(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】糖尿病性末梢神経障害の治療のためのHDAC阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/505 20060101AFI20240326BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240326BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K31/505
A61P3/10
A61P25/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022084507
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018521652の分割
【原出願日】2016-10-27
【審査請求日】2022-06-22
(32)【優先日】2015-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512190767
【氏名又は名称】アセチロン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ACETYLON PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オルガ・ゴロンツィカ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ビー・ジャープ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-095949(JP,A)
【文献】特表2013-542994(JP,A)
【文献】EMBO J., (2002), 21, [24], p.6820-6831
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/505
A61P 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において、糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防において使用するための、HDAC6特異的阻害剤
を含む組成物であって、
HDAC6
特異的阻害剤が式Iaの化合物:
【化1】
(式中、
R
xは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
R
yは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
又は、R
x及びR
yは、それぞれが結合する炭素と一緒に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルを形成し;
各R
Aは、独立してC
1-6-アルキル、C
1-6-アルコキシ、ハロ、OH又はハロアルキルであり;
mは0、1又は2である)
又は薬学的に許容されるその塩である、
組成物。
【請求項2】
式Iaの化合物が
【化2】
又は薬学的に許容されるその塩から成る群から選択される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
化合物が
【化3】
又は薬学的に許容されるその塩である、請求項
2に記載の
組成物。
【請求項4】
化合物が
【化4】
又は薬学的に許容されるその塩である、請求項
2に記載の
組成物。
【請求項5】
化合物が
【化5】
又は薬学的に許容されるその塩である、請求項
2に記載の
組成物。
【請求項6】
治療有効量のHDAC6特異的阻害剤を含み、それを必要とする対象において糖尿病性末梢神経障害を治療又は予防するための組成物であって、
HDAC6
特異的阻害剤が式Iaの化合物:
【化6】
(式中、
R
xは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
R
yは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
又は、R
x及びR
yは、それぞれが結合する炭素と一緒に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルを形成し;
各R
Aは、独立してC
1-6-アルキル、C
1-6-アルコキシ、ハロ、OH又はハロアルキルであり;
mは0、1又は2である)
又は薬学的に許容されるその塩である
、組成物。
【請求項7】
式Iaの化合物が、
【化7】
又は薬学的に許容されるその塩から成る群から選択される、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
式Iaの化合物が、
【化8】
である化合物又は薬学的に許容されるその塩
である、請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国仮特許出願番号62/246,965(2015年10月27日出願)及び米国仮出願62/281,990(2016年1月22日出願)の優先権を主張するものであり、それらの全文は参照することにより本願に組み入れられたものとする。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性末梢神経障害(DPN:Diabetic Peripheral Neuropathy)は糖尿病の主要な合併症であり、糖尿病患者の30~50%に影響する。DPNは、末梢神経軸索の遠位から近位への進行性の変性、疼痛及び感覚喪失を特徴とする。DPNの根底にあるメカニズムはあまり理解されておらず、その有病率や相当に重篤な症状にもかかわらず、治療的介入の選択肢は限られている。
【0003】
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素は、糖尿病性末梢神経障害の治療において、魅力的な治療標的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985, p. 1418及びournal of Pharmaceutical Science, 66, 2 (1977)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、それを必要とする対象における糖尿病性末梢神経障害の治療において使用するための医薬化合物を提供するものである。また、本発明は、それを必要とする対象における糖尿病性末梢神経障害の治療方法を提供するものである。
【0006】
本願は、それを必要とする対象における糖尿病性末梢神経障害の治療において使用するための医薬化合物を提供するものである。また、本願は、それを必要とする対象における糖尿病性末梢神経障害の治療方法を提供するものである。特に、本願は、糖尿病性末梢神経障害の治療のためのHDAC6阻害剤を提供する。
【0007】
従って、一態様において、本願は、治療有効量のHDAC6阻害剤を対象に投与することを含み、それを必要とする対象において糖尿病性末梢神経障害を治療又は予防するための方法を提供する。
【0008】
一実施形態において、HDAC6阻害剤は、HDAC6特異的阻害剤である。
【0009】
