(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】旅客影響度算出装置及び旅客影響度算出方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/60 20220101AFI20240326BHJP
G06Q 50/40 20240101ALI20240326BHJP
【FI】
B61L27/60
G06Q50/40
(21)【出願番号】P 2020169738
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-010815(JP,A)
【文献】特開2004-122900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/60
G06Q 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻が定められた旅客毎に、計画ダイヤに対する計画列車乗継経路と実績ダイヤに対する実績列車乗継経路とを推定する乗継経路推定手段と、
前記旅客毎に、前記実績列車乗継経路と前記計画列車乗継経路とに基づき、行程遅延の有無を判定する行程遅延判定手段と、
前記行程遅延判定手段により行程遅延が有りと判定された旅客について、前記行程遅延の原因となる列車の着発事象である遅延事象を検索して当該旅客に関連付ける関連付手段と、
任意の前記遅延事象である着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数に基づき、前記着目遅延事象が前記旅客の行程遅延に与える影響度である旅客影響度を算出する算出手段と、
を備える旅客影響度算出装置。
【請求項2】
前記関連付手段は、
前記計画列車乗継経路での乗換駅又は前記出場駅において、計画降車列車の実績着時刻に着遅延が有るかを検索し、当該着遅延に係る遅延事象を当該旅客に関連付ける、
請求項1に記載の旅客影響度算出装置。
【請求項3】
前記関連付手段は、
前記乗換駅における計画降車列車の実績着時刻より計画乗車列車の実績発時刻が早い着発逆転駅があるかを検索し、当該着発逆転駅の着事象を当該旅客に関連付ける、
請求項2に記載の旅客影響度算出装置。
【請求項4】
前記関連付手段は、
前記実績列車乗継経路での乗換駅又は出場駅において、1)実績降車列車に着遅延が有り、且つ、2)当該駅における前記旅客の行程遅延が有る場合に、当該着遅延に係る遅延事象を前記旅客に関連付ける、
請求項1~3の何れかに記載の旅客影響度算出装置。
【請求項5】
前記算出手段は、
前記着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を遅延波及範囲として設定する遅延波及範囲設定手段、
を有し、前記遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている前記旅客に基づいて、前記旅客影響度を算出する、
請求項1~4の何れかに記載の旅客影響度算出装置。
【請求項6】
前記遅延波及範囲設定手段は、
前記着目遅延事象及び前記他の遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満た
す遅延事象同士を関連付けることで
、遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定し、前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から前記因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を前記遅延波及範囲として設定する、
請求項5に記載の旅客影響度算出装置。
【請求項7】
前記着目遅延事象に対する遅延対策として、所与の遅延対策時分を設定する手段と、
前記遅延対策後の前記着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を、対策後遅延波及範囲として設定する対策後遅延
波及範囲設定手段と、
前記対策後遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客に基づいて、前記遅延対策後の前記着目遅延事象の遅延が前記旅客の行程遅延に与える対策後旅客影響度を算出する手段と、
を更に備える請求項1~6の何れかに記載の旅客影響度算出装置。
【請求項8】
前記遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす
遅延事象同士を関連付けることで、
遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する手段と、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延発生源である遅延事象を特定する手段と、
を更に備え、
前記対策後遅延波及範囲設定手段は、前記遅延伝搬ネットワークにおいて、所与の遅延事象から遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、着目遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が前記遅延対策時分以下である前記所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、及び、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行し、前記無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、前記対策後遅延波及範囲として設定する、
請求項7に記載の旅客影響度算出装置。
【請求項9】
前記関連付手段は、前記旅客に前記遅延事象を関連付ける際に、当該遅延事象に係る駅における当該旅客の到着及び/又は出発に係る行程遅延に基づく影響遅延時分を更に関連付け、
前記算出手段は、前記着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数、及び、前記影響遅延時分に基づいて、前記旅客影響度を算出する、
請求項1~8の何れかに記載の旅客影響度算出装置。
【請求項10】
入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻が定められた旅客毎に、計画ダイヤに対する計画列車乗継経路と実績ダイヤに対する実績列車乗継経路とを推定する乗継経路推定ステップと、
前記旅客毎に、前記実績列車乗継経路と前記計画列車乗継経路とに基づき、行程遅延の有無を判定する行程遅延判定ステップと、
前記行程遅延判定ステップにより行程遅延が有りと判定された旅客について、前記行程遅延の原因となる列車の着発事象である遅延事象を検索して当該旅客に関連付ける関連付けステップと、
任意の前記遅延事象である着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数に基づき、前記着目遅延事象が前記旅客の行程遅延に与える影響度である旅客影響度を算出する算出ステップと、
を含む旅客影響度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延事象が旅客に与える影響度を算出する旅客影響度算出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道分野においては、遅延対策の検討を目的として、運行管理システムに記録される実績ダイヤ(実績運行データ)を利用した列車遅延の分析が行われている。従来の列車遅延の分析手法の一例として、ダイヤ図の列車スジを遅延量(遅延時分)に応じて色分けして表示したクロマティックダイヤ図(着色ダイヤ図)がよく知られている。クロマティックダイヤ図は、ダイヤ担当者が見慣れているダイヤ図の形式としたことで、実際の遅延箇所や遅延量を視覚的に容易に把握することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】稲川真範、富井規雄、牛田貢平、「列車運行実績データの可視化」、第16回鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail2009)講演論文集、一般社団法人日本機械学会、2009年12月2日、p.745-748
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の列車遅延の分析手法では、遅延対策の支援には未だ不充分である。例えば、都市部等の運行時隔が短い高密度線区では、遅延の影響はダイヤ図上で面的に広がり、どの箇所で遅延が発生しその遅延がどのように波及しているかといった列車遅延の波及のメカニズムや、発生した遅延が旅客にどの程度の影響を与えているかといったことを把握・分析するのは困難である。このため、どの箇所の遅延に対して優先的に効果対策を実施すべきか、といった判断基準が得られない。
【0005】
