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特許7460228稲作管理装置、稲作管理方法及び稲作管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】稲作管理装置、稲作管理方法及び稲作管理システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240326BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20240326BHJP
   A01G 25/00 20060101ALI20240326BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240326BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G22/22 Z
A01G25/00 501Z
G06Q50/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023186182
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523412452
【氏名又は名称】クレアトゥラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザッカリー トーマス ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】アレクシス ブルカル デクラロ
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-174067(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/22
A01G 25/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田の衛星データを1種類以上取得する衛星データ取得部と、
前記衛星データに基づき、前記水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出する水指数算出部と、
前記水指数及び前記衛星データに基づき、前記複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを、湛水、落水、曇り、積雪又は無観測に分類するステータス分類部と を具備する稲作管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の稲作管理装置であって、
前記水指数算出部は、
前記衛星データである可視光線、近赤外線及び短波赤外線の光帯域データに基づき、修正正規化差水指数(MNDWI)及び地表水指数(LSWI)を算出する第1の水指数算出部、並びに/又は、前記衛星データである可視光線及び近赤外線の光帯域データに基づき、ニューラルネットワークを用いて、前記MNDWI及び前記LSWIを算出する第3の水指数算出部と、
前記衛星データであるレーダーデータに基づき、LSWIを算出する第2の水指数算出部と、
を有し、
前記ステータス分類部は、前記第1の水指数算出部及び/又は前記第3の水指数算出部が算出した前記MNDWI及び前記LSWIと、前記第2の水指数算出部が算出した前記LSWIとに基づき、前記ステータスを分類する
稲作管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の稲作管理装置であって、
前記複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを区別して表示するカレンダーを生成するカレンダー生成部
をさらに具備する稲作管理装置。
【請求項4】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記カレンダーは、湛水、落水、曇り、積雪又は無観測の日を、1日毎に区別可能な態様で表示する
稲作管理装置。
【請求項5】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記カレンダーは、複数のマスが格子状に連続する2次元のマトリクスであり、1マスが1日を示し、前記複数のマスは初日から最終日まで1日も漏れずに連続し、前記2次元のマトリクスの一方の軸は週を表示し、他方の軸は連続する複数の月を配列上区切らずに年間を連続して表示する
稲作管理装置。
【請求項6】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記カレンダーは、異なるステータスを異なる態様でマス内を埋めるように表示することにより、ステータスを区別して表示する
稲作管理装置。
【請求項7】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
特定の時期中の所定日数以上連続する期間であり、湛水日を含まず、期間中の落水日の割合が閾値以上であり、初日及び最終日の両方が落水日である最大の期間を、排水期間であると判断する分析部
をさらに具備する稲作管理装置。
【請求項8】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記カレンダー生成部は、さらに、前記排水期間を前記2次元のマトリクスのカレンダーに重畳して表示する
稲作管理装置。
【請求項9】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記分析部は、連続湛水、中間排水(中干し)、断続的灌漑の何れであるかを分析する
稲作管理装置。
【請求項10】
請求項に記載の稲作管理装置であって、
前記分析部は、連続する複数年の排水期間を分析することにより、推奨される今後の排水期間の開始日、推奨される排水期間の実施日数、実施中の排水期間の推奨される残りの継続日数、及び/又は排水期間の実施後の目標達成有無を分析する
稲作管理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の稲作管理装置であって、
前記水田に設置されたIoTセンサー及び/又はウォーターチューブによる水位の測定結果を教師データとして前記衛星データを学習することにより、機械学習により前記衛星データに基づき日毎の正負の水位を推定する水位推定部
