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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】レーダ受信機およびレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/285 20060101AFI20240326BHJP
   H03D 1/04 20060101ALI20240326BHJP
   H04B 1/16 20060101ALI20240326BHJP
   G01S 13/10 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
G01S7/285
H03D1/04
H04B1/16 J
G01S13/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020134124
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030259
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】勝本 達也
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-084283(JP,A)
【文献】特開平06-132753(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110927677(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H03D 1/04
H04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の増幅器と、
前記複数の増幅器のそれぞれの出力信号の検波を行う複数の検波器と、
前記複数の検波器のそれぞれの出力信号を加算合計する加算器と、
前記増幅器と前記検波器との組み合わせとして構成される段と段との間に設けられて前記増幅器から出力される信号の周波数帯域を制限する段間帯域制限フィルタと、
前記段間帯域制限フィルタの前に挿入されるバッファと、を有する、
ことを特徴とするレーダ受信機。
【請求項2】
前記段間帯域制限フィルタが、白色雑音が入力されたときの前記出力信号の電圧が所定の閾値を超える前記検波器を含む前記段の前に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ受信機。
【請求項3】
電磁波を送信する送信機と、前記電磁波が物標で反射した反射波を受信する受信機と、を有し、前記受信機として請求項1または2に記載のレーダ受信機を用いる、ことを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ受信機およびレーダ装置に関し、具体的には、パルス変調された電磁波を受信するレーダ受信機およびパルス変調された電磁波を送受信するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物を検知するための機序としてレーダ装置が広く用いられている。障害物を物標として検知するためのレーダ装置は、電磁波を送信するレーダ送信機と、前記レーダ送信機から送信された電磁波が物標において反射した電磁波である反射波を受信するレーダ受信機とを備え、レーダ送信機が電磁波を送信した時刻とレーダ受信機が反射波を受信した時刻とに基づいて物標までの距離を算出する。
【0003】
レーダ装置に関連して、複数の増幅器を接続することで多段増幅回路を構成できることが知られている(特許文献1参照)。また、レーダ装置において増幅器101と検波器102との組み合わせを多段接続することで多段型検波増幅器100(別言すると、対数検波器)を構成できることが知られている(図14参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-236469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、対数検波器100をパルスレーダに使用する際、最小受信感度は入力信号の信号対雑音比(S/N比)で決定し、対数検波器に対して前置される帯域制限フィルタ103を適切な値にすることで最小受信感度を最大にすることができる。しかしながら、帯域制限フィルタ103を狭くすると検波信号に遅延が発生してレーダの測距性能に影響を及ぼしてしまい、高い受信感度と良好な測距性能とを両立させることができない、という問題がある。
【0006】
