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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】静電容量型近接検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G01B7/00 101C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020077043
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021173615
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗熊 甫
(72)【発明者】
【氏名】新枦 雄介
(72)【発明者】
【氏名】張 雲偉
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-513864(JP,A)
【文献】特開2003-202312(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の近接を検出するためのセンサ電極と、
前記センサ電極における前記検出対象とは反対側に配置されたグランド電極と、
前記センサ電極と前記グランド電極との間に配置されたアクティブガード電極と、
前記センサ電極に励起電圧を印加すると共に、前記センサ電極に励起電圧を印加させたときの前記センサ電極における電荷移動量に基づいて前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxを検出する静電容量検出回路と、
入力端子が前記静電容量検出回路における前記センサ電極への電圧印加端子に接続され、出力端子が前記アクティブガード電極に接続される複数のバッファ回路と、
を備え
前記アクティブガード電極への励起電圧が前記センサ電極への励起電圧に対して遅れる時間tdと、当該遅れ時間tdの間に前記センサ電極に流れる電流Iと、前記センサ電極への励起電圧Eとに基づいて、測定オフセット値が算出され、
前記静電容量検出回路の測定レンジは、前記測定オフセット値の分だけオフセットされた状態において、前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxを検出可能なレンジに設定されている、静電容量型近接検出装置。
【請求項2】
前記複数のバッファ回路は、並列に接続されている、請求項1に記載の静電容量型近接検出装置。
【請求項3】
前記測定レンジC_rangeは、下記式を満たす、請求項1又は2に記載の静電容量型近接検出装置。
1/2×C_range > I×td/E
【請求項4】
検出可能な前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxの変化の大きさは、前記アクティブガード電極への励起電圧が前記センサ電極への励起電圧に対して遅れる場合における前記センサ電極と前記グランド電極との間の寄生容量Cyより小さい、請求項1-の何れか1項に記載の静電容量型近接検出装置。
【請求項5】
検出可能な前記静電容量Cxの変化の大きさは、前記遅れる場合における前記寄生容量Cyの1/1000以下である、請求項に記載の静電容量型近接検出装置。
【請求項6】
前記アクティブガード電極と前記グランド電極との間の寄生容量Czは、1000pF以上であり、
検出可能な前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxの変化の大きさは、1pF以下である、請求項1-の何れか1項に記載の静電容量型近接検出装置。
【請求項7】
前記センサ電極、前記グランド電極、及び、前記アクティブガード電極は、人協働ロボットに配置され、
前記静電容量検出回路は、前記センサ電極と前記検出対象としての人との間の静電容量Cxを検出する、請求項1-の何れか1項に記載の静電容量型近接検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型近接検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、人協働ロボットに設置された近接センサにより、ロボットと人との距離を検出することが記載されている。近接センサの例として、超音波センサが主の例として記載されており、光学センサ、静電容量センサ、電波センサについても記載されている。
【0003】