本願で提供される化合物(例えば、化合物1及び2)は、糖尿病性神経障害のモデルラットにおいて、接触性アロイディニアを反転させるのに有効である(実施例5参照)。さらに、HDAC6特異的阻害剤である化合物1は、糖尿病性神経障害モデルにおいて進行抑制効果を示す(実施例5参照)。この結果は、HDAC6が末梢神経障害の治療の有望な標的であることを示している。さらには、理論に縛られることなく、HDAC6阻害剤が、糖尿病性神経障害の設定において、正常な軸索輸送を回復することによって少なくとも部分的にその効果を発揮することが示唆される (実施例4参照)。
【0010】
定義
以下に、本明細書で使用される様々な用語の定義を列挙する。これらの定義は、具体例で制限の断りがない限り、個別又は集団の一部として明細書及び特許請求の範囲全体において使用される用語に適用する。
【0011】
用語「約は、一般に10%、5%又は1%未満の予想される変化を示す。例えば、「約25mg/kg」は一般に、最も広い意味で22.5~27.5mg/kg、すなわち25±2.5mg/kgを示すであろう。
【0012】
用語「アルキル」は、特定の実施形態で1~6個の炭素原子(C1-6アルキル)又は1~8個(C1-8アルキル)の炭素原子を含む飽和、直鎖又は分岐鎖炭化水素部分をそれぞれ指す。C1-6アルキル部分の例としては、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル部分が含まれる。C1-8アルキル部分の例として、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、ヘプチル及びオクチル部分が含まれる。
【0013】
アルキル置換基の炭素原子数は、接頭語「Cx-y」で示される場合があり、xは置換基の炭素の最小数、yは最大数である。同様に、Cx鎖は、xの炭素原子を含むアルキル鎖を意味する。
【0014】
用語「アルコキシ」は、-O-アルキル部分を指す。
【0015】
用語「アリール」は、これらに限定されないが、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、イデニル(idenyl)などを含む1つ以上の芳香環、縮合又は非縮合環を有する単環式又は多環式炭素環系を指す。いくつかの実施形態では、アリール基は6個の炭素原子を有する。いくつかの実施形態では、アリール基は6~10個の炭素原子を有する(C6-10-アリール)。いくつかの実施形態では、アリール基は6~16個の炭素原子を有する(C6-16-aryl)。
【0016】
用語「ヘテロアリール」は、単環式、又は多環式(例えば、二環又は三環以上)縮合又は非縮合部分、あるいは、5~10個の環原子を有し、その一つの環原子がS、O、N及びSiから選択され、0、1又は2個の環原子がS、O、N及びSiから独立して選択される追加のヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素である、少なくとも一つの芳香環;、を有する環系を指す。ヘテロアリールは、これらに限定されるものではないが、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノキサリニルなどを含む。
【0017】
用語「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のようなハロゲンを指す。
【0018】
用語「HDAC」は、コアヒストンのリジン残基からアセチル基を除去することで、凝縮したかつ転写的にサイレンス化されたクロマチンを形成する酵素であるヒストンデアセチラーゼを指す。現在、4群に分類化される18個のヒストンデアセチラーゼが知られている。クラスI HDACは、HDAC1、HDAC2、HDAC3及びHDAC8を含み、酵母RPD3遺伝子と近縁である。クラスII HDACは、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9及びHDAC10を含み、酵母Hda1遺伝子と近縁である。クラスIII HDACはサーチュインとしても知られ、Sir2遺伝子と近縁であり、SIRT1-7を含む。クラスIV HDACは、HDAC11のみを含み、クラスIとII HDACの両方の特徴を有する。用語「HDAC」は、特に断りがない限り、18個の周知のヒストンデアセチラーゼのうちいずれか1個又は複数を指す。
【0019】
用語「HDAC6特異的」は、HDAC1又はHDAC2のような任意の他タイプのHDAC酵素よりも実質的に大きな程度、例えば、4X、5X、10X、15X、20X超で化合物がHDAC6に結合することを意味する。すなわち、化合物が任意の他タイプのHDAC酵素よりもHDAC6に選択的である。例えば、HDAC6に結合してIC50が10nMであり、HDAC1に結合してIC50が50nMの化合物はHDAC6特異的である。一方、HDAC6に結合してIC50が50nMであり、HDAC1に結合してIC50が60nMの化合物はHDAC6特異的でない。
【0020】
用語「阻害剤」は、用語「アンタゴニスト」と同義である。
【0021】
「薬剤学的に許容される塩」は、本発明の方法によって形成される化合物の塩を指し、正当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などなしにヒト及び下等動物の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当な利益/危険比に見合ったものである。さらに、「薬剤学的に許容される塩」は、開示化合物の誘導体を指し、親化合物は既存の酸又は塩基部分の塩形態への変換によって修飾される。薬学的に許容される塩の例としては、これらに限定されるものではないが、アミンなどの塩基性残基の無機塩又は有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩又は有機塩などが挙げられる。本発明の薬学的に許容される塩は、例えば、無毒性の無機酸又は有機酸から形成される親化合物の従来型無毒性塩を含む。本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって塩基又は酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離の酸又は塩基形態を、水又は有機溶媒又は水及び有機溶媒の混合物中で化学量論量の適切な塩基又は酸と反応させることによって調製してもよく、一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルのような非水系媒体が好ましい。好適な塩の一覧は、Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985, p. 1418及びJournal of Pharmaceutical Science, 66, 2 (1977)に見いだされ、それぞれは、その全てが参照によって本願に組み入れられたものとする。
【0022】
本発明によって想定される置換基及び変数の組合せは、安定な化合物の形成をもたらすもののみである。用語「安定な」は、十分に製造可能な安定性を有し、且つ、本明細書に詳述する目的(例えば、対象への治療又は予防的投与)に有用であるために十分な期間化合物の完全性を維持する化合物を指す。
【0023】
用語「対象」は哺乳動物を指す。従って、対象は、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、モルモット等を指す。好ましくは、対象はヒトである。対象がヒトである場合、本明細書では対象を患者と称することができる。
【0024】