をさらに具備する稲作管理装置。
【請求項12】
請求項11に記載の稲作管理装置であって、
前記日毎の正負の水位に基づき日毎の温室効果ガスの排出量を推定する排出量推定部
をさらに具備する稲作管理装置。
【請求項13】
コンピュータによって、
水田の衛星データを1種類以上取得するステップと
前記衛星データに基づき、前記水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出するステップと
前記水指数及び前記衛星データに基づき、前記複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを、湛水、落水、曇り、積雪又は無観測に分類するステップと
を実行する
稲作管理方法。
【請求項14】
複数の情報処理装置を具備し、前記複数の情報処理装置は、
水田の衛星データを1種類以上取得する衛星データ取得部と、
前記衛星データに基づき、前記水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出する水指数算出部と、
前記水指数及び前記衛星データに基づき、前記複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを、湛水、落水、曇り、積雪又は無観測に分類するステータス分類部
として機能する
稲作管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、稲作管理装置、稲作管理方法及び稲作管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンクレジットが広がりつつある。カーボンクレジットの仕組みによれば、事業者(クレジット創出者)が温室効果ガスの排出削減又は吸収量の増加につながるプロジェクトを実施することでクレジットを創出する。一方、企業や地方自治体、個人(クレジット購入者)は創出されたクレジットを購入しカーボンオフセットや法令対応等の用途に活用する。
【0003】
カーボンクレジットは、AWDを行わない稲作から、AWDを行う稲作への移行へのインセンティブを促すための主要な経済的ツールである。カーボンクレジットの取引を有効に行うためには、そのカーボンクレジットの信頼性が高く、市場価値を持つ必要がある。市場価値を持つカーボンクレジット(J-クレジット等)を発行するには、温室効果ガス排出量を正確に算出することが不可欠である。
【0004】
一方、衛星データを利用して水田の取水開始時期を把握する手法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】福本昌人、「Sentinel-2衛星データを用いた水田の取水開始時期の把握」、[online]、2019年3月5日、システム農学(J.JASS),35(2):15~23,2019、[2023年9月21日検索]、インターネット〈URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jass/35/2/35_15/_pdf/-char/ja〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1によれば、4月~6月の晴天時に観測された衛星データを用いて、水田の取水開始時期を、1週間前後程度のスパン毎に把握し(図6)、農業用水の利用実態の把握を図る。一方、非特許文献1では、晴天時の衛星データを利用するため、1日等のより具体的で短い単位で取水状態を把握することは教示していない(22頁「5.おわりに」)。また、農業用水の利用実態の把握を目的としている(15頁「1.はじめに」)。1日等のより具体的で短い単位で取水状態を把握することができないため、水田からの温室効果ガス排出量を例えば1日単位で推定することはできない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本開示の目的は、カーボンクレジットを創出する目的で、水田からの温室効果ガス排出量を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態に係る稲作管理装置、稲作管理方法及び稲作管理システムは、
水田の衛星データを1種類以上取得し、
前記衛星データに基づき、前記水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出し、
前記水指数に基づき、前記複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを分類する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、カーボンクレジットを創出する目的で、水田からの温室効果ガス排出量を推定することが可能となる。
【0010】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載された何れかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る稲作管理システムの構成を示す。
図2】稲作管理システムの動作フローを示す。
図3】機械学習モデルを示す。
図4】ステータス分類部のアルゴリズムを示す。
図5】複数の水管理区画それぞれのカレンダーを示す。
図6】分析部により分析された排水期間(中干し)をカレンダーに重畳して表示した例を示す。
図7】分析部により分析された排水期間(断続的灌漑)の例を示す。
図8】複数種類の人工衛星の衛星データに基づき毎日のステータスをより正確に分類できることを示す。
図9】フィールドウォーターチューブを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0013】
1.本実施形態の背景
【0014】
米は世界人口の半数以上にとって主食であり、温室効果ガス(GHG)の主要排出源でもある。稲作は世界のメタンの人為的排出量の原因の12%とも言われている(https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-06-03/your-bowl-of-rice-is-hurting-the-climate-too#xj4y7vzkg)。地球温暖化の現状を踏まえ、地球規模の温室効果ガス排出量を削減する戦略として、持続可能な農法を世界の米生産地で広く確立することが急務である。
【0015】
