(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240326BHJP
F04C 29/12 20060101ALI20240326BHJP
F04C 23/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F04C18/02 311X
F04C29/12 Z
F04C23/00 F
(21)【出願番号】P 2023188564
(22)【出願日】2023-11-02
【審査請求日】2024-01-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011199
【氏名又は名称】株式会社石川エナジーリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】石川 満
(72)【発明者】
【氏名】茅沼 秀高
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/144948(WO,A1)
【文献】特開2020-101168(JP,A)
【文献】特開2020-190246(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104696272(CN,A)
【文献】特開2013-167165(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115417(WO,A1)
【文献】特開2013-015113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/12
F04C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒を圧縮する圧縮機であり、
固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回可能に配置された可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間隙として形成される圧縮空間と、前記可動スクロールに駆動力を与えるシャフトと、前記シャフトに取り付けられたファンと、前記ファンが収容される前段圧縮室と、を具備し、
前記ファンおよび前記前段圧縮室は、前記冷媒の流れにおいて、前記可動スクロールよりも上流側に配置され、
前記ファンを覆うように構成されたファンケーシングを更に具備し、前記前段圧縮室は、前記ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間に形成された空間であり、前記ファンは、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、半径方向外側を向く側面部と、を有し、
前記上流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL10とし、前記下流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL11とし、前記側面部と前記内壁との間隙の厚さをL12とした場合、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの2倍以下であり、
前記側面部に、半径方向外側に向かって突起する突起部を形成することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの1.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの1.2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒を圧縮する圧縮機であり、
固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回可能に配置された可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間隙として形成される圧縮空間と、前記可動スクロールに駆動力を与えるシャフトと、前記シャフトに取り付けられたファンと、前記ファンが収容される前段圧縮室と、を具備し、
前記ファンおよび前記前段圧縮室は、前記冷媒の流れにおいて、前記可動スクロールよりも上流側に配置され、
前記ファンを覆うように構成されたファンケーシングを更に具備し、前記前段圧縮室は、前記ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間に形成された空間であり、前記ファンは、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、半径方向外側を向く側面部と、を有し、
前記上流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL10とし、前記下流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL11とし、前記側面部と前記内壁との間隙の厚さをL12とした場合、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの2倍以下であり、
