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特許7460518蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラム
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  • 特許-蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラム 図1
  • 特許-蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/00 20060101AFI20240326BHJP
   G01F 1/00 20220101ALI20240326BHJP
   F22G 3/00 20060101ALI20240326BHJP
   G05D 22/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F22B35/00 Z
G01F1/00 Y
F22G3/00 Z
G05D22/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020218211
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103521
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花野 郁也
(72)【発明者】
【氏名】山本 博道
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-141407(JP,A)
【文献】特開2005-091010(JP,A)
【文献】特開平07-253819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B1/18,35/00-35/18
F22G1/00-7/14
G01F1/00
G05D22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を通過させる第1のラインと、
前記第1のラインに接続される入口を有し、前記蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段と、
前記減圧手段の出口に接続され、過熱蒸気を通過させる第2のラインと、
前記第1のラインに配置され、蒸気の流量を測定する流量計と、
前記第2のラインに配置され、過熱蒸気の温度を測定する温度計と、
前記第2のラインに対して前記温度計の下流において接続され、前記第2のラインに水を供給するための水供給手段と、
前記流量計によって測定される前記蒸気の流量、前記温度計によって測定される前記過熱蒸気の温度、および、前記第2のラインにおける目標の乾き度に基づいて、前記水供給手段から前記第2のラインに加える水の量を決定する制御装置と、
を備え
前記減圧手段の前記出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である、蒸気の湿り度を制御するためのシステム。
【請求項2】
前記第2のラインを流れる過熱蒸気の圧力は、前記減圧手段の前記出口における設定圧力±10kPaの範囲である、請求項1に記載の蒸気の湿り度を制御するためのシステム。
【請求項3】
蒸気を通過させ、かつ、前記蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに、蒸気の流量を測定するための流量計を配置するステップと、
前記減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに、前記過熱蒸気の温度を測定するための温度計を配置するステップと、
前記第2のラインに対して前記温度計の下流において、前記第2のラインに水を供給するための水供給手段を接続するステップと、
前記流量計、前記温度計、および、前記水供給手段に対して、制御装置を通信可能に接続するステップと、
前記制御装置において、前記流量計によって測定される前記蒸気の流量、前記温度計によって測定される前記過熱蒸気の温度、および、前記第2のラインにおける目標の乾き度に基づいて、前記水供給手段から前記第2のラインに加える水の量を決定するステップと、
を含み、
前記減圧手段の前記出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である、蒸気の湿り度を制御するための方法。
【請求項4】
蒸気を通過させ、かつ、前記蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、
前記減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、
前記第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、
前記流量計から受信した前記蒸気の流量、前記温度計から受信した前記過熱蒸気の温度、および、前記目標の乾き度に基づいて、水供給手段から前記第2のラインに加える水の量を決定するステップと、
