(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】三相ヒータ相電流検出装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G01R19/00 A
(21)【出願番号】P 2020141580
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 和隆
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110732(JP,A)
【文献】特開平08-180960(JP,A)
【文献】特開2000-287839(JP,A)
【文献】特開2000-237048(JP,A)
【文献】特開平05-089944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、
前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備え、
前記演算処理回路は、
前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算部と、
前記線電流の実効値に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成された角度計算部と、
前記線電流の実効値と前記角度とに基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算部とを備える
ことを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三相ヒータ相電流検出装置において、
前記角度計算部は、前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの内角角度を計算し、得られた内角角度に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成されていることを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の三相ヒータ相電流検出装置において、
前記角度計算部は、前記線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Is、線電流Irおよび線電流It、線電流Isおよび線電流Itがなすそれぞれの内角角度を角度∠O,∠P,∠Qとし、相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとし、tan(α)の値を示す分数の分子および分母を変数X,Yとした場合、次の式により、これら変数X,Yおよび角度α,β,γを計算するように構成されていることを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【数1】
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の三相ヒータ相電流検出装置において、
前記相電流計算部は、前記線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Isの相電流Irsと線電流Isとの角度をαとし、線電流Irおよび線電流Itの相電流Itrと線電流Irとの角度をβとし、線電流Isおよび線電流Itの相電流Istと線電流Itとの角度をγとした場合、次の連立方程式を解くことにより、相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成されていることを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【数2】
【請求項5】
デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、
前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備え、
前記演算処理回路は、
前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算部と、
前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの頂点と、前記相電流が交差する交点の座標位置を計算するように構成された位置計算部と、
前記頂点および交点の座標位置から求めた前記頂点と前記交点の距離に基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算部とを備える
ことを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の三相ヒータ相電流検出装置。
前記位置計算部は、前記3辺のうち少なくとも2つの辺について、当該辺を弦とするとともに当該弦の円周角が120°となる円弧をそれぞれ求め、これら円弧が交差する点を前記交点として特定するように構成されていることを特徴とする三相ヒータ相電流検出装置。
【請求項7】
デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備える三相ヒータ相電流検出装置で用いられる、三相ヒータ相電流検出方法であって、
前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算ステップと、
前記演算処理回路が、前記線電流の実効値に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成された角度計算ステップと、
前記演算処理回路が、前記線電流の実効値と前記角度とに基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算ステップと
