(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】加工装置および加工終了検出方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20240326BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240326BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2022514197
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035253
(87)【国際公開番号】W WO2023047560
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2022-05-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】菊地 牧子
【審判官】渋谷 善弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-189885(JP,A)
【文献】特開平2-205283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置であって、
被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させる送り機構と、
被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光する受光部と、
受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、
検出した光強度
の変化にもとづいて、加工が終了したことを検出する制御部と、を備え
、
前記制御部は、検出した光強度が増加しなくなると、加工が終了したことを検出する、
ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記送り機構が、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡で複数回相対移動させて、被加工材を加工するとき、前記制御部は、前回の加工時に検出した各加工位置における光強度と、今回の加工時に検出した各加工位置における光強度とが等しくなると、加工が終了したことを検出する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記送り機構が、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡で1回相対移動させて、被加工材を加工するとき、前記制御部は、各加工位置における光強度が所定の閾値Ith以上であることを条件に、前記送り機構を制御して、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させる、
ことを特徴とする請求項
1に記載の加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、レーザ光による加工中に前記強度検出部が検出した光強度が所定の閾値Ith以上になると、加工が終了したことを検出し、
閾値Ithは、レーザ光が被加工材を照射しないときに前記強度検出部が検出した光強度I0に1未満の値αを乗算して求められる、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の加工装置。
【請求項5】
レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置において、加工が終了したことを検出する方法であって、
被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させるステップと、
被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光するステップと、
受光したレーザ光の強度を検出するステップと、
検出した光強度
が増加しなくなると、加工が終了したことを検出するステップと、
を有する加工終了検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を利用した加工の終了を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を利用した加工法として、パルスレーザ光を集光し、集束箇所を含む筒状の照射領域を被加工材の表面上で走査して面加工するパルスレーザ研削が知られている。特許文献1は、パルスレーザ光において筒状に延び且つ加工可能なエネルギをもつ照射領域を加工対象物の表面側の部位に重ね、加工可能な速度で走査することで、加工対象物の表面領域を除去する方法を開示する。非特許文献1は、パルスレーザ研削により工具母材の逃げ面を2方向に加工して、V字形状の切れ刃を形成する技術を開示する。
