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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】VDFコポリマーの架橋性ブレンド
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20240326BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240326BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20240326BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240326BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K3/011
C08F214/22
C08F220/06
C08F220/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021505994
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019071221
(87)【国際公開番号】W WO2020030694
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】18306092.0
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ブルソー, セゴレーヌ
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-533051(JP,A)
【文献】特表2000-500791(JP,A)
【文献】特開2003-171599(JP,A)
【文献】特開2002-285016(JP,A)
【文献】特表2017-506692(JP,A)
【文献】特表2014-520378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/16
C08K 3/011
C08F 214/22
C08F 220/06
C08F 220/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性組成物(C)であって、
A)
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位、
- (ii)少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位、
を含む少なくとも1種のフルオロポリマー[ポリマー(FA)]であって、
前記ポリマー(FA)中の繰り返し単位(ii)の合計量が、ポリマー(FA)の繰り返し単位の総モル数に対して最大10.0モル%であり、
少なくとも40%のランダムに分布した単位(HA)のフラクションによって特徴付けられるポリマー(FA);及び
B)
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位、
- (iii)少なくとも1種のカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位、
を含む、ポリマー(FA)とは異なる少なくとも1種のフルオロポリマー[ポリマー(FB)]であって、
前記ポリマー(FB)中の繰り返し単位(iii)の合計量が、ポリマー(FB)の繰り返し単位の総モル数に対して最大10.0モル%であり、
少なくとも40%のランダムに分布した単位(CA)のフラクションによって特徴付けられるポリマー(FB);
を含有する架橋性組成物(C)。
【請求項2】
前記ヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)が式(I)の化合物である、請求項1に記載の組成物(C):
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して、水素原子、ハロゲン原子、及びC~C炭化水素基から選択され、ROHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含んでおり鎖内に1つ以上の酸素原子、カルボニル基、又はカルボキシ基を含む場合があるC~C10炭化水素鎖部位である)。
【請求項3】
モノマー(HA)が式(Ia)の化合物である、請求項2に記載の組成物(C):
(式中、
、R、及びR、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、R’OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部位である)。
【請求項4】
式(Ia)のモノマー(HA)が、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物(C)。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)が式(II)の化合物である、請求項1に記載の組成物(C):
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、Rは、水素、又は少なくとも1個のカルボキシル基を含むC~C10炭化水素部位である)。
【請求項6】
(CA)が式(IIa)の化合物である、請求項1に記載の組成物(C):
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、R’は、水素、又は少なくとも1個のカルボキシル基を含むC~C炭化水素部位である)。
【請求項7】
モノマー(CA)が、アクリル酸(AA)、(メタ)アクリル酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の組成物(C)。
【請求項8】
ポリマー(FA)が、VDFとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項9】
ポリマー(FB)が、VDFとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項10】
- ポリマー(FA)が、
- 少なくとも70モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)、
- 任意選択的な、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位、を含
及び
- ポリマー(FB)が、