を備えることを特徴とする三相ヒータ相電流検出方法。
【請求項8】
デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備える三相ヒータ相電流検出装置で用いられる、三相ヒータ相電流検出方法であって、
前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算ステップと、
前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの頂点と、前記相電流が交差する交点の座標位置を計算するように構成された座標計算ステップと、
前記演算処理回路が、前記座標位置から求めた前記頂点と前記交点の距離に基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算ステップとを備える
ことを特徴とする三相ヒータ相電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デルタ結線の三相ヒータに流れる相電流を計算するための三相ヒータ相電流検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
三相ヒータを構成する3つの抵抗器は、初期の抵抗値と実際に測定した抵抗値との比較結果により寿命が判断される。このため、三相ヒータの寿命診断において、各抵抗器の抵抗値を測定することは極めて有効である。しかし、三相ヒータの多くは各抵抗器が一体化されているため、これら抵抗器に印加される電圧や電流を個別に直接検出することは難しい。例えば、デルタ結線の場合には相電流を直接検出することは難しく、スター結線の場合には相電圧を直接検出することは難しい。
従来、このような三相ヒータにおける各抵抗器の抵抗値を検出する際、相電流を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術では、三相電源の相間の角度が既知のとき、相電流の推定値をフィードバック処理することにより相電流の推定値を更新している。したがって、相電流を推定する際、フィードバック処理すなわち繰り返し演算を行う必要がある。しかし、三相ヒータの種類によっては、周囲温度に対する抵抗値変化が大きいことがある。このため、繰り返し演算を行う手法によれば、抵抗値の変化に起因して、推定値の追従が遅くなるという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、繰り返し演算を必要とすることなく、デルタ結線の三相ヒータに流れる相電流を計算できる三相ヒータ相電流検出技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明にかかる三相ヒータ相電流検出装置は、デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備え、前記演算処理回路は、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算部と、前記線電流の実効値に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成された角度計算部と、前記線電流の実効値と前記角度とに基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算部とを備えている。
【0007】
また、本発明にかかる上記三相ヒータ相電流検出装置の一構成例は、前記角度計算部が、前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの内角角度を計算し、得られた内角角度に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成されている。
【0008】
また、本発明にかかる上記三相ヒータ相電流検出装置の一構成例は、前記角度計算部が、前記線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Is、線電流Irおよび線電流It、線電流Isおよび線電流Itがなすそれぞれの内角角度を角度∠O,∠P,∠Qとし、相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとし、tan(α)の値を示す分数の分子および分母を変数X,Yとした場合、後述の式(1)により、これら変数X,Yおよび角度α,β,γを計算するように構成されている。
【0009】
また、本発明にかかる上記三相ヒータ相電流検出装置の一構成例は、前記相電流計算部が、前記線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Isの相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、線電流Irおよび線電流Itの相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、線電流Isおよび線電流Itの相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとした場合、後述の式(2)の連立方程式を解くことにより、相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成されている。
【0010】
