(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20240326BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20240326BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16F15/08 A
B60K5/12 F
F16F15/08 W
F16F1/387 E
(21)【出願番号】P 2021052068
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
(72)【発明者】
【氏名】黒田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴也
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-240998(JP,A)
【文献】特開2018-100727(JP,A)
【文献】特開2010-106866(JP,A)
【文献】特開2005-009626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/08
B60K 5/12
F16F 1/387
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材とが、本体ゴム弾性体で連結されている防振装置において、
前記本体ゴム弾性体が円錐台状であると共に下面に開口する凹所を備えており、
前記インナ部材
において該本体ゴム弾性体が固着された固着部の部材中心軸が
、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対して軸直角方向で偏心されており、
偏心方向の一方側における該本体ゴム弾性体の該インナ部材と該アウタ筒部材の対向方向での自由長と、該偏心方向の他方側における該本体ゴム弾性体の該インナ部材と該アウタ筒部材の対向方向での自由長とが、相互に異ならされていると共に、
該インナ部材の下端は該凹所に露出しておらず、該インナ部材の下端を覆って該偏心方向の一方側の該本体ゴム弾性体と該偏心方向の他方側の該本体ゴム弾性体とを連続せしめる連続ゴムが、該本体ゴム弾性体と一体的に形成されている防振装置。
【請求項2】
前記インナ部材の取付中心軸と前記アウタ筒部材の取付中心軸が同軸とされている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
インナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材とが、本体ゴム弾性体で連結されている防振装置において、
前記本体ゴム弾性体が円錐台状であると共に下面に開口する凹所を備えており、
前記防振装置の中心軸方向が車両の上下方向とされる装着状態において該防振装置を周方向で位置決めするための周方向位置決め部が設けられており、該周方向位置決め部により車両の前後方向が規定されるようになっていると共に、
前記インナ部材
において前記本体ゴム弾性体が固着された固着部の部材中心軸が
、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対して車両の前後方向で偏心して配置されており、該インナ部材から該アウタ筒部材に向かって車両の前方に延びる該本体ゴム弾性体の自由長と車両の後方に延びる該本体ゴム弾性体の自由長とが相互に異ならされて、車両加速時に該インナ部材が該アウタ筒部材に対して接近変位する方の該本体ゴム弾性体の自由長が離隔変位する方の該本体ゴム弾性体の自由長よりも大きくされている防振装置。
【請求項4】
車両への装着前と装着状態との何れにおいても前記インナ部材の取付中心軸と前記アウタ筒部材の取付中心軸が同軸とされている請求項3に記載の防振装置。
【請求項5】
軸直角方向の断面において、前記本体ゴム弾性体の外周面及び内周面がそれぞれ真円形状である請求項1~4の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体の外周面と内周面の少なくとも一方において、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対する前記インナ部材の部材中心軸の偏心方向の両側部分における表面長さが相互に異ならされている請求項1~5の何れか一項に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車のエンジンマウント等に適用される防振装置として、インナ部材と、インナ部材の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材とが、本体ゴム弾性体で連結された構造を有するものが知られている。