(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】診断電極、遠距離場検出電極及びガイドワイヤを備えたバルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 5/25 20210101AFI20240326BHJP
A61B 18/14 20060101ALI20240326BHJP
A61B 5/318 20210101ALI20240326BHJP
【FI】
A61B5/25
A61B18/14
A61B5/318
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019193273
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524085(JP,A)
【文献】特表2017-516588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0317093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25
A61B 18/14
A61B 5/318
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具であって、
患者の器官の中に挿入するためのシャフトと、
前記シャフトの遠位端に連結された、長手方向軸に沿って延在する拡張可能なフレームであって、前記長手方向軸の周りに配置され、内部ルーメンを画定する複数の拡張可能なスパインを含む、拡張可能なフレームと、
前記複数の拡張可能なスパインによって画定された前記内部ルーメンの内側に配置された膜を有するバルーンと、
前記拡張可能なフレームの外面上に配置された診断電極であって、組織と接触している時に診断信号を感知するように構成されている、診断電極と、
前記診断電極の反対側の前記拡張可能なフレームの表面上に配置された参照電極であって、前記組織から電気的に絶縁され、干渉信号を感知するように構成されている、参照電極と、
ガイドワイヤと、を備えており、
前記シャフト及び前記膜が、その長手方向軸に沿って中空であり、前記
ガイドワイヤが、前記シャフト及び前記バルーンを通して挿入されるように構成され、前記バルーンを前記器官内の標的位置に向かって導くように構成され
ている、医療器具。
【請求項2】
前記参照電極が血流と接触するが、組織と接触しないで、血液によって伝導される干渉信号を検出するように、前記参照電極が前記膜と直接接触して、前記スパインと前記膜との間の間隙を画定する、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記複数の拡張可能なスパインのうちの少なくとも1つの拡張可能なスパインは、フレキシブルプリント回路基板(PCB)から作製されており、前記診断電極及び前記参照電極は、前記フレキシブルプリント回路基板の対向面上に配置されている、請求項1に記載の医療器具。
【請求項4】
前記干渉信号は遠距離場の生体電気信号を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項5】
前記診断電極によって感知された前記診断信号を受信し、
前記参照電極によって感知された前記干渉信号を受信し、
前記診断信号から前記干渉信号を差し引くことによって、補正された診断信号を算出するように構成された、プロセッサを更に含む、請求項1に記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する優先権及び相互参照)
本特許出願は、2018年10月25日出願の米国仮特許出願第62/750,461号に基づく利益を主張する。本出願は、同日付に出願された、「ELECTRODES ON DOUBLE-SIDED PRINTED CIRCUIT BOARD(PCB)TO CANCEL FAR-FIELD SIGNAL」と題された米国特許出願、代理人整理番号1002-1807(BIO5978USNP)、及び、「COMBINED ACTIVE CURRENT LOCATINO(ACL)and TISSUE PROXIMITY INDICATINO(TPI)SYSTEM」と題された米国仮特許出願、代理人整理番号1002-1808(BIO5979USNP)に関連する。全ての参照特許出願の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して医療用プローブに関し、詳細には電気生理学的処置のためのカテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
