(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両用クッションパッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47C 27/15 20060101AFI20240326BHJP
A47C 7/18 20060101ALI20240326BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20240326BHJP
【FI】
A47C27/15 A
A47C7/18
B60N2/90
(21)【出願番号】P 2021027037
(22)【出願日】2021-02-24
(62)【分割の表示】P 2017082197の分割
【原出願日】2017-04-18
【審査請求日】2021-02-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
【合議体】
【審判長】中村 則夫
【審判官】沼生 泰伸
【審判官】八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-70969(JP,A)
【文献】特開2001-70084(JP,A)
【文献】特開昭61-132311(JP,A)
【文献】特開平9-29761(JP,A)
【文献】特開2009-291537(JP,A)
【文献】特開2006-218666(JP,A)
【文献】米国特許第5089191(US,A)
【文献】特開2018-175597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N2/00-2/90
A47C27/00-27/22
A47C7/00-7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも乗員が当接する側の受け面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドで形成した車両用クッションパッドの製造方法において、
ビーズ発泡成形体であって、裏面の外周縁寄りで、可撓性を有する薄板部が裏面外周縁に沿って起立形成された芯パッドをインサート品として用い、これをセットする上型は、該薄板部の対応部位に、型閉じで該薄板部が嵌入セットされる窪みを設け、且つ該窪みが入口から底面に向けて該窪みの中央側へ近づく傾斜面の側壁を備えて、
該傾斜面を前記薄板部が滑るようにして、該薄板部における裏面外周縁側の立面を該側壁に押し当て、該窪みに該薄板部を嵌入させて前記芯パッドを上型にセットし、次いで、下型キャビティ面に軟質ポリウレタン発泡原料を注入すると共に型閉じし、その後、側部で前記芯パッドの側面を裏面外周縁まで覆って埋設一体化した表層パッドを発泡成形することを特徴とする車両用クッションパッドの製造方法。
【請求項2】
少なくとも乗員が当接する側の受け面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドで形成した車両用クッションパッドにおいて、
ビーズ発泡成形体であって、裏面の外周縁寄りで、可撓性を有する薄板部が裏面外周縁に沿って起立形成された芯パッドと、
該芯パッドをその裏面が露出するインサート品にして、側部で芯パッドの側面を裏面外周縁まで覆って埋設一体化している表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用クッションパッド。
【請求項3】
前記薄板部が、前記芯パッドの裏面につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなる請求項2記載の車両用クッションパッド。
【請求項4】
前記薄板部が、前記芯パッドの裏面につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなり且つ該薄板部における裏面外周縁側の立面が先端部分に向けて前記芯パッドに係る裏面の内側へ傾倒している請求項2又は3に記載の車両用クッションパッド。
【請求項5】
前記薄板部が、前記芯パッドに係る前記裏面の中央へ向けて一段盛り上がった高所部の壁面に対し、対向面有して且つ隙間を介在させて起立形成され、さらに該高所部の天面に溝口を有する係止用溝が該壁面寄りに設けられている請求項2乃至4のいずれか1項に記載の車両用クッションパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席シートを構成する車両用クッションパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される座席シートで、座部を構成するクッションパッドは快適なクッション性が得られるよう軟質ポリウレタン発泡体で専ら造られてきた。ただ近年になると、軽量化等の目的で、下層をポリスチロール発泡体やポリオレフィン系発泡体のビーズ発泡成形体に担わせたクッションパッドの発明が提案されるようになっている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5277912号公報
