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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20240326BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20240326BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16F1/387 B
F16F1/38 F
F16F15/08 W
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020206304
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022093170
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】畑中 桂史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 香澄
(72)【発明者】
【氏名】川井 基寛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正樹
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-001271(JP,A)
【文献】特開2014-134260(JP,A)
【文献】特開2006-234046(JP,A)
【文献】特開2020-159449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/387
F16F 1/38
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ部材がアウタ部材の筒部内に配されて、該インナ部材と該アウタ部材が該筒部に非接着で嵌め入れられた本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、
前記本体ゴム弾性体が前記インナ部材の両側において該インナ部材と前記筒部の対向方向に延びる一対のゴム脚を備え、
該筒部の軸方向一方の端部には、該筒部の内周へ向けて突出して該一対のゴム脚の外周端部に軸方向で重ね合わされる係止突部が設けられていると共に、
該筒部の軸方向他方の端面に突出するかしめ突起が、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされる環状のプレートのかしめ孔に挿通されて該プレートにかしめ固定され、
該筒部に固定された該プレートが該一対のゴム脚の該外周端部に軸方向で重ね合わされて、該一対のゴム脚の該外周端部が該係止突部と該プレートの間で軸方向に位置決めされており、
該かしめ突起と該かしめ孔によるかしめ固定部が、該一対のゴム脚の該外周端部の押し当てによる該プレートに対する最大入力位置と対応する位置にそれぞれ配されている防振装置。
【請求項2】
前記かしめ固定部が前記一対のゴム脚の外周側への延長上に配置されている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記かしめ固定部が前記筒部の周方向において各前記ゴム脚の周方向の両端部分にそれぞれ設けられている請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記各ゴム脚は、前記筒部の周方向において該ゴム脚の中央部分の外周面に開口して該ゴム脚を軸方向に貫通する凹溝を備えている請求項3に記載の防振装置。
【請求項5】
前記筒部の周方向における前記一対のゴム脚の間にストッパゴムが設けられており、前記かしめ固定部が該ストッパゴムの延長上を該筒部の周方向に外れて配置されている請求項1~4の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記プレートは、前記ストッパゴムが配された位置において前記筒部よりも内周へ突出していない請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
インナ部材がアウタ部材の筒部内に配されて、該インナ部材と該アウタ部材が該筒部に非接着で嵌め入れられた本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、
前記筒部の軸方向一方の端部には、該筒部の内周へ向けて突出して前記本体ゴム弾性体の外周端部に軸方向で重ね合わされる係止突部が設けられていると共に、
該筒部の軸方向他方の端面に突出するかしめ突起が、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされるプレートのかしめ孔に挿通されて該プレートにかしめ固定され、
該筒部に固定された該プレートが該本体ゴム弾性体の該外周端部に軸方向で重ね合わされて、該本体ゴム弾性体の該外周端部が該係止突部と該プレートの間で軸方向に位置決めされており、
該筒部と隣接する該アウタ部材の隣接部が該筒部よりも軸方向他方へ該プレートの厚さだけ突出し、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされた該プレートの表面が該隣接部の表面と同じ平面上に位置しており、
前記インナ部材側との当接によって軸方向ストッパ機構を構成する該アウタ部材側のストッパ当接面が、該隣接部と該プレートとの両方の表面に跨って設けられている防振装置。
【請求項8】
前記ストッパ当接面には緩衝ゴムが重ね合わされて、該緩衝ゴムが前記隣接部と前記プレートとの両方の表面に跨って設けられている請求項7に記載の防振装置。
