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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20240326BHJP
【FI】
A61M25/10 510
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022575031
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001442
(87)【国際公開番号】W WO2022153527
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 涼
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0276199(US,A1)
【文献】国際公開第2011/118366(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172839(US,A1)
【文献】特開2016-209062(JP,A)
【文献】特開平11-178929(JP,A)
【文献】国際公開第2012/156914(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延在する管状部材からなるシャフトと、
前記シャフトの先端付近に配置された多層バルーンと
を備え、
前記多層バルーンは、少なくとも、第1層と、前記第1層の外表面を覆う第2層と、を有しており、
前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って、第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有しており、
前記第1層の前記第1端部と、前記第2層の前記第1端部とが、互いに固定され、
前記第1層の前記第2端部と、前記第2層の前記第2端部とが、互いに固定され、
前記第1層の前記中間部と、前記第2層の前記中間部とは、互いに固定されずに重なり合っており、
前記第2層の前記中間部には、1または複数の貫通孔が形成されていると共に、前記第1層の前記中間部には、前記貫通孔が形成されておらず、
前記多層バルーンが収縮して折り畳まれた状態では、
前記第2層における前記貫通孔が、前記多層バルーンの外表面に露出しないようになっている
バルーンカテーテル。
【請求項2】
前記第1層および前記第2層における前記中間部が、
前記軸方向に沿った中央付近に位置する中央部と、
前記中央部と前記第1端部とを繋ぐ第1テーパ部と、
前記中央部と前記第2端部とを繋ぐ第2テーパ部と
を有しており、
前記貫通孔が、前記第2層の前記中央部にのみ形成されている
請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記第1層が、複数の層からなる多層構造であると共に、
前記複数の層のいずれにおいても、前記貫通孔が形成されていない
請求項1または請求項2に記載のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルシャフトの先端付近にバルーンが配置されたバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管に形成された狭窄部位を拡張するための治療法として、バルーンカテーテルを用いた、経皮的冠動脈形成術(PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)がある。バルーンカテーテルは、カテーテルシャフトの先端付近にバルーンが配置(装着)されたものである。PTCAでは、このバルーンカテーテルを血管内に挿入し、収縮して折り畳まれた状態のバルーンを狭窄部位まで案内したのち、バルーンの内部に生理食塩水等の流体を導入することでバルーンを拡張し、その狭窄部位を拡げるようになっている。
【0003】
このようなバルーンカテーテルにおけるバルーンとしては、単層構造を有するもののほか、所望の特性を得るために異種材料からなる複数の層を含む、多層構造を有するものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平9-508558号公報
【文献】特表2006-503642号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記したようなバルーンカテーテルでは一般に、バルーンの信頼性を向上させることや、治療の有効性を向上させることが、求められている。バルーンの信頼性を向上させると共に治療の有効性を向上させることが可能な、バルーンカテーテルを提供することが望ましい。
【0006】
