IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-平角線の製造方法 図1
  • 特許-平角線の製造方法 図2
  • 特許-平角線の製造方法 図3
  • 特許-平角線の製造方法 図4
  • 特許-平角線の製造方法 図5
  • 特許-平角線の製造方法 図6
  • 特許-平角線の製造方法 図7
  • 特許-平角線の製造方法 図8
  • 特許-平角線の製造方法 図9
  • 特許-平角線の製造方法 図10
  • 特許-平角線の製造方法 図11
  • 特許-平角線の製造方法 図12
  • 特許-平角線の製造方法 図13
  • 特許-平角線の製造方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】平角線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/12 20060101AFI20240326BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240326BHJP
   H01F 41/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H02G1/12 053
H02G1/12 068
H02K15/04 E
H01F41/10 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020158785
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052404
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松葉 勇介
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200320(JP,A)
【文献】特開2016-21806(JP,A)
【文献】特開2001-238385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
H02K 15/04
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線のフラットワイズ側平坦部とエッジワイズ側平坦部との間の角部をフラットワイズ方向の外側に押し広げて、前記角部を斜面状に成形する成形工程と、
前記エッジワイズ側平坦部を覆う絶縁被膜を前記平角線の本体となる導体から除去する除去工程とを具備する平角線の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程において、前記角部と共に前記導体のフラットワイズ側の平坦面を前記フラットワイズ方向に沿って凸曲面形状に成形する請求項1に記載の平角線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角線の製造方法に関し、特に平角線の絶縁被膜を除去するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に鑑み電気自動車やハイブリッド車など、車両の駆動装置やその周辺機器にモータを採用する動きが加速している。上記車両へ搭載されるモータには、搭載可能なスペースの関係上、小型であることが求められる一方で、車両の駆動性能を向上させるべく高出力であることが求められることが多い。
【0003】
ここで、モータの高出力化のためには、ステータコイルに流す電流値を高める必要がある。その一方で、スペースが制限された条件下で効率よくコイルに流れる電流値を高めるためには、断面が略矩形状をなし占積率が相対的に高い平角線(平角導線)でコイルを構成することが考えられる。
【0004】
この平角線は、ステータコアの円周方向に一定の間隔で形成されたスロット内に予め定められた順序で配置されることにより、三相のコイルを構成する。一方、この平角線は周囲を絶縁被膜で覆われた形態をなす。よって、各相を構成する平角線を電気的に接続するためには、平角線の端部の絶縁被膜を除去して平角線の端部同士を接合する必要がある。
【0005】