このような防振装置は、例えば特開2020-051474号公報(特許文献1)にも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような防振装置では、中心軸に直交する一つの径方向において、一方の向きに入力される荷重と、反対向きに入力される荷重とが、大きく異なる場合がある。例えば、インナ部材をパワーユニット側に固定すると共にアウタ筒部材を車両ボデー側に固定して、中心軸を鉛直上下方向に向けて装着することで自動車用エンジンマウントが構成される。かかる場合には、車両前後方向に相当する一つの径方向において、インナ部材がアウタ筒部材に対して車両前方側に向かう方向に及ぼされるブレーキ時荷重は、反対にインナ部材がアウタ筒部材に対して車両後方側に向かう方向に及ぼされる加速時荷重に比して格段に小さいことがある。
【0005】
そのために、荷重入力に伴って本体ゴム弾性体に繰り返し及ぼされる変形(歪)や応力が部分的に異なることとなって、大きな歪や応力が繰り返して惹起される部位の耐久性確保が難しくなり、かかる部位の耐久性が防振装置全体の耐久性を阻害するおそれがあった。
【0006】
なお、このような問題に対処するために、本体ゴム弾性体の部材厚さ寸法を部分的に異ならせることも検討したが、ばね特性への悪影響や、薄肉部分における相対的な耐久性低下の問題などがあり、本体ゴム弾性体の部材厚さ寸法の調節だけでは充分な効果を得ることが難しかった。
【0007】
本発明は、中心軸に直交する一つの径方向において、一方の向きに入力される荷重と、反対向きに入力される荷重とが大きく異なる場合にも、耐久性を充分に確保することのできる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材とが、本体ゴム弾性体で連結されている防振装置において、前記本体ゴム弾性体が円錐台状であると共に下面に開口する凹所を備えており、前記インナ部材において該本体ゴム弾性体が固着された固着部の部材中心軸が、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対して軸直角方向で偏心されており、偏心方向の一方側における該本体ゴム弾性体の該インナ部材と該アウタ筒部材の対向方向での自由長と、該偏心方向の他方側における該本体ゴム弾性体の該インナ部材と該アウタ筒部材の対向方向での自由長とが、相互に異ならされていると共に、該インナ部材の下端は該凹所に露出しておらず、該インナ部材の下端を覆って該偏心方向の一方側の該本体ゴム弾性体と該偏心方向の他方側の該本体ゴム弾性体とを連続せしめる連続ゴムが、該本体ゴム弾性体と一体的に形成されているものである。
【0010】
本態様によれば、防振装置の中心軸に直交する一方向でインナ部材を挟んだ一方側と他方側において、インナ部材とアウタ筒部材とを連結する本体ゴム弾性体の自由長が相互に異ならされることとなる。それ故、例えば軸直角方向の両側で入力される荷重の大きさが異なる場合にも、本体ゴム弾性体に惹起される歪や応力が一方の側で過大となることを抑えることが可能になり、本体ゴム弾性体における局所的な歪や応力の発生に起因する防振装置の耐久性の大幅な低下を回避することが可能になる。
【0011】
加えて、インナ部材を挟んだ軸直角方向一方側の本体ゴム弾性体に大きな歪や応力が生ぜしめられた場合には、連続ゴムを介して、インナ部材を挟んだ軸直角方向他方側の本体ゴム弾性体にも伝達されることとなる。これによっても、当該一方側だけの本体ゴム弾性体への歪や応力の集中が緩和されて歪や応力の分散が図られる結果、本体ゴム弾性体ひいては防振装置の耐久性の向上が図られ得る。
【0012】
第二の態様は、前記第一の態様に係る防振装置において、前記インナ部材の取付中心軸と前記アウタ筒部材の取付中心軸が同軸とされているものである。
【0013】
第三の態様は、インナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材とが、本体ゴム弾性体で連結されている防振装置において、前記本体ゴム弾性体が円錐台状であると共に下面に開口する凹所を備えており、前記防振装置の中心軸方向が車両の上下方向とされる装着状態において該防振装置を周方向で位置決めするための周方向位置決め部が設けられており、該周方向位置決め部により車両の前後方向が規定されるようになっていると共に、前記インナ部材において前記本体ゴム弾性体が固着された固着部の部材中心軸が、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対して車両の前後方向で偏心して配置されており、該インナ部材から該アウタ筒部材に向かって車両の前方に延びる該本体ゴム弾性体の自由長と車両の後方に延びる該本体ゴム弾性体の自由長とが相互に異ならされて、車両加速時に該インナ部材が該アウタ筒部材に対して接近変位する方の該本体ゴム弾性体の自由長が離隔変位する方の該本体ゴム弾性体の自由長よりも大きくされているものである。
