(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】コンクリート構造物のシートライニング工法
(51)【国際特許分類】
E03F 3/04 20060101AFI20240326BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20240326BHJP
E03F 7/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E03F3/04 Z
E04B1/64 Z
E03F7/00
(21)【出願番号】P 2020099281
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】竹村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】山口 美波
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-290725(JP,A)
【文献】特開2003-090134(JP,A)
【文献】特開2002-213197(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0772323(KR,B1)
【文献】特開平11-256706(JP,A)
【文献】国際公開第2019/040984(WO,A1)
【文献】特開2012-082603(JP,A)
【文献】特開平09-096004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 3/04
E04B 1/64
E03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸による腐食のおそれのあるコンクリート構造物に繊維強化樹脂成型板からなる樹脂シートを接着して被覆するコンクリート構造物のシートライニング工法であって、
前記コンクリート構造物に一対の磁着手段の一方を接着する構造物磁着手段設置工程と、
前記樹脂シートの裏面に前記一対の磁着手段の他方を接着するシート磁着手段設置工程と、
前記コンクリート構造物に面ファスナーを接着する構造物面ファスナー接着工程と、
前記樹脂シートの裏面に前記面ファスナーと嵌合する面ファスナーを接着するシート面ファスナー接着工程と、
を備えるとともに、
前記磁着手段
及び前記面ファスナーを用いて前記樹脂シートを
前記コンクリート構造物に仮固定するシート仮固定工程と、
前記シート仮固定工程で仮固定した前記樹脂シートと前記コンクリート構造物との間に接着材を注入する注入工程と、を備え、
前記シート仮固定工程では、前記磁着手段の磁力で前記樹脂シートを磁着させて支えつつ前記ファスナーを嵌合させて前記樹脂シートを前記コンクリート構造物に仮固定すること
を特徴とするコンクリート構造物のシートライニング工法。
【請求項2】
硫酸による腐食のおそれのあるコンクリート構造物に繊維強化樹脂成型板からなる樹脂シートを接着して被覆するコンクリート構造物のシートライニング工法であって、
前記コンクリート構造物に一対の磁着手段の一方を接着する構造物磁着手段設置工程と、
前記樹脂シートの裏面に前記一対の磁着手段の他方を接着するシート磁着手段設置工程と、
前記磁着手段の磁力で前記樹脂シートを磁着させて仮固定するシート仮固定工程と、
前記シート仮固定工程で仮固定した前記樹脂シートと前記コンクリート構造物との間に接着材を注入する注入工程と、を備
えるとともに、
前記コンクリート構造物に面ファスナーを接着する構造物面ファスナー接着工程と、
前記樹脂シートの裏面に前記面ファスナーと嵌合する面ファスナーを接着するシート面ファスナー接着工程と、をさらに備え
、
前記面ファスナーには、面ファスナー同士を嵌合した際に嵌合状態が確認できる嵌合状態確認手段が設けられ、
前記樹脂シートは、前記嵌合状態確認手段を透視可能な透光性を有し、
前記注入工程前に前記嵌合状態確認手段で前記樹脂シートの外側から面ファスナー同士の嵌合を確認すること
を特徴とするコンクリート構造物のシートライニング工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道コンクリート構造物などの硫化水素に起因する硫酸との接触のおそれのあるコンクリート構造物に樹脂シートを接着して被覆するシートライニング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道を構成するコンクリート構造物は、下水に含まれる硫化物(硫化水素)の生化学反応により生成される硫酸に接触するため、アルカリ性材料であるコンクリートのセメント成分を腐食劣化させるスピードが極めて早いという問題がある。このため、有機系樹脂をコンクリートに被覆することによってコンクリートと硫酸の接触を防ぐ、防食被覆工法が開発されるに至った。
【0003】
