(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バルブタイミング変更装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
F01L1/356 E
(21)【出願番号】P 2020076930
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 弘二
(72)【発明者】
【氏名】及川 力
(72)【発明者】
【氏名】堀内 海里
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222025(JP,A)
【文献】特開2015-124643(JP,A)
【文献】特開2018-178971(JP,A)
【文献】特開2009-264133(JP,A)
【文献】特開2009-103107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
F16K 3/24- 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトにより駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更装置であって、
前記カムシャフトと同軸上で回転するハウジングロータと、
前記ハウジングロータと協働して進角室及び遅角室を画定すると共に前記カムシャフトと一体的に回転するベーンロータと、
前記ハウジングロータと前記ベーンロータとの相対回転をロックすると共に作動油によりロックを解除するロック機構と、
前記ロック機構に向けて作動油を導入する導入油路と、
前記進角室及び遅角室に対して作動油を供給及び排出する油路を切り換える油路切換弁と、を備え、
前記導入油路は、供給される作動油の流れ方向におい
て前記油路切換弁よりも上流側に配置され
ると共に、オイルポンプから前記ロック機構へ作動油を導入する経路と同一の経路を辿って前記ロック機構から作動油を排出するように形成されている、
ことを特徴とするバルブタイミング変更装置。
【請求項2】
前記油路切換弁に供給される作動油の流れのみを許容する逆止弁を含み、
前記導入油路は、前記逆止弁よりも上流側に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項3】
前記ベーンロータを前記カムシャフトに締結する締結ボルトを含み、
前記締結ボルトは、筒状に形成されると共に作動油を通す油路を含み、
前記油路切換弁は、前記締結ボルトの内側に配置されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項4】
前記逆止弁は、前記締結ボルトの内側に配置されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項5】
前記導入油路は、前記締結ボルトの外壁に形成された貫通路と、前記ベーンロータに形成された溝通路を含む、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項6】
前記逆止弁は、前記油路切換弁の内側に配置され、供給される作動油の油圧により弾性変形して開弁するべく、部分的に重なって円筒状に渦巻かれて形成されている、
ことを特徴とする請求項3ないし5いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項7】
前記油路切換弁は、前記締結ボルトの内壁に嵌合されると共に,前記遅角室に連通する遅角ポート,前記進角室に連通する進角ポート,及び作動油が供給される供給ポートを有するスリーブと、前記スリーブの内側に摺動自在に配置された弁体と、を含み、
前記弁体は、前記スリーブ内において往復動するロッドと、前記ロッドに設けられて前記供給ポートと前記遅角ポートの間の油路を開閉する第1弁部と、前記ロッドに設けられて前記供給ポートと前記進角ポートの間の油路を開閉する第2弁部を含む、
ことを特徴とする請求項3ないし6いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項8】
前記油路切換弁は、前記締結ボルトの内壁に嵌合されると共に,前記遅角室に連通する遅角ポート,前記進角室に連通する進角ポート,及び作動油が供給される供給ポートを有するスリーブと、前記スリーブの内側に摺動自在に配置された弁体と、を含み、
前記弁体は、前記スリーブ内において往復動するロッドと、前記ロッドに設けられて前記供給ポートと前記遅角ポートの間の油路を開閉する第1弁部と、前記ロッドに設けられて前記供給ポートと前記進角ポートの間の油路を開閉する第2弁部を含み、
前記供給ポートは、前記締結ボルトの内壁と前記スリーブの外壁との間に画定される隙間通路において、前記貫通路よりも下流側に配置され、
前記逆止弁は、前記供給ポートの下流側に隣接して配置されている、
ことを特徴とする請求項
5に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項9】
前記油路切換弁は、前記カムシャフトが受ける変動トルクにより、前記遅角室と前記進角室との間で作動油を往復させるトルク駆動型の油路切換弁である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項10】
前記ロック機構は、前記ベーンロータを最遅角位置と最進角位置の間の中間位置にロックする、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項11】
前記弁体は、前記第1弁部が開弁すると共に前記第2弁部が閉弁する遅角モードに位置付けられた状態において、前記カムシャフトが逆回りのトルクを受けるとき前記進角ポートから前記遅角ポートへの作動油の流れを許容し、かつ、前記第1弁部が閉弁すると共に前記第2弁部が開弁する進角モードに位置付けられた状態において、前記カムシャフトが順回りのトルクを受けるとき前記遅角ポートから前記進角ポートへの作動油の流れを許容すべく形成されている、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項12】
前記弁体は、前記第1弁部が前記遅角ポートを閉塞すると共に前記第2弁部が前記進角ポートを閉塞する中立保持モードに位置付けられた状態において、前記遅角室と前記進角室との間での作動油の往復を遮断するべく形成されている、