ここで、例えば特許文献1には、平角線をその長手方向軸線まわりに回転させながら所定の方向に平角線を搬送して、搬送方向に沿って設けられた複数の切断加工工程で、平角線に順次切断加工を施して、平角線の外周に設けられた絶縁被膜をその全周にわたって除去する方法が開示されている。また、絶縁被膜をその全周にわたって除去するための具体的な手段として、特許文献1には、フラットワイズ側の平坦部を覆う絶縁被膜とエッジワイズ側の平坦部を覆う絶縁被膜をそれぞれ切断により除去すると共に、エッジワイズ側の平坦部とフラットワイズ側の平坦部との間の角部を覆う絶縁被膜を切断により除去して面取り加工を施すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-060860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、平角線の角部に面取り加工としての切断加工を施すことによって、角部を覆う絶縁被膜を確実に除去することができる。また、切断加工(面取り加工)により角部を除去することで、ステータコアのスロット内への導入時、角部が絶縁紙に引っ掛かる事態を確実に回避して円滑な平角線の導入を図ることができる。しかしながら、平角線のフラットワイズ側の平坦部とエッジワイズ側の平坦部をそれぞれ覆う絶縁被膜だけでなく、これら平坦部間の角部を覆う絶縁被膜についても別個に除去する工程を設けるとなると、工程数の大幅な増加を招く。これでは、生産効率が低下すると共に、設備コストの増大を招く。
【0008】
また、特許文献1に記載のように、切断加工で絶縁被膜を除去する場合、切断加工の回数分だけ絶縁被膜と共に導体の一部を削り取ることになるため、絶縁被膜だけでなく導体をなす銅の切削カスが少なからず発生する。また、確実に絶縁被膜を除去するためには、削り代を多めにとる必要が生じる。以上より、特許文献2に記載の方法だと、高価な材料である銅の切削ロスが避けられず、歩留まりの面でも好ましくない。
【0009】
以上の事情に鑑み、本明細書では、平角線を製造するに際し、効率よくかつ歩留まり良く絶縁被膜を除去可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係る平角線の製造方法によって達成される。すなわち、この製造方法は、平角線のフラットワイズ側平坦部とエッジワイズ側平坦部との間の角部をフラットワイズ方向の外側に押し広げて、角部を斜面状に成形する成形工程と、エッジワイズ側平坦部を覆う絶縁被膜を平角線の本体となる導体から除去する除去工程とを具備する点をもって特徴付けられる。なお、ここでいう斜面とは、平角線のフラットワイズ方向の外側に向かうにつれてエッジワイズ方向の中央側に移行する向きに傾斜した面を意味し、平坦状であるか否かを問わない。すなわち、ここでいう斜面には、平坦な傾斜面だけでなく少なくとも一部が曲面状をなす傾斜面が含まれる。
【0011】
上述したように、本発明に係る平角線の製造方法では、平角線のフラットワイズ側平坦部とエッジワイズ側平坦部との間の角部をフラットワイズ方向の外側に押し広げて、当該角部を斜面状に成形した。このように角部を成形することにより、切削カスを出すことなく角部に面取り加工を施すことができる。また、角部をフラットワイズ方向の外側に押し広げることで、角部を覆う絶縁被膜を成形前の位置よりもフラットワイズ方向の外側に移動させることができる。これにより、例えば角部に隣接するエッジワイズ側平坦部の絶縁被膜を切断により除去する場合、切断後に角部を覆う絶縁被膜の一部が平角線に残る事態を避けて、エッジワイズ側平坦部の絶縁被膜と共に角部を覆っていた絶縁被膜を確実に除去することができる。また、成形により角部の除去を図るのであれば、従来の角部剥離工程のように平角線の姿勢をその都度変えなくてよいため、作業効率が向上する。また、工程設備の簡略化を図ることもできる。また、面取り加工を切削から成形に代えることで、導体の切削ロスを少なくできるので、歩留まりの向上も期待できる。
【0012】
また、本発明に係る平角線の製造方法においては、成形工程において、導体のフラットワイズ側の平坦面をフラットワイズ方向に沿って凸曲面形状に成形してもよい。なお、この成形の際、導体のフラットワイズ側の平坦面は絶縁被膜が除去されて露出した状態であってもよいし、絶縁被膜で覆われた状態であってもよい。
【0013】
このように、導体のフラットワイズ側の平坦面をフラットワイズ方向に沿って凸曲面形状に成形することで、角部を無理なく所定の形状(斜面状)に成形することができる。また、角部と連続するフラットワイズ側の平坦面を併せて成形することで、導体のうち角部をなす部分を確実にフラットワイズ方向外側へ流動させることができる。よって、角部を確実にかつ安定的に所望の形状に成形することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、平角線を製造するに際し、効率よくかつ歩留まり良く絶縁被膜を除去可能とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の要部の手順を示すフローチャートである。
