(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】機能性基材製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240326BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240326BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20240326BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240326BHJP
C01B 32/164 20170101ALI20240326BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
C01B32/158
H01M4/36 C
C01B32/164
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2022094428
(22)【出願日】2022-06-10
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】植田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】古木 賢一
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112981176(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1889290(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0228972(US,A1)
【文献】国際公開第2021/172077(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111740112(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106876705(CN,A)
【文献】特開2014-105125(JP,A)
【文献】特表2019-536210(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095509(WO,A1)
【文献】特開2008-166013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/45
C01B 32/158
H01M 4/36
C01B 32/164
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン及び遷移金属を少なくとも含む化合物の表面の少なくとも一部を起点としてナノ炭素を成長させる機能性基材製造方法であって、
前記化合物は平均粒子径が
10~50μmの粉粒体からなり、
前記化合物に対する前処理としてメカニカルミリング処理を行う前処理工程と、
前記前処理した前記化合物に還元用ガスを接触させる還元工程と、
前記還元用ガスに接触した前記化合物に炭化用ガスを接触させる炭化工程と、を含む機能性基材製造方法。
【請求項2】
前記化合物はリン酸鉄リチウムである請求項1に記載の機能性基材製造方法。
【請求項3】
前記メカニカルミリング処理は、遊星ボールミル装置を用い、クローム鋼製容器に前記化合物およびクローム鋼製ボールを投入し、不活性ガスを充填した後回転させる処理である、請求項
1又は2に記載の機能性基材製造方法。
【請求項4】
前記還元用ガスは水素であり、
前記炭化用ガスは低級炭化水素である請求項1から
3のいずれか1項に記載の機能性基材製造方法。
【請求項5】
前記還元用ガスの供給流量は40,000~80,000NL/kg/h、前記還元用ガスの加熱温度は300~1000℃であり、
前記炭化用ガスの供給流量は40,000~80,000NL/kg/h、前記炭化用ガスの加熱温度は300~1000℃である請求項1から4のいずれか1項に記載の機能性基材製造方法。
【請求項6】
前記還元工程は、反応装置が備える反応容器の上流側で実施され、
前記炭化工程は、前記反応容器の下流側で実施され、
前記反応装置は、
供給部と送出部との間の中間部を含む前記反応容器と、
前記中間部のうち上流側領域の温度及び前記中間部のうち下流側領域の温度を領域ごとに制御する温度制御部と、
前記反応容器に前記前処理した後の前記化合物を処理物として供給する供給部と、
前記反応容器に供給された前記処理物を前記反応容器の供給部側から前記中間部を通過して前記反応容器の送出部側に搬送する搬送装置と、
前記中間部の前記上流側領域を通過する前記処理物に接する前記還元用ガスを前記中間部の前記上流側領域に供給する還元用ガス供給部と、
前記中間部の前記下流側領域を通過する前記処理物に接する前記炭化用ガスを前記中間部の前記下流側領域に供給する炭化用ガス供給部と、を備える請求項1から5のいずれか1項に記載の機能性基材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性基材製造方法、機能性基材、二次電池、正極材、及び機能性基材製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉粒体状の処理物に対して所定の雰囲気を与えることにより所望の製品を製造するための反応装置が存在する。例えば一般には、ロータリーキルンと称される反応装置は、中心軸周りに回転する中空の反応容器を加熱し、この反応容器に材料を転動させながら通過させることにより所望の製品を製造する。また例えばローラーハースキルンと称される反応装置は、トンネル型の反応容器に処理物やワークを通過させることにより所望の製品を製造する。またその他にも種々の反応装置が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1は、以下の反応装置について開示している。反応装置は、圧力反応容器となるスクリュフィーダ本体と、スクリュフィーダ本体内に触媒を導入する触媒供給部と、スクリュフィーダ本体内に低級炭化水素を導入する低級炭化水素供給部と、を有する。またこの反応装置は、生成したナノ炭素を搬送するスクリュと、スクリュによって搬送される触媒とナノ炭素を送出する固体送出部と、生成した水素をフィーダ本体外に送出する気体送出部と、を有する。
【0004】
これに対して、本発明者らは、機能性基材の製造方法について検討した。機能性基材とは、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物(例えば、リン酸鉄リチウム)を主成分とした基材であって、その基材の表面を起点として成長したナノ炭素(例えば、1又は複数のカーボンナノチューブ)を含む機能性基材をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の反応装置においては、機能性基材の製造方法等について一切言及されていない。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態に係る機能性基材製造方法は、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物を主成分とした基材に還元用ガスを接触させる還元工程と、前記還元用ガスに接触した前記基材に炭化用ガスを接触させる炭化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、機能性基材製造方法、機能性基材、二次電池、正極材、及び機能性基材製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる反応装置の側面図である。