- 少なくとも70モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(CA)、
- 任意選択的な、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位、
を含む;
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項11】
少なくとも1種の酸性架橋触媒を更に含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項12】
前記酸性架橋触媒が、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第一スズ、三塩化アンチモン、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジプロピルエーテル錯体、及び三酸化アンチモンからなる群から選択されるルイス酸である、請求項11に記載の組成物(C)。
【請求項13】
130℃~250℃に含まれる温度で請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物(C)を熱処理する工程を含む、架橋フルオロポリマー(XLF)の調製方法。
【請求項14】
請求項13に記載の架橋フルオロポリマー(XLF)の調製方法により得られた架橋フルオロポリマー(XLF)を含む成形品。
【請求項15】
A)請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物(C)を成形品へと加工すること;
B)工程(a)で得た前記成形品を130℃~250℃に含まれる温度で熱処理すること;
を含む、架橋フルオロポリマー(XLF)を含む成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月9日出願の欧州特許出願公開第18306092.0号に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、親水性モノマー由来の繰り返し単位を含む架橋可能なフッ化ビニリデンコポリマーのブレンドに関し、前記ブレンドは、改善された性能を特徴とする成形品の製造に有用である。
【背景技術】
【0003】
ポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)は、押出、射出成形、繊維紡糸、押出ブロー成形、及びブローフィルムなどの多くの異なるプロセスによってポリマー構造へと形成される溶融加工可能な樹脂である。
【0004】
PVDFは、フィルム、コーティング、及び繊維などの物品の製造のために、PVDF粉末をアセトン又はNMPなどの有機溶媒に溶解することによって調製された溶液の形態でも使用される。
【0005】
PVDFの分子量を増加させることは、特に機械的特性に関して、これらの材料から製造された物品の性能を増加させることが知られている。
【0006】
しかしながら、高分子量PVDFは溶融加工することが困難である。
【0007】
高分子量PVDFは、有機溶媒に適切に溶解させることも困難である。特に、分子量が高いほど、溶液の調製に時間を要する。
【0008】
そのため、当該技術分野で公知のプロセスによって前記高分子量PVDFを成形することは、困難であるか不可能である。
【0009】
PVDF樹脂の分子量は、架橋によって増加させることができる。
【0010】
架橋のアプローチは、通常、架橋剤促進剤をフルオロポリマーとブレンドし、続いて熱処理又は電離放射線処理して架橋させることを含む。
【0011】
米国特許第5003008号明細書(TDK CORP)23/03/1991には、ポリフッ化ビニリデン樹脂をオルガノシランと配合する工程と、前記オルガノシラン化合物をポリフッ化ビニリデン樹脂分子上にグラフトする工程と、樹脂コンパウンドを物品の形態に成形する工程と、このようにして成形した物品を、水及びそれに接触するシラノール縮合触媒の存在下で加熱する工程と、を含む架橋ポリフッ化ビニリデン樹脂の成形品の製造方法が開示されている。
【0012】
代替の手法では、ペンダント官能基を含むフッ素化コポリマーは、架橋剤促進剤の存在下で熱的に架橋することができる。例えば、欧州特許第0969023号明細書(DUPONT THE NEMOURS AND COMPANY)05/01/2000には、ポリアミドなどの架橋促進剤の存在下で熱的に架橋され得る官能化フルオロポリマーが開示されており、前記フルオロポリマーの官能基には、エステル、アルコール、及び酸が含まれる。
【0013】
米国特許出願公開第2006/0148912号明細書(KUREHA CORPORATION)01/02/2006には、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の親水性基を骨格中に組み込んだフッ化ビニリデンコポリマーが開示されており、これを可塑剤及び良溶媒と混合することで、多孔質膜の製造に有用な組成物が製造される。その後、前記組成物の押出によって得られたフィルムは、その中で得られた多孔質膜の改善された加工性を提供する目的で、その結晶化度を高めるために熱処理される。熱処理後、フィルムに対して抽出プロセスを行うことで可塑剤が除去され、多孔質膜が得られる。
【0014】
フッ化ビニリデンと親水性モノマーとの共重合は、そのようなコモノマーの非常に異なる反応性及びそれら固有の非相溶性に起因して、実際には容易ではない作業であることが当該技術分野で知られている。
【0015】
更に、親水性基を有する官能化モノマーを大量にVDF骨格に組み込むと、共重合の時間が長くなり、その結果、生産性が低くなり、また得られるコポリマーがPVDF樹脂の固有の特性を失う可能性がある。
【0016】
増加した分子量のPVDF及び改善された性能を有する物品を得ることを可能にする有効な程度の架橋を持たせるためには、VDFコポリマー内により多量の官能基を持たせることが望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
それぞれ特定の官能化モノマーを有するフッ化ビニリデンコポリマーのブレンドを使用して成形品を製造することができ、次いでこれを熱処理して、コポリマー中に存在する官能基間の架橋反応を通じて前記成形品の性能を改善できることが見出された。
【0018】
更に、ブレンド中の各フッ化ビニリデンコポリマーは、一定量の官能基を付与し、これにより、当該技術分野で公知のコポリマーと比較して熱架橋を受けることができる全体的により多い量の基が得られる。
【0019】
したがって、発明の目的は、
A)
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位、