【0014】
本態様が対象とする車両の防振装置において、例えば自動車用エンジンマウントでは、加速時に加速Gに加えてトルク反力も及ぼされることから減速時に比して大きな入力荷重となりやすく、耐久性確保が難しかった。その原因について本発明者が検討を重ねたところ、一般的には荷重入力時に引張変形する部位における本体ゴム弾性体の耐久性不足と考えられ、本体ゴム弾性体において加速時に引張荷重が及ぼされる部位における亀裂等の発生が耐久性不良の原因とされることになるが、そのような単純なものでないことが判った。更に、通常であれば加速時に引張荷重が入力される側、即ち車両加速時にインナ部材がアウタ筒部材に対して離隔変位する側において、本体ゴム弾性体の自由長や本体ゴム弾性体の厚さ寸法を大きくしてゴムボリュームを確保することで耐久性向上を図ることになるが、それでは耐久性向上に有効でないばかりか、軸方向の防振性能への悪影響も懸念されることが判ったのである。
【0015】
ここにおいて、本態様に係る防振装置では、上述の如き通常の対策とは反対に、加速時に引張荷重が入力される側とは反対の側、即ち車両加速時にインナ部材がアウタ筒部材に対して接近変位する側において、本体ゴム弾性体の自由長を大きく設定した。その結果、本体ゴム弾性体に惹起される歪や応力が一方の側で過大となることを抑えることが可能になり、本体ゴム弾性体における局所的な歪や応力の発生に起因する防振装置の耐久性の大幅な低下を回避することを可能となし得たのである。このような本発明は、インナ部材を挟んで車両の前方側と後方側とに及ぼされる荷重が大きく異なる場合に、大きな入力荷重(加速側)によってインナ部材がアウタ筒部材に対して相対的に接近変位する車両前後方向一方側では、車両前後方向他方側(減速側)に比して本体ゴム弾性体が大きく圧縮されて、インナ部材の周方向両側へと回り込むように変形し、インナ部材に固着された本体ゴム弾性体の内周部分において剪断方向の大きな歪みや応力が発生しやすく、それが原因となって従来構造のエンジンマウントでは耐久性確保が難しくなっているとの新たな知見を得たことに基づく。
【0016】
而して、かかる新たな知見に基づいて完成された本態様に係る防振装置では、従来の一般的な耐久性確保の方策とは反対に、車両減速時よりも大きな荷重が入力される車両加速時に圧縮側とされる部分において本体ゴム弾性体の自由長を大きく設定したことで、当該部分における圧縮変形に伴ってインナ部材の周方向両側に回り込むような本体ゴム弾性体の変形量を抑えてひいては剪断方向の歪や応力の発生を効率的に軽減せしめ得たのであり、その結果、軸方向の防振性能を大きく損なうことなく、耐久性の向上を図り得たのである。
【0017】
第四の態様は、前記第三の態様に係る防振装置であって、車両への装着前と装着状態との何れにおいても前記インナ部材の取付中心軸と前記アウタ筒部材の取付中心軸が同軸とされているものである。
【0018】
本態様では、装着状態での静的入力荷重による本体ゴム弾性体の応力の集中や歪が防止されて、アウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ軸部材の部材中心軸の偏心による所期の効果が安定して発揮され得る。
【0019】
第五の態様は、前記第一~第四の何れか一つの態様に係る防振装置であって、軸直角方向の断面において、前記本体ゴム弾性体の外周面及び内周面がそれぞれ真円形状であるものである。
【0020】
本態様によれば、軸直角方向の荷重の入力時において、インナ部材とアウタ筒部材との接近変位や離隔変位に伴う本体ゴム弾性体の変形を、歪や応力の局所的な集中をより確実に回避しつつ生じさせることができて、耐久性の更なる向上が図られる。
【0021】
第六の態様は、前記第一~第五の何れか一つの態様に係る防振装置であって、前記本体ゴム弾性体の外周面と内周面の少なくとも一方において、前記アウタ筒部材の部材中心軸に対する前記インナ部材の部材中心軸の偏心方向の両側部分における表面長さが相互に異ならされているものである。
【0022】
