(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】トルクダンパ装置およびトルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/32 20060101AFI20240326BHJP
F16F 15/123 20060101ALI20240326BHJP
F16F 15/30 20060101ALI20240326BHJP
F16H 45/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16F15/32 A
F16F15/123 A
F16F15/30 Z
F16H45/02 Y
(21)【出願番号】P 2020097646
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕輝
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178720(JP,A)
【文献】特開平11-022806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/32
F16F 15/123
F16F 15/30
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機からの駆動力を受けて回転駆動する平板環状に形成された第1サイドプレートと同第1サイドプレートに対して離隔した位置に対向配置されて同第1サイドプレートと一体的に回転駆動する平板環状の第2サイドプレートとで一対を構成した入力側プレートと、
出力軸に連結される平板環状に形成されて前記第1サイドプレートと前記第2サイドプレートとの間にこれらの両サイドプレートに対して相対回転可能な状態で配置されたセンタープレートと、
前記入力側プレートと前記センタープレートとの間に設けられて同入力側プレートの回転駆動力を前記センタープレートに伝達する弾性体で構成された弾性伝達体とを備え、
前記入力側プレートは、
前記第1サイドプレートおよび前記第2サイドプレートのうちの少なくとも一方のサイドプレートの板面に前記入力側プレートの回転駆動時におけるバランスを調整するためのバランスウエイトを取り付けるための貫通孔からなる複数のウエイト取付孔を有し、
前記ウエイト取付孔は、
前記サイドプレートの外周端部に隣接する外縁部分に周方向に沿って延びる長孔状に形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したトルクダンパ装置において、
前記ウエイト取付孔は、
前記サイドプレートの回転中心を中心とする10°の角度範囲以上の長さに形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したトルクダンパ装置において、
前記ウエイト取付孔は、
前記サイドプレートの回転中心について点対称の位置に前記ウエイト取付孔の開口部が重なって形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記ウエイト取付孔は、
前記サイドプレートの周方向に沿って直線状に長孔状に形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記入力側プレートは、
前記サイドプレートの周囲の一部が同サイドプレートの軸方向に張り出した張出部が形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記入力側プレートは、
作動油を収容した収容空間内に設けられるとともに、前記ウエイト取付孔が対向する前記第1サイドプレートまたは前記第2サイドプレートにおける同ウエイト取付孔に対向する部分に貫通孔からなるサイドプレート対向貫通孔が形成されており、
前記センタープレートは、
前記ウエイト取付孔および前記サイドプレート対向貫通孔にそれぞれ対向する部分に貫通孔からなるセンタープレート対向貫通孔が形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記入力側プレートは、
前記サイドプレートの周方向で互いに隣接する2つの前記ウエイト取付孔の間の長さが、これら2つのウエイト取付孔の周方向の各長さよりも短い長さに形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記入力側プレートは、
前記ウエイト取付孔の周囲に前記バランスウエイトの前記ウエイト取付孔内での位置を規定するために前記バランスウエイトの一部に嵌合するウエイト嵌合部を備えることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置において、
前記バランスウエイトは、
前記サイドプレートを挟むクリップ状に形成されていることを特徴とするトルクダンパ装置。
【請求項10】
作動油を収容する収容空間を形成しつつ同空間内に前記作動油を流動させるポンプインペラを有して原動機の駆動力によって前記ポンプインペラとともに回転駆動するトルコンカバーと、
前記ポンプインペラに対向配置されて前記作動油の流動によって回転駆動して出力軸を回転駆動させるタービンランナと、
請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置とを備えることを特徴とするトルクコンバータ。
【請求項11】
請求項10に記載したトルクコンバータにおいて、さらに、
前記トルコンカバーの回転駆動力を前記トルクダンパ装置における前記入力側プレートに伝達または遮断するクラッチ装置を備え、
前記入力側プレートは、
前記原動機からの駆動力を前記トルコンカバーおよび前記クラッチ装置をそれぞれ介して受けて回転駆動することを特徴とするトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンなどの原動機からのトルク変動を吸収するトルクダンパ装置およびこのトルクダンパ装置を備えたトルクコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主として自動変速機を備えた自走式車両(所謂AT車)においては、エンジンと変速機との間にトルクコンバータが設けられている。トルクコンバータは、互いに対向配置されたポンプインペラとタービンランナとの間で作動油が循環することによってエンジンからの駆動力を出力軸側に増幅して伝達する機械装置である。このトルクコンバータにおいては、エンジンの回転駆動力の変動(「トルク変動」ともいう)を減衰するためのコイルスプリングを備えたトルクダンパ装置が設けられている。