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特許7460367フッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】フッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240326BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240326BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240326BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240326BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240326BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240326BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/0566
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019554350
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 US2018026189
(87)【国際公開番号】W WO2018187531
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】62/483,112
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シーダー,ゲルブランド
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジニョク
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】原 賢一
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013848(WO,A1)
【文献】特開2016-103456(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G53/00
H01M4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li1+x1-x2-yを有するリチウム金属酸化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、次の(a)(b)のうちいずれか一方の式で表されるリチウム金属酸化物。
(a)前記M1-xがNiTiMo1-x-a-bで表され、0.05<x<0.30.2≦a≦0.60.2≦b≦0.6、0<y≦0.3を満たす、
(b)前記M1-xがNiNbで表され、0.05<x<0.3、0.5≦a<0.6、0.2<b≦0.3、0<y≦0.3、a+b=1-xを満たす。
【請求項2】
式中、0.10≦y≦0.25である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項3】
式中、0.09≦x<0.3である、請求項1または請求項2に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項4】
前記Mが、Ni、TiおよびMoの組み合わせを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項5】
前記Mが、NiおよびNbの組み合わせを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項6】
一般式:Li 1+x 1-x 2-y を有するリチウム金属酸化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、前記M 1-x がNi M’ で表され、0.05≦x≦0.3、0<y≦0.3、0.35≦a≦0.50 を満たし、
前記M’はTi、Mo、Nb、Sb、Zrおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1または複数の金属であり、前記1または複数の金属は、金属それぞれについて0.10≦b≦0.30 の値をとる、リチウム金属酸化物。
【請求項7】
前記M’として2またはそれ以上の金属が選ばれた場合、各金属M’はそれぞれM’で表され、各bの範囲は0.10≦b≦0.30である、請求項6に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項8】
10nm~10μmの平均粒子径を有する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項9】
結晶空間群Fm-3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造を有する、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項10】
180mAh/g~330mAh/gの放電容量を有する、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項11】
少なくとも3.0Vの平均放電電圧を有する、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物を製造するためのプロセスであって、
リチウム系前駆体を提供するステップと、
(M)系前駆体を提供するステップと、
フッ素系前駆体を提供するステップと、
前記リチウム系、(M)系およびフッ素系前駆体を有機溶媒中に分散させて前駆体スラリーを得るステップと、
前記前駆体スラリーをミリングして、10nm~10μmの平均粒子径を得るステップと、
前記ミリングされた前駆体スラリーを乾燥およびペレット化するステップと、
前記ペレット化された前駆体スラリーを、酸素の存在下で、少なくとも600℃の温度で焼成するステップと、を含む、プロセス。
【請求項13】
前記リチウム系、(M)系およびフッ素系前駆体の化学量論的量が前記溶媒中に分散される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記リチウム系前駆体がLiCOであり、前記フッ素系前駆体がLiFである、請求項12または請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記有機溶媒がアセトンまたはエタノールから選択される、請求項12~請求項14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ミリングステップがボールミリング、シェーカーミリングおよび高エネルギーボールミリングからなる群から選択される、請求項12~請求項15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記ペレット化された前駆体スラリーが、酸素の存在下で、少なくとも700℃の温度で10時間焼成される、請求項12~請求項16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物を含む、正極材料。
【請求項19】
負極材料と、
電解液と、
請求項18に記載の正極材料と、を含む、リチウムイオン電池。
【請求項20】
請求項19に記載のリチウムイオン電池を含む、携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システム。
【請求項21】
前記リチウム金属酸化物がNi,TiおよびMoの組み合わせを含む、請求項12~請求項17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記リチウム金属酸化物がNiおよびNbの組み合わせを含む、請求項12~請求項17のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量リチウムイオン電池電極用フッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(「Liイオン」)電池は、それらの比較的高エネルギーかつ高出力な性能によって、最も研究されたエネルギー貯蔵デバイスの1つである。高性能Liイオン電池の需要の増加とともに、多様なケミカルスペースから、高いエネルギー密度を有する正極材料が求められてきた。特に、酸化物材料は、すべての正極材料の中で最も高いエネルギー密度を与えるのに役立つため最も注目されてきた。
