(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240326BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240326BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/08 D
(21)【出願番号】P 2020011690
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/44588(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/9072(WO,A1)
【文献】特開2020-6392(JP,A)
【文献】特開2019-130538(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213478(WO,A1)
【文献】特開2020-69531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
B23K 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に集光領域の一部を合わせてレーザ光を照射することにより、前記対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持する支持部と、
前記対象物に前記レーザ光を照射する照射部と、
前記対象物の内部において前記集光領域の一部が前記仮想面に沿って移動するように、前記支持部及び前記照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記支持部、前記照射部及び前記移動機構を制御する制御部と、を備え、
前記照射部は、前記レーザ光の光軸に垂直な面内における前記集光領域の一部の形状が長手方向を有するように前記レーザ光を成形する成形部を有し、
前記長手方向は、前記集光領域の一部の移動方向と交差する方向である、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記長手方向は、前記集光領域の一部の移動方向に対して45°以上傾いた方向である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記長手方向は、前記集光領域の一部の移動方向の垂直方向に沿う方向である、請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記集光領域の一部の形状は、楕円率が0.88~0.95の形状である、請求項1~3の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記対象物において周縁から内側に向かって渦巻き状に延在する加工用ラインに沿って、前記集光領域の一部を相対的に移動させ、前記対象物の内部に前記改質領域を形成する、請求項1~4の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
ユーザから、前記集光領域の一部の形状に関する情報、前記集光領域の一部の移動方向に対する傾きに関する情報、及び、前記成形部の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかの入力を、ユーザから受付け可能な入力部を備え、
前記制御部は、前記入力部の入力に基づいて、前記支持部、前記照射部及び前記移動機構を制御する、請求項1~5の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
対象物に集光領域の一部を合わせてレーザ光を照射することにより、前記対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工方法であって、
前記対象物に前記レーザ光を照射する照射工程と、
前記対象物の内部において前記集光領域の一部が前記仮想面に沿って移動するように、前記対象物を支持する支持部及び前記対象物に前記レーザ光を照射する照射部の少なくとも一方を移動させる移動工程と、を備え、
前記照射工程は、前記レーザ光の光軸に垂直な面内における前記集光領域の一部の形状が長手方向を有するように前記レーザ光を成形する成形工程を有し、
前記長手方向は、前記集光領域の一部の移動方向と交差する方向である、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークを保持する保持機構と、保持機構に保持されたワークにレーザ光を照射するレーザ照射機構と、を備えるレーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工装置では、集光レンズを有するレーザ照射機構が基台に対して固定されており、集光レンズの光軸に垂直な方向に沿ったワークの移動が保持機構によって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなレーザ加工装置では、対象物にレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成する場合がある。この場合、仮想面に渡る改質領域及び改質領域から伸びる亀裂を境界として、対象物の一部が剥離される。近年、このような剥離加工において、例えば益々の普及拡大に伴い、タクトアップ(作業時間の短縮化)が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成する場合にタクトアップを実現可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物に集光領域の一部を合わせてレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工装置であって、対象物を支持する支持部と、対象物にレーザ光を照射する照射部と、対象物の内部において集光領域の一部が仮想面に沿って移動するように、支持部及び照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、支持部、照射部及び移動機構を制御する制御部と、を備え、照射部は、仮想面に沿う面内における集光領域の一部の形状が長手方向を有するようにレーザ光を成形する成形部を有し、長手方向は、集光領域の一部の移動方向と交差する方向である。
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ね、仮想面に沿って改質領域を形成する場合、仮想面に沿う面内においてレーザ光の集光領域の一部の形状が長手方向を有すると、その改質領域から仮想面に沿って伸びる亀裂は、当該長手方向に伸びやすいことを見出した。そこで、本発明に係るレーザ加工装置では、集光領域の一部の移動方向(以下、「加工進行方向」ともいう)と交差する方向を当該長手方向とすることにより、加工進行方向と交差する方向への亀裂を伸びやすくして、仮想面に沿う亀裂の進展を促すことができる。したがって、例えば、加工進行方向と交差する方向における改質領域の改質スポットの間隔を広くしても、仮想面に沿って亀裂を十分に進展させることが可能となる。その結果、タクトアップを実現することが可能となる。
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置では、長手方向は、集光領域の一部の移動方向に対して45°以上傾いた方向であってもよい。この場合、仮想面に沿う亀裂の進展を一層促すことができる。
【0009】
本発明に係るレーザ加工装置では、長手方向は、集光領域の一部の移動方向の垂直方向に沿う方向であってもよい。この場合、仮想面に沿う亀裂の進展をより一層促すことができる。
【0010】
本発明に係るレーザ加工装置では、集光領域の一部の形状は、楕円率が0.88~0.95の形状であってもよい。この場合、仮想面に沿う亀裂の進展を一層促すことができる。
【0011】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、対象物において周縁から内側に向かって渦巻き状に延在する加工用ラインに沿って、集光領域の一部を相対的に移動させ、対象物の内部に改質領域を形成してもよい。これにより、仮想面に渡る改質領域及び改質領域から伸びる亀裂を境界として、対象物の一部を精度よく剥離することができる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工装置では、集光領域の一部の形状に関する情報、集光領域の一部の移動方向に対する傾きに関する情報、及び、成形部の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかの入力を、ユーザから受付け可能な入力部を備え、制御部は、入力部の入力に基づいて、支持部、照射部及び移動機構を制御してもよい。これにより、仮想面に沿って改質領域を形成するに当たり、集光領域の一部の形状に関する情報、集光領域の一部の移動方向に対する傾きに関する情報、及び、成形部の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかを所望に設定することができる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工方法は、対象物に集光領域の一部を合わせてレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工方法であって、対象物にレーザ光を照射する照射工程と、対象物の内部において集光領域の一部が仮想面に沿って移動するように、対象物を支持する支持部及び対象物にレーザ光を照射する照射部の少なくとも一方を移動させる移動工程と、を備え、照射工程は、レーザ光の光軸に垂直な面内における集光領域の一部の形状が長手方向を有するようにレーザ光を成形する成形工程を有し、長手方向は、集光領域の一部の移動方向と交差する方向である。
【0014】
レーザ加工方法においても、加工進行方向と交差する方向を当該長手方向としていることにより、加工進行方向と交差する方向への亀裂を伸びやすくして、仮想面に沿う亀裂の進展を促すことができる。その結果、タクトアップを実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成する場合にタクトアップを実現可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態のレーザ加工装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されるレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示されるレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図6】
図6は、変形例のレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図7】