【文献】特開平9-70330号公報
【文献】実開昭58-175756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、下層にビーズ発泡成形体の芯パッドが存在する特許文献1,2は、その側面が露出し、軟質ポリウレタン発泡体の層で覆われていないため、乗員がそこに触れた時、クッション性,感触に劣る問題がある。一方、特許文献3のごとく、ポリオレフィン系発泡体層(本発明でいう「芯パッド」)は裏面の露出にとどめ、ポリウレタン発泡体層(本発明でいう「表層パッド」)の側部が芯パッド側面をその裏面外周縁まで覆うことができれば、前記クッション性,感触が劣るといった問題を解消できる。
しかし、特許文献3のように、表層パッドで芯パッドの側面を裏面外周縁まで覆う構成にすると、表層パッドの発泡成形で、発泡原料が芯パッド裏面へ回り込んで裏面中央へ向けて浸入し易かった。芯パッド2のビーズ発泡成形体はクッション性,シール性に乏しく、さらにその発泡成形で収縮する傾向があり、芯パッド裏面2bへの発泡原料の浸入が一層起こり易くなっている(
図11)。浸入した発泡原料は芯パッドの裏面2bにポリウレタンの膜kを形成し、これがクッションパッド1の車両搭載後に擦れ音を発する不具合を招く。そのため、発泡成形後の後工程で、擦れ音対策用に不織布等を芯パッド裏面2bの軟質ポリウレタン膜kを覆うように貼着しなければならず、労力負担増の問題になっている。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、軽量化に役立つビーズ発泡成形体の芯パッドを採用し、その裏面を露出させ、表層パッドの側部で芯パッド側面を裏面外周縁まで覆いながらも、該表層パッドの発泡成形で発泡原料の芯パッド裏面への回り込みを防止し、作業者の労力負担解消、生産性向上に貢献する車両用クッションパッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、発明の要旨は、少なくとも乗員が当接する側の受け面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドで形成した車両用クッションパッドの製造方法において、ビーズ発泡成形体であって、裏面の外周縁寄りで外周縁側低所部から一段盛り上がった高所部に至る裏面外周縁側の壁面に対し、隙間を介在させた裏面外周縁側の低所部に、薄板部が起立形成された芯パッドをインサート品として用い、これをセットする上型に、該薄板部を含めた前記高所部の対応部位に窪みを設け、且つ該窪みは入口から底面に向けて該窪みの中央側へ近づく傾斜面の側壁を備えて、該傾斜面を前記薄板部が滑るようにして、該薄板部における裏面外周縁側の立面を該側壁に押し当て、該窪みに前記高所部と共に該薄板部を嵌入させて前記芯パッドを上型にセットし、次いで、下型キャビティ面に軟質ポリウレタン発泡原料を注入すると共に型閉じし、その後、側部で前記芯パッドの側面を裏面外周縁まで覆って埋設一体化した表層パッドを発泡成形することを特徴とする車両用クッションパッドの製造方法にある。また発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、薄板部が、前記低所部につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなり且つ前記立面が先端部分に向けて前記高所部の前記壁面側へ傾倒していることを特徴とする。また発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、壁面と薄板部における立面との双方が、前記芯パッドの裏面外周縁に沿って設けられ、且つ該立面の方が該壁面よりも裏面外周縁に沿った長さが長く設定されたことを特徴とする。また発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、薄板部が、車幅方向に走る前記隙間によって前記高所部から分かれ、車両後方側裏面の車幅方向外周縁に沿って設けられていることを特徴とする。