を含み、
前記減圧手段の前記出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である、蒸気の湿り度を制御するための方法。
【請求項5】
蒸気を通過させ、かつ、前記蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、
前記減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、
前記第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、
前記流量計から受信した前記蒸気の流量、前記温度計から受信した前記過熱蒸気の温度、および、前記目標の乾き度に基づいて、水供給手段から前記第2のラインに加える水の量を決定するステップと、
を実行するように構成され
前記減圧手段の前記出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である、蒸気の湿り度を制御するための制御装置。
【請求項6】
蒸気を通過させ、かつ、前記蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、
前記減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、
前記第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、
前記流量計から受信した前記蒸気の流量、前記温度計から受信した前記過熱蒸気の温度、および、前記目標の乾き度に基づいて、水供給手段から前記第2のラインに加える水の量を決定するステップと、
をコンピュータに実行させ
前記減圧手段の前記出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気は様々な産業の工程で使用され、使用目的に応じてその温度および湿り度(または乾き度)等の特性が制御される。例えば、特許文献1は、蒸気の湿り度、乾き度または過熱度を制御するための装置を開示している。この装置では、蒸気管路に減圧弁が設けられ、減圧弁の下流に気液分離機が設けられる。気液分離機は、減圧弁から復水を含む蒸気を受け取り、蒸気から復水を除去して、蒸気のみを蒸気管路に流す。気液分離機の下流には、蒸気流量計が設けられる。この蒸気流量計には、気液分離機から復水が分離された蒸気のみが流入する。したがって、蒸気流量計は、蒸気管路を流れる蒸気の量を正確に測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-121262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、気液分離機によって蒸気から復水が除去されるので、一定の乾き度(湿り度)を有する蒸気しか提供できない。
【0005】
本発明は、上記のような課題を考慮して、所望の湿り度を有する蒸気を提供することができる、蒸気の湿り度を制御するためのシステム、方法、制御装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る蒸気の湿り度を制御するためのシステムは、蒸気を通過させる第1のラインと、第1のラインに接続される入口を有し、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段と、減圧手段の出口に接続され、過熱蒸気を通過させる第2のラインと、第1のラインに配置され、蒸気の流量を測定する流量計と、第2のラインに配置され、過熱蒸気の温度を測定する温度計と、第2のラインに対して温度計の下流において接続され、第2のラインに水を供給するための水供給手段と、流量計によって測定される蒸気の流量、温度計によって測定される過熱蒸気の温度、および、第2のラインにおける目標の乾き度に基づいて、水供給手段から第2のラインに加える水の量を決定する制御装置と、を備え、減圧手段の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である
【0008】
第2のラインを流れる過熱蒸気の圧力は、減圧手段の出口における設定圧力±10kPaの範囲であってもよい。
【0009】
本発明の他の態様は、蒸気の湿り度を制御するための方法であり、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに、蒸気の流量を測定するための流量計を配置するステップと、減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに、過熱蒸気の温度を測定するための温度計を配置するステップと、第2のラインに対して温度計の下流において、第2のラインに水を供給するための水供給手段を接続するステップと、流量計、温度計、および、水供給手段に対して、制御装置を通信可能に接続するステップと、制御装置において、流量計によって測定される蒸気の流量、温度計によって測定される過熱蒸気の温度、および、第2のラインにおける目標の乾き度に基づいて、水供給手段から第2のラインに加える水の量を決定するステップと、を含み、減圧手段の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である
