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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】高架橋または橋梁の角折れ防止装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20240326BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240326BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E01D1/00 Z
E01D21/00 Z
E01D19/04 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020213345
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099538
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-02-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 鉄道工学シンポジウム論文集 第24号 令和2年7月6日 発行
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】徳永 宗正
(72)【発明者】
【氏名】田所 敏弥
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152586(JP,A)
【文献】特開2009-235729(JP,A)
【文献】特開2009-155932(JP,A)
【文献】特開2012-154130(JP,A)
【文献】特開2019-015122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高架橋または橋梁において、橋軸方向に隣接して設置された構造物同士を跨いで設置される角折れ防止装置であって、
隣接する前記構造物同士が対向する端部にそれぞれ配置される2つのベースプレートと、
前記ベースプレート同士を連結する連結部材と、
前記ベースプレートを前記構造物に固定するアンカーボルトと、を有し、
前記ベースプレートは、支承部材を介さず前記構造物の端部に直接配置され、
連続して隣接する2つの前記構造物と前記角折れ防止装置は、橋軸方向に直列的に配置されることを特徴とする、高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項2】
2つの前記ベースプレートと前記連結部材とを連結するブラケットを有することを特徴とする、請求項1に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項3】
前記構造物の橋軸方向の変位に対応可能なクリアランスが設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項4】
片方の前記ベースプレートに形成された前記アンカーボルト用のボルト孔を橋軸方向に長い長孔とすることによって、前記クリアランスが設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項5】
前記連結部材と片方の前記ベースプレートとの連結部分が、橋軸方向に隙間を設けた状態で連結されていることによって、前記クリアランスが設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項6】
前記連結部材の引張方向の降伏耐力Pyが、式(1)を満たし、
回転耐力Myは、前記構造物をモデル化したシミュレーションにより求められ、前記構造物の角折れ量が一定の値以下になるときの回転耐力であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
Py=My/2L ・・・(1)
My:構造物の角折れを抑制するために必要な回転耐力
L:構造物の中心から角折れ防止装置までの距離
【請求項7】
前記回転耐力Myは4000kN・m以上であることを特徴とする、請求項6に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項8】
