(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】感温性粘着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20240326BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240326BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240326BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C09J133/04
B32B27/00 M
C09J7/38
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2020099194
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019109343
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】南地 実
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186532(JP,A)
【文献】特開2012-102212(JP,A)
【文献】特開2016-196544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖結晶性ポリマーを含有し、前記側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、
100~300mgKOH/
gの酸価を有する粘着付与剤をさらに含有する、感温性粘着剤。
【請求項2】
前記粘着付与剤の含有量が、前記側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10~50重量部である、請求項1に記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
前記粘着付与剤が、ロジン系樹脂である、請求項1または2に記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
前記粘着付与剤の軟化点が、90~175℃である、請求項1~3のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項5】
50℃におけるシクロオレフィンポリマーフィルムに対する180°剥離強度が、1.0N/25mm以上である、請求項1~4のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
【請求項7】
フィルム状の基材と、
前記基材の少なくとも片面に積層されており請求項1~5のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、感温性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有しており、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却されると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する粘着剤である。感温性粘着剤は、シート、テープなどに加工されて、フラットパネルディスプレイ(以下、「FPD」ということがある。)などの製造工程において、ガラス、プラスチックなどからなる基板を仮固定するときに使用されている(例えば、特許文献1参照)。このような用途に使用される感温性粘着剤は、工程によっては高温に加熱されることがあるため、被着体の浮き抑制などの耐熱性が要求される。また、高温に加熱された後の剥離性も要求される。
【0003】
しかし、従来の感温性粘着剤は、高温に加熱されたときに被着体によっては浮きが発生することがあった。この傾向は、シクロオレフィンポリマーフィルム(以下、「COPフィルム」ということがある。)のように130℃以上に加熱されると変形し易く、変形したときの応力が粘着力よりも大きくなり易い被着体の場合に顕著であった。200℃で30分程度のアニール処理を感温性粘着剤に施せば、被着体への粘着力が向上して被着体の浮きの発生を抑制できるが、1工程手間となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高温に加熱されたときに被着体の浮きの発生を抑制することができ、高温に加熱された後の剥離性にも優れる感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)側鎖結晶性ポリマーを含有し、前記側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、20mgKOH/g以上の酸価を有する粘着付与剤をさらに含有する、感温性粘着剤。
(2)前記粘着付与剤の含有量が、前記側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して10~50重量部である、前記(1)に記載の感温性粘着剤。
(3)前記粘着付与剤が、ロジン系樹脂である、前記(1)または(2)に記載の感温性粘着剤。
(4)前記粘着付与剤の軟化点が、90~175℃である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(5)50℃におけるシクロオレフィンポリマーフィルムに対する180°剥離強度が、1.0N/25mm以上である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
(7)フィルム状の基材と、前記基材の少なくとも片面に積層されており前記(1)~(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、感温性粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温に加熱されたときに被着体の浮きの発生を抑制することができ、高温に加熱された後の剥離性にも優れるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<感温性粘着剤>