そこで本発明は、最大の最小受信感度を維持しつつ、帯域制限フィルタによる検波信号の遅延を抑えて良好な測距性能を確保することが可能な、レーダ受信機およびレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、直列に接続された複数の増幅器と、前記複数の増幅器のそれぞれの出力信号の検波を行う複数の検波器と、前記複数の検波器のそれぞれの出力信号を加算合計する加算器と、前記増幅器と前記検波器との組み合わせとして構成される段と段との間に設けられて前記増幅器から出力される信号の周波数帯域を制限する段間帯域制限フィルタと、前記段間帯域制限フィルタの前に挿入されるバッファと、を有する、ことを特徴とするレーダ受信機である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダ受信機において、前記段間帯域制限フィルタが、白色雑音が入力されたときの前記出力信号の電圧が所定の閾値を超える前記検波器を含む前記段の前に設けられる、ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、電磁波を送信する送信機と、前記電磁波が物標で反射した反射波を受信する受信機と、を有し、前記受信機として請求項1または2に記載のレーダ受信機を用いる、ことを特徴とするレーダ装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、多段型の検波増幅器の各段を構成する増幅器と検波器との組み合わせの段間に帯域制限フィルタを追加すると入出力特性の線形性が崩れて検波信号に遅延が発生してしまうのに対し、前記段間の帯域制限フィルタの前にバッファが挿入されることによって入出力特性の線形性が維持されて検波信号の遅延の発生を回避することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、段間帯域制限フィルタよりも前段の各段を構成する増幅器および検波器に入力される信号は周波数帯域制限を受けることなく出力信号に寄与するため、検波信号の歪みを大幅に低減することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、上記の請求項1または2に記載のレーダ受信機によって奏される作用効果を奏するレーダ装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態に係るレーダ装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】対数検波回路の入出力特性を示す図である。
図3】対数検波回路の各段を構成する振幅制限増幅器および検波器の入出力特性を示す図である。
図4】振幅制限増幅器のモデルおよび入出力特性を示す図である。
図5】検波器のモデルを示す図である。
図6】帯域制限フィルタが無い場合の対数検波回路の出力を説明する図である。
図7】帯域制限フィルタがある場合の対数検波回路の出力を説明する図である。
図8】対数検波回路の出力の整理を示す図である。(A)は帯域制限フィルタが無い場合の対数検波回路の出力の整理である。(B)は帯域制限フィルタがある場合の対数検波回路の出力の整理である。
図9】バッファの構成を説明する回路図である。
図10】シミュレーション用の回路モデルを示す図である。(A)はバッファが無い場合の回路モデルである。(B)はバッファがある場合の回路モデルである。
図11図10の回路モデルを用いたシミュレーションによって得られる、対数検波回路としての入力電力と検波電流との間の関係を示す図である。
図12図10の回路モデルを用いたシミュレーションによって得られる、対数検波回路としての入力電力と誤差との間の関係を示す図である。
図13図10の回路モデルを用いたシミュレーションによって得られる、各検波器における入力電力と検波電流との間の関係を示す図である。(A)はバッファが無い場合の入力電力と検波電流との間の関係である。(B)はバッファがある場合の入力電力と検波電流との間の関係である。
図14】多段型検波増幅器を備える従来のレーダ装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。図1は、この発明の実施の形態に係るレーダ装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。このレーダ装置1は、例えば障害物を物標として検知するための仕組みであり、電磁波を送信するレーダ送信機2と、前記電磁波が物標で反射した反射波を受信するレーダ受信機3と、を有する。
【0015】
そして、この実施の形態に係るレーダ受信機3は、直列に接続された複数の振幅制限増幅器331と、複数の振幅制限増幅器331のそれぞれの出力信号の検波を行う複数の検波器332と、複数の検波器332のそれぞれの出力信号を加算合計する加算器333と、振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせとして構成される段と段との間に設けられて振幅制限増幅器331から出力される信号の周波数帯域を制限する段間帯域制限フィルタ35と、段間帯域制限フィルタ35の前に挿入されるバッファ36と、を有する、ようにしている。