具体的な遅延対策の検討にあたっては、遅延対策の実施によってより効果が得られる箇所に対して優先的に遅延対策を実施したいと考えるが、そのような観点での列車遅延の分析を支援するシステムは知られていない。一般的に、より多数の駅や列車に遅延が波及する波及範囲の広い遅延であるほど、また、より多数の旅客に影響を与える遅延であるほど、優先的に対策を実施すべき重大な遅延とみなされる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、実績ダイヤを利用した列車遅延の分析の一助となる、遅延対策の検討に有用な指標を定量的に算出する技術を提案すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻が定められた旅客毎に、計画ダイヤに対する計画列車乗継経路と実績ダイヤに対する実績列車乗継経路とを推定する乗継経路推定手段(例えば、
図20の乗継経路推定部202)と、
前記旅客毎に、前記実績列車乗継経路と前記計画列車乗継経路とに基づき、行程遅延の有無を判定する行程遅延判定手段(例えば、
図20の行程遅延判定部204)と、
前記行程遅延判定手段により行程遅延が有りと判定された旅客について、前記行程遅延の原因となる列車の着発事象である遅延事象を検索して当該旅客に関連付ける関連付手段(例えば、
図20の関連付部206)と、
任意の前記遅延事象である着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数に基づき、前記着目遅延事象が前記旅客の行程遅延に与える影響度である旅客影響度を算出する算出手段(例えば、
図20の影響度算出部208)と、
を備える旅客影響度算出装置である。
【0008】
他の発明として、
入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻が定められた旅客毎に、計画ダイヤに対する計画列車乗継経路と実績ダイヤに対する実績列車乗継経路とを推定する乗継経路推定ステップ(例えば、
図3のステップS1,S3)と、
前記旅客毎に、前記実績列車乗継経路と前記計画列車乗継経路とに基づき、行程遅延の有無を判定する行程遅延判定ステップ(例えば、
図3のステップS5)と、
前記行程遅延判定ステップにより行程遅延が有りと判定された旅客について、前記行程遅延の原因となる列車の着発事象である遅延事象を検索して当該旅客に関連付ける関連付けステップ(例えば、
図3のステップS9)と、
任意の前記遅延事象である着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数に基づき、前記着目遅延事象が前記旅客の行程遅延に与える影響度である旅客影響度を算出する算出ステップ(例えば、
図3のステップS11)と、
を含む旅客影響度算出方法を構成してもよい。
【0009】
第1の発明によれば、実績ダイヤを利用した遅延対策の検討に有用な指標として、遅延事象が旅客の行程遅延に与える旅客影響度を算出することができる。つまり、各旅客について行程遅延の原因と推定される列車の着発事象である遅延事象を検索して関連付けておき、着目遅延事象に関連付けられている旅客の人数に基づいて着目遅延事象の旅客影響度を算出する。これにより、例えば、関連付けられている旅客の人数が多いほど、その遅延事象が旅客の行程遅延に与える影響度が大きくなるように算出する、といった定量的な指標として旅客影響度を算出することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記関連付手段は、
前記計画列車乗継経路での乗換駅又は前記出場駅において、計画降車列車の実績着時刻に着遅延が有るかを検索し、当該着遅延に係る遅延事象を当該旅客に関連付ける(例えば、
図4のステップS109~S111)、
旅客影響度算出装置である。
【0011】
第2の発明によれば、計画列車乗継経路での乗換駅又は出場駅において計画降車列車の実績着時刻に着遅延が有る場合には、その計画降車列車の着遅延は旅客の行程遅延の原因と推定されるので、当該駅の計画降車列車の到着に係る遅延事象を旅客に関連付けることができる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記関連付手段は、
前記乗換駅における計画降車列車の実績着時刻より計画乗車列車の実績発時刻が早い着発逆転駅があるかを検索し、当該着発逆転駅の着事象を当該旅客に関連付ける(例えば、
図4のステップS105~S111)、
旅客影響度算出装置である。
【0013】
第3の発明によれば、計画降車列車の実績着時刻より計画乗車列車の実績発時刻が早い着発逆転駅では、旅客は計画乗車列車に乗車できないことから、その計画降車列車に係る着事象は旅客の行程遅延の原因と推定されるので、当該駅の計画降車列車の到着に係る着事象を、旅客に関連付けることができる。
【0014】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記関連付手段は、
前記実績列車乗継経路での乗換駅又は出場駅において、1)実績降車列車に着遅延が有り、且つ、2)当該駅における前記旅客の行程遅延が有る場合に、当該着遅延に係る遅延事象を前記旅客に関連付ける(例えば、
図4のステップS117~S119)、
旅客影響度算出装置である。
【0015】
第4の発明によれば、実績降車列車に着遅延が有り、且つ、当該駅における旅客の行程遅延が有る場合には、その実績降車列車の着遅延が旅客の行程遅延の原因と推定されるので、その着遅延に係る遅延事象を旅客に関連付けることができる。
【0016】
第5の発明は、第1~第4の何れかの発明において、
前記算出手段は、
前記着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を遅延波及範囲として設定する遅延波及範囲設定手段(例えば、
図20の遅延波及範囲設定部210)、
を有し、前記遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている前記旅客に基づいて、前記旅客影響度を算出する、
旅客影響度算出装置である。
【0017】
第5の発明によれば、着目遅延事象の旅客影響度を、当該着目遅延事象により直接に影響を受けた旅客のみならず、その遅延が波及することで間接的に影響を受けた旅客にも基づいて算出することができる。これにより、遅延の波及をも考慮した旅客影響度となり、旅客影響度を遅延対策の検討により有用な指標とすることができる。
【0018】
第6の発明は、第5の発明において、
前記遅延波及範囲設定手段は、前記遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす前記遅延事象同士を関連付けることで、前記遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定し、前記遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から前記因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を前記遅延波及範囲として設定する、
旅客影響度算出装置である。
【0019】
第6の発明によれば、遅延に関する因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けた遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、着目遅延事象から遅延が波及する遅延波及範囲として設定することができる。
【0020】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明において、
前記着目遅延事象に対する遅延対策として、所与の遅延対策時分を設定する手段(例えば、
図20の遅延対策設定部212)と、
前記遅延対策後の前記着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を、対策後遅延波及範囲として設定する対策後遅延影響範囲設定手段(例えば、
図20の対策後遅延波及範囲設定部214)と、
前記対策後遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客に基づいて、前記遅延対策後の前記着目遅延事象の遅延が前記旅客の行程遅延に与える対策後旅客影響度を算出する手段(例えば、
図20の対策後影響度算出部216)と、
を更に備える旅客影響度算出装置である。
【0021】
第7の発明によれば、着目遅延事象に対する所与の遅延対策時分を適用した遅延対策後の旅客影響度である対策後旅客影響度を算出することができる。この対策後旅客影響度は、遅延対策前の旅客影響度と比較することで、着目遅延事象に対する遅延対策の効果を定量的に示す指標とすることができる。
【0022】
第8の発明は、第7の発明において、
