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特許7460726サブライブラリを用いた参照データセットに基づく細胞基質のスペクトル特性評価
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】サブライブラリを用いた参照データセットに基づく細胞基質のスペクトル特性評価
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240326BHJP
   C12Q 1/14 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240326BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/14
G01N27/62 D
G01N27/62 V
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022167857
(22)【出願日】2022-10-19
(65)【公開番号】P2023075912
(43)【公開日】2023-05-31
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】10 2021 130 356.7
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521444446
【氏名又は名称】ブルカー ダルトニクス ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カトリン,シュパビーア
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-501137(JP,A)
【文献】特表2017-502658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0009029(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0163369(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0202282(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/92
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検細胞基質をスペクトル分析学的に特性評価するための方法であって、
複数の参照データセットを含むライブラリを提供しまたは作成することであって、各参照データセットが細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを含む、前記提供しまたは作成することと、
第1調製後の前記被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データを提供しまたは作成することと、
前記第1のスペクトル測定データまたはそれから得られたデータを、前記ライブラリと比較して第1のマッチング結果を決定することであって、マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む、前記決定することと、
前記第1のマッチング結果が前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価された前記ライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリを提供しまたは作成することと、
前記第1調製の条件と同一でない条件で、少なくとも第2調製後に前記被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データを提供しまたは作成することと、
第2マッチング結果を決定するために、前記第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータと前記サブライブラリとを比較することと、
前記第2マッチング結果を用いて前記被検細胞基質の特性を決定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記分類学的分類が、属、種、亜種および変種もしくは血清型からなる群から選択される分類への前記被検細胞基質の帰属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被検細胞基質が、微生物、好ましくは細菌、より好ましくは腸内細菌科の細菌を含むか、またはそれからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1調製および第2調製が、前記被検細胞基質の増殖工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2調製が増殖影響因子の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1調製が、増殖影響因子を使用しない増殖対照として実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記参照データセットが、スペクトルまたはスペクトル由来のn組のデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
決定される前記特性が、前記被検細胞基質の増殖影響因子に対する感受性および/または耐性を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
決定される前記特性が、前記被検細胞基質に対する前記増殖影響因子の最小発育阻止濃度(MIC)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと前記第1のマッチング結果が評価された参照データセットが、前記サブライブラリの提供または作成において除外される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると前記第1のマッチング結果が評価された前記ライブラリからの参照データセットを含む前記サブライブラリが、第1のサブライブラリであり、
前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと前記第1のマッチング結果が評価された前記ライブラリからの参照データセットを含む第2のサブライブラリが提供または作成され、
第3マッチング結果を決定するために、前記第2調製のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータが前記第2のサブライブラリと比較され、
第3マッチング結果を用いて前記被検細胞基質の特性が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データおよび/または第2のスペクトル測定データの提供または作成が、質量スペクトル分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1調製および前記第2調製に加えて、前記被検細胞基質の追加の調製が、前記第1調製または前記第2調製または相互の条件と同一ではない条件で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1調製および/または前記第2調製が、スペクトル測定データを提供しまたは作成するための基質として機能する試料支持台上で直接実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記被検細胞基質が、腸内細菌科の細菌を含むか、またはそれからなり、
前記第1調製および第2調製が増殖工程を含み、
前記第2調製が増殖影響因子の存在下で実施され、
前記第1調製が、増殖影響因子を使用しない増殖対照として実施され、
前記分類学的分類が、属、種、亜種および変種もしくは血清型からなる群から選択される分類への前記被検細胞基質の帰属を含み、
前記参照データセットが、スペクトルまたはスペクトル由来のn組のデータを含み、
決定される前記特性が、抗菌物質として選択される前記増殖影響因子に対する前記被検細胞基質の感受性および/または耐性を含み、
前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと前記第1のマッチング結果が評価された参照データセットが前記サブライブラリの前記提供または作成において除外され、
前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると前記第1のマッチング結果が評価された前記ライブラリからの参照データセットを含む前記サブライブラリが第1のサブライブラリであり、前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと前記第1のマッチング結果が評価された前記ライブラリからの参照データセットを含む第2のサブライブラリが提供または作成され、第3マッチング結果を決定するために、前記第2調製のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータが前記第2のサブライブラリと比較され、
前記第3マッチング結果が、前記被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと評価され、
前記被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データおよび/または第2のスペクトル測定データの前記提供または作成が、質量スペクトル分析を含む、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、提供されたライブラリからの測定データセットに基づく細胞基質の分類学的分類に適した参照データセットを含むサブライブラリの作成によって細胞基質の関心のある特性をスペクトル特性評価するための方法であって、被検細胞基質の特性を決定するために、スペクトル測定データと、ライブラリおよびかかるライブラリから作成された少なくとも1つのサブライブラリとを比較する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の態様を参照して従来の技術を以下に説明する。しかしながら、これは、以下に開示される発明を限定するものとして解釈されるべきではない。従来の技術から公知であるものに関する追加の有用な開発と改良が、この[背景技術]に述べる比較的狭い範囲以外にも適用可能であることは、続く発明の概要を読めば、当分野の当業者に容易に理解されるであろう。
【0003】
微生物をスペクトル分析学的(spectrometrically)に特性評価して分類学的に分類することは周知の技術である。一例は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によるイオン化を用いる飛行時間型(TOF)質量スペクトル分析である。非特許文献1を参照のこと。細菌および真菌などの多くの微生物について、この方法は、予備知識を必要とせずに、本質的にリボソームタンパク質の質量サインに基づいて属または種に至るまでの分類学的レベルで信頼性のある結果を提供する。市販のシステムについては、たとえば、Bruker社のMALDI Biotyper(登録商標)およびbioMerieux社のVitek(登録商標)MSが提供されている。
【0004】
一般に、基礎となる特性評価アルゴリズムは、多くの場合、測定された質量スペクトル由来の情報、たとえばピークリストと、ライブラリまたはデータベースからの参照データとの比較に基づいており、時間をかけてさまざまな方法が開発されてきた。たとえば、特許文献1は、非常によく似た参照スペクトルを示す場合であっても、種または亜種レベルで微生物を同定することを可能にする2ステップ同定法を説明している。特許文献2も同様に、多段階法を用いて試料の質量スペクトルと大型スペクトルライブラリの参照スペクトルとの間の類似性を計算することによる、試料中の微生物の同定を説明している。
【0005】
特許文献3は、微生物のMALDI質量スペクトルを取得する工程と、取得したMALDIスペクトル中のピークを検出する工程と、スペクトルにおける検出ピークの質量および強度を含むピークリストを作成する工程と、DNA配列由来のタンパク質配列のデータベースを取得する工程と、データベース中のタンパク質配列およびそれらの質量からリボソームタンパク質のサブデータベースを作成する工程と、取得したMALDIスペクトル中の検出ピークの質量と作成されたサブデータベース中のリボソームタンパク質の質量とを比較する工程と、示された各微生物について上で得られたマッチを評価する工程と、マッチするリボソームタンパク質の精密質量のピークリストを作成する工程と、質量および強度を含むピークリストを、マッチするリボソームタンパク質の精密質量のピークリストを用いて再キャリブレーションする工程と、最も高いスコアを示す微生物を同定する工程と、再キャリブレーションしたピークリストにおける所望の改善または同定の検証が達成されるまで繰り返す工程と、からなるMALDI-TOF質量スペクトル分析法によって微生物を同定する方法を開示する。
【0006】
微生物のスペクトル特性評価の別の例は、赤外光を用いる吸収スペクトル分析である。たとえば非特許文献2を参照のこと。この方法は、たとえば、質量スペクトル分析(特許文献4参照)によって得ることができる微生物の種に関する適切な予備知識とともに、種の分類学的レベルよりも下位に再分類するのに特に有用なことが証明されている。この分野での市販のシステムの例は、Bruker社のIR Biotyper(登録商標)である。
【0007】
このスペクトル分析でもさらなる開発が行われている。たとえば、特許文献5は、複数の画素を有する微生物の少なくとも1つのスペクトル画像を取得することと、所定のスペクトル特性に基づいて、複数の画素を有するスペクトル画像から1つまたは複数のスペクトルを選択することと、を含む微生物の同定方法であって、選択されたスペクトルが、微生物のスペクトル情報特性を含む方法を説明している。
【0008】
さらに、微生物の他の特性、特に、生物活性物質、たとえば、抗生物質または抗真菌薬などの抗菌物質に対する感受性または耐性をスペクトル分析学的に特性評価できることが知られている。表現型または細胞ベースのアプローチは、生物活性物質の存在下での微生物の増殖またはその欠如と、重要な役割を果たしている種の信頼性のある分類学的帰属とに基づいている(特許文献6参照)。