架道橋を有する構造物の中心から4.5mの位置に取り付ける場合、前記連結部材は、前記橋軸方向の水平耐力が400kN以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項9】
前記アンカーボルトの合計せん断耐力が、前記連結部材の水平耐力よりも大きいことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の高架橋または橋梁用角折れ防止装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の角折れ防止装置を、高架橋または橋梁の構造物の軌道の外側に施工することを特徴とする、高架橋または橋梁の角折れ防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に鉄道用桁式高架橋や橋梁などの耐震補強として用いられる角折れ防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高架橋や橋梁は、支持地盤の違いや地上の交通状況等に応じて、異なる種類の構造物が橋軸方向に沿って設置されている。このような高架橋や橋梁では、地震時に、隣接構造物間に目違いや角折れ等の不同変位が生じることがある。例えば張出式ラーメン高架橋等では目違いが起こりやすく、ゲルバー式ラーメン高架橋を含む桁式高架橋や桁式橋梁等では、隣接する構造物間の振動特性が異なることにより角折れが起こりやすい。地震時に生じるこれらの不同変位を抑制することは、列車や車両の走行の安全性を確保するために重要である。
【0003】
既設の鉄道構造物では、通常、道路等の交差物がない位置にはラーメン高架橋が設置され、交差物がある位置にはラーメン橋台や橋脚を用いた橋桁が設置されている。図1は、道路と交差する位置周辺の調整桁式ラーメン高架橋(架道橋)構造物1の一例を示す。高架橋構造物1は、道路上の橋桁11とラーメン高架橋12との連結部分に調整桁13を有している。橋桁11は、橋軸の前後方向両端部がラーメン橋台14で支えられており、道路上の橋桁11を支えるラーメン橋台14は、ラーメン高架橋12とは構造形式が異なる。また、橋桁11と調整桁13とは重量が大きく異なる。すなわち、道路と交差する位置では、ラーメン高架橋12からラーメン橋台14に構造が変化することから振動性状が異なり、これが原因で地震時に応答変位の位相差が生じ、図1に示すように、鉛直軸線廻りの角度のずれである角折れ10が発生しやすい。
【0004】
そこで、従来、既設の鉄道構造物の角折れを抑制する手法として、隣接する構造物同士の振動性状の調整や、不同変位を物理的に抑制する装置の設置等が考えられてきた。
【0005】
隣接する構造物同士の振動性状の調整方法としては、非特許文献1に、ダンパーブレースを設ける方法が開示されている。また、角折れを物理的に抑制する装置については、非特許文献2に開示されているように、隣接構造物同士を鋼製部材で線路方向に接続する角折れ防止装置が開発されている。これは、ラーメン高架橋の固定支承側に角折れ防止装置を設けたものであり、鉄道用ラーメン高架橋を対象として、その効果は実験および数値解析で一部検証されている。
【0006】
また、特許文献1には、固定支承を介して連結された調整桁とラーメン高架橋との連結箇所に適用される角折れ防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-17192号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】喜多直之、吉田幸司、岡野素之、関雅樹:鉄道RCラーメン高架橋を対象とした圧縮型ダンパーブレース工法の実用化,土木学会論文集F、Vol.63,No.3,pp.277-pp.286,2007.3
【文献】丸山直樹、曽我部正道、谷村幸裕、原田和洋、黒岩俊之、笠倉亮太:鉄道高架橋用角折れ防止装置の性能評価、鉄道力学論文集、pp.162-169、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1のようにダンパーやブレースを設置する方法は、設置する空間が十分に確保される必要があり、施工できる場所が限定される。
【0010】
また、非特許文献2に記載された角折れ防止装置は、片持ちスラブの上面に設置するものであり、バラスト軌道では設置スペースが限られることや、日中の施工が困難となることなど、施工性に難点がある。
【0011】