本態様によれば、アウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ部材の部材中心軸の偏心方向の両側で本体ゴム弾性体の外周面と内周面の少なくとも一方における表面長さを相互に異ならせることで、偏心方向の両側における本体ゴム弾性体の自由長を相互に異ならせて設定することができることから、防振装置の耐久性の向上がより確実に実現され得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、中心軸に直交する一つの径方向において、一方の向きに入力される荷重と、反対向きに入力される荷重とが大きく異なる場合にも、耐久性を充分に確保することのできる防振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態としての防振装置を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1~7には、本発明に係る防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。かかるエンジンマウント10は、インナ部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。そして、例えばインナ部材12に図示しないパワーユニットが固定されると共にアウタ筒部材14に図示しない車両ボデーが固定されることで、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめることとなる。なお、車両装着時におけるエンジンマウント10の向きは限定されるものではないが、以下の説明において、上下方向とは鉛直方向とされる
図3中の上下方向、左右方向とは車両左右方向となる
図2中の上下方向、前後方向とは車両前後方向となる
図2中の右左方向をいい、本実施形態では、これらの各方向をもってエンジンマウント10が車両に装着されるようになっている。
【0027】
より詳細には、インナ部材12は、金属や繊維補強された合成樹脂等により形成される硬質の部材であり、本体ゴム弾性体16が固着される固着部18を備えている。固着部18は、上下方向に延びる柱状の部分であり、本実施形態では、
図6に示される軸直角方向の断面(横断面)において、円形断面を有している。特に、本実施形態では、固着部18が、真円形状の横断面を有している。固着部18の下端部分は先端が丸められた先細形状(略半球状)とされているが、先端(下端)が軸直角方向に広がる平坦面を有していてもよい。インナ部材12の上端部分には、周方向の全周に亘って外周側に環状に突出する外フランジ状部20が設けられている。
【0028】
なお、図中の符号22は、インナ部材12の軸直角方向断面における断面中心点を軸方向につなげた部材中心軸としてのインナ中心軸を示している。かかるインナ中心軸22は、鉛直方向に延びており、本実施形態のインナ部材12は、インナ中心軸22回りで回転対称形状とされた外周面を備えている。
【0029】
インナ部材12には、図示しないボルトが螺合されるボルト穴24が、上端面から軸方向下方向に延びて設けられている。そして、このボルト穴24に螺合される固定ボルトによって、パワーユニットがインナ部材12へ固定されるようになっている。即ち、パワーユニットには、エンジンマウント10を介して車両ボデー側に連結されるべき連結固定点が設定されており、この連結固定点において、エンジンマウント10のマウント中心軸上で、インナ部材12に対して固定されるようになっている。それ故、インナ部材12において固定点とされるボルト穴24は、マウント中心軸となるアウタ筒部材14及び本体ゴム弾性体16の中心軸(後述するアウタ中心軸32)上に設定されている。そして、このボルト穴24の中心軸が、インナ部材12におけるパワーユニットへの取付中心軸としてのインナ取付軸26とされている。このインナ取付軸26は、インナ中心軸22に対してずれて(偏心して)位置しており、本実施形態では、インナ取付軸26が、インナ中心軸22の後方に位置して、何れも鉛直方向に平行に延びている。
【0030】
さらに、インナ部材12の上端面には、エンジンマウント10を周方向で位置決めするための周方向位置決め部としてのピン状突起28が設けられている。このピン状突起28は、例えばインナ部材12がパワーユニットに固定される際に、パワーユニットに挿入されるようになっている。本実施形態では、ピン状突起28がボルト穴24の左方に位置しており、ピン状突起28とボルト穴24とが左右方向で並列的に配置されている。即ち、
図2に示される平面視において、ピン状突起28とボルト穴24とが並ぶ方向に対して直交する方向が前後方向であり、ピン状突起28を車両の左方に向けて配置することで、インナ部材12(エンジンマウント10)、ひいてはエンジンマウント10が装着される車両の前後方向を規定することが可能とされている。