【0003】
より具体的には、LiCoOなどの層状リチウム遷移金属酸化物は、リチウム二次電池用の正極材料の最も重要なクラスの1つであった。これらの材料において、リチウムイオンと遷移金属イオンとは良好に分離されて、それらの結晶構造中で交互に別個の層を形成する。これらの規則化合物において、Liの位置および経路(層状酸化物における2次元スラブ)は、遷移金属副格子から隔てられており、これによって安定性および電子貯蔵容量が提供される。図1は、層状岩塩型構造、Li‐M‐Oの模式図を示す。Li副格子と遷移金属副格子との間の相互拡散(intermixing)がほとんどまたはまったくない秩序だった構造を有することは、一般に、良好なサイクル寿命を示す高容量正極材料を得るのに重要であると考えられている。実際、それらの構造における良好な層状性は、それらの材料中の高いリチウム移動度に必要であると考えられてきており、リチウム拡散の減速によってカチオンミキシングが観察され、サイクル性の劣化が引き起こされた。これらの観察は、研究者に、有望な正極材料としてのカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物を軽視させたかもしれない。
【0004】
最近、酸化物空間において、高エネルギー密度正極材料の検索空間を広げる重要な知見が得られた。具体的には、不規則構造によってLi拡散が制限されているため一般に電気化学的に不活性とみなされていたカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物(「Li‐ΤΜ酸化物」)は、十分なLi過剰が提供される場合(すなわち、Li位置の数がΤΜ位置の数を超える場合(Li1+xTM1-xにおいてx>0.09))、有望な正極材料となることができる。実際、十分な過剰Liが導入されると、今度は(反発するTMイオンを欠くことによる)Li拡散に対する活性化Li+イオンへの弱い静電反発力によって不規則構造におけるLi拡散が容易になることができる、容易なLi拡散チャネル(0‐TMチャネル)の浸透ネットワークが導入されるため、不規則構造において容易なLi拡散が可能である。
【0005】
しかしながら、カチオン不規則/カチオンミキシングは、高エネルギー密度正極材料を提供する場合には、依然として多くの困難と課題が存在している。たとえば、不規則材料から高容量を実現するために多くの場合必要な酸素酸化は、格子の高密度化によって酸素損失を引き起こす可能性があり、それは、特に表面の近傍において、Li過剰レベルを低下させることにより、不規則材料において0‐TM浸透(したがってLi拡散)を低下させる。このように、TMレドックス(たとえば、Fe2+/4+、Ni2+/4+、Co2+/4+)が酸素レドックスと重複するほぼすべてのカチオン不規則Li‐TM酸化物は、酸素損失後に高い分極を受け、サイクル性の劣化を示す。さらに、酸素損失は、LiCO層などの抵抗性の表層をもたらす可能性もあり、それによって正極にさらにインピーダンスが追加される可能性がある。
【0006】
層状(岩塩型)材料の安定性を改善するための以前報告されたストラテジーの1つが、Kangらの特許文献1に記載されている。Kangは、不規則に対して層状(岩塩型)材料の構造安定性を改善する層状リチウムニッケルマンガンコバルト系酸化物材料に関するフッ素置換ストラテジーを記載している。層状岩塩型構造とカチオン不規則岩塩型構造との間の構造選択は、材料の組成に大きく依存する。Kangにおいて論じられたフッ素置換リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物は、もっぱら、組成物の構造と組成物に含まれる元素の酸化状態とに基づく層状岩塩型構造を形成している。Kangは、カチオン不規則構造の構造的完全性に関するフッ素置換の役割に関して論じてはいない。
【0007】
よって、正極材料として使用するための、改善された電気化学性能を有するカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,205,072号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明は、一般式:Li1+x1-x2-yを有するリチウム金属酸化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、0.05≦x≦0.3であり、0<y≦0.3であり、Mが遷移金属であるリチウム金属酸化物に関する。一実施形態において、一般式は、0.09≦x≦0.3であり、0.10≦y≦0.25であることを含んでもよい。他の実施形態において、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Sn、Sbおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。たとえば、MはMo、Ni、Tiおよびそれらの組み合わせからなる群から選択してもよい。さらに他の実施形態において、本発明のリチウム金属酸化物は、一般式:Li1+xNiTiMo1-x-a-b2-y(式中、0.2≦a≦0.6であり、0.2≦b≦0.6である)を有してもよい。
【0010】
本発明のリチウム金属酸化物は、結晶空間群Fm-3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造および約100nm~約180nmの平均粒子径を有してもよい。「Fm-3m」において、「-3」は、上線を付した3を表したものである。一実施形態において、リチウム金属酸化物は約180mAh/g~約330mAh/gの放電容量および少なくとも3.0Vの平均放電電圧を有する。
【0011】
本発明は、一般式:Li1+x1-x2-yを有するリチウム金属酸化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、0.05≦x≦0.3であり、0<y≦0.3であり、Mが遷移金属、たとえばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Sn、Sbまたはその組み合わせであるリチウム金属酸化物を製造するためのプロセスであって、リチウム系前駆体、遷移金属(M)系前駆体およびフッ素系前駆体を提供するステップと、リチウム系、遷移金属系およびフッ素系前駆体を有機溶媒中に分散させて前駆体スラリーを得るステップと、前駆体スラリーをミリングして、好ましくは約100nm~約180nmの平均粒子径を得るステップと、前駆体スラリーを乾燥およびペレット化するステップと、前駆体スラリーを、酸素の存在下で、少なくとも600℃の温度で焼成するステップと、を含む、プロセスにも関する。
【0012】
一実施形態において、リチウム系、遷移金属系およびフッ素系前駆体の化学量論量が溶媒中に分散される。リチウム系前駆体はLiCOであってもよく、フッ素系前駆体はLiFであってもよい。他の実施形態において、有機溶媒はアセトンまたはエタノールから選択される。さらに他の実施形態において、ミリングステップはボールミリング、シェーカーミリングおよび高エネルギーボールミリングからなる群から選択してもよい。前駆体スラリーは、酸素の存在下で、少なくとも700℃の温度で約10時間焼成してもよい。
【0013】
本発明は、さらに、本発明によるリチウム金属酸化物を含む正極材料に関する。本発明は、負極材料と、電解液と、本発明によるリチウム金属酸化物とを含む正極材料を含むリチウムイオン電池にも関する。本発明のリチウムイオン電池は、携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システムに用いてもよい。
【0014】
本発明のさらなる特徴および利点は、下記の図面に関して提供される以下の詳細な説明から確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、層状岩塩型構造の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による不規則岩塩型構造の模式図である。
