(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ブレーキ装置、レバーホイストおよびラチェット機構
(51)【国際特許分類】
B66D 3/14 20060101AFI20240326BHJP
B66D 5/32 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B66D3/14 A
B66D5/32
(21)【出願番号】P 2022515209
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2021002971
(87)【国際公開番号】W WO2021210236
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020072176
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】城田 明典
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-053392(JP,U)
【文献】特開2008-222393(JP,A)
【文献】実公平07-009896(JP,Y2)
【文献】実公昭48-021857(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 3/14
B66D 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンが掛け回されたロードシーブに回転を伝達する駆動軸の逆転を停止させることで、前記ロードシーブの逆転を防止するブレーキ装置であって、
前記駆動軸に回転不能に軸支されると共に、フランジ部とボス部を備えるブレーキ受けと、
前記駆動軸に回転可能に軸支され、前記駆動軸の外周に設けられた雄ネジ部に螺合するメネジ部材と、
互いに対向する前記フランジ部および前記メネジ部材とに挟まれると共に、外周側に回転方向を一方向に規制するためのラチェット歯を備える爪車と、
前記フランジ部およびメネジ部材の少なくとも一方と、前記爪車の間に配置されるブレーキ板と、
隣り合う前記ラチェット歯の間に位置する谷部に先端側が係合すると共に前記ラチェット歯と噛み合う少なくとも1つの爪部材と、
を備え、
前記ラチェット歯には、高歯と、前記高歯よりも前記爪車の回転中心からの突出高さが低い低歯とが設けられている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載のブレーキ装置であって、
前記爪部材は一対設けられていて、一対の前記爪部材は、前記駆動軸を中心とする対称な位置に配置されている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のブレーキ装置であって、
前記爪車には、前記高歯と前記低歯とが交互に設けられている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のブレーキ装置であって、
前記ラチェット歯は、奇数の2倍の枚数設けられている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のブレーキ装置であって、
前記低歯の先端側の低歯先端部は、円弧の一部をなしている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のブレーキ装置を備え、
前記メネジ部材に対して回動する操作レバーと、
前記操作レバーに取り付けられ、前記メネジ部材と一体的な切換歯車に対して巻上げ方向で噛み合う巻上げ用の切換爪と、
前記操作レバーに取り付けられ、前記切換歯車に対して巻下げ方向で噛み合う巻下げ用の切換爪と、
前記巻上げ用の切換爪および前記巻下げ用の切換爪と一体的に設けられ、前記切換歯車が前記巻上げ用の切換爪と前記巻下げ用の切換爪のいずれと噛み合うのかを切り換える切換ツマミと、
を備えることを特徴とするレバーホイスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置、レバーホイストおよびラチェット機構に関する。
【背景技術】
【0002】
