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特許7460657機械学習を専門知識及び第一原理と組み合わせて行うプロセス産業のモデリング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】機械学習を専門知識及び第一原理と組み合わせて行うプロセス産業のモデリング
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021566289
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 US2020031636
(87)【国際公開番号】W WO2020227383
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】62/845,686
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500204511
【氏名又は名称】アスペンテック・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AspenTech Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ウィリー・ケー・シー
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー・ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】チェン・ハーンシャン
(72)【発明者】
【氏名】バクタ・アショーク・ラマナス
(72)【発明者】
【氏名】モベッド・パルハム
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021186(JP,A)
【文献】特表2011-514601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0173004(US,A1)
【文献】国際公開第2018/194880(WO,A1)
【文献】特開2002-063538(JP,A)
【文献】特開平09-212207(JP,A)
【文献】特開2002-329187(JP,A)
【文献】特開平06-083427(JP,A)
【文献】特開平06-028009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0299862(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに実装される、プロセスモデリング・シミュレーションの方法であって、
プロセッサが、対象の産業プラントの化学プロセスをモデル化する過程であって、当該化学プロセスの進行を予測するモデルの生成を含む、過程と、
生成された前記モデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする過程であって、前記生成されたモデルは、第一原理モデルおよび機械学習モデルで構成されたハイブリッドモデルからなり、前記生成されたモデルは、前記対象の産業プラントからの出力変数の観測値を受け取り、前記第一原理モデルは、前記化学プロセスの前記機械学習モデルによって導出される少なくとも1つの要素を含む、過程と、
を備える、方法であって、
前記機械学習モデルによって導出される前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値であり、前記生成されたモデルが、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測を採用し、
さらに、
前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータからの出力変数の値である予測値を算出する過程と、
プラントデータからの出力変数の観測値と対応する出力変数の前記シミュレータによる予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築する過程と、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする前記過程は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする前記過程が、前記生成されたモデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御することを含む、方法。
【請求項4】
コンピュータベースの、プロセスモデリング・シミュレーションのシステムであって、
対象の産業プラントの化学プロセスをモデル化し、当該化学プロセスの進行を予測するモデルを生成するモデリングサブシステムと、
生成された前記モデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にするように前記モデリングサブシステムに接続されたインターフェースと、
を備え、前記生成されたモデルは、第一原理モデルおよび機械学習モデルで構成されたハイブリッドモデルからなり、前記生成されたモデルは、前記対象の産業プラントからの出力変数の観測値を受け取り、前記第一原理モデルは、前記化学プロセスの前記機械学習モデルによって導出される少なくとも1つの要素を含み、
前記機械学習モデルによって導出される前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値であり、前記生成されたモデルが、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測を採用し、
前記モデリングサブシステムが、さらに、前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータからの出力変数の値である予測値を算出し、プラントデータからの出力変数の観測値と対応する出力変数の前記シミュレータによる予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築する、システム。
【請求項5】
請求項に記載のシステムにおいて、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記インターフェースは、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものにより、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする、システム。
【請求項6】
請求項に記載のシステムにおいて、前記インターフェースは、制御部インターフェースを含み、当該制御部インターフェースは、前記対象の産業プラントの制御部に対し、当該制御部が前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御するように通信可能に接続されている、システム。
【請求項7】
コンピュータプログラムであって、
対象の産業プラントにおける対象の化学プロセスのプロセスモデリング・シミュレーションを実現するコンピュータコード命令、
を備え、前記コンピュータコード命令は、
少なくとも1つのデジタルプロセッサにより実行されることで:
(a)前記対象の産業プラントの前記化学プロセスをモデル化し、このモデル化は前記化学プロセスの進行を予測するモデルを生成することを含み、この生成されたモデルは、第一原理モデルおよび機械学習モデルで構成されたハイブリッドモデルを含み、この生成されたモデルは、前記対象の産業プラントからの出力変数の観測値を受け取り、前記第一原理モデルは、前記化学プロセスの前記機械学習モデルによって導出される少なくとも1つの要素を有し、
(b)前記生成されたモデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする、
命令を含み、
前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記コンピュータコード命令は、さらに、前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御するというプロセス制御をプロセッサに実施させる命令を含み、
前記機械学習モデルによって導出される前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値であり、前記生成されたモデルが、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測を採用する測定値であり、
前記コンピュータコード命令は、さらに、
前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータからの出力変数の値である予測値を算出すること、および
プラントデータからの出力変数の観測値と対応する出力変数の前記シミュレータによる予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築すること、をプロセッサに実施させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項に記載のコンピュータプログラムにおいて、前記化学プロセスのパフォーマンスの前記改善は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを行うこと、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2019年5月9日付出願の米国仮特許出願第62/845,686号の利益を主張する。上記出願の全教示内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【背景技術】
【0002】