図3図3は、リチウムイオン二次電池の模式図である。
図4A図4Aは、Li1.15Ni0.45Ti0.3Mo0.11.850.15(「本発明のLNF15」)、Li1.15Ni0.375Ti0.375Mo0.1(「比較LN15」)およびLi1.2Ni0.333Ti0.333Mo0.133(「比較LN20」)のX線回折(「XRD」)パターンおよび精密化の結果を示す。
図4B図4Bは、本発明のLNF15粒子のエネルギー分散分光法(「EDS」)マッピングを示す。
図5A図5Aは、室温、20mA/gにおいて、1.5~4.6Vでサイクルしたときの比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の初期の5サイクルの電圧プロファイルを示す。
図5B図5Bは、室温、20mA/gにおいて、1.5~4.6Vでサイクルしたときの比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の初期の5サイクルの電圧プロファイルを示す。
図5C図5Cは、室温、20mA/gにおいて、1.5~4.6Vでサイクルしたときの比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の初期の5サイクルの電圧プロファイルを示す。
図5D図5Dは、室温、20mA/gにおいて、1.5~4.6Vでサイクルしたときの比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の初期の5サイクルの電圧プロファイルを示す。
図6A図6Aは、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の第1サイクル電圧プロファイルおよび第2充電電圧プロファイルを示す。
図6B図6Bは、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の第1サイクル電圧プロファイルを示す。
図6C図6Cは、270mAh/gへの初回充電後の定電流間欠滴定試験(「GITT」)からの比較LN20および本発明のLNF15の第1放電電圧プロファイルを示す。
図7A図7A、化合物のそれぞれを20mA/gにおいて充電し、室温、1.5~4.6Vで10、20、40、100および200mA/gのさまざまなレートで放電したときの、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の放電電圧プロファイルを示す。
図7B図7Bは、化合物のそれぞれを20mA/gにおいて充電し、室温、1.5~4.6Vで10、20、40、100および200mA/gのさまざまなレートで放電したときの、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の放電電圧プロファイルを示す。
図7C図7Cは、化合物のそれぞれを20mA/gにおいて充電し、室温、1.5~4.6Vで10、20、40、100および200mA/gのさまざまなレートで放電したときの、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の放電電圧プロファイルを示す。
図7D図7Dは、化合物のそれぞれを20mA/gにおいて充電し、室温、1.5~4.6Vで10、20、40、100および200mA/gのさまざまなレートで放電したときの、比較LN15、比較LN20、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15の放電電圧プロファイルを示す。
図8A図8Aは、20mA/gにおいて4.8Vに充電してから1.5Vに放電したときの、比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15の電圧プロファイルと、酸素および二酸化炭素の示差電気化学質量分析結果とを示す。
図8B図8Bは、20mA/gにおいて4.8Vに充電してから1.5Vに放電したときの、比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15の電圧プロファイルと、酸素および二酸化炭素の示差電気化学質量分析結果とを示す。
図8C図8Cは、20mA/gにおいて4.8Vに充電してから1.5Vに放電したときの、比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15の電圧プロファイルと、酸素および二酸化炭素の示差電気化学質量分析結果とを示す。
図9A図9Aは、比較LN20のin situ XRDパターンを示す。
図9B図9Bは、比較LN20の電圧プロファイルおよび、リートベルト精密化による格子定数を示す。
図9C図9Cは、本発明のLNF15のin situ XRDパターンを示す。
図9D図9Dは、本発明のLNF15の電圧プロファイルおよび、リートベルト精密化による格子定数を示す。
図10A図10Aは、「バルク敏感」全蛍光収量(「TFY」)モードを用いた、本発明のHB‐LNF15のNiのL吸収端に関する軟X線吸収スペクトル(「sXAS」)を示す。
図10B図10Bは、「表面敏感」全電子収量(「TEY」)モードを用いた、本発明のHB‐LNF15のNiのL吸収端に関するsXASを示す。
図10C図10Cは、TFYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のOのK吸収端に関するsXASを示す。
図10D図10Dは、TEYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のOのK吸収端に関するsXAS試験を示す。
図11A図11Aは、Li1.25Ni0.35Ti0.3Mo0.11.750.25(「本発明のL125NTMOF」)のXRDパターンを示す。
図11B図11Bは、室温、20mA/gにおいて1.5~4.5Vでサイクルしたときの、本発明のL125NTMOFの電圧プロファイルを示す。
図12A図12Aは、Li1.2Ni0.5Nb0.31.70.3(「本発明のL120NNOF」)のXRDパターンを示す。
図12B図12Bは、室温、20mA/gにおいて1.5~4.5Vでサイクルしたときの、本発明のL120NNOFの電圧プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、フッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物(「Li‐M酸化物」)に関する。特定の理論に拘束されることなく、カチオン不規則リチウム金属酸化物材料における酸素のフッ素置換は、サイクル時に酸素損失を低減することによって材料の電気化学性能を改善することができると考えられる。酸素損失は、カチオンの高密度化を引き起こすことによってLi‐M酸化物材料の電気化学性能を低下させることが公知である。酸素損失は、不規則Li過剰材料における容易なリチウム拡散に必要なLi過剰レベル(Li1+xTM1-x2-yにおけるx)を低下させる。
【0017】
フッ素化は、不規則Li過剰材料におけるレドックス活性遷移金属含有量を増加させることによって遷移金属レドックスを改善し、それによって、高度な脱リチウム化による過度の酸素レドックスを抑え、酸素損失を少なくすることができると考えられる。言い換えれば、フッ素置換は酸素損失を抑制し、それがまたLi過剰不規則正極材料の改善されたサイクル性能をもたらす。実際、フッ素置換を介した不規則Li過剰化合物からの酸素損失の低減は、充放電時の分極の低下によってサイクル性能を実質的に改善させる。よって、本発明のフッ素置換材料は、他の種類のNiレドックス系(またはCo、Feレドックス系)カチオン不規則正極材料では実現できなかった高容量および高電圧を示す。
【0018】
