(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電極用バインダー、電極用バインダー組成物、電極材料、電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240326BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20240326BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240326BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240326BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F220/28
H01G11/38
H01M4/04 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2019112248
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大明
(72)【発明者】
【氏名】入江 麗奈
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】小池 秀介
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151122(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/154165(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064570(WO,A1)
【文献】特開2014-135275(JP,A)
【文献】特開2020-009652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(A)と、
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(B)
と、
更に、下記一般式(2)で示される化合物に由来する構成単位(C)を含み、
CH
2
=C(R
2
)-CO-O-R
3
-O-R
4
(2)
(式中、R
2
は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
3
は炭素数1~12のアルキレン基、R
4
は炭素数1~12のアルキル基である。)
前記構成単位(A)を50~80mol%有し、前記構成単位(B)を5~30mol%有し、前記構成単位(C)を5~45mol%有する非架橋重合体の中和物を含む、電極用バインダー。
【請求項2】
請求項1に記載の電極用バインダーを含む、電極用バインダー組成物。
【請求項3】
水を含有する
請求項2に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の電極用バインダーを含む、電極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電極材料を用いてなる、電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池などの二次電池、電気化学キャパシタなどといった蓄電デバイス、特に電解質に有機溶媒などの非水電解質を用いた非水電解質系蓄電デバイスに用いる電極用バインダー、該電極用バインダーを含む電極用バインダー組成物、電極材料、及び電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスは、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
【0003】
また、これらの応用が進むと同時に、蓄電デバイスに高性能化が求められており、電極等の部材の改良が進められている。このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質と、導電助剤、バインダー、溶媒からなる電極材料を集電体上に塗布、乾燥して得られる。
【0004】
そこで、近年では、電極に用いられるバインダーの改良が試みられている。バインダーを改良することにより、活物質同士の結着性、活物質と導電助剤との結着性、及び活物質と集電体との結着性を向上させ、電気的特性(例えば、サイクル特性、低温での出力特性、低抵抗化)を向上させたりすることが提案されている。
【0005】
バインダーには、電極に用いられた際の結着性に優れ、蓄電デバイスに優れた電気的特性を付与できることが求められており、例えば特許文献1には新たなバインダーが提案されている。
【0006】
しかしながら、近年、低抵抗でかつ充放電効率に優れるバインダーが求められており、更なる検討が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイスに用いた際に抵抗値が低減でき、充放電効率に優れる電極用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、 下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(A)と、
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(B)とを含み、
前記構成単位(A)を50~80mol%有し、かつ、前記構成単位(B)を5~30mol%有する非架橋重合体の中和物を電極用バインダーとして用いることにより、電極中の活物質に対し接着面積が向上し、低抵抗化に寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下に関する。
【0010】
項1 下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(A)と、
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(B)とを含み、
前記構成単位(A)を50~80mol%有し、かつ、前記構成単位(B)を5~30mol%有する非架橋重合体の中和物を含む、電極用バインダー。
項2 更に、下記一般式(2)で示される化合物に由来する構成単位(C)を含む非架橋重合体の中和物である、項1記載の電極用バインダー。
CH
2=C(R
2)-CO-O-R
3-O-R
4
(2)
(式中、R
2は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
3は炭素数1~12のアルキレン基、R
4は炭素数1~12のアルキル基である。)
項3 項1又は2に記載の電極用バインダーを含む、電極用バインダー組成物。
項4 水を含有する項3に記載の電極用バインダー組成物。
項5 項1又は2に記載の電極用バインダーを含む、電極材料。
項6 項5に記載の電極材料を用いてなる、電極。
項7 項6に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低抵抗でかつ充放電効率に優れる電極用バインダーを提供することができる。また、本発明によれば、該電極用バインダーを含む電極用バインダー組成物、電極材料、及び電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、蓄電デバイスとは、一次電池、二次電池(リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等)、電気化学キャパシタを包含するものである。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、これに類する表現についても同様である。
【0013】
<1.電極用バインダー>
本発明の電極用バインダーは、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(A)と、
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(B)とを含み、
前記構成単位(A)を50~80mol%有し、かつ、前記構成単位(B)を5~30mol%有する非架橋重合体の中和物を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の重合体は多官能(メタ)アクリレート等の架橋成分を用いないことにより、架橋されない構成、即ち、非架橋体である。
【0015】
以下に、本発明の重合体の構成単位について、詳細に説明する。
【0016】