【0016】
レーダ送信機2は、搬送波信号が矩形パルス信号によって変調されたパルス変調信号を出力する。パルス変調信号は、矩形パルス信号の波形が包絡線となって現れる信号である。
【0017】
サーキュレータ4は、レーダ送信機2から出力されるパルス変調信号をアンテナ5へと出力する。アンテナ5は、サーキュレータ4を介して入力されるパルス変調信号をパルス変調波として送信(別言すると、放射)する。
【0018】
アンテナ5から放射されるパルス変調波は物標において反射し、反射波としてアンテナ5へと進行する。アンテナ5は、物標からの反射波としてのパルス変調波を受信して、受信パルス変調信号をサーキュレータ4へと出力する。
【0019】
サーキュレータ4は、アンテナ5から出力される受信パルス変調信号をレーダ受信機3へと出力する。
【0020】
レーダ受信機3は、高周波受信器31、検波前置帯域制限フィルタ32、対数検波回路33(別言すると、多段型の検波増幅器)、測距器34、段間帯域制限フィルタ35、およびバッファ36を備える。
【0021】
高周波受信器31は、サーキュレータ4から出力される受信パルス変調信号の入力を受け、前記受信パルス変調信号に対して高周波増幅、中間周波数への周波数変換、および中間周波増幅などの処理を施し、処理後の信号を出力する。
【0022】
検波前置帯域制限フィルタ32は、高周波受信器31から出力される信号の入力を受け、前記信号に含まれる白色雑音の周波数帯域を制限し、前記信号に含まれる、延いてはレーダ受信機3の検波信号に含まれる白色雑音を低減させる。検波前置帯域制限フィルタ32は、白色雑音を低減させた受信パルス変調信号を出力する。
【0023】
検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅は、包絡線の歪みを回避するため、受信パルス変調信号の占有周波数帯域幅と同等もしくは占有周波数帯域幅よりも広く設定される。
【0024】
対数検波回路33は、直列に接続されたn個の振幅制限増幅器3311,3312,・・・,331nと、これら振幅制限増幅器3311,3312,・・・,331nのそれぞれの出力信号の検波を行うn個の検波器3321,3322,・・・,332nと、これら検波器3321,3322,・・・,332nのそれぞれの出力信号を加算合計する加算器333と、を備える(但し、nは2以上の整数)。対数検波回路33は、加算器333によって加算合計した信号を出力する。振幅制限増幅器331や検波器332の符号に付される下付きの添え字(具体的には、1,2,nなど)は、振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせが直列に接続される多段型の検波増幅器として構成される対数検波回路33における振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせごとの段の順序を表す。
【0025】
対数検波回路33は、図2に示すような、入力信号電圧の対数値の変化に対して出力信号電圧が直線的に変化するという入出力特性を有し、この特性によって入力信号のレンジを変換する。なお、図2における基準電圧は、対数表現する際に便宜上定められる任意の電圧である。
【0026】
対数検波回路33の入出力特性は、n個の検波器3321,3322,・・・,332nのそれぞれの出力信号を連続的に合成することで実現される。すなわち、図2における範囲1の特性は第1段の振幅制限増幅器3311および検波器3321によって実現され、範囲2の特性は第2段の振幅制限増幅器3312および検波器3322によって実現され、以下同様に、範囲nの特性は第n段の振幅制限増幅器331nおよび検波器332nによって実現される。このように、入出力特性をn個の範囲に区切り、区切られた各々の範囲の特性をそれぞれの段を構成する振幅制限増幅器331および検波器332に担わせることにより、取り扱うことのできる入出力信号の振幅の範囲(即ち、ダイナミックレンジ)を拡大することができる。
【0027】
図2に示す対数検波回路33の入出力特性を実現するための、対数検波回路33の各段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせとしての入出力特性を図3に示す。振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせとしての入出力特性は、入力される電圧V1に対する検波回路出力電流が線形特性を有する範囲と一定値をとる範囲とが連接している。そして、振幅制限増幅器331の電圧利得をAとすると、振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせのそれぞれへと入力される電圧V1は相互にA倍(別言すると、1/A倍)異なり、n組の振幅制限増幅器331および検波器332を直列に接続することでn×A[dB]のダイナミックレンジが得られることとなる。