荷物を昇降および引き寄せたり、荷物をスリング等で固定する(荷締めする)等の作業のために、レバーホイストが広く用いられている。このレバーホイストは、手で操作レバーを操作することで、チェーンの巻上げ(巻取り)および巻下げ(巻戻し)を行える。このようなレバーホイストとしては、たとえば特許文献1に示すものがある。特許文献1に示すレバーホイストでは、操作レバーを操作することで、駆動部材を駆動し、その駆動部材を介して駆動軸を回転させることで、ロードシーブを回転させる。それにより、荷を吊り上げたり、荷を下ろすことが可能となっている。なお、このレバーホイストには、切換ツマミが設けられていて、この切換ツマミの切り換え操作によって、操作レバーから駆動力の伝達を、巻上げ方向とするか、または巻下げ方向とするかを切り換え可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レバーホイストの巻上げに際して、上記の切換ツマミを誤って巻下げ方向側へと切り換えてしまった場合、ブレーキ機構が作用しなくなる虞がある。具体的には、爪車のラチェット歯の先端に、爪部材の先端が当接している状態で、切換ツマミを巻下げ方向へと誤って切り換えてしまうと、荷の荷重の作用によって、爪車が勢い良く回転し始める虞がある。
【0005】
その爪車の回転し始めの段階で、ラチェット歯の間の谷間に爪部材の先端が入り込めれば、爪車の回転を停止させることができる。しかしながら、ラチェット歯の先端に爪部材の先端が当接している状態で、切換ツマミが切り換わり爪車が勢い良く回転してしまうと、谷間に入り込むのに要する時間よりも早く、次のラチェット歯(次歯)が到来し、その次歯の先端へと爪部材が衝突して弾かれ、以後同様の状態が発生し、谷間に爪部材の先端が入り込めなくなり、爪車の回転を停止させることができなくなる虞がある。このような爪車の回転は、特許文献1に開示の構成では阻止することができない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、爪車の逆転を阻止することが可能なブレーキ装置、レバーホイストおよびラチェット機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、チェーンが掛け回されたロードシーブに回転を伝達する駆動軸の逆転を停止させることで、ロードシーブの逆転を防止するブレーキ装置であって、駆動軸に回転不能に軸支されると共に、フランジ部とボス部を備えるブレーキ受けと、駆動軸に回転可能に軸支され、駆動軸の外周に設けられた雄ネジ部に螺合するメネジ部材と、互いに対向するフランジ部およびメネジ部材とに挟まれると共に、外周側に回転方向を一方向に規制するためのラチェット歯を備える爪車と、フランジ部およびメネジ部材の少なくとも一方と、爪車の間に配置されるブレーキ板と、隣り合うラチェット歯の間に位置する谷部に先端側が係合すると共にラチェット歯と噛み合う少なくとも1つの爪部材と、を備え、爪車には、高歯と、高歯よりも爪車の回転中心からの突出高さが低い低歯とが設けられている、ことを特徴とするブレーキ装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、爪部材は一対設けられていて、一対の爪部材は、駆動軸を中心とする対称な位置に配置されている、ことが好ましい。
【0009】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、爪車には、高歯と低歯とが交互に設けられている、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、ラチェット歯は、奇数の2倍の枚数設けられている、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、低歯の先端側の低歯先端部は、円弧の一部をなしている、ことが好ましい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によると、上述の発明に係るブレーキ装置を備え、メネジ部材に対して回動する操作レバーと、操作レバーに取り付けられ、メネジ部材と一体的な切換歯車に対して巻上げ方向で噛み合う巻上げ用の切換爪と、操作レバーに取り付けられ、切換歯車に対して巻下げ方向で噛み合う巻下げ用の切換爪と、巻上げ用の切換爪および巻下げ用の切換爪と一体的に設けられ、切換歯車が巻上げ用の切換爪と巻下げ用の切換爪のいずれと噛み合うのかを切り換える切換ツマミと、を備えることを特徴とするレバーホイストが提供される。