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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240326BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240326BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240326BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M107/02
C10M135/18
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:00 D
C10N40:04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092519
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021187911
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和樹
(72)【発明者】
【氏名】関根 顕一
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199586(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118814(WO,A1)
【文献】特開2011-001517(JP,A)
【文献】国際公開第2019/149645(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110452763(CN,A)
【文献】特表2008-542524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0298990(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有するポリ-α-オレフィン系基油、及び、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含み、
前記ジアルキルジチオカルバメート化合物が、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)であり、
前記ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、前記ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であり、
前記ポリ-α-オレフィン系基油における、前記ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量に対する前記ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量の比が、質量基準で、50/50~75/25であり、
前記ポリ-α-オレフィン系基油の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して80質量%~92質量%であり、
前記ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して0.3質量%~1.8質量%であり、
ISO VG320の規格に適合し、かつ、粘度指数が160以上である潤滑油組成物。
【請求項2】
ギヤ油として用いられる請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
風力発電装置用ギヤ油として用いられる請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳しくは、工業用ギヤ油の用途に好適に用いられ、特に、風力発電装置用ギヤ油、具体的には、風力発電装置のナセル部位に内包される増速機用ギヤ油の用途に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が世界規模で問題となる中、温暖化を促進するとされるCO、メタンガス等の温室効果ガスを削減する取り組みが世界中で行われており、化石燃料に代わる新たなエネルギー源として、太陽光、地熱、及び風力が大きな関心を集めている。これらの中でも、風力は、安定的に持続可能なエネルギー源として、世界的にも大規模な活用が検討されており、国内においても、風力を利用した発電装置(所謂、風力発電装置)の新設が年々増加傾向にある。
【0003】
風力発電装置は、風車の回転を高速にして発電機を回すための増速機を備えている。風力発電装置において、増速機は、高所に設置されており、メンテナンスが容易ではない。風力発電装置の増速機のメンテナンス頻度は、一般的な装置が備える増速機と比較すると低いものの、より低減できることが望ましい。このような観点から、風力発電装置の増速機に用いられる潤滑油組成物に対しては、増速機のメンテナンス頻度をより低減させることができる性能が求められる。
【0004】
従来、増速機等に用いられる潤滑油組成物については、種々報告されている。
例えば、特許文献1には、(a)100℃における動粘度が2mm/s以上10mm/s以下である潤滑油基油と、(b)メタロセン触媒を用いて製造された100℃における動粘度が15mm/s以上300mm/s以下のポリ-α-オレフィンとを配合してなり、かつ、(b)成分の配合量が組成物全量基準で20質量%以上である潤滑油組成物が開示されている。また、特許文献2には、(A)メタロセン触媒を用いて得られたポリ-α-オレフィン基油と、(B)蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%との2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|が6.8℃/体積%以下である鉱油系基油と、組成物全量基準で6質量%以上の(C)エステル系基油とを含有する潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-174000号公報
【文献】特開2019-199586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、潤滑油組成物には、耐摩耗性能、耐荷重性能等の性能の向上を目的として、耐摩耗剤、極圧剤等の添加剤(以下、「極圧剤等」ともいう。)が配合される。極圧剤等は、例えば、金属表面に吸着した後、金属間で生じる断熱圧縮、摩擦等によって分解し、次いで金属表面と反応して膜(所謂、潤滑膜)を形成することで、機能を発揮している。潤滑油組成物中の極圧剤等は、その機能を発揮することで徐々に減少する。潤滑油組成物の優れた潤滑特性を持続させるためには、極圧剤等が必要以上に消費されることを抑制できることが望ましい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れる潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有するポリ-α-オレフィン系基油、及び、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含み、上記ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、上記ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であり、上記ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して0.3質量%~1.8質量%であり、ISO VG320の規格に適合し、かつ、粘度指数が160以上である潤滑油組成物。
<2> 上記ポリ-α-オレフィン系基油における、上記ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量に対する上記ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量の比〔即ち、上記ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量/上記ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量〕が、質量基準で、50/50~90/10である<1>に記載の潤滑油組成物。
<3> 上記ポリ-α-オレフィン系基油の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して80質量%以上である<1>又は<2>に記載の潤滑油組成物。
<4> ギヤ油として用いられる<1>~<3>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
<5> 風力発電装置用ギヤ油として用いられる<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れる潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有するポリ-α-オレフィン系基油、及び、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含み、ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であり、ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して0.3質量%~1.8質量%であり、ISO VG320の規格に適合し、かつ、粘度指数が160以上の潤滑油組成物である。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れる。