構成単位(A)は、前記一般式(1)で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する。一般式(1)において、R1は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基から選ばれる。
【0017】
一般式(1)において、R1としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位(A)において、水酸基を有するモノマーは、(R1が水素原子又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0018】
一般式(1)において、(CxH2xO)としては、直鎖もしくは分岐のアルキルエーテル基であり、xは2~8の整数であり、好ましくは2~5の整数であり、より好ましくは2の整数である。
【0019】
一般式(1)において、nは2~30の整数であり、好ましくは2~10の整数であり、より好ましくは2~4の整数である。
【0020】
一般式(1)で表わされる水酸基を有するモノマーの具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0021】
構成単位(A)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0022】
重合体において、構成単位(A)の比率の下限は50mol%以上であることが好ましく、53mol%以上であることがより好ましく、55mol%以上であることが特に好ましい。重合体における構成単位(A)の比率の上限は、80mol%以下であることが好ましく、75mol%以下であることがより好ましく、70mol%以下であることが特に好ましい。
【0023】
構成単位(B)は、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位である。重合体は、構成単位(B)を5~30mol%有する。
【0024】
構成単位(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。重合体が有する構成単位(B)は、1種類であってもよいし、2種類であってもよい。
【0025】
構成単位(B)としては、中和物を構成し分散性向上の観点から、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位の両方を有することが好ましい。アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位の(mol)比としては、2:8~8:2であることが好ましく、3:7~7:3であることが特に好ましい。
【0026】
重合体における構成単位(B)の比率の下限は5mol%以上であることが好ましく、7mol%以上であることがより好ましく、8mol%以上であることが特に好ましい。また、構成単位(B)の比率の上限は、30mol%以下であることが好ましく、25mol%以下であることがより好ましく、22.5mol%以下であってよい。
【0027】
本発明の重合体としては、更に、下記一般式(2)で示される化合物に由来する構成単位(C)を含む重合体を含むことが好ましい。
CH2=C(R2)-CO-O-R3-O-R4
(2)
(式中、R2は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R3は炭素数1~12のアルキレン基、R4は炭素数1~12のアルキル基である。)
【0028】
R2は、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。
R3は、炭素数1~8のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキレン基であることが特に好ましい。
R4は、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることが特に好ましい。
【0029】
一般式(2)で示される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチルなどが挙げられる。
【0030】
重合体における構成単位(C)の比率の下限は5mol%以上であることが好ましく、10mol%以上であることがより好ましく、15mol%以上であることが特に好ましい。また、構成単位(C)の比率の上限は、45mol%以下であることが好ましく、40mol%以下であることがより好ましく、35mol%以下であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の重合体は、本発明の効果を損なわない限り、他のモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。具体的には、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位以外のその他のモノマー由来の構成単位として、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルから選択されるモノマー由来の構成単位を有することできる。
【0034】
重合体における構成単位の比率については、1H-NMRを用いて求めることができる。
【0035】
重合体を得る方法としては、一般的な懸濁重合、溶液重合等を使用することができる。具体的には、攪拌機、及び加熱装置付きの密閉容器に室温でモノマー、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することでモノマーを反応させる。反応時は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。
【0036】
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。
【0037】
水溶性の重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、またはその塩酸塩または硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパンアミジン)、又はその塩酸塩又は硫酸塩、3,3’-[アゾビス[(2,2-ジメチル-1-イミノエタン-2,1-ジイル)イミノ]]ビス(プロパン酸)、2,2’‐[アゾビス(ジメチルメチレン)]ビス(2‐イミダゾリン)などの水溶性のアゾ化合物の重合開始剤が好ましい。
【0038】
油溶性の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、アセチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)などの油溶性のアゾ化合物の重合開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
重合開始剤の使用量は、一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量(100質量%)に対して、0.01~10質量%の範囲であり、好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.02~3質量%である。
【0040】
これらの重合開始剤の使用においては、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、L-アスコルビン酸またはその塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第一鉄、グルコース等の還元剤と併用してもよい。
【0041】
これらの還元剤の使用量としては、仕込みのモノマー量(100質量%)に対して、0.01~10質量%の範囲であり、好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.02~3質量%である。
【0042】
連鎖移動剤は、必要に応じて用いることができる。連鎖移動剤の具体例としては、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-2-ペンテン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、仕込モノマー量100質量部に対して0~5質量部にて使用される。
【0043】