上下方向において、前記ファンの下端部と前記内壁との距離は、前記ファンの上端部と前記内壁との距離よりも短いことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記ファンの下端と前記内壁との距離をL20とし、前記ファンの上端と前記内壁との距離をL21とした場合、L20のL21に対する比率を2/3以下とすることを特徴とする請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記ファンの下端と前記内壁との距離をL20とし、前記ファンの上端と前記内壁との距離をL21とした場合、L20のL21に対する比率を1/2以下とすることを特徴とする請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、流体の圧縮率を高めることができるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なスクロール圧縮機は、スクロール本体に固定スクロールが固定され、この固定スクロールに対して可動スクロールが旋回可能に組み合わされている。スクロール圧縮機を運転すると、旋回中心を回転軸にして可動スクロールが旋回することで、スクロール圧縮機の周辺部から、固定スクロールと可動スクロールとの間に導入された流体は、両者の間で圧縮されながら、中心部に向かって移動する。中心部に達した流体は、圧縮された状態で系外に供給される。このような構成のスクロール圧縮機は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した一般的な構成を有するスクロール圧縮機では、それほど加圧されていない状態の流体を、可動スクロールと固定スクロールとの間の空間に導入するため、高い圧縮率を得ることが簡単でない課題があった。
【0005】
また、スクロール圧縮機の圧縮率を向上するために、モータの回転数を高速にすると、スクロール圧縮機が消費するエネルギが増大してしまう課題が発生する。
【0006】
更にまた、その圧縮率を高めるべく、スクロール圧縮機の前段部分に流体を圧縮する圧縮機を介装すると、圧縮機で加圧した流体をスクロール圧縮機に供給できることから、高い圧縮率を得ることは出来る。しかしながら、新たに別体の圧縮機が必要になることから、装置全体の複雑化および高コスト化を招く課題が存在する。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮率が向上されたスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスクロール圧縮機は、蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒を圧縮する圧縮機であり、固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回可能に配置された可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間隙として形成される圧縮空間と、前記可動スクロールに駆動力を与えるシャフトと、前記シャフトに取り付けられたファンと、前記ファンが収容される前段圧縮室と、を具備し、前記ファンおよび前記前段圧縮室は、前記冷媒の流れにおいて、前記可動スクロールよりも上流側に配置され、前記ファンを覆うように構成されたファンケーシングを更に具備し、前記前段圧縮室は、前記ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間に形成された空間であり、前記ファンは、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、半径方向外側を向く側面部と、を有し、前記上流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL10とし、前記下流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL11とし、前記側面部と前記内壁との間隙の厚さをL12とした場合、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの2倍以下であり、前記側面部に、半径方向外側に向かって突起する突起部を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明のスクロール圧縮機は、蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒を圧縮する圧縮機であり、固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回可能に配置された可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間隙として形成される圧縮空間と、前記可動スクロールに駆動力を与えるシャフトと、前記シャフトに取り付けられたファンと、前記ファンが収容される前段圧縮室と、を具備し、前記ファンおよび前記前段圧縮室は、前記冷媒の流れにおいて、前記可動スクロールよりも上流側に配置され、前記ファンを覆うように構成されたファンケーシングを更に具備し、前記前段圧縮室は、前記ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間に形成された空間であり、前記ファンは、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、半径方向外側を向く側面部と、を有し、前記上流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL10とし、前記下流側主面部と前記内壁との間隙の厚さをL11とし、前記側面部と前記内壁との間隙の厚さをL12とした場合、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの2倍以下であり、上下方向において、前記ファンの下端部と前記内壁との距離は、前記ファンの上端部と前記内壁との距離よりも短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧縮率が向上されたスクロール圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機を示す斜視図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機を示す切開斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のファンケーシングを示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のファンケーシングを示す断面図である。
【
図5A】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の第1ファンおよび第2ファンを前方から見た分解斜視図である。
【
図5B】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の第1ファンおよび第2ファンを後方から見た分解斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の第1ファンを前方から見た正面図である。
【
図7】本発明の他施形態に係るスクロール圧縮機の第1ファンを前方から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を参照して本形態のスクロール圧縮機10を説明する。以下の説明では、同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。更に、以下の説明では、上下前後左右の各方向を適宜用いるが、前方とはスクロール圧縮機10の内部における流体の流れの上流側を示し、後方とは前方の反対側である。また、左右とはスクロール圧縮機10を前方から見た場合の左右を示している。
【0028】
図1Aは、スクロール圧縮機10を示す斜視図である。
図1Bは、スクロール圧縮機10を示す切開斜視図である。
【0029】
図1Aおよび
図1Bを参照して、スクロール圧縮機10は蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒11を圧縮する圧縮機である。スクロール圧縮機10は、図示しない配管を介して、ここでは図示しない凝縮器、膨張手段および蒸発器と接続される。係る冷凍サイクルは、例えば、車両の車室を冷房または暖房する車室用空調機として用いられる。
【0030】
本実施形態にかかる冷凍サイクルは、例えば、ミスト潤滑方式のものである。ミスト潤滑方式とは、後述する冷媒11の中に溶解された潤滑油を、冷媒11と共に冷凍サイクル内に循環させ、ガス状の冷媒11に含まれるミスト状の潤滑油により圧縮機の摺動箇所を潤滑するものである。後述するように、本実施形態では、液化した潤滑油を再度ミスト化する機構を有していることから、冷媒11は常にミスト状の潤滑油を含み、各機器は潤滑されている状態とされる。
【0031】
図1Aおよび
図1Bを参照して、スクロール圧縮機10では、ケーシング31の内部に、スクロール圧縮機10として機能する各部材が収納されている。
図1Bを参照して、ケーシング31の前方側には、ファンケーシング15およびモータ23が収納される。
【0032】
【0033】
図2を参照して、ケーシング31の内部には、前方側から、取入口13、前室19およびファンケーシング15、区画壁12、モータ収納室16およびモータ23、可動スクロール20および固定スクロール21、圧縮空間22並びに吐出口24が配設される。更に、ケーシング31の中心にはシャフト18が配設される。こでは図示されないが、可動スクロール20の前方には、シャフト18の回転運動を可動スクロール20の旋回運動に変換する旋回機構が配設されている。
【0034】
取入口13は、ケーシング31の前面に形成された開口である。取入口13からは冷媒11が吸い込まれる。
【0035】
前室19は、ケーシング31の前端に形成された空間である。前室19はファンケーシング15を収容する空間である。
【0036】
ファンケーシング15は、後述するファン17を収容するためのケース状の部材である。ファンケーシング15の前端は取入口13に接続される。ファンケーシング15の後端はモータ収納室16と連通する。
【0037】
ファン17は、シャフト18に対して相対回転不能に取り付けられる。ファン17は、圧縮空間22に導入される冷媒11を、上流側で圧縮する機能を有する。かかる機能は
