癌薬と同時に、逐次又は別々に、対象へ投与するためのものである、前記医薬組成物。
【請求項25】
細胞内における
請求項1~9のいずれか1項記載の抗体若しくはその抗原結合部分又は
請求項10~13のいずれか1項記載のscFvを含む、対象において癌を予防及び/又は処置するための医薬組成物であって、前記抗体若しくはその抗原結合部分又はscFvはin vitroにて発現させたものである、前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん処置の分野に一般に関する。特に、本発明は、炭酸脱水酵素IX(CAIX)の抗原性ペプチド、抗CAIX抗体並びにがんの予防及び/又は処置におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
低酸素は、急速に増殖する悪性腫瘍及びその転移の顕著な特徴である。腫瘍発生の初期において組織の低酸素は、不十分な血液供給により起こる。外腫瘍環境の低酸素及び酸性化は、浸潤性腫瘍の増殖、転移形成、並びに放射線療法、手術及び/又は抗がん化学療法に対する応答不良の両方に関連している。炭酸脱水酵素(CA)は、pH調節、イオン輸送、骨吸収並びに胃、脳脊髄液、及び膵液の分泌を含めた多様な生理的機能に関係する。正常組織におけるCAIX発現は、ヒトにおいて胃、腸(十二指腸、空腸及び回腸粘膜の増殖性陰窩腸細胞)及び胆嚢上皮の側底面に限定される。CAIXは、多くの固形腫瘍において過剰発現されるが、その対応する正常組織では発現されない。これまでの研究は、肺、乳、肝臓、頸部、結腸、卵巣、膀胱、頭頸部、脳及び口腔のがんにおいてCAIX発現が上方調節され、予後不良と関連すると報告している。
【0003】
US 20050158809は、腎細胞癌患者から得られる試料において発現される炭酸脱水酵素を定量化することを含む腎細胞癌予後に役立つ方法に関する。US 20130274305は、がん処置における使用を含めたニトロイミダゾール部分を含むCAIX阻害剤に関する。US 20130336923は、CAIXに結合し、その活性を低下させるscFv抗体及びモノクローナル抗体を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
がん療法を含めた医薬適用に使用するためのCAIXに対する新たな抗体の必要性が当業者に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、配列番号32若しくは配列番号33のアミノ酸配列又は配列番号32及び配列番号33のアミノ酸配列を有するCAIXのエピトープを含む抗原性ペプチドを提供する。したがって、本開示は、本開示の抗原性ペプチド及び任意で薬学的に許容可能なアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。本開示のエピトープと特異的に結合する抗体も提供する。
【0006】
本開示は、単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分であって、前記単離された抗体又はその抗原結合部分がCAIXに結合するように、配列番号1、4若しくは6の軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)又はそのバリアント;配列番号2、5若しくは7の軽鎖CDR2(L-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号3若しくは8の軽鎖CDR3(L-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つ並びに配列番号9、12、15若しくは18の重鎖CDR1(H-CDR1)又はそのバリアント;配列番号10、13、16若しくは19の重鎖CDR2(H-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号11、14、17若しくは20の重鎖CDR3(H-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つを含む、単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分も提供する。
【0007】
単離された抗CAIX抗体の関連した実施形態は、ヒト抗体配列の定常領域並びに1つ以上の重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域を含む。関連する実施形態において、単離された抗CAIX抗体は、アバスチンに対して少なくとも70%の同一性を持つフレームワーク領域を含む。
【0008】
関連する実施形態は、フレームワーク領域に最高10個のアミノ酸置換(例えば最高1、2、3、4、5、6、7、8個又は最高9個のアミノ酸置換)を含む本明細書に開示されるCAIXと特異的に結合する単離された抗体を含む。
【0009】
フレームワーク領域の関連する実施形態は、配列番号34~37から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR1、配列番号38~40から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR2、配列番号41~43から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR3、及び配列番号44~45から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR4、並びに配列番号46~52から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR1、配列番号53~56から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR2、配列番号57~62から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR3、及び配列番号63~65から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR4を含む。
【0010】
本開示は、配列番号21~23からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む軽鎖も提供する。
【0011】
本開示は、配列番号24~28からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む重鎖も提供する。
【0012】
本開示は、(i)配列番号21~23からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖又はそのバリアント及び(ii)配列番号24~28からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する重鎖又はそのバリアントを含む、単離された抗体又はその抗原結合部分をさらに提供する。一実施形態において、バリアントは、対応する配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。単離された抗体の特定の実施形態は、配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号26に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む。
【0013】
特定の実施形態は、本開示の抗体又はその抗原結合部分を発現する細胞に関する。
【0014】
特定の実施形態は、本開示のCAIXに対する抗体又は本開示の抗体若しくはその抗原結合部分を発現する細胞及び薬学的に許容可能な担体若しくは賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0015】