本発明の潤滑油組成物では、潤滑油組成物に含まれる成分として、メタロセン触媒を用いて合成された比較的高粘度のポリ-α-オレフィン基油(A)及び比較的低い粘度のポリ-α-オレフィン基油(B)を含み、ポリ-α-オレフィン基油(A)を主成分とするポリ-α-オレフィン系基油と、極圧剤として機能し得るジアルキルジチオカルバメート化合物と、を選択するとともに、ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率を特定の範囲とし、かつ、潤滑油組成物の性状を特定のものにすることにより、優れた潤滑特性が得られるとともに、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の消耗頻度が低減されるため、優れた潤滑特性の持続が可能となる。
【0013】
また、本発明の潤滑油組成物は、上記のような構成を有することにより、熱安定性に優れるという効果も奏し得る。
【0014】
なお、本明細書では、「メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有するポリ-α-オレフィン系基油であって、ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であるポリ-α-オレフィン系基油」を「特定ポリ-α-オレフィン系基油」ともいう。
【0015】
〔特定ポリ-α-オレフィン系基油〕
本発明の潤滑油組成物は、特定ポリ-α-オレフィン系基油を含む。
特定ポリ-α-オレフィン系基油は、メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有し、ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上である。
本発明の潤滑油組成物において、特定ポリ-α-オレフィン系基油は、潤滑特性の持続性の向上に寄与し得る。
本発明の潤滑油組成物は、金属間に油膜を形成する。本発明の潤滑油組成物が特定ポリ-α-オレフィン系基油を含むと、金属間に油膜が保たれ、金属同士が直接接触する確率が低下し得る。金属同士が直接接触する確率が低下すると、アルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の消耗頻度が低減されるため、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性が向上し得る。
以下、特定ポリ-α-オレフィン系基油の成分について、詳述する。
【0016】
<ポリ-α-オレフィン基油(A)>
ポリ-α-オレフィン基油(A)は、メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上のポリ-α-オレフィン基油である。
メタロセン触媒を用いて合成されたポリ-α-オレフィン基油は、メタロセン触媒以外の触媒(例えば、チーグラー触媒)を用いて合成されたポリ-α-オレフィン基油よりも粘度指数が高く、潤滑油組成物の粘度指数を高める効果を有する。このため、メタロセン触媒を用いて合成されたポリ-α-オレフィン基油は、例えば、潤滑油組成物の低温領域での粘度特性の向上に寄与し得る。
【0017】
ポリ-α-オレフィン基油(A)は、少なくとも1種のα-オレフィンを、メタロセン触媒の存在下で重合することにより得られるポリ-α-オレフィン又はその水素化物である。
ポリ-α-オレフィン基油(A)は、α-オレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のα-オレフィンの共重合体であってもよく、これらの水素化物であってもよい。
【0018】
原料としてのα-オレフィンは、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。α-オレフィンの炭素数は、特に限定されないが、例えば、8~12であることが好ましく、10であることがより好ましい。
炭素数が8~12である直鎖のα-オレフィンとしては、1-オクテン(炭素数:8)、1-ノネン(炭素数:9)、1-デセン(炭素数:10)、1-ウンデセン(炭素数:11)、1-ドデセン(炭素数:12)が挙げられる。
【0019】
メタロセン触媒は、α-オレフィンの重合触媒として機能する。
メタロセン触媒としては、第4族元素を含む共役炭素5員環を有する錯体(所謂、メタロセン錯体)と、酸素含有有機アルミニウム化合物との組み合わせが挙げられる。
共役炭素5員環を有する錯体としては、特に限定されないが、一般には、置換又は無置換のシクロペンタジエニル配位子を有する錯体が用いられる。
第4族元素は、チタン、ジルコニウム、又はハフニウムであることが好ましく、ジルコニウムであることがより好ましい。
【0020】
メタロセン錯体の好ましい例としては、ビス(n-オクタデシルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ビス[(t-ブチルジメチルシリル)シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、ビス(ジ-t-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(エチリデン-ビスインデニル)ジルコニウムジクロリド、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、エチリデンビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ビス[3,3-(2-メチル-ベンズインデニル)]ジメチルシランジイルジルコニウムジクロリド等が挙げられる。
メタロセン錯体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
酸素含有有機アルミニウム化合物の例としては、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン等が挙げられる。
酸素含有有機アルミニウム化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、5000以上であることが好ましく、5000~13000であることがより好ましく、5000~12000であることが更に好ましく、6000~12000であることが特に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の重量平均分子量が5000以上であると、ポリ-α-オレフィン基油(A)の40℃における動粘度を1200mm/s以上に、より調整しやすくなる傾向がある。
【0023】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の重量平均分子量は、下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量算定用標準ポリスチレン換算値である。
【0024】
<<条件>>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)
検出器:示差屈折検出器
カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工(株)製)を3本
カラム温度:40℃
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1ml/min
試料濃度:1.0m/v%
注入量:100μL
【0025】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の40℃における動粘度は、1200mm/s以上であり、1200mm/s~5000mm/sであることが好ましく、1200mm/s~4000mm/sであることがより好ましく、1400mm/s~4000mm/sであることが更に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の40℃における動粘度が1200mm/s以上であると、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性が向上し得る。
なお、理由としては、以下のことが考えられる。ポリ-α-オレフィン基油(A)の40℃における動粘度が1200mm/s以上であると、潤滑油組成物の粘度が高まるため、金属間に比較的厚みのある油膜を形成できる。金属間に油膜が厚く形成されると、金属同士の直接接触が抑制されるため、アルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の消耗頻度を低減できる。このため、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性が向上し得ると考えられる。
【0026】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0027】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数は、特に限定されないが、例えば、180以上であることが好ましく、190以上であることがより好ましく、200以上であることが更に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数が180以上であると、低温及び高温の使用環境における潤滑油組成物の粘度を、より適切な粘度に維持できる傾向にある。
このように、使用環境において、潤滑油組成物の粘度を適切な粘度に維持できると、境界潤滑が抑制され、流体潤滑が維持されるため、金属同士が直接接触することを抑制できる。金属同士が直接接触することが抑制されると、アルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の消耗頻度が低減されるため、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性が向上し得る。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数の上限は、例えば、250以下である。