【0003】
図1(a)および(b)は、非特許文献1に記載された、パルスレーザ研削によりダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を示す図である。
図1(a)は、すくい面側をパルスレーザ研削する様子を示し、
図1(b)は、逃げ面側を2方向にパルスレーザ研削する様子を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hiroshi Saito, Hongjin Jung, Eiji Shamoto, Shinya Suganuma, and Fumihiro Itoigawa;「Mirror Surface Machining of Steel by Elliptical Vibration Cutting with Diamond-Coated Tools Sharpened by Pulse Laser Grinding」, International Journal of Automation Technology, Vol.12, No.4, pp.573-581(2018年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルスレーザ研削による工具刃先の鋭利化プロセスでは、工具刃先に対してレーザ光をわずかに切り込ませ、その状態で刃先稜線に沿った送り運動をレーザ光と工具刃先の間に繰り返し与える。同じ送り運動による2回目以降の加工は「ゼロカット」と呼ばれる。
【0007】
刃先鋭利化プロセスにおいて、ゼロカットの必要な繰り返し回数は不明である。そのため現状では、ゼロカットを、経験から推測される回数以上実施するか、または作業者が目視またはカメラの撮影画像を利用して加工終了を確認するまで複数回実施している。前者の手法は、不必要なゼロカットを実施する可能性があるため効率的ではなく、後者の手法は、自動化に適さない。そこでパルスレーザ研削による加工を終了したことを検出する技術の開発が望まれている。なおパルスレーザ研削による加工終了の検出技術は、工具刃先の鋭利化プロセスのみならず、他の種類の加工プロセスにおいても有用である。
【0008】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの1つは、レーザ光を利用した加工の終了を検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の加工装置は、レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置であって、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、加工が終了したことを検出する制御部と、を備える。
【0010】
本開示の別の態様の方法は、レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置において、加工が終了したことを検出する方法であって、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させるステップと、被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、加工が終了したことを検出するステップと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を示す図である。
【
図2】パルスレーザ研削を説明するための図である。
【
図4】レーザ加工装置における加工終了検出処理を説明するための図である。
【
図5】(a)は送り量の時間変化を示す図であり、(b)は光強度の時間変化を示す図である
【
図6】刃先の鋭利化を行うパルスレーザ研削の様子を示す図である。
【
図7】刃先鋭利化プロセスにおいて検出される光強度と加工位置の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2は、パルスレーザ研削を説明するための図である。パルスレーザ研削に利用されるレーザ光2は、その光軸に垂直な断面で見ると、ガウシアン分布に近い光強度分布を有する。レーザ光2は被加工材20付近で集束し、その焦点位置における高いエネルギ密度を有する領域が被加工材20に照射されると、被加工材20が溶融、蒸発により除去される。
【0013】
焦点位置において光軸方向に延び且つ加工可能なエネルギをもつ略円筒状の領域を「筒状加工領域」と呼ぶと、パルスレーザ研削では、レーザ光2の集束箇所を含む筒状加工領域を被加工材20の表面に重ねて、その光軸と交差する方向へ走査することで、筒状加工領域を照射した被加工材20の表面領域を除去する。パルスレーザ研削は、被加工材20の表面に、光軸方向および走査方向に平行な面を成形する。なお、筒状加工領域の外側に位置する周辺領域のエネルギ密度は、被加工材20の表面領域を除去するには十分でなく、周辺領域が被加工材20に照射されても、被加工材20は加工されない。筒状加工領域と、その周辺領域の境界は、被加工材20の材料と、レーザ光2の諸元に依存する。