今日のプロセスモデリング・シミュレーションの現場では、理論的な「全面的」第一原理モデルが、プラント設計、デボトルネッキングなどのオフラインシミュレーションやモニタリング、最適化などのオンライン用途に利用されている。このような「全面的」モデルは、対象となる化学プロセスの物理的性質、化学的性質、物質収支およびエネルギー収支を表した何千ないし何百万もの数式からなり得る。このような全面的モデルは、数学的にメカニズムを記述できなかったり、解を扱い易くするために簡略化が必要になったりするので、多くの場合、物理的現象を全て捕捉しきれるとは限らない。
【0003】
このような「全面的」モデルの校正やオンラインでの実装は、コストや維持の観点から極めて困難である。そのため、プロセス産業への適用は大幅に限られている。データを簡素化したり、モデルへのデータの組込みを自動化したり、最新データを使ってモデルを維持したりすることで、操業や資源最適化の大幅な改善がもたらされるはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明での出願人のアプローチは、第一原理知識を機械学習技術と組み合わせてなる、産業的化学プロセスのモデリングやシミュレーションの新規の枠組みに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態では、コンピュータに実装される方法および/またはシステムおよび/またはコンピュータプログラムプロダクトが、(1)化学プロセスについての第一原理知識に基づき、入力測定値を増強又は変換してなる特徴量一式を生成すると共に、(2)これらの入力から所望の出力を生み出す機械学習モデルを生成する。
【0006】
コンピュータに実装される、プロセスモデリング・シミュレーションの前記方法は、(a)対象の産業プラントの化学プロセスをモデル化する過程(当該化学プロセスのモデルを生成する過程)と、(b)生成された当該モデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを改善する過程(すなわち、当該パフォーマンスの改善を可能にする過程)と、を備える。モデル化する前記過程は、プロセッサによって自動的に実施されるものであり、前記化学プロセスの進行(例えば、操業条件、物理的性質等)を予測するモデルの生成を含む。前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルからなる。実施形態は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセス又は当該化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にし且つ実行すること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものにより、前記化学プロセスのパフォーマンスを改善する。一実施形態では、前記化学プロセスのパフォーマンスを改善する前記過程が、前記生成されたモデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御することを含む。このような実施形態は、プロセス制御を実現する。
【0007】
同様に、コンピュータに実装されるプロセスモデリング・シミュレーションのシステムは、モデリングサブシステムと、インターフェースと、を備える。前記モデリングサブシステムは、対象の化学プロセスのモデルを生成する。前記インターフェースは、生成された当該モデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にするように前記モデリングサブシステムに接続されている。前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルからなる。前記インターフェースは、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスのデボトルネッキングを可能にすること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものにより、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする。一部の実施形態では、前記モデリングサブシステムが、モデリングアセンブリ、モデリングユニット、モデリングエンジンなどである。
【0008】
プロセス制御を実現する一実施形態において、前記インターフェースは、制御部インターフェースであるか又は制御部インターフェースを含む。当該制御部インターフェースは、前記モデリングサブシステムと対象の産業プラントの制御部とを通信可能に接続する。当該制御部は、前記生成されたモデルによる予測に(前記制御部インターフェースを介して)応答し、前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御する。前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルからなる。
【0009】
一実施形態では、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が、プラントデータに基づく入力変数である。当該入力変数の数値を増強したもので、当該機械学習モデルの訓練・構築が行われる。
【0010】
実施形態において、コンピュータに実装される前記方法やシステムは、さらに、(c)第一原理に基づき(熱力学工学や化学工学の専門知識に基づき)、プラントデータからの元々の測定入力変数を増強した変数データセットを生成する過程又は構成手段であって、当該生成により、増強後の変数が生じる、過程又は構成手段と、(d)前記元々の入力変数に前記増強後の変数を組み合わせて前記機械学習モデルの訓練に利用する過程又は構成手段と、を備える。訓練された当該機械学習モデルにより、精度の向上した対応する出力変数データセットが生成される。
【0011】
一部の実施形態では、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値である。当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測が採用される。
【0012】
実施形態において、コンピュータに実装される前記方法やシステムは、さらに、前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータから出力のための予測値を算出する過程又は構成手段、を備える。当該方法/システムは、プラントデータからの出力変数の観測値と前記シミュレータによる出力変数の対応する予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築する。
【0013】
一部の実施形態では、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が、前記第一原理モデルに利用可能な測定値がプラントデータに既存していない物理的性質又は現象についての数的表現である。当該物理的性質又は現象の測定値についての当該機械学習モデルによる予測が、前記第一原理モデルで使用される。
【0014】
一部の実施形態では、前記第1原理モデルがシミュレーションモデルであり、前記方法/システムは、さらに、前記機械学習モデルを、前記化学プロセスについての測定不能なシミュレーションモデルパラメータ又は関数値を算出(推定、概算、数的に表現、あるいは、演算)するように構成することと、算出された当該モデルパラメータ又は関数値を、前記シミュレーションモデルの入力に用いることと、プラントデータからの出力測定値に対する前記シミュレーションモデルの出力の誤差を演算することと、演算された当該誤差を用いて、前記機械学習モデルを訓練することと、を備える。
【0015】
本発明の他の実施形態において、コンピュータベースの方法やシステムや、コンピュータプログラムプロダクトは、機械学習モデルを生成する自動メカニズムを提供するものであり、当該機械学習モデルが、変数の測定値とベースとなる第一原理モデルによる予測との差分又は残差を提示する。
【0016】
本発明の他の実施形態において、コンピュータに実装される方法やシステムや、コンピュータプログラムプロダクトは、プロセスシミュレーションモデルのうちの未知の又は測定不能な(すなわち、測定値が存在しない)入力パラメータについての機械学習モデルの構築を可能にする。
【0017】
さらなる他の実施形態において、コンピュータプログラムプロダクトは、記憶媒体、作業メモリ、コンピュータ読取可能媒体などに保持されたコンピュータコード命令を備える。当該命令は、少なくとも1つのデジタルプロセッサによって実行可能なものであり、対象の産業プラントにおける対象の化学プロセスのプロセスモデリングやシミュレーションや最適化やプロセス制御を実現する。具体的に述べると、デジタル処理で実行された際に前記命令は:(a)前記化学プロセスをモデル化する手順(当該化学プロセスのモデルを生成する手順);および(b)生成された当該モデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを改善する手順(すなわち、当該パフォーマンスの改善を可能にする手順);を含む。前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの進行(すなわち、操業条件、物理的性質など)を予測する。前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルを含む。前記化学プロセスのパフォーマンスの前記改善は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、および前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものによる改善である。プロセス制御の一実施形態では、前記命令が、前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御する手順を含む。
