(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】摩耗状態検知装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B60C19/00 B
(21)【出願番号】P 2020012332
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
(72)【発明者】
【氏名】不藤 平四郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 英司
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 真哉
(72)【発明者】
【氏名】戸張 博之
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕樹
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0023693(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0247780(US,A1)
【文献】特表2012-516258(JP,A)
【文献】特開2006-193119(JP,A)
【文献】特開2014-178271(JP,A)
【文献】特開2007-153034(JP,A)
【文献】特開2017-043343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0305818(US,A1)
【文献】特開2007-331292(JP,A)
【文献】特開2015-116689(JP,A)
【文献】特開2009-298327(JP,A)
【文献】特開2011-189795(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008502(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0067431(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0318356(US,A1)
【文献】特表2003-526560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/24
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて電圧を発生させる素子と、該素子により生じた電圧を検出する電圧検出部と、
車両速度又はタイヤ回転速度を検出する速度検出部と、該速度検出部により検出された車両速度又はタイヤ回転速度と前記電圧検出部により検出された電圧の経時的な波形データ
とを
紐付けて一体的に記憶する記憶領域と、該記憶領域に記憶された
所定の速度範囲における前記波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部と、該演算部により演算された指標値を
前記所定の速度範囲に対応する参照情報と比較して前記トレッド部の摩耗の進行状態を判定する判定部とを備え、
前記所定の速度範囲が30km/h~60km/hの範囲内の任意の速度から±5km/hの範囲であり、前記参照情報が新品時の電圧変化の指標値に対する任意の変化率であり、
少なくとも前記素子及び前記電圧検出部を含むセンサモジュールは該センサモジュールが挿入されるコンテナを介してタイヤ内表面に固定され、前記コンテナの開口部の幅Lc1と前記センサモジュールの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たすことを特徴とする摩耗状態検知装置。
【請求項2】
タイヤ内部の空気圧を検出する空気圧検出部を有し、前記演算部が該空気圧検出部により検出された空気圧に基づいて前記波形データ又は前記波形データから得られた指標値を補正することを特徴とする請求項
1に記載の摩耗状態検知装置。
【請求項3】
前記演算部が前記電圧変化の指標値として前記波形データにおける最大値と最小値との間のピーク振幅値を算出することを特徴とする請求項1
又は2に記載の摩耗状態検知装置。
【請求項4】
前記判定部が少なくとも2回の判定作業を実行し、これら判定作業の結果に基づいて前記トレッド部の摩耗の進行状態を最終的に判定することを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項5】
前記コンテナが前記タイヤ内表面に対して接着層を介して接合され、前記タイヤ内表面の粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項6】
前記コンテナの開口部の幅Lc1と前記コンテナの底面の内幅Lc2とがLc1<Lc2の関係を満たすことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項7】
前記コンテナの開口部の幅Lc1と前記コンテナの底面の内幅Lc2と前記センサモジュールの上面の幅Ls1と前記センサモジュールの下面の幅Ls2とがLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項8】
前記コンテナの平均厚さが0.5mm~5.0mmであることを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項9】
前記センサモジュールの高さHsに対する該センサモジュールが挿入された状態における前記コンテナの高さHcの比が0.5~1.5の範囲であることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項10】
前記コンテナを構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記コンテナを構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項11】
