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特許7460267情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20240326BHJP
【FI】
C02F1/00 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019206525
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021079310
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】石井 崇晃
(72)【発明者】
【氏名】根本 雄一
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-053375(JP,A)
【文献】特開2015-104726(JP,A)
【文献】特開2015-157239(JP,A)
【文献】特開平07-319508(JP,A)
【文献】特開平06-304546(JP,A)
【文献】特開2005-230629(JP,A)
【文献】特開2001-235461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
3/00- 3/34
G05B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理装置であって、
前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力手段と、
前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力手段と、を備え、
前記カビ臭原因物質の濃度を順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)を用いて推定することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記出力手段が出力するカビ臭原因物質の濃度及び前記カビ臭原因物質の濃度の実測値の間に生じる誤差が誤差閾値以下であるとともに、前記出力手段が出力するカビ臭原因物質の濃度及び前記カビ臭原因物質の濃度の実測値に基づく決定係数が決定係数閾値以上であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記カビ臭原因物質が2-MIB又はジェオスミンであることを特徴とする請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項4】
上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理方法であって、
前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力ステップと、
前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力ステップと、を有し、
前記カビ臭原因物質の濃度を順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)を用いて推定することを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力ステップと、
前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力ステップと、を有し、
前記プログラムが順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)であることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水処理に用いられる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河川水やダム水又は湖沼水等の原水(以下、単に「原水」という。)を飲料水等にするための上水処理が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の上水処理は、原水に含まれる砂等の異物を沈降除去する沈砂池と、原水に凝集剤を添加して原水の濁質が凝集したフロックを形成するフロック形成池と、形成されたフロックを沈殿させる沈澱池と、フロックが沈殿した後の上水を濾過する濾過池と、濾過された上水を消毒する消毒槽とを備える上水処理システムで実行される。
【0003】
原水には、例えば、フォルミディウム、オシラトリア、及びアナベナ等の藍藻類及び放線菌類が生息し、これらは2-MIB(Methylisoborneol)やジェオスミンを生成する。2-MIBやジェオスミンが飲料水等の上水処理が施された原水(以下、「処理済水」という。)に一定量以上含まれるとき、例えば、処理済水を飲む者はカビの臭いであるカビ臭を感じる。したがって、水道法は処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度が10ng/L以下であることを規定し、処理済水を飲む者がカビ臭を感じるのを防止している。
【0004】
上水処理の管理者は処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度を10ng/L以下に制御するために、例えば、主に粒径20μm以下の活性炭で構成される粉末活性炭を有する粉末活性炭槽を、フロック形成池の前に設置する。したがって、上水処理システムに導水された原水は、まず、粉末活性炭槽において粉末活性炭に接触するので、原水に含まれる2-MIB及びジェオスミンは粉末活性炭に吸着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-185573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水道法は処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度が10ng/L以下であることを規定しているが、原水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度について規定していない。また、原水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度の変動は大きい。そのため、原水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度は測定されていない。したがって、上水処理の管理者は原水に含まれる2-MIB及びジェオスミンの濃度を測定し、測定されたこれらの濃度に基づいて粉末活性炭槽への粉末活性炭の添加量を決定することができない。
【0007】
これに対応して、上水処理の管理者は処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミンの濃度を確実に10ng/L以下に制御するために、粉末活性炭槽に過剰な粉末活性炭を添加している。その結果、無駄な粉末活性炭の添加に基づく経済的負担が増大するだけでなく、2-MIB又はジェオスミンが吸着した大量の粉末活性炭が汚泥を生成するため、大量の活性炭汚泥の処分に困るという問題が生じる。
【0008】
すなわち、処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミン等のカビ臭原因物質の濃度を確実に10ng/L以下に制御するために、適切な量の粉末活性炭を適切なタイミングに添加することができないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、適切な量の粉末活性炭を適切なタイミングに添加することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の情報処理装置は、上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理装置であって、前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力手段と、前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力手段と、を備え、前記カビ臭原因物質の濃度を順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)を用いて推定することを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、第1の時刻から第2の時刻までの上水処理が施される原水に含まれる物質の濃度及び前記第1の時刻から前記第2の時刻までの前記物質の濃度以外