特定の実施形態は、細胞内で本開示の抗体又はその抗原結合部分をin vitroにて発現させる工程と、対象に細胞を投与する工程とを含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-1】(A)抗CAIX scFv(NAVICA9S1、NAVICA9S2、NAVICA9L1、NAVICA9L2、NAVICA9L3)及び(B)CAIXタンパク質(ECD、F3)の精製並びに(C)CAIXの全長、細胞外ドメイン(ECD)、断片1(F1)、断片2(F2)及び断片3(F3)のサイズを示す図である。レーン1:Ni
2+セファロース結合後の上清;レーン2:洗浄緩衝液の捕集;レーン3:溶出後のNi
2+セファロース;レーン4:溶出したタンパク質の捕集;ECD:細胞外ドメイン;及びF3:断片3。
【
図2】(A)SDS-PAGE上のCAIXタンパク質及びA549細胞溶解物の場所を示す図である。(B)~(I)ウェスタンブロット法による抗CAIX抗体又はscFvの結合能力を示す図である。(B)マウス抗CAIX Ab;(C)マウス抗CAIX Ab;(D)NAVICA9S1;(E)NAVICA9S2;(F)IgY;(G)NAVICA9L1;(H)NAVICA9L2;及び(I)NAVICA9L3。
【
図3】(A)NAVICA9S1、(B)NAVICA9S2、(C)NAVICA9L1、(D)NAVICA9L2及び(E)NAVICA9L3の抗CAIXモノクローナルscFvの結合親和性を示す図である。
【
図4】(A)クローンNAVICA9S1、NAVICA9S2及びNAVICA9L3はCAIX FL、ECD、F2及びF3断片に結合し、クローンNAVICA9L2はCAIX FL及びECDに結合するが、F2及びF3断片に結合しないこと並びに(B)2つのエピトープがそれぞれ38~153アミノ酸及び228~353アミノ酸に位置することを示す図である。
【
図5】A549細胞又はTHP-1細胞に対する抗CAIX scFv及び抗CAIX(abcam、ab107257)のフローサイトメトリーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、CAIX内に位置するエピトープ及びがん細胞との結合活性を有する抗CAIX抗体の発見に基づく。
【0018】
続く説明においていくつかの用語が使用され、以下の定義は請求される主題の理解を容易にするために提供される。本明細書に明示的に定義されない用語は、その明白で通常の意味により使用される。
【0019】
特に明記しない限り、「a」又は「an」は、「1つ以上」を意味する。
【0020】
本明細書では、用語「エピトープ」は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。
【0021】
本明細書では、用語「特異的に結合する」は、抗体が他のエピトープと有意な程度で交差反応しないことを意味する。
【0022】
本明細書では、用語「抗体」は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ及びヒト化抗体のクラスに属する一本鎖、二本鎖及び多重鎖タンパク質並びにポリペプチドを指し;これらの抗体の合成及び遺伝子操作されたバリアントも含む。「抗体断片」は、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片、並びに所望の標的エピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体の任意の部分を含む。
【0023】
本明細書では、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す。換言すれば、モノクローナル抗体は、単一細胞クローン(例えば、ハイブリドーマ、均質な抗体をコードするDNA分子でトランスフェクトした真核生物宿主細胞又は均質な抗体をコードするDNA分子でトランスフェクトした原核宿主細胞)の増殖から生じる均質な抗体からなる。これらの抗体は単一のエピトープに対して作られ、したがって極めて特異的である。
【0024】
本明細書では、用語「相補性決定領域」(CDR)とは、重鎖及び軽鎖ポリペプチド両方の可変領域内に見られる不連続な抗原結合部位を指す。CDRは、Kabatら、J. Biol. Chem. 252:6609~6616頁(1977年);Kabatら、U.S. Dept. of Health and Human Services、「Sequences of proteins of immunological interest」(1991年);Chothiaら、J. Mol. Biol. 196:901~917頁(1987年);及びMacCallumら、J. Mol. Biol. 262:732~745頁(1996年)に記載されており、相互に比較した場合その定義はアミノ酸残基の重複又は一部を含む。
【0025】
本明細書では、用語「フレームワーク」又はFR残基は、超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0026】
本明細書では、用語「ヒト化抗体」は、1つの種由来の抗体;例えばマウス又はニワトリ抗体のCDRが、その種由来の抗体の重及び軽可変鎖からヒトの重及び軽可変ドメイン(フレームワーク領域)へと移される、組換えタンパク質を指す。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体から得られる。一部の場合において、ヒト化抗体のフレームワーク領域の特定の残基、特にCDR配列に接触している又は近くにある残基は改変されてもよく、例えば元のマウス、齧歯類、ヒトに近い霊長類又は他の抗体に由来する対応する残基で置き換えられてもよい。ヒト化抗体は、(a)重要なフレームワーク残基を保存して又はせずにヒトフレームワーク及び定常領域上へヒト以外のCDRだけをグラフトすること、又は(b)ヒト以外の可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置き換えによってヒト様のセクションでそれを「覆い隠す」ことを含めた様々な方法によって実現され得る。本開示を実施するのに有用な方法は、Padlan、Mol. Immunol.、31(3):169~217頁(1994年)に開示されている方法を含む。
【0027】
本明細書では、用語「キメラ抗体」は、1つの種、好ましくは齧歯類抗体又はニワトリ抗体、より好ましくはマウス抗体から得られる抗体の相補性決定領域(CDR)を含む、重と軽両方の抗体鎖の可変ドメインを含有する組換えタンパク質を指す。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体から得られる。
【0028】
本明細書では、用語「抗原結合」は、抗原に特異的に結合する能力を指す。抗体の抗原結合機能が、全長抗体の断片によって実行され得ることは示されてきた。用語抗体の「抗原結合部分」に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片;(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結されている2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の一本のアームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなる単一ドメイン又はdAb(ドメイン抗体)断片;並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)又は(vii)合成リンカーで場合により接続され得る2つ以上の単離されたCDRの組合せがある。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え方法を使用して、VL及びVH領域が対になって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として公知である)として製作されることを可能にする合成リンカーによって接続され得る。これらの抗体断片は当業者に公知の従来の技術を使用して得られ、断片はインタクトな抗体と同じ様式で有用性に対してスクリーニングされる。