【0018】
前述の内容は、添付の図面に示す例示的な実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。異なる図をとおして、同じ参照符号は同じ構成/構成要素を指すものとする。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、実施形態を図示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明を実現するプロセス制御の方法やシステムのブロック図である。
図1B】一実施形態における、プロセス知識で増強又は向上したデータによる機械学習モデルによってプロセスモデルを構築するためのワークフローを示すフロー図である。
図2】(a)第一原理モデル単独、(b)PLS機械学習モデル単独、および(c)本発明を実現するハイブリッドモデルでの、実験的測定値を使った配管内の圧力降下予測のグラフ同士を比較したものである。
図3】第一原理モデル単独、および本発明のハイブリッドモデルでの、実験的測定値を使った配管内の圧力降下予測のグラフ同士を比較したものである(流動パターンについての専門知識を使い、データセットを特定の流動様式のものに削減している)。
図4】一実施形態における、ランダムフォレスト回帰をベースとしたハイブリッドモデルによる、配管混相流の圧力降下についての予測のグラフである。
図5】一実施形態における、シミュレーションモデルとプロセスデータとの差分を機械学習モデルで特徴づけるプロセスモデルを構築するためのワークフローを示すフロー図である。
図6】一実施形態における、機械学習アルゴリズムを用いて第一原理モデルの残差誤差を予測するハイブリッドモデルによる、配管混相流の圧力降下についての予測のグラフである。
図7】一実施形態における、シミュレーションモデルのうちの未知のパラメータを機械学習モデルで特徴づけるプロセスモデルを構築するためのワークフローを示すフロー図である。
図8】例示的な連続攪拌槽型反応器(CSTR)に対する反応速度の原料組成依存性の関数形式を機械学習(人工ニューラルネットワーク(すなわち、ANN))で学習するための、一実施形態で用いられる技術を説明する図である。
図9図8の例における仮定(不完全)速度式:速度=k[エタノール][酸]の速度定数を(a)パラメータ推定、(b)組込みANNで予測した場合の、エステル製造速度の観測値-予測値の各パリティプロットのグラフである。
図10図8の例における反応器(CSTR)シミュレーションモデルで組込みANNを用いて反応速度を算出した場合の、エステル製造速度の観測値-予測値のパリティプロットのグラフである。
図11】例示的な他の実施形態における、二酸化炭素をメタンから分離する膜分離法の分離量を算出するためにAspen Plus SEP2ブロック内にANNを組み込んだ場合の、分離量の観測値-予測値のグラフである。
図12】実施形態における、Aspen Plus、Aspen HYSYSなどの市販汎用プロセスシミュレータへの組込みANNの組込み代表例を示す概略図である。
図13】実施形態が実現され得るコンピュータネットワークの概略図である。
図14図13のネットワークのコンピュータノードのブロック図である。
図15A】一実施形態における、図1Bの増強データ方法でハイブリッドモデルを形成することが可能な、例示的なバッチ重合反応器の概略図である。
図15B】機械学習モデル(PLS)単独による、図15Aの例のバッチ反応器の数平均分子量(MWN)の予測値-測定値のパリティプロットである。
図15C図15Aのバッチ反応器の例における機械学習モデルの入力として、未校正の反応器モデルによる算出値をX変数と共に用いた場合の、数平均分子量(MWN)の予測値-測定値のパリティプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、例示的な実施形態について説明する。
【0021】
本発明は、第一原理の知識を機械学習技術と組み合わせてなる、産業的化学プロセスのモデリング・シミュレーションの新規の枠組みに向けたものである。この新規の枠組みは、人工知能を用いるという一般的なフレームワークを、プロセス産業の資源最適化の向上という用途に具体的に適用したものである(本明細書に全体を取り入れたChan達による2019年6月7日付出願の米国特許出願第16/434,793号を参照のこと)。
【0022】
シミュレーションモデルは、対象の化学/産業プロセスが正確に表現されるのを確実にするようデータを取り込んだものでなければならない。データをプロセスシミュレーションモデルに取り込むアプローチには、未知のパラメータの回帰や、拡張カルマンフィルタリングなどのその他のパラメータ推定戦略が含まれてきた。最近では、プロセスモデルのパラメータを推定する方法として、機械学習アルゴリズムの一種である人工ニューラルネットワークが研究されている。この戦略の最初の応用例の一つは、添加培養バイオリアクターの反応速度論である(Psichogios, D. C.及びUnger, L. H.による“A Hybrid Neural Network-First Principles Approach to Process Modeling,” AIChE Journal, 38, (1992), pgs 1499-1511を参照のこと)。
【0023】
機械学習は、データをプロセスモデルに取り込むための強力なメカニズムとなる。機械学習アルゴリズムは、自動化が典型的に容易であると共に、データを加えることで絶えず改良が可能である。しかも、このアルゴリズムは、多次元のデータや、複数種のデータを含むデータセットに上手く対応することができる。本願の出願人は、機械学習と第一原理モデルを組み合わせて用いることにより、機械学習単独の弱点および第一原理モデル単独の弱点に対処する。
【0024】
機械学習モデル単独の場合、訓練に用いられたデータに近いデータでしか上手く動作しない。すなわち、機械学習モデルは、外挿が得意でない。したがって、プラント内でこれまでになかった状態が発生すると、機械学習モデル単独では十分な精度にならない可能性がある。しかも、機械学習モデルは、透明性や解釈可能性に難があると共に、物質収支やエネルギー収支の制約を破ってしまう可能性がある。これは、「ブラックボックス」モデルと典型的に呼ばれるものである。この性質のため、技術者としては、機械学習モデルの予測を理解したりその予測を信頼したりすることが困難になっている。
【0025】
第一原理モデル単独では、実際のデータに比べると、仮定が原因となって精度が落ち得る。物理的メカニズムのなかには、十分に理解されていないために数学的に現象を記述できないものもある。一方で、数学的に詳細に記述できるものの、式自体の数や性質が原因で、解を数値的に求めることが不可能でなくとも難しいものもある。
【0026】
これらの方法(機械学習モデリングと第一原理モデリング)を組み合わせることにより、堅牢かつ高精度で、維持も簡単なハイブリッドモデルが得られる。ハイブリッド的アプローチの適用は、プロセス産業で注目を集めている(Zendehboudi達による“Applications of Hybrid Models in Chemical Petroleum, and Energy Systems: A Systematic Review,” Applied Energy, 228, (2018), pgs 2539-2566を参照のこと)。しかし、本願発明以前では、技術者がこのようなハイブリッド的手法をプロセスモデルに適用するのを可能にする体系的なアプローチやフレームワークは存在していなかった。
【0027】
図1Aに、本発明を実現し第一原理モデリング技術と機械学習とを組み合わせてなる前記新規の枠組みを実現する、プロセス制御(より広範には、プロセスモデリング・シミュレーション)の方法及びシステム140を示す。簡単に述べると、産業プラント(化学プロセスプラント、精製所など)120にて、対象の化学プロセス124が実施される。医薬品製造、石油精製、高分子加工などが例に含まれるが、これらに限定されない。プラント設備には、蒸留塔、各種反応器・反応槽、蒸発器、配管系統、バルブ、ヒーターなどが含まれるが、これらは例示であってこれらに限定されない。プラントデータ102は、化学プロセス124の入力(原料の量、特定の変数の数値など)および出力(生成物、残渣、物理的な操業特性/条件など)を表す。制御部122は、モデルによるプロセス制御で設定132(すなわち、パラメータ値、温度選択、圧力設定、流量や、物理的性質を表すその他の変数値)を決めて維持してプラントの設備を動かし、対象の化学プロセス124を実施する。
【0028】
前記モデルによるプロセス制御は、プロセスモデリングシステム130により生成された(前記対象の化学プロセスの)モデルに基づくものである。本発明の実施形態では、プロセスモデリングシステム130が、第一原理モデル126を機械学習モデル108,508,706と組み合わせて対象の化学プロセス124のハイブリッドモデル116,516,716(後で詳細に説明する)を生成しデプロイする。ハイブリッドモデル116,516,716は、対象の化学プロセス124の進行や物理的性質/条件を優れた精度で予測する。当該予測は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスのデボトルネッキングを可能にすること、および前記産業プラントの前記化学プラントのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものにより、前記対象の化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする。前記ハイブリッドモデルの予測には、設定132の更新の必要性の是非や、設定132を定量的に更新するための具体的な数値も含まれる。図1B図5及び図7では、第一原理モデル126を機械学習モデル108,508,706と組み合わせてプロセスモデリング・シミュレーション・最適化・制御140における本願発明の有利なハイブリッドモデル116,516,716を生成するための方法や技術100,500,700のさらなる詳細を示す。