図7は、変形例のレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図8】
図8は、変形例のレーザ加工装置の斜視図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す平面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施形態に係るレーザ加工を説明するための対象物の側面図である。
図11(b)は、
図11(a)の続きを示す対象物の平面図である。
図11(c)は、
図11(b)に示す対象物の側面図である。
【
図15】
図15は、剥離加工を説明するための対象物の平面図である。
【
図16】
図16(a)は、本実施形態に係るビーム形状を示す図である。
図16(b)は、変形例に係るビーム形状を示す図である。
【
図17】
図17(a)は、円形状のビーム形状のレーザ光を用いた比較例に係る剥離加工結果を説明するための対象物の平断面図である。
図17(b)は、楕円形状で且つビーム回転角度が90°のビーム形状のレーザ光を用いた本実施形態に係る剥離加工結果を説明するための対象物の平断面図である。
【
図18】
図18は、分岐距離X及び分岐距離Yを説明するための対象物の平面図である。
【
図19】
図19(a)は、楕円率とビーム形状との関係を示す図である。
図19(b)は、楕円率及びビーム回転角度とスライシングフルカット状態の発生率とを示す図である。
【
図20】
図20は、楕円形状のビーム形状のビーム回転角度が0°の場合を示す図である。
【
図21】
図21は、楕円形状のビーム形状のビーム回転角度が60°の場合を示す図である。
【
図22】
図22は、GUIのタッチパネルに表示する設定画面の例を示す図である。
【
図23】
図23は、GUIのタッチパネルに表示する設定画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
まず、レーザ加工装置の基本的な構成、作用、効果及び変形例について説明する。
【0019】
[レーザ加工装置の構成]
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、複数の移動機構5,6と、支持部7と、1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、光源ユニット8と、制御部9と、を備えている。以下、第1方向をX方向、第1方向に垂直な第2方向をY方向、第1方向及び第2方向に垂直な第3方向をZ方向という。本実施形態では、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0020】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。
【0021】
移動機構6は、固定部61と、1対の移動部63,64と、1対の取付部65,66と、を有している。固定部61は、装置フレーム1aに取り付けられている。1対の移動部63,64のそれぞれは、固定部61に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。取付部65は、移動部63に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。取付部66は、移動部64に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。つまり、装置フレーム1aに対しては、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動することができる。移動部63,64のそれぞれは、第1及び第2水平移動機構(水平移動機構)をそれぞれ構成する。取付部65,66のそれぞれは、第1及び第2鉛直移動機構(鉛直移動機構)をそれぞれ構成する。
【0022】
支持部7は、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。つまり、支持部7は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動することができ、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、対象物100を支持する。対象物100は、例えば、ウェハである。
【0023】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構6の取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L1(「第1レーザ光L1」とも称する)を照射する。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構6の取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L2(「第2レーザ光L2」とも称する)を照射する。レーザ加工ヘッド10A,10Bは、照射部を構成する。
【0024】
光源ユニット8は、1対の光源81,82を有している。光源81は、レーザ光L1を出力する。レーザ光L1は、光源81の出射部81aから出射され、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。光源82は、レーザ光L2を出力する。レーザ光L2は、光源82の出射部82aから出射され、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。
【0025】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(支持部7、複数の移動機構5,6、1対のレーザ加工ヘッド10A,10B、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部9は、各種機能を実現する。
【0026】
以上のように構成されたレーザ加工装置1による加工の一例について説明する。当該加工の一例は、ウェハである対象物100を複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインに沿って対象物100の内部に改質領域を形成する例である。
【0027】
まず、対象物100を支持している支持部7がZ方向において1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと対向するように、移動機構5が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って支持部7を移動させる。続いて、対象物100において一方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0028】
続いて、一方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点(集光領域の一部)が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、一方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0029】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ一方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0030】
続いて、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0031】
続いて、他方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、他方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0032】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、他方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ他方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0033】
なお、上述した加工の一例では、光源81は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L1を出力し、光源82は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L2を出力する。そのようなレーザ光が対象物100の内部に集光されると、レーザ光の集光点に対応する部分においてレーザ光が特に吸収され、対象物100の内部に改質領域が形成される。改質領域は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0034】
パルス発振方式によって出力されたレーザ光が対象物100に照射され、対象物100に設定されたラインに沿ってレーザ光の集光点が相対的に移動させられると、複数の改質スポットがラインに沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポットは、1パルスのレーザ光の照射によって形成される。1列の改質領域は、1列に並んだ複数の改質スポットの集合である。隣り合う改質スポットは、対象物100に対するレーザ光の集光点の相対的な移動速度及びレーザ光の繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。設定されるラインの形状は、格子状に限定されず、環状、直線状、曲線状及びこれらの少なくとも何れかを組合せた形状であってもよい。
[レーザ加工ヘッドの構成]
【0035】
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、を備えている。
【0036】
筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0037】
第3壁部23と第4壁部24との距離は、第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さい。第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも小さい。なお、第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離と等しくてもよいし、或いは、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも大きくてもよい。
【0038】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6の固定部61とは反対側に位置しており、第2壁部22は、固定部61側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している(