また、本発明にかかる他の三相ヒータ相電流検出装置は、デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備え、前記演算処理回路は、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算部と、前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの頂点と、前記相電流が交差する交点の座標位置を計算するように構成された位置計算部と、前記頂点および交点の座標位置から求めた前記頂点と前記交点の距離に基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算部とを備えている。
【0011】
また、本発明にかかる上記三相ヒータ相電流検出装置の一構成例は、前記位置計算部が、前記3辺のうち少なくとも2つの辺について、当該辺を弦とするとともに当該弦の円周角が120°となる円弧をそれぞれ求め、これら円弧が交差する点を前記交点として特定するように構成されている。
【0012】
また、本発明にかかる三相ヒータ相電流検出方法は、デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備える三相ヒータ相電流検出装置で用いられる、三相ヒータ相電流検出方法であって、前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算ステップと、前記演算処理回路が、前記線電流の実効値に基づいて、前記線電流と前記相電流の角度を計算するように構成された角度計算ステップと、前記演算処理回路が、前記線電流の実効値と前記角度とに基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算ステップとを備えている。
【0013】
また、本発明にかかる他の三相ヒータ相電流検出方法は、デルタ結線された3つの抵抗器を有する三相ヒータに対して、3本の給電線を介してそれぞれ印加される線電流を検出するように構成された検出回路と、前記検出回路で検出した前記線電流に基づいて、前記3つの抵抗器のそれぞれに流れる相電流を計算するように構成された演算処理回路とを備える三相ヒータ相電流検出装置で用いられる、三相ヒータ相電流検出方法であって、前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を計算するように構成された実効値計算ステップと、前記演算処理回路が、前記線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの頂点と、前記相電流が交差する交点の座標位置を計算するように構成された座標計算ステップと、前記演算処理回路が、前記座標位置から求めた前記頂点と前記交点の距離に基づいて、前記相電流の実効値を計算するように構成された相電流計算ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来技術のような相電流推定のための繰り返し演算を必要とすることなく、デルタ結線の三相ヒータに流れる相電流を計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態にかかる相電流検出処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、相電流導出過程を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第2の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、第2の実施の形態にかかる相電流検出処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、辺OPを弦とする円弧Arを示す説明図である。
【
図8】
図8は、辺OQを弦とする円弧Asを示す説明図である。
【
図9】
図9は、辺PQを弦とする円弧Atを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10について説明する。
図1は、第1の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
[三相ヒータ相電流検出装置]
三相ヒータ相電流検出装置10は、工場やプラントで用いられて、通信回線NWを介して接続された産業用コントローラなどの上位装置30からの指示に応じて、配下に接続された三相ヒータ20を構成する3つの抵抗器R1,R2,R3に流れる相電流Irs,Itr,Istを個別に検出する装置である。三相ヒータ相電流検出装置10については、独立した装置であってもよく、例えば三相ヒータ20に供給する電力を調整する三相電力調整器などの、三相ヒータ相電流検出装置10とは別個の機器内に、三相ヒータ相電流検出装置10の一部またはすべてを実装してもよい。
【0018】
[三相ヒータ]
三相ヒータ20は、3つの抵抗器(ヒータ)R1,R2,R3からなり、3本の給電線Lr,Ls,Ltを介して供給された三相交流電源R,S,Tを熱エネルギーに変換して出力する。本実施の形態では、
図1に示すように、抵抗器R1,R2,R3がデルタ結線されている場合を例として説明する。
【0019】
すなわち、三相ヒータ20において、抵抗器R1の一端は、給電線Lrを介して三相交流電源のR相(第1相)が供給されるノードN1に接続されており、抵抗器R1の他端は、給電線Lsを介して三相交流電源のS相(第2相)が供給されるノードN2に接続されている。また、抵抗器R2の一端はノードN2に接続されており、抵抗器R2の他端は、給電線Ltを介して三相交流電源のT相(第3相)が供給されるノードN3に接続されている。また、抵抗器R3の一端はノードN3に接続されており、抵抗器R3の他端はノードN1に接続されている。
【0020】
[三相ヒータ相電流検出装置の構成]
次に、
図1を参照して、本実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10の構成について詳細に説明する。
