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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】コネクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/00 20060101AFI20240326BHJP
   H01R 13/42 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01R43/00 B
H01R13/42 B
H01R13/42 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020126745
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023655
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】榛地 陽
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 大樹
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-033278(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40-13/533
H01R 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子収容室を有するハウジングと、前記端子収容室に収容される端子と、前記ハウジングに組み付けられるフロントホルダと、を有するコネクタを製造するための製造方法であって、
前記ハウジングは、
前記端子を正規挿入位置に係止する係止片を有し、
前記フロントホルダは、
前記端子を受け入れて保持するように前記端子の種別ごとに異なる形状を有する保持室を有するとともに、前記端子が前記正規挿入位置にあるときには前記係止片に干渉することなく前記ハウジングへの組み付けが可能であり且つ前記端子が前記正規挿入位置に至る中途挿入位置にあるときには前記係止片に干渉して前記ハウジングへの組み付けが妨げられる、ように構成され、
当該製造方法は、
複数の種別の前記端子の中から選択された一の種別の前記端子を、前記コネクタの前記端子収容室内の前記正規挿入位置に挿入する工程と、
前記選択された一の種別の前記端子に対応する形状を有する前記保持室を有する前記フロントホルダを選択し、選択された前記フロントホルダを前記ハウジングに組み付けることによって前記端子を前記保持室内に受け入れ、前記端子を前記保持室の内壁面に挟まれて保持された状態にて前記端子収容室に収容する工程と、を備える、
コネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと、ハウジングの端子収容室に収容される端子と、ハウジングに組み付けられるフロントホルダと、を備えるコネクタ、及び、コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハウジングの端子収容室に端子が収容されたコネクタが提案されている。例えば、従来のコネクタの一つは、端子収容室に挿入された端子を正規挿入位置に係止する係止片(いわゆるランス)をハウジングに設け、この係止片で端子を係止することで、端子収容室内に端子を固定するようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3468351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コネクタのハウジングに収容される端子は、接続対象である相手側端子と適正な電気的接続を図るように設計された形状や構造を有する。別の言い方をすると、ハウジングは、そのように種々様々な形状や構造を有する端子を適正に収容できるように、用いられる端子ごとに異なる形状や構造を有する。一例として、自動車のワイヤハーネスに用いられるコネクタは、一般に、コネクタの用途自体は同じであっても、接続先の相手側コネクタや相手側端子の仕様ごとに異なる専用の形状や構造のハウジングを有するように設計される。しかし、コネクタの管理の煩雑さや製造コストを低減する観点からは、出来る限りハウジングの形状や構造の共通化を図ることが望ましい。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、種々様々な形状や構造を有する端子をハウジングに適正に収容可能なハウジングを備えるネクタの製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係るネクタの製造方法は、下記[1]特徴としている。