- (ii)少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位、
を含む少なくとも1種のフルオロポリマー[ポリマー(FA)]であって、
前記ポリマー(FA)中のモノマー(HA)の合計量が、ポリマー(FA)の繰り返し単位の総モル数に対して最大10.0モル%、好ましくは最大5.0モル%、より好ましくは最大1.5モル%であり、
少なくとも40%のランダムに分布したモノマー(HA)のフラクションによって特徴付けられる前記ポリマー(FA);及び
B)
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位、
- (iii)少なくとも1種のカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位、
を含む、ポリマー(FA)とは異なる少なくとも1種のフルオロポリマー[ポリマー(FB)]であって、
前記ポリマー(FB)中のモノマー(CA)の合計量が、ポリマー(FB)の繰り返し単位の総モル数に対して最大10.0モル%、好ましくは最大5.0モル%、より好ましくは最大1.5モル%であり、
少なくとも40%のランダムに分布したモノマー(CA)のフラクションによって特徴付けられるポリマー(FB);
を含有する架橋性組成物(C)である。
【0020】
本発明の第2の目的では、上で詳述した組成物(C)の調製方法が提供される。
【0021】
本発明の第3の態様は、130℃~250℃に含まれる温度で組成物(C)を熱処理する工程を含む、架橋フルオロポリマー(XLF)の調製方法に関する。
【0022】
本発明は、更に、上で規定した通りに得た架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品に関する。
【0023】
本発明は、
(a)上で規定した組成物(C)を成形品へと加工すること;
(b)工程(a)で得た成形品を130℃~250℃に含まれる温度で熱処理すること;
を含む、架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品の製造方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
「フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(一般に二フッ化ビニリデン1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)という用語は、式CF=CHの繰り返し単位を示すことを意図している。
【0025】
適切なヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)は式(I)の化合物である:
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して、水素原子、ハロゲン原子、及びC~C炭化水素基から選択され、ROHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含んでおり鎖内に1つ以上の酸素原子、カルボニル基、又はカルボキシ基を含む場合があるC~C10炭化水素鎖部位である)。
【0026】
好ましい実施形態では、モノマー(HA)は式(Ia)の化合物である:
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、R’OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部位である)。
【0027】
式(Ia)のモノマー(HA)の非限定的な例としては、特に、
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物、
が挙げられる。
【0028】
好ましくは、少なくとも1種のモノマー(HA)は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)である。
【0029】
適切なカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は式(II)の化合物である:
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、Rは、水素、又は少なくとも1個のカルボキシル基を含むC~C10炭化水素部位である)。
【0030】
好ましい実施形態では、モノマー(CA)は式(IIa)の化合物である:
(式中、
、R、及びRは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子及びC~C炭化水素基から選択され、R’は、水素、又は少なくとも1個のカルボキシル基を含むC~C炭化水素部位である)。
【0031】
式(IIa)のモノマー(CA)の非限定的な例としては、特に、
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
及びそれらの混合物、
が挙げられる。
【0032】
好ましくは、少なくとも1種のモノマー(CA)はアクリル酸(AA)である。
【0033】
組成物(C)中のポリマー(FA)とポリマー(FB)との間の重量比は、5:95~95:5に含まれていてもよく、好ましくは20:80~80:20に含まれる。
【0034】
組成物(C)中のポリマー(FA)とポリマー(FB)との間の重量比は、好ましくは、組成物(C)中の繰り返し単位(ii)と繰り返し単位(iii)との間のモル比を20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10の範囲に含まれる比で得ることができるようなものである。
【0035】
ポリマー(FA)では、ランダムに分布した単位(HA)のフラクションが少なくとも40%であり、ポリマー(FB)では、ランダムに分布した単位(CA)のフラクションが少なくとも40%であることが必須である。
【0036】
「ランダムに分布した単位(HA)のフラクション」という表現は、ポリマー(FA)中のVDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位間に含まれる(HA)モノマー配列の平均の数(%)と、(MA)モノマー繰り返し単位の合計の平均の数との間のパーセント比を指すことが意図されており、以下の式に従う:
【0037】
(HA)繰り返し単位のそれぞれが隔てられる場合、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれる場合、(HA)配列の平均数は、(HA)繰り返し単位の平均総数に等しく、そのため、ポリマー(FA)中のランダムに分布した単位(HA)のフラクションは100%である。この値は、ポリマー(FA)内の(HA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。