【
図2】実施の形態1にかかる反応装置のブロック図である。
【
図3】反応装置が実行する処理のフローチャートである。
【
図4】実施の形態2にかかる反応装置の側面図である。
【
図5】実施の形態3にかかる反応装置の側面図である。
【
図6】リチウムイオンバッテリー(本開示の二次電池の一例)の製造プロセスを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略、および簡略化がなされている。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0012】
<実施の形態1(参考例)>
図1を参照しながら、実施の形態1(参考例)にかかる反応装置の主な構成について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる反応装置10の側面図である。図に示す反応装置10は理解容易のために一部を切り取った状態で示している。
【0013】
反応装置10は、例えば粉粒体状の処理物に所定の物理的な刺激等の条件を与えることにより生成物を製造するための装置である。この反応装置10は、筒状の反応容器100、この反応容器100に処理物R10を供給する処理物供給部(供給口101)、この反応容器100に供給された処理物R10を反応容器100の供給部側から反応容器100の送出部側に搬送する搬送装置(スクリュ120)、この搬送される処理物に接する流体を反応容器100内に供給する流体供給部(第1流体入口131、第1流体出口132、第1バルブ134等)、反応容器100の温度を反応容器100の軸AX100方向の互いに異なる領域ごとに制御する温度制御部(温度制御領域110等)を備える。
なお、物理的な刺激とは、処理物を生成物に変化させる過程に用いる手段であれば特に限定されないが、例えば加熱や冷却のような温度変化である。物理的な刺激とは、例えば攪拌、混合、混練、粉砕のような応力伝達である。物理的な刺激とは、例えば電子やラジカルの授受を伴う反応である。物理的な刺激とは、例えば触媒との接触である。
【0014】
反応容器100内において、反応容器100の供給口101側に供給された処理物R10は反応容器100の送出口102側に搬送されながら加熱され、この搬送される処理物R10に接する所定の流体が反応容器100内に供給されることにより、処理物R10(処理物)が所定の温度で連続的に処理される。処理物とは、固体であってもよいし、流体であってもよいし、両方が混在したものであってもよい。なお、処理物を搬送しながら攪拌等するため、反応容器100自体が回転可能であってもよいし、反応容器100内に回転可能なスクリュ120を設けてもよい。
【0015】
なお、反応装置10において、反応容器100の数や構成は限定されるものではない。反応容器100は、例えば2以上の反応容器が直列もしくは並列して構成されていてもよい。この場合、各反応容器には、それぞれに処理物供給部、生成物送出部、駆動装置、搬送装置、温度制御部、流体供給部等が備えられていてもよい。
【0016】
処理物の種類や状態は特に制限されないが、リチウムを成分の一つに含む金属酸化物や金属硫化物のような無機物であってもよいし、炭化水素のような有機物であってもよい。処理物は粉粒体のような固体であってもよいし、液体や気体のような流体であってもよい。また、処理物は、生成物への変化の過程において、中間物を経てもよい。中間物の形態や状態は特に制限されない。中間物とは、例えば2以上の反応を段階的に行う場合の各反応における生成物であってもよい。その場合、中間物とは、例えば水和した化合物を加熱することにより生成する無水化合物である。あるいは、中間物とは、処理物の少なくとも一部が粒成長もしくは焼結した焼成体である。中間物とは、処理物の少なくとも一部が液化もしくは気化した状態である。中間物とは、上記以外の形態や状態であってもよい。
【0017】
また、生成物の種類や状態は特に制限されず、生成物は粉粒体のような固体であってもよいし、液体や気体のような流体であってもよい。生成物は触媒や搬送補助部材などの処理物以外の部材を含む混合体であってもよい。生成物は主生成物と副生成物のように、2以上の化合物を含む混合体であってもよい。
【0018】
また、処理物や生成物の形状や大きさは特に制限されないが、形状が塊状の場合の対角長さは、好ましくは0.01mm~50mmであり、さらに好ましくは0.5~20mmである。さらに、処理物や生成物の形状が塊状の場合、対角長さの比率(アスペクト比)は、好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1.3~1.8である。
【0019】
反応装置10は主な構成として、反応容器100、温度制御領域110、スクリュ120、第1流体制御領域130および第2流体制御領域140を有する。
【0020】
反応容器100は例えば筒状のシリンダであって、供給される処理物を受け入れる供給口101と、生成物の送出口102を有する。供給口101は本開示の処理物供給部の一例である。また反応容器100は、供給口側(供給口101)と送出口側(送出口102)との間に中間部を有する。
なお、反応容器100の形状や構成は特に限定されない。例えば、反応容器100の断面の形状は、円形や楕円形でもよいし、四角形等の多角形でもよいし、それら以外の形状であってもよい。例えば、反応容器100は1つの部材で構成されていてもよいし、2以上の部材が連結されていてもよい。2以上の部材が連結されている場合、例えば部材が連結される箇所にはボルトのような締結手段が用いられ得る。
反応容器100は、炉内において生成物を製造する際に生じる温度変化や、炉内に供給される物質(処理物等)や生成する物質(生成物等)との接触を許容可能な材質により形成される。反応容器100やスクリュ120は、例えば、合金、セラミックス、カーボン、およびそれらを2以上含む複合材により形成され得る。合金は、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、タングステン、タンタル、チタン、鉄、銅、アルミニウム、ケイ素、ホウ素、炭素などの合金元素のうち少なくとも一つを成分に含む金属部材である。セラミックスは、アルミナやジルコニアなどの酸化物、炭化ケイ素や炭化チタンなどの炭化物、窒化ケイ素や窒化チタンなどの窒化物、ホウ化クロムなどのホウ化物のようなセラミックス部材である。また、カーボンは、結晶質グラファイトや繊維強化グラファイトなどの炭素部材である。
【0021】