本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテルは、軸方向に沿って延在する管状部材からなるシャフトと、このシャフトの先端付近に配置された多層バルーンと、を備えたものである。多層バルーンは、少なくとも、第1層と、この第1層の外表面を覆う第2層と、を有している。第1層および第2層は、上記軸方向に沿って、第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有している。第1層の第1端部と第2層の第1端部とが、互いに固定され、第1層の第2端部と第2層の第2端部とが、互いに固定され、第1層の中間部と第2層の中間部とは、互いに固定されずに重なり合っている。第2層の中間部には、1または複数の貫通孔が形成されていると共に、第1層の中間部には、貫通孔が形成されていない。また、多層バルーンが収縮して折り畳まれた状態では、第2層における貫通孔が、多層バルーンの外表面に露出しないようになっている。
【0007】
本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテルでは、内周側の第1層と外周側の第2層とを有すると共に、上記した第1端部と中間部と第2端部とを有する多層バルーンにおいて、第2層の中間部に貫通孔が形成されている一方、第1層の中間部には、貫通孔が形成されていない。これにより、例えば、石灰化病変に起因して、多層バルーンの外周面(第2層上)に傷が付き、裂け目が生じた場合であっても、その裂け目の進行を第2層と第1層との間で止めることができるため、多層バルーン全体が破断するおそれが低減される。また、上記した貫通孔が第2層に形成されていることで、多層バルーンの第2層と第1層との間に、空気が残存してしまうおそれが回避されるとともに、多層バルーンの拡張状態において、貫通孔が滑り止めとしても機能することになる。また、多層バルーンが収縮して折り畳まれた状態では、第2層における貫通孔が、多層バルーンの外表面に露出しないようになっているため、収縮して折り畳まれた状態の多層バルーンを、血管内の狭窄部位まで挿入する際に、多層バルーンの引っ掛かりが更に抑制され易くなる結果、治療の有効性がより一層向上することになる。
【0008】
ここで、本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテルでは、第1層および第2層における中間部が、上記軸方向に沿った中央付近に位置する中央部と、この中央部と第1端部とを繋ぐ第1テーパ部と、中央部と第2端部とを繋ぐ第2テーパ部と、を有していると共に、貫通孔が第2層の中央部にのみ形成されているようにしてもよい。このようにした場合、多層バルーンの拡張状態において最大拡張径部として機能する中央部に、貫通孔が選択的に形成されていることで、例えば、上記した滑り止めとしての機能が、発揮し易くなる。その結果、治療の有効性が更に向上することになる。
【0011】
また、第1層が、複数の層からなる多層構造であると共に、これら複数の層のいずれにおいても、貫通孔が形成されていないようにしてもよい。このようにした場合、例えば上記したようにして、多層バルーンの外周面(第2層上)に傷が付き、裂け目が生じた場合であっても、内周側の第1層が多層構造であることから、多層バルーン全体が破断するおそれが、更に低減される。その結果、治療の有効性が更に向上することになる。
【0012】
本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテルによれば、多層バルーンにおいて、外周側の第2層の中間部には貫通孔を形成すると共に、内周側の第1層の中間部には貫通孔を形成しないようにしたので、以下のようになる。すなわち、多層バルーン全体が破断するおそれを低減させることができると共に、第2層と第1層との間に空気が残存してしまうおそれを回避したり、多層バルーンの拡張状態において貫通孔を滑り止めとしても機能させることができる。よって、バルーン(多層バルーン)の信頼性を向上させると共に、治療の有効性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテルの全体構成例を表す模式図である。
図2図1に示したバルーンの外観構成例を模式的に表す斜視図である。
図3図1に示したバルーンを拡大して表す断面図である。
図4図3中に示したIV-IV線に沿った矢視断面図である。
図5】バルーンの拡張状態、中間状態および収縮状態での貫通孔の配置状態例を表す模式図である。
図6】変形例に係るバルーンカテーテルにおけるバルーンの構成例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(単層構造の第1層と貫通孔を含む第2層とを有する多層バルーンの例)
2.変形例(多層構造の第1層と貫通孔を含む第2層とを有する多層バルーンの例)
3.その他の変形例
【0015】
<1.実施の形態>
[A.バルーンカテーテル1の全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るバルーンカテーテル1の全体構成を、模式的に表したものである。また、図2は、図1に示したバルーン20の外観構成例を、模式的に斜視図で表したものである。なお、これらの図1図2ではそれぞれ、後述する拡張状態におけるバルーン20を示している。
【0016】
