(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】光走査装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/47 20060101AFI20240326BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20240326BHJP
G03G 15/043 20060101ALI20240326BHJP
H04N 1/113 20060101ALI20240326BHJP
H01S 5/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B41J2/47 101M
G02B26/10 Z
G03G15/043
H04N1/113
H01S5/06
(21)【出願番号】P 2019185302
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】松本 和剛
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-087974(JP,A)
【文献】特開2003-272904(JP,A)
【文献】特開昭60-066886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/47
H01S 5/00-5/50
G02B 26/10
G03G 15/043
H04N 1/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光走査装置のバイアス電流調整部の部品選定方法であって、
前記光走査装置が、光源と、温度変化に対応して変動するバイアス電流を重畳して、前記光源から光を出射させるための駆動電流を、前記光源に与える光源駆動部と、前記バイアス電流の大きさを調整するためのバイアス制御信号を前記光源駆動部に与えるバイアス電流調整部とを備え、
前記バイアス電流調整部が、直列接続された1つのサーミスタと1つの固定抵抗とからなり、
前記光源から光を出射させるときの下限温度T1と上限温度T2を設定し、
前記下限温度T1におけるバイアス電流の設定値Ib1と前記バイアス電流調整部の全抵抗値R01を設定し、
前記上限温度T2におけるバイアス電流の設定値Ib2と前記バイアス電流調整部の全抵抗値R02を設定し、
前記バイアス電流調整部の全抵抗値の抵抗変化量ΔRを、R01-R02により計算し、
前記下限温度T1から前記上限温度T2への温度変化に対応して、抵抗値が抵抗変化量ΔRだ
け変化するサーミスタを、前記バイアス電流調整部のサーミスタに選定し、
前記選定されたサーミスタの前記下限温度T1における第1抵抗値Rs1と、前記上限温度T2
における第2抵抗値Rs2を記憶し、
前記下限温度T1における固定抵抗の抵抗値Rb1を、R01-Rs1により計算し、
前記下限温度T1における抵抗値が、計算された抵抗値Rb1である固定抵抗を、前記バイア
ス電流調整部の固定抵抗に選定する
ことを特徴とする光走査装置のバイアス電流調整部の部品選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光走査装置および光走査装置を備えた画像形成装置に関し、特に、光源から出射された光を走査して画像データに対応した静電潜像を感光体ドラムに形成する光走査装置、および、光走査装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、画像形成装置が利用されているが、近年、書類の印刷機能や複製機能に加えて、書類の読取(スキャン)機能や、ファクシミリ機能、ネットワーク接続機能なども有する多機能な複合機が利用されている。
このような複合機では、静電潜像を感光体ドラムに形成するするために、レーザダイオード等の光源から出射された光を走査して感光体ドラムに照射する光走査装置が利用されている。
【0003】
また、今日では、ますます印刷機能などを高速化することが要求されるので、光走査装置に備えられたレーザダイオードの応答性を速くすることが求められている。
すなわち、レーザダイオードに駆動電流を与えてから、出射されるレーザの発光強度が安定するまでの時間を短縮することが要求されている。
たとえば、レーザダイオードの応答性を速くするために、固定値のバイアス電流を、レーザダイオードに供給する固定バイアスタイプのバイアス印加回路を備えた光走査装置が利用されている。
【0004】
しかし、レーザダイオードの応答性は、レーザダイオードの温度の変化によって変動する。
たとえば、レーザダイオードの温度が低い場合には、発光が始まるしきい値電流は比較的小さく応答性はよいが、レーザダイオードの温度が高くなるにしたがって、しきい値電流は大きくなり、応答性が悪くなる。
したがって、レーザダイオードの温度が上昇しても、応答性が良好なまま変動しないようにすることが要求されている。
【0005】
この要求を満たすために、たとえば、特許文献1には、レーザダイオードの光出力をフォトダイオードで受光して、その光出力に対応する電圧を所定の基準電圧と比較することによって、レーザダイオードに流すバイアス電流を自動的に制御して、温度変化に対応させたバイアス電流をレーザダイオードに供給するいわゆるオートバイアスコントロールタイプの発光素子駆動装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、光源の温度を検出する温度検出部と、バイアス電流を重畳した駆動電流を光源に供給する光源駆動部と、検出された温度に応じて所定の制御テーブルを利用してバイアス電流の大きさを制御するバイアス電流制御部と、光源駆動部に接続され、複数のスイッチング素子と固定抵抗器を組み合わせて変更可能な合成抵抗値を設定するバイアス電流設定抵抗部とを備え、検出された温度に応じて、バイアス電流制御部が、合成抵抗値を設定変更することによって、光源に供給するバイアス電流の大きさを段階的に制御する光走査装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-298178号公報
【文献】特開2017-102207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の発光素子駆動装置のように、オートバイアスコントロールタイプの発光素子駆動装置では、温度変化に対応させてバイアス電流を制御するための回路が複雑で、高価格の装置となっていた。