図2図1に示すプレカット工程を終えた状態における平角線の斜視図である。
図3】プレカット工程でフラットワイズ側の平坦部を覆う絶縁被膜に切れ目を入れるための工程を説明するための側面図である。
図4】プレカット工程でエッジワイズ側の平坦部を覆う絶縁被膜に切れ目を入れるための工程を説明するための平面図である。
図5図1に示す第一被膜除去工程を終えた状態における平角線の断面図である。
図6図1に示す成形工程の詳細を説明するための平角線及び成形装置の側面図である。
図7図6中のA-A切断線に沿って切断して得た平角線及び成形装置の断面図であって、成形前の状態を示す断面図である。
図8図7中のB-B切断線に沿って切断して得た平角線及び成形装置の断面図である。
図9図6中のA-A切断線に沿って切断して得た平角線及び成形装置の断面図であって、成形完了時(型締め完了時)の状態を示す断面図である。
図10図7中のB-B切断線に沿って切断して得た平角線及び成形装置の断面図であって、成形完了時(型締め完了時)の状態を示す断面図である。
図11図1に示す第二被膜除去工程の詳細を説明するための平角線の断面図である。
図12図1に示す切断工程を終えた状態における平角線の側面図である。
図13図1に示す切断工程の詳細を説明するための平角線の要部平面図である。
図14図1に示す切断工程を終えた状態における平角線の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、平角線の製造方法の要部の手順を示している。すなわち、本発明に係る平角線の製造方法は、平角線に設けられた絶縁被膜の所定位置に切れ目を入れるプレカット工程S1と、平角線のフラットワイズ側平坦部を覆う絶縁被膜を除去する第一被膜除去工程S2と、平角線の角部を所定の形状に成形する成形工程S3と、平角線のエッジワイズ側平坦部を覆う絶縁被膜を除去する第二被膜除去工程S4と、平角線の端部となる部分を切断する切断工程S5とを少なくとも具備する。以下、各工程S1~S5の詳細を順に説明する。
【0018】
(S1)プレカット工程
この工程S1では、完成品としての平角線1’(後述する図12等を参照)の端部となる部分を覆う絶縁被膜2に切れ目を入れて、後工程となる被膜除去工程(第一被膜除去工程S2及び第二被膜除去工程S4)で剥離すべき領域(剥離予定領域4)を画定する。ここでは、例えば図2に示すように、切断前の平角線1’となる平角線材1の外周を覆う絶縁被膜2のうち、平角線材1のフラットワイズ側(幅広側)の平坦部2aに第一の切れ目3aを入れると共に、絶縁被膜2のエッジワイズ側(幅狭側)の平坦部2bに第二の切れ目3bを入れる。この場合、前者の工程を、第一プレカット工程S11、後者の工程を、第二プレカット工程S12とそれぞれ便宜的に称する。第一プレカット工程S11と第二プレカット工程S12の順序は任意である。また、以下では、便宜上、平角線1’(平角線材1)の長手方向をX方向、フラットワイズ方向をY方向、エッジワイズ方向をZ方向として説明を行う。
【0019】
上述した切れ目3a,3bの形成には、種々の手段が採用可能である。すなわち絶縁被膜2を切断可能な手段であれば任意の手段が採用可能である。本実施形態では、図3及び図4に示すように、刃部10a,11aを設けた刃部材10,11を用いて、絶縁被膜2の各平坦部2a,2bの所定位置に第一及び第二の切れ目3a,3bを形成する。
【0020】
(S11)第一プレカット工程
この工程では、絶縁被膜2のフラットワイズ側の平坦部2aの所定位置に第一の切れ目3aを形成する。詳述すると、図3に示すように、刃部10aを設けた刃部材10を平角線材1のフラットワイズ側の平坦部(絶縁被膜2のフラットワイズ側の平坦部2a)と対向する位置に配置し、刃部10aを平坦部2aに押し当てる。これにより、絶縁被膜2のフラットワイズ側の平坦部2aの所定位置に第一の切れ目3aを形成する(図2を参照)。本実施形態では、平角線材1のY方向に伸びた状態の刃部10aを平坦部2aに押し当てることで、平坦部2aのY方向全長にわたって第一の切れ目3aを形成する(図2を参照)。また、本実施形態では、二個の刃部10aが平角線材1のX方向に所定距離だけ離れた位置に設けられているため、これら二個の刃部10aをそれぞれ絶縁被膜2の平坦部2aに押し当てることで、二つの第一の切れ目3aが、平角線材1のX方向に所定の距離だけ離れた位置に形成される。また、本実施形態では、上述した刃部材10が、平角線材1の表裏両側の平坦部2aにそれぞれ対向する位置に配置されている。よって、これら一組の刃部材10を平角線材1に近づけて各二個の刃部10aを対応する平坦部2aに押し当てることで、各々の平坦部2aに対して一組の第一の切れ目3aが形成される(図2を参照)。