【請求項9】
前記ストッパ当接面が前記プレートの周方向において前記かしめ孔を外れた位置に設けられている請求項7又は8に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント、モータマウント、デフマウント等として用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、特開2015-001271号公報(特許文献1)のように、インナ部材とアウタ部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有する防振装置が知られており、例えば自動車の各種マウントとして採用されている。
【0003】
ところで、特許文献1では、アウタ部材の筒部に対して本体ゴム弾性体が非固着で嵌め入れられており、本体ゴム弾性体の抜けを防止するための抜止突部を備えた圧入金具が、アウタ部材の筒部に圧入固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-001271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧入金具がアウタ部材の筒部に対して全周にわたって略一様に圧入されることから、圧入金具において本体ゴム弾性体の変形によって大きな荷重が作用する部分と、本体ゴム弾性体の変形による入力荷重が比較的に小さい部分とにおいて、アウタ部材に対する固定強度が略同じとなる。それゆえ、大荷重の入力部位において圧入金具のアウタ部材からの脱落を防ぐ十分な耐荷重性能(耐久性能)が発揮されるように固定強度を設定すると、入力荷重が小さい部位において過剰な固定力が作用し、圧入金具のアウタ部材への圧入固定作業に大きな力が必要になるという新たな課題が明らかになった。
【0006】
本発明の解決課題は、本体ゴム弾性体の抜けを防止する抜止構造を、十分な耐久性能を持たせつつ簡単に設けることができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ部材がアウタ部材の筒部内に配されて、該インナ部材と該アウタ部材が該筒部に非接着で嵌め入れられた本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、前記本体ゴム弾性体が前記インナ部材の両側において該インナ部材と前記筒部の対向方向に延びる一対のゴム脚を備え、該筒部の軸方向一方の端部には、該筒部の内周へ向けて突出して該一対のゴム脚の外周端部に軸方向で重ね合わされる係止突部が設けられていると共に、該筒部の軸方向他方の端面に突出するかしめ突起が、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされる環状のプレートのかしめ孔に挿通されて該プレートにかしめ固定され、該筒部に固定された該プレートが該一対のゴム脚の該外周端部に軸方向で重ね合わされて、該一対のゴム脚の該外周端部が該係止突部と該プレートの間で軸方向に位置決めされており、該かしめ突起と該かしめ孔によるかしめ固定部が、該一対のゴム脚の該外周端部の押し当てによる該プレートに対する最大入力位置と対応する位置にそれぞれ配されているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、筒部の軸方向端面に重ね合わされるプレートによって、本体ゴム弾性体の筒部からの抜けを防止することができる。プレートは、プレートのかしめ孔に挿通された筒部のかしめ突起がプレートに対してかしめ固定されることにより、筒部に対して比較的に小さな力で容易に固定される。
【0010】
筒部とプレートがかしめによって固定されたかしめ固定部の配置が、本体ゴム弾性体の一対のゴム脚に対して設定されており、一対のゴム脚の押し当てによってプレートに及ぼされる力が最大となる最大入力位置と対応する位置に、かしめ固定部が配されている。これにより、プレートに対する入力が大きくなる部位において、かしめ固定部による筒部とプレートの固定強度が大きく発揮される。それゆえ、少ないかしめ固定部によって筒部とプレートを効率的に固定することができ、かしめ固定に必要な力を低減して簡単に製造可能としながら、筒部とプレートの高い固定強度による優れた耐久性能を実現することができて、プレートの筒部からの脱落などが防止される。
【0011】
第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記かしめ固定部が前記一対のゴム脚の外周側への延長上に配置されているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、かしめ固定部を一対のゴム脚の外周側への延長上に配置することによって、一対のゴム脚の押し当てによるプレートへの入力が最大となる位置に対応する位置へかしめ固定部を容易に配置することができる。
【0013】
第三の態様は、第二の態様に記載された防振装置において、前記かしめ固定部が前記筒部の周方向において各前記ゴム脚の両端部分にそれぞれ設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、ゴム脚の周方向両端部分の延長上にそれぞれかしめ固定部を設けることにより、例えば、インナ部材とアウタ部材の間に一対のゴム脚の対向方向と直交する径方向の振動が入力されて、ゴム脚が圧縮側の端部においてプレートに軸方向外側へ向けた力を及ぼす場合に、圧縮によって変形したゴム脚がプレートに及ぼす力は、ゴム脚の周方向の中央よりも外側において最大となる。それゆえ、筒部の周方向においてゴム脚の両端部分にかしめ固定部を設けることにより、上述の入力によって変形したゴム脚からプレートに及ぼされる力が最大となる位置と対応するかしめ固定部の配置を実現することができる。