また、特許文献1に記載された角折れ防止装置は、固定支承のみに適用されるものであり、この場合、高架橋全体に対してある程度の効果は得られるが、可動支承上の桁に直接的に設置していないため、相対的に可動支承上の角折れが大きくなるという問題が生じる。
【0012】
以上のように、いずれの場合も、適用可能な範囲が限定されるという問題があり、軌道上の鉄道の走行を妨げずに施工することができ、角折れが顕著となる鉄道ラーメン橋台等に適用できる角折れ防止装置が求められている。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、設置スペースや施工性などにおいて広い適用範囲を有し、高架橋や橋梁の角折れを防止することができる角折れ防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題を解決するため、本発明は、高架橋または橋梁において、橋軸方向に隣接して設置された構造物同士を跨いで設置される角折れ防止装置であって、隣接する前記構造物同士が対向する端部にそれぞれ配置される2つのベースプレートと、前記ベースプレート同士を連結する連結部材と、前記ベースプレートを前記構造物に固定するアンカーボルトと、を有し、前記ベースプレートは、支承部材を介さず前記構造物の端部に直接配置され、連続して隣接する2つの前記構造物と前記角折れ防止装置は、橋軸方向に直列的に配置されることを特徴としている。
【0015】
前記角折れ防止装置は、2つの前記ベースプレートと前記連結部材とを連結するブラケットを有していてもよい。
【0016】
前記角折れ防止装置が高架橋または橋梁の可動支承側に設けられる場合、前記構造物の橋軸方向の変位に対応可能なクリアランスが設けられる。その場合、片方の前記ベースプレートに形成された前記アンカーボルト用のボルト孔を橋軸方向に長い長孔とすることによって、前記クリアランスが設けられていてもよい。あるいは、前記連結部材と片方の前記ベースプレートとの連結部分が、橋軸方向に隙間を設けた状態で連結されていることによって、前記クリアランスが設けられていてもよい。
【0017】
前記連結部材の引張方向の降伏耐力Pyが、式(1)を満たし、回転耐力Myは、前記構造物をモデル化したシミュレーションにより求められ、前記構造物の角折れ量が一定の値以下になるときの回転耐力であることが好ましい。その場合、前記回転耐力Myは4000kN・m以上であることが好ましい。
Py=My/2L ・・・(1)
My:構造物の角折れを抑制するために必要な回転耐力
L:構造物の中心から角折れ防止装置までの距離
【0018】
道橋を有する構造物の中心から4.5mの位置に取り付ける場合、前記連結部材は、前記橋軸方向の水平耐力が400kN以上であることが好ましい。また、前記アンカーボルトの合計せん断耐力が、前記連結部材の水平耐力よりも大きいことが好ましい。
【0019】
また、本発明によれば、前記角折れ防止装置を、高架橋または橋梁の構造物の軌道の外側に施工することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡易な構成で隣接する構造物同士を連結し、地震時に、構造が異なる各構造物がそれぞれ異なる固有周期で振動するのを抑制し、隣接構造物間の相対変位を物理的に抑えることができる。しかも、高架橋や橋梁の下面や側面等に施工することができるので、広いスペース等を必要とせず、且つ、橋の上の軌道上の鉄道等の走行を妨げることなく取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】高架橋構造物の例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態の一例としての角折れ防止装置の平面図であり、(a)は固定支承用、(b)は可動支承用である。
図3】本発明の実施形態の異なる例としての角折れ防止装置の側面図であり、(a)は固定支承用、(b)は可動支承用である。
図4図2に示す角折れ防止装置の設置例を示す斜視図である。
図5図2に示す角折れ防止装置の異なる設置例を示す斜視図である。
図6図2に示す角折れ防止装置のさらに異なる設置例を示す斜視図である。
図7図3に示す角折れ防止装置の設置例を示す斜視図であり、(a)はラーメン橋台、(b)は壁式橋脚に設置する場合を示す。
図8】高架橋構造物の解析モデル化の例を示す図である。
図9】角折れ防止装置の挙動をモデル化したグラフであり、(a)は固定支承用の角折れ防止装置の場合、(b)は可動支承用の角折れ防止装置の場合である。