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の第3の観点によると、外周に複数のラチェット歯が形成された爪車と、該ラチェット歯と噛み合う少なくとも1つの爪部材と、を備えることで一方向のみへの爪車の回転を許容するラチェット機構であって、ラチェット歯には、高歯と、高歯よりも爪車の回転中心からの突出高さが低い低歯とが存在する、ことを特徴とするラチェット機構が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、巻上げに際して切換ツマミを誤って巻下げ方向側へと操作した場合でも、爪車の逆転を阻止することが可能なブレーキ装置、レバーホイストおよびラチェット機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のレバーホイスト用動力伝達装置が取り付けられるレバーホイストの構成の一例を示す正面図である
【
図2】
図1に示すレバーホイストの構成を示す断面図である。
【
図3】
図1に示すレバーホイストのうち、ブレーキ装置付近を拡大して示す部分的な断面図である。
【
図4】
図1に示すレバーホイストのうち、爪車および爪部材を示す平面図であり、ラチェット歯が奇数の2倍の枚数設けられている状態を示す図である。
【
図5】
図4に示す爪車のラチェット歯付近を拡大して示す図である。
【
図6】
図1に示すレバーホイストのうち、爪車および爪部材を示す平面図であり、ラチェット歯が偶数の2倍の枚数設けられている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る、レバーホイスト10について、図面に基づいて説明する。
【0017】
<レバーホイストの全体構成について>
以下の説明においては、X方向は、減速ギヤ30が配置されるギヤボックス(符号省略)と早回しニギリ60(以下「遊転ニギリ」という。)の間に配置される駆動軸25の軸線方向とし、X1側は遊転ニギリ60が取り付けられる側とし、X2側はそれとは逆のギヤボックス側とする。また、Z方向はレバーホイスト10の懸吊状態における鉛直方向(懸吊方向;巻上げ下げ方向)とし、Z1側は懸吊状態における上側とし、Z2側は懸吊状態における下側とする。
【0018】
図1はレバーホイスト10の構成の一例を示す正面図である。
図2は、
図1に示すレバーホイスト10の構成を示す断面図である。
【0019】
図2に示すように、レバーホイスト10は、一対のフレーム11,12を備え、その一対のフレーム11,12の上方側(Z1側)では、上フック22が支持されている。また、一対のフレーム11,12の間には、チェーンC1を掛け回すロードシーブ20が回転自在な状態で支持されている。このロードシーブ20には、後述する減速ギヤ30の小径ギヤ部32と噛み合うロードギヤ21が一体的に成型されている。また、ロードシーブ20には、軸方向(X方向)に貫く挿通孔20aが形成されており、挿通孔20aには駆動軸25が挿通されている。駆動軸25の中途の外周側には後述するメネジ部材35と噛み合う雄ネジ部26が設けられると共に、駆動軸25の他端側(X2側)には減速ギヤ30の大径ギヤ部31に噛み合うピニオンギヤ27が設けられている。また、減速ギヤ30には、上述したロードギヤ21と噛み合う小径ギヤ部32も一体的に設けられている。
【0020】
なお、フレーム11にはケーシング13が取り付けられ、上述した減速ギヤ30やロードギヤ21等の駆動部位を保護している。また、上述した雄ネジ部26は、メネジ部材35の雌ネジ部36と噛み合っている。このメネジ部材35には、雌ネジ部36の他に、下方位置(Z2側)で切換爪40と噛み合い可能な切換歯車37もその周縁部に設けられている。切換爪40は、たとえば後述する操作レバー50の一方側と他方側に1つずつ設けられているラチェット爪であり、この切換爪40が切換歯車37と噛み合った状態で後述する操作レバー50を回動させることで、メネジ部材35に駆動力を伝達させる。
【0021】
また、切換爪40と同軸となる状態で切換ツマミ45が取り付けられ、その切換ツマミ45の切り換え操作によって、メネジ部材35への駆動力の伝達を、巻上げ方向とするか、または巻下げ方向とするかを切り換え可能となっている。たとえば、切換ツマミ45の下側(Z2側)を