例えば、下記特許文献1には、第1入力プレートおよび第2入力プレートにそれぞれ形成したバランスウエイト取付孔にバランスウエイトを取り付けて回転駆動時におけるアンバランスを解消するようにしたトルクダンパ装置としてのダンパ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたトルクダンパ装置においては、バランスウエイトがバランスウエイト取付孔における特定の位置にしか取り付けることができないため、第1入力プレートおよび第2入力プレートの回転駆動時におけるアンバランスの解消調整作業が困難という問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、回転駆動する入力側プレートのアンバランスの解消調整作業を容易化することができるトルクダンパ装置およびトルクコンバータを提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動機からの駆動力を受けて回転駆動する平板環状に形成された第1サイドプレートと同第1サイドプレートに対して離隔した位置に対向配置されて同第1サイドプレートと一体的に回転駆動する平板環状の第2サイドプレートとで一対を構成した入力側プレートと、出力軸に連結される平板環状に形成されて第1サイドプレートと第2サイドプレートとの間にこれらの両サイドプレートに対して相対回転可能な状態で配置されたセンタープレートと、入力側プレートとセンタープレートとの間に設けられて同入力側プレートの回転駆動力をセンタープレートに伝達する弾性体で構成された弾性伝達体とを備え、入力側プレートは、第1サイドプレートおよび第2サイドプレートのうちの少なくとも一方のサイドプレートの板面に入力側プレートの回転駆動時におけるバランスを調整するためのバランスウエイトを取り付けるための貫通孔からなる複数のウエイト取付孔を有し、ウエイト取付孔は、サイドプレートの外周端部に隣接する外縁部分に周方向に沿って延びる長孔状に形成されていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、トルクダンパ装置は、ウエイト取付孔がサイドプレートにおける外縁部分に周方向に沿って延びる長孔状に形成されているため、バランスウエイトの取付位置を周方向に調整することができるとともに、ウエイト取付孔に取り付けられるバランスウエイトの大きさも選択できるため、回転駆動する入力側プレートのアンバランスの解消調整作業を容易化することができる。この場合、バランスウエイトは、ウエイト取付孔とサイドプレートの外周端部との間に位置するようにウエイト取付孔に取り付けられることによってバランスウエイトをサイドプレートの最外縁部に位置させて僅かな重量のバランスウエイトでも大きな慣性力を発揮させることができる。また、長孔とは、一方向における長さがこの一方向に直交する幅方向に対して長く全体として細長く延びた貫通孔である。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、ウエイト取付孔は、サイドプレートの回転中心を中心とする10°の角度範囲以上の長さに形成されていることにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、ウエイト取付孔がサイドプレートの回転中心を中心とする10°の角度範囲以上の長さに形成されているため、バランスウエイトの取付位置を周方向での調整幅およびウエイト取付孔に取り付け可能なバランスウエイトの大きさの選択肢をそれぞれ広くすることができ、入力側プレートのアンバランスの解消作業を簡単にかつ高精度に行うことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、ウエイト取付孔は、サイドプレートの回転中心について点対称の位置にウエイト取付孔の開口部が重なって形成されていることにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、ウエイト取付孔がサイドプレートの回転中心について点対称の位置にウエイト取付孔の開口部が重なるように形成されているため、入力側プレートの回転中心を介した径方向でのバランスの調整作業を簡単にかつ高精度に行うことができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、ウエイト取付孔は、サイドプレートの周方向に沿って直線状に長孔状に形成されていることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、ウエイト取付孔がサイドプレートの周方向に沿って直線状に長孔状に形成されているため、ウエイト取付孔を周方向に沿って曲線状に形成する場合に比べて大きさの異なるトルクダンパ装置間でもバランスウエイトの共通化を図り易くすることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、入力側プレートは、サイドプレートの周囲の一部が同サイドプレートの軸方向に張り出した張出部が形成されていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、入力側プレートがサイドプレートの周囲の一部が同サイドプレートの軸方向に張り出した張出部が形成されているため、長孔状に形成されたウエイト取付孔およびこのウエイト取付孔が形成されたサイドプレートの外縁部の剛性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、入力側プレートは、作動油を収容した収容空間内に設けられるとともに、ウエイト取付孔が対向する第1サイドプレートまたは第2サイドプレートにおける同ウエイト取付孔に対向する部分に貫通孔からなるサイドプレート対向貫通孔が形成されており、センタープレートは、ウエイト取付孔およびサイドプレート対向貫通孔にそれぞれ対向する部分に貫通孔からなるセンタープレート対向貫通孔が形成されていることにある。
【0017】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、ウエイト取付孔に対向する第1サイドプレート上または第2サイドプレート上における部分にサイドプレート対向貫通孔が形成されるとともに、ウエイト取付孔およびサイドプレート対向貫通孔にそれぞれ対向するセンタープレート上の部分にセンタープレート対向貫通孔が形成されている。これにより、トルクダンパ装置は、入力側プレートおよびセンタープレートに対して軸方向に作動油が遮られるものがなく直接貫通した状態で流通するため、作動油を収容する収容室内における作動油の流通性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、入力側プレートは、サイドプレートの周方向で互いに隣接する2つのウエイト取付孔の間の長さが、これら2つのウエイト取付孔の周方向の各長さよりも短い長さに形成されていることにある。
【0019】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、入力側プレートにおけるサイドプレートの周方向で互いに隣接する2つのウエイト取付孔の間の長さが、これら2つのウエイト取付孔の周方向の各長さよりも短い長さに形成されているため、ウエイト取付孔およびサイドプレートの強度低下を抑制しつつバランスウエイトの取付位置の範囲を広範囲に確保して高精度なバランス調整によるアンバランスの解消を行うことができる。
【0020】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、入力側プレートは、ウエイト取付孔の周囲にバランスウエイトのウエイト取付孔内での位置を規定するためにバランスウエイトの一部に嵌合するウエイト嵌合部を備えることにある。
【0021】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、入力側プレートにおけるウエイト取付孔の周囲にバランスウエイトのウエイト取付孔内での位置を規定するためにバランスウエイトの一部に嵌合するウエイト嵌合部が形成されているため、ウエイト取付孔に取り付けられたバランスウエイトの位置ずれを防止して安定的に取り付けることができる。この場合、ウエイト嵌合部は、バランスウエイトの一部に嵌合する貫通孔または凹部などが考えられる。また、このウエイト嵌合部は、1つのウエイト取付孔に対して1つだけ設けてもよいが複数設けることができる。