種々の既知のカテーテル設計は、デバイスと共に配置され得る、その遠位端に嵌合された拡張可能なフレームを有する。例えば、米国特許出願公開第2017/0172442号は、遠位端にバスケット形状のアセンブリを有するカテーテルを用いて実行される心臓カテーテル法を記載している。複数のスプライン電極が、アセンブリのスプライン上に配置されている。アセンブリは、スプラインが半径方向外向き弓状に曲がっている拡張配置と、スプラインがカテーテル本体の長手方向軸に概ね沿って配置されている畳み込まれた配置とで構成可能である。遠距離場電極は、アセンブリの内部に配置される。心内電位図及び遠距離場電位図は、スプライン電極及び遠距離場電極の少なくとも一方によってそれぞれ得られる。遠距離場成分は、遠距離場電位図を使用して心内電位図から除去される。
【0004】
別の例として、米国特許第9,655,677号は、細長い部材の遠位領域に配置された膨張可能で可撓性の環状又は球状のバルーンを含む心臓組織アブレーションカテーテルを記載している。フレキシブル回路がバルーンの外表面により担持されており、フレキシブル回路は、バルーンの半径方向外表面に適合する複数の可撓性の分岐を含み、複数の可撓性の分岐のそれぞれは、基板と、基板により担持された導電性トレースと、基板により担持されたアブレーション電極とを含む。アブレーション電極は導電性トレースと電気的に連通しており、細長いシャフトは、細長い部材内に延伸し、膨張可能なバルーンの近位領域から膨張可能なバルーンの遠位領域まで延伸し、膨張可能なバルーン内に配置されているガイドワイヤルーメンを備えており、細長いシャフトの遠位領域は、膨張可能なバルーンの遠位領域に直接的又は間接的に固定されている。
【0005】
米国特許出願公開第2015/0366508号は、体腔の中に挿入されるように構成されたフレックスPCBカテーテルデバイスを記載している。このフレックスPCBカテーテルは、細長シャフト、拡張可能なアセンブリ、フレキシブルプリント回路基板(フレックスPCB)の基板、複数の電子的構成要素、及び複数の通信経路を備えている。細長シャフトは、近位端と遠位端とを備えている。拡張可能なアセンブリは、径方向にコンパクトな状態から半径方向に拡張された状態に変化するように構成されている。複数の電子的要素はフレックスPCB基板と連結されており、電気信号を受信及び/又は発信するように構成されている。複数の通信経路は、フレックスPCB基板の上及び/又はその中に配置されている。通信経路は、選択的に、複数の電子的要素を、電気信号を処理するように構成された電子モジュールに電気的に接続するように構成された複数の電気接点に連結している。フレックスPCB基板は、1つ以上の金属層を含む複数の層を有し得る。音響整合素子及び導電性トレースがフレックスPCB基板に含まれてもよい。
【0006】
米国特許出願公開第2018/0199976号には、生体物質をアブレーションするためのカテーテルデバイスが記載されている。カテーテルデバイスは、第1の電極、第2の電極及びインターフェースを備えている。第1のリード線は、第1の電極をインターフェースに電気的に接続し、第2のリード線は、第2の電極をインターフェースに電気的に接続している。インターフェースは、第1のリード線及び第2のリード線を、第1の電極及び第2の電極を電気的に刺激し、これら2つの刺激された電極の間に位置する生体物質の電気的応答に関連する電気量を検出するための測定デバイスと電気的に接続するように構成されている。一実施形態では、電極対を互いに近くに配置することは、遠距離場電位を低下させ、病変の外側の組織の意図しない刺激の回避に寄与する。
【0007】
遠距離場信号を検出するための凹型電極を備えたカテーテル先端の設計が提案されている。例えば、米国特許第6,405,067号は、遠位領域と、その中を通って延伸している少なくとも1つのルーメンとを有する細長い可撓性の本体を備える、双極マッピング及びアブレーションに特に適したカテーテルを記載している。先端電極が遠位領域に装着されている。リング電極が凹状の中央領域に装着されている。リング電極の外径は、露出した遠位領域及び近位領域の外径よりも小さい。この設計では、先端電極の露出領域が、心臓組織と直接接触しているため、心臓組織との接触点での局所活性化エネルギー(近接場信号)と、血液を介して露出領域によって受信される遠距離場活性化エネルギー(遠距離場信号)の双方を感知する。一方、凹型リング電極は心臓組織との直接接触から保護されているが、周囲の血液とは接触する。凹型電極が露出領域に近接しているために、凹型電極は露出領域とほぼ同じ遠距離場信号を受信することができる。ただし、凹型電極は、露出領域で受信される局所活性化電位(近接場信号)を拾わない。この設計により、高分解能の電位図を作成することが可能である。
【0008】