端子収容室を有するハウジングと、前記端子収容室に収容される端子と、前記ハウジングに組み付けられるフロントホルダと、を有するコネクタを製造するための製造方法であって、
前記ハウジングは、
前記端子を正規挿入位置に係止する係止片を有し、
前記フロントホルダは、
前記端子を受け入れて保持するように前記端子の種別ごとに異なる形状を有する保持室を有するとともに、前記端子が前記正規挿入位置にあるときには前記係止片に干渉することなく前記ハウジングへの組み付けが可能であり且つ前記端子が前記正規挿入位置に至る中途挿入位置にあるときには前記係止片に干渉して前記ハウジングへの組み付けが妨げられる、ように構成され、
当該製造方法は、
複数の種別の前記端子の中から選択された一の種別の前記端子を、前記コネクタの前記端子収容室内の前記正規挿入位置に挿入する工程と、
前記選択された一の種別の前記端子に対応する形状を有する前記保持室を有する前記フロントホルダを選択し、選択された前記フロントホルダを前記ハウジングに組み付けることによって前記端子を前記保持室内に受け入れ、前記端子を前記保持室の内壁面に挟まれて保持された状態にて前記端子収容室に収容する工程と、を備える、
コネクタの製造方法であること。
【0009】
上記[]の構成のコネクタの製造方法によれば、端子の種別(即ち、種々様々な形状)によらず、ハウジングの端子収容室の正規挿入位置に挿入された端子は、ハウジングの係止片に係止されるとともに、フロントホルダの保持室内に入り且つ保持室の内壁面に挟まれた状態にて、保持される。よって、種々様々な形状の(例えば、一の内壁面と他の内壁面とに挟まれる方向における寸法が異なる)端子を端子収容室に挿入しても、フロントホルダの保持室が端子の種別ごとに対応して端子を保持する形状を有することで、端子収容室内での端子の位置ズレ(いわゆるガタつき)を抑制できる。即ち、複数の種別の端子に対応した複数の種別のフロントホルダを準備することで、ハウジングを共通化できる。更に、フロントホルダにより、端子が正規挿入位置にあるか否かを検知できる。したがって、本構成のコネクタの製造方法により、種々様々な形状や構造を有する端子をハウジングに適正に収容可能なコネクタを製造できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、種々様々な形状や構造を有する端子をハウジングに適正に収容可能なハウジングを備えるネクタの製造方法を提供できる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、相手側コネクタとの嵌合途中の状態にある本発明の実施形態に係るコネクタを示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すコネクタを分解した状態を図1に示す相手側コネクタと共に示す斜視図である。
図3図3(a)は、第1端子及び第1フロントホルダが組み付けられた図1に示すコネクタの斜視図であり、図3(b)は、第2端子及び第2フロントホルダが組み付けられた図1に示すコネクタの斜視図である。
図4図4(a)は、第1端子の主要縦断面図であり、図4(b)は、第2端子の主要縦断面図である。
図5図5(a)は、第1フロントホルダが仮係止位置にあり且つ第1端子が正規挿入位置にある状態における図2に示すハウジングの主要縦断面図であり、図5(b)は、図5(a)に示す状態から第1フロントホルダを本係止位置に移動して組み付けが完了した図3(a)に示すコネクタの主要断面図であり、図5(c)は、嵌合途中の状態にある図3(a)に示すコネクタと相手側コネクタとの主要断面図である。