図1において左側に倒すと巻上げ用の切換爪40が切換歯車37と噛み合う。それにより、操作レバー50を回動させる動作を繰り返した場合、切換歯車37は巻上げ方向には回転するが巻下げ方向には回転しない。これは、チェーンC1の巻上げ状態に対応する。
【0022】
加えて、
図1に示すように、上記の切換ツマミ45の上方側(Z1側)には、一対の係合突部46が設けられている。かかる一対の係合突部46のうち、一方の係合突部46が遊転ニギリ60のフランジ部65と係合することで、遊転ニギリ60が軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出されなくなる。このため、図示を省略する付勢バネがブレーキ機構を押圧する状態を維持できる。
【0023】
一方、たとえば切換ツマミ45の下側(Z2側)を
図1において右側に倒すと巻下げ用の切換爪40が切換歯車37と噛み合う。それにより、操作レバー50を回動させる動作を繰り返した場合、切換歯車37は巻下げ方向には回転するが巻上げ方向には回転しない。これは、チェーンC1の巻下げ状態に対応する。加えて、他方の係合突部46が遊転ニギリ60のフランジ部65と係合することで、遊転ニギリ60が軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出されなくなる。このため、図示を省略する付勢バネがブレーキ機構を押圧する状態を維持できる。
【0024】
また、切換ツマミ45の下側(Z2側)を、巻上げ方向と巻下げ方向の間の位置である、中立位置に位置させると(この場合、操作レバー50の長手方向に沿う方向に切換ツマミ45を位置させる)、切換歯車37に対して、巻上げ用の切換爪40と、巻下げ用の切換爪40とのいずれも、噛み合わない状態となる。それにより、操作レバー50を回動させる動作を行っても、チェーンC1の巻上げおよび巻下げのいずれの動作も実行されない、フリー(遊転)状態となる。このとき、一対の係合突部46のいずれも、遊転ニギリ60のフランジ部65と係合しない。そのため、遊転ニギリ60が軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出すことが可能となり、図示を省略する付勢バネがブレーキ機構を押圧する状態を緩めることができる。
【0025】
また、駆動軸25には、該駆動軸25に対して回転不能な状態でカム部材55が取り付けられ、さらにカム部材55よりも軸方向(X方向)の一端側(X1側)に遊転ニギリ60と呼ばれる部材も駆動軸25に対して回転不能な状態で取り付けられている。
【0026】
遊転ニギリ60は、駆動軸と共に回転可能な略円形のハンドル状の部分である。この遊転ニギリ60の軸方向(X方向)の他方側(X2側)には、フランジ部65が設けられている。このフランジ部65に、上述した一対の係合突部46のいずれかが係合する場合には、遊転ニギリ60を軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出すことができなくなる。このため、図示を省略する付勢バネがブレーキ機構を押圧する状態を維持できる。
【0027】
この遊転ニギリ60は、巻上げ時および巻下げ時には、
図2に示すように、軸方向(X方向)の他方側(X2側)に向かって押し込まれている。しかしながら、切換ツマミ45が中立位置(中立状態)のときには、遊転ニギリ60は軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出すことができる。遊転ニギリ60を軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出した場合、ブレーキ機構を付勢している付勢バネの押圧力が弱まることで、ブレーキ解除状態となり、手等でチェーンC1を把持しながら巻上げ側および巻下げ側のいずれの方向にも自由に引き出すことができる。
【0028】
<ブレーキ装置70について>
図3は、
図1に示すレバーホイストのうち、ブレーキ装置70付近を拡大して示す部分的な断面図である。
図2および