また発明の要旨は、少なくとも乗員が当接する側の受け面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドで形成した車両用クッションパッドにおいて、ビーズ発泡成形体であって、裏面の外周縁寄りで外周縁側低所部から一段盛り上がった高所部に至る裏面外周縁側の壁面に対し、隙間をとって裏面外周縁側に、該壁面との対向面を有する薄板部が起立形成された芯パッドと、該芯パッドをその裏面が露出するインサート品にして、側部で芯パッドの側面を裏面外周縁まで覆って埋設一体化している表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用クッションパッドにある。また発明たる車両用クッションパッドは、薄板部が、前記低所部につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなり、且つ前記立面が先端部分に向けて前記高所部の前記壁面側へ傾倒していることを特徴とする。また発明たる車両用クッションパッドは、壁面と薄板部における立面との双方が、前記芯パッドの裏面外周縁に沿って設けられ、且つ該立面の方が該壁面よりも裏面外周縁に沿った長さが長く設定されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用クッションパッド及びその製造方法は、ビーズ発泡成形体の芯パッドを表層パッドが埋設一体化するクッションパッドにあって、表層パッド成形時に芯パッド裏面への発泡原料の浸入を防ぎ、テープの貼着等の後処理加工を要せず、労力削減,生産性向上等に優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のクッションパッド及びその製造方法の一形態で、クッションパッドを裏面側から見た斜視図である。
【
図2】
図1のクッションパッドを表面側から見た斜視図である。
【
図3】型開状態の上型に芯パッドをセットした断面図である。
【
図4】上型に芯パッドをセットする直前の部分拡大図である。
【
図5】
図4の状態から上型への芯パッドのセットを終えた部分拡大図である。
【
図6】型開状態で発泡原料を下型に注入する断面図である。
【
図8】芯パッドと一体の表層パッドを発泡成形した断面図である。
【
図9】
図1に代わる他態様のクッションパッドの斜視図である。
【
図10】
図1に代わる他態様のクッションパッドの斜視図である。
【
図11】従来技術のクッションパッドの説明斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両用クッションパッド(以下、単に「クッションパッド」ともいう。)及びその製造方法について詳述する。
(1)クッションパッドの製造方法
図1~
図10は本発明のクッションパッド及びその製造方法の一形態で、車両後部座席のクッションパッドに適用する。
図1はクッションパッドを裏面側から見た斜視図で、
図2はそれを表面側から見た斜視図である。
図3は型開状態の上型に芯パッドをセットした断面図、
図4は上型に芯パッドをセットする直前の部分拡大図、
図5は
図4の状態から上
型への芯パッドのセットを終えた部分拡大図、
図6は型開状態で発泡原料を下型に注入する断面図、
図7は
図6の状態から型閉じした断面図、
図8は芯パッドと一体の表層パッドを発泡成形した断面図、
図9,
図10は
図1に代わる他態様のクッションパッドの斜視図である。クッションパッドの裏面側を表す
図1は紙面左上方がクッションパッドの車両前方になり、
図2は車両設置の姿態にしたクッションパッドで、紙面右上方が車両前方になる。各図は図面を判り易くするため発明要部を強調図示し、また本発明と直接関係しない部分を簡略化又は省略する。
【0010】
(1)車両用クッションパッドの製造方法
車両用クッションパッドの製造方法は、少なくとも乗員が当接する側の受け面部分31を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成し、該軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド3の発泡成形で、その内面3b側を軽量の芯パッド2に接合一体化させる製法である(
図8)。クッションパッド1は乗員が当接する側が意匠面となる。ここでは、
図2に示す車両後部座席の三人掛け座部用クッションパッド1に適用する。表層パッド3の発泡成形に先立ち、芯パッド2,発泡成形型7が用意される。
【0011】
芯パッド2は、ビーズ発泡成形体であって、裏面2bの外周縁21寄りで外周縁側低所部24から一段盛り上がった高所部25が裏面中央に向けて設けられた芯部材である。そして、該高所部25に至る裏面外周縁21側の壁面251から隙間εを介在させた裏面外周縁21側の低所部24に、該壁面251に合わせた大きさの対向面を有するスライス状の薄板部26が起立形成される。薄板部26は、芯パッド2の発泡成形で一体形成され、低所部24につながる基端部位から先端部位に向けてその厚みを板厚t1から板厚t2へと小さくする。本発明は高所部25に対し相対的に低い側を低所部24と称し、ここでは、高所部25脇の外周縁21側に在る低所部24の三か所に薄板部26を形成する(