例えば、特許文献1には、水溶解度が0.5g/水100g未満の重合性単量体95質量%以上と、アルコキシシラン基含有重合性単量体0.1質量%以上1.0質量%未満と、反応性界面活性剤と、を含む重合性単量体混合物を乳化重合して得られる重合体を含み、最低成膜温度が5℃以下であり、20℃で液体であり、かつ、沸点が160℃以上である成分を、前記重合体100質量部に対し5質量部以下で含有する上下水道ライニング材塗料用水性樹脂分散体が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の上下水道ライニング材塗料用水性樹脂分散体は、低温での成膜性は良好とされているが、下水道において塗料を塗布して乾燥させる作業が必要であり、環境の悪い空間での作業が長時間かかってしまうだけでなく、下水道を使用できない期間が長くなるという問題があった。
【0005】
このような問題に対して、出願人らは、薄肉のグラスウール(チョップドストランドマット等)が混入した不飽和ポリエステル成型板を下水道コンクリート構造物に貼り付けて防食性を付与するシートライニング工法を開発し、その補修・補強材を特許文献2として開示した。
【0006】
特許文献2には、透光性を有さない高強度繊維および硝子繊維を少なくとも一部に有する補強繊維織物体に、透光性を有する樹脂を含浸して得られ、成形体の少なくとも一部が透光性を有することを特徴とする繊維強化樹脂成形体を有する補修・補強材が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の繊維強化樹脂成形体を有する補修・補強材を用いたシートライニング工法は、面ファスナーを用いて樹脂シートを仮固定し、その面ファスナーの厚さの隙間に裏込め材である接着材を注入して硬化させて一体化するものであった。また、この面ファスナーは、構造物の下面(天井面)でも樹脂シートと接着材の重量を支えるだけの強力な面ファスナーであるため、キノコ状の突起を押し込んで嵌め合わせるものであった(本願の
図3参照)。
【0008】
このため、面ファスナー部分を樹脂シートの外側から的確に手で押し込む必要があり手間がかかるとともに、面ファスナーの押し込み不足で接着材の注入時に樹脂シートが剥がれ落ち、接着材が流出するという事故が発生するという問題があった。つまり、(1)しっかり押し付けないと面ファスナー同士が嵌合しないという問題、(2)キノコ状の突起を押し込む特殊で強力な面ファスナーであるためクッション性があり確実な嵌合が難しいという問題、(3)面ファスナー同士の嵌合が甘いまま流動材である接着材を注入すると接着材に偏りが生じ、重量による内圧で樹脂シートが剥がれ落ち、接着材が流出するという事故が発生するという3つの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-204601号公報
【文献】特開2000-274011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、樹脂シートを短時間で簡単に仮固定して接着材を注入する際に仮固定した樹脂シートが剥がれ落ちるおそれのないコンクリート構造物のシートライニング工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載のコンクリート構造物のシートライニング工法は、硫酸による腐食のおそれのあるコンクリート構造物に繊維強化樹脂成型板からなる樹脂シートを接着して被覆するコンクリート構造物のシートライニング工法であって、前記コンクリート構造物に一対の磁着手段の一方を接着する構造物磁着手段設置工程と、前記樹脂シートの裏面に前記一対の磁着手段の他方を接着するシート磁着手段設置工程と、前記コンクリート構造物に面ファスナーを接着する構造物面ファスナー接着工程と、前記樹脂シートの裏面に前記面ファスナーと嵌合する面ファスナーを接着するシート面ファスナー接着工程と、を備えるとともに、前記磁着手段及び前記面ファスナーを用いて前記樹脂シートを前記コンクリート構造物に仮固定するシート仮固定工程と、前記シート仮固定工程で仮固定した前記樹脂シートと前記コンクリート構造物との間に接着材を注入する注入工程と、を備え、前記シート仮固定工程では、前記磁着手段の磁力で前記樹脂シートを磁着させて支えつつ前記ファスナーを嵌合させて前記樹脂シートを前記コンクリート構造物に仮固定することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載のコンクリート構造物のシートライニング工法は、硫酸による腐食のおそれのあるコンクリート構造物に繊維強化樹脂成型板からなる樹脂シートを接着して被覆するコンクリート構造物のシートライニング工法であって、前記コンクリート構造物に一対の磁着手段の一方を接着する構造物磁着手段設置工程と、前記樹脂シートの裏面に前記一対の磁着手段の他方を接着するシート磁着手段設置工程と、前記磁着手段の磁力で前記樹脂シートを磁着させて仮固定するシート仮固定工程と、前記シート仮固定工程で仮固定した前記樹脂シートと前記コンクリート構造物との間に接着材を注入する注入工程と