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特許7460519ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォーム
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  • 特許-ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォーム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォーム
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20240326BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240326BHJP
   C04B 35/84 20060101ALI20240326BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20240326BHJP
   F16D 65/02 20060101ALI20240326BHJP
   C09K 3/14 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C08J5/24 CFH
C04B35/84
C04B41/85 H
F16D65/02 A
C09K3/14 520J
C09K3/14 530D
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2020505317
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 IB2018055722
(87)【国際公開番号】W WO2019025966
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】102017000089398
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ・カヴァッリ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・メナパーチェ
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-254965(JP,A)
【文献】特開平06-256066(JP,A)
【文献】特表2002-534352(JP,A)
【文献】国際公開第2006/115755(WO,A2)
【文献】特開平09-100174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
C08J 5/24
C04B 35/84
C04B 41/85
F16D 65/02
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグの成形及びその後の熱分解により得られる繊維強化セラミック複合材料からなる、ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォームであって、
前記プリプレグがシロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される1つ以上の樹脂に基づく高分子バインダ組成物を含浸させた繊維塊からなり、
前記プリプレグは、一つ又は複数の有機樹脂を含み、
前記有機樹脂は、前記高分子バインダの0-30重量%で、
前記シロキサン樹脂は、ポリシロキサンを含み、前記シルセスキオキサン樹脂は、ポリシルセスキオキサンを含み、前記高分子バインダ組成物は、50℃乃至70℃の温度で55000乃至10000mPa・sの粘度を有する液体となり、前記繊維強化セラミック複合材料は、セラミック又は部分的セラミックマトリクスを含み、セラミック又は部分的セラミックマトリクスは、それ自体が繊維塊の隙間において発達し、炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなるアモルファス構造を含み、前記炭化ケイ素及び前記Si-O-C鎖は、前記ポリシロキサン及び/又は前記ポリシルセスキオキサンの熱分解プロセスにより生じたものであり、前記繊維強化セラミック複合材料は、プリプレグの高分子バインダ組成物の熱分解により生じた多孔性を有する、プリフォーム。
【請求項2】
前記高分子バインダ組成物は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂のみを含み、有機樹脂を含まない、請求項1記載のプリフォーム。
【請求項3】
前記セラミック又は部分的セラミックマトリクスは、前記繊維強化セラミック複合材料の15重量%乃至70重量%を構成し、前記繊維塊は、前記繊維強化セラミック複合材料の30重量%乃至85重量%を構成する、請求項1又は2記載のプリフォーム。
【請求項4】
前記セラミック又は部分的セラミックマトリクスは粉末の形態の熱伝導性不活性充填剤を含、請求項1、2又は3記載のプリフォーム。
【請求項5】
前記繊維塊は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、又はそれらの混合物からなる群から選択される繊維からな請求項1-4のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項6】
前記プリプレグに含浸する前記高分子バインダ組成物は、
室温で固体となり、融点が40℃乃至90℃の範囲である、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、
室温で液体となり、室温で1mPa・s乃至5000mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、の混合物を含み、
室温で固体の樹脂と室温で液体の樹脂との間の重量比は、100/30乃至100/50である、請求項1-5のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項7】
室温で固体の樹脂は、フェニルシロキサン樹脂、メチルシロキサン樹脂、フェニルメチルシルセスキオキサン樹脂、メチルシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択され、前記室温で液体の樹脂は、メチルメトキシシロキサン樹脂及びメチルフェニルビニルシロキサン樹脂からなる群から選択される、請求項6記載のプリフォーム。
【請求項8】
前記高分子バインダ組成物は、
室温で液体となり、室温で1乃至5000mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される単一の樹脂と、
粉末の不活性充填剤と、の混合物を含み、
液体のポリマに対する不活性充填剤の室温での体積比は、10/100乃至40/100である、請求項1又はに記載のプリフォーム。