【0029】
一般的に述べると、制御部122は、プロセスモデリングシステム130と産業プラント120との間のインターフェースである。制御部122に加えて且つ/或いは制御部122に代えて、プロセスモデリングシステム130とプラント120との間では別のインターフェースも好適であり、そのようなものは本明細書の開示内容に触れた当業者の範疇である。例えば、プロセスモデリングシステム130とプラント120のシステムとの間にインターフェースが存在していてもよい。プロセスモデリングシステム130のユーザインターフェースが存在していてもよい。プロセスモデリングシステム130は、シミュレータやオプティマイザの実質的な一部であってもよいが、例はこれに限定されない。このような各種インターフェースは、プロセス技術者などのエンドユーザがモデル予測を:(a)プラント操業や対象の化学プロセス124のモニタリングやトラブルシューティングや;(b)化学プロセス124のボトルネックの特定や;(c)そのデボトルネッキング;などに利用するのを可能にする。実施形態において、インターフェースは、プロセス技術者がモデル予測をプラント120の化学プロセス124の(オンラインやオフラインでの)最適化に利用するのを可能にする。このような方法やその他の同様の方法により、実施形態は、対象のプラント120の化学プロセス124のパフォーマンスの様々な改善を可能にする。
【0030】
(増強ハイブリッドモデル)
本発明の一実施形態において、コンピュータに実装される方法および/またはシステムおよび/またはコンピュータプログラムプロダクトは、図1Bに示すワークフローを実施する。このプロセス100では、機械学習モデル116が生成される。機械学習モデル116は、入力変数(X)から、プロセスデータ102を含む対象の化学プロセスを記述した所望の出力変数(Y)一式を生み出すことが可能である。システム100は、未処理のプロセスデータ102を入力として受け取るか又は取得する。機械学習モデル116の精度を上げるために、手段104は、前記出力変数の重要な従属関係をカバーするような入力変数を選び出す。
【0031】
そして、手段106が、第一原理知識(熱力学工学や化学工学の専門知識など)や化学過程のモデルに基づき、特徴量一式を自動生成する。このような特徴量には、比重、粘度、熱容量、前記プロセス内で生じる現象に対する無次元数、前記過程の理論的モデルによる計算結果などの物理的性質が含まれ得る。自動生成される前記特徴量一式は、手段104からの未処理の入力測定値を、機械学習訓練モデル108に対するより信頼性の高い且つより象徴的な入力へと変換したものである。結果として新たに得られる手段106の特徴量又は増強入力データ(XA)とは、既存の入力や入力同士の組合せやモデルの計算結果を変換してなる変換物であり得る。このような改良入力により、特徴量エンジニアリングに必要な時間が短くなると共に、より高精度なモデル116が得られる。
【0032】
一例として、気体と液体の二相流が発生している配管の圧力降下予測を考える。測定データ(X)には、これらの流体の圧力、温度、比重および速度が含まれ得る。これらの入力は、出力測定値である圧力降下(Y)と共に、機械学習モデル108の訓練に用いられ得る。
【0033】
タルサ大学流体流プロジェクト(TUFFP)は、配管内混相流についての、35年超にわたる業界-タルサ大学の共同研究グループである。その実験設備は、空気-水の二相流や空気-油の二相流や空気-水-油の三相流を扱うことが可能な流体ループを備えている。TUFFPは、作成者や相数や流体の種類で分別可能な、約40の実験データセットからなるカテゴリー別データベースを提供している。空気-ケロシン系についての3種類のデータセットを選び出し、ハイブリッドモデリングアプローチの試験に用いた。これらのデータセットについては:Brill達による “Transportation of liquids in multiphase pipelines under low liquid loading conditions.” Ph.D. Dissertation, The University of Tulsa (1995);Caetanoによる“Upward vertical two-phase flow through an annulus.” Ph.D. Dissertation, The University of Tulsa (1985);およびYangによる“A study of intermittent flow in downward inclined pipes.” Ph.D. Dissertation, The University of Tulsa (1996);を参照のこと。データセットのほかに、混相流の圧力降下を予測するためのTulsa Unified Modelと称される第一原理モデルがTUFFPによって開発されている。H. Q. Zhang、Q. Wang、C. Sarica及びJ. P. Brillによる“Unified model for gas-liquid pipe flow via slug dynamics-Part 1 : Model development”, Trans. Of the ASME, 25, (2003), 266-273;ならびにH. Q. Zhang、Q. Wang、C. Sarica及びJ. P. Brillによる“Unified model for gas-liquid pipe flow via slug dynamics-Part 2: Model validation”, Trans. Of the ASME, 25, (2003), 274-283を参照のこと。
【0034】
表1に、調査対象の393個の実験で測定された12のパラメータを挙げる。前記Tulsa Unified Modelを用いることで、この実験データセットに基づいた配管の圧力降下についての、第一原理アプローチ単独による予測を行うことが可能である。図2(a)に示すように、このモデルは、圧力降下の予測にそれなりに成功している(R値=0.896)。
【0035】
【表1】
【0036】
同じデータを用いて、機械学習モデル108に対し、圧力降下を予測するよう訓練することも可能である。部分的最小二乗回帰(PLS)による教師あり学習手法を適用した。上記測定データのみを入力としても、このPLSモデルは図2(b)に示すように圧力降下の予測にまあまあ成功しているが、図2(a)の第一原理モデルほどではない。表2に示すように、このモデルのR係数は0.816である。
【0037】
【表2】
【0038】
混相流の数学的記述によると、圧力降下は、速度の2乗、および粘性力に対する慣性力の比(すなわち、レイノルズ数)に左右される。したがって、これらの変数(XA)も、入力測定値と共に機械学習モデル108の入力に含められ得る。元々の変数が表2に示すようなこれらの算出値で増強されると、PLSモデル108をこの拡大入力データセットにより訓練することで、ハイブリッドモデル116の構築が可能となる。この場合の予測は、図2(c)に示すようなものになり、そのR値は第一原理単独や機械学習単独の場合を超える0.908となる。
【0039】
また、配管混相流では、相同士が別々の流動パターンや流動様式に分かれる又は分離するという認識が確立している。このようなパターンの形成は、配管の圧力降下に大きな影響を及ぼし得る。同じ流動様式のデータのみでハイブリッドモデル116を訓練することにより、当該モデルを大幅に改善することが可能である。図3に、気体が液体の上を流れる層状流動様式について構築したハイブリッドモデル116を示す。このモデルはほぼ完璧である。対照的に、Tulsa Unified modelの第一原理モデルによる予測は、圧力降下の観測値を一貫して下回っている。
【0040】
上記の例では、PLS法を、訓練過程又は手段108の機械学習アルゴリズムとして用いた。本発明は、この機械学習手法のみに限定されない。図1Bの同実施形態では、システム100又は手段108が、ランダムフォレスト回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシーンなどの適用可能な種々の機械学習モデルからなるライブラリを有する。例えば、図4に、ランダムフォレスト回帰を用いた場合の、配管流の増強ハイブリッドモデル116を示す。この場合、ランダムフォレスト回帰は、様々な流動様式を含んだ全データセット(図4のグラフ)において成功を収めている。これは、ランダムフォレスト回帰が、複数のモデルを集約したアンサンブル手法だからである。つまり、別々の流動様式についての別々のモデルを組み合わせたものとなっている。
【0041】
システム/ソフトウェアプログラム100の実施形態は、前記データセットに新たな変数を自動的に追加することにより、機械学習モデル108への前記入力を補強し得る。図1Bの構成要素110,112,114は例示に過ぎない。一実施形態では、システム100が、ライブラリ110,112,114にて、様々なプロセス現象や設備についての重要な変数や関係や式(又は算出値)をデータベースで記憶している。重要な変数の一部が102で測定されておらず、しかし、それを104の入力に含めたい場合には、手段106が、ライブラリ110,112,114でサポートされる第一原理モデルを用いてこのような変数を算出する。例えば、配管を流れる流体の粘度が物理的性質として測定されていない場合には、システム100/手段106が、ライブラリ(データベース)110,112,114で提示されるAspen Properties(本願の譲受人であるAspen Technology社製)などの性質モデルをベースとしてこのような数値を算出する。システム100/手段108は、プロセス制御および/またはプロセスモデリング・シミュレーションに対するデプロイ用の最終的なハイブリッドモデル116内の機械学習モデルとして、圧力降下(Y)についての機械学習モデルを元々の入力データ(X)と生成した増強データ(XA)とで訓練・構築するのである。
