(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】コーヒーの抽出滓を使用するハナビラタケ及びマイタケの栽培方法並びに機能性成分を強化したハナビラタケ
(51)【国際特許分類】
A01G 18/20 20180101AFI20240326BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240326BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240326BHJP
【FI】
A01G18/20
A23L19/00 101
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2017253595
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】508023813
【氏名又は名称】株式会社ハイファ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086829
【氏名又は名称】伊藤 將夫
(74)【代理人】
【識別番号】100181515
【氏名又は名称】小林 弓子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智美
(72)【発明者】
【氏名】中村 友幸
(72)【発明者】
【氏名】木内 平八郎
(72)【発明者】
【氏名】木内 克也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 繁佳
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一郎
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】居島 一仁
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-103664(JP,A)
【文献】特開平4-152827(JP,A)
【文献】特開2004-33005(JP,A)
【文献】特開平10-28468(JP,A)
【文献】特開2005-128(JP,A)
【文献】竹本 稔,外2名,”コーヒー粕のキノコ栽培培地としての利用と廃培地の農業利用”,神奈川県農業総合研究所研究報告,神奈川県農業総合研究所,1999年3月,第139号,p.13-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G18/00-18/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養基として、シスタチオニンの含有量を高める目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項2】
培養基として、サルコシンを生成させる目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項3】
培養基として、オルニチンの含有量を高める目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項4】
培養基として、活性酸素吸収能力を高める目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項5】
培養基として、食用期限(消費期限)を延長させる目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項6】
培養基として、遊離アミノ酸含有量を増加させる目的でコーヒーの抽出滓を用いるハナビラタケの栽培方法。
【請求項7】
培養基がコーヒー抽出滓を20%以上含有する請求項1~6のいずれかに記載するハナビラタケの栽培方法。
【請求項8】
子実体中の非標準アミノ酸量と総アミノ酸量含有量が、下記の(A)及び(B)の割合で含まれることを特徴とするハナビラタケ。
(A)非標準アミノ酸≧(90mg/100g)
(B)非標準アミノ酸量/総アミノ酸量≧0.33
【請求項9】
子実体中のシスタチオニン含有量が、45mg/100g以上である請求項8に記載するハナビラタケ。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかの栽培方法により栽培したハナビラタケの乾燥物、又は抽出物を添加することを特徴とする機能性食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、培養基(菌床)の主原料として、コーヒーの抽出滓を使用するハナビラタケ(Sparassis crispa)、及びマイタケ(Grifola frondosa)の栽培方法に関する。