【0010】
本発明のさらに他の態様は、蒸気の湿り度を制御するための方法であり、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、流量計から受信した蒸気の流量、温度計から受信した過熱蒸気の温度、および、目標の乾き度に基づいて、水供給手段から第2のラインに加える水の量を決定するステップと、を含み、減圧手段の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である
【0011】
本発明のさらに他の態様は、蒸気の湿り度を制御するための制御装置であり、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、流量計から受信した蒸気の流量、温度計から受信した過熱蒸気の温度、および、目標の乾き度に基づいて、水供給手段から第2のラインに加える水の量を決定するステップと、を実行するように構成され、減圧手段の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である
【0012】
本発明のさらに他の態様は、コンピュータを動作させるためのプログラムであり、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段の入口に接続される第1のラインに配置された流量計から、蒸気の流量を受信するステップと、減圧手段の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインに配置された温度計から、過熱蒸気の温度を受信するステップと、第2のラインにおける目標の乾き度の入力を受け付けるステップと、流量計から受信した蒸気の流量、温度計から受信した過熱蒸気の温度、および、目標の乾き度に基づいて、水供給手段から第2のラインに加える水の量を決定するステップと、をコンピュータに実行させ、減圧手段の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の湿り度を有する蒸気を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る蒸気の湿り度を制御するためのシステムを示す概略図である。
図2図2は、図1のシステム中の制御装置が記憶するテーブルの例を示す。
図3図3は、実施形態に係る蒸気の湿り度を制御するための方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、実施形態に係る蒸気の湿り度を制御するためのシステム100を示す概略図である。システム100は、蒸気を使用する様々な産業に適用可能である(例えば、食品を製造するための工程(例えば、蒸す工程、焼く工程、蒸留工程、殺菌工程、または、乾燥工程)、飼料を固形化する工程、繊維を延伸する工程または木材を変形させる工程等)。システム100が適用される産業は、上記の例示に限定されない。システム100は、蒸気供給手段1からの蒸気を、所定の圧力および湿り度(乾き度)に調整して、蒸気を必要とする工程に供給する。
【0017】
システム100は、蒸気供給手段1と、第1のラインL1と、減圧弁(減圧手段)2と、第2のラインL2と、流量計3と、温度計4と、水供給手段50と、スパージパイプ5と、制御装置6と、を備える。
【0018】
蒸気供給手段1は、例えばボイラであり、第1のライン(配管)L1に接続される。第1のラインL1には、流量計3が配置されており、第1のラインL1を流れる蒸気の流量Mを測定する。流量計3は、有線または無線で制御装置6と通信可能に接続されており、測定された流量Mのデータを制御装置6に送信する。
【0019】
第1のラインL1は、減圧弁2の入口(一次側)に接続される。第1のラインL1を流れる蒸気は、減圧弁2における断熱膨張によって過熱蒸気へと変換される。減圧弁2の設定圧力(出口(二次側)の設定圧力)は、大気圧(約0.1MPa)に近い微圧状態であり、例えば、大気圧+100kPa以下、好ましくは大気圧+50kPa以下、より好ましくは大気圧+30kPa以下である。以下に説明される湿り度の制御は、減圧弁2の設定圧力±10kPaの範囲で成り立ち得る(すなわち、第2のラインL2を流れる過熱蒸気の圧力は、減圧弁2の設定圧力±10kPaの範囲であり得る)。減圧弁2の出口は、第2のライン(配管)L2に接続されており、減圧弁2からの過熱蒸気が第2のラインL2を流れる。
【0020】
第2のラインL2には、温度計4が配置されており、第2のラインL2を流れる過熱蒸気の温度Tを測定する。温度計4は、有線または無線で制御装置6と通信可能に接続されており、測定された温度Tのデータを制御装置6に送信する。
【0021】
第2のラインL2において温度計4の下流には、水供給手段50が接続されており、水供給手段50から第2のラインL2に水が供給される。水供給手段50は、タンク51と、第3のラインL3と、ポンプ52と、バルブ53と、流量計54と、を有する。
【0022】