【0029】
本明細書では、一本鎖抗体(「SCA」)は、可変軽(「VL」)及び可変重(「VH」)ドメインがペプチド架橋によって又はジスルフィド結合によって連結された一本鎖Fv断片(「scFv」)を含む。
【0030】
本明細書では、用語「リンカー」は、2つの分子を連結して1つの連続した分子にするために使用され得る二官能性分子を指す。一部の場合において、リンカーは抗体結合断片(例えばFv断片)内のペプチドであり、可変軽鎖に可変重鎖と間接的に結合するのに用いられる。
【0031】
本明細書では、用語KDは所与の相互作用、例えばポリペプチドリガンド相互作用又は抗体抗原相互作用に対する解離定数を指す。例えば、抗体(例えば本明細書に開示される抗体)と抗原の二分子相互作用の場合、KDは複合体の濃度で割った二分子相互作用の個々の成分の濃度である。
【0032】
本明細書では、用語「処置」、「処置する」等は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を網羅し、(a)疾患に罹る可能性があるが、疾患を有するとまだ診断されていない対象において疾患が起こることを予防すること;(b)疾患を阻害する、すなわち疾患の発症を抑制すること;及び(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退行を引き起こすことを含む。
【0033】
本明細書で互換的に使用されるように、用語「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者」は、マウス(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)、等を含むがこれに限定されない哺乳動物を指す。
【0034】
本明細書では、用語「治療上有効量」又は「有効な量」は、疾患を処置するために哺乳動物又は他の対象に投与した場合に、疾患に対してそのような処置を実施するのに十分な対象となる抗CAIX抗体の量を指す。
【0035】
一態様において、本開示は、アミノ酸配列:
;又は
配列番号32及び配列番号33のアミノ酸配列を有するCAIXのエピトープを含む抗原性ペプチドを提供する。
【0036】
したがって、本開示は、本開示の抗原性ペプチド及び任意で薬学的に許容可能なアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。薬学的に許容可能なアジュバントの例は、水酸化アルミニウム、ミョウバン、アルハイドロゲル(アルミニウム三水和物)又は他の含アルミニウム塩、ビロソーム、CpGモチーフを含む核酸、スクアレン、油、MF59、QS21、様々なサポニン、ウイルス様粒子、モノホスホリル脂質A/トレハロースジコリノミコレート、toll様受容体アゴニスト、コポリマー例えばポリオキシプロピレン及びポリオキシエチレン、等を含み得る。
【0037】
本開示は、本開示のエピトープと特異的に結合する抗体も提供する。新規のエピトープに結合できる抗体は、診断、治療的薬剤及びワクチンとして有用である。
【0038】
一実施形態において、本開示は、単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分であって、前記単離された抗体又はその抗原結合部分がCAIXに結合するように、配列番号1、4若しくは6の軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)又はそのバリアント;配列番号2、5若しくは7の軽鎖CDR2(L-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号3若しくは8の軽鎖CDR3(L-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つ並びに
配列番号9、12、15若しくは18の重鎖CDR1(H-CDR1)又はそのバリアント;配列番号10、13、16若しくは19の重鎖CDR2(H-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号11、14、17若しくは20の重鎖CDR3(H-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つ
を含む、単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0039】
一実施形態において、バリアントは、対応するCDRに対して少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する。好ましくは、上述の配列同一性は、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%である。
【0040】
重鎖及び軽鎖内の相補性決定領域のアミノ酸配列は、以下の表に挙げられる。
【0041】
【0042】
一部の実施形態において、単離された抗CAIX抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
【0043】
各重鎖及び軽鎖は、定常領域及び可変領域(領域は「ドメイン」としても公知である)を含有する。いくつかの実施形態において、重及び軽鎖可変ドメインは、組み合わさって抗原と特異的に結合する。軽鎖及び重鎖可変ドメインは、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる3つの超可変領域によって分断された「フレームワーク」領域を含有する(例えば、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、U.S. Department of Health and Human Services、1991年を参照のこと)。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種間で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成要素の軽鎖及び重鎖が組み合わさったフレームワーク領域は、三次元空間にCDRを配置し、整列させる役目を果たす。CDRは主に抗原のエピトープに対する結合に関与する。所与のCDRのアミノ酸配列の境界は、Kabatら(「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1991年;「Kabat」番号付けスキーム)、Al-Lazikaniら(JMB 273、927~948頁、1997年;「Chothia」番号付けスキーム)及びLefrancら(「IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains」、Dev. Comp. Immunol.、27:55~77頁(2003年);「IMGT」番号付けスキーム)に記載されるものを含めたいくつかの周知スキームのいずれかを使用して容易に決定され得る。
【0044】
一部の実施形態において、単離された抗CAIX抗体は、ヒト抗体配列の定常領域並びに1つ以上の重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域を含む。関連する実施形態において、抗体はヒトIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4の改変された又は無改変の定常領域を含む。好ましい実施形態において、定常領域はヒトIgG1又はIgG4であり、場合により改変されて特定の特性が増強又は低下されてもよい。関連する実施形態において、単離された抗CAIX抗体は、アバスチンに対して少なくとも70%の同一性を持つフレームワーク領域を含む。
【0045】