AWD(間断灌漑、Alternate Wetting and Drying)という稲作方法が知られている。AWDは、水稲の生育期を通じて水田が湛水されたままである稲作方法とは対照的である。AWDは、一時的に水田から水を抜き、土壌を空気にさらす水管理調整技術である。AWDの代表的な手法として、生育期の水田に1回の排水期間を設ける中間期排水技術と(所謂、中干し)、生育期を通じて水田の排水と再湛水を交互に複数のサイクルで行う断続的灌漑との、2種類が知られている。このうち、中干しは、することで(即ち、水稲の栽培期間中、出穂前に一度水田の水を抜いて田面を乾かすことで)、過剰な分げつ(根元付近からの枝分かれ)を防止し、稲の成長を制御することができる。
【0016】
何れのAWDの場合も、土壌を酸素にさらすことで土壌有機物の嫌気性分解が止まり、メタンの排出が減少する。このため、排水期間(例えば、中干しの期間)を従来よりも延長すると、土壌からのメタン排出量が抑制される。このように、水管理の調整により、水稲からの温室効果ガス排出量を削減できる。
【0017】
ところで、近年、カーボンクレジットが広がりつつある。カーボンクレジットの仕組みによれば、事業者(クレジット創出者)が温室効果ガスの排出削減又は吸収量の増加につながるプロジェクトを実施することでクレジットを創出する。一方、企業や地方自治体、個人(クレジット購入者)は創出されたクレジットを購入しカーボンオフセット等の用途に活用する。
【0018】
カーボンクレジットは、AWDを行わない稲作から、AWDを行う稲作への移行へのインセンティブを促すための主要な経済的ツールである。カーボンクレジットの取引を有効に行うためには、そのカーボンクレジットの信頼性が高く、市場価値を持つ必要がある。市場価値を持つカーボンクレジット(J-クレジット等)を発行するには、温室効果ガス排出量を正確に算出することが不可欠である。
【0019】
日本では、国がクレジットを認証する制度「J-クレジット」が存在する。J-クレジット制度では、水稲栽培における中干し期間の延長が特定の条件を満たすと、事業主(例えば、稲作農家)に対してクレジットを認証する(https://japancredit.go.jp/pdf/methodology/AG-005_v1.0.pdf)。具体的には、水稲栽培において、中干しの期間を、プロジェクト実施水田におけるプロジェクト実施前の直近2か年以上の実施日数の平均より7日間以上延長すると、クレジット適用が認証され得る。クレジット適用が認証された場合、ベースライン排出量(排水期間を延長しなかった場合に想定される排出量)に対する、プロジェクト実施後(排水期間を延長した場合に想定される排出量)の排出量の差分に基づき、クレジットの価値が算出される。
【0020】
ベースライン排出量に対して温室効果ガス排出量が削減したことや、削減量が増加したことを証明するには、第1に、プロジェクト開始前に排水期間の延長を実践していない(又は排水期間を設けていない)ことを証明する必要がある(ベースライン期間)。第2に、プロジェクト期間中に排水期間延長を実践していることを証明する必要がある。即ち、クレジットの認証を受けるためには、数年間に亘って排水期間を正確に証明する必要がある。
【0021】
また、排水期間(水田中が無水である期間)が正確であることで、温室効果ガス排出を正確に算出できる。例えば、農家が人為的に排水及び再湛水を行って水田の排水を行った際、排水期間中に雨が降り水田内に水が溜まれば、温室効果ガスの排出量が減少する。クレジットの価値は温室効果ガスの排出量に依存するため、クレジットの価値を正確に算出するには、人為的な排水及び再湛水による人為的な排水期間のみならず、降雨の有無、水田の排水性、水田の水管理等の要因による水田中の水の有無や水量を正確に把握する必要がある。
【0022】
一般に、排水期間を証明する手段として、水田に湛水や排水を行った日付等を農家自身が記録するログブック(日誌)がある。しかしながら、カーボンクレジットの発行を受けるためにログブックのみに依存するのは問題がある。第1に、新規プロジェクト開始時に、ベースライン期間(数年前)のログブックが無い可能性がある。第2に、金銭的インセンティブに釣られてログブックの正確性や真正性に疑義がある可能性がある。第3に、農家がログブックを正確に記録していても、一般に農家自身の行動(例えば、湛水ゲートや排水ゲートの開閉日)は記録されているのに対し、例えば、降雨による水の存在は農家自身の行動に基づいていないため、ログブックに記録されていない可能性がある。しかしながら、温室効果ガス排出量を正確に算出するためには、特定の時点での水田の実際の状態(水の有無、水量)を客観的に明らかにする必要がある。
【0023】
温室効果ガス排出量の算出の正確性は、特に重要な課題である。例えば、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)のクリーン開発メカニズム(CDM)の稲作方法論(https://cdm.unfccc.int/methodologies/DB/D14KAKRJEW4OTHEA4YJICOHM26M6BM)には、その正確性に対して疑問が提起されている(https://verra.org/verra-inactivates-unfccc-cdm-rice-cultivation-methodology/)。
【0024】
水田からの温室効果ガス排出量を推定する方法としては、ニューハンプシャー大学で開発された脱窒分解モデル(DNDC、DeNitrification-DeComposition)等のプロセスベースのコンピュータモデルがある。このモデルは、作物、土壌、灌漑、肥料などの間の複雑な生物地球化学の相互作用をシミュレートするために一般的に使用される。このモデルはすでにカーボンクレジットのための水田メタン削減手法に採用されているが、一般に大まかな推定値と季節平均に基づいているため、精度に限界がある。
【0025】
以上のような事情に鑑み、本開示の実施形態によれば、農家がカーボンクレジットの認証を適切に受け得るように、人為的な排水及び降雨の影響を受けていない水田の無水期間を複数年以上の期間に亘って1日単位で分析することで、複数年以上の期間に実施された排水期間を信頼性高く証明することを図る。
【0026】
2.稲作管理システムの構成
【0027】
図1は、本開示の一実施形態に係る稲作管理システムの構成を示す。
【0028】