前記遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす前記遅延事象同士を関連付けることで、前記遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定する手段(例えば、
図20の遅延波及範囲設定部210)と、
前記遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延発生源である遅延事象を特定する手段(例えば、
図20の対策後遅延波及範囲設定部214)と、
を更に備え、
前記対策後遅延波及範囲設定手段は、前記遅延伝搬ネットワークにおいて、所与の遅延事象から遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、着目遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が前記遅延対策時分以下である前記所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、及び、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行し、前記無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて、前記着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、前記対策後遅延波及範囲として設定する、
旅客影響度算出装置である。
【0023】
第8の発明によれば、無効化処理を実行した後の遅延対策後の遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、対策後遅延波及範囲として設定することができる。
【0024】
第9の発明は、第1~第8の何れかの発明において、
前記関連付手段は、前記旅客に前記遅延事象を関連付ける際に、当該遅延事象に係る駅における前記実績列車乗継経路での実績降車列車の着遅延及び/又は実績乗車列車の発遅延に基づく影響遅延時分を更に関連付け、
前記算出手段は、前記着目遅延事象に関連付けられた前記旅客の人数、及び、前記影響遅延時分に基づいて、前記旅客影響度を算出する、
旅客影響度算出装置である。
【0025】
第9の発明によれば、各旅客に遅延事象を関連付ける際に影響遅延時分を更に関連付け、着目遅延事象に関連付けられた旅客の人数及び影響遅延時分に基づいて着目遅延事象の旅客影響度を算出することができる。これにより、旅客に与えた影響の程度をも考慮した旅客影響度となり、旅客影響度を遅延対策の検討により有用な指標とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図6】関連付処理による旅客と遅延事象との関連付けの一例。
【
図7】関連付処理による旅客と遅延事象との関連付けの一例。
【
図8】関連付処理による旅客と遅延事象との関連付けの一例。
【
図9】関連付処理による旅客と遅延事象との関連付けの一例。
【
図10】関連付処理による旅客と遅延事象との関連付けの一例。
【
図17】遅延伝搬ネットワークにおける無効化処理の説明図。
【
図18】遅延伝搬ネットワークにおける無効化処理の説明図。
【
図19】遅延伝搬ネットワークにおける無効化処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態の一例について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0028】
[概要]
本実施形態は、所与の計画ダイヤに対する実績ダイヤに基づき列車遅延の分析を行うものであり、遅延対策の検討を支援するために、列車遅延の影響や遅延対策の実施により得られる効果を旅客の観点から定量的に評価する。
【0029】
図1は、本実施形態の概要を示す図である。
図1に示すように、本実施形態では、計画ダイヤ310と、この計画ダイヤ310に対するある日の実績ダイヤ312と、旅客データ314とが旅客影響度算出装置1に与えられる。旅客データ314は、旅客毎に、入場駅と当該入場駅の入場時刻と出場駅と当該出場駅の出場時刻とを定めたデータである。旅客データ314は、例えば、自動改札機から取得した各旅客の通過時刻(改札内への入出場時刻)のデータに基づく、時間帯別の入場駅と出場駅との組み合わせ(OD:Origin Destination)毎に出現する旅客数を定めたODデータによって与えられる。
【0030】
旅客影響度算出装置1は、これらのデータに基づき、ある駅で生じたある列車の到着或いは出発の遅延(遅延事象)により影響を受けた旅客の人数(影響人数)に基づき、当該遅延事象が旅客に与える旅客影響度を遅延事象ごとに算出する。遅延事象とは、列車の駅での着発に係る着発事象であって遅延が生じた事象のことである。
【0031】
そして、ある遅延事象に対する遅延対策が実施された場合に当該遅延事象により影響を受けることとなる旅客の人数(影響人数)に基づき、遅延対策後の旅客影響度を算出する。これにより、各遅延事象の遅延対策前の影響人数と遅延対策後の影響人数とを比較して、例えば“ある駅のある列車の遅延を何分減少させることで影響を受ける旅客が何人減少する”といったように、遅延対策による効果を定量的に評価することができる。
【0032】
図2は、遅延事象が旅客へ与える影響を説明する図である。
図2では、ダイヤ図の一例を示しており、計画ダイヤを点線で示し、実績ダイヤを実線で示している。
図2において、“快速1M”は、C駅及びB駅には停車するが、A駅は通過する。計画ダイヤでは、“普通11M”がB駅に先に到着し、後から“快速1M”が到着する。その後、“快速1M”が先にB駅を発車し、後から“普通11M”が発車する計画であった。しかし、実績ダイヤでは、“普通11M”が計画ダイヤ通りにB駅に先に到着したものの、その後の“快速1M”のB駅への到着が遅れ、以降、“快速1M”のB駅からの発車及び“普通11M”のB駅からの発車が遅れた。つまり、“快速1M”の遅延が“普通11M”に波及したことを示している。具体的な時間としては、“快速1M”のC,B駅の各駅における着発に“5分”の遅延が生じ、“快速11M”のB駅の発遅延が波及して、“普通11M”のB駅の発車及びA駅の到着に“4分”の遅延が生じた。
【0033】
図2の例において、入場駅であるC駅から出場駅であるA駅に向かうある旅客の計画ダイヤに対する計画列車乗継経路は、「C駅で“快速1M”に乗車し、B駅で“普通11M”に乗り換えてA駅に到着」であった。また、当該旅客の実績ダイヤに対する実績列車乗継経路は、計画列車乗継経路と乗車列車は同じであるが、その乗車列車である“快速1M”及び“普通11M”に遅延が生じたために、実績列車乗継経路での各駅の着発に遅延が生じた。つまり、実績列車乗継経路では、“快速1M”についてC駅の出発に“5分”の遅延が生じ、B駅の到着に“5分”の遅延が生じた。また、“普通11M”についてB駅の出発に“4分”の遅延が生じ、A駅の到着に“4分”の遅延が生じた。
【0034】
ここで、旅客について、計画列車乗継経路での各駅の計画の着発時刻に対する、実績列車乗継経路での当該駅の実績の着発時刻の遅延を、当該旅客の行程遅延と呼ぶ。旅客は列車に乗車して移動する。そのため、旅客の行程遅延とは、計画列車乗継経路に沿った計画の移動経路に対する、実績列車乗継経路に沿った実績の移動経路の遅延を意味する。つまり、ある駅の着発(到着又は出発)についての旅客の行程遅延PDは、(行程遅延PD)=(実績列車乗継経路での当該駅の実績の着発時刻AT)-(計画列車乗継経路での当該駅の計画の着発時刻PT)、で表される遅延時分である。
【0035】
図2では、旅客のC駅の出発及びB駅の到着の行程遅延は、乗車列車である“快速1M”の遅延が原因である。また、旅客のB駅の出発及びA駅の到着の行程遅延は、乗車列車である“普通11M”の遅延が原因であるが、その“普通11M”の遅延は“快速1M”のB駅の着遅延が波及したものである。さらに、“快速1M”のB駅の着遅延は、“快速1M”のC駅の発遅延が波及したものである。従って、旅客の行程遅延は、直接的、間接的な影響を全て含めると、“快速1M”のC駅発遅延及びB駅着遅延と、“普通11M”のB駅発遅延及びA駅着遅延との影響と判定される。
【0036】
[旅客影響度の算出方法]
次に、旅客影響度算出装置1による旅客影響度の算出方法を説明する。
図3は、旅客影響度算出装置1が行う旅客影響度を算出する処理の流れを示すフローチャートである。前提として、
図1に示したように、旅客影響度算出装置1には、計画ダイヤ310と、実績ダイヤ312と、旅客データ314とが与えられている。
【0037】
図3に示すように、旅客影響度算出装置1は、先ず、旅客データ314で定められる旅客それぞれを対象とした繰り返し処理(ループA)を行う。この繰り返し処理(ループA)では、計画ダイヤ310に基づいて、対象旅客の入場駅から出場駅までの計画列車乗継経路を推定する(ステップS1)。また、実績ダイヤ312に基づいて、対象旅客の入場駅から出場駅までの実績列車乗継経路を推定する(ステップS3)。次いで、対象旅客の行程遅延を判定する(ステップS5)。つまり、実績列車乗継経路での各駅の実績の着発時刻の、計画列車乗継経路での当該駅の計画の着発時刻に対する遅延時分を求める。そして、旅客の行程遅延のうち、出場駅の着遅延が有る(遅延時分が0分を超える)ならば(ステップS7:YES)、対象旅客の行程遅延の原因となる遅延事象を関連付ける関連付処理(