バルーンカテーテル1は、図1に示したように、先端側シャフト10と、この先端側シャフト10の先端付近に配置(装着)されたバルーン20と、先端側シャフト10の内部およびバルーン20の内部に挿通されたインナーシャフト30と、を備えている。バルーン20は、その内部に生理食塩水などの流体を導入することにより拡張し、その内部に導入された流体を排出することにより、収縮する(収縮して折り畳まれる)ようになっている。このバルーンカテーテル1はまた、図1に示したように、先端側シャフト10の基端に接続された基端側シャフト50と、その基端側シャフト50の基端に装着されたハブ60と、ストレインリリーフ70と、を備えている。
【0017】
ここで、先端側シャフト10は、本発明における「シャフト」の一具体例に対応している。また、バルーン20は、本発明における「多層バルーン」の一具体例に対応している。
【0018】
なお、本明細書では、先端側シャフト10が延在する方向を「軸方向」といい、その軸方向と直交する軸周りの方向を「周方向」という。また、本実施の形態では、インナーシャフト30が延在する方向は、「軸方向」と実質的に一致している。
【0019】
(先端側シャフト10)
先端側シャフト10は、図1に示したように、軸方向(Z軸方向)に沿って延在する、管状部材からなる。この先端側シャフト10とインナーシャフト30との隙間には、拡張ルーメン(図示せず)が形成されている。この拡張ルーメンには、バルーン20を拡張させるための生理食塩水などの流体が、流通するようになっている。
【0020】
このような先端側シャフト10の外径は、例えば0.7mm~1.0mm程度であり、先端側シャフト10の長さは、例えば150mm~450mm程度である。また、先端側シャフト10の構成材料としては、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX(登録商標))およびナイロンなどの熱可塑性樹脂が挙げられ、特にPEBAX(登録商標)が好ましい。
【0021】
(バルーン20)
バルーン20は、上記した流体の導入や排出によって、拡張した状態に設定されたり、収縮して折り畳まれた状態(ラッピング状態)に設定されるようになっている。このバルーン20は、詳細は後述するが、多層構造により構成された、多層バルーンとなっている。
【0022】
また、図2に示したように、バルーン20の外表面には、複数の貫通孔Hが、形成されている。これらの貫通孔Hはそれぞれ、詳細は後述するが、多層構造のバルーン20のうち、外周側の層(後述する第2層22)のみを貫通するようになっている。
【0023】
なお、このようなバルーン20の詳細構成については、後述する(図3図5)。
【0024】
(インナーシャフト30)
インナーシャフト30の内部空間は、ガイドワイヤ(図示せず)を挿通するための、ガイドワイヤルーメンを形成している。また、インナーシャフト30の先端部は、バルーン20の先端部に固定されている。図1に示したように、インナーシャフト30の先端には、開口35Aが形成されており、インナーシャフト30の基端には、この先端側シャフト10の側面に露出するように、開口35Bが形成されている。
【0025】
このようなインナーシャフト30の外径は、例えば0.48mm~0.60mm程度であり、インナーシャフト30の内径は、例えば0.35mm~0.45mm程度である。また、インナーシャフト30の構成材料としては、先端側シャフト10の構成材料と同一の熱可塑性樹脂が挙げられ、特にPEBAX(登録商標)が好ましい。なお、インナーシャフト30の内面には、潤滑性の高い樹脂層がさらに形成されていてもよい。そのような樹脂層の構成材料としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン、PFA、PTFEなどのフッ素系樹脂が挙げられる。
【0026】
(基端側シャフト50、ハブ60、ストレインリリーフ70)
基端側シャフト50は、例えばステンレス鋼、NiTi合金またはCuMnAl系合金などの金属材料のほか、先端側シャフト10と同様の樹脂材料からなる、管状部材である。この基端側シャフト50の先端部は、図1に示したように、先端側シャフト10の基端部に挿入されており、先端側シャフト10における前述した拡張ルーメンと、基端側シャフト50のルーメンとは、互いに連通している。
【0027】
このような基端側シャフト50の基端部は、図1に示したように、ストレインリリーフ70およびハブ60に挿入されている。なお、基端側シャフト50の先端部には、螺旋状のスリットが形成されていてもよい。このような基端側シャフト50の長さは、例えば900mm~1500mm程度である。
【0028】
ハブ60の基端部には、バルーン20を拡張させるための流体を導入する開口として、バルーン拡張用ポート(図示せず)が形成されている。また、このハブ60には、インディフレータ(図示せず)が装着されており、このインディフレータによって、バルーン20を拡張させるための圧力が調整されるようになっている。
【0029】
[B.バルーン20の詳細構成]
次に、図3図5を参照して、バルーン20の詳細構成例について詳細に説明する。
【0030】