稲作管理システム1は、複数種類の人工衛星210がそれぞれ取得した水田の衛星データを、衛星データベース200から、インターネット等のネットワークを介して取得する。稲作管理システム1は、衛星データに基づき演算処理を行う。稲作管理システム1は、演算結果を、インターネット等のネットワークを介して出力する。
【0029】
稲作管理システム1は、衛星データ取得部110、水指数算出部120、データ処理部140、カレンダー生成部150、分析部160、出力部170及び排出量推定部180を有する。サーバとして機能する1個の情報処理装置(稲作管理装置100)において、ROMに記録された情報処理プログラムをプロセッサがRAMにロードして実行することにより、衛星データ取得部110、水指数算出部120、ステータス分類部140、カレンダー生成部150、分析部160及び出力部170として機能してもよい。あるいは、複数の分散した情報処理装置が協働して、衛星データ取得部110、水指数算出部120、データ処理部140、カレンダー生成部150、分析部160、出力部170及び排出量推定部180として機能してもよい。
【0030】
複数種類の人工衛星210は、それぞれ検出特性が異なり、それぞれ特性の異なる衛星データを取得する。複数種類の人工衛星210は、例えば、Sentinel-2(S2と称する)、LandSat-9(LS9と称する)、Sentinel-1(S1と称する)、PlanetScope(PSと称する)でよい。
【0031】
S2の検出可能波長帯域は、可視光線、近赤外線(NIR)、短波赤外線(SWIR)である。S2の回帰日数は赤道上で5日であり、解像度は10m~60mである。
【0032】
LS9の検出可能波長帯域は、可視光線、近赤外線(NIR)、短波赤外線(SWIR)である。LS9の回帰日数は16日であり、解像度は30mである。
【0033】
S1は、合成開口レーダー(synthetic aperture radar、SAR)を有し、マイクロ波(電磁波)を対象物に照射し、反射(後方錯乱)した信号を受信する。S1の衛星データ(SARの後方錯乱)は、VV偏波(垂直出力、垂直受信)と、VH偏波(垂直出力、水平受信)を含む。S1の回帰日数は12日であり、解像度は10mである。
【0034】
PSの検出可能波長帯域は、可視光線、近赤外線(NIR)であり、短波赤外線(SWIR)は含まない。複数種類の人工衛星210は、上記に限定されず、例えば、他の人工衛星210をさらに使用してもよい。また、上記のうち一部を使用しなくてもよい(例えば、PSを使用しなくてもよい)。その場合は後述の第3の水指数算出部123は設けられなくてよい。
【0035】
3.稲作管理システムの動作
【0036】
図2は、稲作管理システムの動作フローを示す。
【0037】
衛星データ取得部110は、複数種類の人工衛星210(S2、S1、LS9)がそれぞれ取得した水田の衛星データを、衛星データベース200から、インターネット等のネットワークを介して取得する(ステップS101)。
【0038】
水指数算出部120は、複数種類の人工衛星210(S2、S1、LS9)の衛星データ(光帯域データ)に基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出する。水管理区画とは、本明細書では、適切な水管理が可能な区画を意味する。水管理区画は、例えば、圃区(適切な水管理が可能な最大の区画)でよい。水指数算出部120は、第1の水指数算出部121、第2の水指数算出部122及び第3の水指数算出部123を有する。
【0039】
第1の水指数算出部121は、S2の衛星データである反射光の光帯域データ(可視光線、近赤外線(NIR)、短波赤外線(SWIR))に基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの2種類の水指数を算出する(ステップS102)。2種類の水指数は、修正正規化差水指数(MNDWI)及び地表水指数(LSWI)である。MNDWIは、MNDWI=(Green-SWIR)/(Green+SWIR)により算出される(Greenは緑帯域)。LSWIは、LSWI=(nir-swir)/(nir+swir)により算出される。MNDWIは、表層水を検出するのに有効であるが、稲が水面より高く生育すると表層水を検出するのが難しい。一方、LSWIは、稲作期の後半等の稲が水面よりも高い期間に、(植生中の水の存在を定量化することにより)より適切に水指数を検出できる。
【0040】
第1の水指数算出部121は、上記と同様の方法で、LS9の衛星データである反射光の光帯域データ(可視光線、近赤外線(NIR)、短波赤外線(SWIR))に基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの水指数(MNDWI及びLSWI)を算出する。
【0041】
第3の水指数算出部123は、PSの衛星データである反射光の光帯域データ(可視光線、近赤外線(NIR))に基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの水指数を算出する。PSの検出可能波長帯域は、可視光線、近赤外線(NIR)であり、短波赤外線(SWIR)は含まない。このため、PSの衛星データのみに基づきMNDWI及びLSWIを算出することはできない。この場合、第3の水指数算出部123は、機械学習を使用して、可視光線及び近赤外線(NIR)データと水指数(MNDWI及びLSWI)との相関関係を特定すればよい。例えば、第3の水指数算出部123は、例えば、ログブックを教師データとして訓練されたニューラルネットワークを使用して、可視光帯域と予想される湛水/落水値の間の相関関係を計算すればよい。これにより、PSの衛星データに基づき水指数(MNDWI及びLSWI)を検出できる。教師データは、後述のフィールドウォーターチューブ300及び/又はデジタル水位センサー301のデータでもよい。
【0042】
第2の水指数算出部122は、S1の衛星データである合成開口レーダーデータに基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの水指数を算出する(ステップS103)。具体的には、第2の水指数算出部122は、S1の合成開口レーダーデータからLSWIを算出するための機械学習モデル130を含む。S1の衛星データ(SARの後方錯乱)は、VV偏波(垂直出力、垂直受信)と、VH偏波(垂直出力、水平受信)を含む。VV偏波は、表面形状の検出に用いられる。VH偏波は、土壌水分含有量の検出に用いられる。レーダーは可視光に依存せず、雲を通過する。このため、S2、LS9、PSの衛星データ(光帯域データ)と異なり雲の影響を受けにくい。従って、S1の衛星データ(レーダーデータ)により、S2、LS9、PSの衛星データ(光帯域データ)に基づくMNDWI及びLSWIを補強することが可能である。
