(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】酸素治療を受ける患者に関して判断支援を提供する方法
(51)【国際特許分類】
G16H 40/63 20180101AFI20240326BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20240326BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G16H40/63
A61B5/1455
G01N33/49 W
(21)【出願番号】P 2021549803
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2020055046
(87)【国際公開番号】W WO2020174013
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-11
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520205899
【氏名又は名称】オウビ・アーペーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】ゲラベルセン,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】フロウ,ビャーネ
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-301154(JP,A)
【文献】特表2005-534018(JP,A)
【文献】齊藤 修,COPDに対する酸素療法,医学のあゆみ,第196巻、第9号,日本,藤田 勝治 医歯薬出版株式会社,2001年03月03日,pp.656-660
【文献】STEPHEN E REES,THE INTELLIGENT VENTILATOR (INVENT) PROJECT: THE ROLE OF MATHEMATICAL MODELS IN 以下備考,COMPUTER METHODS AND PROGRAMS IN BIOMEDICINE,2011年,VOL:104,PAGE(S):S1-S29,http://dx.doi.org/10.1016/S0169-2607(11)00307-5,TRANSLATING PHYSIOLOGICAL KNOWLEDGE INTO CLINICAL PRACTICE
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/06- 5/22
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素治療を受ける患者に関して判断支援を提供するためのコンピュータ実装方法であって、前記患者が、酸素流を供給する補給酸素デバイスを必要とする病状を有し、前記判断支援が、前記補給酸素デバイスから前記患者への前記酸素流を調節するときに、医療関係者を補助し、前記方法が、
-前記患者からの血液サンプルにおける血液ガス値
を供給して、前記血液ガス値の指標を決定す
るステップ
であって、前記血液サンプルが静脈血液サンプルまたは毛細管血液サンプルである、ステップと、
-
前記患者の動脈血酸素化値を供給するステップであって、前記動脈血酸素化値が血中酸素飽和度測定法によって測定される、ステップと、
-
前記動脈血酸素化値およ
び血液ガス値を数学モデルに当てはめることによって、前記患者の
指標の酸素レベルと前記患者の動脈血酸素化値との間の関係を計算
するステップと、
-前記
計算された関係に基づいて
、前記指標の血液ガス値から前記指標の酸素レベルを
射影するステップであって、
前記数学モデルが、一定呼吸率(RQ)によって決定される比率で、酸素を追加すると共に、二酸化炭素を静脈血から除去することに当てはまり、RQが0.7~1.0以内になるように設定され、
前記数学モデルが、シミュレーションを、シミュレートされる酸素飽和が、前記測定した動脈血酸素化値と等しくなるまたはこれと実質的に等しくなるまで実行する、
ステップと、
-
前記計算された関係と前記
射影とに基づいて、前記患者の所望の目標酸素レベルを表す目標動脈血酸素化値(目標_pO2)を計算するステップと、
-目標動脈血酸素化レベルに達するまで、
前記測定した前記患者の動脈血酸素化値に基づいて、前記補給酸素デバイスから前記患者への前記酸素流を調節するステップと、
-随意に、前記患者の所望の目標酸素レベルに達したことを確認するために、前記患者からの血液サンプルにおける前記血液ガス値を供給するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンピュータ実装方法において
、前記指標および
射影が、不十分に動脈血化された毛細管血液サンプルに合わせて補正される、コンピュータ実装方法。
【請求項3】
請求項1
または2記載のコンピュータ実装方法において、患者内において所望の酸素レベルを達成するために調節される酸素流が、それぞれ、2つの血液サンプルからの2つ未満の血液ガス
値の測
定によって達成され、第1血液サンプルが指標サンプルであり、第2血液サンプルが確認用サンプルである、コンピュータ実装方法。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法において、前記関係が、特定の血液サンプルに対する酸素解離曲線(ODC)を表す、コンピュータ実装方法。
【請求項5】
請求項
4記載のコンピュータ実装方法において、前記指標
の射影が、患者からの特定の血液サンプルに基づく前記酸素解離曲線の近似である、コンピュータ実装方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法において、前記酸素流の調整前および/または後に、動脈血酸素化値
が前記医療関係者に供給
される、コンピュータ実装方法。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法であって、更に、
ステップ1:所望の目標酸素レベルを前記判断支援に供給するステップであって、前記判断支援が、前記供給された血液ガス値と第1動脈血酸素化値とに基づいて、目標動脈血酸素化値を計算し、前記判断支援が、酸素流調節値と、第2動脈血酸素化値を前記判断支援に供給するまでの随意の待ち時間とを示唆する、ステップを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項8】
請求項
7記載のコンピュータ実装方法であって、更に、前記ステップ1の後に、