本明細書で使用される用語「治療する(treating)」又は「治療(treatment)」は、対象において少なくとも一つの症状を軽減、低減若しくは緩和又は疾患の進行を遅延させるのに有効である治療を含む。例えば、治療は、糖尿病性末梢神経障害等の疾患の一つ若しくは複数の症状を消失させることができる、又は、疾患を根治させることができる。本明細書の開示において、用語「治療」は、停止、発病の遅延(すなわち、疾患の臨床症状発現前の期間)、及び/又は疾患の発症若しくは悪化のリスクを低減させることも意味する。用語「防止」は、本明細書において、対象、例えば哺乳動物又はヒトにおける疾患の発症、継続又は悪化を適切に予防、遅延若しくは治療又はそのすべてを行うという意味で使用される。本明細書で使用される用語「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」又は「予防(prevention)」は、予防される状態、病気又は疾患に関連する又はそれによって引き起こされる少なくとも一つの症状の予防を含む。
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ヒストンデアセチラーゼインヒビター(Histone Deacetylase Inhibitor :HDAC)
一つの態様において、本明細書においては、対象に治療有効量のHDAC6阻害剤を投与することを含む、それを必要とする対象における糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防のための方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
一つの態様において、HDAC6阻害剤は、HDAC6特異的阻害剤である。
【0027】
一つの態様において、HDAC6阻害剤は下記式Ia又は薬学的に許容されるその塩である:
【化1】
式中、
R
xは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
R
yは、H及びC
1-6-アルキルから選択される;
又は、R
x及びR
yは、それぞれが結合する炭素と一緒に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルを形成し;
各R
Aは、独立してC
1-6-アルキル、C
1-6-アルコキシ、ハロ、OH又はハロアルキルであり;
mは0、1又は2である。
【0028】
一つの実施形態において、式Iaの化合物は、以下の化合物又は薬学的に許容されるその塩から選択される:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【0029】
一つの実施形態において、式Iaの化合物は、以下の化合物又は薬学的に許容されるその塩から選択される:
【表2】
【0030】
一つの実施形態において、本願で提供されるHDAC6阻害剤は、下記式Ia又は薬学的に許容されるその塩である:
【化2】
式中、
R
x及びR
yは、それぞれが結合する炭素と一緒に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルを形成し;
各R
Aは、独立してC
1-6-アルキル、C
1-6-アルコキシ、ハロ、OH又はハロアルキルであり;
mは0、1又は2である。
【0031】
一つの実施形態において、式Iの化合物は、以下の化合物又は薬学的に許容されるその塩から選択される;
【化3】
【0032】
式Ia及びIの化合物は天然の形態で描かれているが、いくつかの実施形態においては、これらの化合物は薬学的に許容される塩の形態で使用される。
【0033】
更なる実施形態において、式Iの化合物はHDAC6特異的阻害剤である。すなわち、式Iの化合物は、HDAC酵素アッセイにおいて試験したとき、他のHDACよりも約5~1000倍高いHDAC6に対する選択性を有する。
【0034】
式Ia及びIに従った特定のHDAC6特異的阻害剤の調製と特性は、国際特許出願第PCT/US2011/06079号で提供されており、これらの出願の全文は、参照することにより組み入れられたものとする。
【0035】
他の実施形態において、本願で提供されるHDAC6阻害剤は、式IIの化合物又は薬学的に許容されるその塩から選択される:
【化4】
式中、
環Bは、OH、ハロ又はC
1-6-アルキルで置換された又は置換されていないアリール又はヘテロアリールであり;
R
1は、OH、ハロ又はC
1-6-アルキルで置換された又は置換されていないアリール又はヘテロアリールであり;
Rは、H又はC
1-6-アルキルである。
【0036】
一つの実施形態において、式IIの化合物は以下から選択される:
【表3】
【0037】
化合物IIは天然の形態で描かれているが、いくつかの実施形態においては、これらの化合物は薬学的に許容される塩の形態で使用される。
【0038】
更なる実施形態において、式IIの化合物はHDAC6特異的阻害剤である。すなわち、式IIの化合物は、HDAC酵素アッセイにおいて試験したとき、他のHDACよりも約5~1000倍高いHDAC6に対する選択性を有する。
【0039】
式IIの化合物(すなわち、化合物2)の合成は、国際特許出願第PCT/US2011/021982号で提供されており、これらの出願の全文は、参照することにより組み入れられたものとする。
【0040】
一つの実施形態において、本願で提供される化合物は、
【化5】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0041】
いくつかの実施形態において、明細書に記載した化合物は非溶媒和物である。他の実施形態において、1つ以上の化合物は溶媒和物形態である。溶媒和物は、当該技術分野で公知な水、エタノールなどの任意の薬学的に許容される溶媒のいずれでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1A】
図1Aは、実施例4で記載されたものであり、各条件(25mMグルコース(対照)、200mMグルコース又は200mMグルコース及び500nM化合物2)下で、ミトコンドリア集団が移動した総距離を示す。
【
図1B】
図1Bは、実施例4で記載されたものであり、化合物2による処置で、ミトコンドリアの正常な移動パターンが回復することを示す。
【
図2A】
図2Aは、実施例5で記載されたものであり、化合物1で処置した際の、STZ糖尿病ラットでの糖尿病性末梢神経障害の研究における、Von Frey試験(g)に対する平均応答を示す。
【
図2B】
図2Bは、実施例5で記載されたものであり、化合物2で処置した際の、STZ糖尿病ラットでの糖尿病性末梢神経障害の研究における、Von Frey試験(g)に対する平均応答を示す。
【
図2C】
図2Cは、実施例5で記載されたものであり、化合物3で治療した際の、STZ糖尿病ラットでの糖尿病性末梢神経障害の研究における、Von Frey試験(g)に対する平均応答を示す。
【
図3A】
図3Aは、実施例6で記載されたものであり、化合物2が、ラット後根神経節ニューロン(DRGN: dorsal root ganglion neuron)においてチューブリン高アセチル化を誘導することを示す。
【
図3B】
図3Bは、実施例6で記載されたものであり、化合物2が、軸索微小管のアセチル化を増大させることを示す。
【
図4】
図4は、実施例7で記載されたものであり、テールフリック試験におけるレイテンシータイム(latency time)における化合物1及び2の効果を示す。
【
図5】