図1に示すように、三相ヒータ相電流検出装置10は、主な構成として、通信I/F11、操作入力回路12、表示回路13、検出回路14、記憶回路15、および演算処理回路16を備えている。
【0021】
[通信I/F]
通信I/F11は、通信回線NWを介して上位装置30との間でデータ通信を行うように構成されている。
[操作入力回路]
操作入力回路12は、操作キー、操作スイッチ、タッチパネルなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理回路16へ出力するように構成されている。
[表示回路]
表示回路13は、LEDやLCDなどの表示装置からなり、演算処理回路16から出力された各種情報を表示するように構成されている。
【0022】
[検出回路]
検出回路14は、給電線Lr,Ls,Ltのそれぞれを流れる電流を検出して演算処理回路16へ出力するように構成されている。本実施の形態において、検出回路14は、給電線Lr,Ls,Ltを流れる線電流(瞬時値)を検出するように構成されている。
【0023】
[記憶回路]
記憶回路15は、半導体メモリなどの記憶回路からなり、演算処理回路16で実行する抵抗値計算処理に用いる各種処理データやプログラム15Pを記憶するように構成されている。
プログラム15Pは、演算処理回路16のCPUで実行されることにより、抵抗値計算処理に用いる各種処理部を実現するためのプログラムである。このプログラム15Pは、三相ヒータ相電流検出装置10に接続された外部装置や記録媒体(ともに図示せず)から読み出されて、記憶回路15に予め格納される。
【0024】
演算処理回路16は、検出回路14で検出した線電流Ir,Is,Itに基づいて、三相ヒータの3つの抵抗器R1,R2,R3のそれぞれに流れる相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成されている。演算処理回路16は、CPUとその周辺回路を有し、記憶回路15からプログラム15Pを読み出してCPUで実行することにより、ハードウェアとソフトウェアを協働させて、相電流計算処理に用いる各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理回路16で実現される主な処理部として、実効値計算部16A、角度計算部16B、および相電流計算部16Cがある。
【0025】
[実効値計算部]
実効値計算部16Aは、検出回路14で検出された線電流の瞬時値に基づいて、これら線電流の実効値Ir,Is,Itを計算するように構成されている。以下では、線電流の実効値Ir,Is,Itを、単に線電流Ir,Is,Itと云うことがある。また、相電流の実効値Irs,Itr,Istを、単に線電流Irs,Itr,Istと云うことがある。
【0026】
[角度計算部]
角度計算部16Bは、実効値計算部16Aで計算した線電流の実効値Ir,Is,Itに基づいて、線電流と相電流の角度を計算するように構成されている。この際、角度計算部16Bは、線電流の実効値Ir,Is,Itを3辺とする三角形OPQの3つの内角角度∠O,∠P,∠Qを計算し、得られた内角角度∠O,∠P,∠Qに基づいて、線電流と相電流の角度α,β,γを計算するように構成されている。
【0027】
具体的には、角度計算部16Bは、線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Is、線電流Irおよび線電流It、線電流Isおよび線電流Itがなすそれぞれの内角角度を角度∠O,∠P,∠Qとし、相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとし、tan(α)の値を示す分数の分子および分母をX,Yとした場合、次の式(1)により、これらX,Y,α,β,γを計算するように構成してもよい。式(1)の詳細については後述する。
【0028】
【0029】
[相電流計算部]
相電流計算部16Cは、実効値計算部16Aで計算した線電流の実効値Ir,Is,Itと、角度計算部16Bで計算した角度α,β,γとに基づいて、相電流の実効値Irs,Itr,Istを計算し、得られた相電流の実効値Irs,Itr,Istを記憶回路15に保存し、表示回路13で表示し、あるいは通信I/F11から通信回線NWを介して上位装置30へ配信するように構成されている。
【0030】
具体的には、線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Isの相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、線電流Irおよび線電流Itの相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、線電流Isおよび線電流Itの相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとした場合、次の式(2)の連立方程式を解くことにより、相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成してもよい。式(2)の詳細については後述する。
【0031】
【0032】
[第1の実施の形態の動作]
次に、
図2を参照して、本実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10の動作について説明する。
図2は、第1の実施の形態にかかる相電流検出処理を示すフローチャートである。
三相ヒータ相電流検出装置10の演算処理回路16は、三相ヒータ20の相電流を検出する場合、
図2の相電流検出処理を実行する。
【0033】
まず、演算処理回路16は、実効値計算部16Aにより、検出回路14で検出された、給電線Lr,Ls,Ltを流れる線電流の瞬時値に基づいて、これら線電流の実効値Ir,Is,Itを計算する(ステップS100)。