ステップ2:前記待ち時間の後に、前記患者の現在の動脈血酸素化値を供給するステップであって、前記判断支援が、前記目標動脈血酸素化値に達していない場合、酸素流調節値と、次の動脈血酸素化値を前記判断支援に供給するまでの随意の待ち時間とを示唆する、ステップと、
ステップ3:前記目標動脈血酸素化値に達するまで、前記ステップ2を繰り返すステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法において、前記判断支援が、第1血液ガス値と随意の第1動脈血酸素化値とに基づいて、前記患者の所望の目標酸素レベルに達するための最終的酸素流を示唆する、コンピュータ実装方法。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法において、前記患者の酸素レベルと前記患者の動脈血酸素化値との間の前記関係が、前
記動脈血酸素化値およ
び供給された血液ガス値を前記数学モデルに当てはめ、前記指標
の酸素レベル
について射影を適用することによって、計算され、
前記数学モデルの
更なる条件が、
【数1】
として表現することができ、ここで、Fe’O
2およびFe’CO
2は、それぞれ、酸素および二酸化炭素の呼気終末分画である、コンピュータ実装方法。
【請求項11】
請求項1から
9のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法において、前記患者の酸素レベルと前記患者の動脈血酸素化値との間の前記関係が、前記測定した動脈血酸素化値および前記
供給された血液ガス値を前記数学モデルに当てはめ、前記指標の酸素レベル
について前記
射影を適用することによって、計算され、前記数学モデルの
更なる条件が、
【数2】
として表現することができ、ここで、FeO
2およびFeCO
2は、それぞれ、酸素および二酸化炭素の混合呼気分画である、コンピュータ実装方法。
【請求項12】
判断支援(DS)を提供するためのデータ処理システムであって、前記データ処理システムが、
-患者からの血液サンプルにおける血液ガス値
を受け取って、前記血液ガス値の指標を決定す
る手段
であって、前記血液サンプルが静脈血液サンプルまたは毛細管血液サンプルである、手段と、
-
前記患者の動脈血酸素化値を受け取る手段であって、前記動脈血酸素化値が、血中酸素飽和度測定法によって測定される、手段と、
-前
記動脈血酸素化値およ
び血液ガス値を数学モデルに当てはめることによって、前記患者の
指標の酸素レベルと前記患者の動脈血酸素化値との間の関係を計算する手段と、
前記
計算された関係に基づいて
、前記指標の血液ガス値から前記指標の酸素レベルを
射影する手段であって、
前記数学モデルが、一定呼吸率(RQ)によって決定される比率で、酸素を追加すると共に、二酸化炭素を静脈血から除去することに当てはまり、RQが0.7~1.0以内になるように設定され、
前記数学モデルが、シミュレーションを、シミュレートされる酸素飽和が前記測定した動脈血酸素化値と等しくなるまたはこれと実質的に等しくなるまで実行する、
手段と、
-
前記計算
された関係と前記
射影とに基づいて、前記患者の所望の目標酸素レベルを表す目標動脈血酸素化値を計算する手段と、
-目標動脈血酸素化レベルに達するまで、
前記測定した前記患者の動脈
血酸素化値に基づいて、補給酸素デバイスから前記患者への酸素流を調節する手段と、
-前記患者の所望の目標酸素レベルに達したことを確認するために、前記患者からの血液サンプルにおいて前記血液ガス値を測定する随意手段と、
を備え、
当該データ処理システムが、酸素治療を受ける患者に関して、判断支援を提供し、前記患者が、酸素流を供給する補給酸素デバイスを必要とする病状を有し、前記判断支援が、前記補給酸素デバイスから前記患者への前記酸素流を調節するときに、医療関係者を補助する、データ処理システム。
【請求項13】
コンピュータ・システムにダウンロードまたはアップロードされると、請求項
12記載のデータ処理システムの動作を、前記コンピュータ・システムが実行することを可能にする、コンピュータ・プログラム。
【請求項14】
患者の酸素治療に適した医療デバイスであって、前記患者が、補給酸素流を必要とする病状を有しており、前記医療デバイスが、
-ソースから前記患者に酸素流を供給する酸素デバイスと、
-前記患者からの血液サンプルから血液ガス値を測定する血液ガス測定デバイス
であって、前記血液サンプルが静脈血液サンプルまたは毛細管血液サンプルである、血液ガス測定デバイスと、
-前記患者の
指標の酸素レベルと
血中酸素飽和度測定法によって測定される前記患者の動脈血酸素化値との間で計算した関係および
射影に基づいて、前記患者の所望の目標酸素レベ
ルを表す目標動脈血酸素化値
(目標_pO2)を計算する処理ユニット
であって、前記関係および射影が、前記動脈血酸素化値および血液ガス値に基づいて特定される、処理ユニットと、
を備え、
前記医療デバイスが、前記患者の測定した動脈
血酸素
化値に基づいて、目標動脈血酸素化レベルに達するまで、前記酸素デバイスから前記患者への酸素流を自動的に調節する、医療デバイス。
【請求項15】
請求項1から
11のいずれか1項記載のコンピュータ実装方法にしたがって、計算した動脈血酸素化レベルおよび補給酸素流レベルに基づいて、心臓または肺疾病を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素治療(OT:oxygen treatment)または長期酸素治療(LTOT:long-term oxygen treatment)を受ける患者に関して判断支援を提供する方法、およびデータ処理システムに関する。前記患者は、酸素流を供給する補給酸素デバイスを、通例では連続的または永続的に必要とする、COPDのような病状を有する。判断支援は、前記補給酸素デバイスから患者に酸素流を滴定するときに、看護師のような、医療関係者を補助する。また、本発明は、対応する判断支援システム(DSS)、好ましくは、携帯用データ処理システム、および対応するコンピュータ・プログラム製品にも関する。
【従来技術】
【0002】
呼吸困難(例えば、DOPD)を患う患者の内、ある割合の者が、目標pO2を対象とする治療を受けている。その一例にLTOT(長期酸素治療)があり、場合によっては家庭において行われる(deliver)されることもある。LTOTの滴定は、動脈血液ガス、毛細管血液ガス等を使用し、国毎に異なる処置が行われる。一例として、英国の指針では、動脈血液ガスを使用し、毛細管血液ガスの使用は、患者が、必要もないのに、LTOTを受ける結果になることが記載されている。ドイツ国では、毛細管血液ガス(CBG)の方が一般に使用されており、毛細管血液ガスを使用すると、患者の20~30%が、診察を必要とせずに、LTOTを受けることが、研究から解明されている。Kapillarer PO2 reflektiert nicht adaquat den arteriellen PO2 bei hypoxamischen COPD-Patienten; Magnet FS et. al.; Int J COPD 2017; 12:2647-2653を参照のこと。デンマーク国の指針は、指標の動脈血液ガスおよび1リットルの酸素増加当たり1サンプルを基本とする。また、この方法は、これらの指針のいずれに従っている患者に対しても、酸素滴定の最適化を可能にする。