図5Aは、実施例8で記載されたものであり、ビヒクル又は化合物1を投与した際の、アシルカルニチン、AC16:2の変化を示す。
図5Bは実施例8で記載されたものであり、ビヒクル又は化合物1を投与した際の、アシルカルニチン、AC18:2の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
方法
HDAC6(ヒストンデアセチラーゼ6)阻害剤は、血液癌及びCNS疾患の動物モデルにおいて有効性を示す。本願においては、糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防のために、HDAC6阻害剤の使用が提供される。
【0044】
本明細書において使用する場合、特に指定しない限り、用語「糖尿病性末梢神経障害」(DPN)は、糖尿病性神経障害、DN又は「糖尿病性末梢神経障害性疼痛」(Diabetic Peripheral Neuropathic Pain:DPNP)とも称され、真性糖尿病に関連する神経障害によって引き起こされる慢性疼痛を指す。DPNの典型的な兆候は、「燃えるような」又は「撃たれるような」以上の深刻な疼痛として説明することができる、足部における痛み又は疼きである。あまり一般的ではないが、患者は、痛みを、かゆみ、裂くような痛み、又は歯痛のような痛みを訴える場合がある。痛みは、異痛症、痛覚過敏及び無感覚などの無症状を伴い得る。
【0045】
化合物1、2及び3を、DPNモデルにおいて検討した(例えば、実施例5参照)。化合物2を、DPNモデルにおいてin vitro及びin vivoで検討した(実施例4及び5参照)。
【0046】
一つの実施形態において、本願は、治療有効量のHDAC6阻害剤を対象に投与することを含む、それを必要とする対象において糖尿病性末梢神経障害を治療又は予防する方法を提供する。
【0047】
前記方法の一つの実施形態において、HDAC6阻害剤は、HDAC6特異的阻害剤である。
【0048】
前記方法の一つの実施形態において、HDAC6阻害剤は、式Iaの化合物又は薬学的に許容されるその塩である。
【0049】
特定の実施形態において、式Iaの化合物は:
【化6】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0050】
一実施形態の方法において、HDAC6阻害剤は、式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩である。
【0051】
特定の実施形態において、式Iの化合物は:
【化7】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0052】
特定の実施形態において、式Iの化合物は:
【化8】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0053】
一実施形態において、HDAC6阻害剤は、式IIの化合物又は薬学的に許容されるその塩である。
【0054】
特定の実施形態において、式IIの化合物は:
【化9】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0055】
特定の実施形態において、式IIの化合物は:
【化10】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0056】
上記の方法又は使用のいずれかについて、必要とされる用量は、投与様式、治療される特定の状態及び所望の効果に依存して変化するであろう。
【0057】
本発明の治療方法に従って、ヒト又は他の動物等の対象において、本発明の化合物の治療有効量を、所望の結果を達成するために必要な量及び期間・間隔で対象に投与することにより、疾患を治療又は予防する。本発明の化合物の「治療有効量」なる語は、対象において疾患の兆候を低減させるのに十分な量を意味する。医学分野において十分に理解されているように、本発明の化合物の治療有効量は、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比であろう。
【0058】
一般に、本発明の化合物は、当業者に公知の任意の通常の及び許容される様式で、単体で又は一つ以上の治療剤と組み合わせて、治療有効量が投与されるだろう。治療有効量は、疾患の重篤度、対象の年齢及び相対的健康状態、使用される化合物の強さ及び他の要因に依存して大きく変化し得る。
【0059】
ある実施形態において、本発明の化合物の治療量又は用量は、約0.1mg/kg~約500mg/kg(約0.18mg/m2~約900mg/m2)、又は、約1mg/kg~約50 mg/kg(約1.8mg/m2~約90mg/m2)の範囲でありうる。一般に、本発明に従った治療レジメンは、そのような治療を必要とする対象に、単回又は複数回単位用量で、1日当たり、約10mg~約1000mg(例えば、約10mg~500mgを含む)の本発明の化合物を投与することを含む。従って、本願で提供される治療方法の一態様において、本発明の化合物は、一日当たり、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mg、250mg、260mg、270mg、280mg、290mg、300mg、310mg、320mg、340mg、350mg、360mg、370mg、380mg、390mg、400mg、410mg、420mg、430mg、440mg、450mg、460mg、470mg、480mg、490mg又は500mgの単位用量で投与される。更なる実施態様において、本発明の化合物は、一日当たり、20mg、40mg、60mg、80mg、100mg、120mg、140mg、160mg、180mg又は200mgの単位用量で投与される。さらに他の実施形態においては、本発明の化合物は、1日当たり、80又は120mgの単位用量で投与される。一つの実施形態において、本発明の化合物は毎日1回投与される。治療量及び用量は、投与形態や他の剤との併用可能性によっても変化する。
【0060】
被験体の状態が改善されると、必要に応じて、本発明の化合物、組成物又は組み合わせの維持用量を投与することができる。
【0061】
次に、症状が所望のレベルまで軽減されて治療を終了するべき時点で、改善された症状が維持されるレベルまで、投与量若しくは投与頻度又はその両方を、症状の関数として減らすことができる。しかしながら、対象は、疾患症状の再発時には長期に渡って断続的な治療を必要としてもよい。
【0062】
しかしながら、本発明の化合物及び組成物の一日の総使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の患者の特異的阻害用量は、治療される疾患及び疾患の重篤度;用いられる特定の化合物の活性、用いられる特定の組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別及び食事;投与時間、投与経路、及び使用される特定の化合物の排出率;治療の持続時間;使用される特定の化合物と組み合わせて又は同時に使用される薬物などの、医療者に周知の要因を含む種々の要因に依存する。
【0063】
使用
また、本願は、対象において、糖尿病性末梢神経障害を治療する又は予防するためのHDAC6阻害剤を提供する。一つの実施形態において、HDAC6阻害剤はHDAC6特異的阻害剤である。
【0064】