【0009】
対照的に、他のアプローチは、物質固有であり、微生物の共インキュベーションによって引き起こされた生物活性物質または周囲のインキュベーション環境の任意の変化を検出することができる。この例は、β-ラクタマーゼを分泌する微生物によるβ-ラクタム抗生物質の加水分解(特許文献7参照)または栄養物(同位体標識されている場合がある)の微生物による代謝の程度(特許文献8または特許文献9参照)である。
【0010】
別のアプローチが、特許文献10に開示されている。抗生物質に対する微生物耐性を決定するための質量スペクトル分析法は、測定された量で加えた基準物質も含む抗生物質補正培地中で微生物を培養することと、培養後の基準物質を含む微生物の質量スペクトルを記録することと、次いで、質量スペクトル中の基準物質からの信号に基づいて増殖を評価することと、を含む。
【0011】
特許文献11は、生きている微生物の試料およびその後の質量スペクトルの測定および評価のための微生物の調製方法を説明している。この調製は、質量スペクトル分析の試料支持台上で直接行うことができる。
【0012】
他の注目すべき発表には、非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8が含まれる。
【0013】
したがって、特に、関心のある微生物の、関心のある細胞基質のスペクトル特性評価のための、改善された方法が必要とされている。本発明によって実現することができる追加の目的は、以下の開示を読めば当業者に直ちに明らかになるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】独国特許出願公開第10 2009 032 649 A1号(GB 2 471 746 A、US 2011/0012016 A1)
【文献】独国特許出願公開第10 2010 006 450 A1号(US 2011/0202282 A1、EP 2 354 796 A1)
【文献】国際公開第2017/069935 A1号
【文献】独国特許出願公開第10 2013 022 016 A1号(WO 2015/090727 A1)
【文献】独国特許出願公開第11 2005 001 530 T5号(WO 2006/002537 A1)
【文献】独国特許出願公開第10 2006 021 493 A1号(GB 2 438 066 A、US 2008/0009029 A1)
【文献】独国特許出願公開第10 2010 023 452 A1号(WO 2011/154517 A1)
【文献】欧州特許出願公開第2 801 825 A1号(US 2014/0335556 A1)
【文献】独国特許出願公開第10 2014 000 646 A1号(WO 2015/107054 A1)
【文献】欧州特許出願公開第2 806 275 A1号(WO 2014/187517 A1)
【文献】国際公開第2018/099500 A1号
【非特許文献】
【0015】
【文献】FenselauおよびDemirevによる概説「Characterization of Intact Microorganisms by Maldi Mass Spectrometry(Maldi質量スペクトル分析による無傷微生物の特性評価)」、Mass Spectrometry Reviews,2001,20,157-171
【文献】Dieter Naumannのモノグラフ「Infrared Spectroscopy in Microbiology(微生物学における赤外分光法)」、Encyclopedia of Analytical Chemistry,pp.102-131,2000
【文献】E.A.Idelevich,et.al、「Rapid detection of antibiotic resistance by MALDI-TOF mass spectrometry using a novel direct-on-target microdroplet growth assay(新規な直接オンターゲット微小液滴増殖アッセイを用いたMALDI-TOF質量スペクトル分析法による抗生物質耐性の迅速な検出)」、Clinical Microbiology and Infection 24(2018)738-743
【文献】M.Li,et.al、「Rapid antimicrobial susceptibility testing by matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry using a qualitative method in Acinetobacter baumannii complex(アシネトバクター・バウマニ複合体における定性的方法を用いたマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量スペクトル分析法による迅速な抗菌薬感受性試験)」、Journal of Microbiological Methods 153(2018)60-65
【文献】Idelevich,et.al、「Rapid Direct Susceptibility Testing from Positive Blood Cultures by the Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Time of Flight Mass Spectrometry-Based Direct-on-Target Microdroplet Growth Assay(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量スペクトル分析法に基づく直接オンターゲット微小液滴増殖アッセイによる陽性血液培養からの迅速な直接感受性試験)」、Journal of Clinical Microbiology,October 2018 Volume 56 Issue 10 e00913-18
【文献】Ioannis K.Neonakis,et.al、「Detection of carbapenemase producers by matrix-assisted laser desorption-ionization time-of-flight mass spectrometry(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量スペクトル分析法(MALDI-TOF MS)によるカルバペネマーゼ産生菌の検出)」、European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases 2019,https://doi.org/10.1007/s10096-019-03620-0
【文献】Nix,et.al、「Methicillin Resistance Detection by MALDI-TOF MS(MALDI-TOF MSによるメチシリン耐性の検出)」、Frontiers in Microbiology,1 February 2020,Volume 11,Article 232
【文献】Timothy S.Horseman,et.al、「Rapid qualitative antibiotic resistance characterization using VITEK MS(VITEK MSを用いる迅速な定性的抗生物質耐性特性評価)」、Diagnostic Microbiology and Infectious Disease Volume 97,Issue 4,August 2020,115093
【発明の概要】
【0016】
本発明は、被検細胞基質、好ましくは被検微生物のスペクトル特性を評価するための方法に関する。特性評価は、好ましくは質量スペクトル測定データに基づく。本発明は、被検細胞基質の分類学的分類を可能にする参照データセットを含むライブラリが、試験されている細胞基質の第1分類学的分類が成功したら、すなわち、測定データとライブラリ中の参照データセットとの第1比較を行い測定データとライブラリからの少なくとも1つの参照データセットとの間の十分な類似性によって分類学的分類が可能になったら、次には、少なくとも1つの追加の実験的調製からの同じ細胞基質の追加のスペクトル測定データと比較することができるサブライブラリを作成することが可能になるという知見に基づく。
【0017】
特に、被検細胞基質のスペクトル測定データの第1のマッチング結果において、被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価されたスペクトル参照データセットを含むサブライブラリを使用することができる。被検細胞基質のスペクトル特性評価のためのこのようなサブライブラリの使用によって、追加の調製における被検細胞基質の分類学的分類の特異性と、実験的調製によって同定される被検細胞基質の特性の決定とが改善される。なぜなら、被検細胞基質の信頼性のある分類学的分類は、スペクトル測定データに基づく特性の決定に重要な役割を果たすからである。
【0018】
第1のマッチング結果によって、たとえば、ライブラリを使用して、細胞基質のスペクトル測定結果と同様な参照データセット、すなわちマッチングによって細胞基質の分類学的分類を可能にするために十分に高度なマッチングを示す参照データセットを含むサブライブラリを得ること、または、スペクトル測定結果とは異なる参照データセット、すなわち特に種または属の分類学的分類を可能にするためにはスペクトル測定データとは十分に良好なマッチを示していない参照データセットを含むサブライブラリを得ることが可能になる。
【0019】
スペクトル測定データとの高いマッチングを示すライブラリからの参照データセットを含み、分類学的分類を可能にすると評価された第1のサブライブラリは、その目的のために使用することができ、かつ、第1調製の条件とは異なる条件で被検細胞基質が調製された場合、同じ被検細胞基質の特性を決定するために使用することができる。この場合、追加の調製からの被検細胞基質のスペクトル測定データは、少なくとも1つの追加のマッチング結果における第1のサブライブラリからの参照データセットと比較される。これによって、この追加のマッチング結果に基づいて分類学的分類の特異性が改善され、その結果、第1調製の条件と同一ではない追加の調製の条件によって決定される被検細胞基質の特性のスペクトル分析学的決定に好影響をもたらす。
【0020】
さらに、第1分類学的分類が成功した後に、提供されたライブラリから、第1のサブライブラリに加えて追加のサブライブラリを作成し、被検細胞基質の分類学的分類の結果の改善、および/または追加の調製を用いる被検細胞基質の特性の決定の改善のために用いることができることが認められた。この一例は、第1のスペクトル測定データに基づいて、細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された参照データセットのみを含む第2のサブライブラリである。この第2のサブライブラリは、追加の調製からの被検細胞基質のスペクトル測定結果と、(たとえば属または種の)分類学的分類を可能にすると評価された第2のサブライブラリのスペクトル参照データセットとの間のマッチング結果が期待されず、除外する必要さえあるため、陰性対照として使用することができる。
【0021】
第1のマッチング結果における、特に種または属の分類学的分類とは異なるか、またはそれを可能にしないと評価された参照データセットは、その結果、追加の調製からのスペクトル測定データの分析および評価において重要な役割を果たすことができる。なぜなら、第1のマッチング結果とは異なる被検細胞基質の分類学的分類についての特性の分類学的分類または決定は、試料の不純物もしくは汚染または被検細胞基質そのものにおける不均一性の存在を示している可能性があるからである。
【0022】
同じ被検細胞基質の追加のスペクトル分析においてマッチングに使用される少なくとも1つのサブライブラリにおいて、細胞基質に特異的であり、包括的な一般的ライブラリとのスペクトル測定データの第1のマッチング結果に基づいて選択された参照データセットの提供または作成によって、変更された条件(たとえば培養条件)下で調製された被検細胞基質の分類学的分類の特異性および被検細胞基質特性の決定を、さらに改善することができる。
【0023】
この方法は、複数の参照データセットを含むライブラリの提供または作成を含む。各参照データセットは、細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを含む。特に、ライブラリは、使用されるスペクトル検出法に特異的であり、他のスペクトル検出法の参照データセットとは異なり、相互に互換性がない参照データセットを含む。参照データセットは、公知の細胞基質(特に微生物)から得られたスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを含んでもよい。好ましいライブラリは、微生物のスペクトル検出法の参照データセットを含み、より好ましくは腸内細菌科(family Enterobacteriaceae)の質量スペクトル分析検出法の参照データセットを含み、最も好ましくは、検証されたMALDI飛行時間型システム、たとえばMALDI Biotyper(登録商標)(Bruker社)を用いて作成された腸内細菌科の質量スペクトル分析検出法の参照データセットを含む。
【0024】
参照データセットは、スペクトルまたはスペクトル由来のn組のデータを含んでもよい。n組のデータの一例は、スペクトル信号およびそれに関連する狭い質量チャネルにおける頻度(存在量)情報のリスト、ならびに、該当する場合には、そのスペクトルに関する任意のメタ情報である。n組のデータの別の例は、スペクトル信号および関連する狭い波数チャネルにおける吸収情報のリスト、ならびに、該当する場合には、そのスペクトルに関する任意のメタ情報である。得られるデータは、たとえば、元のスペクトルまたは、ベースライン減算、誘導、ノイズ除去などによって別様に削減したデータから作成された、最も顕著なスペクトル信号のピークリストを含むことができる。
【0025】
本発明の方法は、第1調製後の被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データの提供または作成も含む。調製とは、スペクトル測定のために、最初に入手できる研究対象の被検細胞基質のバイオマスを処理し調製する手法である。第1のスペクトル測定データの提供または作成は、第1調製後の被検細胞基質の反復スペクトル測定を含んでもよく、測定は、1回、2回、3回、4回または5回反復してもよく、好ましくは3回反復してもよい。