前記センサモジュールが接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されていることを特徴とする請求項1~
10のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【請求項12】
前記素子が圧電素子であることを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載の摩耗状態検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗状態検知装置に関し、更に詳しくは、空気入りタイヤのトレッド部における摩耗の進行状態を正確に検知することを可能にした摩耗状態検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤに対して加速度センサを設置して加速度を測定し、その測定結果に基づいてタイヤの摩耗状態を評価することが行われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような加速度センサに基づく測定結果にはノイズ(電気信号の乱れ等)が多く含まれることから、タイヤの摩耗状態を正確に評価するにあたって、測定データの補正やマスキング等の付加作業が増え、評価方法が煩雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、空気入りタイヤのトレッド部における摩耗の進行状態を正確に検知することを可能にした摩耗状態検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の摩耗状態検知装置は、タイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて電圧を発生させる素子と、該素子により生じた電圧を検出する電圧検出部と、車両速度又はタイヤ回転速度を検出する速度検出部と、該速度検出部により検出された車両速度又はタイヤ回転速度と前記電圧検出部により検出された電圧の経時的な波形データとを紐付けて一体的に記憶する記憶領域と、該記憶領域に記憶された所定の速度範囲における前記波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部と、該演算部により演算された指標値を前記所定の速度範囲に対応する参照情報と比較して前記トレッド部の摩耗の進行状態を判定する判定部とを備え、前記所定の速度範囲が30km/h~60km/hの範囲内の任意の速度から±5km/hの範囲であり、前記参照情報が新品時の電圧変化の指標値に対する任意の変化率であり、少なくとも前記素子及び前記電圧検出部を含むセンサモジュールは該センサモジュールが挿入されるコンテナを介してタイヤ内表面に固定され、前記コンテナの開口部の幅Lc1と前記センサモジュールの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、タイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて素子が発生させる電圧はノイズが少なく、計測及び解析が可能であると共に、そのような電圧はトレッド部における摩耗状態を判断するための有効な指標になることを知見し、本発明に至ったのである。
【0007】
即ち、本発明では、タイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて電圧を発生させる素子と、素子により生じた電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部により検出された電圧の経時的な波形データを記憶する記憶領域と、記憶領域に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部と、演算部により演算された指標値を参照情報と比較してトレッド部の摩耗の進行状態を判定する判定部とを備えているので、トレッド部における摩耗の進行状態を正確に検知することができる。
【0008】
本発明の摩耗状態検知装置において、車両速度又はタイヤ回転速度を検出する速度検出部を有し、記憶領域は速度検出部により検出された車両速度又はタイヤ回転速度と共に電圧検出部により検出された電圧の経時的な波形データを記憶し、演算部は記憶領域に記憶された所定の速度範囲における波形データから電圧変化の指標値を演算し、判定部は演算部により演算された指標値を所定の速度範囲に対応する参照情報と比較してトレッド部の摩耗の進行状態を判定することが好ましい。これにより、トレッド部における摩耗の進行状態の判定精度を高めることができる。
【0009】
タイヤ内部の空気圧を検出する空気圧検出部を有し、演算部は空気圧検出部により検出された空気圧に基づいて波形データ又は波形データから得られた指標値を補正することが好ましい。これにより、トレッド部における摩耗の進行状態の判定精度を高められる。
【0010】
演算部は電圧変化の指標値として波形データにおける最大値と最小値との間のピーク振幅値を算出することが好ましい。これにより、トレッド部における摩耗の進行状態の判定精度を高めることができる。
【0011】
判定部は少なくとも2回の判定作業を実行し、これら判定作業の結果に基づいてトレッド部の摩耗の進行状態を最終的に判定することが好ましい。これにより、最終的な判定結果における突発的なエラーの発生を抑制することができ、トレッド部における摩耗の進行状態の判定精度を高めることができる。
【0012】
少なくとも素子及び電圧検出部を含むセンサモジュールはセンサモジュールが挿入されるコンテナを介してタイヤ内表面に固定されていると良い。
【0013】