更なる実施形態において、HDAC6阻害剤は式Iaの化合物又は薬学的に許容されるその塩である。より更なる実施形態において、HDAC阻害剤は式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩である。式Ia又は式Iの化合物は、
【化11】
及び薬学的に許容されるそれらの塩から成る群から選択することができる。
【0065】
一つの実施形態において、式IIの化合物は、
【化12】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0066】
他の実施形態において、式IIの化合物は、
【化13】
又は薬学的に許容されるその塩である。
【0067】
一つの態様では、本願は、以下の化合物:
【化14】
又は薬学的に許容されるそれらの塩から成る群から選択される化合物の、糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防のための医薬の調製のための使用を提供する。
【0068】
この使用の一つの実施形態において、化合物は、
【化15】
又は薬学的に許容されるそれらの塩である。
【0069】
この使用の他の実施形態において、化合物は、
【化16】
又は薬学的に許容されるそれらの塩である。
【0070】
この使用の他の実施形態において、化合物は、
【化17】
又は薬学的に許容されるそれらの塩である。
【0071】
この使用の他の実施形態において、化合物は、
【化18】
又は薬学的に許容されるそれらの塩である。
【0072】
この使用の他の実施形態において、化合物は、
【化19】
又は薬学的に許容されるそれらの塩である。
【0073】
医薬組成物
他の態様において、本発明は、本願で提供される任意の化合物又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と共に含み、糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0074】
本発明の医薬組成物は、一つ又は複数の薬学的に許容される担体と共に製剤化された、治療有効量の本発明の化合物を含む。用語「薬学的に許容される担体」は、非毒性、不活性固体、半固体若しくは液体充填剤、希釈剤、封入材料又は任意のタイプの製剤化賦形剤を意味する。本発明の医薬組成物は、ヒト及び他の動物に対して、経口、直腸、非経口、嚢内(intracisternally)、膣内、腹腔内、局所(粉末、軟膏又はドロップ剤として)、口腔内、又は経口若しくは鼻腔内スプレーで投与することができる。
【0075】
本発明の化合物は、医薬組成物として、任意の従来の投与経路、特に腸内、例えば錠剤若しくはカプセルの形態で経口投与、あるいは、注射溶液若しくは懸濁液の形態で非経口投与、例えばローション、ゲル、軟膏若しくはクリームの形態又は鼻腔内若しくは座薬の形態で局所投与することにより、投与することができる。少なくとも一種の薬学的に許容される担体又は希釈剤と組み合わせた、遊離形態又は薬学的に許容される塩の形態である本発明の化合物を含む医薬組成物は、混合、造粒又はコーティング方法による従来の方法によって製造されることができる。例えば、経口組成物は、活性成分を、a)希釈剤(例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリシン)、b)潤滑剤(例えば、シリカ、タルカム、ステアリン酸、そのマグネシウム若しくはカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)、錠剤については、c)結合剤(例えば、マグネシウムアルミニウムシリケート、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリジン)、望ましい場合には、d)崩壊剤(例えば、デンプン、寒天、アルギン酸若しくはそのナトリウム塩又は発泡性混合物)並びに/又はe)吸収剤、着色剤、香料、及び甘味料を含む錠剤又はゼラチンカプセルでありうる。注射組成物は、水性等張液又は懸濁液であり得、座薬は脂肪エマルション又は懸濁液であり得る。組成物は、滅菌されていてよく、及び/又は、保存剤、安定化剤、湿潤剤若しくは乳化剤、溶液促進剤、浸透圧を調節するための塩及び/若しくは緩衝剤などのアジュバントを含んでもよい。さらに、それらは他の治療的に有用な物質をさらに含んでよい。経皮適用に適した製剤は、有効量の本発明の化合物を単体と共に含む。担体は、ホストの皮膚を通過するのを助ける吸収性の薬理学的に許容される溶媒を含み得る。例えば、経皮デバイスは、バッキング部材と、任意で担体と共に化合物を含むリザーバと、任意で化合物を長期間にわたり制御された所定の速度でホストの皮膚に送達する速度制御バリアと、装置を皮膚に固定する手段とを含む包帯の形態である。マトリックス型経皮製剤が使用されてもよい。皮膚及び目などへの局所適用に適した製剤は、好ましくは水性溶液、軟膏、クリーム又はゲルが当業者にはよく知られている。そのようなものは、可溶化剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤及び保存剤を含み得る。
【0076】
活性化合物はまた、上記の一つ又は複数の賦形剤と共にマイクロカプセルの形態であってもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル、丸薬、及び顆粒の固体剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどのコーティング及びシェルで調製することができる。このような固体の投与形態では、活性化合物は スクロース、ラクトース又はデンプンなどの少なくとも一種の不活性希釈剤と混合されてよい。そのような投与形態は、通常の慣行通り、不活性希釈剤以外の更なる物質(例えば、錠剤化潤滑剤及びステアリン酸マグネシウムやマイクロクリスタリンセルロースなどの他の錠剤化補助剤)をも含んでよい。カプセル、錠剤及びピルの場合は、投与剤形はまた緩衝剤をも含んでよい。
【0077】
参照による引用
本出願を通して列挙したすべての文献(引用文献、登録特許、公開特許公報及び同時係属中の特許出願を含む)の全文は、参照することにより組み入れられたものとする。別段の記載がある場合を除き、明細書で使用される技術用語及び科学用語は全て当業者に一般に公知な意味と一致する。
【0078】
均等物
当業者は、単なる日常的な実験によって、明細書に記載した発明の具体的な実施形態の多くの均等物を認識しまたは確認することができるであろう。そのような均等物は以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【実施例】
【0079】
実施例は、発明の具体的実施形態を説明するために示した。しかし、特許請求の範囲は、本明細書に示した実施例によっていかなる形であれ制限されない。これらに限定されることはないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、剤形及び/又は方法に関連することを含む開示実施形態へのさまざまな変更及び改良は、当業者には自明であり、本発明の趣旨及び添付した特許請求の範囲から逸脱しない範囲でなされてもよい。
【0080】
実施例1:式Ia及びIの化合物の合成
A.N-ヒドロキシ-2-((1-フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド (化合物1)
【化20】
【0081】