【0026】
次いで通常は、第1のスペクトル測定データの提供または作成のために、測定値の中央値または別の適切な統計的位置パラメータが決定され使用される。これらの反復は、被検細胞基質の同じ調製からの生物学的反復および/または技術的反復を用いて行われてもよい。
【0027】
第1調製は、使用可能なバイオマスを増加させ、それによって、(スペクトル測定データ中に偏在するバックグラウンドまたはノイズと比較して)検出可能なスペクトル信号を強化するための被検細胞基質の増殖工程を含んでもよい。スペクトル測定データの提供または作成は、たとえば調製後の被検細胞基質のバイオマスの脱離イオン化を用いる質量スペクトル分析と、さらにそれに続く、生成されたイオンの質量分散分析、特にMALDI飛行時間型(MALDI-TOF)分析とを含んでもよい。第1調製は、スペクトル測定データの提供または作成のための基板として機能する試料支持台、たとえば質量スペクトル測定用のAnchorChip(商標)(Bruker社)またはMBT Biotarget(商標)(Bruker社)などのMALDI試料支持台か、またはガラスもしくはセラミックの標本スライド上で直接実施することができる。
【0028】
この方法は、第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータをライブラリと比較して第1のマッチング結果を決定することも含み、マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、被検細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む。マッチング結果の例は、MALDI Biotyper(登録商標)(Bruker社)などの市販システムに使用されている類似性スコアのリストを含む。これらの類似性尺度の対数(「log(スコア)」)は、次の範囲に分類される。
【0029】
(i)2.0以上(ベンダーによれば、研究対象の被検細胞基質の種の信頼性のある決定と見なされる)。(ii)1.7以上2.0未満(研究対象の被検細胞基質の信頼性のある属の決定と見なされる)。(iii)1.7未満(信頼性のない決定と見なされる)。
【0030】
MALDI Biotyper(登録商標)システムは、亜種などの他の分類学的レベルでの分類学的分類を行うために使用することもできる。範囲(i)は、さらに細分化して、信頼性のある亜種の決定を行うことができる。他のプロバイダも同様な分類を使用している。
【0031】
本発明の方法は、被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリの提供または作成も含む。分類学的分類は、属、種、亜種および変種もしくは血清型(serotype)の群から選択される少なくとも1つの分類への被検細胞基質の帰属を含んでもよい。好ましくは、分類学的分類は、属および/または種の群から選択される少なくとも1つの分類への被検細胞基質の帰属を含む。変種もしくは血清型が、関心のある別の特性、たとえばさまざまな病原性または耐性/感受性を示す場合、亜種、変種もしくは血清型の分類学的分類に関心が持たれる場合がある。
【0032】
サブライブラリが、ライブラリからの、第1のマッチング結果において最も高い類似性尺度を示す参照データセット、すなわち、細胞基質の第1調製からのスペクトル測定データまたはそこから得られたデータとの最も高いマッチング度を示す(かつ、分類学的分類を可能にすると評価された)参照データセットのみを含むように設定することができる。
【0033】
サブライブラリが、第1のマッチング結果において最も高いマッチング度を示した(かつ分類学的分類を可能にすると評価された)1、2、3、4、5、6、7、8、9または10、好ましくは1、2、3、4または5、特に好ましくは1、2または3の参照データセットを含み、最も好ましくは3の参照データセットを含むように設定することができる。
【0034】
第1のマッチング結果が被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと評価された参照データセットを、サブライブラリの提供または作成において除外するように設定することができる。
【0035】
第1のスペクトル測定データとライブラリとの比較後、かつサブライブラリの提供または作成前に、スペクトル測定データと、分類学的分類を可能にすると評価されるために必要な参照データセットとの間の類似性尺度および/または類似性尺度の対数に関してマッチング度が調整されるように設定することができる。スペクトル測定データと、分類学的分類を可能にすると評価されるために必要なライブラリとの間のマッチング度が調整され、および/またはスペクトル測定データと、分類学的分類を可能にすると評価されることが必要なサブライブラリとの間のマッチング度が調整されるように設定することができる。
【0036】
第1のマッチング結果がさまざまな属、たとえばシトロバクター属種(Citrobacter sp.)およびエシェリキア属種(Escherichia sp.)への分類学的分類を可能にすると評価された場合、必要なマッチング度の増加を設定することができる。このような場合、第1のマッチング結果に基づく分類学的分類の信頼性は、必要なマッチング度を調整することによって改善することができる。たとえば、種の分類学的分類などの分類学的分類を可能にすると評価された類似性尺度を第1のマッチング結果が何も含まず、種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された類似性尺度を含む場合、マッチングに必要な程度の低下を設定することができる。このような場合、たとえばMALDI Biotyper(登録商標)(Bruker社)を用いる場合では、類似性尺度の対数が分類される評価の範囲(それに基づいて、分類学的分類を可能にするか、分類学的分類を可能にしないかのマッチング結果の評価がなされる)は、調整することができる。
【0037】
MALDI Biotyper(登録商標)システムの場合は、範囲(i)、(ii)および(iii)の調整をともに行うことができる。しかしながら、範囲(i)のみ、範囲(i)および(ii)のみ、または範囲(ii)および(iii)のみを調整することもできる。
【0038】
範囲(i)は、供給業者に従って、種の信頼性のある決定を提供するために、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、または1.0以上の値に調整することができる。
【0039】
同様に、範囲(ii)は、供給業者に従って、信頼性のある属の決定を可能にするために、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、もしくは1.0未満、または0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、もしくは2.2以上の値に調整することができる。
【0040】
同様に、範囲(iii)は、供給業者に従って、分類学的分類の信頼性のない、すなわち種または属の分類学的分類を可能にしないと評価されるために、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、または2.2未満に調整することができる。
【0041】
範囲(i)の調整のために提供される値は、範囲(ii)のための値よりも大きい。範囲(ii)の調整のために提供される値は、範囲(i)のための値よりも小さく、範囲(iii)のための値よりも大きい。範囲(iii)の調整のために提供される値は、範囲(ii)のための値よりも小さく、範囲(i)のための値よりも小さい。
【0042】
一つの実施の形態では、被検細胞基質が微生物であるように設定することができる。好ましくは、微生物は細菌であり、特に、腸内細菌科の細菌である。本実施の形態では、第1調製が増殖対照(growth control)であるように、また、被検微生物の第2調製のために、抗真菌薬または抗生物質などの抗菌物質、特にピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)が増殖影響因子(growth-influencing factor)として選択されるように設定することができる。
【0043】
好ましい実施の形態では、被検細胞基質は腸内細菌科の被検細胞基質であり、第1調製が増殖対照であるように、また、被検微生物の第2調製のために、特定の濃度の抗真菌薬または抗生物質などの抗菌物質、特にピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)が増殖影響因子として選択されることが確実にされる。本実施の形態では、ライブラリの参照データセットおよび調製の質量スペクトル測定データは、好ましくはMALDI Biotyper(登録商標)(Bruker社)または別の市販システムを用いて作成された測定データに基づくことができる。
【0044】
一つの実施の形態では、第1のマッチング結果が被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価されたライブラリからの参照データセットを含んで提供または作成されたサブライブラリは、提供または作成された第1のサブライブラリであるように設定することができる。
【0045】
第1のサブライブラリに加えて、第1のサブライブラリと第2のサブライブラリとが同一ではない第2のサブライブラリが提供または作成されるように設定することができる。同一ではないとは、第1のサブライブラリと第2のサブライブラリとが、少なくとも1つの態様、たとえば含まれる参照データセット数および/または参照データセットの同一性でマッチしないが、他の態様は同一でもよいことを意味する。
【0046】
第2のサブライブラリは、特に第1のマッチング結果が被検細胞基質の種または属の分類学的分類を可能にしないと評価されたライブラリからの参照データセットを含んでもよい。第2のサブライブラリは、第1のマッチング結果が被検細胞基質の(たとえば種または属の)分類学的分類を可能にしないと評価されたライブラリからの参照データセットからなっていてもよい。
【0047】
サブライブラリは、ライブラリにも含まれている参照データセットを含む。特に、サブライブラリは、ライブラリからの参照データセットのサブセットを含む。サブライブラリは、ライブラリよりも少ない数の参照データセットを含んでもよい。第1のサブライブラリにおける参照データセットの数は、ライブラリにおける参照データセットの数の10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、よりさらに好ましくは1%未満、特に5‰未満、より詳細には3‰未満、よりさらに詳細には1‰未満を含むことができる。
【0048】
たとえば、ライブラリが3000の参照データセットを含む場合、サブライブラリにおける参照データセットの最大数は、一例では3に限定されてもよい。第1のサブライブラリおよび第2のサブライブラリは、ライブラリとして同じ数の参照データセットをともに含んでもよい。第1のサブライブラリおよび第2のサブライブラリは、ライブラリよりも少ない数の参照データセットをともに含んでもよい。第1のサブライブラリは、第2のサブライブラリと同じ数の参照データセットを含んでもよい。第1のサブライブラリおよび第2のサブライブラリは、参照データセットの共通部分を有してもよい。すなわち、参照データセットは、第1のサブライブラリと第2のサブライブラリとの両方に含まれてもよい。第2のサブライブラリは、第1のサブライブラリと同じ数の参照データセットを含んでもよく、また、第1のサブライブラリよりも多い数の、または第1のサブライブラリよりも少ない数の参照データセットを含んでもよい。
【0049】
一つの実施の形態では、ライブラリの参照データセット、特に、第1のマッチング結果が被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価され、その類似性尺度または類似性尺度の対数が第1のマッチング結果における最高値(ベストマッチ)を示すライブラリからの参照データセットを含む第1のサブライブラリが提供または作成されるように設定することができる。
【0050】
他の実施の形態では、第1のサブライブラリは、分類学的分類を可能にすると評価され、その類似性尺度または類似性尺度の対数が、第1のマッチング結果における3または5の最も高い値、または最も高いマッチング度を示すライブラリからの参照データセットが含まれる3または5の参照データセットを含んでもよい。そこから得られるライブラリおよびサブライブラリにはいずれも、特に、特定のスペクトル分析(特に質量スペクトル分析)に特異的な参照データセットが一様に実装されている。そこから得られるライブラリおよびサブライブラリにはいずれも、特に、参照データセットを(かかる参照データセットがスペクトル分析(特に質量スペクトル分析)によって得られるものであるか、またはスペクトル測定データまたは質量スペクトル測定データからの導出によって得られるものであるため)、一様に実装することができる。
【0051】
本方法は、第1調製の条件と同一ではない条件での、少なくとも第2調製後の被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データの提供または作成も含む。同一ではないとは、特に、第1調製の条件と第2調製の条件とが少なくとも1つの態様でマッチしないが、他の態様は同一でもよいことを意味する。第2のスペクトル測定データの提供または作成は、第1調製後の被検細胞基質の反復スペクトル測定を含んでもよい。測定は、1回、2回、3回、4回または5回、好ましくは3回反復してもよい。次いで通常は、第2のスペクトル測定データの提供のために、測定値の中央値または別の適切な統計的位置パラメータが決定され使用される。これらの反復は、被検細胞基質の同じ調製からの生物学的反復および/または技術的反復を用いて行われてもよい。
【0052】
第1調製および第2調製は、同時に提供または作成されるように設定することができる。同様に、被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データおよび第2のスペクトル測定データの提供または作成が同時であるように設定することができる。第1調製および第2調製が同時に提供され、第1調製および第2調製のスペクトル測定データが同時に提供または作成されるように設定することができる。