次に、演算処理回路16は、角度計算部16Bにより、線電流の実効値Ir,Is,Itに基づいて、線電流の実効値Ir,Is,Itを3辺の長さとする三角形OPQの3つの内角角度∠O,∠P,∠Qを計算する(ステップS101)。三角形の内角角度は、余弦定理により3辺の長さから求められる。
【0034】
続いて、演算処理回路16は、角度計算部16Bにより、前述の式(1)を用いて、内角角度∠O,∠P,∠Qから線電流と相電流の角度α,β,γを計算する(ステップS102)。
この後、演算処理回路16は、相電流計算部16Cにより、実効値計算部16Aで計算した線電流の実効値Ir,Is,Itと、角度計算部16Bで計算した角度α,β,γとに基づいて、前述の式(2)を用いて、相電流の実効値Irs,Itr,Istを計算し(ステップS103)、一連の相電流検出処理を終了する。
【0035】
[角度導出過程]
次に、
図3を参照して、前述の式(1)を用いた、線電流と相電流の角度α,β,γの導出過程について詳細に説明する。
図3は、角度導出過程を示す説明図である。
図3に示すように、相電流の実効値Irs,Itr,Istを3辺の長さとする三角形OPQを考える。
図1に示すように、相電流Irsは、線電流Irと線電流Isとの間に生じる、抵抗器R1を流れる相電流である。相電流Itrは、線電流Itと線電流Irとの間に生じる、抵抗器R3を流れる相電流である。相電流Istは、線電流Isと線電流Itとの間に生じる、抵抗器R2を流れる相電流である。
【0036】
三角形OPQの頂点O,P,Qを通過する3つの直線が、三角形OPQ内の交点Kにおいて互いに120°で交差する場合、交点Kと頂点O,P,Qのそれぞれとを結ぶ線分KO,KP,KQの長さが、相電流Irs,Itr,Istの大きさに相当する。これは、デルタ結線の三相ヒータにおいて、2つの相電流ベクトルの差が線電流ベクトルに相当し、相電流相互間の角度は120°であるからである。したがって、相電流の実効値Irs,Itr,Istに基づいて、頂点O,P,Qと交点Kとの位置関係を特定すれば、線分KO,KP,KQの長さから、相電流Irs,Itr,Istが求められる。
【0037】
[角度∠O,∠P,∠Qと角度α,β,γの関係]
まず、頂点O,P,Qの角度を∠O,∠P,∠Qとした場合、これら角度∠O,∠P,∠Qは、相電流の実効値Irs,Itr,Istに基づいて、式(3)に示す余弦定理から求められる。
【数3】
【0038】
次に、
図3に示すように、相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとした場合、角度∠O,∠P,∠Qと角度α,β,γとの関係は、次の式(4)で表される。
【数4】
【0039】
[角度の求め方]
このように、角度α,β,γのうち、いずれか1つが求まれば、式(4)に基づいて、残りの角度も求まることになる。以下では、例として角度αを先に求め、角度αから角度β,γを求めることにする。なお、角度βまたは角度γを先に求めてもよい。
また、本実施の形態は、角度αの正接tan(α)が正弦sin(α)と余弦cos(α)の比で表現できることに着目し、次の式(5)に示すように、sin(α)とcos(α)の比をX/Yとし、この比X/Yを求めた後、比X/Yの逆正接tan
-1(X/Y)に基づいて角度αを求めるようにしたものである。
【数5】
【0040】
[チェバの定理]
図3に示した線分KO,KP,KQは、三角形OPQの頂点O,P,Qを通過して、辺またはその延長線上にない、三角形OPQ内の交点Kで交差している。このような位置関係が成立する条件は、チェバの定理で規定される。次の式(6)は、チェバの定理の逆の三角比表現に、角度α,β,γを適用したものである。
【数6】
【0041】
[左辺の変形]
次に、式(6)の左辺を変形する。三角関数の積和公式には、次の式(7)がある。したがって、式(6)の左辺は、次の式(8)のように変形される。
【0042】
【0043】
【0044】
ここで、式(9)に示す変数w,x,y,zを導入し、式(8)の角度α,β,γの加減算式を変数w,x,y,zで置換すると、式(6)の左辺は、次の式(10)のように変形される。
【0045】
【0046】
【0047】
[右辺の変形]
次に、式(6)の右辺を変形する。式(6)の左辺と同様にして、式(6)の右辺を、式(7)に示した三角関数の積和公式で変形する。続いて、角度α,β,γの加減算式を変数w,x,y,zで置換する。これにより、式(6)の右辺は、次の式(11)のように変形される。
【0048】
【0049】
ここで、三角関数の加法定理には、次の式(12)がある。したがって、式(11)の左辺の各項は、次の式(13)のように変形される。
【0050】
【0051】
【0052】
[左右両辺の整理]
したがって、式(13)を式(11)に適用して、式(6)の右辺を変形したものと、式(6)の左辺を変形して得られた式(10)とに基づいて、式(6)の左右両辺を整理すると、次の式(14)が得られる。
【0053】
【0054】
[角度の導出]
式(9)の変数w,x,y,zは、式(4)により、次の式(15)に示すように、角度αと角度∠O,∠P,∠Qとで表される。
【0055】
【0056】
式(15)に基づいて、式(14)の各項を計算すると、次の式(16)となる。これにより、式(16)を式(14)に適用すると、次の式(17)が得られる。
【0057】
【0058】
【0059】
したがって、この式(17)を変形すれば、sin(α)とcos(α)の比X/Yが式(18)で求められ、式(5)に基づいて、角度αは次の式(19)で求められることになる。
【0060】
【0061】
【0062】