図1)。
芯パッド2の裏面2b側には三人掛け座部に合わせて、メイン部3Aの座部裏面側に小高い隆起部28が形成され、車両進行方向に対し両隆起部28の車幅方向外側それぞれに薄板部26が設けられる。また車両後方側中央で、裏面外周縁21から車両前方側に向けて低所部24を設けて、該低所部24から段差壁271を登って一段高い段部27になり、該段部27の車幅方向中央が車両後方に向かって張り出す。張り出した該段部27を高所部25にして、その裏面外周縁21側の壁面251に対し、隙間εを介在させて、裏面外周縁21側の低所部24に係る低所面24a上に薄板部26が設けられる。
本実施形態の芯パッド2は、発泡ポリプロピレン(EPP)のビーズ発泡成形体で、その見掛け密度が軟質ポリウレタン発泡成形体からなる表層パッド3の見掛け密度よりも小さい。符号22は裏面外周縁21寄りで、該裏面外周縁21に沿って所定間隔で複数設けられた表皮端部の係止用溝を示す。
【0012】
ここで、本発明でいう芯パッド裏面2bの「裏面」は、車両に取付け姿態にある
図2のクッションパッド1でいえば、紙面の「下面」,下方側の面であり、車両床側の面になる。また、「ビーズ発泡成形体」とは、いわゆるビーズ発泡法によって得られた発泡成形体で、原料ビーズを予備発泡成形させた後、型内発泡成形によって成形されているブロック状発泡成形体をいう。ビーズ発泡法は単にビーズ法ともいう。ビーズ発泡成形体は、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、又はこれらのうち一つを少なくとも含む成形体であるのが好ましい。気泡が内部に密閉されたビーズ発泡成形体となっており、且つ体積の大部分が気体で軽量にして、気密性,保形性があり、適度の保形維持が必要な芯パッド2に好都合となる。発泡倍率を上げることによって、その見掛け密度を軟質ポリウレタン発泡成形体の見掛け密度よりも容易に小さくできる。
【0013】
発泡成形型7は、
図6ごとくの分割型で、下型8と上型9が開閉可能に接続されている。
図7のごとく型閉じすると、全体が椀状にへこんで意匠面3aになる受け面部分31を
形成する下型キャビティ面81と、芯パッド2の裏面2bに合わせた上型キャビティ面91とで、クッションパッド1のキャビティCをつくる。上型9には芯パッド2のセットで、前記薄板部26を含めた前記高所部25の対応部位に窪み93が設けられる。
図1のVIII-VIII線矢視図に対応する上型9のキャビティ面91でいえば、
図4,
図8のごとく上型9へ芯パッド2のセットで、低所部24が当接するキャビティ面911から窪み93の側壁931を経て、高所部25が当接する窪み93の底面935に至る。VIII-VIII線矢視図に現れる
図4の窪み93は底面935が同図の紙面右方にそのまま上型キャビティ面91として延在する。側壁931は窪み93の入口930から底面935に向けて該窪み93の中央側へ近づく傾斜面に形成し、芯パッド2の上型9へのセットで、薄板部26に係る裏面外周縁21側の立面261を該傾斜面に押し当てシールし易くする。
図3~
図8で示す本側壁931は、図示のごとく車両後方側窪み93の入り口930からこれよりも車両前方側で一段深くなる窪み93の底面935へと向かう傾斜面とする。上型9への芯パッド2のセットで、その直前状態にある
図4の薄板部26が、傾斜側壁931に当たった後、
図5のように変形して、該側壁931に裏面外周縁21側の立面261を押し当てる構成にしている。
符号912は表層パッド3の側部裏面323を形成するキャビティ面で、芯パッド2を上型9にセットした後、型閉じで芯パッド2の裏面外周縁21よりも外側に位置する。符号86は吊溝用隆起部、符号89,符号99は型合せ面を示す。
尚、
図3~
図6の発泡成形型7は、車両設置状態に在る
図2のクッションパッド1と上下が逆の姿態で、該クッションパッドたる芯パッド2と一体の表層パッド3を造る型構造になっている。
【0014】
前記発泡成形型7、芯パッド2を用いて、クッションパッド1が例えば次のように製造される。
まず、製造に先立ち、係止用溝22の溝口をテープで塞いで、発泡成形型7の型開状態下、芯パッド2を上型9にセットする(
図3)。芯パッド2を上型9に取付け,セットしようとすると、先に薄板部26の先端部分26aが窪み93の傾斜面に形成された側壁931に当たる(
図4)。その状態のまま、芯パッド2を上型9の在る上方へ向けて押し付ける。すると、該薄板部26が、側壁931の傾斜面を滑るようにして、該傾斜面に寄り添う変形を受けながら、窪み93に高所部25と共に嵌入して上型9への芯パッド2のセットが完了する(
図5,
図6)。ここでの薄板部26の立面261は、