、を備えるとともに、前記コンクリート構造物に面ファスナーを接着する構造物面ファスナー接着工程と、前記樹脂シートの裏面に前記面ファスナーと嵌合する面ファスナーを接着するシート面ファスナー接着工程と、をさらに備え、前記面ファスナーには、面ファスナー同士を嵌合した際に嵌合状態が確認できる嵌合状態確認手段が設けられ、前記樹脂シートは、前記嵌合状態確認手段を透視可能な透光性を有し、前記注入工程前に前記嵌合状態確認手段で前記樹脂シートの外側から面ファスナー同士の嵌合を確認することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1又は2に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、樹脂シートを磁力で磁着させて仮固定するので、樹脂シートを支えながら面ファスナー同士を押し付ける必要がなく、簡単に樹脂シートを仮固定することができる。また、請求項1又は2に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、一対の磁着手段が互いに接合しているか否かは、面ファスナー同士の嵌合と比べて樹脂シートの浮き上がり等の感触で樹脂シートの外側から容易に判断が付き、樹脂シートの仮固定不良のおそれが少ない。その上、請求項1又は2に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、きちんと互いに接合している状態の一対の磁着手段は、一定の磁力が見込めるため、接着材を注入する際に仮固定した樹脂シートが剥がれ落ちるおそれが極めて少ない。
また、請求項1又は2に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、樹脂シートの仮固定に磁力と面ファスナーを併用するので、作業員が人力で仮固定することができる樹脂シートの面積を大きくすることができ、腐食の弱点となる樹脂シートの継ぎ目を減らすことができる。このため、シートライニング工法で補修したコンクリート構造物の耐久性をさらに向上させることができる。また、請求項1に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、樹脂シートの仮固定に磁力と面ファスナーを併用するので、リスク分散ができ、接着材を注入する際に仮固定した樹脂シートが剥がれ落ちる危険性をさらに低減することができる。
【0016】
特に、請求項2に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、磁石と併用する面ファスナーの嵌合を樹脂シートの仮固定後に容易に確認することができ、接着材を注入する際に仮固定した樹脂シートが剥がれ落ちる危険性をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法に用いる防食タイプの樹脂シートを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、同上のシートライニング工法に用いる防食・補強タイプの樹脂シートを模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、同上のシートライニング工法によりコンクリート構造物を補修・補強した状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、同上のシートライニング工法の施工手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法について説明する。本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法(以下単に本シートライニング工法という場合もある)は、対象とするコンクリート構造物の表面に、予め工場で生産された後述の樹脂シートを接着して被覆し、劣化したコンクリート構造物を補強・補修する工事に適用される成型品後貼り型のシートラインイング工法である。
【0019】
[コンクリート構造物]
先ず、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法の対象となるコンクリート構造物1について、簡単に説明する。本シートライニング工法の対象となるコンクリート構造物1は、下水道を構成する下水道コンクリート構造物であり、下水に含まれる硫化物(硫化水素)の生化学反応により生成される硫酸に接触するためアルカリ性材料であるコンクリートのセメント成分が腐食劣化するおそれが高い鉄筋コンクリート製(RC造)の構造物である。
【0020】
[樹脂シート]
次に、
図1,
図2を用いて、本シートライニング工法に用いる樹脂シートについて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法に用いる防食タイプの樹脂シート2を模式的に示す斜視図であり、
図2は、同工法に用いる防食・補強タイプの樹脂シート2’を模式的に示す斜視図である。