【0038】
したがって、(HA)単位の総数に対する孤立した(HA)単位の数が多いほど、上記のようにランダムに分布した単位(HA)のフラクションのパーセント値が大きくなる。
【0039】
「ランダムに分布した単位(CA)のフラクション」という表現は、ポリマー(FB)中のVDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位間に含まれる(CA)モノマー配列の平均の数(%)と、(CA)モノマー繰り返し単位の合計の平均の数との間のパーセント比を指すことが意図されており、以下の式に従う:
【0040】
(CA)繰り返し単位のそれぞれが隔てられる場合、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれる場合、(CA)配列の平均数は、(CA)繰り返し単位の平均総数に等しく、そのため、ポリマー(FB)中のランダムに分布した単位(CA)のフラクションは100%である。この値は、ポリマー(FB)内の(CA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。
【0041】
したがって、(CA)単位の総数に対する孤立した(CA)単位の数が多いほど、上述したランダムに分布した単位(CA)のフラクションのパーセント値が大きくなる。
【0042】
ポリマー(FA)中の(HA)モノマー繰り返し単位の総平均数及びポリマー(FB)中の(CA)モノマー繰り返し単位の総平均数の決定は、任意の適切な方法によって行うことができ、NMRが好ましい。
【0043】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)中にそれぞれランダムに分布した単位(HA)及び(CA)のフラクションは、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%である。
【0044】
ポリマー(FA)は、好ましくは少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の、前記モノマー(HA)由来の繰り返し単位を含む。
【0045】
ポリマー(FA)は、好ましくは最大7.0モル%、より好ましくは最大5.0モル%、更に好ましくは最大3.0モル%のモノマー(HA)由来の繰り返し単位を含む。
【0046】
ポリマー(FB)は、好ましくは少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の、前記モノマー(CA)由来の繰り返し単位を含む。
【0047】
ポリマー(FB)は、好ましくは最大7.0モル%、より好ましくは最大5.0モル%、更に好ましくは最大3.0モル%のモノマー(CA)由来の繰り返し単位を含む。
【0048】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)がそれぞれがVDFに由来する繰り返し単位を少なくとも70モル%含む組成物(C)で優れた結果が得られた。
【0049】
ポリマー(FA)と(FB)の両方は、独立して、エラストマーであっても半結晶性ポリマーであってもよい。
【0050】
好ましくは、ポリマー(FA)とポリマー(FB)の両方が半結晶性ポリマーである。
【0051】
本明細書で用いるところでは、用語「半結晶性」は、DSC分析でガラス転移温度Tgに加えて、少なくとも1つの結晶融点を有するフルオロポリマーを意味する。本発明の目的のためには、半結晶性フルオロポリマーは、ASTM D3418-08に従って測定されるように、10~90J/gの、好ましくは30~80J/gの、より好ましくは35~75J/gの融解熱を有するフルオロポリマーを意味することを本明細書では意図する。
【0052】
本発明の目的のためには、用語「エラストマー」は、真のエラストマー、又は真のエラストマーを得るための基礎成分として役立つポリマー樹脂を示すことを意図する。
【0053】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、第184規格により、室温でその固有長さの2倍に伸長でき、それらを5分間張力下に保持した後、解放すると、同時にその初期長さの10%以内に戻る材料として定義されている。
【0054】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(F)の固有粘度は、0.80l/g未満、好ましくは0.50l/g未満、より好ましくは0.20l/g未満である。
【0055】
ポリマー(FA)とポリマー(FB)の両方は、VDFとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0056】
「フッ素化コモノマー(CF)」という用語は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することが本明細書では意図される。
【0057】
好適なフッ素化コモノマー(CF)の非限定的な例としては、とりわけ、以下のものが挙げられる:
(a)C~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレン;
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えばフッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン;
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン。
【0058】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)中のフッ素化コモノマー(CF)は、好ましくはHFPである。
【0059】
好ましい一実施形態では、ポリマー(F)は半結晶性であり、0.1~10.0モル%、好ましくは0.3~5.0モル%、より好ましくは0.5~3.0モル%の前記フッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位を含む。
【0060】
本発明による好ましい実施形態では、ポリマー(FA)とポリマー(FB)の両方が、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)、好ましくはHFPを含む。
【0061】
鎖末端、欠陥、又は他の不純物タイプの部分がポリマー(FA)又はポリマー(FB)中に含まれる場合があるが、これらはその性質を損なわないことが理解される。
【0062】