【0021】
(S12)第二プレカット工程
この工程では、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bの所定位置に第二の切れ目3bを形成する。詳述すると、図4に示すように、刃部11aを設けた刃部材11を絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bと対向する位置に配置し、刃部11aを平坦部2bに押し当てる。これにより、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bの所定位置に第二の切れ目3bを形成する(図2を参照)。本実施形態では、図4に示すように、平角線1のZ方向に伸びた状態の刃部11aを平坦部2bに押し当てることで、平坦部2bのZ方向全長にわたって第二の切れ目3bを形成する。また、本実施形態では、二個の刃部11aが平角線材1のX方向に所定距離だけ離れた位置に設けられているため、刃部材11を平角線材1に近づけて二個の刃部11aをそれぞれ絶縁被膜2の平坦部2bに押し当てることで、二つの第二の切れ目3bが、平角線材1のX方向に所定の距離だけ離れた位置に形成される。また、本実施形態では、上述した刃部材11が、平角線材1のY方向両側の平坦部2bにそれぞれ対向する位置に配置されている。よって、これら一組の刃部材11を平角線材1に近づけて各二個の刃部11aを対応する平坦部2bに押し当てることで、図2に示すように、各々の平坦部2bに対して一組の第二の切れ目3bが形成される。この場合、第二の切れ目3bは第一の切れ目3aとその長手方向両端でつながっている。よって、第一及び第二の切れ目3a,3bにより環状の切れ目が構成され、この環状の切れ目により、剥離予定領域4と、それ以外の領域(絶縁被膜2のうち剥離予定領域4を除いた部分)とが区画される。言い換えると、剥離予定領域4の範囲が、第一及び第二の切れ目3a,3bにより画定される。
【0022】
なお、上述した各プレカット工程S11,S12における平角線材1の姿勢は任意である。例えばフラットワイズ方向(Y方向)を水平方向と一致させた姿勢で、第一プレカット工程S11と第二プレカット工程S12とを実施してもよい。あるいは、第一プレカット工程S11と第二プレカット工程S12とで平角線1の姿勢を変更してもよい。
【0023】
(S2)第一被膜除去工程
この工程S2では、絶縁被膜2のフラットワイズ側の平坦部2aのうち予め二組の切れ目(第一の切れ目3a)により区画された領域に対して、所定の剥離手段により剥離処理を施す。この際、適用可能な剥離手段は任意であり、例えば図示は省略するが、剥離用の刃部材をフラットワイズ側の平坦部2aのうちX方向で隣り合う一組の切れ目3aの間の部分に当て、Y方向に滑らせることで、平坦部2aのうち一組の切れ目3aで区画された部分を剥がして、平角形状を成す導体5の表面5aから除去する。上述した剥離動作は、導体5を介して互いに対向する一対の平坦部2aに対して行われる。この段階では、図5に示すように、平角線材1の外周を覆う絶縁被膜2のうちフラットワイズ側の平坦部2aのみが除去され、エッジワイズ側の平坦部2bが未だ導体5の表面5bに付着した状態にある。
【0024】
(S3)成形工程
この工程S3では、平角線材1の少なくとも角部6を所定の形状に成形する。詳細には、平角線材1の角部6をY方向の外側に押し広げて、角部6を斜面状に成形する。
【0025】
図6は、成形工程S3で使用する成形装置20の一例を示している。この成形装置20は、平角線材1の一方のフラットワイズ側の平坦部と対向する位置に配設される第一成形型21と、平角線材1の他方のフラットワイズ側の平坦部と対向する位置に配設される第二成形型22とを備える。ここで、第一成形型21には、図7に示すように、平角線材1の少なくとも一方のフラットワイズ側の角部6を所定形状に成形するための第一成形面23が設けられている。この第一成形面23は、平角線材1のY方向両側に位置する一対の角部6をY方向の外側に押し広げるように成形可能とするもので、本実施形態では、Y方向に沿ってかつY方向の全域にわたって凸曲面形状をなしている。また、第一成形面23のY方向寸法W1は、平角線材1のY方向寸法W2よりも大きく、平角線材1のY方向全域、ここでは絶縁被膜2が除去されて露出した状態の導体5のフラットワイズ側の表面5aのY方向全域を成形可能としている。