【0043】
図3は、機械学習モデルを示す。
【0044】
機械学習モデル130は、単純なニューラルネットワークを通じてレーダーデータの代表的なインデックス値を得るために、合成開口レーダーデータに基づくVVの後方散乱係数及びVHの後方散乱係数、比率VV/VH及び日付(ユリウス日)と、LSWIの値とをトレーニングして得られたモデルである。XGBoost機械学習アルゴリズムを使用して、機械学習モデル130の相関の精度を向上させることができる。XGBoostは、回帰日数及び分類の問題のための決定木ベースの教師あり機械学習アルゴリズムである。
【0045】
第2の水指数算出部122は、機械学習モデル130に、合成開口レーダーデータに基づくVVの後方散乱係数及びVHの後方散乱係数、比率VV/VH及び日付(ユリウス日)を入力する。機械学習モデル130は、LSWIを出力する。
【0046】
図4は、ステータス分類部のアルゴリズムを示す。
【0047】
データ処理部140は、ステータス分類部141及び水位推定部142を有する。ステータス分類部141は、第1の水指数算出部121及び第3の水指数算出部123が算出したMNDWI及びLSWIと、第2の水指数算出部122が算出したLSWIとに基づき、複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを分類する(ステップS104)。
【0048】
1日毎のステータスは例えば5種類であり、落水(Dry)、湛水(Wet)、曇り(Cloud-covered)、積雪(Snow)又は無観測(No satellite observation)である。水田が存在する地域の気候により積雪(Snow)を検出するアルゴリズム(下記の第3のステップ)は実行されなくてもよい。
【0049】
ステータス分類部141は、第1の水指数算出部121及び第3の水指数算出部123が算出したMNDWI及びLSWIについて、閾値処理を行う。MNDWI<0.0かつLSWI<0.17である場合には、ステータスが落水である可能性が高い。MNDWI<0.0かつLSWI>0.17である場合と、MNDWI>0.0である場合には、ステータスが湛水である可能性が高い。
【0050】
ステータス分類部141は、第2の水指数算出部122が算出したLSWIについて、閾値処理を行う。LSWI<0.17である場合には、ステータスが落水である可能性が高い。LSWI>0.17である場合には、ステータスが湛水である可能性が高い。
【0051】
ステータス分類部141は、第1の水指数算出部121及び第3の水指数算出部123が算出したMNDWI及びLSWIについての閾値処理と、第2の水指数算出部122が算出したLSWIについての閾値処理とに基づき、ステータスが湛水か落水かを判断する。第1の水指数算出部121及び第3の水指数算出部123の閾値処理の結果と第2の水指数算出部122の閾値処理の結果とが異なることは、可能性としてはあり得る。従って、ステータス分類部141は、予め機械学習しておき、第1の水指数算出部121、第2の水指数算出部122及び第3の水指数算出部123の閾値処理から湛水か落水かを判断するのがよい。また、複数種類の人工衛星210はそれぞれ回帰日数がある(S2は5日、LS9は16日)。このため、一方の人工衛星210だけが水田の衛星データを得ることができ、他方は衛星データを得られない日が発生し得る。この様な場合、ステータス分類部141は、得られた衛星データに基づき湛水か落水かを判断すればよい。
【0052】
この様にして、第1のステップとして、ステータス分類部141は、2種類の水指数(MNDWI及びLSWI)を活用した複数レベルの閾値アルゴリズムを使用して、湛水か落水かを識別する。MNDWIの閾値(0.0)及びLSWIの閾値(0.17)について説明する。MNDWIについて水を検出するために用いられる一般的な閾値は0である。MNDWIが0より大きい場合は水が存在することを示し、MNDWIが0より小さい場合は水が無いことを示す。一方、LSWIにはそのような規定の閾値は無い。このため、アルゴリズムをトレーニングするとき、農家のログブックのデータを教師データとして使用して、最も正確な結果を返すLSWIの閾値を決定すればよい。
【0053】
機械学習の教師データとしては農家のログブックだけではなく、水田に設置されたデジタル水位センサー301(IoTセンサー)を利用してもよい。
【0054】
農家のログブックよりも正確なデジタル水位センサー301を使用して、水田の水位を頻繁に(例えば、毎日又はそれ以上)デジタル測定する技術がある。このようなセンサーは通常、水田の最大水位より上に取り付けられ、レーザー又は電気アイセンサーの反射を利用して水深を測定する。収集されたデータは、中央データベースにワイヤレスで送信されるか、定期的なデータのダウンロードが必要なローカルに保存される場合がある。
【0055】
しかしながら、プロジェクトですべての個々の水田を監視するためにデジタル水位センサー301を導入することは非現実的であり、コストが高くなる可能性がある。一方、本実施形態では、デジタル水位センサー301を水田の代表的なサンプルに導入すれば、衛星から水位を検出するためのニューラルネットワークのトレーニングデータを生成できる。これにより、より正確かつコスト効率の高い方法でデータを収集することができる。
【0056】
図9は、フィールドウォーターチューブを示す。
【0057】
水田の水深を監視するために、フィールドウォーターチューブ300を使用してもよい。フィールドウォーターチューブ300は、中空の円筒形の管であり、フィールドウォーターチューブ300の内部に土が入らない状態で、土壌に垂直に埋め込まれる。土壌に埋め込まれる下側の部分に、水の流入及び流出を可能にする複数のパンチ穴が設けられる。水が土の表面より上にある場合、フィールドウォーターチューブ300の上側の部分(パンチ穴が無い部分)に水が溜まり、正の水位を測定できる、一方、水が土の表面の下にある場合、土壌内の水がパンチ穴からフィールドウォーターチューブ300の内部に流入し、フィールドウォーターチューブ300の下側の部分(パンチ穴がある部分)に水が溜まり、負の水位を測定できる。この様に、フィールドウォーターチューブ300を使用すると、正負の水位を確認できる。土壌が-15cmまで排水されるAWDの実践では、フィールドウォーターチューブ300は、いつ圃場に再湛水を行うかを決定する上で重要になる。デジタル水位センサー301をフィールドウォーターチューブ300と組み合わせることで、正の値(水が地面の上にある場合)と負の値(水が地面の下にある場合)の両方をデジタルで測定できる。