ことを特徴とする請求項11に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項13】
前記弁体は、前記第1弁部と前記第2弁部の間に配置された圧縮バネを含み、
前記第1弁部は、前記遅角ポートを閉塞し得る第1ランド及び前記第1ランドの内側に形成された第1内部通路を有すると共に前記ロッドに固定された第1固定部と、前記第1内部通路を開閉する第1蓋部を有すると共に前記ロッドに沿って可動に支持された第1可動部を含み、
前記第2弁部は、前記進角ポートを閉塞し得る第2ランド及び前記第2ランドの内側に形成された第2内部通路を有すると共に前記ロッドに固定された第2固定部と、前記第2内部通路を開閉する第2蓋部を有すると共に前記ロッドに沿って可動に支持された第2可動部を含み、
前記圧縮バネは、前記第1蓋部を閉弁させると共に前記第2蓋部を閉弁させる付勢力を及ぼすように配置されている、
ことを特徴とする請求項9ないし12いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項14】
前記弁体は、電磁アクチュエータの駆動シャフトが係合して駆動力を及ぼす端部を含む、
ことを特徴とする請求項7ないし13いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項15】
前記油路切換弁は、前記駆動シャフトの駆動力に抗する向きに前記弁体を付勢する付勢バネを含む、
ことを特徴とする請求項14に記載のバルブタイミング変更装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期(バルブタイミング)を運転状況に応じて変更するバルブタイミング変更装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルブタイミング変更装置としては、クランクシャフトと同期してカムシャフトの軸線上で回転するハウジングロータ、ハウジングロータの内側に配置されてカムシャフトと一体的に回転するベーンロータ、ベーンロータをハウジングロータに対してロックするロックピンを含むロック機構、ハウジングロータ内に画定される遅角室及び進角室に対する作動油の供給及び排出を制御する流量制御弁(OCV)を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
この装置において、ロックピンを解除するための作動油を供給する油路は、流量制御弁よりも下流側に形成されているため、流量制御弁の動作による油圧変動の影響を受けて、ロック機構が誤作動を生じる虞がある。
また、ロック機構に作動油を導入する導入油路を、流量制御弁のスリーブ及びスプールに設けると、油路が複雑になり、流量制御弁の大型化等を招く。
特に、カムシャフトの駆動トルクの変動を利用して、ハウジングロータに対するベーンロータの位相を変更する構造においては、駆動トルクの変動による影響で作動油の油圧が変化して、ロック機構が不要なタイミングでロックし又はロックを解除する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-256786号公報
【文献】特開2013-160094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、構造の簡素化、部品の集約化、装置の小型化等を図り、作動油の油圧で作動するロック機構の誤作動を防止して、所望する機能を得ることのできる、バルブタイミング変更装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバルブタイミング変更装置は、カムシャフトにより駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更装置であって、カムシャフトと同軸上で回転するハウジングロータと、ハウジングロータと協働して進角室及び遅角室を画定すると共にカムシャフトと一体的に回転するベーンロータと、ハウジングロータとベーンロータとの相対回転をロックすると共に作動油によりロックを解除するロック機構と、ロック機構に向けて作動油を導入する導入油路と、進角室及び遅角室に対して作動油を供給及び排出する油路を切り換える油路切換弁を備え、導入油路は、供給される作動油の流れ方向において油路切換弁よりも上流側に配置されると共に、オイルポンプからロック機構へ作動油を導入する経路と同一の経路を辿ってロック機構から作動油を排出するように形成されている、構成となっている。
【0007】
上記バルブタイミング変更装置において、油路切換弁に供給される作動油の流れのみを許容する逆止弁を含み、導入油路は、逆止弁よりも上流側に配置されている、構成を採用してもよい。
【0008】
上記バルブタイミング変更装置において、ベーンロータをカムシャフトに締結する締結ボルトを含み、締結ボルトは、筒状に形成されると共に作動油を通す油路を含み、油路切換弁は、締結ボルトの内側に配置されている、構成を採用してもよい。
【0009】
上記バルブタイミング変更装置において、逆止弁は、締結ボルトの内側に配置されている、構成を採用してもよい。
【0010】
上記バルブタイミング変更装置において、導入油路は、締結ボルトの外壁に形成された貫通路と、ベーンロータに形成された溝通路を含む、構成を採用してもよい。
【0011】
上記バルブタイミング変更装置において、逆止弁は、油路切換弁の内側に配置され、供給される作動油の油圧により弾性変形して開弁するべく部分的に重なって円筒状に渦巻かれて形成されている、構成を採用してもよい。
【0012】
上記バルブタイミング変更装置において、油路切換弁は、遅角室に連通する遅角ポート,進角室に連通する進角ポート,及び作動油が供給される供給ポートを有すると共に締結ボルトの内壁に嵌合されるスリーブと、スリーブの内側に摺動自在に配置された弁体とを含み、弁体は、スリーブ内において往復動するロッドと、ロッドに設けられて供給ポートと遅角ポートの間の油路を開閉する第1弁部と、ロッドに設けられて供給ポートと進角ポートの間の油路を開閉する第2弁部を含む、構成を採用してもよい。
【0013】
上記バルブタイミング変更装置において、供給ポートは、締結ボルトの内壁とスリーブの外壁との間に画定される隙間通路において貫通路よりも下流側に配置され、逆止弁は、供給ポートの下流側に隣接して配置されている、構成を採用してもよい。
【0014】