特許文献2には、自己容量方式のタッチ検出装置が記載されている。当該検出装置は、センサ電極とアクティブガード電極(シールド電極とも称する)とを備えており、アクティブガード電極への電圧の励起回路としてバッファ回路及び駆動補助回路を備える。特許文献3には、センサ電極と検出対象との間に形成される静電容量を検知することで検出対象の形状を測定する装置が記載されている。当該測定装置は、アクティブガード電極となる電極に、センサ電極の電圧を印加するバッファ回路を備える。バッファ回路により、センサ電極とアクティブガード電極との間の電位差が一定に保たれるため、寄生容量の影響を低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/131237号
【文献】特開2019-211898号公報
【文献】特開2015-094599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、静電容量を用いた近接検出装置としては、特許文献2,3に記載されているように、センサ電極と検出対象(人の指や形状測定対象物)との距離は、極めて短い距離である。距離が短いほど、センサ電極と検出対象との間の静電容量の変化は大きくなるため、検出対象の検出が容易である。しかし、人協働ロボット等のように検出対象との距離が遠い場合には、静電容量の変化が非常に小さい。小さな静電容量の変化を検出することは、容易ではない。
【0006】
アクティブガード電極は、センサ電極とグランド電極との間の寄生容量を低減すると共に、検出範囲の指向性を高める機能を有する。アクティブガード電極によるシールド効果が十分でない場合には、センサ電極から発せられた電界がグランド電極へ回り込むことによってセンサ電極とグランド電極との間で寄生容量を持ってしまう。その結果、センサ電極と検出対象との間の静電容量の変化の検出感度が低下する。
【0007】
また、アクティブガード電極の面積はセンサ電極の面積よりも大きく、且つ、アクティブガード電極とグランド電極との層間距離が近い方が、アクティブガード電極のシールド効果が高くなる。さらに、アクティブガード電極のシールド効果が十分に機能している状態において、センサ電極とアクティブガード電極との層間距離が近い方が、センサ電極と検出対象との間の静電容量の変化を検出する指向性が高くなる。
【0008】
しかし、センサ電極とアクティブガード電極との距離、及び、アクティブガード電極とグランド電極との距離が近くなると、それぞれの電極間の寄生容量が大きくなってしまい、その結果、励起電圧の波形がひずみ、検出対象との静電容量の変化を検出することができない。
【0009】
特許文献2,3に記載のように、アクティブガード電極を設けると共に、アクティブガード電極と検出回路との間にバッファ回路(ボルテージフォロワ)を設けることにより、センサ電極とグランド電極との間の寄生容量の影響を小さくすることができる。しかし、これらは、検出対象との距離が近い場合を対象としており、例えば、人協働ロボット等のように検出対象との距離が遠く、検出対象との間の静電容量の変化が非常に小さな場合には十分ではない。
【0010】
本発明は、極めて小さな静電容量の変化を高精度に検出することができる静電容量型近接検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、検出対象の近接を検出するためのセンサ電極と、前記センサ電極における前記検出対象とは反対側に配置されたグランド電極と、
前記センサ電極と前記グランド電極との間に配置されたアクティブガード電極と、
前記センサ電極に励起電圧を印加すると共に、前記センサ電極に励起電圧を印加させたときの前記センサ電極における電荷移動量に基づいて前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxを検出する静電容量検出回路と、
入力端子が前記静電容量検出回路における前記センサ電極への電圧印加端子に接続され、出力端子が前記アクティブガード電極に接続される複数のバッファ回路とを備え
前記アクティブガード電極への励起電圧が前記センサ電極への励起電圧に対して遅れる時間tdと、当該遅れ時間tdの間に前記センサ電極に流れる電流Iと、前記センサ電極への励起電圧Eとに基づいて、測定オフセット値が算出され、
前記静電容量検出回路の測定レンジは、前記測定オフセット値の分だけオフセットされた状態において、前記センサ電極と前記検出対象との間の静電容量Cxを検出可能なレンジに設定されている、静電容量型近接検出装置にある
【0012】