本栽培方法により、ハナビラタケ及びマイタケの収穫量を一段と増すことができると共に、更にハナビラタケに関しては、健康効果が期待される機能性成分の含有量を高める栽培方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
キノコの栽培用の培地には、主原料として通常オガクズが用いられているが、2011年の震災以降は放射性物質のセシウムを吸収しやすい(移行係数が高い)キノコ類は培地原料(オガクズなど)としてのセシウム含有量の低減化が重要な課題となっている。また、最近ではオガクズの供給が逼迫していること、及び森林資源保護の観点から、オガクズの代替原料として、現在産業廃棄物として大量に発生するコーヒーの抽出滓が脚光を浴び、種々のキノコの栽培に利用する試みがなされている。
しかし、ハナビラタケ及びマイタケの栽培に関しては、実際にコーヒー滓を使用した栽培例は知られていない。
【0003】
ハナビラタケ(Sparassis crispa)は、担子菌門ハラタケ綱タマチョレイタケ目に属し、ハナビラタケ科のハナビラタケ属に分類されるキノコである。
ハナビラタケはカラマツに生える非常に希少なキノコであり、純白の色合いを持ち、歯ごたえが良い食用キノコである。人工培地での栽培は提案されているが、より安定的かつ収量の高い栽培法が求められている(特許4230309号)。
ハナビラタケにはβ-グルカンが多く含まれ、その抗がん効果が期待されている。また、神経伝達物質産生促進作用があることから痴呆症の予防、パーキンソン病予防、記憶力改善等の効果が期待できる(特許5052772号)。
このようにハナビラタケはおいしさと健康機能を兼ね備えたキノコであり、今後の市場拡大が期待されている。
【0004】
マイタケ(舞茸、学名:Grifola frondosa)は、担子菌門トンビマイタケ科のキノコであり、初秋ごろ、深山のミズナラ、ブナなどの広葉樹の古木に発生する極めて美味な食用菌であり、古来より「幻のきのこ」として珍重されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4230309号
【文献】特許第5052772号
【文献】特許第2727431号
【文献】特表2005-505599
【文献】特開2012-60974
【文献】WO2011/096330
【文献】WO2007/013662パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本生物学的精神医学雑誌25(2):109-112,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明を完成するに至った経緯は下記のとおりである。
(A)ハナビラタケについて
(1)発明者らは、オガクズの代わりに、コーヒー滓を培地に使用して収穫されるハナビラタケは、下記の有用な特性を有するという新たな知見を得た。
(イ)収穫量が飛躍的に上がること。
(ロ)遊離アミノ酸量が増加すること。
(ハ)機能性・有用成分として健康効果が注目されているシスタチオニン、サルコシン、及びオルニチンが特異的に増加すること。
(ニ)活性酸素吸収能力(ORAC)、及び抗酸化力が高まること。
(ホ)腐敗しにくい(消費期限を延ばせる)こと。
(ヘ)一定の割合の(非標準アミノ酸)/(総アミノ酸)においてキノコの質(おいしさ)が高まること。
(B)マイタケについて
(1)発明者らは、オガクズの代わりに、コーヒー滓を培地に使用して収穫されるマイタケは、下記の有用な特性を有するという新たな知見を得た。
(イ)収穫量が飛躍的に上がること。
(ロ)腐敗しにくい(消費期限を延ばせる)こと。
【0008】
前記ハナビラタケ中に生産される健康効果が期待される機能性成分について説明すると次のとおりである。
(イ)シスタチオニンは、ホモシステインとセリンよりなるペプチドである。シスタチオニンには生体内ラジカル消去能があり抗潰瘍剤としての利用が提案されている(特許2727431号)。
また、シスタチオニンには感染症予防、筋肉減少予防等の効能があることが知られている(特表2005-505599)。
(ロ)サルコシンはグリシンの合成における中間体ないしは副産物である。
サルコシンについてはシワ改善作用(WO2007/013662 パンフレット)や美白作用(WO2011/096330)があることが知られており、美容効果が注目されている機能性成分である。
さらに、最近では統合失調症の新規治療薬としてサルコシンが脚光を浴びている(日本生物学的精神医学雑誌25(2):109-112,2014)。
(ハ)オルニチンは成長ホルモンの分泌を促すことが知られており、また、オルニチン回路の成分としてアンモニアの解毒に関わると共に、ポリアミンの前駆体となる。
また、オルニチン回路を活性化させて肝機能障害に伴う高アンモニア血症を改善したり、免疫増強作用を示したりすることも知られている。