上記バルブタイミング変更装置において、油路切換弁は、カムシャフトが受ける変動トルクにより、遅角室と進角室との間で作動油を往復させるトルク駆動型の油路切換弁である、構成を採用してもよい。
【0015】
上記バルブタイミング変更装置において、ロック機構は、ベーンロータを最遅角位置と最進角位置の間の中間位置にロックする、構成を採用してもよい。
【0016】
上記バルブタイミング変更装置において、弁体は、第1弁部が開弁すると共に第2弁部が閉弁する遅角モードに位置付けられた状態において、カムシャフトが逆回りのトルクを受けるとき進角ポートから遅角ポートへの作動油の流れを許容し、かつ、第1弁部が閉弁すると共に第2弁部が開弁する進角モードに位置付けられた状態において、カムシャフトが順回りのトルクを受けるとき遅角ポートから進角ポートへの作動油の流れを許容するべく形成されている、構成を採用してもよい。
【0017】
上記バルブタイミング変更装置において、弁体は、第1弁部が遅角ポートを閉塞すると共に第2弁部が進角ポートを閉塞する中立保持モードに位置付けられた状態において、遅角室と進角室との間での作動油の往復を遮断するべく形成されている、構成を採用してもよい。
【0018】
上記バルブタイミング変更装置において、弁体は、第1弁部と第2弁部の間に配置された圧縮バネを含み、第1弁部は、遅角ポートを閉塞し得る第1ランド及び第1ランドの内側に形成された第1内部通路を有すると共にロッドに固定された第1固定部と、第1内部通路を開閉する第1蓋部を有すると共にロッドに沿って可動に支持された第1可動部を含み、第2弁部は、進角ポートを閉塞し得る第2ランド及び第2ランドの内側に形成された第2内部通路を有すると共にロッドに固定された第2固定部と、第2内部通路を開閉する第2蓋部を有すると共にロッドに沿って可動に支持された第2可動部を含み、圧縮バネは、第1蓋部を閉弁させると共に第2蓋部を閉弁させる付勢力を及ぼすように配置されている、構成を採用してもよい。
【0019】
上記バルブタイミング変更装置において、弁体は、電磁アクチュエータの駆動シャフトが係合して駆動力を及ぼす端部を含む、構成を採用してもよい。
【0020】
上記バルブタイミング変更装置において、油路切換弁は、駆動シャフトの駆動力に抗する向きに弁体を付勢する付勢バネを含む、構成を採用いてもよい。
【発明の効果】
【0021】
上記構成をなすバルブタイミング変更装置によれば、構造の簡素化、部品の集約化、装置の小型化等を達成しつつ、作動油の油圧で作動するロック機構の誤作動を防止して、所望する機能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るバルブタイミング変更装置が適用されるエンジンの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す構成において、電磁アクチュエータ、バルブタイミング変更装置、及びカムシャフトを、カムシャフトと反対側の斜め前方から視た分解斜視図である。
【
図3】
図2に示す電磁アクチュエータ、バルブタイミング変更装置、及びカムシャフトを、カムシャフト側の斜め後方から視た分解斜視図である。
【
図4】
図2に示すバルブタイミング変更装置に含まれるハウジングロータ、ベーンロータ、及び回転付勢バネと、カムシャフトを、カムシャフトと反対側の斜め前方から視た分解斜視図である。
【
図5】
図3に示すバルブタイミング変更装置に含まれるハウジングロータ、ベーンロータ、及び回転付勢バネと、カムシャフトを、カムシャフト側の斜め後方から視た分解斜視図である。
【
図6】
図2に示すバルブタイミング変更装置に含まれる締結ボルト、油路切換弁等を、カムシャフトと反対側の斜め前方から視た分解斜視図である。
【
図7】
図6に示す締結ボルト、油路切換弁等を、カムシャフト側の斜め後方から視た分解斜視図である。
【
図8】本発明のバルブタイミング変更装置が締結ボルトによりカムシャフトに締結固定された状態において、ロック機構が作動したロック状態を示す断面図である。
【
図9】本発明のバルブタイミング変更装置が締結ボルトによりカムシャフトに締結固定された状態において、ロック機構のロックが解除された状態を示す断面図である。
【
図10】本発明のバルブタイミング変更装置の一部をなす油路切換弁に含まれる弁体を示す斜視断面図である。
【
図11】ベーンロータが、ハウジングロータに対して中間位置にロックされた状態を示す断面図である。
【
図12】ベーンロータが、ハウジングロータに対して最遅角位置に位置する状態を示す断面図である。
【
図13】ベーンロータが、ハウジングロータに対して最進角位置に位置する状態を示す断面図である。
【
図14】遅角モードにおいて、カムシャフトが逆回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【
図15】遅角モードにおいて、カムシャフトが順回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【
図16】進角モードにおいて、カムシャフトが逆回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【
図17】進角モードにおいて、カムシャフトが順回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【
図18】中立保持モードにおいて、カムシャフトが逆回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【
図19】中立保持モードにおいて、カムシャフトが順回りのトルクを受けるとき、油路切換弁における弁体と、遅角ポート、進角ポート、遅角室及び進角室内の作動油との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本発明に係るバルブタイミング変更装置Mは、
図1に示すように、エンジンのカムシャフト1に取り付けられて、カムシャフト1により駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期すなわちバルブタイミングを変更するものである。
【0024】
エンジンは、吸気バルブ又は排気バルブを開閉駆動するカムシャフト1、作動油を溜めるオイルパン2、オイルパン2内の作動油をカムシャフト1に向けて供給する供給油路3、供給油路3の途中に設けられ作動油を吸引して加圧するオイルポンプ4、バルブタイミング変更装置Mを囲繞するチェーンカバー5、チェーンカバー5に固定された電磁アクチュエータ6を備えている。