コンテナはタイヤ内表面に対して接着層を介して接合され、タイヤ内表面の粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることが好ましい。これにより、タイヤ内表面と接着層との接着面積を大きくすることができ、タイヤ内表面とコンテナとの接着性を効果的に改善することができる。タイヤ内表面の粗さは、ISO25178に準拠して測定されるものである。算術平均高さSaは、表面の平均面に対して各点の高さの差の絶対値の平均であり、最大高さSzは、表面の最も高い点から最も低い点までの高さ方向の距離である。
【0014】
コンテナの開口部の幅Lc1とコンテナの底面の内幅Lc2とはLc1<Lc2の関係を満たすことが好ましい。これにより、開口部の幅Lc1が相対的に小さくなるので、コンテナに収容されたセンサモジュールの脱落を防止することができ、センサモジュールの挿入時の作業性とコンテナの保持性を両立することができる。
【0015】
コンテナの開口部の幅Lc1とセンサモジュールの最大幅Lsmとは0.10≦Lc1/Lsm≦0.95の関係を満たすことが好ましい。センサモジュールの最大幅Lsmに対する開口部の幅Lc1の比を適度に設定することで、センサモジュールの脱落を効果的に防止することができ、センサモジュールの挿入時の作業性とコンテナの保持性を改善することができる。
【0016】
コンテナの開口部の幅Lc1とコンテナの底面の内幅Lc2とセンサモジュールの上面の幅Ls1とセンサモジュールの下面の幅Ls2とはLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことが好ましい。コンテナとセンサモジュールの各幅を適度に設定することで、センサモジュールの脱落を効果的に防止することができる。
【0017】
コンテナの平均厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましい。これにより、センサモジュールの挿入時の作業性とコンテナの保持性とコンテナの耐破断性とをバランス良く改善することができる。
【0018】
センサモジュールの高さHsに対するセンサモジュールが挿入された状態におけるコンテナの高さHcの比は0.5~1.5の範囲であることが好ましい。これにより、センサモジュールの脱落を効果的に防止することができる。
【0019】
コンテナを構成するゴムの破断伸びEBは50%~900%であり、コンテナを構成するゴムの300%伸張時のモジュラスは2MPa~15MPaであることが好ましい。これにより、センサモジュールの挿入時の作業性及びコンテナの保持性とコンテナの耐破断性とをバランス良く改善することができる。なお、コンテナを構成するゴムの破断伸び及び300%伸張時のモジュラスは、JIS-K6251に準拠して測定したものである。
【0020】
コンテナは接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されていることが好ましい。これにより、コンテナに挿入されたセンサモジュールがタイヤ情報を正確に取得することができる。
【0021】
上記素子は圧電素子であることが好ましい。圧電素子はタイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて電圧を発生させる構造であるので、加速度センサ等に比べて、ノイズが入りにくくなり、精密な検知が可能である。
【0022】
本発明において、接地端とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときのタイヤ軸方向の端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には250kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車である場合には前記荷重の80%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置の記憶領域に記憶された波形データの一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置を用いた検知方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】(a),(b)はそれぞれ
図2の波形データの説明図である。
【
図5】本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置を用いた検知方法の手順の変形例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置により摩耗状態が判定される空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図7】
図6の空気入りタイヤに取り付けられたコンテナを示す平面図である。
【
図8】
図6のコンテナにセンサモジュールが挿入された状態を示す斜視断面図である。
【
図9】
図6のコンテナにセンサモジュールが挿入された状態を示す断面図である。
【
図10】実施例1の空気入りタイヤにおける複数の時点での波形データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置を示すものである。
【0025】
摩耗状態検知装置10は、タイヤT(例えば、
図6参照)のトレッド部1における摩耗の進行状態を検知するにあたり、タイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づく電圧を検出し、検出された電圧の経時的な波形データから電圧変化の指標値を演算する。そして、摩耗状態検知装置10は、演算された指標値と参照情報を比較し、タイヤTのトレッド部1における摩耗の進行状態を判定する。これにより、検知対象となるタイヤTのトレッド部1における摩耗の進行状態を検知することができる。
【0026】