一部の実施形態において、本明細書に開示されるCAIXと特異的に結合する単離された抗体は、抗体の重鎖、抗体の軽鎖又は抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域(例えば、Kabat、Clothia又はIMGT番号付けシステムにしたがう)内に最高10個のアミノ酸置換(例えば最高1、2、3、4、5、6、7、8又は最高9個のアミノ酸置換)を含む。一部の実施形態において、フレームワーク領域は、配列番号34~37から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR1、配列番号38~40から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR2、配列番号41~43から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR3、及び配列番号44~45から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR4、並びに配列番号46~52から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR1、配列番号53~56から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR2、配列番号57~62から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR3、及び配列番号63~65から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR4を含む。
【0046】
【0047】
本開示によって、本開示の抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸の実施形態が、以下に記載される。
【0048】
【0049】
一部の実施形態において、本開示は、配列番号21~23からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む軽鎖を提供する。
【0050】
一部の実施形態において、本開示は、配列番号24~28からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む重鎖を提供する。
【0051】
さらなる実施形態において、本開示は、(i)配列番号21~23からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖又はそのバリアント及び(ii)配列番号24~28からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する重鎖又はそのバリアントを含む、単離された抗体又はその抗原結合部分を含む。一実施形態において、バリアントは、対応する配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。一実施形態において、バリアントは、軽鎖又は重鎖のフレームワークに対して少なくとも80%の配列同一性を有する。好ましくは上述の配列同一性は、少なくとも90%、91%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%である。
【0052】
さらなる実施形態において、本開示は、配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号26に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む、単離された抗体若しくはその抗原結合部分を含む。
【0053】
さらなる実施形態において、本開示は、CAIXと結合する一本鎖可変断片(scFv)であって、a)配列番号21~23からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号24~28からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域を含む、一本鎖可変断片(scFv)を提供する。一実施形態において、リンカーはペプチドリンカーである。一部の実施形態において、リンカーは4~20アミノ酸を含む。一部の実施形態において、リンカーは、
のアミノ酸配列を有するペプチドを含む。
【0054】
実質的に任意の標的抗原に対するモノクローナル抗体を調製する技術は、当業者に周知である。例えばKohler and Milstein、Nature 256:495頁(1975年)及びColiganら(編)、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、第1巻、2.5.1~2.6.7頁(John Wiley & Sons 1991年)を参照のこと。簡潔には、モノクローナル抗体は、抗原を含む組成物をマウス又はニワトリに注射し、脾臓を取り出してBリンパ球を得、Bリンパ球を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、ハイブリドーマをクローニングし、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択し、抗原に対する抗体を産生するクローンを培養し、ハイブリドーマ培養物から抗体を単離することによって得ることができる。別の例において、抗体を調製するファージディスプレイ技術も当業者に公知である。抗体ライブラリのファージディスプレイは、免疫応答を研究する方法と所望の抗体を迅速に選択し、進化させる方法の両方で強力になっている。この技術は、バイオパニングとして公知のスクリーニング過程におけるファージディスプレイライブラリの利用に依存する(George K.ら、Affinity Chromatography 195~208頁)。
【0055】
様々な技術、例えばキメラ又はヒト化抗体の作製は、抗体クローニング及び構築の手順を含む場合がある。目的の抗体の抗原結合可変軽鎖及び可変重鎖配列は、様々な分子クローニング手順、例えばRT-PCR、5'-RACE及びcDNAライブラリスクリーニングによって得られ得る。マウス抗体を発現する細胞由来の抗体の可変重鎖又は軽鎖配列遺伝子は、PCR増幅によってクローニングされ、配列決定され得る。それらの確実性を確認するために、クローニングされたVL及びVH遺伝子は、Orlandiら(Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、86:3833頁(1989年))に記載されるようにキメラ抗体として細胞培養において発現され得る。可変重鎖又は軽鎖遺伝子配列に基づいて、Leungら(Mol. Immunol. 32:1413頁(1995年))に記載されるように、ヒト化抗体が、次いで設計され、構築され得る。
【0056】
キメラ抗体は、例えば、ヒト抗体の可変領域がマウス抗体の相補性決定領域(CDR)を含めたマウス抗体の可変領域によって置き換えられた組換えタンパク質である。キメラ抗体は、対象に投与した際に免疫原性の低下及び安定性の増大を呈する。キメラ抗体を構築する方法は当業者に周知である(例えば、Leungら、1994年、Hybridoma 13:469頁)。
【0057】
キメラモノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重及び軽可変鎖由来のマウスCDRをヒト抗体の対応する可変ドメインに移すことによってヒト化され得る。キメラモノクローナル抗体内のマウスフレームワーク領域(FR)も、ヒトFR配列で置き換えられる。ヒト化モノクローナルの安定性及び抗原特異性を保存するために、1つ以上ヒトFR残基が、マウスの対応する残基によって置き換えられてもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、対象の治療的処置に使用され得る。ヒト化モノクローナル抗体の作製の技術は、当業者に周知である。(例えば、Jonesら、1986年、Nature、321:522頁;Riechmannら、Nature、1988年、332:323頁;Verhoeyenら、1988年、Science、239:1534頁;Carterら、1992年、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA、89:4285頁;Sandhu、Crit. Rev. Biotech.、1992年、12:437頁;Tempestら、1991年、Biotechnology 9:266頁;Singerら、J. Immun.、1993年、150:2844頁を参照のこと)。