の少なくとも1つの情報を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力された物質の濃度、前記入力手段によって入力された少なくとも1つの情報、及びこれらの重要性を示す重みに基づいて前記第2の時刻から一定の時間が経過した予測時刻における前記物質の濃度を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項記載の情報処理方法は、上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理方法であって、前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力ステップと、前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力ステップと、を有し、前記カビ臭原因物質の濃度を順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)を用いて推定することを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理方法は、第1の時刻から第2の時刻までの上水処理が施される原水に含まれる物質の濃度及び前記第1の時刻から前記第2の時刻までの前記物質の濃度以外の少なくとも1つの情報を入力する入力ステップと、前記入力された物質の濃度、前記入力された少なくとも1つの情報、及びこれらの重要性を示す重みに基づいて前記第2の時刻から一定の時間が経過した予測時刻における前記物質の濃度を出力する出力ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項記載のプログラムは、上水処理が施される原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を推定する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、前記原水に含まれる異物を沈降除去する沈砂池の導電率、前記沈砂池の塩素要求量、及び前記沈砂池の水温を含む情報であって、必要であれば更に前記沈砂池のアルカリ度及び河川水位を含む情報を入力する入力ステップと、前記入力された情報及び前記入力された情報の重要性を示す重みに基づいて前記原水に含まれるカビ臭原因物質の濃度を出力する出力ステップと、を有し、前記プログラムが順伝播型ニューラルネットワーク(FFNN)であることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、第1の時刻から第2の時刻までの上水処理が施される原水に含まれる物質の濃度及び前記第1の時刻から前記第2の時刻までの前記物質の濃度以外の少なくとも1つの情報を入力する入力ステップと、前記入力された物質の濃度、前記入力された少なくとも1つの情報、及びこれらの重要性を示す重みに基づいて前記第2の時刻から一定の時間が経過した予測時刻における前記物質の濃度を出力する出力ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、適切な量の粉末活性炭を適切なタイミングに添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る情報処理装置の内部構成を概略的に示すブロック図である。
図2図1におけるCPUによって実行される順伝播型ニューラルネットワークを概略的に示す概念図であり、図2(a)は順伝播型ニューラルネットワークの一例を説明するために用いられる概念図であり、図2(b)は図2(a)の順伝播型ニューラルネットワークの変形例を説明するために用いられる概念図である。
図3図2(a)の順伝播型ニューラルネットワークを用いてFFNN入力情報及びFFNN正解データの関係を学習する第1の学習処理の手順を示すフローチャートである。
図4図3の第1の学習処理が正しく実行されたか否かを検証する第1の検証処理の手順を示すフローチャートである。
図5図1におけるCPUによって実行される長短期記憶を概略的に示す概念図である。
図6図5の長短期記憶を用いてLSTM入力情報及びLSTM正解データの関係を学習する第2の学習処理の手順を示すフローチャートである。
図7図6の第2の学習処理が正しく実行されたか否かを検証する第2の検証処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る情報処理装置10の内部構成を概略的に示すブロック図である。
【0020】
図1の情報処理装置10は、CPU11、RAM12、ROM13、及びHDD14を備え、これらは内部バス15を介して互いに接続されている。CPU11は、ROM13又はHDD14に格納されたプログラム、例えば、深層学習に関するプログラムをCPU11のワークメモリであるRAM12に展開して実行する。深層学習に関するプログラムには、例えば、順伝播型ニューラルネットワークFFNN(Feed Forward Neural Network)及び長短期記憶LSTM(Long Short Term Memory)等があり、「深層学習」(機械学習プロフェッショナルシリーズ 岡谷貴之 著)に詳細が記載されている。
【0021】
HDD14は、各種プログラムの他に後述の第1の学習処理(図3)で用いられるFFNN入力情報(表1)及びFFNN正解データ(表2)、並びに、後述の第1の検証処理(図4)で用いられるFFNNテストデータ(表3)及びFFNN検証用正解データ(表4)を格納する。また、HDD14は、後述の第2の学習処理(図6)で用いられるLSTM入力情報(表5)及びLSTM正解データ(表6)、並びに、後述の第2の検証処理(図7)で用いられるLSTMテストデータ(表7)及びLSTM検証用正解データ(表8)を格納する。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
【表6】
【0028】
【表7】
【0029】
【表8】
【0030】
表1のFFNN入力情報は、時刻、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の複数の情報(カビ臭原因物質の濃度以外の情報)から構成されている。FFNN入力情報において、時刻は原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の各情報を測定した時刻を示し、原水濁度は上水処理システムに流入する原水(以下、「流入原水」という。)の濁度を示し、pHは沈砂池のpHを示し、アルカリ度は沈砂池のアルカリ度を示し、導電率は沈砂池の導電率を示し、塩素要求量は沈砂池の塩素要求量を示し、水温は沈砂池の水温を示し、河川水位は流入原水の水源である河川の所定の地点、例えば、上水処理システムの約10km上流地点の河川水位を示す。
【0031】
表2のFFNN正解データは、時刻、2-MIB濃度、及びジェオスミン濃度の複数の情報から構成されている。FFNN正解データにおいて、時刻は2-MIB濃度及びジェオスミン濃度を測定した時刻を示し、2-MIB濃度は流入原水に含まれるカビ臭原因物質としての2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は流入原水に含まれるカビ臭原因物質としてのジェオスミンの濃度を示す。
【0032】
表3のFFNNテストデータは、時刻、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の複数の情報から構成されている。FFNNテストデータにおいて、時刻は原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の各情報を測定した時刻を示し、原水濁度は流入原水の濁度を示し、pHは沈砂池のpHを示し、アルカリ度は沈砂池のアルカリ度を示し、導電率は沈砂池の導電率を示し、塩素要求量は沈砂池の塩素要求量を示し、水温は沈砂池の水温を示し、河川水位は流入原水の水源である河川の所定の地点、例えば、上水処理システムの約10km上流地点の河川水位を示す。
【0033】
表4のFFNN検証用正解データは時刻、2-MIB濃度、及びジェオスミン濃度の複数の情報から構成されている。FFNN検証用正解データにおいて、時刻は2-MIB濃度及びジェオスミン濃度を測定した時刻を示し、2-MIB濃度は流入原水に含まれる2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は流入原水に含まれるジェオスミンの濃度を示す。
【0034】