図4のごとく先端部分26aに向け高所部25の壁面251側へ傾倒しているので、側壁931の傾斜面に寄り添い変形を起こし易くなっている。薄板部26は、
図5のごとく押し当てられた変形状態で側壁931に少なくとも立面261の一部が密着する。ビーズ発泡成形体からなる芯パッド2であっても、スライス状の薄板部26とすることで、
図4の変形可能な可撓性を有し、さらに薄板部26は基端部位から先端部位に向けて厚みを小さくすることにより、
図4の変形に円滑対応できる薄板部26になっている。
尚、
図3~
図6は
図1のVIII-VIII線矢視図で示す車両後方側中央に設けた薄板部26と隙間εを介した高所部25の窪み93へのセットの模様を示すが、車両進行方向に対し隆起部28の車幅方向左右外側に形成された薄板部26においても、同様である。隆起部28の車幅方向左右外側に在る薄板部26も、側壁931の傾斜面を滑るようにして弓状に変形し、裏面外周縁21側の立面261を図示しない窪み93の傾斜側壁931に押し当て、車両後方側中央に設けた薄板部26,高所部25と略同時進行で、該窪み93に高所部25と共に該薄板部26を嵌入させて、芯パッド2が上型9にセットされる。
【0015】
次いで、下型キャビティ面81に表層パッド3成形用の軟質ポリウレタン発泡原料g(以下、単に「発泡原料」ともいう。)を注入すると共に型閉じする。
椀状にへこむ下型キャビティ面81上に、注入ノズルNL等を使用して発泡原料gを所定量注入する(
図6)。続いて、上型9を作動させ、型閉じする(
図7)。上型9と下型8との型閉じで、芯パッド2がインサートセットされたクッションパッド1用キャビティCが
できる。この型閉じで、吊溝用隆起部86を芯パッド2の表面2aに当て、該芯パッド2を下から支えてキャビティC内で保持させてもよい。尚、上型9への芯パッド2のセット後、発泡原料gを注入し、その後、型閉じしたが、上型9に芯パッド2をセットした後、型閉じし、その後、発泡原料gを注入することもできる。
【0016】
型閉じ後、主工程の表層パッド3の発泡成形に移る。
図7の型閉じ状態を所定時間維持し、着座乗員が当接する意匠面3a側に受け面部分31を有して、芯パッド2を埋設一体化した軟質ポリウレタン発泡成形体からなる表層パッド3を発泡成形する。
発泡成形の初期段階は発泡原料gの発泡が進む。受け面部分31のキャビティCを埋めた後、発泡原料gが上昇し上型キャビティ面91に達する。この発泡原料gの上昇途中で、発泡原料gが芯パッド裏面2bに回り込み浸入しようとするが、既述のごとく、窪み93の側壁931に薄板部26の立面261を押し当てシールしているので、発泡原料gの進行がそこで止まる。薄板部26より先の芯パッド裏面2bへの発泡原料gの進入が遮られた状態で、
図8のごとく側部32の裏面323まで埋め尽くす表層パッド3を発泡成形する。芯パッド2を埋設一体化した表層パッド3を発泡成形する。
芯パッド2は、その製品製造時に時に収縮することがあるが、収縮しても、芯パッド2の上型9へのセット時に、薄板部26の先端部分26aが当たる側壁931が傾斜面になっているので、
図4でいえばその紙面横方向に芯パッド2が収縮しても、薄板部先端部分26aを受け入れる傾斜側壁931の許容域が存在する。したがって、芯パッド2の収縮で寸法に多少のズレが生じても、該側壁931に薄板部26の立面261を難なく押し当て、薄板部26を側壁931に変形密着させてシールすることができる。側壁931への薄板部26の押し当ては、既述の吊溝用隆起部86の支えによって支援させてもよい。
【0017】
図7の型閉じ状態を所定時間維持し、芯パッド2の裏面2bを露出させ、側部32で芯パッド2の側面23を芯パッド表面2a側から裏面外周縁21まで覆って、該芯パッド2を埋設一体化した表層パッド3を発泡成形する。
発泡成形を終え、脱型すると、受け面部分31を形成すると共に、発泡成形時に薄板部26で発泡原料gの芯パッド裏面2b中央側への浸入が遮られたことによって、そこに発泡原料gのバリが存在しない所望のクッションパッド1を得る。係止用溝22を塞いだテープは脱型後に取り除く。
【0018】
本実施形態は、
図2のごとく芯パッド側面23の全周面を側部32で覆ったが、乗員が特に触れる箇所でない部分は省いてもよい。また、
図1~
図8のように高所部25の裏面外周縁21側の壁面251の大きさと、該壁面に対向する薄板部26に係る対向面の大きさを略同じ大きさにしたが、例えば
図9のように薄板部26の立面261を壁面251よりも大きくすることもできる。
図9の車両後方側中央に配する高所部25,薄板部26は、
図1と同じく、高所部25の壁面251と薄板部26の立面261との双方が、芯パッド2の裏面外周縁21に沿って設けられているが、立面261の方が壁面251よりも裏面外周縁21に沿った長さが長く設定されている。立面261の車幅方向長さL6が壁面251の車幅方向長さL5よりも長くなっている。この薄板部26で、車両後方側の芯パッド裏面外周縁21から芯パッド裏面2b中央側への発泡原料gの浸入を遮る車幅方向の防御域が広くなり、より好ましくなる。