【0028】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0029】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の流動点は、特に限定されないが、例えば、-25℃以下であることが好ましく、-30℃以下であることがより好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の流動点が-25℃以下であると、潤滑油組成物が低温環境でも十分な流動性を示す傾向にある。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の流動点の下限は、例えば、-50℃以上である。
【0030】
ポリ-α-オレフィン基油(A)の流動点は、JIS K 2269:1987に準拠した方法により測定される値である。
【0031】
ポリ-α-オレフィン基油(A)としては、市販品を用いることができる。
ポリ-α-オレフィン基油(A)の市販品の例としては、SpectraSyn elite(登録商標) 150、300等〔以上、全てExxonMobil社製〕、Synfluid(登録商標) mPAO 150〔Chevron Phillips社製〕などが挙げられる。
【0032】
特定ポリ-α-オレフィン系基油は、ポリ-α-オレフィン基油(A)を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0033】
特定ポリ-α-オレフィン系基油におけるポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率は、特定ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であり、50質量%~90質量%であることが好ましく、50質量%~85質量%であることがより好ましく、50質量%~80質量%であることが更に好ましく、50質量%~75質量%であることが特に好ましい。
特定ポリ-α-オレフィン系基油におけるポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、特定ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であると、ISO VG320の規格に適合し、かつ、粘度指数が160以上である潤滑油組成物を実現し得る。また、潤滑油組成物の低温領域での粘度特性(例えば、流動性)が向上する傾向にある。また、潤滑油組成物の引火点が高くなり、引火の危険性が低減する傾向にある。
【0034】
<ポリ-α-オレフィン基油(B)>
特定ポリ-α-オレフィン系基油は、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)を含む。
ポリ-α-オレフィン基油(B)は、メタロセン触媒を使用せずに合成されたポリ-α-オレフィン基油である。
【0035】
ポリ-α-オレフィン基油(B)は、少なくとも1種のα-オレフィンを重合することにより得られるポリ-α-オレフィン又はその水素化物である。
ポリ-α-オレフィン基油(B)は、α-オレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のα-オレフィンの共重合体であってもよく、これらの水素化物であってもよい。
【0036】
原料としてのα-オレフィンは、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。α-オレフィンの炭素数は、特に限定されないが、例えば、8~12であることが好ましく、10であることがより好ましい。炭素数が8~12である直鎖のα-オレフィンは、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
原料であるα-オレフィンの炭素数が8~12であると、得られるポリ-α-オレフィン基油(B)は、相対的に引火点が高くなる、低温領域での流動性に優れる等の傾向を示す。
【0037】
ポリ-α-オレフィン基油(B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、500~3000であることが好ましく、700~2000であることがより好ましく、800~1500であることが更に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(B)の重量平均分子量が500以上であると、潤滑油組成物の熱による蒸発をより抑制できるとともに、引火点を高く保つことができる傾向がある。
【0038】
なお、ポリ-α-オレフィン基油(B)の重量平均分子量は、ポリ-α-オレフィン基油(A)と同様の方法により測定される値である。
【0039】
ポリ-α-オレフィン基油(B)の40℃における動粘度は、40mm/s~100mm/sであり、40mm/s~90mm/sであることが好ましく、40mm/s~80mm/sであることがより好ましく、40mm/s~70mm/sであることが更に好ましく、40mm/s~60mm/sであることが特に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(B)の40℃における動粘度が上記範囲内であると、ISO VG320の規格に適合した潤滑油組成物を実現しやすくなる傾向がある。
【0040】
ポリ-α-オレフィン基油(B)の40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0041】
ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数は、特に限定されないが、例えば、120~150であることが好ましく、125~150であることがより好ましく、125~145であることが更に好ましい。
ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数が上記範囲内であると、潤滑油組成物の粘度指数を160℃以上に、より調整しやすくなる傾向がある。
【0042】
ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0043】
特定ポリ-α-オレフィン系基油がポリ-α-オレフィン基油(B)を含む場合、ポリ-α-オレフィン基油(A)及びポリ-α-オレフィン基油(B)の組み合わせの好ましい態様としては、特に限定されないが、例えば、ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数が180以上であり、ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数が120~150である態様が好ましく、ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数が190以上であり、ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数が125~150である態様がより好ましく、ポリ-α-オレフィン基油(A)の粘度指数が200以上であり、ポリ-α-オレフィン基油(B)の粘度指数が125~145である態様が更に好ましい。
【0044】
ポリ-α-オレフィン基油(B)としては、市販品を用いることができる。
ポリ-α-オレフィン基油(B)の市販品の例としては、Durasyn(登録商標) 125、126、127、128、145、146、147、148、156、162、164、166、168、170等〔以上、全てINEOS Oligomers社製〕が挙げられる。
【0045】
特定ポリ-α-オレフィン系基油は、ポリ-α-オレフィン基油(B)を含む場合、ポリ-α-オレフィン基油(B)を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0046】
特定ポリ-α-オレフィン系基油がポリ-α-オレフィン基油(B)を含む場合、特定ポリ-α-オレフィン系基油におけるポリ-α-オレフィン基油(B)の含有率は、特に限定されないが、例えば、特定ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して、10質量%~50質量%であることが好ましく、15質量%~50質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることが更に好ましく、25質量%~50質量%であることが特に好ましい。
特定ポリ-α-オレフィン系基油におけるポリ-α-オレフィン基油(B)の含有率が、特定ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して、上記範囲内であると、ISO VG320の規格に適合した潤滑油組成物をより実現しやすくなる傾向がある。また、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性がより向上する傾向にある。
【0047】
特定ポリ-α-オレフィン系基油における、ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量に対するポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量の比〔即ち、ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量/ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量〕は、特に限定されないが、例えば、質量基準で、50/50~90/10であることが好ましく、50/50~85/15であることがより好ましく、50/50~80/30であることが更に好ましく、50/50~75/25であることが特に好ましい。