分散剤としては、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の水溶性高分子等が挙げられる。上記分散剤は、それぞれ1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの分散剤の量は特に限定されないが、通常、仕込モノマー量100質量部に対して0~5質量部にて使用され、1~5質量部であることが好ましい。
【0044】
重合体の重合時間及び重合温度は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は20~100℃であり、重合時間は0.5~100時間である。
【0045】
非架橋重合体の中和物は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩などが挙げられ、一般的な中和剤で中和されたものであってよい。ここで使用する中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;アンモニアなどを挙げることができる。
【0046】
非架橋重合体の中和条件としては、pHが7~13程度となるように中和処理することが好ましく、pHが8~10程度となるように中和処理することがより好ましい。
【0047】
<2.電極用バインダー組成物>
本発明の電極用バインダー組成物は、先述の「1.電極用バインダー」を溶媒とともに含有するものであり、電極用バインダーが溶媒に分散又は溶解されたものであってよい。溶媒は、水、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類を例示することができる。
【0048】
本発明の電極用バインダー組成物は、電極用バインダーが水に分散又は溶解した水系バインダー組成物であることが好ましい。
【0049】
本発明の電極用バインダー組成物は、重合体の中和物を得る際に製造時における組成物、または一部であってもよい。
【0050】
本発明の電極用バインダー組成物における、電極用バインダーの含有量は特に限定されないが、溶媒以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)において、電極用バインダーの固形分濃度が0.2~30質量%となるように含有することが好ましく、0.5~20質量%となるように含有することがより好ましく、1~15質量%となるように含有することが特に好ましい。
【0051】
<3.電極材料>
本発明の電極材料は、少なくとも活物質、及び先述の「1.電極用バインダー」の欄で説明した本発明の電極用バインダーを含有し、更に導電助剤を含有していてもよい。本発明の電極材料の製造には、本発明の電極用バインダーを溶媒とともに含有する「2.電極用バインダー組成物」の欄で説明した本発明の電極用バインダー組成物を用いることもできる。具体的には、正極に用いる正極材料としては正極活物質、及び本発明の電極用バインダーを含有し、更に導電助剤を含有していてもよく、負極に用いる負極材料としては負極活物質、本発明の電極用バインダーを含有し、更に導電助剤を含有していてもよい。
【0052】
正極活物質は、AMO2、AM2O4、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0053】
正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixFeO2, LixCoaMn1-aO2, LixCoaNi1-aO2, LixCoaCr1-aO2, LixCoaFe1-aO2, LixCoaTi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixMnaCr1-aO2, LixMnaFe1-aO2, LixMnaTi1-aO2, LixNiaCr1-aO2, LixNiaFe1-aO2, LixNiaTi1-aO2, LixCraFe1-aO2, LixCraTi1-aO2, LixFeaTi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixNiaCobAlcO2, LixCrbMncNi1-b-cO2, LixFebMncNi1-b-cO2, LixTibMncNi1-b-cO2, LixMn2O4, LixMndCo2-dO4, LixMndNi2-dO4, LixMndCr2-dO4, LixMndFe2-dO4, LixMndTi2-dO4, LiyMnO3, LiyMneCo1-eO3, LiyMneNi1-eO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixCofMn1-fPO4, LixCofNi1-fPO4, LixCofFe1-fPO4, LixMnfNi1-fPO4, LixMnfFe1-fPO4, LixNifFe1-fPO4,LiyCoSiO4, LiyMnSiO4, LiyNiSiO4, LiyFeSiO4, LiyCogMn1-gSiO4, LiyCogNi1-gSiO4, LiyCogFe1-gSiO4, LiyMngNi1-gSiO4, LiyMngFe1-gSiO4, LiyNigFe1-gSiO4, LiyCoPhSi1-hO4, LiyMnPhSi1-hO4, LiyNiPhSi1-hO4, LiyFePhSi1-hO4, LiyCogMn1-gPhSi1-hO4, LiyCogNi1-gPhSi1-hO4, LiyCogFe1-gPhSi1-hO4, LiyMngNi1-gPhSi1-hO4, LiyMngFe1-gPhSi1-hO4, LiyNigFe1-gPhSi1-hO4などのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98 但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99, g=0.01~0.99, h=0.01~0.99である。)
【0054】
また、前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixCoaNi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixNiaCobAlcO2, LixMn2O4, LiyMnO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixMnfFe1-fPO4を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98 但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99である。なお、上記のx,yの値は充放電によって増減する。)
【0055】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
【0056】
本発明のバインダーにおいては、活物質として、シリコン系化合物を用いてもよい。通常、充放電における体積変化が炭素材料を用いた場合には約10%であるのに対して、シリコン系化合物を用いた場合には200%近くの体積変化を伴うために充放電サイクルによる容量低下が大きいという問題を抱えているが、本発明のバインダーにおいては、シリコン系化合物を用いた際でも良好な効果が得られる。
【0057】
シリコン系化合物としては、Si元素、Siとの合金、Siを含む酸化物、Siを含む炭化物等であり、Si、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)、SnSiOx、LiSiOを例示することができ、SiOx(0<x≦2)であることが好ましく、一酸化ケイ素(SiO)等である。
【0058】
活物質として、シリコン系化合物を用いた際の活物質全量(100質量%)に対するシリコン系化合物の含有量は、下限は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが特に好ましく、上限は80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
本発明のバインダーにおいては、シリコン系化合物を用いた際に、活物質として炭素材料を併用してもよい。
【0060】
炭素材料としては、グラファイト、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどの炭素材料を例示することができ、グラファイトであることが好ましい。
【0061】