以下、本発明の一実施形態に係る感温性粘着剤について詳細に説明する。
【0009】
(側鎖結晶性ポリマー)
本実施形態の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを含有する。側鎖結晶性ポリマーは、融点を有するポリマーである。融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)を使用して、10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことである。
【0010】
側鎖結晶性ポリマーは、上述した融点未満の温度で結晶化し、且つ、融点以上の温度で相転移して流動性を示す。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす感温性を有する。
【0011】
本実施形態の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する。言い換えれば、本実施形態の感温性粘着剤は、融点未満の温度で側鎖結晶性ポリマーが結晶化したときに粘着力が低下する割合で、側鎖結晶性ポリマーを含有する。つまり、本実施形態の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有する。したがって、感温性粘着剤から被着体を剥離するときには、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する。また、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度に加熱すれば、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって粘着力が回復するので、繰り返し使用することができる。なお、上述した主成分とは、感温性粘着剤中に重量比で最も多く含まれる成分のことである。
【0012】
側鎖結晶性ポリマーは、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、その炭素数16以上の直鎖状アルキル基が側鎖結晶性ポリマーにおける側鎖結晶性部位として機能する。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、側鎖に炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力などによって秩序ある配列に整合されることにより結晶化する。なお、上述した(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことである。
【0013】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの炭素数16~22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは10~99重量%、より好ましくは20~99重量%の割合で含まれる。
【0014】
側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分には、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合し得る他のモノマーが含まれてもよい。他のモノマーとしては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマーなどが挙げられる。
【0015】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは70重量%以下、より好ましくは1~70重量%の割合で含まれる。
【0016】
極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。例示した極性モノマーは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。極性モノマーは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは10重量%以下、より好ましくは1~10重量%の割合で含まれる。
【0017】
側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分には、反応性フッ素化合物がさらに含まれてもよい。これにより、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによる粘着力の低下に加えて、フッ素化合物に起因する離型性も加わるので、粘着力を大きく低下させることができる。
【0018】
反応性フッ素化合物とは、反応性を示す官能基を有するフッ素化合物のことである。反応性を示す官能基としては、例えば、エポキシ基(グリシジル基およびエポキシシクロアルキル基を含む)、メルカプト基、カルビノール基(メチロール基)、カルボキシル基、シラノール基、フェノール基、アミノ基、水酸基、エチレン性不飽和二重結合を有する基などが挙げられる。エチレン性不飽和二重結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。
【0019】
反応性フッ素化合物の具体例としては、下記一般式(I)で表される化合物などが挙げられる。
【0020】
【化1】
[式中、R
1は基:CH
2=CHCOOR
2-またはCH
2=C(CH
3)COOR
2-(式中、R
2はアルキレン基を示す。)を示す。]
【0021】
R2が示すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキレン基などが挙げられる。