【請求項9】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含、請求項1-8のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項10】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含み、前記溶媒はジビニルベンゼンである、請求項1-8のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項11】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含み、前記溶媒は、前記プリプレグの1重量%未満を構成する、請求項1-8のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項12】
前記高分子バインダ組成物は、更に、成形ステップ時に100℃より高い温度で高分子バインダ組成物の前記1つ以上の樹脂の架橋を促進するのに適した少なくとも1つの触媒を含む、請求項1-11のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項13】
前記成形は、真空バギング及びその後の加熱硬化処理により行われる、請求項1-12のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項14】
前記成形は、圧縮成形により高温で行われる、請求項1-12のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項15】
請求項1-14のいずれかに記載のプリフォームにより全体又は一部が作成されることを特徴とするブレーキシステムコンポーネントである、ブレーキシステムコンポーネント。
【請求項16】
繊維強化複合セラミック材料のプリフォームを作成する方法であって、
高分子バインダ組成物を含浸させたプリプレグを配置することと、
前記プリプレグを成形し、前記高分子バインダ組成物を少なくとも部分的に硬化させて、繊維強化複合材料を得ることと、
前記プリフォームを得るために、前記繊維強化複合材料に対して400℃乃至1,500℃の温度で熱分解を施すことと、を含み、
前記プリプレグは、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される1つ以上の樹脂に基づく高分子バインダ組成物を含浸させた繊維塊を含み、
前記プリプレグは、一つ又は複数の有機樹脂を含み、
前記有機樹脂は、前記高分子バインダの0-30重量%で、
前記シロキサン樹脂は、ポリシロキサンを含み、前記シルセスキオキサン樹脂は、ポリシルセスキオキサンを含み、
前記高分子バインダ組成物は、50℃乃至70℃の温度で55000乃至10000mPa・sの粘度を有する液体となり、
前記成形により、高分子バインダ組成物の前記1つ以上の樹脂が硬化し、そのため、固体高分子結合マトリクスが形成され、固体高分子結合マトリクスは、それ自体が繊維塊の隙間において発達すると共に、ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサンに基づくものであり、高分子バインダ組成物の前記1つ以上の樹脂の硬化により誘発される架橋の結果として互いに架橋され、前記熱分解により、固体高分子結合マトリクスの部分的分解と、前記ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサンの炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなるアモルファス構造への少なくとも部分的な変換と、による前記固体高分子結合マトリクスにおける多孔性の形成が生じ、これにより前記繊維強化複合材料から繊維強化セラミック複合材料が得られる、方法。
【請求項17】
前記高分子バインダ組成物は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂のみを含み、有機樹脂を含まない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記高分子バインダ組成物は、前記プリプレグの25重量%乃至60重量%を構成し、前記繊維塊は、前記プリプレグの40重量%乃至75重量%を構成する、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記高分子バインダ組成物は、
室温で固体となり、融点が50℃以上である、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、
室温で液体となり、室温で1mPa・s乃至1500mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂と、の混合物を含み、
室温で固体の樹脂と室温で液体の樹脂との間の重量比は、100/30乃至100/50である、請求項16、17、又は18に記載の方法。
【請求項20】
室温で固体の樹脂は、フェニルシロキサン樹脂、メチルシロキサン樹脂、フェニルメチルシルセスキオキサン樹脂、メチルシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択され、前記室温で液体の樹脂は、メチルメトキシシロキサン樹脂及びメチルフェニルビニルシロキサン樹脂からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記高分子バインダ組成物は、
室温で液体となり、室温で1乃至5000mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される単一の樹脂と、
粉末の不活性充填剤と、の混合物を含み、
液体のポリマに対する不活性充填剤の室温での体積比は、10/100乃至40/100である、請求項16、17、又は18に記載の方法。
【請求項22】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含む、請求項16-21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含み、
前記溶媒は、ジビニルベンゼンである、請求項16-21のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記高分子バインダ組成物は、更に、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂を可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を含み、