上記のように、静電容量型近接検出装置は、アクティブガード電極へ励起電圧を印加する回路として、複数のバッファ回路が設けられている。仮に、1個のバッファ回路のみが設けられている場合には、アクティブガード電極とグランド電極との間の寄生容量が大きいと、センサ電極への励起電圧とアクティブガード電極への励起電圧とのずれが大きくなる。センサ電極とアクティブガード電極の電位差が生じることにより、センサ電極とグランド電極との間の寄生容量が大きくなってしまう。特に、検出対象とセンサ電極との間の静電容量が小さい場合には、センサ電極とグランド電極との間の寄生容量の影響により、対象の静電容量を検出できない。
【0013】
しかし、上記のように、静電容量型近接検出装置は、アクティブガード電極へ励起電圧を印加する回路として、複数のバッファ回路が設けられている。複数のバッファ回路によって、センサ電極への励起電圧とアクティブガード電極への励起電圧とのずれを小さくできる。その結果、センサ電極とグランド電極との間の寄生容量を小さくできる。従って、検出対象とセンサ電極との間の静電容量が小さい場合であっても、高精度に検出対象の近接を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】静電容量型近接検出装置の適用例を示す図である。
図2】静電容量型近接検出装置の構成図である。
図3】理想状態を示し、検出対象がセンサ電極に近接した状態において、センサ電極に矩形励起電圧が印加され、且つ、アクティブガード電極にセンサ電極と完全に同一の矩形励起電圧が印加されたときに、検出回路に流れる電流を示す模式図である。細破線は、太実線に対して、検出対象が近接した状態の挙動を示す。
図4】センサ電極への矩形励起電圧に対してアクティブガード電極への励起電圧のずれを示す模式図である。
図5】検出対象がセンサ電極に近接した状態において、センサ電極に矩形励起電圧が印加され、且つ、アクティブガード電極に図4に示す励起電圧が印加されたときに、検出回路に流れる電流を示す模式図である。
図6】人が人協働ロボットに近づいている場合に、検出静電容量の推移を示すグラフである。
図7】本例のシミュレーション回路図であって、2個のバッファ回路を備え、且つ、アクティブガード電極とグランド電極との間の寄生容量Czが大きな値(10000pF)の場合についての回路図である。
図8】比較例1のシミュレーション回路図であって、1個のみのバッファ回路を備え、且つ、アクティブガード電極とグランド電極との間の寄生容量Czが小さな値(100pF)の場合についての回路図である。
図9】比較例2のシミュレーション回路図であって、1個のみのバッファ回路を備え、且つ、アクティブガード電極とグランド電極との間の寄生容量Czが大きな値(10000pF)の場合についての回路図である。
図10】本例、及び、比較例1,2のそれぞれについてのシミュレーション結果であって、アクティブガード電極への励起電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.静電容量型近接検出装置1の適用例)
静電容量型近接検出装置1(以下、「検出装置」と称する)の適用例について図1を参照して説明する。検出装置1は、例えば、人協働ロボット2に配置され、検出対象3の一例である人が人協働ロボット2に近接したことを検出する装置として適用できる。そして、検出対象3である人が人協働ロボット2に対して所定距離以内に近接していると判定された場合には、人協働ロボット2を停止させたり、警告を発したりすることができる。
【0016】
ここで、人協働ロボット2と検出対象3との所定距離は、タッチパネルと人の指との距離に比べて極めて遠い。そのため、対象とする人協働ロボット2と検出対象3との間の静電容量Cxは、非常に小さい。つまり、検出装置1は、検出対象3である人の近接を、極めて小さな静電容量Cxの変化に基づいて検出することができる装置である。本例において、検出装置1により検出可能な静電容量Cxの変化の大きさは、例えば、1pF以下、特に、数10~数100fFの範囲とする。
【0017】
また、検出装置1の検出対象3は、人の他に、導電体であれば、全てを対象とできる。例えば、検出装置1の検出対象3をロボットとし、検出装置1の設置対象を他のロボットとして、検出装置1は、ロボット同士の近接を検出する装置としても適用できる。
【0018】
また、検出装置1を設置する対象は、人協働ロボット2の他に、任意の位置に設置することができる。例えば、検出装置1を、検出対象3である人の侵入禁止エリアに設置することで、人の侵入を検出することもできる。
【0019】
図1に示す人協働ロボット2は、任意の作業を行うためのシリアルリンク型ロボットである。人協働ロボット2は、複数の関節を有しており、先端に作業ユニットを備える。例えば、人協働ロボット2は、搬送対象物(図示せず)を搬送するロボットであって、先端に搬送対象物を把持するハンドを有する。ただし、人協働ロボット2は、上記構成に限られず、任意の構成とすることができる。