【0031】
アウタ筒部材14は、比較的薄肉の筒形状であり、インナ部材12より大径とされている。本実施形態では、アウタ筒部材14が円筒形状であり、特に本実施形態では、
図7にも示されているように、アウタ筒部材14が真円形状の横断面を有している。アウタ筒部材14の下端部には、周方向の全周に亘って内周側に環状に突出する内フランジ状部30が設けられている。また、アウタ筒部材14の上端部は、全周に亘って僅かに外周側に広がっている。
【0032】
なお、図中の符号32は、アウタ筒部材14の軸直角方向断面における断面中心点を軸方向につなげた部材中心軸としてのアウタ中心軸を示している。かかるアウタ中心軸32は、鉛直方向に延びており、本実施形態のアウタ筒部材14は、アウタ中心軸32回りで回転対称形状とされた外周面を備えている。
【0033】
かかるアウタ筒部材14の外周面には、例えば図示しない略筒状のブラケット等の車両ボデー側のサブフレーム等が、例えば圧入状態で外挿されて、これにより、アウタ筒部材14が当該サブフレーム等を介して車両ボデーに固定される。即ち、アウタ筒部材14の外周面が、車両ボデー側の部材に固定されるアウタ固定面33である。そして、このアウタ固定面33の軸直角方向断面における断面中心点を軸方向につなげた中心軸が、アウタ筒部材14における車両ボデーへの取付中心軸としてのアウタ取付軸とされている。本実施形態では、アウタ筒部材14の部材中心軸であるアウタ中心軸32と、取付中心軸であるアウタ取付軸とが同軸とされている。これにより、本実施形態では、インナ部材12の取付中心軸であるインナ取付軸26と、アウタ筒部材14の取付中心軸であるアウタ取付軸(アウタ中心軸32)とが同軸とされている。なお、図中では、エンジンマウント10が車両への装着前の状態で示されているが、車両への装着状態においてパワーユニットを分担支持する静的荷重がマウント中心軸(アウタ中心軸32)方向に及ぼされる場合にも、インナ取付軸26とアウタ取付軸(アウタ中心軸32)とが同軸とされる。
【0034】
インナ部材12の固着部18とアウタ筒部材14は、上下方向で相互に離れて配置されており、インナ部材12の固着部18と、インナ部材12の外周側に離隔して配されたアウタ筒部材14とが、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として下方へ向けて大径となる略円錐台状であり、小径側の端部である上端部に固着部18が埋め込まれると共に、上端面が外フランジ状部20に部分的に重ね合わされた状態で固着されている。また、大径側の端部である下端部の表面にアウタ筒部材14が重ね合わされて固着されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、インナ部材12とアウタ筒部材14とを備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0035】
本体ゴム弾性体16には、下面に開口する凹所34が設けられている。凹所34は、略球冠状の内面を有しており、下方に向けて次第に大径となっている。凹所34は、アウタ筒部材14における内フランジ状部30の内周端部よりも内周に設けられている。それ故、本実施形態の凹所34は、アウタ筒部材14の下方開口部を通じて外部に開口している。
【0036】
図7にも示されるように、本実施形態の凹所34は円形の横断面を有しており、特に本実施形態では、凹所34は真円形状の横断面を有している。即ち、本実施形態では、凹所34における開口中心と底中心とが、
図7に示される横断面において同じ位置にある。要するに、凹所34は、上下方向に延びる中心軸を有しており、当該中心軸上に凹所34の開口中心と底中心が位置している。そして、凹所34は、中心軸回りで回転対称とされた内面を備えている。
【0037】
本実施形態では、凹所34の中心軸とアウタ筒部材14の部材中心軸(アウタ中心軸32)とが同軸とされている。これにより、凹所34の内面により構成される本体ゴム弾性体16の内周面36は、軸直角方向の断面(横断面)において、エンジンマウント10の中心軸(アウタ中心軸32)を中心とする真円形状とされている。
【0038】