【0058】
生物学的活性を減弱させることなく本明細書に記載されるポリペプチドをコードしている核酸に改変を作ることができる。一部の改変は、クローニング、発現又は融合タンパク質への標的化分子の組み込みを容易にするために行われ得る。そのような改変は当業者に周知であり、例えば、終止コドン、アミノ末端で付加されて開始部位をもたらすメチオニン、いずれかの終点に配置されて都合よく位置する制限部位を作成するさらなるアミノ酸又は精製工程に役立つさらなるアミノ酸(例えばポリHis)を含む。組換え方法に加えて、本開示の抗体は、当業者に周知の標準的なペプチド合成を使用して全体又は部分で構築され得る。
【0059】
二本鎖抗体の精製プロトコルに対する改変として、重鎖及び軽鎖領域は、別々に可溶化され、還元され、リフォールディング溶液中で次いで組み合わせられる。これら2つのタンパク質は、一方のタンパク質が他方に対して5倍のモル過剰を越えないようなモル比で混合される場合に典型的な収量が得られる。レドックスシャフリングが完了した後、過剰な酸化グルタチオン又は他の酸化低分子量化合物がリフォールディング溶液に添加され得る。
【0060】
組換え方法に加えて、本明細書に開示される抗体及びそのバリアントも、標準的なペプチド合成を使用して全体又は部分で構築され得る。ポリペプチドの固相合成は、配列のC末端アミノ酸を不溶性の支持体に結合させ、続いて配列中の残りのアミノ酸を順次付加することによって達成され得る。固相合成の技術は、Barany & Merrifield、The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology.、第2巻:Special Methods in Peptide Synthesis, Part A. 3~284頁;Merrifieldら、J. Am. Chem. Soc. 85:2149~2156頁、1963年及びStewartら、Solid Phase Peptide Synthesis、第2版、Pierce Chem. Co.、Rockford、Ill. 1984年に記載されている。より大きな長さのタンパク質は、より短い断片のアミノ及びカルボキシル末端の縮合によって合成され得る。
【0061】
抗体組成物、抗体を発現する細胞及び投与の方法
特定の実施形態は、本開示の抗体又はその抗原結合部分を発現する細胞に関する。細胞は、培地中で抗体若しくはその抗原結合部分をコードしているポリヌクレオチドを培養して本開示の抗体又はその抗原結合部分を発現させ、培地から本開示の抗体又はその抗原結合部分を採取することによって作製され得る。別法として、細胞は、抗体を発現するウイルスベクターでトランスフェクトされることによって作製され得る。
【0062】
特定の実施形態は、本開示のCAIXに対する抗体又は本開示の抗体若しくはその抗原結合部分を発現する細胞及び薬学的に許容可能な担体若しくは賦形剤を含む医薬組成物に関する。「薬学的に許容可能な担体」は、それだけには限らないが、当該技術に熟達した者に公知の任意の型の非毒性の固体、半固体若しくは液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤補助剤を意図する。希釈剤、例えば多価アルコール、ポリエチレングリコール及びデキストランを使用してコンジュゲートの生物学的半減期を増大させることができる。
【0063】
本開示の医薬組成物は、従来の方法(例えばRemington's Pharmaceutical Science、最新版、Mark Publishing Company、Easton、U.S.A.)にしたがって処方され得、薬学的に許容可能な担体及び添加剤も含有し得る。例には、界面活性剤、賦形剤、着色剤、香味剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁化剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤及び矯味剤があるが、これに限定されず、他の一般的に使用される担体が適切に使用され得る。担体の特定の例には、軽質無水ケイ酸、ラクトース、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノ酢酸、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、サッカロース、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類、等がある。
【0064】
特定の実施形態は、対象に本開示の抗CAIX抗体又は本開示の抗体若しくはその抗原結合部分を発現する細胞を投与する工程を含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法を対象とする。本方法は、他の標準的な療法と同時に又は逐次に本開示の抗CAIX抗体又は本開示の抗体若しくはその抗原結合部分を発現する細胞を投与する工程も含む。
【0065】
特定の実施形態は、細胞内で本開示の抗体又はその抗原結合部分をin vitroにて発現させる工程と、対象に細胞を投与する工程とを含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法を対象とする。
【0066】
好ましい実施形態において、対象は哺乳動物である。典型的な哺乳動物には、ヒト、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、等がある。抗体又はその医薬組成物で処置され得るがんには、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍があるが、これに限定されない。そのようながんのより具体的な例には、扁平上皮がん(例えば、上皮扁平上皮がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含めた肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がんを含めた胃部若しくは胃がん、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、尿路のがん、肝細胞腫、乳がん、大腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜若しくは子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓若しくは腎部がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌、肛門癌、陰茎癌、黒色腫、多発性骨髄腫及びB細胞リンパ腫、脳及び頭頸部がん並びに関連する転移がある。一部の実施形態において、がんは肺がん又は肺腺癌である。
【0067】
本明細書に開示される抗CAIX抗体若しくは細胞又はその医薬組成物は、静脈内、局所、腹膜内、動脈内、硬膜下腔内、膀胱内又は腫瘍内に投与され得る。当業者は、がんに対する抗体又はその組成物の有効量が経験的に決定され得ると認識することになる。ヒト患者に投与される場合、抗CAIX抗体又はその組成物の1日の総使用量が、正しい医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることになることは理解されよう。任意の特定の患者に対する特定の治療上有効な用量レベルは、様々な因子:達成すべき細胞性応答の型及び程度;利用される特定の抗CAIX抗体若しくはその組成物の活性;患者の年齢、体重、全体的な健康、性別及び食習慣;投与の時間、投与経路及び抗CAIX抗体若しくはその組成物の排出速度;処置の持続期間;抗CAIX抗体若しくはその組成物と組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学当業者に周知の因子等によって決まることになる。