前記溶媒は、前記プリプレグの1重量%未満を構成する、請求項16-21のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記高分子バインダ組成物は、更に、100℃より高い温度で高分子バインダ組成物の前記1つ以上の樹脂の架橋を促進するのに適した少なくとも1つの触媒を含む、請求項16-24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記高分子バインダ組成物は、粉末の形態の熱伝導性不活性充填剤を含む、請求項16-25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記繊維塊は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、又はそれらの混合物からなる群から選択される繊維からなる、請求項16-26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記成形は、真空バギング及びその後の加熱硬化処理により行われる、請求項16-27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記成形は、圧縮成形により高温で行われる、請求項16-27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記熱分解ステップ後に行われる前記繊維強化セラミック複合材料の高密度化ステップを含む、請求項16-29のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
プリプレグの成形及び熱分解により得られた繊維強化セラミック複合材料からなる、ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォームが、本発明の対象となる。
【0002】
本発明によるプリフォームは、例えば、ディスクブレーキのコンポーネント(ブレーキバンド、ベル、ブレーキキャリパ等)又はエンジンの部品といった、高温(400℃超)で動作するように設計されたコンポーネントの製造において特定の用途を有する。特に、本発明によるプリフォームは、特にディスクブレーキのコンポーネント又はエンジンの部品を作成するための高密度化プロセスを受けるように設計されている。
【背景技術】
【0003】
公知のように、専門用語では、高分子バインダ組成物を事前に含浸させた繊維強化複合材料を、単に「プリプレグ」と呼ぶ。
【0004】
プリプレグは、織布又は不織布を形成するように配置され、熱硬化性又は熱可塑性高分子組成物が含浸された繊維、一般的には炭素繊維及び/又はガラス繊維及び/又はセラミック繊維からなる。任意の成形プロセス中において、繊維に含浸させる高分子組成物は、繊維を互いに固定する結合マトリクスを形成する。
【0005】
熱可塑性マトリクスは、材料固有のガラス遷移温度より高い温度で加熱することにより処理する。これにより、可逆的プロセスにおいて、ポリマ鎖は、温度がガラス遷移温度(Tg)未満に戻るまで、互いに移動及びスライドする。
【0006】
熱硬化性マトリクスの場合は、非可逆的プロセスにおけるポリマの硬化を引き起こす、相対移動を妨げるような量の化学結合(架橋又は硬化)が隣接鎖間で形成される前に、処理を実施する。
【0007】
プリプレグの製造において、使用される熱硬化性高分子組成物は、有機樹脂、一般にエポキシ又はフェノール又はビニルエステル又はシアネートエステル系の樹脂に基づく。そのため、これらの樹脂ファミリ内で、含浸段階において繊維と樹脂との間で所望の統合/含浸レベルが得られるようなレオロジ特性(特に粘度)を有する樹脂が用いられる。
【0008】
プリプレグの製造において、使用される熱可塑性高分子バインダ組成物は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリパラフェニレンスルフィド(PPS)である。
【0009】
プリプレグの製造中、プリプレグの操作を可能とする一方で、依然としてその加工が可能な状態とするため、熱硬化性高分子マトリクスは架橋しないか、又は部分的にのみ架橋する。このため、プリプレグを低温に保ち、架橋が完了するのを防ぐ。
【0010】
適切に作用可能に、プリプレグの製造プロセスは、含浸工程を含み、ここで繊維は、平面上に配置され、このような構成で高分子組成物を含浸する。このような工程中、先行技術では、使用する高分子組成物に応じて、熱硬化性高分子組成物の部分的架橋が、様々な温度で起こり得る。その後、材料は、室温で冷却する。したがって、プリプレグは、平坦で加工可能なシートの形態で利用可能となり、その後、例えば、層化又は圧延及びこれに続く成形作業用に、非常に複雑な形状のコンポーネントを得るために処理することができる。
【0011】
有機樹脂は、部分架橋後も、プリプレグに最適な機械抵抗特性を提供する。
【0012】
しかしながら、有機樹脂で作成したプリプレグには、プリプレグから得られる材料の特性を条件付ける、又は特定の用途でのプリプレグの使用を不可能とする、一連の制限がある。
【0013】
例えば、熱分解後、有機樹脂は、炭素質残留物を形成するが、エポキシ樹脂の場合、これは非常に制限されており、複合材の良好な一貫性を確保するには不十分となる。このような炭素質残留物は、酸化環境における高温での用途にも適しておらず、良好な耐摩耗性を確保するには硬度が不十分となる。
【0014】
例えば、熱分解後のエポキシ樹脂は収率が低いため、エポキシ樹脂に基づくプリプレグは、高密度化プロセス用のプリフォームを作成するのに適していない。
【0015】
特に、従来の有機樹脂に基づくプリプレグは、以下の制限を示す場合がある。
-樹脂の完全架橋後に得られる複合材の動作温度が低い。優れた機械抵抗特性を有するにもかかわらず、このような複合材は、酸化環境において200℃超で機能する可能性は少ない。
-得られた複合材内に炭素質マトリクスが存在するため、機械的摩耗に対する耐摩耗性が低い。
-熱分解後に無機アモルファス及び/又は結晶構造を生成することができない。
-複合材の熱伝導率が低いため、例えばディスクブレーキコンポーネントの製造等、放熱用に大きな容量が必要な用途には適さなくなる。
【0016】
したがって、無機アモルファス及び/又は結晶構造を有する成形及び熱分解後のプリプレグから得られた繊維強化セラミック複合材料を製造する必要があり、無機アモルファス及び/又は結晶構造により、このようにして得られた複合材料は、以下のようなものとなる:
-熱伝導率の上昇を特徴とする。
-高密度化プロセス用のプリフォームを製造するのに適している。
-耐摩耗性の向上が確保されるような、より高い硬度を特徴とする。
【0017】
これまで、このような必要性は満たされておらず、これは、例えばプレセラミックシリコン有機樹脂(シロキサン樹脂、シラザン樹脂等)といった代替樹脂が、前述した技術的要件を満たす可能性があるにもかかわらず、標準的なプリプレグ製造技術を使用した繊維塊の含浸に適さないようなレオロジ特性を有するためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、高温で動作するように設計されたコンポーネントの作成に適したものとなるような無機アモルファス及び/又は結晶構造を有する、成形及び熱分解後のプリプレグから得られた繊維強化セラミック複合材料からなる、ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォームを提供し、先行技術に関連する前述した問題を解消又は少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