【0014】
従来のレーザ加工では、レーザ光の全てが被加工材の表面に照射されるが、パルスレーザ研削加工では、レーザ光2の一部のみが被加工材20の表面に斜入射され、それ以外の大部分は被加工材20を通過する。つまり、レーザ光2のエネルギの一部のみが被加工材20の除去に利用され、それ以外の大半のエネルギは被加工材20の加工に利用されない。実施形態では、被加工材20の加工に利用されずに通過したレーザ光2を利用して、レーザ光2を利用した加工が終了したことを検出する技術を提案する。
【0015】
図3は、パルスレーザ研削を行うレーザ加工装置1の概略構成を示す。レーザ加工装置1は、レーザ光2を出射するレーザ光照射部10、被加工材20を支持する支持装置14、被加工材20に対するレーザ光照射部10の相対的な移動を可能とする変位機構11、変位機構11による相対的な移動を実現するためのアクチュエータ12、およびレーザ加工装置1の全体の動作を制御する制御部13を備える。変位機構11およびアクチュエータ12は、被加工材20をレーザ光2の筒状加工領域に対して相対移動させる送り機構を構成する。実施形態において被加工材20は切削工具であって、レーザ加工装置1は、切削工具の刃先を鋭利化するパルスレーザ研削を行うが、被加工材20は他の種類の被削材であってよい。
【0016】
レーザ光照射部10は、レーザ光を発生するレーザ発振器、レーザ光の出力を調整する減衰器、レーザ光の向きを変えるミラーなどを備え、これらを経たレーザ光2が光学レンズ経由で集光され、出射されるように構成される。たとえばレーザ発振器は、Nd:YAGパルスレーザ光を発生してよい。
【0017】
実施形態の送り機構は、被加工材20に対するレーザ光照射部10の相対的な位置を変化させるものであって、相対的な姿勢を変化させるための機構も有してよい。アクチュエータ12は、制御部13からの指令に応じて変位機構11を駆動し、これにより被加工材20に対するレーザ光照射部10の相対位置、さらに必要に応じて相対姿勢を変化させる。なお
図3に示すレーザ加工装置1では、変位機構11がレーザ光照射部10の位置、さらに必要に応じて姿勢を変化させるが、レーザ光照射部10を固定することが好ましい場合は、支持装置14の位置、さらに必要に応じて姿勢を変化させてよい。いずれにしても送り機構は、被加工材20を、レーザ光2の筒状加工領域に対して相対的に移動させ、また必要に応じて相対的に姿勢変化させるための機構を有する。
【0018】
実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光照射部10より出射されたレーザ光を受光する受光部16を備える。受光部16はレーザ光照射口に対向した受光面を備え、レーザ光照射口から所定距離だけ離れた位置に配置される。送り機構によってレーザ光照射部10が動かされる場合、受光部16はレーザ光照射部10との相対位置関係を維持しながら、レーザ光照射部10とともに動かされてよい。なお受光部16は、必ずしも全てのレーザ光を受光する必要はなく、スプリッタやアッテネータを用いて光強度を一定の割合で減少させた後に受光してもよい。
【0019】
パルスレーザ研削は被加工材20の表面に、レーザ光2の光軸方向および走査方向に平行な面を成形する加工法であるため、レーザ光2の一部のみが被加工材20の材料除去に利用され、レーザ光2の大部分は被加工材20の加工に利用されずに通過する。実施形態の受光部16はレーザ光照射口に対向して配置されて、被加工材20の加工に利用されずに被加工材20を通過したレーザ光2を受光する。強度検出部18は、受光部16が受光したレーザ光の強度を検出する。受光部16および強度検出部18は、別体として設けられてよいが、一体として設けられてもよい。
【0020】
実施形態のレーザ加工装置1はパルスレーザ研削を実施するため、受光部16は、非常に短いパルス周期で点滅するレーザ光2を受光する。強度検出部18は、受光部16が受光したレーザ光2をパルス周期以上の期間で評価した光強度を検出してよい。たとえば強度検出部18は、パルスの1周期またはそれ以上の期間の光強度を平均した時間平均値を検出してよく、または各パルス周期内のピーク値を検出してもよい。
【0021】
パルスレーザ研削に利用されるレーザ光2は、被加工材20の付近で集束するように出射され、被加工材20の付近で最も高いエネルギ密度をもつ。受光部16の破損および劣化を防ぐため、受光部16は、集束箇所を含む筒状加工領域から、ある程度離れた位置に設置されることが好ましい。たとえばレーザ光照射部10のレーザ光を集光する光学レンズから被加工材20までの距離Lに対して、被加工材20から受光部16までの距離は、L以上に設定されることが好ましい。