図3は、バルーン20を拡大して断面図(Y-Z断面図)で表したものであり、図4は、図3中に示したIV-IV線に沿った矢視断面図(X-Y断面図)である。なお、これらの図3図4ではそれぞれ、拡張状態におけるバルーン20を示している。また、図5は、バルーン20の拡張状態(図5(A))、中間状態(図5(B))および収縮状態(図5(C))における、前述した貫通孔Hの配置状態例をそれぞれ、模式的に側面図(X-Y側面図)で表したものである。なお、図5(B),図5(C)中に示した破線の矢印は、バルーン20が収縮して折り畳まれていく方向を、示している。また、図5(A)~図5(C)ではそれぞれ、便宜上、各貫通孔Hを、バルーン20の外表面上に突出した形状に模式化して示している。
【0031】
図3に示したように、バルーン20の基端側は、先端側シャフト10に固定され、バルーン20の先端側は、インナーシャフト30に固定されている。バルーン20の内部(図3中に示した空間K)は、先端側シャフト10の内腔に連通している。そのため、前述した基端側シャフト50のルーメンおよび先端側シャフト10の拡張ルーメンを介して、このバルーン20の内部(空間K)に対して前述した流体を供給し、バルーン20を膨らませることが可能となっている。
【0032】
(端部20A,20B、中央部20C、テーパ部20D,20E)
このようなバルーン20は、図3に示したように、インナーシャフト30の軸方向(Z軸方向)に沿って基端側から先端側へ向けて、端部20B、テーパ部20E、中央部20C、テーパ部20Dおよび端部20Aをそれぞれ、この順序で有している。
【0033】
ここで、端部20Aは、本発明における「第1端部」の一具体例に対応し、端部20Bは、本発明における「第2端部」の一具体例に対応している。また、テーパ部20Dは、本発明における「第1テーパ部」の一具体例に対応し、テーパ部20Eは、本発明における「第2テーパ部」の一具体例に対応している。また、中央部20Cおよびテーパ部20D,20Eが、本発明における「中間部」の一具体例に対応している。
【0034】
中央部20Cは、図3に示したように、インナーシャフト30の軸方向に沿って、バルーン20の中央付近に位置している。また、中央部20Cは、例えば、インナーシャフト30の周方向を高さ方向とする略円筒状の外観を有しており、バルーン20の拡張状態において、バルーン20における最大の外径を有する部分(最大拡張径部)となっている。なお、このような拡張状態における中央部20Cの外径は、例えば1.0mm~5.0mm程度である。
【0035】
一対の端部20A,20Bは、図3に示したように、インナーシャフト30の軸方向に沿って、中央部20C挟むように配置されており、中央部20Cの外径よりも小さな外径を有している。また、バルーン20は、先端側の端部20Aにおいてインナーシャフト30に固定され、基端側の端部20Bにおいて先端側シャフト10に固定されている。なお、このようなバルーン20の固定方法は、特に限定されないが、例えば、熱融着による固定方法が挙げられる。
【0036】
テーパ部20Dは、図3に示したように、中央部20Cと端部20Aとを繋ぐ部分であり、テーパ部20Eは、中央部20Cと端部20Bとを繋ぐ部分である。これらのテーパ部20D,20Eはいずれも、略円錐台形状を有している。
【0037】
(第1層21、第2層22)
また、図3図4に示したように、バルーン20は、内周側の第1層21と外周側の第2層とからなる、多層構造(2層構造)を有している。つまり、このバルーン20は、多層バルーンとなっている。
【0038】
なお、図3に示したように、バルーン20の拡張状態においては、中央部20Cおよびテーパ部20D,20Eにおける第1層21の内面21Sは、インナーシャフト30の表面30Sから離間しており、前述した空間Kが形成されるようになっている。そして、この空間Kには、インナーシャフト30と先端側シャフト10との隙間(拡張ルーメン)から、前述した流体が流入するようになっている。
【0039】
第1層21は、例えば5μm~20μm程度の厚さを有している。第2層22は、第1層21の外表面を覆っており、例えば5μm~20μm程度の厚さを有している。
【0040】
また、第1層21の端部20Aと第2層22の端部20Aとは、互いに接着や融着などにより固定されている。同様に、第1層21の端部20Bと第2層22の端部20Bとは、互いに接着や融着などにより固定されている。一方、これらの第1層21と第2層22とは、中央部20Cおよびテーパ部20D,20Eにおいては、互いに接しているものの、互いに接着や融着などにより固定されずに、重なり合っている。
【0041】
ここで、図3に示したように、第2層22の中央部20Cには、前述した複数の貫通孔Hが形成されている。一方、第1層21の中央部20C(ならびに端部20A,20Bおよびテーパ部20D,20E)には、そのような貫通孔Hが形成されていない。つまり、各貫通孔Hは、バルーン20における2層構造のうち、外周側の第2層22のみを貫通している。また、この図3の例では、各貫通孔Hが、第2層22の中央部20Cにのみ形成されており、端部20A,20Bおよびテーパ部20D,20Eにはそれぞれ、形成されないようになっている。
【0042】
また、図4に示した例では、このような貫通孔Hの形成領域が、第2層22の周方向に沿って、間引いて配置されている。つまり、第2層22の周方向に沿って、複数の貫通孔Hが、絶え間なく全面に形成されているのではなく、断続的に形成されている。具体的には、この図4の例では、第2層22の周方向に沿って約120°間隔で、貫通孔Hの形成領域が配置されている。