【0009】
また、特許文献2の光走査装置では、温度検出部と、多数のスイッチング素子と固定抵抗器からなるバイアス電流設定抵抗部と、複数の合成抵抗値を設定するための複雑な配線と、温度とスイッチング素子との対応関係を示す制御テーブルなどを備える必要があり、回路の構成が複雑で回路規模も大きくなり、必ずしも低価格の装置とはいえない場合もある。さらに、バイアス電流の大きさを段階的に制御する構成であるため、バイアス電流の大きさをより細かく設定するためには、多数のスイッチング素子と固定抵抗器と、複雑な対応関係を予め設定した制御テーブルを設ける必要があり、高価格の装置となってしまう。
【0010】
これに対して、今日の光走査装置や画像形成装置では、低価格化と、温度変化が生じてもレーザダイオードの応答性ができるだけ変動しないようにすることの両方が要求されている。
すなわち、少なくとも大きなコストアップにならずに、温度変化が生じてもレーザダイオードの応答性が変動しない装置が望まれている。
【0011】
そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、光源の良好な応答性を維持するために、光源の温度変化に対応して光源に供給するバイアス電流を変化させて、できるだけ低価格の回路構成で、温度変化が生じても光源の応答性がほとんど変動しない光走査装置と、光走査装置を備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、光源と、温度変化に対応して変動するバイアス電流を重畳して、前記光源から光を出射させるための駆動電流を、前記光源に与える光源駆動部と、前記バイアス電流の大きさを調整するためのバイアス制御信号を前記光源駆動部に与えるバイアス電流調整部とを備え、前記バイアス電流調整部が、温度変化に対応して、前記バイアス制御信号の大きさを変化させることのできる電流値調整部材を含み、前記電流値調整部材の温度の変化に対応して自動的に変化した前記バイアス制御信号が前記光源駆動部に与えられ、前記光源駆動部が、与えられたバイアス制御信号に基づいて、前記重畳されるバイアス電流の大きさを変動させることを特徴とする光走査装置を提供するものである。
【0013】
また、前記電流値調整部材が、サーミスタであることを特徴とする。
また、前記バイアス電流調整部が、直列接続された1つのサーミスタと1つの固定抵抗とからなることを特徴とする。
また、前記バイアス電流調整部が、複数のサーミスタと、1つの固定抵抗とからなることを特徴とする。
【0014】
また、前記サーミスタは、前記光源、あるいは、前記光源駆動部の近傍に配置されることを特徴とする。
【0015】
また、前記サーミスタとして、光源の温度上昇に従って、前記バイアス電流が所定のしきい値電流に近づくように、バイアス電流を上昇させるために、前記温度上昇に伴って、所定の抵抗変化量だけ抵抗値が減少する特性を有するサーミスタが選定されることを特徴とする。
【0016】
また、前記光源の温度が、第1温度T1から第2温度T2(>T1)に変化する間に上昇するバイアス電流の電流変化量に対応する前記バイアス電流調整部の全抵抗値の変化量ΔRを計算し、サーミスタの温度が前記第1温度から前記第2温度に変化する間に、前記変化量ΔRだけ抵抗値が変化するサーミスタを選定することを特徴とする。
【0017】
また、この発明は、上記したいずれかの光走査装置を備えた画像形成装置を提供するものである。
【0018】
また、この発明は、光走査装置のバイアス電流調整部の部品選定方法であって、前記光走査装置が、光源と、温度変化に対応して変動するバイアス電流を重畳して、前記光源から光を出射させるための駆動電流を、前記光源に与える光源駆動部と、前記バイアス電流の大きさを調整するためのバイアス制御信号を前記光源駆動部に与えるバイアス電流調整部とを備え、前記バイアス電流調整部が、直列接続された1つのサーミスタと1つの固定抵抗とからなり、前記光源から光を出射させるときの下限温度T1と上限温度T2を設定し、
前記下限温度T1におけるバイアス電流の設定値Ib1と前記バイアス電流調整部の全抵抗値R01を設定し、前記上限温度T2におけるバイアス電流の設定値Ib2と前記バイアス電流調整部の全抵抗値R02を設定し、前記バイアス電流調整部の全抵抗値の抵抗変化量ΔRを、R01-R02により計算し、前記下限温度T1から前記上限温度T2への温度変化に対応して、抵抗値が抵抗変化量ΔRだけ変化するサーミスタを、前記バイアス電流調整部のサーミスタに選定し、前記選定されたサーミスタの前記下限温度T1における第1抵抗値Rs1と、前記上限温度T2における第2抵抗値Rs2を記憶し、前記下限温度T1における固定抵抗の抵抗値Rb1を、R01-Rs1により計算し、前記下限温度T1における抵抗値が、計算された抵抗値Rb1である固定抵抗を、前記バイアス電流調整部の固定抵抗に選定することを特徴とする光走査装置のバイアス電流調整部の部品選定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、バイアス電流調整部が、温度変化に対応してバイアス制御信号の大きさを変化させることのできる電流値調整部材を含み、電流値調整部材の温度の変化に対応して自動的に変化したバイアス制御信号が光源駆動部に与えられ、光源駆動部が、与えられたバイアス制御信号に基づいて、重畳されるバイアス電流の大きさを変動させるので、光走査装置の価格を大きくコストアップさせることがなく、光源に温度変化が生じても光源の良好な応答性を維持できる光走査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の画像形成装置の一実施例の概略構成ブロック図である。
【
図2】この発明の光走査装置の一実施例の構成ブロック図である。
【
図3】この発明の光走査装置の光源駆動に関する構成の一実施例のブロック図である。
【
図4】駆動電流およびバイアス電流と、発振遅れ時間との関係の説明図である。
【
図5】発振遅れ時間と光源の温度との関係と、発振遅れ時間の変化の一実施例の説明図である。
【
図6】光出力と電流との関係と、発振遅れ時間の計算式の一実施例の説明図である。
【
図7】サーミスタを備えない場合と備えた場合について、温度変化に対応したバイアス電流の測定値と発振遅れ時間の計算値を比較した説明図である。
【
図8】この発明の光走査装置のバイアス電流調整部を構成するサーミスタと固定抵抗の選定方法の一実施例のフローチャートである。
【
図9】この発明の光源駆動部と光源の温度の関係を示した一実施例のグラフである。