【0022】
実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光2による加工の終了を検出する機能をもつ。
図4(a)~(d)は、レーザ加工装置1における加工終了検出処理を説明するための図である。
図4(a)~(d)は、送り機構がレーザ光2を被加工材20に切り込む方向(近づける方向)に移動させる様子を示すが、送り機構が被加工材20をレーザ光2に近づける方向に移動させてもよい。ここでは送り方向をx軸正方向とし、送り速度vを一定とする。
【0023】
図4(a)は、レーザ光2の光軸中心のx座標が初期位置x
0にある状態を示す。この状態から、送り機構がレーザ光2を切込み方向に一定速度vで動かす。上記したように実線円で囲まれる筒状加工領域は、加工可能なエネルギ密度を有し、筒状加工領域の外側であって点線円で囲まれる周辺領域は、加工可能なエネルギ密度を有しない。
【0024】
図4(b)は、レーザ光2の周辺領域の最外周部分が被加工材20に当たった瞬間の状態を示す。このときのレーザ光軸中心のx座標はx
1である。なお周辺領域が被加工材20を照射しても、周辺領域のエネルギ密度は低いため、被加工材20は加工されず、照射されたレーザ光2(周辺領域)は被加工材20の表面を加熱し、部分的に反射、散乱する。
【0025】
図4(c)は、レーザ光2の筒状加工領域の最外周部分が被加工材20に当たった瞬間、すなわち切り込み始めた瞬間の状態を示す。このときのレーザ光軸中心のx座標はx
2である。送り機構が引き続きレーザ光2を一定速度vで動かすと、被加工材20を照射する筒状加工領域の面積が徐々に増加する。
【0026】
図4(d)は、レーザ光2の筒状加工領域の一部が被加工材20を照射しているときの状態を示す。このときのレーザ光軸中心のx座標はx
3であり、この位置で送り機構はレーザ光2の送り運動を停止する。
【0027】
図5(a)は、送り量の時間変化を示す。
図5(a)には、時間t
0から時間t
3までの間、光軸中心がx
0からx
3まで一定速度vで動かされて、その後移動を停止されたレーザ光2の送り運動が示される。なお正確には、等速運動の開始時および終了時に、短い加減速期間が存在するが、
図5(a)において、その図示は省略している。
【0028】
図5(b)は、強度検出部18が検出する光強度の時間変化を示す。光強度の初期値I
0は、レーザ光2が被加工材20を照射しないときに強度検出部18が検出する光強度である。上記したように実施形態の強度検出部18は、受光部16が受光したレーザ光2をパルス周期以上の期間で評価した光強度を検出する。したがって初期値I
0は、レーザ光2が被加工材20を照射しないときに、受光部16が受光したレーザ光2をパルス周期以上の期間で評価した値である。実施形態の制御部13は、強度検出部18が検出する光強度を監視し、検出した光強度にもとづいて、加工が終了したことを検出する機能を有する。
【0029】
図4(a)および(b)に示されるように、光軸中心がx
0からx
1まで移動する間(つまり時間t
0から時間t
1までの間)、レーザ光2は被加工材20を照射しないため、強度検出部18が検出する光強度は、基準値である初期値I
0から変化しない。制御部13は、光強度が初期値I
0で一定である場合に、レーザ光2が被加工材20を照射していないことを判定する。
【0030】
時間t
1から時間t
2までの間、レーザ光2の周辺領域が被加工材20を照射し、被加工材20の表面を溶融、蒸発させない程度に加熱し、部分的に反射、散乱する。このとき受光部16の受光面が十分に広く、反射光、散乱光の多くを受光できれば、強度検出部18が検出する光強度が初期値I
0から減少する量は小さくなるが、受光部16が反射光、散乱光の多くを受光できなければ、強度検出部18が検出する光強度は、初期値I
0からより大きく低下する。
図5(b)において、光軸中心がx
1からx
2まで移動する間(つまり時間t
1から時間t
2までの間)、レーザ光2の周辺領域の一部が吸収されて被加工材20の加熱に利用され、また受光部16が反射光、散乱光の一部または全部を受光しないことで、強度検出部18が検出する光強度が、初期値I
0から徐々に減少している。
【0031】
時間t2でレーザ光2の筒状加工領域が被加工材20に切り込み始めると、被加工材20に切り込んだ(入り込んだ)レーザ光のエネルギは被加工材20の加工に利用され、強度検出部18が検出する光強度の減少量はさらに大きくなる。制御部13は、強度検出部18が検出した光強度の減少量が大きくなるタイミングで、レーザ光照射部10から出射されるレーザ光2が被加工材20に切り込み始めたことを判定してよい。この例では時間t2のタイミングで、つまりは光軸中心のx座標がx2になったときに、制御部13は、筒状加工領域の最外周部分が被加工材20に切り込み始めたことを判定してよい。この判定を行うことで制御部13は、x2の座標値を基準として、その後のパルスレーザ研削の切込み量をリアルタイムで推定、監視できるようになる。