【0068】
上で同定した組成物及び処置の方法のそれぞれは、さらなる抗がん薬及びさらなる1つ以上の抗がん薬の投与をさらに含んでもよい。処置の方法において、本開示の抗CAIX抗体又は本開示の細胞は、さらなる1つ以上の抗がん薬と同時に、逐次又は別々に投与され得る。
【0069】
以下、本発明の実施形態を示す。
[1]アミノ酸配列:
又は、
配列番号32及び配列番号33のアミノ酸配列
を有するCAIXのエピトープを含む抗原性ペプチド。
[2][1]に記載の抗原性ペプチド及び任意で薬学的に許容可能なアジュバントを含む免疫原性組成物。
[3][1]に記載のエピトープと特異的に結合する抗体。
[4]単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分であって、前記単離された抗体又はその抗原結合部分がCAIXに結合するように、
配列番号1、4若しくは6の軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)又はそのバリアント;配列番号2、5若しくは7の軽鎖CDR2(L-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号3若しくは8の軽鎖CDR3(L-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つ、並びに
配列番号9、12、15若しくは18の重鎖CDR1(H-CDR1)又はそのバリアント;配列番号10、13、16若しくは19の重鎖CDR2(H-CDR2)又はそのバリアント;及び配列番号11、14、17若しくは20の重鎖CDR3(H-CDR3)又はそのバリアント;のうちの少なくとも1つ
を含む、単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[5]モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはヒト抗体である、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[6]ヒト抗体配列の定常領域並びに1つ以上の重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域を含む、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体。
[7]前記フレームワーク領域に最高10個のアミノ酸置換を含む、[6]に記載の単離された抗CAIX抗体。
[8]アバスチンのフレームワーク領域を含む、[6]に記載の単離された抗CAIX抗体。
[9]前記フレームワーク領域が、配列番号34~37から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR1、配列番号38~40から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR2、配列番号41~43から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR3、及び配列番号44~45から選択されるアミノ酸配列を有するL-FR4、並びに配列番号46~52から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR1、配列番号53~56から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR2、配列番号57~62から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR3、及び配列番号63~65から選択されるアミノ酸配列を有するH-FR4を含む、[6]に記載の単離された抗CAIX抗体。
[10]配列番号21~23からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[11]配列番号24~28からなる群から選択される配列を有するアミノ酸配列を含む重鎖を含む、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[12](i)配列番号21~23からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖又は配列番号21~23のいずれかと少なくとも80%同一であるバリアント、及び(ii)配列番号24~28からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する重鎖又は配列番号24~28のいずれかと少なくとも80%同一であるバリアントを含む、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[13]配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号26に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する重鎖;又は配列番号21に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む、[4]に記載の単離された抗CAIX抗体又はその抗原結合部分。
[14]前記抗原結合部分が、Fab、F(ab')
2
、Fd、Fv、dAb又はscFvである、[1]から[13]のいずれか一に記載の単離された抗CAIX抗体。
[15]CAIXと結合する一本鎖可変断片(scFv)であって、a)配列番号21~23からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖の軽鎖可変領域;b)リンカー;及びc)配列番号24~28からなる群から選択される配列に記載のアミノ酸配列を有する重鎖の重鎖可変領域を含む、一本鎖可変断片(scFv)。
[16]前記リンカーがペプチドリンカーである、[15]に記載のscFv。
[17]前記リンカーが4~20アミノ酸を含む、[15]に記載のscFv。
[18]前記リンカーが、配列番号29、30又は31のアミノ酸配列を有するペプチドを含む、[15]に記載のscFv。
[19][4]から[18]のいずれか一に記載の抗体又はその抗原結合部分及び薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
[20]1つ以上のさらなる抗がん薬をさらに含む、[19]に記載の医薬組成物。
[21]対象に[4]から[18]のいずれか一に記載の抗体若しくはその抗原結合部分を投与する工程を含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法。
[22]前記がんが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍である、[21]に記載の方法。
[23]前記がんが、扁平上皮がん(例えば、上皮扁平上皮がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含めた肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がんを含めた胃部若しくは胃がん、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、尿路のがん、肝細胞腫、乳がん、大腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜若しくは子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓若しくは腎部がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌、肛門癌、陰茎癌、黒色腫、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、脳がん、頭頸部がん、又はその関連する転移である、[21]に記載の方法。