図3に示すように、操作レバー50と駆動軸25の間には、ブレーキ装置70が配置されている。ブレーキ装置70は、ブレーキ受け71、ブレーキ板72a,72b、爪車80、爪部材90、爪軸91、ブッシュ92等を主要な構成要素としている。
【0029】
ブレーキ受け71は、フランジ部71aと、中空ボス部71b(ボス部に対応)とを有している。フランジ部71aは、中空ボス部71bよりも大径に設けられている部分であり、ブレーキ板72aを受け止めることが可能となっている。
【0030】
中空ボス部71bは、フランジ部71aよりもメネジ部材35側(X1側)に位置し、ブッシュ92を介して爪車80を軸支する。なお、中空ボス部71bの内周側は、キー結合またはスプライン結合等によって駆動軸25と噛み合うことで、駆動軸25とブレーキ受け71とが一体的に回転する。
【0031】
また、フランジ部71aと爪車80との間、及びメネジ部材35と爪車80との間には、それぞれブレーキ板72a,72bが中空ボス部71bに軸支されている。ブレーキ板72a,72bは、たとえば所定の材料を焼結等して形成された摩擦材である。
【0032】
ここで、駆動軸25に巻き下げ方向に負荷が作用する場合には、メネジ部材35とブレーキ受け71(フランジ部71a)のねじ締め付け作用によりメネジ部材35がブレーキ板72a,72bを押圧する。それにより、ブレーキ板72a,72bが強く押圧され、爪車80がブレーキ板72a,72bによって強く押圧される。ここで、爪車80には、爪部材90が係止されることで爪車80の巻き下げ方向への回転が阻止されているので、上記の強い押圧により、駆動軸25の巻き下げ方向への回動が制動される。
【0033】
なお、切換ツマミ45を巻上げ方向に切り換えて操作レバー50を操作すると、爪車80は巻き上げ方向へ回転可能なので、その巻上げ方向への回動は爪車80によっては阻止されない。したがって、操作レバー50の操作によって、メネジ部材35、ブレーキ板72a,72b、爪車80、ブレーキ受け71は一体となって駆動軸25を回動させて、その駆動力が減速ギヤ30を介してロードシーブ20に伝達されることで、チェーンC1を巻き上げる。
【0034】
一方、切換ツマミ45を巻下げ方向に切り換えて操作レバー50を操作すると、その操作量の分だけメネジ部材35が回転し、ブレーキ受け71のねじ締め作用が緩和される。そのため、爪車80とのブレーキ力が操作レバー50の操作量(すなわちメネジ部材35の回転量)に応じて開放されるので、ブレーキ受け71と駆動軸25は巻下げ方向に回動する。その巻下げ方向への駆動力は、減速ギヤ30を介してロードシーブ20に伝達されることで、チェーンC1を巻き下げる。
【0035】
また、爪車80に設けられているラチェット歯83(後述)は、爪部材90の先端部90aと噛み合う。その噛み合いによって、切換ツマミ45を巻下げ方向に切り換えて操作レバー50を操作する場合以外は、爪車80の巻下げ方向への回転を防止しつつ巻上げ方向への回転は許容するラチェット機構が構成される。
【0036】
また、
図3に示すように、ブレーキ受け71の中空ボス部71bの外周側には、ブッシュ92が設けられ、そのブッシュ92の外周側には爪車80が設けられている。
【0037】
また、フレーム12には爪軸91が取り付けられていて、その爪軸91には爪部材90が回動可能に支持されている。また、爪軸91には、ねじりばね93のコイル部93aが取り付けられていて、爪部材90が爪車80のラチェット歯83(後述)に押し付けられる向きの付勢力をねじりばね93が与えている。なお、爪部材90は一対設けられていて、爪車80の周方向において、駆動軸25の中心軸に対して互いに点対称に配置されている。
【0038】
<爪車80について>
次に、爪車80の構成について説明する。
図4は、爪車80および爪部材90を示す平面図であり、ラチェット歯83が奇数の2倍の枚数の構成の一例を示すと共に、爪部材90の配置を示す平面図である。
図4に示すように、爪車80にはリング状のリング状部81が設けられていて、そのリング状部81の表面および裏面は、上述したブレーキ板72a,72bが押圧される部分である。なお、リング状部81の中心に位置する中心孔82には、上述したブッシュ92が位置することで、爪車80が回転自在に支持される。
【0039】
リング状部81からは、ラチェット歯83が外周に向かって突出している。
図5は、爪車80のラチェット歯83付近を拡大して示す図である。