【0053】
第1調製および第2調製が同時に提供され、第1調製のスペクトル測定データおよび第2調製のスペクトル測定データが同時には提供または作成されず、第1調製のスペクトル測定データが、通常は第2調製のスペクトル測定データよりも前に提供または作成されるように設定することもできる。しかしながら、第1調製および第2調製が同時には提供されず、第1調製が、通常は第2調製よりも前に提供されるように設定することもできる。
【0054】
第1調製および第2調製が同時には提供されず、第1調製および第2調製のスペクトル測定データが同時に提供または作成され、第1調製が、通常は第2調製よりも前に提供されるように設定することもできる。第1調製および第2調製が同時には提供されず、第1調製および第2調製のスペクトル測定データが同時には提供または作成されず、第1調製が、通常は第2調製よりも前に提供され、および/または第1調製のスペクトル測定データが第2調製のスペクトル測定データよりも前に提供または作成されるように設定することもできる。
【0055】
第1調製とまったく同様に、第2調製も、被検細胞基質の増殖工程を含んでもよい。ここで、第1調製の条件と同一ではない第2調製の条件とは、第2調製が増殖影響因子(たとえば、被検細胞基質の活性および/または生存能力に悪影響または好影響を与える生物活性物質)の存在下で実施されることを意味することができる。その一方で第1調製は、増殖影響因子を使用しないことによって、またはいずれの場合も濃度が異なる増殖影響因子(希釈系列)を使用することによって、一つの実施態様では第2調製とは異なるが他は同一の増殖条件で、増殖対照として実施することができる。増殖条件は、たとえば、使用される栄養培地の種類および量、インキュベーションの時間、環境条件(温度、周囲の空気の組成、インキュベーション中の湿度など)を含んでもよい。
【0056】
スペクトル測定データの提供または作成手段は、たとえば調製後の被検細胞基質のバイオマスの脱離イオン化を用いる質量スペクトル分析と、さらにそれに続く、生成されたイオンの質量分散飛行時間型分析、特にMALDI飛行時間型分析(MALDI-TOF)とを含んでもよい。
【0057】
第1調製と同様に、第2調製は、スペクトル測定データの提供または作成のための基板として機能する試料支持台、たとえば質量スペクトル測定用のAnchorChip(商標)(Bruker社)またはMBT Biotarget(商標)(Bruker社)などのMALDI試料支持台か、またはガラスもしくはセラミックのスライド上で直接実施することができる。第1調製および第2調製に加えて、第1調製および第2調製の条件と同一ではない条件または相互に同一ではない条件で、被検細胞基質の追加の調製を実施することができる。この場合、その後の調製の測定結果は、第1のサブライブラリだけでなく、第2のサブライブラリまたは追加のサブライブラリと比較することもできる。
【0058】
たとえば、追加の第3のサブライブラリは、第1のマッチング結果が特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価され、第2マッチング結果が分類学的分類を可能にすると評価されたライブラリの、参照データセットを含んでもよい。必要に応じて、同じ試料支持台上で同時に、第1調製、第2調製および、必要に応じて追加の調製を行うことができる。
【0059】
この一例は、場合によってさまざまな濃度での、さまざまな増殖影響因子(たとえば生物活性物質)に対する被検細胞基質の応答に関する試験シリーズである。この一例は、被検細胞基質としての被検微生物に対するさまざまな抗菌物質の最小発育阻止濃度(MIC)の測定である。別の例は、たとえば被検細胞基質としての原発腫瘍細胞または腫瘍細胞株に対する抗腫瘍因子の最大半量阻害濃度(IC50)の測定のための生物活性化合物の希釈系列である。
【0060】
本発明の方法は、第2マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータとサブライブラリとを比較することも含んでもよい。さらに、第2マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータと第1のサブライブラリとを比較し、第3マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較するように設定することができる。
【0061】
一つの実施の形態では、第2のサブライブラリは、(たとえば種または属の)分類学的分類を可能にしないと評価された第1のマッチング結果の参照データセットを含んでもよい。しかしながら、第2のサブライブラリはまた、特に種または属の任意の分類学的分類を可能にしないと評価された第1のマッチング結果の参照データセットからなってもよい。
【0062】
第3マッチング結果は、第2のサブライブラリが、第1のマッチング結果が被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価されたライブラリからの参照データセットを含むか、またはそれからなる場合、内部プロセス対照として使用することができる。本実施の形態では、特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された類似性尺度のみを含むか、またはそれからなる第3マッチング結果は、第2調製の被検細胞基質の分類学的分類および/またはその特性決定が信頼性のあることを確定することができる。本実施の形態では、特に種または属の分類学的分類を可能にすると評価された第3マッチング結果は、被検細胞基質の関心のある特性の分類学的分類および/または決定の信頼性が低いと同定するために使用することができる。
【0063】
被検細胞基質が均一な集団ではない場合、すなわち、異なる分類学的分類の少なくとも2つの細胞集団が被検細胞基質中に存在する場合にこのようなことが起こる可能性がある。たとえば、混合感染(mixed infection)において、このようなことが認められる場合がある。本方法は、細胞基質が不均一であることが被検細胞基質の特性であるかどうかを決定するために使用することができ、および/または被検細胞基質に存在する細胞集団の分類学的分類を可能にすることができる。
【0064】
被検細胞基質が不均一な場合、少なくとも2つの分類学的に同一でない細胞集団が被検細胞基質中に存在する。互いに異なる2つの細胞集団を含むか、またはそれからなる不均一な被検細胞基質が存在する場合、これらは、たとえば亜種、種、属またはより高い分類学的レベルの分類学的レベルで互いに異なる場合がある。特に、本願の意味での不均一な細胞基質は、細胞基質が、種より高い分類学的レベルの分類学的レベルで異なる細胞集団を含む場合に存在する。
【0065】
理論上は、3つ以上の互いに異なる細胞集団が存在する混合感染が存在することも考えられ、その場合、2つ以上の分類学的レベルで互いに異なる場合がある。放線菌症またはアミン性膣炎などの臨床的に重要な混合感染では、通常、1つの微生物種Aが、たとえば組織の変化を通して第2の微生物種Bに道(way)を準備し、第2の微生物種Bによる平行感染を可能にする。この場合、2つの細胞集団は被検細胞基質中に存在し、そのうちの1つは微生物種Aの分類学的分類に従って分類され、もう1つは微生物種Bの分類学的分類に従って分類される。
【0066】
本明細書に開示されている方法の一つの実施の形態では、細胞基質の不均一性(inhomogeneity of the cell)を検出することができる。ここで、細胞基質の不均一性は、第1調製からの第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータとライブラリとを比較して第1のマッチング結果を決定した場合に、決定することができる。第1のマッチング結果が被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価された2つ以上の参照データセットを含み、参照データセットの分類学的分類が同一ではない、すなわち、亜種、種もしくは属またはより高い分類学的レベルなどの分類学的レベルが異なる場合にこのことが考えられる。あるいはまたはさらに、被検細胞基質の不均一性は、第1のマッチング結果後に、被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含む第1のサブライブラリが作成され、被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含む第2のサブライブラリが作成された場合に決定することができる。
【0067】
さらに、本実施の形態では、第3マッチング結果を入手するために第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較し、第3マッチング結果は分類学的分類を可能にすると評価された参照データセットを含むように設定される。
【0068】
特に、本実施の形態では、第2調製の被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データの提供または作成を可能にする少なくとも1つの態様で、第2調製の条件が第1調製の条件と同一ではないように設定することができ、かかる態様は、好ましくは第1のマッチング結果に従って分類学的に分類されることができない細胞集団のスペクトル測定データが第2調製において得られるように選択される。
【0069】
これは、たとえば、第1のマッチング結果に従って分類学的に分類されることができた細胞集団に選択圧力(selection pressure)を加えることによって行うことができる。このような選択圧力によって、第2調製における第1のマッチング結果に基づいて分類学的分類を行うことができる細胞集団のバイオマスの減少をもたらすことが可能である。これは、第1調製において分類学的に分類されることができた細胞集団を殺す、または第2調製において第1のマッチング結果に基づいて分類学的分類を行うことができる細胞集団の増殖を減少させる増殖影響因子を含む第2調製によって達成することができる。
【0070】
本実施の形態では、特に、第1のスペクトル測定データとライブラリとを比較して第1のマッチング結果を決定した後に、第2のスペクトル測定データと被検細胞基質の第2調製とが提供または調製されるように設定することができる。
【0071】
本実施の形態では、被検細胞基質の不均一性の決定に加えて、不均一な被検細胞基質中に含まれるすべての細胞集団の分類学的分類も決定することができるように設定することができる。
【0072】
好ましい実施の形態では、被検細胞基質をスペクトル分析学的に特性評価するための方法であって、被検細胞基質が不均一である方法は、以下の各工程、すなわち、
細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを各参照データセットが含む多数の参照データセットを含むライブラリを提供または作成する工程と、第1調製後の被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータをライブラリと比較して第1のマッチング結果を決定する工程(マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む)と、被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含む第1のサブライブラリを提供または作成する工程と、被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含む第2のサブライブラリを提供または作成する工程と、第1調製の条件と同一ではない条件で、少なくとも第2調製後に被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、第2マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータと第1のサブライブラリとを比較する工程と、第3マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較する工程と、第3マッチング結果を用いて被検細胞基質の特性を決定し、被検細胞基質の不均一性を特性として決定する工程と、からなる。本実施の形態では、特に、種または亜種の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを第1のサブライブラリに含むことができる。
【0073】
別の実施の形態では、特に種または属の分類学的分類を可能にする第3マッチング結果は、第1調製および第2調製に同じ被検細胞基質が用いられていないことも示す場合がある。本実施の形態では、第1マッチング結果および第3マッチング結果は、被検細胞基質の分類学的分類を可能にすると評価された参照データセットを含み、第2マッチング結果は、被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと評価された参照データセットを含む。本実施の形態では、特に、種または亜種の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを第1のサブライブラリに含むことができる。
【0074】
本方法は、第2マッチング結果を用いて被検細胞基質の特性を決定することも含む。被検細胞基質の特性を決定するためには、サブライブラリに対して比較した後の第2調製後の被検細胞基質に対して、類似性尺度または類似性尺度の対数(たとえばlog(スコア))を決定すれば十分な場合がある。
【0075】
決定される特性は、増殖影響因子に対する被検細胞基質の感受性および/または耐性を含んでもよい。特に、決定される特性は、被検細胞基質に対する生物活性物質の最小発育阻止濃度(MIC)を含んでもよい。決定される特性の例は、微生物に対する抗生物質、抗真菌薬などの抗菌物質のMICまたは抗腫瘍薬の最大半量阻害濃度(IC50)を含む。被検細胞基質の特性の決定(たとえば増殖影響因子に対する耐性/感受性を決定する場合)は、たとえば第2マッチング結果のlog(スコア)から推測できる。分類学的分類を可能にすると評価された第2マッチング結果のlog(スコア)が耐性を示す一方で、特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価されたlog(スコア)は被検細胞基質の感受性を示す。
【0076】