本実施の形態において、FFNN入力情報、FFNN正解データ、FFNNテストデータ又はFFNN検証用正解データである原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、河川水位、2-MIB濃度及びジェオスミン濃度の測定は定性的な測定であればよいため、上水処理の分野で通常使用されている濁度計、pH計、アルカリ度計、導電率計、塩素要求量計、水温計、河川水位計、及び濃度計などの測定機器を用いて行うことができる。これらの各情報又は各データの測定機器はそれぞれ所定の位置に固定して使用される。流入原水の濁度又は流入原水に含まれる2-MIB濃度若しくはジェオスミン濃度は、例えば、沈砂池に流入する前の原水又は沈砂池に流入した直後の原水に対し濁度計又は濃度計を設置して測定することができる。また、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温の測定は、砂等の異物の沈降物を含まない原水に対して行うのであれば沈砂池のいずれの場所で測定してもよい。
【0035】
本実施の形態において、約12500のFFNN入力情報及び約12500のFFNN正解データ、並びに、約3100のFFNNテストデータ及び約3100のFFNN検証用正解データがHDD14に格納されている。なお、所定の時刻に測定された各情報がFFNN入力情報及びFFNN正解データ、又は、FFNNテストデータ及びFFNN検証用正解データに分類されるか否かはCPU11によって不規則に決定されている。
【0036】
表5のLSTM入力情報は、時刻、2-MIB濃度、ジェオスミン濃度、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の複数の情報から構成されている。LSTM入力情報において、時刻は2-MIB濃度、ジェオスミン濃度、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の各情報を測定した時刻を示し、2-MIB濃度は流入原水に含まれる2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は流入原水に含まれるジェオスミンの濃度を示し、原水濁度は流入原水の濁度を示し、pHは沈砂池のpHを示し、アルカリ度は沈砂池のアルカリ度を示し、導電率は沈砂池の導電率を示し、塩素要求量は沈砂池の塩素要求量を示し、水温は沈砂池の水温を示し、河川水位は流入原水の水源である河川の所定の地点、例えば、上水処理システムの約10km上流地点の河川水位を示す。
【0037】
表6のLSTM正解データは予測時刻、2-MIB濃度、及びジェオスミン濃度の複数の情報から構成されている。ところで、本実施の形態において、長短期記憶LSTMは第1の時刻tから第2の時刻t(t>t)の間に測定された時系列データに基づいて時刻tから一定の時間が経過した時刻の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力することを前提とし、時刻tから一定の時間が経過した時刻を予測時刻tとしている。したがって、LSTM正解データにおいて、予測時刻は2-MIB濃度及びジェオスミン濃度を測定した予測時刻tを示し、2-MIB濃度は予測時刻tの流入原水に含まれる2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は予測時刻tの流入原水に含まれるジェオスミンの濃度を示す。
【0038】
表7のLSTMテストデータは、時刻、2-MIBの濃度、ジェオスミンの濃度、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の複数の情報から構成されている。LSTMテストデータにおいて、時刻は原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の各情報を測定した時刻を示し、2-MIB濃度は流入原水に含まれる2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は流入原水に含まれるジェオスミンの濃度を示し、原水濁度は流入原水の濁度を示し、pHは沈砂池のpHを示し、アルカリ度は沈砂池のアルカリ度を示し、導電率は沈砂池の導電率を示し、塩素要求量は沈砂池の塩素要求量を示し、水温は沈砂池の水温を示し、河川水位は流入原水の水源である河川の所定の地点、例えば、上水処理システムの約10km上流地点の河川水位を示す。
【0039】
表8のLSTM検証用正解データは予測時刻、2-MIB濃度、及びジェオスミン濃度の複数の情報から構成されている。ところで、本実施の形態において、長短期記憶LSTMは、第3の時刻tから第4の時刻t(t>t)又は第5の時刻tx+1から第6の時刻ty+1(ty+1>tx+1)の間に測定された時系列データ(ty+1>tx+1>t>t)からなるLSTMテストデータに基づいて時刻t,ty+1から一定の時間が経過した予測時刻tt1,tt2の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力することを前提としている。したがって、LSTM検証用正解データにおいて、予測時刻は予測時刻tt1,tt2を示し、2-MIB濃度は予測時刻tt1,tt2の流入原水に含まれる2-MIBの濃度を示し、ジェオスミン濃度は予測時刻tt1,tt2の流入原水に含まれるジェオスミンの濃度を示す。
【0040】
本実施の形態において、LSTM入力情報、LSTM正解データ、LSTMテストデータ又はLSTM検証用正解データである原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、河川水位、2-MIB濃度及びジェオスミン濃度の測定は定性的な測定であればよいため、上水処理の分野で通常使用されている濁度計、pH計、アルカリ度計、導電率計、塩素要求量計、水温計、河川水位計、及び濃度計などの測定機器を用いて行うことができる。これらの各情報又は各データの測定機器はそれぞれ所定の位置に固定して使用される。流入原水の濁度又は流入原水に含まれる2-MIB濃度若しくはジェオスミン濃度は、例えば、沈砂池に流入する前の原水又は沈砂池に流入した直後の原水に対し濁度計又は濃度計を設置して測定することができる。また、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温の測定は、砂等の異物の沈降物を含まない原水に対して行うのであれば沈砂池のいずれの場所で測定してもよい。
【0041】
本実施の形態において、約12500のLSTM入力情報及び約12500のLSTM正解データ、並びに、約3100のLSTMテストデータ及び約3100のLSTM検証用正解データがHDD14に格納されている。なお、所定の時刻に測定された各情報がLSTM入力情報及びLSTM正解データ、又は、LSTMテストデータ及びLSTM検証用正解データに分類されるか否かはCPU11によって不規則に決定されている。
【0042】
さらに、HDD14は、後述の第1の検証処理において用いられる誤差閾値及び決定係数閾値を格納する。また、HDD14は予測時刻t,tt1,tt2を決定するための基準である後述の時間差t、並びに、後述のタイムステップ情報を格納する。
【0043】
図2は、図1におけるCPU11によって実行される順伝播型ニューラルネットワークFFNNを概略的に示す概念図であり、図2(a)は順伝播型ニューラルネットワークFFNNの一例を説明するために用いられる概念図であり、図2(b)は図2(a)の順伝播型ニューラルネットワークFFNNの変形例を説明するために用いられる概念図である。
【0044】
図2(a)において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは入力層21、隠れ層22、及び出力層23から構成され、入力層21は複数の入力層ノード21a及び入力層バイアス21bを備え、隠れ層22は複数の隠れ層ノード22a及び隠れ層バイアス22bを備え、出力層23は出力層ノード23aを備える。各入力層ノード21a及び入力層バイアス21bは各隠れ層ノード22aに接続され、各隠れ層ノード22a及び隠れ層バイアス22bは出力層ノード23aに接続されている。
【0045】
入力層21にはFFNN入力情報又はFFNNテストデータの情報が入力され、各入力層ノード21aは入力されたFFNN入力情報又はFFNNテストデータの情報を有する。各隠れ層ノード22aは、各入力層ノード21aが有する情報、各入力層ノード21aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス21b、及び入力層バイアス21bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。出力層ノード23aは、各隠れ層ノード22aが有する情報、各隠れ層ノード22aが有する情報の重要性を示す重みW、隠れ層バイアス22b、及び隠れ層バイアス22bの重要性を示す重みWhbを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。本実施の形態において用いられた活性化関数はシグモイド関数又はソフトマックス関数等の非線形関数である。