【0021】
本発明の実施形態に係る樹脂シート2は、主原料の酸(飽和ニ塩基酸/不飽和ニ塩基酸)とグリコールとの重縮合により作られた不飽和ポリエステルを、マトリクス樹脂としてメタクリル樹脂(PMMA樹脂)などの透明な樹脂に溶かしたものを加熱硬化させたもの基体とする薄い板状の繊維強化樹脂成型板(FRP:Fiber-Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)である。
【0022】
また、本発明の実施形態に係る樹脂シートは、前述の不飽和ポリエステル樹脂に、チョップドストランドマットやガラス繊維織物などのガラス繊維材を複層したものを混入させて形成したガラス繊維強化樹脂成型板20(GFRP:Glass Fiber-Reinforced Plastic)としている。
【0023】
また、樹脂シート2は、
図1に示すように、ガラス繊維強化樹脂成型板20の表面(下水と接触するおそれのある面、以下同じ)に100μmのビニルエステル樹脂コーティング21が施された積層シートとなっており、全体で標準厚が4.0mm程度となっている。
【0024】
なお、本発明に係る樹脂シートの補強繊維は、ガラス繊維に限られず、炭素繊維、ボロン(ホウ素)繊維、アラミド繊維、ケプラ繊維、アルミナ繊維などの他の連続繊維を用いることができる。また、本発明に係る樹脂シートのマトリクス樹脂も、メタクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂とすることもできる。
【0025】
但し、マトリクス樹脂は、裏込め材である接着材の注入状況を確認できる観点から、メタクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、塩化ビニル樹脂など、の透明性樹脂(例えば、光線透過率が75%を超えるような透明な樹脂)であることが好ましい。つまり、本発明の実施形態に係る樹脂シート2は、全体として樹脂シート2を透過して後述の接着材6の充填状況が透視可能な程度の透光性を有する樹脂成型板であることが好ましい。
【0026】
また、
図2に示すように、本発明の別の実施形態に係る樹脂シート2’としては、炭素繊維からなる一方向ヤーン22’を短冊状に積層して600g/m
2の目付量とし、前述のガラス繊維材に混入して、透明性樹脂を含侵させて形成したガラス繊維・炭素繊維強化樹脂成型板20’(CFRP:Carbon Fiber-Reinforced Plastic)とすることもできる。補修・補強工事の対象となるコンクリート構造物の劣化が激しく、補強の必要性が高い場合に特に有効となる。
【0027】
但し、
図2に示すように、後述の裏込めの接着材を注入する際に、注入状況を樹脂シートを透過して目視確認するために、不透明な炭素繊維部分は、ところどころ間隔をあけて透明部分が存在する樹脂シート2’とすることが好ましい。
【0028】
[磁着手段]
次に、
図3を用いて、本シートライニング工法に用いる磁着手段3について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によりコンクリート構造物1を補修・補強した状態を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る一対の磁着手段3は、フェライト磁石やネオジム磁石などの永久磁石30と薄鋼板31からなり、両者が永久磁石30の磁力で磁着された状態で5mm程度となっている。この磁着手段3の厚みは、注入・充填する接着材6の必要な厚みに設定され、磁着手段3の厚みがスペーサーとして機能する。
【0029】
勿論、一対の磁着手段3は、一対の永久磁石30,30から構成することも可能である。但し、一対の磁着手段3は、一対の永久磁石30,30とするとコストアップとなるため一方を薄鋼板31とすることが好ましい。また、磁着手段3は、ZAM鋼板(登録商標)などの高耐食鋼板から構成することで腐食を防止することも可能となる。
【0030】
[面ファスナー]
次に、
図3を用いて、本シートライニング工法に用いる面ファスナー4について説明する。本シートライニング工法に用いる面ファスナーは、
図3に示すように、コンクリート構造物1の下面(天井面)でも樹脂シート2と接着材6の重量を支えるだけの強力な面ファスナーであり、略同形の一対の面ファスナー4,4’から構成されている。
【0031】
面ファスナー4,4’は、樹脂製の面ファスナーであり、矩形状の基体40,40’と、この基体40,40’の一面から外側に垂直に突出するキノコ状の突起41,41’と、から主に構成されている。この面ファスナー4,4’は、
図3に示すように、面ファスナー4と面ファスナー4’をキノコ状の突起41,41’同士が当接する状態で相対させ、一方の面ファスナー4’を他方の面ファスナー4に押し付けることで、キノコ状の突起41,41’同士が絡み合って係合し、面ファスナー4と面ファスナー4’とが嵌合する仕組みとなっている。
【0032】