図1に示すように、摩耗状態検知装置10は、タイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づいて電圧を発生させる素子11と、この素子11により生じた電圧を検出する電圧検出部12と、電圧検出部12により検出された電圧の経時的な波形データを記憶する記憶領域13と、記憶領域13に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部14と、演算部14により演算された指標値を参照情報と比較してトレッド部1の摩耗の進行状態を判定する判定部15とを備える。
【0027】
摩耗状態検知装置10は、電圧検出部12の他に、車両速度又はタイヤ回転速度を検出する速度検出部16、タイヤ内部の空気圧を検出する空気圧検出部17又はタイヤ内部の温度を検出する温度検出部18を有していても良い。また、摩耗状態検知装置10には、他にも入力装置や出力装置、ディスプレイ等の装置を適宜付加することができる。
【0028】
摩耗状態検知装置10において、記憶領域13、演算部14及び判定部15は、データ処理装置19として機能する。このデータ処理装置19は、電圧検出部12を代表とする検出部から入力されるデータを処理する。データ処理装置19へのデータ入力は有線又は無線のいずれによるものであっても良い。
【0029】
また、摩耗状態検知装置10において、少なくとも素子11と電圧検出部12とを含むものとしてタイヤ情報を取得するためのセンサモジュール20を用いることができる。センサモジュール20は、素子11及び電圧検出部12と共に、空気圧検出部17と温度検出部18とを適宜含むようにセンサ類を搭載することができる。
【0030】
素子11は、電圧検出部12の構成部品であり、電圧検出部12に含まれる。素子11は、タイヤ回転中におけるトレッド部1の変形量(変形エネルギー)に比例して電圧を発生させるものであれば、特に限定されるものではない。このような素子11として、例えば、圧電素子を用いることができる。この圧電素子は、素子がタイヤ内表面に直接的又は間接的に当接するように配置され、該素子によりトレッド部1の変形を検知できるように構成されている。素子がタイヤ内表面に間接的に当接するとは、例えば、素子がセンサモジュール20の筐体を介してタイヤ内表面に当接する、或いは、素子がゴム等からなる保護層に覆われていて該素子が保護層を介してタイヤ内表面に当接する等、素子とタイヤ内表面との間に他の部材が介在していてもトレッド部1の変形を検知可能であることを意味する。このように圧電素子はタイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づいて電圧を発生させる構造であるので、ノイズが入りにくく、精密な検知が可能である。
【0031】
電圧検出部12は、帯電した素子11における電位差を検出する電位センサである。電圧検出部12は、タイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づいて電圧を発生させる素子11を含むので、ひずみを検知するひずみセンサとは異なるものである。また、速度検出部16は、車両側の速度計による測定データ(車両速度)を検出しても良く、或いはタイヤ回転速度を検出可能なセンサを用いてタイヤ回転速度を検出しても良い。更に、空気圧検出部17として圧力センサ、温度検出部18として温度センサを用いることができる。
【0032】
記憶領域13には、電圧検出部12により検出された電圧の経時的な波形データが記憶される。ここで、記憶領域13は、ハードディスク等の外部記憶装置やRAM等の内部記憶装置、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
図2は、記憶領域13に記憶された波形データを示すものである。
図2において、縦軸は電圧[V]であり、横軸は経過時間[μs]であり、タイヤTの1回転分の波形データが示されている。タイヤTが1回転する間に、タイヤTの周上の点が接地前端に位置したとき及び接地後端に位置したときに波形(電圧)がピーク(最大値又は最小値)を迎える。また、波形データd1はタイヤTの新品時のデータであり、波形データd2はタイヤTのトレッド部1の摩耗が進行した状態(摩耗後期)のデータである。即ち、タイヤTのトレッド部1の摩耗が進行すると、接地前端に位置したとき及び接地後端に位置したときの電圧のピーク値が大きくなる傾向がある。なお、
図2に示す波形データでは代表的な例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0033】
また、記憶領域13は、摩耗状態検知装置10が速度検出部16を有する場合、速度検出部16により検出された車両速度又はタイヤ回転速度と共に電圧検出部12により検出された電圧の波形データを記憶する。即ち、記憶領域13には、車両速度又はタイヤ回転速度と電圧の波形データとが紐付けられて一体的に記憶される。更に、摩耗状態検知装置10が空気圧検出部17及び温度検出部18を有する場合、記憶領域13は、空気圧検出部17及び温度検出部18により検出された空気圧及び温度と共に電圧検出部12により検出された電圧の波形データを記憶する。即ち、記憶領域13には、空気圧及び温度と電圧の波形データとが紐付けられて一体的に記憶される。
【0034】
演算部14は、記憶領域13に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算する。その際、演算部14は、記憶領域13に演算後の指標値を格納し、また格納した指標値を読み出して演算を実行することができる。ここで、電圧変化の指標値として、波形データにおける最大値と最小値との間のピーク振幅値や波形データの面積を用いることができる。また、演算部14は、記憶領域13から2つの電圧変化の指標値を読み出し、一方の電圧変化の指標値に対する他方の電圧変化の指標値の変化率を算出することもできる。演算部14は、例えば、メモリ又はCPUにより構成することができる。