【0046】
図2(a)の順伝播型ニューラルネットワークFFNNは、入力層21、1層の隠れ層22、及び出力層23から構成されているが、隠れ層22は複数の層、例えば、2~8層から構成されてもよい(図2(b))。
【0047】
図2(b)において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが入力層21、2層の隠れ層22,29、及び出力層23から構成され、2層の隠れ層が入力層21側に位置する第1の隠れ層22、出力層23側に位置する第2の隠れ層29から構成されるとき、第1の隠れ層22は複数の第1の隠れ層ノード22a及び第1の隠れ層バイアス22bを有し、第2の隠れ層29は複数の第2の隠れ層ノード29a及び第2の隠れ層バイアス29bを有する。
【0048】
各入力層ノード21aは入力されたFFNN入力情報又はFFNNテストデータの情報を有する。第1の隠れ層ノード22aの各々は、各入力層ノード21aが有する情報、各入力層ノード21aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス21b、及び入力層バイアス21bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。第2の隠れ層ノード29aの各々は、第1の隠れ層ノード22aの各々が有する情報、第1の隠れ層ノード22aの各々が有する情報の重要性を示す重みWh1、第1の隠れ層バイアス22b、及び第1の隠れ層バイアス22bの重要性を示す重みWhb1を用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。
【0049】
出力層ノード23aは、第2の隠れ層ノード29aの各々が有する情報、第2の隠れ層ノード29aの各々が有する情報の重要性を示す重みWh2、第2の隠れ層バイアス29b、及び第2の隠れ層バイアス29bの重要性を示す重みWhb2を用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。
【0050】
図3は、図2(a)の順伝播型ニューラルネットワークFFNNを用いてFFNN入力情報及びFFNN正解データの関係を学習する第1の学習処理の手順を示すフローチャートである。
【0051】
図3において、まず、CPU11は全てのFFNN入力情報及びFFNN正解データを分割して複数のミニバッチに格納する(S31)。本実施の形態では、全てのFFNN入力情報及びFFNN正解データは98のミニバッチに分割され、各ミニバッチは128のFFNN入力情報及びFFNN正解データを格納する。このとき、同一のミニバッチに格納されている各FFNN入力情報が示す時刻及び各FFNN正解データが示す時刻は一致する。例えば、2019年1月1日10:00の時刻を示すFFNN入力情報がミニバッチに格納されているとき、2019年1月1日10:00の時刻を示すFFNN正解データが同一のミニバッチに格納されている。
【0052】
次いで、CPU11はミニバッチ毎にFFNN入力情報及びFFNN正解データの関係を学習する。具体的に、一のミニバッチに格納されている全てのFFNN入力情報及びFFNN正解データが順伝播型ニューラルネットワークFFNNに入力され(S32)、入力されたFFNN入力情報毎に各入力層ノード21aが形成される(S33)。以下のS34~S36の各ステップの処理は、順伝播型ニューラルネットワークFFNNに入力されたFFNN入力情報の1つに基づいて複数の入力層ノード21aが形成された場合を説明する。
【0053】
続くS34において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは各入力層ノード21a、各入力層ノード21aの重要性を示す重みW、入力層バイアス21b、及び入力層バイアス21bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算をし、複数の隠れ層ノード22aを形成する。さらに、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは各隠れ層ノード22aが有する情報、各隠れ層ノード22aが有する情報の重要性を示す重みW、隠れ層バイアス22b、及び隠れ層バイアス22bの重要性を示す重みWhbを用いた活性化関数の演算をし、出力層ノード23aを形成する(S35)。
【0054】
本実施の形態において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは特定の時刻が示されているFFNN入力情報が入力層21に入力されたとき、その特定の時刻の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。したがって、特定の時刻が示されているFFNN入力情報に基づいて形成された出力層ノード23aは、FFNN入力情報が示す特定の時刻と、当該時刻の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度の推定値とから構成される情報を有する。
【0055】
その後、CPU11は、出力層ノード23aが有する情報と、その出力層ノード23aが示す時刻と同一の時刻を示すFFNN正解データとを比較し、それぞれから2-MIBの濃度に関する誤差及びジェオスミンの濃度に関する誤差を式1によって平均二乗誤差MSE(Mean Square Error)(ng/L)2として算出する。
【0056】
【数1】
【0057】
続いて、CPU11は、算出された2-MIBの濃度に関する誤差及びジェオスミンの濃度に関する誤差を出力層23から隠れ層22、入力層21へ順次伝播し(誤差逆伝播法)、それぞれの誤差が小さくなるように入力層ノード21aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス21bの重要性を示す重みWib、隠れ層ノード22aが有する情報の重要性を示す重みW、及び隠れ層バイアス22bの重要性を示す重みWhbを更新する(S36)。
【0058】
S32~S36の各ステップの処理が一のミニバッチに格納されている全てのFFNN入力情報について実行されたとき、一のミニバッチの学習が終了するが、続くS37において、CPU11は全てのミニバッチの学習が終了したか否かを判別する。S37の判別の結果、全てのミニバッチの学習が終了していないとき、本処理はS32に戻って他のミニバッチを学習し、全てのミニバッチの学習が終了したとき、本処理は終了する。本実施の形態では、図3の第1の学習処理を1000回(1000エポック)繰り返した。
【0059】
ところで、図3の第1の学習処理が正しく実行されたか否かについて検証する必要がある。図3の第1の学習処理が正しく実行されたか否かは、FFNNテストデータを順伝播型ニューラルネットワークFFNNに入力して出力された情報及びFFNN検証用正解データを比較することによって検証する。
【0060】
図4は、図3の第1の学習処理が正しく実行されたか否かを検証する第1の検証処理の手順を示すフローチャートである。
【0061】
図4において、まず、CPU11は全てのFFNNテストデータを分割して複数のミニバッチに格納する(S41)。本実施の形態では、全てのFFNNテストデータは24のミニバッチに分割され、各ミニバッチは128のFFNNテストデータを格納する。次いで、一のミニバッチに格納されている全てのFFNNテストデータが順伝播型ニューラルネットワークFFNNに入力され(S42)、入力されたFFNNテストデータ毎に複数の入力層ノード21aが形成される(S43)。以下のS44~S47の各ステップの処理は、順伝播型ニューラルネットワークFFNNに入力されたFFNNテストデータの1つに基づいて複数の入力層ノード21aが形成された場合を説明する。
【0062】
続くS44において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは各入力層ノード21a、各入力層ノード21aの重要性を示す重みW、入力層バイアス21b、及び入力層バイアス21bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算をし、複数の隠れ層ノード22aを形成する。さらに、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは各隠れ層ノード22aが有する情報、各隠れ層ノード22aが有する情報の重要性を示す重みW、隠れ層バイアス22b、及び隠れ層バイアス22bの重要性を示す重みWhbを用いた活性化関数の演算をし、出力層ノード23aを形成する(S45)。
【0063】