図1に示す反応装置10は、水平方向に横臥しており、左上端部に供給口101を有し、右下端部に送出口102を有する。
図1に示す反応容器100は、供給口101から処理物R10を受け入れる。反応装置10は、反応容器100の内部に設けられたスクリュ120を回転させることにより、反応容器100が受け入れた処理物R10を反応容器100の供給口101側から中間部A3を通過して反応容器100の送出口102側に搬送する。反応装置10は、反応容器100の中間部A3に処理物R10を通過させることにより処理物R10から生成物R11を製造する。そして反応容器100は、製造した生成物R11を送出口102から送出する。
【0022】
温度制御領域110は、温度制御装置、すなわち加熱装置または冷却装置を含み、供給口101と送出口102の間の中間部A3における所定の位置の反応容器の温度を制御する。温度制御領域110等が本開示の温度制御部の一例である。
図1に示す温度制御領域110は、反応容器100の中間部A3において筒状の反応容器100の周囲を囲むように加熱装置を有している。加熱装置は例えばシースヒータ、コイルヒータまたはセラミックヒータなどの温度制御可能な任意のヒータを含む。加熱装置は例えば常温から900度程度の範囲の加熱を行う。また温度制御領域110は、反応容器100の中間部A3の領域ごとに、後述するスクリュ120の軸AX
120方向に沿って、異なる温度を設定できる。例えば温度制御領域110は後述する第1流体制御領域130や第2流体制御領域140において処理物R10に与える温度を制御し得る。
【0023】
また温度制御領域110は、加熱装置または冷却装置を制御するための制御装置を含みうる。例えば温度制御領域110は、反応容器100の所定の位置に温度を監視するための温度計を有していてもよい。また反応容器100は、例えば加熱装置が電流を流すことにより加熱する原理を有する場合には、電流値を監視することにより温度制御を行ってもよい。
【0024】
なお、温度制御領域110は、例えば水やオイルを循環させることにより加熱または冷却を行う構成を有していてもよい。また温度制御領域110は例えばペルチェ素子などを用いて冷却を行う構成を有していてもよい。上述の構成により、温度制御領域110は、反応容器100においてスクリュ120の軸AX120方向に沿って種々の温度分布を設定できる。
【0025】
以上のように、温度制御領域110は、反応容器100(中間部A3)の温度を反応容器100の軸AX100方向の互いに異なる領域ごとに制御することができる。
【0026】
スクリュ120は、反応容器100の供給口101側から送出口102側に亘り延伸することにより、供給口101から供給された処理物R10を送出口102に向かって搬送可能に回転する。
図1に示すスクリュ120は、左右方向に延伸する軸の周囲に螺旋状の凸部121が形成されている。この凸部121が処理物R10と接触しながら回転することにより、スクリュ120は処理物R10を
図1の左側から右側へ向かって搬送する。本開示の搬送装置は、処理物や生成物を搬送可能とするものであれば、その形状や搬送方法は限られない。搬送装置は反応容器100の供給口101側から送出口102側にわたって延伸するように、反応容器100の内部に備えられたスクリュであってもよいし、搬送装置は反応容器100の供給口101側から送出口102側にわたって延伸するように反応容器100の内部に備えられたドラムであってもよい。搬送装置は反応容器100の供給口101側から送出口102側にわたって延伸するように反応容器100の内部に備えられたベルトコンベヤであってもよい。搬送装置は反応容器100の内部に備えられた送風装置であってもよい。搬送装置は反応容器100の内部に備えられた振動発生装置であってもよい。搬送装置は、上記以外であってもよい。
【0027】
搬送装置の大きさは特に制限されず、例えば、反応容器100の全長に比べて短くてもよい。搬送装置を形成する素材は特に制限されないが、搬送装置は、反応容器100と同様に、生成物を製造する際に生じる温度変化や、容器内に供給される物質との接触を許容可能な素材により形成されることが望ましい。搬送装置は、例えば、合金、セラミックス、カーボン、およびそれらを2以上含む複合材により形成され得る。
【0028】
なお、
図1に示す凸部121の形状は一例であって、凸部121の形状はこれに限られない。凸部121は、反応容器100の領域ごとに異なる形状を有していてもよい。より具体的には、例えば凸部121は螺旋のピッチが変化してもよい。また凸部121の螺旋形状は、1条ではなく、2条であってもよい。また凸部121は螺旋形状ではない部分を有していてもよい。これにより反応装置10は、反応容器100の内部に存在する物体の移動する速さや移動する際の挙動などを領域ごとに設定できる。より具体的には、例えば反応装置10は、反応容器100における物体を搬送、攪拌、混合、混練または粉砕する。
【0029】
スクリュ120は、反応容器100の両端部A1、A2においてそれぞれ軸支されている。また
図1に示すスクリュ120は、一端側B1において駆動装置150に接続(連結)している。駆動装置150が本開示の駆動装置の一例である。駆動装置150は、反応容器100の一端側A1に設けられたモータ151と、モータ151と反応容器100の一端側A1との間に設けられた減速機152と、を含む。この減速機152は、モータ151の回転軸に連結された入力軸と、スクリュ120の一端側B1に連結された出力軸と、を含み、モータ151の回転軸の回転を減速してスクリュ120に伝達することによりスクリュ120を回転させる。なお、駆動装置150は、スクリュ120の回転数を変速可能に設定されたものであってもよい。この場合、駆動装置150は、回転数が変動可能なモータであってもよいし、回転数が一定のモータと、減速比が変更可能な減速機とを組み合わせたものであってもよい。
【0030】
第1流体制御領域130は、中間部A3における所定の領域において反応容器100に第1流体を通過させるための第1流体入口131および第1流体出口132を含む。第1流体制御領域130は反応容器100において、供給口101と第2流体制御領域140との間に設けられている。第1流体入口131は第1流体供給管133に接続し、第1流体供給管133から供給される第1流体を反応容器100に供給する。なお、第1流体供給管133は第1流体の流量を調整するための第1バルブ134を含む。第1流体出口132は、第1流体制御領域130の流体を反応容器100の外へ排出するための孔である。
【0031】
上述の構成により、反応装置10は、第1流体制御領域130において処理物R10と第1流体とを反応させて中間物を生成する。また反応装置10は、反応後の流体を第1流体制御領域130の外へ排出する。また反応装置10は、スクリュ120が回転しながら処理物R10ないし生成物を搬送し、さらに第1流体を接触させることにより、第1流体による反応を促進できる。なお、第1流体は、流動性を有するものであれば、その状態や形態は制限されない。すなわち、第1流体は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、液体に粉粒体等が分散したスラリーであってもよい。第1流体を構成する成分は1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。