【0032】
図5(a)に示す送り運動の例では、送り機構が、レーザ光2の光軸中心をx
3まで移動して停止している。
図5(b)に示すように、時間t
2から時間t
3までの間、レーザ光2の筒状加工領域が被加工材20を照射する面積が増えることと、照射領域のエネルギ密度が高くなることで、強度検出部18が検出する光強度は減少していく。
【0033】
時間t
3でレーザ光2の送り運動が停止されると(
図4(d)に示す状態)、その後の時間の経過とともに、筒状加工領域による材料除去がレーザ光2の進行方向に進み、被加工材20を通過(貫通)するレーザ光が増加する。時間t
3から時間t
4までの間、強度検出部18が検出する光強度は増加し、時間t
4で初期値I
0に近いI
1まで復帰する。なお時間t
4以後、強度検出部18が検出する光強度はI
1から変化しない。強度検出部18が検出する光強度が変化しなくなったことは、レーザ光2の筒状加工領域により加工される被加工材20が無くなったこと(全て除去されたこと)を意味する。
【0034】
時間t1以後、被加工材20に照射されたレーザ光2の周辺領域の一部は、被加工材20の表面に吸収されて被加工材20を加熱し、また周辺領域の別の一部は、被加工材20の表面で反射、散乱して、その反射光、散乱光の多くは被加工材20を通過する。実施形態の受光部16は、吸収光、反射光、散乱光の一部または全部を受光しないため、筒状加工領域のすべてが被加工材20を貫通する時間t4以降において、強度検出部18が検出する光強度は、初期値I0より低いI1となっている。つまり光強度の初期値からの減少分(I0-I1)は、受光部16により受光されなかった吸収光、反射光、散乱光の光強度の合計に対応すると言える。
【0035】
このように、筒状加工領域による加工中、強度検出部18が検出する光強度は変化し、筒状加工領域による加工が終了すると、強度検出部18が検出する光強度は変化しなくなる。そこで実施形態の制御部13は、強度検出部18が検出した光強度の変化にもとづいて、加工が終了したことを検出してよい。具体的に制御部13は、強度検出部18が検出する光強度を監視し、増加していた光強度が変化しなくなると、つまり検出した光強度が増加しなくなると、加工が終了したことを検出してよい。
【0036】
なお制御部13は、光強度の変化にもとづくのではなく、増加する光強度の値にもとづいて、加工の終了を検出してもよい。具体的に制御部13は、レーザ光2による加工中に強度検出部18が検出した光強度が所定の閾値Ith以上になると、加工が終了したことを検出する。ここで閾値Ithは、初期値I0に1未満の値αを乗算して求められる値であってよい。つまり閾値Ithは、
Ith=α×I0
で求められる。ここでαは、被加工材20の材料とレーザ光2の諸元、被加工材20に対するレーザ光2の切込み量に依存して設定され、0.8以上、1未満の値であって、たとえば0.93~0.97の範囲内の値に設定されてよい。
【0037】
図6は、刃先の鋭利化を行うパルスレーザ研削の様子の一例を示す。
図6に示すプロセスでは、送り機構が、被加工材20である工具刃先を、レーザ光2の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡Sで複数回相対移動させて、工具刃先を加工する。具体的に送り機構は、工具刃先に対して筒状加工領域を僅かに入り込ませ、その状態で工具刃先稜線に沿った一定速度の送り運動をレーザ光2と工具刃先の間に繰り返し与えることで、刃先の鋭利化を行う。
【0038】
加工軌跡Sは、レーザ光2の光軸が通過する軌跡を表現する。刃先の鋭利化プロセスでは、筒状加工領域が、工具刃先に対して加工軌跡Sに沿って複数回送られる。なお加工送りは、毎回同じ方向に実施されてよいが(
図6に示す例では、反時計回りの方向)、反時計回りの方向または時計回りの方向に交互に実施されてもよい。送り速度は、一定の速度に設定されることが好ましい。
【0039】
加工位置S0は、反時計回り方向の加工軌跡Sの起点を示す。筒状加工領域は、加工位置S1で工具刃先に対して切り込み始め、加工位置S2から加工位置S3までの間、工具刃先に略一定量切込み、加工位置S4で工具刃先から離れて、1回の加工送りを終了する。略一定量の切込みとなる加工位置S2から加工位置S3までの加工範囲を、定常加工範囲と呼ぶ。刃先の鋭利化プロセスでは、この加工送りが複数回繰り返されて、刃先材料が徐々に加工(除去)される。
【0040】
図7は、
図6に示す刃先鋭利化プロセスにおいて検出される光強度と、加工軌跡S上の加工位置との関係を示す。光強度の初期値I
0は、レーザ光2が被加工材20を照射しないときに強度検出部18が検出する光強度である。なお
図6を参照して、S1およびS2の間隔と、S3およびS4の間隔は、S2およびS3の間隔と比べて非常に短いが、
図7においては説明の便宜上、S1およびS2の間隔とS3およびS4の間隔を、S2およびS3の間隔に対して長く表現している点に留意されたい。