【0022】
また、本発明の他の特徴は、前記トルクダンパ装置において、バランスウエイトは、サイドプレートを挟むクリップ状に形成されていることにある。
【0023】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、トルクダンパ装置は、バランスウエイトがサイドプレートを挟むクリップ状に形成されているため、ウエイト取付孔に対する取り付け、位置調整および取り外しの各作業性を良好にすることができる。
【0024】
また、本発明はトルクダンパ装置の発明として実施できるばかりでなく、このトルクダンパ装置を備えるトルクコンバータの発明としても実施できるものである。
【0025】
具体的には、トルクコンバータは、作動油を収容する収容空間を形成しつつ同空間内に作動油を流動させるポンプインペラを有して原動機の駆動力によってポンプインペラとともに回転駆動するトルコンカバーと、ポンプインペラに対向配置されて作動油の流動によって回転駆動して出力軸を回転駆動させるタービンランナと、請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載したトルクダンパ装置とを備えるとよい。これによれば、トルクコンバータは、上記トルクダンパ装置と同様の作用効果を期待することができる。
【0026】
また、この場合、トルクコンバータにおいて、さらに、トルコンカバーの回転駆動力をトルクダンパ装置における入力側プレートに伝達または遮断するクラッチ装置を備え、入力側プレートは、原動機からの駆動力をトルコンカバーおよびクラッチ装置をそれぞれ介して受けて回転駆動するようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るトルクコンバータ内におけるトルクダンパ装置の構成を概略的に示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す2-2線から見たトルクダンパ装置を含むトルクコンバータの構成を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す3-3線から見たトルクダンパ装置を含むトルクコンバータの構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す4-4線から見たトルクダンパ装置を含むトルクコンバータの構成を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図2~
図4にそれぞれ示すトルクダンパ装置における第1サイドプレートの外観構成を示した正面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す6-6線から見た第1サイドプレートの断面図である。
【
図7】(A),(B)は、
図1および
図2にそれぞれ示すトルクダンパ装置におけるバランスウエイトの外観構成を示しており、(A)はバランスウエイトの正面図であり、(B)は(A)に示すB-B線から見たバランスウエイトの断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の変形例に係る入力側プレートおよびバランスウエイトの構成の概略を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るトルクダンパ装置を備えたトルクコンバータの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るトルクコンバータ100内におけるトルクダンパ装置110の構成を概略的に示す正面図である。また、
図2は、
図1に示す2-2線から見たトルクダンパ装置110を含むトルクコンバータ100の構成を概略的に示す断面図である。また、
図3は、
図1に示す3-3線から見たトルクダンパ装置110を含むトルクコンバータ100の構成を概略的に示す断面図である。また、
図4は、
図1に示す4-4線から見たトルクダンパ装置110を含むトルクコンバータ100の構成を概略的に示す断面図である。このトルクコンバータ100は、主として自動変速機を備えた自動車(所謂AT車またはCVT車)において、エンジンと変速機との間に設けられてエンジンの駆動力を増幅して変速機に伝達する機械装置である。
【0029】
(トルクコンバータ100の構成)
トルクコンバータ100は、トルコンカバー101を備えている。トルコンカバー101は、図示しない車両のエンジン(原動機)からの駆動力によって回転駆動する部品であり、主として、入力側半体101aとポンプ側半体101bとで構成されている。入力側半体101aは、トルコンカバー101の一部を構成する部品であり、金属製の円盤の外縁部が屈曲して延びる略カップ状に形成されている。この入力側半体101aは、背面(図示右側側面)がエンジンから延びる図示しないクランクシャフトに対して連結部品101cを介して連結されるとともに、前記屈曲した外縁部にポンプ側半体101bが接続されている。
【0030】
ポンプ側半体101bは、トルコンカバー101の他の一部を構成する金属製の部品であり、入力側半体101aに嵌合する略カップ状の部分を有した円筒状に形成されている。このポンプ側半体101bの内壁面には、ポンプインペラ102が設けられている。
【0031】
ポンプインペラ102は、トルコンカバー101と一体的に回転駆動して作動油108をタービンランナ104に送る羽根車であり、ポンプ側半体101bの内壁面に放射状に形成されている。そして、このポンプ側半体101bは、入力側半体101aに嵌合した状態で固定的に取り付けられることによって入力側半体101aとポンプ側半体101bとの間に作動油108およびポンプインペラ102をそれぞれ収容する収容空間103を形成して入力側半体101aと一体的に回転する。この収容空間103には、作動油108およびポンプインペラ102のほかに、タービンランナ104、ステータ105、トルクダンパ装置110およびクラッチ機構130がそれぞれ設けられている。
【0032】
タービンランナ104は、ポンプインペラ102の回転駆動による作動油108の流動によって回転する羽根車であり、ポンプインペラ102に対して対向するとともに相対回転可能な状態で設けられている。より具体的には、タービンランナ104は、後述するセンタープレート124とともにリベット128を介してタービンハブ127に連結されている。
【0033】
ステータ105は、タービンランナ104から還流する作動油108の流れを整流してポンプインペラ102に送る羽根車であり、ワンウェイクラッチ106を介して出力軸107に取り付けられている。ワンウェイクラッチ106は、ステータ105をタービンランナ104の回転方向と同じ方向にのみ回転可能に支持する部品であり、出力軸107上にベアリングを介してスプライン嵌合している。
【0034】
出力軸107は、トルクコンバータ100の回転駆動力を外部に対して出力するための部品であり、金属製の棒体で構成されている。本実施形態においては、出力軸107は、図示しない変速機(トランスミッション)に連結されている。
【0035】
作動油108は、ポンプインペラ102とタービンランナ104との間で動力を伝達するとともに収容空間103内を流動して収容空間103内に設けられている各部品を潤滑、冷却および洗浄する物質(鉱物油)であり、収容空間103内に満たされている。この作動油108は、トルクコンバータ100の外部に設けられている図示しない供給装置によって出力軸107を介して供給が制御される。なお、作動油108は、