図6図6(a)は、第2フロントホルダが仮係止位置にあり且つ第2端子が正規挿入位置にある状態における図2に示すハウジングの主要縦断面図であり、図6(b)は、図6(a)に示す状態から第2フロントホルダを本係止位置に移動して組み付けが完了した図3(b)に示すコネクタの主要断面図であり、図6(c)は、嵌合途中の状態にある図3(b)に示すコネクタと相手側コネクタとの主要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、図1図3に示す本発明の実施形態に係るコネクタ1、及び、コネクタ1の製造方法について説明する。以下、説明の便宜上、以下、説明の便宜上、図1に示すように、「前後方向」、「幅方向」、「上下方向」、「前」、「後」、「上」及び「下」を定義する。「前後方向」、「幅方向」及び「上下方向」は、互いに直交している。前後方向は、コネクタ1と相手側コネクタ5(図1参照)との嵌合方向と一致しており、相手側コネクタ5が嵌合する嵌合方向の正面側(図1において左側)が前側とされ、その反対の嵌合方向の背面側(図1において右側)が後側とされている。
【0014】
図2に示すように、コネクタ1は、ハウジング2と、ハウジング2に後側から収容される端子3と、ハウジング2に前側から装着されるフロントホルダ4、とを含む。以下、コネクタ1を構成する各部品の構成について順に説明する。
【0015】
先ず、端子3について説明する。図2及び図4に示すように、本例では、ハウジング2に収容される端子3として、第1端子3A及び第2端子3Bという2種類の金属製の端子(メス端子)が存在する。第1端子3A及び第2端子3Bそれぞれは、前後方向に延びる形状を有し、前後方向に延びる矩形箱状の箱部21と、箱部21の後側に位置する加締め部22と、を一体に有する。箱部21には、相手側コネクタ5の前後方向に延びる相手側端子(オス端子)43(図1図5及び図6参照)が挿入されることになる。加締め部22には、電線(図示省略)の端末が加締め固定されている。
【0016】
第1端子3Aと第2端子3Bとでは、図4(a)及び図4(b)の比較から理解できるように、箱部21の高さ、並びに、箱部21内に設けられた板バネ状の接点部の形状及び位置等が異なる。このため、第1端子3Aと第2端子3Bとでは、箱部21の底面(下面、平面)と箱部21の中央位置CLとの上下方向の間隔Lも異なる。箱部21の中央位置CLとは、箱部21に相手側端子(オス端子)43が挿入された状態における相手側端子43の中心軸の上下方向の位置(設計上の位置)を指す。箱部21の中央位置CLは、メス端子嵌合センターとも称呼される。本例では、図3(b)に示す第2端子3Bの間隔L(=Lb)が、図3(a)に示す第1端子3Aの間隔L(=La)より大きい。以下、第1端子3A及び第2端子3Bを区別する必要がない場合、第1端子3A及び第2端子3Bを総称して端子3と呼ぶ。
【0017】
次いで、ハウジング2について説明する。図2に示すように、樹脂製のハウジング2は、略矩形筒状のハウジング本体11を備える。ハウジング本体11が相手側コネクタ5の相手側ハウジング41が有する矩形筒状のフード部42(図1及び図2参照)に内挿されることで、ハウジング2と相手側ハウジング41とが(即ち、コネクタ1と相手側コネクタ5とが)嵌合するようになっている。
【0018】
ハウジング本体11の内部には、図2及び図5に示すように、端子3を収容するための複数の端子収容室12が前後方向に延びるように形成されている。本例では、複数の端子収容室12が上下2段で幅方向に並ぶように設けられている。各端子収容室12は、前後方向に延び且つ断面略矩形状の空間である。
【0019】
端子3は、後側から端子収容室12に挿入される。コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時、端子収容室12に収容されている端子3の箱部21に相手側コネクタ5の相手側端子43が挿入されることで、端子3と相手側端子43とが電気的に接続されることになる。
【0020】
本例では、各端子収容室12について、前後方向において、端子収容室12を区画する上内壁の前端部の位置と、端子収容室12を区画する下内壁の前端部の位置とが、ほぼ一致している(図5参照)。上段の端子収容室12を区画する下内壁は、下段の端子収容室12を区画する上内壁を兼ねている。
【0021】
各端子収容室12には、図5に示すように、片持ち梁状の係止片であるランス14が、端子収容室12を区画する上内壁の前端部から、前方へ延びるように設けられている。ランス14は、端子収容室12の上内壁面13(前後方向に延びる平面)から下側(端子収容室12の内側)に向けて斜めに延びている。
【0022】