【0022】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、下記式(Ia)で表される2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、式(Ib)で表される2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0023】
【0024】
上述した反応性フッ素化合物は、市販品を使用することができる。市販の反応性フッ素化合物としては、例えば、いずれも大阪有機化学工業社製の「ビスコート3F」、「ビスコート3FM」、「ビスコート4F」、「ビスコート8F」、「ビスコート8FM」、共栄社化学社製の「ライトエステルM-3F」などが挙げられる。
【0025】
反応性フッ素化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。反応性フッ素化合物は、モノマー成分中に好ましくは1~20重量%、より好ましくは1~10重量%の割合で含まれる。
【0026】
側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが25~30重量%、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが50~65重量%、極性モノマーが5~10重量%、および反応性フッ素化合物が5~10重量%である。
【0027】
モノマー成分の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。溶液重合法を採用する場合には、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して、撹拌しながら40~90℃程度で2~10時間程度反応させればよい。
【0028】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100000以上、より好ましくは300000~900000、さらに好ましくは400000~700000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0029】
側鎖結晶性ポリマーの融点は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10~60℃である。融点は、例えば、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分の組成などを変えることによって調整することができる。
【0030】
(粘着付与剤)
本実施形態の感温性粘着剤は、上述した側鎖結晶性ポリマーに加えて、20mgKOH/g以上の酸価を有する粘着付与剤をさらに含有する。これにより、COPフィルムのように130℃以上に加熱されると変形し易く、変形したときの応力が粘着力よりも大きくなり易い被着体に対して、高温に加熱されたときに被着体の浮きや剥がれの発生を抑制することができ、高温に加熱された後の剥離性にも優れるという効果が得られる。したがって、本実施形態の感温性粘着剤をCOPフィルムのような被着体を含む製品の製造工程に使用すれば、アニール処理などの手間を必要とせず、歩留りよくスムーズに工程を進めることができる。具体例を挙げると、本実施形態の感温性粘着剤は、FPDの製造工程における基板の仮固定用として好適に使用することができる。なお、上述した粘着付与剤は、COPフィルムのような被着体に対して感温性粘着剤の親和性を向上させて粘着力を高める役割を有すると推察される。
【0031】
また、本実施形態の感温性粘着剤によれば、COPフィルム以外の他の被着体に対しても、高温に加熱されたときに被着体の浮きや剥がれの発生を抑制することができ、高温に加熱された後の剥離性にも優れるという効果が得られる。したがって、本実施形態の感温性粘着剤は、高い汎用性を発揮することもできる。他の被着体としては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリビニルブチラールフィルム、ステンレス鋼(SUS)、ガラスなどが挙げられる。
【0032】
酸価の上限値は、特に限定されないが、300mgKOH/g以下であってもよい。酸価は、好ましくは100~300mgKOH/g、より好ましくは110~255mgKOH/gである。酸価は、JIS K 2501に準拠して測定される値である。
【0033】
粘着付与剤の含有量は、側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは10~50重量部、より好ましくは10~30重量部である。
【0034】
粘着付与剤は、ロジン系樹脂であってもよい。また、粘着付与剤の軟化点は、好ましくは90~175℃である。軟化点は、JIS K 5902に規定される環球法に従って測定される値である。
【0035】
上述した粘着付与剤は、市販品を使用することができる。市販の粘着付与剤としては、例えば、いずれも荒川化学工業社製の「KE-604」、「KR-140」、「R-95」などが挙げられる。
【0036】
なお、粘着付与剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、混合物が20mgKOH/g以上の酸価を有する限り、20mgKOH/g未満の酸価を有する粘着付与剤を併用してもよい。例えば、粘着付与剤が、互いに異なる酸価を有する第1粘着付与剤と第2粘着付与剤との混合物であってもよい。これにより、酸価の調整の自由度を向上させることができる。第1粘着付与剤および第2粘着付与剤のうち一方の酸価が、20mgKOH/g未満であってもよい。
【0037】
感温性粘着剤は、50℃におけるCOPフィルムに対する180°剥離強度が、好ましくは1.0N/25mm以上、より好ましくは2.0N/25mm以上、さらに好ましくは2.5N/25mm以上である。これにより、COPフィルムに対して感温性粘着剤が優れた粘着力を有する。50℃におけるCOPフィルムに対する180°剥離強度の上限値は、特に限定されないが、7.0N/25mm以下であってもよい。180°剥離強度は、JIS Z0237に準拠して測定される値である。