特に、本発明の目的は、高密度化プロセス用のプリフォームの作成に適したものとなるような無機アモルファス及び/又は結晶構造を有し、且つ、耐摩耗性の向上が確保されるような高熱伝導率及び高硬度を有する、成形及び熱分解後のプリプレグから得られた繊維強化セラミック複合材料からなる、ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォームを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の技術的特徴は、付記した特許請求の範囲の内容から明確に理解することができ、その利点は、純粋に非限定的な例として示した1つ以上の実施形態を表す添付図面を参照して行われる以下の詳細な説明から更に明らかとなる。
図1図1は、プリプレグの(圧縮成形による)加熱成形により得られ、熱分解により繊維強化セラミック複合材料が得られた、繊維強化複合材料の成形圧力に応じた密度の傾向のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、プリプレグの成形及び熱分解により得られる、繊維強化セラミック複合材料からなる、ブレーキシステムのコンポーネントを作成するためのプリフォームに関する。
【0022】
一般に、「繊維強化セラミック複合材料」とは、内部に強化繊維が配置されたセラミック又は部分的セラミックマトリクスを含む材料を意味する。
【0023】
「セラミックマトリクス」という用語は、プレセラミック樹脂のファミリに属するシロキサン及び/又はシルセスキオキサン樹脂の熱分解により得られるマトリクスを意味する。マトリクスの部分的又は完全セラミック化は、熱分解温度を調整することで得られる。低温(400乃至900℃)での熱分解処理により、部分的に熱分解された熱分解残留物を、依然として有機構造が多い状態で得ることができる。より高温での熱分解により、熱分解残留物の完全なセラミック化が生じ、無機アモルファス又は結晶構造を形成することができる(後者は約1300℃を超える熱分解温度)。
【0024】
セラミック又は部分的セラミックマトリクスの組成は、材料の作成に使用されるセラミック前駆体の種類に応じて決まる。
【0025】
以下の説明のように、特定の場合において、使用されるセラミック前駆体は、ポリシロキサン又はポリシルセスキオキサンである。セラミック又は部分的セラミックマトリクスは、オキシ炭化ケイ素(SiOC)及び/又は炭化ケイ素(SiC)を含む。特に、オキシ炭化ケイ素(SiOC)は、長さの異なるSi-O-C鎖により構成されるアモルファス構造を形成することができる。
【0026】
本発明によれば、プリフォームを構成する、成形及び熱分解により繊維強化セラミック複合材料が得られるプリプレグは、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される1つ以上の樹脂に基づく高分子バインダ組成物を含浸させた繊維塊を含む。
【0027】
「...に基づく」という表現は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂が、高分子バインダ組成物の少なくとも70重量%を構成することを意味する。
【0028】
任意に、前述した高分子バインダ組成物は、有機樹脂、好ましくはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び/又はビニルエステル又はシアネートエステル系樹脂を含むことができる。しかしながら、有機樹脂は、存在する場合、高分子バインダ組成物の30重量%以下を構成する。
【0029】
好ましくは、前述した高分子バインダ組成物は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂のみを含み、有機樹脂を含まない。
【0030】
シロキサン樹脂は、ポリシロキサンを含む又はポリシロキサンに基づく高分子樹脂であり、シロキサン樹脂は、ポリシルセスキオキサンを含む又はポリシルセスキオキサンに基づく高分子樹脂である。
【0031】
公知のように、ポリシロキサン及びポリシルセスキオキサンは、主鎖のケイ素-酸素結合の存在を特徴とする化合物である。ポリシロキサンは、以下の基本構造を有する。
【化1】
【0032】
一方、ポリシルセスキオキサンは、以下の基本構造を有する。
【化2】
【0033】
本発明によれば、前述したプリプレグの繊維塊に含浸される高分子バインダ組成物は、50℃乃至70℃の温度で55000乃至10000mPa・sの粘度を有する液体となる。
【0034】
このようなレオロジ特性により、前述した高分子バインダ組成物は、プリプレグを作成するプロセスにおける繊維塊の含浸に適合するものとなり、これまでプリプレグの製造におけるシロキサン樹脂及び/又はシルセスキオキサン樹脂の使用を妨げてきた制限が克服される。
【0035】
本発明による繊維強化セラミック複合材料は、セラミック又は部分的セラミックマトリクスを含み、セラミック又は部分的セラミックマトリクスは、それ自体が繊維塊の隙間において発達し、炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなるアモルファス構造を含む。炭化ケイ素及びSi-O-C鎖は、ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサンの熱分解プロセスにより生じたものである。本発明による、熱分解され繊維強化されたセラミック複合材料は、プリプレグの高分子バインダ組成物の熱分解により生じた多孔性を有する。
【0036】
本明細書の以下の部分では、簡潔にするため、「セラミックマトリクス」という用語を、「セラミック又は部分的セラミックマトリクス」という用語の代わりに用いる。
【0037】
したがって、本発明により使用されるプリプレグは、有機樹脂(特に、フェノール若しくはエポキシ樹脂、又はビニルエステル若しくはシアネートエステル系樹脂)が含浸されていない、又は少なくとも単独では含浸されていないが、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される1つ以上の樹脂に基づく高分子バインダ組成物が含浸されているという点で、従来のプリプレグとは異なる。
【0038】
シロキサン樹脂とシルセスキオキサン樹脂は、プリプレグ、特に炭素繊維又はセラミック若しくはガラス繊維に基づくプリプレグの作成に通常使用される有機樹脂(主にエポキシ)とは異なる特性を有する。
【0039】
第一に、シロキサン及びシルセスキオキサン樹脂は、酸化環境と不活性雰囲気との両方において、重量の減少が少ないため、温度の安定性が遙かに高い。
【0040】