【0032】
第2流体制御領域140は、中間部A3における第1流体制御領域130とは異なる領域において第2流体を通過させるための第2流体入口141および第2流体出口142を含む。すなわち第2流体制御領域140は、第1流体制御領域130とは異なる領域において、第1流体制御領域130と同等の構成を有し得る。
【0033】
第2流体制御領域140は反応容器100において、第1流体制御領域130と送出口102との間に設けられている。第2流体入口141は第2流体供給管143に接続し、第2流体供給管143から供給される第2流体を反応容器100に供給する。なお、第2流体供給管143は第2流体の流量を調整するための第2バルブ144を含む。第2流体出口142は、第2流体制御領域140の流体を反応容器100の外へ排出するための孔である。
【0034】
上述の構成により、反応装置10は、第2流体制御領域140において第1流体制御領域130を通過した後の中間物と第2流体とを反応させて生成物R11を生成する。また反応装置10は、反応後の流体を第2流体制御領域140の外へ排出する。なお、第2流体は、流動性を有するものであれば、その状態や形態は制限されない。すなわち、第1流体は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、液体に粉粒体等が分散したスラリーであってもよい。第1流体を構成する成分は1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。
【0035】
以上、反応装置10の構成について説明したが、実施の形態1にかかる反応装置10は、上述の構成に限られない。例えば、スクリュ120は1以上であれば、2以上であってもよい。すなわち、反応装置10は、平行に配置された複数のスクリュ120を有してもよい。
【0036】
反応容器100のスクリュ120の軸と直交する平面における断面形状はルーローの定幅図形で定義される組合せを持つものであってもよい。この場合、スクリュ120の凸部121の断面形状は、ルーローの定副図形に対応した複数の円弧を組み合わせた形状を有する。例えば反応容器100の内部の断面形状が円形の場合には、スクリュ120の断面形状は、3つの円弧で構成されたルーロー定幅図形を有する。
【0037】
反応容器100は水平方向に平行に横臥するものに限らず、水平面に対して所定の角度を有し、反応容器100は斜面を有するものであってもよい。反応装置10は、中間部A3において第1流体制御領域130と第2流体制御領域140とを有しているが、さらに別の流体を通過させるための構成を有していてもよい。すなわち反応装置10は、3以上の流体制御領域を有していてもよい。なお、上述の反応装置10は、後述する制御装置により制御されている。
【0038】
次に、
図2を参照して、反応装置10の機能について説明する。
図2は、実施の形態1にかかる反応装置10のブロック図である。反応装置10は
図1において示した構成に加えて、制御装置200、温度制御装置210、第1流体制御装置230、第2流体制御装置240および情報入出力部250を有している。
【0039】
制御装置200は、CPU(Central Processing Unit)やMCU(Micro Controller Unit)等の演算装置を含む回路基板である。制御装置200は、温度制御装置210、第1流体制御装置230、第2流体制御装置240および情報入出力部250のそれぞれと通信可能に接続し、これの構成をそれぞれ制御する。制御装置200は回路基板に実装されたハードウェアおよびソフトウェアによりその機能を実現する。
【0040】
制御装置200は主な機能構成として、全体制御部201、温度制御部202、スクリュ回転制御部203、第1流体制御部204、第2流体制御部205、IF制御部206および記憶部207を有している。制御装置200が有するこれらの機能構成は、一体となったものであってもよいし、ディスクリートであってもよい。また制御装置200が有するこれらの機能構成は、別個の複数の装置が連動することにより実現されてもよい。
【0041】
全体制御部201は、制御装置200が有する各機能構成に接続し、これらの機能の全体の動作を制御する。例えば全体制御部201は、温度制御部202から供給される温度の状態に応じてスクリュ回転制御部203に動作の指示を出す、といった動作を行い得る。
【0042】
温度制御部202は、温度制御装置210に接続し、温度制御領域110における反応容器100の温度を制御する。温度制御部202は、加熱装置および冷却装置のうち少なくともいずれか一方を有している。また温度制御部202は、温度を制御するための1以上の温度計を有し得る。
【0043】
スクリュ回転制御部203は、駆動装置150に接続し、駆動装置150の動作を制御する。スクリュ回転制御部203は例えば駆動装置150が有するモータ(モータ151)を駆動するためのモータ駆動回路を有し得る。またスクリュ回転制御部203は、モータ(モータ151)の回転数を監視するための回転センサを有し得る。
【0044】
第1流体制御部204は、第1流体制御領域130における第1流体の流れを制御する。より具体的には、第1流体制御部204は第1流体制御装置230に接続し、第1流体制御装置230の動作を制御する。第1流体制御装置230は第1流体を圧送するための第1バルブ134を含む。第2流体制御部205は、第2流体制御領域140における第2流体の流れを制御する。より具体的には、第2流体制御部205は第2流体制御装置240に接続し、第2流体制御装置240の動作を制御する。第2流体制御装置240は第2流体を圧送するための第2バルブ144を含む。
【0045】
IF制御部206(IF=Interface)は、情報入出力部250に接続し、情報入出力部250を介してユーザとの情報交換を行うためのインタフェースである。すなわちIF制御部206は、情報入出力部250を介してユーザからの操作を受け付け、受け付けた操作にかかる情報を、制御装置200の各構成に適宜供給する。またIF制御部206は、情報入出力部250が有する表示部の状態を制御する。
【0046】
記憶部207は、フラッシュメモリやSSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリを含む記憶装置である。記憶部207は反応装置10が本開示における機能を実現するためのプログラムを格納している。また記憶部207は揮発性メモリを含み、制御装置200が動作する際に所定の情報を一時的に格納する。情報入出力部250は、例えばユーザからの操作を受け付けるためのボタン、スイッチまたはタッチパネル等を有する。また情報入出力部250は、ユーザに情報を提示するためのディスプレイ装置等を含む。
【0047】
以上、反応装置10の機能ブロックについて説明した。反応装置10は上述の構成により、受け入れた処理物R10をスクリュ120により搬送し、反応容器100の温度を制御し、第1流体制御領域130および第2流体制御領域140における雰囲気を制御する。