図2参照)。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0039】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている(
図2参照)。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている(
図2参照)。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0040】
入射部12は、第5壁部25に取り付けられている。入射部12は、筐体11内にレーザ光L1を入射させる。入射部12は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における入射部12と第2壁部22との距離は、X方向における入射部12と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における入射部12と第4壁部24との距離は、X方向における入射部12と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0041】
入射部12は、光ファイバ2の接続端部2aが接続可能となるように構成されている。光ファイバ2の接続端部2aには、ファイバの出射端から出射されたレーザ光L1をコリメートするコリメータレンズが設けられており、戻り光を抑制するアイソレータが設けられていない。当該アイソレータは、接続端部2aよりも光源81側であるファイバの途中に設けられている。これにより、接続端部2aの小型化、延いては、入射部12の小型化が図られている。なお、光ファイバ2の接続端部2aにアイソレータが設けられていてもよい。
【0042】
調整部13は、筐体11内に配置されている。調整部13は、入射部12から入射したレーザ光L1を調整する。調整部13が有する各構成は、筐体11内に設けられた光学ベース29に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切るように、筐体11に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11と一体となっている。調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。調整部13が有する各構成の詳細については後述する。
【0043】
集光部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、集光部14は、第6壁部26に形成された孔26aに挿通された状態で(
図5参照)、第6壁部26に配置されている。集光部14は、調整部13によって調整されたレーザ光L1を集光しつつ筐体11外に出射させる。集光部14は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における集光部14と第2壁部22との距離は、X方向における集光部14と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における集光部14と第4壁部24との距離は、X方向における集光部14と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0044】
図5に示されるように、調整部13は、アッテネータ31と、ビームエキスパンダ32と、ミラー33と、を有している。入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33は、Z方向に沿って延在する直線(第1直線)A1上に配置されている。アッテネータ31及びビームエキスパンダ32は、直線A1上において、入射部12とミラー33との間に配置されている。アッテネータ31は、入射部12から入射したレーザ光L1の出力を調整する。ビームエキスパンダ32は、アッテネータ31で出力が調整されたレーザ光L1の径を拡大する。ミラー33は、ビームエキスパンダ32で径が拡大されたレーザ光L1を反射する。
【0045】
調整部13は、反射型空間光変調器34と、結像光学系35と、を更に有している。調整部13の反射型空間光変調器34及び結像光学系35、並びに、集光部14は、Z方向に沿って延在する直線(第2直線)A2上に配置されている。反射型空間光変調器34は、ミラー33で反射されたレーザ光L1を変調する。反射型空間光変調器34は、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。結像光学系35は、反射型空間光変調器34の反射面34aと集光部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系35は、3つ以上のレンズによって構成されている。
【0046】
直線A1及び直線A2は、Y方向に垂直な平面上に位置している。直線A1は、直線A2に対して第2壁部22側(一方の壁部側)に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1は、入射部12から筐体11内に入射して直線A1上を進行し、ミラー33及び反射型空間光変調器34で順次に反射された後、直線A2上を進行して集光部14から筐体11外に出射する。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。また、アッテネータ31は、ミラー33と反射型空間光変調器34との間に配置されていてもよい。また、調整部13は、他の光学部品(例えば、ビームエキスパンダ32の前に配置されるステアリングミラー等)を有していてもよい。
【0047】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0048】
ダイクロイックミラー15は、直線A2上において、結像光学系35と集光部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、調整部13と集光部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光L1を透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0049】
測定部16は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。測定部16は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。測定部16は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)と集光部14との距離を測定するための測定光L10を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された測定光L10を検出する。つまり、測定部16から出力された測定光L10は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14を介して測定部16で検出される。
【0050】
より具体的には、測定部16から出力された測定光L10は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられたビームスプリッタ20及びダイクロイックミラー15で順次に反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20で順次に反射され、測定部16に入射し、測定部16で検出される。
【0051】
観察部17は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。観察部17は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。観察部17は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)を観察するための観察光L20を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された観察光L20を検出する。つまり、観察部17から出力された観察光L20は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14を介して観察部17で検出される。
【0052】
より具体的には、観察部17から出力された観察光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15で反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15で反射され、ビームスプリッタ20を透過して観察部17に入射し、観察部17で検出される。なお、レーザ光L1、測定光L10及び観察光L20のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0053】
駆動部18は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された集光部14をZ方向に沿って移動させる。
【0054】
回路部19は、筐体11内において、光学ベース29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、調整部13、測定部16及び観察部17に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測定部16から出力された信号、及び反射型空間光変調器34に入力する信号を処理する。回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。なお、筐体11には、回路部19を制御部9(
図1参照)等に電気的に接続するための配線が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0055】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、1対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0056】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0057】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
[作用及び効果]
【0058】
レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1を出力する光源が筐体11内に設けられていないため、筐体11の小型化を図ることができる。更に、筐体11において、第3壁部23と第4壁部24との距離が第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さく、第6壁部26に配置された集光部14がY方向において第4壁部24側に片寄っている。これにより、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成(例えば、レーザ加工ヘッド10B)が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。よって、レーザ加工ヘッド10Aは、集光部14をその光軸に垂直な方向に沿って移動させるのに好適である。