【0043】
また、図5(A)~図5(C)に示した例では、バルーン20が収縮して折り畳まれていく際に、バルーン20において、周方向に沿って約120°間隔で配置される、3つの突状部201~203が形成されるようになっている。各突状部201~203は、インナーシャフト30を中心として、放射線状に突き出た形状となっており、各突状部201~203が折り畳まれるようにして(図5(B),図5(C)中の破線の矢印参照)、バルーン20全体が収縮するようになっている。そして、図5(C)に示したように、バルーン20全体が収縮して折り畳まれた状態(ラッピング状態)では、各突状部201~203が折り畳まれた際の内側に、各貫通孔Hが配置されることで、バルーン20の外表面には、各貫通孔Hが露出しないようになっている。
【0044】
[C.動作および作用・効果]
(C-1.基本動作)
このバルーンカテーテル1では、患者に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)の際に、バルーン20が配置された先端部分が、患者の血管内に挿入される。その際にバルーン20は、収縮して折り畳まれた状態(図5(C)参照)で、患部(狭窄部位)まで案内される。そして、このバルーン20が狭窄部位に到達したのち、バルーン20の内部に生理食塩水等の流体を導入して、バルーン20を拡張することで(図5(A)参照)、その狭窄部位を拡げる。
【0045】
(C-2.作用・効果)
このようなバルーンカテーテル1では、バルーン20における第1層21と第2層22とが、中央部20Cおよびテーパ部20D,20Eにおいては、互いに接しているものの固定されず、一対の端部20A,20Bにおいて、互いに固定されている(図3参照)。これにより、以下のようにして、バルーン20が破断するおそれが低減されることになる。
【0046】
すなわち、まず、一般に、バルーンカテーテルのバルーンを拡張すると、圧力に応じてバルーンは成形時のサイズを超えて拡張するが、この拡張の度合は、バルーンの物理的特性によって異なる。その結果、例えば、異なる物理的特性を有する内層と外層とからなる2層バルーンでは、内層の拡張度合と外層の拡張度合とが、互いに異なることになる。例えば、多層構造のパリソンを延伸ブロー成形して製造した多層構造のバルーンでは、その中央部およびテーパ部の双方において、隣接する各層同士が固着され、複数層が一体となっている。このため、多層構造のバルーンが拡張した際に、ある層(内層)の寸法変化と、その層と固着された他の層(外層)の寸法変化との差異によって、それらの層の境界面(内層と外層との境界面)において応力が集中し、その応力が集中した箇所から、多層構造のバルーンが破断するおそれがある。
【0047】
これに対して、本実施の形態のバルーン20では、上記したように、中央部20Cおよびテーパ部20D,20Eにおいて、第1層21と第2層22とが互いに固定されていないため、バルーン20の拡張および収縮の際に、中央部20Cにおける第1層21と第2層22とがそれぞれ、個別に変位することができる。その結果、例えば第1層21と第2層22との境界部分における応力集中が発生せず、あるいは発生したとしても、第1層21と第2層22とが中央部20Cにおいても固着されている場合と比べて、応力集中が緩和されることになる。したがって、上記したように、バルーン20が破断するおそれが、低減されることになる。
【0048】
ここで、本実施の形態のバルーン20では、前述したように、外周側の第2層22の中央部20Cに、貫通孔Hが形成されている一方、内周側の第1層21の中央部20Cには、貫通孔Hが形成されないようになっている。これにより、例えば、石灰化病変に起因して、バルーン20の外周面(第2層22上)に傷が付き、裂け目が生じた場合であっても、その裂け目の進行を第2層22と第1層21との間で止めることができるため、バルーン20全体が破断するおそれが(更に)低減される。また、そのような貫通孔Hが第2層22に形成されていることで、バルーン20の第2層22と第1層21との間に、空気が残存してしまうおそれが回避されるとともに、バルーン20の拡張状態において、貫通孔Hが滑り止めとしても機能することになる。よって、本実施の形態のバルーンカテーテル1では、バルーン20の信頼性を向上させると共に、治療の有効性を向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態では、上記した貫通孔Hが、第2層22の中央部20Cにのみ形成されているようにしたので、以下のようになる。すなわち、バルーン20の拡張状態において最大拡張径部として機能する中央部20Cに、貫通孔Hが選択的に形成されていることから、例えば、上記した滑り止めとしての機能が、発揮し易くなる。その結果、本実施の形態では、治療の有効性を、更に向上させることが可能となる。
【0050】
更に、本実施の形態では、第2層22の周方向に沿って、貫通孔Hの形成領域が、間引いて配置されるようにしたので、以下のようになる。すなわち、例えば、第2層22の周方向に沿って、貫通孔Hが絶え間なく全面に形成されている場合と比べ、バルーン20が収縮して折り畳まれた状態において、貫通孔Hが外表面に露出しにくくなる。したがって、収縮して折り畳まれた状態のバルーン20を、血管内の狭窄部位まで挿入する際に、バルーン20の引っ掛かりが、抑制され易くなる。その結果、本実施の形態では、治療の有効性を、更に向上させることが可能となる。