カムシャフト1は、
図1ないし
図5、
図8及び
図9に示すように、軸線Sを中心として一方向CRに回転するものであり、円筒部1a、油路1b、内部通路1c、雌ネジ部1d、位置決めピンPを嵌合させる嵌合穴1eを備えている。
供給油路3は、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッド等に形成されている。
電磁アクチュエータ6は、チェーンカバー5に固定されるものであり、
図3に示すように、軸線S方向に移動する駆動シャフト6a、駆動シャフト6aを駆動する励磁用のコイル(不図示)を備えている。
【0025】
バルブタイミング変更装置Mは、
図2ないし
図5、
図8に示すように、ハウジングロータ10、ベーンロータ20、回転付勢バネ30、ロック機構40、締結ボルト50、フィルタ部材60、油路切換弁V、ストッパSt、止め輪Srを備えている。
また、油路切換弁Vは、スリーブ70、弁体80、付勢バネ90、逆止弁100を備えている。
【0026】
ハウジングロータ10は、カムシャフト1の軸線S上で回転可能に支持され、チェーンを介してクランクシャフトの回転に連動し、ベーンロータ20を介してクランクシャフトの回転駆動力をカムシャフト1に伝達する。
ハウジングロータ10は、
図4、
図5、
図8に示すように、円盤状の第1ハウジング11と、第1ハウジング11に結合される有底円筒状の第2ハウジング12とからなる二分割構造をなす。そして、ハウジングロータ10は、ベーンロータ20を最遅角位置と最進角位置の間の角度範囲において相対的に回転可能に収容すると共に、ベーンロータ20と協働して進角室AC及び遅角室RCを画定する。
【0027】
第1ハウジング11は、チェーンが巻回されるスプロケット11a、嵌合孔11b、内壁面11c、ロック穴11d、弧状凹部11e、ネジbを通す3つの円孔11fを備えている。
嵌合孔11bは、カムシャフト1の円筒部1aに回動自在に嵌合される。
内壁面11cは、ベーンロータ20の背面24と摺動自在に接触する。
ロック穴11dは、ロック機構40に含まれるロックピン41が微小隙間をおいて嵌合するように形成されている。
弧状凹部11eは、ロック穴11dの周りに形成されて、ロック穴11dに嵌合したロックピン41の先端受圧部41aに作動油を導くように形成されている。
【0028】
第2ハウジング12は、
図4、
図5、
図8に示すように、円筒壁12a、前壁12b、開口部12c、ネジbを捩じ込む3つのネジ孔12d、3つのシュー部12e、掛止溝12f、凹部12g、環状結合部12hを備えている。
【0029】
開口部12cは、締結ボルト50を通すべく、軸線Sを中心とする円形孔をなす。
3つのシュー部12eは、前壁12bの内側において、円筒壁12aから中心に向かって突出すると共に周方向において等間隔に配置して形成されている。
1つのシュー部12eは、
図12に示すように、ベーンロータ20のベーン部22を当接させて最大遅角位置を規定する。
他の1つのシュー部12eは、
図13に示すように、ベーンロータ20のベーン部22を当接させて最大進角位置を規定する。
【0030】
掛止溝12fは、回転付勢バネ30の第1端部32を嵌め込んで掛止するべく、開口部12cの一部を切り欠いて形成されている。
凹部12gは、回転付勢バネ30のコイル部31の一部を収容する。
環状結合部12hは、第1ハウジング11の内壁面11cの外周縁領域に嵌め込んで結合される。
【0031】
ベーンロータ20は、ハウジングロータ10の内側に配置され、ハウジングロータ10と協働して進角室AC及び遅角室RCを画定すると共に、ワッシャWを挟んで締結ボルト50でカムシャフト1に固定されることにより、カムシャフト1と一体的に回転する。
ベーンロータ20は、
図4、
図5、
図8に示すように、ハブ部21、3つのベーン部22、前面23、環状凹部23a、掛止溝23b、背面24、嵌合孔25、凹部26、導入油路としての溝通路27、遅角油路28、進角油路29を備えている。
【0032】
ベーン部22は、ハウジングロータ10のシュー部12eと協働して、進角室AC及び遅角室RCを画定する。
前面23は、第2ハウジング12の前壁12bの内壁面に摺動自在に接触して配置される。
環状凹部23aは、回転付勢バネ30のコイル部31の一部を収容するべく、前面23を環状に肉抜きして形成されている。
掛止溝23bは、回転付勢バネ30の第2端部33を嵌め込んで掛止するべく、前面23の一部を肉抜きして形成されている。
【0033】
背面24は、軸線Sに垂直な平面に形成され、カムシャフト1の端面に接合されると共に、第1ハウジング11の内壁面11cに摺動自在に接触して配置される。
また、背面24には、カムシャフト1の嵌合穴1eに組み付けられる位置決めピンPが嵌合される嵌合穴24aが設けられている。
【0034】
嵌合孔25は、締結ボルト50の円筒部50aが密接して嵌合される内径寸法に形成されている。
凹部26は、
図8及び
図9に示すように、1つのベーン部22において、ロック機構40を収容するように形成されている。
また、凹部26には、ロック機構40に含まれる付勢バネ42を受ける受け部26a、作動油の排出通路26bが形成されている。
【0035】
溝通路27は、環状溝通路27a及び直線溝通路27bにより形成され、カムシャフト1の端面及びハウジングロータ10の内壁面11cと協働して、供給される作動油をロック機構40に向けて導入する導入油路である。
そして、溝通路27は、ロック機構40に対して、供給される作動油の流れ方向において作油路切換弁Vよりも上流側で、締結ボルト50の貫通路54を通して導かれた作動油を供給してロックを解除し、又、ロック時に排出する役割をなす。
ここでは、導入通路としての溝通路27は、ベーンロータ20の背面24に形成されているため、加工が容易であり、又、内壁面11cの摺動領域に潤滑作用をもたらすことができる。尚、ベーンロータ20に形成される導入通路としては、ハブ部21及びベーン部22を貫通してロック機構40に作動油の導入する貫通路としてもよい。
【0036】
遅角油路28は、遅角室RCに対する作動油の供給及び排出を行う通路であり、嵌合孔25の内周面に形成された環状溝28aと、環状溝28aからハブ部21を径方向に貫通する貫通路28bにより形成されている。