【0003】
複雑さ、患者の痛み、およびリソースの制約のために、病院は、より広いリソースのプール、例えば、CBG(毛細管血液ガス)によって同時に送給することができる、一層患者に優しい方法を推進しつつあるが、この方法には制約がある。
【0004】
現行の方法は、動脈血液ガスを使用する指針に基づく。指標サンプルが、通例、引き出され、1リットル/分の刻みで酸素流を増加させる。設定期間の後、例えば、30分後、他のサンプルを引き出し、paO2が設定閾値、例えば、8kPa/60mmHGよりも低い場合、この閾値に達するまでこのプロセスを繰り返す。リソースの制約のために、臨床診療は異なることが多く、毛細管血液ガスが代わりに使用される。
【0005】
ドイツ国からの入力に基づくと、CBGを使用して酸素を滴定するときのプロセスは、以下の通りである。
1.酸素を除去する。
2.指標CBG(サンプリングの10分前に塗布された血管拡張クリームを含む)。
3.+1リットルだけO2を調節する。
4.新たなCBG。
5.目標pO2(例えば、65mmHg)と比較する。
6.目標に達した場合、次に進む。達しない場合、ステップ3に戻る。
7.達した酸素流速を患者に登録する(subscribe)。
【0006】
この現行法は、指標CBG、および酸素の各刻み(0リットル/分=1サンプル、1リットル/分=2サンプル等)に対するCBGの検討を含む(imply)。10人の患者を検討した結果、合計で26サンプル(患者1人当たり2.6)となったが、このグループは、最も高い流速として、3リットル/分を有する。診療所からのフィードバックは、何人かの患者が滴定の間7~8サンプルまで引き出していたことを示しており、平均サンプル数はもっと高い可能性があることを示す。
【0007】
ABGに基づく実践が最良であり、殆どの指針は代用品ではなくABGを推奨するが、リソースの制約および患者数増加のために、CBGが増々使用されつつある。
【0008】
医療制度からの支援を必要とする患者数増加のため、医療制度において継続的な改革が求められているが、同じ速度で拡大することはできない。患者が受ける酸素が多すぎると、危害が生ずるおそれがある。例えば、COPDの患者には、高二酸化炭素血症および酸血症の危険性がある。更に悪いのは、診察を必要とせずに、家庭で酸素を受ける患者もいることである。何故なら、家庭において酸素を受けると、費用がかかり、患者の社会生活に影響が及ぶからである。
【0009】
したがって、酸素治療(OT)、好ましくは、長期酸素治療(LTOT)を受ける患者に関して判断支援を提供する改良方法があれば有利であろう。更に特定すれば、効率的でおよび/または信頼性のある方法があれば有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の更に他の目的は、先行技術に対する代替案を提供することである。
【0011】
具体的には、酸素治療(OT)を受ける患者に関して判断支援を提供し、患者にとって複雑な、不必要な、および/または危険な、補給酸素流の調節に伴う先行技術の前述した問題を解決することを、本発明の目的と見なすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
つまり、以上で述べた目的および様々な他の目的は、酸素治療を受ける患者に関して判断支援を提供するためのコンピュータ実装方法を提供することによって、本発明の第1の態様において得られることを意図している。前記患者は、酸素流を供給する補給酸素デバイスを必要とする病状を有し、前記判断支援が、前記補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するときに、医療関係者を補助する。この方法は、
【0013】
-指標を判定するために、患者からの血液サンプルにおける血液ガス値を供給するステップと、
-前記血液ガス値が動脈血液サンプルから導き出されたのではない場合、患者の動脈血酸素化値を供給するステップと、
-測定した動脈血酸素化値および測定した血液ガス値を、数学モデルに当てはめ、前記指標からの酸素レベルの射影を適用することによって、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間の関係を計算するステップと、
-患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間で計算した前記関係および射影に基づいて、患者の所望の目標酸素レベルを表す目標動脈血酸素化値(目標_pO2)を計算するステップと、
-目標動脈血酸素化レベルに達するまで、測定した患者の動脈酸素値に基づいて、補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するために、判断支援を提供するステップと、
-随意に、患者の所望の目標酸素レベルに達したことを確認するために、患者からの血液サンプルにおける血液ガス値を供給するステップと、
を含む。
【0014】
本発明は、特に、補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するときに、判断支援が得られる利点があるが、それだけではない。判断支援は、看護師または医師のような医療関係者が、通常の酸素流調節よりも少ない回数で、患者の所望の酸素レベルに到達するのを補助することができる。調節の回数が通常よりも少ないことにより、医療関係者が時間を節約でき、更に、患者が不快である時間量も短縮する。
【0015】
本発明の他の利点は、酸素流を調節するために患者から必要とされる血液サンプル量の減少である。特に、動脈血液サンプルは、副作用の危険性および患者に対する不快感が伴う。本発明は、医療関係者が、動脈血液以外にも、動脈血液サンプルよりも不快感が少ない、毛細管血液サンプルまたは静脈血液サンプルを使用することを可能にする。更に、本発明は、殆どの場合、血液ガス指標を確定することだけが必要であり、そのためには1つの血液サンプルがあればよいので、必要とされる血液サンプルが減少する。現在、指針は、確認血液サンプルを分析して、患者内における正しい酸素レベルを確認する(ensure)ことを強制するが、本発明は、これまでのところ、信頼性があることが立証されており、したがって、本発明は、前記確認血液サンプルに関して現行の慣習を時代遅れにし、つまり、要求される患者からの血液サンプル量を1サンプルに削減することができる。