図4参照。詳細は後述する)を行う(ステップS9)。出場駅の着遅延が無い(遅延時間が0分以下)ならば(ステップS7:NO)、遅延事象の関連付ける処理は行わない。全ての旅客を対象とした繰り返し処理(ループA)を行うと、続いて、遅延事象が旅客の行程遅延に与えた旅客影響度を算出する影響度算出処理(
図11参照。詳細は後述する)を行う(ステップS11)。以上の処理を行うと、本処理は終了となる。
【0038】
(A)関連付処理
関連付処理(
図3のステップS9)は、対象旅客に行程遅延の原因となる遅延事象を関連付ける処理である。関連付処理は、遅延事象を検出する検索処理を行って、検索された遅延事象を対象旅客に関連付ける。
【0039】
図4は、関連付処理の流れを説明するフローチャートである。
図4に示すように、関連付処理では、旅客影響度算出装置1は、先ず、対象旅客についての関連遅延事象リストを初期化する(ステップS101)。この関連遅延事象リストは、当該旅客の行程遅延の原因とした遅延事象を格納するリストである。
【0040】
次いで、対象旅客の計画列車乗継経路に基づく計画遅延経路を作成する(ステップS103)。計画遅延経路とは、計画列車乗継経路での入場駅、乗換駅及び出場駅の各駅における着発事象を移動方向(入場駅から出場駅に向かう方向)に沿って繋いだ経路であって、当該経路上の各駅の着発事象に、当該着発に係る計画降車列車の実績着時刻(実績ダイヤ312における実績の着時刻)又は計画乗車列車の実績発時刻(実績ダイヤ312における実績の発時刻)を定めたものである。このとき、運休等により計画乗車列車及び計画降車列車の実績着発時刻が無い場合には、その時刻を∞(無限大;演算上は無限大を示す数値とする)とする。
【0041】
計画遅延経路の一例として、
図5に、
図2に示したダイヤ図の例に相当する計画遅延経路を示す。
図5に示す計画遅延経路は、入場駅であるC駅における発事象、乗換駅であるB駅における着事象及び発事象、出場駅であるA駅における着事象を、入場駅であるC駅から出場駅であるA駅に向かう移動方向に沿って繋いだ経路である。着発事象それぞれには、該当する列車の実績着発時刻及び遅延時分(計画ダイヤ310における計画の着発時刻に対する実績着発時刻の遅延)が定められている。運休した列車がある場合には、当該列車に関する実績着発時刻及び遅延時分を演算上の無限大として設定する。
【0042】
続いて、作成した計画遅延経路に、列車を乗り換える乗換駅であって実績着発時刻が逆転した駅が有るか否かを判断する。「実績着発時刻が逆転」とは、当該駅における着事象に係る列車の実績着時刻のほうが発事象に係る列車の実績発時刻より遅いことを意味する。この実績着発時刻が逆転した駅とは、例えば順序変更がなされた駅に相当する。この駅では、旅客は計画乗車列車に乗車できなかった(乗換失敗)したことを意味する。実績着発時刻が逆転した駅のことを、以降では適宜「着発逆転駅」という。計画遅延経路に着発逆転駅が有るならば(ステップS105:YES)、当該着発逆転駅における発事象以降を無効とし、当該着発逆転駅における着事象以前までの経路で計画遅延経路を更新する(ステップS107)。
【0043】
そして、ステップS105でYESと判定された場合のステップS107で更新した計画遅延経路、或いは、ステップS105でNOと判定された場合のステップS103で作成された計画遅延経路のうちの、乗換駅及び出場駅について、入場駅に向かって遡る順に対象駅として、繰り返し処理(ループB)を行う。この繰り返し処理(ループB)では、対象駅における計画降車列車の実績着時刻に着遅延が有るかを判断し、有るならば(ステップS109:YES)、対象駅における計画降車列車の到着に係る遅延事象を、関連遅延事象リストに追加する(ステップS111)。着発逆転駅には着遅延が有るため、着発逆転駅の着事象は、関連遅延事象リストに追加される。ループBの繰り返し処理はこのように行われる。
【0044】
なお、ステップS105~S107の処理は省略することとしてもよい。ステップS105~S107の処理を行って計画遅延経路の更新を行うことで、遅延事象を検索するための演算量を低減することができる。
【0045】
繰り返し処理(ループB)が終了すると、続いて、対象旅客の実績列車乗継経路での乗換駅及び出場駅の各駅について、出場駅から入場駅に向かって遡る順に対象とした繰り返し処理(ループC)を行う。この繰り返し処理(ループC)では、対象駅における実績降車列車が、計画列車乗継経路の当該対象駅における計画降車列車と同じであるかを判断し、同じならば(ステップS113:YES)、繰り返し処理(ループC)を終了する。対象駅における実績降車列車が計画列車と同じでないならば(ステップS113:NO)、続いて、対象駅における旅客の着遅延(行程遅延)が有るかを判断し、無いならば(ステップS115:YES)、繰り返し処理(ループC)を終了する。
【0046】
また、対象駅において、旅客の着遅延(行程遅延)が有り、且つ、実績降車列車の着遅延が有るならば(ステップS117:YES)、実績降車列車の着遅延により旅客の行程遅延(着遅延)が生じたと判定して、対象駅における実績降車列車の到着に係る遅延事象を、関連遅延事象リストに追加する(ステップS119)。ループCの繰り返し処理はこのように行われる。この繰り返し処理(ループC)が終了すると、対象旅客についての関連付処理は終了となる。
【0047】
図6~
図10は、関連付け処理による旅客と遅延事象との関連付けの例である。何れもダイヤ図の一例を示しており、列車ダイヤを点線で示し、実績ダイヤを実線で示している。また、普通列車を細い点線及び実線で、快速列車を太い点線及び実線で示している。快速列車は、A駅、C駅、E駅の順に停車し、B駅及びD駅は通過する。また、旅客の行程を破線で示している。
【0048】
図6に示すダイヤ図では、“快速3M”に遅延が生じている。入場駅であるA駅から出場駅であるE駅に向かう旅客についての計画列車乗継経路は、「A駅で“快速3M”に乗車してE駅で降車」である。また、当該旅客の実績列車乗継経路は、計画列車乗継経路と乗車列車は同じであるが、“快速3M”の遅延の影響による行程遅延が生じている。
【0049】
当該旅客には、出場駅であるE駅において“5分”の着遅延(行程遅延)が生じているから(
図3のステップS7:YES)、行程遅延の原因として次の遅延事象が関連付けられる。つまり、当該旅客の計画遅延経路は、入場駅であるA駅における計画乗車列車である“快速3M”に係る発事象と、出場駅であるE駅における計画降車列車である“快速3M”に係る着事象とを繋いだ経路である。この計画遅延経路では、乗換駅が無く、実績着発時刻の逆転は生じていない(
図4のステップS105:NO)。また、計画遅延経路では、出場駅であるE駅において、計画降車列車(“快速3M”)の着遅延が有ることから(
図4のステップS109:YES)、E駅の“快速3M”の到着に係る遅延事象が、当該旅客に関連付けられる(
図4のステップS111)。また、実績列車乗継経路では、全ての実績乗車列車及び実績降車列車が、計画遅延経路での計画乗車列車及び計画降車列車と同じである(
図4のステップS113:YES)。
【0050】
図7に示すダイヤ図では、“快速3M”に遅延が生じており、その遅延が波及して後続の“普通5M”にも遅延が生じている。入場駅であるA駅から出場駅であるD駅に向かう旅客についての計画列車乗継経路は、「A駅で“快速3M”に乗車し、C駅で“普通1M”に乗り換えてD駅で降車」である。また、当該旅客の実績列車乗継経路は、「A駅で“普通5M”に乗車してD駅で降車」であり、“快速3M”及び“普通5M”の遅延の影響による行程遅延が生じている。
【0051】
当該旅客には、出場駅であるD駅において“6分”の着遅延が生じているから(
図3のステップS7:YES)、行程遅延の原因として次の遅延事象が関連付けられる。つまり、当該旅客の計画遅延経路は、入場駅であるA駅における計画乗車列車である“快速3M”に係る発事象と、乗換駅であるC駅における計画降車列車である“快速3M”に係る着事象及び計画乗車列車である“普通1M”に係る発事象と、出場駅であるD駅における計画降車列車である“普通1M”に係る着事象とを繋いだ経路である。この計画遅延経路では、乗換駅であるC駅において、計画降車列車(“快速3M”)の実績着時刻と計画乗車列車(“普通1M”)の実績発時刻との逆転(着発時刻の逆転)が生じている(
図4のステップS105:YES)。このことから、C駅が着発逆転駅となり、C駅の発事象以降、D駅出場までを無効として計画遅延経路が更新される(
図4のステップS107)。そして、更新後の計画遅延経路では、着発逆転駅であるC駅において、計画降車列車(“快速3M”)の着遅延が生じていることから(
図4のステップ109:YES)、C駅“快速3M”の到着に係る遅延事象が、当該旅客に関連付けられる(