進角油路29は、進角室ACに対する作動油の供給及び排出を行う通路であり、嵌合孔25の内周面に形成された環状溝29aと、環状溝29aからハブ部21を径方向に貫通する貫通路29bにより形成されている。
【0037】
回転付勢バネ30は、
図4、
図5、
図8に示すように、コイル部31、第1端部32、第2端部33を有するコイルバネである。
そして、回転付勢バネ30は、コイル部31がベーンロータ20の環状溝23a及びハウジングロータ10の凹部12gに収容され、第1端部32がハウジングロータ10の掛止溝12fに掛止され、第2端部33がベーンロータ20の掛止溝23bに掛止される。
これにより、回転付勢バネ30は、ベーンロータ20をハウジングロータ10に対して一方向に、ここでは進角方向に回転付勢する。
【0038】
このように、進角方向に付勢する回転付勢バネ30を採用することにより、進角させる際の作動トルクをアシストすることで、応答性を向上させることができる。
また、作動トルクと負荷トルクとの差が、進角時と遅角時とで略同等となるように回転付勢バネ30の荷重を設定することにより、制御性を向上させることができる。
【0039】
ロック機構40は、
図8に示すように、ロックピン41、付勢バネ42、円筒ホルダ43を備えている。そして、ロック機構40は、
図11に示すように、ベーンロータ20をハウジングロータ10に対して最遅角位置と最進角位置の間の中間位置にロックする。
ロックピン41は、略円柱状をなし、先端受圧部41aを有する。そして、ロックピン41は、ハウジングロータ10のロック穴11dに嵌合し得るべく、ベーンロータ20の背面24に対して軸線S方向に出没自在に保持される。
付勢バネ42は、ロックピン41を突出する向きに付勢する。
円筒ホルダ43は、付勢バネ42により付勢されたロックピン41を往復動自在に保持すると共に突出位置を規定するストッパの役割をなし、ベーンロータ20の凹部26に嵌め込まれて固定される。
また、円筒ホルダ43は、
図5及び
図8に示すように、ロックピン41の周りにおいて直線溝通路27bに連通する環状油溜りCを画定するべく、ベーンロータ20の背面24から没入するように配置されている。
このように、環状油溜りCを設けることで、ロップピン41の周りに作動油が充填されてロックを円滑に解除することができる。
【0040】
そして、エンジンの起動により、オイルポンプ4で加圧された作動油が、カムシャフト1の油路1b、締結ボルト50内の隙間通路Cp、締結ボルト50の貫通路54、及びベーンロータ20の背面24に形成された溝通路27及び環状油溜りCを通してロック機構40に導かれ、ロックピン41の先端受圧部41aに加わる油圧が上昇すると、ロックピン41がロック穴11dから離脱してロックが解除される。
一方、エンジンの停止により、供給される作動油の油圧が低下すると、ロックピン41に作用していた作動油は、導入油路としての溝通路27及び貫通路54、隙間通路Cp、油路1bを通して流れ出し、ロックピン41を押圧する油圧が低下する。すると、ロックピン41が付勢バネ42により付勢されてハウジングロータ10のロック穴11dに嵌合し、ベーンロータ20はハウジングロータ10に対して中間位置にロックされる。
【0041】
ここでは、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路、すなわち、隙間通路Cpの途中から分岐する貫通路54及び溝通路27が、供給される作動油の流れ方向において油路切換弁Vよりも上流側に配置されている。
したがって、ロック機構40に導かれる作動油は、油路切換弁V内の作動油の影響を受けず、又、進角室AC及び遅角室RC内の作動油の油圧の影響を受けない。それ故に、ロック機構40の誤作動を防止することができ、所望する機能が得られる。
【0042】
締結ボルト50は、
図6ないし
図9に示すように、軸線Sを中心とする円筒部50a、油路切換弁Vを嵌合する嵌合孔51、開口部52、環状凹部53、貫通路54、遅角油路55、進角油路56、鍔付き頭部57、雄ネジ部58、受け溝59a、止め輪溝59bを備えている。
【0043】
円筒部50aは、ベーンロータ20の嵌合孔25に密接して嵌合される外径寸法に形成されている。
嵌合孔51は、軸線S1を中心とする円筒状の内周面をなす。
開口部52は、嵌合孔51よりも小径の円形孔に形成され、作動油を通す油路として機能する。
環状凹部53は、開口部52に隣接して、フィルタ部材60が嵌め込まれるように形成されている。
貫通路54は、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路の一部をなすものであり、外壁としての円筒部50aにおいて軸線Sに垂直な径方向に貫通する。
遅角油路55は、ベーンロータ20の遅角油路28に連通するべく、円筒部50aにおいて軸線Sに垂直な径方向に貫通する。
進角油路56は、ベーンロータ20の進角油路29に連通するべく、円筒部50aにおいて軸線Sに垂直な径方向に貫通する。
鍔付き頭部57は、ワッシャWを挟んでベーンロータ20の前面23に当接する。
雄ネジ部58は、カムシャフト1の雌ネジ部1dに螺合される。
受け溝59aは、ストッパStを嵌め込むべく形成されている。
止め輪溝59bは、止め輪Srを嵌め込むべく形成されている。
【0044】
フィルタ部材60は、作動油に混入する異物を捕獲するものであり、締結ボルト50の環状凹部53に嵌め込まれて、油路切換弁Vのスリーブ70で保持される。
ストッパStは、円環状の円板として形成され、締結ボルト50の受け溝59aに嵌め込まれて、嵌合孔51に嵌合された油路切換弁Vのスリーブ70を押え込む役割をなす。
また、ストッパStは、弁体80の端面82a2を受け止めて、弁体80を遅角モードに対応する休止位置に停止させる役割をなす。
止め輪Srは、C型リングであり、スナップフィットにより締結ボルト50の止め輪溝59bに嵌め込まれて、ストッパStの抜け落ちを規制する。
【0045】
油路切換弁Vは、進角室AC及び遅角室RCに対して作動油を供給及び排出する油路を切り換えるものであり、
図6ないし
図8に示すように、スリーブ70、弁体80、付勢バネ90、逆止弁100を備えている。
【0046】
スリーブ70は、有底円筒状に形成され、外壁71、肉抜き部71a,71b,71c、内周面72、環状凹部72a、開口部73、供給ポート74、遅角ポート75、進角ポート76、ストッパ77、バネ受け部78を備えている。
【0047】
外壁71は、軸線Sを中心とする円筒面として形成され、締結ボルト50の嵌合孔51に密接して嵌合される。