ランス14の上側には隙間15が確保されている。このため、ランス14は、弾性変形していない正規の姿勢(図5に示す姿勢)から、隙間15を狭めるように上側に弾性変形可能となっている。ランス14は、端子収容室12に収容されている端子3の後方側への抜けを防止する等の機能を発揮する(詳細は後述する)。
【0023】
ハウジング本体11の上端面の幅方向中央部には、図2に示すように、片持ち梁状のロックアーム18が、後方へ延びるように設けられている。ロックアーム18にはロック突起19が設けられている。コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時、ロック突起19は、相手側ハウジング41のフード部42に設けられたロック部(図示省略)と係合することで、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合状態を維持する機能を果たす。
【0024】
次いで、フロントホルダ4について説明する。フロントホルダ4は、ハウジング本体11に前側から挿入されて、端子3の中途挿入を検知する等の機能を発揮する部材である。図3に示すように、本例では、ハウジング2に装着されるフロントホルダ4として、第1フロントホルダ4A及び第2フロントホルダ4Bという2種類のフロントホルダが存在する。端子3として第1端子3Aが選択されてハウジング2に収容される場合、フロントホルダ4として第1フロントホルダ4Aが選択されてハウジング2に装着され、端子3として第2端子3Bが選択されてハウジング2に収容される場合、フロントホルダ4として第2フロントホルダ4Bが選択されてハウジング2に装着される。以下、第1フロントホルダ4A及び第2フロントホルダ4Bを区別する必要がない場合、第1フロントホルダ4A及び第2フロントホルダ4Bを総称してフロントホルダ4と呼ぶ。
【0025】
樹脂製のフロントホルダ4は、図2に示すように、上下方向及び幅方向に延びる略矩形平板状の前壁部31と、前壁部31の幅方向両端部から後方に延び且つ幅方向に対向する一対の略矩形平板状の側壁部32と、を一体に備える。
【0026】
フロントホルダ4は、更に、図5に示すように、一対の側壁部32間にて上下方向に同じ間隔を空けて並ぶように前壁部31から後方に延びる3つの略矩形平板状の隔壁部33、を一体に備える。以下、3つの隔壁部33を区別する必要がある場合、上から順に、隔壁部33a、隔壁部33b、隔壁部33cと呼ぶ。
【0027】
3つの隔壁部33の間には、上下2段で幅方向に並ぶように配置された複数の端子収容室12に対応して、図5に示すように、上下2段で幅方向及び前後方向に延びる2つの保持室36が形成されている。各保持室36は、端子3を受け入れて保持する機能を果たす空間である。
【0028】
第1フロントホルダ4Aと第2フロントホルダ4Bとでは、3つの隔壁部33の厚さ等が異なることで、保持室36の形状及び位置が異なる。第1フロントホルダ4Aでは、各保持室36(36A)を区画する上内壁面37と下内壁面38との上下方向の間隔(即ち、保持室36Aの高さ)が、第1端子3Aの箱部21の高さと略一致している。更に、第1フロントホルダ4Aがハウジング2に装着された状態にて、各保持室36Aの下内壁面38が、対応する端子収容室12の下内壁面16に対して、間隔Lbと間隔Laとの差分(Lb-La)だけ上側に位置するように、各保持室36Aの位置が設計されている(図5(a)及び図5(b)参照)。これにより、後述するように、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時、上下方向において、相手側端子43の中心軸の位置と、第1端子3Aの箱部21の中央位置CLとが一致するようになっている(図5(c)参照)。
【0029】
第2フロントホルダ4Bでは、各保持室36(36B)を区画する上内壁面37と下内壁面38との上下方向の間隔(即ち、保持室36Bの高さ)が、第2端子3Bの箱部21の高さと略一致している。更に、第2フロントホルダ4Bがハウジング2に装着された状態にて、上下方向において、各保持室36Bの下内壁面38の位置と、対応する端子収容室12の下内壁面16の位置とが一致するように、各保持室36Bの位置が設計されている(図6(a)及び図6(b)参照)。これにより、後述するように、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時、上下方向において、相手側端子43の中心軸の位置と、第2端子3Bの箱部21の中央位置CLとが一致するようになっている(図6(c)参照)。