図4等を参照して後述する。本実施形態では、ファン17および後述する前段圧縮室14は、冷媒11の流れにおいて、可動スクロール20、固定スクロール21および圧縮空間22よりも上流側に配置される。
【0038】
区画壁12は、ケーシング31の内部において、前室19とモータ収納室16とを区画する壁状部材である。区画壁12の略中央には貫通孔が形成され、前室19とモータ収納室16とは、その貫通孔を経由して連通する。
【0039】
モータ収納室16は、モータ23が収納される空間である。
【0040】
モータ23は、回転子25と固定子26とを含む。本実施形態では、モータ23は、上記した可動スクロール20を旋回させ、更には、ファン17を回転させる。
【0041】
回転子25は、円周方向に沿って略等間隔に配置された複数の図示しない磁石を含む。回転子25の半径方向中央には貫通孔が形成されており、その貫通孔にはシャフト18が挿通される。回転子25とシャフト18とは、相対回転不可能に相互に接続されている。よって、回転子25が回転すると、シャフト18も共に回転する。
【0042】
固定子26は、ステータコア261とコイル262とから成る。ステータコア261はケーシング31の内面に嵌め込まれている。ステータコア261は、鉄心とも称される。ステータコア261には、コイル262が巻回されている。コイル262には、図示しないインバータから所定の周波数の交流電力が供給される。固定子26は電磁石を構成している。
【0043】
シャフト18は、可動スクロール20に駆動力を与える略円柱状の鋼棒である。シャフト18の前端はファン17に相対回転不可能に接続され、シャフト18の中間部は回転子25に相対回転不可能に接続され、シャフト18の後端は可動スクロール20を旋回する旋回機構に接続する。ここではこの旋回機構は図示していない。シャフト18は、軸受等を介して、ケーシング31に対して回転可能に固定される。
【0044】
可動スクロール20は、シャフト18の後端に相対回転不能に接続され、固定スクロール21に対して旋回可能に配置される。可動スクロール20は、シャフト18と共に回転することで旋回する。
【0045】
固定スクロール21は、ケーシング31の後面部内面に固定される。
【0046】
圧縮空間22は、固定スクロール21と可動スクロール20との間隙として形成される。
【0047】
吐出口24は、ケーシング31の後面部を貫通する貫通孔である。吐出口24は、圧縮空間22と連通する。
【0048】
図2を更に参照して、スクロール圧縮機10の内部における冷媒11の流れを説明する。
図2では、スクロール圧縮機10の内部における冷媒11の流れを破線で示す。
【0049】
先ず、取入口13を経由して、スクロール圧縮機10の内部に冷媒11が導入される。ここでは、蒸発器を経た冷媒11がスクロール圧縮機10に導入される。次に、冷媒11は、ファンケーシング15に導入される。ファンケーシング15の内部においてファン17が回転することで、冷媒11が予備圧縮される。ファンケーシング15において予備圧縮された冷媒11は、モータ収納室16の内部に導入される。その後、冷媒11は、圧縮空間22に導入され、可動スクロール20が旋回することにより圧縮空間22で更に圧縮される。冷媒11は、その後、吐出口24を介してスクロール圧縮機10の外部に放出される。その後、冷媒11は、配管を経由して凝縮器に送られる。
【0050】
後述するように、本実施形態によれば、前段圧縮室14においてファン17が回転することで加圧された冷媒11を圧縮空間22に供給できることから、スクロール圧縮機10における圧縮効率を向上できる。
【0051】
図3は、スクロール圧縮機10のファンケーシング15を示す斜視図である。
【0052】
ファンケーシング15は、前後方向に沿う中心軸を有する略円柱状の部材である。ファンケーシング15の側面は、
図2に示したケーシング31の内面に当接するように配置される。ファンケーシング15の内部には、前述したファン17が収納される。ファンケーシング15の前面中央部には、前段導入口32が形成される。前段導入口32は、
図2に示した取入口13と繋がっている。
【0053】
図4は、スクロール圧縮機10のファンケーシング15を示す断面図である。
図4では、冷媒11の流れを破線の矢印で示す。
【0054】
ファンケーシング15は、ファン17を覆うように構成される金属部材から成る。
【0055】
ファン17は、第1ファン28と、第2ファン29と、を有する。冷媒11の流れにおいて、第1ファン28は、第2ファン29よりも上流側に配設される。
【0056】
前段圧縮室14は、ファンケーシング15の内壁27とファン17との間に形成された空間である。前段圧縮室14は、前述した圧縮空間22の上流側に配置され、冷媒11の前段圧縮を行う空間である。換言すると、前段圧縮室14は、下流側に配置される圧縮空間22に対して冷媒11を過給するための空間でもある。
【0057】
前段圧縮室14は、第1ファン28が収容される第1前段圧縮室141と、第2ファン29が収容される第2前段圧縮室142と、を有する。第1前段圧縮室141は、内壁27と第1ファン28との間に形成された空間である。第2前段圧縮室142は、内壁27と第2ファン29との間に形成された空間である。第2前段圧縮室142は、第1前段圧縮室141の下流側に配置される。第1前段圧縮室141と第2前段圧縮室142とは、連続する空間である。