【0058】
水田の代表的なサンプルから得た正負の水位のデジタルデータセットは、水田の水位をより高い精度で推定するために(農家ログブックの代わりに)トレーニングデータとして使用できる。このシナリオでは、cm単位で正確な水位を予測するために、MNDWIやLSWIなどの水指数を用いなくても、各衛星ソースから収集されたすべての帯域に対してニューラルネットワークを実行してソースデータのセットごとに個別の相関関係を生成できる。
【0059】
デジタル水位センサー301の使用により、衛星データの機械学習アルゴリズムをトレーニングするための新しく信頼性の高い情報源が提供される。さらに、アルゴリズムを用いて各水田の正確な水位のカレンダーを生成できる。さらに、上記により、土壌の表面の下を観察し、負の水位を検出する機能が作成される。断続的灌漑技術では土壌表面下15cmまで水を排水することが規定されているため、デジタルセンサーデータの教師データに基づく機械学習は、排水期間が正しく実施されていることの補強となる可能性がある。
【0060】
第2のステップとして、ステータス分類部141は、S1、S2、LS9、PSの衛星データに基づき、雲が80%以上を占める場合、中央値算出処理から除外し、ステータスを曇りと判断する。ステータス分類部141は、第1のステップで既に湛水か落水かを判断しているが、雲が80%以上を占める場合、ステータスを曇りと判断すればよい。これにより、曇りの日に湛水か落水かを誤認識する可能性が無くなる。
【0061】
第3のステップとして、ステータス分類部141は、積雪が50%より多くを占める場合、ステータスを積雪と判断する。ステータス分類部141は、第1のステップで既に湛水か落水かを判断しているが、積雪が50%より多くを占める場合、ステータスを積雪と判断すればよい。これにより、積雪の日に落水であると誤認識する可能性が無くなる。
【0062】
このように、ステータス分類部141は、第1のステップで1日毎のステータスとして湛水か落水かを判断する。ステータス分類部141は、第2のステップ及び第3のステップで曇り及び積雪を判断すると、第1のステップの湛水又は落水を曇り又は積雪で更新する。
【0063】
さらに、上述の様に、複数種類の人工衛星210はそれぞれ回帰日数がある(S2は5日、LS9は16日、S1は12日)。このため、何れの人工衛星210(S2、LS9、PS、S1)も水田を観測できない日が発生し得る。この様な場合、ステータス分類部141は、1日毎のステータスを無観測と判断する。
【0064】
一方、水位推定部142は、フィールドウォーターチューブ300及びデジタル水位センサー301から収集したデータをニューラルネットワークの学習データセットとして使い、衛星データと組み合わせる。これにより、水位推定部142は、毎日の正負の水位を推定する(ステップS109)。機械学習により、水位推定部142は、水位が土の表面より下(例えば-15cm下)であっても、衛星データのみから水田の日毎の正負の水位(cm)を推定することが可能となる。
【0065】
図5は、複数の水管理区画それぞれのカレンダーを示す。
【0066】
一方、カレンダー生成部150は、ステータス分類部141が分類した、複数の水管理区画1~4それぞれの1日毎のステータス(落水、湛水、曇り、積雪又は無観測の5種類)を区別して表示するカレンダーC1~C4を生成する(ステップS105)。カレンダーは、日毎の時系列データベースであるともいえる。
【0067】
カレンダーは、複数のマスが格子状に連続する2次元のマトリクスである。カレンダーの1マスは1日を示す。複数のマスは初日から最終日まで1日も漏れずに連続する。カレンダーを構成する2次元のマトリクスの一方の軸は週を表示し、他方の軸は連続する複数の月を配列(配置)上区切らずに年間を連続して表示する。本例では、縦軸は7マスあり、1マスが1日に相当し、縦軸の上から下へ月曜日から日曜日の1週を示す。横軸は、連続する複数の月を区切らずに(配列(配置)上、独立させずに、離間させずに)、横軸の左から右へ1月1日から12月31日までの1年間を連続して表示する。カレンダー中、連続する月のマス目の配列(配置)は離間せず連続的に配列(配置)されるが、本例の様に、カレンダーとしての機能性(月日がわかりやすい)のために隣り合う月は異なる線種(本例では太線)で区切られてもよい。なお、マス目の中に月日を数字で記入する等、カレンダーとしての機能性(月日が明確)が既にある場合には、隣り合う月を異なる線種で区切らなくてもよい。
【0068】
カレンダーは、異なるステータスを異なる態様(例えば、異なる色、異なるハッチング等)でマス内を埋める(塗りつぶす)ように表示することにより、1日毎のステータスを視覚的に明確に区別して表示する。ステータスは例えば5種類であり、落水(Dry)、湛水(Wet)、曇り(Cloud-covered)、積雪(Snow)又は無観測(No satellite observation)である。水田が存在する地域の気候により積雪(Snow)を含まない4種類のステータスでもよい。
【0069】
図6は、分析部により分析された排水期間(中干し)をカレンダーに重畳して表示した例を示す。
【0070】
分析部160は、特定の時期(例えば、稲の生育時期である4月~9月)のうち、所定日数以上連続する期間であり、湛水日を含まず、期間中の落水日の割合が閾値以上であり、初日及び最終日の両方が落水日である最大の期間を、排水期間であると判断する(ステップS106)。本例では、分析部160は、生育時期(例えば、4月~9月)のうち、所定日数(例えば、5日間)以上連続する期間であり、湛水日を含まず、期間中の落水日の割合(11/19日)が閾値(例えば、50%)以上であり、初日(5月28日(日))及び最終日(6月16日(木))の両方が落水日である最大の期間を、排水期間(中干し期間)であると判断する。
【0071】