このため、従来のシートライニング工法では、前述のように、(1)しっかり押し付けないと面ファスナー4同士が嵌合しないという問題、(2)キノコ状の突起41を押し込む面ファスナー4であるためクッション性があり確実な嵌合が難しいという問題があった。このため、(3)面ファスナー4同士の嵌合が甘いまま流動材である接着材を注入すると接着材に偏りが生じ、重量による内圧で樹脂シートが剥がれ落ち、接着材が流出するという事故が発生するという問題を招来していた。
【0033】
そこで、このような問題を解決するべく、本実施形態に係る面ファスナー4,4’は、両者を嵌合した際に嵌合状態が確認できる嵌合状態確認手段を設けている。
【0034】
具体的には、嵌合状態確認手段は、面ファスナー4と面ファスナー4’の色を透光性を有する半透明の異なるものとし、両者が嵌合した際に、異なる色同士が混色することにより、両方の色の中間色となって樹脂シート2を透過して視認できることで嵌合状態を確認できるようになっている。例えば、面ファスナー4を半透明の青色とし、面ファスナー4’を半透明の赤色とすることにより、面ファスナー4と面ファスナー4’と嵌合した状態の色が、紫やピンク色となることにより、両者の嵌合状態を確認することができる。
【0035】
また、他の嵌合状態確認手段としては、面ファスナー4、4’の基体40,40’を少なくとも半透明とし、面ファスナー4のキノコ状の突起41の配列の形状と、面ファスナー4’のキノコ状の突起41’の配列の形状を異なるものとすることも考えられる。そして、コンクリート構造物1に接着した面ファスナー4のキノコ状の突起41の配列の形状が樹脂シート2を透過して視認できた場合に、両者が嵌合したと判断する。例えば、面ファスナー4のキノコ状の突起41の配列を円形状とし、面ファスナー4’のキノコ状の突起41’の配列を矩形状とする。そして、樹脂シート2及び基体40’を透過してキノコ状の突起41の円形状の配列が確認できた場合に、面ファスナー4と面ファスナー4’とが嵌合したと確認する。
【0036】
なお、本発明に係る嵌合状態確認手段は、前述の手段に限られず、面ファスナー4と面ファスナー4’とが嵌合した状態を何らかの手段により確認することができればよい。
【0037】
[目地処理材]
次に、
図3を用いて、本シートライニング工法に用いる目地処理材5について説明する。目地処理材5は、下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアルに規定するシートライニング工法の品質規格「D
2種」に適合するビニルエステル樹脂などの硫酸に対する耐薬品性の高い樹脂からなる厚さ1mm×幅50mm程度の帯状の紫外線硬化テープである。
【0038】
なお、この目地処理材5は、目地処理材5を接着する部分の樹脂シート2の表面を目荒しした上、接着されて紫外線が照射されることで硬化し、前述の樹脂シート2との固着性が0.24MPa以上となるように接着される。
【0039】
[接着材]
次に、
図3を用いて、本シートライニング工法に用いる接着材6について説明する。接着材6は、主剤と硬化剤の2液からなる2液型のエポキシ樹脂系樹脂からなる流動性の高い低粘度の注入接着材である。また、この接着材6は、水中でも常温で硬化可能なエポキシ樹脂系樹脂であり、前述の樹脂シート2との接着強さが水中でも1.5MPa以上となっているとともに、コンクリート構造物1との固着性が0.24MPa以上となっている。
【0040】
[コンクリート構造物のシートライニング工法]
次に、
図3,
図4を用いて、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法の各工程を施工手順に沿って説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法の施工手順を示すフローチャートである。
【0041】
(1.表面処理工程)
先ず、
図4に示すように、本シートライニング工法では、補強・補修工事の対象となるコンクリート構造物の表面(下水側の面)の汚れや劣化した脆弱部を除去して平らにする表面処理工程を行う。
【0042】
具体的には、超高圧水やディスクサンダー等を用いて、コンクリート構造物1の表面の汚れや劣化した脆弱部を取り除く。その後、脆弱部が取り除かれて凸凹になったコンクリート構造物の表面に、パテ材などの断面修復材を塗り付けて平滑に仕上げる。
【0043】
(2.割付・墨出工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、補強・補修工事の対象となるコンクリート構造物1の形状に合わせて樹脂シート2の割付を決定し、コンクリート構造物1に樹脂シート2の大きさに応じた墨出しを行う割付・墨出工程を実施する。
【0044】
なお、補強・補修工事の対象となる施工面が曲面の場合、接着材の注入厚及び樹脂シートのシート厚を考慮して割付を行う。
【0045】
また、本工程において、前述の磁着手段3(薄鋼板31)や面ファスナー4の位置もコンクリート構造物1の躯体及び樹脂シート2の両方に墨出ししておく。