【0042】
図15A図15Cに、本発明の原理による増強ハイブリッドモデル116の他の例を示す。本例では、バッチ反応器での溶液重合を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)の製造について考える(図15A)。測定入力データ(X)には、モノマー(メチルメタクリレート)の組成や、開始剤の量や、バッチ開始時の前記反応器の温度及び圧力や、バッチ途中の運転温度が含まれ得る。出力測定値(Y)には、バッチ終了時のPMMAの製造質量や、製造したポリマーの平均分子量などの重要な各性質が含まれる。これら入力測定値(X)および出力測定値(Y)を用いて、機械学習モデル108の訓練が行われ得る。
【0043】
産業バッチ反応器のプロキシとして、Aspen Plus(本願の譲受人であるAspen Technology社製)を用いて構築したシミュレーションモデルを使用し、これを使って37のバッチについてのX及びYのデータを生成した。図15Bは、機械学習アルゴリズム(部分的最小二乗(すなわち、PLS))を用いて予測値を算出した場合の、ポリマーの数平均分子量(MWN)の測定値-予測値のパリティプロットである。このモデルの精度は、R値が低い(0.73)ことから分かるように良くなかった。
【0044】
図15Cは、入力測定値(X)のほかに、未校正のバッチ反応器近似モデルから算出した部分モル流量、部分モル分率、数平均重合度、重量平均重合度、多分散指数、数平均分子量、重量平均分子量などのポリマー属性を106で上記機械学習(PLS)モデル108の入力として用いた場合の、対応するパリティプロット及びRである。この場合のR値が大幅に高かった(0.9)ことから、機械学習モデル108への入力を未校正の第一原理モデル106の結果で増強することにより、機械学習モデル/最終的なハイブリッドモデル116の精度が大幅に向上することが分かる。
【0045】
表3には、バッチ重合についての図15Aの例示的な増強ハイブリッドモデル116で用いた入力測定データおよび増強データを挙げる。
【0046】
【表3】
【0047】
プロセスモデリングシステム130(図1A)は、対象の化学プロセス124のこのような改良モデル116により、産業プラント120の化学プロセス124のパフォーマンスを改良することが可能である。例えば、プロセス制御では、制御部122が、化学プロセス124及び産業プラント120の操業を制御するための精度が向上した設定(値)132を出力し、当該設定を更新するが、例はこれに限定されない。他の例では、ユーザインターフェース(一般的なもの又は業界で既知のもの)からの改良モデルの出力130により、プロセス技術者がオフラインで化学プロセス124のトラブルシューティングをより正確に行うことが可能となる。同様に、改良モデルの出力130により、プロセス技術者が化学プロセス124のボトルネックをより良好に検出することが可能となり得て、前記化学プロセスのデボトルネッキングが向上すると共にプラント120の操業が向上する。同様に、改良モデルの出力130により、プラントシステムインターフェースを介して対象の産業プラント120の前記化学プロセスのパフォーマンスをオフラインやオンラインで最適化することが可能となる。
【0048】
(残差ハイブリッドモデル)
本発明の他の実施形態では、システム500が、図5に記載したワークフローのプロセスシミュレーションモデル516を生成する。このプロセス500では、特定の出力一式のための機械学習モデルを生成するのではなく、変数の測定値とベースとなる第一原理モデルの予測との差分又は残差を提示するために、機械学習モデル516が用いられる。前記化学プロセス及び対象の産業プラントからの未処理のプロセスデータ102については、図1Bに記載したとおりである。選出手段104については、未処理の入力データ102から入力変数(X)および出力変数(Y)を設定するという前述の説明どおりである。
【0049】
次に、手段104が入力変数(X)をシミュレーションモデル506に供給して、出力(YS)の予測を行う。ここでの入力変数(X)は、(前述の)手段106で増強されてから当該シミュレーションモデルを構築するものとされてもよい。そして、手段507が、シミュレーションによる予測(YS)と観測された出力(Y)との差分である残差(R)を算出する。この残差について、訓練過程508で機械学習モデル516を訓練・構築する。この場合、結果として得られる機械学習モデル516は、前記対象の化学プロセスの根底にある物理的性質全体を捉えようとしているのではなく、産業システム/化学プロセスのうちの第一原理で記述されない部分のみをモデル化している。これにより、機械学習モデル516の負担が実質的に減ると共に、データ削減によって訓練(過程508)が高速化する。
【0050】
配管流の例に戻ると、機械学習モデル516を、圧力降下の測定値とベースとなる第一原理モデルによる予測との差分で訓練することが可能である。図6から明らかなように、第一原理モデルによる予測は、圧力降下の観測値をほぼ線形のオフセットで一貫して下回っていることから、第一原理モデルで正確に記述されない何かが存在していることが分かる。実施形態500は、第一原理モデルを調整又は改造しようとするのではなく、第一原理モデルの予測と圧力降下の観測値との差分を予測するように機械学習モデル516を訓練する。図6は、PLSを用いたこの種の残差モデル516により、配管の圧力降下を極めて精度良く予測できることを示している。
【0051】
この種のモデル516の利点としては、第一原理の予測力及び外挿能力が保たれるという点が予想される。このハイブリッドモデル/システム500のうちの機械学習部分が、第一原理モデルで正確に記述されない現象を捉える。
【0052】
本発明の同実施形態では、プロセスモデリングシステム130(図1A)が、このハイブリッド的アプローチのベースとして利用可能な複数の第一原理モデル126からなるライブラリを有する。また、プロセスモデリングシステム130は、Aspen Plus、Aspen HYSYS(いずれも本願の譲受人であるAspen Technology社製)などの別の第一原理プロセスモデリングソフトウェアプログラム(コンピュータアプリケーション)とインターフェース接続したり当該別の第一原理プロセスモデリングソフトウェアプログラムから予測をインポートしたりすることが可能であり得る。プロセスモデリングシステム130は、第一原理モデル126の使用と前述の方法/システム500により生成された残差モデル516の使用を組み合わせる。具体的に述べると、プロセスモデリングシステム130は、対象の化学プロセス124に適用された第一原理モデル126による予測の一部を補正する。プロセスモデリングシステム130は、前記第一原理モデルによる物理的条件又は性質の予測量を、対応する残差モデル516を用いて補正する。結果として、物理的条件についての補正済み予測(最終的な予測量)の精度が向上するので、プロセスモデリングシステム130の出力(対象の化学プロセス124のモデル)が改善する。結果的に、制御部122は、化学プロセス124及び産業プラント120の操業を制御するための精度が向上した設定(値)132を出力し、当該設定132を更新する。また、ユーザインターフェース(一般的なもの又は業界で既知のもの)からの改良モデルの出力130により、プロセス技術者がオフラインで化学プロセス124のトラブルシューティングをより正確に行うことが可能となる。同様に、改良モデルの出力130により、プロセス技術者などが化学プロセス124のボトルネックをより良好に検出することが可能となり得て、前記化学プロセスのデボトルネッキングが向上する。同様に、改良モデルの出力130により、(プラントシステムインターフェースを介して)前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを(オフラインやオンラインで)最適化することが可能となる。
【0053】
(組込みハイブリッドモデル)
本発明の他の実施形態において、システム/方法700は、図7のワークフローを用いてプロセスシミュレーションモデル716を生成する。このプロセス700において、化学プロセス124及び対象の産業プラント120からの未処理のプロセスデータ102については、図1Bに記載したとおりである。選出手段104については、未処理の入力データ102から入力変数(X)および出力変数(Y)を設定するという前述の説明どおりである。
【0054】
システム/方法700は、例えばAspen Plus、Aspen HYSYS(いずれも本願の譲受人であるAspen Technology社製)などのプロセスシミュレータを用いて、主要の第一原理モデル707(本明細書ではシミュレーションモデル707とも称される)を構築する。主要の第一原理シミュレーションモデル707は、同モデルの仮定や、一部の入力パラメータ(P)の数値が未知であることが原因となって、観測されるデータ102に上手くフィットしない可能性がある。機械学習モデル706を用いることにより、このような未知の又は測定不能のパラメータ(P)の数値を、判明している測定値(入力X)に基づいて決定・予測する。そして、このような関数予測が、主要の第一原理/シミュレーションモデル707への入力(XおよびP)となる。これを受けて、第一原理/シミュレーションモデル707がシミュレーション予測(YS)を算出する。
【0055】
このアプローチは、他の手法に対して以下の追加の利点を奏する。第一に、自己無撞着な第一原理モデルの制約内で機械学習を行うので、物質収支やエネルギー収支が常に遵守される。第二に、このハイブリッドモデルは、プロセスのモニタリングにとって重要であるにもかかわらず計装の限界やその他の要因が原因となって測定されない可能性がある数量(推測量とも称される)を高精度に予測することが可能である。このような推測量には、副生成物の濃度や流量、設備内の温度や圧力などが含まれ得る。正確な熱力学を用いると共に根本的な物質収支や原子収支の制約を満たしている第一原理モデルにより、当該推測量の精度が確実なものになる。