【0059】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12が、第5壁部25に設けられており、Y方向において第4壁部24側に片寄っている。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第3壁部23側の領域に他の構成(例えば、回路部19)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0060】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、集光部14が、X方向において第2壁部22側に片寄っている。これにより、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第2壁部22側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。
【0061】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12が、第5壁部25に設けられており、X方向において第2壁部22側に片寄っている。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域に他の構成(例えば、測定部16及び観察部17)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0062】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、測定部16及び観察部17が、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域に配置されており、回路部19が、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第3壁部23側に配置されており、ダイクロイックミラー15が、筐体11内において調整部13と集光部14との間に配置されている。これにより、筐体11内の領域を有効に利用することができる。更に、レーザ加工装置1において、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいた加工が可能となる。また、レーザ加工装置1において、対象物100の表面の観察結果に基づいた加工が可能となる。
【0063】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、回路部19が、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。これにより、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいてレーザ光L1の集光点の位置を調整することができる。
【0064】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33が、Z方向に沿って延在する直線A1上に配置されており、調整部13の反射型空間光変調器34、結像光学系35及び集光部14、並びに、集光部14が、Z方向に沿って延在する直線A2上に配置されている。これにより、アッテネータ31、ビームエキスパンダ32、反射型空間光変調器34及び結像光学系35を有する調整部13をコンパクトに構成することができる。
【0065】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、直線A1が、直線A2に対して第2壁部22側に位置している。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域において、集光部14を用いた他の光学系(例えば、測定部16及び観察部17)を構成する場合に、当該他の光学系の構成の自由度を向上させることができる。
【0066】
以上の作用及び効果は、レーザ加工ヘッド10Bによっても同様に奏される。
【0067】
また、レーザ加工装置1では、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14が、レーザ加工ヘッド10Aの筐体11においてレーザ加工ヘッド10B側に片寄っており、レーザ加工ヘッド10Bの集光部14が、レーザ加工ヘッド10Bの筐体11においてレーザ加工ヘッド10A側に片寄っている。これにより、1対のレーザ加工ヘッド10A,10BのそれぞれをY方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14とレーザ加工ヘッド10Bの集光部14とを互いに近付けることができる。よって、レーザ加工装置1によれば、対象物100を効率良く加工することができる。
【0068】
また、レーザ加工装置1では、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
【0069】
また、レーザ加工装置1では、支持部7が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動し、Z方向に平行な軸線を中心線として回転する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
[変形例]
【0070】
例えば、
図6に示されるように、入射部12、調整部13及び集光部14は、Z方向に沿って延在する直線A上に配置されていてもよい。これによれば、調整部13をコンパクトに構成することができる。その場合、調整部13は、反射型空間光変調器34及び結像光学系35を有していなくてもよい。また、調整部13は、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32を有していてもよい。これによれば、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32を有する調整部13をコンパクトに構成することができる。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。
【0071】
また、筐体11は、第1壁部21、第2壁部22、第3壁部23及び第5壁部25の少なくとも1つがレーザ加工装置1の取付部65(又は取付部66)側に配置された状態で筐体11が取付部65(又は取付部66)に取り付けられるように、構成されていればよい。また、集光部14は、少なくともY方向において第4壁部24側に片寄っていればよい。これらによれば、Y方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。また、Z方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、対象物100に集光部14を近付けることができる。
【0072】
また、集光部14は、X方向において第1壁部21側に片寄っていてもよい。これによれば、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第1壁部21側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。その場合、入射部12は、X方向において第1壁部21側に片寄っていてもよい。これによれば、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第2壁部22側の領域に他の構成(例えば、測定部16及び観察部17)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0073】
また、光源ユニット8の出射部81aからレーザ加工ヘッド10Aの入射部12へのレーザ光L1の導光、及び光源ユニット8の出射部82aからレーザ加工ヘッド10Bの入射部12へのレーザ光L2の導光の少なくとも1つは、ミラーによって実施されてもよい。
図7は、レーザ光L1がミラーによって導光されるレーザ加工装置1の一部分の正面図である。
図7に示される構成では、レーザ光L1を反射するミラー3が、Y方向において光源ユニット8の出射部81aと対向し且つZ方向においてレーザ加工ヘッド10Aの入射部12と対向するように、移動機構6の移動部63に取り付けられている。
【0074】
図7に示される構成では、移動機構6の移動部63をY方向に沿って移動させても、Y方向においてミラー3が光源ユニット8の出射部81aと対向する状態が維持される。また、移動機構6の取付部65をZ方向に沿って移動させても、Z方向においてミラー3がレーザ加工ヘッド10Aの入射部12と対向する状態が維持される。したがって、レーザ加工ヘッド10Aの位置によらず、光源ユニット8の出射部81aから出射されたレーザ光L1を、レーザ加工ヘッド10Aの入射部12に確実に入射させることができる。しかも、光ファイバ2による導光が困難な高出力長短パルスレーザ等の光源を利用することもできる。
【0075】
また、
図7に示される構成では、ミラー3は、角度調整及び位置調整の少なくとも1つが可能となるように、移動機構6の移動部63に取り付けられていてもよい。これによれば、光源ユニット8の出射部81aから出射されたレーザ光L1を、レーザ加工ヘッド10Aの入射部12に、より確実に入射させることができる。
【0076】
また、光源ユニット8は、1つの光源を有するものであってもよい。その場合、光源ユニット8は、1つの光源から出力されたレーザ光の一部を出射部81aから出射させ且つ当該レーザ光の残部を出射部82bから出射させるように、構成されていればよい。
【0077】
また、レーザ加工装置1は、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えていてもよい。1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1でも、集光部14の光軸に垂直なY方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。よって、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1によっても、対象物100を効率良く加工することができる。また、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1において、取付部65がZ方向に沿って移動すれば、対象物100をより効率良く加工することができる。また、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1において、支持部7が、X方向に沿って移動し、Z方向に平行な軸線を中心線として回転すれば、対象物100をより効率良く加工することができる。