【0035】
また、演算部14は、摩耗状態検知装置10が速度検出部16を有する場合、記憶領域13に記憶された所定の速度範囲の波形データから電圧変化の指標値を演算する。ここで、所定の速度範囲とは、任意の速度[km/h]から-5km/hを下限とし、任意の速度から+5km/hを上限とする速度範囲である。任意の速度としては、例えば、30km/h~60km/hの範囲内で設定することができる。
【0036】
更に、演算部14は、摩耗状態検知装置10が空気圧検出部17及び温度検出部18を有する場合、空気圧検出部17により検出された空気圧及び温度検出部18により検出された温度に基づいて、波形データ又は波形データから得られた指標値を補正することができる。その際、演算部14は、記憶領域13に記憶された波形データ又は指標値を読み出して補正を実行し、補正後の波形データ又は指標値を記憶領域13に格納する。
【0037】
判定部15は、演算部14により演算された電圧変化の指標値と参照情報とを比較し、トレッド部1の摩耗の進行状態を判定する。その際、判定部15は、記憶領域13から電圧変化の指標値を読み出して判定を実行する。電圧変化の指標値と比較する参照情報は、トレッド部1が摩耗していると判断するための基準である。参照情報として、新品時の電圧変化の指標値に対する比率を用いても良く、或いは予め設定された閾値を用いても良い。具体例には、新品時の電圧変化の指標値に対する任意の変化率[%]を設定する、或いは特定の電圧変化の指標値について事前に検証された閾値を設定することができる。なお、判定部15による判定結果は、例えば、車両に設けられたディスプレイに表示することができる。
【0038】
また、判定部15は、摩耗状態検知装置10が速度検出部16を有する場合、演算部14により演算された指標値を所定の速度範囲に対応する参照情報と比較し、トレッド部1の摩耗の進行状態を判定する。
【0039】
図3は本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置を用いた検知方法の手順を示すものである。タイヤTのトレッド部1における摩耗の進行状態を検知するにあたり、ステップS1において、摩耗状態検知装置10の電圧検出部12は、タイヤTの回転中におけるトレッド部1の変形に基づいて発生した電圧を検出する。その際、記憶領域13は、電圧検出部12により検出された電圧の経時的な波形データを記憶する。
【0040】
更に、ステップS1において、速度検出部16は車両速度又はタイヤ回転速度を検出し、記憶領域13は、速度検出部16により検出された車両速度又はタイヤ回転速度と共に電圧検出部12により検出された電圧の波形データを記憶する。また、空気圧検出部17及び温度検出部18はそれぞれ空気圧及び温度を検出し、記憶領域13は、空気圧検出部17及び温度検出部18により検出された空気圧及び温度と共に電圧検出部12により検出された電圧の波形データを記憶する。
【0041】
次にステップS2へ進み、摩耗状態検知装置10の演算部14は、空気圧検出部17及び温度検出部18により検出された空気圧及び温度に基づいて、電圧の波形データを補正する。その際、演算部14の補正作業として、例えば、空気圧検出部17により検出された空気圧が比較的低い場合、タイヤ全体の変化量が増える傾向にあるため、結果的に波形データも全体的に大きくなる傾向がある。そのため、演算部14は電圧の波形データを所定の比率で減じるように補正する。このように演算部14が補正することにより、トレッド部1における摩耗の進行状態の判定精度を高めることができる。そして、演算部14は補正後の指標値を記憶領域13に格納する。なお、タイヤ内部の空気圧はタイヤ内部の温度に応じて変動するので、温度検出部18により検出された温度は空気圧に対する補正に用いられる。
【0042】
次にステップS3へ進み、摩耗状態検知装置10の演算部14は、記憶領域13に記憶された所定の速度範囲における波形データから電圧変化の指標値を演算する。その際、演算部14は、電圧変化の指標値として波形データにおける最大値と最小値との間のピーク振幅値を算出しても良く(
図4(a)参照)、波形データの面積を算出しても良い(
図4(b)参照)。より具体的には、演算部14は、
図4(a)に示すように波形データd1のピーク振幅値P1[V]を算出する、或いは、
図4(b)に示すように波形データd1の面積(図示の斜線部の面積)を算出する。そして、演算部14は演算後の指標値を記憶領域13に格納する。なお、演算部14により算出されたピーク振幅値P1はタイヤTの新品時の値を示す。
【0043】
次にステップS4へ進み、摩耗状態検知装置10の判定部15は、演算部14により演算された指標値を参照情報と比較してトレッド部1の摩耗の進行状態を判定する。例えば、電圧変化の指標値をピーク振幅値とし、比較する参照情報を新品時のピーク振幅値に対する変化率とし、その変化率を150%に設定した場合、判定部15は、演算部14により演算されたピーク振幅値に基づく変化率と上記予め設定した変化率(150%)とを比較して大小関係を判定し、上記予め設定した変化率を超えた際に判定基準を満たすという結論を導く。このようにして判定基準を満たす場合は判定作業を終了する。一方、判定基準を満たさない場合はステップS1に戻る。
【0044】
なお、
図3の実施形態では、ステップS2で演算部14による補正を行い、ステップS3で演算部14による演算を行った例を示したが、特に限定されるものではなく、補正と演算の順序を入れ替えることができる。即ち、ステップS2で演算部14による演算を行い、ステップS3で演算部14による補正をしても良い。その場合、演算部14は、ステップ2において記憶領域13に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算し、ステップ3において波形データから得られた指標値(演算後の指標値)を補正する。
【0045】