【
図10】この発明の光走査装置の光源駆動に関する構成の一実施例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を使用して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の実施例の記載によって、この発明が限定されるものではない。
ここでは、画像形成装置に備えられた光走査装置の実施形態について説明する。
光走査装置が画像形成装置に備えられた場合、光走査装置は、帯電された感光体ドラムに光を照射して、生成すべき画像データに対応する静電潜像を感光体ドラムに形成するための露光装置として機能する。
ただし、この発明の光走査装置は、画像形成装置だけでなく、光を所定の方向に走査することが必要な装置、たとえば、レーザ加工装置、プロジェクタなどにおいても、適用することができる。
【0022】
まず、光走査装置を備えた画像形成装置の概要について説明し、その後、光走査装置の実施形態について説明する。
<画像形成装置の構成>
図1に、この発明の画像形成装置の一実施例の概略構成ブロック図を示す。
画像形成装置(以下、MFP:Multifunction Peripheral、複合機とも呼ぶ)1は、画像データを処理する装置であり、たとえば、複写機能、印刷機能、原稿読取機能(スキャン機能)、原稿編集機能、FAX機能、通信機能などを備えた電子機器である。
【0023】
図1において、この発明の画像形成装置(MFP)1は、主として、制御部11、操作部12、表示部13、通信部14、画像入力部15、画像形成部16、画像出力部17、用紙搬送部18を備える。
【0024】
制御部11は、操作部や画像形成部などの各構成要素の動作を制御する部分であり、主として、CPU、ROM、RAM、I/Oコントローラ、タイマー等からなるマイクロコンピュータによって実現される。
CPUは、ROM等に予め格納された制御プログラムに基づいて、各種ハードウェアを有機的に動作させて、この発明の画像形成機能などを実行する。
【0025】
操作部12は、画像形成装置の利用者が所定の入力操作をするための入力装置である。
たとえば、文字などの情報の入力や、機能の選択入力をする部分であり、キーボード、マウス、タッチパネルなどが用いられる。
また、たとえば、コピーなどを実行しようとするユーザは、操作部12によって、コピーする枚数等の設定項目を入力し、あるいは、表示部に表示されるメッセージを確認して、タッチパネル等を利用して所定の入力操作をすることによって、コピーに必要な設定項目を選択入力する。
【0026】
表示部13は、情報を表示する部分であり、各機能の実行に必要な情報や、機能の実行の結果などを、利用者に知らせるために表示する。たとえば、LCD、有機ELディスプレイなどが用いられ、操作部12としてタッチパネルが用いられる場合は、表示部とタッチパネルとが重ね合わせて配置される。
表示部13には、たとえば、画像形成装置の印刷機能や、原稿読取機能等を実行するのに必要な情報や設定項目、ユーザに対する問合せメッセージなどが、文字、記号、画像、アイコン等を用いて、表示される。
【0027】
通信部14は、ネットワークを介して、サーバや他の情報処理装置と通信をする部分である。
たとえば、ネットワークに接続されたサーバから、画像データを受信する。あるいは、画像形成装置で生成された画像データを、サーバに送信する。
ネットワークとしては、LAN、インターネットなどのWAN、その他の専用回線などが利用され、通信形態は、有線通信と無線通信のどちらでもよい。
【0028】
画像入力部15、画像形成部16、画像出力部17は、画像形成装置本来の機能を実行する画像処理部に相当し、所定の情報を入力し、入力された情報から画像情報を形成して出力する画像形成機能を実行する部分である。
画像入力部15は、所定の画像情報を入力する部分であり、画像形成部16は、入力された画像データを印刷等することのできる情報に変換したり印刷情報を形成したりする部分であり、画像出力部17は、形成された印刷情報等を印刷用紙等に出力する部分である。
【0029】
画像入力部15は、画像や文字図形等が記載された原稿などの情報を入力するものであるが、たとえば、情報が印刷された原稿を読み取るスキャナ(読取装置)21が用いられる。
また、画像形成装置には、読み取る原稿を載置する載置台が備えられ、載置台の所定の読み取り領域内に、原稿を載置する。原稿を読み取ること以外に、画像情報を入力する方法は種々の方法がある。
【0030】
たとえば、USBメモリやハードディスクなどの外部の記憶装置を接続するインタフェースが、画像入力部15に該当する。
入力したい印刷画像などの電子データファイルを、USBメモリなどの外部の記憶装置に保存しておき、USBメモリ等をUSB端子などの入力インタフェースに接続し、操作部12で所定の入力操作を行うことによって、USBメモリ等に保存された所望の電子データファイルを読み出して、電子データとして記憶してもよい。
【0031】
また、インターネットなどのネットワークを介して、印刷画像を予め記憶したパソコンなどの情報処理装置やサーバに接続して、データ通信によって、印刷画像などを受信してもよい。さらに、通信機能を有するカメラで、印刷画像が記載された用紙を撮影し、無線通信によってカメラと接続し、撮影された印刷画像を受信してもよい。
【0032】
画像形成部16は、たとえば、画像データを記録用紙に印刷する場合、一般的に、帯電、露光、現像、転写、クリーニング、除電、及び定着の各工程を連続的に実施して、画像データを記録用紙に形成する。
画像形成部16は、主として、感光体ドラム31、帯電装置32、露光装置に相当する光走査装置33、現像装置34、転写装置35、クリーニング装置36、除電装置37、及び定着装置38などから構成される。
【0033】
感光体ドラム31は、生成すべき画像データの静電潜像が形成される部材である。
帯電装置32は、感光体ドラムの表面を所定の電位に帯電させる装置である。
露光装置に相当する光走査装置33は、帯電された感光体ドラムの表面に光を走査して、生成すべき画像データの静電潜像を、感光体ドラムの表面に形成させる装置である。
現像装置34は、静電潜像を現像する装置であり、トナーカートリッジから供給されるトナーをによって、帯電した感光体ドラムの表面に形成された静電潜像を現像し、静電潜像に対応したトナー像を、感光体ドラムに形成する装置である。
【0034】
転写装置35は、感光体ドラムの表面に形成されたトナー像を、印刷用紙上に転写する装置である。