【0016】
酸素流を調節する時間をかけて患者への酸素流を精度高く調節する程、酸素流の増加幅(increment)が、例えば、1L/分から0.5または0.2L/分に減少し、長期的に患者に供給される酸素量が減少することから、調節時間の短縮には二次的な利点がある。
【0017】
尚、本発明は、多くの場合、酸素流の調節に対する判断支援を提供するためには、1つの血液サンプルだけがあればよく、患者に対して設定された酸素流の正しい調節の確認のためにのみ、第2の血液サンプルが使用されるという利点があることは、理解されてしかるべきである。
【0018】
本発明のコンテキストでは、酸素流とは、酸素源から患者の気道に流入し前記患者に供給される酸素量を、リットル/分単位で測定したものであると理解されたい。更に、患者は、前記酸素流を補給酸素として、マスクを介して、鼻管を通じて、または類似する方法で受けることも理解されてしかるべきである。
【0019】
尚、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間における関係および射影(projection)は、以下の条件、またはモデル仮定C1~C3の内1つ以上によって求められる通りに、数学モデルの1つ以上に当てはめることによって、計算することが可能である。前記モデルの内1つに当てはめることによって、患者の酸素レベルおよび動脈血酸素化値が関係付けられることは明らかであり、したがって、患者の酸素レベルに基づいて、患者の予測動脈酸素値に射影できることは理解されてしかるべきである。
【0020】
その上更に、長期酸素治療を受けている患者の内、ある割合が、前記治療が必要でないのに、適正な酸素流調節を欠くことから、前記治療が相応しいと診断されることが、研究によって示されている。この患者群は、酸素調節における本発明の判断支援改良および分解能向上によって、つまり、調節の増加刻みが増えることによって、減少させることができる。
【0021】
本発明のコンテキストでは、「計算する」(calculating)という用語は、広義に解釈される、即ち、例えばコンピュータ実装データ処理システムを使用して、1つの数値から他の数値に変換する(transform)ことを含むが、これに限定されないと解釈されることは、理解されてしかるべきである。
【0022】
本発明のコンテキストでは、酸素流の調節を酸素滴定とも呼び、更に本発明のコンテキストでは、2つの用語は相互交換可能である。
【0023】
本発明のコンテキストでは、指標(baseline)とは、血液ガス値および動脈血酸素化値というような、1組の観察値(observation)に基づく開始点と解釈することとする。
【0024】
本発明のコンテキストでは、酸素流の調節とは、患者の特定的な医療上の必要性に基づいて、1分当たりのリットル数で通例測定される、酸素流を増大または減少させることのいずれかであると解釈することとする。
【0025】
本発明のコンテキストでは、動脈および静脈血は密接に相互接続されており、動脈血は肺において酸素化されて毛細管に伝えられ、新陳代謝において酸素が使用され、その後肺に戻されることは、生理学に精通する者には、理解されよう。コンテキストによっては、したがって、動脈血から毛細管血へ、更に毛細管血から静脈血への段階的移行がある場合があってもよい。
【0026】
本発明のコンテキストでは、患者の酸素レベル(pO2)と患者の動脈血酸素化値との間にある関係を計算するための数学モデルは、以下の条件(C1、C2、および/またはC3)、またはモデル仮定の内1つ以上に基づくことができる。
【0027】
-C1 呼吸率(RQ=VCO
2/VO
2RQ)は、好ましくは以下の式を使用して、吸気酸素(FiO
2)および二酸化炭素(FiCO
2)分画、ならびに酸素(Fe’O
2)および二酸化炭素(Fe’CO
2)の呼気終末分画または酸素(FeO
2)および二酸化炭素(FeCO
2)の混合呼気分画(mixed expired fraction)のいずれかの測定を経て、口において取り込まれる吸気および呼気ガスの測定によって近似することができる。
【数1】
【0028】
-C2 以上の仮定C1によるRQの近似は、実質的に変動する可能性がある値を生ずることが多いとして差し支えない。しかしながら、組織におけるRQの真値は、0.7~1.0の間でのみ変動する可能性があるに過ぎず、0.7は脂肪の有酸素代謝における値であり、1.0は炭水化物の有酸素代謝における値である。および/または、
【0029】
-C3 血液酸性/塩基性の数学モデルおよび酸素化ステータスは、シミュレーションを実行するために使用することができる。先の条件C2から、生理的に可能な範囲0.7~1.0以内になるように設定された一定呼吸率(RQ)によって決定される比率で、O2を追加し、CO2を静脈血から除去する。次いで、シミュレートした酸素飽和が、条件C2において、即ち、動脈血において推定または測定されたものと等しくなるまで、このシミュレーションを実行すればよい。
【0030】
また、特定のモデル、他のモデル、またはその異形の更なる詳細については、以下の文献も参照のこと。WO2004/010861(デンマーク国、OBI Medical Aps.)。この特許公開公報をここで引用したことにより、その内容全体が本願にも含まれるものとする。Computer methods and programs in biomedicine 81 (2006) pages 18-25におけるRees et al.による関連する科学論文 “A method for calculation of arterial acid-base and blood gas status from measurements in the peripheral venous blood”(抹消静脈血における測定値から、動脈酸性-塩基性および血液ガス・ステータスを計算する方法)。この文献をここで引用したことにより、その内容全体が本願にも含まれるものとする。European journal of applied physiology 108 (2010) pages 483 - 494におけるRees et al.による関連する論文“Mathematical modeling of the acid-base chemistry and oxygenation of blood: a mass balance mass action approach including plasma and red blood cells”(酸-塩基化学および血液の酸素化の数学モデリング:血漿および赤血球を含む質量平衡質量作用手法)。この文献もここで引用したことにより、その内容全体が本願にも含まれるものとする。当業者には容易に理解できるであろうが、これらの文献は、本発明のコンテキストおよび原理の範囲内において、適用することができる。