活物質として、シリコン系化合物と炭素材料を併用した際の活物質全量(100質量%)に対する炭素材料の含有量は、下限は20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、上限は99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、96質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
電極材料中の活物質の含有量としては、特に制限されず、溶媒以外の固形分において、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~85質量%程度が挙げられる。活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0064】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、電極材料中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0065】
本発明の電極材料は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0066】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0068】
本発明の電極材料は、スラリー状とするために水を含有してもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。
【0069】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることが特に好ましい。
【0070】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分中の重合体量の割合は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましい。
【0071】
電極材料の調製方法としては特に限定されず、正極活物質あるいは負極活物質、本発明の電極用バインダー、導電助剤、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0072】
<4.電極>
本発明の電極は、前述の「3.電極材料」の欄で説明した本発明の電極材料を用いてなり、電極材料(層)と集電体とを備えることを特徴とする。本発明の電極材料の詳細については、前述の通りである。
【0073】
本発明の電極については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。負極としては、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。
【0074】
電極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。電池材料をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0075】
例えばドクターブレード法では、電池電極用スラリーを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な有機溶剤及び水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤等を除去してもよい。
【0076】
<5.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、前述の「4.電極」の欄で説明した正極と、負極と、電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明の蓄電デバイスに用いられる電極は、本発明の電極材料、即ち本発明の電極用バインダーを含んでいる。本発明の電極の詳細については、前述の通りである。尚、本発明の蓄電デバイスについては、正極と、負極の少なくとも一方に、本発明の電極用バインダーを含んだ電極材料を用いた電極を使用していればよく、本発明の電極用バインダーを含んだ電極材料を用いていない電極については、公知の電極を用いることができる。
【0077】
電解液としては、特に制限されず、公知の電解液を用いることができる。電解液の具体例としては、電解質と溶媒とを含む溶液が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
電解質としては、リチウム塩化合物を例示することができ、具体的には、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN[CF3SC(C2F5SO2)3]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
リチウム塩化合物以外の電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられる
【0080】
電解液に用いる溶媒としては、有機溶剤、又は常温溶融塩を例示することができる。
【0081】
有機溶剤としては、非プロトン性有機溶剤を挙げることができ、具体的にはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0082】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0083】
本発明での常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0084】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0085】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
また、アルキルピリジニウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6
-、PF6
-などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0089】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0090】
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト-ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1-(p-トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0091】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、特に限定されず、正極、負極、電解液、必要に応じて、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の場合、正極、必要に応じてセパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電デバイスが得られる。蓄電デバイスの形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられる。
【0092】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、電解液による影響が少ないため、好ましい。
【実施例】
【0093】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[作製した電池の特性評価]
作製したコイン電池の特性評価としては、直流内部抵抗および充放電効率の測定を行った。評価結果を表2にまとめて示した。
<充放電効率の測定>
(測定装置)
充放電評価装置:TOSCAT-3100(東洋システム株式会社)
(測定方法)
直流内部抵抗
作製したリチウムイオン電池を、定電流-定電圧放電により、3.0Vまで充電した。終止電流は1C相当であった。放電後、電池を10分間休止させた。次いで2Cでの定電流充電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が100%(SOC100%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
上記のリチウムイオン電池を2Cでの定電流放電を10秒間実施し、SOC100%の状態に戻した状態で電池を10分間休止させた。次いで1Cで30分間の定電流充電を実施し、SOC50%の状態に調整し、電池を10分間休止させた。そして2Cでの定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が50%(SOC50%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