この際、式(16)の分子と分母が、式(5)の変数X,Yに相当することになる。また、式(4)に基づいて、角度αから角度β,γが求められる。したがって、角度∠O,∠P,∠Qから、変数X,Yが求められ、これらの比X/Yから角度αが求められ、角度αから角度β,γが求められることになり、結果として前述した式(1)が得られることになる。
【0063】
[相電流導出過程]
次に、
図4を参照して、前述の式(2)を用いた、相電流Irs,Itr,Istの導出過程について詳細に説明する。
図4は、相電流導出過程を示す説明図である。
図4に示すように、
図3で特定した交点Kから、辺OP,OQ,PQへ降ろした垂線が、辺OP,OQ,PQと交差する点をD,E,Fとする。これにより、線電流Irは、点Dで2分割され、線分ODに相当する電流IrOと線分PDに相当する電流IrPの和で表される。また、線電流Isは、点Eで2分割され、線分OEに相当する電流IsOと線分QEに相当する電流IsQの和で表される。また、線電流Itは、点Fで2分割され、線分PFに相当する電流ItPと線分QEに相当する電流ItQの和で表される。
【0064】
一方、電流IrOは、相電流Irsとcos(60°-β)の積で表され、電流IrPは、相電流Itrとcos(β)の積で表される。また、電流IsOは、相電流Irsとcos(α)の積で表され、電流IsQは、相電流Istとcos(60°-α)の積で表される。また、電流Itpは、相電流Itrとcos(γ)の積で表され、電流ItQは、相電流Istとcos(60°-γ)の積で表される。
したがって、線電流Ir,Is,Itは、前述した式(2)に示すように、相電流Irs,Itr,Istと角度α,β,γで求められることになる。このため、線電流Ir,Is,Itと角度α,β,γが既知の場合、式(2)は連立方程式となり、これを解くことにより、相電流Irs,Itr,Istが得られる。
【0065】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、三相ヒータ相電流検出装置10の演算処理回路16が、実効値計算部16Aにより、検出回路14で検出した線電流の実効値を計算し、角度計算部16Bにより、線電流の実効値に基づいて、線電流と相電流の角度を計算し、相電流計算部16Cにより、線電流の実効値と角度とに基づいて、相電流の実効値を計算するように構成したものである。
より具体的には、角度計算部16Bにより、線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの内角角度を計算し、得られた内角角度に基づいて、線電流と相電流の角度を計算するように構成したものである。
【0066】
これにより、線電流の実効値、線電流と相電流の角度、および相電流の実効値は、予め設定されている計算式で計算することが可能となる。したがって、従来技術のような相電流推定のための繰り返し演算を必要とすることなく、デルタ結線の三相ヒータに流れる相電流を計算することが可能となる。このため、三相ヒータの種類によっては、周囲温度に対する抵抗値変化が大きい場合でも、相電流の計算処理時間が遅延することはなくなるため、精度よく相電流の実効値を検出することができる。
【0067】
また、本実施の形態において、角度計算部16Bにより、線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Is、線電流Irおよび線電流It、線電流Isおよび線電流Itがなすそれぞれの内角角度を角度∠O,∠P,∠Qとし、相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとし、tan(α)の値を示す分数の分子および分母をX,Yとした場合、前述した式(1)により、これらX,Y,α,β,およびγを計算するように構成してもよい。
これにより、角度∠O,∠P,∠Qを式(1)に適用するだけで、即座に角度α,β,γを得ることが可能となる。
【0068】
また、本実施の形態において、相電流計算部16Cにより、線電流を構成する3つの線電流Ir,Is,Itのうち、線電流Irおよび線電流Isの相電流Irsと線電流Isとのなす角度をαとし、線電流Irおよび線電流Itの相電流Itrと線電流Irとのなす角度をβとし、線電流Isおよび線電流Itの相電流Istと線電流Itとのなす角度をγとした場合、前述した式(2)の連立方程式を解くことにより、相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成してもよい。
これにより、線電流Ir,Is,Itと角度α,β,γを式(2)に適用するだけで、即座に相電流Irs,Itr,Istを得ることが可能となる。
【0069】
[第2の実施の形態]
次に、
図5を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10について説明する。
図5は、第2の実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置の構成を示すブロック図である。
第1の実施の形態では、三角関数を用いて線電流Ir,Is,Itから相電流Irs,Itr,Istを検出する場合を例として説明した。本実施の形態では、座標位置を用いて線電流Ir,Is,Itから相電流Irs,Itr,Istを検出する場合を例として説明する。なお、本実施の形態のうち、演算処理回路16の処理部が一部異なるだけで、他の構成については、第1の実施の形態と同様または同じであり、第1の実施の形態と同一符号を付してある。
【0070】
[三相ヒータ相電流検出装置]