【0020】
検出装置1は、図1に示すように、センサ本体10と、回路ユニット20とを備える。センサ本体10は、人協働ロボット2の表面に設置されている。例えば、センサ本体10は、人協働ロボット2における作業ユニット付近(先端付近)に設置されている。センサ本体10は、シート状に形成されており、人協働ロボット2の円筒外周部を構成する枠体に塗装やメッキにより形成されたものや、金属などの導電体により形成された枠体そのものとすることができる。なお、枠体とは別体に形成された部材とし、枠体に張り付けるようにしてもよい。回路ユニット20は、センサ本体10に電気的に接続されており、静電容量Cxを取得する。回路ユニット20は、例えば、センサ本体10に励起電圧を印加すると共に、励起電圧を印加した際に流れる電流を検出することで、静電容量Cxの相当値を取得する。
【0021】
(2.静電容量型近接検出装置1の構成)
検出装置1の構成について図2を参照して説明する。検出装置1は、センサ本体10と回路ユニット20とを備える。センサ本体10は、シート状に形成されている。センサ本体10は、センサ電極11、グランド電極12、および、アクティブガード電極13を備える。
【0022】
センサ電極11は、面状(平面、曲面を含む)に形成されており、検出対象3(例えば、人)の近接を検出するための電極である。センサ電極11の表面、すなわち検出対象3側の面には、絶縁層(図示せず)を備える。
【0023】
グランド電極12は、センサ電極11から距離を有してセンサ電極11に対向可能な形状に形成されており、センサ電極11における検出対象3とは反対側に配置される。グランド電極12は、例えば、面状に形成されている場合には、センサ電極11と同等の大きさに形成されている。また、センサ電極11が筒状に形成されている場合には、グランド電極12は、筒の中心軸を構成する芯材とすることもできる。グランド電極12は、接地されている。
【0024】
アクティブガード電極13は、面状(平面、曲面を含む)に形成されており、センサ電極11とグランド電極12との間に配置されている。アクティブガード電極13は、検出対象3との静電容量Cxの検出において、センサ電極11とグランド電極12との電位差の影響を抑制するための電極である。
【0025】
アクティブガード電極13とセンサ電極11との間には、絶縁層(図示せず)を備える。また、アクティブガード電極13とグランド電極12との間にも、絶縁層(図示せず)を備える。また、アクティブガード電極13は、センサ電極11およびグランド電極12よりも大きく形成されており、センサ電極11およびグランド電極12の全周から外に張り出している。
【0026】
ここで、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量は、Cxである。センサ電極11とグランド電極12との間の寄生容量は、Cyである。アクティブガード電極13とグランド電極12との間の寄生容量は、Czである。
【0027】
そして、理想的な状態として、センサ電極11に印加される励起電圧とアクティブガード電極13に印加される励起電圧とが一致している場合には、センサ電極11とグランド電極12との間の見かけ上の寄生容量Cy*を0(ゼロ)とみなすことができる。従って、センサ電極11は、検出対象3との間の静電容量Cxによる変化のみに影響を受けることができ、高精度に静電容量Cxの検出が可能となる。つまり、理想的な状態においては、高精度に、検出対象3の近接を検出することができる。なお、以下において、見かけ上の寄生容量をCy*とし、実際の寄生容量をCyとする。
【0028】
また、アクティブガード電極13とグランド電極12との間の寄生容量Czは、1000pF以上、特に10000pF以上である。また、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxの変化の大きさは、上述したように、例えば、1pF以下、特に数10~数100fFの範囲を検出可能範囲とする。このように、寄生容量Czが、静電容量Cxの変化の大きさの検出可能範囲に対して非常に大きいことが分かる。
【0029】
回路ユニット20は、静電容量検出回路21(以下、「検出回路」と称する)と、複数のバッファ回路22,23とを備える。検出回路21は、センサ電極11に励起電圧を印加する。さらに、検出回路21は、センサ電極11に励起電圧を印加させたときのセンサ電極11における電荷の移動量に基づいて、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxを検出する。詳細には、検出回路21は、検出対象3が存在しない場合と比較して、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxの変化の大きさを検出する。