ポリマー(FA)は、より好ましくは:
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む。
【0063】
ポリマー(FB)は、より好ましくは:
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(CA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む。
【0064】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)は、例えば国際公開第2008129041号パンフレットに記載されている手順に従って有機媒体中の懸濁液の中で、又は当該技術分野で説明されている通りに典型的に行われる水性エマルジョンの中で(例えば米国特許第4,016,345号明細書、米国特許第4,725,644号明細書、及び米国特許第6,479,591号明細書を参照)、VDFモノマーと、任意選択的な少なくとも1種のコモノマー(CF)と、それぞれ少なくとも1種のモノマー(HA)及び少なくとも1種のモノマー(CA)との重合によって得ることができる。
【0065】
ポリマー(FA)を調製するための手順は、ラジカル開始剤の存在下で水性媒体中でフッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、モノマー(HA)と、任意選択的なコモノマー(CF)とを反応容器内で重合することを含み、前記方法は、
- モノマー(HA)を含む水溶液を連続的に供給すること;及び
- フッ化ビニリデンの臨界圧力を超えて前記反応容器内の圧力を維持すること;
を含む。
【0066】
ポリマー(FB)を調製するための手順は、ラジカル開始剤の存在下で水性媒体中でフッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、モノマー(CA)と、任意選択的なコモノマー(CF)とを反応容器内で重合することを含み、前記方法は、
- モノマー(CA)を含む水溶液を連続的に供給すること;及び
- フッ化ビニリデンの臨界圧力を超えて前記反応容器内の圧力を維持すること;
を含む。
【0067】
重合の実施全体の間、圧力はフッ化ビニリデンの臨界圧力よりも高く維持される。通常、圧力は50bar超、好ましくは75bar超、更により好ましくは100bar超の値で維持される。
【0068】
ポリマー(FA)又はポリマー(FB)をそれぞれ調製するための重合の実施全体の時間、モノマー(HA)又はモノマー(CA)のいずれかを含む水溶液の連続供給を継続することが不可欠である。
【0069】
この形式では、ポリマーのVDFモノマーポリマー骨格内で、ポリマー(FA)中でのモノマー(HA)と、ポリマー(FB)中でのモノマー(CA)のほぼ統計的な分布を得ることが可能である。
【0070】
「連続供給」又は「連続的に供給」という表現は、重合が完了するまで、モノマー(HA)の水溶液又はモノマー(CA)の水溶液のゆっくりとした、少量の、徐々に増加させる添加が行われることを意味する。
【0071】
重合中に連続的に供給されるモノマー(HA)又はモノマー(CA)の水溶液は、それぞれポリマー(FA)又はポリマー(FB)の調製のための反応中に供給される前記モノマーの合計量(すなわち最初に入っている量プラス連続供給量)の少なくとも50重量%である。モノマー(HA)とモノマー(CA)のいずれかの合計量の好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%が、重合中に連続的に供給される。この要件が必須ではない場合であっても、重合中にVDFモノマーの徐々に増加させる添加を行うことができる。通常、本発明のポリマー(FA)及びポリマー(FB)を調製するためのプロセスは、少なくとも35℃、好ましくは少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも45℃の温度で行われる。
【0072】
ポリマー(FA)又はポリマー(FB)のいずれかを得るための重合が懸濁液中で行われる場合、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)は、典型的には粉末の形態で供給される。
【0073】
ポリマー(FA)又はポリマー(FB)のいずれかを得るための重合がエマルジョンの中で行われる場合、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)は、典型的には水性分散液の形態、水性分散液(DA)及び水性分散液(DB)の形態でそれぞれ供給され、これらは乳化重合によって直接得たまま使用することができ、或いは濃縮工程後に使用することができる。好ましくは、分散液(DA)及び分散液(DB)中のポリマー(FA)及びポリマー(FB)の固形分は、それぞれ20~50重量%に含まれる範囲である。
【0074】
乳化重合によって得られたポリマー(FA)及びポリマー(FB)は、分散液の濃縮及び/又は凝固によって、それぞれ水性分散液(DA)及び分散液(DB)から単離することができ、その後の乾燥によって粉末形態で得ることができる。
【0075】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)を任意選択的に更に押し出すことで、ペレット形態のポリマー(FA)及びポリマー(FB)を得ることができる。
【0076】
押出は、押出機で適切に行われる。押出の継続時間は、適切には数秒から3分の範囲である。
【0077】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)を任意の適切な有機溶媒に溶解することで、それぞれ対応する溶液(SA)及び溶液(SB)を得ることができる。
【0078】
好ましくは、溶液(SA)中のポリマー(FA)及び溶液(SB)中のポリマー(FB)の固形分は、2~30重量%に含まれる範囲である。
【0079】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)を溶解するための適切な有機溶媒の非限定的な例は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、及びリン酸トリメチル、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、脂環式エステルである。これらの有機溶媒は、単独で使用されても2種以上の混合物で使用されてもよい。
【0080】
別の態様では、本発明は、上に詳述したような組成物(C)の調製方法であって、前記方法が、任意の従来の混合手法を用いて少なくとも1種のポリマー(FA)を少なくとも1種のポリマー(FB)と混合する工程を含む方法を提供する。