【0030】
前壁部31には、図2図3及び図5に示すように、上下2段で幅方向に並ぶように配置された複数の端子収容室12に対応して、前後方向に貫通する複数の挿通孔34が、上下2段で幅方向に並ぶように形成されている。コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時、挿通孔34には、相手側コネクタ5の相手側端子43(図1図5及び図6参照)が挿通されることになる。
【0031】
一対の側壁部32の各々には、図2に示すように、係止突起35が形成されている。一対の係止突起35は、ハウジング本体11に装着されたフロントホルダ4を、ハウジング本体11が有する係止部(図示省略)との協働によって、仮係止位置(図5(a)及び図6(a)参照)と、仮係止位置より後方の本係止位置(図3(a)、図3(b)、図5(b)及び図6(b)参照)と、に選択的に係止する機能を果たす。
【0032】
前壁部31の幅方向中央部の上側領域には、図2及び図3に示すように、前後方向に貫通する治具挿入孔39が形成されている。治具挿入孔39は、ハウジング2に装着されたフロントホルダ4をハウジング2から分離する際に使用する治具(図示省略)を挿入するための孔である。第1フロントホルダ4Aの治具挿入孔39A(図3(a)参照)と、第2フロントホルダ4Bの治具挿入孔39B(図3(b)参照)とでは、前方からみたときの形状が異なる。これにより、第1フロントホルダ4Aと第2フロントホルダ4Bとを極めて容易に識別することができる。
【0033】
第1フロントホルダ4Aと第2フロントホルダ4Bとでは、上述したように、保持室36の形状及び位置、並びに、治具挿入孔39の形状のみが異なる。以上、コネクタ1を構成する各部品の構成について説明した。
【0034】
次いで、コネクタ1を組み付ける際の手順について説明する。以下、先ず、端子3として第1端子3Aをハウジング2の端子収容室12に収容する場合について、図5を参照しながら説明する。この場合、フロントホルダ4として選択された第1フロントホルダ4Aを、前側から、ハウジング2のハウジング本体11の前端開口を介してハウジング本体11の内部に挿入し、図5(a)に示すように、仮係止位置に係止する。
【0035】
第1フロントホルダ4Aが仮係止位置にある状態では、隔壁部33aの後端部が上段の端子収容室12を区画する上内壁の前端部と前後方向に対向配置され、隔壁部33bの後端部が上段の端子収容室12を区画する下内壁(=下段の端子収容室12を区画する上内壁)の前端部と前後方向に対向配置され、隔壁部33cの後端部が下段の端子収容室12を区画する下内壁の前端部と前後方向に対向配置されている。この結果、上下2段の端子収容室12と上下2段の保持室36Aとがそれぞれ、前後方向に連通している。
【0036】
更に、上述したように、各保持室36Aの下内壁面38が、対応する端子収容室12の下内壁面16に対して、間隔Lbと間隔Laとの差分(Lb-La)だけ上側に位置している。このため、保持室36Aの下内壁面38と端子収容室12の下内壁面16との境界部にて、段差が形成されている。この段差を滑らかに繋ぐため、この境界部に位置する保持室36Aの下内壁面38の後端部には、傾斜面が形成されている。
【0037】
次いで、電線(図示省略)が加締め部22に接続された第1端子3Aを、後側から、端子収容室12に挿入する。挿入された第1端子3Aの箱部21は、端子収容室12の下内壁面16上を擦動しながら前方へ移動し、上記境界部に到達した後、上記傾斜面上を擦動しながら上斜め前方へ移動して、保持室36Aに進入する。
【0038】
保持室36Aに進入した第1端子3Aが、正規挿入位置に至るまでの中途挿入位置にあるとき(箱部21がランス14の下側にあるとき)、箱部21がランス14を上側に押し上げることで、ランス14は上側に弾性変形した姿勢(隙間15が狭められた状態)に維持される。
【0039】
保持室36A内を前方に移動する第1端子3Aが、図5(a)に示すように、正規挿入位置に到達したとき(箱部21がランス14の下側を通り過ぎたとき)、ランス14が第1端子3Aの角部(具体的には、箱部21の後上角部)に入り込むことで、ランス14が下向きに弾性復帰して正規の姿勢(図5(a)に示す姿勢)に維持される。この結果、ランス14は、第1端子3Aの角部を係止することで、第1端子3Aの後方側への抜け止め機能を発揮する。