特定ポリ-α-オレフィン系基油における、ポリ-α-オレフィン基油(B)の含有量に対するポリ-α-オレフィン基油(A)の含有量の比が、質量基準で、上記範囲内であると、ISO VG320の規格に適合した潤滑油組成物をより実現しやすくなる傾向がある。また、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性がより向上する傾向にある。
【0048】
<その他のポリ-α-オレフィン基油>
特定ポリ-α-オレフィン系基油は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ポリ-α-オレフィン基油(A)及びポリ-α-オレフィン基油(B)以外のポリ-α-オレフィン基油(所謂、その他のポリ-α-オレフィン基油)を含んでいてもよい。
【0049】
〔特定ポリ-α-オレフィン系基油の含有率〕
本発明の潤滑油組成物における特定ポリ-α-オレフィン系基油の含有率は、特に限定されないが、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、80質量%~92質量%であることが好ましく、80質量%~90質量%であることがより好ましく、82質量%~90質量%であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物における特定ポリ-α-オレフィン系基油の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して、上記範囲内であると、潤滑油組成物の潤滑特性の持続性がより向上する傾向にある。
【0050】
〔エステル系基油〕
本発明の潤滑油組成物は、エステル系基油を含むことが好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、エステル系基油は、潤滑油組成物中のジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の溶解性の向上に寄与し得る。
【0051】
エステル系基油としては、潤滑油の分野において通常使用されるエステル系基油を使用することができる。具体的には、エステル系基油としては、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等が挙げられる。
これらの中でも、エステル系基油としては、ポリオールエステルが好ましい。
本発明の潤滑油組成物は、エステル系基油としてポリオールエステルを含むと、熱安定性及び低温領域での流動性がより向上する傾向にある。
【0052】
ポリオールエステルとしては、例えば、脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物が挙げられる。
脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよいが、熱安定性(詳細には、熱酸化安定性)の観点から、飽和脂肪酸であることが好ましい。また、脂肪酸は、直鎖の脂肪酸であってもよく、分岐鎖を有する脂肪酸であってもよい。
脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、例えば、12以上であることが好ましく、12~18であることがより好ましい。
炭素数が12~18の脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
多価アルコールは、特に限定されないが、例えば、脂肪族多価アルコールであることが好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、二価の脂肪族アルコールであるエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、及びネオペンチルグリコール、三価の脂肪族アルコールであるグリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパン、並びに、四価以上の脂肪族アルコールであるジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニット、及びソルビットが挙げられる。
脂肪酸と多価アルコールとのエステル化は、従来公知の方法により行うことができる。
【0053】
ポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されていない部分エステルであってもよく、多価アルコールの水酸基の全部がエステル化されている完全エステルであってもよく、特に限定されない。
ポリオールエステルは、例えば、潤滑油組成物中にスラッジが発生した場合における、スラッジの溶解性を向上させる観点からは、部分エステルであることが好ましい。
また、ポリオールエステルは、例えば、潤滑油組成物の熱安定性を向上させる観点、及び、潤滑油組成物の引火点を高める観点からは、完全エステルであることが好ましい。
【0054】
ポリオールエステルの具体例としては、ネオペンチルグリコールジラウレート、ネオペンチルグリコールジミリステート、ネオペンチルグリコールジパルミテート、ネオペンチルグリコールジステアレート、ネオペンチルグリコールジイソステアレート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリミリステート、トリメチロールプロパントリパルミテート、トリメチロールプロパントリステアレート、トリメチロールプロパントリイソステアレート、グリセリントリラウレート、グリセリントリステアレート、グリセリントリイソステアレート、ペンタエリスリトールテトララウレート、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトライソステアレート等の完全エステル;ネオペンチルグリコールモノラウレート、ネオペンチルグリコールモノミリステート、ネオペンチルグリコールモノパルミテート、ネオペンチルグリコールモノステアレート、ネオペンチルグリコールモノイソステアレート、トリメチロールプロパンモノラウレート、トリメチロールプロパンジラウレート、トリメチロールプロパンモノミリステート、トリメチロールプロパンジミリステート、トリメチロールプロパンモノパルミテート、トリメチロールプロパンジパルミテート、トリメチロールプロパンモノステアレート、トリメチロールプロパンジステアレート、トリメチロールプロパンモノイソステアレート、トリメチロールプロパンジイソステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノイソステアレート、グリセリンジイソステアレート、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールモノミリステート、ペンタエリスリトールジミリステート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールジパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールモノイソステアレート、ペンタエリスリトールジイソステアレート等の部分エステルなどが挙げられる。
【0055】
エステル系基油の40℃における動粘度は、特に限定されないが、例えば、10mm/s~100mm/sであることが好ましく、10mm/s~75mm/sであることがより好ましく、10mm/s~50mm/sであることが更に好ましい。
エステル系基油の40℃における動粘度が上記範囲内であると、潤滑油組成物の粘性をより適切な範囲に保つことができるため、潤滑油組成物の油膜保持性がより向上する傾向にある。
【0056】
エステル系基油の40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0057】
エステル系基油の粘度指数は、特に限定されないが、例えば、120mm/s~150mm/sであることが好ましく、125mm/s~150mm/sであることがより好ましく、125mm/s~145mm/sであることが更に好ましい。
エステル系基油の粘度指数が上記範囲内であると、潤滑油組成物の粘度指数をより適度に高く保つことができる傾向にある。
【0058】
エステル系基油の粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0059】
エステル系基油としては、市販品を用いることができる。
エステル系基油の市販品としては、例えば、カオルーブ 262〔商品名、花王(株)製〕が挙げられる。
【0060】
本発明の潤滑油組成物は、エステル系基油を含む場合、エステル系基油を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0061】
本発明の潤滑油組成物がエステル系基油を含む場合、潤滑油組成物におけるエステル系基油の含有率は、特に限定されないが、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して6質量%以上であることが好ましく、6質量%~15質量%であることがより好ましく、6質量%~14質量%であることが更に好ましく、6質量%~13質量%であることが特に好ましい。
本発明の潤滑油組成物におけるエステル系基油の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して6質量%以上であると、潤滑油組成物中のジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の溶解性がより向上する傾向にある。また、スラッジが発生した場合には、スラッジをより良好に溶解させることができる傾向にある。
【0062】
本発明の潤滑油組成物における特定ポリ-α-オレフィン系基油及びエステル系基油の合計含有率は、潤滑油組成物に含まれる全ての基油の合計質量に対して90質量%~100質量%であることが好ましく、95質量%~100質量%であることがより好ましく、98質量%~100質量%であることが更に好ましく、99質量%~100質量%であることが更により好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0063】
〔その他の基油〕