【0041】
検出結果30は、1回目の加工時に強度検出部18が各加工位置で検出した光強度を示し、検出結果32は、2回目の加工時に強度検出部18が各加工位置で検出した光強度を示す。同様に検出結果34は、3回目の加工時に検出された光強度を、検出結果36は、4回目の加工時に検出された光強度を、検出結果38は、5回目の加工時に検出された光強度を、それぞれ示す。
図7において検出結果36、38は同じであり、重なっている。
【0042】
検出結果30、32、34、36を比べると、各加工位置で検出される光強度は、加工回数が増えるにつれて増加している。つまりN回目の加工時に検出される光強度は、(N-1)回目の加工時に検出される光強度よりも高い(2≦N≦4)。これは加工回数が増えるほど、刃先材料が徐々に除去されて、工具刃先を通り抜ける筒状加工領域が増加することを理由とする。
【0043】
一方、検出結果36、38を比べると、各加工位置で検出される光強度は等しい。これは筒状加工領域が照射される範囲に存在する刃先材料の全てが除去されたことを理由とし、そのため5回目以降の加工送りを繰り返しても、除去するべき刃先材料が存在しないため、無駄であることが分かる。そこで制御部13は、前回の加工時に検出した各加工位置における光強度と、今回の加工時に検出した各加工位置における光強度とが等しくなると、加工が終了したことを検出する。
【0044】
なお前回加工時と今回加工時の光強度が等しいとは、実質的に等しいとみなせる場合を含んでよい。上記したように、実施形態において強度検出部18が検出する光強度は、パルス周期以上の期間で評価した光強度であり、送り機構の運動誤差やレーザ出力変動、センサノイズなどの変動要因による影響を受ける。そのため検出される光強度には誤差が含まれている可能性があり、したがって制御部13は、前回加工時と今回加工時の光強度の差分が閾値以下である場合に、前回加工時と今回加工時の光強度が実質的に等しいと判断してよい。たとえば閾値は、初期値I0の所定割合(たとえば1%)に設定されてよく、または検出される光強度が変動している場合には、閾値が、変動の標準偏差×β(βは1以上の値)に設定されてもよい。
【0045】
制御部13は、特に、加工位置S2から加工位置S3までの定常加工範囲において、前回加工時に検出した光強度と、今回加工時に検出した光強度とが等しくなると、加工が終了したことを検出してよい。制御部13は、加工の終了を検出すると、次回の加工(ゼロカット)の不実施を決定する。このように加工の終了を検出することで、無駄なゼロカットの実施を回避でき、効率的な刃先鋭利化プロセスを実現できる。
【0046】
なお制御部13は、強度検出部18が検出した光強度の値にもとづいて、加工の終了を検出してもよい。具体的に制御部13は、レーザ光2による加工中に強度検出部18が検出した光強度が所定の閾値Ith以上となる加工範囲が所定の範囲以上になると、加工が終了したことを検出する。ここで閾値Ithは、初期値I0に1未満の値αを乗算して求められる値であってよい。つまり閾値Ithは、
Ith=α×I0
で求められる。αは、被加工材20の材料とレーザ光2の諸元、被加工材20に対するレーザ光2の切込み量に依存して設定され、0.8以上、1未満の値であって、たとえば0.93~0.97の範囲内の値に設定されてよい。
たとえば4回目の検出結果36において、加工位置S2から加工位置S3までの定常加工範囲内で検出される光強度が所定の閾値Ith以上になると、制御部13は、5回目の加工送りを実施することなく、加工の終了を検出してもよい。
【0047】
ここで
図7における1回目の加工送り時に検出される検出結果30を参照すると、光強度は、加工位置S1からS2までは単調減少し、加工位置S2からS3までは一定となり、加工位置S3からS4までは単調増加して、初期値I
0に戻る。制御部13は、検出結果30に表現される理想的な加工時の強度変化にもとづいて、パルスレーザ研削が適切に実施されているか否かを監視してよい。
【0048】
図8は、光強度の検出結果の一例を示す。
図8に示す検出結果において、定常加工範囲の一部で、光強度が増加して減少している。本来、光強度が一定となるべき範囲において光強度が増加および減少することは、工具刃先に欠損が存在していることを示す。
【0049】
図9は、光強度の検出結果の別の例を示す。
図9に示す検出結果において、定常加工範囲における光強度が単調増加している。これは、加工軌跡Sに対して工具刃先稜線が傾き、後半の切込みが不足していることを示す。
【0050】
制御部13は、各加工位置における光強度にもとづいて、パルスレーザ研削プロセスが適切に実施されているか否かを判定してよい。具体的に制御部13は、光強度が一定となるべき定常加工範囲において、光強度が一定でないことを検出すると、パルスレーザ研削プロセスが適切に実施されていないことを判定してよい。
図8および