【0015】
第四の態様は、第三の態様に記載された防振装置において、前記各ゴム脚は、前記筒部の周方向において該ゴム脚の中央部分の外周面に開口して該ゴム脚を軸方向に貫通する凹溝を備えているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、凹溝によって周方向に分割されたゴム脚の各部からプレートへの入力位置にかしめ固定部がそれぞれ配されて、プレートの筒部に対する固定強度を入力位置において確保することができる。
【0017】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記筒部の周方向における前記一対のゴム脚の間にストッパゴムが設けられており、前記かしめ固定部が該ストッパゴムの延長上を該筒部の周方向に外れて配置されているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、インナ部材とアウタ部材のストッパゴムを介した当接によって、インナ部材とアウタ部材の軸直角方向の相対的な変位量を制限する軸直ストッパ機構が構成されて、ゴム脚の過剰な変形が防止されることで耐久性の向上が図られる。
【0019】
ストッパゴムが設けられる位置は、一対のゴム脚の周方向間であり、一対のゴム脚からプレートへの入力が最大となる位置から離れている。それゆえ、かしめ固定部がストッパゴムの外周への延長上を外れて配されることにより、かしめ固定部を不必要に多く設けることなく効率的に配して、筒部とプレートの固定作業を容易にしながら、優れた耐久性能を得ることができる。
【0020】
第六の態様は、第五の態様に記載された防振装置において、前記プレートは、前記ストッパゴムが配された位置において前記筒部よりも内周へ突出していないものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、ストッパゴムが筒部の軸方向に膨出したとしても、ストッパゴムがプレートに接することがなく、ストッパゴムからプレートへ軸方向外向きの力は及ぼされない。それゆえ、ストッパゴムが設けられた位置にかしめ固定部が設けられていなくても、筒部とプレートの固定に必要な固定強度に影響し難く、少ないかしめ固定部によって十分な固定強度を効率的に得ることができる。
【0022】
ところで、第一~第六の態様に係る防振装置のように、アウタ部材の筒部に重ね合わされた状態でかしめ固定されるプレートによって本体ゴム弾性体の抜止構造を設ける場合に、インナ部材とアウタ部材の軸方向の相対変位量を制限する軸方向ストッパにおいて、アウタ部材側のストッパ当接面が狭くなってしまうという新たな課題が生じた。即ち、アウタ部材の筒部にプレートを重ねることによって、筒部に重ね合わされたプレートの表面と、筒部と隣接するアウタ部材の隣接部の表面との間に段差が生じると、平坦なストッパ当接面を広い面積で確保することが難しかった。
【0023】
このような新たな課題に対して、第七の態様は、インナ部材がアウタ部材の筒部内に配されて、該インナ部材と該アウタ部材が該筒部に非接着で嵌め入れられた本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、前記筒部の軸方向一方の端部には、該筒部の内周へ向けて突出して前記本体ゴム弾性体の外周端部に軸方向で重ね合わされる係止突部が設けられていると共に、該筒部の軸方向他方の端面に突出するかしめ突起が、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされるプレートのかしめ孔に挿通されて該プレートにかしめ固定され、該筒部に固定された該プレートが該本体ゴム弾性体の該外周端部に軸方向で重ね合わされて、該本体ゴム弾性体の該外周端部が該係止突部と該プレートの間で軸方向に位置決めされており、該筒部と隣接する該アウタ部材の隣接部が該筒部よりも軸方向他方へ該プレートの厚さだけ突出し、該筒部の軸方向他方の端面に重ね合わされた該プレートの表面が該隣接部の表面と同じ平面上に位置しており、前記インナ部材側との当接によって軸方向ストッパ機構を構成する該アウタ部材側のストッパ当接面が、該隣接部と該プレートとの両方の表面に跨って設けられているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、アウタ部材において隣接部の表面が筒部の表面よりも軸方向他方側へ突出しており、筒部に重ね合わされるプレートの表面が隣接部の表面と同じ平面上に位置するようにされている。それゆえ、筒部の軸方向端面にプレートが重ね合わされてかしめ固定された構造において、プレートの表面と隣接部の表面との協働によって、平坦なストッパ当接面を広い面積で確保することができる。
【0025】
第八の態様は、第七の態様に記載された防振装置において、前記ストッパ当接面には緩衝ゴムが重ね合わされて、該緩衝ゴムが前記隣接部と前記プレートとの両方の表面に跨って設けられているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、例えば、プレートの表面と隣接部の表面が製造上の寸法公差等による微小な段差をなしている場合に、緩衝ゴムがプレートの表面と隣接部の表面とに跨って重ね合わされることによって、ストッパ荷重が当該段差によってプレート又は隣接部に偏って作用するのを防ぐことができる。
【0027】