【0081】
本発明の一実施形態では、組成物(C)は、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)の両方を固体形態で適切なミキサー中で混合することによって調製される。
【0082】
したがって、組成物(C)は、固体形態で提供されてもよく、また、任意選択的には更に押し出されることで、ペレット形態の組成物(C)が供給されてもよい。
【0083】
上で規定した通りに得た組成物(C)は、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)を溶解するための上で規定した適切な有機溶媒の中に溶解させて溶液形態で供給することもできる[溶液(CS)]。
【0084】
本発明の別の実施形態では、組成物(C)は、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)の両方を適切な有機溶媒中の溶液の形態で混合し、結果として溶液(SA)を上で規定した溶液(SB)と混合し、上で規定した組成物(CS)を得ることによって調製される。
【0085】
本発明の別の実施形態では、組成物(C)は、ポリマー(FA)及びポリマー(FB)の両方を水性分散液の形態で混合し、結果として分散液(DA)を上で規定した分散液(DB)と混合し、結果として水性分散液の形態の組成物(DS)を得ることによって調製される。
【0086】
固体形態の組成物(C)を再度得るために、組成物(CS)及び組成物(CD)は、それぞれ有機溶媒又は水の除去のための熱処理を受けることができ、その結果有機溶媒又は水を含まない。
【0087】
本発明の別の態様では、組成物(C)は、少なくとも1種の酸性架橋触媒を更に含んでいてもよい。
【0088】
適切な酸性架橋触媒としては、例えば、ルイス酸、強鉱酸、例えば硫酸、リン酸、ポリリン酸、過塩素酸など;飽和脂肪族炭化水素スルホン酸及び芳香族炭化水素スルホン酸、例えばエタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、低級アルキル置換ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。
【0089】
ここでの適切なルイス酸は、好ましくはホウ素、アルミニウム、スズ、アンチモン、及び鉄からなる群からカチオンが選択される無機又は有機金属化合物である。
【0090】
これらの挙げたルイス酸の中でも、特に金属ハロゲン化物であるルイス酸、例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第一スズ、三塩化アンチモン、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジプロピルエーテル錯体などが特に優先され、塩化第一スズが特に好ましい。
【0091】
ルイス酸には、ルイス酸自体だけでなく、ルイス酸の機能を付与する金属又は金属化合物、例えば酸化物及び硫化物も含まれ、三酸化アンチモン(Sb)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫化亜鉛(ZnS)が好ましい。
【0092】
組成物(C)において、酸性架橋触媒は、ポリマー(FA)及び(FB)の総重量に対して好ましくは0.001~2.0重量%に含まれる量で、より好ましくは、0.005~0.5重量%に含まれる量で含まれる。
【0093】
酸性架橋触媒は、上で詳述した通りに調製した組成物(C)に都合よく添加することができる。
【0094】
代替の実施形態では、酸性架橋触媒は、組成物(C)を調製するために同じものを使用する前に、ポリマー(FA)に、ポリマー(FB)に、又はポリマー(FA)とポリマー(FB)の両方に添加することができる。
【0095】
ポリマー(FA)とポリマー(FB)のいずれかに添加される場合、酸性架橋触媒は、好ましくは、ポリマー(FA)とポリマー(FB)のいずれかの重量に対して0.001~2.0重量%に含まれる量で含まれ、より好ましくは、0.005~0.5重量%に含まれる量で含まれる。
【0096】
ポリマー(FA)とポリマー(FB)の両方に添加される場合、酸性架橋触媒は、好ましくは、ポリマー(FA)とポリマー(FB)の総重量に対して0.001~2.0重量%に含まれる量で含まれ、より好ましくは、0.005~0.5重量%に含まれる量で含まれる。
【0097】
酸性架橋触媒は、好ましくはポリマー(FB)のみに添加される。
【0098】
本発明の一実施形態では、組成物(C)は、
A)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FA);
B)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FB);
C)ポリマー(FA)と(FB)の総重量に対して0.001~2.0重量%に含まれる量、より好ましくは0.005~0.5重量%に含まれる量の酸性架橋触媒;
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0099】
本発明の一実施形態では、組成物(CS)は、
A)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FA);
B)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FB);
C)ポリマー(FA)と(FB)の総重量に対して0.001~2.0重量%に含まれる量、より好ましくは0.005~0.5重量%に含まれる量の酸性架橋触媒;並びに
D)少なくとも1種の有機溶媒;
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0100】
本発明の一実施形態では、組成物(CS)は、
A)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FA);
B)
- 少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1.0モル%の、少なくとも1種のカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)、
由来の繰り返し単位を含み;
- 任意選択的には、0.5~3.0モル%の、少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)由来の繰り返し単位も含む;
少なくとも1種のポリマー(FB);
C)ポリマー(FA)と(FB)の総重量に対して0.001~2.0重量%に含まれる量の、より好ましくは0.005~0.5重量%に含まれる量の酸性架橋触媒;並びに
D)水:
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0101】
組成物(C)は、熱処理及び架橋を行う前に物品へと成形することができる。
【0102】
架橋は熱的に生じるため、架橋プロセスは、組成物(C)の成形品への製造と連携させることができる。
【0103】
組成物(CS)、及び組成物(DS)は、物品へと成形することができ、その後、少なくとも1種の有機溶媒又は水の除去のための熱処理を行うことで、前記有機溶媒又は水を含まない組成物(C)を再度得ることができる。
【0104】
本発明の組成物(C)は、130℃~250℃に含まれる温度で熱処理することで、改善された分子量を特徴とする架橋フルオロポリマー(XLF)を得ることができる。
【0105】
本明細書で使用される「熱処理」、「熱的に架橋される」、及び「熱的に起こる」は、本発明の架橋プロセスが温度によって活性化されることを意味すると理解される。当業者は、架橋を達成するために必要な時間が通常温度に依存し、温度の上昇に伴い架橋がより急速に起こることを認識するであろう。したがって、熱処理の時間は、温度、並びにポリマー(FA)及びポリマー(FB)の性質に応じて、5分から最大30日まで変動し得る。
【0106】
本発明の組成物(C)は、成形された物品へと適切に変換することができ、その後、前記物品の性能を改善するためにこれに対して熱架橋を行うことができる。
【0107】
熱架橋は、ポリマー(FA)中のモノマー(HA)に由来する繰り返し単位のヒドロキシル基の少なくとも一部と、ポリマー(FB)中のモノマー(CA)に由来する繰り返し単位のカルボキシル基の少なくとも一部との反応を含む。
【0108】
熱処理は、空気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0109】
一態様では、本発明は、架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品を製造するための方法を提供し、この方法は、
a)押出、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形などの技術により上で規定した組成物(C)を成形品へと溶融加工すること;
b)工程a)で得られた成形品を130℃~250℃に含まれる温度で熱処理すること;
を含む。
【0110】
本発明の好ましい実施形態では、溶融加工が含まれる場合、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されたポリマー(FA)及び(FB)の固有粘度は、0.05l/g~0.15l/gに含まれる。
【0111】
別の態様では、本発明は、架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品を製造するための方法を提供し、この方法は、
a)開放型のモールドの中で、水平面又はパッド上で、溶液を注型するなどの手法により上で規定した有機溶媒中の溶液組成物(CS)を成形品へと加工すること;
b)有機溶媒を除去して、組成物(C)の成形品を得ること;
c)工程b)で得た成形品を130℃~250℃に含まれる温度で熱処理すること;
を含む。
【0112】
本発明の好ましい実施形態では、溶液プロセスが含まれる場合、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(FA)及び(FB)の固有粘度は、0.15l/g~0.35l/gに含まれる。
【0113】
別の態様では、本発明は、架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品を製造するための方法を提供し、方法は、
a)成形品へなどの手法により上で規定した水分散液の形態の組成物(CD)を加工すること;
b)有機溶媒を除去して、組成物(C)の成形品を得ること;
c)工程b)で得た成形品を130℃~250℃に含まれる温度で熱処理すること;
を含む。
【0114】
本発明は、更に、上で規定した通りに得た架橋フルオロポリマー(XLF)を含む物品に関する。
【0115】
本発明の架橋性フルオロポリマー(F)、及び前記ポリマー(F)を含有する組成物(C)の主な目的用途は、耐薬品性、表面特性、及び高い使用温度の点でPVDFの周知の明らかになっている特徴を維持しながらも、成形することができ、且つ後に熱処理によって架橋することができる物品を製造することである。
【0116】
例えば、固体形態のポリマー(F)又は組成物(C)は、化学処理産業並びに石油及びガス産業におけるパイプ、シート、取り付け具、及びコーティングの製造のために特に適している。
【0117】
溶液中のポリマー(F)又は組成物(C)は、フィルムや膜、特に、例えばJournal of Membrane Science 178(2000)13-23に記載されているものなどの多孔質膜の製造のために特に適している。
【0118】
分散液中のポリマー(F)又は組成物(C)は、例えば米国特許出願公開第201503906号明細書(ARKEMA Inc.)19/08/2014に記載されている用途など、セパレータコーティングとして使用するための電極及び層用のバインダーなどの、電池の構成要素の製造に特に適している。
【0119】
参照により本明細書中に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と対立する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0120】
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)の固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(FA)又はポリマー(FA)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解させることによって得た溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、即ち、試料溶液の滴下時間と、溶媒の滴下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、即ち、η-1であり、Γは、ポリマー(FA)又はポリマー(FA)については3に相当する実験因子である)
を用いて測定した。
【0121】
ポリマー(FA)中のランダムに分布している(HA)単位のフラクションとポリマー(FB)中のランダムに分布している(CA)単位のフラクションの決定
ポリマー(FA)及びポリマー(FB)の中にそれぞれランダムに分布している(HA)と(CA)の単位のフラクションは、国際公開第2013/010936号パンフレットに開示された手順に従って、19F-NMRによって決定した。