本発明の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、特定ポリ-α-オレフィン系基油及びエステル系基油以外の基油(所謂、その他の基油)を含んでいてもよい。
【0064】
その他の基油は、鉱油であってもよく、合成油であってもよく、鉱油と合成油との混合油であってもよく、その種類は、特に限定されない。
鉱油としては、例えば、原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋等の精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。また、鉱油としては、例えば、水素化精製油、触媒異性化油等に溶剤脱蝋、水素化脱蝋等の処理を施した高度精製パラフィン系鉱油等が挙げられる。
合成油としては、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。
【0065】
本発明の潤滑油組成物は、その他の基油を含む場合、その他の基油を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0066】
本発明の潤滑油組成物におけるその他の基油の含有率は、特に限定されない。
本発明の潤滑油組成物は、その他の基油を含まないか、又は、その他の基油の含有率が潤滑油組成物の全質量に対して20質量%以下であることが好ましく、その他の基油を含まないか、又は、その他の基油の含有率が潤滑油組成物の全質量に対して15質量%以下であることがより好ましく、その他の基油を含まないか、又は、その他の基油の含有率が潤滑油組成物の全質量に対して10質量%以下であることが更に好ましく、その他の基油を含まないか、又は、その他の基油の含有率が潤滑油組成物の全質量に対して5質量%以下であることが更により好ましく、その他の基油を含まないことが特に好ましい。
【0067】
本明細書において、「その他の基油を含まない」とは、その他の基油を実質的に含まないことを意味し、また、ここでいう「実質的に含まない」とは、「不可避的に混入したその他の基油の存在は許容するが、意図して添加されたその他の基油の存在は許容しない」ことを意味する。
【0068】
〔ジアルキルジチオカルバメート化合物〕
本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含む。また、本発明の潤滑油組成物におけるジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率は、潤滑油組成物の全質量に対して0.3質量%~1.8質量%である。
本発明の潤滑油組成物において、特定量のジアルキルジチオカルバメート化合物は、潤滑特性の向上に寄与し得る。
【0069】
ジアルキルジチオカルバメート化合物は、無灰硫黄系極圧剤の1種である。
ジアルキルジチオカルバメート化合物としては、アルキレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)が挙げられる。
アルキレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)のアルキレン基は、炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。
また、アルキレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)のアルキル基は、炭素数3~20の直鎖アルキル基、炭素数3~20の分岐鎖を有する飽和アルキル基、炭素数3~20の分岐鎖を有する不飽和アルキル基、又は、炭素数6~20の環状アルキル基であることが好ましく、炭素数3~8の直鎖アルキル基、又は、炭素数3~8の分岐鎖を有する飽和アルキル基であることがより好ましく、炭素数3~4の直鎖アルキル基、又は、炭素数3~4の分岐鎖を有する飽和アルキル基であることが更に好ましい。
【0070】
ジアルキルジチオカルバメート化合物の具体例としては、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、メチレンビス(ジオクチルジチオカルバメート)、メチレンビス(トリデシルジチオカルバメート)等が挙げられる。
【0071】
ジアルキルジチオカルバメート化合物としては、市販品を使用できる。
ジアルキルジチオカルバメート化合物の市販品の例としては、NA-LUBE ADTC〔商品名、成分名:メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、KING INDUSTRIES社製〕、Octopol Mb〔商品名、成分名:メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、Tiarco Chemical社製〕等が挙げられる。
【0072】
本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオカルバメート化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0073】
本発明の潤滑油組成物におけるジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.3質量%~1.8質量%であり、0.3質量%~1.5質量%であることが好ましく、0.5質量%~1.5質量%であることがより好ましく、0.5質量%~1.2質量%であることが更に好ましく、0.7質量%~1.2質量%であることが特に好ましい。
本発明の潤滑油組成物におけるジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して、上記範囲内であると、潤滑油組成物の潤滑特性が向上する傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物におけるジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して1.8質量%以下であると、潤滑油組成物の熱安定性がより向上する(例えば、金属の腐食及びスラッジの発生がより抑制される)傾向にある。
【0074】
〔その他の成分〕
本発明の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、既述の成分以外の成分(所謂、その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、通常の潤滑油組成物に用いられる成分、例えば、極圧剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤等の各種添加剤が挙げられる。また、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、分散剤、抗乳化剤等の添加剤も挙げられる。
これらの成分は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0075】
<極圧剤>
極圧剤としては、特に限定されず、例えば、無灰硫黄系極圧剤(但し、既述のジアルキルジチオカルバメート化合物に該当するものを除く。)、無灰硫黄・リン系極圧剤、無灰リン系極圧剤等の極圧剤が挙げられる。
【0076】
(無灰硫黄系極圧剤)
無灰硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化オレフィン化合物、ジヒドロカルビルサルファイド化合物、チアジアゾール化合物、ジスルフィド構造を有するエステル化合物等の化合物が挙げられる。また、無灰硫黄系極圧剤としては、極圧剤として機能し得る上記化合物以外の硫黄化合物(所謂、その他の硫黄化合物)も挙げられる。
無灰硫黄系極圧剤である、硫化オレフィン化合物については、例えば、特開2019-199586号公報の段落[0038]に記載があり、ジヒドロカルビルサルファイド化合物については、同公報の段落[0039]に記載があり、チアジアゾール化合物については、同公報の段落[0040]に記載があり、ジスルフィド構造を有するエステル化合物については、同公報の段落[0042]~[0045]に記載があり、その他の硫黄化合物については、同公報の段落[0046]に記載がある。これらの記載は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0077】
本発明の潤滑油組成物は、極圧剤として無灰硫黄系極圧剤を含む場合、無灰硫黄系極圧剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0078】
本発明の潤滑油組成物が極圧剤として無灰硫黄系極圧剤を含む場合、潤滑油組成物における無灰硫黄系極圧剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.1質量%~2質量%の範囲で適宜設定される。
【0079】
(無灰硫黄・リン系極圧剤)
無灰硫黄・リン系極圧剤としては、特に限定されず、例えば、チオリン酸エステル化合物、及びチオリン酸エステルのアミン塩化合物が挙げられる。
チオリン酸エステル化合物としては、モノチオリン酸エステル化合物、ジチオリン酸エステル化合物、トリチオリン酸エステル化合物、モノチオ亜リン酸エステル化合物、ジチオ亜リン酸エステル化合物、トリチオ亜リン酸エステル化合物等が挙げられる。
これらの中でも、チオリン酸エステル化合物としては、トリチオリン酸エステル化合物が好ましい。
【0080】
トリチオリン酸エステル化合物の具体例としては、例えば、トリブチルホスホロチオネート、トリペンチルホスホロチオネート、トリヘキシルホスホロチオネート、トリヘプチルホスホロチオネート、トリオクチルホスホロチオネート、トリノニルホスホロチオネート、トリデシルホスホロチオネート、トリウンデシルホスホロチオネート、トリペンタデシルホスホロチオネート、トリヘキサデシルホスホロチオネート等のトリアルキルホスホロチオネート;トリフェニルホスホロチオネート、トリキシレニルホスホロチオネート等のトリアリールホスホロチオネート;トリス(n-プロピルフェニル)ホスホロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスホロチオネート、トリス(n-ブチルフェニル)ホスホロチオネート、トリス(i-ブチルフェニル)ホスホロチオネート、トリス(s-ブチルフェニル)ホスホロチオネート、トリス(t-ブチルフェニル)ホスホロチオネート等のトリス(アルキルフェニル)ホスホロチオネートなどが挙げられる。