別の例として、米国特許出願公開第2002/0151807号は、心臓内にカテーテルを導入することを含む、心臓内の位置での近接場電気活性の測定方法を記載している。カテーテルは、遠位領域及び遠位領域の長さに沿った円周状の凹部を有する細長い管状体、円周状の凹部に近接して遠位領域に装着された第1の電極、及び円周状の凹部内に取り付けられた第2の電極を含む。遠位領域を、第1の電極が心臓組織と直接接触し、第2の電極が心臓組織とは直接接触しないが血液と接触するように、心臓内のこの位置に配置される。第1の電極を用いて第1の信号を取得し、第2の電極を用いて第2の信号を取得する。第1の信号と第2の信号とを比較して、心臓のこの位置での近接場電気活性を取得する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
医療器具は、シャフトと、拡張可能なフレームと、膜と、診断電極と、参照電極と、プロセッサとを含む。シャフトは、患者の器官の中に挿入されるように構成されている。拡張可能なフレームは、シャフトの遠位端に連結されており、長手方向軸に沿って延在しており、長手方向軸の周りに配置され、内部ルーメンを画定する拡張可能なスパインを含む。膜は、複数のスパインによって画定された内部ルーメンの内側に配置される。拡張可能なフレームの外面上に配置された診断電極は、組織と接触している時に診断信号を感知するように構成されている。参照電極は、診断電極に正対して拡張可能なフレームの表面上に配置され、組織から電気的に絶縁されており、かつ、干渉信号を感知するように構成されている。プロセッサは、(a)診断電極によって感知された診断信号を受信し、(b)参照電極によって感知された干渉信号を受信し、(c)診断信号から干渉信号を差し引くことによって、補正された診断信号を算出するように構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、参照電極が血流と接触するが、組織と接触しないで、血液によって伝導される遠距離場信号を検出するように、参照電極は膜と直接接触して、スパインと膜との間の間隙を画定する。
【0011】
いくつかの実施形態では、拡張可能なスパインのうちの少なくとも1つの拡張可能なスパインは、フレキシブルプリント回路基板(PCB)から作製されており、拡張可能なスパイン上の診断電極及び参照電極は、フレキシブルPCBの対向面上に配置されている。
【0012】
一実施形態では、シャフト及び膜は、その長手方向軸に沿って中空であり、医療用プローブは、シャフト及びバルーンを通して挿入されるように、そしてバルーンを器官内の標的位置に向かって導くように構成されたガイドワイヤを更に含む。
【0013】
別の実施形態では、干渉信号は遠距離場の生体電気信号を含む。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、シャフトの遠位端に連結された、長手方向軸に沿って延在する拡張可能なフレームを含む医療用プローブを患者の器官内に挿入することであって、拡張可能フレームが、内部ルーメンを画定するように長手方向軸の周りに配置された複数の拡張可能なスパインを含み、膜が内部ルーメンの内部に配置されている方法が更に提供される。診断信号は、拡張可能なフレームの外面上に配置された診断電極を用いて感知され、診断電極は、組織と接触している時に診断信号を感知するように構成されている。干渉信号は、拡張可能なフレームの表面上に複数の診断電極に正対した拡張可能なフレームの表面上に配置され、組織から電気的に絶縁されている参照電極で感知される。診断電極によって検出された診断信号及び参照電極によって感知された干渉信号は、プロセッサ内で受信される。補正された診断信号は、診断信号から干渉信号を差し引くことによって算出される。
【0015】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態による、診断バルーンを備える、カテーテルに基づく心臓診断システムの概略描写図である。
【
図2A】本発明の実施形態による、診断電極及び遠距離場感知電極を担持する拡張可能なフレームの概略描写図である。
【
図2B】本発明の実施形態による、診断電極及び遠距離場感知電極を担持する拡張可能なフレームの概略描写図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、
図1の診断バルーンカテーテルの概略描写図である。
【
図4】本発明の一実施形態による、
図3の診断バルーンを表す描写図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、
図3の診断バルーン上に配置された電極対の干渉をキャンセルする方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
概論
心臓の組織領域と物理的に接触しているカテーテルの電極を使用して、その組織領域から診断電気生理学的(EP)信号を取得することが可能である。しかし、組織領域からそのようなEP信号を取得する際には、通常、組織領域から離れた領域からの遠距離場信号を含み得る干渉信号が存在する。