上述した摩耗状態検知装置10では、タイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づいて電圧を発生させる素子11と、素子11により生じた電圧を検出する電圧検出部12と、電圧検出部12により検出された電圧の経時的な波形データを記憶する記憶領域13と、記憶領域13に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部14と、演算部14により演算された指標値を参照情報と比較してトレッド部1の摩耗の進行状態を判定する判定部15とを備えているので、トレッド部1における摩耗の進行状態を正確に検知することができる。
【0046】
図5は本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置を用いた検知方法の手順の変形例を示すものである。
図5において、摩耗状態検知装置10の判定部15は、少なくとも2回の判定作業を実行し、これら判定作業の結果に基づいてトレッド部1の摩耗の進行状態を最終的に判定する。
図5に示す手順は
図3に示す手順とステップS4まで同じである。ステップS4に次いでステップS5へ進み、電圧検出部12は素子11により発生した電圧を検出する。次にステップS6へ進み、演算部14は、空気圧検出部17及び温度検出部18により検出された空気圧及び温度に基づいて波形データを補正する。そして、演算部14は補正後の波形データを記憶領域13に格納する。次にステップS7へ進み、演算部14は、記憶領域13に記憶された所定の速度範囲における波形データから電圧変化の指標値を演算する。そして、演算部14は演算後の指標値を記憶領域13に格納する。次にステップS8へ進み、判定部15は、2回目の判定作業を実行する。その際、任意の判定基準を満たす場合は判定作業を終了する。一方、判定基準を満たさない場合はステップS5に戻る。ここで、判定部15が2回目の判定作業を実行するにあたって、1回目の判定作業(ステップS1~S4)と2回目の判定作業(ステップS5~S8)を同日に実行しても良く、或いは1回目の判定作業と2回目の判定作業を別日にして実行しても良い。
【0047】
上述したように判定部15が少なくとも2回の判定作業を実行することで、最終的な判定結果における突発的なエラーの発生を抑制することができ、トレッド部1における摩耗の進行状態の判定精度を高めることができる。
【0048】
なお、
図5の実施形態では、判定部15による判定回数を2回とした例を示したが、特に限定されるものではなく、複数回であれば任意の回数に設定することができる。また、
図5の実施形態では、ステップS8において判定基準を満たさない場合はステップS5に戻る例を示したが、ステップS8において判定基準を満たさない場合はステップS1に戻るように構成しても良い。
【0049】
図6は本発明の実施形態からなる摩耗状態検知装置10により判定される空気入りタイヤ(タイヤT)を示すものである。
図7~
図9はタイヤTに取り付けられたセンサモジュール20又はコンテナ30を示すものである。なお、
図7及び
図9において、矢印Tcはタイヤ周方向、矢印Twはタイヤ幅方向を示している。
【0050】
図6に示すように、タイヤTは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0051】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。そして、タイヤ内表面Tsにおける一対のビード部3,3間の領域にはインナーライナー層9が配置されている。このインナーライナー層9はタイヤ内表面Tsをなす。
【0052】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0053】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0054】
タイヤTのタイヤ内表面Tsのトレッド部1に対応する領域には、少なくとも1つのゴム製のコンテナ30が固定されている。コンテナ30にはセンサモジュール20が挿入される。コンテナ30は、センサモジュール20が挿入される開口部31を有しており、接着層32を介してタイヤ内表面Tsに接合されている。センサモジュール20はコンテナ30に対して収容自在に構成されているので、センサモジュール20の交換時期や故障時等に適宜交換することができる。また、コンテナ30がゴム製であることで、開口部31からセンサモジュール20を出し入れする際に伸び縮みするので好適である。
【0055】
コンテナ30の材料として、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を例示することができ、単独又は二種以上を混合したブレンド体を用いることができる。これらの材料はタイヤ内表面Tsを構成するブチルゴムとの接着性に優れているので、コンテナ30が上記材料から構成された場合、コンテナ30とタイヤ内表面Tsとの十分な接着性を確保することができる。
【0056】
センサモジュール20は、
図9に示すように、筐体21と電子部品22とを含むものである。筐体21は中空構造を有し、その内部に電子部品22を収容する。電子部品22は、タイヤTにおける上述した電圧や速度、空気圧、温度等のタイヤ情報を取得するためのセンサ23と共に、送信機、受信機、制御回路及びバッテリー等を適宜含むように構成することができる。センサ23として、例えば、圧電センサ(素子11及び電圧検出部12)と共に、速度センサ(速度検出部16)、圧力センサ(空気圧検出部17)又は温度センサ(温度検出部18)を用いることができる。特に、圧電センサには、タイヤ回転中のトレッド部1の変形に基づいて電圧を発生させる素子11が含まれる。この圧電センサは、圧電型の加速度センサとは異なるものである。上述した各種センサ以外に、加速度センサや磁気センサを用いることも可能である。また、センサモジュール20は、センサ23により取得されたタイヤ情報を記憶領域13に送信可能に構成されている。更に、センサモジュール20を把持し易くするため、筐体21から突出したつまみ部24を設けても良く、このつまみ部24にアンテナの機能を担持させることができる。なお、