図2~
図4において破線円で示している。
【0036】
トルクダンパ装置110は、ポンプインペラ102とタービンランナ104とを作動油108を介さずに直結するための機械装置であり、入力側プレート111を備えている。入力側プレート111は、トルコンカバー101の入力側半体101aからクラッチ機構130を介して伝達される回転駆動力によって回転駆動する部品であり、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113をそれぞれ備えて構成されている。
【0037】
第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、
図5および
図6にそれぞれ示すように、入力側半体101aからクラッチ機構130を介して伝達される回転駆動力を内周側ダンパスプリング125および外周側ダンパスプリング126をそれぞれ介してセンタープレート124に伝達するための部品であり、金属材を平板環状に形成してそれぞれ構成されている。これらの第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、互いに同じ形状に形成されている。具体的には、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113には、主として、内周側スプリング収容部112a,113a、外周側スプリング収容部112b,113b、ウエイト取付孔114,115および張出部116,117がそれぞれ形成されている。なお、
図5および
図6は、第1サイドプレート112を示しているが、第2サイドプレート113についても同様に構成されている。
【0038】
内周側スプリング収容部112aは、内周側スプリング収容部113aおよび後述するセンタープレート124の内周側スプリング収容部124aによって内周側ダンパスプリング125を保持する部分であり、第1サイドプレート112の周方向に沿って延びる略長方形の長孔状に形成されている。この場合、内周側スプリング収容部112aは、第1サイドプレート112の径方向の内側および外側の各辺部分が第1サイドプレート112の盤面から曲面状にそれぞれ隆起して内周側ダンパスプリング125を保持するように形成されている。この内周側スプリング収容部112aは、第1サイドプレート112の中心部に形成された貫通孔の外側に周方向に沿って等間隔で複数(6つ)形成されている。
【0039】
外周側スプリング収容部112bは、外周側スプリング収容部113bおよびセンタープレート124の外周側スプリング収容部124bによって外周側ダンパスプリング126を保持する部分であり、第1サイドプレート112の周方向に沿って延びる略長方形の長孔状に形成されている。この場合、外周側スプリング収容部112bは、前記内周側スプリング収容部112aよりも小さい大きさで形成されている。また、外周側スプリング収容部112bは、第1サイドプレート112の径方向の内側および外側の各辺部分が第1サイドプレート112の盤面から曲面状にそれぞれ隆起して外周側ダンパスプリング126を保持するように形成されている。この外周側スプリング収容部112bは、前記内周側スプリング収容部112aよりも外側の位置に周方向に沿って等間隔で複数(3つ)形成されている。
【0040】
ウエイト取付孔114は、バランスウエイト120を取り付けるための部分であり、第1サイドプレート112の周方向に沿って延びる略長方形状の長孔状に形成されている。この場合、ウエイト取付孔114の周方向の長さは、第1サイドプレート112の回転中心Oを中心とする10°の角度範囲α以上となる長さに形成されている。また、ウエイト取付孔114の開口部の大きさは、バランスウエイト120を取り付けた状態で開口部が塞がれることなく外部に露出する大きさに形成されている。
【0041】
このウエイト取付孔114は、第1サイドプレート112の外周端部112cに隣接する環状の外縁部分112dに環状に配置されるように複数形成されている。本実施形態においては、ウエイト取付孔114は、12個のウエイト取付孔114a~114lが第1サイドプレート112の外縁部分112dに沿って環状に配置されて形成されている。
【0042】
この場合、ウエイト取付孔114a~114lは、第1サイドプレート112の回転中心Oについて点対称の位置にウエイト取付孔114a~114lのいずれかの開口部が重なるように形成されている。例えば、本実施形態においては、ウエイト取付孔114aに対して回転中心Oを介した径方向の反対側にウエイト取付孔114gが形成されている。この場合、ウエイト取付孔114aとウエイト取付孔114gとは、回転中心Oを介して互いの開口部の少なくとも一部同士が重なるように形成されている。換言すれば、ウエイト取付孔114aおよびウエイト取付孔114gは、回転中心Oを中心として180°だけ位置をずらした際に開口部同士が重なるように形成されている。
【0043】
なお、本実施形態においては、ウエイト取付孔114bとウエイト取付孔114h、ウエイト取付孔114cとウエイト取付孔114i、ウエイト取付孔114dとウエイト取付孔114j、ウエイト取付孔114eとウエイト取付孔114kおよびウエイト取付孔114fとウエイト取付孔114lについても、ウエイト取付孔114aとウエイト取付孔114gと同様に形成されている。
【0044】
また、ウエイト取付孔114a~114lのうちの一部は、互いに隣接する2つのウエイト取付孔114a~114lの間の長さL1が、これら2つのウエイト取付孔114a~114lの周方向の各長さL2よりも短くなるように近接配置されている。例えば、本実施形態においては、ウエイト取付孔114aとウエイト取付孔114bとは、両者の間の長さL1が、ウエイト取付孔114aおよびウエイト取付孔114bの各長さL2も短くなるように配置されている。
【0045】
なお、本実施形態においては、ウエイト取付孔114cとウエイト取付孔114d、ウエイト取付孔114eとウエイト取付孔114f、ウエイト取付孔114gとウエイト取付孔114h、ウエイト取付孔114iとウエイト取付孔114j、ウエイト取付孔114kとウエイト取付孔114lについても、ウエイト取付孔114aとウエイト取付孔114bと同様に近接配置されている。
【0046】
また、この場合、これらの互いに隣接配置された2つのウエイト取付孔114a~114lに対して隣接するウエイト取付孔114a~114lとの長さL3については、前記長さL1よりも長くL2と同じまたはそれ以上の長さに設定された遠隔配置で配置されている。
【0047】
これらのウエイト取付孔114a~114lの周囲の一部には、張出部116が形成されている。張出部116は、第1サイドプレート112の剛性を向上させるとともにバランスウエイト120の取付部分を構成する部分であり、第1サイドプレート112の外縁部分112dに形成されている。より具体的には、張出部116は、ウエイト取付孔114a~114lの周囲における径方向外側部分に軸方向に台地状に隆起した状態で形成されている。この場合、張出部116は、前記した互いに隣接配置された2つのウエイト取付孔114a~114l間に跨って形成されている。
【0048】