【0046】
(3.構造物磁着手段設置工程及び構造物面ファスナー接着工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、補強・補修工事の対象となるコンクリート構造物1に前述の一対の磁着手段3の一方を前述のパテ状の接着材で接着する構造物磁着手段設置工程を行う。具体的には、コンクリート構造物1の墨出工程で墨出しした位置に、磁着手段3の永久磁石30を前述のパテ状の接着材で接着する。
【0047】
また、この構造物磁着手段設置工程と同時並行で、コンクリート構造物1に、前述の面ファスナー4を2液型のエポキシ系樹脂などからなる前述のパテ状の接着材で接着する構造物面ファスナー接着工程を行う。具体的には、コンクリート構造物1の割付・墨出工程で墨出しした位置に、面ファスナー4を前述のパテ状の接着材で接着する。
【0048】
勿論、構造物磁着手段設置工程と構造物面ファスナー接着工程は、どちらか一方の工程を前後して行ってもよいことは云うまでもない。
【0049】
(4.シート磁着手段設置工程及びシート面ファスナー接着工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、前述の樹脂シート2の裏面に一対の磁着手段3の他方を接着するシート磁着手段設置工程を行う。具体的には、樹脂シート2の裏面となる墨出工程で墨出しした位置に、磁着手段3の薄鋼板31を前述のパテ状の接着材で接着する。
【0050】
また、このシート磁着手段設置工程と同時並行で、前述の樹脂シート2の裏面に前述の一対の磁着手段3の他方を前述のパテ状の接着材で接着するシート面ファスナー接着工程を行う。具体的には、樹脂シート2の裏面の割付・墨出工程で墨出しした位置に、面ファスナー4’を前述のパテ状の接着材で接着する。
【0051】
なお、シート磁着手段設置工程とシート面ファスナー接着工程は、どちらか一方の工程を前後して行ってもよいことは云うまでもない。また、シート磁着手段設置工程及びシート面ファスナー接着工程は、補修・補強対象となるコンクリート構造物1の近くの別の場所で行うため、前述の構造物磁着手段設置工程及び構造物面ファスナー接着工程と関連無く同時並行又は前後して行うことが可能である。
【0052】
(5.シート仮固定工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、磁着手段3及び面ファスナー4,4’を用いて、樹脂シート2をコンクリート構造物1に仮固定するシート仮固定工程を行う。
【0053】
具体的には、コンクリート構造物1の表面に接着した永久磁石30に、樹脂シート2の裏面に接着した薄鋼板31を磁着するとともに、コンクリート構造物1の表面に接着した面ファスナー4に、樹脂シート2の裏面に接着した面ファスナー4’を押し付けて両者を嵌合する。
【0054】
このとき、従来のシートライニング工法では、樹脂シート2を支えながら、面ファスナー同士を押し付けて嵌合させるのが困難であった。また、前述のように、面ファスナー同士の嵌合にクッション性があり確実な嵌合が難しいという問題等があった。
【0055】
しかし、本シートライニング工法では、磁着手段3を設けているので、樹脂シート2をコンクリート構造物1の設置位置に近づけるだけで、永久磁石30の磁力で樹脂シート2をコンクリート構造物1の設置位置に仮固定することができる。
【0056】
このため、樹脂シート2から手を離して面ファスナー4,4’同士を押し付けることが可能となり、短時間で樹脂シート2をコンクリート構造物1の設置位置に仮固定することができる。
【0057】
その上、前述のように、面ファスナー4,4’には、前述の嵌合状態確認手段が設けられているので、本工程において、樹脂シート2を透過して面ファスナー4,4’同士の嵌合状態を確認できるようになっている。このため、後述の注入工程において、接着材6等の重量による内圧で樹脂シート2が剥がれ落ち、接着材6が流出するという事故を確実に防止することができる。その上、2種類の仮固定手段を設けているので、樹脂シート2の面積を従来のシートライニング工法より大きくすることができ、腐食の弱点となる樹脂シート2同士の継ぎ目の数を減らすことができる。このため、補修したコンクリート構造物1の耐久性をさらに向上させることができる。
【0058】
(6.注入準備工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、後述の注入工程の準備を行う注入準備工程を実行する。
【0059】
具体的には、樹脂シート2同士の目荒しした継ぎ目に、接着材6が漏れないように、前述の目地処理材5を接着してシールするとともに、仮固定した樹脂シート2に図示しない注入パイプとエア抜きパイプを所定の500mmピッチで設置する。
【0060】
(7.注入工程)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、仮固定した樹脂シート2とコンクリート構造物1との間の隙間に裏込め材である前述の接着材6を注入する注入工程を行う。