【0122】
実施例1:ターポリマーVDF-HFP-HEA(ポリマー(FA))の調製
250rpmの速度で動作する羽根車を備えた80リットルの反応器に、順に58242gの脱塩水及び11.1gのMETHOCEL(登録商標)K100 GR懸濁化剤を入れた。反応器を、順に真空(30mmHg)及び14℃でのパージ窒素でパージした。次いで、イソドデカン中のt-アミルペルピバレート開始剤の75重量%溶液の149.9gを入れた。300rpmの速度で、21.6gのヒドロキシエチルアクリレート(HEA)及び1873gのヘキサフルオロプロピレン(HFP)モノマーを反応器に入れ、引き続き16597gのフッ化ビニリデン(VDF)を入れた。反応器を57℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を110バールに固定した。重合中、240.6gのHEAを含有する13kgの水溶液を供給することによって、圧力を110バールに常に等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入しなかったところ、圧力が低下し始めた。次いで、大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。概して、モノマーのほぼ75%転化率が得られた。次いで、そのように得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃でオーブン乾燥させた。
【0123】
実施例2:ターポリマーVDF-HFP-AAの調製((ポリマー(FB))
250rpmの速度で動作する羽根車を備えた80リットルの反応器に、順に59004gの脱塩水及び11.1gのMETHOCEL(登録商標)K100 GR懸濁化剤を入れた。反応器を、順に真空(30mmHg)及び20℃でのパージ窒素でパージした。次いで、イソドデカン中のt-アミルペルピバレート開始剤の75重量%溶液の174.8gを導入した。300rpmの速度で、8.8gのアクリル酸(AA)及び1874gのヘキサフルオロプロピレン(HFP)モノマーを反応器に入れ、引き続き16672gのフッ化ビニリデン(VDF)を入れた。反応器を56℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を110バールに固定した。重合中、178.5gのAAを含有する12.78kgの水溶液を供給することによって、圧力を110バールに常に等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入しなかったところ、圧力が低下し始めた。次いで、大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。概して、モノマーのほぼ80%転化率が得られた。次いで、そのように得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃でオーブン乾燥させた。
【0124】
実施例1及び2で調製したポリマー(A)及び(B)の組成及び固有粘度を表1に報告した。
【0125】
【0126】
ポリマー(FA)中のランダムに分布した単位(HA)及びポリマー(FB)中の(CA)のフラクションは、40%超である。
【0127】
実施例3:ポリマー(FA)とポリマー(FB)の50/50重量%のブレンド、押出、及びペレット化
最初の工程で、50重量パーセントのポリマーFAを高速ミキサーHenschel(FML40型)中で50重量パーセントのポリマーFBと混合することで、粉末混合物B1を得た。次いで、第2の工程で粉末混合物B1を入れ、メインフィーダーを備えた二軸共回転押出機(スクリュー径Dが34mmのLeistritz LSM 30.34 GG-5R)中でペレット化した。バレルは、目的の温度プロファイルを設定できる6つの温度制御ゾーンから構成されていた(表2を参照)。ダイは、それぞれ直径4mmの2つの穴から構成されていた。押出機回転速度は100rpmであった。2つの押出物を水タンクの中で冷却し、引き出してから圧縮空気で乾燥した。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0128】
【0129】
実施例4:10ppmのSbを含むポリマー(FA)とポリマー(FB)の50/50重量%のブレンド、押出、及びペレット化
最初の工程で、49.995重量パーセントのポリマーFAを、49.995重量パーセントのポリマーFB及び0.01重量パーセントのSigma-Aldrichから供給された酸化アンチモン(III)(Sb)と共に高速ミキサーHenschel(FML40型)を用いて混合することで、粉末混合物B2を得た。次いで、第2の工程で粉末混合物B2を入れ、メインフィーダーを備えた二軸共回転押出機(スクリュー径Dが34mmのLeistritz LSM 30.34 GG-5R)中でペレット化した。目的の温度プロファイルを設定できる6つの温度制御ゾーンが存在する(表3を参照)。ダイは、それぞれ直径4mmの2つの穴から構成されていた。押出機回転速度は100rpmであった。2つの押出物を水タンクの中で冷却し、引き出してから圧縮空気で乾燥した。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0130】
【0131】
実施例5:熱処理-架橋
ポリマーFA及びFB並びにブレンドB1及びB2を、動的機械的分光計Anton Paar MCR502(形状:平行板(25mm);モード:190℃と230℃の2つの温度での動的時間掃引試験)に入れた。28.8秒及び7200秒後に測定された見かけ粘度を以下の表4に示す。
【0132】
【0133】
実施例6:架橋評価
実施例3で得たブレンドB1のペレット及び実施例4で得たブレンドB1のペレットを用いて、それぞれ厚さ1.5mmの(10*10cm)の2つの試験板を製造した。それぞれのうちの1つは140℃且つ48時間のオーブンで処理されたものである。その後、4つの試験板のゲルのパーセント割合を以下の通りに決定した。
【0134】
完全に溶解するまで(約2時間)、撹拌しながら45℃でペレットをDMAの中に溶解させる(0.25%w/vol)。その後、Sorvall RC-6 Plus遠心分離機(ローターモデル:F21S-8X50Y)を使用して、20000rpmで60分間、室温で遠心分離する。その後、乾燥した残留物を計量して、ゲルのパーセント割合を推定する。
【0135】
結果を以下の表5に示す。
【0136】
【0137】
結果は、ブレンドB1とブレンドB2が完全に架橋されており、不溶物のパーセント割合が非常に高いことを示している。