シロキサン及びシルセスキオキサン樹脂の第2の特定の特徴は、Si-O-C鎖からなる、400乃至900℃の温度での熱分解後のアモルファス構造を形成する能力である。このような構造は、更に高温の約1300乃至1500℃で熱処理することにより結晶化させることができる。このようにして、樹脂から開始して、非常に高い硬度、高い弾性率、高い融解温度及び熱安定性、高い熱伝導率等、技術的に有益な特性を有する複合材である炭化ケイ素を形成することができる。
【0041】
一方、熱分解後、有機樹脂は、エポキシ樹脂の場合、非常に制限され、且つ複合材の良好な一貫性を確保するには不十分な、炭素質残留物を形成する。このような炭素質残留物は、酸化環境における高温での用途にも適しておらず、良好な耐摩耗性を確保するには硬度が不十分となる。
【0042】
このため、前述したように、好ましくは、本発明によれば、高分子バインダ組成物は、有機樹脂を含まない。いずれの場合も、有機樹脂の含有量は、高分子バインダ組成物の30重量%を超えないようにして、有機樹脂の存在により生じる悪影響を制限する。
【0043】
熱分解後の重量損失の減少と炭化ケイ素を形成する可能性とを考慮すると、シロキサン又はシルセスキオキサン樹脂は、高密度化の対象となるプリフォームの作成に適している。高密度化という用語は、ポリマ含浸及び熱分解(PIP)又は液体シリコン浸透(LSI)等のプロセスを意味する。
【0044】
以下に更に説明するように、成形及び熱分解並び任意の高密度化後の、本発明によるプリプレグから得られた繊維強化セラミック複合材料が示す特性は、次の通りである。
-中程度の機械的特性(最大約300乃至350MPaの破断応力、繊維並びに高密度化の種類及びレベル等、多くの要因に影響される値)
-熱伝導率(>1W/(m・°K))、
-摩損に対する良好な耐性。
-高密度化プロセスにより異なるものの、最大1000℃の動作温度は。
【0045】
このようにして得られた複合材料が有益となる用途には、ディスクブレーキのコンポーネント(ブレーキバンド、ベル、ブレーキキャリパボディ等)又はエンジンの部品が含まれる。
【0046】
上記の利点は、プリフォームがPIP手法を用いた高密度化プロセスを経る場合に明らかである。実際、シリコンを含む樹脂の使用は、プリフォームにおいて直接マトリクス内で炭化ケイ素を生成する唯一の方法となる。プリフォームが有機樹脂のみに基づいたプリプレグから製造された場合、これは如何なる形でも不可能である。この態様のため、同じ手法を有機樹脂のみから得られた炭素質プリフォームに適用して得られた複合材と比較してマトリクス内の炭化ケイ素の含有量が有意に高い複合材を、PIP手法により作成することができる。
【0047】
一方、LSI手法を用いた高密度化の場合、このような利点は、それほど明らかではない。実際、シリコンの浸透により、有機系プリプレグ(例えば、フェノールプリプレグ等)から開始しても、マトリクス内には大量の炭化ケイ素が形成されることに留意されたい。
【0048】
本発明によるプリフォームを構成する、成形及び熱分解により繊維強化セラミック複合材料が得られるプリフォームは、使用する高分子バインダ組成物の種類を除き、従来のプリプレグの製造プロセスに従って製造することが有利となり得る。
【0049】
具体的には、特に、前述したプリプレグの製造プロセスは、以下の動作ステップを含む:
-繊維塊を層状に配置すること、
-高分子バインダ組成物による繊維塊の含浸が生じ、最終的に高分子バインダ組成物自体の部分的架橋が生じる、特に60℃乃至100℃の温度での含浸工程、及び
-このようにして得られた材料の室温での冷却。
【0050】
特に、繊維塊での高分子バインダ組成物の付与は、高分子組成物を移送支持体(例えば紙)上に事前に堆積させることにより達成することができる。移送支持体が存在することで、繊維塊上での高分子バインダ組成物の堆積が容易になる。移送支持体上での高分子組成物の堆積は、高分子バインダ組成物のいわゆるフィルムキャスティングステップにおいて実施される。
【0051】
又は、高分子バインダ組成物は、繊維塊に直接付与することができる。
【0052】
このようにして得られたプリプレグでは、従来のプリプレグと同様に、高分子バインダ組成物は、架橋しない又は部分的にのみ架橋(又は硬化)する結合マトリクスを形成し、繊維塊の隙間を充填する。このように、プリプレグは、操作が可能である一方、他方では柔軟性を有する。実際、プリプレグ内の高分子バインダ組成物の固化は、その硬化をもたらし、結果的に加工性の特性を失わせる。
【0053】
特に、こうして得られたプリプレグは、平坦で加工可能なシートの形態で作成することが可能であり、その後、例えば、層化又は圧延及びこれに続く成形作業用に、非常に複雑な形状のコンポーネントを得るために処理される。このようなコンポーネントには、更なる処理(完全架橋、熱分解、高密度化)を施し、特定の特性を有する最終製品を得る。
【0054】
好適な実施形態によれば、セラミックマトリクスは、繊維強化セラミック複合材料の15重量%乃至70重量%を構成する一方、繊維塊は、こうした材料の30重量%乃至85重量%を構成する。
【0055】
繊維及びセラミックマトリクスの含有量は、本発明による繊維強化複合材料において達成すべき特性に応じて変化させることができる。
【0056】
高い機械的特性を必要とする用途には、繊維含有量の高い材料の方が適している。代わりに、セラミックマトリクスの割合を増やすことが、更に高い動作温度又は耐機械的摩耗性を必要とする用途に対して、より好適となる場合もある。
【0057】
特に、繊維塊は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、又はそれらの混合物からなる群から選択される繊維により構成し得る。特に、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)由来の炭素繊維及び/又はピッチ由来の炭素繊維であり、ガラス繊維又はセラミック繊維は、アルミナ、ジルコニア、又は炭化ケイ素により構成される。
【0058】
好適な実施形態によれば、繊維塊は、炭素繊維、PAN、又はピッチのみからなる。
【0059】
好ましくは、繊維塊は、布又は不織布の1つ以上の層を形成する連続繊維からなる。
【0060】
又は、繊維塊は、固体結合高分子マトリクス中に分散させたチョップドファイバにより構成することができる。
【0061】
前述したセラミックマトリクスは、窒化ホウ素又は高結晶性グラファイト又は金属又はそれらの組み合わせからなる群から選択されることが好ましい粉末の形態の熱伝導性不活性充填剤を含むことが有利となり得る。
【0062】
好ましくは、前述した熱伝導性不活性充填剤は、含浸前の繊維強化セラミック複合材料の10容量%乃至30容量%を構成する。
【0063】
セラミックマトリクス内の熱伝導性不活性充填剤の存在は、繊維強化セラミック複合材料が熱伝導率の向上が不可欠な用途、例えばディスクブレーキのコンポーネント(ブレーキバンド、ベル、ブレーキキャリパボディ等)又はエンジンの部品を目的としたものである場合に特に有利となる。
【0064】
好適な実施形態によれば、プリプレグに含浸する前述した高分子バインダ組成物は、以下の混合物を含む:
-室温で固体となり、融点が40℃乃至90℃の範囲である、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂、及び