【0058】
ファンケーシング15の内部において、冷媒11は、前段導入口32、第1前段圧縮室141、第2前段圧縮室142、前段排出口33の順番で流れる。
【0059】
第1ファン28は、主面部である第1上流側主面部281および第1下流側主面部282と、第1側面部285と、を有する。第1上流側主面部281は前方を向く主面であり、第1下流側主面部282は後方を向く主面であり、第1側面部285は半径方向を向く面である。
【0060】
第1ファン28において、第1上流側主面部281と内壁27との間隙の厚さL10と、第1下流側主面部282と内壁27との間隙の厚さL11と、第1側面部285と内壁27との厚さL12とは略同一である。例えば、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの2倍以下であり、好ましくは1.5倍以下であり、特に好ましくは1.2倍以下である。更に、L10、L11およびL12を比較すると、何れかの1つが他の2つの0.5倍以上であり、好ましくは0.75倍以上であり、特に好ましくは0.9倍以上である。このようにすることで、第1前段圧縮室141において冷媒11がスムーズに流れ、冷媒11を効果的に圧縮できる。
【0061】
係る事項は、第2前段圧縮室142に関しても同様である。
【0062】
図5Aは、スクロール圧縮機10の第1ファン28および第2ファン29を前方から見た分解斜視図である。
図5Bは、スクロール圧縮機10の第1ファン28および第2ファン29を後方から見た分解斜視図である。
【0063】
図5Aを参照して、ファン17は、前方側から、第1ファン28および第2ファン29を有する。
【0064】
図5Aおよび
図5Bを参照して、前述した様に、第1ファン28は、第1上流側主面部281と、第1下流側主面部282と、第1側面部285と、を有する。第1上流側主面部281は、シャフト18の軸方向に対して直交する方向に伸びる略円形の面であり、冷媒11の流れにおける上流側を向く面である。第1下流側主面部282は、シャフト18の軸方向に対して直交する方向に伸びる略円形の面であり、冷媒11の流れにおける下流側を向く面である。また、第1ファン28の中心には第1挿通孔286が形成され、第2ファン29の中心には第1挿通孔296が形成される。第1挿通孔286および第1挿通孔296には、前述したシャフト18が挿入される。
【0065】
図5Aに示す様に、第1上流側主面部281には第1上流側送風壁283が形成される。第1上流側送風壁283は、第1上流側主面部281を部分的に前方に向かって隆起させた部位であり、半径方向外側に向かって壁状に伸びる。第1上流側送風壁283の中間部は、ファン17の回転方向に向かって膨らむように湾曲する形状を呈する。ここで、回転方向とは、第1ファン28を前方から見た場合、反時計回りである。また、第1上流側送風壁283は、第1上流側主面部281において、円周方向に沿って略同一の角度間隔で離間し、複数が形成される。第1ファン28が反時計回りに回転すると、
図4に示すように、第1上流側主面部281と内壁27とにより囲まれる第1前段圧縮室141において、冷媒11は第1ファン28の中心から半径方向外側に向かって流れる。
【0066】
図5Bに示す様に、第1下流側主面部282には第1下流側送風壁284が形成される。第1下流側送風壁284は、第1上流側主面部281を部分的に後方に向かって隆起させた部位であり、半径方向外側に向かって壁状に伸びる。第1下流側送風壁284の中間部は、ファン17の回転方向である反時計回りに向かって窪むように湾曲する形状を呈する。第1ファン28が反時計回りに回転すると、
図4に示すように、第1下流側主面部282と内壁27とにより囲まれる第1前段圧縮室141において、冷媒11は第1ファン28の周辺から半径方向内側に向かって流れる。
【0067】
前述した構成は、第2ファン29に関しても同様である。即ち、
図5Aおよび
図5Bを参照して、第2ファン29は、第2上流側主面部291と、第2下流側主面部292と、第2側面部295と、を有する。また、第2上流側主面部291には第2上流側送風壁293が形成され、第2下流側主面部292には第2下流側送風壁294が形成される。
【0068】
再び
図4を参照して、第1ファン28および第2ファン29に形成された各壁による効果を説明する。先ず、前段導入口32から導入された冷媒11は、内壁27と第1上流側主面部281との間に進入する。前述した様に、第1上流側主面部281には第1上流側送風壁283が形成されている。よって、第1ファン28の回転に伴い、第1上流側送風壁283は、冷媒11を半径方向外側に向かって送風する。その後、冷媒11は、第1側面部285と内壁27との間を経由し、第1下流側主面部282と内壁27との間に送風される。その後、第1下流側主面部282に形成された第1下流側送風壁284は、冷媒11を半径方向内側に向かって送風する。即ち、第1上流側送風壁283が冷媒11を半径方向外側に向かって送風し、その後、第1下流側送風壁284が冷媒11を半径方向内側に向かって送風することから、第1ファン28の第1上流側主面部281側および第1下流側主面部282の両面において冷媒11を送風することで、より効果的に冷媒11を圧縮できる。