中間体2の合成:MBTE(3750ml)中の、中間体1、ベンゾニトリル(250g、1.0当量)、及びTi(OiPr)4(1330ml、1.5当量)の溶液を窒素雰囲気下で約-5~10°Cまで冷却した。EtMgBr (1610 ml、3.0 M、2.3当量)を60分間かけて滴下して加え、その間、反応の内部温度を5°C未満に維持した。反応混合物を1時間かけて15~20°Cまで加温した。BF3-エーテル (1300 ml、2.0当量)を60分間かけて滴下して加え、その間、反応の内部温度を15°C未満に維持した。反応混合物を15~20°Cで1~2時間撹拌し、残存するベンゾニトリルが低レベルになったときに停止した。内部温度を30℃以下に保ちながら、1N HCl(2500ml)を滴下した。NaOH (20%, 3000 ml)を滴下しながら加えてpHを約9.0にし、その間温度を30°C未満に維持した。反応混合物をMTBE(3L×2)及びEtOAc(3L×2)で抽出し、複合有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下(45°C未満)で濃縮して赤色油状物を得た。MTBE(2500ml)を油状物に添加し、透明な溶液を得て、乾燥HClガスでバブリングすると、固体が沈殿した。この固体をろ過し真空下で乾燥させ、143gの中間体2を得た。
【0082】
中間体4の合成:中間体2(620g、1.0当量)及びDIPEA(1080g、2.2当量)をNMP(3100ml)中に溶解し、20分間撹拌した。中間体3(680g、1.02当量)を添加し、反応混合物を85~95°Cで4時間加熱した。溶液を室温まで徐々に冷却した。この溶液をH2O(20L)に注ぎ入れ、強く撹拌しながら溶液から多量の固体を沈殿させた。混合物をろ過し、塊を減圧下、50°Cで24時間乾燥させ、896gの中間体4を得た(固体、86.8%)。
【0083】
N-ヒドロキシ-2-((1-フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド (化合物1)の合成:MeOHの溶液(1000ml)を撹拌しながら約0~5°Cまで冷却した。NH2OH HCl(1107g、10当量)を添加し、次いでNaOCH3(1000g、12.0当量)を慎重に加えた。得られた混合物を0~5°Cで1時間撹拌し、ろ過して固体を除去した。中間体4(450g、1.0当量)を反応混合物に一部添加し、10°Cで2時間、中間体4が消費されるまで撹拌した。反応混合物を、HCl(6N)の添加によりpH約8.5~9に調整すると、沈殿が生じた。混合物を減圧下で濃縮した。激しく撹拌しながら、残渣に水(3000ml)を添加し、ろ過によって沈殿を回収した。 生成物を、45°Cのオーブンで一晩乾燥させた(340g、収率79%)。
【0084】
B.N-ヒドロキシ-2-((2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)ベンジル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド (化合物3)の合成
【化21】
【0085】
中間体2の合成: 無水THF(15ml)中の、2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル(300mg、1.5mmol)の混合物に対して、LiAlH4(285mg、7.5mmol、固体)を氷温下でゆっくりと添加した。次いで、混合物を室温で一晩撹拌した。TLCで反応が完了したと判断された後、混合物を飽和NH4Clでクエンチし、EAで抽出した(1*20 ml)。有機層を乾燥させて濃縮すると、粗アミン中間体2(300mg、粗化合物)が淡黄色の油状物として得られた。
【0086】
中間体3の合成:NMP(8ml)中の、粗2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル)-メタンアミン(300mg)の溶液に対して、2-Cl-ピリミジン(272mg, 1.0当量)及びDIPEA(943mg、5.0当量)を添加した。混合物を115oCで2時間撹拌した。 混合物を水(10ml)で希釈し、EA(1*15 ml)で抽出し、乾燥させて濃縮し、残渣を得た。これを、prep-TLC PE/EA=3:1で精製し、淡黄色の固体として中間体3(200 mg、37.6%、2段階)を得た。
【0087】
N-ヒドロキシ-2-((2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)ベンジル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド (化合物3)の合成
MeOH/DCM(6/2ml)中のエチル2-(2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)ベンジルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレート(100mg、0.28mmol)の混合物に対して、NH2OH(0.5ml)を添加し、次いでNaOH溶液(MeoH中で飽和、1ml)を0°Cで滴下した。混合物を0°Cで3時間撹拌した。TLCで反応が完了したと判断された後、混合物を濃縮しMeOHとDCMを除去し、pH6~7付近まで酸性化し、prep-TLCで精製し、所望の生成物である化合物3を白色固体として得た(30mg、31%)。LCMS: m/z = 343 (M+H)+. 1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 11.03 (s, 1H), 8.99 (s, 1H), 8.61 (d, J = 17.4 Hz, 2H), 8.22 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 7.61 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 7.19 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 4.55 (d, J = 6.1 Hz, 2H), 3.91 (s, 3H)。
【0088】
実施例2: 2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物2)の合成
【化22】
【0089】
ステップ1:中間体2の合成:DMF(100ml)中、アニリン(3.7g、40mmol)、エチル2-クロロピリミジン-5-カルボキシレート1(7.5g、40mmol)、K2CO3(11g、80mmol)の混合物を脱気し、N2下で120°Cで一晩撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、EtOAc(200ml)で希釈し、その後飽和食塩水で洗浄した(200ml×3)。有機層を分離し、Na2SO4上で乾燥し、乾燥状態まで蒸発させ、シリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=10/1)で精製することによって所望の生成物を白色固体(6.2g、64%)として得た。
【0090】