【0031】
本発明のコンテキストでは、血液サンプルから血液値を供給、測定、および/または推定することは、必ずしも患者から血液サンプルを取り込むまたは抽出する特定のステップを含まなくてもよいこと、つまり、測定結果は、血液測定または抽出を行った他のエンティティまたは人物、例えば、看護師から入手、転送、伝達される等でもよいことは、理解されてしかるべきである。
【0032】
本発明のコンテキストでは、近似とは、数学的方法によって、真の量に近いが同じ値ではない数値量を計算または導出することとして理解されるものとする。更に、本発明のコンテキストでは、近似は、近似に基づいて酸素レベルを評価するというような、所望の目標を達成するために、量を評価する十分な方法であると言って差し支えないことも、理解されてしかるべきである。
【0033】
本発明のコンテキストでは、本発明の結果を受け取るときは、コンピュータ実装判断支援システム(DSS)の一部であってもよいことは、理解されてしかるべきである。
【0034】
本発明のコンテキストでは、以下の定義および略語を使用する。
【0035】
【0036】
つまり、一般に、下付き文字「A」は動脈を意味し、下付き文字「V」は静脈を意味し、下付き文字「M」は測定値(measured)を意味し、下付き文字「E」は推定値(estimated)を意味し、下付き文字「P」は断定値(predicated)を意味する等である。図および/または説明の一部では、下付き文字は、例えば、「SO2V」のように、実用上の理由のために、下付き文字として書かれない場合もあるが、どのような技術的な意味があるのか、当業者には理解されよう。
【0037】
本発明の有利な実施形態では、血液ガス値は毛細管血液サンプルから導き出され、不十分に動脈血化された毛細管血液サンプルに対して指標および射影(projection)を訂正して、射影に対する指標の精度を高め、したがって、医療関係者が、患者における正しい酸素レベルに到達するために、到達することを試すべき、目標動脈血酸素化示唆値の精度を高める。
【0038】
本発明のコンテキストでは、不十分に動脈血化された毛細管血液とは、毛細管血液サンプルであり、指または耳たぶからというように、患者から引き出された血液の1~3%超が、静脈血液からであると解釈されるものとする。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、動脈血酸素化値とは、好ましくは、血中酸素飽和度測定法(pulse oximetry)によって測定された抹消動脈酸素飽和値である。血中酸素飽和度測定法は、非侵襲的であり、したがって患者に対する不便さを最小限に抑える。
【0040】
本発明の他の実施形態では、動脈血酸素化は、前記値を非侵襲的にまたは他の方法で測定する他の手段によって供給されてもよい。
【0041】
本発明の実施形態では、患者における酸素レベルは、前記患者の動脈血液における酸素の分圧を表し、患者が持続可能で十分な酸素供給源を有するか否か判定する確実な方法となる。
【0042】
本発明の実施形態では、患者の病状(medical condition)とは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような、間質性肺炎(ILD)のような、嚢胞性線維症(CF)のような、肺動脈性肺高血圧症のような、神経筋障害または胸壁疾患を患う患者のような、あるいは進行性心不全を患う患者のような、呼吸器または心臓の疾病である。
【0043】
本発明の実施形態では、酸素治療とは長期酸素治療であり、本発明の精度は、患者の快適さを高め、「定常的で十分な酸素レベル」の酸素流を「持続させるのに必要とされるよりも高い」というような、不必要な治療に費やされる資源を減らす。
【0044】
本発明の他の実施形態では、酸素治療は、緊急治療を必要とする外傷または突発的な病状に関係する患者の急性治療であり、本発明は、患者に供給される酸素流の高速で確実な調節ができるという利点がある。
【0045】
本発明のコンテキストでは、長期酸素治療とは、30日超にわたって毎日少なくとも12時間続く酸素治療と解釈されることとする。尚、当業者には急性および長期酸素治療間の相違が分かることは、認められて当然である。
【0046】
本発明の有利な実施形態では、患者内において所望の酸素レベルを達成するために液滴される酸素流は、4つの血液サンプルからというような、6つの血液サンプルからというような、または10個の血液サンプルからというような、2つの血液サンプルから、4つ未満というような、6つ未満というような、または10個未満の血液ガス測定値というような2つ未満の血液ガス測定値によって遂行され、第1血液サンプルは指標サンプルであり、他方の血液サンプルは、
a)前記血液サンプルを取得する際に医療関係者によって消費される時間および資源を節約する、
b)前記患者から引き出される過剰な数の血液サンプルによる患者に対する不快感を軽減する、
ための確認用サンプルである。
【0047】
本発明の実施形態では、前述の関係は、特定の血液サンプルに対する酸素解離曲線(ODC)を表す。何故なら、酸素解離曲線は周知であり、正常な状況下では、pH,2.3-DPG、fMetHb、およびfCOHbのずれが小さいまたは些細であるために安定であることが、医療関係者によって認識されており、したがって、医療関係者が、本発明が示唆していることを理解し、必要であれば、何故酸素を患者に供給すべきか理解することを可能にするからである。
【0048】
本発明の他の実施形態では、指標の射影は、患者からの特定の血液サンプルに基づく酸素解離曲線の近似である。何故なら、酸素解離曲線は、殆どの状況下において、安定で予測可能であるので、射影も安定で信頼性があるからである。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、酸素解離曲線および/または目標酸素レベルおよび/または患者に特定の目標動脈血酸素化値の射影が印刷され、あるいはコンピュータ・モニタ、携帯用タブレット、または移動体電話機の画面上というように、ディスプレイ上に表示される。
【0050】
本発明の有利な実施形態では、医療関係者が継続的に患者の酸素レベルを把握するように、 動脈血酸素化値が酸素流の調節の前および/または後に医療関係者に供給され、したがって患者への酸素流に対して行われる調節の精度を高める。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、判断支援は、更に、以下のステップを含む。