第九の態様は、第七又は第八の態様に記載された防振装置において、前記ストッパ当接面が前記プレートの周方向において前記かしめ孔を外れた位置に設けられているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、かしめ孔やかしめ突起による凹凸がストッパ当接面に設けられるのを回避できて、平坦なストッパ当接面を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、本体ゴム弾性体の抜けを防止する抜止構造を、十分な耐久性能を持たせつつ簡単に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第一の実施形態としての防振マウントを示す正面図
図2図1のII-II断面図
図3図2のIII-III断面図
図4図1に示す防振マウントの分解斜視図
図5図1に示す防振マウントをインナブラケットが取り付けられた状態で示す斜視図
図6図1に示すインナブラケット付き防振マウントの正面図
図7図6のVII-VII断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1図4には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用の防振マウント10が示されている。防振マウント10は、例えば、自動車のエンジンマウントやモータマウント等に適用されて、エンジンやモータ等を含むパワーユニットを車両ボデーに対して防振連結する。防振マウント10は、インナ部材12とアウタ部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、前後方向とは図2中の左右方向を、それぞれ言う。また、原則として、周方向とはインナ部材12及びアウタ部材14の筒部38(後述)の周方向を、軸方向とはインナ部材12及びアウタ部材14の筒部38の軸方向である前後方向を、それぞれ言う。
【0033】
インナ部材12は、例えば金属等によって形成された高剛性の部材であって、図2図3に示すように、前後方向に直線的に延びる略円筒形状とされている。
【0034】
インナ部材12は、本体ゴム弾性体16の内周端部に加硫接着されている。本体ゴム弾性体16は、左右一対のゴム脚18,18を備えている。ゴム脚18は、インナ部材12から左右方向の外側へ向けて突出して設けられており、左右方向の外側へ行くにしたがって周方向の幅寸法(上下方向の幅寸法)が次第に大きくなっている。ゴム脚18は、外周面に開口して軸方向に貫通する凹溝20を備えている。ゴム脚18は、凹溝20を挟んで二股に分岐した形状とされており、凹溝20よりも上側部分が外周へ向けて上傾する分岐上部22とされていると共に、凹溝20よりも下側部分が外周へ向けて下傾する分岐下部24とされている。凹溝20は、インナ部材12の周方向においてゴム脚18の中央部分に設けられており、分岐上部22,22と分岐下部24,24が略上下対称形状とされている。一対のゴム脚18,18は、左右方向の内側端部がインナ部材12に固着されている。また、本体ゴム弾性体16は、インナ部材12の内周面を覆う嵌合ゴム26を備えており、嵌合ゴム26が一対のゴム脚18,18と一体とされている。嵌合ゴム26の内周には、前後方向に貫通するブラケット装着孔28が形成されている。ブラケット装着孔28は、嵌合ゴム26によって覆われたインナ部材12の内孔とみなすことができる。一対のゴム脚18,18は、本実施形態において左右対称な形状とされているが、互いに異なる非対称な形状とされていてもよい。
【0035】
本体ゴム弾性体16は、一対のゴム脚18,18の周方向間に上ストッパゴム30と下ストッパゴム32を備えている。上ストッパゴム30は、一対のゴム脚18,18の分岐上部22,22間に設けられており、インナ部材12から上方へ向けて突出している。上ストッパゴム30の先端面はゴム脚18の先端面よりも内周に位置しており、上ストッパゴム30のインナ部材12からの突出高さが、ゴム脚18の最大突出高さである分岐上部22の突出高さよりも小さくされている。下ストッパゴム32は、一対のゴム脚18,18の分岐下部24,24間に設けられており、インナ部材12から下方へ向けて突出している。下ストッパゴム32の先端面はゴム脚18の先端面よりも内周に位置しており、下ストッパゴム32のインナ部材12からの突出高さが、ゴム脚18の最大突出高さである分岐下部24の突出高さよりも小さくされている。
【0036】
本実施形態の本体ゴム弾性体16は、インナ部材12から左右方向の両側へ突出する一対のゴム脚18,18と、インナ部材12から上方へ突出する上ストッパゴム30と、インナ部材12から下方へ突出する下ストッパゴム32とを、一体的に備えている。本体ゴム弾性体16は、インナ部材12を備える一体加硫成形品として形成されている。
【0037】
本体ゴム弾性体16は、アウタ部材14に非接着で取り付けられている。アウタ部材14は、金属や繊維補強合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。アウタ部材14は、アウタ本体34にプレート36が取り付けられた構造を有している。アウタ本体34は、本体ゴム弾性体16が取り付けられる筒部38と、筒部38から下方へ延び出す取付部40とを、一体的に備えている。
【0038】
筒部38は、前後方向に延びる略円筒形状とされており、軸方向に貫通する本体ゴム装着孔42を備えている。本体ゴム装着孔42は、後端(図2中の右端)から前端(図2中の左端)へ向けて次第に大径となっており、内周面が抜きテーパを有することによって、筒部38の型成形が容易になっている。筒部38の軸方向一方(後方)の端部には、内周へ向けて突出する係止突部44,44が一体形成されている。係止突部44は、周方向で部分的に設けられている。本実施形態では、係止突部44,44が左右方向の両側に設けられており、筒部38の前側の開口が、上下方向が長軸とされた楕円状となるように、係止突部44,44によって部分的に塞がれている。