図5に示すように、ラチェット歯83には、高歯831と、低歯832とが存在している。これらのうち、高歯831は、その先端部(高歯先端部831a)が低歯832の先端部(低歯先端部832a)よりも外径側に突出している。そのため、爪部材90の先端部90aは、ねじりばね93の付勢力により、低歯先端部832aに先端部90aが接触する位置では、高歯先端部831aに接触する位置よりも径方向の中心側(内径側)となっている。
【0040】
ここで、本実施の形態では、高歯831と低歯832とは交互に隣接して形成されており、その周方向における長さ(ピッチ)は、等しく設けられている。また、高歯831と低歯832の間を谷部833とすると、谷部833から高歯831の先端側の高歯先端部831aに向かうテーパ部831bの傾斜角度は、谷部833から低歯832の先端側の低歯先端部832aに向かうテーパ部832bの傾斜角度と等しくなるように設けられている。したがって、本実施の形態では、低歯832は、高歯831の先端側をカットしたような形態に設けられている。なお、低歯832の低歯先端部832aは、爪車80と同心の円弧の一部であっても良い。しかしながら、低歯先端部832aは、円弧の一部以外の形状(たとえば直線状)であっても良く、また爪車80と同心ではない円弧の一部であっても良い。
【0041】
また、高歯831と低歯832を合計したラチェット歯83の歯数は、偶数枚となっている。ここで、ラチェット歯83の歯数が、
図4に示すように、奇数を2倍した枚数の場合には、一方の爪部材90の先端部90aが高歯831に押し付けられる際には、他方の爪部材90は低歯832に押し付けられることになる。一方の爪部材90か、または他方の爪部材90のいずれかが、必ず低歯832に押し付けられるので、逆転が生じた際に少なくとも低歯832に押し付けられた爪部材90の先端部90aは隣接する高歯831(の背)に必ず衝突することになる。このため、爪車80の逆転を確実に阻止することができる。なお、
図4に示す構成では、ラチェット歯83の歯数は、合計22枚存在しているが、ラチェット歯83の歯数は、奇数を2倍した枚数であれば、何枚でも良い。
【0042】
しかしながら、高歯831と低歯832を合計したラチェット歯83の歯数が、
図6に示すように、偶数を2倍した枚数(4の倍数の枚数)の場合には、一方の爪部材90の先端部90aが高歯831に押し付けられる場合、他方の爪部材90も高歯831に押し付けられる。また、一方の爪部材90の先端部90aが低歯832に押し付けられる場合、他方の爪部材90も低歯832に押し付けられる。この場合も、逆転が生じた際に低歯832に押し付けられていた爪部材90の先端部90aは隣接する高歯831(の背)に必ず衝突し、または高歯831に押し付けられていた爪部材90の先端部90aは隣り合う高歯831の間隔が、現状の爪車が備える同じ高さのラチェット歯の間隔よりも広がることで、爪車80の逆転を十分に阻止することができる。なお、
図6に示す構成では、ラチェット歯83の歯数は、合計20枚存在しているが、ラチェット歯83の歯数は、偶数を2倍した枚数であれば、何枚でも良い。
【0043】
<作用効果について>
以上のような構成のブレーキ装置70およびレバーホイスト10によると、駆動軸25に回転不能に軸支されると共に、フランジ部71aと中空ボス部71b(ボス部)を備えるブレーキ受け71と、駆動軸25に回転可能に軸支され、駆動軸25の外周に設けられた雄ネジ部26に螺合するメネジ部材35と、互いに対向するフランジ部71aおよびメネジ部材35とに挟まれると共に、外周側に回転方向を一方向に規制するためのラチェット歯83を備える爪車80と、フランジ部71aおよびメネジ部材35の少なくとも一方と、爪車80の間に配置されるブレーキ板72a,72bと、ラチェット歯83と噛み合うと共に、隣り合うラチェット歯83の間に位置する谷部833に先端部90a(先端側)がそれぞれ係合する少なくとも1つの爪部材90と、を備え、爪車80には、高歯831と、高歯831よりも爪車80の回転中心からの突出高さが低い低歯832とが設けられている。
【0044】