図9に示すように、光強度の変化は、発生しているエラーを表現するため、制御部13は、検出された光強度の変化にもとづいて、加工前の刃先形状が正常か否か、あるいは工具刃先と加工軌跡Sとの間の相対位置関係が正しく設定されているか否かを判定してよい。
【0051】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0052】
実施形態では
図6に関連して、送り機構が、被加工材20である工具刃先を、レーザ光2の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡Sで複数回相対移動させて、工具刃先を加工するプロセスについて説明したが、変形例では、送り機構が、被加工材20である工具刃先を、レーザ光2の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡Sで1回だけ相対移動させて、工具刃先を加工する。この変形例では、制御部13が、加工軌跡Sの各加工位置において検出される光強度を監視して、各加工位置における光強度が所定の閾値I
th以上であることを条件に、送り機構を制御して、被加工材20をレーザ光2の筒状加工領域に対して相対移動させる。このように制御部13が、現在の加工位置における加工が終了するまでレーザ光2を動かさず、現在の加工位置における光強度が所定の閾値I
th以上になると送り機構を制御して次の(隣の)加工位置における加工を行い、これを加工軌跡Sにおいて順次行うことで、1回の加工送りで全体の加工を終了させることが可能となる。あるいは制御部13が、レーザ光2を加工軌跡Sに沿って連続的に相対移動させ、検出される光強度が常に所定の閾値I
th以上となるように、相対移動の速度を低く保つ制御を行うことで、1回の加工送りで全体の加工を終了させてもよい。
【0053】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置であって、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、加工が終了したことを検出する制御部とを備える。
【0054】
パルスレーザ研削では被加工材の材料除去に利用されないレーザ光が被加工材を通過することを利用して、制御部は、通過したレーザ光の強度にもとづいて、加工が終了したことを検出してよい。
【0055】
制御部は、検出した光強度の変化にもとづいて、加工が終了したことを検出してよい。具体的に制御部は、検出した光強度の変化がなくなると、加工が終了したことを検出してよい。送り機構が、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡で複数回相対移動させて、被加工材を加工するとき、制御部は、前回の加工時に検出した各加工位置における光強度と、今回の加工時に検出した各加工位置における光強度とが等しくなると、加工が終了したことを検出してよい。
【0056】
送り機構が、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して、所定の加工軌跡で1回相対移動させて、被加工材を加工するとき、制御部は、各加工位置における光強度が所定の閾値Ith以上であることを条件に、送り機構を制御して、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させてよい。
【0057】
制御部は、レーザ光による加工中に強度検出部が検出した光強度が所定の閾値Ith以上になると、加工が終了したことを検出してよい。このとき閾値Ithは、レーザ光が被加工材を照射しないときに強度検出部が検出した光強度I0に1未満の値αを乗算して求められてよい。
【0058】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状加工領域を走査して、被加工材を加工する加工装置において、加工が終了したことを検出する方法であって、被加工材をレーザ光の筒状加工領域に対して相対移動させるステップと、被加工材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、加工が終了したことを検出するステップとを有する。
【0059】
パルスレーザ研削では被加工材の材料除去に利用されないレーザ光が被加工材を通過することを利用して、制御部は、通過したレーザ光の強度にもとづいて、加工が終了したことを検出してよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示は、パルスレーザ研削の加工装置において利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・レーザ加工装置、2・・・レーザ光、10・・・レーザ光照射部、11・・・変位機構、12・・・アクチュエータ、13・・・制御部、14・・・支持装置、16・・・受光部、18・・・強度検出部、20・・・被加工材。