本発明はフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物(「Li‐M酸化物」)を提供する。一実施形態において、本発明のLi‐M酸化物はカチオン不規則岩塩型構造を含む。実際、本明細書で論じるLi‐M酸化物は、もっぱら不規則岩塩型構造を形成する。本明細書において、カチオン不規則岩塩型構造とは、結晶空間群Fm-3mを特徴とする構造のことをいう。本発明のカチオン不規則岩塩型構造において、リチウムおよび遷移金属は、酸素の面心立方(「FCC」)フレームワークにおける空の八面体位置をランダムに占有してもよく、フッ素は酸素と置換される。置換されたフッ素は、酸素とともにFCCフレームワーク中にランダムに分布する。他の実施形態において、カチオン不規則岩塩型構造は、編み込まれたFCC構造(一方は、酸素およびフッ素などのアニオンからなり、もう一方は、ランダムに分布するリチウムおよび遷移金属からなる)を含んでもよい。
【0019】
本発明のカチオン不規則岩塩型構造は、酸素のフッ素への置換を提供する。上記のように、置換されたフッ素はFCCフレームワークを酸素と共有し、酸素とともにランダムに分布する。実際、本発明の不規則Li‐M酸化物は、完全にカチオンが混合されている(すなわち、100パーセントのカチオン混合である)。図2は、本発明により企図されるカチオン不規則岩塩型構造を示す。図2に示すように、岩塩型構造における酸素/フッ素、リチウムおよび遷移金属の分布は完全にランダムである。
【0020】
一実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、層状岩塩型として形成され、充放電サイクル時に不規則岩塩型に変形してもよい。他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、はじめに不規則岩塩型材料として形成される。しかしながら、本発明は、最終組成物としてのカチオン不規則Li‐M酸化物の使用を企図する。
【0021】
一実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、一般式(1):
Li1+x1-x2-y(1)
(式中、0.05≦x≦0.3であり、0<y≦0.3である)を有する。この側面において、一般式(1)は、0.09≦x≦0.3であり、0.10≦y≦0.25であると定義してもよい。他の側面において、一般式(1)は、0.1≦x≦0.25であり、0.10≦y≦0.15であると定義してもよい。本発明によれば、一般式(1)のMは遷移金属であってもよい。一実施形態において、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Sn、Sbまたはその組み合わせから選択してもよい。他の実施形態において、Mは、Mo、Ni、Tiまたはその組み合わせから選択してもよい。
【0022】
この側面において、一般式(1)におけるLi対Mの比は、1.05:0.95~1.3:0.7の範囲であってもよい。たとえば、Li対Mの比は、1.1:0.99~1.2:0.8の範囲であってもよい。他の実施形態において、一般式(1)におけるO対Fの比は、1.99:0.01~1.7:0.3の範囲であってもよい。たとえば、O対Fの比は、1.90:0.1~1.75:0.25の範囲であってもよい。
【0023】
他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、一般式(2):
Li1+x1-x-yM’2-z(2)
(式中、0.05≦x≦0.3であり、0<y≦0.8であり、0<z≦0.3である)を有する。他の実施形態において、一般式(2)は、0.05≦x≦0.3であり、0<y≦0.7であり、0<z≦0.3であると定義してもよい。この側面において、一般式(2)のxおよびyの値は、Mが0を超えるかまたは0以上となるように定義される。本発明によれば、一般式(2)のMは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Moまたはその組み合わせから選択される遷移金属であってもよい。他の実施形態において、M’は、Ti、Mo、Nb、Sb、Zrまたはその組み合わせから選択される遷移金属であってもよい。この側面において、一般式(2)のMおよびM’は種々の遷移金属によって定義される。
【0024】
さらに他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、リチウムニッケルチタニウムモリブデンオキシフッ化物を含んでもよい。たとえば、本発明のLi‐M酸化物は、一般式(3):
Li1+xNiTiMo1-x-a-b2-y(3)
(式中、0.05<x<0.3であり、0.2≦a≦0.6であり、0.2≦b≦0.6であり、0<y≦0.3である)を有してもよい。この側面において、一般式(3)のLi‐M酸化物は、化合物Li1.15Ni0.45Ti0.3Mo0.11.850.15(式中、x=0.15であり、a=0.45であり、b=0.3であり、y=0.15である)を含んでもよい。一般式(3)のLi‐M酸化物は、化合物Li1.25Ni0.35Ti0.3Mo0.11.750.25(式中、x=0.25であり、a=0.35であり、b=0.3であり、y=0.25である)も含んでもよい。
【0025】
さらに他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、リチウムニッケルニオブオキシフッ化物を含んでもよい。たとえば、本発明のLi‐M酸化物は、一般式(4):
Li1+xNiNb2-y(4)
(式中、0.05<x<0.3であり、0.2<a<0.6であり、0.2<b<0.6であり、0<y≦0.3である)を含んでもよい。たとえば、一般式(4)のLi‐M酸化物は、化合物Li1.2Ni0.5Nb0.31.70.3(式中、x=0.2であり、a=0.5であり、b=0.3であり、y=0.3である)を含んでもよい。
【0026】
本発明のLi‐M酸化物は、さまざまな平均粒子径を有してもよい。一実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、約10nm~約10μmの平均(一次)粒子径を有する。他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、約100nm~約200nmの平均(一次)粒子径を有する。他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、約100nm~約180nmの平均(一次)粒子径を有する。
【0027】
本発明のLi‐M酸化物は、さまざまな格子定数も有してもよい。たとえば、本発明のLi‐M酸化物は、約4.05Å~約4.2Åの格子定数を有してもよい。他の実施形態において、本発明のLi‐M酸化物は、約4.1Å~約4.15Åの格子定数を有してもよい。
【0028】
本発明は、本発明のフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物(「Li‐M酸化物」)の製造プロセスも含む。本発明のLi‐M酸化物の調製のために、固相反応法、水溶液法、またはメカノケミカル合成を含むがこれらに限定されない、さまざまな方法を用いてもよい。一実施形態において、本発明のLi‐M酸化物の調製のために固相反応法を用いてもよい。この側面において、本発明のLi‐M酸化物を製造するためのプロセスは、Li‐M酸化物を生成するために必要な前駆体を提供するためのステップを含む。たとえば、プロセスは、少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの遷移金属前駆体および少なくとも1つのフッ素系前駆体を提供するためのステップを含んでもよい。当業者に明らかなように、所望のフッ素置換カチオン不規則Li‐M酸化物の元素組成を提供する任意の前駆体を本発明に用いてもよい。しかしながら、一実施形態において、リチウム系前駆体はLiCO、LiOまたはLiOHを含んでもよい。同様に、好ましいフッ素系前駆体はLiFを含む。
【0029】
所望の前駆体を選択した後、化学量論量のリチウム系、遷移金属系およびフッ素系前駆体を溶媒中に分散させて前駆体スラリーを得てもよい。一実施形態において、溶媒は、極性溶媒または非プロトン性溶媒を含む任意の有機溶媒を含んでもよい。本発明により企図される適切な溶媒は、限定するものではないが、アセトン、酢酸、アセトニトリル、ベンゼン、ブタノール、四塩化炭素、ジエチレングリコール、ジエチルエーテル、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、ペンタン、プロパノール、トルエンおよびキシレンを含む。一実施形態において、用いる溶媒はエタノールであってもよい。他の実施形態において、用いる溶媒はアセトンであってもよい。