また、係止用溝22を車両後方側の高所部25に設け、該係止用溝をカバーする車幅方向長さの薄板部26を低所部24に起立形成した
図10のような芯パッド2を用いることもできる。該芯パッド2を埋設一体化する表層パッド3の発泡成形で、薄板部26が、芯パッド裏面2b側への発泡原料gの浸入阻止に加え、係止用溝22への発泡原料gの浸入を阻止するので、発泡成形に先立って薄板部26がカバーしている係止用溝22の溝口はテープで塞ぐのを省略できる。芯パッド2を上型9にセットした図面を省くが、
図5でいうと、係止用溝22は壁面251寄りの高所部天面25aに溝口を有して形成される。
図10は薄板部26が側壁931の傾斜面を滑るようにして、裏面外周縁21側の立面26
1を該側壁931に押し当て易くするため、薄板部26を三分割しているが、一枚物にしてもよい。
尚、
図9,
図10で、他の構成は
図1~
図8の前述内容と同様でその説明を省く。
図1~
図8と同一符号は同一又は相当部分を示す。符号3Bはサイド部、符号3Dは斜面、符号3Eはバックレストとの合わせ部、符号391,392は吊溝39の縦溝、横溝を示す。
【0019】
(2)クッションパッド
図1~
図8の上記製造方法等で得られるクッションパッド1は、芯パッド2の表面2a側を、軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド3が覆う車両用クッションパッド1である。少なくとも乗員が当接する側の受け面部分31を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成して、芯パッド2と表層パッド3とを具備するクッションパッド1になっている。
【0020】
芯パッド2は、塊状のビーズ発泡成形体にしてクッションパッド1のほぼ下半部を占める。そして、裏面2bの外周縁21寄りで外周縁側低所部24から一段盛り上がった高所部25に至る裏面外周縁21側の壁面251に対し、隙間εをとって裏面外周縁21側に、該壁面251に合わせた大きさの対向面を有するスライス状の薄板部26が起立形成された芯部材である。高所部25における壁面251と薄板部26の立面261との双方が、芯パッド2の裏面外周縁21に沿って設けられている。薄板部26は、低所部24につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなる。さらに薄板部26は先端部分26aに向けて外周縁側に位置する立面261が高所部25の壁面251側へ傾倒している。表皮端部の係止用溝22が図示のごとく裏面外周縁21寄りに設けられ、裏面外周縁21沿いの全周に亘って所定間隔で配設される。
【0021】
表層パッド3は、芯パッド2の裏面2bを露出させて該芯パッド2を埋設一体化している軟質ポリウレタン発泡成形体である。軟質ポリウレタン発泡成形体の意匠面3a側に受け面部分31を形成する一方、意匠面3a側と反対の内面3b側が芯パッド2の表面2aに接合する。そして、表層パッド3は、前記芯パッド2をその裏面2bが露出するインサート品にして、側部32で芯パッド2の側面23を表面2a側から裏面外周縁21まで覆って埋設一体化している。前記芯パッド2が裏面2bを露出させて、
図1,
図8のごとく表層パッド3に包み込まれる。
【0022】
クッションパッド1には、表層パッド3の発泡成形時に芯パッド裏面2bへの発泡原料gの浸入を阻止するための薄板部26が設けられる。本実施形態は、高所部25の壁面251に対し、隙間εをとって裏面外周縁21側に、該壁面251に合わせた大きさの対向面を有するスライス状の薄板部26を起立形成させている(
図1~
図8)。表層パッド3の発泡成形で、発泡原料gの芯パッド裏面2b側への浸入防止が図られた所望のクッションパッド1になっている。
【0023】
さらに、
図9は、他態様のクッションパッド1で、薄板部26における立面261の方が高所部25の壁面251よりも裏面外周縁21に沿った長さが長く設定された芯パッド2である。また、
図10は、係止用溝22を車両後方側の高所部25に設けて、該係止用溝22の車幅方向をカバーする車幅方向を長くした薄板部26を低所部24の裏面外周縁21沿いに起立形成させた芯パッド2を採用している。
他の構成は(1)車両用クッションパッドの製造方法で述べたものと同様で、説明を省略する。(1)中の符号と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0024】
(3)効果
このように構成した車両用クッションパッド及びその製造方法は、保形性を有して極めて軽いビーズ発泡成形体の芯パッド2を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド3が埋