従って、オルニチン含有量の高い食品素材を開発することは、非常に意義のあることである。
(ニ)抗酸化力は活性酸素を取り除く強さの指標であるが、これが高いとアンチエージング効果が期待できる。
【0009】
一方、コーヒーの抽出滓は、焙煎したコーヒー豆を粉砕し、熱水又は水を加えてコーヒーを抽出した後の残渣を言うが、近年パック入りコーヒー飲料(缶コーヒー、ペットボットル入りコーヒー、紙容器入りコーヒー等)の生産量の増加に伴い、莫大な量が発生し、産業廃棄物として環境に多大の負荷をかけている。
しかし、前記コーヒー滓は、元々は食品であるため、これを使用してキノコを栽培するのは、安全・安心の両面から非常に好ましい。
そのため、コーヒー抽出滓のキノコ用培地への応用が試みられているが、ハナビラタケ、及びマイタケに関しては、単なるアイデアとしては存在しても、実際に栽培された記録は存在しない。
更に、コーヒー滓を使用して、キノコ中の機能成分を増加させる試みは、マンネンタケの培養によりガノデリン酸の製造した試み以外には見つからない(特開2012-60974)。
本願発明は、以上の状況を踏まえて、コーヒーの抽出滓の有効利用を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本願発明は、下記の請求項1~請求項17により構成されている。
<請求項1> 培養基として、コーヒーの抽出滓を用いることを特徴とするハナビラタケの栽培方法。
<請求項2> 培養基として、コーヒーの抽出滓を用いることを特徴とするマイタケの栽培方法。
<請求項3> ハナビラタケの収量(収穫量)を上げる目的でコーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項4> マイタケの収量(収穫量)を上げる目的でコーヒーの抽出滓を用いる請求項2に記載するマイタケの栽培方法。
<請求項5> シスタチオニンの含有量を高める目的でコーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項6> サルコシンを生成させる目的でコーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項7> オルニチンの含有量を高める目的でコーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項8> 活性酸素吸収能力を高める目的で培養基として、コーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項9> 食用期限(消費期限)を延長させる目的で培養基として、コーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項10> 食用期限(消費期限)を延長させる目的で培養基として、コーヒーの抽出滓を用いる請求項2に記載するマイタケの栽培方法。
<請求項11> 遊離アミノ酸含有量を増加させる目的で培養基として、コーヒーの抽出滓を用いる請求項1に記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項12> 請求項1,3,5~9,11記載のいずれかの栽培方法により栽培され、風味的においしくしかも抗酸化作用の強いハナビラタケ。
<請求項13> 培養基がコーヒー抽出滓を20%以上含有する請求項1,3,5~9,11のいずれかに記載するハナビラタケの栽培方法。
<請求項14> 培養基がコーヒー抽出滓を20%以上含有する請求項2,4,10のいずれかに記載するマイタケの栽培方法。
<請求項15> 子実体中の非標準アミノ酸量と総アミノ酸量含有量が、下記の(A)及び(B)の割合で含まれることを特徴とするハナビラタケ。
(A)非標準アミノ酸≧(90mg/100g)
(B)非標準アミノ酸量:総アミノ酸量≧0.33
<請求項16> 子実体中のシスタチオニン含有量が、45mg/100g以上である請求項15に記載するハナビラタケ。
<請求項17> 培養基として、コーヒーの抽出滓を用いて栽培したハナビラタケの乾燥物、又は抽出物を含有することを特徴とする機能性食品の製造方法。
【0011】
本願発明を以上のように構成する理由は、下記のとおりである。
(1)大量に発生するコーヒー抽出滓を、有効に利用できること。
(2)従来の人工栽培に比較して、コーヒー抽出滓を使用すると、収穫量を増すことができるとともに、消費期限を延長できること。
(3)ハナビラタケについては、コーヒー抽出滓を使用すると遊離アミノ酸が増加するので風味の良い子実体が得られること。
(4)ハナビラタケについては、コーヒー抽出滓を使用すると健康に関与する機能性成分(シスタチオニン、サルコシン及びオルニチン)を生成させ又は増やせること。
(5)ハナビラタケについては、コーヒー抽出滓を使用すると抗酸化力が高まること。