すなわち、張出部116は、本実施形態においては、第1サイドプレート112の周方向に沿って等間隔に6つ形成されている。また、張出部116の張出量は、バランスウエイト120の板厚以上に設定することで、第1サイドプレート112とセンタープレート124との間の隙間を流動する作動油108の流通を妨げることを防止することができる。これらの各張出部116は、第1サイドプレート112をプレス加工によって塑性変形させて形成されている。また、各張出部116には、ウエイト嵌合部118が形成されている。
【0049】
ウエイト嵌合部118は、第1サイドプレート112に取り付けられるバランスウエイト120の取付位置を規定するための部分であり、バランスウエイト120のプレート嵌合部121が嵌合する貫通孔で構成されている。このウエイト嵌合部118は、張出部116におけるウエイト取付孔114a~114lの周方向の各中央部にそれぞれ形成されている。本実施形態においては、ウエイト嵌合部118は、1つのウエイト取付孔114a~114lごとに1つずつ形成されているが、2つ以上形成されていてもよいことは当然である。
【0050】
第2サイドプレート113に形成される内周側スプリング収容部113a、外周側スプリング収容部113b、ウエイト取付孔115,115a~115l、張出部117およびウエイト嵌合部119は、内周側スプリング収容部112a、外周側スプリング収容部112b、ウエイト取付孔114,114a~114l、張出部116およびウエイト嵌合部118と全く同じ構成であるため、その説明は省略する。
【0051】
バランスウエイト120は、
図7(A),(B)にそれぞれ示すように、入力側プレート111の回転駆動時における動的なアンバランスを解消するための部品であり、金属材の板材をU字状に折り曲げてクリップ状に形成されている。すなわち、バランスウエイト120は、張出部116,117をウエイト取付孔114,115の内側から挟むように構成されている。このバランスウエイト120の内側面には、プレート嵌合部121が形成されている。
【0052】
プレート嵌合部121は、張出部116,117にそれぞれ形成されたウエイト嵌合部118,119に嵌合させてバランスウエイト120の取付状態を安定化させるための部分であり、バランスウエイト120の内側面から凸状の半球形状に突出して形成されている。本実施形態においては、プレート嵌合部121は、1つのバランスウエイト120に対して1つ形成されているが、2つ以上形成されていてもよいことは当然である。
【0053】
このバランスウエイト120は、種々の大きさおよび重さのものが予め用意される。そして、トルクダンパ装置110を製造する作業者が、入力側プレート111の回転駆動時の動的なアンバランス状態に応じて第1サイドプレート112および/または第2サイドプレート113における各張出部116,117に取り付ける。したがって、バランスウエイト120は、トルクダンパ装置110ごとに異なる位置に取り付けられる位置および数が異なることがあるとともに、1つも取り付けられないこともある。なお、
図2においては、バランスウエイト120を第2サイドプレート113に取り付けた状態を示している。
【0054】
これらの第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、センタープレート124を軸方向から挟んだ状態で3つリベット122によって一体化されて入力側プレート111を構成している。この場合、入力側プレート111には、クラッチ連結プレート123がリベット122を介して第1サイドプレート112に連結されている。
【0055】
クラッチ連結プレート123は、トルコンカバー101の入力側半体101aからクラッチ機構130を介して伝達される回転駆動力によって回転駆動する部品であり、平面状の円環部を有した平面視で円環状に形成されている。
【0056】
このクラッチ連結プレート123は、内縁部の径方向外側部分がクラッチ機構130側に折り曲げられて筒状のクラッチ板保持部123aが形成されているとともに、外縁部が第1サイドプレート112の盤面にリベット122を介して連結されている。クラッチ板保持部123aは、後述する従動側クラッチプレート135をクラッチ連結プレート123の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチ連結プレート123と一体回転可能な状態保持する部分であり、外歯歯車状のスプラインで構成されている。
【0057】
センタープレート124は、内周側ダンパスプリング125および外周側ダンパスプリング126をそれぞれ介して入力側プレート111から受ける回転駆動力によって回転駆動する部品であり、円環状の板状体で構成されている。このセンタープレート124は、内縁部がタービンハブ127に一体的に固着しているとともに前記第1サイドプレート112と第2サイドプレート113との間において周方向に相対変位可能な状態で第1サイドプレート112および第2サイドプレート113にそれぞれ連結されている。また、センタープレート124には、6個の内周側スプリング収容部124a、3個の外周側スプリング収容部124bおよび12個のセンタープレート対向貫通孔124cがそれぞれ形成されている。
【0058】
内周側スプリング収容部124aは、内周側ダンパスプリング125を収容する貫通孔であり、センタープレート124の周方向に沿って延びる略方形の長孔状に形成されている。これらの内周側スプリング収容部124aは、内周側スプリング収容部112a,113aにそれぞれ対向する位置に形成されている。
【0059】
外周側スプリング収容部124bは、外周側ダンパスプリング126を収容する貫通孔であり、センタープレート124の周方向に沿って延びる略方形の長孔状に形成されている。これらの外周側スプリング収容部124bは、外周側スプリング収容部112b,113bにそれぞれ対向する位置に形成されている。
【0060】
センタープレート対向貫通孔124cは、収容空間103内に満たされている作動油108の収容空間103内での流動性を向上させるための部分であり、センタープレート124の軸方向に貫通する貫通孔で構成されている。このセンタープレート対向貫通孔124cは、前記したウエイト取付孔114,115に対向する位置に同じ大きさおよび形状で形成されている。
【0061】
内周側ダンパスプリング125は、外周側ダンパスプリング126とともに入力側プレート111から伝達される回転駆動力の変動を減衰しながらセンタープレート124に伝達する部品であり、鋼製のコイルスプリングによって構成されている。また、外周側ダンパスプリング126は、内周側ダンパスプリング125とともに入力側プレート111から伝達される回転駆動力の変動を減衰しながらセンタープレート124に伝達する部品であり、鋼製のコイルスプリングによって構成されている。
【0062】
これらの内周側ダンパスプリング125と外周側ダンパスプリング126とは、互いに異なる線径、太さおよび長さに形成されて互いに異なるバネ特性で構成されている。なお、内周側ダンパスプリング125と外周側ダンパスプリング126とは、互いに同じバネ特性で構成されていてもよいことは当然である。また、
図3においては、内周側ダンパスプリング125および外周側ダンパスプリング126をそれぞれ二点鎖線で示している。また、
図4においては、内周側ダンパスプリング125を二点鎖線で示している。
【0063】