図10】回転耐力と角折れとの関係を示すシミュレーション結果のグラフである。
図11】角折れ防止装置の引張耐力と角折れ発生比率との関係を示すシミュレーション結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
本発明の実施形態にかかる角折れ防止装置2は、片持ちスラブの上面に設置していた上記従来技術の課題に対し、高架橋や橋梁の軌道の外側から施工できるものである。図2(a)は、本発明の実施形態の一例としての角折れ防止装置2を示すものである。角折れ防止装置2は、図1に示した高架橋構造物1において、例えば道路上の橋桁11と調整桁13とを跨いで設置され、角折れ10を防止するために適用される。以下の説明においては、ラーメン高架橋12、調整桁13、ラーメン橋台14等をまとめて構造物9という。
【0024】
角折れ防止装置2は、2つの平板状のベースプレート21,21と、ベースプレート21,21同士を連結する連結部材22と、ベースプレート21,21を構造物9に固定するためのアンカーボルト23とを有している。ベースプレート21には、アンカーボルト23を挿通するためのボルト孔31が開けられている。アンカーボルト23は、一般的な種々のあと施工アンカーを用いることができるが、振動等の影響を考慮すると、接着系アンカーが望ましい。連結部材22は、例えばH形鋼等、後述する所定の断面性能を有する部材が用いられ、例えば溶接等でベースプレート21,21に固定される。
【0025】
図2(a)に示す角折れ防止装置2は、固定支承側に用いられる場合の例であり、可動支承側に用いられる場合には、図2(b)に示すように、隣接する構造物9同士の間隔が変化した場合に、ベースプレート21,21同士の距離が可変となるようなクリアランス(遊間)を設けたものが用いられる。すなわち、図2(b)の例では、片方のベースプレート21のボルト孔31が、橋軸方向に長い長孔であり、隣接する構造物9同士が水平変位して間隔が変化した場合に対応できるようになっている。これは、可動支承において温度変化等に伴う構造部材の伸縮を拘束しないために有効である。
【0026】
図3は、角折れ防止装置2の異なる実施形態を示すものであり、平板状の2つのベースプレート21,21と連結部材22とが、それぞれブラケット24を介して連結されたものである。ブラケット24は、ベースプレート21および連結部材22のフランジ32にそれぞれ当接する面を有し、ブラケット24と連結部材22とは、ボルト25で連結されている。あるいは、ベースプレート21とブラケット24とが一体に成形されたものであってもよい。図3(a)は固定支承側に用いられる場合の例であり、可動支承など、水平方向の距離を可変とする場合には、図3(b)に示すように、連結部材22とブラケット24との間に、橋軸方向に隙間を設けた状態でボルト6で連結することにより、温度変化等に伴って構造物9同士の間隔が変化した場合に対応できるクリアランスを有している。
【0027】
図4図7は、図2または図3に示す角折れ防止装置2の設置例を示すものである。本発明の実施形態にかかる角折れ防止装置2は、前述のように、高架橋や橋梁の軌道の外側から施工できることを特徴としている。
【0028】
図4は、図2の角折れ防止装置2の設置例を示すものである。角折れ防止装置2は、隣接する片持ちスラブ41の先端同士を跨いで設置され、高架橋や橋梁の構造物9の片持ちスラブ41の下面にベースプレート21が当接されている。この例では、先ず、片持ちスラブ41の下面の、ベースプレート21を取り付ける位置に、ベースプレート21のボルト孔31に合わせてアンカーボルト23用の孔を形成する。そして、ベースプレート21を所定の位置に当接してアンカーボルト23を打ち込むことで、2つのベースプレート21,21が、隣接する片持ちスラブ41の下面にそれぞれ固定され、角折れ防止装置2と構造物9とが一体化される。これにより、隣接する構造物9同士の位相差を抑制し、角折れを防止する。例えば主桁数の少ない桁の場合、片持ちスラブ41の張り出し長さが比較的大きいため、隣接する桁の片持ちスラブ41下面同士を接続するためのスペースを確保できる場合が多く、図4のような施工方法が有用である。このように、本実施形態によれば、角折れ防止装置2を高架橋構造物の下面に取り付けることにより、高架橋の軌道上に影響を与えず、日中の施工が可能となる。
【0029】