【0048】
次に、
図3を参照して、反応装置10が実行する生成物の製造方法(生成物製造方法)について説明する。
図3は、反応装置10が実行する処理のフローチャートである。
図3に示すフローチャートは、例えば反応装置10に対して処理物R10の供給を開始することにより開始する。
【0049】
まず、反応装置10は、供給口101から所定の処理物R10を受け入れる(ステップS11)。
【0050】
次に、反応装置10の制御装置200は、温度制御部202を介して、反応容器100の温度制御領域110の加熱装置または冷却装置を駆動することにより温度を制御する(ステップS12)。
【0051】
次に、反応装置10の制御装置200は、スクリュ回転制御部203を介して駆動装置150を駆動する。これにより駆動装置150はスクリュ120を回転させる。そしてスクリュ120は、受け入れた処理物R10を送出口102に向かって搬送する(ステップS13)。
【0052】
次に、反応装置10の制御装置200は、第1流体制御部204を介して、第1流体制御領域130に通流する第1流体の流れを制御する(ステップS14)。
【0053】
次に、反応装置10の制御装置200は、第2流体制御部205を介して、第2流体制御領域140に通流する第2流体の流れを制御する(ステップS15)。
【0054】
次に、反応装置10は、第2流体制御領域140を通過した生成物R11を送出口102から送出する(ステップS16)。
【0055】
以上、反応装置10が実行する反応方法について説明した。上述の方法は、反応装置10が処理物R10から生成物R11を製造し、製造した生成物R11を排出するまでの流れに沿って示されている。しかし、反応装置10は、例えばステップS12における温度制御を、ステップS11の前から実行していてもよい。また例えば反応装置10は、ステップS14とステップS15とを同時に開始してもよい。
【0056】
以上、実施の形態1(参考例)について説明した。なお、上述の反応装置10において、反応装置10は2つの流体制御領域(第1流体制御領域130および第2流体制御領域140)を有しているが、反応装置10が有する流体制御領域の数は1でもよいし3以上であっても良い。また反応装置10は、スクリュ120の軸AX120方向に沿って複数の温度制御領域110を有していても良い。上述の反応装置10は、供給口101から受け入れた処理物R10に対して、中間部A3において複数の流体を別個に接触させる。また反応装置10は、中間部A3において、スクリュ120の軸AX120方向に沿って、反応容器100の温度制御を行う。さらに反応装置10は、反応容器10に供給された処理物等を搬送しながら、所定の物理的な刺激を与えることができる。また、反応装置10は処理物等に所定の物理的刺激を与えるため、複数の反応装置10を直列もしくは並列に接続する構成としてもよい。反応装置10は上述の雰囲気制御、温度制御および物理制御を、同時に、且つ、精度よく行うことができる。よって、実施の形態1によれば、所望の製品を効率よく製造する反応装置等を提供することができる。
【0057】
<実施の形態2>
次に、実施の形態2として、
図4を参照しながら、機能性基材(機能性活物質)の製造に用いられる反応装置10Aについて説明する。
図4は、実施の形態2にかかる反応装置の側面図である。以下、反応装置10Aについて、実施の形態1(参考例)の反応装置10との相違点を中心に説明する。なお、実施の形態1(参考例)の反応装置10と同一の構成については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0058】
図4に示すように、第1流体制御領域130Aは、中間部A3のうち上流側領域に対応して設けられ、当該上流側領域(第1流体制御領域130A)において反応容器100に還元用ガスを通過させるための還元用ガス入口131Aおよび還元用ガス出口132Aを含む。なお、本開示において、上流および下流とは、下記のように定義する。すなわち、供給口101から送出口102までの経路における任意の位置であるA点において、A点から見て供給口101に近い位置を上流の位置とし、A点から見て送出口102に近い位置を下流の位置と定義する。また、上流側とはA点から見て上流の方面を指し、下流側とはA点から見て下流の方面を指す。第1流体制御領域130Aは反応容器100において、供給口101と第2流体制御領域140Aとの間に設けられている。還元用ガス入口131Aは還元用ガス供給源が接続された還元用ガス供給管133Aに接続し、還元用ガス供給管133Aから供給される還元用ガスを反応容器100に供給する。なお、還元用ガス供給管133Aは還元用ガスの流量を調整するための第1バルブ(図示せず)を含む。還元用ガス出口132Aは、第1流体制御領域130Aの還元用ガスを反応容器100の外へ排出するための孔で、還元用ガス吸引管134Aに接続されている。
【0059】
第2流体制御領域140Aは、中間部A3のうち下流側領域に対応して設けられ、当該下流側領域(第2流体制御領域140A)において反応容器100に炭化用ガスを通過させるための炭化用ガス入口141Aおよび炭化用ガス出口142Aを含む。すなわち第2流体制御領域140Aは、第1流体制御領域130Aとは異なる領域において、第1流体制御領域130Aと同等の構成を有し得る。
【0060】
第2流体制御領域140Aは反応容器100において、第1流体制御領域130Aと送出口102との間に設けられている。炭化用ガス入口141Aは炭化用ガス供給管143Aに接続し、炭化用ガス供給管143Aから供給される炭化用ガスを反応容器100に供給する。なお、炭化用ガス供給管143Aは炭化用ガスの流量を調整するための第2バルブ(図示せず)を含む。炭化用ガス出口142Aは、第2流体制御領域140Aの炭化用ガスを反応容器100の外へ排出するための孔で、炭化用ガス吸引管144Aに接続されている。
【0061】
また、第1流体制御領域130Aと第2流体制御領域140Aとの間には、還元用ガス出口160が設けられている。還元用ガス出口160は、第1流体制御領域130Aからの還元用ガス及び第2流体制御領域140Aからの還元用ガスを反応容器100の外へ排出するための孔で、還元用ガス吸引管161に接続されている。
【0062】
還元用ガス入口131Aが本開示の還元用ガス供給部の一例である。また、炭化用ガス入口141Aが本開示の炭化用ガス供給部の一例である。
【0063】
次に、還元用ガスの経路について説明する。
【0064】
上記構成の反応装置10Aにおいては、還元用ガス入口131Aから供給される還元用ガスの一部は、還元用ガス吸引管134Aが接続された還元用ガス出口132A側に吸引され、当該還元用ガス出口132A及びこれに接続された還元用ガス吸引管134Aを介して強制的に反応容器100の外へ排出される。これにより、第1流体制御領域130Aにおいて還元用ガス入口131Aから還元用ガス出口132Aに向かう還元用ガス流(
図4中矢印AR1参照)が発生する。
【0065】