タービンハブ127は、タービンランナ104およびセンタープレート124の各回転駆動力を出力軸107に伝達させるための金属製の部品であり、円筒体の外周面に円板体が張り出すフランジ状に形成されている。このタービンハブ127は、内周部に内歯歯車状のスプラインが形成されて出力軸107にスプライン嵌合するとともに、外周部にタービンランナ104およびセンタープレート124の各内縁部がリベット128を介して連結されている。また、タービンハブ127には、作動油108を軸方向に流通させるための貫通孔からなる複数の流通孔127aが形成されている。
【0064】
クラッチ機構130は、エンジンからトルコンカバー101に伝達される回転駆動力をトルクダンパ装置110に対して伝達および遮断を行なう機械装置である。このクラッチ機構130は、クラッチ板保持体131を備えている。
【0065】
クラッチ板保持体131は、後述するクラッチピストン136の外縁部を収容しつつ複数(本実施形態においては2つ)の駆動側クラッチプレート132およびストッパプレート133をそれぞれ保持する部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。このクラッチ板保持体131は、一方(図示右側)の端部がトルコンカバー101の入力側半体101aの内壁部に固定的に取り付けられてトルコンカバー101と一体的に回転駆動するように構成されている。
【0066】
また、クラッチ板保持体131は、内周部に内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインを介して複数の駆動側クラッチプレート132をおよび1つのストッパプレート133をクラッチ板保持体131の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチ板保持体131と一体回転可能な状態で保持している。
【0067】
駆動側クラッチプレート132は、後述する従動側クラッチプレート135に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。この場合、駆動側クラッチプレート132の外周部には、クラッチ板保持体131の内周部に形成されたスプラインと嵌合させるための外歯歯車状のスプラインが形成されている。この駆動側クラッチプレート132は、クラッチ板保持体131内にて2つの従動側クラッチプレート135に対して交互に配置されている。
【0068】
ストッパプレート133は、駆動側クラッチプレート132および従動側クラッチプレート135をクラッチピストン136とで挟むための部品であり、金属材を平板環状に形成して構成されている。このストッパプレート133は、クラッチ板保持体131の内周部にて駆動側クラッチプレート132および従動側クラッチプレート135よりも図示左側に配置されており、同内周部における図示左側端部に設けられたストッパ134によって図示左側への移動が規制されている。
【0069】
従動側クラッチプレート135は、前記駆動側クラッチプレート132に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。この従動側クラッチプレート135の内周部には、前記したクラッチ板保持部123aに形成されたスプラインと嵌合させるための内側歯車状のスプラインが形成されている。すなわち、クラッチ板保持部123aは、クラッチ機構130の一部を構成する。
【0070】
クラッチピストン136は、クラッチ板保持体131内において互いに交互に配置された駆動側クラッチプレート132および従動側クラッチプレート135を押圧またはこれらから離隔することで駆動側クラッチプレート132と従動側クラッチプレート135とを互いに密着および離隔させるための金属製の部品であり、円筒体の外周面に円板体が張り出すフランジ状に形成されている。このクラッチピストン136は、円筒状の内周部がクラッチハブ137を介して出力軸107に対して相対回転自在に支持されている。
【0071】
また、クラッチピストン136は、トルコンカバー101の入力側半体101aの内壁部との間に隙間Sが確保されており、この隙間S内にクラッチハブ137を介して作動油108が導入または流出することで駆動側クラッチプレート132および従動側クラッチプレート135に対して接近または離隔する。
【0072】
クラッチハブ137は、クラッチピストン136を出力軸107上で相対回転可能な状態で支持する部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。このクラッチハブ137には、クラッチピストン136を作動させる作動油108を隙間Sに対して出し入れするための導入孔が形成されている。
【0073】
(トルクダンパ装置110のバランス調整作業)
次に、上記のように構成したトルクダンパ装置110のバランス調整作業について説明する。作業者は、まず、トルクダンパ装置110、バランスウエイト120および図示しないバランシング装置をそれぞれ用意する。ここで、バランシング装置は、トルクダンパ装置110を回転駆動させることで回転駆動時における動的なアンバランラス状態を検出する公知の機械装置である。
【0074】
次に、作業者は、トルクダンパ装置110をバランシング装置に把持させて回転駆動させることでトルクダンパ装置110のアンバランス状態を把握する。次に、作業者は、入力側プレート111に対してトルクダンパ装置110のアンバランス状態を解消できる位置にバランスウエイト120を取り付ける。具体的には、作業者は、第1サイドプレート112におけるウエイト取付孔114および/または第2サイドプレート113におけるウエイト取付孔115に対してバランスウエイト120の必要性に応じて取り付けることができる。
【0075】
すなわち、作業者は、バランスウエイト120の取り付けが必要な場合には、アンバランス状態の解消に必要な位置のウエイト取付孔114および/またはウエイト取付孔115に対して必要な大きさ(重さ)のバランスウエイト120を自由に選択して取り付けることができる。この場合、作業者は、張出部116,117が形成されて第1サイドプレート112とセンタープレート124との間の隙間、および第2サイドプレート113とセンタープレート124との間の隙間がそれぞれ拡大しているため、バランスウエイト120内に対する張出部116,117の挿し込みまたは抜き出しが行い易くなっている。すなわち、バランスウエイト120は、トルクダンパ装置110の組み立て時のほか、メンテナンス時においても取り外しできるように着脱自在に取り付けられている。
【0076】
そして、トルクダンパ装置110のアンバランス状態を解消した場合には、作業者は、このトルクダンパ装置110をバランシング装置から取り外してトルクコンバータ100の製造を行う。このトルクコンバータ100の製造過程は、本発明に直接関らないため、その説明は省略する。
【0077】
(トルクコンバータ100の作動)
次に、上記のように構成したトルクコンバータ100の作動について説明する。このトルクコンバータ100は、所謂AT車またはCVT車においてエンジンと変速機との間に配置されて機能する。具体的には、トルクコンバータ100は、まず、車両の運転者によるブレーキの解除およびアクセルペダルの踏み込みによってエンジンの回転駆動力がトルコンカバー101に伝達されてトルコンカバー101およびポンプインペラ102が一体的に回転駆動する。
【0078】
次いで、トルクコンバータ100は、トルクコンバータ100内の作動油108が循環することによりタービンランナ104が回転駆動する。これにより、トルクコンバータ100を搭載する車両は、タービンランナ104の回転駆動力がタービンハブ127を介して出力軸107に伝達されることで走行を開始する。