【0040】
このように、正規挿入位置にある第1端子3Aの箱部21は、端子収容室12への挿入開始時点と比べて間隔Lbと間隔Laとの差分(Lb-La)だけ上側に移動した状態にて、保持室36A内にて、保持室36Aの上内壁面37と下内壁面38とによって上下方向に挟まれた状態で保持されている。この結果、端子収容室12内での第1端子3Aの位置ズレ(いわゆるガタつき)が抑制され得る。
【0041】
所望の個数の第1端子3Aが、順に、ハウジング2の対応する端子収容室12に挿入されて正規挿入位置に収容されていく。所望の個数の第1端子3Aの正規挿入位置への収容が完了すると、仮係止位置にある第1フロントホルダ4Aを本係止位置に向けてハウジング2に対して後方に押し込む。
【0042】
ここで、端子収容室12に挿入された全ての第1端子3Aが正常に正規挿入位置にある場合、複数の端子収容室12の全てのランス14が、正規の姿勢(図5(a)に示す姿勢)に維持されている。このため、第1フロントホルダ4Aの上下2つの隔壁部33a,33bの後端部が、上下2段のランス14と干渉することなく上下2段の隙間15にそれぞれ進入可能となっている。よって、この場合、上下2つの隔壁部33a,33bの後端部が上下2段の隙間15にそれぞれ進入することで、第1フロントホルダ4Aが、仮係止位置から本係止位置に移動し、本係止位置にて係止される(図5(b)参照)。これにより、第1端子3A及び第1フロントホルダ4Aが組み付けられたコネクタ1の組み付けが完了する(図3(a)参照)。
【0043】
なお、第1フロントホルダ4Aが本係止位置にある状態では、隔壁部33が隙間15に進入していることで、ランス14の上側(端子3から離れる側)への移動が規制される。これにより、ランス14と第1端子3Aとの係止に関して所謂2重係止が達成されて、第1端子3Aの後方側への抜けがより確実に防止され得る。
【0044】
一方、端子収容室12に挿入された第1端子3Aのうちの一部が中途挿入位置にある場合、中途挿入位置にある第1端子3Aを収容する端子収容室12(以下、中途挿入端子収容室12と呼ぶ)のランス14が、上側に弾性変形した姿勢(隙間15が狭められた状態)に維持される。このため、中途挿入端子収容室12のランス14の先端部が対応する隔壁部33の後端部と干渉して、対応する隔壁部33が中途挿入端子収容室12のランス14に対応する隙間15に進入不能となる。この結果、第1フロントホルダ4Aは、仮係止位置から本係止位置に移動できない。このように、第1フロントホルダ4Aが仮係止位置から本係止位置に移動不能であることで、第1端子3Aの中途挿入を検知することができる。
【0045】
組み付けが完了したコネクタ1は、図5(c)に示すように、相手側コネクタ5と嵌合される。このとき、第1端子3Aの箱部21が、端子収容室12への挿入開始時点と比べて間隔Lbと間隔Laとの差分(Lb-La)だけ上側に移動した状態にて保持室36A内に保持されていることに起因して、上下方向において、相手側端子43の中心軸の位置と、第1端子3Aの箱部21の中央位置CLとが一致している(図5(c)参照)。よって、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合が完了した状態では、第1端子3Aの箱部21に相手側コネクタ5の相手側端子43が適正に挿入され得ることで、第1端子3Aと相手側端子43とが電気的に適正に接続され得る。コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合が完了した状態では、ハウジング2のロック突起19と相手側ハウジング41のロック部(図示省略)とが係合することで、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合状態が維持される。
【0046】
以上、図5を参照しながら、端子3として第1端子3Aをハウジング2の端子収容室12に収容する場合について説明した。次いで、端子3として第2端子3Bをハウジング2の端子収容室12に収容する場合に関し、第1端子3Aをハウジング2の端子収容室12に収容する場合と相違する点のみについて、図6を参照しながら説明する。
【0047】
この場合、フロントホルダ4として選択された第2フロントホルダ4Bが、前側から、ハウジング2のハウジング本体11の前端開口を介してハウジング本体11の内部に挿入され、図6(a)に示すように、仮係止位置に係止される。