【0081】
本発明の潤滑油組成物は、極圧剤として無灰硫黄・リン系極圧剤を含む場合、無灰硫黄・リン系極圧剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0082】
本発明の潤滑油組成物が極圧剤として無灰硫黄・リン系極圧剤を含む場合、潤滑油組成物における無灰硫黄・リン系極圧剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.1質量%~1質量%の範囲で適宜設定される。
【0083】
(無灰リン系極圧剤)
無灰リン系極圧剤としては、特に限定されず、例えば、リン酸エステル化合物、及びリン酸エステルのアミン塩化合物が挙げられる。
リン酸エステル化合物としては、中性リン酸エステル化合物、酸性リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、酸性亜リン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0084】
リン酸エステル化合物の具体例としては、アリールホスフェート、アルキルホスフェート、アルケニルホスフェート、アルキルアリールホスフェート等の中性リン酸エステル;モノアリールアシッドホスフェート、ジアリールアシッドホスフェート、モノアルキルアシッドホスフェート、ジアルキルアシッドホスフェート、モノアルケニルアシッドホスフェート、ジアルケニルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル;アリールハイドロゲンホスファイト、アルキルハイドロゲンホスファイト、アリールホスファイト、アルキルホスファイト、アルケニルホスファイト、アリールアルキルホスファイト等の亜リン酸エステル;モノアルキルアシッドホスファイト、ジアルキルアシッドホスファイト、モノアルケニルアシッドホスファイト、ジアルケニルアシッドホスファイト等の酸性亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は、極圧剤として無灰リン系極圧剤を含む場合、無灰リン系極圧剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0086】
本発明の潤滑油組成物が極圧剤として無灰リン系極圧剤を含む場合、潤滑油組成物における無灰リン系極圧剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.05質量%~1質量%の範囲で適宜設定される。
【0087】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤等の酸化防止剤が挙げられる。
酸化防止剤については、例えば、特開2011-174000号公報の段落[0059]、及び、特開2019-199586号公報の段落[0061]~[0064]に記載がある。これらの記載は、参照により本明細書に取り込まれる。
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤を含む場合、酸化防止剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
本発明の潤滑油組成物が酸化防止剤を含む場合、潤滑油組成物における酸化防止剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01質量%~3質量%の範囲で適宜設定される。
【0088】
<金属不活性剤>
金属不活性剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等の化合物が挙げられる。
金属不活性剤については、特許第5756280号公報の段落[0052]に記載がある。これらの記載は、参照により本明細書に取り込まれる。
本発明の潤滑油組成物は、金属不活性剤を含む場合、金属不活性剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
本発明の潤滑油組成物が金属不活性剤を含む場合、潤滑油組成物における金属不活性剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.005質量%~1質量%の範囲で適宜設定される。
【0089】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に限定されず、例えば、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルホン酸金属塩、及び有機リン酸金属塩が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物は、防錆剤を含む場合、防錆剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
本発明の潤滑油組成物が防錆剤を含む場合、潤滑油組成物における防錆剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.005質量%~5質量%の範囲で適宜設定される。
【0090】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系化合物、フルオロシリコーン系化合物、アクリレート系化合物、メタクリレート系化合物、フルオロアルキルエーテル系化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物は、消泡剤を含む場合、消泡剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
本発明の潤滑油組成物が消泡剤を含む場合、潤滑油組成物における消泡剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潤滑油組成物の全質量に対して、0.0005質量%~1質量%の範囲で適宜設定される。
【0091】
[潤滑油組成物の性状]
本発明の潤滑油組成物は、ISO VG320の規格に適合する潤滑油組成物であって、かつ、粘度指数が160以上の潤滑油組成物である。
ISO VG320は、JIS K 2001:1993に規定されている工業用潤滑油のISO粘度分類の1つである。ISO粘度分類は、40℃における潤滑油の動粘度で規定されている。「ISO VG320の規格に適合する潤滑油組成物」とは、例えば、40℃における動粘度の範囲が288mm/s~352mm/sの潤滑油組成物であることを意味する。
【0092】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、特に限定されないが、例えば、288mm/s~352mm/sであることが好ましく、300mm/s~345mm/sであることがより好ましく、310mm/s~340mm/sであることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度が上記範囲内であると、潤滑油組成物の油膜保持性及び潤滑特性が向上する傾向にある。
【0093】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、特に限定されないが、例えば、30mm/s~50mm/sであることが好ましく、35mm/s~47mm/sであることがより好ましく、37mm/s~43mm/sであることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度が上記範囲内であると、高温領域での潤滑油組成物の油膜保持性及び潤滑特性が向上する傾向にある。
【0094】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度及び100℃における動粘度は、いずれもJIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0095】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、160以上であり、165以上であることが好ましく、170以上であることがより好ましく、175以上であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の粘度指数の上限は、特に限定されず、例えば、200以下である。
本発明の潤滑油組成物の粘度指数が上記範囲内であると、潤滑油組成物の高温領域での油膜保持性及び低温領域での流動性が向上する傾向にある。
【0096】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0097】
本発明の潤滑油組成物の流動点は、特に限定されないが、例えば、-30℃以下であることが好ましく、-35℃以下であることがより好ましく、-40℃以下であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の流動点が-30℃以下であると、潤滑油組成物が低温環境でも十分な流動性を示す傾向にある。
本発明の潤滑油組成物の流動点の下限は、例えば、-50℃以上である。
【0098】
本発明の潤滑油組成物の流動点は、JIS K 2269:1987に準拠した方法により測定される値である。
【0099】
本発明の潤滑油組成物の引火点は、特に限定されないが、例えば、242℃以上であることが好ましく、244℃以上であることがより好ましく、246℃以上であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の引火点の上限は、例えば、300℃以下である。