【0030】
前駆体スラリーを調製したら、次いで、得られたスラリーにミリングを行ってもよい。一実施形態において、得られたスラリーにボールミリングを行ってもよい。他の実施形態において、得られたスラリーにシェーカーミリングを行ってもよい。さらに他の実施形態において、得られたスラリーに高エネルギーボールミリングを行って、化合物の平均一次粒子径を減少させてもよい。前駆体スラリーは、約1時間~約50時間のミリングを行ってもよい。他の実施形態において、前駆体スラリーは約10時間~約20時間のミリングを行ってもよい。たとえば、前駆体スラリーは約15時間のミリングを行ってもよい。
【0031】
この実施形態において、ミリングの終了後、前駆体スラリーはオーブンで乾燥させてもよい。前駆体スラリーは、約3時間~約50時間乾燥させてもよい。他の実施形態において、前駆体スラリーは、約10時間~約20時間乾燥させてもよい。乾燥後、前駆体スラリーは、ペレット化し、酸素の存在下で、約400℃~約1,200℃の温度で焼成してもよい。他の実施形態において、ペレットは約600℃~約1,200℃の温度で焼成してもよい。さらに他の実施形態において、ペレットは約700℃~約1,200℃の温度で焼成してもよい。焼成の持続時間は、用いる温度に応じて変えてもよい。一実施形態において、ペレットは約30分~約40時間焼成してもよい。他の実施形態において、ペレットは約5時間~約15時間焼成してもよい。たとえば、ペレットは、酸素の存在下で10時間、700℃の温度で焼成してもよい。焼成後、ペレットは手動で微粉末に粉砕してもよい。
【0032】
本明細書に記載のフッ素置換カチオン不規則Li‐M酸化物は改善された電気化学性能を提供する。本発明のカチオン不規則Li‐M酸化物で提供されるフッ素置換は、酸素損失と分極との低減をもたらし、それによって、改善されたサイクル性能をもたらす。たとえば、低減した酸素損失によって、サイクル時の電圧分極は、非フッ素化Li‐M酸化物と比較して、本発明のフッ素化Li‐M酸化物において実質的に低減している。実際、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、充電および放電の途中において低い電圧ギャップを示し、これは、フッ素化が分極を低減させることを示している。低減した分極は、増加した平均放電電圧だけでなく、高い放電容量の供給も可能にする。一実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は少なくとも約180mAh/gの放電容量を有する。他の実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、少なくとも約210mAh/gの放電容量を有する。たとえば、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、約180mAh/g~約330mAh/gの放電容量を有する。
【0033】
さらに、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、約2.3V~約3.8Vの平均放電電圧および、約500Wh/kg~約1,000Wh/kgの放電エネルギー密度を有する。一実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、少なくとも約3.0V、好ましくは3.25Vの平均放電電圧および、750Wh/kgを超える放電エネルギー密度を有する。本明細書に記載のフッ素化Li‐M酸化物は、非フッ素化Li‐M酸化物と比較して、2.5V超ではるかに高い放電容量を示す。たとえば、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、2.5V超で約180mAh/gの放電容量を供給する。実際、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、3V超の電圧で150mAh/gより高い放電容量を供給する。
【0034】
さらに、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、改善された容量維持率を示す。一実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、20mA/gにおいて1.5~4.6Vで20サイクル後に初期放電容量の少なくとも80%の改善された容量維持率を示す。他の実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、20mA/gにおいて1.5~4.6Vで20サイクル後に初期放電容量の少なくとも約85%の改善された容量維持率を示す。この改善された容量維持率は、非フッ素化不規則Li‐M酸化物の容量維持率よりも少なくとも約3パーセント高い。実際、本発明のフッ素化Li‐M酸化物の容量維持率は、非フッ素化不規則Li‐M酸化物の容量維持率よりも少なくとも約5パーセント高い。
【0035】
特定の理論に拘束されることなく、非フッ素化Li‐M酸化物に対する本発明のフッ素化Li‐M酸化物の改善された性能は、低減した酸素損失に帰することができると考えられる。実際、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、非フッ素化Li‐M酸化物よりも高い電圧で酸素損失が生じる。たとえば、本発明のフッ素化Li‐M酸化物における酸素ガスの放出は、少なくとも4.4Vまで(初回充電時には4.8Vまで)遅延する。他の実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物における酸素ガスの放出は、少なくとも4.5Vまで(初回充電時には4.8Vまで)遅延する。さらに他の実施形態において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物における酸素ガスの放出は、少なくとも4.6Vまで(初回充電時には4.8Vまで)遅延する。本発明のこの側面において、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、非フッ素化Li‐M酸化物よりも約0.15V高い電圧で酸素損失を生じる。たとえば、本発明のフッ素化Li‐M酸化物は、非フッ素化Li‐M酸化物よりも約0.25V高い電圧で酸素損失を生じる。
【0036】
本開示は、本明細書に記載のフッ素化カチオン不規則Li‐M酸化物で構成される電極材料(たとえば正極)を含むリチウム電池およびリチウムイオンセルも提供する。一実施形態において、本発明により生成されるフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物は、リチウムイオン二次電池において正極として用いてもよい。図3は、リチウムイオン二次電池の模式図を示す。図3に示すように、正極10と負極20との間のLiイオンの可逆的移動がリチウムイオン二次電池30を可能にする。本明細書に記載のフッ素化カチオン不規則Li‐M酸化物は、携帯用電子機器、電気自動車およびハイブリッド電気自動車を含む自動車ならびにエネルギー貯蔵システムなどの製品のためのリチウムイオン二次電池において正極として用いてもよい。
【0037】
実施例
非限定的な以下の実施例は、本発明に従って作られたフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物を明らかにする。これらの実施例は、単に本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎず、本発明を限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0038】
実施例1
実験手順
以下の本発明のフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物を合成した:
一般式:Li1+xNiTiMo1-x-a-b2-y(式中、0.05<x<0.3であり、0.2<a<0.6であり、0.2<b<0.6であり、0<y≦0.3である)を有するLi‐Ni‐Ti‐Mo‐O‐F型(式中、x=0.15であり、a=0.45であり、b=0.3であり、y=0.15である)(Li1.15Ni0.45Ti0.3Mo0.11.850.15)(「本発明のLNF15」)。