【0018】
正常に機能している心臓では、異なる時点に異なる信号が取得している診断電極に到達するため、診断EP信号と遠距離場干渉信号とを容易に区別することができる。しかし、心臓が心房細動を呈する場合には、心房組織からの信号と遠距離場信号とが重複する場合がある。
【0019】
例えば、組織領域が心房内にある場合、最も顕著な干渉信号は通常、心室から発せられる生体電気信号(遠距離場信号)である。そのような遠距離場心室生体電気信号は、心房信号と比較して比較的強く、信号の重複により、診断心房信号の識別及び/又は分析が困難又は不可能となる。
【0020】
したがって、本発明者らは、遠距離場信号を排除しない場合に低減することを可能にする、本明細書中で後述する本発明の様々な実施形態を考案した。これを達成するために、以下に説明する本発明の実施形態は、診断電極と参照電極との相関的な配置を含む、患者の心臓などの器官の中に挿入するためのカテーテルを考案した。いくつかの実施形態では、カテーテルに、直径方向に対向する感知電極の対が配置されており、各対が診断電極及び参照電極を含む。
【0021】
診断電極は、物理的に接触している組織から心臓内EP信号を取得する。上述のように、心臓内心電図(ECG)信号などの診断EP信号の取得に加えて、診断電極は、遠距離場生体電気信号などの干渉電磁信号、並びに無線周波信号及び/又は電気周波信号も受信する場合がある。しかし、組織から電気的に絶縁されている正対する参照電極は、干渉信号のみを取得する。一実施形態では、プロセッサは、参照電極によって取得された信号を使用して、それぞれの診断電極によって受信された干渉信号を差し引く。
【0022】
本文脈において、遠距離場生体電気信号は、接触している組織領域から離れた領域からの信号である。通常、このような遠距離場生体電気信号は、血液を介した伝導によって伝播し、上述のように、組織と接触している診断電極(「近接場信号」を並行して感知する)と反対側の参照電極との双方によって感知される。
【0023】
いくつかの実施形態では、診断電極は、バスケットカテーテル又はバルーンカテーテルなどのカテーテルの拡張可能なフレームのフレキシブルプリント回路基板(PCB)ストリップの外面上に配置されている。それぞれの参照電極は、PCBストリップの内面上(即ち、カテーテルが限定している容積内部)で診断電極に正対して配置されており、組織から電気的に絶縁されているが、心臓内の血液とは電気的に接触する。
【0024】
いくつかの実施形態では、(各フレキシブルPCBストリップの対向面上に配置された診断電極と参照電極との対を有する)PCBストリップが、例えば、バスケットカテーテルなどの拡張可能なフレームを形成するように組み立てられている。他の実施形態においては、(前述の電極の対を有する)PCBストリップは、以下に記載されるように、バルーン膜の外面に接合されている。いずれの種類のカテーテルも、カテーテルが移動すると、診断電極が異なる組織領域に繰り返し接触して、組織EP信号及び遠距離場信号を取得し、対応する正対する参照電極は遠距離場信号のみを取得する。したがって、第1の電極信号から第2の電極信号を差し引くと、本質的に組織信号のみが残る。
【0025】
いくつかの実施形態では、ガイドワイヤに、例えばバルーンの中空膜が嵌合されている中空シャフトを介して、その軸に沿ってバルーン膜の内側を横断するバルーンカテーテルが設けられ、膜は、シャフトによって規定されている長手方向軸に沿って中空となっている。医療処置では、ガイドワイヤは通常、肺静脈口などの心臓内の異常なEP活性が疑われる標的位置へと導かれる。ガイドワイヤは、標的組織(即ち器官内の標的位置)に接触させるためにバルーンを(例えば前進させるなど)移動させることができるように、バルーンの中空シャフトと中空膜とがガイドワイヤ上をスライドすることを可能とするように構成されている。
【0026】
一実施形態では、そのようなカテーテル処置中に、ガイドワイヤはまず(例えば心臓の左心房の口などの)器官内の所望の標的まで導かれる。次に、まだ収縮した状態のバルーンをガイドワイヤに沿って所望の位置になるまで前進させ、次にバルーンを膨張させて、バルーンの外側に配置された診断電極が標的組織に接触して診断EP信号を感知する。
【0027】
いくつかの実施形態では、バルーンは、例えば、血栓の形成に寄与する可能性のある突出した遠位「ノブ」のない滑らかな遠位縁を有するように更に構成されている。完全に丸く滑らかなバルーン構造は、血栓形成及び/又は心腔組織の炎症の可能性を低くする。上述のガイドワイヤを使用しても、血栓を引き起こす可能性のある突起はほとんどない。
【0028】
通常、プロセッサは、プロセッサが上記で概説したプロセッサ関連の各ステップ及び機能を実行できるようにする特定のアルゴリズムを含むソフトウェア内にプログラムされている。