【0030】
複数のバッファ回路22,23は、検出回路21とアクティブガード電極13との間に接続されている。特に、複数のバッファ回路22,23は、オペアンプにより構成されている。また、複数のバッファ回路22,23は、並列に接続されている。
【0031】
つまり、複数のバッファ回路22,23の入力端子は、検出回路21におけるセンサ電極11への電圧印加端子に接続されている。特に、オペアンプの非反転入力を、バッファ回路22,23の入力端子としている。複数のバッファ回路22,23の出力端子は、アクティブガード電極13に接続されている。さらに、オペアンプの出力と反転入力とを接続している。
【0032】
従って、複数のバッファ回路22,23は、原理的には、入力端子の電圧と出力端子の電圧とを同一にすることができる。すなわち、複数のバッファ回路22,23は、センサ電極11への印加電圧と同一の電圧をアクティブガード電極13に印加することができる。
【0033】
ただし、実際には、センサ電極11に矩形励起電圧を印加した場合において、寄生容量Czが静電容量Cxの変化の大きさの検出可能範囲に対して非常に大きいことに起因して、アクティブガード電極13への励起電圧が、センサ電極11に印加される矩形励起電圧に対して遅れ(ずれ)を生じることが分かった。そこで、本例においては、複数のバッファ回路22,23を並列に設けることによって、遅れを小さくすることとしている。
【0034】
(3.静電容量型近接検出装置1の動作)
(3-1.基本原理の説明)
検出装置1による静電容量Cxの検出における基本原理について図3を参照して説明する。検出回路21が、センサ電極11に対して矩形励起電圧を印加する。検出回路21とアクティブガード電極13との間には、複数のバッファ回路22,23が接続されている。従って、理想的な状態としては、アクティブガード電極13への励起電圧が、センサ電極11への矩形励起電圧に一致する。
【0035】
そのため、センサ電極11とグランド電極12との間の見かけ上の寄生容量Cy*は、0(ゼロ)とみなすことができる。従って、センサ電極11に流れる電流は、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxのみの影響を受けることになる。
【0036】
センサ電極11およびアクティブガード電極13に同一の励起電圧Eが印加された場合において、センサ電極11における電荷の移動量Qは、式(1)により表される。ここで、Rは、バッファ回路22,23の出力端子とアクティブガード電極13との間の電気抵抗である。
【0037】
【数1】
【0038】
このとき、センサ電極11に流れる電流Iは、式(2)により表される。
【0039】
【数2】
【0040】
センサ電極11に流れる電流Iは、図3に示すように変化する。そして、センサ電極11に流れる電流Iは、静電容量Cxに応じて変化する。静電容量Cxが大きくなると、図3における電流Iの傾きが緩やかになる。つまり、励起電圧Eが印加された時刻t1において、電流Iは、R/Eに一気に立上り、その後は、静電容量Cxに応じて徐々に減少する。
【0041】
図3における電流Iの積分値(囲まれた部分の面積)が、電荷の総移動量Qxであって、静電容量Cxに相当する値となる。従って、検出回路21にて、電荷の総移動量Qxを演算することによって、静電容量Cxを取得することができる。
【0042】
(3-2.実際の動作)
ただし、実際には、センサ電極11に矩形励起電圧を印加した場合において、寄生容量Czが静電容量Cxの変化の大きさの検出可能範囲に対して非常に大きいことに起因して、アクティブガード電極13への励起電圧が、センサ電極11に印加される矩形励起電圧に対して遅れ(ずれ)を生じることが分かった。
【0043】
センサ電極11に印加される励起電圧V1、および、アクティブガード電極13に印加される励起電圧V2は、図4に示すとおりである。つまり、センサ電極11に印加される励起電圧V1は、時刻t1の時点から一定の電圧Eとなる。一方、アクティブガード電極13に印加される励起電圧V2は、時刻t1からt2までの遅れ時間tdだけ遅れて、一定の電圧Eとなる。このように、時刻t1からt2までの間、アクティブガード電極13に印加される励起電圧V2は、センサ電極11に印加される励起電圧V1に対してずれた状態となる。
【0044】