本実施の形態において、順伝播型ニューラルネットワークFFNNは特定の時刻が示されているFFNNテストデータが入力層21に入力されたとき、その特定の時刻の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。したがって、特定の時刻が示されているFFNNテストデータに基づいて形成された出力層ノード23aは、FFNNテストデータが示す特定の時刻と、当該時刻の流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度の推定値とから構成される情報を有する。
【0064】
その後、CPU11は、各FFNNテストデータに基づいて形成された出力層ノード23aが有する情報と、HDD14に格納されているFFNN検証用正解データを参照した上でその出力層ノード23aが示す時刻と同一の時刻を示すFFNN検証用正解データとを比較し、それぞれから2-MIBの濃度の誤差及びジェオスミンの濃度の誤差を式1によって算出するとともに(S46)、2-MIBの濃度に関する決定係数R(相関係数Rの2乗値)及びジェオスミンの濃度に関する決定係数Rを式2によって算出する(S47)。
【0065】
【数2】
【0066】
ここで決定係数Rとは、順伝播型ニューラルネットワークFFNNにより出力された2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度の推定値が、FFNN検証用正解データである2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度の実測値とどの程度一致しているかを示す指標である。決定係数Rは通常0~1の範囲の値をとり、決定係数Rの値が大きい程、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度を正しく出力できていることを意味する。
【0067】
S44~S47の各ステップの処理が一のミニバッチに格納されている全てのFFNNテストデータについて実行されたとき、CPU11は全てのミニバッチについて2-MIBの濃度の誤差、ジェオスミンの濃度の誤差、2-MIBの濃度に関する決定係数、及びジェオスミンの濃度に関する決定係数を算出したか否かを判別する(S48)。S48の判別の結果、全てのミニバッチについて2-MIBの濃度の誤差、ジェオスミンの濃度の誤差、2-MIBの濃度に関する決定係数、及びジェオスミンの濃度に関する決定係数が算出されていないとき、本処理はS42に戻り、全てのミニバッチについて2-MIBの濃度の誤差、ジェオスミンの濃度の誤差、2-MIBの濃度に関する決定係数、及びジェオスミンの濃度に関する決定係数が算出されているとき、本処理はS49に進む。
【0068】
続くS49において、CPU11はS46において算出された2-MIBの濃度の誤差及びジェオスミンの濃度の誤差が所定の閾値(以下、当該閾値を「誤差閾値」という。)以下であり且つS47において算出された2-MIBの濃度に関する決定係数及びジェオスミンの濃度に関する決定係数が所定の閾値(以下、当該閾値を「決定係数閾値」という。)以上であるか否かを判別する(S49)。
【0069】
S49の判別の結果、S46において算出された2-MIBの濃度の誤差及びジェオスミンの濃度の誤差が誤差閾値以下であり且つS47において算出された2-MIBの濃度に関する決定係数及びジェオスミンの濃度に関する決定係数が決定係数閾値以上であるとき、CPU11は第1の学習処理が正しく実行され、その結果、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが所定の時刻に測定された原水濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位の情報から当該所定の時刻における流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を正しく出力することを認定し(S410)、本処理は終了する。
【0070】
一方、S49の判別の結果、S46において算出された2-MIBの濃度の誤差及びジェオスミンの濃度の誤差のいずれかが誤差閾値よりも大きく、又は、S47において算出された2-MIBの濃度に関する決定係数及びジェオスミンの濃度に関する決定係数のいずれかが決定係数閾値よりも小さいとき、CPU11は第1の学習処理が正しく実行されず、その結果、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが所定の時刻に測定された原水濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位の情報から当該所定の時刻における流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を正しく出力しないことを認定し(S411)、本処理は終了する。
【0071】
本実施の形態において、第1の学習処理が正しく実行されているか否かは、誤差閾値及び決定係数閾値に基づいて判別される。2-MIB及びジェオスミンは藍藻類及び放線菌類によって生成され、2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度は藍藻類及び放線菌類の生息量や生息環境によって変動するが、通常、上水処理が施される原水が河川水の場合、当該河川水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度はそれぞれ4ng/L以下である。上水処理の管理者は流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度がそれぞれ4ng/L以上であるか否かについて関心があり、また、流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度がそれぞれ4ng/L以上のときを確実に把握できればよい。したがって、本実施の形態では、上水処理が施される原水が河川であることを前提とし、誤差閾値は1(ng/L)2に設定されるとともに、決定係数閾値は0.85に設定されている。さらに、2-MIB濃度の誤差閾値を0.6(ng/L)2、又はジェオスミンの濃度の誤差閾値を0.08(ng/L)2に設定することができ、2-MIB濃度の決定係数閾値を0.92、又はジェオスミンの濃度の決定係数閾値を0.89に設定することができる。

【0072】
順伝播型ニューラルネットワークFFNNが2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する精度は、S46において算出された2-MIBの濃度の誤差及びジェオスミンの濃度の誤差が小さいほどよく、また、S47において算出された2-MIBの濃度に関する決定係数及びジェオスミンの濃度に関する決定係数は大きいほどよい。
【0073】
これに対応して、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を精度よく出力するための最適な隠れ層22の層数及び各隠れ層22のノード数が検討された。その結果、2-MIBの濃度は、隠れ層22の層数を6に設定するとともに、各隠れ層22のノード数を64に設定したとき、2-MIBの濃度の誤差が0.41(ng/L)2であり且つ2-MIBの濃度に関する決定係数が0.93の精度で出力され、ジェオスミンの濃度は、隠れ層22の層数を5に設定するとともに、各隠れ層22のノード数を64に設定したとき、ジェオスミンの濃度の誤差が0.07(ng/L)2であり且つジェオスミンの濃度に関する決定係数が0.90の精度で出力された。これにより、2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度が正しく出力されることがわかった。
【0074】
また、本実施の形態では、所定の時刻に測定された流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位がFFNN入力情報として入力層21に入力されているが、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位をFFNN入力情報から削除したとき、2-MIBの濃度の誤差は増大するとともに、2-MIBの濃度に関する決定係数は減少し、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、及び沈砂池の水温をFFNN入力情報から削除したとき、ジェオスミンの濃度の誤差は増大するとともに、ジェオスミンの濃度に関する決定係数は減少した。
【0075】
これにより、順伝播型ニューラルネットワークFFNNが2-MIBの濃度を正しく出力するために、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位は必要な情報であり、ジェオスミンの濃度を正しく出力するために、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、及び沈砂池の水温は必要な情報であることがわかった。