【0038】
感温性粘着剤は、130℃を経た後の5℃におけるCOPフィルムに対する180°剥離強度が、好ましくは0.2N/25mm以下である。これにより、感温性粘着剤が高温に加熱された後でもCOPフィルムに対して優れた易剥離性を有する。なお、130℃を経た後の5℃におけるCOPフィルムに対する180°剥離強度の下限値は、特に限定されないが、0.05N/25mm以上であってもよい。
【0039】
(架橋剤)
感温性粘着剤は、架橋剤をさらに含有してもよい。架橋剤としては、例えば、金属キレート化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0040】
架橋剤として金属キレート化合物を採用すると、感温性粘着剤の耐熱性を向上させることができる。金属キレート化合物としては、例えば、多価金属のアセチルアセトン配位化合物、多価金属のアセト酢酸エステル配位化合物などが挙げられる。多価金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、鉄、チタン、亜鉛、コバルト、マンガン、ジルコニウムなどが挙げられる。金属キレート化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミニウムのアセチルアセトン配位化合物またはアセト酢酸エステル配位化合物が好ましく、アルミニウムトリスアセチルアセトナートがより好ましい。
【0041】
架橋条件としては、加熱温度が90~120℃程度であり、加熱時間が1分~20分程度である。
【0042】
架橋剤の含有量は、側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0043】
(架橋遅延剤)
感温性粘着剤は、架橋遅延剤をさらに含有してもよい。これにより、架橋剤による架橋反応を遅延させて短時間で粘度が高くなるのを抑制し、ポットライフを向上させることができる。架橋遅延剤の添加は、架橋剤の添加前に行うのが好ましい。架橋遅延剤の含有量は、架橋剤の含有量と同じであってもよい。架橋遅延剤としては、例えば、アセチルアセトンなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
上述した感温性粘着剤の使用形態は、特に限定されず、例えば、そのまま使用してもよいし、下記で説明するように、粘着シート、粘着テープなどの形態で使用してもよい。
【0045】
<感温性粘着シート>
本実施形態の感温性粘着シートは、上述した感温性粘着剤を含むものであり、基材レスのシート状である。感温性粘着シートの厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μmである。
【0046】
感温性粘着シートの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ということがある。)などからなるフィルムの表面に、シリコーンなどの離型剤を塗布したものが挙げられる。離型フィルムの厚さは、好ましくは5~500μm、より好ましくは25~250μmである。離型フィルムは、感温性粘着シートの使用時に剥離される。
【0047】
<感温性粘着テープ>
本実施形態の感温性粘着テープは、フィルム状の基材と、基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層とを備えている。フィルム状とは、フィルム状のみに限定されるものではなく、本実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルム状ないしシート状をも含む概念である。
【0048】
基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂が挙げられる。
【0049】
基材の構造は、単層構造または多層構造のいずれであってもよい。基材の厚さは、好ましくは5~500μm、より好ましくは25~250μmである。基材は、粘着剤層に対する密着性を高めるうえで、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0050】
基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層は、上述した感温性粘着剤を含んでいる。粘着剤層を基材の少なくとも片面に積層するには、例えば、感温性粘着剤に溶剤を加えて塗布液を調製し、得られた塗布液をコーターなどで基材の片面または両面に塗布して乾燥させればよい。コーターとしては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。
【0051】
粘着剤層の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μmである。
【0052】
基材の両面に粘着剤層を積層する場合には、片面の粘着剤層と他面の粘着剤層は、互いの厚さ、組成などが、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、片面の粘着剤層が上述した感温性粘着剤を含む限り、他面の粘着剤層は特に限定されない。他面の粘着剤層は、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などで構成することもできる。
【0053】
感温性粘着テープの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、上述した感温性粘着シートで例示したのと同じものが挙げられる。離型フィルムは感温性粘着テープの使用時に剥離される。
【0054】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
(合成例:側鎖結晶性ポリマー)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えた。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