設一体化しているので、クッションパッド1の軽量化が可能である。それでいて、少なくとも乗員が当接する側の受け面部分31を軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド3で形成するので、乗員着座時の快適なクッション性が維持される。
【0025】
ビーズ発泡成形体の芯パッド2はクッション性のある表層パッド3と比較して変形しづらいが、それでも、薄板部26にすることにより可撓性を有し変形対応できる。隙間εを介して高所部25の壁面251との対向面を有する薄板部26が起立形成された芯パッド2とすると、これをセットする上型9に窪み93を設け、且つ窪み93に入口930から底面935に向けて窪み93中央側へ近づく傾斜面の側壁931を具備させれば、該傾斜面を薄板部26が滑るようにして、裏面外周縁21側の立面261を該側壁931に押し当てて、芯パッド2を上型9にうまくセットできる。薄板部26における立面261を側壁931に押し当ててシールできるので、表層パッド3の発泡成形で、発泡原料gが芯パッド裏面2bへ回り込んで裏面中央へ向かう浸入を該立面261の部位で止めることができる。表層パッド3の成形で、芯パッド2の裏面2bにポリウレタンの膜kを形成し、これがクッションパッド1の車両搭載後に擦れ音を発するといった従来の不具合を解消する。発泡成形後の後工程で、擦れ音対策用に不織布等を芯パッド裏面2bの軟質ポリウレタン膜kを覆うように貼着する作業もなくなる。
表層パッド3で芯パッド2の側面23を裏面外周縁21まで覆う構成にして、乗員が触れる芯パッド側面23側にも表層パッド3の側部32で覆って、クッション性,感触良好なクッションパッド1にすることが可能になる。
【0026】
ところで、芯パッド2のビーズ発泡成形体はその発泡成形で収縮する傾向があり、芯パッド裏面2bへの発泡原料gの浸入が一層起こり易くなっている。しかるに、窪み93が入口930から底面935に向けて窪み93中央側へ近づく傾斜面の側壁931を備える上型9にすることによって、芯パッド2の上型9へのセットで、傾斜面の側壁931への薄板部26の押し当て可能域が広がり、芯パッド2に多少の寸法収縮があっても芯パッド裏面2bへの発泡原料gの浸入を確実に阻止できるクッションパッドになる。
また、薄板部26が、低所部24につながる基端部位から先端部位に向けて、その板厚が小さくなっていると、薄板部26により一層の可撓性が備わり変形対応できるようになるので、薄板部26の立面261を側壁931に押し当ててシールするのがより確実となる。
加えて、薄板部26の先端部分26aに向けて立面261が高所部25の壁面251側へ傾倒していると、変形対応がよりスムーズになり、側壁931の傾斜面を薄板部26が滑るようにして、裏面外周縁21側の立面261を該側壁931に押し当てる動作が円滑に進む。上型9への芯パッド2のセットが楽になる。
【0027】
さらに、薄板部26が、車幅方向に走る隙間εによって高所部25から分かれ、車両後方側裏面の車幅方向外周縁に沿って設けられていると、表層パッド3の発泡成形時に車両後方側からの発泡原料gの芯パッド裏面2bへの浸入を、該薄板部26によって効果的に遮るので、従来発生し易かった車両後方側からの芯パッド裏面2bへの回り込みによるポリウレタン膜kの形成をなくすことができる。
さらにいえば、
図9のごとく、薄板部26の立面261の方が高所部25の壁面251よりも裏面外周縁21に沿った長さが長く設定されると、表層パッド3の発泡成形で、発泡原料gの高所部25への回り込みを、長く設定した薄板部26でより広い範囲で防御できる。
このように、表層パッド3の側部32で芯パッド側面23を表面2a側から裏面外周縁21まで覆っても、表層パッド3の発泡成形で発泡原料gが芯パッド裏面2bへ回り込むことがなくなる。よって、クッションパッド1の車両搭載後に擦れ音を発する不具合や、該擦れ音対策用に芯パッド裏面2bに不織布等を貼着するといった作業負担もなくなり、且つ品質も安定するなど、労力負担解消,品質安定,生産性向上等に優れた効果を発揮する。
【0028】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。芯パッド2,低所部24,高所部25,薄板部26,表層パッド3,発泡成形型7,窪み93等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0029】
1 クッションパッド
2 芯パッド
21 裏面外周縁
23 側面
24 低所部
25 高所部
251 壁面
26 薄板部
26a 立面
3 表層パッド
31 受け面部分
32 側部
81 下型キャビティ面
9 上型
93 窪み
931 側壁
g 発泡原料