【0048】
第2フロントホルダ4Bが仮係止位置にある状態では、上述したように、上下方向において、各保持室36Bの下内壁面38の位置と、対応する端子収容室12の下内壁面16の位置とが一致している。このため、保持室36Aの下内壁面38と端子収容室12の下内壁面16との境界部にて、段差が形成されていない。
【0049】
次いで、電線(図示省略)が加締め部22に接続された第2端子3Bが、後側から、端子収容室12に挿入される。挿入された第2端子3の箱部21は、端子収容室12の下内壁面16上を擦動しながら前方へ移動し、上記境界部に到達した後、上記境界部上を擦動しながら前方へ移動して、保持室36Bに進入する。
【0050】
保持室36B内を前方に移動する第2端子3Bが、図6(a)に示すように、正規挿入位置に到達したとき(箱部21がランス14の下側を通り過ぎたとき)、ランス14が第2端子3Bの角部(具体的には、箱部21の後上角部)に入り込むことで、ランス14が下向きに弾性復帰して正規の姿勢(図6(a)に示す姿勢)に維持される。この結果、ランス14は、第2端子3Bの角部を係止することで、第2端子3Bの後方側への抜け止め機能を発揮する。
【0051】
このように、正規挿入位置にある第2端子3Bの箱部21は、端子収容室12への挿入開始時点と比べて上下方向に移動することなく、保持室36B内にて、保持室36Bの上内壁面37と下内壁面38とによって上下方向に挟まれた状態で保持されている。この結果、端子収容室12内での第2端子3Bの位置ズレ(いわゆるガタつき)が抑制され得る。
【0052】
所望の個数の第2端子3Bが、順に、ハウジング2の対応する端子収容室12に挿入されて正規挿入位置に収容された後、第2フロントホルダ4Bが仮係止位置から本係止位置に移動されて、本係止位置にて係止される(図6(b)参照)。これにより、第2端子3B及び第2フロントホルダ4Bが組み付けられたコネクタ1の組み付けが完了する(図3(b)参照)。
【0053】
組み付けが完了したコネクタ1は、図6(c)に示すように、相手側コネクタ5と嵌合される。このとき、第2端子3Bの箱部21が、端子収容室12への挿入開始時点と比べて上下方向に移動していない状態にて保持室36B内に保持されていることに起因して、上下方向において、相手側端子43の中心軸の位置と、第2端子3Bの箱部21の中央位置CLとが一致している(図6(c)参照)。よって、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合が完了した状態では、第2端子3Bの箱部21に相手側コネクタ5の相手側端子43が適正に挿入され得ることで、第2端子3Bと相手側端子43とが電気的に適正に接続され得る。
【0054】
このように、間隔Lが異なる2種類の端子3の何れを端子収容室12に挿入する場合においても、挿入された端子3の種別に応じた保持室36を有するフロントホルダ4をハウジング2に組み付けることで、端子3の上下方向の位置が適正に調整される。この結果、コネクタ1と相手側コネクタ5との嵌合時にて、相手側端子43の中心軸の位置と、端子3の箱部21の中央位置CLとを一致させることができる。
【0055】
<作用・効果>
以上、本実施形態に係るコネクタ1、及び、コネクタ1の製造方法によれば、端子3の種別(第1端子3Aか第2端子3Bか)によらず、ハウジング2の端子収容室12の正規挿入位置に挿入された端子3は、ハウジング2のランス14に係止されるとともに、フロントホルダ4の保持室36内に入り且つ保持室36の内壁面37,38に挟まれた状態にて、保持される。よって、種々様々な形状の(例えば、一の内壁面と他の内壁面とに挟まれる方向における寸法が異なる)端子3を端子収容室12に挿入しても、フロントホルダ4の保持室36が端子3の種別ごとに対応して端子3を保持する形状を有することで、端子収容室12内での端子3の位置ズレ(いわゆるガタつき)を抑制できる。即ち、複数の種別の端子3に対応した複数の種別のフロントホルダ4を準備することで、ハウジング2を共通化できる。したがって、本実施形態に係るコネクタ1によれば、種々様々な形状や構造を有する端子3をハウジング2に適正に収容可能なコネクタを製造できる。
【0056】