【0100】
本発明の潤滑油組成物の引火点は、JIS K 2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定される値である。
【0101】
本発明の潤滑油組成物の酸価は、特に限定されないが、例えば、0.01mgKOH/g~1.5mgKOH/gであることが好ましく、0.02mgKOH/g~1.2mgKOH/gであることがより好ましく、0.03mgKOH/g~1.0mgKOH/gであることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の酸価が上記範囲内であると、潤滑油組成物の熱安定性がより向上し、潤滑油組成物中のジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤が、潤滑油組成物の性能向上以外の理由によって消耗することをより抑制できる傾向にある。
【0102】
本発明の潤滑油組成物の酸価は、JIS K 2501:2003に準拠した方法により測定される値である。
【0103】
本発明の潤滑油組成物の密度は、特に限定されないが、例えば、0.80g/cm~1.0g/cmであることが好ましく、0.82g/cm~0.89g/cmであることがより好ましく、0.83g/cm~0.87g/cmであることが更に好ましい。
【0104】
本発明の潤滑油組成物の密度は、JIS K 2249-1:2011に準拠した方法により測定される値である。
【0105】
本発明の潤滑油組成物の-20℃におけるBF(ブルックフィールド)粘度は、特に限定されないが、例えば、50000Pa・s以下であることが好ましく、40000Pa・s以下であることがより好ましく、30000Pa・s以下であることが更に好ましい。
本発明の潤滑油組成物の-20℃におけるBF粘度が50000Pa・s以下であると、実使用環境下での潤滑性が適切に保たれる傾向がある。
本発明の潤滑油組成物の-20℃におけるBF粘度の下限は、例えば、1Pa・s以上である。
【0106】
本発明の潤滑油組成物の-20℃におけるBF粘度は、ASTM D 2983に準拠した方法により測定される値である。
【0107】
[潤滑油組成物の用途]
本発明の潤滑油組成物は、ギヤ油(特に、工業用ギヤ油)として用いられることが好ましい。本発明の潤滑油組成物は、潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れるため、特に、風力発電装置用ギヤ油として、具体的には、風力発電装置のナセル部位に内包される増速機用ギヤ油として好適に用いられる。また、本発明の潤滑油組成物は、熱安定性に優れるという点においても、風力発電装置に用いられるギヤ油として好適であるといえる。
例えば、風力発電装置の増速機用ギヤ油として、本発明の潤滑油組成物を用いた場合には、増速機のメンテナンス頻度の低減が可能となり、風力発電のエネルギー効率の向上も期待することができる。
【0108】
[潤滑油組成物の調製方法]
本発明の潤滑油組成物の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により調製することができる。本発明の潤滑油組成物は、例えば、ポリ-α-オレイン系基油及びジアルキルジチオカルバメート化合物に加えて、必要に応じて、エステル系基油、その他の成分等を適宜混合することにより、調製することができる。
本発明の潤滑油組成物に含まれる成分の混合順序は、特に限定されないが、例えば、ポリ-α-オレイン系基油等の基油に、ジアルキルジチオカルバメート化合物等の基油以外の成分を添加し、混合することが好ましい。
【実施例
【0109】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
以下の実施例では、メタロセン触媒を用いて合成されたポリ-α-オレフィン基油を「mPAO基油」又は「mPAO」と称する場合があり、また、メタロセン触媒を使用せずに合成されたポリ-α-オレフィン基油を「PAO基油」又は「PAO」と称する場合がある。
【0111】
本実施例において用いたmPAO基油、PAO基油、及びエステル系基油、並びに、本実施例で得られた潤滑油組成物の性状は、以下に示す方法により測定した。
【0112】
(1)密度
密度は、JIS K 2249-1:2011に準拠した方法により測定した。
(2)動粘度及び粘度指数
動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定した。
(3)酸価
酸価は、JIS K 2501:2003に準拠した方法により測定した。
(4)引火点
引火点は、JIS K 2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定した。
(5)流動点
流動点は、JIS K 2269:1987に準拠した方法により測定した。
(6)BF粘度
BF粘度は、ASTM D 2983に準拠した方法により測定した。
【0113】
本実施例において用いたmPAO基油及びPAO基油の重量平均分子量は、下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量算定用標準ポリスチレン換算により求めた。
【0114】
<<条件>>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)
検出器:示差屈折検出器
カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工(株)製)を3本
カラム温度:40℃
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1ml/min
試料濃度:1.0m/v%
注入量:100μL
【0115】
本実施例において用いた各成分の詳細を以下に示す。
<mPAO基油>
「mPAO-1」〔商品名:SpectraSyn elite(登録商標) 150、ExxonMobil社製〕・・・ポリ-α-オレフィン基油(A)
(40℃における動粘度:1701mm/s、粘度指数:211、流動点:-33.0℃、重量平均分子量:7019、α-オレフィンの種類:1-デセン)
「mPAO-2」〔商品名:Durasyn(登録商標) 174I、INEOS Oligomers社製〕
(40℃における動粘度:407mm/s、粘度指数:180、流動点:-37.5℃、重量平均分子量:4006、α-オレフィンの種類:1-デセン)
「mPAO-3」〔商品名:Durasyn(登録商標) 180R、INEOS Oligomers社製〕
(40℃における動粘度:924mm/s、粘度指数:204、流動点:-37.5℃、重量平均分子量:6921、α-オレフィンの種類:1-デセン)
「mPAO-4」〔商品名:SpectraSyn elite(登録商標) 300、ExxonMobil社製〕・・・ポリ-α-オレフィン基油(A)
(40℃における動粘度:3358mm/s、粘度指数:241、流動点:-33.0℃、重量平均分子量:10966、α-オレフィンの種類:1-デセン)
【0116】
<PAO基油>
「PAO」〔商品名:Durasyn(登録商標) 168、INEOS Oligomers社製〕・・・ポリ-α-オレフィン基油(B)
(40℃における動粘度:47mm/s、粘度指数:137、流動点:-50.0℃、重量平均分子量:1099、α-オレフィンの種類:1-デセン)
【0117】
「エステル系基油」〔商品名:カオルーブ 262、花王(株)製〕
(40℃における動粘度:32mm/s、粘度指数:131、ペンタエリスリトールと飽和脂肪酸とのエステル化合物)
【0118】
「ジアルキルジチオカルバメート化合物」〔メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、S:30.0質量%、N:6.5質量%、無灰硫黄系極圧剤〕
【0119】
<その他の成分>
「無灰硫黄・リン系極圧剤」〔トリアリールホスホロチオネート、P:9.0質量%、S:9.4質量%〕
「無灰リン系極圧剤 A」〔酸性リン酸エステル化合物のアミン塩、下記式におけるR及びRが各々独立に炭素数8又は炭素数10のアルキル基である炭素数12又は炭素数14の分岐状のアルキルアミン塩、P:8.2質量%、N:1.8質量%〕
「無灰リン系極圧剤 B」〔中性リン酸エステル化合物、トリクレジルホスフェート〕
【0120】
【化1】

【0121】
「残部」:以下の添加物
・抗酸化剤〔オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロケイ皮酸〕
・金属不活性化剤〔トリアゾール化合物〕
・防錆剤〔成分名:アルケニルコハク酸ハーフエステル〕
・消泡剤
【0122】
[潤滑油組成物の調製]
〔実施例1及び2、並びに、比較例1及び2〕
表1に記載の潤滑油組成物を構成する各成分を混合することにより、実施例1及び2、並びに、比較例1及び2の各潤滑油組成物を得た。
具体的には、表1に示す配合割合で、特定ポリ-α-オレフィン系基油及びエステル系基油を混合し、基油混合物を得た後、この基油混合物に、ジアルキルジチオカルバメート化合物、無灰硫黄・リン系極圧剤、無灰リン系極圧剤A、無灰リン系極圧剤B、並びに、残部(酸化防止剤、金属不活性化剤、防錆剤、及び消泡剤)を添加し、混合することにより、潤滑油組成物を得た。
【0123】
〔実施例3及び4、並びに、比較例3~5〕
実施例3及び4、並びに、比較例3~5では、潤滑油組成物の組成を、表2に記載の組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3及び4、並びに、比較例3~5の各潤滑油組成物を得た。
【0124】
〔参考例1~4〕
参考例1~4では、潤滑油組成物の組成を、表3に記載の組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、参考例1~4の各潤滑油組成物を得た。
【0125】
上記にて得られた潤滑油組成物の組成及び性状を表1~3に示す。