かかる凹所34が設けられることにより、本体ゴム弾性体16は、実質的にインナ部材12とアウタ筒部材14とを斜め方向で連結するゴムが周方向の全周に亘って連続する形状とされている。凹所34の深さ寸法(上下方向寸法)は、本体ゴム弾性体16の上端部に埋め込まれた状態で固着されたインナ部材12の固着部18までは至っておらず、インナ部材12の下端部は凹所34に露出しないようになっている。要するに、インナ部材12とアウタ筒部材14とを斜め方向で連結する本体ゴム弾性体16の内周部分において、インナ部材12の下端を覆って本体ゴム弾性体16を連続せしめる連続ゴム40が設けられている。この連続ゴム40は、軸直角方向に広がっており、本体ゴム弾性体16の内周部分を、前後方向や左右方向を含む軸直角方向の各方向で繋げている。本実施形態では、連続ゴム40が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている。
【0039】
ここにおいて、エンジンマウント10では、インナ部材12の部材中心軸(インナ中心軸22)が、アウタ筒部材14の部材中心軸(アウタ中心軸32)に対して軸直角方向で偏心しており、本実施形態では、
図2,3にも示されるように、インナ中心軸22とアウタ中心軸32とが前後方向でずれている。特に、本実施形態では、インナ中心軸22が、アウタ中心軸32よりも前方に配置されている。
【0040】
これにより、本体ゴム弾性体16において、インナ部材12とアウタ筒部材14との対向方向での自由長が、周方向で異ならされている。具体的には、
図3において白矢印で示されるように、偏心方向の一方側となる前側においてインナ部材12からアウタ筒部材14に向かって車両の前方に延びる本体ゴム弾性体16の自由長Lfが、偏心方向の他方側となる後側においてインナ部材12からアウタ筒部材14に向かって車両の後方に延びる本体ゴム弾性体16の自由長Lrよりも短くされている。なお、本明細書において、本体ゴム弾性体16におけるインナ部材12とアウタ筒部材14の対向方向での自由長とは、本体ゴム弾性体16におけるインナ部材12とアウタ筒部材14の対向方向での弾性中心の長さをいう。
【0041】
また、前述のように、インナ中心軸22がアウタ中心軸32に対して偏心して前方に配置されることで、本体ゴム弾性体16の外周面42における表面長さが、周方向で異ならされている。即ち、本体ゴム弾性体16の外周面42における表面長さが、偏心方向(前後方向)の両側部分で異ならされており、前方部分に比して後方部分の方が長くされている。なお、本明細書において、本体ゴム弾性体16の外周面42における表面長さとは、
図3等に示される縦断面において、外周面42に沿う長さをいう。
【0042】
なお、本実施形態では、
図6にも示されるように、軸直角方向の断面(横断面)において、本体ゴム弾性体16の外周面42は、真円形状とされている。即ち、本体ゴム弾性体16の上方部分において、インナ部材12の固着部18に固着された部分では、横断面における中心が、インナ中心軸22と比較的近い位置にある一方、下方になるにつれて横断面における中心が次第に後方にずれて、本体ゴム弾性体16の下方部分において、アウタ筒部材14に固着された部分では、横断面における中心が、アウタ中心軸32と重なるようになっている。
【0043】
また、本実施形態では、固着部18が真円形状の横断面を有していることから、本体ゴム弾性体16の上方部分において固着部18が固着されるインナ固着面44も、真円形状の横断面を有している。
【0044】
以上の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10では、前述のようにインナ部材12のボルト穴24に固定ボルトが螺合されることによって、インナ部材12がパワーユニットに固定される。また、アウタ筒部材14に外挿されるサブフレーム等が車両ボデーに固定されることによって、アウタ筒部材14が車両ボデーに固定される。これにより、パワーユニットと車両ボデーとが、エンジンマウント10によって弾性連結される。
【0045】
そして、車両の加速時には、エンジンマウント10に対して後方への荷重が入力されて、後方部分においてアウタ筒部材14に対してインナ部材12が接近変位すると共に、前方部分においてアウタ筒部材14に対してインナ部材12が離隔変位するようになっている。また、車両の減速時には、エンジンマウント10に対して前方への荷重が入力されて、前方部分においてアウタ筒部材14に対してインナ部材12が接近変位すると共に、後方部分においてアウタ筒部材14に対してインナ部材12が離隔変位するようになっている。これにより、エンジンマウント10には、車両の加減速に応じて、軸直角方向で相互に反対の方向(前方及び後方)の荷重が入力されるようになっている。
【0046】
このような荷重の入力時において、特に車両の加速時には、加速Gに加えてトルク反力も及ぼされることから減速時に比して大きな荷重となりやすい。それ故、本体ゴム弾性体の後方部分が、後方へ変位したインナ部材とアウタ筒部材との間で圧縮されて、インナ部材の周方向両側へと回り込むように変形し、インナ部材に固着された本体ゴム弾性体の内周部分において剪断方向の大きな歪や応力が発生しやすく、それが原因となって従来構造のエンジンマウントでは耐久性確保が難しくなっているとの知見を得た。