ここで、高歯831の先端側の高歯先端部831aに、爪部材90の先端部90aが接触している状態で、切換ツマミ45を巻下げ方向へと誤って切り換えてしまった場合について考える。この場合、荷の荷重の作用によって、爪車80が勢い良く回転(逆転)し始めようとする。しかしながら、上記のように、爪車80には、高歯831と低歯832とが存在している。このため、低歯832の低歯先端部832aを通過した後の爪部材90の先端部90aは、隣接する高歯831の背に衝突する。このため、爪車80の逆転を防止することができる。
【0045】
また、本実施の形態では、爪車80には、高歯831と低歯832とが交互に設けられることが好ましい。このように構成する場合には、少なくとも1つの爪部材90の先端部90aが低歯832の低歯先端部832aに接触している場合には、爪車80が回転(逆転)し始めると、次歯である高歯831の背に即座に衝突する。また、少なくとも1つの爪部材90の先端部90aが高歯831の高歯先端部831aに接触している場合には、爪車80が回転(逆転)し始めて仮に低歯先端部832aを乗り越えても、高歯831の背に即座に衝突する。このため、爪車80の逆転を、早い段階で防止することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、ラチェット歯83は、奇数の2倍の枚数設けることが好ましい。このように構成する場合には、一方の爪部材90の先端部90aが高歯831に押し付けられる場合、他方の爪部材90は低歯832に押し付けられる。一方の爪部材90か、または他方の爪部材90のいずれかが、必ず低歯832に押し付けられるようにすることで、仮に爪車80が想定を超える速さで逆転しても、どちらかの爪部材90の先端部90aを、爪車80うち、高歯先端部831aよりも内径側の低歯先端部832aに押し付けることができるので、爪車80の逆転を確実に阻止することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、低歯832の先端側の低歯先端部832aは、円弧の一部をなすように形成することができる。このように構成する場合には、高歯先端部831aの周方向長さよりも、低歯先端部832aの周方向長さが長くなる。このため、高歯先端部831aと比較して、爪部材90の先端部90aが低歯先端部832aに接触する時間を長くすることができるので、爪車80の逆転を一層確実に阻止することができる。また、低歯先端部832aを、たとえば工作機械を用いて容易に加工することが可能となるので、生産性を向上させることができる。
【0048】
<変形例>
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0049】
上述の実施の形態では、遊転ニギリ60を操作して遊転/非遊転を切り換える遊転装置を説明しているが、例えば自動遊転方式など、他の方式の遊転装置を備えたレバーホイストでも良い。
【0050】
また、上述の実施の形態では、ブレーキ装置70が、レバーホイスト10に適用された場合について説明している。しかしながら、上記のブレーキ装置は、たとえばチェーンブロック等のような、レバーホイスト以外の巻上機に適用しても良い。
【0051】
また、上述の実施の形態では、爪部材90は一対設けられている場合について説明している。しかしながら、爪部材90は1つだけ設けられていても良く、3つ以上設けられていても良い。3つ以上の爪部材90が設けられる場合は、爪部材90を爪車80の外周側に均等に配置し、かつ、一つの爪部材90が高歯に隣り合うラチェット歯の間に位置する谷部係合しているときに少なくとも他の一つの爪部材が低歯に隣り合うラチェット歯の間に位置する谷部と係合するようにすることが好ましい。
【0052】
しかしながら、複数の爪部材90を爪車80の外周側に均等に配置しないことも可能である。その場合には、各爪部材90の爪軸21に作用するラジアル力が等しくなるように配置することが好ましい。例えば4つの爪部材90を2つずつ駆動軸25と直交する線に対して線対称に配置してもよい。複数の爪部材90をその爪軸21に作用するラジアル力が等しくなるように配置することで、爪車80に爪部材90から作用する力が分散され、その結果、爪車80の耐久性を高めることができる。また、このように爪部材90を配置することで、爪車80から駆動軸25に作用する力の偏りを少なくすることができ、その結果、駆動軸25やその周囲の部材の耐久性も高めることができる。
【0053】