【0052】
ステップ1:所望の目標酸素レベルを判断支援に提供する。判断支援は、供給された血液ガス値および第1動脈血酸素化値に基づいて、目標動脈血酸素化値を計算し、判断支援は、酸素流調節値と、第2動脈血酸素化値が判断支援に供給されるまでの待ち時間とを示唆し、患者への酸素流を調節するときに医療関係者を更に補助し、決定される酸素流の精度を高め、前記酸素流を調節するのに費やされる時間を短縮し、患者への不快感を減らす。
【0053】
更に他の好ましい実施形態では、判断支援は、更に、前述のようなステップ1の後に、以下のステップを含む。
【0054】
ステップ2:待ち時間の後に、患者の現在の動脈血酸素化値を供給する。目標動脈血酸素化値に達しない場合、判断支援は、酸素流調節値と、次の動脈血酸素化値を判断支援に供給されるまでの待ち時間とを示唆する。
【0055】
ステップ3:患者に対する酸素流を調節するときに医療関係者を更に補助し、決定した酸素流の精度を高めるように、目標動脈血酸素化値に達するまでステップ2を繰り返し、前記酸素流を調節するのに費やされる時間を短縮し、患者への不快感を減らす。
【0056】
本発明の有利な実施形態では、判断支援は、患者に対する酸素流を調節するときに医療関係者を更に補助するように、第1血液ガス値および随意の第1動脈血酸素化値に基づいて、患者の目標酸素レベルに達するための最終酸素流を示唆し、前記酸素流を調節するのに費やされる時間を短縮し、こうして患者への不快感を減らす。
【0057】
ある実施形態では、数学モデルは、組織における呼吸率(RQ)の真値が、0.7~1.0の間のみで変動する可能性があるに過ぎず、0.7は脂肪の有酸素代謝における真値であり、1.0は炭水化物の有酸素代謝における真値であることに当てはまるとしてよい。加えて、または代わりに、他の実施形態では、数学モデルは、一定呼吸率(RQ)によって決定される比率で、酸素O2を追加し、二酸化酸素CO2を静脈血液から除去し、一定呼吸率(RQ)は、生理学的に可能な範囲0.7~1.0以内に設定され、シミュレートした酸素飽和が、動脈血液において推定または測定されたものと等しくなるまで、または実質的に等しくなるまで、シミュレーションを実行することに当てはまるとしてもよい。
【0058】
本発明の実施形態では、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間の関係は、前記測定した動脈血酸素化値および前記測定した血液ガス値を数学モデルに当てはめ、更に前記指標からの酸素レベルの前記射影を適用することによって、数学モデルの条件は、以下のものとして表現することができる。
【0059】
【数2】
ここで、Fe’O
2およびFe’CO
2は、それぞれ、酸素および二酸化炭素の呼気終末分画である。
【0060】
本発明の他の実施形態では、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間の関係は、前記測定した動脈血酸素化値および前記測定した血液ガス値を数学モデルに当てはめ、更に前記
指標からの酸素レベルの前記
射影を適用することによって計算され、数学モデルの条件は、以下のものとして表現することができる。
【数3】
ここで、FeO2およびFeCO2は、それぞれ、酸素および二酸化炭素の混合呼気分画である。
【0061】
第2の態様では、本発明は、判断支援(DS)を提供するためのデータ処理システムに関し、前記データ処理システムは、
-指標を決定するために、患者からの血液サンプルにおける血液ガス値を受け取る手段と、
-前記血液ガス値が動脈血液サンプルから導き出されたのではない場合、患者の動脈血酸素化値を受け取る手段と、
-測定した動脈血酸素化値および測定した血液ガス値に数学モデルを当てはめ、更に前記指標からの酸素レベルへの射影によって、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間の関係を計算する手段と、
-患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間における前記計算した関係および射影に基づいて、患者の所望の目標酸素レベルを表す目標動脈血酸素化値を計算する手段と、
-目標動脈血酸素化値に達するまで、測定した患者の動脈酸素値に基づいて、補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するための判断支援を提供する手段と、
-患者の所望の目標酸素レベルに達したことを確認するために、患者からの血液サンプルにおいて血液ガス値を測定する随意手段と、を備え、
データ処理システムは、酸素治療を受ける患者に関して、判断支援を提供し、前記患者が、酸素流を供給する補給酸素デバイスを必要とする病状を有し、判断支援が、前記補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するときに、医療関係者を補助する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の第2の態様によるデータ処理システムは、更に、自動的にそして高い正確度で、患者への酸素流を高速および確実に調整するように、患者の動脈血酸素化から供給される値に基づいて、酸素流を調節する手段も備える。
【0063】
第3の態様では、本発明はコンピュータ・プログラム製品に関する。このコンピュータ・プログラム製品をコンピュータ・システムにダウンまたはアップロードすると、コンピュータ・システム、好ましくは携帯用コンピュータ・システムが、本発明の第2の態様のシステムの動作を実行することを可能にする。
【0064】
本発明のこの態様は、特に、コンピュータ・プログラム製品によって本発明を達成できる利点があるが、利点はこれだけではない。コンピュータ・プログラム製品は、本発明の第1の態様のコンピュータ実装方法がコンピュータまたはコンピュータ・システムにダウンまたはアップロードされると、コンピュータ・システムがこの方法の動作またはステップを実行することを可能にする。このようなコンピュータ・プログラム製品は、任意の種類のコンピュータ読み取り可能媒体上で、またはネットワークを通じて提供することができる。
【0065】
第4の態様では、本発明は、患者の酸素治療に適した医療デバイスに関する。前記患者は、補給酸素流を必要とする病状を有する。この医療デバイスは、
-ソースから前記患者に酸素流を供給する酸素デバイスと、
-前記患者からの血液サンプルから血液ガス値を測定する血液ガス測定デバイスと、