【0039】
筒部38の軸方向他方(前方)の端面には、かしめ突起46が突出している。かしめ突起46は、小径の円柱状とされており、周方向で相互に離れた4か所に設けられている。かしめ突起46は、筒部38の上下方向の中央及び左右方向の中央を外れた位置に配置されている。
【0040】
取付部40は、厚肉の略板状とされており、筒部38と一体形成されて、筒部38から下方へ突出している。取付部40は、左右方向の幅寸法が下方に向けて大きくなっている。取付部40は、左右方向の両端部分において下面に開口する図示しないねじ穴を備えており、ねじ穴に螺着される図示しないボルトによって、図示しない車両ボデー等に取り付けられる。取付部40は、筒部38に隣接する上端部分が隣接部48とされている。隣接部48は、前面が前後方向に対して直交して広がる平面とされている。隣接部48の前面は、筒部38の前面よりも前方に位置しており、筒部38の前面に対して段差をなしている。隣接部48には、前面に開口する円形断面の緩衝ゴム取付孔50が、左右方向で相互に離れた2か所に設けられている(図4参照)。なお、取付部40の構造は、例えば、車両ボデーへの装着構造等に応じて適宜に変更され得る。具体的には、例えば、本実施形態ではねじ穴によって車両ボデーに固定可能な構造の取付部40を例示したが、車両ボデーへの固定用の植設ボルトが取付部に設けられていてもよい。
【0041】
アウタ本体34には、図2図3に示すように、本体ゴム弾性体16が取り付けられている。本体ゴム弾性体16は、筒部38の後端開口から筒部38の本体ゴム装着孔42へ挿入されて、筒部38に対して非接着で取り付けられている。本体ゴム弾性体16は、一対のゴム脚18,18の分岐上部22と分岐下部24の先端面がそれぞれ筒部38の内周面に押し当てられており、本体ゴム装着孔42内で弾性的に位置決めされていると共に、一対のゴム脚18,18が筒部38への装着状態において径方向に予圧縮されている。本体ゴム弾性体16は、一対のゴム脚18,18の外周端部である先端部分が、筒部38の係止突部44,44に対して軸方向(前後方向)の投影において重なり合う位置に配されており、係止突部44,44との当接によって筒部38に対する挿入方向の移動量が制限される。なお、係止突部44,44は、静置状態において一対のゴム脚18,18の先端部分に対して軸方向で当接していてもよいが、好適には離隔している。これにより、通常振動の入力時に一対のゴム脚18,18の変形が係止突部44,44によって制限されるのを防いで、柔らかいばね特性を実現し易くなる。
【0042】
筒部38の内周面には、一対のゴム脚18,18の分岐上部22と分岐下部24の先端部分に対応する周方向の位置において、内周へ向けて開口する複数の凹部52が設けられている。この凹部52にゴム脚18の分岐上部22と分岐下部24の先端部分が差し入れられることにより、分岐上部22と分岐下部24の先端部分が筒部38に対して周方向の移動を制限されている。
【0043】
筒部38の4つのかしめ突起46,46,46,46は、筒部38に挿入された本体ゴム弾性体16の一対のゴム脚18,18の分岐上部22,22と分岐下部24,24に対して、周方向でそれぞれ位置合わせされている。各かしめ突起46は、分岐上部22,22と分岐下部24,24の外周への延長上にそれぞれ位置している。各かしめ突起46は、筒部38の周方向において一対のゴム脚18,18の両端部と対応する位置で外周側に配されている。上側の2つのかしめ突起46,46は、図1中に一点鎖線で示す分岐上部22,22の幅方向の中心線の延長線上よりも周方向で上ストッパゴム30側(上側)に位置している。下側の2つのかしめ突起46,46は、図1中に同じく一点鎖線で示す分岐下部24,24の幅方向の中心線の延長線上よりも周方向で下ストッパゴム32側(下側)に位置している。各かしめ突起46は、下ストッパゴム32が配された筒部38の上下方向の中央と、上ストッパゴム30が配された筒部38の左右方向の中央とを外れた位置に設けられている。
【0044】
本体ゴム弾性体16の上下のストッパゴム30,32は、筒部38の内周面に対して所定の隙間(ストッパクリアランス)をもって離隔対向している。なお、上下のストッパゴム30,32と筒部38の内周面との対向面間距離は、後述する車両への装着状態においてパワーユニットの分担支持荷重が入力された状態において、適切なストッパクリアランスとなるように設定されている。
【0045】
本体ゴム弾性体16が取り付けられたアウタ本体34には、プレート36が取り付けられている。プレート36は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、図4に示すように、略円環板形状とされている。プレート36は、厚さ方向に貫通するかしめ孔54が周方向の4か所にそれぞれ設けられている。かしめ孔54は、かしめ突起46が挿通可能とされた円形孔であって、かしめ突起46と対応する位置に配置されている。プレート36は、左右方向の両側において内周へ向けて突出する抜止突部56,56が一体形成されており、抜止突部56,56が形成された左右両側部分の内径寸法が、抜止突部56,56を周方向に外れた上下両側部分の内径寸法よりも小さくなっている。要するに、プレート36の開口は、左右方向が上下方向よりも幅狭とされている。本実施形態では、プレート36の内径寸法が、左右方向において筒部38の前端開口の内径寸法よりも小さくされていると共に、上下方向において筒部38の前端開口の内径寸法よりも大きくされている。プレート36は、全体が略一定の厚さ寸法とされており、前面と後面がそれぞれ前後方向と略直交する平面とされている。