また、還元用ガス入口131Aから供給される還元用ガスの他の一部は、還元用ガス吸引管161が接続された還元用ガス出口160側に吸引され、当該還元用ガス出口160及びこれに接続された還元用ガス吸引管161を介して強制的に反応容器100の外へ排出される。これにより、第1流体制御領域130Aにおいて還元用ガス入口131Aから還元用ガス出口160に向かう還元用ガス流(
図4中矢印AR2参照)が発生する。
【0066】
上記還元用ガス流(
図4中矢印AR1、AR2参照)は、温度制御領域110が反応容器100を加熱することにより、所定温度に制御される。そして、この所定温度に制御された還元用ガス流が、後述のように第1流体制御領域130Aを通過する処理物(例えば、LiFePO
4)に接することになる。
【0067】
次に、炭化用ガスの経路について説明する。
【0068】
上記構成の反応装置10Aにおいては、炭化用ガス入口141Aから供給される炭化用ガスの一部は、炭化用ガス吸引管144Aが接続された炭化用ガス出口142A側に吸引され、当該炭化用ガス出口142A及びこれに接続された炭化用ガス吸引管144Aを介して強制的に反応容器100の外へ排出される。これにより、第2流体制御領域140Aにおいて炭化用ガス入口141Aから炭化用ガス出口142Aに向かう炭化用ガス流(
図4中矢印AR3参照)が発生する。
【0069】
また、炭化用ガス入口141Aから供給される炭化用ガスの他の一部は、還元用ガス吸引管161が接続された還元用ガス出口160側に吸引され、当該還元用ガス出口160及びこれに接続された還元用ガス吸引管161を介して強制的に反応容器100の外へ排出される。これにより、第2流体制御領域140Aにおいて炭化用ガス入口141Aから還元用ガス出口160に向かう炭化用ガス流(
図4中矢印AR4参照)が発生する。
【0070】
上記炭化用ガス流(
図4中矢印AR3、AR4参照)は、温度制御領域110が反応容器100を加熱することにより、所定温度に制御される。そして、この所定温度に制御された炭化用ガス流が、後述のように第2流体制御領域140Aを通過する処理物(例えば、後述の還元工程実施後のLiFePO
4)に接することになる。
【0071】
また、後述のように第2流体制御領域140Aにおける炭化工程で発生した還元用ガス(水素)は、還元用ガス吸引管161が接続された還元用ガス出口160側に吸引され、当該還元用ガス出口160及びこれに接続された還元用ガス吸引管161を介して強制的に反応容器100の外へ排出される。これにより、第2流体制御領域140Aにおいて炭化用ガス入口141Aから還元用ガス出口160に向かう還元用ガス流(
図4中矢印AR4参照)が発生する。この還元用ガス出口160から排出される還元用ガスは、還元用ガス入口131Aから再度反応容器100内に供給して再利用してもよい。
【0072】
<機能性基材の製造方法>
次に、
図4を参照しながら、上記反応装置10Aを用いて機能性基材を製造する方法について説明する。機能性基材とは、例えば少なくともリン及び遷移金属を含む化合物(例えば、リン酸鉄リチウム)を主成分とした基材であって、その基材の表面の少なくとも一部を起点として成長したナノ炭素(例えば、1又は複数のカーボンナノチューブ)を含む機能性基材をいう。なお、本開示において遷移金属は、周期表において遷移金属に属する元素、すなわち周期表の第3族から第11族に属する元素であれば、元素の種類は特に限定されるものではない。遷移金属は、例えば鉄であっても良いし、コバルトであっても良いし、ニッケルであっても良い。化合物に含まれる遷移金属の種類は、1でも良いし、2以上あっても良い。すなわち、化合物には、例えば鉄とニッケルが所定の割合で含まれていても良い。
【0073】
また、本開示においてナノ炭素とは、炭素を主成分とした材料であって、材料の直径もしくは短辺の大きさが1000ナノメートル以下のものである。ナノ炭素は、例えばカーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、カーボンブラック、フラーレン等であっても良い。
【0074】
以下、機能性基材として、リン酸鉄リチウムを主成分とした基材であって、その表面を起点として成長したカーボンナノチューブを含む機能性基材(C~LiFePO4)を製造する方法について説明する。
【0075】
C~LiFePO
4のうち「C~」は、LiFePO
4の表面(主に後述の還元工程を経て活性化された表面)を起点として成長した(主に後述の炭化工程を経て成長した)カーボンナノチューブ(1又は複数)を表す(
図4中右下の「生成物」参照)。すなわち、C~LiFePO
4の表記は、本開示を説明する上において、リン酸鉄リチウムを主成分とした基材の表面にカーボンナノチューブが成長した状態を表現するため、便宜上用いている。なお、基材は、その表面にナノ炭素が生成可能であれば、基材の形状、形態、化学成分、化学組成および結晶構造は特に限定されない。基材の形状は例えば球形であっても良いし、塊状であっても良いし、板状であっても良い。基材の形態は例えば粉粒体であっても良い。基材は例えば複数の物質が接合した形態であっても良い。また、基材は、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物と化学成分や化学組成が同じであっても良い。すなわち、基材は少なくともリン及び遷移金属を含む化合物であっても良い。基材は例えばLiFePO
4であっても良い。
【0076】
まず、機能性基材(C~LiFePO4)の製造方法を実施する前提条件について説明する。
【0077】
以下、処理物として、リン酸鉄リチウム(例えば、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウム)を主成分とした基材を用いる。以下、LiFePO4又はLFPと記載する。基材の形状は特に限定されないが、粉粒体であることが望ましい。基材の形状が粉粒体である場合、平均粒子径は500μm以下であることが望ましく、1~200μmであることがより望ましく、10~50μmであることが更に望ましい。基材の平均粒子径が上記の範囲内であることにより、炭化反応が効率よく進行し得る。なお、平均粒子径は、例えばレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所製のPartica LA-960V2)による測定において計測される値としても良い。
【0078】
また、還元用ガスとして水素を用いることが好ましい。以下、水素をH2と記載する。なお、還元用ガスは、還元性を有するものであれば水素に限るものではない。還元用ガスは、例えば一酸化炭素であっても良い。
【0079】
また、炭化用ガスとして低級炭化水素であるメタンを用いることが好ましい。以下CH4と記載する。なお、炭化用ガスは、炭化性を有するものであればメタンに限るものではない。炭化用ガスは、例えばプロパンであっても良い。
【0080】
還元用ガス入口131Aから反応容器100(第1流体制御領域130A)へのH2の供給流量(空間速度:SV値(Space Velocity))は、80,000NL/kg/h以下の条件で供給することが望ましく、40,000~80,000NL/kg/hの条件で供給することがより望ましい。なお、NLは供給する水素の容積(ノルマルリューベ)、/kgはリン酸鉄リチウムを主成分とした基材の単位重量(毎キログラム)、/hは水素を供給する単位時間(毎時)を表す。