【0076】
図3及び図4の処理によれば、所定の時刻に測定された流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位と、これらの情報が測定された同時刻の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度との関係を学習した順伝播型ニューラルネットワークFFNNは、流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位、並びに、これらの情報を測定した時刻から構成される新しい情報に基づいてその時刻における2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。
【0077】
これにより、上水処理の管理者は流入原水に含まれる2-MIB及びジェオスミンの濃度を測定しなくても、流入原水に含まれる2-MIB及びジェオスミンの濃度を把握することができる。その結果、上水処理の管理者は把握した流入原水に含まれる2-MIB及びジェオスミンの濃度に応じて粉末活性炭槽に適切な量の粉末活性炭の添加することができ、もって、過剰な粉末活性炭が粉末活性炭槽に添加されることを回避することができる。
【0078】
図5は、図1におけるCPU11によって実行される長短期記憶LSTMを概略的に示す概念図である。長短期記憶LSTMは、時間の経過に従って測定された時系列データが入力されると、その時系列データに基づいて将来の情報を出力する。本実施の形態では、第1の時刻tから第2の時刻tの間に測定された複数の時系列データ、又は、第3の時刻tから第4の時刻tの間に測定された複数の時系列データ若しくは第5の時刻tx+1から第6の時刻ty+1の間に測定された複数の時系列データが長短期記憶LSTMに入力されたとき、長短期記憶LSTMは時刻t,t,ty+1から一定の時間が経過した予測時刻t,tt1,tt2の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。
【0079】
図5において、長短期記憶LSTMは入力層51,54,57、隠れ層52,55,58、及び出力層53,56,59から構成され、入力層51,54,57は複数の入力層ノード51a,54a,57a及び入力層バイアス51b,54b,57bを備え、隠れ層52,55,58は複数の隠れ層ノード52a,55a,58aを備え、出力層53,56,59は出力層ノード53a,56a,59aを備える。各入力層ノード51a,54a,57a及び入力層バイアス51b,54b,57bは各隠れ層ノード52a,55a,58aに接続されている。各隠れ層ノード52aは出力層ノード53a及び各隠れ層ノード55aに接続され、各隠れ層ノード55aは出力層ノード56a及び各隠れ層ノード58aに接続され、各隠れ層ノード58aは出力層ノード59aに接続されている。
【0080】
例えば、時刻t,t,t(t>t>t)に流入原水に含まれる2-MIB濃度及びジェオスミン濃度、並びに、原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び上水処理システムの約10km上流地点の河川水位が測定され、これらに基づいてLSTM入力情報が作成されているとき、まず、時刻tのLSTM入力情報が入力層51に入力され、時刻tのLSTM入力情報を有する複数の入力層ノード51aが形成される。
【0081】
各隠れ層ノード52aは、各入力層ノード51aが有する情報、各入力層ノード51aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス51b、及び入力層バイアス51bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。出力層ノード53aは、各隠れ層ノード52aが有する情報及び隠れ層ノード52aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。本実施の形態において用いられた活性化関数はシグモイド関数又はソフトマックス関数等の非線形関数である。
【0082】
次いで、時刻tのLSTM入力情報が入力層54に入力され、時刻tのLSTM入力情報を有する複数の入力層ノード54aが形成される。各隠れ層ノード55aは、各入力層ノード54aが有する情報、各入力層ノード54aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス54b、入力層バイアス54bの重要性を示す重みWib、各隠れ層ノード52aが有する情報、及び各隠れ層ノード52aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。出力層ノード56aは、各隠れ層ノード55aが有する情報及び各隠れ層ノード55aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。
【0083】
続いて、時刻tのLSTM入力情報が入力層57に入力され、時刻tのLSTM入力情報を有する複数の入力層ノード57aが形成される。各隠れ層ノード58aは、各入力層ノード57aが有する情報、各入力層ノード57aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス57b、入力層バイアス57bの重要性を示す重みWib、各隠れ層ノード55aが有する情報、及び各隠れ層ノード55aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。出力層ノード59aは、各隠れ層ノード58aが有する情報及び各隠れ層ノード58aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算によって得られる情報を有する。
【0084】
時刻t,t,tの各LSTM入力情報が入力層51,54,57に入力されたとき、長短期記憶LSTMは少なくとも時刻tから一定の時間が経過した予測時刻tの流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。したがって、時刻tのLSTM入力情報に基づいて得られる出力層ノード59aはLSTM入力情報に示される時刻から一定の時間が経過した予測時刻tと、当該予測時刻tの流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度の予測値とから構成される情報を有する。
【0085】
図6は、図5の長短期記憶LSTMを用いてLSTM入力情報及びLSTM正解データの関係を学習する第2の学習処理の手順を示すフローチャートである。
【0086】
長短期記憶LSTMは、図6の第2の学習処理が終了したとき、例えば、第1の時刻tから第2の時刻tの間に測定された複数の時系列データに基づいて、時刻tから一定の時間が経過した予測時刻tの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を予測する。ここで、HDD14は予測時刻tを決定するための基準、すなわち、予測時刻t及び時刻tの時間差tを格納する。これにより、CPU11は時刻t及び時間差tに基づいて予測時刻tを決定する。例えば、時刻tが2019年1月2日9:00であるとともに、時間差tが24時間のとき、予測時刻tは2019年1月3日9:00である。
【0087】
また、HDD14は予測時刻tの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を予測するために用いられる時系列データの数をタイムステップ情報として格納する。例えば、2019年1月1日10:00から1時間毎に時系列データが測定されている場合において、HDD14に格納されているタイムステップ情報が24のとき、2019年1月1日10:00(第1の時刻t)から2019年1月2日9:00(第2の時刻t)までの1時間毎に測定された24の時系列データが予測時刻tの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を予測するために用いられることを示し、HDD14に格納されているタイムステップ情報が300のとき、2019年1月1日10:00(第1の時刻t)から2019年1月13日21:00(第2の時刻t)までの1時間毎に測定された300の時系列データが予測時刻tの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を予測するために用いられることを示す。タイムステップ情報としては、例えば、10~500時系列データを用いることができる。
【0088】