三相ヒータ相電流検出装置10は、工場やプラントで用いられて、通信回線NWを介して接続された産業用コントローラなどの上位装置30からの指示に応じて、配下に接続された三相ヒータ20を構成する3つの抵抗器R1,R2,R3に流れる相電流Irs,Itr,Istを個別に検出する装置である。三相ヒータ相電流検出装置10については、独立した装置であってもよく、例えば三相ヒータ20に供給する電力を調整する三相電力調整器などの、三相ヒータ相電流検出装置10とは別個の機器内に、三相ヒータ相電流検出装置10の一部またはすべてを実装してもよい。
【0071】
[三相ヒータ]
三相ヒータ20は、3つの抵抗器(ヒータ)R1,R2,R3からなり、3本の給電線Lr,Ls,Ltを介して供給された三相交流電源R,S,Tを熱エネルギーに変換して出力する。本実施の形態では、
図5に示すように、抵抗器R1,R2,R3がデルタ結線されている場合を例として説明する。
【0072】
すなわち、三相ヒータ20において、抵抗器R1の一端は、給電線Lrを介して三相交流電源のR相(第1相)が供給されるノードN1に接続されており、抵抗器R1の他端は、給電線Lsを介して三相交流電源のS相(第2相)が供給されるノードN2に接続されている。また、抵抗器R2の一端はノードN2に接続されており、抵抗器R2の他端は、給電線Ltを介して三相交流電源のT相(第3相)が供給されるノードN3に接続されている。また、抵抗器R3の一端はノードN3に接続されており、抵抗器R3の他端はノードN1に接続されている。
【0073】
[三相ヒータ相電流検出装置の構成]
次に、
図5を参照して、本実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10の構成について詳細に説明する。
図5に示すように、三相ヒータ相電流検出装置10は、主な構成として、通信I/F11、操作入力回路12、表示回路13、検出回路14、記憶回路15、および演算処理回路16を備えている。
【0074】
[通信I/F]
通信I/F11は、通信回線NWを介して上位装置30との間でデータ通信を行うように構成されている。
[操作入力回路]
操作入力回路12は、操作キー、操作スイッチ、タッチパネルなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理回路16へ出力するように構成されている。
[表示回路]
表示回路13は、LEDやLCDなどの表示装置からなり、演算処理回路16から出力された各種情報を表示するように構成されている。
【0075】
[検出回路]
検出回路14は、給電線Lr,Ls,Ltのそれぞれを流れる電流を検出して演算処理回路16へ出力するように構成されている。本実施の形態において、検出回路14は、給電線Lr,Ls,Ltを流れる線電流(瞬時値)を検出するように構成されている。
【0076】
[記憶回路]
記憶回路15は、半導体メモリなどの記憶回路からなり、演算処理回路16で実行する抵抗値計算処理に用いる各種処理データやプログラム15Pを記憶するように構成されている。
プログラム15Pは、演算処理回路16のCPUで実行されることにより、抵抗値計算処理に用いる各種処理部を実現するためのプログラムである。このプログラム15Pは、三相ヒータ相電流検出装置10に接続された外部装置や記録媒体(ともに図示せず)から読み出されて、記憶回路15に予め格納される。
【0077】
演算処理回路16は、検出回路14で検出した線電流Ir,Is,Itに基づいて、三相ヒータの3つの抵抗器R1,R2,R3のそれぞれに流れる相電流Irs,Itr,Istを計算するように構成されている。演算処理回路16は、CPUとその周辺回路を有し、記憶回路15からプログラム15Pを読み出してCPUで実行することにより、ハードウェアとソフトウェアを協働させて、相電流計算処理に用いる各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理回路16で実現される主な処理部として、実効値計算部16A、位置計算部16D、および相電流計算部16Eがある。
【0078】
[実効値計算部]
実効値計算部16Aは、検出回路14で検出された線電流の瞬時値に基づいて、これら線電流の実効値Ir,Is,Itを計算するように構成されている。以下では、線電流の実効値Ir,Is,Itを、単に線電流Ir,Is,Itと云うことがある。また、相電流の実効値Irs,Itr,Istを、単に線電流Irs,Itr,Istと云うことがある。
【0079】
[位置計算部]
位置計算部16Dは、実効値計算部16Aで計算した線電流の実効値Ir,Is,Itを3辺とする三角形OPQの3つの頂点O,P,Qと、相電流の実効値Irs,Itr,Istが交差する交点Kの座標位置を計算するように構成されている。座標位置の計算には平面上の直交座標系を用いる。この際、直交座標系において、線電流の実効値Ir,Is,Itを3辺の長さとする三角形OPQは、例えばいずれかの頂点を原点に配置するなど、任意の位置に配置すればよい。
【0080】
[相電流計算部]
相電流計算部16Eは、位置計算部16Dで計算した、頂点O,P,Qおよび交点Kの座標位置から、頂点O,P,Qのそれぞれと交点Kとの距離を計算し、得られた距離に基づいて相電流の実効値Irs,Itr,Istを計算し、得られた相電流の実効値Irs,Itr,Istを記憶回路15に保存し、表示回路13で表示し、あるいは通信I/F11から通信回線NWを介して上位装置30へ配信するように構成されている。
【0081】
[第2の実施の形態の動作]
次に、
図6を参照して、本実施の形態にかかる三相ヒータ相電流検出装置10の動作について説明する。
図6は、第2の実施の形態にかかる相電流検出処理を示すフローチャートである。
三相ヒータ相電流検出装置10の演算処理回路16は、三相ヒータ20の相電流を検出する場合、
図6の相電流検出処理を実行する。
【0082】
まず、演算処理回路16は、実効値計算部16Aにより、検出回路14で検出された、給電線Lr,Ls,Ltを流れる線電流の瞬時値に基づいて、これら線電流の実効値Ir,Is,Itを計算する(ステップS200)。