【0081】
中間部A3のうち上流側領域(第1流体制御領域130A)の好ましい加熱温度は300~1000℃である。上流側領域(第1流体制御領域130A)における反応をより円滑にするため、中間部A3のうち上流側領域(第1流体制御領域130A)のより好ましい加熱温度は、500℃~700℃であり、さらに好ましくは、650℃である。なお、本開示において、加熱温度とは温度制御領域における加熱装置の温度であって、加熱装置の温度とは加熱装置に付属した熱電対等の温度測定手段により測定された温度である。
【0082】
一方、炭化用ガス入口141Aから反応容器100(第2流体制御領域140A)への低級炭化水素(ここでは、CH4)の供給流量(空間速度:SV値(Space Velocity))は、メタン換算で、80,000NL/kg/h以下の条件で供給することが望ましく、40,000~80,000NL/kg/hの条件で供給することがより望ましい。なお、NLは供給するメタンの容積(ノルマルリューベ)、/kgはリン酸鉄リチウムの単位重量(毎キログラム)、/hはメタンを供給する単位時間(毎時)を表す。なお、SV値が40,000NL/kg/h未満であると、炭化反応が十分に得られなくなる。また、SV値が80,000NL/kg/hを超えると、転化率が低下し、反応効率が悪くなる。
【0083】
中間部A3のうち下流側領域(第2流体制御領域140A)の好ましい加熱温度は300~1000℃である。下流側領域(第2流体制御領域140A)における反応をより円滑にするため、中間部A3のうち下流側領域(第2流体制御領域140A)のより好ましい加熱温度は、600℃~800℃であり、さらに好ましくは、750℃である。
【0084】
C~LiFePO4の製造方法は、以上を前提として実施される。
【0085】
まず、処理物として、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物を主成分とした基材(ここでは粉粒体状のLiFePO4)を用意し、供給口101から反応容器100内の供給口101側に供給する(ステップS20)。この反応容器100内の供給口101側に供給されたLiFePO4は、回転されるスクリュ120により、反応容器100の供給口101側から中間部A3を通過して反応容器100の送出口102側に搬送される。この搬送速度は、反応を十分に行うという観点から、生産性を損なわない程度に遅く設定することが望ましい。例えば、搬送速度は、10メートル毎時以下とすることが望ましく、5メートル毎時以下とすることがより望ましく、1メートル毎時以下とすることがさらに望ましい。
なお、LiFePO4は予め所定の前処理が行われていても良い。前処理とは、例えばメカニカルミリング処理である。前処理とは、例えばジェットミリング処理である。前処理とは、例えば無電解めっき処理である。前処理とは、LiFePO4の少なくとも一部を非晶質化する処理であって、上記以外の処理である。前処理とは、LiFePO4の少なくとも一部に遷移金属を付着させる処理であって、上記以外の処理である。なお、メカニカルミリング処理は、例えば遊星ボールミル装置を用い、クローム鋼製容器にLiFePO4および直径5mmのクローム鋼製ボールを投入し、不活性ガスとしてアルゴンガスを充填した後、回転数500rpmにおいて24時間遊星回転させる処理としても良い。ジェットミリング処理は、例えば湿式ジェットミル装置を用い、イソプロピルアルコールにLiFePO4と少量の鉄粉末を分散させたスラリーをジェットミル流路において10回循環させる処理としても良い。このようにLiFePO4に所定の前処理を行うことで、LiFePO4を主成分とした基材を製作しても良い。
【0086】
次に、中間部A3のうち上流側領域(第1流体制御領域130A)において、還元工程が実施される(ステップS21)。この還元工程においては、還元用ガス入口131Aから第1流体制御領域130Aに供給されるH
2(
図4中矢印AR1、AR2参照)が、当該第1流体制御領域130Aを通過する基材(ここではLiFePO
4を主成分とした基材)に直接接することにより、当該第1流体制御領域130Aを通過する基材の少なくとも一部が還元される。なお、還元用ガス入口131Aから供給されるH
2(
図4中矢印AR1、AR2参照)により基材(ここではLiFePO
4を主成分とした基材)の周囲の雰囲気等が還元され、この還元された雰囲気等を介して間接的に基材が還元される場合もある。このように、本開示の「基材に還元用ガスを接触させる還元工程」とは、還元用ガス(ここではH
2)によって基材が直接的に還元される場合だけでなく、還元用ガス(ここではH
2)によって基材が間接的に還元される場合も含む。
【0087】
その後、中間部A3のうち下流側領域(第2流体制御領域140A)において、炭化工程が実施される(ステップS22)。この炭化工程においては、炭化用ガス入口141Aから第2流体制御領域140Aに供給されるCH
4(
図4中矢印AR3、AR4参照)が、当該第2流体制御領域140Aを通過する、還元工程実施後の基材(ここではLiFePO
4を主成分とした基材)に接することにより、LiFePO
4 + CH
4 → C~LiFePO
4 + 2H
2の反応が生じ、C~LiFePO
4及びH
2が生成される。
【0088】
これらのステップにより生成された生成物であるC~LiFePO4は、送出口102から反応容器100外部に排出され回収される。一方、ステップS22で生成されたH2は還元用ガス出口160から反応容器100外部に排出され還元用ガス入口131Aから再び反応容器100内部に供給される。
【0089】
以上説明したように、実施の形態2によれば、機能性基材、すなわち、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物(例えば、リン酸鉄リチウム)を主成分とした基材であって、その表面を起点として成長したナノ炭素(例えば、1又は複数のカーボンナノチューブ)を含む基材を製造することができる。
【0090】
<実施の形態3>
次に、実施の形態3として、
図5を参照しながら、機能性基材の製造に用いられる反応装置10Bについて説明する。
図5は、実施の形態3にかかる反応装置の側面図である。以下、反応装置10Bについて、実施の形態2の反応装置10Aとの相違点を中心に説明する。なお、実施の形態2の反応装置10Aと同一の構成については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、説明の都合上、
図5において、実施の形態2の反応装置10A及び実施の形態3の第2反応装置10Aは簡略して描いてある。
【0091】
図5に示すように、反応装置10Bは、実施の形態1の反応装置10と実施の形態2の反応装置10Aを組み合わせて構成される。以下、実施の形態1の反応装置10を第1反応装置10と記載し、実施の形態2の反応装置10Aを第2反応装置10Aと記載する。具体的には、第1反応装置10の送出口102と第2反応装置10Aの供給口101とが連結されている。
【0092】