クリーニング装置36は、感光体ドラムの表面に残った余分なトナーを除去する装置であり、除電装置37は、感光体ドラムの表面など、帯電した部位の静電気を除去して通常電位に戻す装置である。
定着装置38は、トナー像が形成された印刷用紙を加熱および加圧して、印刷用紙上のトナー像を、印刷用紙上に定着させる装置である。
【0035】
光走査装置33の構成については、後述する
図2および
図3を用いて説明するが、光走査装置33は、主として、光源41、光源駆動部42、バイアス電流調整部43、走査制御部44から構成される。
光源41は、光を出射する部分であり、光源駆動部42は、光源41から出射される光の強度と出射時間等を制御する部分であり、走査制御部44は、感光体ドラムの表面に照射される光の方向を変更する部分である。
【0036】
バイアス電流調整部43は、光源41にバイアス電流を加えるための制御信号を光源駆動部42に与える部分であり、この発明では、後述するように、サーミスタと固定抵抗とからなり、サーミスタの抵抗値が温度依存性を持つことを利用して、光源周辺の温度変化に対応して制御信号を変化させ、適切に調整されたバイアス電流を光源41に与える。
【0037】
画像出力部17は、形成された画像データを出力する部分であり、たとえば、プリンタ22が用いられ、所定の印刷用紙(紙媒体)に形成された印刷画像を、出力する。
ただし、画像データの出力は、印刷に限るものではなく、USBメモリなどの外部の記憶装置への画像データの記憶や、インターネットなどのネットワークを介して他の情報処理装置やサーバへの画像データの送信でもよい。
【0038】
用紙搬送部18は、印刷用紙を収納した給紙カートリッジから、印刷用紙を取り出して、
感光体ドラムや現像装置等がある画像形成部位まで搬送し、その後、画像データが形成された印刷用紙を、排紙トレイの方向に搬送する部分であり、複数の搬送ローラから構成される。
【0039】
<光走査装置の構成>
図2に、この発明の光走査装置の一実施例の構成ブロック図を示す。
図3に、この発明の光走査装置の光源駆動に関する構成の一実施例のブロック図を示す。
上記したように、光走査装置33は、画像形成装置の画像形成部16に備えられ、主として、光源41、光源駆動部42、バイアス電流調整部43、走査制御部44から構成される。
光源41としては、たとえば、レーザダイオードが利用され、光源駆動部42から与えられる駆動電流Iopの大きさに対応した光(以下、レーザ光とも呼ぶ)が出射される。
走査制御部44は、複数の反射ミラー、光を反射して感光ドラムの方向に導き光を走査する回転多面鏡(ポリゴンミラー)、複数のレンズなどの光学部品から構成され、制御部11から与えられる走査制御信号に基づいて、ポリゴンミラーを駆動し、光を走査する。
【0040】
光源駆動部42は、制御部11から送られた発光制御信号に基づいて、形成すべき画像データに対応した駆動電流Iopを光源41に与えるもので、レーザドライバに相当する。
駆動電流Iopは、光源41から光を出射させるための電流であり、光源の応答性を高めるために、バイアス電流が、駆動電流Iopに重畳される。
ここで、光源駆動部42は、バイアス電流調整部43に接続され、バイアス電流調整部43からの制御信号によって調整され、温度変化に対応して電流値が変動するバイアス電流Ibを重畳した駆動電流Iopを、光源41に与える。ここで、バイアス電流Ibは、光源の周辺の温度が一定であれば、一定の電流値を持つ。
【0041】
バイアス電流調整部43は、バイアス電流Ibの大きさを調整するための制御信号(バイアス制御信号、またはバイアス制御値と呼ぶ)を、光源駆動部42に与える部分である。
バイアス電流調整部43は、電流値調整部材51と、固定抵抗52とからなる。
電流値調整部材51は、温度変化に対応して、バイアス制御信号の大きさを変化させることのできる部材であり、温度変化に対応して抵抗値が変化する電子部品を用いることができる。
【0042】
バイアス電流調整部43に含まれる電流値調整部材51の温度の変化に対応して、自動的に変化したバイアス制御信号が、光源駆動部42に与えられ、光源駆動部42は、この与えられたバイアス制御信号に基づいて、駆動電流Iopに重畳されるバイアス電流Ibの大きさを変動させる。
【0043】
電流値調整部材51としては、温度変化に対応して抵抗値が変化する電子部品であればよいが、特に、温度が上昇に従って、抵抗値が小さくなる電子部品が好ましい。
したがって、電流値調整部材51としては、サイズが小さく価格も安い観点で、たとえば、サーミスタが利用される。
【0044】
また、
図3に示すように、バイアス電流調整部43は、少なくとも、1つのサーミスタSM51と、1つの固定抵抗Rb52とからなる。
この場合、たとえば、サーミスタSM51と固定抵抗Rb52は直列接続される。
また、固定抵抗Rb52の一端が接地され、固定抵抗Rb52の他端がサーミスタSM51の一端に接続され、サーミスタSM51の他端が、バイアス電流調整部43に設けられたバイアス電流調整用の端子に接続される。バイアス制御信号は、このバイアス電流調整用の端子に入力される。
【0045】
なお、サーミスタSM51の個数は、1つに限るものではなく、後述する
図10に示すように、バイアス電流調整部43は、複数のサーミスタSM51と、1つの固定抵抗Rb52とから構成してもよい。
【0046】
サーミスタSM51は、一般的に、温度検知に利用される電子部品であるが、温度の変化に対応して、抵抗値が変化する。
たとえば、サーミスタの温度が上昇すると、サーミスタは、抵抗値が小さくなる。
一方、サーミスタの温度が下降すると、サーミスタは、抵抗値が大きくなる。
このように、サーミスタの温度が変化することによって、サーミスタの抵抗値が変化するので、サーミスタSM51が接続されたバイアス電流調整部43の端子に入力されるバイアス制御信号の大きさも変化する。
すなわち、バイアス電流調整部43に入力されるバイアス制御信号の大きさに基づいて、バイアス電流の大きさ(電流値)が調整される。
【0047】
また、安定した強度の光の発光ができるようになるまでの時間に関係する光源の応答性は、光源の温度によって変化するが、良好な光源の応答性を維持するために、光源の温度変化と、サーミスタの温度変化とが、ほぼ一致するようにすることが好ましい。
したがって、サーミスタを配置する位置は、できるだけ、光源が配置された位置の近傍であることが好ましい。あるいは、後述するように、光源駆動部42の近傍に配置してもよい。
【0048】