タンク51は、水を貯留する。タンク51は、第3のラインL3に接続されており、タンク51からの水が第3のラインL3を流れる。第3のラインL3には、ポンプ52が配置されており、タンク51の水がポンプ52によって圧送される。また、第3のラインL3には、バルブ(例えば、電動バルブ)53が配置されており、第3のラインL3を流れる水の流量がバルブ53によって調整される。さらに、第3のラインL3には、流量計54が配置されており、第3のラインL3を流れる水の流量mが流量計54によって測定される。第3のラインL3は、流量計54の下流で第2のラインL2に接続される。
【0023】
上記のポンプ52、バルブ53および流量計54は、有線または無線で制御装置6と通信可能に接続されている。流量計54は、測定された流量mのデータを制御装置6に送信し、制御装置6は、流量計54で測定される流量mが所望の値になるように、ポンプ52またはバルブ53の少なくとも一方を制御する。
【0024】
第2のラインL2を流れる過熱蒸気は、水供給手段50からの水によって冷却され、所定の湿り度を有する飽和蒸気(例えば、湿り飽和蒸気)へ変換される(詳しくは後述)。本実施形態では、第2のラインL2は、スパージパイプ5に接続されており、第2のラインL2を流れる飽和蒸気は、スパージパイプ5から必要な工程に供給される。しかしながら、第2のラインL2は、スパージパイプ5に代えて、他の装置(例えば、蒸し器等)に接続されてもよい。飽和蒸気は、使用によって潜熱を失っても、蒸気が在る限りは飽和温度に保たれる(大気圧下では100℃)。したがって、一定の温度で物品を加熱することができる。例えば、食品を蒸す工程に関して、過熱蒸気がこの工程に使用される場合、過熱蒸気は使用によって顕熱を失うと、その温度が変化してしまう。このため、一定の品質で食品を蒸すことができない可能性がある。対照的に、本実施形態に係る飽和蒸気が上記の工程に使用される場合、上記のように、その温度は一定に保たれるため、一定の品質で食品を蒸すことができる。なお、第2のラインL2を流れる過熱蒸気は、水供給手段50からの水によって冷却されることによって、乾き飽和蒸気(湿り度がゼロまたはほぼゼロ)へ変換されてもよい。
【0025】
制御装置6は、システム100を制御する。制御装置6は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)、デスクトップPC、ノートPC、サーバまたはタブレット等のコンピュータであることができ、プロセッサ(CPU等)、記憶装置(ハードディスク、ROMおよびRAM等)、表示装置(液晶ディスプレイおよびタッチパネル等)および入力装置(キーボード、ボタンおよびタッチパネル等)等の構成要素を含む(不図示)。例えば、以下に示される制御装置6の動作は、記憶装置に記憶されるプログラムによって実現されてもよい。また、システム100のオペレータは、第2のラインL2を流れる飽和蒸気の目標の乾き度D(%)を、入力装置を介して制御装置6に入力してもよい。
【0026】
制御装置6は、第2のラインL2を流れる過熱蒸気を、所望の湿り度を有する飽和蒸気に変換するために、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを、流量計3によって測定される蒸気の流量M、温度計によって測定される過熱蒸気の温度T、および、第2のラインL2における目標の乾き度Dに基づいて、決定する。
【0027】
具体的には、第2のラインL2を流れる過熱蒸気と(冷却前)、第2のラインL2に加えられる水と、第2のラインL2を流れる飽和蒸気と(冷却後)、の間には、以下の式(1),(2)が成り立つ。式(2)を式(1)に代入することによって、式(3)で示されるように、目標の乾き度D(すなわち、目標の湿り度(湿り度=100-D))を有する飽和蒸気を得るために必要な水の流量mを算出することが可能である。
M+Hm=H(M+m)・・・(1)
=h+hD/100・・・(2)
m=M(h+hD/100-H)/(-h-hD/100+H)・・・(3)
【0028】
ここで、
:過熱蒸気の全エンタルピ(温度Tおよび圧力によって決まる)
:湿り蒸気の全エンタルピ
:注入水のエネルギー
M:過熱蒸気の流量(飽和蒸気で測定)
m:加える水の流量
D(%):湿り蒸気の乾き度
:湿り蒸気の顕熱量(圧力によって決まる)
:湿り蒸気の潜熱(圧力によって決まる)
【0029】
上記のように、第2のラインL2を流れる過熱蒸気の圧力(すなわち、減圧弁2の設定圧力)は、大気圧に近い微圧状態であり、このような過熱蒸気では圧力変動が小さい。したがって、H,h,hを決定するために必要な圧力は、減圧弁2の設定圧力と見なすことができる。このようなシステム100では、第2のラインL2に過熱蒸気の圧力を測定するための圧力計を設ける必要が無い。よって、式(3)において、加える水の流量mを算出するために必要な測定値は、Hを決定するために必要な過熱蒸気の温度T(℃)および過熱蒸気の流量Mである。温度Tは、温度計4から得ることができる。第2のラインL2を流れる過熱蒸気の流量Mは、流量計3から得られる第1のラインL1を流れる蒸気の流量と同じである。したがって、制御装置6は、上記の式(3)に基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを決定する。
【0030】