-室温で液体となり、室温で1mPa・s乃至5000mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂。
【0065】
一般に、室温で固体の樹脂と室温で液体の樹脂との間の重量比は、2つの樹脂の混合物から得られる高分子バインダ組成物が50℃乃至70℃の温度で55,000乃至10,000mPa・sの粘度を有する液体となるように選択される。
【0066】
好ましくは、室温で固体の樹脂と室温で液体の樹脂との間の重量比は、100/30乃至100/50である。
【0067】
前述した高分子バインダ組成物は、全体が前述した室温で固体の樹脂と液体の樹脂との混合物からなることが有利となり得る。
【0068】
好ましくは、室温で固体の樹脂は、フェニルシロキサン樹脂、メチルシロキサン樹脂、フェニルメチルシルセスキオキサン樹脂、メチルシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択され、前記室温で液体の樹脂は、メチルメトキシシロキサン樹脂及びメチルフェニルビニルシロキサン樹脂からなる群から選択される。
【0069】
好ましくは、室温で固体の樹脂は、フェニルシロキサン樹脂(例えば、市販品のSilres 601又はRSN-0217)、メチルシロキサン、フェニルメチルシルセスキオキサン(例えば、市販品のSilres H44)、メチルシルセスキオキサン(例えば、市販品のSilres MK)からなる群から選択される。
【0070】
好ましくは、室温で液体の樹脂は、メチルメトキシシロキサン樹脂(例えば、市販品のSilres MSE100)及びメチルフェニルビニルシロキサン(例えば、市販品のSilres H62C)からなる群から選択される。
【0071】
液体樹脂は、溶媒を含まない、又は溶媒含有量が2重量%未満である、液体シロキサン樹脂から選択することが有利となり得る。
【0072】
本発明の好適な実施形態によれば、固体樹脂は、フェニルシロキサン樹脂であり、液体樹脂は、メチルメトキシシロキサン樹脂である。
【0073】
他の実施形態によれば、プリプレグに含浸する前述した高分子バインダ組成物は、以下の混合物を含むことができる:
-室温で液体となり、室温で1mPa・s乃至5000mPa・sの粘度を有する、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される単一の樹脂、
-繊維塊の含浸を可能にするのに必要なレオロジ特性を高分子バインダ組成物に付与するのに適した粉末の不活性充填剤。
【0074】
特に、粉末の不活性充填剤は、室温で液体の樹脂の粘度を高めるために導入される。
【0075】
一般に、粉末の不活性充填剤と室温で液体のポリマとの体積比は、その混合物から得られる高分子バインダ組成物が、50℃乃至70℃の温度で粘度55,000乃至10,000mPa・sの粘度を有する液体となるように選択される。
【0076】
好ましくは、粉末の不活性充填剤と液体のポリマとの室温での体積比は、10/100乃至40/100である。
【0077】
好ましくは、プリプレグに含浸する高分子バインダ組成物は、ポリシロキサン及びポリシルセスキオキサンを可溶化することができる化合物から選択される少なくとも1つの溶媒を更に含むことができる。
【0078】
溶媒は、樹脂のレオロジ特性を長期間に亘り保持する役割を果たし、その結果、プリプレグは、より長期に亘り操作可能となり、より容易に処理し、より長く維持することができる。
【0079】
好ましくは、前述した溶媒は、ジビニルベンゼンであり、ジビニルベンゼンは、例えばトルエン又はアセトン等、この目的で使用可能な他の溶媒とは異なり、蒸気圧が低く(蒸発しにくく)、引火性ではないという利点を有する。
【0080】
好ましくは、溶媒(存在する場合)は、含浸前の繊維強化セラミック複合材料の1重量%未満を構成する。
【0081】
高分子バインダ組成物は、100℃より高い温度で高分子組成物のポリマ(ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサン)の架橋を促進するのに適した少なくとも1つの触媒を更に含むことが有利となり得る。
【0082】
触媒の存在は、個々の物品の形成に必要な時間と温度を減少させるため、工業生産により適したプロセスとする役割を果たす。
【0083】
特に、触媒は、100℃未満の温度で、高分子バインダ組成物に直接挿入すること又はプリプレグ調製中に高分子バインダ組成物に添加することができるため、これらのステップ中に潜在状態を保ち、高分子バインダ組成物の架橋を生成しない。したがって、触媒は、その後に複合材が形成される温度(例えば150乃至180℃)で、その機能を発揮する必要がある。
【0084】
好ましくは、触媒は、チタン酸塩、金属オクトアート、及びアミン、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0085】
更により好ましくは、触媒は、チタンテトラブタノレート(例えば、商品名「Catalyst TC44」としてWackerが供給)、亜鉛オクトアート、及びN-3-(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン(例えば、商品名「Geniosil GF91」としてWackerが供給)からなる群から選択される。
【0086】
触媒(存在する場合)は、プリプレグの高分子結合マトリクスの1重量%未満を構成する。
【0087】
上述したように、繊維及び高分子結合マトリクスの含有量は、本発明による繊維強化複合材料において達成すべき特性に応じて変化させることができる。
【0088】
高い機械的特性を必要とする用途には、繊維含有量の高い材料の方が適している。代わりに、樹脂の割合を増やすことが、更に高い動作温度又は耐機械的摩耗性を必要とする用途に対して、より好適となる場合もある。
【0089】
次の2つの表1及び2は、有機樹脂を含まない、本発明による含浸前の繊維強化複合材料の幾つかの配合を示す。
【表1】
【表2】
【0090】
次の表3は、少なくとも1種類の有機樹脂を更に含む、本発明による含浸前の繊維強化複合材料の幾つかの配合を示す。
【0091】
【表3】
【0092】
本発明による、繊維強化複合材料の特性に影響を与える一態様は、プリプレグを形成する手法であり、このようにして得られた複合材の最終密度、更に結果として、機械抵抗の特性に影響を与える。
【0093】
2つの成形手法を評価した。
-圧縮成形
-真空バギング及びその後のオートクレーブでの硬化
【0094】
通常、異なる成形手法は、異なる圧力で機能する。圧力を大きくすることで、「硬化時に」(即ち、成形後、熱分解前に)複合材料の密度が高くなり、結果として、優れた機械的特性が得られる。
【0095】
圧縮成形の場合、約20から80乃至100barの圧力を加えることができ、真空バギング(及びその後のオートクレーブでの硬化)の場合、2乃至14barの圧力を加えることができる。
【0096】