【0026】
また、第二成形型22には、図7に示すように、平角線材1の少なくとも他方のフラットワイズ側の角部6を所定形状に成形するための第二成形面24が設けられている。この第二成形面24は、平角線材1のY方向両側に位置する角部6をY方向の外側に押し広げるように成形可能とするもので、本実施形態では、第二成形面24の角部6と対向する領域に、平坦な傾斜面部24aが設けられている。また、これら平坦な傾斜面部24a,24aの間には、導体5の他方のフラットワイズ側の表面5bを平坦面状に成形する平坦面部24bが設けられている。
【0027】
次に、各成形面23,24のX方向に沿った向きの形状を説明する。図8は、X方向に沿った切断線で切断して得た各成形型21,22の断面図を示している。この図に示すように、第一成形面23は、平角線材1の導体5が露出している部分のほぼX方向全域を成形可能としている。具体的に、第一成形面23は、図7に示すY方向断面形状をなす凸曲面部23aと、平角線材1の切断部位7に対応した平坦面部23bと、凸曲面部23aと平坦面部23bとをつなぐ傾斜面部23cとを有する。これら凸曲面部23aと平坦面部23b、及び傾斜面部23cは相互に滑らかにつながっている。
【0028】
一方、第二成形面24は、X方向全域にわたって一定のY方向断面形状をなしている。すなわち、X方向の任意位置において第二成形面24は、図7に示すY方向断面形状をなす。
【0029】
上記構成の成形装置20を用いた平角線材1の成形工程S3は、例えば以下のようにして行われる。すなわち、図6に示すように、平角線材1の被成形部位(工程S2で導体5を部分的に露出させた部位)を、一対の成形型21,22の間に配置する。そして、一対の成形型21,22の型締め動作により、平角線材1の被成形部位を一対の成形型21,22でZ方向に押圧し、平角線材1のZ方向一方側を第一成形面23に準じた形状に成形すると共に、平角線材1のZ方向他方側を第二成形面24に準じた形状に成形する。
【0030】
本実施形態では、第一成形面23は、凸曲面形状をなす凸曲面部23aを有している(図7を参照)。また、この凸曲面部23aは、完成品としての平角線1’の端部本体に対応している。そのため、平角線材1のうち完成品としての平角線1’の端部本体が凸曲面部23aに準じた形状に成形される。具体的には、図9に示すように、平角線材1の導体5のZ方向一方側の表面5aが、Y方向全域にわたって凸曲面形状に成形される。この場合、平角線材1の角部6は凸曲面部23aのY方向両端部23a1で押圧されることで、Y方向の外側に押し広げられる。その結果、絶縁被膜2のうちZ方向一方側の角部6を覆う部分2cがY方向の外側に移動すると共に、当該角部6が斜面状に成形される。
【0031】
一方、本実施形態では、第二成形面24は、Y方向両側に平坦な傾斜面部24aを有している(図7を参照)。また、これら平坦な傾斜面部24aは、平角線材1の角部6に対応している。そのため、平角線材1のZ方向他方側の角部6が傾斜面状に成形される。また、平角線材1の角部6の間の領域は、平坦面部24bにより平坦面形状に成形される(平坦面形状が維持される)。以上のようにして、本工程S3の実施後、導体5のZ方向一方側の表面5aが凸曲面形状に成形されると共に、全ての角部6に面取り加工が施された状態となる。
【0032】
また、本実施形態では、第一成形面23に、凸曲面部23aに加えて、平角線材1の切断部位7に対応した平坦面部23bと、凸曲面部23aと平坦面部23bとをつなぐ傾斜面部23cとを設けている。そのため、これら凸曲面部23aと平坦面部23b、及び傾斜面部23cを有する第一成形面23とで平角線材1を成形することで、後述する切断工程S5で平角線材1が切断される部位(切断部位7)の表面が平坦面状に成形されると共に、この切断部位7と導体5の凸曲面状の表面5aとの間の部位が傾斜面状に成形される。言い換えると、完成品としての平角線の端部の先端面とフラットワイズ側の表面5aとの間に面取り加工が施された状態となる。
【0033】
(S4)第二被膜除去工程