図5は、図2の角折れ防止装置2の異なる設置例を示すものであり、角折れ防止装置2は、隣接する片持ちスラブ41の主梁42同士を跨いで設置されている。図5の例では、構造物9の主梁42の側面の、ベースプレート21を取り付ける位置に、ベースプレート21のボルト孔31に合わせてアンカーボルト23用の孔を形成する。そして、ベースプレート21を所定の位置に当接してアンカーボルト23を打ち込むことで、2つのベースプレート21,21が主梁42の側面にそれぞれ固定され、角折れ防止装置2と構造物9とが一体化される。
【0030】
図6は、図1の角折れ防止装置2のさらに異なる設置例を示すものであり、角折れ防止装置2は、隣接する片持ちスラブ41の地覆43同士を跨いで設置されている。図6の例では、地覆43の外側面の、ベースプレート21を取り付ける位置に、ベースプレート21のボルト孔13に合わせてアンカーボルト23用の孔を形成する。そして、ベースプレート21を所定の位置に当接してアンカーボルト23を打ち込むことで、2つのベースプレート21,21が地覆43の外側面にそれぞれ固定され、角折れ防止装置2と構造物9とが一体化される。多くの高架橋構造物において、片持ちスラブ41の先端では地覆43が連続しているため、このように地覆43に施工することが可能である。
【0031】
また、図7は、ベースプレート21,21をそれぞれ異なる構造部材に取り付ける施工例を示す。図7(a)は、一方を主梁42の下面、他方をラーメン橋台14の桁44の側面に取り付けた場合、図7(b)は、一方を片持ちスラブ41の下面、他方を壁式橋脚15の躯体に取り付けた場合である。ラーメン橋台14および壁式橋脚15の躯体の場合、設置箇所は比較的自由度が大きいと考えられるため、対となる上部工での設置位置は、片持ちスラブ41や主梁42等が想定される。この場合、2つのベースプレート21,21の取り付け方向が異なるため、それに対応した形状のブラケット24を介してベースプレート21と連結部材22とを連結する。図7の場合も、高架橋の軌道上に影響を与えずに施工することが可能となる。
【0032】
図4図7の実施形態において、角折れ防止装置2は、クリアランスの有無いずれの場合にも適用可能である。
【0033】
以上のように、本発明によれば、鉄道用高架橋や橋梁の角折れ防止装置2を軌道上に施工することなく設置できる。なお、上記各実施形態においては、ネットやチェーンなどを用いて、地震時等に角折れ防止装置2が破損した際の下方への落下を防ぐ手段を設けることが好ましい。
【0034】
次に、本発明の角折れ防止装置2を鉄道ラーメン橋台や鉄道橋脚に適用するために必要とされる諸元について説明する。
【0035】
図1に示すような、鉄道用のラーメン高架橋12、PC桁(橋桁11)、ラーメン橋台14、調整桁13等で構成される代表的な架道橋部の構造物群のモデルによる数値解析を行い、その解析結果から、角折れ防止装置2の諸元と角折れ抑制効果を定量的に明らかにした。これにより、ラーメン橋台14を含む高架橋や橋梁などの構造物に適用できる最適な角折れ防止装置2の諸元を求めた。
【0036】
図8は、高架橋構造物1のモデル化の一例を示す。中央の道路を跨ぐ位置にラーメン橋台RAが設置され、橋軸方向においてその前後に、ラーメン高架橋Rが設置されている。図8のFは固定支承を表し、Mは可動支承を表す。このモデルは、高架橋構造物の代表的なパターンである。
【0037】
また、角折れ防止装置2の挙動として、水平変位δと水平力Pとの関係を、図9に示すようにモデル化した。図9(a)はクリアランスを設けない角折れ防止装置の場合、図9(b)はクリアランスを設けた場合の挙動のモデルを示す。
【0038】
角折れ防止装置2は、構造物9の中心からの橋軸直角方向の設置位置に依存して効果が異なるが、角折れ防止装置2がある程度の回転剛性を有していれば、角折れ防止装置2による回転耐力(降伏モーメント)Myで効果を把握できることがわかっている。
My=2Py×L ・・・(1’)
Py:角折れ防止装置の連結部材の引張方向の降伏耐力
L:構造物の中心から角折れ防止装置までの距離
【0039】