【0029】
干渉遠距離場信号をキャンセルする電極対を備え、バルーンカテーテルの場合には、血栓の形成のリスクを減らす丸みを帯びた外面を備える、本開示のカテーテルは、脳卒中などの副作用のリスクが低い改善されたEP診断を行うことが可能である。
【0030】
本明細書で任意の数値や数値の範囲について用いる「約」又は「およそ」という用語は、構成要素の部分又は構成要素の集合が、本明細書で述べるその意図された目的に沿って機能することを可能とする、適当な寸法の許容誤差を示すものである。より具体的には、「約」又は「およそ」は、列挙された値の±20%の値の範囲を指し得、例えば、「約90%」は、71%~99%の値の範囲を指し得る。
【0031】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、診断バルーン40を備える、カテーテルに基づく心臓診断システム20の概略描写図である。システム20は、カテーテル21を備え、挿入
図25に示すように、カテーテルのシャフト22の遠位端は、シース23を通って台29の上に横になっている患者28の心臓26の中へ挿入される。カテーテル21の近位端は、制御コンソール24に接続されている。本明細書で説明する実施形態では、診断バルーン40は、心臓26内部の組織の不整脈活性を感知するなどの電気生理学的診断を目的として診断電極50を有する。
【0032】
医師30は、カテーテルの近位端付近にあるマニピュレータ32を用いて、かつ/又はシース23からの偏向を用いて、シャフト22を操作することによって、心臓26内の標的位置へシャフト22の遠位端をナビゲートする。シャフト22の挿入中に、バルーン40は、シース23によって畳み込まれた構成で維持されている。バルーン40を畳み込まれた構成で収容することにより、シース23はまた、標的位置までの経路に沿った血管外傷を最小限に抑える働きをする。
【0033】
診断電極50の位置を追跡するために、複数の外部電極27が患者28の身体に連結され、例えば、3つの外部電極27が患者の胸に連結され、別の3つの外部電極が患者の背中に連結されてもよい。(例示しやすいように、1本の外部電極しか
図1に示されていない)。いくつかの実施形態では、診断電極50は、外部電極27の対の間に電圧を印加することにより、心臓26内で誘導される電位を感知する。
【0034】
上述のように、心臓26内部の診断電極50の位置を追跡するために使用される同様の技術は、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示が参照により本明細書中に組み込まれた、「Improved Active Voltage Location (AVL) Resolution」と題する2018年4月30日出願の米国特許出願第15/966,514号に記載されている。
【0035】
電極50によって感知された電位に基づき、かつ患者の身体上の外部電極27の既知の位置を考慮して、プロセッサ41は、患者の心臓内の電極50の少なくとも一部分の推定位置を算出する。プロセッサ41は、このように、診断電極50から受信された電気生理学的信号などの任意の所与の信号を、信号が取得された位置と関連付けることが可能である。
【0036】
制御コンソール24は、カテーテル21からの信号を受信すると共に、心臓26内でカテーテル21を介して治療を施し、更にシステム20の他の構成要素を制御するための好適なフロントエンド及びインターフェース回路38を備えたプロセッサ41、通常は汎用コンピュータを備える。プロセッサ41は、通常、本明細書に記載されている機能を実行するようにプログラムされたソフトウェアと共に汎用コンピュータを備える。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でコンピュータにダウンロードされてもよく、あるいは、代替的に若しくは追加的に、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。
【0037】
具体的には、プロセッサ41は、位置及びそれぞれの近接度の算出を含む開示されたステップをプロセッサ41が実行することを可能にする専用アルゴリズムを実行する。
【0038】
図1に示されている例となる構成は、概念を明確化する目的のみで選択されている。本開示の技法は、他のシステム構成要素及び設定を使用して、同様に適用することができる。例えば、システム20は、他の構成要素を含み、非心臓診断を実行してもよい。
【0039】
診断電極及び遠距離場感知電極を有する拡張可能なフレーム
図2A及び
図2Bは、本発明の実施形態による、診断電極50及び遠距離場感知電極55を担持する拡張可能なフレーム39の概略描写図である。
【0040】