【0079】
次に、トルクコンバータ100は、運転者による加速操作によってトルコンカバー101の入力側半体101aの内壁部とクラッチピストン136との間の隙間Sに作動油108が供給されることでクラッチピストン136が駆動側クラッチプレート132と従動側クラッチプレート135とを圧接させる。これにより、入力側プレート111は、クラッチ機構130を介してトルコンカバー101と連結されて一体的に回転駆動するため、トルコンカバー101の回転駆動力は内周側ダンパスプリング125および外周側ダンパスプリング126をそれぞれ介してセンタープレート124に弾性的に伝達される。
【0080】
これにより、出力軸107は、タービンハブ127を介してセンタープレート124から伝達される回転駆動力によって回転駆動する。すなわち、トルクコンバータ100は、エンジンからの回転駆動力が増加する初期段階においてはポンプインペラ102とタービンランナ104との間を流れる作動油108による流体を介したトルク伝達を行なった後、トルコンカバー101がクラッチ機構130およびトルクダンパ装置110をそれぞれ介した機械的な連結によるトルク伝達に切り替えてエンジンからの回転駆動力を連続的に出力軸107に伝達するロックアップ状態となる。
【0081】
このロックアップ状態の前後におけるポンプインペラ102およびタービンランナ104の回転駆動時においては、収容空間103内の作動油108が回転駆動状態に応じて激しく流動する。この場合、トルクダンパ装置110は、第1サイドプレート112、センタープレート124および第2サイドプレート113において同一の径方向位置でかつ同一の周方向の位置に形成されて軸方向に貫通した状態でウエイト取付孔114、センタープレート対向貫通孔124cおよびウエイト取付孔115が形成されているため、トルクダンパ装置110の軸方向の両側間での作動油108の流動性を確保することができる。すなわち、ウエイト取付孔114,115は、本発明に係るサイドプレート対向貫通孔としても機能している。
【0082】
一方、トルクコンバータ100は、車両の運転者によるブレーキの踏み込みまたはアクセルペダルの解除などの減速操作によってエンジンの回転駆動力が減少すると入力側プレート111とセンタープレート124との周方向への相対変位量が減少する。また、トルクコンバータ100は、トルコンカバー101の入力側半体101aの内壁面とクラッチピストン136との間の隙間S内の作動油108が流出されてクラッチピストン136が駆動側クラッチプレート132および従動側クラッチプレート135から離隔する。これにより、トルクコンバータ100は、ロックアップ状態が解消されてポンプインペラ102とタービンランナ104との間を流れる作動油108による流体を介したトルク伝達状態に移行する。
【0083】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、トルクコンバータ100は、トルクダンパ装置110におけるウエイト取付孔114,115が第1サイドプレート112および第2サイドプレート113における外縁部分112d,113dに周方向に沿って延びる長孔状に形成されているため、バランスウエイト120の大きさを自由に選択できるため、回転駆動する入力側プレート111のアンバランスの解消調整作業を容易化することができる。この場合、バランスウエイト120は、ウエイト取付孔114,115と第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の各外周端部112c,113cとの間、すなわち、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の最外縁部に位置させて僅かな重量のバランスウエイト120でも大きな慣性力を発揮させることができトルクコンバータ100全体の軽量化を図ることができる。
【0084】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、各変形例の説明においては、上記実施形態と同様の部分については同じ符号を付している。
【0085】
例えば、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113にそれぞれ形成するように構成した。しかし、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113のうちの少なくとも一方のサイドプレートに形成されていればよい。
【0086】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の各周方向に沿って12個ずつ形成した。しかし、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113のうちの少なくとも一方のサイドプレートに複数形成されていればよい。この場合、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112と第2サイドプレート113とで互いに異なる数、異なる位置または異なる大きさで形成することもできる。また、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113のうちの少なくとも一方のサイドプレート上においてすべてのウエイト取付孔114,115を等間隔または非等間隔に配置することもできる。
【0087】
したがって、ウエイト取付孔114,115は、上記実施形態においては、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の回転中心Oについて点対称の位置に形成されているが、回転中心Oについて非点対称の位置に形成することもできるものである。例えば、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の周方向に沿って等間隔に3つずつ形成することもできる。
【0088】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112の回転中心Oを中心とする10°の角度範囲α以上となる長さに形成されている。しかし、ウエイト取付孔114,115は、第1サイドプレート112の回転中心Oを中心とする10°以下の角度範囲α未満で形成されていてもよいことは当然である。
【0089】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114a~114lは、一部のウエイト取付孔114a~114lを近接配置した(ウエイト取付孔115についても同様)。これにより、トルクダンパ装置110は、ウエイト取付孔114,115、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113の強度低下を抑制しつつバランスウエイト120の取付位置の範囲を広範囲に確保して高精度なバランス調整によるアンバランスの解消を行うことができる。しかし、ウエイト取付孔114は、すべてのウエイト取付孔114a~114lについて近接配置するようにしてもよいし、すべてのウエイト取付孔114a~114lについて近接配置よりも間隔を離した遠隔配置で配置するようにしてもよい(ウエイト取付孔115についても同様)。なお、トルクダンパ装置110は、ウエイト取付孔114,115を近接配置と遠隔配置とを混在させることでバランス調整の精度および作業性と入力側プレート111の強度の確保とのバランスを図ることができる。