本方法は、第1のサブライブラリと第2のサブライブラリとが提供または作成されたときの第3マッチング結果を用いた被検細胞基質の特性の決定も含んでもよい。第3マッチング結果を用いて決定された被検細胞基質の特性は、被検細胞基質の不均一性またはたとえば、介在する不純物または汚染によって第1調製および第2調製に同じ被検細胞基質が用いられなかったという事実を含んでもよい。
【0077】
本開示は、細胞基質(特に微生物)をスペクトル特性評価するための、改善された方法を提供する必要性に対応する。この特性評価は、細胞基質(特に微生物)の分類学的分類と細胞基質の特性の決定とを含む。特に、本方法は、スペクトル測定の分類学的分類の特異性と、細胞基質の特性の決定とを改善し、特に、たとえば分類学的分類を可能にすると偽陽性で評価された第2比較結果を減らすことによって、細胞基質(特に微生物)の分類学的分類の特異性を改善する。臨床微生物診断などのタイムクリティカルなシナリオでは、本方法は、たとえば抗生物質または抗真菌薬などの特定の増殖影響因子に対する感受性および/または耐性などの、被検細胞基質(特に被検微生物)の重要な特性の、信頼性のある(すなわち高度に特異的な)決定の、より迅速な提供を可能にする。これによって、関心のある個々の細胞基質特性を決定するための、時間がかかる可能性のある下流手順が必要ではなくなるため、改善された品質保証を通して、より迅速な患者の治療が可能になる。
【0078】
本発明の範囲内で、多くの場合数千の参照データセットを含む全ライブラリの代わりに、第1のサブライブラリと第2調製の被検細胞基質のスペクトル測定結果とを比較することによって、第2マッチング結果として、被検細胞基質の少なくとも1つの特性の決定において特異性を高めることができることが確認された。さらに、本発明の範囲内で、第2調製からの被検細胞基質(適切な場合には生物学的複製物)からの追加のスペクトル測定結果、好ましくは質量スペクトル測定結果を、内部プロセス対照としての第2のサブライブラリに対してチェックすることができることが認められた。第2のサブライブラリは、好ましくは、第1のマッチング結果が特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された全ライブラリの参照データセットを含む。得られた第3マッチング結果は、たとえば、第2調製からの被検細胞基質の調製中に誤りが生じて被検細胞基質が混合されたかどうか、または被検細胞基質が均一な集団からなるか、もしくは第1調製と第2調製との間で故意でなく汚染されたかどうかについて結論を引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
本発明は、以下の図面を参照することによって、よりよく理解することができる。図面の要素は必ずしも縮尺どおりではなく、主に本発明の原理を(主として模式的に)例示することを目的としている。図面において、同じ参照番号は、異なる図面における対応する要素を示す。
図1】被検細胞基質のスペクトル特性評価のための主要な手順の各工程を示す図である。
図2】増殖対照として設計された第1調製の質量スペクトル分析、および被検細胞基質である大腸菌(E.coli)を同定するための、その質量スペクトル分析データと、MALDI Biotyper(登録商標)からの該当する参照ライブラリとの比較の例を示す図である。測定された質量スペクトル分析データと、ライブラリ201から選択された参照データセットとの最も高いマッチング度が、大腸菌の参照スペクトルとの類似性尺度の対数(log(スコア))2.34によって決定された。したがって、質量スペクトルと参照ライブラリとの比較によって、被検細胞基質は、高い信頼性で分類学的に大腸菌に分類された。
図3図2で実施したものと同じ、セフォタキシム(CTX)含有栄養培地((CTX)処理)で培養した被検細胞基質大腸菌の第2調製の質量スペクトル分析の例を示す図である。スペクトル測定データと、図2で使用したものと同じ全参照ライブラリとの比較を、被検細胞基質の特性、すなわちCTXに対する耐性または感受性を同定するために使用した。スペクトル測定データと、ライブラリ301から選択された参照データセットとの最も高いマッチング度が、全参照ライブラリからシトロバクター・ファルメリ(Citrobacter farmeri)の質量スペクトル測定参照データのデータセットとの類似性尺度の対数(log(スコア))1.83によって決定され、それによって属の分類学的分類を可能にすると評価された。第2マッチング結果の過程で、第2調製においてシトロバクター・ファルメリという分類学的分類である被検細胞基質に関して、特性「CTX耐性」が表現型として決定された。したがって、線形質量スペクトル(linear mass spectrum)と参照ライブラリとの比較による被検細胞基質特性の決定は、CTX耐性シトロバクター・ファルメリとして、被検細胞基質の偽陽性決定をもたらした。たとえば、定量標準305の検出の信頼性が低い場合、マッチング結果における参照データセットのピークに高い信頼性で帰属させることができる少数の質量ピークに分類学的分類が基づく場合、および/または測定結果を比較するのに用いた参照データセット中の測定データのピーク数が少ない場合に、当業者は、このような特性評価結果を、信頼できないと比較的迅速に退けることができる。
図4】本発明に従って、図3に関して行った、同じ被検細胞基質大腸菌((CTX)処理)の第2調製の質量スペクトル分析の例を示す図である。第2調製のスペクトル測定データを得る前に、この目的でサブライブラリを作成した。第1のサブライブラリは、第1調製の測定された質量スペクトルが最も高いマッチング度を示すとともに分類学的分類を可能にすると評価されたライブラリからの、5つの質量スペクトル測定参照データのデータセットを含んでいた。第2のサブライブラリは、増殖対照のための第1のマッチング結果において、第1調製の質量スペクトル測定結果により類似性尺度の対数(log(スコア))が1.7未満、すなわち通常は種または属の分類学的分類を可能にしないと評価される類似性尺度の対数(log(スコア))を与える参照スペクトルを含んでいた。第2調製のスペクトル測定データと第1のサブライブラリとの比較を用いて、被検細胞基質の特性、すなわちCTXに対する耐性または感受性を決定した。第1のサブライブラリ401から選択された参照データセットとのスペクトル測定データの最も高いマッチング度は、図2で使用されたものと同じ参照データセットである大腸菌の質量スペクトル測定参照データセットとの類似性尺度の対数(log(スコア))が1.13と決定され、それによって種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された。この第2マッチング結果の過程で、第2調製において大腸菌という分類学的分類が示された被検細胞基質に関して、特性「CTX感受性」が表現型として決定された。したがって、線形質量スペクトルと第1のサブライブラリとの比較による被検細胞基質特性の決定は、CTX感受性大腸菌として、細胞基質の正しい固有の特性評価をもたらした。第2のサブライブラリと比較することによって、たとえば、細胞基質汚染の結果として、または第1調製および第2調製中に不均一な被検細胞基質が存在することによって、第1調製で接種したものとは異なる被検細胞基質が第2調製中に存在した可能性を排除することができた。
【発明を実施するための形態】
【0080】
多数の実施の形態を参照して本発明を図示し説明してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲で定義されている技術的教示の範囲から逸脱することなくさまざまな形態および詳細の変更がなされてもよいことを理解するであろう。
【0081】
図1は、被検細胞基質のスペクトル特性評価のための主要な手順を示す図である。
【0082】
図2は、増殖対照として設計された第1調製の被検細胞基質の質量スペクトル測定の模式的な線形質量スペクトルを示す。MALDI Biotyper(登録商標)で測定された増殖対照の質量スペクトルを、何千もの参照スペクトルを含む提供されたライブラリの質量スペクトル測定参照データセットのすべてと比較した。大腸菌(Escherichia coli)の質量スペクトルを含む参照データセットとの類似性尺度の対数(log(スコア))2.34によって、最も高いマッチング度を決定した。
【0083】
マッチング度を決定するために用いた参照ライブラリからの参照ピーク(reference peaks)201は、負の数値範囲の実線のバーで示されている(蝶グラフ(butterfly graph)参照)。このマッチング結果のマッチング度は、log(スコア)が2.0超であったため、高い信頼性で種の分類学的分類を可能にすると評価された。
【0084】
マッチング結果において、参照データセットのピークに対して高い信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲の横ハッチングバー202で示し、参照データセットのピークになお十分な信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲のクロスハッチングバー203で示し、参照データセットのピークに十分に帰属させることができなかったピークは正の数値範囲のドットバー204で示した。使用した相対定量標準205は、測定はしたが分類学的分類のためには使用しなかったためドットバーで示した。
【0085】
開示された手法の実施可能性の原理の証明として、セフォタキシム感受性大腸菌を被検細胞基質として選択し、MALDI Biotyper(登録商標)システムを用いて研究対象の微生物の特性の決定に適用した。この目的で、増殖影響物質(この例では抗生物質セフォタキシム(CTX))に対する被検細胞基質の耐性/感受性を、従来の方法と本明細書に開示されている方法とを用いて調べた。
【0086】
被検細胞基質を栄養培地(Mueller-Hinton栄養培地(第1調製-図2))および、CTXを1μg/mLの濃度で含む同じ栄養培地(第2調製-図3および図4)中でインキュベートした。第1調製は、増殖対照として用いた。第2調製は、被検細胞基質のCTXに対する耐性/感受性を決定するために用いた。
【0087】
被検細胞基質の調製を行うために、大量(懸濁液原液)の細胞浮遊液(ここでは約12mL、あるいは通常は10~50mL)を、液体栄養培地であるMueller-Hinton栄養培地で調製した。第1調製および第2調製に関して適切かつ等しい量の被検細胞基質を使用するために、デンシトメトリーにより懸濁液原液中の被検細胞基質の濃度を決定した。第1調製のために、この懸濁液原液から小量を採取し、マイクロタイタープレートのウェルに移した。第1調製は増殖対照として設計されたため、ウェル中に抗生物質は存在していなかった。
【0088】
同時に、第2調製のために、同じ量の懸濁液原液を取り除き、マイクロタイタープレートの別のウェルに移し、それによって第2調製のウェルに乾燥形態で存在する抗生物質CTXを最終濃度1μg/mLに溶解した。次いで、マイクロタイタープレートを撹拌して、第2調製の窪み中の抗生物質の完全な溶解と均一な分布とを確実にした。抗生物質CTXの最小発育阻止濃度(MIC)の決定のための濃度希釈系列の形の追加の調製は、マイクロタイタープレートの追加のウェル中に乾燥したCTXを選択的に溶解することによって容易に行うことができる。たとえば、別の調製のために、第3ウェル中のMueller-Hinton栄養培地に0.5μg/mLのCTX濃度を設定することができ、さらに別の調製のために、第4ウェル中に2μg/mLのCTX濃度を設定することができる。
【0089】
このように、希釈系列は0.5、1および2μg/mLの各CTX濃度を含むことができ、一方で、追加の希釈工程、たとえば0.25または4μg/mLを含むことができる。このような希釈系列は、異なるCTX濃度の大きさの希釈工程で実施することもできる。
【0090】
続いて、被検細胞基質の6μLの少量の第1調製(Mueller-Hinton栄養培地中)をMBT Biotarget(商標)試料支持台の試料スポット上に配置した。同様に、第2調製に関して、被検細胞基質の6μLの小量の第2調製(1μg/mL CTX含有Mueller-Hinton栄養培地中)をMBT Biotarget(商標)試料支持台の別の試料スポット上に配置した。
【0091】
Mueller-Hinton栄養培地中で、他のCTX濃度を有する被検細胞基質(抗生物質の希釈系列については上記参照)の追加の接種物を、たとえば被検細胞基質に対するCTXのMICをスペクトル分析学的に決定するために試料支持台の追加の試料ポイントに適用することができる。第1調製と比較して、被検細胞基質の増殖をなお抑制するのにちょうど足りる調製のCTX濃度を決定することによって、第2調製の特性として、MICを決定することが可能である。本例においては、マイクロタイタープレート中で0.5、1および2μg/mLのCTXを用いた追加の調製が適用されれば、高い信頼性で、0.5μg/mLまたは1μg/mLのCTXでMICを決定することができるであろう。
【0092】
MBT Biotarget(登録)試料支持台プレートを、温度および湿度などの環境条件を一定にしてインキュベーションチャンバー内で4時間インキュベートした。実験の反復で、インキュベーション時間を6時間に延ばしたことで、懸濁液中の微生物が生成する、測定に利用可能なバイオマスが増加した。この間に、細胞基質を液滴の液体と支持体表面との間の界面に付着または堆積させることができた。4時間の放置時間後に、側面から支持体表面のスポット上の液滴に吸収組織を接触させ、液体の大部分を単に吸い上げることによって栄養培地の残液を試料スポットから取り除いた。続いて、このように露出された被検細胞基質の沈着物をさらに調製し、従来の技術で公知の質量スペクトル分析計で測定した。
【0093】
たとえば、細胞基質のペプチド/タンパク質を抽出し、および/または沈積した細胞基質をMALDIマトリックス物質に封入し、マトリックスとともに細胞基質試料の定量標準を加えた。図2から図4を通じて実施した実験において、定量標準を被検細胞基質試料に添加した。この定量標準について測定されたピークは、他のすべての質量信号をはるかに上回った。しかしながら、外来性のピークとして、分類学的分類のためには使用せず、したがって正の数値範囲でドットバー(205、305、405)で示されている。
【0094】
次いで、第1調製および第2調製からの被検細胞基質を、MALDI Biotyper(登録商標)システムを用いる質量スペクトル分析に供した。最初に、増殖対照として用いた被検細胞基質の第1調製を質量スペクトル分析を用いて測定し、得られた線形質量スペクトルと、MALDI Biotyper(登録商標)システムの参照ライブラリの参照質量スペクトルとを比較することによって、被検細胞基質の分類学的分類を行った。