図4のステップS111)。また、実績列車乗継経路では、出場駅であるD駅において、旅客の着遅延(行程遅延)が有り、且つ、実績降車列車(“普通5M”)の着遅延が有ることから(
図4のステップS117:YES)、D駅の“普通5M”の到着に係る遅延事象が、当該旅客に関連付けられる(
図4のステップS119)。
【0052】
図8に示すダイヤ図では、“快速3M”に遅延が生じており、その遅延が波及して後続の“普通5M”にも遅延が生じている。入場駅であるA駅から出場駅であるE駅に向かう旅客についての計画列車乗継経路は、「A駅で“普通5M”に乗車してE駅で降車」である。また、当該旅客の実績列車乗継経路は、「A駅で“快速3M”に乗車してE駅で降車」であり、行程遅延は生じていない。当該旅客には、出場駅であるD駅において、実績の着時刻のほうが計画の着時刻より早い早着であるから(
図3のステップS7:NO)、遅延事象は関連付けられない。
【0053】
図9に示すダイヤ図では、“快速9M”に遅延が生じ、その遅延が波及して、C駅における“快速9M”と“普通7M”との順序変更が生じている。入場駅であるA駅から出場駅であるD駅に向かう旅客についての計画列車乗継経路は、「A駅で“快速9M”に乗車し、C駅で“普通7M”に乗り換えてD駅で降車」である。また、当該旅客の実績列車乗継経路は、「A駅で“普通11M”に乗車し、D駅で降車」であり、“快速9M”の遅延の影響による行程遅延が生じている。
【0054】
当該旅客には、出場駅であるD駅において“6分”の着遅延(行程遅延)が生じているから(
図3のステップS7:YES)、行程遅延の原因として次の遅延事象が関連付けられる。つまり、当該旅客の計画遅延経路は、入場駅であるA駅における計画乗車列車である“快速9M”に係る発事象と、乗換駅であるC駅における計画降車列車である“快速9M”に係る着事象及び計画乗車列車である“普通7M”に係る発事象と、出場駅であるE駅における計画降車列車である“普通7M”に係る着事象とを繋いだ経路である。この計画遅延経路では、乗換駅であるC駅において、計画降車列車(“快速9M”)の実績着時刻と、計画乗車列車(“普通7M”)の実績発時刻とに逆転(着発時刻の逆転)が生じている(
図4のステップS105:YES)。このことから、C駅が着発逆転駅となり、C駅の発事象以降、D駅出場までを無効として計画遅延経路が更新される(
図4のステップS107)。そして、更新後の計画遅延経路では、着発逆転駅であるC駅において、計画降車列車(“快速9M”)の着遅延が生じていることから(
図4のステップ109:YES)、C駅の“快速9M”の到着に係る遅延事象が、当該旅客に関連付けられる(
図4のステップS111)。また、実績列車乗継経路では、出場駅であるD駅において、旅客の着遅延が有るが、実績降車列車(“普通11M”)の着遅延が無いことから(
図4のステップS117:NO)、遅延事象は関連付けられない。
【0055】
図10に示すダイヤ図では、“快速3M”に遅延が生じ、その遅延が波及して、C駅における“快速3M”と“普通1M”との順序変更が生じている。入場駅であるC駅から出場駅であるE駅に向かう旅客についての計画列車乗継経路は、「C駅で“快速3M”に乗車してE駅で降車」である。また、当該旅客の実績列車乗継経路は、「C駅で“普通1M”に乗車してE駅で降車」であり、“快速3M”の遅延の影響による行程遅延が生じている。
【0056】
当該旅客には、出場駅であるE駅において“4分”の着遅延が生じているから(
図3のステップS7:YES)、行程遅延の原因として次の遅延事象が関連付けられる。つまり、当該旅客の計画遅延経路は、出発駅であるC駅における計画乗車列車である“快速3M”に係る発事象と、出場駅であるE駅における計画降車列車である“快速3M”に係る着事象とを繋いだ経路となる。この計画遅延経路では、乗換駅が無く、着発時刻の逆転は起きていない(
図4のステップS105:NO)。また、計画遅延経路では、出場駅であるE駅において、計画降車列車(“快速3M”)の着遅延があることから(
図4のステップS109:YES)、E駅の“快速3M”の到着に係る遅延事象が、当該旅客に関連付けられる(
図4のステップS111)。また、実績列車乗継経路では、出場駅であるE駅において、旅客の着遅延(行程遅延)が有るが、実績降車列車(“普通1M”)の着遅延が無いことから(
図4のステップS117:NO)、遅延事象は関連付けられない。
【0057】
(B)影響度算出処理
影響度算出処理(
図3のステップS11)は、関連付処理により各旅客に行程遅延の原因として関連付けられた遅延事象に基づいて、遅延事象が旅客の行程遅延に与える影響度(旅客影響度)を算出する処理である。具体的には、各遅延事象について、遅延が波及する範囲(遅延波及範囲)を設定し、当該遅延事象が行程遅延に直接に影響を与える旅客のみならず、間接に影響を与える旅客にも基づいて、旅客影響度を算出する。
【0058】
図11は、影響度算出処理の流れを説明する図である。
図11に示すように、影響度算出処理では、旅客影響度算出装置1は、先ず、計画ダイヤ310及び実績ダイヤ312から遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出し、遅延伝搬ネットワークを策定する(ステップS201)。遅延事象の抽出及び遅延伝搬ネットワークの策定の詳細については後述する。
【0059】
次いで、抽出した一部又は全部の遅延事象それぞれを対象とした繰り返し処理(ループC)を行う。この繰り返し処理(ループC)では、遅延伝搬ネットワークにおいて、対象遅延事象(着目遅延事象)から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、対象遅延事象の遅延が波及する遅延波及範囲として設定する(ステップS203)。遅延波及範囲は、対象遅延事象を含むとする。遅延波及範囲の設定の詳細については後述する。
【0060】
遅延波及範囲に基づく影響人数算出処理を行う(ステップS205)。影響人数算出処理は、旅客データ314で定められる旅客それぞれを対象とした繰り返し処理(ループD)を行う。この繰り返し処理(ループD)では、対象旅客の関連遅延事象リストに、対象遅延事象の遅延波及範囲の遅延事象が含まれるかを判断し、1箇所でも共通の遅延事象が含まれるならば(ステップS207:YES)、対象遅延事象が対象旅客の行程遅延に“影響する”と判定する(ステップS209)。共通の遅延事象が全く含まれないならば(ステップS207:NO)、対象遅延事象が対象旅客の行程遅延に“影響しない”と判定する(ステップS211)。ループDの繰り返し処理はこのように行われる。
【0061】
全ての旅客を対象とした繰り返し処理(ループD)を行うと、対象遅延事象が行程遅延に“影響する”と判定した旅客の人数を集計し、集計した人数に基づいて、対象遅延事象についての旅客影響度を算出する(ステップS213)。ここまでが、影響人数算出処理(ステップS205)である。ループCの繰り返し処理はこのように行われる。全ての遅延事象を対象とした繰り返し処理(ループC)を行うと、遅延事象それぞれについて旅客の行程遅延に与える旅客影響度が算出されたこととなる。
【0062】
続いて、遅延事象に対する遅延対策の実施後の旅客影響度の算出を行う。すなわち、遅延対策の対象とする遅延事象及び遅延対策時分を設定する(ステップS215)。次いで、遅延対策の対象遅延事象に対する遅延対策時分の遅延対策を実施した後の遅延伝搬ネットワークを策定し、その遅延対策後の遅延伝搬ネットワークにおいて対象遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、対象遅延事象の遅延が波及する遅延対策後の遅延波及範囲として設定する(ステップS215)。遅延対策後の遅延伝搬ネットワークの策定の詳細については後述する。続いて、遅延対策後の遅延波及範囲についての影響人数算出処理(ステップS205参照)を行って、遅延対策後の対象遅延事象が旅客の行程遅延に与える旅客影響度を算出する(ステップS219)。以上の処理を行うと、影響度算出処理は終了となる。
【0063】
(B-1)遅延事象の抽出(ステップS201)
遅延事象とは、実績ダイヤ312における各列車の各駅の着発(到着及び出発)に係る着発事象のうち、遅延が発生した事象である。遅延が発生した着発事象であるか否かは、計画ダイヤ310における当該着発事象の計画の着発時刻と、実績ダイヤ312における当該着発事象の実績の着発時刻とを比較して判定する。計画ダイヤ310における計画の着発時刻と実績ダイヤ312における実績の着発時刻との差分が、当該遅延事象の遅延時分となる。計画ダイヤ310における計画の着発時刻よりも実績ダイヤ312における実績の着発時刻の方が早い時刻の場合には、遅延時分はゼロとする。また、臨時列車に係る着発事象等、計画ダイヤ310に計画の着発時刻が無い場合には、遅延時分は無限大(∞)とする。
【0064】
図12は、遅延事象の抽出の一例を示す図である。
図12では、上側にダイヤ図を示し、下側に抽出した遅延事象を示している。