(6)コーヒー抽出滓に由来するキノコ中の機能性成分の増加に注目した試みは少ないこと。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、産業廃棄物であるコーヒーの抽出滓を利用して、ハナビラタケ、及びマイタケの子実体を効率よく栽培できると共に消費期限を延長さることができ、特にハナビラタケにおいては、健康効果が注目されている種々の機能性成分を生成させ抗酸化力を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コーヒー抽出滓50%添加区のマイタケの菌床断面(右)と、コントロール区のマイタケ(左)の菌床断面を示す画像である。
【
図2】コーヒー抽出滓50%添加区のマイタケの発生状況を示す画像である。
【
図3】コーヒー抽出滓50%添加区のハナビラタケの菌床断面を示す画像である。
【
図4】コーヒー抽出滓50%添加区のマイタケ(右:傘色の黒系が濃い)と、コントロール区のマイタケ(左:傘色の黒系が薄い)の発生個体を示す画像である。
【
図5】コーヒー抽出滓50%添加区のハナビラタケ(右)と、コントロール区のハナビラタケ(左)の発生状況を示す画像である。
【
図6】「非標準アミノ酸量/総アミノ酸量」とORACの関係を示すグラフである。
【
図7】シスタチオニンとORACの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、下記に記載する実施例により詳細に説明する。なお、本願発明において、キノコの発生試験は、株式会社ハイファ研究所保有の下記の菌株を使用した。
ハナビラタケ(Sparrasiss crispa):Scr N301株
マイタケ(Grifola frondosa):GF NA-01株
なお今回、特定のハナビラタケ、マイタケの菌株を用いたが、本発明に関する栽培においては一般的に栽培されているハナビラタケ、マイタケを排除するものではない。
【実施例1】
【0015】
(1)ハナビラタケの栽培
(イ)冷蔵保存中のハナビラタケ菌を25℃で一定時間放置した後、クリーンベンチ内にて無菌的な条件で、シャーレ内のPDA培地上に接種した。
接種後のシャーレは、23℃のインキュベーター内において前培養を行った。
次に、オガクズ・米糠培地を1000mlボトル瓶(ポリプロピレン製)に充填し、殺菌した後、ハナビラタケ菌を接種し、23℃でボトル全面に蔓延させた種菌を準備した。
(ロ)試験培地は以下のコントロール区とコーヒー滓添加区に調製して行った。
(a)コントロール区:カラマツオガクズを主体(支持体)に栄養素(フスマ・圧ペン麦)を添加,支持体:栄養素=4:1
(b)コーヒー滓添加区:(カラマツ50%+コーヒー滓50%)の支持体に栄養素(フスマ・圧ペン麦)を添加,支持体:栄養素=4:1
(c)各試験区は5菌床を用いて行った。
(d)前記(a)、(b)の支持体に対する栄養素は同量に調製して試験した。
(ハ)前記各試験区を調製混合した後、2.5kg容ポリプロピレン袋(0.2μmフィルター付)に充填し上部を密閉した。
この培地の殺菌は121℃で90分間行い、放冷後に準備しておいたハナビラタケ種菌を無菌的に接種した。
(ニ)接種後の菌床は20℃で一定期間(約55日)の培養を行い、試験区毎に発生操作に移行した。
(ホ)発生後の子実体はハナビラ状の形状に生育した段階で収穫し、重量測定を行った後に各種分析(アミノ酸分析・抗酸化試験)のため凍結保管した。ただし、保存試験では収穫後の子実体の一部を10℃で冷蔵保存し経過観察した。
【0016】
(2)マイタケの栽培
(イ)冷蔵保存中のマイタケ菌を25℃で一定時間放置した後、クリーンベンチ内にて無菌的な条件で、ジャーレ内のPDA培地上に接種した。
接種後のシャーレは、23℃のインキュベーター内において前培養を行った。
次に、オガクズ・米糠培地を1000mlボトル瓶(ポリプロピレン製)に充填して殺菌した後、マイタケ菌を接種し、23℃でボトル全面に蔓延させた種菌を準備した。
(ロ)試験培地は以下のコントロール区とコーヒー滓添加区に調製して行った。
(a)コントロール区 :広葉樹オガクズを主体(支持体)に栄養素(フスマ・オカラ・ホミニフィード)を添加,支持体:栄養素=4:1
(b)コーヒー滓添加区:支持体(広葉樹オガクズ50%+コーヒー滓50%)に栄養素(フスマ・オカラ・ホミニフィード)を添加,支持体:栄養素=4:1
(c)各試験区は5菌床を用いて行った。
(d)前記(a)、(b)の支持体に対する栄養素は同量に調製して試験した。
(ハ)各試験区を調製混合した後、2.5kg容ポリプロピレン袋(0.2μmフィルター付)に充填し上部を密閉した。
この培地の殺菌は121℃で90分間行い、放冷後に準備しておいたマイタケ種菌を無菌的に接種した。
(ニ)接種後の菌床は20℃で一定期間の培養(約50日)を行い、試験区毎に発生操作に移行した。