肉抜き部71aは、底壁から供給ポート74に臨む領域において、外壁71の一部を肉抜きして形成され、締結ボルト50の内壁と協働して隙間通路Cpを画定する。
肉抜き部71bは、遅角ポート75から締結ボルト50の遅角油路55に臨む領域において、外壁71の一部を肉抜きして形成され、遅角ポート75と遅角油路55の間の油路として機能する。
肉抜き部71cは、進角ポート76から締結ボルト50の進角油路56に臨む領域において、外壁71の一部を肉抜きして形成され、進角ポート76と進角油路56の間の油路として機能する。
【0048】
内周面72は、軸線Sを中心とする円筒面として形成され、弁体80の第1弁部82(第1ランド82a1)及び第2弁部83(第2ランド83a1)を密接させて摺動自在にガイドする。
環状凹部72aは、供給ポート74に臨む領域において逆止弁100が嵌め込まれるように、内周面72を環状に肉抜きして形成されている。
開口部73は、弁体80のロッド81を軸線S方向に突出させる。
供給ポート74は、隙間通路Cpと連通すると共に、隙間通路Cpにおいて貫通路54よりも下流側に配置されている。
【0049】
遅角ポート75は、肉抜き部71bを介して締結ボルト50の遅角油路55と連通し、又、ベーンロータ20の遅角油路28を経て遅角室RCと連通する。
進角ポート76は、肉抜き部71cを介して締結ボルト50の進角油路56と連通し、又、ベーンロータ20の進角油路29を経て進角室ACと連通する。
ストッパ77は、弁体80の第2弁部83の端面83a2を受け止めて、弁体80を進角モードに対応する最奥位置に停止させる役割をなす。
バネ受け部78は、付勢バネ90の端部を受ける役割をなす。
【0050】
弁体80は、
図8及び
図10に示すように、スリーブ70の内側に摺動自在に配置されており、軸線S方向に伸長するロッド81、ロッド81に設けられた第1弁部82及び第2弁部83、第1弁部82と第2弁部83の間に配置された圧縮バネ84を備えている。
ロッド81は、内部通路81a、内部通路81aから径方向に貫通する開口81b、端部81cを備えている。
内部通路81a及び開口81bは、ロッド81が軸線S方向に往復動する際に、付勢バネ90が配置される空間の作動油を排出させる役割をなす。
端部81cには、電磁アクチュエータ6の駆動シャフト6aが係合して、付勢バネ90の付勢力に抗して駆動力が及ぼされる。
【0051】
第1弁部82は、供給ポート74と遅角ポート75の間の油路を開閉するものであり、ロッド81に固定された第1固定部82aと、ロッド81に沿って可動に支持されて圧縮バネ84により付勢される第1可動部82bを備えている。
第1固定部82aは、内周面72に密接して摺動する第1ランド82a1、端面82a2、第1内部通路82a3、端面82a4を備えている。
第1ランド82a1は、軸線Sを中心とし内周面72の内径と略同径又は僅かに小さい外径の円筒面でかつ遅角ポート75を閉塞する幅寸法に形成され、遅角ポート75を開放又は閉塞する。
第1可動部82bは、圧縮バネ84と協働して逆止弁として機能するものであり、ロッド81に摺動自在に嵌合された第1嵌合部82b1、第1内部通路82a3を開閉するべく端面82a4に離脱可能に当接する第1蓋部82b2を備えている。
【0052】
第2弁部83は、供給ポート74と進角ポート76の間の油路を開閉するものであり、ロッド81に固定された第2固定部83aと、ロッド81に沿って可動に支持されて圧縮バネ84により付勢される第2可動部83bを備えている。
第2固定部83aは、内周面72に密接して摺動する第2ランド83a1、端面83a2、第2内部通路83a3、端面83a4を備えている。
第2ランド83a1は、軸線Sを中心として内周面72の内径と略同径又は僅かに小さい外径の円筒面でかつ進角ポート76を閉塞する幅寸法に形成され、進角ポート76を開放又は閉塞する。
第2可動部83bは、圧縮バネ84と協働して逆止弁として機能するものであり、ロッド81に摺動自在に嵌合された第2嵌合部83b1、第2内部通路83a3を開閉するべく端面83a4に離脱可能に当接する第2蓋部83b2を備えている。
【0053】
圧縮バネ84は、圧縮型のコイルバネであり、第1弁部82の第1可動部82bと第2弁部83の第2可動部83bの間に配置されて、第1蓋部82b2が第1内部通路82a3を閉塞し、第2蓋部83b2が第2内部通路83a3を閉塞するように付勢力を及ぼす。
【0054】
付勢バネ90は、圧縮型のコイルバネであり、一端部が弁体80の端面83a2に当接し、他端部がスリーブ70の受け部78に当接するように組み付けられている。
そして、付勢バネ90は、休止状態にあるとき、弁体80の端面82a2をストッパStに当接させる休止位置、すなわち、遅角モードに対応する位置に弁体80を停止させる付勢力を及ぼす。
【0055】
逆止弁100は、スリーブ70の供給ポート74を経て油路切換弁Vに供給される作動油の流れのみを許容するものである。
逆止弁100は、
図6ないし
図9に示すように、供給される作動油の油圧により弾性変形して開弁するべく、バネ鋼板等を用いて部分的に重なって円筒状に渦巻かれて形成されており、スリーブ70の環状凹部72aに嵌め込まれている。
すなわち、逆止弁100は、供給される作動油の流れ方向にいて、供給ポート74の下流側に隣接して配置されている。換言すれば、逆止弁100は、油路切換弁Vの内側に配置され、結果的に、締結ボルト50の内側に配置されている。
また、逆止弁100は、導入油路としての貫通路54及び溝通路27よりも下流側に配置されている。換言すれば、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路(54,27)は、逆止弁100よりも上流側に配置されている。
ここで、逆止弁100は、供給される作動油が、油路1b、内部通路1c、隙間通路Cp及び供給ポート74を経て油路切換弁V内に流れ込み、遅角ポート75から遅角室RC又は進角ポート76から進角室ACに供給された後に、導入油路(貫通路54、溝通路27)に満たされた作動油の油圧がロック機構40を解除可能な油圧に達したときにロックが解除されるように、その開弁特性が設定されている。
【0056】
次に、バルブタイミング変更装置Mの動作について説明する。
エンジンが停止した状態においては、
図8及び
図11に示すように、ベーンロータ20は、ロック機構40によりハウジングロータ10に対して中間位置にロックされている。