ステップ2:中間体3の合成:TEOS(200ml)中、中間体2(6.2g、25mmol)、ヨードベンゼン(6.12g、30mmol)、CuI(955mg、5.0mmol)、Cs2CO3(16.3g、50mmol)の混合物を脱気し、窒素でパージした。得られた混合物を140℃で14時間撹拌した。室温まで冷却した後、残渣をEtOAc(200ml)及び95%EtOH(200ml)で希釈し、シリカゲル上のNH4F-H2O(50g、水(1500ml)中NH4F (100 g)をシリカゲル(500g、100-200メッシュ)に添加することによって前処理されたもの)を添加し、得られた混合物を室温で2時間維持し、固化した材料をろ過し、EtOAcで洗浄した。ろ液を乾燥状態まで蒸発させ、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=10/1)で精製して黄色固体(3g、38%)を得た。
【0091】
ステップ3:中間体4の合成: 2N NaOH(200 ml)を、EtOH(200ml)中の中間体3(3.0g、9.4mmol)の溶液に添加した。混合物を60°Cで30分間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、溶液を2N HClで中和し、白色沈殿を得た。懸濁液をEtOAc(2x200ml)で抽出し、有機層を分離し、水(2×100ml)、塩水(2×100ml)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を除去し、茶色の固体を得た(2.5g、92%)。
【0092】
ステップ4:中間体6の合成:中間体4(2.5g、8.58mmol)、アミノヘプタノエート5(2.52g、12.87mmol)、HATU(3.91g、10.30mmol)、DIPEA(4.43g、34.32mmol)の混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物をろ過した後、ろ液を乾燥状態まで蒸発させ、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=2/1)で精製し、茶色の固体を得た(2g、54%)。
【0093】
ステップ5:
2: 2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物2)の合成: 中間体6(2.0g、4.6mmol)、MeOH(50ml)中の水酸化ナトリウム(2N、20mL)及びDCM(25ml)の混合物を0°Cで10分間撹拌した。ヒドロキシアミン(50%)(10ml)を0°Cまで冷却し、混合物に加えた。得られた混合物を室温で20分間撹拌した。溶媒を除去した後混合物を1M HClで中和し、白色沈殿を得た。粗生成物をろ過し、pre-HPLCで精製して白色固体を得た(950mg、48%)。
【0094】
実施例3:HDAC酵素アッセイ
【0095】
試験化合物をDMSOで希釈して最終濃度の50倍と、10.3倍の希釈系列を作った。化合物をアッセイ緩衝剤(50mM HEPES、pH7.4、100mM KCl、0.001%Tween-20、0.05%BSA、20μM TCEP)で最終濃度の6倍に希釈した。HDAC酵素(BPS BioScienceから購入した)をアッセイ緩衝剤で最終濃度の1.5倍に希釈した。最終濃度0.05μMのトリペプチド基質とトリプシンをアッセイ緩衝剤で希釈し、最終濃度の6倍とした。これらのアッセイで使用した最終酵素濃度は、3.3ng/ml(HDAC1)、0.2ng/ml(HDAC2)、0.08ng/ml(HDAC3)及び、2ng/ml(HDAC6)であった。使用した最終基質濃度は、16μM(HDAC1)、10μM(HDAC2)、17μM(HDAC3)及び14μM(HDAC6)であった。5μlの化合物と20μlの酵素をオペーク384ウエルプレート(黒)のウエルに2回反復して加えた。酵素と化合物を共に室温で10分間インキュベートした。5μlの基質を各ウエルに加え、プレートを60秒間振とうし、Victor2マイクロタイタープレートリーダ内に置いた。蛍光の発生を60分間モニターし、線形反応速度を計算した。IC
50は、4つのパラメータ曲線フィットによるGraph Pad Prismを使って決定した。化合物1、2及び3のIC
50値を以下の表1に示す。
【表4】
【0096】
実施例4:HDAC6阻害は、培養ニューロンにおいて、高グルコース(高血糖)によって障害される軸索輸送を回復させる
【0097】
微小管ベースの軸索輸送は、正常なニューロン機能において中心的な役割を果たす。軸索輸送における機能欠損はSTZラットにおいて報告されており、軸索輸送の異常は、末梢神経の障害及び変性に寄与すると考えられている。HDAC6はチューブリンデアセチラーゼであり、様々な神経変性疾患及び末梢神経障害モデルにおいて、HDAC6阻害が正常な軸索輸送を回復させることが示されてきた。
【0098】
軸索輸送における高血糖の影響を調べるために、ライブイメージングを使用して初代培養ラット後根神経節細胞におけるミトコンドリア輸送を測定した。初代培養ラット後根 (Primary rat dorsal root ganglion:DRG)ニューロン(Lonza)を、Vendorのプロトコルに従って5~7日間培養した。イメージングセッションの前日に、細胞をCellLight Mitochondria-GFP(BacMam 2.0ベース試薬, ThermoFisher Scientific)を用いて、ミトコンドリア蛍光標識に感染させた。さらに、培地を、200mMのグルコース又は200mMのグルコース及び500mMの化合物2を含む培地で交換した。対照における培地は、25mMグルコース(対照)を含む新鮮な培地で交換した。細胞をこのような条件で24時間インキュベートした。ライブイメージングのために、細胞を、25mMグルコース、200mMグルコース又は200mMグルコース及び500mMの化合物2のいずれかを含むCO2非依存性培地で維持した。イメージングは、Zeissの3iシステム(Intelligent Imaging Innovations)を用いて、温度制御された環境で行った(37°C)。FITCフィルターを用いてミトコンドリアを可視化した。タイムラプス画像を2秒ごとに2分間取得し、Fiji (ImageJ)を用いて解析した。MtrackJプラグインを使用してミトコンドリアの移動を手動で追跡し、各ミトコンドリアの総移動距離などのパラメータを計算した。各条件におけるミトコンドリア集団が移動した総距離を累積頻度プロットとしてプロットした。 提示されるデータは、5回の独立した実験のプールである。
【0099】
高グルコースに暴露されたニューロンにおいては、累積頻度プロットのシフト(
図1A)及び総移動距離の平均値の低下(
図1B)によって表される通り、ミトコンドリア輸送が障害される。化合物2による処置により、ミトコンドリア移動の正常パターンが回復する。
【0100】
この研究は、高グルコースに暴露されたニューロンが、軸索輸送障害を示すこと及び化合物2による処置が、これらの障害をレスキューすることを示している(
図1A)。従って、化合物2は、糖尿病性末梢神経障害の有効な治療の選択肢として使用され得る。
【0101】
実施例5: HDAC6阻害は、STZ糖尿病ラットにおける神経因性疼痛を反転させる
化合物1、2及び3を、一般的な疼痛DPNのモデルであるストレプトゾトシン誘導性糖尿病ラット(STZラット)において、神経障害の回復能について試験した。両方の化合物が、STZラットにおいて、用量依存的に接触性アロディニアを反転させ、痛覚閾値を正常レベル付近まで回復させた。化合物1の場合、例えば、薬物治療の停止後でさえも痛覚閾値における薬物のプラスの効果がみられ、このことはDPNにおけるHDAC6阻害剤の進行抑制効果を示している。
【0102】
さらに、化合物1は血液脳関門を通過するが、化合物2はあまり血液脳関門を通過しない。
【0103】