図10は、図8に示す高架橋構造物において、図9に示す挙動を示す角折れ防止装置2を用いた場合、地震波を作用させて応答解析したシミュレーション結果を示す。図10より、回転耐力Myが4000kN・m程度で角折れ量の低下は頭打ちとなり、これ以上回転耐力Myを大きくしても角折れ防止効果はほとんど上がらないことがわかる。すなわち、本発明の実施形態にかかる角折れ防止装置2は、連結部材22の降伏耐力Pyと構造物中心から角折れ防止装置2までの距離Lにより求められる回転耐力が所定の値であればよく、図9のモデルのような挙動を示すことを前提にすれば、その回転耐力Myは例えば4000kN・m程度で角折れ防止装置2の効果を効率よく発揮できる。これにより、角折れ防止装置2が、何らかの都合で施工位置を変更する場合や、概ね同一構造の構造物へ転用する場合などにおいて、式(1’)を用いて容易に設計変更が可能になる。
【0040】
具体的な角折れ防止装置2の諸元の例を説明する。例えば図4に示す位置に施工したときの構造物中心から角折れ防止装置2までの距離Lを4.5mとした場合、式(1’)より、角折れ防止装置1の連結部材3の降伏耐力(荷重)Pyは、
Py=My/2L ・・・(1)
My:構造物の角折れを抑制するために必要な回転耐力
L:構造物の中心から角折れ防止装置までの距離
で求められる。また、シミュレーションにより、無補強の場合と、回転耐力を有する角折れ防止装置2で補強した場合の角折れ比率を求めた結果を図11に示す。図11から、角折れ防止装置2の連結部材22の引張降伏耐力(荷重)Pyが400kN程度で角折れ発生比率が著しく低くなり、降伏耐力Pyが400kNを超えても、角折れ防止効果は変わらないことがわかる。つまり、降伏耐力Pyが400kNで角折れ防止装置の効果を効率よく発揮できる。降伏耐力(荷重)Pyが400kN程度に対応する連結部材22の一例として、H-100×100(SS400)のH形鋼を用いることができる。なお、連結部材22の材質は、鋼材の他、要求される強度を有するものであれば、例えばCFT等でもよい。
【0041】
また、地震等の大きな水平力が作用した際、連結部材22以外の部材が降伏すると、荷重変位関係が複雑になると想定されることや、高架橋または橋梁の構造体のスラブが破壊すると修復が困難となること等から、角折れ防止装置2は、連結部材22よりも先にベースプレート21やアンカーボルト23が降伏しないように設計することが好ましい。
【0042】
すなわち、アンカーボルト23の合計せん断耐力が、連結部材22の引張耐力よりも大きくなるように、アンカーボルト23の断面積および本数が設計される。なお、アンカーボルト23の引張耐力は、角折れ防止装置2の自重を支えることができればよい。また、連結部材22とブラケット24とをボルト25で連結する場合には、ボルト25の引張耐力が連結部材22の引張耐力を下回らないように、ボルト25の断面積および本数を設計する。ベースプレート21やブラケット24の板厚等は、通常の鋼構造の強度設計に基づいて行えばよい。なお、本発明では、ベースプレート21やブラケット24、ボルト25等は鋼材が好適であるが、当該鋼材と同等の特性および強度を有する他の材質を排除するものではない。
【0043】
以上、本発明の実施形態にかかる角折れ防止装置によれば、鉄道用高架橋や橋梁などにおいて、地震時に、構造が異なる各構造物がそれぞれ異なる固有周期で振動するのを抑制し、隣接構造物間の相対変位を物理的に抑えることで、隣接構造物間で生じる角折れを防ぎ、列車等の走行性を向上させることができる。
【0044】
しかも、角折れが顕著となる架道橋にも適用可能であり、構造物の下面や側面等に取り付けることができ、設置位置に多くの自由度を有している。このため、高架橋の軌道上に影響せず、鉄道等の走行を妨げることなく日中に施工作業を行うことができる。
【0045】
また、角折れ防止装置2の部材に要求される強度や角折れ防止効果を明確にしたことにより、高架橋や橋梁の補強対策が促進される。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、高架橋や橋梁等、橋軸方向に隣接する構造物の種類が異なる位置の角折れ防止装置として有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 高架橋構造物
2 角折れ防止装置
9 構造物
10 角折れ
11 橋桁
12 ラーメン高架橋
13 調整桁
14 ラーメン橋台
15 壁式橋脚
21 ベースプレート
22 連結部材
23 アンカーボルト
24 ブラケット
25 ボルト
31 ボルト孔
32 フランジ
41 片持ちスラブ
42 主梁
43 地覆
44 桁
図1
図2
図3
図4
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図11