図示するように、拡張可能なフレーム39は、シャフト22から延在し、シャフト22の遠位端65に接続されており、拡張可能なフレーム39は、長手方向軸62に沿って延在しており、長手方向軸62の周りに配置され、内部ルーメンを画定する複数の拡張可能なスパイン45を含み、例えば長手方向軸62の周りの回転面によって画定されるものなどであるが、それでも一般に内部ルーメンは回転対称性を有する必要はない。シャフト22の遠位端65は、以下に記載されるように、ガイドワイヤ60上をスライドすることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、拡張可能なスパイン45のうち少なくとも1つの拡張可能なスパインは、フレキシブルPCBから作製されている。一実施形態では、拡張可能なスパイン45は全て、フレキシブルPCBスパインを含む。拡張可能なスパイン45は、各スパイン45のそれぞれの端部で互いに接続することができ、又はスパインは、各スパインの一端及び各スパインの他端の遠位端65においてシャフト22に接続することができる。
図2Aは、PCBスパイン45の外側に配置された複数の診断電極50を示している。カテーテル40が組織から診断EP信号を取得するために適用される場合には、電極50は組織と血液との双方に接触し、長手方向軸62から離れた方を向いた各電極のために、診断近接場信号と干渉遠距離場信号との双方を取得する。正対する電極55を検出するそれぞれの複数の遠距離場は、長手方向軸62の周りの回転面によって画定される内部容積に面していることで区別することができる。具体的には、各遠距離場電極55は、各電極の感知面が長手方向軸線62に向かって面するように配置され得る。それぞれの診断電極50に対向する各参照電極55は、血液のみと接触し、血液によって伝導されるそれぞれの干渉遠距離場信号のみを取得する。各遠距離場電極55は診断電極50と正対に示されているが、これは本発明の範囲内に含まれ、遠距離場電極55とオフセットされた電極50の一部又は更には全てを有することが本発明の範囲内である。
【0042】
図2Aの挿入
図58は、心臓組織と物理的に接触している時に電極50
0が取得する生体電気信号66の一例を示す。生体電気信号66は、電極50
0が近距離場診断信号と接触組織におけるEP活性に無関係な遠距離場信号との双方を同時に取得するため、診断信号と干渉信号とを含む。診断電極50
0の反対側に、電極50
0に非常に近接して位置する参照電極55
0は、組織から電気的に絶縁されており、干渉遠距離場信号68のみを取得する。したがって、信号66から信号68を単純に差し引くと、組織EP信号のみが残る。
【0043】
一実施形態では、診断電極50への1つ以上のリード線は、例えばリード線に関連する余分なフットプリント及び/又は電気ノイズを最小限に抑えるために、スパイン45内のPCBストリップ内にビアを含む。
【0044】
上述のように、
図2Aに示されるカテーテルは、ガイドワイヤ60上をスライドして、肺静脈口の組織のような狭い心臓領域の組織にアクセスする(例えば、中空シャフト22内のカテーテルの可動縁部などの)フレーム39用の中空の遠位端65を更に含む。遠位端65を、中空のシャフト22を介してカテーテルのハンドルから引き込むことでフレーム39を拡張させることができ、又は押し込むことで、フレーム39を折り畳むことができる。
【0045】
別の実施形態では、
図2Bに示すように、各PCB45スパインの内側の遠距離場信号取得電極は、単一の大きな電極155である。図示するように、単一の参照電極155が、拡張可能なスパインの表面全体にわたって配置されている。そのような代替的な実施形態は、例えば、小さな電極55によって収集された遠距離場信号はノイズが多すぎるために有用でない場合に望ましいことがある。一実施形態において、電極155は、スパイン上に配置された複数の参照電極55を互いに電気的に接続することにより形成される。
【0046】
図2Bに示されている図は、単に概念を明確化する目的のために選択されている。例えば、代替的な実施形態では、各PCBの内側は、それぞれが電極55よりも大きく、電極155よりも小さいいくつかの遠距離場検出電極を備える。
【0047】
診断電極、遠距離場検出電極及びガイドワイヤを備えたバルーンカテーテル
図3は、本発明の一実施形態による、
図1の診断バルーンカテーテル40の概略描写図である。図示するように、
図3によって説明される実施形態では、バルーンカテーテル40は、スパイン45を備える上述の拡張可能なフレーム39などの拡張可能なフレームの下にある膜44を備える。バルーン40は、シャフト22の遠位端に嵌合されている。膨張可能なバルーン40は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、又はPEBAX(登録商標)などのプラスチックから形成された生体適合性材料の外壁43を有する。診断電極50は、バルーン40の周囲のPCBストリップ45の外面上に配置されている。