発生後の子実体は、マイタケ様のハナビラ形状に生育した段階で収穫し、重量測定を行った後、各種分析のため凍結保管した。ただし、保存試験では収穫後の子実体の一部を10℃で冷蔵保存し経過観察した。
【0017】
(3)ハナビラタケの収穫量(重量)
(イ)栽培した5菌床の収穫量は、下記のとおりであった。
コントロール区 :
(a)483g,(b)451g,(c)522g,(d)421g,(e)498g
→平均値=475g
コーヒー滓添加区:
(a)553g,(b)561g,(b)497g,(b)537g,(b)586g
→平均値=547g
(ロ)以上に示した収穫量の結果は、統計的にも有意差があり(P<0.05)、コーヒー滓がハナビラタケの収量を増加させるのに効果を有していることを示している(
図5参照)。
【0018】
(4)マイタケの収穫量(重量)
(イ)栽培した5菌床の収穫量は、下記のとおりであった。
コントロール区 :
(a)426g,(b)456g,(c)501g,(d)474,(e)518g
平均値=475g
コーヒー滓添加区:
(a)657g,(b)628g,(c)593g,(d)615g,(e)603g
平均値=619g
(ロ)以上に示した収穫量の結果は、統計的にも有意差があり(P<0.001)、コーヒー滓が、ハナビラタケの収量を増加させるのに格段の効果を有していることを示している。
【0019】
(5)ハナビラタケ中の遊離アミノ酸類の分析
前記(1)で栽培した2種のハナビラタケについて、標準アミノ酸類、及び非標準アミノ酸類の分析をした。
標準アミノ酸類の分析結果を表1に、非標準アミノ酸類の分析結果を表2に示す。
なお、標準、及び非標準アミノ酸類の分析は、下記の方法によった。
<分析方法>
冷凍されているキノコの子実体サンプルを解凍し、そのままフードプロセッサーで粉砕した後、10.0gをサンプリングした。これに75%のエタノールを加えてホモジナイザーでホモジナイズした後、80℃で2回還流抽出した。抽出液を回収後、減圧濃縮し、最終的に水でメスアップして100mlに定容した。
この溶液をフィルター濾過した後、クエン酸リチウム緩衝液で10倍希釈し、アミノ酸分析機に50μl注入し、全自動アミノ酸分析装置にて分析した。
【0020】
【0021】
【0022】
表1及び表2の結果によれば、コントロール区に比較して、コーヒー抽出滓50%添加区のハナビラタケは、遊離アミノ酸が顕著に増加しており、風味的に優れていることがわかる(請求項12)。
【0023】
表2の結果から、コントロール区に比較して、コーヒー抽出滓50%添加区は、サルコシンが新たに生成され、シスタチオニン及びオルニチンについても顕著に増加していることがわかる。
【0024】
(6)ハナビラタケ活性酸素吸収能力(ORAC)
前記(1)で栽培したコントロール区と、コーヒー滓添加区の2種のハナビラタケについて、活性酸素吸収能力(ORAC)を測定した。
コントロール区に比較して、コーヒー抽出滓50%添加区は、活性酸素吸収能力(ORAC)が顕著に増加していることがわかる。結果を表3に示す。
なお、ORACの測定は下記の分析方法によった。
<試験溶液の調製>
5-7gの試料に50%エタノールを加え、ホモジナイズしながら抽出し50mlに定容した。10分間超音波処理後、3,000 r/minにて5分間遠心分離した。ろ紙No. 1にてろ過した後、75mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)にて適宜希釈して試験溶液とした。
<操作条件>
試料溶液あるいはTrolox標準溶液(5~80μmol)を96穴マイクロプレートに20μl入れ、フルオレセイン溶液(117mmol/L)を200μL加え、37℃に10分間以上インキュベートした後、AAPH溶液(40mmol/L)を60μL加えてマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e(Molecular Devices製))にて蛍光強度を測定した。
マイクロプレート操作条件は以下の通りであった。Kinetic モードにて5分間隔で90分間蛍光強度の経時変化を測定した。蛍光検出波長はEx.485nm, Em.520nmで、蛍光検出方向はbottomとした。蛍光強度を経時的に記録したグラフの曲線下面積(AUC)を算出し、ブランクのAUCを差し引いた値(nAUC)を求めた。Trolox濃度5~80μmol/Lの標準液の濃度を横軸に、nAUCを縦軸にとった検量線を用いて希釈した試料のORAC値をTrolox相当量(TE)として表した。
【0025】
【0026】
(7)日持ち向上試験:ハナビラタケ
収穫後10℃の冷蔵庫で継時変化を確認した。
(イ)匂いの観察
【0027】
【0028】
(ロ)傷みの観察
【0029】
【0030】
(8)日持ち向上試験:マイタケ