【0028】
上記のような入出力特性は、振幅制限増幅器331が、設計によって定められた振幅値を超えないように出力信号の振幅値が制限されるという特性を有することによって実現される。
【0029】
対数検波回路33に入力される受信パルス変調信号には、検波前置帯域制限フィルタ32では除去し切れない白色雑音が残留している。この白色雑音は、振幅が小さいため、対数検波回路33の入力に近い段の検波器332の出力信号には現れない。白色雑音が入力されたときの出力信号の電圧が所定の閾値を超える検波器332を含む段が第何段目であるかは、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅、振幅制限増幅器331の利得などによって定まる。
【0030】
除去し切れずに残留している白色雑音をさらに低減するために、白色雑音が入力されたときの出力信号の電圧が所定の閾値を超える検波器332を含む第k段の振幅制限増幅器331kおよび検波器332kの入力に対して段間帯域制限フィルタ35が挿入される。
【0031】
上記における所定の閾値は、特定の値に限定されるものではなく、検波前置帯域制限フィルタ32では除去し切れずに残留している白色雑音を良好に抑圧し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0032】
なお、段間帯域制限フィルタ35の通過周波数帯域幅は、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅よりも狭く設定されることが好ましい。
【0033】
対数検波回路33は、レンジ変換した受信パルス変調波の包絡線に相当する信号を検波信号として出力する。
【0034】
測距器34は、対数検波回路33から出力される検波信号の入力を受け、前記検波信号のパルス波形によってパルス変調波が受信された時刻を把握し、この時刻に基づいてレーダ送信機2がパルス変調波を送信してからレーダ受信機3が前記パルス変調波の反射波を受信するまでの時間を算出する。この時間はレーダ装置1(具体的には、レーダ5)と物標との間を電磁波が往復するのに要した時間であるので、電磁波の伝搬速度を掛けて2で除すことによって物標までの距離が算出される。
【0035】
上記の構成により、対数検波回路33に対して前置される検波前置帯域制限フィルタ32ならびに振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせの段間に追加される段間帯域制限フィルタ35によって白色雑音が低減されるので、検波信号に含まれる雑音が大幅に低減される。
【0036】
また、段間帯域制限フィルタ35よりも前段の各段を構成する振幅制限増幅器331および検波器332に入力される受信パルス変調信号は、周波数帯域制限を受けることなく対数検波回路33の出力信号に寄与するため、検波信号の歪みが大幅に低減される。検波信号の歪みを低減するという観点からは、段間帯域制限フィルタ35はできるだけ後段に設けられることが好ましい。このため、白色雑音が入力されたときの出力信号の電圧が所定の閾値を超える検波器332を含む段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせができるだけ後段となるように、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅が設定される。
【0037】
上述のことから、段間帯域制限フィルタ35の挿入位置および通過周波数帯域幅は、下記の(1)から(4)に留意して設定されることが好ましい。
【0038】
(1) 白色雑音が入力されたときの出力信号の電圧が所定の閾値を超える検波器332を含む段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせができるだけ後段となるように、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅が設定される。
【0039】
(2) ただし、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅は、受信パルス変調波/受信パルス変調信号の占有周波数帯域幅と同等もしくは占有周波数帯域幅よりも広く設定される。
【0040】
(3) 白色雑音が入力されたときの出力信号の電圧が所定の閾値を超える検波器332を含む段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせの入力に対して段間帯域制限フィルタ35が挿入される。つまり、段間帯域制限フィルタ35は、当該段間帯域制限フィルタ35が無い場合に検波器332の出力信号に含まれる白色雑音が所定の閾値を初めて超える段を構成する振幅制限増幅器331の入力部に設けられる。