上記のリチウムイオン電池を2Cでの定電流放電を10秒間実施し、電池を10分間休止させた。次いで1Cで15分間の定電流充電を実施し、SOC25%の状態に調整し、電池を10分間休止させた。そして2Cでの定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、充電状態が25%(SOC25%)でのリチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
充放電効率
作製したコイン電池を、0.1Cで定電流放電を行い、0Vまで放電した後に、0.05C定電圧放電を実施した。放電後、電池を10分間休止させた。次いで1Cでの定電流充電を実施し、3.0Vまで充電させた。上記のサイクルを1サイクルとし、充放電効率は1サイクル後の電池容量を100分率した値で評価した。
【0095】
<固形分濃度の測定>
重合体の固形分濃度は以下の条件で測定した。
1.エマルジョンを1gサンプリングする。
2.サンプリングした重合物を125℃で1時間乾燥させ、樹脂分の重量を測定する。
3.(樹脂分の重量)/(サンプリングしたエマルジョンの重量)×100とし固形分濃度を算出した。
【0096】
[実施合成例1]
ビーカーに、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)199.0mmol、アクリル酸33.2mmol、アクリル酸メトキシエチル 99.5mmol、分散剤としてポリビニルアルコール(三菱ケミカル社製:ゴーセノールKH-17)1.5g、イオン交換水915.0g及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25g、還元剤としてL-(+)-アスコルビン酸を0.25g入れ、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、75℃に加温し2時間かけて重合させた。その後室温に冷却し、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.29から8.89に調整した。上記の操作にて、ポリマーを中和塩とし、水溶液であるバインダー組成物A(重合転化率97%以上、固形分濃度4.88wt%)を得た。重合体におけるモル比率(mol%)を表1に示す。
【0097】
[実施合成例2]
ビーカーに、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)197.2mmol、アクリル酸16.4mmol、メタクリル酸16.4mmol、アクリル酸メトキシエチル98.6mmol、分散剤としてポリビニルアルコール(三菱ケミカル社製:ゴーセノールKH-17)1.5g、イオン交換水915.0g及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.25g、還元剤としてL-(+)-アスコルビン酸を1.25g入れ、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、75℃に加温し2時間かけて重合させた。その後室温に冷却し、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.12から8.99に調整した。上記の操作にて、ポリマーを中和塩とし、水溶液であるバインダー組成物B(重合転化率99%以上、固形分濃度4.78wt%)を得た。重合体におけるモル比率(mol%)を表1に示す。
【0098】
[実施合成例3]
ビーカーに、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)203.0mmol、アクリル酸33.8mmol、メタクリル酸33.8mmol、アクリル酸メトキシエチル67.7mmol、分散剤としてポリビニルアルコール(三菱ケミカル社製:ゴーセノールKH-17)1.5g、イオン交換水915.0g及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.75g、還元剤としてL-(+)-アスコルビン酸を0.75g入れ、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、75℃に加温し2時間かけて重合させた。その後室温に冷却し、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.30から8.90に調整した。上記の操作にて、ポリマーを中和塩とし、水溶液であるバインダー組成物C(重合転化率99%以上、固形分濃度4.98wt%)を得た。重合体におけるモル比率(mol%)を表1に示す。
【0099】
【0100】
<電極の作製例>
[電極の実施作製例1]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として1質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が67質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た。
【0101】
得られたスラリーを厚さ10μmの銅集電体上にベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、80℃で粗乾燥を行った後、ロールプレス機にてプレスを行い、110℃真空状態で10時間以上乾繰後、厚さ37μmの電極を作製した。
【0102】
[電極の実施作製例2]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例2で得られたバインダー組成物Bの固形分として1質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が67質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た、以外は電極の実施例1と同様にして電極を作製した。得られた電極の厚みは35μmであった。
【0103】
[電極の実施作製例3]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例3で得られたバインダー組成物Cの固形分として1質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が67質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た、以外は電極の実施例1と同様にして電極を作製した。得られた電極の厚みは35μmであった。
【0104】
<電池の製造例>
[コイン電池の実施製造例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、金属リチウムを正極、セパレータとして18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を1枚、更に電極の実施作製例1で得た電極を負極として用い、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネート(体積比3:5:2、キシダ化学社製)を十分に含浸させてかしめ、試験用2032型コイン電池を製造した。直流内部抵抗及び充放電効率の評価結果を表2の実施例1に示す。
【0105】
[コイン電池の実施製造例2]
電極の実施作製例2で得た負極を用いた以外は、コイン電池の実施製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。直流内部抵抗及び充放電効率の評価結果を表2の実施例2に示す。
【0106】
[コイン電池の実施製造例3]
電極の実施作製例3で得た負極を用いた以外は、コイン電池の実施製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。直流内部抵抗及び充放電効率の評価結果を表2の実施例3に示す。
【0107】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の電極用バインダーは、蓄電デバイスに用いた際には、抵抗値を低減できることに加え、充放電効率に優れるため、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池等の蓄電デバイスにおいて、有用に用いられる。