【0046】
プレート36は、アウタ本体34における筒部38の軸方向他方の端面(前端面)に重ね合わされている。筒部38のかしめ突起46がプレート36のかしめ孔54に挿通されることにより、筒部38とプレート36が周方向で相互に位置決めされている。そして、かしめ孔54に挿通されたかしめ突起46の先端部分が、突出方向に押し潰されて拡径変形せしめられる。これにより、かしめ突起46の先端部分がかしめ孔54よりも大径とされて、かしめ突起46のかしめ孔54からの抜けが阻止され、かしめ突起46の先端部分がかしめ孔54の開口周縁部においてプレート36にかしめ固定されて、プレート36がアウタ本体34に固定される。
【0047】
かしめ突起46がかしめ孔54の開口周縁部にかしめ固定されてなるかしめ固定部58は、周方向の4か所に設けられており、それぞれ一対のゴム脚18,18の外周への延長上に位置している。より具体的には、かしめ固定部58は、分岐上部22,22の外周への延長上と、分岐下部24,24の外周への延長上とにそれぞれ配されている。かしめ固定部58は、筒部38の周方向において、ゴム脚18の両端部分に対応する外周側にそれぞれ配されている。上側の2つのかしめ固定部58,58は、筒部38の周方向において、分岐上部22の幅方向の中心線の延長線上よりも上ストッパゴム30側に位置しており、分岐上部22の幅方向の中心線よりも上側に偏倚している。下側の2つのかしめ固定部58,58は、筒部38の周方向において、分岐下部24の幅方向の中心線の延長線上よりも下ストッパゴム32側に位置しており、分岐下部24の幅方向の中心線よりも下側に偏倚している。かしめ固定部58は、下ストッパゴム32が配された筒部38の上下方向の中央部分と、上ストッパゴム30が配された筒部38の左右方向の中央部分とを周方向において外れた位置に設けられており、上下のストッパゴム30,32の外周への延長上には配されていない。
【0048】
本体ゴム弾性体16を収容した筒部38の前面にプレート36が固定されることにより、筒部38の前側の開口がプレート36の抜止突部56,56によって部分的に覆われる。抜止突部56,56は、一対のゴム脚18,18の位置する左右両側部分に設けられており、一対のゴム脚18,18の先端部分(外周端部)が抜止突部56,56に軸方向の投影において重ね合わされている。これにより、一対のゴム脚18,18の先端部分は、筒部38に対する前側への移動量が抜止突部56,56への当接によって制限されており、筒部38に対する本体ゴム弾性体16の前側への抜けが防止される。一対のゴム脚18,18の先端部分は、係止突部44,44と抜止突部56,56の対向面間に位置しており、軸方向において筒部38に対して係止突部44,44と抜止突部56,56の対向面間に位置決めされて、前後両側において筒部38からの抜け出しが防止されている。なお、抜止突部56,56は、静置状態において一対のゴム脚18,18の先端部分に対して軸方向で当接していてもよいが、好適には離隔して、隙間をもって重ね合わされている。これにより、通常振動の入力時に一対のゴム脚18,18の変形が抜止突部56,56によって制限されるのを防いで、柔らかいばね特性を実現し易くなる。
【0049】
筒部38の係止突部44,44は、上下のストッパゴム30,32の軸方向(前後方向)の延長上には設けられていない。プレート36の抜止突部56,56は、周方向において上下のストッパゴム30,32が配された部分には設けられておらず、当該部分ではプレート36が筒部38よりも内周へ突出していない。即ち、周方向で上下のストッパゴム30,32が配された部分において、プレート36の内径が筒部38の内径以上とされており、本実施形態では、プレート36の内径が筒部38の内径よりも大きくされて、プレート36が筒部38の内周面よりも外周に位置している。これらにより、上下のストッパゴム30,32の前後両側において、筒部38の開口がプレート36によって覆われることなく開放されている。そして、上下のストッパゴム30,32は、前後方向の膨出変形が拘束されることなく許容されている。
【0050】
プレート36の装着状態において、アウタ本体34の取付部40には、緩衝ゴム60が取り付けられる。緩衝ゴム60は、図1図4に示すように、左右方向が長手の板状とされており、取付部40の上部である隣接部48に重ね合わされる。緩衝ゴム60は、左右方向で相互に離れた2か所において隣接部48への重ね合わせ面に突出する略円柱形状のピン状装着部62,62を備えている。ピン状装着部62は、例えば、全体としてアウタ本体34の緩衝ゴム取付孔50よりも小径の円柱状とされていると共に、緩衝ゴム取付孔50よりも大径とされた部分的な大径部を備えている。そして、ピン状装着部62,62が緩衝ゴム取付孔50,50に挿入されて、当該大径部が緩衝ゴム取付孔50,50の内面に嵌め合わされることにより、緩衝ゴム60がアウタ本体34に取り付けられている。アウタ本体34に取り付けられた緩衝ゴム60は、上端部の一部が筒部38上に位置しており、筒部38の前端面に固定されたプレート36の前面に対して重ね合わされている。緩衝ゴム60は、アウタ本体34の隣接部48と、プレート36の下端部分とに跨って重ね合わされている。
【0051】
インナ部材12には、図5図7に示すように、インナブラケット64が装着される。インナブラケット64は、鉄等の金属によって形成された高剛性の部材であって、インナ部材12のブラケット装着孔28に嵌め合わされる嵌合軸部66と、図示しないパワーユニットに固定される締結部68とを、一体的に備えている。嵌合軸部66は、略円柱形状とされており、嵌合ゴム26で覆われたインナ部材12の内孔(ブラケット装着孔28)に嵌合固定される。締結部68は、例えば、複数のボルト穴69を備えており、ボルト穴69に挿通される図示しないボルトによってパワーユニットに固定される。なお、締結部68の具体的な構造は、パワーユニット側の構造等に応じて適宜に変更され得る。