【0056】
方法/システム700では、機械学習モデル706がこのようなパラメータ(P)の誤差に基づいて訓練されるものでないという点に留意されたい。これは、機械学習モデル706の推定対象となるパラメータ(P)に実地測定値が存在しないことから不可能である。むしろ、出力についての、機械学習・第一原理の組合せモデル706,707による予測(YS)と実地測定値の出力(Y)との誤差を、誤差算出手段又は過程708で算出する。算出した誤差(|(YS)-(Y)|)が許容閾値レベルに収まらない場合には、誤差算出手段708が709で当該算出した誤差を機械学習モデル706に伝えて訓練を行う。
【0057】
一例として、化学反応器のプロセスシミュレーションモデル707について考える。このモデルを完全に記述するには、様々な反応速度定数の入力や反応物組成と反応速度との従属関係を説明する式が必要となる。正確な速度式の生成には、大幅な実験やモデルの校正がしばしば必要になる。実施形態700は、人工ニューラルネットワーク(ANN)などの機械学習モデル706に対し、反応器シミュレーションモデル707で用いる反応速度定数及び/又は反応速度の予測を行わせるべくデータ104で訓練する。
【0058】
ANNモデル706は、速度定数や反応速度の測定値と同ANNモデルの予測との誤差に基づいて訓練されるのではない。というのも、このような測定値は通常取得できないからである。むしろ、誤差算出手段708が、シミュレーションモデルによる反応器の収量などについての総合的予測707と測定データ102との誤差を算出し、算出した誤差を用いてANNモデル706を訓練する。過程709は、手段708で算出した誤差を機械学習/ANNモデル706へと逆伝搬してモデルの訓練を行う様子を説明したものである。最終的に、手段708で算出した誤差が許容範囲内となる、すなわち、所定の閾値に収まることにより、プロセスモデリングシステム130のハイブリッドモデル716が結果として生じることになる。
【0059】
図8に、連続攪拌槽型反応器(CSTR)180でエステル化反応800を行う仮想的シナリオを示す。発生する反応は:
エタノール+プロピオン酸→プロピオン酸エチル+水
である。真の反応速度は:
速度=kbase[エタノール]0.8[プロピオン酸]2.5[不純物] (1)
(式中、kbaseは速度定数であり、[エタノール]は反応器180内のエタノールのモル分率であり、[プロピオン酸]は反応器180内のプロピオン酸のモル分率であり、[不純物]は反応器180内の分かっている不純物についてのモル分率である。)
により与えられる。
【0060】
入力データ104には、以下の測定値が含まれる:
● エステルの生成速度(kg/時);ならびに
● 原料102内のエタノール、プロピオン酸および不純物の質量流量(kg/時)。
【0061】
これらの測定値を、未処理のプラントデータ102のプロキシであるAspen Plus(本願の譲受人であるAspen Technology社製)シミュレーション707を用いて生成した。これは、式(1)で記述される速度式(グランドトゥルース)をAspen Plus RCSTRモデル(本願の譲受人であるAspen Technology社製)に適用して得られたシミュレーション結果にノイズを付加することにより行った。
【0062】
エステル製造の予測に用いるモデル716は、以下の方法によって既存の市販シミュレータ内に構築することが可能である。
【0063】
(従来のパラメータ推定)
Aspen Plus(本願の譲受人であるAspen Technology社製)などのシミュレータ内に、適切な原料流および生成物流を含む反応器モデル707が構成される。既知の反応機構を用いた次の形式の素反応速度式を、前提とする:
速度=k[エタノール][プロピオン酸] (2)
(式中、kは、標準的なパラメータ推定を用いてデータから特定又は推定される定数である。)
反応器モデル707は、この速度式を用いて、プロピオン酸エチルの製造を原料や反応器の条件102に基づき算出する。
【0064】
(組込み(Non-Lumped型)ハイブリッドモデル)
Aspen Plus(本願の譲受人及び出願人であるAspen Technology社製)などのシミュレータ内に、適切な原料流および生成物流を含む反応器モデル707が構成される。既知の反応機構を用いた次の形式の素反応速度式を、前提とする:
速度=kANN[エタノール][プロピオン酸] (3)
【0065】
(式中、kANNは、原料条件の関数であり、その関数形式はデータからANN706によって「学習」される。)
反応器モデル707は、この速度式を用いて、プロピオン酸エチルの製造を原料や反応器の条件102に基づき算出する。
【0066】
(組込み(Lumped型)ハイブリッドモデル)
Aspen Plus(本願の譲受人及び出願人であるAspen Technology社製)などのシミュレータ内に、適切な原料流および生成物流を含む反応器モデル707が構成される。前提とする速度式はない:
速度=速度ANN (4)
(式中、「速度」は原料組成の関数であり、その関数形式はデータからANN706によって「学習」される。)
【0067】
ANNモデル706の重みは、図7による前述の誤差算出手段708で算出した誤差に基づいて設定される。目下の動作サイクル中に、前記算出した誤差が伝えられること(709)により、プロセスモデリングシステム130にデプロイされたプロセスモデル716中のANN706の重みの数値が更新される。すると、プロセスモデリングシステム130からの対象の化学プロセス800の物理的条件(例えば、反応速度)についての出力が改善され、すなわち、精度の向上した予測が生成される。それにより、制御部122はCSTR180や産業プラント120の操業の設定132を効率的に調節することが可能となる。これは、当該技術分野でこれまで実現できなかったことである。
【0068】
図8は、原料の組成と反応速度との従属関係の関数形式を機械学習(ANN)706で学習するのに用いられる技術を説明する図である。
【0069】
図9の(a)は、図8の上記の例で速度定数kを推定するのに従来のパラメータ推定を用いた場合の、プロピオン酸エチルの製造速度の観測値-予測値のパリティプロットである。パラメータ推定ではkを定数と仮定するほか、反応速度に対する不純物の影響を捉えきれていないため、芳しくない結果になる。
【0070】
図9の(b)は、仮定(不完全)速度式:
速度=k[エタノール][プロピオン酸] (5)
の速度定数を予測するように組込みANNモデル706を訓練した場合の、対応する結果を示したものである。
【0071】
が0.95となることから、組込みANNモデル706により、速度定数の関数形とその不純物依存性を学習することができ、仮定速度式における不備を結果的に補償できたことが分かる。
【0072】
図10は、反応器シミュレーションモデル707の反応速度を算出するのに組込みANNモデル706を用いた場合の、プロピオン酸エチルの製造速度の観測値-予測値のパリティプロットである。Rが0.978となることから、組込みNN706により、速度式の関数形とその不純物依存性をエステル製造データから学習できたことが分かる。
【0073】
【表4】
【0074】
(膜分離の組込みハイブリッドモデル)
図11にて、仮想的な膜分離プロセス(対象の化学プロセス124)で二酸化炭素とメタンの混合物を分離するという例により、本願のアプローチの別の用途を示す。Aspen Custom Modeler(本願の譲受人及び出願人であるAspen Technology社製)の厳密な膜モデルを用いて生成した分離データにより、Apen Plus SEP2ブロック(シミュレーションモデル707)内に組み込まれたANN(機械学習モデル706)を訓練した。
【0075】
図11の下側部分は、透過物としてのメタンと二酸化炭素のモル分率の観測値-予測値のグラフである。
【0076】
(市販シミュレータでの組込みハイブリッドモデルアプローチの概要)
図12に示すように、図7の本願方法やシステム700は、Aspen PlusやAspen HYSYS(本願の譲受人及び出願人であるAspen Technology社製)などの市販の汎用プロセスシミュレータ712に組み込むことが可能である。具体的に述べると、ハイブリッドモデル構築手法700は、そのような汎用シミュレータ712に組み込まれることにより、下記の種類の設備(および対象の各化学プロセス124)についての既存のシミュレーションモデル内での組込み機械学習モデル706のシームレスな訓練・デプロイをサポートする:
● 熱交換器の熱伝達係数の計算
● 反応器の反応速度パラメータ算出値の計算
● 晶析装置の晶析速度パラメータの計算
● 蒸留塔の効率の計算
● 乾燥装置の乾燥速度パラメータの計算
● 配管の流体流の摩擦係数の計算
【0077】
このアプローチは融通性が高く、実施形態では、活用できる第一原理知識の範囲に基づいた変更が、組込み機械学習モデル706に対して行われることになる。
【0078】
例えば、組込み機械学習モデル706は、下記(下記のP値)を予測することが可能である:
● 反応機構が分からない場合に、反応速度パラメータに代えて反応速度
● 熱伝達係数に代えて熱伝達率
● 乾燥速度パラメータに代えて乾燥速度
【0079】