更に、フロントホルダ4の保持室36は、コネクタ1が嵌合される相手側コネクタ5が有する相手側端子43の中心軸と端子3の箱部21の中央位置CLとの上下方向の位置が一致するように端子3を保持するようになっている。よって、本実施形態に係るコネクタ1は、コネクタ1を共通化した上で、相手側コネクタ5との適正な電気的接続を図ることができる。
【0057】
<他の形態>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0058】
上記実施形態では、間隔Lの高さが異なる2種類の端子3、及び、2種類の端子3に対応する2種類のフロントホルダ4が、ハウジング2に組み付けられる。これに対し、間隔Lの高さが異なる3種類以上の端子3、及び、3種類以上の端子3に対応する3種類以上のフロントホルダ4が、ハウジング2に組み付けられてもよい。
【0059】
ここで、上述した本発明に係るコネクタ1及びコネクタ1の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[3]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
端子収容室(12)を有するハウジング(2)と、前記端子収容室(12)に収容される端子(3,3A,3B)と、前記ハウジング(2)に組み付けられるフロントホルダ(4,4A,4B)と、を備えるコネクタ(1)であって、
前記ハウジング(2)は、
前記端子(3)を正規挿入位置に係止する係止片(14)を有し、
前記フロントホルダ(4)は、
前記端子(3)を受け入れて保持する保持室(36)を有するとともに、前記端子(3)が前記正規挿入位置にあるときには前記係止片(14)に干渉することなく前記ハウジング(2)への組み付けが可能であり且つ前記端子(3)が前記正規挿入位置に至るまでの中途挿入位置にあるときには前記係止片(14)に干渉して前記ハウジング(2)への組み付けが妨げられる、ように構成され、
前記端子(3)は、
前記保持室(36)の内壁面(37,38)に挟まれて保持された状態にて、前記端子収容室(12)に収容される、
コネクタ(1)。
[2]
上記[1]に記載のコネクタ(1)において、
前記フロントホルダ(4)の前記保持室(36)は、
当該コネクタ(1)が嵌合される相手側コネクタ(5)が有する相手側端子(43)の中心軸に対応する位置に前記端子(3)を保持するように、構成される、
コネクタ(1)。
[3]
端子収容室(12)を有するハウジング(2)と、前記端子収容室(12)に収容される端子(3,3A,3B)と、前記ハウジング(2)に組み付けられるフロントホルダ(4,4A,4B)と、を有するコネクタ(1)を製造するための製造方法であって、
前記ハウジング(2)は、
前記端子(3)を正規挿入位置に係止する係止片(14)を有し、
前記フロントホルダ(4)は、
前記端子(3)を受け入れて保持するように前記端子(3)の種別ごとに異なる形状を有する保持室(36)を有するとともに、前記端子(3)が前記正規挿入位置にあるときには前記係止片(14)に干渉することなく前記ハウジング(2)への組み付けが可能であり且つ前記端子(3)が前記正規挿入位置に至る中途挿入位置にあるときには前記係止片(14)に干渉して前記ハウジング(2)への組み付けが妨げられる、ように構成され、
当該製造方法は、
複数の種別の前記端子(3A,3B)の中から選択された一の種別の前記端子(3)を、前記コネクタ(1)の前記端子収容室(12)内の前記正規挿入位置に挿入する工程と、
前記選択された一の種別の前記端子(3)に対応する形状を有する前記保持室(36)を有する前記フロントホルダ(4)を選択し、選択された前記フロントホルダ(4)を前記ハウジング(2)に組み付けることによって前記端子(3)を前記保持室(36)内に受け入れ、前記端子(3)を前記保持室(36)の内壁面(37,38)に挟まれて保持された状態にて前記端子収容室(12)に収容する工程と、を備える、
コネクタの製造方法。
【符号の説明】
【0060】
1 コネクタ
2 ハウジング
3 端子
3A 第1端子(端子)
3B 第2端子(端子)
4 フロントホルダ
4A 第1フロントホルダ(フロントホルダ)
4B 第2フロントホルダ(フロントホルダ)
5 相手側コネクタ
12 端子収容室
14 ランス(係止片)
36 保持室
37 上内壁面(内壁面)
38 下内壁面(内壁面)
43 相手側端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6