【0078】
また、レーザ加工装置1は、3つ以上のレーザ加工ヘッドを備えていてもよい。
図8は、2対のレーザ加工ヘッドを備えるレーザ加工装置1の斜視図である。
図8に示されるレーザ加工装置1は、複数の移動機構200,300,400と、支持部7と、1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、1対のレーザ加工ヘッド10C,10Dと、光源ユニット(図示省略)と、を備えている。
【0079】
移動機構200は、X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれの方向に沿って支持部7を移動させ、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0080】
移動機構300は、固定部301と、1対の取付部(第1取付部、第2取付部)305,306と、を有している。固定部301は、装置フレーム(図示省略)に取り付けられている。1対の取付部305,306のそれぞれは、固定部301に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。
【0081】
移動機構400は、固定部401と、1対の取付部(第1取付部、第2取付部)405,406と、を有している。固定部401は、装置フレーム(図示省略)に取り付けられている。1対の取付部405,406のそれぞれは、固定部401に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、X方向に沿って移動することができる。なお、固定部401のレールは、固定部301のレールと立体的に交差するように配置されている。
【0082】
レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構300の取付部305に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Aから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構300の取付部306に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Bから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。
【0083】
レーザ加工ヘッド10Cは、移動機構400の取付部405に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Cは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Cから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。レーザ加工ヘッド10Dは、移動機構400の取付部406に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Dは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Dから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。
【0084】
図8に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成は、
図1に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成と同様である。
図8に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10C,10Dの構成は、
図1に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10BをZ方向に平行な軸線を中心線として90°回転した場合の1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成と同様である。
【0085】
例えば、レーザ加工ヘッド10Cの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10D側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Cの集光部14は、Y方向において第4壁部24側(すなわち、レーザ加工ヘッド10D側)に片寄っている。
【0086】
レーザ加工ヘッド10Dの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10C側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Dの集光部14は、Y方向において第4壁部24側(すなわち、レーザ加工ヘッド10C側)に片寄っている。
【0087】
以上により、
図8に示されるレーザ加工装置1では、1対のレーザ加工ヘッド10A,10BのそれぞれをY方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14とレーザ加工ヘッド10Bの集光部14とを互いに近付けることができる。また、1対のレーザ加工ヘッド10C,10DのそれぞれをX方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Cの集光部14とレーザ加工ヘッド10Dの集光部14とを互いに近付けることができる。
【0088】
また、レーザ加工ヘッド及びレーザ加工装置は、対象物100の内部に改質領域を形成するためのものに限定されず、他のレーザ加工を実施するためのものであってもよい。
【0089】
次に、実施形態を説明する。以下、上述した実施形態と重複する説明は省略する。
【0090】
図9に示されるレーザ加工装置101は、対象物100に集光位置(少なくとも集光領域の一部,集光点)を合わせてレーザ光を照射することにより、対象物100に改質領域を形成する装置である。レーザ加工装置101は、トリミング加工、放射カット加工及び剥離加工を対象物100に施し、半導体デバイスを取得(製造)する。トリミング加工は、対象物100において不要部分を除去するための加工である。放射カット加工は、トリミング加工で除去する当該不要部分を分離するための加工である。剥離加工は、対象物100の一部分を剥離するための加工である。
【0091】
対象物100は、例えば円板状に形成された半導体ウェハを含む。対象物としては特に限定されず、種々の材料で形成されていてもよいし、種々の形状を呈していてもよい。対象物100の表面100aには、機能素子(不図示)が形成されている。機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。
【0092】
図10(a)及び
図10(b)に示されるように、対象物100には、有効領域R及び除去領域Eが設定されている。有効領域Rは、取得する半導体デバイスに対応する部分である。有効領域Rは、デバイス領域である。例えば有効領域Rは、対象物100を厚さ方向から見て中央部分を含む円板状の部分である。有効領域Rは、除去領域Eよりも内側の内側領域である。除去領域Eは、対象物100における有効領域Rよりも外側の領域である。除去領域Eは、対象物100において有効領域R以外の外縁部分である。例えば除去領域Eは、有効領域Rを囲う円環状の部分である。除去領域Eは、対象物100を厚さ方向から見て周縁部分(外縁のベベル部)を含む。除去領域Eは、放射カット加工の対象となる放射カット領域である。
【0093】
対象物100には、剥離予定面としての仮想面M1が設定されている。仮想面M1は、剥離加工による改質領域の形成を予定する面である。仮想面M1は、対象物100のレーザ光入射面である裏面100bに対向する面である。仮想面M1は、裏面100bに平行な面であり、例えば円形状を呈している。仮想面M1は、仮想的な領域であり、平面に限定されず、曲面ないし3次元状の面であってもよい。有効領域R、除去領域E及び仮想面M1の設定は、制御部9において行うことができる。有効領域R、除去領域E及び仮想面M1は、座標指定されたものであってもよい。
【0094】
対象物100には、トリミング予定ラインとしてのライン(環状ライン)M2が設定されている。ラインM2は、トリミング加工による改質領域の形成を予定するラインである。ラインM2は、対象物100の外縁の内側において環状に延在する。ここでのラインM2は、円環状に延在する。ラインM2は、対象物100の内部における仮想面M1よりもレーザ光入射面とは反対側の部分にて、有効領域Rと除去領域Eとの境界に設定されている。ラインM2の設定は、制御部9において行うことができる。ラインM2は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。ラインM2は、座標指定されたものであってもよい。ラインM2の設定に関する説明は、後述のラインM3~M4においても同様である。
【0095】
対象物100には、放射カット予定ラインとしてのライン(直線状ライン)M3が設定されている。ラインM3は、放射カット加工による改質領域の形成を予定するラインである。ラインM3は、レーザ光入射面から見て、対象物100の径方向に沿う直線状(放射状)に延在する。ラインM3は、レーザ光入射面から見て、除去領域Eが周方向に等分割(ここでは四分割)するように複数設定されている。図示する例では、ラインM3は、レーザ光入射面から見て、一方向に延びるラインM3a,M3bと、一方向に直交する他方向に延びるラインM3c,M3dと、を含む。
【0096】
図9に示されるように、レーザ加工装置101は、ステージ107、レーザ加工ヘッド10A、第1Z軸レール106A、Y軸レール108、撮像部110、GUI(Graphical User Interface)111、及び、制御部9を備える。ステージ107は、対象物100を支持する支持部である。ステージ107は、上記支持部7(
図1参照)と同様に構成されている。ステージ107の支持面107aには、対象物100の裏面100bをレーザ光入射面側である上側にした状態(表面100aをステージ107側である下側にした状態)で、対象物100が載置される。ステージ107は、その中心に設けられた回転軸Cを有する。回転軸Cは、集光部14の光軸方向であるZ方向に沿って延びる軸である。ステージ107は、回転軸Cを中心に回転可能である。ステージ107は、モータ等の公知の駆動装置の駆動力により回転駆動される。
【0097】
レーザ加工ヘッド10Aは、ステージ107に載置された対象物100に集光部14を介してレーザ光L1(
図11(a)参照)をZ方向に沿って照射し、当該対象物100の内部に改質領域を形成する。レーザ加工ヘッド10Aは、第1Z軸レール106A及びY軸レール108に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、モータ等の公知の駆動装置の駆動力により、第1Z軸レール106Aに沿ってZ方向に直線的に移動可能である。レーザ加工ヘッド10Aは、モータ等の公知の駆動装置の駆動力により、Y軸レール108に沿ってY方向に直線的に移動可能である。レーザ加工ヘッド10Aは、照射部を構成する。集光部14は、集光レンズを含む。