【0041】
(4) 段間帯域制限フィルタ35の通過周波数帯域幅は、検波前置帯域制限フィルタ32の通過周波数帯域幅よりも狭く設定されることが好ましい。
【0042】
ここで、対数検波回路33の各段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせの段間に段間帯域制限フィルタ35が挿入されることによる影響を検証する。
【0043】
まず、対数検波回路33を構成する振幅制限増幅器331を図4に示すモデルとする。図4に示すモデルの入出力特性は、入力信号viの電圧振幅の値がEまでの範囲では線形特性を有し、入力信号viの電圧振幅の値がEを超えると一定値(具体的には、出力信号voの電圧振幅の値がAE;即ち、振幅制限増幅器331の電圧利得はA)をとる。
【0044】
図4に示すモデルに交流の入力信号vi(=Vm sinωt)が入力された場合、出力信号voは下記の数式1のようになる。なお、下記の数式1-3において、Vm=AEは、出力波形が方形波になるとして近似した値である。
【0045】
【数1】
【0046】
ここに、数式などにおける各記号の意味はそれぞれ下記のとおりである。
Vm:viの最大値[V]
A :電圧利得
gm:検波回路の相互コンダクタンス[S]
ω :角速度[rad/秒]
t :時間[秒]
B :1/3(sin3ωt)+1/5(sin5ωt)+・・・
【0047】
また、対数検波回路33を構成する検波器332を図5に示すモデルとする。検波器332は交流の入力信号viに対してその実効値を出力すると仮定すると、出力信号ioは下記の数式2のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
図6に示すような、振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせが3段の対数検波回路を想定した場合の、入力信号viの大きさ別(同図(A),(B),および(C)参照)の出力信号Ioは、それぞれ、下記の数式3の数式3-1(同図(A)の場合),数式3-2(同図(B)の場合),および数式3-3(同図(C)の場合)の各々に示すようになる。なお、図6に示す回路は、すなわち、段間帯域制限フィルタ35が無い場合の対数検波回路に相当する。
【0050】
【数3】
【0051】
一方、図7に示すような、振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせが3段の対数検波回路で第2段と第3段との間に段間帯域制限フィルタ35を追加(別言すると、挿入)した場合の、入力信号viの大きさ別(同図(A),(B),および(C)参照)の出力Ioは、それぞれ、下記の数式4の数式4-1(同図(A)の場合),数式4-2(同図(B)の場合),および数式4-3(同図(C)の場合)の各々に示すようになる。
【0052】
【数4】
【0053】
ここで、図7(C)に示す場合について、特に、第2段と第3段との間に追加(別言すると、挿入)された段間帯域制限フィルタ35による帯域制限の結果として、第2段の振幅制限増幅器3312の出力信号voが AE(4/π)sinωt になっている。
【0054】
図6に示す検討から導出される、段間帯域制限フィルタ35が無い場合の対数検波回路の出力を整理すると図8(A)のようになり、図7に示す検討から導出される、段間帯域制限フィルタ35がある場合の対数検波回路の出力を整理すると同図(B)のようになる。
【0055】
図8(A)に示す結果から、入力信号の振幅VmがA倍になると出力電流IoはEgmAが加算され、対数検波の特性が得られることが確認される。
【0056】
一方、図8(B)に示す結果から、段間帯域制限フィルタ35が追加されている第3段では(言い換えると、段間帯域制限フィルタ35が挿入されている第2段から第3段にかけては)、出力電流Ioの増加は下記の数式5のとおりとなり、段間帯域制限フィルタ35が無い場合(図8(A)における第2段から第3段にかけての増加を参照)よりも下記の数式6に示す分だけ少なくなる。このため、入出力特性の線形性が10%崩れることとなる。
【0057】
【数5】
【数6】
【0058】
そこで、この発明では、段間帯域制限フィルタ35の前に、バッファ36が挿入される。バッファ36は、増幅度が1である非反転増幅回路として構成され(図9参照;尚、「ボルテージフォロア」や「ボルテージホロワ」などとも呼ばれる)、入力vinに対して、vout=vinを出力する。
【0059】
バッファ36が挿入されることによる効果の検証として、図10に示す回路モデルを用いて行ったシミュレーションの結果を図11図13に示す。図10(A),(B)に示す回路モデル6A,6Bは、どちらも、各段を構成する振幅制限増幅器61と検波器62との組み合わせが6段、直列に接続される構成を備える対数検波回路であり、第3段と第4段との間に段間帯域制限フィルタ63が設けられる。なお、振幅制限増幅器61の符号に付される下付きの添え字(具体的には、1,2,・・・,6)は、振幅制限増幅器61と検波器62との組み合わせが直列に接続される多段型の検波増幅器として構成される対数検波回路における振幅制限増幅器61と検波器62との組み合わせごとの段の順序を表す。