【0090】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115は、平面視で長方形状に形成した。これにより、ウエイト取付孔114,115は、バランスウエイト120をウエイト取付孔114,115の直線状の辺に沿う直線状に延びた形状に形成すればよく、簡単に構成できるとともに大きさの異なるトルクダンパ装置110間でバランスウエイト120を共用することができる。しかし、ウエイト取付孔114,115は、平面視で長方形状以外の形状、例えば、円弧状に形成することもできる。
【0091】
また、上記実施形態においては、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、ウエイト取付孔114,115の周囲の一部に張出部116,117をそれぞれ形成して構成した。しかし、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、ウエイト取付孔114,115の周囲の全周に連続的または断続的に張出部116,117をそれぞれ形成して構成することもできる。また、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、
図8に示すように、張出部116,117を省略してそれぞれ構成することもできる。なお、張出部116,117を設ける場合、張出部116,117の張出量は、バランスウエイト120の板厚以上のほか、板厚未満に形成してもよいことは当然である。
【0092】
また、上記実施形態においては、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、ウエイト嵌合部118,119を設けて構成した。しかし、第1サイドプレート112および第2サイドプレート113は、ウエイト嵌合部118,119を省略して構成することもできる。この場合、トルクダンパ装置110は、ウエイト取付孔114,115が長孔状に形成されているため、バランスウエイト120の取付位置を長手方向に調整することができるため、入力側プレート111のアンバランスの解消調整作業を容易化することができる。なお、バランスウエイト120は、ウエイト嵌合部118,119における入力側プレート111の径方向外側以外に径方向内側または周方向に取り付けるようにしてもよいことは当然である。
【0093】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115およびセンタープレート対向貫通孔124cを入力側プレート111およびセンタープレート124の各周方向における同じ位置に形成して軸方向に一直線上に並ぶように形成した。この場合、ウエイト取付孔114,115およびセンタープレート対向貫通孔124cの各間には、物理的構成物が存在しない空間が形成されている。これにより、トルクダンパ装置110は、入力側プレート111およびセンタープレート124に対して軸方向に作動油108が遮られるものがなく直接貫通した状態で流通するため、作動油108を収容する収容空間103内における作動油108の流通性を向上させることができる。しかしながら、ウエイト取付孔114,115およびセンタープレート対向貫通孔124cを入力側プレート111およびセンタープレート124の各周方向における互いに異なる位置に形成したとしても作動油108を流通させることは可能である。
【0094】
また、上記実施形態においては、ウエイト取付孔114,115は、本発明に係るサイドプレート対向貫通孔の機能を兼ねた。しかし、サイドプレート対向貫通孔は、必ずしもウエイト取付孔114,115を兼ねて形成する必要はなく、作動油108を流通させつつバランスウエイト120を取り付けることができない貫通孔として構成することもできる。
【0095】
また、上記実施形態においては、バランスウエイト120は、板材をU字状に折り曲げたクリップ状に形成した。しかし、バランスウエイト120は、ウエイト取付孔114,115に取り付けられる形状に形成されていればよい。したがって、バランスウエイト120は、例えば、
図8に示すように、ウエイト取付孔114,115およびセンタープレート対向貫通孔124cを貫通する円筒状のカラー120aと、このカラー120aを貫通するボルト120bと、このボルト120bにネジ嵌合するナット120cとを含んで構成されていてもよい。なお、センタープレート124は、外径をウエイト取付孔114,115の位置よりも内側になる大きさに形成することでセンタープレート対向貫通孔124cを省略することもできる。また、バランスウエイト120は、プレート嵌合部121を省略して構成することもできる。
【0096】
また、上記実施形態においては、トルクダンパ装置110は、トルクコンバータ100に搭載した。しかし、トルクダンパ装置110は、トルクコンバータ100以外の機械装置に搭載することもできる。例えば、トルクダンパ装置110は、エンジンと変速機との動力伝達経路においてトルクコンバータ100とは別体に設けることができる。また、トルクダンパ装置110は、エンジンから回転駆動力を出力軸に対して伝達および遮断を行なうクラッチに付随して設けることもできる。また、トルクダンパ装置110は、上記実施形態においては作動油108で満たされた収容空間103内に配置して湿式のトルクダンパ装置として使用したが、作動油108を用いない乾式のトルクダンパ装置としても使用することができる。
【符号の説明】
【0097】
O…入力側プレートの回転中心、α…入力側プレートの回転中心を中心とする角度、L1…互いに隣接した位置に近接配置される2つのウエイト取付孔間の距離、L2…ウエイト取付孔の長手方向の長さ、L3…互いに隣接した位置に遠隔配置される2つのウエイト取付孔間の距離、S…トルコンカバーの入力側半体の内壁面とクラッチピストンとの間の隙間、
100…トルクコンバータ、
101…トルコンカバー、101a…入力側半体、101b…ポンプ側半体、101c…連結部品、102…ポンプインペラ、103…収容空間、104…タービンランナ、105…ステータ、106…ワンウェイクラッチ、107…出力軸、108…作動油、
110…トルクダンパ装置、
111…入力側プレート、112…第1サイドプレート、112a…内周側スプリング収容部、112b…外周側スプリング収容部、112c…外周端部、112d…外縁部分、113…第2サイドプレート、113a…内周側スプリング収容部、113b…外周側スプリング収容部、113c…外周端部、113d…外縁部分、114,114a~114l…ウエイト取付孔、115,115a~115l…ウエイト取付孔、116,117…張出部、118,119…ウエイト嵌合部、
120…バランスウエイト、120a…カラー、120b…ボルト、120c…ナット、121…プレート嵌合部、122…リベット、123…クラッチ連結プレート、123a…クラッチ板保持部、124…センタープレート、124a…内周側スプリング収容部、124b…外周側スプリング収容部、124c…センタープレート対向貫通孔、125…内周側ダンパスプリング、126…外周側ダンパスプリング、127…タービンハブ、127a…流通孔、128…リベット、
130…クラッチ機構、
131…クラッチ板保持体、132…駆動側クラッチプレート、133…ストッパプレート、134…ストッパ、135…従動側クラッチプレート、136…クラッチピストン、137…クラッチハブ。