【0048】
挿入
図51において、図示されている診断電極50は、組織と周囲の血液の双方と接触することができ、したがって、近距離場信号と遠距離場信号の双方を感知する。図示されている参照電極55は、拡張可能なフレームの表面上に診断電極50に実質的に又は概して反対側に配置されている。上述のように、参照電極55は組織から電気的に絶縁されている。一実施形態では、絶縁は、エポキシ樹脂又は別のポリマーベースのシーラントなどの絶縁材料で電極55を部分的に包囲することにより行われる。耐水性シールを使用することで、絶縁を行うか又は補助してもよい。それでも、電極55はギャップ57を介して周囲の血液とは物理的に接触し(したがって血液と電気的に接触し)、遠隔心臓領域から血液を介して伝播する遠距離場生体電気信号を取得することができる。したがって、上述のように、そのような遠距離場干渉生体電気信号を、診断電極50によって取得されたそれぞれの信号から差し引いて、品質診断信号を得ることができる。
【0049】
図3に示すように、バルーン40には、バルーン40の膜44がガイドワイヤ60上をスライドするように、滑らかで丸く、中空の遠位端65が嵌合されている。バルーンはまた、組織及び血流を乱すことが極力ないように構造全体を滑らかとするために、突出した遠位「ノブ」を有さないように構成される。したがって、血栓形成の可能性が低くなる。細いガイドワイヤ60を使用しても、血栓を引き起こす可能性のある突起はほとんどない。
【0050】
内部遠位端を有するバルーンカテーテルは、本特許出願の譲受人に譲渡され、参照により本明細書中に組み込まれた「Balloon Catheter with Internal Distal End」と題する2017年12月28日に出願された米国仮特許出願第15/857101号に記載されている。
【0051】
図4は、本発明の一実施形態による、
図3の診断バルーン40を表す描写図である。
図4に示すように、バルーンは、遠位端65を含む内部の可撓性構造によって遠位に保持されるように構成されているため、バルーンをシャフト22に固定するための突出した遠位端を必要とせず、それにより構造全体が滑らかに保たれることから、組織及び血流の乱れが最小限に抑えられる。バルーンは柔らかく丸い遠位端を有し、ガイドワイヤ60上をスライド可能である。バルーン40のスライドを可能とするために、中空の遠位端65は、バルーンが収縮した形態にある場合であっても、又はバルーンが膨張した形態にある場合であっても、ガイドワイヤ60上を移動するように設計されている。
【0052】
いくつかの実施形態では、電極50が相互接続されて心臓内双極電極構成をなす。別の実施形態では、電極は、皮膚に取り付けられた電極27のうちの1つなどの外部参照電極に関連する信号を感知する。
【0053】
図4に更に図示するように、対向している電極55は、バルーン壁に面していることで区別することができる(バルーン壁及び任意のシーラント又は接着剤は、単に電極55を見せるために透明であるものとして図示されている)。
【0054】
図4に示されている図は、純粋に概念を分かりやすくする目的で選択されたものである。
図4は、本発明の実施形態に関連する部分のみを示す。必要に応じて、PCBの電気配線、温度センサ、シーリング要素などの他のシステム要素は省略される。
【0055】
図5は、本発明の一実施形態による、
図3の診断バルーン上に配置された電極対ごとに干渉をキャンセルする方法を概略的に示すフローチャートである。このプロセスは、診断信号感知ステップ70で、電極50などの診断電極が診断信号を感知することから始まる。並行して、干渉感知ステップ72で、診断電極50に対向して配置された参照電極55が干渉信号を感知する。次に、信号受信ステップ74で、プロセッサ41は、診断電極50により感知された診断信号と、参照電極55により感知された干渉信号とを受信する。最後に、信号算出ステップ76で、プロセッサ41は、専用のアルゴリズムを使用して、診断信号から干渉信号を差し引くことにより、補正された診断信号を算出する。
【0056】
図5に示す例示的なフローチャートは、単に概念を分かりやすくする目的で選択されたものである。更なるステップを含んでもよいが、提示の簡略化ために省略されている。例えば、更なる実施形態では、感知された信号は、プロセッサ41によって受信される前にフィルタリングされる。本出願で提供される開示に基づいて、当業者は、好適なソフトウェアを作成し、
図2~4に示される装置の様々な実施形態について本明細書に示されるアルゴリズムを実行するために必要なハードウェアを得ることができるであろう。
【0057】