図9に示すセンサモジュール20の内部構造はセンサモジュールの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0057】
コンテナ30は、接着層32を介してタイヤ内表面Tsに接合されている。コンテナ30は、タイヤ内表面Tsに対して接合された板状の基部33と、基部33から突出した円筒状の筒部34と、筒部34内に形成された収容部35とを有している。この収容部35は円形の開口部31に連通している。このように収容部35は、基部33を底面とし、開口部31を上面とした略四角形の断面形状を有している。収容部35には、上面がテーパ状に形成された円柱状のセンサモジュール20が収容されている。なお、基部33、筒部34及び収容部35の形状は、特に限定されるものではなく、コンテナ30に挿入されるセンサモジュール20の形状に応じて適宜変更することができる。
【0058】
接着層32は、特に限定されるものではなく、ゴム組成物を接着することができるものであれば良い。例えば、接着剤や粘着テープ、自然加硫する(常温で加硫可能な)加硫接着剤、空気入りタイヤがパンクした場合の応急処置として用いられるパンク修理剤を例示することができる。特に、接着層32として加硫接着剤を用いることが好ましく、粘着テープ等を用いてコンテナを固定する場合に必要なプライマー処理を行わずに済み、生産性を向上させることができる。なお、プライマー処理(下塗り処理)とは、タイヤ内表面に対して接着性を向上させるために予め施すものである。
【0059】
上述した空気入りタイヤでは、タイヤ内表面Tsに、センサモジュール20を挿入するための少なくとも一つのゴム製のコンテナ30を備え、コンテナ30は、タイヤ内表面Tsに対して接着層32を介して接合された板状の基部33と、基部33から突出した筒部34と、筒部34内に形成された収容部35と、収容部35に連通する開口部31とを有しているので、センサモジュール20をコンテナ30に挿入する際の作業が容易であると共に、コンテナ30の締め付けによりセンサモジュール20を確実に保持し、センサモジュール20の脱落を防止することができる。
【0060】
上記空気入りタイヤにおいて、コンテナ30はタイヤ内表面Tsに対して接着層32を介して接合され、タイヤ内表面Tsの粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることが好ましい。このようにタイヤ内表面Tsの粗さとして算術平均高さSaと最大高さSzを適度に設定することで、タイヤ内表面Tsと接着層32との接着面積を大きくすることができ、タイヤ内表面Tsとコンテナ30との接着性を効果的に改善することができる。算術平均高さSaが15.0μmを超えると共に、最大高さSzが60.0μmを超えると、接着層32がタイヤ内表面Tsの凹凸に追従することができず、接着性が低下する傾向がある。なお、算術平均高さSa及び最大高さSzは、ISO25178に準拠して測定される値であり、市販の表面性状測定機(例えば、形状解析レーザー顕微鏡や3D形状測定機)を利用して測定することができる。測定方法は接触式と非接触式のいずれであっても良い。
【0061】
図6及び
図8において、コンテナ30は接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されている。コンテナ30に挿入されたセンサモジュール20内のセンサ23がタイヤ情報を正確に取得することができる。
【0062】
上記空気入りタイヤにおいて、コンテナ30は以下のような寸法に設定すると良い。コンテナ30の開口部31の幅Lc1と、コンテナ30の底面の内幅Lc2とはLc1<Lc2の関係を満たすことが好ましい。このようにコンテナ30の底面の内幅Lc2より開口部31の幅Lc1を狭くすることで、コンテナ30の上面側の拘束力を強くし、コンテナ30に挿入されたセンサモジュール20の脱落を効果的に防止することができる。これにより、センサモジュール20の挿入時の作業性とコンテナ30の保持性を両立することができる。なお、コンテナ30における開口部31の幅Lc1及び底面の内幅Lc2は、いずれもコンテナ30にセンサモジュール20が挿入されていない状態で測定されたものである。
【0063】
また、コンテナ30の平均厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましい。このようにコンテナ30の平均厚さを適度に設定することで、センサモジュール20の挿入時の作業性とコンテナ30の保持性とコンテナ30の耐破断性とをバランス良く改善することができる。ここで、コンテナ30の平均厚さが0.5mmより薄くなるとセンサモジュール20の挿入時にコンテナ30が破断し易くなり、コンテナ30の平均厚さが5.0mmより厚くなるとコンテナ30の剛性が過度に大きくなり、センサモジュール20を容易に挿入することができない。なお、コンテナ30の平均厚さは、コンテナ30を構成するゴムの厚さを測定したものである。
【0064】
特に、コンテナ30とセンサモジュール20とは以下の寸法の関係を満たすことが望ましい。コンテナ30の開口部31の幅Lc1と、コンテナ30に挿入されるセンサモジュール20の最大幅Lsmとは0.10≦Lc1/Lsm≦0.95の関係を満たすことが好ましく、0.15≦Lc1/Lsm≦0.80の関係を満たすことがより好ましく、0.15≦Lc1/Lsm≦0.65の関係を満たすことが最も好ましい。このようにセンサモジュール20の最大幅Lsmに対するコンテナ30の開口部31の幅Lc1の比を適度に設定することで、センサモジュール20の脱落を効果的に防止することができ、センサモジュール20の挿入時の作業性とコンテナ30の保持性を改善することができる。なお、