また、サーミスタSMは、どのような温度および抵抗値の変化特性を持つものでもよいわけではなく、光源の応答性を考慮した変化特性を持つサーミスタSMを選定する必要がある。
固定抵抗Rbも含めたバイアス電流調整部43の全抵抗値と発振遅れ時間tdを考慮して、所定の温度変化に対応して抵抗値が所定の範囲で変化するような特性を持つサーミスタSMを選定するか、あるいは、そのような特性を持つサーミスタSMを作製する必要がある。
【0049】
たとえば、後述するように、サーミスタとして、光源の温度上昇に従って、バイアス電流Ibが所定のしきい値電流Ithに近づくように、バイアス電流Ibを上昇させるために、その温度上昇に伴って、所定の抵抗変化量だけ抵抗値が減少する特性を有するサーミスタが選定される。
【0050】
また、光源の温度が、第1温度T1から第2温度T2(T2>T1)に変化する間に上昇するバイアス電流の電流変化量に対応するバイアス電流調整部の全抵抗値の変化量ΔRを計算し、サーミスタの温度が第1温度から第2温度に変化する間に、変化量ΔRだけ抵抗値が変化するサーミスタを選定する。詳しくは、サーミスタの温度が第1温度から第2温度に上昇する間に、変化量ΔRだけ抵抗値が減少するサーミスタを選定する。
【0051】
<駆動電流、バイアス電流、発振遅れ時間の説明>
図4に、駆動電流およびバイアス電流と、発振遅れ時間との関係の説明図を示す。
駆動電流Iopは、光源(レーザダイオード)を発光させるために、光源に与えられる電流である。
また、光源(レーザダイオード)を発光させるのに必要な電流の最小値をしきい値電流Ithと呼び、駆動電流Iopは、しきい値電流Ithよりも大きな電流である。
発振遅れ時間tdは、光源に駆動電流を与えた後、安定した発光が可能になるまでの時間であり、立ち上がり遅れ時間とも呼ぶ。発振遅れ時間tdが短いほど、光源の応答性がよい。また、発振遅れ時間tdは、光源の温度によって変化する。
【0052】
バイアス電流Ibは、発振遅れ時間tdを短くするために、光源の駆動時だけでなく、駆動していないときにも、常時、光源に与える一定電流値を持つ電流である。バイアス電流Ibのみを与えている状態では、光源からレーザ光は出射されない。
バイアス電流Ibが固定的な一定電流値を持つ電流であるとすると、一般的に、光源の温度が比較的低い場合、発振遅れ時間tdは比較的短いが、光源の温度が高くなると、発振遅れ時間tdは長くなり、光源の応答性が悪くなる傾向がある。
【0053】
図4の上のグラフは、駆動電流Iopおよびバイアス電流Ibを示しており、駆動電流Iopは、バイアス電流Ibよりも大きい(駆動電流Iop>バイアス電流Ib)。
光源を駆動していないときには、バイアス電流Ibのみが、光源駆動部42から、光源に与えられる。
光源を発光させるときに、パルス的に立ち上がった駆動電流Iopが、光源に与えられる。
光源の発光を停止させる場合、駆動電流Iopをパルス的に立ち下げ、バイアス電流Ibのみが、光源に与えられる。
【0054】
図4の下のグラフは、光子数変動Sの時間的変化を示したもので、横軸の時間軸は、
図4の上のグラフと対応している。
光子数変動Sは、光出力に比例するものであり、光出力の変動を意味する情報である。光子数変動Sは、たとえば、レーザパワーを測定することにより、計測できる。
【0055】
図4の上のグラフのように、光源に与えられる電流が、バイアス電流Ibから駆動電流Iopにパルス的に変化し、しきい値電流Ithを超えた場合、光子数変動Sは、発振遅れ時間tdだけ遅れて立ち上がる。発振遅れ時間tdは、バイアス電流Ibの数値によって変化するが、たとえば、11.1ナノ秒程度である。
図4の下のグラフのように、光子数変動Sが立ち上がった後、光子数変動Sはアナログ的に変動し、12ナノ秒程度の時間の経過後、安定した数値となり、一定強度のレーザ光が出射されるようになる。
光源の応答性をよくするためには、発振遅れ時間tdを短くする必要があるが、後述するように、発振遅れ時間tdの計算式から、発振遅れ時間tdを短くするためには、バイアス電流Ibの数値を、しきい値電流Ithの数値に近づけるようする。
【0056】
ただし、しきい値電流は、温度によって変化し、一般的に、光源の温度が低いと、しきい値電流は低く、温度が高くなるにつれて、しきい値電流も高くなる傾向にある。
上記したバイアス制御信号は、バイアス電流Ibを調整するために、バイアス電流調整部43から光源駆動部42に与えられる情報であるが、この発明では、バイアス電流調整部43の温度変化に対応して、バイアス制御信号を変化させる。
すなわち、バイアス電流調整部43にサーミスタを備えて、温度変化に対応して、サーミスタの抵抗値が変化することを利用して、バイアス制御信号を変化させるようにする。
【0057】
図5に、発振遅れ時間と光源の温度との関係と、発振遅れ時間の変化の一実施例の説明図を示す。
図5(a)は、発振遅れ時間tdと光源の温度TLとの関係を示すグラフの一実施例である。
図5(b)は、発振遅れ時間tdと光源の温度TLとの関係を示す数値と、発振遅れ時間tdの変化量の一実施例である。
【0058】
図5(a)のグラフでは、光走査装置を実質的に動作させる温度範囲を25℃から60℃とし、この温度範囲内で変化する発振遅れ時間tdを示している。
ここでは、
図3のようにバイアス電流調整部43にサーミスタSM51を備えた場合(サーミスタあり)と、サーミスタSM51を備えない場合(サーミスタなし)の発振遅れ時間tdを示している。
サーミスタSM51を備えない場合は、
図3においてサーミスタSM51がなく、バイアス電流調整部43が、固定抵抗Rb52のみから構成される場合であり、バイアス電流Ibが固定的な一定電流値を持つ場合に相当する。
【0059】
図5(a)および
図5(b)において、たとえば、サーミスタなしの場合、温度TLが25℃の場合、発振遅れ時間(td1)が11.1nsecであるのに対し、温度TLが60℃の場合、発振遅れ時間(td2)は、15.2nsecとなる。すなわち、
図5(b)に示したように、発振遅れ時間の変化量(td2-td1)は、4.1nsecであり、光源の温度TLが上昇すると、発振遅れ時間tdが長くなり(遅延量大)、光源の応答性は悪くなっている。
【0060】
一方、サーミスタありの場合、温度TLが25℃の場合、発振遅れ時間(td1)が11.1nsecであるのに対し、温度TLが60℃の場合、発振遅れ時間(td2)は、10.9nsecとなる。すなわち、
図5(b)に示したように、発振遅れ時間の変化量(td2-td1)は、-0.2nsecであり、光源の温度TLが上昇すると、発振遅れ時間tdが短くなり(遅延量小)、光源の応答性はよくなっている。