図12の例では、列車1MのB駅の発車(発事象)が遅延の発生源であり、この遅延が、当該列車1M及び後続列車3MのB駅以降の各駅の到着及び出発に波及している。そして、列車1MのB駅の発事象1Bd、C駅の着事象1Ca及び発事象1Cd、列車3MのB駅の着事象3Ba及び発事象3Bd、C駅の着事象3Ca及び発事象3Cdが遅延事象として抽出されている。
【0065】
(B-2)遅延伝搬ネットワークの策定(ステップS201)
遅延伝搬ネットワークは、実績ダイヤ312から抽出した遅延事象をノードとし、遅延に関する因果関係を有する遅延事象同士をアークで繋ぐことで策定する。
【0066】
図13は、遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。
図13では、
図12に示した遅延事象に基づく遅延伝搬ネットワークを例示している。
図13に示すように、遅延伝搬ネットワークは、実績ダイヤ312から抽出された遅延事象をノードとして、所定の因果関係条件を満たす遅延事象の組み合わせについて、遅延の伝搬元の遅延事象のノードから伝搬先の遅延事象のノードに向かう有向アークで繋ぐことで策定する。遅延伝搬ネットワークにおいて、ある遅延事象から有向アークの方向に辿れる経路が、当該遅延事象からの遅延の伝搬経路となる。
【0067】
因果関係条件とは、次に説明する遅延の伝搬に関する因果関係である。遅延の伝搬先が着事象となる遅延に関する因果関係には、
図14に示す2種類のケースがある。1つ目のケースは、
図14(1)に示すように、当該列車の直前駅の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の着事象の遅延時分Td2と、当該列車の直前駅の発事象の遅延時分Td1とを比較し、Td1≧Td2-β1、ならば、対象の着事象の遅延は、当該列車の直前駅の出発の遅れが伝搬したものである、と判定する。「β1」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の着事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該列車の直前駅の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図14(1)の例は、列車3MのB駅の到着の遅れは、当該列車3Mの直前駅であるA駅の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の着事象を伝搬先とし、列車3MのA駅の発事象を波及元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
【0068】
2つ目のケースは、
図14(2)に示すように、当該駅での先行列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の着事象の遅延時分Td4と、当該駅の先行列車の発事象の遅延時分Td3とを比較し、Td3≧Td4-β2、且つ、Td4-Td3≦γ、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行列車の出発の遅れが伝搬したものである、と判定する。「β2」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「γ」は、信号設計上の追い込み時間に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の着事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図14(2)の例は、列車3MのB駅の到着の遅れは、当該駅(B駅)での先行列車1Mの出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の着事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
【0069】
また、遅延の伝搬先が発事象となる遅延に関する因果関係には、
図15に示す3種類のケースがある。1つ目のケースは、
図15(1)に示すように、当該列車の当該駅への到着の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td6と、当該列車の当該駅の着事象の遅延時分Td5とを比較し、Td5≧Td6-β3、ならば、対象の発事象の遅延は、当該列車の当該駅の到着の遅れが波及したものである、と判定する。「β3」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該列車の当該駅の着事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図15(1)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、当該列車3Mの当該駅(B駅)への到着の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車3MのB駅の着事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
【0070】
2つ目のケースは、
図15(2)に示すように、当該駅の異なる番線における先行列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td8と、当該駅の異なる番線の先行列車の発事象の遅延時分Td7とを比較し、Td7≧Td8-β4、且つ、Td8-Td7≦δ、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行列車の出発の遅れが伝搬したものである、と判定する。「β4」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「δ」は、信号設計上の発発時隔に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図15(2)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、先行列車1Mの当該駅(B駅)の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
【0071】
3つ目のケースは、
図15(3)に示すように、単線区間において当該駅での先行対向列車の出発の遅れが伝搬したケースである。対象の発事象の遅延時分Td10と、当該駅の先行対向列車の発事象の遅延時分Td9とを比較し、Td9≧Td10-β5、且つ、Td10-Td9≦ε、ならば、対象の着事象の遅延は、当該駅の先行対向列車の出発の遅れが伝搬したものである、と判定する。「β5」はパラメータであり、例えば「0秒」とすることができる。「ε」は、信号設計上の着発時隔に相当し、例えば「180秒」とすることができる。この場合は、遅延が伝搬したことを表すため、対象の発事象(遅延事象)を伝搬先とし、当該駅の先行対向列車の発事象を遅延の伝搬元とした、遅延の因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
図15(3)の例は、列車3MのB駅の出発の遅れは、先行対向列車1Mの当該駅(B駅)の出発の遅れが伝搬したケースであり、列車3MのB駅の発事象を伝搬先とし、列車1MのB駅の発事象を伝搬元とした、遅延に関する因果関係を有する遅延事象の組み合わせとすることができる。
【0072】
(B-3)遅延波及範囲の設定(ステップS203)
遅延波及範囲は、遅延伝搬ネットワークにおいて、対象遅延事象(着目遅延事象)から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合として設定する。例えば、
図13に示した遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延事象1Bdの遅延波及範囲は、当該遅延事象1Bdから有向アークの方向に辿れる遅延事象3Ba,3Bd,3Ca,3Cd,1Ca,1Cdと、当該遅延事象1Bdとの集合となる。また、遅延事象3Bdの遅延波及範囲は、当該遅延事象3Bdから有向アークの方向に辿れる遅延事象3Ca,3Cdと、当該遅延事象3Bdとの集合となる。
【0073】
(B-4)遅延対策(ステップS215)
遅延対策とは、遅延事象の遅延時分を所定の遅延対策時分だけ減少させる、ことを意味する。つまり、ある遅延事象に対する遅延事象の実施とは、当該遅延事象の遅延時分を遅延対策時分だけ減少させるとともに、当該遅延事象から遅延が波及する他の遅延事象についても遅延時分を遅延対策時分だけ一律に減少させる、ことに相当する。遅延時分が遅延対策時分以下の遅延事象については、遅延対策を実施することで遅延時分が「0」となる。つまり遅延が解消されたことになる。
【0074】
図16は、遅延対策の一例を示す図である。