圧縮成形による成形の場合、成形圧力の増加に伴い、成形後(但し熱分解前)の複合材の密度がどのように増加するかが明らかとなっている。図1のグラフは、PAN繊維(上記の表2記載の特性を有する)に基づいたプリプレグから圧縮成形による成形により材料が得られた場合の、成形圧力に応じた繊維強化複合材料の密度の傾向を示している。複合材の最大の高密度化と、その結果の最適な機械的特性は、約50bar超で得られる。
【0097】
圧縮成形は、以下に適していると言える。
-優れた機械的特性を有する複合材の形成。
-簡素で平坦な形状の物品の製造。
-処理時間の短縮。
【0098】
一方、真空バギングは、例えばディスクブレーキのブレーキバンド、ベル、又はキャリパボディ等の複雑な形状の物品を形成するのにより適している。
【0099】
好ましくは、本発明による繊維強化セラミック複合材料は、真空バギング手法と、その後の加熱硬化処理とによる成形をプリプレグに施すことにより得られる。
【0100】
好ましくは、真空バギングプロセスは、2乃至14barの圧力、180℃乃至300℃の温度で、60乃至150分間に亘り行われる。
【0101】
又は、本発明による繊維強化セラミック複合材料は、圧縮成形手法による加熱成形をプリプレグに施すことにより得られる。
【0102】
好ましくは、圧縮成形手法による加熱成形は、40bar以上の圧力、200℃以上の温度で、60乃至150分間に亘り行われる。
【0103】
成形は、その後の硬化後処理を含め、300℃より低い温度、好ましくは約180℃で行うことができる。しかしながら、最良の機械的特性は、300℃での成形により得られることが実験的に分かっている。
【0104】
真空バギングの手法及び圧縮成形の手法は、共に当業者に周知であるため、ここでは詳細に説明しない。
【0105】
本発明によるプリフォームにより全体又は一部が、特に前述したように作成されたブレーキシステムのコンポーネントは、本発明の対象となる。
【0106】
好ましくは、前述したコンポーネントは、ディスクブレーキのコンポーネント、特にブレーキバンド、ベル、又はキャリパボディである。
【0107】
好ましくは、ブレーキシステムの前記コンポーネントは、前述したプリフォームに高密度化プロセスを、好ましくはポリマ浸透熱分解(PIP)の手法を用いて施すことにより得られる。
【0108】
又は、前述したプリフォームが既に(高密度化プロセスを施すことなく)ディスクブレーキのブレーキバンド、ベル、又はキャリパボディを構成することができる。
【0109】
プリフォームは(高密度化プロセスを経るかに関係なく)、ディスクブレーキのブレーキバンドの一部、ベルの一部、又はキャリパボディの一部のみとなる場合もある。
【0110】
特に本発明による、更に特に上記のような、繊維強化セラミック複合材料により作成したプリフォームを製造する方法も、本発明の対象となる。
【0111】
一般的な実施の形態によれば、このような方法は、次の動作ステップを含む:
-高分子バインダ組成物を含浸させたプリプレグを配置すること、及び
-プリプレグを成形し、前記高分子バインダ組成物を少なくとも部分的に硬化させて、繊維強化複合材料を得ること、
-前述した繊維強化複合材料に対して400℃乃至1,500℃の温度で熱分解を施すこと。
【0112】
本発明によれば、前述したプリプレグは、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される1つ以上の樹脂に基づく高分子バインダ組成物を含浸させた繊維塊を含む。
【0113】
前述したように、「...に基づく」という表現は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂が、高分子バインダ組成物の少なくとも70重量%を構成することを意味する。
【0114】
任意に、前述した高分子バインダ組成物は、有機樹脂、好ましくはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び/又はビニルエステル又はシアネートエステル系樹脂を含むことができる。しかしながら、有機樹脂は、存在する場合、高分子バインダ組成物の30重量%以下を構成する。
【0115】
好ましくは、前述した高分子バインダ組成物は、シロキサン樹脂及びシルセスキオキサン樹脂からなる群から選択される樹脂のみを含み、有機樹脂を含まない。
【0116】
シロキサン樹脂は、ポリシロキサンを含む又はポリシロキサンに基づく高分子樹脂であり、シロキサン樹脂は、ポリシルセスキオキサンを含む又はポリシルセスキオキサンに基づく高分子樹脂である。
【0117】
本発明によれば、前述したプリプレグの繊維塊に含浸される高分子バインダ組成物は、50℃乃至70℃の温度で55000乃至10000mPa・sの粘度を有する液体となる。
【0118】
本発明によれば、成形により、高分子バインダ組成物の前記1つ以上の樹脂が硬化し、その結果、固体高分子結合マトリクスが形成され、固体高分子結合マトリクスは、それ自体が繊維塊の隙間において発達すると共に、ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサンに基づくものであり、高分子バインダ組成物の前述した1つ以上の樹脂の硬化により誘発される架橋後に互いに架橋される。
【0119】
好ましくは、成形は、真空バギングと、その後の加熱硬化処理とにより行われる。
【0120】
好ましくは、真空バギングプロセスは、2乃至14barの圧力、180℃乃至300℃の温度で、60乃至150分間に亘り行われる。
【0121】
又は、成形は、圧縮成形手法を用いて、高温で行われる。
【0122】
好ましくは、圧縮成形手法による加熱成形は、40bar以上の圧力、200℃以上の温度で、60乃至150分間に亘り行われる。
【0123】
成形は、その後の硬化後処理を含め、200℃より低い温度、好ましくは約180℃で行うことができる。しかしながら、最良の機械的特性は、300℃での成形により得られることが実験的に分かっている。
【0124】
本発明によれば、熱分解は、固体高分子結合マトリクスの部分的分解と、ポリシロキサン及び/又はポリシルセスキオキサンの炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなるアモルファス構造への少なくとも部分的な変換と、による固体高分子結合マトリクスにおける多孔性の形成を決定し、これにより前記繊維強化複合材料から繊維強化セラミック複合材料が得られる。
【0125】
熱分解処理は、例えば窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気又は真空中で行うことができる。一般に、処理は、0.2乃至1℃/分の上昇傾斜を用いて行われる。熱分解温度は、通常400乃至1500℃となる。
【0126】
この方法は、繊維強化セラミック複合材料の高密度化ステップを含むことが有利となり得る。このような高密度化ステップは、その後、熱分解ステップにおいて実行される。
【0127】
好ましくは、高密度化ステップは、ポリマ浸透熱分解(PIP)の手法を用いて行われる。