記載される全ての実施形態は、可撓性PCB電気回路から形成することができるが、本開示及び発明の範囲内であり、参照により本明細書に組み込まれる、MEDICAL DEVICE FOR ABLATING TISSUE CELLS AND SYSTEM COMPRISING A DEVICE OF THIS TYPEと題された国際公開第2015/117908号に示され、記載されているような薄膜などの可撓性PCBの代わりに薄膜技術を利用することは、本開示及び発明の範囲内である。上記の実施形態は、例として引用されており、本発明は、本明細書で特に示され説明されたものや上述したものに限定されないことが理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていない、それらの変形形態及び修正形態を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献においていずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0058】
〔実施の態様〕
(1) 医療器具であって、
患者の器官の中に挿入するためのシャフトと、
前記シャフトの遠位端に連結された、長手方向軸に沿って延在する拡張可能なフレームであって、前記長手方向軸の周りに配置され、内部ルーメンを画定する複数の拡張可能なスパインを含む、拡張可能なフレームと、
前記複数のスパインによって画定された前記内部ルーメンの内側に配置された膜と、
前記拡張可能なフレームの外面上に配置された診断電極であって、組織と接触している時に診断信号を感知するように構成されている、診断電極と、
前記診断電極の反対側の前記拡張可能なフレームの表面上に配置された参照電極であって、前記組織から電気的に絶縁され、干渉信号を感知するように構成されている、参照電極と、を備える、医療器具。
(2) 前記参照電極が血流と接触するが、組織と接触しないで、血液によって伝導される干渉信号を検出するように、前記参照電極が前記膜と直接接触して、前記スパインと前記膜との間の間隙を画定する、実施態様1に記載の医療器具。
(3) 前記拡張可能なスパインのうちの少なくとも1つの拡張可能なスパインは、フレキシブルプリント回路基板(PCB)から作製されており、前記診断電極及び前記参照電極は、前記フレキシブルPCBの対向面上に配置されている、実施態様1に記載の医療器具。
(4) 前記シャフト及び前記膜が、その長手方向軸に沿って中空であり、前記医療用プローブが、前記シャフト及び前記バルーンを通して挿入されるように構成され、前記バルーンを前記器官内の標的位置に向かって導くように構成されたガイドワイヤを更に備える、実施態様1に記載の医療器具。
(5) 前記干渉信号は遠距離場の生体電気信号を含む、実施態様1に記載の医療器具。
【0059】
(6) 前記診断電極によって感知された前記診断信号を受信し、
前記参照電極によって感知された前記干渉信号を受信し、
前記診断信号から前記干渉信号を差し引くことによって、補正された診断信号を算出するように構成された、プロセッサを更に含む、実施態様1に記載の医療器具。
(7) 方法であって、
前記シャフトの遠位端に連結された、長手方向軸に沿って延在する拡張可能なフレームを備える医療用プローブを患者の器官内に挿入することであって、前記拡張可能なフレームが、内部ルーメンを画定するように前記長手方向軸の周りに配置された複数の拡張可能なスパインを備え、膜が前記内部ルーメンの内側に配置されている、ことと、
前記拡張可能なフレームの外面上に配置され、組織と接触している時に診断信号を感知するように構成されている診断電極を用いて診断信号を感知することと、
前記診断電極の反対側の前記拡張可能なフレームの表面上に配置され、前記組織から電気的に絶縁されている参照電極を用いて干渉信号を感知することと、
プロセッサにおいて、前記診断電極によって感知された前記診断信号を受信することと、
前記参照電極によって感知された前記干渉信号を受信することと、
前記干渉信号を前記診断信号から差し引くことによって、補正された診断信号を算出することと、を含む、方法。
(8) 干渉信号を感知することは、血液によって伝導される干渉信号を検出するように、血流と接触するが組織とは接触しない前記参照電極を用いて干渉信号を感知することを含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記拡張可能なスパインのうちの少なくとも1つの拡張可能なスパインは、フレキシブルプリント回路基板(PCB)から作製されており、前記診断電極及び前記参照電極は、前記フレキシブルPCBの対向面上に配置されている、実施態様7に記載の方法。
(10) ガイドワイヤを前記シャフト及び前記膜を通して挿入することであって、前記シャフト及び前記膜はその長手軸方向に沿って中空である、ことと、前記バルーンを前記器官内の標的位置に向かって導くことと、を更に含む、実施態様7に記載の方法。
【0060】
(11) 干渉信号を感知するステップは、遠距離場の生体電気信号を感知することを含む、実施態様7に記載の方法。