図16では、上側に遅延対策前のダイヤ図を示し、下側に遅延対策後のダイヤ図を示している。ダイヤ図は、列車ダイヤを点線で示し、実績ダイヤを実線で示している。また、遅延事象を「丸印」で示している。
図16の例では、遅延の発生源である列車3MのB駅の発事象に対して、遅延対策時分を「3分」とした遅延対策を実施している。この遅延対策によって、遅延対策の実施対象の遅延事象である列車3MのB駅の発事象と、当該遅延事象から遅延が波及した他の遅延事象である、当該列車3MのB駅以降の各駅の着発事象、及び、後続列車5M,7MのB駅以降の各駅の着発事象との遅延時分が、一律に「3分」だけ減少する。その結果、列車5M及び列車7MのB駅及びC駅の着発事象の遅延が解消する。
【0075】
(B-5)遅延対策後の遅延伝搬ネットワークの策定(ステップS217)
遅延対策後の遅延伝搬ネットワークは、遅延対策前の遅延伝搬ネットワークに対して、遅延事象に対する遅延対策の実施により遅延の伝搬が解消されるアークを無効化する無効化処理を実行することで策定される。
【0076】
図17は、遅延対策の実施による遅延事象の無効化を説明する図である。
図17では、
図13に示した遅延伝搬ネットワークに対して、遅延事象1Bdに対して遅延対策時分が「5分」の遅延対策を実施した例を示している。遅延対策の実施により、遅延対策の実施対象である遅延事象1Bdから辿れる遅延伝搬経路に沿って遅延対策の効果が伝搬し、当該遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれの遅延時分が、一律に遅延対象時分が「5分」だけ減少する。その結果、遅延事象3Caの遅延時分が「0分」になり遅延が解消される。つまり、遅延の発生源である遅延事象1Bdからの遅延の伝搬は遅延事象3Caの直前の遅延事象3Bdで止まり、その先の経路部分には遅延は伝搬しない。これは、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延が解消された遅延事象3Caに繋がるアークが無効化されることに相当する。
【0077】
ある遅延事象の遅延影響範囲は、当該遅延事象から辿れる遅延伝搬経路上の遅延事象の集合である。このため、遅延対策後の遅延伝搬経路に遅延が解消した遅延事象が含まれないよう、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延対策により遅延が解消した遅延事象を無効化遅延事象とし、この無効化遅延事象に向かうアークを無効化する。従って、
図17の例では、遅延事象1Bdに対する遅延対策の実施により遅延が解消される遅延事象3Caが無効化遅延事象であり、この無効化遅延事象である遅延事象3Caに向かう有向アークを無効化する。
【0078】
ところで、
図17は、1つの遅延の発生源から遅延が伝搬する形状の遅延伝搬ネットワークである。しかし、
図18に示すように、複数の遅延の発生源からの遅延が伝搬する形状の遅延伝搬ネットワークもあり得る。
図18は、複数の遅延の発生源を含む遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。
図18の遅延伝搬ネットワークは、2つの遅延発生源である遅延事象E,Dを含み、一方の遅延の発生源である遅延事象Eからの遅延伝搬経路と、他方の遅延の発生源である遅延事象Dからの遅延伝搬経路とが、遅延事象Bで合流する形状となっている。
【0079】
つまり、2つの遅延伝搬経路が合流する遅延事象Bには、2つの遅延の発生源である遅延事象E,Dそれぞれからの遅延が重畳して波及している。言い換えれば、遅延事象Bから遅延伝搬ネットワークを遡って、2つの遅延の発生源である遅延事象E,Dに到達可能である。この遅延事象ネットワークにおいて、一方の遅延の発生源である遅延事象Dに対する遅延対策を実施した場合、当該遅延事象Dから辿れる遅延伝搬経路上の各遅延事象の遅延時分が遅延対策時分だけ減少するはずである。しかし、遅延事象Bでは、当該遅延事象Dの他にも、他方の遅延の発生源である遅延事象Eからの遅延が重畳して波及しているため遅延時分は減少しない。つまり、遅延事象Dからの効果が及ぶのは遅延事象Bの直前までであり、遅延事象B以降の経路部分には遅延対策の効果は伝搬せず、遅延時分は減少しない。
【0080】
但し、
図19に示すように、ある遅延事象において複数の遅延伝搬経路が合流する形式の遅延伝搬ネットワークであっても、合流する全ての遅延伝搬経路が、遅延対策の対象とする遅延事象から辿れる経路である場合がある。つまり、当該遅延事象から遅延伝搬ネットワークを遡って辿れる全ての経路が遅延対策を実施する遅延事象に到達する場合には、当該遅延事象以降の経路部分にも遅延対策の効果は伝搬する。
図19の例では、1つの遅延の発生源である遅延事象Xから辿れる2つの遅延伝搬経路が、遅延事象Bにおいて合流している形式の遅延伝搬ネットワークである。この場合、遅延事象Bから遅延伝搬ネットワークを遡って辿れる全ての経路が遅延事象Xに到達するから、遅延事象Xへの遅延対策の効果は、遅延事象B以降の経路部分にも波及し、遅延事象B以降の遅延時分も減少する。
【0081】
このように、遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、遅延対策を実施する遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が遅延対策時分以下である遅延事象を無効化遅延事象とする。そして、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がりであるアーク、及び、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がりであるアーク、を無効化する無効化処理を実行する。これにより、遅延対策後の遅延伝搬ネットワークを策定することができる。
【0082】
[機能構成]
図20は、旅客影響度算出装置1の機能構成の一例を示す図である。
図20によれば、旅客影響度算出装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、旅客影響度算出装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0083】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0084】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、旅客影響度算出装置1の全体制御を行う。
【0085】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、乗継経路推定部202と、行程遅延判定部204と、関連付部206と、影響度算出部208と、遅延対策設定部212と、対策後遅延波及範囲設定部214と、対策後影響度算出部216とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0086】
乗継経路推定部202は、入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻が定められた旅客毎に、計画ダイヤ310に対する計画列車乗継経路と実績ダイヤ312に対する実績列車乗継経路とを推定する(
図3のステップS1,S3参照)。旅客に関するデータは、旅客データ314として予め用意される。
【0087】
行程遅延判定部204は、旅客毎に、実績列車乗継経路と計画列車乗継経路とに基づき、行程遅延の有無を判定する(
図3のステップS5参照)。つまり、旅客毎に、実績列車乗継経路での各駅の実績の着発時刻について、計画列車乗継経路での当該駅の計画の着発時刻に対する遅延時分を求めて行程遅延とする。
【0088】
関連付部206は、行程遅延判定部204により行程遅延が有りと判定された旅客について、行程遅延の原因となる列車の着発事象である遅延事象を検索して当該旅客に関連付ける(
図3のステップS9参照)。本実施形態では、行程遅延のうち出場駅の着遅延が有る(遅延時分が0分を超える)旅客について、遅延事象の関連付けの対象とする。
【0089】
また、関連付部206は、計画列車乗継経路での乗換駅又は出場駅において、計画降車列車の実績着時刻に着遅延が有るかを検索し、当該着遅延に係る遅延事象を旅客に関連付ける(
図4のステップS109~S111参照)。また、乗換駅における計画降車列車の実績着時刻より計画乗車列車の実績発時刻が早い着発逆転駅があるかを検索し、当該着発逆転駅の着事象を旅客に関連付ける(
図4のステップS105~S111参照)。また、実績列車乗継経路での乗換駅又は出場駅において、1)実績降車列車に着遅延が有り、且つ、2)当該駅における旅客の行程遅延が有る場合に、当該着遅延に係る遅延事象を旅客に関連付ける(
図4のステップS117~S119参照)。
【0090】
影響度算出部208は、任意の遅延事象である着目遅延事象に関連付けられた旅客の人数に基づき、着目遅延事象が旅客の行程遅延に与える影響度である旅客影響度を算出する(
図3のステップS11参照)。
【0091】