【0039】
本発明の化合物の調製において、LiCO(Alfa Aesar社、ACS、99%min)、NiCO(Alfa Aesar社、99%)、TiO(Alfa Aesar社、99.9%)、MoO(Alfa Aesar社、99%)およびLiF(Alfa Aesar社、99.99%)を前駆体として用いた。前駆体の化学量論量をアセトンに分散させ、15時間ボールミリングし、次いでオーブンで一晩乾燥させた。前駆体の混合物をペレット化し、次いで、空気中、700℃で10時間焼成し、次いで室温まで炉冷した。焼成後、ペレットを手動で微粉末に粉砕した。
【0040】
以下の比較カチオン不規則リチウム金属酸化物(フッ素置換なし)も合成した:
一般式:Li1+x/100Ni1/2-x/120Ti1/2-x/120Mox/150を有するLi‐Ni‐Ti‐Mo‐O型(式中、x=15である)(Li1.15Ni0.375Ti0.375Mo0.1)(「比較LN15」);および、
一般式:Li1+x/100Ni1/2-x/120Ti1/2-x/120Mox/150を有するLi‐Ni‐Ti‐Mo‐O型(式中、x=20である)(Li1.2Ni0.333Ti0.333Mo0.133)(「比較LN20」)。
【0041】
比較化合物の製造において、LiCO(Alfa Aesar社、ACS、99%min)、NiCO(Alfa Aesar社、99%)、TiO(Alfa Aesar社、99.9%)およびMoO(Alfa Aesar社、99%)を前駆体として用いた。前駆体の化学量論量をアセトンに分散させ、15時間ボールミリングし、次いでオーブンで一晩乾燥させた。前駆体の混合物をペレット化し、次いで、空気中、750℃で2時間焼成し、次いで室温まで炉冷した。焼成後、ペレットを手動で微粉末に粉砕した。
【0042】
正極膜を作製するために、本発明のLNF15、比較LN15および比較LN20の粉末を、別々に、70:20の重量比でカーボンブラック(Timcal社、Super P)と混合した。バインダーとして各混合物にポリテトラフルオロエチレン(PTFE、DuPont社、Teflon 8C)(「PTFE」)を加えた。得られた各正極膜は、それぞれ本発明のLNF15、比較LN15または比較LN20;カーボンブラック;およびPTFEが70:20:10の重量比を含んでいた。成分を手動で30分間混合し、アルゴン充填グローブボックス内で薄膜にした。場合により、リチウム金属酸化物成分は、300~500rpmの速度で2~6時間、高エネルギーボールミリング(Retsch社、PM200)を用いてカーボンブラックと混合した。通常のサイクル試験のためのセルを組み立てるために、LiPFの1M炭酸エチレン(「EC」)‐炭酸ジメチル(「DMC」)溶液(1:1、Techno Semichem社)、ガラスマイクロファイバーフィルター(GE Whatman社)およびLi金属箔(FMC社)を、それぞれ電解液、セパレータおよび対電極として用いた。アルゴン充填したグローブボックス内で2032のコインセルを組み立て、室温で、定電流モードで電池テスター(Arbin社)によって試験した。正極膜の充填密度はおおよそ5mg/cmであった。比容量は、正極膜におけるリチウム金属酸化物成分の量(すなわち70重量パーセント)に基づいて計算した。
【0043】
調製されたままの化合物のX線回折(「XRD」)パターンを、2θ範囲5~85°をリガクMiniFlex(Cu源)によって収集した。走査型電子顕微鏡法(「SEM」)画像を、Zeiss Gemini Ultra‐55 Analytical Field Emission SEMによって収集した。Li、Ni、TiおよびMoに関する化合物の元素分析を、直流プラズマ発光分光法(ASTM E1097‐12)を用いて行った。フッ素含有量を、イオン選択電極(ASTM D1179‐10)によって測定した。
【0044】
図4Aは、本発明のLNF15化合物、比較LN15化合物および比較LN20化合物のXRDパターンおよび精密化の結果を示す。図4Aおよび下記の表1は、酸化物(フッ素置換なし)およびフッ素置換酸化物のLi過剰不規則岩塩型相の、標準的な固相反応による調製の成功を裏付けている。図4Aに示すように、XRD精密化は、Li過剰レベルが15%(LN15:4.1444Å)から20%(LN20:4.1449Å)まで増加するとき格子定数はわずかに増加するが、フッ素置換(LNF15:4.1415Å)ではわずかに減少することを示している。
表1:比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15の標的Li:Ni:Ti:Mo:F原子比対、測定Li:Ni:Ti:Mo:F原子比
【0045】
【表1】
【0046】
図4Aの各XRDパターンの右側に表示されている挿入画像は、各材料のSEM画像を示す。図4Aに示すように、本発明のLNF15の平均(一次)粒子径(おおよそ180nm)は、比較LN15(おおよそ100nm)および比較LN20(おおよそ100nm)の平均(一次)粒子径より大きい。比較の目的で、LN15およびLN20と同様な粒子径を有するさらなるLNF15粉末を調製した。より具体的には、LNF15に300rpmで4時間、高エネルギーボールミルを行い、LNF15の平均一次粒子径を100nmまで減少させた。得られた化合物を本明細書では「本発明のHB‐LNF15」と称する。
【0047】
図4Bは、本発明のLNF15粒子のエネルギー分散分光法(「EDS」)マッピング(Ni、Ti、O、Mo、F)を示す。このEDSマッピングから、本発明のLNF15粒子におけるフッ素および他の元素の均一な分布を見ることができる。すなわち、図4Bは、フッ素が、2次相を形成する代わりに不規則格子において置換されたことと、標的LNF15相の生成が成功したことと、をさらに裏付けている。
【0048】
定電流サイクル試験
本発明のLNF15化合物、本発明のHB‐LNF15化合物、比較LN15化合物および比較LN20化合物の電気化学特性を比較するために、各化合物に定電流サイクル試験を行った。室温、20mA/gにおいて1.5~4.6Vで各化合物をサイクルした。
【0049】
図5A図5Dは、室温、20mA/gにおいて1.5~4.6Vでサイクルしたときの比較LN15(図5A)、比較LN20(図5B)、本発明のLNF15(図5C)および本発明のHB‐LNF15(図5D)の初期5サイクルの電圧プロファイルを示す。図5A図5Dの挿入画像は、20サイクルの間の材料の容量維持率を示す。すなわち、図5A図5Dの挿入画像は、反復サイクル時の充電容量および放電容量を示す。
【0050】
図5Aおよび図5Bに示すように、20mA/gにおいて、比較LN15および比較LN20は、ともにそれぞれ194mAh/g(587Wh/kg、2454Wh/l)までおよび220mAh/g(672Wh/kg、2775Wh/l)までの高い放電容量を供給することができる。しかしながら、比較LN15および比較LN20の電圧プロファイルは、充放電間で大きな分極(電圧ギャップ)を示す。さらに、放電の大部分は2.5Vよりも低い電圧で行われるため、比較LN15および比較LN20に関する平均放電電圧は、それぞれ、おおよそ3.03Vおよびおおよそ3.05Vとなる。
【0051】
それとは反対に、図5Cおよび図5Dに示すように、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15は、低い分極でサイクルすることができ、それによって、それぞれ210mAh/g(681Wh/kg、2894Wh/l)および218mAh/g(716Wh/kg、3043Wh/l)の高い放電容量の供給が可能となる。低い分極によって、本発明のLNF15および本発明のHB‐LNF15はともに、平均放電電圧もおおよそ3.25Vまで増加する。
【0052】
分極試験
本発明のLNF15、本発明のHB‐LNF15、比較LN15および比較LN20における分極をより直接的に比較するために、図5Aは、化合物のそれぞれの第1サイクル電圧プロファイルおよび第2充電電圧プロファイルを示す。図6Aに示すように、比較LN15および比較LN20における充電および放電の途中の間で高い電圧ギャップが認められる。しかしながら、この電圧ギャップは本発明のLNF15においては減少し、本発明のHB‐LNF15においてはさらに減少するため、特に充電および放電の途中において、フッ素化がより低い分極をもたらすことを示している。