【0098】
レーザ加工ヘッド10Aは、反射型空間光変調器34及び測距センサ36を備える。反射型空間光変調器34は、レーザ光L1の光軸に垂直な面内における集光点の形状(以下、「ビーム形状」ともいう)を成形する成形部を構成する。反射型空間光変調器34は、ビーム形状が長手方向を有するようにレーザ光L1を成形する。例えば反射型空間光変調器34は、ビーム形状を楕円形状とする変調パターンを液晶層に表示させることで、ビーム形状を楕円形状へ成形する。
【0099】
測距センサ36は、対象物100のレーザ光入射面に対して測距用レーザ光を出射し、当該レーザ光入射面によって反射された測距用の光を検出することで、対象物100のレーザ光入射面の変位データを取得する。測距センサ36としては、レーザ光L1と別軸のセンサである場合、三角測距方式、レーザ共焦点方式、白色共焦点方式、分光干渉方式、非点収差方式等のセンサを利用することができる。測距センサ36としては、レーザ光L1と同軸のセンサである場合、非点収差方式等のセンサを利用することができる。レーザ加工ヘッド10Aの回路部19(
図3参照)は、測距センサ36で取得した変位データに基づいて、集光部14がレーザ光入射面に追従するように駆動部18を駆動させる。これにより、対象物100のレーザ光入射面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように、当該変位データに基づき集光部14がZ方向に沿って移動する。このような測距センサ36及びその制御(以下、「追従制御」ともいう)については、他のレーザ加工ヘッドにおいても同様である。
【0100】
第1Z軸レール106Aは、Z方向に沿って延びるレールである。第1Z軸レール106Aは、取付部65を介してレーザ加工ヘッド10Aに取り付けられている。第1Z軸レール106Aは、レーザ光L1の集光位置がZ方向(仮想面M1と交差する方向)に沿って移動するように、レーザ加工ヘッド10AをZ方向に沿って移動させる。Y軸レール108は、Y方向に沿って延びるレールである。Y軸レール108は、第1Z軸レール106Aに取り付けられている。Y軸レール108は、レーザ光L1の集光位置がY方向(仮想面M1に沿う方向)に沿って移動するように、レーザ加工ヘッド10AをY方向に沿って移動させる。第1Z軸レール106A及びY軸レール108は、上記移動機構6(
図1参照)又は上記移動機構300(
図8参照)のレールに対応する。第1Z軸レール106A及びY軸レール108は、集光部14によるレーザ光L1の集光位置が移動するようにステージ107及びレーザ加工ヘッド10Aの少なくとも一方を移動させる。以下、集光部14によるレーザ光L1の集光位置を単に「集光位置」ともいう。
【0101】
撮像部110は、レーザ光L1の入射方向に沿う方向から対象物100を撮像する。撮像部110は、アライメントカメラAC及び撮像ユニットIRを含む。アライメントカメラAC及び撮像ユニットIRは、レーザ加工ヘッド10Aと共に取付部65に取り付けられている。アライメントカメラACは、例えば、対象物100を透過する光を用いてデバイスパターン等を撮像する。これにより得られる画像は、対象物100に対するレーザ光L1の照射位置のアライメントに供される。
【0102】
撮像ユニットIRは、対象物100を透過する光により対象物100を撮像する。例えば、対象物100がシリコンを含むウェハである場合、撮像ユニットIRにおいては近赤外領域の光が用いられる。撮像ユニットIRは、光源と、対物レンズと、光検出部と、を有する。光源は、対象物100に対して透過性を有する光を出力する。光源は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、例えば近赤外領域の光を出力する。光源から出力された光は、ミラー等の光学系によって導光されて対物レンズを通過し、対象物100に照射される。対物レンズは、対象物100のレーザ光入射面とは反対側の面で反射された光を通過させる。つまり、対物レンズは、対象物100を伝搬(透過)した光を通過させる。対物レンズは、補正環を有している。補正環は、例えば対物レンズを構成する複数のレンズにおける相互間の距離を調整することにより、対象物100内において光に生じる収差を補正する。光検出部は、対物レンズを通過した光を検出する。光検出部は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光を検出する。撮像ユニットIRは、対象物100の内部に形成された改質領域、及び、改質領域から延びる亀裂の少なくとも何れかを撮像することができる。レーザ加工装置101においては、撮像ユニットIRを用いて、非破壊にてレーザ加工の加工状態を確認できる。
【0103】
GUI111は、各種の情報を表示する。GUI111は、例えばタッチパネルディスプレイを含む。GUI111には、ユーザのタッチ等の操作により、加工条件に関する各種の設定が入力される。GUI111は、ユーザからの入力を受け付ける入力部を構成する。
【0104】
制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。制御部9は、レーザ加工装置101の各部を制御し、各種の機能を実現する。
【0105】
制御部9は、ステージ107と、レーザ加工ヘッド10Aと、上記移動機構6(
図1参照)又は上記移動機構300(
図1参照)と、を少なくとも制御する。制御部9は、ステージ107の回転、レーザ加工ヘッド10Aからのレーザ光L1の照射、及び、レーザ光L1の集光位置の移動を制御する。制御部9は、ステージ107の回転量に関する回転情報(以下、「θ情報」ともいう)に基づいて、各種の制御を実行可能である。θ情報は、ステージ107を回転させる駆動装置の駆動量から取得されてもよいし、別途のセンサ等により取得されてもよい。θ情報は、公知の種々の手法により取得することができる。
【0106】
制御部9は、ステージ107を回転させながら、対象物100におけるラインM2(有効領域Rの周縁)上に集光位置を位置させた状態で、θ情報に基づいてレーザ加工ヘッド10Aにおけるレーザ光L1の照射の開始及び停止を制御することにより、有効領域Rの周縁に沿って改質領域を形成させるトリミング処理を実行する。トリミング処理は、トリミング加工を実現する制御部9の処理である。
【0107】
制御部9は、ステージ107を回転させずに、対象物100におけるラインM3上に集光位置を位置させた状態で、レーザ加工ヘッド10Aにおけるレーザ光L1の照射の開始及び停止を制御すると共に、当該レーザ光L1の集光位置をラインM3に沿って移動させることにより、ラインにM3に沿って除去領域Eに改質領域を形成させる放射カット処理を実行する。放射カット処理は、放射カット加工を実現する制御部9の処理である。
【0108】
制御部9は、ステージ107を回転させながら、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を照射させると共に、集光位置のY方向における移動を制御することにより、対象物100の内部において仮想面M1に沿って改質領域を形成させる剥離処理を実行する。剥離処理は、剥離加工を実現する制御部9の処理である。制御部9は、GUI111の表示を制御する。GUI111から入力された各種の設定に基づいて、トリミング処理、放射カット処理及び剥離処理を実行する。
【0109】
改質領域の形成及びその停止の切り替えは、次のようにして実現することができる。例えば、レーザ加工ヘッド10Aにおいて、レーザ光L1の照射(出力)の開始及び停止(ON/OFF)を切替えることで、改質領域の形成と当該形成の停止とを切り替えることが可能である。具体的には、レーザ発振器が固体レーザで構成されている場合、共振器内に設けられたQスイッチ(AOM(音響光学変調器)、EOM(電気光学変調器)等)のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光L1の照射の開始及び停止が高速に切り替えられる。レーザ発振器がファイバレーザで構成されている場合、シードレーザ、アンプ(励起用)レーザを構成する半導体レーザの出力のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光L1の照射の開始及び停止が高速に切り替えられる。レーザ発振器が外部変調素子を用いている場合、共振器外に設けられた外部変調素子(AOM、EOM等)のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光L1の照射のON/OFFが高速に切り替えられる。
【0110】
或いは、改質領域の形成及びその停止の切り替えは、次のようにして実現してもよい。例えば、シャッタ等の機械式機構を制御するによってレーザ光L1の光路を開閉し、改質領域の形成と当該形成の停止とを切り替えてもよい。レーザ光L1をCW光(連続波)へ切り替えることで、改質領域の形成を停止させてもよい。反射型空間光変調器34の液晶層に、レーザ光L1の集光状態を改質できない状態とするパターン(例えば、レーザ散乱させる梨地模様のパターン)を表示することで、改質領域の形成を停止させてもよい。アッテネータ等の出力調整部を制御し、改質領域が形成できないようにレーザ光L1の出力に低下させることで、改質領域の形成を停止させてもよい。偏光方向を切り替えることで、改質領域の形成を停止させてもよい。レーザ光L1を光軸以外の方向に散乱させて(飛ばして)カットすることで、改質領域の形成を停止させてもよい。
【0111】
次に、レーザ加工装置101を用いて、対象物100にトリミング加工、放射カット加工及び剥離加工を施し、半導体デバイスを取得(製造)するレーザ加工方法の一例について、以下に説明する。
【0112】
まず、裏面100bをレーザ光入射面側にした状態でステージ107上に対象物100を載置する。対象物100において機能素子が搭載された表面100a側は、支持基板ないしテープ材が接着されて保護されている。
【0113】
続いて、トリミング加工を実施する。トリミング加工では、制御部9によりトリミング処理(第1処理)を実行する。トリミング加工は、トリミング工程(第1工程)を含む。具体的には、トリミング加工では、
図11(a)に示されるように、ステージ107を一定の回転速度で回転しながら、ラインM2上に集光位置P1を位置させた状態で、θ情報に基づいてレーザ加工ヘッド10Aにおけるレーザ光L1の照射の開始及び停止を制御する。これにより、
図11(b)及び11(c)に示されるように、ラインM2に沿って改質領域4を形成する。形成した改質領域4は、改質スポット及び改質スポットから延びる亀裂を含む。
【0114】
続いて、放射カット加工を実施する。放射カット加工では、制御部9により放射カット処理(第2処理)を実行する。放射カット加工は、放射カット工程(第2工程)を含む。具体的には、放射カット加工では、