これにより、エンジンの始動時には、ベーンロータ20のバタツキ等を防止しつつ、円滑にエンジンを始動させることができる。
また、エンジンの停止状態において、進角室AC及び遅角室RC内には、隙間等から漏れ出る分を除き、逆止弁100の逆流防止機能により基本的に作動油が充填されている。
【0057】
続いて、エンジンの始動により、油路1b、内部通路1c、隙間通路Cpを通して供給された作動油が、逆止弁100を開弁させて供給ポート74から油路切換弁V内に流れ込み、遅角ポート75から遅角室RC又は進角ポート76から進角室ACに供給され、その後、導入油路(貫通路54、溝通路27)を通してロック機構40に導かれる作動油の油圧が解除可能油圧になると、
図9に示すように、ロックピン41がロック穴11dから離脱してロックが解除される。
そして、エンジンの始動後は、電磁アクチュエータ6の駆動シャフト6aを介して油路切換弁Vが適宜切り替えられて、ベーンロータ20及びカムシャフト1が遅角側へ又は進角側へ、あるいは所定の角度位置に保持されるように位相制御が行われる。
【0058】
例えば、遅角モードの場合は、
図14及び
図15に示すように、弁体80は付勢バネ90の付勢力により休止位置に位置付けられる。
遅角モードにおいて、第1弁部82は、供給ポート74と遅角ポート75の間の油路を開放した開弁状態に設定され、第2弁部83は、供給ポート74と進角ポート76の間の油路を閉塞した閉弁状態に、具体的には、第2固定部83aの第2ランド83a
1が進角ポート76を開放し、第2可動部83bの第2蓋部83b
2が第2内部通路83a
3を閉塞した状態に設定される。
【0059】
この状態において、カムシャフト1が順回転方向CRと逆回りのトルク(-ΔT)を受けると、進角室AC内の作動油の油圧が上昇する。したがって、
図14に示すように、進角室AC内の作動油は、圧縮バネ84の付勢力に抗しつつ第2可動部83bの第2蓋部83b
2を第2固定部83aから離脱させる。これにより、第2内部通路83a
3が開放され、進角ポート76から遅角ポート75への作動油の流れが許容される。
【0060】
一方、カムシャフト1が順回りのトルク(ΔT)を受けると、進角室AC内の作動油の油圧が上昇する。ただし、
図15に示すように、遅角室RC内の作動油は、第2可動部83bを第2固定部83aに当接させる向きに作用するため、第2内部通路83a
3は閉塞された状態にあり、遅角ポート75から進角ポート76への作動油の流れは生じない。
【0061】
上記逆回りのトルク(-ΔT)と順回りのトルク(ΔT)とを連続的に受けることにより、進角室AC内の作動油が遅角室RC内に移動して、ベーンロータ20は、
図12に示す最遅角位置に位置付けられる。この過程で、隙間から漏れ出た作動油を補充するべく、逆止弁100は適宜開弁して、供給ポート74からの作動油の流入を許容する。
【0062】
次に、進角モードの場合は、
図16及び
図17に示すように、弁体80は、付勢バネ90の付勢力に抗して、電磁アクチュエータ6の駆動シャフト6aにより、軸線S方向の最奥位置に位置付けられる。
進角モードにおいて、第2弁部83は、供給ポート74と進角ポート76の間の油路を開放した開弁状態に設定され、第1弁部82は、供給ポート74と遅角ポート75の間の油路を閉塞した閉弁状態、具体的には、第1固定部82aの第1ランド82a
1が遅角ポート75を開放し、第1可動部82bの第1蓋部82b
2が第1内部通路82a
3を閉塞した状態に設定される。
【0063】
この状態において、カムシャフト1が順回転方向CRと逆回りのトルク(-ΔT)を受けると、進角室AC内の作動油の油圧が上昇する。ただし、
図16に示すように、進角室AC内の作動油は、第1可動部82bを第1固定部82aに当接させる向きに作用するため、第1内部通路82a
3は閉塞された状態にあり、進角ポート76から遅角ポート75への作動油の流れは生じない。
【0064】
一方、カムシャフト1が順回りのトルク(ΔT)を受けると、遅角室RC内の作動油の油圧が上昇する。したがって、
図17に示すように、遅角室RC内の作動油は、圧縮バネ84の付勢力に抗しつつ第1可動部82bの第1蓋部82b
2を第1固定部82aから離脱させる。これにより、第1内部通路82a
3が開放され、遅角ポート75から進角ポート76への作動油の流れが許容される。
【0065】
上記逆回りのトルク(-ΔT)と順回りのトルク(ΔT)とを連続的に受けることにより、遅角室RC内の作動油が進角室AC内に移動して、ベーンロータ20は、
図13に示す最進角位置に位置付けられる。この過程で、隙間から漏れ出た作動油を補充するべく、逆止弁100は適宜開弁して、供給ポート74からの作動油の流入を許容する。
【0066】
すなわち、油路切換弁Vの弁体80は、第1弁部82が開弁すると共に第2弁部83が閉弁する遅角モードに位置付けられた状態において、カムシャフト1が逆回りのトルク(-ΔT)を受けるとき進角ポート76から遅角ポート75への作動油の流れを許容し、かつ、第1弁部82が閉弁すると共に第2弁部83が開弁する進角モードに位置付けられた状態において、カムシャフト1が順回りのトルク(ΔT)を受けるとき遅角ポート75から進角ポート76への作動油の流れを許容すべく形成されている。
【0067】
次に、中立保持モードの場合、
図18及び
図19に示すように、弁体80は、付勢バネ90の付勢力に抗して、電磁アクチュエータ6の駆動シャフト6aにより、軸線S方向の中間位置に位置付けられる。
中立保持モードにおいて、第1弁部82は、供給ポート74と遅角ポート75の間の油路を閉塞した閉弁状態に設定され、第2弁部83は、供給ポート74と進角ポート76の間の油路を閉塞した閉弁状態に設定される。
具体的には、第1弁部82は、第1固定部82aの第1ランド82a
1が遅角ポート75を閉塞し、第1可動部82bの第1蓋部81b
2が第1内部通路82a
3を閉塞した状態に設定される。また、第2弁部83は、第2固定部83aの第2ランド83a
1が進角ポート76を閉塞し、第2可動部83bの第2蓋部82b
2が第2内部通路83a
3を閉塞した状態に設定される。
【0068】
この状態において、カムシャフト1が順回転方向CRと逆回りのトルク(-ΔT)を受けると、進角室AC内の作動油の油圧が上昇する。ただし、
図18に示すように、進角ポート76は、第2弁部83の第2ランド83a
1により閉塞されているため、進角室AC内の作動油は、進角ポート76から遅角ポート75へ移動できず、進角室AC内に留まる。