表1~3中、組成の欄に記載の「-」は、その欄に該当する成分を含んでいないことを意味する。また、表2及び3中、性状の欄に記載の「-」は、その欄に該当する性状を測定していないことを意味する。
【0126】
[評価]
上記にて得られた潤滑油組成物について、以下の評価を行った。
結果を表1~3に示す。
【0127】
1.潤滑特性
潤滑特性を以下の試験により評価した。
振動摩擦摩耗試験機〔製品名:SRV摩擦試験機、Optimol Instruments Pruftechnik社製〕を用い、以下の手順に従い、振動摩擦摩耗試験(所謂、SRV試験)を行った。試験には、ボール試験片として、大きさ10mmのポリッシュ済みの鋼球であって、材質が100Cr6(SUJ2相当)の焼き入れ済みのものを用いた。また、試験ディスクとして、直径24mm、厚さ7.9mm、及び表面粗さ0.5~0.65μmRzの両面研磨済のディスクであって、材質が100Cr6(SUJ2相当)の焼き入れ済みのものを用いた。
まず、振動摩擦摩耗試験機を、ストローク1mm、50Hz、及び荷重50Nの条件で、試験油の温度(所謂、油温)が80℃になるまでなじみ運転させた。次いで、ストローク1mm、50Hz、油温80℃の条件を保持した状態で、荷重を50Nから500Nまで、50Nずつ段階的に増加させた。具体的には、一定荷重で6分間試験を行った後、1分間かけて荷重を50N増加させるステップ荷重負荷試験を行った。
但し、試験中に摩擦係数が0.2を超えた場合には焼き付きが発生したと判断し、その時点で試験を停止することとした。なお、表中では、試験を停止した場合を「T.S.」と表記した。
各荷重領域において摩擦係数を68回測定し、荷重領域毎に平均摩擦係数を算出した。
荷重500Nの条件における平均摩擦係数が0.2以下であれば、潤滑特性に優れる潤滑油組成物であると判断した。
【0128】
2.潤滑特性の持続性
潤滑特性の持続性を以下の試験により評価した。
トラクション計測器〔製品名:MTM Traction Measurement System、PCS Instruments社製〕を用いて、以下の条件におけるトラクション係数を測定した。測定には、試験片として、ボール3/4inch標準穴付きスチールボールとディスク3/4inchボール用標準スチールディスク(材質:AISI 52100規格適合品)とを組み合わせて使用した。測定条件は、荷重を50Nに、また、すべり率を30%に設定した。
まず、無負荷、40℃、及び回転数1000rpm(revolution per minute;以下、同じ。)の条件で5分間なじみ運転を行った。次いで、40℃、60℃、80℃、及び100℃の各温度条件において、対数間隔にて10秒ごとに測定する条件にて、回転数を10rpmから2000rpmまで30分間かけて段階的に上げる加速条件での試験、及び、回転数を2000rpmから10rpmまで30分間かけて段階的に下げる減速条件での試験を行った。そして、各温度条件での試験終了後に、対数間隔にて42点測定し、ストライベック曲線を作成した。
この際、加速条件よりも減速条件の方が、トラクション係数が安定したこと、40℃及び60℃の条件では、油膜厚さの影響を強く受け、添加剤のトライボフィルム形成に伴うトラクション係数の変化を観察できなかったこと、並びに、実機増速機において油膜切れによる摩耗が懸念される条件が、80℃及び100℃の高温条件であることから、トラクション係数については、80℃及び100℃の各温度条件で、回転数を100rpmから10rpmに下げる際に測定された値を採用し、平均値(所謂、平均トラクション係数)を求めた。また、基油単独で試験した場合(参考例1~4)のトラクション係数との差の平均値(所謂、トラクション係数の平均変位量)を求めた。なお、このトラクション係数の平均変位量の値が小さいほど、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤の消耗が抑制されていると判断した。
80℃における平均トラクション係数及びトラクション係数の平均変位量、並びに、100℃における平均トラクション係数及びトラクション係数の平均変位量は、いずれも数値が小さいほど、潤滑特性の持続性に優れる潤滑油組成物であることを示す。
【0129】
3.熱安定性
熱安定性を以下に示す試験により評価した。
50mlの容量のガラス管に、潤滑油組成物である試料油を40ml入れた。次いで、試料油の入ったガラス管に、触媒として銅片(JIS合金呼称:C1100P、大きさ:1mm、20mm、及び50mm)及び鉄片(JIS合金呼称:SPCC、大きさ:1mm、20mm、50mm)を入れ、ガラス管内の潤滑油組成物に浸かるように差し込み、試験体を得た。次いで、得られた試験体を油温120℃の恒温槽に240時間放置した。放置後の試験体から試料油(以下、「加熱後の試験油」と称する。)を採取し、下記の(1)~(3)の測定を行った。
【0130】
(1)酸価の変化
加熱後の試験油の酸価(単位:mgKOH/g)を測定し、下記の式に基づき、酸価の変化値を求めた。
酸価の変化値 = 加熱後の試験油の酸価 - 加熱前の試験油の酸価
なお、酸価は、JIS K 2501:2003に準拠した方法により測定した。
酸価の変化値が小さいほど、熱安定性に優れる潤滑油組成物であることを示す。
【0131】
(2)銅の溶出
加熱により溶出した銅の量(即ち、銅溶出量;単位:ppm)を測定した。具体的には、測定装置としてプラズマ発光分光分析装置(ICP)を用い、JPI-5S-38(潤滑油-添加元素試験方法-誘導結合プラズマ発光分光分析法)に準拠した方法により、加熱後の試験油中の銅を定量した。
銅溶出量が少ないほど、熱安定性に優れる潤滑油組成物であることを示す。
【0132】
(3)スラッジの発生
加熱により発生したスラッジ量を測定した。具体的には、JIS B 9931:2000の手順を参考に、以下の操作を行った。加熱後の試験油から析出物をろ過により採取した。次いで、採取した析出物を、ヘキサンを用いて洗浄した後、乾燥させた。乾燥後の析出物の質量を測定し、その質量を「スラッジ量」とした。
スラッジ量が少ないほど、熱安定性に優れる潤滑油組成物であることを示す。
【0133】
4.さび止め性能
さび止め性能は、JIS K 2510:1998に準拠した方法により試験した。
表1~3中、さびが確認された場合には「あり」と表記し、さびが確認されなかった場合には「なし」と表記した。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
表1~3中、評価の欄に記載の「-」は、その欄に該当する評価を行ったが、その結果が実施例1と同等であるため、記載を省略したことを意味する。
表2に記載の実施例1は、他の実施例及び比較例との対比のために記載したものであり、表1に記載の実施例1と同じ潤滑油組成物である。
【0138】
メタロセン触媒を用いて合成され、かつ、40℃における動粘度が1200mm/s以上であるポリ-α-オレフィン基油(A)と、40℃における動粘度が40mm/s~100mm/sであるポリ-α-オレフィン基油(B)と、を含有するポリ-α-オレフィン系基油、及び、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含み、ポリ-α-オレフィン基油(A)の含有率が、ポリ-α-オレフィン系基油の全質量に対して50質量%以上であり、ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して0.3質量%~1.8質量%であり、ISO VG320の規格に適合し、かつ、粘度指数が160以上である、実施例1~4の潤滑油組成物は、いずれも潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れることが確認された。また、実施例1~4の潤滑油組成物は、いずれも熱安定性が比較的良好であることが確認された。また、実施例1~4の潤滑油組成物は、いずれもさび止め性能に優れていることが確認された。
【0139】
ところで、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含む各種添加剤を含まない参考例1~4の潤滑油組成物は、80℃及び100℃における平均トラクション係数が低値を示している(表3参照)。例えば、参考例1及び2の潤滑油組成物と、比較例1及び2の潤滑油組成物とを対比すると、80℃及び100℃における平均トラクション係数は、比較例1及び2の潤滑油組成物の方が、参考例1及び2の潤滑油組成物よりも顕著に高い値を示している(表1及び3参照)。この結果は、潤滑油組成物が各種添加剤を含むと、摩擦が上昇し、潤滑特性の持続性が低下することを意味している。これに対し、例えば、実施例1及び2の潤滑油組成物では、80℃及び100℃における平均トラクション係数が比較的低く、各種添加剤を含むことによる摩擦の上昇が抑制されていることがわかる(表1参照)。
【0140】
一方、ポリ-α-オレフィン系基油に含まれるmPAOの40℃における動粘度が1200mm/s未満である、比較例1の潤滑油組成物及び比較例2の潤滑油組成物は、いずれも実施例(例えば、実施例1)の潤滑油組成物と比較して、潤滑特性の持続性が劣ることが確認された。また、ジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が、潤滑油組成物の全質量に対して、0.3質量%未満である比較例3の潤滑油組成物及び1.8質量%を超える比較例4の潤滑油組成物、並びに、ジアルキルジチオカルバメート化合物を含まない比較例5の潤滑油組成物は、いずれも実施例(例えば、実施例1)の潤滑油組成物と比較して、潤滑特性が劣ることが確認された。
【0141】
実施例1~3、比較例3、及び比較例4の結果から、潤滑油組成物中におけるジアルキルジチオカルバメート化合物の含有率が高くなると、銅溶出量及びスラッジ量が増え、潤滑油組成物の熱安定性が低下する傾向にあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑特性及び潤滑特性の持続性に優れるため、特に、風力発電装置が備える増速機に使用されるギヤ用潤滑油として好適である。