閾値(例えば、50%)は、複数種類の人工衛星210の回帰日数(S2は5日、LS9は16日、S1は12日)により何れの人工衛星210も水田を観測できない日が発生し得る周期や日数等に基づき決定してもよい。初日及び最終日の両方が落水日である必要があるのは、例えば、6月17日(金)のステータスは観測無であるので実際には落水の可能性もあるが、6月18日(土)のステータスが湛水であるため、6月17日(金)もまた湛水である可能性がある。このため、6月17日(金)を排水期間に含めずに、排水期間の最終日は落水日である6月16日(木)と判断するのが、信頼性が高い。
【0072】
この様に、湛水及び落水データの1日単位のカレンダーを使用すると、中干し(ミッドシーズンの排水期間)の開始日と終了日を決定することができる。中干しは通常6月~7月に行われる。このため、分析部160は、6月~7月内で、湛水期間に挟まれた、排水されている連続する期間を検索する。分析部160は、中干しの開始日として、中干し期間の最初に観察された落水日を判断する。分析部160は、中干しの終了日として、中干しに続く連日の湛水日の前の最後の落水日を判断する。
【0073】
カレンダー生成部150は、分析部160が分析した排水期間(中干し期間)を2次元のマトリクスのカレンダーに重畳して表示する。例えば、カレンダー生成部150は、初日(5月28日(日))及び最終日(6月16日(木))を明示した排水期間(中干し期間)を、カレンダーに明示的に表示する。本具体例では、カレンダー生成部150は、初日(5月28日(日))のマス及び最終日(6月16日(木))のマスをそれぞれ丸で囲み、所持値及び最終日を含む期間を略矩形の太線の枠で囲めばよい。
【0074】
図7は、分析部により分析された排水期間(断続的灌漑)の例を示す。
【0075】
分析部160は、生育時期(例えば、4月~9月)のうち、所定日数以上連続する期間であり、湛水日を含まず、期間中の落水日の割合が閾値以上であり、初日及び最終日の両方が落水日である複数の期間を、排水期間(断続的灌漑期間)であると判断する。分析部160は、連続湛水、中間排水(中干し)、断続的灌漑の何れが実施されているかを分析してもよい。分析部160は、農家が間欠灌漑技術(即ち、中間排水(中干し)、断続的灌漑の何れか)に従っているかどうかを分析してもよい。(b)に示す様に、断続的灌漑は、生育期を通じて水田の排水と再湛水を交互に複数のサイクルで行うので、短期間の排水期間が複数回行われる。連続する所定日数や、落水日の割合の閾値は、ログブックや複数種類の人工衛星210の回帰日数等に基づき決定すればよい。なお、(a)は、比較例として、排水期間(断続的灌漑、中干し)を行わない場合のカレンダーを示す。
【0076】
この様に、断続的灌漑では、中干し(ミッドシーズンの排水期間)ではなく、断続的な灌漑を実施する稲作方法である。断続的灌漑では、圃場を土壌レベルから5cm上まで湛水し、その後、水が土壌レベルから15cm下に達するまで土壌を乾燥させる。断続的灌漑が行われる場合、分析部160は、湛水及び排水データの1日単位のカレンダーを使用して、水田が湛水してから排水される複数日周期の交互パターンを検出すればよい。
【0077】
カレンダー生成部150は、分析部160が分析した排水期間(断続的灌漑の複数の期間)を2次元のマトリクスのカレンダーに重畳して表示してもよい。例えば、カレンダー生成部150は、初日及び最終日を明示した排水期間(断続的灌漑の複数の期間)を、カレンダーに明示的に表示してもよい。
【0078】
分析部160は、連続する複数年(今年を含んでもよいし含まなくてもよい)の排水期間を分析する(ステップS107)。例えば、分析部160は、連続する複数年の排水期間の長さ、開始日、排水期間前後の降雨の有無等を分析する。上述のように、J-クレジット制度では、中干しの期間を直近2か年以上の実施日数の平均より7日間以上延長すると、クレジット適用が認証され得る。このため、ベースラインとしての過去2年の記録と、ベースラインと現在との分析結果が必要となる。
【0079】
例えば、分析部160は、推奨される今年の排水期間の開始日を排水期間の実施前に分析してもよい。分析部160は、今年の排水期間を何日間実施すれば、直近2か年以上の実施日数の平均より7日間以上延長される(推奨される排水期間の実施日数)と、排水期間の実施前に分析してもよい。分析部160は、今年の排水期間をあと残り何日継続すれば、直近2か年以上の実施日数の平均より7日間以上延長される(実施中の排水期間の推奨される残りの継続日数)と、排水期間の最中に分析してもよい。分析部160は、今年の排水期間が直近2か年以上の実施日数の平均より7日間以上延長されたこと(排水期間の実施後の目標達成有無)を排水期間終了後に分析してもよい。
【0080】
排出量推定部180は、さらに、水位推定部142による毎日の正負の水位に基づき毎日の温室効果ガスの排出量を推定する(ステップS110)。排出量推定部180は、例えば、予想されるメタンガス(CH)の毎日の排出量、予想される亜酸化窒素(NO)の1日あたりの排出量、予想される1日あたりのCO排出量等を分析してもよい。排出量推定部180は、水位に加えて環境データ(土壌の種類、気温など)を組み合わせ、DNDC等のプロセスベースのコンピュータモデルを使用して、毎日の温室効果ガスの排出量を推定してもよい。排出量推定部180は、さらに、標準係数を適用してCHとNOをCO換算トン(tCOe)に変換し、生育時期全体にわたる1日あたりの排出量を合計することで、シーズン全体の排出量を推定してもよい。プロジェクト中の実際の排出量をベースライン排出量から差し引くことで、tCOe削減量が計算され、対応するカーボンクレジットが発行される。
【0081】
出力部170は、カレンダー、分析結果及び排出量を大容量の不揮発性の記憶装置に出力し、記録する。出力部170は、カレンダー、分析結果及び排出量を表示装置に表示可能な形式で出力してもよい(ステップS108)。出力部170は、分析結果をリコメンドとして端末装置300に出力してもよい。
【0082】
表示されたカレンダーに基づき、過去(昨年以前)の排水期間を把握することができる。これにより、今後(今年)の排水期間をいつから開始するのがよいか、何日間継続するのがよいかを、降雨の影響を受けにくいという観点や、ベースラインを基準としてクレジットを産出するための観点から、決定しやすくなる。
【0083】
4.結語
【0084】
図8は、複数種類の人工衛星の衛星データに基づき毎日のステータスをより正確に分類できることを示す。
【0085】