【0095】
得られた第1のマッチング結果において、測定されたスペクトルに対して最も高いマッチング度(ベストマッチ)を示す参照質量スペクトルを分類学的分類に用いた。
【0096】
図2は、第1調製に対するベストマッチの例を示す。測定された質量スペクトルは、大腸菌DSM1103の参照スペクトルとの類似性尺度の対数(log(スコア))2.34を示した。このベストマッチ、すなわち測定されたスペクトルと最も類似していた質量スペクトル分析の大腸菌参照データセットに加えて、ライブラリ全体にわたって、エシェリキア属種に対して分類学的分類を可能にするような他の類似している参照データセットおよび類似していない質量スペクトル測定参照データセットを第1のマッチング結果内で同定した。類似していない質量スペクトル測定参照データセットは、細胞基質の種または属の分類学的分類を可能にせず、たとえば、シトロバクター属種などの他の属に属していた。
【0097】
第1のマッチング結果にリストされたライブラリからの参照データセットは、類似性尺度の対数に基づいて、種または属の分類学的分類を可能にするか、または分類学的分類を可能にしないか、評価し分類することができる。得られた第1調製の質量スペクトルと参照ライブラリとの比較によって、MALDI Biotyper(登録商標)システムの指定に従い、log(スコア)が2.0を超える数値であったため、log(スコア)2.34に基づいて、測定された線形質量スペクトルは、研究対象の被検細胞基質大腸菌種に帰属された。
【0098】
さらに、被検細胞基質の第2調製について、CTXに対する感受性または耐性(感受性/耐性)の特性を、従来の方法と本明細書に開示されている方法とを用いて決定した。質量スペクトル分析を用いて第2調製(CTX処理)を測定し、得られた線形質量スペクトルを全参照ライブラリと比較した(図3)。少数の質量スペクトル分析ピークが測定された。この少数のピークに基づいて、全MALDI Biotyper(登録商標)ライブラリとの比較を行った。
【0099】
図3では、マッチング結果の一部として質量スペクトル測定の線形質量スペクトルが示されており、シトロバクター・ファルメリの参照スペクトル(ベストマッチ)とのマッチング度の評価としてlog(スコア)1.82が得られた。マッチング度を決定するために用いた参照ピーク(reference peaks)301は、負の数値範囲の実線のバーで示されている。マッチング結果において、参照データセットのピークに対して高い信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲の横ハッチングバー302で示し、参照データセットのピークになお十分な信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲のクロスハッチングバー303で示し、参照データセットのピークに十分に帰属させることができなかったピークは正の数値範囲のドットバー304で示した。使用した相対定量標準305は、測定はしたが分類学的分類のためには使用しなかった。
【0100】
分類学的分類は、信頼性のある属の決定を可能にすると評価されるlog(スコア)1.83に基づいていた。したがって、被検細胞基質が実際にはCTXに対して感受性(感性)であったにもかかわらず、培養性における耐性/感受性の特性(すなわちCTXに対する耐性)の決定がなされた。
【0101】
信頼性のある分類学的分類は、抗生物質などの抗菌物質に対する耐性または感受性の表現型の決定において重要な役割を果たす。したがって、被検細胞基質のシトロバクター属種としての分類学的分類は、被検細胞基質が耐性であるとの決定に寄与した。
【0102】
結果として、増殖対照の分類学的分類とは異なる属への分類学的分類を可能にする(偽陽性)評価(本例における、シトロバクター属種への分類学的分類のような)、および細胞基質のCTXに対する耐性の特性の決定が行われる場合がある。この実験的アプローチでは、(反復実験で示され、かつ図3で示されているような)種の分類学的分類を可能にしたlog(スコア)または属の分類学的分類を可能にしたlog(スコア)は、決定することが可能ではあるが、決定しなければならない必要性はない。
【0103】
このように、第2測定結果において測定された質量ピークの数が少ないにもかかわらず、または、用いた参照スペクトル301中の参照ピークに対して高い(302)または十分な(303)信頼性で帰属させることができた少数の測定されたピークを用いて作成された第2測定データと全参照ライブラリとのマッチング結果の決定にもかかわらず、第2調製の耐性特性を決定するために、得られた第2マッチング結果において分類学的分類を可能にするマッチング結果が決定されてCTX耐性特性が決定される場合がある。
【0104】
たとえば、第2調製の測定された質量スペクトルによるCTX感受性または耐性の特性の表現型の決定に関して、測定されたピーク数が少なかった、および/または使用した参照スペクトル301における参照ピークに対して高い(302)または十分な(303)信頼性で帰属させることができた測定されたピーク数が少なく、信頼性のある分類学的な決定には不十分であった、および/または被検細胞基質の特性の決定が不十分であったことから、当業者は、これらの偽陽性特性評価結果を、チェック後に廃棄することができる。インキュベーション時間が経過した後の第2調製における細胞基質の少ないバイオマスが、CTX耐性シトロバクター属種の偽陽性帰属に寄与した。
【0105】
図3の第2調製での被検細胞基質の特性評価と平行して実施した、図4の第2調製からの質量スペクトル測定データの分析では、第2調製からのスペクトル測定データの作成前にサブライブラリを作成した。第1のサブライブラリを用いて、第2調製の測定結果に基づいて第2マッチング結果を提供した。この第1のサブライブラリは、第1調製から測定された質量スペクトルに最も類似していたライブラリからの5つの質量スペクトル測定参照データセットを含んでおり、分類学的分類を可能にすると評価された。
【0106】
ライブラリからの選択において、最も高い類似性尺度(「スコア」)またはそれらの対数(log(スコア))を有する5つの参照データセットを選択した。シトロバクター属種などの、第1調製の測定データのマッチング結果に基づいて被検細胞基質について決定された属以外の属に属する参照データセットは、第1のマッチング結果において分類学的分類を可能にしなかったため、第1のサブライブラリから除外した。分析の反復で、第2のサブライブラリに含まれる質量スペクトル測定参照データセットの数を、改善された効果を維持しながら最も高いマッチング度を示す3つの参照データセットまで絞った。
【0107】
第2調製からのスペクトル測定データと第1のサブライブラリとの比較を用いて、被検細胞基質の特性、すなわちCTXに対する耐性または感受性を同定した。マッチング結果において、参照データセットのピークに対して高い信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲の横ハッチングバー402で示し、参照データセットのピークになお十分な信頼性で帰属させることができた質量ピークは正の数値範囲のクロスハッチングバー403で示し、参照データセットのピークに十分に帰属させることができなかったピークは正の数値範囲のドットバー404で示した。使用した相対定量標準405は、測定はしたが分類学的分類のためには使用しなかった。
【0108】
第2調製の質量スペクトル分析データと第1のサブライブラリとの比較による第2マッチング結果において、図2で用いた同じ参照データセットの、負の数値範囲で実線のバーで示した、大腸菌の参照スペクトル401とのlog(スコア)は1.13(すなわち1.7未満)になり、したがって細胞基質の特性はCTX感受性と決定された(図4)。
【0109】
これによって、第1調製の分類学的分類に従ったCTX含有Mueller-Hinton栄養培地中でこの大腸菌細胞基質が生き残らなかったことが実証された。したがって、この細胞基質はCTX感受性大腸菌として正確に決定された。不十分な測定データであっても、分類学的分類の特異性およびCTX-耐性特性の決定はこのように改善され、第2調製のマッチング結果の手作業による確認作業は不必要となるか、またはその必要性は大幅に削減された。その結果、被検細胞基質の特性評価の特異性が改善され、被検細胞基質の特性評価の自動化の見込みが改善された。なぜなら、被検細胞基質の特性の決定に関する手作業による確認作業の必要性をなくすか、または少なくとも大幅になくすことができるからである。
【0110】
第1のサブライブラリに加えて第2のサブライブラリが作成された。第2のサブライブラリは、第1のマッチング結果において増殖対照に関して1.7未満の類似性尺度の対数(log(スコア))をもたらした参照スペクトル、すなわち、第1調製の質量スペクトル測定結果では通常は種または属の分類学的分類を可能にしないと評価される参照スペクトルを含んでいた。特に、第1のサブライブラリの5つの質量スペクトル測定参照データセットは、第2のサブライブラリに含まれていなかった。第2のサブライブラリは、第1のマッチング結果において種または属の分類学的分類を可能にしないと評価された参照データセットを含んでいた。
【0111】
第2調製のスペクトル測定結果を、第1のサブライブラリに加えて、第2のサブライブラリと比較した。この第3比較は、陰性対照の形での第2マッチング結果の品質保証に用いられた。この第3比較では、分類学的分類を可能にする結果は得られるはずがなく、または除外すらされるべきである。実施された実験において、この第3マッチング結果に関して分類学的分類を可能にする類似性尺度の対数は決定できなかった。したがって、第2調製において、細胞基質の汚染または不均一な被検細胞基質の結果として最初に接種した被検細胞基質とは異なる被検細胞基質が存在していたことは排除された。
【0112】
<用語の定義>
別途定義しない限り、使用した明確な記述は、当業者の一般的および技術的な理解を含む。特に、以下の明確な記述は、当業者の技術的理解を説明する。例は、本発明を限定するものではなく、当業者の理解を説明するものである。
【0113】
本書で用いられる場合、「1つの(one)」、「ある(a)」または「その(the)」は、1つまたは複数を意味してもよい。たとえば、「ある細胞」は、単一の細胞または複数の細胞を説明してもよい。
【0114】
本書で用いられる場合、「および/または」は、1つまたは複数の関連する記載項目の可能な限りの組み合わせはもちろん、代替として連結された場合の組み合わせの非存在、すなわち「または」も指しかつ含むことを意味する。
【0115】
さらに、薬剤(増殖影響因子など)の量などの測定可能な量に言及する際の「およそ」、「約」などの用語は、±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%や、さらには±0.1%の量の変動が含まれることを意味する。
【0116】
本願で用いられる場合、用語「細胞基質」または「被検細胞基質」は、スペクトル測定を使用し、ライブラリおよび/またはサブライブラリと比較することによって特性評価される細胞試料を指す。この用語は、培養すること、増殖させること、および/または研究室で取り扱うことができる細胞試料を指す。この用語は、原核細胞および/または真核細胞を含む。さらに、この用語は、細胞内および/または細胞外のライフスタイルを有する細胞試料を含む。この用語は、植物細胞、動物細胞、および/または真菌細胞を指してもよい。さらに、この用語は、単細胞および/または多細胞および/または運動性(たとえば鞭毛性)、および/または非運動性細胞基質を含む。細胞基質は、生体から分離された細胞基質を指すことができる。分離された細胞基質の例は、腫瘍細胞、病原体に冒された細胞または、マクロファージもしくはT細胞などの特定の細胞集団を含む。たとえば、腫瘍細胞は、リンパ腫、白血病、または固形腫瘍から分離することができる。細胞基質は、さまざまな方法を用いて分離することができる。例は当業者に公知であり、フローサイトメトリー法またはビーズベースの方法を含む。
【0117】
一つの実施の形態では、用語「細胞基質」は、細胞内のライフスタイルを有する細胞試料、特にマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム・イントラセルラーレ(Mycobacterium intracellulare)、リステリア・モノシトゲネス(Listeria monocytogenes)などの細胞内微生物を指す。
【0118】
好ましい実施の形態では、用語「細胞基質」は、「菌」または「微生物」を指す。用語「菌」または「微生物」は、1つまたは少数の細胞からなる微小生体を含む。微生物は、グラム陰性菌、グラム陽性菌、酵母、カビ、寄生虫、およびモリキューテスを含む。
【0119】