【0061】
このとき、磁着手段3及び面ファスナー4,4’がスペーサーとなっており、裏込め材である接着材6の注入厚の確保が容易である。また、他のシートライニング工法のように、コンクリート構造物にアンカーや支保工等を設置する必要がなく、施工期間を大幅に短縮することができるだけでなく、削孔等が不要でコンクリート構造物1を損傷することもない。
【0062】
その上、樹脂シート2は、前述のように、透光性を有する樹脂成型板となっているので、樹脂シート2を透過して接着材6の充填状況が透視可能となっている。よって、接着材6の注入圧等で万が一、永久磁石30から薄鋼板31が外れたり、面ファスナー4から面ファスナー4’が外れたり、する不具合が発生した場合でも、接着材6の注入をストップして不具合を解消することが可能となっている。
【0063】
(8.養生)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、注入工程で注入した接着材6が硬化するまでの養生期間をとる。
【0064】
(9.仕上げ)
次に、
図4に示すように、本シートライニング工法では、注入準備工程で設置した注入パイプとエア抜きパイプを撤去するとともに、注入パイプ等を撤去し、そのまわりのバリを取るなどして樹脂シート2及び目地処理材5の表面を仕上げる。なお、本工程の終了により、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法が完了する。
【0065】
[コンクリート構造物のシートライニング工法の作用効果]
以上説明した本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法によれば、樹脂シート2をコンクリート構造物1に磁着手段3の磁力で磁着させて仮固定するので、樹脂シート2を支えながら面ファスナー4,4’同士を押し付ける必要がなく、簡単に短時間で樹脂シート2を仮固定することができる。
【0066】
また、本シートライニング工法によれば、磁着手段3の永久磁石30と薄鋼板31とが接合しているか否かは、樹脂シート2の浮き上がりや垂れ下がり等の感触で樹脂シート2の表面から容易に判断が付き、樹脂シート2の仮固定不良のおそれが少ない。
【0067】
その上、本シートライニング工法によれば、きちんと接合している状態の磁着手段3は、永久磁石30の一定の磁力が見込めるため、接着材6を注入する際に仮固定した樹脂シート2が剥がれ落ちるおそれが極めて少ない。
【0068】
それに加え、本シートライニング工法によれば、樹脂シート2の仮固定に磁着手段3と面ファスナー4,4’を併用するので、作業員が人力で仮固定することができる樹脂シート2の面積を大きくすることができ、腐食の弱点となる樹脂シート2の継ぎ目を減らすことができる。このため、シートライニング工法で補修したコンクリート構造物の耐久性をさらに向上させることができる。
【0069】
また、本シートライニング工法によれば、樹脂シート2の仮固定に磁着手段3と面ファスナー4,4’を併用するので、リスク分散ができ、仮固定に磁着手段3と面ファスナー4,4’を互いにフェイルセーフとして機能させることができる。このため、接着材6を注入する際に仮固定した樹脂シート2が剥がれ落ちる危険性をさらに低減することができる。
【0070】
そして、本シートライニング工法によれば、嵌合状態確認手段により、磁着手段3と併用する面ファスナー4,4’の嵌合を樹脂シート2の仮固定後に容易に確認することができ、接着材6を注入する際に仮固定した樹脂シート2が剥がれ落ちる危険性をさらに低減することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明に係る技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0072】
特に、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法として、樹脂シート2の仮固定に磁着手段3と面ファスナー4,4’を併用する場合を例示して説明したが、樹脂シート2の仮固定を、磁着手段3のみで行うことも可能である。
【0073】
また、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物のシートライニング工法に用いる樹脂シート2,2’、磁着手段3、面ファスナー4,4’、目地処理材5、接着材6として例示した厚みや寸法等は、あくまでも実施形態の例示であり、コンクリート構造物1の規模や劣化状況に応じて適宜、変更設定される得るものである。
【符号の説明】
【0074】
1:コンクリート構造物
2,2’:樹脂シート
20:ガラス繊維強化樹脂成型板
20’:ガラス繊維・炭素繊維強化樹脂成型板
21:ビニルエステル樹脂コーティング
22’:炭素繊維からなる一方向ヤーン
3:磁着手段
30:永久磁石
31:薄鋼板
4,4’:面ファスナー
40,40’:基体
41,41’:突起
5:目地処理材
6:接着材