そのため、遅れ時間tdにおいて、センサ電極11における電荷Qは、グランド電極12側へも移動することになる。特に、検出可能な静電容量Cxの変化の大きさは、アクティブガード電極13への励起電圧V2がセンサ電極11への励起電圧V1に対して遅れる場合におけるセンサ電極11とグランド電極12との間の寄生容量Cyより遥かに小さい。例えば、検出可能な静電容量Cxの変化の大きさは、遅れにおける寄生容量Cyの1/1000以下である。そうすると、センサ電極11における電荷は、グランド電極12との移動が支配的となる。
【0045】
従って、図5に示すように、センサ電極11に流れる電流Iは、遅れ時間tdにおいて、グランド電極12との間に流れる電流となり、ほぼ一定値R/Eとなる。遅れ時間td経過後においては、センサ電極11に流れる電流Iは、理想的な状態として示した図3と同様の挙動となる。つまり、センサ電極11に流れる電流Iは、静電容量Cxに応じて減少していく。
【0046】
図5において、遅れ時間tdにおける電流Iの積分値(囲まれた部分の面積)が、センサ電極11とグランド電極12との間の電荷の総移動量Qyとなる。一方、遅れ時間td以降における電流Iの積分値が、センサ電極11と検出対象3との間の電荷の総移動量Qxとなり、静電容量Cxに相当する値となる。
【0047】
そして、電流Iの積分値は、遅れ時間tdにおける電荷の総移動量Qyと、遅れ時間td以降における電荷の総移動量Qxの合計値となる。従って、検出回路21にて、遅れ時間tdにおける電荷の総移動量Qyを除いた電荷の総移動量Qxを演算することによって、静電容量Cxを取得することができる。
【0048】
(3-3.検出装置1の設計)
上述したように、遅れ時間tdを考慮した上で、検出対象3との静電容量Cxを検出できるようにするために、以下のように検出装置1の設計を行う。図5に加えて、検出回路21における測定レンジを示す図6を参照して説明する。なお、図6の検出値を示す黒点は、検出対象3である人が、人協働ロボット2に近づいてきて、一定の距離の位置に停止している状態を示す。
【0049】
検出回路21が取得する静電容量Cは、図5における遅れ時間tdの電荷の総移動量Qyの影響分と、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxとの合計値となる。以下、検出回路21が取得する静電容量Cを、検出静電容量と称する。
【0050】
図5において、遅れ時間tdにおける電荷の総移動量Qyは、一定値である。そこで、検出静電容量Cにおいて、遅れ時間tdにおける電荷の総移動量Qyの影響分を一定値としての測定オフセット値C_offsetと考える。つまり、図6に示すように、検出回路21の測定レンジは、測定オフセット値C_offsetの分だけオフセットされた状態において、センサ電極11と検出対象3との間の静電容量Cxを検出可能なレンジに設定する必要がある。
【0051】
従って、測定オフセット値C_offsetが測定レンジC_rangeを逸脱しないことが必須条件である。ただし、静電容量Cxを検出することが目的であることから、測定オフセット値C_offsetが、測定レンジC_rangeの半分より小さくすることが求められる。つまり、測定レンジC_rangeは、式(3)を満たすようにする。式(3)において右辺が、測定オフセット値C_offsetである。測定オフセット値C_offsetは、電流I、励起電圧E、遅れ時間tdに基づいて算出される。
【0052】
【数3】
【0053】
式(3)より、遅れ時間tdを短くすることにより、測定オフセット値C_offsetを小さくすることができる。つまり、式(3)を満たすような遅れ時間tdを設定するために、バッファ回路22,23の並列数を設計することになる。
【0054】
以下には、より具体的な数値を例にあげて説明する。例えば、センサ電極11と検出対象3との距離を600mm程度とし、各電極11,12,13を一辺200mmの正方形(センサ電極11の大きさを40000mm)とする。この場合に、検出対象3が存在しない場合と比較して、静電容量Cxが数10~数100fFの範囲で変化する場合を対象とする。
【0055】
対象の静電容量Cxの変化(例えば、20fF)を検出するためには、検出回路21は、有効ビット数を考慮した上で、対象の静電容量Cxの変化の1/100程度の最小分解能を必要とする。例えば、分解能が24ビットの場合に22msecの変換時間で使用した場合には、有効ビット数は16.4ビットとなる。測定レンジC_rangeを、16pF、すなわち±8pFとした場合に、最小分解能は、185aF(=16pF÷216.4)となる。この最小分解能185aFは、対象の静電容量Cxの変化である20fFの1/100以下となるため、当該静電容量Cxの変化を検出可能と言える。
【0056】