第1反応装置10は、中間物LiFePO4を製造する。
【0093】
次に、この反応装置10Aを用いて中間物LiFePO4を製造する方法について説明する。
【0094】
まず、中間物LiFePO4の製造方法を実施する前提条件について説明する。
【0095】
以下、処理物として、Li3PO4、Fe3(PO4)2・8H2Oを用いる。ただし、中間物LiFePO4を製造可能な化合物であれば、処理物は上記に限られない。
【0096】
第1反応装置10の中間部A3の加熱温度は例えば400℃である。また、第1反応装置10の反応容器100内にはH2が供給されるものとする。
【0097】
中間物LiFePO4の製造方法は、以上を前提として実施される。
【0098】
まず、処理物であるLi3PO4、Fe3(PO4)2・8H2O を第1反応装置10の供給口101から第1反応装置10の反応容器100内の供給口101側に供給する。この反応容器100内の供給口101側に供給されたLi3PO4、Fe3(PO4)2・8H2O は、回転される第1反応装置10のスクリュ120により、第1反応装置10の反応容器100の供給口101側から中間部A3を通過してこの反応容器100の送出口102側に搬送される。
【0099】
その際、第1反応装置10の中間部A3において、第1反応装置10の反応容器10内に供給されるH2が、当該中間部A3を通過するLi3PO4、Fe3(PO4)2・8H2O に接することにより、所定の反応が生じ、中間物LiFePO4が生成される。
【0100】
この生成された中間物LiFePO4は、第1反応装置10の送出口102及び第2反応装置10Aの供給口101から第2反応装置10Aの反応容器100内の供給口101側に供給される。
【0101】
以後、第2反応装置10Bにおいて上記実施の形態2で説明したC~LiFePO4の製造方法が実施される。これにより、生成物であるC~LiFePO4が生成される。この生成された生成物であるC~LiFePO4は、第2反応装置10Bの送出口102から第2反応装置10Bの反応容器100外部に排出され回収部に回収される。
【0102】
以上説明したように、実施の形態3によれば、機能性基材、すなわち、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物(例えば、リン酸鉄リチウム)を主成分とした基材であって、その表面を起点として成長したナノ炭素(例えば、1又は複数のカーボンナノチューブ)を含む基材を製造することができる。
【0103】
<実施の形態4>
次に、実施の形態4として、
図6を参照しながら、リチウムイオンバッテリー(本開示の二次電池の一例)の製造プロセスについて説明する。
図6は、リチウムイオンバッテリー(本開示の二次電池の一例)の製造プロセスを表す図である。
【0104】
図6に示すように、リチウムイオンバッテリーの製造プロセスは、C~LiFePO
4製造工程、混練工程、塗工工程、積層工程を含み、これらの工程を経て最終的にリチウムイオンバッテリーが製造される。
【0105】
C~LiFePO4製造工程は、上記実施の形態2の反応装置10A又は上記実施の形態3の反応装置10Bを用いてC~LiFePO4を製造する工程である。
【0106】
混練工程は、C~LiFePO4工程で製造されたC~LiFePO4にバインダーを加えて、二軸混練押出機等を用いて混練することによりC~LiFePO4を含むスラリー(分散液)を製造する工程である。
【0107】
塗工工程は、混練工程で製造されたC~LiFePO4を含むスラリーを、ダイコーター等を用いて集電体に塗布する工程である。このC~LiFePO4を含むスラリーが塗布された集電体が正極(正極材)である。
【0108】
積層工程は、塗工工程で製造された正極(正極材)、電解質、負極等を、ラミネートプレス機等を用いてまとめて積層する工程である。
【0109】
以上の工程を経て、リチウムイオンバッテリーが製造される。
【0110】
次に、C~LiFePO4を用いる利点について説明する。
【0111】
一般的に、二次電池においては、電子の授受を円滑に行うために、LiFePO4に加えてカーボンナノチューブが用いられる。通常、カーボンナノチューブは、LiFePO4と別体であるため、両者間には、多数の隙間が存在する。そのため、電子の授受をさらに円滑に行うことが難しい。
【0112】
これに対して、上記実施の形態2の反応装置10A又は上記実施の形態3の反応装置10Bにより製造されるC~LiFePO
4は、その表面(主に還元工程を経て活性化された表面)を起点として成長した(主に炭化工程を経て成長した)カーボンナノチューブ(1又は複数)を含む(
図4中右下の「生成物」参照)。つまり、上記実施の形態2の反応装置10A又は上記実施の形態3の反応装置10Bにより製造されるC~LiFePO
4においては、カーボンナノチューブ(1又は複数)がLiFePO
4の表面に密着しており、両者間に隙間が存在しない。そのため、このC~LiFePO
4を二次電池に用いた場合、電子の授受をさらに円滑に行うことが可能となる。これにより、二次電池の性能をさらに向上させることが可能となる。例えば、二次電池のさらなる小型化及び大容量化が可能となる。
【0113】
なお、C~LiFePO4は、液系のリチウムイオン電池の正極材だけでなく、例えば、全固体電池(例えば、硫化物系全固体リチウムイオン電池)の正極、固体電解質、正極と電解質との間の中間層等の少なくとも一部にも適用してもよい。
【0114】
次に、変形例について説明する。
【0115】
上記実施の形態2、3では、処理物として、リン酸鉄リチウムを用いた例について説明したが、これに限らない。例えば、処理物として、リン酸鉄ナトリウムを用いてもよい。すなわち、処理物は、少なくともリン及び遷移金属を含む化合物(例えば、正極活性物質)を主成分とした基材であればよい。
【0116】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0117】
10…反応装置(第1反応装置)
10A…反応装置(第2反応装置)
100…反応容器
101…供給口
102…送出口
110…温度制御領域
120…スクリュ
121…凸部
130…第1流体制御領域
130A…第1流体制御領域
131…第1流体入口
131A…還元用ガス入口
132…第1流体出口
132A…還元用ガス出口
133…第1流体供給管
133A…還元用ガス供給管
134…第1バルブ
134A…還元用ガス吸引管
140…第2流体制御領域
140A…第2流体制御領域
141…第2流体入口
141A…炭化用ガス入口
142…第2流体出口
142A…炭化用ガス出口
143…第2流体供給管
143A…炭化用ガス供給管
144…第2バルブ
144A…炭化用ガス吸引管
150…駆動装置
151…モータ
152…減速機
160…還元用ガス出口
161…還元用ガス吸引管
200…制御装置
201…全体制御部
202…温度制御部
203…スクリュ回転制御部
204…第1流体制御部
205…第2流体制御部
206…IF制御部
207…記憶部
210…温度制御装置
230…第1流体制御装置
240…第2流体制御装置
250…情報入出力部
R10…処理物
R11…生成物