【0047】
かかる知見に基づいて、本実施形態のエンジンマウント10では、インナ中心軸22をアウタ中心軸32に対して前後方向で偏心させて、本体ゴム弾性体16の前方部分における自由長Lfに対して、本体ゴム弾性体16の後方部分における自由長Lrを大きくした。この結果、車両の加速時において、比較的大きな荷重が入力されて本体ゴム弾性体16の後方部分が圧縮される場合にも、荷重に対する歪を抑えることが可能になり、後方部分における圧縮歪やそれに伴ってインナ部材12の周方向両側に回り込むような変形に起因して発生する剪断方向の歪が軽減され得る。それ故、インナ部材12を挟んだ径方向一方側において他方側よりも非常に大きな荷重が及ぼされるような場合でも、本体ゴム弾性体16における不必要な厚肉化やそれに伴う防振特性の低下等を回避しつつ、本体ゴム弾性体16の耐久性を効率的に確保することが可能になる。
【0048】
一方、車両の減速時には、比較的小さな荷重が本体ゴム弾性体16の前方部分へ入力されることとなるが、本体ゴム弾性体16の前方部分における自由長Lfが小さくされていることから、本体ゴム弾性体16の前方部分が不必要に長くなることが回避される。これにより、本体ゴム弾性体16やアウタ筒部材14、ひいてはエンジンマウント10が大型化することも回避することができる。
【0049】
これに加えて、本実施形態では、本体ゴム弾性体16の内周部分を連続させる連続ゴム40を設けた。これにより、車両の加速時において、本体ゴム弾性体16の後方部分に入力された荷重により生じる歪や応力が、連続ゴム40を介して本体ゴム弾性体16の前方部分や左右部分にも伝達される。これによっても、本体ゴム弾性体16に惹起される歪や応力が一方の側で過大となることが防止されて、本体ゴム弾性体16、ひいてはエンジンマウント10の耐久性をより向上させることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、本体ゴム弾性体16の外周面42及び内周面36が、軸直角方向の断面においてそれぞれ真円形状とされていることから、荷重入力時において本体ゴム弾性体16の変形を滑らかに生じさせることができて、歪や応力の局所的な集中をより効果的に回避することができる。これにより、本体ゴム弾性体16の耐久性をより安定して向上させることができる。
【0051】
更にまた、本実施形態では、本体ゴム弾性体16の外周面42において、アウタ中心軸32に対するインナ中心軸22の偏心方向である前後方向の両側部分で、表面長さが相互に異ならされている。このように本体ゴム弾性体16の外周面42における表面長さを偏心方向(前後方向)で異ならせることで、本体ゴム弾性体16の前後方向の両側において自由長の長さを適切に設定することができて、上記の耐久性向上効果をより安定して発揮させることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。
【0053】
例えば、前記実施形態では、アウタ筒部材14の部材中心軸(アウタ中心軸32)に対するインナ部材12の部材中心軸(インナ中心軸22)の偏心方向が前後方向であったが、この態様に限定されるものではない。即ち、本発明では、防振部材の中心軸に直交する方向の一方向において相互に反対の方向で異なる大きさの荷重が入力されればよく、異なる大きさで入力される荷重の方向に合わせて、アウタ筒部材の部材中心軸に対してインナ部材の部材中心軸を偏心させればよい。
【0054】
また、前記実施形態では、連続ゴム40が、本体ゴム弾性体16の内周部分を軸直角方向の各方向で連続させていたが、連続ゴムは、少なくとも、アウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ部材の部材中心軸の偏心方向において一方側の本体ゴム弾性体と他方側の本体ゴム弾性体とを連続させていればよく、前記実施形態の場合は、少なくとも、前側の本体ゴム弾性体16と後側の本体ゴム弾性体16とを連続させていればよい。
【0055】
さらに、軸直角方向の断面において、本体ゴム弾性体の外周面や内周面の形状は限定されるものではないが、楕円や長円等を含む円形状であることが好ましく、より好ましくは、前記実施形態のように真円形状とされる。また、インナ部材やアウタ筒部材の形状も限定されるものではなく、インナ部材の固着部やアウタ筒部材の軸直角方向における形状は、楕円や長円等を含む円形状や多角形状であってもよい。
【0056】