【0061】
以上より、
図3のように、バイアス電流調整部43を、固定抵抗RbとサーミスタSMとから構成することにより、光源の温度TLが上昇した場合でも、発振遅れ時間tdを短くすることができ、光源の応答性を改善することができる。
また、現在販売されているサーミスタSMは、その特性にもよるが、一般的に、安価な価格で販売されているので、1つのサーミスタSMを追加しても、光走査装置の価格が大きく上昇することはなく、光源の応答性を改善した光走査装置を、低価格で提供することができる。
【0062】
図6に、光出力と電流との関係と、発振遅れ時間の計算式の一実施例の説明図を示す。
ここでは、光源の光出力Pと3つの電流との関係を示した一実施例の概略グラフと、発振遅れ時間の計算式を示す。
図6(a)では、バイアス電流Ibと、しきい値電流Ithと、駆動電流Iopと、光出力Pとのグラフを示している。
光出力Pは、光源から出射される光の強度(輝度)に相当する。
【0063】
図6(a)において、バイアス電流Ibは、しきい値電流Ithよりも小さく(Ib<Ith)、駆動電流Iopは、しきい値電流Ithよりも大きい(Iop>Ith)。
上記したように、しきい値電流Ithよりも大きい電流を光源に与えれば、光源からレーザ光が出射されるが、しきい値電流Ithよりも小さな電流を光源に与えても、レーザ発光しない。
また、光源の温度が一定ならば、バイアス電流Ibと、しきい値電流Ithは、どちらも一定値となる。
駆動電流Iopは、光源から出射される光の強度が異なれば、異なる数値を持つが、たとえば、感光体ドラムに照射する光の強度が一意に決まれば、駆動電流Iopの数値も固定値に設定される。
【0064】
図6(a)において、バイアス電流Ibと駆動電流Iopとの差を、d1(=Iop-Ib)とし、しきい値電流Ithと駆動電流Iopとの差を、d2(=Iop-Ith)とする。
Ib<Ithなので、これらの電流値の差は、d1>d2となる。
上記したように、発振遅れ時間tdを短くして、光源の応答性をよくするためには、バイアス電流Ibを、しきい値電流Ithに近づける必要がある。
言いかえれば、発振遅れ時間tdを短くするためには、
図6(b)に示す発振遅れ時間tdの計算式の右辺にある電流値の差d1を、電流値の差d2に近づける必要がある。
【0065】
図6(b)は、発振遅れ時間tdを、光源であるレーザダイオードの発光特性値から計算する理論式である。
図6(b)の計算式において、発振遅れ時間tdは、キャリア寿命τsに、loge(Iop-Ib/Iop-Ith)を乗算して計算される。
キャリア寿命τsは、キャリアである電子が自然放出する度合いであり、バイアス電流Ibがゼロのときの発振遅れ時間tdの実測値から、求めることができる。
この理論式は、従来から知られている半導体レーザのレート方程式から導かれる式である。
たとえば、キャリアである電子がホールと再結合して光子を生み出す関係を模式化することにより、この理論式が導かれる。
【0066】
図7に、サーミスタを備えない場合と備えた場合について、温度変化に対応したバイアス電流の測定値と発振遅れ時間の計算値を比較した説明図を示す。
図7の左側の表の数値は、本願とは異なり、バイアス電流調整部43が、サーミスタを備えずに、固定抵抗のみからなり、固定抵抗のみによってバイアス電流を調整する場合を示している。
図7の右側の表の数値は、本願のバイアス電流調整部43に相当し、バイアス電流調整部43が直列接続された固定抵抗とサーミスタとを備え、固定抵抗とサーミスタによってバイアス電流を調整する場合を示している。
【0067】
ここで、計算の前提条件として、バイアス電流値やしきい値電流値などを、次のように設定するものとする。
キャリア寿命τsを、一定値で、19.5とする。
P_Ave@110(dec)を、一定値で、5.0[mW]とする。
P_Ave@110(dec)は、110(dec)のデジタル値を指令した時のレーザの光出力を意味するデータである。
しきい値電流の平均値Ith_Aveを、一定値で、13.4[mA]とする。
Iop_Ave@15mWを、一定値で、38.4[mA]とする。Iop_Ave@15mWは、温度が25℃でレーザの光出力が15mWの場合の駆動電流の平均値を意味するデータである。
【0068】
25℃におけるバイアス電流の平均値Ib_Aveを、一定値で、7.0[mA]とする。
バイアス電流調整部43が、サーミスタを備えない固定抵抗のみからなる場合は、以下に示す
図7の(A-2)において、バイアス電流の平均値Ib_Aveは、温度が60℃になっても、一定値(7.0[mA])のままである。
また、光源の温度を、実際に使用する温度の下限値(25℃)と上限値(60℃)として、駆動電流Iopとバイアス電流Ibを測定するものとする。
【0069】
まず、
図7-Aにおいて固定抵抗のみによってバイアス電流を調整する場合であって、
図7の(A-1)で温度が25℃で変化がない場合の駆動電流の平均値Iop_Aveを測定し、上記したキャリア寿命τsやバイアス電流の平均値やIbしきい値電流の平均値を、
図6(b)の計算式に代入して、発振遅れ時間tdを計算する。
ここで、Iop_Aveの測定値が21.8[mA]であったとすると、
図6(b)の計算式から、発振遅れ時間の平均値td_Aveは、11.1[ns]となる。
【0070】
次に、
図7の(A-2)で温度が60℃に変化した場合の駆動電流の平均値Iop_Ave_upを測定し、同様に、
図6(b)の計算式を利用して、発振遅れ時間tdを計算する。
(A-2)で温度が60℃における駆動電流の平均値Iop_Ave_upが、27.0[mA]であったとすると、
図6(b)の計算式から、発振遅れ時間の平均値td_Aveは、15.2[ns]となる。
ここで、
図7-Aにおいて固定抵抗のみによってバイアス電流を調整する場合、25℃から60℃に温度変化した場合の発振遅れ時間tdの差(td差分)は、15.2-11.1から、4.1[ns]となる。
すなわち、25℃から60℃への温度変化によって、発振遅れ時間tdが、4.1[ns]だけ上昇し、光源の応答性が悪くなる。
【0071】
図7-Bにおいて固定抵抗とサーミスタによってバイアス電流を調整する場合であって、
図7の(B-1)で温度が25℃で変化がない場合の駆動電流の平均値Iop_Aveを測定する。
ただし、
図7-Aと温度変化後の発振遅れ時間tdを比較するために、固定抵抗とサーミスタを適切に選定し、温度が25℃で変化がない場合の駆動電流の平均値Iop_Aveを、21.8[mA]となるようにする。