収穫後10℃の冷蔵庫で継時変化を確認した。
(イ)匂いの観察
【0031】
【0032】
傷みの観察
【0033】
【0034】
(9)ハナビラタケの官能試験
前記(1)([0015])で栽培した2種類(通常栽培品及びコーヒー滓使用品)のハナビラタケについて、風味、及び食味について官能試験をした。
(イ)風味
ボランティア5名が、ハナビラタケの入ったビニール袋内を嗅いだ上で評価した。十分に確認できない場合はハナビラタケを手に取って確認し、5段階での評価を行った。
なお、風味試験の検体は、ビニール袋に新鮮なハナビラタケを入れ、常温にて1時間放置したものを使用した。
(ロ)食味
前記ハナビラタケを軽く湯掻いた後、ボランティア5名が、食した上で評価を行った。
食味については旨み・苦みの二種類を評価対象として5段階での評価を行った。
(ハ)風味についての官能試験結果を表8に示す。
食味について、旨味の官能試験結果を表9に、苦みの官能試験結果を表10に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
表8~表10の結果によれば、コーヒー滓を使用して栽培したハナビラタケは、風味がよく、食味としては苦みを抑え、旨みを増すことがわかる。
【実施例2】
【0039】
(イ)冷蔵保存中のハナビラタケ菌を25℃にて一定時間放置した後、クリーンベンチ内にて無菌的な条件で、ジャーレ内のPDA培地上に接種した。
接種後のシャーレは、23℃のインキュベーター内において前培養を行った。次に、オガクズ・米糠培地を1000mlボトル瓶(ポリプロピレン製)に充填し、殺菌した後にハナビラタケ菌を接種し、23℃でボトル全面に蔓延させた種菌を準備した。
(ロ)ハナビラタケを下記の(a)~(f)の試験培地を使用して栽培した。
(a)コーヒー滓使用例1:加圧抽出後のコーヒー滓使用
(b)コーヒー滓使用例2:常圧抽出後のコーヒー滓使用(コーヒー臭弱)
(c)コーヒー滓使用例3:常圧抽出後のコーヒー滓使用(コーヒー臭強)
前記(a)~(c)は、乾燥原料として、「カラマツ40%+コーヒー滓40%」(支持体)、「フスマ10%+圧ペン麦10%」(栄養素)を混合して調整した。
(d)比較例1:カラマツ辺材部が主体
(e)比較例2:カラマツ全体(心材部、辺材部、樹皮)を混合
(f)比較例3:カラマツ心材部~辺材部(樹皮を除く)
前記(d)~(f)は、「カラマツ80%」(支持体)、「フスマ10%+圧ペン麦10%」(栄養素)を混合(支持体:栄養素=4:1)して調整した。
(ハ)ハナビラタケ(a)~(f)区の栽培は5菌床を用い、前記[0015]記載の方法に準じて行った。
(ニ)発生後の子実体はハナビラ状の形状に生育した段階で収穫した。
(ホ)収穫したハナビラタケの子実体について、実施例1と同様に、遊離標準アミノ酸、遊離非標準アミノ酸、活性酸素吸収能力(ORAC)を測定した。併せてキノコの質を専門パネルにより官能評価した。(○良好、 △ 普通、 ×劣る)
測定結果を「アミノ酸量とキノコの質とORACの関係」として表11、及び
図5に示す。
【0040】
【0041】
表11と
図6によれば、「非標準アミノ酸量/総アミノ酸量」が0.32を超えると急激にORAC値が高まることがわかる。
ORAC値が124μmol TE/gであることから主要な有効成分はシスタチオニンであることが分かった。
図7にハナビラタケ子実体中のシスタチオニン含有量とORACの関係を示す。シスタチオニンはORAC値と強い正の相関があり、ハナビラタケのシスタチオニン含有量が45mg/100gを超えるとORAC値が高まることが分かる(
図7)。
ただし、必ずしもすべてのORAC値を説明できないので、抗酸化力と相関のあるサルコシン、オルニチン等も多く含まれることから、これらのアミノ酸も相乗的に抗酸化力の向上に寄与しているものと考えられる。
培地はこの範囲となるように適宜選択すれば良い。
抗酸化力発現に有効な非標準アミノ酸の中でも主要なシスタチオニンを多く含むタンパク質などの食品素材や植物残渣等を添加しても良い。
さらに、コーヒー滓20%以上を含有する培地を使用するのが好ましい。
【実施例3】
【0042】
実施例1、又は実施例2に記載したハナビラタケの培養方法により得られた子実体を乾燥し、微粉末状の機能性食品を得た。
【実施例4】
【0043】
実施例1、又は実施例2に記載したハナビラタケの培養方法により得られた子実体を粉砕した。
前記粉砕物の熱水、又はエタノール抽出物を凍結乾燥して、微粉末状の機能性食品を得た。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、産業廃棄物であるコーヒーの抽出滓より、非常に効率よくハナビラタケ及びマイタケの子実体が生産できると共に、特にハナビラタケについては、健康に関与する機能性成分を生成させ、又は増加させることができるので、十分な産業上の利用可能性がある。