【0069】
上記した事項は第2ファン29においても同様である。即ち、第2ファン29の第2上流側送風壁293が冷媒11を半径方向外側に送風し、第2下流側送風壁294が冷媒11を半径方向内側に送風する。これにより、冷媒11は更に圧縮され、過給の効果が大きくなる。
【0070】
図6は、スクロール圧縮機10の第1ファン28を前方から見た正面図である。
【0071】
ここでは、第1前段圧縮室141の内部において、第1ファン28は下方に偏心して配置される。このようにすることで、上下方向において、第1ファン28の下端と内壁27との距離L20は、ファン17の上端部と内壁27との距離L21よりも短い。例えば、L20のL21に対する比率は、2/3以下、1/2以下とすることができる。
【0072】
このようにすることで、第1前段圧縮室141の内部に潤滑油が滞留することを抑制できる。具体的には、前述したように、本実施形態のスクロール圧縮機10は、ミスト潤滑方式である。よって、スクロール圧縮機10が運転することで、第1前段圧縮室141の内部において冷媒11に含まれる潤滑油が冷媒11から分離し、第1前段圧縮室141の下端部分に潤滑油が溜まることがある。
図6では、第1前段圧縮室141の下端に溜まる潤滑油を色彩で表している。このままであると、冷媒11に十分な量の潤滑油が含まれないことになる。よって、蒸気圧縮型冷凍サイクルにおいて可動部を有する機器、例えば、スクロール圧縮機10等において十分な潤滑が行われず、機器の寿命が短くなる恐れがある。
【0073】
本実施形態では、第1側面部285を下方に偏心して配置する。よって、スクロール圧縮機10の運転時に第1ファン28が回転すると、第1上流側送風壁283が貯留された潤滑油を攪拌し、第1前段圧縮室141の内部において再び潤滑油をミスト状態にして冷媒11と混合する。よって、蒸気圧縮型冷凍サイクルの各機器に、冷媒11と共にミスト状態の潤滑油を供給し、機器の寿命を伸ばすことができる。
【0074】
図7は、他形態に係るスクロール圧縮機10の第1ファン28を前方から見た正面図である。
【0075】
ここでは、第1ファン28の外周面である第1側面部285に、半径方向外側に向かって突起する突起部30が形成される。突起部30は、第1側面部285において、円周方向に沿って略等間隔に配置される。ここで、上下方向において、第1ファン28は第1前段圧縮室141の中心に配置されても良いし、
図7に示した様に下方に偏心して配置されても良い。なお、突起部30はスリンガーとも称される。
【0076】
突起部30を有することで、第1前段圧縮室141の下部に溜まった潤滑油をミスト状にすることができる。具体的には、スクロール圧縮機10の運転時に第1ファン28が回転すると、突起部30が貯留された潤滑油を攪拌し、第1前段圧縮室141の内部において再び潤滑油をミスト状態にして冷媒11と混合する。よって、蒸気圧縮型冷凍サイクルの各機器に、冷媒11と共にミスト状態の潤滑油を供給し、機器の寿命を伸ばすことができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、前述した各形態は相互に組み合わせることが可能である。
【0078】
例えば、
図2を参照して、モータ23は必ずしもケーシング31に内蔵される必要は無く、モータ23をケーシング31の外部に配置することもできる。
本発明のスクロール圧縮機は、蒸気圧縮冷凍サイクルで用いられる冷媒を圧縮する圧縮機であり、固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回可能に配置された可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間隙として形成される圧縮空間と、前記可動スクロールに駆動力を与えるシャフトと、前記シャフトに取り付けられたファンと、前記ファンが収容される前段圧縮室と、を具備し、前記ファンおよび前記前段圧縮室は、前記冷媒の流れにおいて、前記可動スクロールよりも上流側に配置されることを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、前段圧縮室においてファンが回転することで加圧された冷媒を圧縮空間に供給できることから、スクロール圧縮機における圧縮効率を向上できる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記ファンは、第1ファンと、前記第1ファンよりも下流側に配置された第2ファンと、を有し、前記前段圧縮室は、前記第1ファンが収容される第1前段圧縮室と、前記第2ファンが収容される第2前段圧縮室と、を有することを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、ファンおよび前段圧縮室を直列的に複数有することで、更に圧縮された状態の冷媒を圧縮空間に向けて供給することができる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記ファンは、主面部と、送風壁と、を有し、前記主面部は、前記シャフトの軸方向に対して直交する方向に伸びる略円形の面であり、前記送風壁は、前記主面部を部分的に隆起させた部位であり、半径方向外側に向かって壁状に伸びることを