また、影響度算出部208は、着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を遅延波及範囲として設定する遅延波及範囲設定部210、を有し、遅延波及範囲設定部210が設定した遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客に基づいて、旅客影響度を算出する(
図11のステップS203~S213参照)。例えば、着目遅延事象について設定した遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客の人数を、旅客影響度とすることができる。
【0092】
遅延波及範囲設定部210は、遅延事象のうち、遅延に関する因果関係の条件として定められた所定の因果関係条件を満たす遅延事象同士を関連付けることで、遅延事象間の繋がりを表す遅延伝搬ネットワークを策定し、遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を遅延波及範囲として設定する(
図11のステップS201~S203参照)。策定した遅延伝搬ネットワークは、遅延伝搬ネットワークデータ320として記憶される。
【0093】
遅延対策設定部212は、着目遅延事象に対する遅延対策として、所与の遅延対策時分を設定する(
図11のステップS215参照)。この設定は、例えば、操作部102を介した操作入力に従って行うことができる。設定した遅延対策時分は、遅延対策条件データ350として記憶される。
【0094】
対策後遅延波及範囲設定部214は、遅延対策設定部212による遅延対策後の着目遅延事象の遅延が波及する他の遅延事象を、対策後遅延波及範囲として設定する(
図11のステップS217参照)。
【0095】
対策後遅延波及範囲設定部214は、遅延波及範囲設定部210により策定された遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延発生源である遅延事象を特定し、所与の遅延事象から遅延伝搬ネットワークを遡って到達可能な遅延発生源のうち、着目遅延事象を経由せずに到達可能な遅延発生源が無く、且つ、遅延時分が遅延対策時分以下である所与の遅延事象を無効化遅延事象として、当該無効化遅延事象を伝搬先とする繋がり、及び、当該無効化遅延事象を伝搬元とする繋がり、を無効化する無効化処理を実行し、無効化処理後の遅延伝搬ネットワークにおいて、着目遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合を、対策後遅延波及範囲として設定する(
図17~
図19参照)。
【0096】
遅延伝搬ネットワークにおける遅延発生源である遅延事象は、計画ダイヤ310及び実績ダイヤ312に基づいて抽出された遅延事象それぞれについて、遅延に関する所定の因果関係(
図14,
図15参照)を有する他の遅延事象であって、当該遅延事象を遅延の伝搬先としたときに伝搬元となる他の遅延事象が存在するかを判定し、存在しない場合に当該遅延事象を遅延発生源として特定する。
【0097】
対策後影響度算出部216は、対策後遅延波及範囲設定部214により設定された対策後遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客に基づいて、遅延対策後の着目遅延事象の遅延が旅客の行程遅延に与える遅対策後旅客影響度を算出する(
図11のステップS219参照)。例えば、着目遅延事象について設定した対策後遅延波及範囲の各遅延事象に関連付けられている旅客の人数を、対策後旅客影響度とすることができる。
【0098】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が旅客影響度算出装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、旅客影響度算出プログラム302と、計画ダイヤ310と、実績ダイヤ312と、旅客データ314と、遅延伝搬ネットワークデータ320と、旅客分析データ330と、旅客影響度分析データ340と、遅延対策条件データ350とが記憶される。
【0099】
旅客影響度算出プログラム302は、旅客影響度算出装置1が読み出して実行することで
図3等を用いて説明した旅客影響度算出処理を旅客影響度算出装置1に実現させるためのプログラムである。
【0100】
図21は、旅客分析データ330の一例を示す図である。
図21によれば、旅客分析データ330は、旅客の遅延に関する分析データであり、旅客データ314で定められる旅客毎に生成され、識別番号である旅客IDに対応付けて、入場駅と、当該入場駅の入場時刻と、出場駅と、当該出場駅の出場時刻と、計画列車乗継経路と、実績列車乗継経路と、行程遅延と、関連遅延事象リストとを含む。入場駅、入場時刻、出場駅及び出場時刻は、旅客データ314に定められている。計画列車乗継経路及び実績列車乗継経路は、乗継経路推定部202により推定される。行程遅延は、行程遅延判定部204より判定される。関連遅延事象リストは、関連付部206により、行程遅延の原因として当該旅客に関連付けられた遅延事象のリストである。
【0101】
図22は、旅客影響度分析データ340の一例を示す図である。
図22によれば、旅客影響度分析データ340は、遅延事象の影響に関する分析データであり、計画ダイヤ310及び実績ダイヤ312から抽出された遅延事象事に生成され、当該遅延事象と、遅延波及範囲と、影響旅客リストと、旅客影響度と、遅延対策後分析データとを含む。遅延波及範囲は、当該遅延事象を含み、遅延波及範囲設定部210により設定される。影響旅客リストは、影響度算出部208により、当該遅延事象がその行程遅延に影響すると判定された旅客のリストである。旅客影響度は、影響度算出部208により、影響旅客リストの旅客人数をもとに算出される。
【0102】
遅延対策後分析データは、当該遅延事象に対する遅延対策に関するデータであり、遅延対策時分と、対策後遅延伝搬ネットワークと、対策後遅延波及範囲と、対策後影響旅客リストと、対策後旅客影響度とを含む。遅延対策時分は、遅延対策条件データ350で定められる。対策後遅延伝搬ネットワークは、対策後遅延波及範囲設定部214により策定される。対策後遅延波及範囲は、対策後遅延波及範囲設定部214により設定される。対策後影響旅客リストは、対策後影響度算出部216により、遅延対策後の当該遅延事象がその行程遅延に影響すると判定された旅客のリストである。対策後旅客影響度は、対策後影響度算出部216により、対策後影響旅客リストの旅客人数をもとに算出される。
【0103】
[作用効果]
このように、本実施形態の旅客影響度算出装置1によれば、実績ダイヤ312を利用した遅延対策の検討に有用な指標として、遅延事象が旅客の行程遅延に与える旅客影響度を算出することができる。つまり、各旅客について行程遅延の原因と推定される列車の着発事象である遅延事象を関連付けておき、着目遅延事象に関連付けられている旅客の人数に基づいて着目遅延事象の旅客影響度を算出する。これにより、例えば、関連付けられている旅客の人数が多いほど、その遅延事象が旅客の行程遅延に与える影響度が大きくなるように算出する、といった定量的な指標として旅客影響度を算出することができる。
【0104】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0105】
(A)影響遅延時分の関連付け
例えば、関連付部206が、対象旅客に遅延事象を関連付ける際に(
図3のステップS9参照)、当該遅延事象に係る駅における対象旅客の到着及び/又は出発に係る行程遅延に基づく影響遅延時分を更に関連付けるようにしてもよい。影響度算出部208は、着目遅延事象に関連付けられた旅客の人数及び影響遅延時分に基づいて、旅客影響度を算出する(
図3のステップS11参照)。
【0106】
つまり、対象旅客の実績列車乗継経路での駅のうち、出場駅については、実績降車列車の着遅延を影響遅延時分とし、乗換駅については、イ)旅客の行程遅延である着遅延と発遅延との差分、ロ)実績降車列車の着遅延、のうちの大きいほうを影響遅延時分とする。そして、対象遅延事象(着目遅延事象)についての旅客影響度を、対象遅延事象が行程遅延に“影響する”と判定した旅客の人数、及び、それらの各旅客に関連付けられている影響遅延時分を集計し、その集計値(人数、影響遅延時分)に基づいて算出する(
図11のステップS213参照)。また、対策後影響度算出部216が算出する対策後影響度についても同様に算出することができる。
【符号の説明】
【0107】
1…旅客影響度算出装置
200…処理部
202…乗継経路推定部
204…行程遅延判定部
206…関連付部
208…影響度算出部
210…遅延波及範囲設定部
212…遅延対策設定部
214…対策後遅延波及範囲設定部
216…対策後影響度算出部
300…記憶部
302…旅客影響度算出プログラム
310…計画ダイヤ
312…実績ダイヤ
314…旅客データ
320…遅延伝搬ネットワークデータ
330…旅客分析データ
340…旅客影響度分析データ
350…遅延対策条件データ