【0060】
その上で、図10(B)に示す回路モデル6Bでは、段間帯域制限フィルタ63の前に(言い換えると、第3段と段間帯域制限フィルタ63との間に)バッファ64が設けられる。すなわち、図10(A)はバッファが無い場合の対数検波回路に相当するモデルであり、同図(B)はバッファがある場合の対数検波回路に相当するモデルである。
【0061】
バッファ36が挿入されることによる効果の検証としてのシミュレーションの結果について、まず、対数検波回路としての入力電力Pinと検波電流Idetとの間の関係(言い換えると、対数検波回路の入出力特性)を図11に示す。図11に示す結果から、段間帯域制限フィルタ63の前にバッファ64が設けられていない場合には入出力特性の線形性が崩れ非線形性が生じて検波電流Idetの減少がみられるのに対し、段間帯域制限フィルタ63の前にバッファ64が挿入されることによって入出力特性の線形性が維持されて検波電流Idetの減少が回避されることが確認される。
【0062】
バッファ64が無い場合の、入出力特性の非線形性は、受信電力の精度に誤差が生じる原因となる。入出力特性の非線形性が生じる原因は、段間に設けられる段間帯域制限フィルタ63の前の出力波形が帯域制限されて高調波が抑圧されることで、検波器3(図10(A)参照)へと入力される信号の電力が減少し、検波出力が低下するためである。
【0063】
対数検波回路としての入力電力Pinと誤差との間の関係を図12に示す。図12に示す結果から、段間帯域制限フィルタ63の前にバッファ64が挿入されることにより、バッファ64が無い場合と比べて、誤差が低減することが確認される。
【0064】
さらに、各検波器62(具体的には、図10および図13において「検波器1」,「検波器2」,・・・,「検波器6」と表記)の各々における入力電力Pinと検波電流Idetとの間の関係を図13に示す。バッファ64が無い場合には、段間帯域制限フィルタ63の直前に位置する検波器3における検波電流Idetが著しく減少するのに対して(図13(A)参照)、段間帯域制限フィルタ63の前にバッファ64が挿入されることにより、検波器3における検波電流Idetの減少が解消されて、前記検波電流Idetが適切な値になっていることが確認される(図13(B)参照)。
【0065】
上記のようなレーダ受信機3やこのレーダ受信機3を有するレーダ装置1によれば、多段型の検波増幅器としての対数検波回路33の各段を構成する振幅制限増幅器331と検波器332との組み合わせの段間に段間帯域制限フィルタ35を追加すると入出力特性の線形性が崩れて検波信号に遅延が発生してしまうのに対し、段間帯域制限フィルタ35の前にバッファ36が挿入されることによって入出力特性の線形性が維持されて検波信号の遅延の発生を回避することが可能となる。
【0066】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態ではこの発明に係るレーダ装置やレーダ受信機としての構成が図1に示す概略構成を備えるレーダ装置1やレーダ受信機3に対して適用されるようにしているが、この発明に係るレーダ装置やレーダ受信機としての構成が適用され得るレーダ装置やレーダ受信機の全体構成は図1に示す構成には限定されない。例えば、バッファ36は、非反転増幅回路として構成される場合に限定されるものではなく、エミッタフォロアとして構成されるようにしてもよく、さらに言えば、アイソレータ等の受動素子などの入出力をインピーダンス的に切り離すことができる機序として構成されるようにしてもよい。
また、上記の実施の形態では各段を構成する振幅制限増幅器61と検波器62との組み合わせが6段、直列に接続される構成を備える対数検波回路に相当する回路モデルを用いてシミュレーションを行うようにしているが、この発明に係るレーダ装置やレーダ受信機としての構成が適用され得る仕組みは6段の対数検波回路には限定されない。
【符号の説明】
【0067】
1 レーダ装置
2 レーダ送信機
3 レーダ受信機
31 高周波受信器
32 検波前置帯域制限フィルタ
33 対数検波回路
331 振幅制限増幅器
332 検波器
333 加算器
34 測距器
35 段間帯域制限フィルタ
36 バッファ
4 サーキュレータ
5 アンテナ
6A 回路モデル
6B 回路モデル
61 振幅制限増幅器
62 検波器
63 段間帯域制限フィルタ
64 バッファ
100 多段型検波増幅器
101 増幅器
102 検波器
103 帯域制限フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14