【0052】
インナブラケット64の締結部68は、図6図7に示すように、下方へ突出するストッパ部70を備えている。ストッパ部70は、前後方向に対して略直交して広がる板状とされている。ストッパ部70は、アウタ部材14におけるアウタ本体34の隣接部48と、プレート36の下端部とに対して、前方に離隔して対向配置されている。ストッパ部70と隣接部48及びプレート36の下端部との対向面間には、緩衝ゴム60が配されている。ストッパ部70と緩衝ゴム60は相互に離隔しており、ストッパ部70と緩衝ゴム60の間には適切なストッパクリアランスが設定されている。また、アウタ部材14の前面においてインナブラケット64のストッパ部70と前後方向で対向する部分がストッパ当接面72とされており、ストッパ当接面72がアウタ本体34の隣接部48とプレート36とに跨って設けられている。ストッパ当接面72は、周方向において下側のかしめ固定部58,58の間に位置しており、プレート36においてストッパ当接面72を構成する部分が、下側のかしめ孔54,54の周方向間に位置している。ストッパ当接面72は、プレート36における下側のかしめ孔54,54の形成部分を周方向に外れている。
【0053】
かくの如き構造とされた防振マウント10は、車両への装着状態において、インナ部材12とアウタ部材14の間に振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の一対のゴム脚18,18が弾性変形し、本体ゴム弾性体16の内部摩擦などに基づく防振効果が発揮される。
【0054】
一対のゴム脚18,18は、振動入力によってインナ部材12とアウタ部材14の間で略径方向に圧縮変形する際に、軸方向の膨出変形を伴う。本実施形態では、一対のゴム脚18,18と係止突部44,44及び抜止突部56,56とが軸方向において相互に離隔しており、通常の防振対象振動の入力時に一対のゴム脚18,18の軸方向の膨出変形が拘束されることがなく、一対のゴム脚18,18の径方向の圧縮変形が低い動ばね定数で許容される。従って、上下方向や左右方向の通常の振動入力に対して、低動ばね特性による防振性能を実現することができる。
【0055】
また、上下方向に大振幅の振動が入力されると、インナ部材12とアウタ部材14の筒部38とが上ストッパゴム30及び下ストッパゴム32を介して間接的に当接して、インナ部材12とアウタ部材14の相対変位量が制限される。これにより、一対のゴム脚18,18の過大な変形による損傷などが回避されて、耐久性の向上が図られる。このように、上下のストッパゴム30,32を介したインナ部材12とアウタ部材14の筒部38との当接によって、インナ部材12とアウタ部材14の上下方向の相対変位量を制限する軸直ストッパ機構が構成される。
【0056】
上下方向の大振幅振動が入力されると、一対のゴム脚18,18は、振動の入力方向に応じて分岐上部22,22又は分岐下部24,24が突出方向において大きく圧縮される。そして、圧縮変形した分岐上部22,22又は分岐下部24,24が軸方向に大きく膨出変形して、分岐上部22,22又は分岐下部24,24の軸方向端面が係止突部44,44及び抜止突部56,56に押し当てられ、筒部38とプレート36の間に前後方向で相互に引き離す力が作用する。プレート36の抜止突部56,56に作用する力に起因するプレート36の筒部38からの分離は、かしめ固定部58による固定力によって阻止される。ここにおいて、かしめ固定部58は、分岐上部22,22又は分岐下部24,24と抜止突部56,56の当接によるプレート36への最大入力位置と対応する位置、即ち最大入力位置と近接する位置に配されている。それゆえ、分岐上部22,22又は分岐下部24,24と抜止突部56,56の当接によってかしめ固定部58に及ぼされるモーメントが低減されて、かしめ固定部58の変形(損傷)が生じ難く、かしめ固定部58の耐久性の向上が図られて、プレート36の筒部38からの分離などが防止される。
【0057】
ところで、インナ部材12がアウタ部材14に対して上側へ相対変位して分岐上部22が圧縮される際のプレート36への最大入力位置は、分岐上部22の幅方向の中心線の延長よりも上側となる。そこで、分岐上部22の延長上に位置する上側のかしめ固定部58は、分岐上部22の幅方向の中心線の延長に対して上側に偏倚して配されており、上下入力による分岐上部22の圧縮に際して特に入力が大きくなる部分により近接して配置されている。これにより、上側のかしめ固定部58に作用するモーメントがより低減されて、かしめ固定部58の耐久性の向上によってプレート36の筒部38からの分離を防止することができる。
【0058】
また、インナ部材12がアウタ部材14に対して下側へ相対変位して分岐下部24が圧縮される際には、プレート36への最大入力位置が分岐下部24の幅方向の中心線の延長よりも下側となる。そこで、分岐下部24の延長上に位置する下側のかしめ固定部58は、分岐下部24の幅方向の中心線の延長に対して下側に偏倚して配されており、上下入力による分岐下部24の圧縮に際して特に入力が大きくなる部分により近接して配置されている。これにより、下側のかしめ固定部58に作用するモーメントがより低減されて、かしめ固定部58の耐久性の向上によってプレート36の筒部38からの分離を防止することができる。
【0059】
なお、かしめ固定部58が配されるプレート36への最大入力位置と対応する位置は、プレート36への最大入力位置と厳密に一致する必要はない。
【0060】