ただし、上述した式(3)を満たす必要がある。つまり、測定オフセット値C_offsetが、16pFの半分より小さな値(8pF未満)に設定する必要がある。測定オフセット値C_offsetが8pF未満となるように、バッファ回路22,23の並列数を設計する。なお、以下に説明するが、バッファ回路22,23の並列数を増加すればするほど、遅れ時間tdは短くなる。
【0057】
(4.シミュレーション)
次に、本例と比較例1,2とについて、センサ電極11への励起電圧V1に対するアクティブガード電極13への励起電圧V2の遅れについて、図7図10を参照して説明する。
【0058】
本例における2個のバッファ回路22,23を含む回路構成は、図7に示すとおりである。図7に示すように、同種のバッファ回路22,23が並列に接続されている。また、寄生容量Czは、10000pFとする。この回路構成において、アクティブガード電極13への励起電圧は、V2aとする。
【0059】
比較例1における1個のバッファ回路を備える回路構成は、図8に示すとおりである。このバッファ回路は、本例におけるバッファ回路22と同種である。また、寄生容量Czは、本例と同様に、10000pFとする。この回路構成において、アクティブガード電極13への励起電圧は、V2bとする。
【0060】
比較例2における1個のバッファ回路を備える回路構成は、図9に示すとおりである。このバッファ回路は、本例におけるバッファ回路22と同種である。また、寄生容量Czは、本例および比較例1に比べて極めて小さな値10pFとする。この回路構成において、アクティブガード電極13への励起電圧は、V2cとする。
【0061】
上記それぞれにおいて、アクティブガード電極13への励起電圧V2a,V2b,V2cは、図10に示すようになる。寄生容量Czが小さな値10pFの場合の比較例2において、励起電圧V2cは、遅れ時間がほとんどなく、矩形波形を示している。一方、寄生容量Czが大きな値10000pFの本例および比較例1においては、遅れ時間を有している。ただし、本例と比較例1とを比較した場合には、本例における遅れ時間tdaが、比較例1における遅れ時間tdbに比べて、十分に短いことが分かる。
【0062】
上述したように、遅れ時間tdを短くすることが、測定オフセット値C_offsetを小さくすることにつながる。従って、回路ユニット20が複数のバッファ回路22,23を備えることにより、寄生容量Czが大きいとしても、静電容量Cxを検出することができる。
【0063】
(5.効果)
上記のように、検出装置1は、アクティブガード電極13へ励起電圧V2を印加する回路として、複数のバッファ回路22,23が設けられている。仮に、1個のバッファ回路のみが設けられている場合には、アクティブガード電極13とグランド電極12との間の寄生容量Czが大きいと、センサ電極11への励起電圧V1とアクティブガード電極13への励起電圧V2とのずれが大きくなる。センサ電極11とアクティブガード電極13の電位差が生じることにより、センサ電極11とグランド電極12との間の寄生容量Cyが大きくなってしまう。特に、検出対象3とセンサ電極11との間の静電容量Cxが小さい場合には、センサ電極11とグランド電極12との間の寄生容量Cyの影響により、検出対象3の静電容量Cxを検出できない。
【0064】
しかし、検出装置1は、アクティブガード電極13へ励起電圧V2を印加する回路として、複数のバッファ回路22,23が設けられている。複数のバッファ回路22,23によって、センサ電極11への励起電圧V1とアクティブガード電極13への励起電圧V2とのずれを小さくできる。その結果、センサ電極11とグランド電極12との間の寄生容量Cyを小さくできる。従って、検出対象3とセンサ電極11との間の静電容量Cxが小さい場合であっても、高精度に検出対象3の近接を検出することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:静電容量型近接検出装置、 2:人協働ロボット、 3:検出対象、 10:センサ本体、 11:センサ電極、 12:グランド電極、 13:アクティブガード電極、 20:回路ユニット、 21:静電容量検出回路、 22,23:バッファ回路、 C_range:測定レンジ、 Cx:センサ電極と検出対象との間の静電容量、 Cy:センサ電極とグランド電極との間の実際の寄生容量、Cy*:センサ電極とグランド電極との間の見かけ上の寄生容量、 Cz:アクティブガード電極とグランド電極との間の寄生容量、 V1:センサ電極への励起電圧、 V2:アクティブガード電極への励起電圧、 td:遅れ時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10