この
図7の(B-1)の場合、上記したキャリア寿命τsやバイアス電流の平均値やIbしきい値電流の平均値を
図6(b)の計算式に代入して、発振遅れ時間tdを計算すると、
図7の(A-1)と同様に、発振遅れ時間の平均値td_Aveは、11.1[ns]となる。
【0072】
次に、
図7の(B-2)で温度が60℃に変化した場合の駆動電流の平均値Iop_Ave_upを測定し、同様に、
図6(b)の計算式を利用して、発振遅れ時間tdを計算する。
この場合は、サーミスタSMがあるので、温度が60℃に上昇すると、サーミスタSMの抵抗値が低下し、それに伴って、バイアス電流Ibの数値が上昇する。
すなわち、
図7の(B-2)で温度が25℃から60℃に変化した場合における駆動電流の平均値Iop_Ave_upの測定値が、27.0[mA]であったとしても、60℃におけるバイアス電流の平均値Ib_Aveは、たとえば、10.95[mA]となり、
図7の(B-1)に比べて上昇する。
【0073】
したがって、60℃におけるバイアス電流の平均値Ib_Aveと、上記したキャリア寿命τsやIbしきい値電流の平均値を、
図6(b)の計算式に代入して、発振遅れ時間tdを計算すると、
図7の(B-2)における発振遅れ時間の平均値td_Aveは、10.9[ns]となる。
【0074】
ここで、
図7-Bにおいて固定抵抗とサーミスタによってバイアス電流を調整する場合、25℃から60℃に温度変化した場合の発振遅れ時間tdの差(td差分)は、10.9-11.1から、-0.2[ns]となる。
すなわち、バイアス電流調整部43に、適切に選定した固定抵抗とサーミスタを採用することによって、25℃から60℃への温度変化によって、発振遅れ時間tdが、0.2[ns]だけ小さくなり、光源の応答性を改善することができる。
【0075】
<サーミスタと固定抵抗の選定方法の実施例>
図8に、この発明の光走査装置のバイアス電流調整部を構成するサーミスタと固定抵抗の選定方法の一実施例のフローチャートを示す。
ここでは、所定の温度変化に対応して、抵抗値が変化するサーミスタを選定し、さらに、選定したサーミスタを含むバイアス電流調整部43の全抵抗値に対応するような抵抗値を持つ固定抵抗を選定する実施例について示す。
また、バイアス電流調整部43は、
図3に示したように、1つのサーミスタSMと、1つの固定抵抗Rbとが、直列接続されているものとする。
サーミスタと固定抵抗の選定は、たとえば、光走査装置の設計担当者が行う。
【0076】
光走査装置を通常利用する場合に、光源から光を出射させるときの温度範囲を予め設定し、その温度範囲の下限値の温度(下限温度)をT1とし、その温度範囲の上限値の温度(上限温度)をT2とする。
また、この実施例では、光源から光を出射させるときの下限温度T1を25℃とし、上限温度T2を60℃に設定するものとする。
ただし、下限温度T1と上限温度T2は、光走査装置の光出力とその周辺温度、走査制御部の温度などによって決定されるので、上記数値に限定されるものではない。
図8の各ステップの右側に、そのステップで、設定または計算される数値例を示す。
【0077】
図8のステップS1において、下限温度T1におけるバイアス電流の設定値Ib1を設定記憶する。
このバイアス電流設定値Ib1は、たとえば、感光体のPIDCカーブの調整によって、設定することができる。
この実施例では、下限温度T1である25℃におけるバイアス電流設定値Ib1を、7mAとする。
また、下限温度T1におけるバイアス電流調整部43の全抵抗値R01を設定記憶する。
この全抵抗値R01は、たとえば、バイアス電流設定値Ib1と、基準電圧Vbと、全抵抗値R01との関係式(Ib1=Vb/R01×ゲイン)から設定することができる。
ここで、基準電圧Vbとは、光源駆動部(レーザドライバ)42の内部基準電圧を意味し、ゲインは、電流利得である。
この実施例では、下限温度T1である25℃における全抵抗値R01を、4.0kΩとする。
【0078】
ステップS2において、上限温度T2におけるバイアス電流設定値Ib2を設定記憶する。
たとえば、上記したレーザダイオードの発振遅れ時間の計算式と、光源(レーザダイオード)の温度特性データから、発振遅れ時間tdが変化しないようなバイアス電流設定値を抽出し、これをバイアス電流設定値Ib2として、設定記憶する。
この実施例において、下限温度T1である25℃におけるバイアス電流設定値Ib1が7mAである場合、発振遅れ時間tdが下限温度T1のときの値と同じ値になるバイアス電流設定値を抽出することによって、上限温度T2である60℃におけるバイアス電流設定値Ib2を、10.8mAに設定することができる。
【0079】
また、ステップS2において、上限温度T2におけるバイアス電流調整部43の全抵抗値R02を設定記憶する。
この全抵抗値R02は、たとえば、上記した全抵抗値R01と同様に、バイアス電流設定値Ib2と、基準電圧Vbと、全抵抗値R02との関係式(Ib2=Vb/R02×ゲイン)から、設定することができる。
この実施例では、上限温度T2である60℃における全抵抗値R02を、2.4kΩに設定することができる。
【0080】
ステップS3において、下限温度T1と上限温度T2の全抵抗値(R01、R02)から、抵抗値の変化量(抵抗変化量ΔR)を計算する。
すなわち、抵抗変化量ΔRを、ΔR=R01-R02により、計算する。
上記の全抵抗値の場合、抵抗変化量ΔRは、ΔR=R01-R02=4.0-2.4=1.6kΩとなる。
【0081】
ステップS4において、バイアス電流調整部43のサーミスタSMを選定する。
ここで、下限温度T1から上限温度T2への温度変化に対応して、抵抗値が、ほぼ抵抗変化量ΔRだけ変化(減少)するサーミスタSMを選定する。あるいは、抵抗値がほぼ抵抗変化量ΔRだけ変化するようなサーミスタSMが市販品に存在しない場合は、抵抗値がほぼ抵抗変化量ΔRだけ変化するサーミスタSMを作製してもよい。
図8のステップS4の右に、選定したサーミスタの例を示している。
たとえば、下限温度T1である25℃における抵抗値Rs1が、2.2kΩであり、上限温度T2である60℃における抵抗値Rs2が、0.5192kΩに減少するサーミスタSMを選定する。
この場合、Rs1-Rs2は、1.6808 kΩであり、上記した抵抗変化量ΔR(=1.6kΩ)にほぼ等しい。
【0082】
ステップS5において、選定したサーミスタSMの下限温度T1における抵抗値Rs1と、上限温度T2における抵抗値Rs2とを記憶する。