【0069】
一方、カムシャフト1が順回りのトルク(ΔT)を受けると、遅角室RC内の作動油の油圧が上昇する。ただし、
図19に示すように、遅角ポート75は、第1弁部82の第1ランド82a
1により閉塞されているため、遅角室RC内の作動油は、遅角ポート75から進角ポート76へ移動できず、遅角室RC内に留まる。
【0070】
上記のように、中立保持モードにおいては、遅角室RCと進角室ACとの間での作動油の往復が遮断されるため、ベーンロータ20は、ハウジングロータ10に対して、最遅角位置と最進角位置の間の所望の中間位置に保持される。
尚、中立保持モードにおいて、油路切換弁V内の作動油に漏れを生じた場合は、逆止弁100が適宜開弁して、その漏れ量に相当する作動油が補充される。
すなわち、油路切換弁Vにおいて、弁体80は、第1弁部82が遅角ポート75を閉塞すると共に第2弁部83が進角ポート76を閉塞する中立保持モードに位置付けられた状態において、遅角室RCと進角室ACとの間での作動油の往復を遮断するべく形成されている。
【0071】
以上述べたように、油路切換弁Vは、カムシャフト1が受ける変動トルクにより、遅角室RCと進角室ACとの間で作動油を往復させるトルク駆動型の油路切換弁であるため、作動油を遅角室RC及び進角室ACに対して常時供給及び排出するタイプに比べて、作動油の循環量を低減することができる。また、作動油を排出する排出油路が不要になるため、エンジンにおける油路の構成が簡素化され、エンジンの小型化にも寄与する。
【0072】
また、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路(貫通路54、溝通路27)が、供給される作動油の流れ方向において油路切換弁Vよりも上流側に配置されている。
したがって、ロック機構40に導かれる作動油は、油路切換弁V内の作動油の影響を受けない。それ故に、ロック機構40の誤作動を防止することができ、所望する機能が得られる。
【0073】
特に、トルク駆動型の油路切換弁Vを適用する場合、進角室AC及び遅角室RC内の作動油の油圧変動が大きくなるが、導入油路(貫通路54、溝通路27)が油路切換弁Vよりも上流側に配置されているため、進角室AC及び遅角室RC内の作動油の油圧の影響を受けない。それ故に、ロック機構40の誤作動をより確実に防止することができ、所望する機能を保証することができる。
【0074】
ここでは、
図11ないし
図13に示されるように、ロック穴11d及び弧状凹部11eは、ベーンロータ20が最遅角位置~最進角位置の作動範囲のいずれの角度位置にある場合でも、ベーンロータ20の背面24(ベーン部22の背面)で覆われた状態にあり、環状油溜りCを介しても遅角室RC及び進角室ACと連通しない。
したがって、ロック穴11d、弧状凹部11e、及び環状油溜りCに導かれた作動油は、遅角室RC及び進角室ACに流れ込まない構造になっている。
すなわち、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路(貫通路54、溝通路27)は、油路切換弁Vよりも上流側において隙間通路Cpから分岐して、遅角室RC及び進角室ACから独立した油路として形成されているため、遅角室RC及び進角室AC内の作動油の油圧の影響を受けず、ロック機構40の誤作動を防止することができる。
【0075】
また、逆止弁100は、締結ボルト50の内側で、かつ、油路切換弁Vの内側に配置されているため、部品の集約化、装置の小型化に寄与する。
特に、逆止弁100が部分的に重なって円筒状に渦巻かれて形成されているため、配置スペースが狭くて済み、構造の簡素化、部品の集約化、装置の小型化にさらに寄与する。
【0076】
以上述べたように、上記実施形態に係るバルブタイミング変更装置Mによれば、構造の簡素化、部品の集約化、装置の小型化等を達成しつつ、作動油の油圧で作動するロック機構40の誤作動を防止して、所望する機能を得ることができる。
【0077】
上記実施形態においては、ロック機構40が中間位置にロックする場合を示したが、これに限定されるものではなく、最遅角位置又はその他の位置であってもよい。
上記実施形態においては、ベーンロータ20を回転付勢する回転付勢バネとして、進角方向に付勢力を及ぼす回転付勢バネ30を示したが、これに限定されるものではなく、逆に遅角方向に付勢力を及ぼす回転付勢バネを採用してもよい。
【0078】
上記実施形態においては、逆止弁100を締結ボルト50の内側でかつ油路切換弁Vの内側に配置した構成を示したが、これに限定されるものではなく、ロック機構40に向けて作動油を導入する導入油路よりも下流側であれば、締結ボルト50の外側の位置や別の位置に配置してもよい。
【0079】
上記実施形態においては、油路切換弁としてトルク駆動型の油路切換弁Vを示したが、これに限定されるものではなく、作動油の供給及び排出を行う油路切換弁を採用してもよく、その他の構成をなすものであってもよい。
上記実施形態においては、油路切換弁Vが締結ボルト50の内側に配置された場合を示したが、これに限定されるものではなく、油路切換弁がエンジンのシリンダブロックに配置された構成においても、本発明を適用することができる。
【0080】
以上述べたように、本発明のバルブタイミング変更装置は、構造の簡素化、部品の集約化、装置の小型化等を達成しつつ、作動油の油圧で作動するロック機構の誤作動を防止して、所望する機能を得ることができるため、自動車等に搭載された内燃式のエンジンに適用できるのは勿論のこと、二輪車等に搭載されたエンジン等においても有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 カムシャフト
6 電磁アクチュエータ
6a 駆動シャフト
AC 進角室
RC 遅角室
10 ハウジングロータ
20 ベーンロータ
27 溝通路(導入油路)
40 ロック機構
50 締結ボルト
54 貫通路(導入油路)
55 遅角油路
56 進角油路
V 油路切換弁
70 スリーブ
Cp 隙間通路
71 外壁
74 供給ポート
75 遅角ポート
76 進角ポート
80 弁体
81 ロッド
81c 端部
82 第1弁部
82a 第1固定部
82a1 第1ランド
82a3 第1内部通路
82b 第1可動部
82b2 第1蓋部
83 第2弁部
83a 第2固定部
83a1 第2ランド
83a3 第2内部通路
83b 第2可動部
83b2 第2蓋部
84 圧縮バネ
90 付勢バネ
100 逆止弁