-患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間で計算した関係および射影に基づいて、患者の所望の目標酸素レベル(目標_pO2)を表す目標動脈血酸素化値を計算する処理ユニットと、を備え、
操作者が、医療デバイスに、測定した患者の動脈酸素レベルを供給し、医療デバイスが、患者の測定した動脈酸素値に基づいて、目標動脈血酸素化レベルに達するまで、 酸素デバイスから患者への酸素流を自動的に調節する。
【0066】
本発明の有利な実施形態では、血液ガス測定デバイスは、静脈血液サンプルに基づいて、血液ガス値を測定する。
【0067】
本発明の他の有利な実施形態では、動脈血酸素化値は、好ましくは血中酸素飽和度測定法によって測定された抹消動脈酸素飽和値である。
【0068】
本発明の他の有利な実施形態では、血液ガス測定デバイスは、毛細管血液サンプルに基づいて、血液ガス値を測定する。
【0069】
第5の態様では、本発明は、本発明の第4の態様による、呼吸器疾患または心臓疾患を患う患者の治療のための、医療デバイスの使用に関する。
【0070】
第6の態様では、本発明は、第1の態様において開示した本発明にしたがって、計算した動脈血酸素化レベルおよび補給酸素流レベルに基づいて、心臓疾病または肺疾病を治療する方法に関する。
【0071】
本発明の個々の態様は、各々、他の態様のいずれとでも組み合わせることができる。本発明のこれらおよび他の態様は、説明する実施形態を参照する以下の説明から、明らかであろう。
【0072】
これより、本発明にしたがって、酸素治療を受ける患者に関して判断支援を提供するためのコンピュータ実装方法について、更に詳しく、添付図面に関して説明する。図は、本発明を実施する1つの方法を示すのであり、添付する請求項(claim set)の範囲内に該当する他の可能な実施形態に限定するように解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】先行技術を表す、現行の酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。
【
図2】新規な酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。
【
図3】第2の新規な酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。
【
図4】第3の酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。
【
図7】種々の方法で費やされる時間を比較する酸素調節手順をシミュレートした表である。
【
図8】本発明によるコンピュータ・プログラム製品の動作の概要を表す模式システム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1は、現行の指針に基づく先行技術の酸素調節手順である。この指針では、患者が酸素調節のために到着し、補給酸素を患者から除去し、患者の指にというように、血管拡張クリームを患者に塗布し、10分の待ち時間を費やして、血管拡張クリームが指における動脈血液量を増大させる効果が生ずるのを待ち、指から毛細管血液サンプルを採取して(obtain)前記サンプルを分析し、サンプルを検討し、患者の動脈血液における酸素の分圧PO2が、65mmHgのような目標未満であるか否か判定する。PO2が目標よりも低い場合、1リットル/分というような分量だけ、患者への補給酸素流を増大させ、PO2の設定目標に達するように酸素流が調節されるまで、血管拡張クリームおよび10分の待ち時間から開始して、この手順を繰り返す。
【0075】
図2は、新規な酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。この手順では、指標を計算し、抹消酸素飽和測定値SpO2を外挿補間し、所望の目標PO2値に対応する目標SpO2を計算するために利用し、外挿補間値を使用して、患者への酸素流を調節する。患者は、酸素調節のために到着し、補給酸素を患者から除去し、患者の指にというように、血管拡張クリームを患者に塗布し、10分の待ち時間を費やして、血管拡張クリームが指における動脈血液量を増大させる効果が生ずるのを待ち、指から毛細管血液サンプルを採取して前記サンプルを分析し、血中酸素飽和度測定法の測定値を取り込み、前記サンプルを検討し、患者の動脈血液における酸素の分圧PO2が、65mmHgのような目標未満であるか否か判定する。PO2が目標よりも低い場合、1リットル/分というような分量だけ、患者への補給酸素流を増大させ、計算したSpO2値を使用して、酸素流増大の効果を測定する。10分後というように、患者が定常状態に達した後、SpO2値が目標SpO2値よりも低い場合、例えば、1リットル/分だけ酸素流を増大させ、酸素流増大の効果を監視するために、新たなSpO2値を測定する。目標SpO2値に達したとき、血管拡張クリームを塗り、待ち時間の後、新たな毛細管血液サンプルを分析して、動脈血液における正しい酸素分圧に達したことを確認し、酸素調節手順を終了する。
【0076】
図3は、第2の新規な酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。この手順では、指標を計算し、抹消酸素飽和測定値SpO2を外挿補間し、所望の目標PO2値に対応する目標SpO2を計算するために利用し、外挿補間値を使用して、患者への酸素流を調節する。患者は、酸素調節のために到着し、補給酸素を患者から除去し、静脈血液サンプルを供給し(provide)、血中酸素飽和度測定を行い、サンプルを分析および検討し、患者の動脈血液における酸素分圧PO2が、65mmHgのような目標未満であるか否か判定する。PO2が目標よりも低い場合、1リットル/分というような分量だけ、患者への補給酸素流を増大させ、計算したSpO2値を使用して、酸素流増大の効果を測定する。10分後というように、患者が定常状態に達した後、SpO2値が目標SpO2値よりも低い場合、例えば、1リットル/分だけ酸素流を増大させ、酸素流増大の効果を監視するために、新たなSpO2値を測定する。標SpO2値に達したとき、毛細管血液サンプルを分析して、動脈血液における正しい酸素分圧に達したことを確認し、酸素調節手順を終了する。
【0077】