たとえば、抵抗値Rs1=2.2kΩ、抵抗値Rs2=0.5192kΩである。
ステップS6において、下限温度T1における全抵抗値R01とサーミスタの抵抗値Rs1とを利用して、下限温度T1における固定抵抗Rbの抵抗値Rb1を計算する。
サーミスタSMと固定抵抗Rbとが直列接続されている場合、抵抗値Rb1は、Rb1=R01-Rs1により、計算する。
上記したように、下限温度T1である25℃における全抵抗値R01が4.0kΩであり、25℃におけるサーミスタの抵抗値Rs1が2.2kΩである場合、固定抵抗Rbの抵抗値Rb1は、Rb1=R01-Rs1=4.0-2.2=1.8kΩとなる。
【0083】
ステップS7において、バイアス電流調整部43の固定抵抗Rbを選定する。
固定抵抗Rbとしては、下限温度T1における抵抗値が、上記のように計算されたRb1である固定抵抗Rbを選定する。
たとえば、下限温度T1である25℃における抵抗値が、上記計算で求めたRb1(=1.8kΩ)であるような固定抵抗Rbを選定する。あるいは、そのような抵抗値をもつ固定抵抗Rbを作製してもよい。
【0084】
上記した実施例のようなサーミスタSMと固定抵抗Rbを選定した場合、バイアス電流調整部43の抵抗値は、温度変化に対応して、次のように変化する。
下限温度T1である25℃における抵抗値に関し、サーミスタSMの抵抗値Rs1は2.2 kΩであり、固定抵抗Rbの抵抗値Rb1は1.8 kΩであり、これらの合成抵抗値であるバイアス電流調整部43の全抵抗値R01は、4.0kΩとなる。
一方、上限温度T2である60℃における抵抗値に関し、サーミスタSMの抵抗値Rs2は0.5192kΩであり、固定抵抗Rbの抵抗値Rb1は1.8 kΩであり、これらの合成抵抗値であるバイアス電流調整部43の全抵抗値R02は、ほぼ2.4kΩとなる。
このように、温度変化に対応して、バイアス電流調整部43の全抵抗値が変化することにより、バイアス電流の電流値を調整することができる。
【0085】
以上のように選定したサーミスタSMと固定抵抗Rbを、バイアス電流調整部43に実装すれば、光源の温度が変化しても、発振遅れ時間tdがほとんど変動しないようにすることができ、また、バイアス電流調整部43を固定抵抗Rbのみで構成した場合に比べて、発振遅れ時間tdを改善することができ、すなわち、光源の応答性を改善できる。
【0086】
(この発明のバイアス電流調整部の実施例1)
<サーミスタの配置例1>
サーミスタ51は、バイアス電流調整部43に備えられるが、光走査装置を構成する光源41や光源駆動部42などとともに、光走査装置に組み込まれる回路基板に、サーミスタ51が実装される。
ここで、サーミスタ51の温度変化の特性を利用して、発振遅れ時間tdが変動しないようにするためには、サーミスタ51の温度変化と、光源の温度変化とがほぼ一致することが好ましい。
したがって、サーミスタ51を配置する位置は、光源41の近傍とすることが好ましい。
たとえば、サーミスタ51と光源41との位置関係が近接するように、DIPタイプのサーミスタ51を配置することが好ましい。
【0087】
(この発明のバイアス電流調整部の実施例2)
<サーミスタの配置例2>
また、サーミスタ51を配置する位置を、光源駆動部42の近傍としてもよい。
図9に、この発明の光源駆動部と光源の温度の関係を示した一実施例のグラフを示す。
光源駆動部(レーザドライバ)42は、光源41に駆動電流を流すものであるので、光源41の近くに配置される。
光源41と光源駆動部42の温度変化を測定すると、光源41の温度TLと、光源駆動部42の温度TDとは、比例関係にあり、たとえば、
図9に示すように、ほとんど同じ数値を示すように変化する。
【0088】
あるいは、光源駆動部42の回路構成と光源41の配置にもよるが、光源41の温度TLと光源駆動部42の温度TDとの差は、通常、10℃以下である。
また、サーミスタ51の温度と光源41の温度との差を、10℃以下にできれば、光源41の特性差があまりないので、発振遅れ時間tdの変動に影響を与える可能性は少ない。
そこで、サーミスタ51を光源41の近くに配置することが困難な場合は、サーミスタ51を光源駆動部42に近い位置に配置しても、発振遅れ時間tdが大きく悪くなることはない。
たとえば、光源駆動部42を1つのレーザドライバ用LSIで構成し、レーザドライバ用LSIと、バイアス電流調整部43とを同一の回路基板上に実装する場合は、レーザドライバ用LSIとサーミスタ51を、回路基板上で、できるだけ近い位置に配置すればよい。
【0089】
(この発明のバイアス電流調整部の実施例3)
<サーミスタの接続例1>
バイアス電流調整部43を構成するサーミスタ51は、
図3に示したように、少なくとも1つ備えればよい。
また、1つのサーミスタSMと、1つの固定抵抗Rbとを直列に接続する。
この場合、サーミスタSMと固定抵抗Rbは、たとえば、上記した
図8に示すような抵抗値を持つものを選定すればよい。
【0090】
(この発明のバイアス電流調整部の実施例4)
<サーミスタの接続例2>
バイアス電流調整部43を構成するサーミスタ51は、1つでなくてもよい。
複数のサーミスタ51を備えて、複数のサーミスタ全体で、たとえば、
図8に示すように温度変化に対応して変化する抵抗値を持つようにしてもよい。
【0091】
図10に、この発明の光走査装置の光源駆動に関する構成の一実施例のブロック図を示す。
図10では、
図3と異なり、3つのサーミスタSMを並列に接続し、これらのサーミスタSMと1つの固定抵抗Rbを、直列に接続している。
サーミスタSMの個数は、3つに限るものではなく、2つ以上であればよい。
また、複数のサーミスタ51を単に並列に接続するのではなく、複数のサーミスタ51を直列および並列に組み合わせて接続してもよい。
なお、固定抵抗Rbについても、1つに限るものではなく、2つ以上の固定抵抗Rbを直列および並列に組み合わせて接続してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 画像形成装置(MFP)、
11 制御部、
12 操作部、
13 表示部、
14 通信部、
15 画像入力部、
16 画像形成部、
17 画像出力部、
18 用紙搬送部、
21 スキャナ、
22 プリンタ、
31 感光体ドラム、
32 帯電装置、
33 光走査装置、
34 現像装置、
35 転写装置、
36 クリーニング装置、
37 除電装置、
38 定着装置、
41 光源、
42 光源駆動部、
43 バイアス電流調整部、
44 走査制御部、
51 電流値調整部材(サーミスタ)、
52 固定抵抗