この工程S4では、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bのうち予め二組の切れ目(第二の切れ目3b)により区画された領域に対して、所定の剥離手段により剥離処理を施す。この際、適用可能な剥離手段は任意であり、本実施形態では、図11に示すように、一対の刃部材31,31をY方向の所定位置に配設し、Z方向に移動させることで、平角線材1を切断する。これにより、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bを剥離させて、導体5から除去する。この際、刃部材31の刃面31aのY方向位置を、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bと導体5との境界よりわずかにY方向中央側に寄った位置に設定することで、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bが確実に導体5から除去される。また、絶縁被膜2のうち角部6を覆う部分2c(図7を参照)は、先の成形工程S3により、成形の前後でY方向外側に移動している(図9を参照)。そのため、上述したY方向位置で平角線材1を切断することにより、導体5に絶縁被膜2の一部(角部6を覆う部分2c)が残る事態を確実に回避し得る。
【0034】
(S5)切断工程
この工程では、平角線材1のうち直前の成形工程S3で所定形状(ここでは平坦面状)に成形された切断部位7を、所定の切断手段(例えば刃部材によるせん断加工)で切断する。ここで、切断部位7に隣接する部位は、先の成形工程S3で傾斜面部23cによる面取り加工が施された状態となっている(図10を参照)。そのため、切断部位7のX方向両端位置にて平角線材1を切断することにより、例えば図12に示すように、露出した導体5の先端部に面取り部としての第一斜面5cが形成されてなる平角線1’が得られる。
【0035】
また、本実施形態では、図13に示すように、第一の切断線L1(図13中の一点鎖線)に沿って切断部位7をZ方向に切断すると共に、第二の切断線L2(図13中の一点鎖線)に沿って平角線材1をZ方向に切断する。これにより、例えば図14に示すように、平角線1’の露出した導体5の先端にY方向及びZ方向に平行な先端面5dが形成されると共に、この先端面5dと導体5の側端面(エッジワイズ側の表面5b)との間に平坦な第二斜面5eが形成される。
【0036】
以上の工程を経て、平角線1’の端部に対する加工が完了する。然る後、所定の曲げ加工等を施すことにより、コイルセグメントとしての平角線が完成する。
【0037】
このように、本実施形態に係る平角線1の製造方法では、切断前の平角線1’となる平角線材1のフラットワイズ側平坦部とエッジワイズ側平坦部との間の角部6をY方向の外側に押し広げて、角部6を斜面状に成形した(図9を参照)。また、角部6の成形後、エッジワイズ側平坦部を覆う絶縁被膜2を平角線材1の本体となる導体5から除去するようにした(図11を参照)。このように角部6を成形することにより、切削カスを出すことなく角部6に面取り加工を施すことができる。また、角部6をY方向の外側に押し広げることで、絶縁被膜2のうち角部6を覆う部分2cを成形前の位置(図7を参照)よりもフラットワイズ方向の外側に移動させることができる(図9を参照)。これにより、例えば角部6に隣接するエッジワイズ側平坦部の絶縁被膜2bを切断により除去する場合、切断後に角部6を覆っていた絶縁被膜2の一部2cが平角線材1に残る事態を避けて、エッジワイズ側平坦部の絶縁被膜2bと共に角部6を覆っていた絶縁被膜2cの全てを確実に除去することができる。また、成形により角部6の除去を図るのであれば、従来の角部剥離工程のように平角線材1の姿勢をその都度変えなくてよいため、作業効率が向上する。また、工程設備の簡略化を図ることもできる。また、面取り加工を切削から成形に代えることで、導体5の切削ロスを少なくできるので、歩留まりの向上も期待できる。
【0038】