C18A:ステアリルアクリレート
C1A:メチルアクリレート
V-3F:上述した式(Ia)で表される2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートである大阪有機化学工業社製の反応性フッ素化合物「ビスコート3F」
AA:アクリル酸
【0056】
次に、固形分濃度が30重量%になるように酢酸エチル:トルエン=75:25(重量比)の混合溶媒を反応容器に加え、混合液を得た。得られた混合液を55℃で4時間撹拌することによって各モノマーを共重合させ、側鎖結晶性ポリマーを得た。
【0057】
得られた側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量および融点を表1に示す。重量平均分子量は、GPCで測定して得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0058】
【0059】
[実施例1~9および比較例1~7]
<感温性粘着シートの作製>
まず、合成例で得られた側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、表2に示す粘着付与剤を20重量部の割合で混合した。表2に示す粘着付与剤は、以下のとおりである。
A:酸価が10~16mgKOH/g、軟化点が150~170℃である荒川化学工業社製のロジンエステル「D-160」
B:酸価が2~10mgKOH/g、軟化点が95~105℃である荒川化学工業社製の特殊ロジンエステル「A-100」
C:酸価が230~245mgKOH/g、軟化点が124~134℃である荒川化学工業社製の酸変性超淡色ロジン「KE-604」
D:酸価が130~160mgKOH/g、軟化点が130~150℃である荒川化学工業社製の超淡色重合ロジン「KR-140」
E:酸価が158~168mgKOH/g、軟化点が93~103℃である荒川化学工業社製の重合ロジン「R-95」
F:AとCの混合物(重量比での混合比率50:50)
【0060】
次に、側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、架橋遅延剤を3重量部の割合で混合した後、架橋剤を3重量部の割合でさらに混合し、感温性粘着剤を得た。使用した架橋遅延剤および架橋剤は、以下のとおりである。
架橋遅延剤:アセチルアセトン
架橋剤:金属キレート化合物である川研ファインケミカル社製のアルミニウムトリスアセチルアセトナート
【0061】
次に、得られた感温性粘着剤を酢酸エチルによって固形分濃度が23重量%となるように調整し、塗布液を得た。そして、得られた塗布液を離型フィルム上に塗布し、110℃×3分の条件で架橋反応を行い、厚さ25μmの感温性粘着シートを得た。なお、離型フィルムは、表面にシリコーンが塗布された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0062】
<評価>
実施例1~9および比較例1~7で得られた各感温性粘着シートについて、180°剥離強度および高温加熱試験を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表2に示す。
【0063】
(180°剥離強度)
[実施例1~3、5、7~9および比較例1~3、5、7]
50℃および5℃における180°剥離強度をJIS Z0237に準拠して測定した。具体的には、まず、50℃の雰囲気温度において、2kgのゴムローラーを使用して感温性粘着シートの片面をガラス板に貼着した。
【0064】
次に、この雰囲気温度で感温性粘着シートの他面に表2に示す被着体を貼着し、試験片を得た。表2に示す被着体は、以下のとおりである。
COP:厚さが42μmである日本ゼオン社製のCOPフィルム「ゼオノアフィルム」
PI:厚さが25μmである東レ・デュポン社製のポリイミドフィルム「カプトン100H」
PET:厚さが25μmであるユニチカ社製のPETフィルム「S-25」
PVB:厚さ100μmのPETからなる基材の片面に、積水化学工業社製のポリビニルブチラール「BL-S」を厚さ10μmで塗布してフィルム化したPVBフィルム
【0065】
得られた試験片を以下の条件にした後、ロードセルを用いて300mm/分の速度で被着体を感温性粘着シートから180°剥離した(n=3)。
【0066】
[50℃]
試験片を50℃の雰囲気温度に20分間静置した後に180°剥離した。
【0067】
[5℃]
試験片を130℃の熱風循環オーブン中で90分間加熱した後、5℃のクールプレート上に20分間載置してから180°剥離した。
【0068】
[実施例4、6および比較例4、6]
まず、50℃の雰囲気温度において、感温性粘着シートの片面を厚さ100μmのPETフィルムに貼着した。次に、この雰囲気温度で感温性粘着シートの他面に表2に示す被着体を貼着し、試験片を得た。表2に示す被着体は、以下のとおりである。
SUS:厚さが1mmのSUS304
ガラス:厚さが0.7mmであるCorning社製の「EAGLE XG」
【0069】
そして、PETフィルムを感温性粘着シートから180°剥離した以外は、実施例1~3、5、7~9と同様にして、50℃および5℃における180°剥離強度を測定した。
【0070】
(高温加熱試験)
まず、上述した180°剥離強度の評価と同様にして試験片を得た。次に、得られた試験片を50℃で3分間静置した後、130℃の熱風循環オーブン中で90分間加熱した。そして、試験片の状態を室温(23℃)で目視観察することによって、被着体の浮きの発生を有無を評価した。評価基準は、以下のように設定した。
〇:被着体に浮きが見られなかった。
×:被着体に浮きが見られた。
【0071】
【0072】
表2から明らかなように、実施例1~9は、50℃における180°剥離強度の値が高く、130℃を経た後の5℃における180°剥離強度の値が低いことがわかる。また、実施例1~9は、130℃に加熱されたときに被着体の浮きの発生を抑制できていることもわかる。