グラム陰性菌の例は、以下の属:シュードモナス(Pseudomonas)、エシェリキア(Escherichia)、サルモネラ・シゲラ(Salmonella.Shigella)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、セラチア(Serratia)、プロテウス(Proteus)、カンピロバクター(Campylobacter)、ヘモフィルス(Haemophilus)、モルガネラ(Morganella)、ビブリオ(Vibrio)、エルシニア(Yersinia)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)、ブレブンディモナス(Brevundimonas)、ラルストニア(Ralstonia)、アクロモバクター(Achromobacter)、フソバクテリウム(Fusobacterium)、プレボテラ(Prevotella)、ブランハメラ(Branhamella)、ナイセリア(Neisseria)、バークホルデリア(Burkholderia)、シトロバクター(Citrobacter)、ハフニア(Hafnia)、エドワジエラ(Edwardsiella)、エロモナス(Aeromonas)、モラクセラ(Moraxella)、ブルセラ(Brucella)、パスツレラ(Pasteurella)、プロビデンシア(Providencia)およびレジオネラ(Legionella)の細菌を含む。グラム陽性菌の例は、以下の属:エンテロコッカス(Enterococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、バチルス(Bacillus)、パエニバチルス(Paenibacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、リステリア(Listeria)、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium,)、クロストリジウム(Clostridium)、バクテロイデス(Bacteroides)、ガードネレラ(Gardnerella)、コクリア(Kocuria)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、マイクロコッカス(Micrococcus)、ミコバクテリア(Mycobacteria)およびコルニバクテリア(Cornybacteria)の細菌を含む。酵母とカビとを含む真菌の例は、以下の属:カンジダ(Candida)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、ノカルジア(Nocardia)、ペニシリウム(Penicillium)、アルテルナリア(Alternaria)、ロドトルラ(Rhodotorula)、アスペルギルス(Aspergillus)、フザリウム(Fusarium)、サッカロミセス(Saccharomyces)およびトリコスポロン(Trichosporon)を含む。寄生虫の例は、以下の属:トリパノソーマ(Trypanosoma)、バベシア(Babesia)、リーシュマニア(Leishmania)、プラスモジウム(Plasmodium)、ウシェリア(Wucheria)、ブルギア(Brugia)、オンコセルカ(Onchocerca)およびネグレリア(Naegleria)の寄生虫を含む。モリキューテスの例は、以下の属:マイコプラズマ(Mycoplasma)およびウレアプラスマ(Ureaplasma)のモリキューテスを含む。
【0120】
単数形での「微生物」は、通常、一般用語で、微生物の種はもちろん、個々の微生物細胞も意味する。複数形での「微生物」は、分析対象の微生物細胞を意味する。微生物は、細菌、古細菌および真核生物の分類ドメインで見られ、特に細菌、古細菌、真菌、微細藻類および原生動物を含む。
【0121】
好ましい実施の形態では、用語「細胞基質」または「被検細胞基質」は微生物を指し、好ましくは細菌、特に好ましくはグラム陰性菌、最も好ましくは腸内細菌科の細菌を指す。
【0122】
別の好ましい実施の形態では、用語「細胞基質」または「被検細胞基質」は、分離された腫瘍細胞、特に好ましくは分離された悪性腫瘍細胞、最も好ましくは分離された固形腫瘍の悪性腫瘍細胞を指す。
【0123】
本願の意味において、用語「調製」とは、初めに研究対象の被検細胞基質の使用可能なバイオマスを処理し、スペクトル測定(特に質量スペクトル測定)のために調製する作業手順を指す。調製は、使用可能なバイオマスを増加させ、それによって、スペクトル測定データ中に偏在するバックグラウンドまたはノイズと比較して検出可能なスペクトル信号を強化するための被検細胞基質の増殖工程を含んでもよい。スペクトル測定用に細胞基質を調製するためのさまざまな形態は当業者に公知である。調製は、細胞基質のインキュベーションを含んでもよい。
【0124】
本願で用いられる場合、用語「インキュベーション」は、細胞基質をインキュベート、すなわち増殖または培養するあらゆる形態を含む。細胞基質には、増殖工程を行ってもよい。インキュベーションは、被検細胞基質の生命、生存および/または増殖を確実にする条件を作り維持することによって可能にされる。栄養源または培養培地(略して培地)は、被検細胞基質をインキュベートするために用いられる。
【0125】
栄養培地は、通常は大部分の水、被検細胞基質が利用できるエネルギー源および、被検細胞基質が必要とする栄養素または基質を含むが、栄養培地は他の組成を有してもよい。さらに、栄養培地は、生体に重要なイオンを提供することができる、塩、色素またはその前駆体、寒天などの栄養培地を固化するためのゲル化剤、ジェランおよび/またはシリカゲル、増殖影響因子、インジケータおよび/または緩衝物質を含んでもよい。
【0126】
被検細胞基質が真核細胞、すなわち動物細胞または植物細胞である場合、インキュベーションは細胞培養とも呼ばれる。用語「インキュベーション」は、固体培地上、ゲル状培地上、半固体培地上および/または液体培地中のインキュベーションを含み、培地はさまざまな容器に入れられてもよく、またはMALDI試料支持台などのさまざまな支持台、たとえばAnchorChip(商標)(Bruker社)またはMBT Biotarget(商標)(Bruker社)上に置かれてもよい。動物細胞をインキュベートするためには、主に液体の栄養培地が用いられ、植物細胞をインキュベートするためには、主に液体および固体の栄養培地が用いられる。通常は、被検細胞基質は、第1調製および第2調製および/または追加の調製のために、同じ組成を有する培地中でインキュベートする。しかしながら、第1調製および第2調製および/または追加の調製のための培地の組成は、増殖影響因子として異なる成分が企図される場合は変えることができる。通常は、細胞基質は、加熱キャビネット、加熱室またはインキュベーター中の、培地上または培地中でインキュベートされる。一般的なインキュベーション時間は、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間または48時間であり、好ましいインキュベーション時間は2時間~8時間であり、理想的には4時間~6時間である。細胞基質が増殖工程を行う場合、一般的な世代時間、すなわち、集団の個体数が2倍になる時間は、たとえば、大腸菌では約20分、黄色ブドウ球菌(S.aureus)またはサルモネラでは約30分、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)では約18時間であることは、当業者に公知である。
【0127】
本願の目的のために、「細胞基質」(特に微生物)の「分類学的分類」は、属(属)、種(種)、亜種(亜種)、および/または変種もしくは血清型(serotype)に至るまでの分類学的レベルでの被検細胞基質の分類を含む。好ましい実施の形態では、この用語は、属または種レベルでの被検細胞基質の分類学的分類を含む。
【0128】
本願で用いられる場合、用語「増殖影響因子」は、その追加または変更によって被検細胞基質の増殖条件が変化する任意の物質、処理、および/または環境条件を含む。増殖影響因子は、被検細胞基質の活性および/または生存能力に好影響または悪影響を及ぼすことができる。
【0129】
被検細胞基質の活性および/または生存能力に好影響を及ぼすことができる増殖影響因子の例は、増殖因子、たとえば造血因子、たとえばエリスロポエチンまたは顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、または細菌への特定の炭素、窒素、硫黄源の供給、または(通性)光合成細菌における特定の電磁照射(光)の存在を含む。
【0130】
被検細胞基質の活性および/または生存能力に悪影響を及ぼすことができる増殖影響因子の例は、生物活性物質(特に被検細胞基質)に直接の毒作用、たとえば殺菌性または細胞傷害性作用または増殖抑制作用、すなわち、静菌性または細胞増殖抑制性を有し、この化学物質が添加されない場合の増殖対照と比較してその活性および/または増殖に悪影響を及ぼす任意の化学物質(元素、化合物または混合物)を含む。被検細胞基質のインキュベーション(特に第1調製のためのインキュベーション)がその中またはその上で行われる固体、ゲル、半固体および液体培地は、本願の意味での増殖影響因子ではない。なぜなら、これらは単にインキュベーションを可能にするために作成された条件だからである。しかしながら、これらの条件が、第1調製のための被検細胞基質のインキュベーションとその後の調製(特に第2調製)とで異なる場合、作成された条件の違いは、増殖影響因子にすることができる。増殖影響因子の例は、抗生物質、抗真菌薬または細胞増殖抑制剤などの化学薬剤および抗菌物質を含む。
【0131】
増殖影響因子はまた、複数の因子の組み合わせ、たとえば2つの異なる抗生物質の組み合わせであってもよい。さらに、用語「増殖影響因子」は、使用する栄養培地の組成、インキュベーション時間、インキュベーション中の温度、周囲空気の組成および湿度などの環境条件における変更などの、培養およびインキュベーション条件の変更も含む。
【0132】
さらに、用語「増殖影響因子」は、細胞基質の物理的処理、たとえば特定の波長または強度の光による細胞基質の照射なども含む。増殖影響因子は、たとえば溶液または粉末形で、または凍結乾燥形で、細胞基質接種物の追加の前に栄養培地中に事前に存在してもよい。増殖影響因子はまた、マイクロタイタープレートのウェルなどの容器中に、粉末形で、または乾燥形または凍結乾燥形で存在し、細胞基質接種物の特定の量の追加によって所望の濃度に溶解し調整するだけであってもよい。代わりに、増殖影響因子は、細胞基質が添加された後に栄養培地に追加されてもよい。好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、被検細胞基質の活性および/または生存能力に悪影響を及ぼす。
【0133】
好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、セファロスポリン、ジャイレース阻害剤またはフルオロキノロン、マクロライド、クリンダマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、テトラサイクリン、カルバペネム、および/またはトリメトプリムから選択される抗生物質である。
【0134】
別の実施の形態では、増殖影響因子はピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)から選択される抗生物質である。好ましい実施の形態では、増殖影響因子はPIT、CTX、ERT、CAA、MER、CIP、CAZ、AMKおよび/またはGENから選択される抗生物質であり、抗生物質の濃度は0.01μg/mL~200μg/mL、0.1μg/mL~20μg/mL、0.25μg/mL~18μg/mL、0.5μg/mL~15μg/mL、1μg/mL~10μg/mL、1μg/mL~8μg/mL、1μg/mL~6μg/mLまたは1μg/mL~4μg/mLから選択される。特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、4μg/mL、6μg/mLまたは8μg/mLの濃度、より好ましくは8μg/mLの濃度の抗生物質PITとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、1μg/mL、2μg/mLまたは4μg/mLの濃度、より好ましくは2μg/mLの濃度の抗生物質CTXとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、0.5μg/mLまたは1μg/mLの濃度、より好ましくは0.5μg/mLの濃度の抗生物質ERTとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、4μg/mL、6μg/mLまたは8μg/mLの濃度、より好ましくは8μg/mLの濃度の抗生物質CAAとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、2μg/mL、4μg/mLまたは8μg/mLの濃度、より好ましくは8μg/mLの濃度の抗生物質MERとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、0.125μg/mL、0.25μg/mLまたは0.5μg/mLの濃度、より好ましくは0.5μg/mLの濃度の抗生物質CIPとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、1μg/mL、2μg/mLまたは4μg/mLの濃度、より好ましくは4μg/mLの濃度の抗生物質CAZとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、4μg/mLまたは8μg/mLの濃度、より好ましくは8μg/mLの濃度の抗生物質AMKとして選択される。別の特に好ましい実施の形態では、増殖影響因子は、1μg/mLまたは2μg/mLの濃度、より好ましくは2μg/mLの濃度の抗生物質GENとして選択される。
【0135】
別の好ましい実施の形態では、細胞基質は微生物であり、増殖影響因子は抗生物質などの抗菌物質であり、より好ましくは微生物は細菌であり、抗菌物質はピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)から選択される抗生物質であり、特に好ましくは微生物は腸内細菌科の細菌であり、抗生物質は、PIT、CTX、ERT、CAA、MER、CIP、CAZ、AMKおよび/またはGENから選択され、抗生物質の濃度は、0.01μg/mL~200μg/mL、0.1μg/mL~20μg/mL、0.25μg/mL~18μg/mL、0.5μg/mL~15μg/mL、1μg/mL~10μg/mL、1μg/mL~8μg/mL、1μg/mL~6μg/mL、または1μg/mL~4μg/mLから選択され、特に好ましくは0.01μg/mL~200μg/mL、0.1μg/mL~20μg/mL、または0.25μg/mL~8μg/mLから選択される。
【0136】
別の好ましい実施の形態では、細胞基質または被検細胞基質は微生物であり、増殖影響因子は抗生物質または抗真菌薬などの抗菌物質であり、より好ましくは微生物は細菌であり、抗菌物質はピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)から選択される抗生物質であり、好ましくは微生物は腸内細菌科の細菌であり、抗生物質はPIT、CTX、ERT、CAA、MER、CIP、CAZ、AMKおよび/またはGENから選択され、第1調製および第2調製は、微生物のインキュベーションを含み、少なくとも1つの調製でのインキュベーションは、増殖工程を含み、最も好ましくは4時間~6時間のインキュベーション時間でのインキュベーションを含み、インキュベーションは第1調製での増殖工程を含む。
【0137】