また、本実施形態では、成形工程S3において、角部6と共に平坦状をなす導体5のフラットワイズ側の表面5aをY方向に沿って凸曲面形状に成形したので、角部6を無理なく所定の形状(斜面状)に成形することができる。また、角部6と連続するフラットワイズ側の表面5aを併せて成形することで、導体5のうち角部6をなす部分を確実にY方向の外側へ流動させることができる。よって、角部6を確実にかつ安定的に成形することが可能となる。もちろん、この方法によれば、導体5のフラットワイズ側の表面5aと、角部6を成形して得た斜面とを滑らかにつなぐことができるので、エッジとなる部分を極力減らし、又は小さくすることが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、成形工程S3において、第一成形面23に、凸曲面部23aとX方向で隣接する位置に傾斜面部23cを設けて、この傾斜面部23cで平角線1’の先端部となる部分を成形したので、平角線1’の先端面5dとフラットワイズ側の表面(凸曲面)5aとの間に、面取り部としての第一斜面5cを成形工程S3の際に形成できる。よって、第一斜面5cを単独で形成する工程を設けずに済み、工程数の削減が可能となる。また、本実施形態では、切断工程S5において、平角線1’の先端面5dとエッジワイズ側の表面5bとの間に、面取り部としての第二斜面5eを形成したので、第二斜面5eを単独で形成する工程(面取り工程)に比べて、簡素な設備で効率よく第二斜面5eを形成することが可能となる。以上より、本実施形態に係る平角線の製造方法によれば、従来のごとき単独の面取り工程を極力省略することができるので、製造ラインのコンパクト化を図ることが可能となる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る平角線の製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、成形工程S3において、絶縁被膜2が除去された状態の導体5のZ方向一方側のフラットワイズ側の表面5aをY方向全域にわたって凸曲面状に成形した場合を例示したが(図9を参照)、表面5aの成形態様はこれには限られない。例えば図示は省略するが、Y方向の中央部を平坦状とし、そのY方向両側を曲面状に成形してもよい。もちろん、この場合、曲面状に成形される部位は、Y方向外側に向かうにつれて高さ寸法(仮想的に設定されるXY平面に対するZ方向の距離)が減少するような曲面であることが望ましい。あるいは、第一成形面23のうち角部6と対向する領域のみを曲面状又は平坦な斜面状に成形してもよい。
【0042】
また、導体5のZ方向他方側のフラットワイズ側の表面5aの成形態様についても原則として任意であり、例えば上記表面5aのうち平坦面部24bで成形される部位の一部を平坦面状に成形し、残部を曲面状(たとえばY方向中央を凹曲面状)に成形してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、平角線材1を覆う絶縁被膜2のうちフラットワイズ側の平坦部2aを剥離により除去した後に、露出した導体5のフラットワイズ側の表面5a及び角部6を所定形状に成形した場合を例示したが、もちろんこれには限られない。すなわち、絶縁被膜2の材質や厚み寸法、プレカット工程S1での切れ目3a,3bの形成態様によっては、絶縁被膜2で覆われた状態のフラットワイズ側の表面5a及び角部6に対して成形工程を実施してもよい。また、成形工程時に絶縁被膜2の平坦部2aが除去されていない場合には、成形工程S3の後に、第一被膜除去工程S2を実施してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、成形工程S3を実施した後に切断工程S5を実施する場合を例示しているが、必ずしもこの順序には限定されない。すなわち、場合によっては、平角線材1を先に切断して平角線1’を得た後に、平角線1’に対して所定の成形処理(成形工程)を実施してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 平角線材
1’ 平角線
2 絶縁被膜
2a 絶縁被膜(フラットワイズ側の平坦部)
2b 絶縁被膜(エッジワイズ側の平坦部)
2c 絶縁被膜(角部を覆う部分)
3a,3b 切れ目
4 剥離予定領域
5 導体
5a フラットワイズ側の表面
5b エッジワイズ側の表面
5c 第一斜面
5d 先端面
5e 第二斜面
6 角部
7 切断部位
10,11 刃部材
10a,11a 刃部
20 成形装置
21 第一成形型
22 第二成形型
23 第一成形面
23a 凸曲面部
23b 平坦面部
23c 傾斜面部
24 第二成形面
24a 傾斜面部
24b 平坦面部
31 刃部材
31a 刃面
L1,L2 切断線
S1 プレカット工程
S2 第一被膜除去工程
S3 成形工程
S4 第二被膜除去工程
S5 切断工程
W1 Y方向寸法(第一成形面)
W2 Y方向寸法(平角線材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14