図2は、図1のシステム100中の制御装置6が記憶するテーブルの例を示す。例えば、制御装置6は、図2に示されるようなテーブルを記憶装置に記憶してもよい。このテーブルは、上記の式(3)に基づいて計算され、単位流量(M=1(m/s))あたりの温度T(℃)の過熱蒸気を、乾き度D(%)の飽和蒸気に変換するために必要な各流量m(m/s)を示す。この場合、制御装置6は、オペレータから入力された目標の乾き度Dおよび温度計4によって測定された温度Tに基づいて、これら乾き度Dおよび温度Tに対応する流量mをテーブルから読み出し、この流量mに対して流量計3によって測定された流量Mをかけることによって、加える水の流量mを求めることができる。
【0031】
続いて、制御装置6の動作について説明する。
【0032】
図3は、実施形態に係る蒸気の湿り度を制御するための方法を示すフローチャートであり、制御装置6の動作を示す。例えば、図3に示される動作は、オペレータから目標の乾き度Dが入力されかつ飽和蒸気の供給を開始するための指示が入力された後に、開始されてもよい。
【0033】
制御装置6は、流量計3から蒸気の流量Mを受信する(ステップS100)。続いて、制御装置6は、温度計4から過熱蒸気の温度Tを受信する(ステップS102)。続いて、制御装置6は、流量計54から現在の水の流量mを受信する(ステップS104)。
【0034】
続いて、制御装置6は、流量計3から受信した蒸気の流量M、温度計4から受信した過熱蒸気の温度Tおよびオペレータから入力された目標の乾き度Dに基づいて、上記の式(3)に基づいて(または、上記の式(3)から得られる図2に示されるようなテーブルに基づいて)、加える水の流量mを決定する(ステップS106)。
【0035】
続いて、制御装置6は、ステップS104で受信した流量mと、ステップS106で決定された流量mとに基づいて、流量mの水が水供給手段50から第2のラインL2に供給されるように、水供給手段50(ポンプ52またはバルブ53の少なくとも一方)を制御する(ステップS108)。
【0036】
制御装置6は、上記のステップS100~S108を、例えばオペレータから任意の指示(例えば、飽和蒸気の供給を停止するための指示等)が入力されるまで、所定のインターバル(例えば、百~数百ミリ秒、一~数秒、十~数十秒、または、一~数分)で繰り返してもよい。
【0037】
以上のようなシステム100は、蒸気を通過させる第1のラインL1と、第1のラインL1に接続される入口を有し、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧弁2と、減圧弁2の出口に接続され、過熱蒸気を通過させる第2のラインL2と、第1のラインL1に配置され、蒸気の流量Mを測定する流量計3と、第2のラインL2に配置され、過熱蒸気の温度Tを測定する温度計4と、第2のラインL2に対して温度計4の下流において接続され、第2のラインL2に水を供給するための水供給手段50と、流量計3によって測定される蒸気の流量M、温度計4によって測定される過熱蒸気の温度Tおよび第2のラインL2における目標の乾き度Dに基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを決定する制御装置6と、を備える。システム100によれば、目標の乾き度D(すなわち、目標の湿り度)を有する飽和蒸気を得るために、過熱蒸気に加えるべき水の流量mを、制御装置6によって自動的に決定することができる。したがって、所望の湿り度を有する蒸気を提供することができる。
【0038】
また、システム100では、減圧弁2の出口における設定圧力は、大気圧以上かつ大気圧+100kPa以下の範囲である。このような微圧状態では、過熱蒸気の圧力変動は小さいため、流量mを決定するために必要なパラメータH1,hk,hsを求めるために必要な圧力を、減圧弁2の設定圧力と見なすことができる。例えば、第2のラインL2を流れる過熱蒸気の圧力は、減圧弁2の出口における設定圧力±10kPaの範囲である。よって、流量mを求めるための演算を簡略化することができる。また、上記のように、パラメータH1,hk,hsを求めるために必要な圧力を減圧弁2の設定圧力と見なすことができるため、第2のラインL2に対して、過熱蒸気の圧力を測定するための圧力計を設ける必要が無い。したがって、システム100の構成を簡略化することができる。
【0039】
また、システム100では、図1に示される構成要素のうち、流量計3、温度計4および水供給手段50は、蒸気供給手段1、第1のラインL1、減圧弁2および第2のラインL2を備える既存のシステムに対して、後から取り付けられてもよい。すなわち、実施形態に係る蒸気の湿り度を制御するための方法は、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧弁2の入口に接続される第1のラインL1に、蒸気の流量Mを測定するための流量計3を配置するステップと、減圧弁2の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインL2に、過熱蒸気の温度Tを測定するための温度計4を配置するステップと、第2のラインL2に対して温度計4の下流において、第2のラインL2に水を供給するための水供給手段50を接続するステップと、流量計3、温度計4および水供給手段50に対して、制御装置6を通信可能に接続するステップと、制御装置6において、流量計3によって測定される蒸気の流量M、温度計4によって測定される過熱蒸気の温度Tおよび第2のラインL2における目標の乾き度Dに基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを決定するステップと、を含む。