また、プロセスモデリングシステム130へとデプロイされた最終的なハイブリッドモデル716は、対象の化学プロセス及び対象の産業プラントの操業を制御部122が制御するための設定を高精度に決定する。さらに、ユーザインターフェース(一般的なもの又は業界で既知のもの)からの改良モデルの出力130により、プロセス技術者がオフラインで対象の化学プロセス124のトラブルシューティングをより正確に行うことが可能となる。同様に、改良モデルの出力130により、プロセス技術者などが化学プロセス124のボトルネックをより良好に検出することが可能となり得て、同化学プロセスのデボトルネッキングが向上する。同様に、改良モデルの出力130により、プラントシステムインターフェースを介して対象の産業プラントの化学プロセスのパフォーマンスを(オフラインやオンラインで)最適化することが可能となる。このように、プロセスモデリング・シミュレーションの実施形態では、本発明のハイブリッドモデル716/改良モデルの出力130により、対象の化学プロセス124のパフォーマンスの改善が可能となる。
【0080】
(コンピュータによる実施支援)
図13に、本発明を実施するプロセス制御部(一般的には、インターフェース)122およびプロセスモデリングシステム130が実現され得る、コンピュータネットワークまたは同様のデジタル処理環境を示す。
【0081】
少なくとも1つのクライアントコンピュータ/装置50および少なくとも1つのサーバコンピュータ60は、アプリケーションプログラムなどを実行する処理装置、記憶装置および入出力装置を構成している。少なくとも1つのクライアントコンピュータ/装置50は、さらに、他のコンピューティングデバイス(他のクライアント装置/プロセス50や1つ以上のサーバコンピュータ60を含む)へと通信ネットワーク70を介して接続(link:「リンク」)され得る。通信ネットワーク70は、リモートアクセスネットワーク、グローバルネットワーク(例えば、インターネット等)、クラウドコンピューティングサーバ又はサービス、世界中のコンピュータの集まり、ローカルエリア又はワイドエリアネットワーク、および現在それぞれのプロトコル(TCP/IP、Bluetoothなど)を用いて互いに通信するゲートウェイの一部であり得る。それ以外の電子デバイス/コンピュータネットワークアーキテクチャも好適である。
【0082】
図14は、図13のコンピュータシステムにおけるコンピュータ(例えば、クライアントプロセッサ/装置50、サーバコンピュータ60等)の内部構造の図である。各コンピュータ50,60は、コンピュータ又は処理システムの構成要素間でのデータ伝送に利用される一連のハードウェアラインであるシステムバス79を備える。バス79は、本質的に、コンピュータシステムの相異なる構成要素(例えば、プロセッサ、ディスクストレージ、メモリ、入出力ポート、ネットワークポート等)同士を接続して当該構成要素間での情報の伝送を可能にする共有の導管である。システムバス79には、様々な入出力装置(例えば、キーボード、マウス、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ等)をコンピュータ50,60に接続するための入出力装置インターフェース82が取り付けられている。ネットワークインターフェース86は、コンピュータが、ネットワーク(例えば、図13のネットワーク70等)に取り付けられた様々な他の装置へと接続することを可能にする。メモリ90は、本発明の一実施形態(例えば、詳細に既述したハイブリッドモデル構築方法やシステム100,500,700、支援の機械学習モデル、第一原理モデル、ライブラリ、ハイブリッドモデル116,516,716、関連するデータ構造や構築物等)を実現するのに用いられるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94を記憶する揮発性の記憶部である。ディスクストレージ95は、本発明の一実施形態を実現するのに用いられるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94を記憶する不揮発性の記憶部である。システムバス79には、さらに、コンピュータ命令を実行する中央演算処理装置84が取り付けられている。
【0083】
一実施形態において、プロセッサルーチン92およびデータ94は、コンピュータプログラムプロダクト(概して92で表す)である。当該コンピュータプログラムプロダクトは、本発明のシステム用のソフトウェア命令の少なくとも一部を提供するコンピュータ読取可能媒体(例えば、少なくとも1つのDVD-ROM、CD-ROM、ディスケット、テープなどの取外し可能な記憶媒体等)を含む。コンピュータプログラムプロダクト92は、当該技術分野において周知である任意の適切なソフトウェアインストール方法によってインストールされ得る。また、他の実施形態では、前記ソフトウェア命令の少なくとも一部が、ケーブルおよび/または通信および/または無線接続を介してダウンロードされ得る。他の実施形態において、本発明のプログラムは、伝播媒体における伝播信号(例えば、電波、赤外線波、レーザ波、音波、インターネットなどのグローバルネットワーク又は他の少なくとも1つのネットワークによって伝播される電気波等)に組み込まれた、コンピュータプログラム伝播信号プロダクト107である。このような搬送媒体又は信号が、本発明のルーチン/プログラム92用のソフトウェア命令の少なくとも一部を提供する。
【0084】
代替的な実施形態では、前記伝播信号が、伝播媒体で搬送されるアナログ搬送波又はデジタル信号である。例えば、前記伝播信号は、グローバルネットワーク(例えば、インターネット等)、電気通信網又は他のネットワークによって伝播されるデジタル化された信号であり得る。一実施形態では、前記伝播信号が、ある期間のあいだ前記伝播媒体によって送信される信号であり、例えば、数ミリ秒、数秒、数分又はそれ以上の期間のあいだネットワークによってパケットで送信される、ソフトウェアアプリケーション用の命令等とされる。他の実施形態において、コンピュータプログラムプロダクト92の前記コンピュータ読取可能媒体は、コンピュータシステム50が受け取って読み取りし得る伝播媒体である。例えば、コンピュータシステム50は、前述したコンピュータプログラム伝播信号プロダクトの場合のように、伝播媒体を受け取ってその伝播媒体に組み込まれた伝播信号を特定する。
【0085】
一般的に言って、「搬送媒体」又は過渡キャリアという用語は、前述した過渡的信号、伝播信号、伝播媒体、記憶媒体などを包含する。
【0086】
他の実施形態では、プログラムプロダクト92が、いわゆるサービスとしてのソフトウェア(Saas:「サース」)、またはエンドユーザをサポートする他のインストレーションもしくは通信として実現され得る。
【0087】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願公開公報及び刊行物は、参照をもってその全教示内容を取り入れたものとする。
【0088】
例示的な実施形態について詳細に図示・説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲を逸脱しない範疇で様々な変更が形態や細部に施され得ることを把握しているであろう。
【0089】
プロセスの制御やモデリングやシミュレーションのコンピュータベースの方法やシステムは、第一原理モデルと機械学習モデルを組み合わせて用いることにより、片方のモデルだけでは不足する部分について有益性を奏する。一例では、入力値(測定値)が第一原理手法で調節されると共に、調節後の当該値を用いて対象の化学プロセスの機械学習モデルが訓練・生成される。他の例では、機械学習モデルが、第一原理モデルによる予測と実証による/観測された物理的現象との残差(Δ)を提示する。別々の機械学習モデルが、別々の物理的現象に対処する。複数の残差機械学習モデルが各々の物理的現象の予測を補正することにより、対象の化学プロセスの第一原理モデルの精度向上がもたらされる。さらなる他の例では、機械学習モデルが、対象の化学プロセスからの測定値を入力に用いる。第一原理シミュレーションモデルは、プロセス入力データのほかに、特定の現象に対応するパラメータについての機械学習による予測を利用する。誤差補正手段が、シミュレーション結果とプロセス出力の測定値(すなわち、プラントデータ)との誤差を求める。求められた誤差を用いてその機械学習モデルのさらなる訓練が行われることにより、第一原理シミュレータで利用される上記予測が向上する。
【0090】
前述の説明では本発明を実施する用途技術分野の一つとしてプロセス制御を詳細に述べたが、本明細書で開示した本願のハイブリッドモデルやモデリング方法/システムには、それ以外の利用技術分野もある。実施形態は、プロセス技術者が化学プロセスのトラブルシューティングをより良好に行うのを可能にすること、産業プラントの化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、対象の産業プラントの化学プロセスのパフォーマンスを(オンラインやオフラインで)最適化することなどにより、対象の化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする。実施形態は、プロセスモデリングシステム、プロセスモデルシミュレーションシステムなどを含む。
なお、本発明は、態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
コンピュータに実装される、プロセスモデリング・シミュレーションの方法であって、
プロセッサが、対象の産業プラントの化学プロセスをモデル化する過程であって、当該化学プロセスの進行を予測するモデルの生成を含む、過程と、
生成された前記モデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする過程であって、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルからなる、過程と、
を備える、方法。
〔態様2〕
態様1に記載の方法において、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素がプラントデータに基づく入力変数であり、当該入力変数の数値を増強したもので当該機械学習モデルの訓練・構築を行う、方法。
〔態様3〕
態様2に記載の方法において、さらに、
第一原理に基づき、プラントデータからの元々の測定入力変数を増強した変数データセットを生成する過程であって、当該生成により、増強後の変数が生じる、過程と、