【0053】
図6Bは、本発明のLNF15化合物、本発明のHB‐LNF15化合物、比較LN15化合物および比較LN20化合物のそれぞれの第1サイクル電圧プロファイルを比較する。図6Bに示すように、本発明のHB‐LNF15と比較LN15とを比較すると、本発明のHB‐LNF15は、比較LN15よりも、2.5V超で80mAh/g高い放電容量および、3V超で50mAh/g高い放電容量を供給する。もっとも、1.5V超では放電容量の変化はほとんどない(194~218mAh/g)。
【0054】
本発明のLNF15における低い分極の性質を分析するために、定電流間欠滴定試験(「GITT」)も行った。試験のために、20mA/gのレートで、1ステップあたり10mAh/gを定電流で充電または放電した。各ステップ後、5時間の緩和を行った。総充電容量および総放電容量はそれぞれ250mAh/gであった。図6Cは、270mAh/gへの初回充電後のGITTによる比較LN20および本発明のLNF15の第1放電電圧プロファイルを示す。図6Cの挿入画像は、電圧・容量プロットにおいておおよそ110mAh/gの放電容量に対応する206時間付近の電圧・時間GITTプロファイルを示す。
【0055】
図6Cに明示するように、電圧・容量GITTプロファイルは、特に放電の途中における比較LN20と比較して、各放電ステップ後の垂直シフト(緩和)が本発明のLNF15において小さいことを示している。図6Cの挿入画像における電圧・時間プロファイルは、比較LN20と比較して、電圧緩和の時間に依存した部分が、本発明のLNF15においてかなり小さいことを示している。これは、遅いLi拡散による物質移動抵抗が本発明のLNF15において低下しており、それが低い分極をもたらすことを示している。
【0056】
出力特性試験
本発明のLNF15化合物、本発明のHB‐LNF15化合物、比較LN15化合物および比較LN20化合物のそれぞれにおける動力学をさらに調べるために出力特性試験を行った。図7A図7Dは、化合物のそれぞれを20mA/gにおいて充電し、室温、1.5~4.6Vで10、20、40、100および200mA/gのさまざまなレートで放電したときの、比較LN15(図7A)、比較LN20(図7B)、本発明のLNF15(図7C)および本発明のHB‐LNF15(図7D)の放電電圧プロファイルを示す。
【0057】
図7A図7Dに示すように、放電レートが10mA/gから200mA/gまで増加するに従って、比較LN15に関しては206mAh/gから151mAh/gに、比較LN20に関しては234mAh/gから180mAh/gに、本発明のLNF15に関しては214mAh/gから148mAh/gに、本発明のHB‐LNF15に関しては216mAh/gから167mAh/gに放電容量が減少する。比較LN15、比較LN20および本発明のHB‐LNF15(すべて同等の粒子径を有している)の出力特性を比較することによって、それらの出力特性はあまり変わらないものの、同じレートでは、放電の途中における低い分極によって、比較LN15または比較LN20よりも、本発明のHB‐LNFの方が高いエネルギー密度をもたらすことがわかる。たとえば、100mA/gにおいて放電する場合、本発明のHB‐LNFによって供給されるエネルギー密度は592Wh/kgであるのに対し、比較LN15によって供給されるエネルギー密度は493Wh/kgであり、比較LN20によって供給されるエネルギー密度は563Wh/kgである。
【0058】
示差電気化学質量分析測定
比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15について、示差電気化学質量分析(DEMS)測定を行った。この試験のために、化合物のそれぞれを、室温、20mA/gにおいて1.5~4.8Vでサイクルした。図8A図8Cは、20mA/gにおいて4.8Vに充電してから1.5Vに放電したときの、比較LN15(図8A)、比較LN20(図8B)および本発明のLNF15(図8C)の電圧プロファイルと、酸素および二酸化炭素の示差電気化学質量分析結果とを示す。図8A図8Cに明示するように、本発明のLNF15は、比較LN15および比較LN20よりも少ない酸素損失を生じる。4.8Vへの初回充電時に、比較LN15および比較LN20の両方に関して、おおよそ4.35V(約185mAh/g)の後に酸素ガスが放出を開始する。すなわち、図8Aおよび図8Bは、おおよそ4.35Vを超えて充電されたときの比較LN15および比較LN20からの酸素損失を示している。しかしながら、本発明のLNF15に関しては、酸素ガスの放出が、おおよそ4.5V(約220mAh/g)超まで遅延する。このように、本発明のLNF15は、比較LN15および比較LN20と比較して少ない酸素損失を示す。
【0059】
さらに、初回充電後の酸素放出の総量も、それぞれ比較LN20および比較LN15に関する0.26144μmol/mgおよび0.3975μmol/mg(活性材料1mgあたりのガス種μmol)から、本発明のLNF15に関する0.07276μmol/mgまで減少している。酸素ガス放出のこれらの量は、それぞれ、比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15における全酸素含有量の2.341%、3.523%および0.7142%の損失に相当する。さらに、酸素ガス放出は、放電の、ごく初期の部分の間に発生する。したがって、酸素ガス放出の総量は、それぞれ、比較LN15、比較LN20および本発明のLNF15に関して、0.3010μmol/mg、0.4918μmol/mgおよび0.0915μmol/mgに増える。
【0060】
初回充電時の二酸化炭素ガスの放出も図8A図8Cに示す。図8A図8Cに見られるように、すべての場合において二酸化炭素ガスはおおよそ4.4V超で発生する。しかしながら、4.6V超において、二酸化炭素ガス放出速度(1分あたりのμmol/mg)は、比較LN15および比較LN20よりも、本発明のLNF15の方がはるかに低い。
【0061】
in‐situ XRD比較
サイクル時の構造変化に対するフッ素置換の影響を研究するために、比較LN20および本発明のLNF15に関してin situ XRDを行った。室温、10mA/gにおいて1.5~4.6Vでin situセルをサイクルした。比較LN20および本発明のLNF15のin situ XRDパターンをそれぞれ図9Aおよび図9Cに示す。比較LN20および本発明のLNF15の電圧プロファイル(黒い実線で示す)およびリートベルト精密化による格子定数(黒い点線で示す)をそれぞれ図9Bおよび図9Dに示す。
【0062】
図9Aおよび図9Cから、比較LN20および本発明のLNF15の両方に関して、充電時の高角側への(002)のピークシフトおよび放電時の低角側への(002)のピークシフトが見られる。これは、比較LN20および本発明のLNF15の両方に関して、充電において格子定数が減少し、放電において格子定数が増加することを示している。より具体的には、比較LN20の格子定数は4.145Åから4.103Åまで減少し、次いで4.1707Åまで増加するのに対し、本発明のLNF15の格子定数は、4.1411Åから4.1023Åまで減少し、次いで4.1581Åまで増加する。これらの測定値は、比較LN20に関して、初回充電時の-3%の体積変化、初回放電時の+5%の体積変化に相当し、本発明のLNF15に関して、初回充電時の-2.8%の体積変化、初回放電時の+4.1%の体積変化に相当する。格子定数および体積は、第1サイクル後に、比較LN20に関して+0.62%(体積で+1.87%)、本発明のLNF15に関して+0.41%(体積で+1.24%)不可逆的に増加する。
【0063】
図9Bおよび図9Dに示すように、比較LN20および本発明のLNF15の挙動における最も大きな違いは、初回充電の途中において観察される。比較LN20をおおよそ120mAh/gを超えて充電した後は、おおよそ215mAh/gの充電まで格子定数はほとんど減少しない。しかしながら、本発明のLNF15においては、このような挙動は明白ではない。
【0064】
軟X線吸収分光法試験