図6において、まず、CPU11はHDD14に格納されている時間差t及びタイムステップ情報を参照し、LSTM入力情報の各々に関連付けるLSTM正解データを作成し(S61)、作成したLSTM正解データをLSTM入力情報の各々に関連付ける。例えば、2019年1月1日10:00から2019年1月13日21:00までの1時間毎の2-MIB濃度、ジェオスミン濃度、原水濁度、pH、アルカリ度、導電率、塩素要求量、水温、及び河川水位の各情報(以下、「300のタイムステップ情報」という。)と、2019年1月14日21:00の2-MIB濃度及びジェオスミン濃度とがあり、HDD14に格納されている時間差tが24を示すとともに、タイムステップ情報が300を示すとき、CPU11は、予測時刻tとして2019年1月14日21:00を示すとともに、2019年1月14日21:00に測定された2-MIB濃度及びジェオスミン濃度を示すLSTM正解データを作成し、作成したLSTM正解データを300のタイムステップ情報に関連付ける。
【0089】
次いで、CPU11は全てのLSTM入力情報及び各LSTM入力情報に関連付けられたLSTM正解データを分割して複数のミニバッチに格納する(S62)。本実施の形態では、全てのLSTM入力情報は98のミニバッチに分割され、各ミニバッチは128のLSTM入力情報及びLSTM正解データを格納する。
【0090】
続いて、CPU11はミニバッチ毎にLSTM入力情報及びLSTM正解データの関係を学習する。具体的に、一のミニバッチに格納されている全てのLSTM入力情報及びLSTM正解データが長短期記憶LSTMに入力され(S63)、入力されたLSTM入力情報毎に入力層ノード51a,54a,57aが形成される(S64)。以下のS65~S69の各ステップの処理は、長短期記憶LSTMに入力されたLSTM入力情報、例えば、時刻tpを示すLSTM入力情報及び時刻tq(ttqtp>t)を示すLSTM入力情報の2つを用い、時刻tpを示すLSTM入力情報に基づいて複数の入力層ノード51aが形成され、時刻tqを示すLSTM入力情報に基づいて複数の入力層ノード54aが形成された場合について説明する。
【0091】
続くS65において、長短期記憶LSTMは各入力層ノード51a、各入力層ノード51aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス51b、入力層バイアス51bの重要性を示す重みWibを用いた活性化関数の演算をし、複数の隠れ層ノード52aを形成する。さらに、長短期記憶LSTMは各隠れ層ノード52aが有する情報及び各隠れ層ノード52aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算をし、出力層ノード53aを形成する(S66)。
【0092】
次いで、長短期記憶LSTMは各入力層ノード54a、各入力層ノード54aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス54b、入力層バイアス54bの重要性を示す重みWib,隠れ層ノード52aが有する情報、及び隠れ層ノード52aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数の演算をし、複数の隠れ層ノード55aを形成する(S67)。さらに、長短期記憶LSTMは各隠れ層ノード55aが有する情報及び隠れ層ノード55aが有する情報の重要性を示す重みWを用いた活性化関数を演算し、出力層ノード56aを形成する(S68)。
【0093】
本実施の形態において、長短期記憶LSTMは第1の時刻tから第2の時刻tの間に測定された時系列データによって構成されるLSTM入力情報に基づいて、時刻tから一定の時間が経過した予測時刻tの流入原水に含まれる2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。したがって、出力層ノード53a,56aは、各LSTM入力情報が示す時刻tpから一定の時間が経過した予測時刻t(以下、当該予測時刻tを「予測時刻ttp」という。)の流入原水に含まれる2-MIBの濃度、及び予測時刻ttpの流入原水に含まれるジェオスミンの濃度、並びに、各LSTM入力情報が示す時刻tqから一定の時間が経過した予測時刻t(以下、当該予測時刻tを「予測時刻ttq」という。)、予測時刻ttqの流入原水に含まれる2-MIBの濃度、及び予測時刻ttqの流入原水に含まれるジェオスミンの濃度から構成される情報を有する。
【0094】
その後、CPU11は、出力層ノード53a,56aが有する情報と、その出力層ノード53a,56aが示す予測時刻ttp,ttqと同一の時刻を示すLSTM正解データとを比較し、それぞれから予測時刻ttp,ttqにおける2-MIBの濃度に関する誤差及び予測時刻ttp,ttqにおけるジェオスミンの濃度に関する誤差を式1によって算出する。続いて、CPU11は、算出された予測時刻ttp,ttqにおける2-MIBの濃度に関する誤差及び予測時刻ttp,ttqにおけるジェオスミンの濃度に関する誤差を出力層53,56から隠れ層52,55、入力層51,54へ順次伝播し、それぞれの誤差が小さくなるように各入力層ノード51a,54aが有する情報の重要性を示す重みW、入力層バイアス51b,54bの重要性を示す重みWib、及び各隠れ層ノード52a,55aが有する情報の重要性を示す重みWを更新する(S69)。
【0095】
S65~S69の各ステップの処理が一のミニバッチに格納されている全てのLSTM入力情報について実行されたとき、一のミニバッチの学習が終了するが、続くS610において、CPU11は全てのミニバッチの学習が終了したか否かを判別する。S610の判別の結果、全てのミニバッチの学習が終了していないとき、本処理はS63に戻って他のミニバッチを学習し、全てのミニバッチの学習が終了したとき、本処理は終了する。本実施の形態では、図6の第2の学習処理を100回繰り返した(100エポック)。
【0096】
ところで、図6の第2の学習処理が正しく実行されたか否かについて検証する必要がある。図6の第2の学習処理が正しく実行されたか否かは、LSTMテストデータを長短期記憶LSTMに入力し、出力された情報及びLSTM検証用正解データを比較することによって検証する。
【0097】
図7は、図6の第2の学習処理が正しく実行されたか否かを検証する第2の検証処理の手順を示すフローチャートである。
【0098】
図7の処理において、長短期記憶LSTMは第3の時刻tから第4の時刻tの間の1時間毎に測定された複数のLSTMテストデータに基づいて時刻tから一定の時間が経過した予測時刻tt1の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度と、第3の時刻tの1時間後を示す第5の時刻tx+1から第4の時刻tの1時間後を示す第6の時刻ty+1の間の1時間毎に測定された複数のLSTMテストデータ(ty+1>tx+1>t>t)に基づいて時刻ty+1から一定の時間が経過した予測時刻tt2の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度とを用いて説明する。
【0099】
まず、第3の時刻tから第4の時刻tの間に測定された複数のLSTMテストデータが順次長短期記憶LSTMに入力され、長短期記憶LSTMは第4の時刻tから一定の時間が経過した予測時刻tt1の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する(S71)。次いで、第5の時刻tx+1から第6の時刻ty+1の間に測定された複数のLSTMテストデータが順次長短期記憶LSTMに入力され、長短期記憶LSTMは第6の時刻ty+1から一定の時間が経過した予測時刻tt2の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する(S72)。
【0100】
続いて、CPU11はS72で出力された予測時刻tt2の2-MIBの濃度からS71で出力された予測時刻tt1の2-MIBの濃度を差し引く。これにより、予測時刻tt1から予測時刻tt2への時刻の変化に応じて2-MIBの濃度の変化量が算出される。同様に、CPU11はS72で出力された予測時刻tt2のジェオスミンの濃度からS71で出力された予測時刻tt1のジェオスミンの濃度を差し引く。これにより、予測時刻tt1から予測時刻tt2への時刻の変化に応じてジェオスミンの濃度の変化量が算出される(S73)。
【0101】
CPU11はS73で算出された2-MIBの濃度の変化量及びジェオスミンの濃度の変化量が0以上であるか否かを判別する(S74)。S74の判別の結果、CPU11は、2-MIBの濃度の変化量及びジェオスミンの濃度の変化量が0以上のとき、図6の第2の学習処理が正しく実行されたことを認定して(S75)本処理を終了する。また、上水処理の管理者は処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミン等のカビ臭原因物質の濃度を確実に10ng/L以下に制御する必要があるため、実際には2-MIB又はジェオスミンの濃度が増加しているにも関わらず、2-MIB又はジェオスミンの濃度が低下すると予測するような出力を避ける必要がある。したがって、2-MIBの濃度の変化量又はジェオスミンの濃度の変化量が0よりも小さいとき、予測時刻tt1及び予測時刻tt2を示すLSTM検証用正解データを参照する(S76)。