図4は、第3の新規な酸素調節手順を示す模式システム・チャートである。この手順では、指標を計算し、抹消酸素飽和測定値SpO2を外挿補間し、所望の目標PO2値に対応する目標SpO2を計算するために利用し、外挿補間値を使用して、患者への酸素流を調節する。患者は、酸素調節のために到着し、補給酸素を患者から除去し、静脈血液サンプルを供給し(provide)、血中酸素飽和度測定を行い、サンプルを分析および検討し、患者の動脈血液における酸素分圧PO2が、65mmHgのような目標未満であるか否か判定する。PO2が目標よりも低い場合、1リットル/分というような分量だけ、患者への補給酸素流を増大させ、計算したSpO2値を使用して、酸素流増大の効果を測定する。10分後というように、患者が定常状態に達した後、SpO2値が目標SpO2値よりも低い場合、例えば、1リットル/分だけ酸素流を増大させ、酸素流増大の効果を監視するために、新たなSpO2値を測定する。目標SpO2値に達したとき、静脈血液サンプルを分析して、動脈血液における正しい酸素分圧に達したことを確認し、酸素調節手順を終了する。
【0078】
図5は、シミュレーションによる酸素解離曲線1を示すグラフである。2本の点線の交点2は、動脈血液における酸素分圧に対する所望の目標値の例を示す。x軸は、mmHg単位で測定した、動脈血液における酸素分圧を表し、y軸は、末梢血(peripheral blood)における酸素飽和百分率を表す。この例では、動脈血液における酸素分圧の目標値は、x軸上で65mmHgに設定され、曲線1上の交点を
射影することによって、末梢血の対応する飽和百分率を読み取ると、yの値は94%となる。
【0079】
図6は、シミュレーションによる酸素解離曲線1を示すグラフである。最初の2本の点線の交点2は、動脈血液における酸素分圧に対する所望の目標値の例を示す。x軸は、mmHg単位で測定した、動脈血液における酸素分圧を表し、y軸は、末梢血における酸素飽和百分率を表す。この例では、動脈血液における酸素分圧の目標値は、x軸上で65mmHgに設定され、曲線1上の交点を
射影することによって、末梢血の対応する飽和百分率を読み取ると、yの値は94%となる。第2組の破線の交点3は、血液サンプルの測定した指標値および患者の血中酸素濃度を表す。この指標は、動脈血液における酸素分圧の所望の目標値mmHgに基づいて、本発明が、例えば、血中酸素飽和度測定法の読み取り値の%飽和の目標値を計算することを可能にするように、前記指標と交差する酸素解離曲線を外挿補間または
射影するために使用することができる。この図において、曲線上の「x」は毛細管血液サンプルに基づいた動脈血液における酸素分圧の測定レベルを示し、「o」は、指標値および血中酸素飽和度測定法の読み取り値に基づいた計算から計算した、動脈血液における酸素の値を表す。
【0080】
図7は、酸素調節手順をシミュレートして、種々の方法で費やされる時間を比較する表である。全てに対するCBGは、既存の方法を使用する患者が酸素治療手順において平均52分かかることを明確に示す。目標を設定したCBGでは、手順が6分だけ短縮されて46分となり、指標を求めるVBG+v-TACを、最終値(final)を求めるCBG+v-TACと組み合わせると、手順が11分だけ短縮されて41分となり、指標を求めるVBG+v-TACおよび最終値を求めるVBG+v-TACでは、手順が16分だけ短縮されて36分になる。
【0081】
図8は、本発明によるコンピュータ実装方法の動作の概要を表す模式フロー・チャートである。この方法は、
S1 - 指標を判定するために、患者からの血液サンプルにおける血液ガス値を供給するステップと、
S2 - 前記血液ガス値が動脈血液サンプルから導き出されたのではない場合、患者の動脈血酸素化値を供給するステップと、
S3 - 測定した動脈血酸素化値および測定した血液ガス値を数学モデルに当てはめ、前記指標からの酸素レベルの
射影を適用することによって、患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間の関係を計算するステップと、
S4 - 患者の酸素レベルと患者の動脈血酸素化値との間で計算した前記関係および
射影に基づいて、患者の所望の目標酸素レベルを表す目標動脈血酸素化値目標_pO2を計算するステップと、
S5 - 目標動脈血酸素化レベルに達するまで、測定した患者の動脈酸素値に基づいて、補給酸素デバイスから患者への酸素流を調節するために、判断支援を提供するステップと、
S6 - 随意に、患者の所望の目標酸素レベルに達したことを確認するために、患者からの血液サンプルにおける血液ガス値を供給するステップと、を含む。
【0082】
本発明者は、LTOT酸素液滴(酸素調節)を受ける10人の患者について、分析を行った。表1は、手順に要する平均サンプル数が患者当たり2.6であることを示す。患者プロセス時間は11%(表1および表2の間における平均時間の比較)減少し、サンプル時間は23%減少した。酸素を受ける患者の10%(n=1)は、酸素を受けておらず、本発明の重要性を更に実証する。テーブル3を参照のこと。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
本発明は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの任意の組み合わせによって実装することができる。また、本発明またはその特徴の一部も、1つ以上のデータ・プロセッサおよび/またはディジタル信号プロセッサ上で実行するソフトウェアとして実装することができる。
【0087】
本発明の実施形態の個々のエレメントは、物理的、機能的、そして論理的に、1つのユニットにおいて、複数のユニットにおいて、または別個の機能ユニットの一部としてというように、任意の適した方法で実装することができる。本発明は、1つのユニットにおいて実装することができ、または物理的および機能的双方で、異なるユニットおよびプロセッサ間で分散することもできる。
【0088】
以上、明記した実施形態と関連付けて本発明について説明したが、本発明が、提示した例に限定されるように解釈しては決してならない。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲に照らして解釈されるものとする。請求項のコンテキストにおいて、「備えている」(comprising)または「備える」(comprises)という用語は、他の可能なエレメントやステップを除外しない。「a」または「an」等のような参照(reference)に言及する(mentioning)とき、複数を除外するように解釈してはならない。(目標_pO2)、(pO2)、(目標_SpO2)、(SpO2)、(CBG)、(ABG)、(VBG)等のような、図および/または数式において示されたエレメントに関して、請求項において参照符号を使用する場合も、本発明の範囲を限定するように解釈してはならない。更に、異なる請求項において言及される個々の特徴を、有利に組み合わせることもでき、異なる請求項においてこれらの特徴に言及するときは、特徴の組み合わせが可能でなく有利でないことを除外しない。