本発明のHB‐LNF15のレドックス機構を研究するために、「バルク敏感」全蛍光収量(TFY)モードおよび「表面敏感」全電子収量(TEY)モードを用いて、本発明のHB‐LNF15に軟X線吸収分光法(「sXAS」)試験を行った。NiのL吸収端スペクトルおよびOのK吸収端スペクトルを図10A図10Dに示す。図10Aは、TFYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のNiのL吸収端に関するsXAS試験を示す。図10Bは、TEYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のNiのL吸収端に関するsXAS試験を示す。図10Cは、TFYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のOのK吸収端に関するsXAS試験を示す。図10Dは、TEYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のOのK吸収端に関するsXAS試験を示す。これらの試験において、本発明のHB‐LNF15をサイクルする前、70mAh/g、140mAh/g、210mAh/g、4.6V(~280mAh/g)への充電後および1.5Vへの放電後にデータを収集した。本発明のHB‐LNF15は、室温、20mA/gにおいてサイクルした。
【0065】
図10Aおよび図10Bは、それぞれ、TFYモードおよびTEYモードを用いた、本発明のHB‐LNF15のNiのL吸収端スペクトルを示す。金属のL吸収端は、金属の2p電子の、空の3d軌道への励起によって引き起こされ、これは、2pコアホールスピン軌道分裂により2つの領域(低光子エネルギー側のL吸収端および高エネルギー側のL吸収端)に分裂することができる。
【0066】
図10Aに示すように、TFYモード(バルク敏感である)によるNiのL吸収端スペクトルから、サイクル前のNiのL吸収端スペクトルは、おおよそ853eVにおいて最強ピークを有し、おおよそ855eVにおいてより小さいピークを有することがわかる。2つのピーク間の強度比[=I(853eV)/I(855eV)]は、70mAh/g、140mAh/g、210mAh/gおよび4.6Vへの充電時(おおよそ280mAh/g)に減少し、1.5Vへの第1放電(おおよそ225mAh/g)後に、元のLNF15の比に回復する。さらに、おおよそ873eVにおけるNiのL吸収端のスペクトル重みは、充電時に増加し、放電時に減少する。これは、本発明のHB‐LNF15化合物の大部分におけるNi2+がNi3+およびNi4+に酸化され、放電後に元のNi2+に還元されることを示している。それにもかかわらず、NiのL吸収端における変化は小さく、4.6Vへの充電後でさえ、Ni2+信号はなお強い。これは、サイクル中、本発明のHB‐LNF15において、Ni2+/Ni4+レドックスの小部分のみが用いられていることを示している。
【0067】
図10Bに示すように、TEYモード(表面敏感である(~10nm))によるNiのL吸収端スペクトルから、Niの吸収端における変化はTFYモードにおけるその変化よりもさらに小さいことがわかる。これは、表面領域におけるNiイオンの大部分がサイクル中にNi2+にとどまっており、レドックスにはほんのわずかしか関係しないことを示している。
【0068】
本発明のHB‐LNF15のOのK吸収端スペクトル(図10Cおよび図10D)から、バルク中のNi2+は充電において酸化されるが、表面におけるNiはほとんど酸化されないことがわかる。OのK吸収端は、Oの1s電子の、空のOの2p状態への励起によって引き起こされる。
【0069】
図10Cは、TFYモードによるOのK吸収端スペクトルを示す。図10Cに示すように、おおよそ528.5eVにおけるピークは、4.6Vへの充電時に増大し、放電時に消失する。おおよそ528.5eVにおけるピーク増大は、e 状態の共有結合性によるOの2p状態へのホールドーピングを部分的にもたらす、Niが支配するe 電子を用いるバルク中での部分Ni2+/Ni4+酸化に帰することができる。バルク中でのこのNi酸化は、TFYモードによるNiのL吸収端スペクトルにおいて観察されるわずかなスペクトルシフトと矛盾しない(図10A)。さらに、特に210mAh/gを超えて充電した後に530eV~535eV間にピーク強度の増大が示されている。これは、充電時に、Oの2p状態にホールが導入されることを示している。
【0070】
図10Dは、TEYモードによるOのK吸収端スペクトルを示す。TFYモードによるOのK吸収端スペクトルとは異なり、充電時に、おおよそ528.5eVにおいて、無視できるピークの増大が見られる。代わりに、TFYモードによるOのK吸収端スペクトルと同様に、530eV~535eV間に強度の増大が観察される。これは、表面においてはNi2+は多くは酸化されず、主として酸素酸化が生じていることを示しており、これは、TEYモードによるNiのL吸収端スペクトルにおける無視できる変化と矛盾しない。
【0071】
実施例2
以下の本発明のフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物を合成した:
一般式:Li1+xNiTiMo1-x-a-b2-y(式中、0.05<x<0.3であり、0.2<a<0.6であり、0.2<b<0.6であり、0<y≦0.3である)を有するLi‐Ni‐Ti‐Mo‐O‐F型(式中、x=0.25であり、a=0.35であり、b=0.3であり、y=0.25である)(Li1.25Ni0.35Ti0.3Mo0.11.750.25)(「本発明のL125NTMOF」)。
【0072】
本発明のL125NTMOFは、実施例1に記載されているものと同じ前駆体および手順を用いて合成した。
【0073】
図11Aは、本発明のL125NTMOFのX線回折(「XRD」)パターンを示す。図11Bは、室温、20mA/gにおいて1.5~4.5Vでサイクルしたときの本発明のL125NTMOFの電圧プロファイルを示す。図11Bに示すように、本発明のL125NTMOFは184mAh/gの第1放電容量および573Wh/kgのエネルギー密度を提供する。
【0074】
実施例3
以下の本発明のフッ素置換カチオン不規則リチウム金属酸化物を合成した:
一般式:Li1+xNiNb2-y(式中、0.05<x<0.3であり、0.2<a<0.6であり、0.2<b<0.6であり、0<y≦0.3である)を有するLi‐Ni‐Nb‐O‐F型(式中、x=0.2であり、a=0.5であり、b=0.3であり、y=0.3である)(Li1.2Ni0.5Nb0.31.70.3)(「本発明のL120NNOF」)。
【0075】
図12Aは、本発明のL120NNOFのX線回折(「XRD」)パターンを示す。図12Bは、室温、20mA/gにおいて1.5~4.5Vでサイクルしたときの本発明のL120NNOFの電圧プロファイルを示す。図12Bに示すように、本発明のL120NNOFは、325mAh/gの第1放電容量および845Wh/kgのエネルギー密度を提供する。
【0076】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメーターが概数であるにもかかわらず、具体的な実施例に示されている数値は、可能な限り正確に記載されている。しかし、いずれの数値も、各試験測定に見出される標準偏差によって必然的に生じるある種の誤差を本質的に有する。さらに、本明細書においてさまざまな範囲の数値範囲が示されている場合、記載された数値を含めてこれらの数値の組み合わせを用いてもよいと考えられる。
【0077】
本明細書に記載されかつ特許請求される本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。なぜなら、これらの実施形態は、本発明のいくつかの側面の例示を目的とするものだからである。任意の等価な実施形態は本発明の範囲内であるものとする。実際、前述の説明から、本明細書に記載のものに加えて、当業者には、本発明のさまざまな改変が明らかになるであろう。このような改変も、添付の特許請求の範囲内であるものとする。前述のテキストに引用したすべての特許および特許出願は、その全体が参照によって明示的に本願に援用される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12A
図12B