更にまた、前記実施形態では、軸直角方向の断面において、本体ゴム弾性体16の内周面36が真円形状とされており、即ち軸直角方向の断面において凹所34の開口中心の位置と底中心の位置とが同じとされて、アウタ筒部材14の部材中心軸(アウタ中心軸32)に対するインナ部材12の部材中心軸(インナ中心軸22)の偏心方向である前後方向の両側において、凹所34の底中心から開口端部までの表面長さ(
図3等に示される縦断面において凹所34の内面に沿う長さ)が相互に等しくされていたが、この態様に限定されるものではない。例えば、軸直角方向の断面において、凹所の開口中心に対して凹所の底中心は、アウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ部材の部材中心軸の偏心方向でずれていてもよく、本体ゴム弾性体の内周面は、偏心方向の両側で、凹所の底中心から開口端部までの表面長さが相互に異ならされていてもよい。
【0057】
また、アウタ筒部材の中心軸に対するインナ部材の中心軸の偏心方向の両側において、本体ゴム弾性体の外周面の表面長さを異ならせる態様と内周面の表面長さを異ならせる態様とは組み合わされて採用されてもよく、偏心方向の一方側で外周面及び内周面の表面長さを長く(他方側で外周面及び内周面の表面長さを短く)してもよいし、偏心方向の一方側で外周面の表面長さを長く、且つ内周面の表面長さを短く(偏心方向の他方側で外周面の表面長さを短く、且つ内周面の表面長さを長く)してもよい。
【0058】
さらに、前記実施形態では、インナ部材12に周方向位置決め部としてのピン状突起28が設けられていると共に、インナ部材12の下端は本体ゴム弾性体16と一体的に形成される連続ゴム40で覆われていたが、周方向位置決め部が設けられて車両の前後方向が規定される場合、連続ゴムは設けられなくてもよく、インナ部材の下端は凹所の内面に露出していてもよい。また、連続ゴムが設けられる場合、周方向位置決め部は設けられなくてもよい。
【0059】
更にまた、周方向位置決め部は、前記実施形態のピン状突起28に限定されるものではない。即ち、周方向位置決め部により車両の前後方向が規定できるようになっていればよく、前記実施形態のように外方に突出する突起の他、凹部でもよいし、所定の方向等を記した紙片等を貼付してもよいし、前後方向を規定するための刻印等を施してもよい。また、周方向位置決め部は、インナ部材に代えて、又は加えて、アウタ筒部材や本体ゴム弾性体に設けられてもよい。
【0060】
さらに、前記実施形態では、インナ部材12の取付中心軸であるインナ取付軸26とアウタ筒部材14の取付中心軸であるアウタ取付軸(アウタ中心軸32)とが、エンジンマウント10の車両への装着前と装着状態の何れにおいても同軸であったが、両取付軸は、防振装置の車両への装着前と装着状態の少なくとも一方において、相互にずれていてもよい。即ち、例えば車両への装着前においてインナ部材の取付中心軸とアウタ筒部材の取付中心軸が相互にずれている場合、かかるずれを考慮してアウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ部材の部材中心軸の偏心量を設定してもよい。また、例えば防振装置を車両に装着することでインナ部材の取付中心軸とアウタ筒部材の取付中心軸とがずれる場合にも、かかるずれを考慮してアウタ筒部材の部材中心軸に対するインナ部材の部材中心軸の偏心量が設定されてもよい。
【0061】
さらに、前記実施形態では、本発明に係る防振装置として自動車用のエンジンマウント10が例示されていたが、本発明に係る防振装置としては、中心軸に直交する方向の一方向において相互に反対の方向において異なる大きさの荷重が入力される防振装置であればよく、例えば駆動側と反駆動側で異なる大きさの荷重が入力されるトルクマウント等であってもよい。また、前記実施形態では、防振装置(エンジンマウント10)が、ゴムの変形に伴って防振効果が発揮される、いわゆるソリッドタイプの防振装置であったが、本発明に係る防振装置は、非圧縮性流体が封入された流体室を内部に備えて、流体の流動作用等に基づく防振効果を利用する流体封入式の防振装置であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジンマウント
12 インナ部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 固着部
20 外フランジ状部
22 インナ中心軸
24 ボルト穴
26 インナ取付軸
28 ピン状突起
30 内フランジ状部
32 アウタ中心軸
33 アウタ固定面
34 凹所
36 内周面
40 連続ゴム
42 外周面
44 インナ固着面