【0102】
次いで、CPU11は予測時刻tt2を示すLSTM検証用正解データの2-MIBの濃度から予測時刻tt1を示すLSTM検証用正解データの2-MIBの濃度を差し引くとともに、予測時刻tt2を示すLSTM検証用正解データのジェオスミンの濃度から予測時刻tt1を示すLSTM検証用正解データのジェオスミンの濃度を差し引き、LSTM検証用正解データに基づく2-MIBの濃度の変化量及びジェオスミンの濃度の変化量を算出する(S77)。
【0103】
その後、CPU11はLSTM検証用正解データに基づく2-MIBの濃度の変化量又はジェオスミンの濃度の変化量が0以下であるか否かを判別する(S78)。S78の判別の結果、LSTM検証用正解データに基づく2-MIBの濃度の変化量又はジェオスミンの濃度の変化量が0以下のとき、S75に進み、LSTM検証用正解データに基づく2-MIBの濃度の変化量又はジェオスミンの濃度の変化量が0よりも大きいとき、図6の第2の学習処理が正しく実行されていないことを認定して(S79)本処理を終了する。
【0104】
すなわち、図7の第2の検証処理は予測時刻tt1から予測時刻tt2への時刻の変化に応じて、実際には2-MIB又はジェオスミンの濃度が増加しているにも関わらず、2-MIB又はジェオスミンの濃度が低下すると予測した長短期記憶LSTMを識別し(S74でNO、S78でNO)、この場合、第2の学習処理が正しく実行されていないことを認定している。一方、図7の第2の検証処理は、その他の場合、第2の学習処理が正しく実行されていることを認定している。
【0105】
図6及び図7の処理によれば、第2の学習処理が正しく実行された長短期記憶LSTM、すなわち、第1の時刻tから第2の時刻tの間に測定された2-MIBの濃度、ジェオスミンの濃度、流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び上水処理システムの約10km上流地点の河川水位と、第2の時刻tから一定時間が経過した予測時刻tの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度との関係を学習した長短期記憶LSTMは、異なる時刻間、例えば、第3の時刻tから第4の時刻tの間に新たに測定された2-MIBの濃度、ジェオスミンの濃度、流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び上水処理システムの約10km上流地点の河川水位に基づいて第4の時刻tから一定時間が経過した予測時刻tt1の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力するとともに、第5の時刻tx+1から第6の時刻ty+1の間に新たに測定された2-MIBの濃度、ジェオスミンの濃度、流入原水の濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び上水処理システムの約10km上流地点の河川水位に基づいて第6の時刻ty+1から一定時間が経過した予測時刻tt2の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力する。したがって、上水処理の管理者は予測時刻tt1から予測時刻tt2の間に2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度が上昇するタイミングを確実に把握することができる。
【0106】
このとき、予測時刻tt1から予測時刻tt2の間に2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度が上昇するタイミングは第6の時刻ty+1の経過後早期に把握されるので、上水処理の管理者は予め粉末活性炭を添加するための準備時間を確保することができる。
【0107】
ところで、S71,S72で出力された予測時刻tt1,tt2の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度と、予測時刻tt1,tt2を示すLSTM検証用正解データの2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度との誤差は小さいのがよく、例えば、式1に準じて算出されたこれらの誤差が1(ng/L)2以下(所定の閾値)であるのがよい。さらに、2-MIB濃度の誤差閾値を0.7(ng/L)2、又はジェオスミンの濃度の誤差閾値を0.07(ng/L)2に設定することができる。本実施の形態において、タイムステップ情報が300のときに、S71,S72で出力された予測時刻tt1,tt2の2-MIBの濃度及び予測時刻tt1,tt2を示すLSTM検証用正解データの2-MIBの濃度の誤差は0.635(ng/L)2であり、S71,S72で出力された予測時刻tt1,tt2のジェオスミンの濃度及び予測時刻tt1,tt2を示すLSTM検証用正解データのジェオスミンの濃度の誤差は0.060(ng/L)2であった。さらに誤差の小さい予測を行うために、タイムステップ情報としては230~370を用いることができる。
【0108】
これにより、上水処理の管理者は、予測時刻tt1から予測時刻tt2の間に2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度が上昇するとき、予測時刻tt2の2-MIBの濃度又はジェオスミンの濃度を精度よく把握することができ、もって、処理済水に含まれる2-MIB又はジェオスミン等のカビ臭原因物質の濃度を確実に10ng/L以下に制御するために適切な量の粉末活性炭を適切なタイミングに添加することができる。
【0109】
本実施の形態において、長短期記憶LSTMは、例えば、第3の時刻tから第4の時刻tの間に測定された2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を用いて第4の時刻tから一定時間が経過した予測時刻tt1の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力しているが、例えば、第3の時刻tから第4の時刻tの間の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度には、第3の時刻tから第4の時刻tの間の各時刻に測定された原水濁度、沈砂池のpH、沈砂池のアルカリ度、沈砂池の導電率、沈砂池の塩素要求量、沈砂池の水温、及び河川水位の情報に基づいて順伝播型ニューラルネットワークFFNNが出力する2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度が用いられてもよい。これにより、上水処理の管理者が2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を測定しなくても、長短期記憶LSTMは順伝播型ニューラルネットワークFFNNによって出力される2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を使用し、予測時刻tt1の2-MIBの濃度及びジェオスミンの濃度を出力することができる。
【0110】
本発明は、上述の実施の形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク若しくは各種記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータ(CPU11やMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理において、そのプログラム、及び該プログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明を構成し、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよく、1つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0111】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0112】
FFNN 順伝播型ニューラルネットワーク
LSTM 長短期記憶
,Wib,W,Whb 重み
10 情報処理装置
11 CPU
14 HDD
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7