[24]前記がんが肺がん又は肺腺癌である、[21]に記載の方法。
[25][1]から[11]のいずれか一に記載の抗体若しくはその抗原結合部分と同時に、逐次又は別々に1つ以上のさらなる抗がん薬を投与する工程をさらに含む、[21]に記載の方法。
[26][4]から[18]のいずれか一に記載の抗体又はその抗原結合部分を発現する細胞。
[27][16]に記載の細胞及び薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
[28]対象に[26]に記載の細胞又は[27]に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法。
[29]対象に、1つ以上のさらなる抗がん薬と同時に、逐次又は別々に[26]に記載の細胞若しくは[27]に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法。
[30]細胞内で[4]から[18]のいずれか一に記載の抗体又はその抗原結合部分をin vitroにて発現させる工程と、対象に前記細胞を投与する工程とを含む、対象におけるがんを予防及び/又は処置する方法。
以下の実施例は、本開示の特定の態様を例示するために提供されるものであり、本開示を限定するものと決して解釈されるべきでない。
【実施例】
【0070】
材料及び方法
組換えCAIXタンパク質の発現及び精製
簡潔には、CAIX遺伝子をpET-21a(+)及びpET-32a(+)プラスミドに構築し、得られたベクターを大腸菌(E.coli)BL21細胞に形質転換した。単一コロニーからの細菌培養物を、アンピシリン(50μg/ml)を含有する5ml LB培地中で、37℃で終夜増殖させ、同じLB培地中で100倍に希釈し、OD600が0.4~0.8に達するまでさらに増殖させた。CAIXタンパク質の発現を誘導するために、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を、培養中で0.5mMの最終濃度になるよう添加した。細胞ペレットをHis結合緩衝液に再懸濁し、超音波処理によって溶解した。遠心分離後、得られた細胞溶解物を製造業者(GE Healthcare、IL、USA)の指示にしたがってNi2+セファロースとインキュベートして、組換えCAIX融合タンパク質を精製した。
【0071】
動物の免疫化
雌の白色レグホーン(ニワトリ(Gallus domesticus))ニワトリを筋肉注射によって0.5mlフロイント完全アジュバント(Sigma、USA)中の精製したhis-CAIX 60μgで免疫化した。フロイント不完全アジュバント中のhis-CAIXによるさらなる5回の免疫化を、7日間間隔で実行した。各免疫化後、卵黄中のポリクローナルIgY抗体を部分的に精製し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって滴定して体液性の抗CAIX免疫応答の存在を決定した。IgY抗体を、10%デキストラン硫酸を使用して卵黄から精製した。精製したIgY抗体を、0.05%アジ化ナトリウムを含有するTBS 5mlに溶解し、-20℃で貯蔵した。
【0072】
scFv抗体ライブラリの構築及びパニング
抗体ライブラリを、報告されている技術及び方法に基づいて確立した(Leeら、Appl Environ Microbiol.、82 (23): 6973~6982頁、2016年)。簡潔には、最終的な免疫化後のニワトリから採取した脾臓をTrizol(Invitrogen、CA、USA)に直ちに入れて均質化した。全RNA 20μgを、SuperScript RTキット(Invitrogen、USA)を使用して第1鎖cDNAに逆転写した。ニワトリ特異的プライマーを使用して増幅した後、重鎖及び軽鎖可変領域(VH及びVL)のPCR産物を第2回のPCRに供して短いリンカー(例えば配列番号29)又は長いリンカー(配列番号30又は31)を持つ全長scFv断片を形成し、それをさらにSfiIで消化し、pComb3Xベクターにクローニングした。組換えファージDNAはエレクトロポレーション(Bio-Rad製MicroPulser)によって大腸菌ER2738系統へと形質転換された。組換えファージの作製を、野生型VCS-M13ヘルパーファージの添加によって開始し、組換えファージをその後4%ポリエチレングリコール8000(Sigma、MO、USA)及び3% NaCl(w/v)で沈殿させ、最終的に1×リン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。次いで、scFv抗体ライブラリ中の1010~1011プラーク形成単位(pfu)の組換えファージを、精製したCAIXタンパク質(0.25μg/ウェル)でプレコートしたウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。結合していないファージを除去した後、結合しているファージをHis溶出緩衝液(pH=2.2)で溶出させ、2Mトリス塩基緩衝液(pH=9.1)で中和し、それを使用して大腸菌ER2738系統を感染させた。増幅されたファージを沈殿させ、次回の選択のために上述の通り回収した。4回目のバイオパニング後、大腸菌ER2738の全ファージミドDNAを精製した。無作為に選択したクローンのパネルを終夜培養し、1mM MgCl2及びアンピシリン(50μg/ml)を含有するスーパーブロス中で100倍に希釈し、さらに8時間増殖させた。1mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)で終夜誘導した後、細菌を遠心分離によって採取し、ヒスチジン(His)結合緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMリン酸ナトリウム、6M尿素、pH7.4)に再懸濁し、超音波処理によって溶解させた。scFv抗体を製造業者の指示にしたがってNi2+荷電セファロース(GE Healthcare Bio-Sciences AB、Sweden)を使用して精製した。
【0073】
ウェスタンブロッティング
精製した組換えCAIXタンパク質又は細胞溶解物をSDS-PAGE分析に供し、ニトロセルロース膜(Amersham Biosciences、UK)へ転写した。TBST中の5%スキムミルクで1時間ブロッキングした後、5回目の免疫化後のニワトリからの抗CAIX IgY(1:5000~8000)又は抗CAIX scFv抗体を含有する細菌上清(1:10)若しくは精製した抗CAIX scFv抗体(10μg/ml)を添加し、室温で1時間インキュベートした。強く洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートしたポリクローナルロバ抗ニワトリIgY抗体(1:10000)(Jackson ImmunoResearch、PA、USA)を添加し、さらに1時間インキュベートして結合しているIgY抗体を検出した。また、マウス抗HAタグmAb(1:3000~5000)、続いてHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウス抗体(1:5000~10000)を使用して、結合しているscFv抗体を検出した。上述の通り洗浄した後、膜をジアミノベンジジン(DAB)又はECL基質で現像した。ImageQuant LAS4500を使用してECL強度を検出した。
【0074】
ELISA及び競合ELISA