このような方法によれば、既存のシステムに上記の構成要素を後付けすることによって、所望の湿り度を有する蒸気を提供することができる。なお、制御装置6は、既存のシステムに既に備えられているものであってもよく、上記の動作を実行するためのプログラムが、既存の制御装置6の記憶装置に対して後からインストールされてもよい。代替的に、上記の動作を実行するためのプログラムを予め記憶する制御装置6が、上記の流量計3、温度計4および水供給手段50と同様に、既存のシステムに対して後から取り付けられてもよい。
【0040】
また、制御装置6において実行される方法は、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧弁2の入口に接続される第1のラインL1に配置された流量計3から、蒸気の流量Mを受信するステップと、減圧弁2の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインL2に配置された温度計4から、過熱蒸気の温度Tを受信するステップと、第2のラインL2における目標の乾き度Dの入力を受け付けるステップと、流量計3から受信した蒸気の流量M、温度計4から受信した過熱蒸気の温度Tおよび目標の乾き度Dに基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを決定するステップと、を含む。
【0041】
また、制御装置6は、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧弁2の入口に接続される第1のラインL1に配置された流量計3から、蒸気の流量Mを受信するステップと、減圧弁2の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインL2に配置された温度計4から、過熱蒸気の温度Tを受信するステップと、第2のラインL2における目標の乾き度Dの入力を受け付けるステップと、流量計3から受信した蒸気の流量M、温度計4から受信した過熱蒸気の温度Tおよび目標の乾き度Dに基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを決定するステップと、を実行するように構成される。
【0042】
また、制御装置6に記憶されるプログラムは、蒸気を通過させ、かつ、蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧弁2の入口に接続される第1のラインL1に配置された流量計3から、蒸気の流量Mを受信するステップと、減圧弁2の出口に接続されかつ過熱蒸気を通過させる第2のラインL2に配置された温度計4から、過熱蒸気の温度Tを受信するステップと、第2のラインL2における目標の乾き度Dの入力を受け付けるステップと、流量計3から受信した蒸気の流量M、温度計4から受信した過熱蒸気の温度Tおよび目標の乾き度Dに基づいて、水供給手段50から第2のラインL2に加える水の量mを決定するステップと、を制御装置6に実行させる。
【0043】
以上のような方法、制御装置6およびプログラムによっても、上記のシステム100と同様に、所望の湿り度を有する蒸気を提供することができる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記実施形態の方法のステップは、上記の順番で実施されなくてもよく、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、異なる順番で実施されてもよい。
【0045】
例えば、上記の実施形態では、第1のラインL1を流れる蒸気を断熱膨張によって過熱蒸気に変換する減圧手段として、減圧弁2を使用する。しかしながら、他の実施形態では、減圧弁2に代えて、他の減圧手段(例えば、コントロールバルブ)を使用してもよい。例えば、コントロールバルブを使用する場合、第2のラインL2に圧力計を追加してもよく、第2のラインL2を流れる過熱蒸気の圧力を圧力計で測定し、測定された圧力に基づいて、第1のラインL1を流れる蒸気をコントロールバルブによって所望の圧力(設定圧力)の過熱蒸気に変換してもよい。しかしながら、この場合にも、所望の湿り度を有する飽和蒸気を得るために水供給手段50から第2のラインL2に加える水の流量mを計算するための上記の式(1),(2),(3)の計算には、第2のラインL2に追加した圧力計の値を使用する必要はない。
【符号の説明】
【0046】
2 減圧弁(減圧手段)
3 流量計
4 温度計
6 制御装置
50 水供給手段
100 システム
D 目標の乾き度
L1 第1のライン
L2 第2のライン
m 水供給手段から第2のラインに加える水の流量
M 第1のラインを流れる蒸気の流量
T 第2のラインを流れる過熱蒸気の温度
図1
図2
図3