また、爪部材90は一対設けられていて、一対の爪部材90、90は、同一形状で互いに駆動軸25を中心に点対称の位置に配置されることが最も好ましいが、それぞれが係合する谷部833に、同時にそれぞれの爪部材90の先端部90aが係合するような形状と配置であれば、爪部材90は、異なる形状であっても良い。例えば爪車80の外周側に2つ以上の爪部材90を均等に配置することで一つの爪部材90に掛かる力を分散するとともに、爪車80を配置した爪軸91に作用するラジアル力を低減することができる。ただし実際には先端部90aの係合位置が点対称の位置であることが最も好ましく、お互いに偶数歯分ずれた位置であっても良いが、ずれ量が多くなると駆動軸25に掛かる負荷が増大するので、必要以上に係合位置をずらすことは好ましくない。
【0054】
また、上述の実施の形態では、ブレーキ板72を爪車80に別体として配置しているが、爪車80の両面に摩擦部材を焼きつけ形成するなどしてもよい。
【0055】
また、上述の実施の形態では、駆動軸25に作用する負荷トルクによって爪車80を押圧するメネジ部材35は、駆動軸25の雄ネジ部26とメネジ部材35の雌ネジ部36が螺合する構成としている。しかしながら、メネジ部材35は駆動軸25と別体(例えばブレーキ受け71の中空ボス部71bを延長した中空軸の外周部に設けられた雄ねじ)に設けても良く、更には、カムを用いて負荷トルクをスラスト力に変換する機構であっても良い。
【0056】
また、上述の実施の形態では、レバーホイスト10のブレーキ装置70を例に説明したが、より広く発明を捉えると本発明はラチェット機構に係るものといえる。すなわち本発明は、外周に多数のラチェット歯が形成された爪車と、ラチェット歯と噛み合う少なくとも1つの爪部材と、を備えることで一方向のみへの爪車の回転を許容するラチェット機構であって、ラチェット歯には、爪車中心からの突出高さが高い高歯と、爪車中心からの突出高さが低い低歯とが存在するようにしたラチェット機構である。
【0057】
このようにラチェット機構を構成することで、高歯や低歯の先端に爪部材の先端が位置しているときに逆転が発生した際にも、少なくとも次の高歯の背(高歯を形成する傾斜)に爪部材の先端が衝突しラチェット歯とラチェット歯の間の谷に入り込む。このため、爪車の逆転を直ちにかつ確実に阻止することができる。
【0058】
ここで
図4に示すように、爪部材は2つが対称位置に設けられていることが好ましい。また、高歯と低歯とは交互に設けられていることが好ましい。また、ラチェット歯は、奇数の2倍の枚数設けられていることが好ましい。
【0059】
また、2つの爪部材を対称位置に設けことで爪車にかかる応力の偏りをなくすことができる。また高歯と低歯とを交互に設けることで、逆転が発生した際には直近にある高歯の背に爪部材の先端を衝突させることができる。また、ラチェット歯を奇数の2倍の枚数とすることで対称位置にある一方の爪部材の先端が高歯の先端にあるときに他方の爪部材の先端が低歯の先端に位置することになり、逆転が発生した際には少なくとも低歯の先端に位置していた爪部材の先端は隣の高歯の背に必ず衝突するため、爪車の逆転を直ちにかつ確実に阻止することができる。
【0060】
このようなラチェット機構は、例えば上述の実施の形態で説明したように、一方向の入力トルクに抗するレバーホイストのブレーキ装置に適用され、ブレーキ装置を構成する爪車の逆転を阻止するために特に有効である。
【符号の説明】
【0061】
10…レバーホイスト、11…フレーム、12…フレーム、13…ケーシング、20…ロードシーブ、20a…挿通孔、21…ロードギヤ、22…上フック、25…駆動軸、26…雄ネジ部、27…ピニオンギヤ、30…減速ギヤ、31…大径ギヤ部、32…小径ギヤ部、35…メネジ部材、36…雌ネジ部、37…切換歯車、40…切換爪、45…切換ツマミ、46…係合突部、50…操作レバー、55…カム部材、60…遊転ニギリ、65…フランジ部、70…ブレーキ装置、71…ブレーキ受け、71a…フランジ部、71b…中空ボス部(ボス部に対応)、72a…ブレーキ板、72b…ブレーキ板、80…爪車、81…リング状部、82…中心孔、83…ラチェット歯、90…爪部材、90a…先端部、91…爪軸、92…ブッシュ、93…ねじりばね、93a…コイル部、831…高歯、831a…高歯先端部、831b…テーパ部、832…低歯、832a…低歯先端部、832b…テーパ部、833…谷部、C1…チェーン