別の好ましい実施の形態では、細胞基質または被検細胞基質は微生物であり、増殖影響因子は抗生物質または抗真菌薬などの抗菌物質であり、より好ましくは微生物は細菌であり、抗菌物質はピペラシリン/タゾバクタム(PIT)、セフォタキシム(CTX)、エルタペネム(ERT)、セフタジジム/アビバクタム(CAA)、メロペネム(MER)、シプロフロキサシン(CIP)、セフタジジム(CAZ)、アミカシン(AMK)および/またはゲンタマイシン(GEN)から選択される抗生物質であり、特に好ましくは、微生物は腸内細菌科の細菌であり、抗生物質はPIT、CTX、ERT、CAA、MER、CIP、CAZ、AMK、および/またはGENから選択され、抗生物質の濃度は、0.01μg/mL~200μg/mL、0.1μg/mL~20μg/mL、0.25μg/mL~18μg/mL、0.5μg/mL~15μg/mL、1μg/mL~10μg/mL、1μg/mL~8μg/mL、1μg/mL~6μg/mL、または1μg/mL~4μg/mLから選択され、最も好ましくは0.01μg/mL~200μg/mL、0.1μg/mL~20μg/mLまたは0.25μg/mL~8μg/mLから選択され、第1調製および第2調製は微生物のインキュベーションを含み、少なくとも1つの調製でのインキュベーションは増殖工程を含み、最も好ましくはインキュベーションは4時間~6時間継続し、インキュベーションは第1調製での増殖工程を含む。
【0138】
用語「質量スペクトル」または「質量スペクトル分析」は、生の質量スペクトル分析データから、質量信号の位置および強度のみを含む処理されたピークリストまでを含む。ここでは、質量スペクトルは、連続した質量範囲の多数の強度値だけでなく、複数の独立した質量範囲の強度値からなることもできる。質量スペクトルには、微生物の量が決定される前に信号処理を行うことができる。この処理は、たとえば、ベースラインの補正(減算)、質量信号の平滑化、ノイズ信号の除去および/または特定のノイズ値を上回る質量信号の選択を含むことができる。質量スペクトルは、単一質量スペクトルを複数加えた合算質量スペクトルにすることができる。電荷対質量(charge-related mass)(質量電荷比とも呼ばれる)の好ましい範囲は、特に被検細胞基質が微生物の場合、m/z2000~m/z20000であり、より好ましくはm/z3000~m/z15000である。
【0139】
本願で用いられる場合、用語「濃度測定」または「デンシトメトリー」は、細胞基質の濃度を決定するための直接または間接の定量的測定のすべての方法を含む。したがって、デンシトメトリーは、光度計またはスペクトロメータを用いる光散乱に基づく光度計による濁度測定または吸光度測定(見かけの吸光度OD)などの間接的な測定方法を含む。通常、吸光度測定は、560~600ナノメートルの光スペクトルの波長範囲、すなわち、細胞の色素が吸収しない波長範囲で実施される。ODは、600ナノメートルでの分光光度計で、または578ナノメートルでのフィルター型光電光度計で微生物に関する密度または吸光度として測定することができる。調製のバイオマスを定量するための他の方法は、調製の乾燥重量、細胞タンパク質または全窒素の測定などの直接法を含む。
【0140】
本発明を、いくつかの具体的な実施の形態を参照して上で説明してきた。しかしながら、記載された実施の形態のさまざまな態様または詳細が、本発明の範囲を逸脱することなく変更されてもよいことは理解されよう。さらに、さまざまな実施の形態に関して開示された機能および手段は、当業者に実施可能と考えられる場合、要望に応じて組み合わせてもよい。さらに、上記説明は本発明の例としてのみ提供されたものであり、任意の等価物(存在する場合)を考慮した添付の特許請求の範囲による定義によってのみ限定される保護範囲を制限するものとして提供されたものではない。
<発明の好ましい、かつ予備的な範囲>
1. 被検細胞基質をスペクトル分析学的に特性評価するための方法であって、
細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを各参照データセットが含む多数の参照データセットを含むライブラリの提供または作成と、
第1調製後の被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データの提供または作成と、
第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータをライブラリと比較した第1のマッチング結果の決定(マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む)と、
被検細胞基質の特に亜種、種および/または属の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリの提供または作成と、
第1調製の条件と同一ではない条件での、少なくとも第2調製後の被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データの提供または作成と、
第2マッチング結果を決定するための、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータとサブライブラリとの比較と、
第2マッチング結果を用いた、被検細胞基質の特性の決定と、
を含む、方法。
【0141】
2. 分類学的分類が、属、種、亜種および変種もしくは血清型の群から選択される少なくとも1つの分類への被検細胞基質の帰属を含む、項1に記載の方法。
【0142】
3. 被検細胞基質が、微生物、好ましくは細菌、より好ましくは腸内細菌科の細菌を含むか、またはそれからなる、項1また項2に記載の方法。
【0143】
4. 第1調製および第2調製が、被検細胞基質の増殖工程を含む、項1~項3のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
5.第2調製が増殖影響因子の存在下で実施される、項1~項4のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
6. 第1調製が、増殖影響因子を使用しない増殖対照として実施される、項1~項5のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
7. 参照データセットが、スペクトルまたはスペクトル由来のn組のデータを含む、項1~項6のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
8. 決定される特性が、増殖影響因子、好ましくは被検細胞基質の活性および/または生存能力に悪影響を及ぼす増殖影響因子、より好ましくは被検細胞基質に直接の毒作用および/または増殖抑制作用を有する化学物質である増殖影響因子に対する被検細胞基質の感受性および/または耐性を含む、および/またはそれからなる、項1~項7のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
9. 決定される特性が、被検細胞基質に対する増殖影響因子の最小発育阻止濃度(MIC)を含む、項8に記載の方法。
【0149】
10. 被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価された参照データセットが、サブライブラリの提供または作成において除外される、項1~項9のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
11. 被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリが第1のサブライブラリであり、第2のサブライブラリが提供または作成され、被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを第2のサブライブラリが含み、第3マッチング結果を決定するために、第2調製のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較し、第3マッチング結果を用いて被検細胞基質の特性を決定する、項1~項10のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
12. 被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データおよび/または第2のスペクトル測定データの提供または作成が質量スペクトル分析を含む、項1~項11のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
13. 第1調製および第2調製に加えて、被検細胞基質の追加の調製が、第1調製または第2調製または相互の(with each other)条件と同一ではない条件で実施される、項1~項12のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
14. 第1調製および/または第2調製が、スペクトル測定データを提供または作成するための基質として機能する試料支持台上で直接実施される、項1~項13のいずれか1つに記載の方法。
【0154】
15. 被検細胞基質が、腸内細菌科の細菌を含むか、またはそれからなり、
第1調製および第2調製が増殖工程を含み、
第2調製が増殖影響因子の存在下で実施され、
第1調製が、増殖影響因子を使用しない増殖対照として実施され、
分類学的分類が、属、種、亜種および変種もしくは血清型からなる群から選択される少なくとも1つの分類への被検細胞基質の帰属を含み、
参照データセットが、スペクトルまたはスペクトル由来のn組のデータを含み、
決定される特性が、抗菌物質として選択される増殖影響因子に対する被検細胞基質の感受性および/または耐性を含み、
被検細胞基質の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価された参照データセットがサブライブラリの提供または作成において除外され、
被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリが第1のサブライブラリであり、第2のサブライブラリが提供または作成され、被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを第2のサブライブラリが含み、第3マッチング結果を決定するために、第2調製のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較し、
第3マッチング結果が、被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと評価され、
被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データおよび/または第2のスペクトル測定データの提供または作成が質量スペクトル分析を含む、
項1~項14のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
16. 被検細胞基質をスペクトル分析学的に特性評価するための項1に記載の方法の特に好ましい実施の形態では、方法は、以下の工程、すなわち、
1)細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを各参照データセットが含む多数の参照データセットを含むライブラリを提供または作成する工程と、
2)第1調製後の被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、
3)第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータをライブラリと比較して第1のマッチング結果を決定する工程(マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む)と、
4)被検細胞基質の特に種および/または属の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリを提供または作成する工程と、
5)第1調製の条件と同一ではない条件で、少なくとも第2調製後に被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、
6)第2マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータとサブライブラリとを比較する工程と、
7)第2マッチング結果を用いて被検細胞基質の特性を決定する工程と、
を含むか、またはそれからなり、番号は、方法が実施される工程の順序を示す。
【0156】
17. 被検細胞基質をスペクトル分析学的に特性評価するための項11に記載の方法の特に好ましい実施の形態では、方法は、以下の工程、すなわち、
1)細胞基質の分類学的分類を可能にするデータを各参照データセットが含む多数の参照データセットを含むライブラリを提供または作成する工程と、
2)第1調製後の被検細胞基質からの第1のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、
3)第1のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータをライブラリと比較して第1のマッチング結果を決定する工程(マッチング結果は、参照データセットのリストおよび、細胞基質またはそこから得られたデータのスペクトル測定データとのマッチング度を含む)と、
4)被検細胞基質の特に種および/または属の分類学的分類を可能にすると第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含むサブライブラリを提供または作成する工程と、
5)被検細胞基質の特に種または属の分類学的分類を可能にしないと第1のマッチング結果が評価されたライブラリからの参照データセットを含む第2のサブライブラリを提供または作成する工程と、
6)第1調製の条件と同一ではない条件で、少なくとも第2調製後に被検細胞基質からの第2のスペクトル測定データを提供または作成する工程と、
7)第2マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータと第1のサブライブラリとを比較する工程と、
8)第3マッチング結果を決定するために、第2のスペクトル測定データまたはそこから得られたデータを第2のサブライブラリと比較する工程と、
9)第3マッチング結果を用いて被検細胞基質の特性を決定する工程と、
を含むか、またはそれからなり、括弧付きの番号は、方法が実施される順序を示す。
図1
図2
図3
図4