雄のSDラットにおいて、試験日0~10日にSTZをIV投薬することにより、糖尿病を誘導した。STZ投薬後の試験3日目に、血中グルコースレベル(Blood glucose level:BGL)300mg/dlが観察され、これは試験期間中維持された。試験10日目において、すべての動物のvon Freyフィラメントに対する感受性を試験した。脱力閾値が減少を示した動物(両後肢の平均痛覚閾値≦43g)を研究に加え、治療群とした。
【0104】
動物に、1日2回8日間投薬した(例えば、化合物2を、11~21日目に、1日2回(BID)3、10及び30mg/kgを経口投与、並びに、化合物1を、11~21日目に、1日1回(QD)1、3及び10mg/kgを蛍光投与)。ガバペンチン(150mg/kg)を陽性対照として使用した。接触性アロディニアを、指定日(投薬中及び投薬停止の3日後である24日目に1度)に測定した。化合物1の投薬によるVon Frey試験の結果を
図2Aに示す。化合物2の投薬によるVon Frey試験の結果を
図2Bに示す。化合物3の投薬によるVon Freyテストの結果を
図2Cに示す。ビヒクルで処置した動物は、処置期間(11~21日及び最後の投薬から3日後である24日)を通じて、低い収縮閾値であった。化合物1、2及び3は、STZラットにおいて用量依存的に接触性アロディニアを反転させ、痛覚閾値をほぼ正常レベルまで回復させた(
図2A、2B及び2C)。さらには、化合物1の効果は断薬後でさえも持続した(
図2A、24日)。
【0105】
実施例6: 化合物2はニューロンにおいてチューブリンアセチル化を増進する
後根神経節ニューロン(DRGN: dorsal root ganglion neuron)を化合物2で24時間処置し、全細胞抽出物をウエスタンブロットで分析した。化合物2は、用量依存的にチューブリンのアセチル化の増大を誘導した。DRGNにおいて、最も少ないヒストンアセチル化の増大が観察されたのは、1μMまでの化合物2に対する応答においてである。化合物2は、ラットDRGNの全細胞溶解物においてチューブリン高アセチル化を誘導する(
図3A)。
【0106】
カバースリップ上でDRGNを化合物2で処理し、固定し、アセチル化チューブリンに対する抗体及び総チューブリンに対する抗体で染色(蛍光ICC)して可視化し、軸索微小管におけるチューブリンアセチル化を定量した。化合物2は、軸索微小管のアセチル化を増大させた(
図3B)。アセチル化チューブリンシグナルは、総チューブリンシグナルで標準化した。
【0107】
実施例7:HDAC6阻害剤は、汎用鎮痛剤として作用しない
処置後4時間の間、1時間ごとにテールフリック試験を実施した。化合物1又は2をテールフリック試験前4日間にわたってラットに投与した(BID群)。あるいは、化合物1又は2を試験の1時間前にラットに単回投与した(QD群)。
【0108】
データを、動物が熱源に応答して尾を動かすまでのレイテンシータイム(秒)として、
図4に示す。モルヒネ及びガパペンチンを陽性対照として使用した。化合物1及び化合物2での処置は、ビヒクル対照群と比較してレイテンシータイムの増大において有効ではなかった(化合物2で、4日間30mg/kg BIDを受けた群を除く)。
【0109】
化合物8: ラットの糖尿病性神経疼痛モデルにおける、HDAC6阻害剤である化合物1の代謝研究
代謝ストレスは、糖尿病に関連する多くの病態の根底にある。Freemanら (Freeman, O.J., Unwin, R.D., Dowsey, A.W., Begley, P., Ali, S., Hollywood, K.A., Rustogi, N., Petersen, R.S., Dunn, W.B., Cooper, G.J.S., Gardiner, N.J. (2016) “Metabolic Dysfunction is Restricted to the Sciatic Nerve in Experimental Diabetic Neuropathy” Diabetes 65) は、ストレプトゾトシンで処置して高血糖を誘導したラットにおいて、坐骨神経における代謝産物の変化が神経因性疼痛の増加と関連することを示した。
【0110】
ストレプトゾトシン(60mg/kg)を注射し、ラットにおいて高血糖を誘導した。10日後、接触性アロイディアについてvon Freyフィラメント試験を用いて神経疼痛を確認した。この試験においては、直径が増大するフィラメントを後肢足底面に適用し、足を引っ込める反応を引き起こすのに必要な力を、この応答を引き起こすのに必要な最も小さいフィラメントによって決定した。接触性アロディニアを確認した後、動物に化合物1を10mg/kg、1日2回投薬した。21日目(投薬開始から11日後)に、3つのビヒクル及び化合物1で処置した動物をサクリファイスし、後根神経節及び坐骨神経を両側から切断し、急速に凍結させた。さらに、対照サンプルとして、未処置ラット3匹と、10日目に接触性アロイディアを確認したラット3匹とをサクリファイスし、後根神経節及び坐骨神経を切断し、凍結させた。
【0111】
後根神経節及び坐骨神経を、代謝中間体の分析のため、Human Metabolome Technologiesに送付した。これらのサンプルからの抽出物を、キャピラリー電気泳動/マススペクトロメトリーによって分析し、荷電代謝産物のレベルを測定した。さらに、坐骨神経抽出物を液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリーによって分析し、非荷電代謝産物を測定した。
【0112】
全体として、坐骨神経サンプルでは、314の異なる代謝産物が同定され、81の代謝産物が定量された。後根神経節サンプルでは、242の代謝産物が同定され、83が定量された。いずれの組織においても、未処置のラットと比較して、糖尿病ラットにおいては、代謝産物の明確な定量的差異があった。例として、糖尿病の動物では、後根神経節組織においてソルビトールが大幅な増大が見られた。これは、Freemanら(2016)によって同様の動物モデルで報告されている。坐骨神経においては、糖尿病の動物では、リシンレベルの急激な減少が見られた。これも、同じくFreemanらによって報告されている。
【0113】
Freemanの論文に記載されている、代謝産物における最も劇的な変化は、アシルカルチニンを含む酸化脂肪酸の間で生じた。我々に研究においては、糖尿病ラットは、AC16:2(
図5A)及びAC18:2 (
図5B)を含む、数種のアシルカルチニンの有意な増大を示した。11日目における化合物1での処置により、アシルカルニチンにおける変化を含む、多くの代謝変化が正常化した。末梢神経におけるアシルカルニチン産生は軸索変性に関与しているため、このアシルカルニチン蓄積の反転は、HDAC6阻害による神経保護のひとつのメカニズムを表し得る(Viader, A., Sasaki, Y., Kim, S., Strickland, A., Workman, C.S., Yang, K., Gross, R.W., Milbrandt, J. (2014) “Abberant Schwann Cell Lipid Metabolism Linked to Mitochondrial Deficits Leads to Axon Degeneration and Neuropathy” Neuron 77(5))。
【0114】
本明細書中でされる実施例を鑑みると、式Ia、I及びIIのHDAC6阻害剤、例えば化合物1、2及び3をDPNの治療に使用することができる。