【0083】
次に、演算処理回路16は、位置計算部16Dにより、線電流の実効値Ir,Is,Itに基づいて、線電流の実効値Ir,Is,Itを3辺の長さとする三角形OPQの3つの頂点O,P,Qの座標位置を計算する(ステップS201)。頂点O,P,Qの座標位置を、それぞれ(Xo,Yo),(Xp,Yp),(Xq,Yq)とすると、線電流の実効値Ir,Is,Itは、2点間距離の公式に基づいて、次の式(20)で表される。なお、三角形OPQは、例えばいずれかの頂点を原点に配置するなど、任意の位置に配置すればよい。
【0084】
【0085】
続いて、演算処理回路16は、位置計算部16Dにより、三角形OPQの3つの辺OP,OQ,PQのうち少なくとも2つの辺について、当該辺を弦とするとともに当該弦の円周角が120°となる円弧Ar,As,Atを計算する(ステップS202)。
【0086】
図7は、辺OPを弦とする円弧Arを示す説明図である。点Zrを中心として辺OPを弦とする円弧Arは、頂点O,Pの両方を通過する。この際、円周角が120°であるから、円弧Arの半径Rrが辺OPと交差する角度は30°となる。このため、半径Rrは、辺OPの長さ、すなわち線電流の実効値Irの1/√3となる。
【0087】
図8は、辺OQを弦とする円弧Asを示す説明図である。点Zsを中心として辺OQを弦とする円弧Asは、頂点O,Qの両方を通過する。この際、円周角が120°であるから、円弧Asの半径Rsが辺OQと交差する角度は30°となる。このため、半径Rsは、辺OQの長さ、すなわち線電流の実効値Isの1/√3となる。
【0088】
図9は、辺PQを弦とする円弧Atを示す説明図である。点Ztを中心として辺PQを弦とする円弧Atは、頂点P,Qの両方を通過する。この際、円周角が120°であるから、円弧Atの半径Rtが辺PQと交差する角度は30°となる。このため、半径Rtは、辺PQの長さ、すなわち線電流の実効値Itの1/√3となる。
【0089】
したがって、点Zr,Zs,Ztの位置座標を、それぞれ(Xr,Yr),(Xs,Ys),(Xt,Yt)とすると、円弧Ar,As,Atは、次の式(21)で表される。
【0090】
【0091】
このようにして求まる円弧Ar,As,Atのうち、少なくともいずれか2が交差する点が、相電流の実効値Irs,Itr,Istが交差する交点Kに相当する。これは、デルタ結線の三相ヒータにおいて、2つの相電流ベクトルの差が線電流ベクトルに相当し、相電流相互間の角度は120°であるからである。
演算処理回路16は、位置計算部16Dにより、式(21)の連立方程式を解くと、交点Kの位置座標(Xk,Yk)を計算する(ステップS203)。
【0092】
この後、演算処理回路16は、相電流計算部16Eにより、位置計算部16Dで計算した、頂点O,P,Qの座標位置(Xo,Yo),(Xp,Yp),(Xq,Yq)と、交点Kの座標位置(Xk,Yk)とから、
図10に示すように、次の式(22)に示す2点間距離の公式に基づいて、頂点O,P,Qのそれぞれと交点Kとの距離を、相電流の実効値Irs,Itr,Istとして計算し(ステップS204)、一連の相電流検出処理を終了する。
【0093】
【0094】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、三相ヒータ相電流検出装置10の演算処理回路16が、実効値計算部16Aにより、検出回路14で検出した線電流の実効値を計算し、位置計算部16Dにより、線電流の実効値を3辺とする三角形の3つの頂点と、相電流が交差する交点の座標位置を計算し、相電流計算部16Eにより、頂点および交点の座標位置から求めた頂点と交点の距離に基づいて、相電流の実効値を計算するように構成したものである。
より具体的には、位置計算部16Dにより、3辺のうち少なくとも2つの辺について、当該辺を弦とするとともに当該弦の円周角が120°となる円弧をそれぞれ求め、これら円弧が交差する点を交点として特定するように構成したものである。
【0095】
これにより、線電流の実効値、三角形の3つの頂点と交点の位置座標、および相電流の実効値は、予め設定されている計算式で計算することが可能となる。したがって、従来技術のような相電流推定のための繰り返し演算を必要とすることなく、デルタ結線の三相ヒータに流れる相電流を計算することが可能となる。このため、三相ヒータの種類によっては、周囲温度に対する抵抗値変化が大きい場合でも、相電流の計算処理時間が遅延することはなくなるため、精度よく相電流の実効値を検出することができる。
【0096】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【0097】
また、以上の各実施の形態では、デルタ結線の三相ヒータを例として説明したが、これに限定されるものではなく、スター結線の三相ヒータにも応用できる。この場合、線電流に代えて給電線Lr,Ls,Ltの線間電圧を用いて、各抵抗器の両端に発生する相電圧を求め、これら相電圧と線電流から各抵抗器の抵抗値を計算し、デルタ-スター(Δ-Y)変換することにより、スター結線の三相ヒータにおける各抵抗器の抵抗値を推定することができる。
【符号の説明】
【0098】
10…三相ヒータ相電流検出装置、11…通信I/F、12…操作入力回路、13…表示回路、14…検出回路、15…記憶回路、15P…プログラム、16…演算処理回路、16A…実効値計算部、16B…角度計算部、16C,16E…相電流計算部、16D…位置計算部、20…三相ヒータ、R1,R2,R3…抵抗器(ヒータ)、Lr,Ls,Lt…給電線、Ir,Is,It…線電流(実効値)、O,P,Q…頂点、K…交点、∠O,∠P,∠Q…角度、α,β,γ…角度、X,Y…変数、Irs,Itr,Ist…相電流(実効値)。