それらの結合反応性を調査するために、5回目の免疫化後のニワトリから精製した一連の希釈したIgY抗体(500~256000倍)又は抗CAIX scFv抗体の上清(1:10)若しくは精製した抗scFv抗体(1μg/ml)を、ELISAプレートウェルに固定した精製したCAIXタンパク質(0.25μg/ウェル)とインキュベートした。強く洗浄した後、結合しているIgY抗体をHRPコンジュゲートしたポリクローナルロバ抗ニワトリIgY抗体(1:10000)(Jackson ImmunoResearch、PA、USA)を添加することによって検出し、結合しているCAIX scFv抗体を、マウス抗HA mAb(1:3000~5000)、続いてHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウス(1:5000~10000)によって検出した。上述の通りの洗浄後、発色現像のためにテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液(Sigma、USA)をウェルに添加した。反応を1N HClで停止させ、光学密度を、ELISAプレートリーダー(BioTek Synergy HT)を使用して450nmで測定した。公開されたプロトコルにしたがって解離定数(Kd)を算出した(FriguetらJ. Immunol. Methods、77: 305~319頁、1985年)。
【0075】
競合ELISAの場合、CAIX断片タンパク質(200~0μg/ml)を等容量のCAIX scFv抗体(1μg/ml)と37℃で1時間又は4℃で終夜先ず混合し、精製したCAIXタンパク質でコーティングしたプレートに添加して結合特異性を検出した。結合しているCAIX scFv抗体を、マウス抗HA mAb(1:5000)、続いてHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG(1:10000)によって検出した。上述の通りの洗浄後、発色現像のためにテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液(Sigma、USA)をウェルに添加した。反応をHClで停止させ、光学密度を、ELISAプレートリーダー(BioTek Synergy HT)を使用して450nmで測定した。ELISA試験を各試料について二連でウェルにおいて実施した。ELISAデータを二連の実験の平均±SDとして示した。
【0076】
[実施例1]
精製した抗CAIX scFv(NAVICA9S1、NAVICA9S2、NAVICA9L1、NAVICA9L2及びNAVICA9L3)及び組換えCAIXタンパク質の分析
SDS-PAGEをクマシー青色染料で染色し、以下に示した。NAVICA9S1(レーン1)、NAVICA9S2(レーン2)、NAVICA9L1(レーン3)、NAVICA9L2(レーン4)及びNAVICA9L3(レーン5)を上述の方法にしたがって精製した(
図1(A))。組換えCAIXタンパク質(ECD)及びF3も精製し、
図1(B)に示した。
図1(C)は、CAIXの全長、細胞外ドメイン(ECD)、断片1(F1)、断片2(F2)及び断片3(F3)を示す。
【0077】
[実施例2]
ウェスタンブロット法によって分析した抗CAIX scFvの結合能力
組換えCAIX ECD(レーン1)、F3断片(レーン2)及びA549細胞溶解物(レーン3)をSDS-PAGE上で可視化した(
図2A)。したがって、二連でSDS-PAGE上の同量のタンパク質をニトロセルロース膜(NC)に転写した。1時間ブロッキングした後、マウス抗CAIX IgG(1:2000)(ab107257)又はニワトリ抗CAIX IgY(1:5000)を一次抗体としてNCに添加した。1時間の反応後、NCをPBSTで3回洗浄した。洗浄後、HRPコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG(1:10000)又はHRPコンジュゲートしたロバ抗IgY(1:10000)をNCに添加した。1時間の反応後、NCをPBSTで洗浄し、ECL溶液とインキュベートした。同様に、抗CAIX scFvモノクローナル抗体(10μl/ml)を一次抗体としてNCに添加した。次いで、マウス抗HA IgG及びHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgGを二次及び三次抗体として順次添加した。ECLとインキュベートした後、結合活性を検出し、
図2に示した。
【0078】
[実施例3]
ELISAによって分析した抗CAIX scFvの結合能力
組換えCAIX-FL、ECD、ECD、F2及びF3(pET32a又はpET21aのいずれかにおいて発現させた)を濃度0.25μg/ウェルで96ハーフウェルELISAプレートに結合させた。1時間のインキュベーション後、結合していないタンパク質を除去し、5% PBSミルクを添加してブロッキングした。1時間の反応後、PBSミルクを除去し、抗CAIX抗体(1μg/ml)のそれぞれを添加した。PBSTで洗浄した後、マウス抗HA IgG(1:5000)及びHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG(1:10000)をプレートに順次添加した。次いで、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)を発色現像のために添加し、それをHClによって停止させ、ELISAプレートリーダーを使用して検出した。結果を、
図3に示した。
【0079】
[実施例4]
エピトープマッピング
CAIXタンパク質上の抗原性エピトープを定義するために、精製した抗CAIX抗体を組換えCAIX断片に対する結合について調査した。結果は、NAVICA9S1、NAVICA9S2及びNAVICA9L3が、CAIX FL、ECD、F2及びF3断片を認識することを示し、エピトープがアミノ酸残基228~353に位置することが示唆された。クローンNAVICA9L2はCAIX FL及びECDを認識したが、F2及びF3断片を認識せず、エピトープがアミノ酸38~153に位置することが示唆された。
【0080】
[実施例5]
競合ELISAによる抗CAIX scFvの推定解離定数
抗CAIX scFvの結合親和性を決定するために競合ELISAを実行した。2倍段階希釈のCAIX ECD断片タンパク質(100~13μg/ml)を抗CAIX scFv(NAVICA9S1:0.62μg/ml、NAVICA9S2:0.32μg/ml、NAVICA9L2:0.16μg/ml、NAVICA9L3:0.32μg/ml)と1:1の容積比で、室温で1時間プレインキュベートした。混合物を、CAIX ECD断片タンパク質(0.25又は0.5μg/ウェル)でコーティングしたELISAプレートに次いで添加した。1時間のインキュベーション後、マウス抗HA IgG (1:5000)及びHRPコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG (1:10000)を二次及び三次抗体として添加した。インキュベーション及び洗浄後、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)を発色現像のために添加し、それをHClによって停止させ、ELISAプレートリーダーを使用して検出した。scFvのKd値を推定し、Friguetら(J. Immunol. Methods、77:305~319頁、1985年)によって記載されるようにモル濃度(M)で表した。N/A:利用不可。抗CAIXモノクローナルscFvの解離定数を以下の表1に示す。
【0081】
【0082】
[実施例6]
フローサイトメトリーアッセイ
抗CAIX scFv及び抗CAIX(abcam、ab107257)を2×10
5個のA549細胞(CAIX+)又はTHP-1細胞(CAIX-)と4℃で20分間インキュベートした。マウス抗HA IgG及びPEコンジュゲートした抗マウスIgGを二次及び三次抗体として添加し;またPEコンジュゲートした抗マウスIgGを抗CAIX抗体(abcam、ab107257)の二次抗体として添加した。洗浄後、細胞をフローサイトメトリーアッセイに供し、結果を
図5に示す。
【配列表】