図11(b)及び
図12(a)に示されるように、ステージ107を回転させずに、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を照射すると共に、集光位置P1がラインM3a,M3bに沿って移動するように、レーザ加工ヘッド10AをY軸レール108に沿って移動する。ステージ107を90度回転させた後、ステージ107を回転させずに、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を照射すると共に、集光位置P1がラインM3c,M3dに沿って移動するように、レーザ加工ヘッド10AをY軸レール108に沿って移動する。これにより、
図12(b)に示されるように、ラインM3に沿って改質領域4を形成する。形成した改質領域4は、改質スポット及び改質スポットから延びる亀裂を含む。この亀裂は、表面100a及び裏面100bの少なくとも何れかに到達していてもよいし、表面100a及び裏面100bの少なくとも何れかに到達していなくてもよい。その後、
図13(a)及び
図13(b)に示されるように、例えば冶具又はエアーにより、改質領域4を境界として、除去領域Eを切り分けて除去する(取り除く)。
【0115】
続いて、剥離加工を実施する。具体的には、
図13(c)に示されるように、ステージ107を一定の回転速度で回転させながら、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を照射すると共に、集光位置P1が仮想面M1の外縁側から内側にY方向に沿って移動するように、レーザ加工ヘッド10AをY軸レール108に沿って移動する。これにより、
図13(a)及び
図13(b)に示されるように、対象物100の内部において仮想面M1に沿って、回転軸C(
図9参照)の位置を中心とする渦巻き状(インボリュート曲線)に延びる改質領域4を形成する。形成した改質領域4は、複数の改質スポットを含む。
【0116】
続いて、
図14(c)に示されるように、例えば吸着冶具により、仮想面M1に渡る改質領域4を境界として、対象物100の一部を剥離する。対象物100の剥離は、ステージ107上で実施してもよいし、剥離専用のエリアに移動させて実施してもよい。対象物100の剥離は、エアーブロー又はテープ材を利用して剥離してもよい。外部応力だけで対象物100を剥離できない場合には、対象物100に反応するエッチング液(KOH又はTMAH等)で改質領域4を選択的にエッチングしてもよい。これにより、対象物100を容易に剥離することが可能となる。
図14(d)に示されるように、対象物100の剥離面100hに対して仕上げの研削、ないし砥石等の研磨材KMによる研磨を行う。エッチングにより対象物100を剥離している場合、当該研磨を簡略化することができる。以上の結果、半導体デバイス100Kが取得される。
【0117】
次に、剥離加工に関して、詳説する。
【0118】
レーザ加工装置101及びそれにより実施されるレーザ加工方法では、対象物100に集光領域の一部を合わせてレーザ光を照射することにより、対象物100の内部において仮想面M1に沿って改質領域4を形成する。レーザ加工装置101は、上述したように、ビーム形状が長手方向を有するようにレーザ光L1を成形する成形部として、反射型空間光変調器34を備える。
【0119】
図15及び
図16(a)に示されるように、反射型空間光変調器34により成形するビーム形状71は、楕円形状である。ビーム形状71は、楕円率が0.88~0.95の形状である。楕円率とは、ビーム形状71における長手方向の長さと短手方向の長さとの比である。なお、ビーム形状71は、楕円形状に限定されず、長尺形状であればよい。ビーム形状は、扁平円形状、長円形状又はトラック形状であってもよい。ビーム形状は、長尺な三角形形状、矩形形状又は多角形形状であってもよい。例えばビーム形状71は、楕円の一部が欠けたような形状であってもよい(
図16(b)参照)。このようなビーム形状71を実現する反射型空間光変調器34の変調パターンは、スリットパターン及び非点パターンの少なくとも何れかを含んでいてもよい。レーザ光L1が非点収差等によって複数の集光点を有する場合、複数の集光点のうち、レーザ光L1の光路における最も上流側の集光点の形状が、本実施形態のビーム形状71であってもよい。ここでの長手方向は、ビーム形状71に係る楕円形状の長軸方向であり、楕円長軸方向とも称される。
【0120】
楕円形状のビーム形状71は、集光領域(集光する領域)の一部の形状であればよい。ビーム形状71の平面内のビーム強度分布では、長手方向に強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向と一致する。反射型空間光変調器34の変調パターンを調整することによって、Z方向におけるビーム形状71となる位置を所望に制御することができる。成形部としては、反射型空間光変調器34に限定されず、スリット光学系(機械的スリット等を含む)又は非点収差光学系(シリンドリカルレンズ等を含む)であってもよい。
【0121】
ビーム形状71が有する長手方向は、加工進行方向に対して45°以上傾いた方向である。加工進行方向は、レーザ光L1の集光領域の一部の移動方向である。加工進行方向は、後述のラインM4の延在方向である。以下、加工進行方向に対してビーム形状71の長手方向が傾く角度を、「ビーム回転角度」ともいう。本実施形態では、ビーム形状71が有する長手方向は、加工進行方向の垂直方向に沿う方向である。つまり、ビーム回転角度は90°である。
【0122】
制御部9は、反射型空間光変調器34を制御し、ビーム形状が上述したような長手方向を有するようにレーザ光L1を成形させる。制御部9は、対象物100おいて周縁から内側に向かって渦巻き状に延在するライン(加工用ライン)M4に沿って、集光点を相対的に移動させ、対象物100の内部に改質領域4を形成させる。ラインM4は、仮想面M1上の有効領域Rに設定されている。ラインM4は、対象物100の中心位置を中心とする渦巻き状に延びる。
【0123】
GUI111は、ビーム形状71に関する情報、ビーム回転角度に関する情報、及び、反射型空間光変調器34の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかの入力を、ユーザから受付け可能である。制御部9は、GUI111の入力に基づいて、レーザ加工装置101の各種の動作を制御する。
【0124】
剥離加工では、まず、ステージ107を一定の回転速度で回転させる。レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を照射させる(照射工程)。これと共に、レーザ加工ヘッド10AをY軸レール108に沿って移動させ、レーザ光L1の集光点を仮想面M1の外縁側から内側にY方向に沿って移動させる(移動工程)。これにより、ラインM4に沿ってレーザ光L1の集光点を相対的に移動させる。ここで、照射工程では、制御部9により反射型空間光変調器34を制御し、ビーム回転角度が90°となる長手方向をビーム形状71が有するようにレーザ光L1を成形する(成形工程)。以上により、対象物100の内部の仮想面M1上に、ラインM4に沿って改質領域4を形成する。
【0125】
図17(a)は、円形状のビーム形状のレーザ光を用いた比較例に係る剥離加工結果を説明する図である。
図17(b)は、楕円形状で且つビーム回転角度が90°のビーム形状71のレーザ光L1を用いた本実施形態に係る剥離加工結果を説明する図である。
図17(a)及び
図17(b)は、仮想面M1に沿った断面の断面図である。加工インデックス方向は、レーザ光入射面から見てラインM4の延在方向に直交する方向である。ここでの加工インデックス方向は、Y方向において対象物100の周縁から内側に向かう方向である。
【0126】
比較例に係る剥離加工結果では、少ないエネルギで円形の改質スポットS1を形成できるが、
図17(a)に示されるように、改質スポットS1から仮想面M1に沿って伸びる亀裂C1が繋がりにくい。一方、本実施形態では、ビーム形状71の楕円形状に対応する改質スポットS2を形成でき、この改質スポットS2から仮想面M1に沿って伸びる亀裂C2は、ビーム形状71の長手方向に対応する改質スポットS2の長手方向に伸びやすいことが見出される。当該長手方向は、加工進行方向と交差する方向であることから、加工進行方向と交差する方向への亀裂C2を伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展を促すことができる。
【0127】
したがって、本実施形態によれば、例えば、加工進行方向と交差する方向(ここでは、加工インデックス方向)における改質スポットS2の間隔(ラインM4の間隔)を広くしても、仮想面M1に沿って亀裂C2を十分に進展させることが可能となる。その結果、対象物100の内部において仮想面M1に沿って改質領域4を形成する場合において、タクトアップを実現することが可能となる。
【0128】
以下の第1剥離加工結果(表1参照)は、第1比較例及び第1実施例に係る剥離加工の結果である。第1比較例及び第1実施例では、次の条件を共通加工条件としている。すなわち、レーザ光L1を2分岐しており、分岐距離Xを100μmとし、分岐距離Yを60μmとしている。分岐距離Xは、レーザ光L1を2分岐して成る2つのビーム形状71についての加工進行方向の距離であり、分岐距離Yは、当該2つのビーム形状71についての加工インデックス方向の距離である(
図18参照)。レーザ光L1の出力は3.7W、パルスエネルギ(分岐で20%ロスを想定した換算値)は18.5μJ、パルスピッチは6.25μm、周波数は80kHz、パルス幅は700nsとしている。対象物100は、その主面の面方位が[100]のウェハであって、対象物100の0°方向は110面に対応する。
[第1剥離加工結果]
【表1】
【0129】
SFC状態は、スライシングフルカット状態を意味する。スライシングフルカット状態は、仮想面M1に沿って形成された改質領域4に含まれる複数の改質スポットから伸びる亀裂が、仮想面M1に沿って伸展して互いに繋がる状態である。スライシングフルカット状態は、改質スポットから伸びる亀裂が、撮像部110で得られた画像上において左右上下に伸展し、ラインM4を跨いで繋がっている状態である。スライシングフルカット状態は、撮像部110で得られた画像上において改質スポットが確認できない状態(当該亀裂により形成された空間ないし隙間が確認される状態)である。
【0130】
上記の第1剥離加工結果によれば、ビーム形状71を長手方向を有する形状とし、当該長手方向を加工進行方向と交差する方向にすること(例えば、ビーム形状71を楕円形状とし、ビーム回転角度を90°とすること)で、ビーム形状71が円形状の場合と比べて、加工進行方向と交差する方向への亀裂を伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展を促し得ることがわかる。
【0131】
図19(a)は、楕円率とビーム形状71との関係を示す図である。