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、送風壁が冷媒を半径方向外側に向かって送風することで、冷媒を更に効果的に圧縮できる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記主面部は、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、を有し、前記送風壁は、前記上流側主面部に形成された上流側送風壁と、前記下流側主面部に形成された下流側送風壁と、を有することを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、前段圧縮室の内部において、上流側送風壁および下流側送風壁により冷媒を圧縮できることから、冷媒を更に効果的に圧縮できる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記上流側送風壁の中間部は、前記ファンの回転方向に向かって膨らむように湾曲する形状を呈することを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、ファンが回転することで、上流側送風壁が半径方向外側に向かって冷媒を送風することから、冷媒を更に効果的に圧縮できる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記下流側送風壁の中間部は、前記ファンの回転方向に向かって窪むように湾曲する形状を呈することを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、ファンが回転することで、下流側送風壁が半径方向内側に向かって冷媒を送風することから、冷媒を更に効果的に圧縮できる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記ファンを覆うように構成されたファンケーシングを更に具備し、前記前段圧縮室は、前記ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間に形成された空間であり、前記ファンは、前記冷媒の流れにおける上流側を向く上流側主面部と、前記冷媒の流れにおける下流側を向く下流側主面部と、半径方向外側を向く側面部と、を有し、前記上流側主面部と前記内壁との間隙の厚さと、前記下流側主面部と前記内壁との間隙の厚さと、前記側面部と前記内壁との厚さとは略同一であることを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、ファンケーシングの内壁と前記ファンとの間において効果的に冷媒を圧縮することができる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、上下方向において、前記ファンの下端部と前記前段圧縮室との距離は、前記ファンの上端部と前記前段圧縮室との距離よりも短いことを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、前記ファンの下端部と前記前段圧縮室との距離が短くなることにより、前段圧縮室の下端に貯留した潤滑油を攪拌してミストの状態で冷媒と混合することができる。
また、本発明のスクロール圧縮機では、前記ファンの側面部に、半径方向外側に向かって突起する突起部を形成することを特徴とする。本発明の実施形態にかかるスクロール圧縮機によれば、運転状況下において前段圧縮室の下端に潤滑油が貯留された場合であっても、突起部により潤滑油を攪拌してミストの状態で冷媒と混合することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 スクロール圧縮機
11 冷媒
12 区画壁
13 取入口
14 前段圧縮室
141 第1前段圧縮室
142 第2前段圧縮室
15 ファンケーシング
16 モータ収納室
17 ファン
18 シャフト
19 前室
20 可動スクロール
21 固定スクロール
22 圧縮空間
23 モータ
24 吐出口
25 回転子
26 固定子
261 ステータコア
262 コイル
27 内壁
28 第1ファン
281 第1上流側主面部
282 第1下流側主面部
283 第1上流側送風壁
284 第1下流側送風壁
285 第1側面部
286 第1挿通孔
29 第2ファン
291 第2上流側主面部
292 第2下流側主面部
293 第2上流側送風壁
294 第2下流側送風壁
295 第2側面部
296 第1挿通孔
30 突起部
31 ケーシング
32 前段導入口
33 前段排出口
【要約】
【課題】圧縮率が向上されたスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】スクロール圧縮機10は、固定スクロール21と、固定スクロール21に対して旋回可能に配置された可動スクロール20と、固定スクロール21と可動スクロール20との間隙として形成される圧縮空間22と、可動スクロール20に駆動力を与えるシャフト18と、シャフト18に取り付けられたファン17と、ファン17が収容される前段圧縮室14と、を具備する。スクロール圧縮機10では、ファン17および前段圧縮室14は、冷媒11の流れにおいて、可動スクロール20よりも上流側に配置される。
【選択図】
図3