【0128】
又は、高密度化ステップは、液体シリコン浸透(LSI)を用いて行われる。
【0129】
好ましくは、高分子バインダ組成物は、プリプレグの25重量%乃至60重量%を構成し、繊維塊は、プリプレグの40重量%乃至75重量%を構成する。
【0130】
本発明の範囲内で用いられるべき高分子バインダ組成物と、本発明によるセラミック複合材料においてプリフォームを作成する方法とは、本発明による繊維強化セラミック複合材料により構成されたプリフォームに関連して既に説明している。説明を簡単にするため、このような特性は再度提示しないが、これらも本発明による方法を示すものとして理解される。
[適用例]
【0131】
上述したように、本発明による繊維強化セラミック複合材料のプリフォームは、例えばディスクブレーキのコンポーネント(ブレーキバンド、ベル、ブレーキキャリパ等)又はエンジンの部品といった、高温(400℃超)で動作するように設計されたコンポーネントの製造において特定の用途を有する。特に、本発明によるプリフォームは、特にディスクブレーキのコンポーネント又はエンジンの部品を作成するための高密度化プロセスを受けるように設計されている。
【0132】
有機樹脂を含まない、又は少なくとも有機樹脂を単独では含まないが、1つ以上のシロキサン樹脂及び/又はシルセスキオキサン樹脂を含浸させたプリプレグの成形及び熱分解により得られ、本発明によりプリフォームを作成するのに用いられる繊維強化セラミック複合材料が、炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなる無機アモルファス構造を有し、これらにより、複合材料が高密度化プロセス用のプリフォームを製造するのに適したものとなり、伝導率の上昇と、より高い耐摩耗性が確保されるような、硬度の向上を特徴とすることは、実験的に検証することができた。
【0133】
本発明により作成した繊維強化セラミック複合材料の試験は、有機樹脂を含まない高分子バインダ組成物を2種類の配合で含浸させたプリプレグから開始した。2つの配合は、一方がピッチ由来の炭素繊維で作成され、他方がポリアクリロニトリル(PAN)由来の炭素繊維で作成された点において本質的に異なる。
【0134】
両方の配合で同じ樹脂を使用し、重量比を変化させて、樹脂と繊維の体積比を一定に保った。これは、繊維の種類により密度が異なるため必要となった。
【0135】
2つの配合は、上記の表2に記載の2つの配合に対応する。
【0136】
具体的には、一方が室温で固体、他方が室温で液体である2つのシロキサン樹脂の混合物を高分子バインダ組成物として使用した。固体樹脂と液体樹脂との重量比は、100/30乃至100/50である。
【0137】
樹脂RSN-0217(Dow Corningが販売)を固体樹脂として使用し、これは、融点が約80℃で、室温において固体のフェニルシロキサン樹脂である。
【0138】
樹脂Silres MSE100(Wackerが販売)を液体樹脂として使用し、これは、室温で約25乃至40mPa・sの低粘度を特徴とする、室温で液体のメチルメトキシシロキサン樹脂である。
【0139】
固体樹脂は液体樹脂に可溶であり、固体と液体との重量比がそれぞれ100/30乃至100/50の溶液は、プリプレグの製造に最適な特性を示す。特に、2つの樹脂の混合物は、室温では粘着性の半固体の外観を有し、50乃至70℃では、繊維の含浸にとって最良の特性である高粘度(55,000乃至10,000mPa・s)を有する液体となる。
【0140】
炭素繊維は、一方向の積層物の形態、即ち、単方向に配向された繊維からなるものとして使用した。
【0141】
繊維積層物(ピッチ又はPAN繊維)に70乃至75℃の温度で高分子バインダ組成物を含浸させ、プリプレグを得た。
【0142】
このようにして得られたプリプレグに、その後、加熱成形を施し、樹脂の硬化(架橋)を誘発して、繊維強化複合材料を得た。
【0143】
特に、加熱成形は、圧縮成形手法を用いて行った。試験は、51bar及び26barの2種類の圧力で行った。成形は、後硬化のステップを実行せずに、最短150分間に亘り、300℃で行った。
【0144】
本発明による繊維強化複合材料の試料は、ピッチ繊維(一方向積層物の形態)を含む配合から得られ、成形(50バールでの圧縮成形)及び樹脂の完全な架橋の後、PIPプロセスによる熱分解及び高密度化(ポリマ浸透熱分解、3サイクル)を施した。
【0145】
熱分解処理は、真空下において1500℃で行った。高密度化は、液体シロキサン樹脂を用いて実行した。含浸プロセスは、室温において、約40mbarの真空レベルで行った。
【0146】
試料は、熱伝導率及び機械抵抗特性のプロファイルを元に特性評価した。
【0147】
表4は、PIPプロセス(3サイクル)による熱分解及び高密度化後の繊維強化セラミック複合材料試料の熱伝導率の値を示す。特性評価は、レーザフラッシュ手法を用いて、ASTM E-1461規格に従い、プリプレグの平面に直交する方向において、400℃で行った。
【表4】
【0148】
4W/(m・°K)より高い複合材の導電性レベルは、炭化ケイ素内で部分的に結晶化したマトリクスの導電性に由来する。
【0149】
表5は、熱特性評価を行った同じ複合材の機械抵抗の幾つかの特性値を示す。特性評価は、ASTM-C1341規格に従って3点での曲げ試験により行い、0°の繊維配向で複合材を試験した。測定は、1つの試料のみで行った。
【表5】
【0150】
試験により、本発明による繊維強化セラミック複合材料は、成形並びにその後の熱分解及び高密度化後、例えばディスクブレーキのコンポーネント(ブレーキバンド、ベル、ブレーキキャリパ等)又はエンジンの部品といった、高温(400℃超)で動作するように設計されたコンポーネントの製造を可能にすることが確認された。
【0151】
高分子バインダ組成物は、シロキサン樹脂及び/又はシルセスキオキサン樹脂に基づいていることから、400乃至1,500℃での熱分解後、複合材料は、炭化ケイ素及びSi-O-C鎖からなるアモルファス構造を有し、1000℃(高密度化プロセスに報じて可変)までの動作温度が確保される。1500℃までの温度での熱分解処理後の炭化ケイ素の少なくとも一部の形成により、硬度の上昇、高い弾性率、高い熱安定性、高い熱伝導率等、技術的に有益な複合特性が得られる。
【0152】
特に、高い熱伝導率は、1W/(m・°K)を遙かに超えており、注目に値する。
【0153】
機械抵抗値は、平均である。特に、破断応力(MOR)は、約300乃至350MPaの値(繊維、高密度化の種類、レベル等、様々な要因に影響を受ける値)に達しており、注目に値する。
【0154】
最後に、マトリクス内の炭化ケイ素の存在により、摩損に対する良好な耐性が確保される。
【0155】
結果として、上述した発明により、意図した目的が達成される。
【0156】
実際に実施においては、保護の範囲を超えることなく、上に例示したものとは異なる形態及び構成をとり得ることは明らかである。
【0157】
更に、詳細は、全て技術的に同等の構成要素に置き換え可能であり、任意の大きさ、形状、材料を必要に応じて使用することができる。
図1