前後方向の大振幅振動の入力時には、本体ゴム弾性体16がアウタ部材14に対して前方へ移動して、分岐上部22,22及び分岐下部24,24が抜止突部56,56に当接し得る。この場合にも、プレート36に対して筒部38から引き離す前向きの力が作用するが、分岐上部22,22及び分岐下部24,24と抜止突部56,56との当接による入力位置に近接して配されたかしめ固定部58によって、プレート36の筒部38からの脱落が防止される。
【0061】
前後方向の大振幅振動の入力によってインナ部材12がアウタ部材14に対して後方へ大きく移動すると、インナブラケット64のストッパ部70が緩衝ゴム60で覆われたアウタ部材14のストッパ当接面72に対して間接的に当接する。これにより、インナ部材12のアウタ部材14に対する後方への相対変位量が制限されて、本体ゴム弾性体16の筒部38からの後方への抜け出しが防止されると共に、一対のゴム脚18,18の過大な変形が防止されることによる耐久性の向上が図られる。このように、インナブラケット64のストッパ部70とアウタ部材14のストッパ当接面72との緩衝ゴム60を介した当接によって、インナ部材12のアウタ部材14に対する後方への相対変位量を制限する軸方向ストッパ機構が構成される。
【0062】
緩衝ゴム60は、プレート36とアウタ本体34の隣接部48とに跨って重ね合わされており、軸方向ストッパ機構を構成するストッパ当接面72は、プレート36の前面とアウタ本体34の隣接部48の前面とに跨って設けられている。これにより、アウタ本体34の筒部38の前端面にプレート36を重ね合わせてかしめ固定した構造において、ストッパ当接面72の面積を広く確保することができる。
【0063】
アウタ本体34において、隣接部48の前面は、筒部38の前面よりも前方に突出して位置している。隣接部48の前面は、筒部38の前面に対して、プレート36の厚さだけ前方に位置しており、筒部38の前面に重ね合わされたプレート36の前面は、隣接部48の前面と略同じ平面上に位置している。平面的なストッパ当接面72をプレート36の前面と隣接部48の前面に跨って得ることにより、ストッパ部70がプレート36と隣接部48の何れかに偏って当接するのを回避できて、ストッパ当接面72における有効な受圧面積を大きく確保することができる。なお、ストッパ当接面72を構成する隣接部48の前面とプレート36の前面は、部品の寸法公差や組み付けの誤差等によって前後方向で僅かにずれることも考えられるが、そのような微小な位置ずれは、ストッパ部70とストッパ当接面72が緩衝ゴム60を介して当接することから、実質的に問題ならない。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ゴム脚18は、必ずしも分岐上部22と分岐下部24とを備える二股形状に限定されず、インナ部材12から左右両側へ突出する一文字状などであってもよい。また、一対のゴム脚18,18は、例えば左右方向の外方へ行くにしたがって下傾するハの字状とされていてもよい。
【0065】
かしめ固定部58の配置は、想定される振動の入力方向等に応じて、プレート36への最大入力位置に対応するように適宜に変更され得る。例えば、防振マウント10に対して左右方向の大振幅振動が入力される場合に、かしめ固定部58の位置は、分岐上部22と分岐下部24の外周への延長上において、凹溝20側の周方向端部に近い位置に設定され得る。また、より大きな固定強度が必要とされる場合には、プレート36への最大入力位置と対応する位置だけでなく、当該位置を外れた部分にもかしめ固定部58を設けることができる。
【0066】
本体ゴム弾性体16は、一対のゴム脚18,18に加えて、別のゴム脚を備えていてもよい。具体的には、例えば、本体ゴム弾性体は、左右一対のゴム脚18,18に加えて、インナ部材12から上下少なくとも一方へ延び出すゴム脚を備えていてもよい。
【0067】
抜止突部56は、前記実施形態に示すように、ゴム脚18,18の外周端部に対応する部分において周方向で部分的に設けられていることが望ましいが、全周にわたって設けられていてもよい。係止突部44は、抜止突部56と同様に、周方向で部分的に設けられていてもよいし、全周にわたって設けられていてもよい。
【0068】
前記実施形態では、インナ部材12が本体ゴム弾性体16の内周部分に略埋設状態で固着された筒状の部材とされていたが、例えば、前記実施形態のインナブラケット64に相当する部材をインナ部材とすることもできる。インナ部材12は、本体ゴム弾性体16に固着されている必要はなく、非接着で取り付けられていてもよい。
【0069】
前記実施形態では、エンジンマウントやモータマウント等のパワーユニットを防振支持する防振マウント10を例示したが、本発明は、例えば、デフマウント等のパワーユニット以外を防振支持する防振装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 防振マウント(防振装置)
12 インナ部材
14 アウタ部材
16 本体ゴム弾性体
18 ゴム脚
20 凹溝
22 分岐上部
24 分岐下部
26 嵌合ゴム
28 ブラケット装着孔
30 上ストッパゴム(ストッパゴム)
32 下ストッパゴム(ストッパゴム)
34 アウタ本体
36 プレート
38 筒部
40 取付部
42 本体ゴム装着孔
44 係止突部
46 かしめ突起
48 隣接部
50 緩衝ゴム取付孔
52 凹部
54 かしめ孔
56 抜止突部
58 かしめ固定部
60 緩衝ゴム
62 ピン状装着部
64 インナブラケット
66 嵌合軸部
68 締結部
69 ボルト穴
70 ストッパ部
72 ストッパ当接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7