収集された特定のデータバンドに応じて、さまざまな技術を使用して衛星を介して水田の水を検出することが可能である。衛星のカバー範囲は改善されており、PlanetLabsなどのデータプロバイダーは地球陸地のほぼ毎日の画像を提供できる。しかしながら、観測無の日が限りなく少ない1日毎ののデータセットを作成するには、依然として複数の衛星ソースからのデータを組み合わせて単一のカレンダーに階層化する必要がある。同図の(d)に示すように、より多くの種類の衛星データが統合されると、結果として得られるカレンダーは、観測無の日が少なくなる。(a)はS2のみ、(b)はS2、S1の2種類、(c)はS2、S1、LS9の3種類、(d)はS2、S1、LS9、PlanetLabsの4種類である。
【0086】
典型的には、水田の地表水マッピングにおけるリモートセンシングの利用は、通常、直接水を観察できるほど稲の高さが低い季節の初期に水を検出することに限定されている。稲が水面よりも高くなる季節の後半には、光帯域衛星さらにはレーダー衛星が、稲の植生を通過して水を直接観測することができない。
【0087】
これに対して、本実施形態では、(1)S1のレーザーデータにより稲の下の水を検出できる、(2)複数の衛星データを組み合わせることにより周期的に高頻度で検出できる、(3)光帯域衛星とレーダー衛星の融合により信頼性高く検出できるという点で有利である。本実施形態によれば様々な衛星データソースの統合から、1日単位の時間分解能で、年間を通した稲の生育段階の地表水を検出することができる。
【0088】
本実施形態によれば、排水期間延長のプロジェクトの開始前の期間の農家のログブックを入手する必要なく、衛星データに基づきベースラインを確立することができる。本実施形態の手法を使用して、プロジェクトの開始前の数年間の衛星データの履歴から1日単位のカレンダーを構築することで、排水期間が実施されていなかったのか、それとも排水期間が実施されていたのかを確認し、対応する温室効果ガス排出量を推定することができる。
【0089】
稲作の排水期間の記録の大部分は依然として農家のログブックの記録に依存しており、ログブックの検証と過去のログブックの収集という課題を考慮すると、本実施形態は、農家のログブックの検証と補強に活用することもできる。
【0090】
本実施形態によれば、脱窒分解モデル(DNDC、DeNitrification-DeComposition)等のプロセスベースのコンピュータモデルを、継続的なデジタル測定、より具体的には各水田の水深を表す毎日の周波数の衛星データと結合する。本実施形態は農家のログブックの内容を検証するために使用されてもよい。水量データの信頼性の高いデータソースとしてカレンダーをログブックの代わりに使用してもよい。毎日の測定を組み込むことにより、本実施形態は、既存の技術と比較して、より正確な温室効果ガス削減の推定値を算出することが可能となる。
【0091】
本実施形態によれば、複数の水管理区画のそれぞれの日々の状態を、水指標に基づいて分類し、日々の状態データをカレンダー(時系列データベース)に保存し、データを用いて実施されている水管理技術を検出し、農家のログブックの内容を確認することができる。さらに、水位センサーからのデータと併用することで、将来的にログブックをカレンダーに置き換えることができる。また、カーボンクレジットを創出する目的で、個々の水田からの毎日の温室効果ガス排出量をより正確に推定することができる。
【0092】
本実施形態によれば、農家がカーボンクレジットの認証を適切に受け得るように、人為的な排水及び降雨の影響を受けていない水田の無水期間を複数年以上の期間に亘って1日単位で分析することで、複数年以上の期間に実施された排水期間を信頼性高く証明することができる。本実施形態は、実際に稲作を行う農家の利便性(ログブックを作成せずに過去複数年の記録及び分析が可能)ひいては収益(正確な温室効果ガス削減量に基づく価値のあるクレジット創出)に直接的に寄与することが可能である。これにより、本実施形態によれば、例えば、以下の様な効果を得られる。
【0093】
・農家が排水期間延長のプロジェクトを開始したい時点で、過去数年間のベースライン排水期間の履歴を知ることができる。このため、プロジェクトを速やかに開始することができる。
・排水期間延長のプロジェクトを開始した後は、農家は、過去数年間のベースライン排水期間の履歴に基づき、今年の排水期間の開始日及び終了日や期間長さを、農家自身が適切に決定しやすくなる。また、今年の実際の排水期間が、過去の排水期間の履歴に鑑みて、適切な開始日及び終了日や期間長さとなる。
・複数年に亘る排水期間を信頼性高く証明することで、結果的に、複数年に亘る温室効果ガス排出量をより正確に算出することができる。結果的に、農家が創出するカーボンクレジットの価値をより正確に算出することができる。
・実際に稲作を行う農家の利便性ひいては収益に直接的に寄与することが可能となる。
【0094】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
1 稲作管理システム
100 稲作管理装置
110 衛星データ取得部
120 水指数算出部
121 第1の水指数算出部
122 第2の水指数算出部
123 第3の水指数算出部
130 機械学習モデル
140 データ処理部
150 カレンダー生成部
160 分析部
170 出力部
180 排出量推定部
200 衛星データベース
210 人工衛星
【要約】
【課題】カーボンクレジットを創出する目的で、水田からの温室効果ガス排出量を推定する。
【解決手段】稲作管理装置、稲作管理方法及び稲作管理システムは、水田の衛星データを1種類以上取得し、衛星データに基づき、水田に含まれる複数の水管理区画それぞれの1日毎の水指数を算出し、水指数に基づき、複数の水管理区画それぞれの1日毎のステータスを分類する。複数の水管理区画のそれぞれの日々の状態を、水指標に基づいて分類し、日々の状態データをカレンダー(時系列データベース)に保存し、データを用いて実施されている水管理技術を検出し、農家のログブックの内容を確認することが出来る。さらに、水位センサーからのデータと併用することで、将来的にログブックをカレンダーに置き換えることができる。また、カーボンクレジットを創出する目的で、個々の水田からの毎日の温室効果ガス排出量をより正確に推定することができる。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9