【0051】
加えて、本実施の形態では、バルーン20が収縮して折り畳まれた状態では、第2層22における貫通孔Hが、バルーン20の外表面に露出しないようにしたので、以下のようになる。すなわち、上記したようにして、収縮して折り畳まれた状態のバルーン20を、血管内の狭窄部位まで挿入する際に、バルーン20の引っ掛かりが、更に抑制され易くなる。その結果、本実施の形態では、治療の有効性を、より一層向上させることが可能となる。
【0052】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0053】
[構成]
図6は、変形例に係るバルーンカテーテル1aにおけるバルーン20aの構成例を、断面図(X-Y断面図)で表したものである。
【0054】
本変形例のバルーンカテーテル1aは、実施の形態のバルーンカテーテル1において、前述したバルーン20の代わりに、以下説明するバルーン20aを設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。
【0055】
本変形例のバルーン20aにおける第1層21aは、実施の形態のバルーン20における第1層21(単層構造)とは異なり、複数(2つ)の層211,212からなる多層構造となっている。そして、図6に示したように、バルーン20の第1層21と同様に、このバルーン20aにおける第1層21aでは、これら複数の層211,212のいずれにおいても、貫通孔Hが形成されないようになっている。つまり、本変形例において実施の形態と同様に、各貫通孔Hは、バルーン20における第2層22のみを、貫通している。
【0056】
[作用・効果]
このような変形例においても、基本的には、実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。
【0057】
また、特に本変形例では、バルーン20aの第1層21aが、複数の層211,212からなる多層構造であると共に、これら複数の層211,212のいずれにおいても、貫通孔Hが形成されていないようにしたので、以下のようになる。すなわち、例えば前述したようにして、バルーン20aの外周面(第2層22上)に傷が付き、裂け目が生じた場合であっても、内周側の第1層21aが多層構造であることから、バルーン20a全体が破断するおそれが、更に低減される。その結果、本変形例では、治療の有効性を更に向上させることが可能となる。
【0058】
なお、図6に示した例では、第1層21aが、2つの層211,212により構成されているが、例えば、3つ以上の層からなる多層構造によって、第1層21aが構成されているようにしてもよい。
【0059】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等には限定されず、種々の変形が可能である。
【0060】
例えば、上記実施の形態等において説明した各部材の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等は限定されるものではなく、他の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等としてもよい。
【0061】
具体的には、例えば上記実施の形態等では、バルーンの構成について具体例を挙げて説明したが、必ずしも全ての構成要素を備える必要はなく、また、他の構成要素をさらに備えていてもよい。詳細には、上記実施の形態等では、中央部20Cとテーパ部20D,20Eとを有するバルーン20を例に挙げて説明したが、バルーンの形状については、これに限定されるものではなく、各種の形状としてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態等では、貫通孔Hが第2層22の中央部20Cにのみ形成されている場合を例に挙げて説明したが、例えば、第2層22において、中央部20Cに加えてテーパ部20D,20Eにおいても、貫通孔Hが形成されているようにしてもよい。更に、このような貫通孔Hが、第2層22において複数形成されているのではなく、例えば、第2層22において1つだけ形成されているようにしてもよい。加えて、第2層22の周方向に沿った、貫通孔Hの形成領域については、実施の形態等で説明した配置例には限られず、他の配置例としてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態等では、2層構造のバルーンを例に挙げて説明したが、例えば、3層以上からなる多層構造のバルーンであってもよい。
【0064】
更に、上記実施の形態等では、ラピッドエクスチェンジタイプのバルーンカテーテルについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、例えば、ガイドワイヤが手元から先端まで通るオーバーザワイヤタイプのバルーンカテーテルにも、適用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6