図19(b)は、楕円率及びビーム回転角度とスライシングフルカット状態の発生率とを示す図である。図中の「-」は、測定不能を表している。
図19(a)及び
図19(b)に示されるように、ビーム形状71の楕円率が0.88よりも小さい場合には、スライシングフルカット状態の発生率が極めて低いことが見出される。例えばビーム形状71の楕円率が0.59であると、スライシングフルカット状態の発生率が0%であることがわかる。ビーム形状71の楕円率が0.95よりも大きい場合には、スライシングフルカット状態の発生率が極めて低いことがわかる。例えばビーム形状71の楕円率が1(真円)であると、スライシングフルカット状態の発生率が40%であることがわかる。
【0132】
したがって、本実施形態では、集光領域の一部の形状は、楕円率が0.88~0.95の形状である。これにより、仮想面M1に沿う亀裂の進展を一層促すことができる。ビーム形状71が有する長手方向に沿って亀裂を一層伸びやすくし、スライシングフルカット状態の発生率を高めることができる。
【0133】
また、
図19(b)に示されるように、楕円形状のビーム形状71のビーム回転角度が0°であると、スライシングフルカット状態の発生率が極めて低いことがわかる。楕円形状のビーム形状71のビーム回転角度が90°であると、スライシングフルカット状態の発生率を高め得ることがわかる。なお、楕円形状のビーム形状71のビーム回転角度が0°の場合とは、ビーム形状71の長手方向が加工進行方向に沿う場合である(
図20参照)。
【0134】
以下の第2剥離加工結果(表2参照)は、ビーム回転角度を変化させた場合の剥離加工の結果である。第2剥離加工結果の共通加工条件については、パルスピッチが10μmである以外は上記の第1剥離加工結果の共通加工条件と同様である。楕円率は、0.95としている。なお、第2剥離加工結果において、例えば楕円形状のビーム形状71のビーム回転角度が60°の場合とは、加工進行方向に対してビーム形状71の長手方向が傾く角度が60°の場合である(
図21参照)。
[第2剥離加工結果]
【表2】
【0135】
上記の第2剥離加工結果によれば、ビーム回転角度を45°以上とすることで、加工進行方向と交差する方向への亀裂を一層伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展を一層促し得ることがわかる。また、ビーム回転角度を90°とすることで、加工進行方向と交差する方向への亀裂をより一層伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展をより一層促し得ることがわかる。
【0136】
したがって、本実施形態では、ビーム形状71の長手方向は、加工進行方向に対して45°以上傾いた方向である。この場合、仮想面M1に沿う亀裂の進展を一層促すことができる。本実施形態では、ビーム形状71の長手方向は、加工進行方向の垂直方向に沿う方向である。この場合、仮想面M1に沿う亀裂の進展をより一層促すことができる。
【0137】
以下の第3剥離加工結果(表3及び表4参照)は、パルスピッチを変化させた場合の剥離加工の結果である。第3剥離加工結果の共通加工条件については、パルピッチ以外は上記の第1剥離加工結果の共通加工条件と同様である。楕円率は、0.95とし、ビーム回転角度は、90°としている。
[第3剥離加工結果]
【表3】
【表4】
【0138】
上記の第3剥離加工結果によれば、パルスピッチは6.25μm~10μmとすることで、加工進行方向と交差する方向への亀裂を一層伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展を一層促し得ることがわかる。
【0139】
以下の第4剥離加工結果(表5及び表6参照)は、パルスエネルギを変化させた場合の剥離加工の結果である。第4剥離加工結果の共通加工条件については、パルスエネルギ以外は上記の第2剥離加工結果の共通加工条件と同様である。楕円率は、0.95としている。
[第3剥離加工結果]
【表5】
【表6】
【0140】
上記の第4剥離加工結果によれば、パルスエネルギを18.5μJ(16μJよりも大きく20μJよりも小さい)とすることで、加工進行方向と交差する方向への亀裂を一層伸びやすくして、仮想面M1に沿う亀裂の進展を一層促し得ることがわかる。
【0141】
本実施形態では、制御部9は、対象物100において周縁から内側に向かって渦巻き状に延在するラインM4に沿って、集光領域の一部を相対的に移動させ、対象物100の内部に改質領域4を形成する。これにより、仮想面M1に渡る改質領域4及び改質領域4から伸びる亀裂を境界として、対象物100の一部を精度よく剥離することができる。
【0142】
本実施形態では、ビーム形状71に関する情報、ビーム回転角度に関する情報、及び、反射型空間光変調器34の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかの入力を、ユーザから受付け可能なGUI111を備える。制御部9は、GUI111の入力に基づいて、ステージ107の回転、レーザ加工ヘッド10AからのレーザL1の照射、及び、レーザ加工ヘッド10AのY軸レール108に沿った移動を制御する。これにより、剥離加工を実施するに当たり、ビーム形状71に関する情報、ビーム回転角度に関する情報、及び、反射型空間光変調器34の設定に関する情報のうちの少なくとも何れかを所望に設定することができる。仮想面M1に沿う亀裂の進展を促すように、ビーム形状71及びビーム回転角度等を容易に調整することができる。
【0143】
図22は、GUI111のタッチパネル111aに表示する設定画面の例を示す図である。GUI111のタッチパネル111aによれば、各種の詳細設定を表示及び入力することができる。
図22に示されるように、GUI111を介して表示及び入力させる設定の項目例は、例えば、対象物100の厚さ、反射型空間光変調器34のXオフセット、反射型空間光変調器34のYオフセット、ビーム形状、ビーム回転角度、加工インデックスを含む。また、GUI111を介して表示及び入力させる設定の項目例は、例えば、焦点数、分岐距離X、分岐距離Y、レーザ光L1のパルス幅、周波数、加工深さ、加工速度、レーザ光L1の出力、集光補正レベルを含む。
【0144】
反射型空間光変調器34のXオフセットは、液晶層において変調パターンを表示させる際の液晶層の基準位置を、所定方向にオフセットとさせる距離である。反射型空間光変調器34のYオフセットは、液晶層において変調パターンを表示させる際の液晶層の基準位置を、当該所定方向の直交方向にオフセットとさせる距離である。加工インデックスは、加工インデックス方向において隣接する一対の改質スポットの間の距離である。集光補正レベルは、加工位置における収差補正の強さの程度であり、数字が大きいほど収差補正が大きい。各種の入力は、ユーザが値を指定、ユーザがドロップダウンで選択、又は、自動選択することによって実現できる。
【0145】
ビーム形状の入力では、楕円と真円とを指定ないし選択させてもよいし、楕円率又はそれを実現する変調パターン名を指定ないし選択させてもよいし、変調パターンの強度を指定ないし選択させてもよい。出力は、レーザ光L1のトータルの出力であってもよいし、レーザ光L1を分岐して成る各ビームの出力であってもよい。分岐距離X及び分岐距離Yの入力では、値を指定させてもよいし、有り無しを選択させてもよい。
【0146】
図23は、GUI111のタッチパネル111aに表示する設定画面の他の例を示す図である。
図23に示されるように、GUI111を介して表示及び入力させる設定の項目例は、
図22に示される例に対して、ビーム形状及びビーム回転角度を含まず、スリットを含む。スリットは、ビーム形状71が上述の長手方向を有する形状となるようにレーザ光L1を成形する成形部に対応する項目である。スリットの入力では、有り無しを選択させてもよいし、所望のビーム形状71とすべくスリット幅を入力又は選択させてもよい。
【0147】
[変形例]
以上、本発明の一態様は、上述した実施形態に限定されない。
【0148】
上記実施形態では、剥離加工により対象物100を剥離する前に、改質領域4を形成するトリミング加工及び放射カット加工を行ったが、剥離加工、トリミング加工及び放射カット加工の実施順は順不同である。トリミング加工及び放射カット加工の少なくとも何れかは実施しなくてもよい。
【0149】
上記実施形態では、剥離加工において改質領域4を形成するための加工用ラインとして渦巻き状のラインM4を設定したが、これに限定されず、種々の形状の加工用ラインが対象物100に設定されていてもよい。例えば、直線状の複数のライン(並行ライン)が、所定方向に並ぶように対象物100に設定されていてもよい。
【0150】
上記実施形態は、照射部として複数のレーザ加工ヘッドを備えていてもよい。照射部として複数のレーザ加工ヘッドを備える場合、複数のレーザ加工ヘッドの少なくとも何れかを用いて上述のレーザ加工を実施してもよい。
【0151】
上記実施形態では、反射型空間光変調器34を採用したが、空間光変調器は反射型のものに限定されず、透過型の空間光変調器を採用してもよい。上記実施形態では、対象物100の種類、対象物100の形状、対象物100のサイズ、対象物100が有する結晶方位の数及び方向、並びに、対象物100の主面の面方位は特に限定されない。
【0152】
上記実施形態では、対象物100の裏面100bをレーザ光入射面としたが、対象物100の表面100aをレーザ光入射面としてもよい。上記実施形態では、改質領域4は、例えば対象物100の内部に形成された結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域であってもよい。結晶領域は、対象物100の加工前の構造を維持している領域である。再結晶領域は、一旦は蒸発、プラズマ化あるいは溶融した後、再凝固する際に単結晶あるいは多結晶として凝固した領域である。ゲッタリング領域は、重金属等の不純物を集めて捕獲するゲッタリング効果を発揮する領域であり、連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。上記実施形態は、アブレーション等の加工へ適用されてもよい。
【0153】
上記実施形態では、ビーム回転角度は特に限定されず、加工進行方向から傾く角度であればよい。上記実施形態では、対象物100に照射されるレーザ光L1の偏光方向は特に限定されないが、例えば偏光方向は加工進行方向に沿う方向としてもよい。レーザ光L1の偏光方向は、種々の公知技術により調整できる。
【0154】
上述した実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0155】
1,101…レーザ加工装置、4…改質領域、6,300…移動機構、9…制御部、10A,10B…レーザ加工ヘッド(照射部)、34…反射型空間光変調器(成形部)、71…ビーム形状(集光領域の一部の形状)、100…対象物、100a…表面、100b…裏面(レーザ光入射面)、107…ステージ(支持部)、108…Y軸レール(移動機構)、111…GUI(入力部)、L1…レーザ光(レーザ光)、M1…仮想面、M4…ライン(加工用ライン)。