前記元々の入力変数に前記増強後の変数を組み合わせて前記機械学習モデルの訓練に利用する過程であって、訓練された当該機械学習モデルにより、精度の向上した対応する出力変数データセットが生成される、過程と、
を備える、方法。
〔態様4〕
態様1に記載の方法において、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値であり、前記生成されたモデルが、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測を採用する、方法。
〔態様5〕
態様4に記載の方法において、さらに、
前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータからの出力に対する予測値を算出する過程と、
プラントデータからの出力変数の観測値と対応する出力変数の前記シミュレータによる予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築する過程と、
を備える、方法。
〔態様6〕
態様1に記載の方法において、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素は、前記第一原理モデルに利用可能な測定値がプラントデータに既存していない物理的性質についての定量的表現であり、当該物理的性質の測定値についての当該機械学習モデルによる予測が、前記第一原理モデルで使用される、方法。
〔態様7〕
態様6に記載の方法において、前記第一原理モデルがシミュレーションモデルであり、当該方法は、さらに、
前記機械学習モデルを、前記化学プロセスについての測定不能なシミュレーションモデルパラメータ又は関数値を算出するように構成する過程と、
算出された前記モデルパラメータ又は関数値を、前記シミュレーションモデルの入力に用いる過程と、
プラントデータからの出力測定値に対する前記シミュレーションモデルの出力の誤差を演算する過程と、
演算された前記誤差を用いて、前記機械学習モデルを訓練する過程と、
を備える、方法。
〔態様8〕
態様1に記載の方法において、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする前記過程は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものを含む、方法。
〔態様9〕
態様1に記載の方法において、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする前記過程が、前記生成されたモデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御することを含む、方法。
〔態様10〕
コンピュータベースの、プロセスモデリング・シミュレーションのシステムであって、
対象の産業プラントの化学プロセスをモデル化し、当該化学プロセスの進行を予測するモデルを生成するモデリングサブシステムと、
生成された前記モデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にするように前記モデリングサブシステムに接続されたインターフェースと、
を備え、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を含む第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルからなる、システム。
〔態様11〕
態様10に記載のシステムにおいて、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素がプラントデータに基づく入力変数であり、当該入力変数の数値を増強したもので当該機械学習モデルの訓練・構築を行う、システム。
〔態様12〕
態様11に記載のシステムにおいて、前記モデリングサブシステムが、さらに、第一原理に基づき、プラントデータからの元々の測定入力変数を増強した変数データセットを生成することによって増強後の変数を生じさせて、前記元々の入力変数に当該増強後の変数を組み合わせて前記機械学習モデルの訓練に利用し、訓練された当該機械学習モデルにより、精度の向上した対応する出力変数データセットを生成する、システム。
〔態様13〕
態様10に記載のシステムにおいて、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が、前記化学プロセスの物理的性質の測定値であり、前記生成されたモデルが、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく、当該物理的性質の前記測定値についての前記機械学習モデルによる予測を採用する、システム。
〔態様14〕
態様13に記載のシステムにおいて、前記モデリングサブシステムが、さらに、前記第一原理モデルによって形成されるシミュレータからの出力のための予測値を算出し、プラントデータからの出力変数の観測値と対応する出力変数の前記シミュレータによる予測値との差分を提示するように、前記機械学習モデルを訓練・構築する、システム。
〔態様15〕
態様10に記載のシステムにおいて、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素は、前記第一原理モデルに利用可能な測定値がプラントデータに既存していない物理的性質についての定量的表現であり、当該物理的性質の測定値についての当該機械学習モデルによる予測が、前記第一原理モデルで使用される、システム。
〔態様16〕
態様15に記載のシステムにおいて、前記第一原理モデルがシミュレーションモデルであり、前記モデリングサブシステムは、さらに、前記機械学習モデルを、前記化学プロセスについての測定不能なシミュレーションモデルパラメータ又は関数値を算出するように構成し、算出された前記モデルパラメータ又は関数値を、前記シミュレーションモデルの入力に用いて、プラントデータからの出力測定値に対する前記シミュレーションモデルの出力の誤差を演算し、演算された前記誤差を用いて、前記機械学習モデルを訓練する、システム。
〔態様17〕
態様10に記載のシステムにおいて、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記インターフェースは、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを可能にすること、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものにより、前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする、システム。
〔態様18〕
態様10に記載のシステムにおいて、前記インターフェースは、制御部インターフェースを含み、当該制御部インターフェースは、前記対象の産業プラントの制御部に対し、当該制御部が前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御するように通信可能に接続されている、システム。
〔態様19〕
コンピュータプログラムプロダクトであって、
対象の産業プラントにおける対象の化学プロセスのプロセスモデリング・シミュレーションを実現するコンピュータコード命令を保持したメモリ領域を有する、コンピュータ読取可能媒体、
を備え、前記コンピュータコード命令は、
少なくとも1つのデジタルプロセッサにより実行されることで:
(a)前記対象の産業プラントの前記化学プロセスをモデル化し、このモデル化は前記化学プロセスの進行を予測するモデルを生成することを含み、この生成されたモデルは、前記化学プロセスの機械学習モデルによって向上する少なくとも1つの要素を有する第一原理モデルで構成されたハイブリッドモデルを含み、
(b)前記生成されたモデルによる予測に基づき、前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスの改善を可能にする、
命令を含む、コンピュータプログラムプロダクト。
〔態様20〕
態様19に記載のコンピュータプログラムプロダクトにおいて、前記生成されたモデルは、前記化学プロセスの操業条件、物理的性質および出力のうちの任意の1つ以上を予測するものであり、前記コンピュータコード命令は、さらに、前記生成されたモデルによる予測に基づき前記対象の産業プラントの設備の設定を自動制御するというプロセス制御をプロセッサに実施させる命令を含む、コンピュータプログラムプロダクト。
〔態様21〕
態様19に記載のコンピュータプログラムプロダクトにおいて、機械学習モデルによって向上する前記1つの要素が:(i)プラントデータに基づく入力変数であって、その数値を増強したもので当該機械学習モデルの訓練・構築を行う入力変数;(ii)前記化学プロセスの物理的性質の測定値であって、前記生成されたモデルは、当該物理的性質についての前記第一原理モデルによる予測ではなく当該物理的性質の前記測定値についての当該機械学習モデルによる予測を採用する、測定値;および(iii)前記第一原理モデルに利用可能な測定値がプラントデータに既存していない物理的性質についての定量的表現であって、当該物理的性質の測定値についての当該機械学習モデルによる予測が、前記第一原理モデルで使用される、定量的表現;のうちの任意のものである、コンピュータプログラムプロダクト。
〔態様22〕
態様19に記載のコンピュータプログラムプロダクトにおいて、前記化学プロセスのパフォーマンスの前記改善は、プロセス技術者が前記化学プロセスのトラブルシューティングを行うのを可能にすること、前記化学プロセスの一部のデボトルネッキングを行うこと、および前記対象の産業プラントの前記化学プロセスのパフォーマンスを最適化することのうちの任意のものを含む、コンピュータプログラムプロダクト。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C