図9のセンサモジュール20において、最大幅Lsmは下面の幅Ls2に相当する。
【0065】
また、コンテナ30の開口部31の幅Lc1とコンテナ30の底面の内幅Lc2とセンサモジュール20の上面の幅Ls1とセンサモジュール20の下面の幅Ls2とはLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことが好ましい。更に、センサモジュール20の上面がテーパ状に形成されていて、Ls1<Ls2の関係を満たすことがより好ましい。このようにコンテナ30とセンサモジュール20の各幅を適度に設定することで、センサモジュール20の脱落を効果的に防止することができる。また、センサモジュール20において、その上面から下面に向かって徐々に径が小さくなる形態を採用することもできる。この場合、Ls2<Ls1かつLs2≦Lc2かつLc1<Ls1の関係を満たすことが好ましい。
【0066】
更に、センサモジュール20の高さ(最大高さ)Hsに対するセンサモジュール20が挿入された状態におけるコンテナ30の高さHcの比は、0.5~1.5の範囲であることが好ましく、0.6~1.3の範囲であることがより好ましく、0.7~1.0の範囲であることが最も好ましい。このようにセンサモジュール20の高さHsに対するコンテナ30の高さHcの比を適度に設定することで、センサモジュール20の脱落を効果的に防止することができる。なお、センサモジュール20の高さHsは、センサモジュール20につまみ部24が設けられている場合、つまみ部24を含む高さである(
図9参照)。また、コンテナ30の高さHcは、基部33の高さを含まず、筒部34の高さである(
図9参照)。
【0067】
上記空気入りタイヤにおいて、コンテナ30を構成するゴムは以下の物性を有すると良い。破断伸びEBは50%~900%であり、300%伸張時のモジュラス(M300)は2MPa~15MPaであることが好ましい。このように破断伸びEB及びモジュラス(M300)を適度に設定することで、センサモジュール20の挿入時の作業性及びコンテナ30の保持性とコンテナ30の耐破断性とをバランス良く改善することができる。
【実施例】
【0068】
タイヤサイズ275/40R21で、タイヤ回転中のトレッド部の変形に基づいて電圧を発生させる素子と、素子により生じた電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部により検出された電圧の経時的な波形データを記憶する記憶領域と、記憶領域に記憶された波形データから電圧変化の指標値を演算する演算部と、演算部により演算された指標値を参照情報と比較してトレッド部の摩耗の進行状態を判定する判定部とを備え、素子及び電圧検出部を含むセンサモジュールがセンサモジュールを収容するコンテナを介してタイヤ内表面に固定され、コンテナはセンサモジュールが挿入される開口部を有しており、センサモジュールの最大幅Lsmに対する開口部の幅Lc1の比(Lc1/Lsm)を表1のように設定した実施例1~6のタイヤを製作した。本明細書において、実施例1,2,6は参考例である。
【0069】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、摩耗検知性能、センサモジュールの挿入時の作業性及び耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0070】
摩耗検知性能:
各試験タイヤについて、摩耗状態検知装置によりトレッド部の摩耗の進行状態を判定した。例えば、実施例1のタイヤにおいて、
図10に示すような波形データが得られた。図示のように、新品時Aから摩耗後期Dまで、トレッド部の摩耗が進行する(新品時の溝深さに対する各時点での溝深さの比率が低くなる)につれて、各時点の波形データのピーク振幅値が徐々に増加することが確認できた。即ち、波形データのピーク振幅値は電圧変化の指標値として有用であり、電圧と溝深さとの間に相関性が認められた。実施例2~6についても電圧と溝深さとの間に相関性があった場合、表1に「良好」として示した。
【0071】
センサモジュールの挿入時の作業性:
各試験タイヤについて、タイヤ内表面に設けられたコンテナにセンサモジュールを挿入する作業の所要時間を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、実施例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどセンサモジュールの挿入作業が容易であることを意味する。
【0072】
耐久性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ21×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧120kPa、最大負荷荷重に対して102%、走行速度81km、走行距離10000kmの条件でドラム試験機にて走行試験を実施した後、コンテナの破損又はセンサモジュールの脱落の発生を目視で確認した。評価結果は、コンテナの破損の有無及びセンサモジュールの脱落の有無を示した。
【0073】
【0074】
この表1から判るように、実施例1~6の摩耗状態検知装置は、いずれも摩耗検知性能が良好であった。実施例2~6の空気入りタイヤは、実施例1に比して、センサモジュールの挿入時の作業性が改善されていた。実施例3~5の空気入りタイヤは、コンテナの破損及びセンサモジュールの脱落がなかった。
【符号の説明】
【0075】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
10 摩耗状態検知装置
11 素子
12 電圧検出部
13 記憶領域
14 演算部
15 判定部
16 速度検出部
17 空気圧検出部
18 温度検出部
20 センサモジュール
30 コンテナ
Ts タイヤ内表面
CL タイヤ中心線